ほしぞloveログ

天体観測始めました。

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久しぶりのSCA260の記事です。M33のLを撮影したところまで書いたのでしょうか。

 

そのあとに小海の星フェスがあったり、月食があったりで、SCA260のことはほっぽらかしでした。でも何もしていなかったわけではなくて、上のように11月初めにM33のLを撮影した後、星フェスの前にはRGBをそれぞれ撮影していたりしました。その後、ダークやらフラットやらも星フェス前には撮影し終えていたのですが、その後の画像処理に時間がかかってしまい、今の記事になってしまいました。

あと、ちょうこくしつ座のNGC253も撮影してあるのですが、こちらはまだ全然未処理で、まとまったら記事にするつもりです。


RGBの撮影

さてRGBの撮影ですが、記録を見ると11月5日で、もうかなり前のことなので色々思い出さなくてはいけません。撮影は一番出にくいBが天頂の頃にと思い、0時ころまではRGBの順で、0時頃にLを撮り増しして、さらにBGRの順で撮影しようとしました。でもやはり揺れと、さらには途中ピントを変えたことによるピンボケで大量に無駄にし、時間も押して最後のGRは撮影できませんでした。

結局使えたのがR: 11/64枚、G: 24/70枚、B: 58/117枚と、相当な率の低さです。ただし、ピンボケを除くとR: 11/31枚、G: 24/30枚、B: 58/60枚となり、R以外はそれなりに好調です。Rは風が少し強かったのだと思います。それでもGBも実はかなり妥協して残して、今の赤道儀では1分でもどうしてもある程度は揺れてしまうようです。今のところ3分露光だとほぼ全滅なので、露光時間を伸ばすためにもなんとか解決策を考えなくてはいけません。

おっきな赤道儀を購入できれば一発解決なのですが、鏡筒を買ってすぐなのでまだしばらくは予算がありません。ここは今後少し考えます。


画像処理

まずはLを処理します。スタックされた画像を見るともう明らかに分解能が出まくりです。以前撮影したTSA-120よりもかなり分解しています。今回は星像がまだ揺れている段階での結果でこれなので、SCA260のポテンシャルはまだまだありそうです。

次にRGBを個別に処理します。特に今回Rの枚数が極端に少ないので心配だったのですが、ほとんど問題なさそうでした。それよりもBが枚数は多いのですが、おそらく雲のせいかと思いますが、RとGに比べてムラが多いのです。これは後の画像処理でかなり苦労することとなりました。このムラ少し不思議で、M33の腕の後に沿ってある様も見えますし、たまたまなのか四隅のうち左上と左下がまるで周辺減光があるかの様にも見えます。元の個別の画像に行ってもある程度の枚数にその様に見えているので、もしかしたらそのムラが正しくて、ムラのなさそうに見えているのが雲なのかもしれません。

RGB合成後はPCCをかけて、一旦恒星の色を合わせておきます。この時点で先のBのムラで全体にバランスがズレた部分が見えたので、DBEをかけて(ABEではM33自身も補正しようとしてしまい太刀打ちできませんでした)ある程度補正します。


初のLRGB合成

一応RGBとLが用意できたので、今回初のLRGB合成に挑戦しましたが、これがまた結構難しいです。

まず、RGBをストレッチや色バランスまで含めてある程度の画像処理を進めてからLを合成すればいいとのこと。Lもストレッチまである程度進めておきます。

LRGB合成はPixInsightのLRGBCombinationを使いました。問題は、LとRGBのストレッチの度合いです。両方ともオートストレッチでフルに炙り出してから合成すればほとんど問題ないのですが、私はストレッチし切る前にPhotoshopに渡したいので、それだとうまく合成できないのです。具体的にはLが明るいと、色がほとんどなくなりモノクロに近くなります。Lが暗いと、(おそらく出来上がった画像の暗部が切られてしまって)カラーバランスがおかしくなります。

なのでもうLを捨てて、RGBだけで処理を進めようかとも思いましたが、せっかくのLの撮影時間が勿体無いのと、やはりLの方が細部まで出ている様に見えるので、今回は出来上がりを見ながらLのストレッチ具合を何度も調整して合成しました。これ他に何かスマートな方法はないのでしょうか?

いずれにせよ、ここまでできてしまえばあとはいつものように炙り出すだけです。


結果

今回は1枚撮りだけみても、そもそも分解能がかなり出ています。撮影時間は3時間ほどですが、大口径のこともありノイズもあまり大したことがありません。なので伸び伸びと気軽にあぶり出しをすすめることができました。以前ほど青紫に寄せることもしなくてよく、真ん中の飽和も適度に抑える方向で進めました。結果は以下のようになります。

「M33:さんかく座銀河」
Image111_DBE_PCC_ASx2_PCC3_bright
  • 撮影日: L: 2021年11月2日23時51分-11月3日1時6分、11月6日0時58分-2時10分、R: 2021年11月5日23時43分-23時59分、G: 2021年11月6日0時1分-0時43分、B: 2021年11月6日2時21分-3時33分、
  • 撮影場所: 富山県富山市自宅
  • 鏡筒: SHARP STAR製 SCA260(f1300mm)
  • フィルター: Baader RGB
  • 赤道儀: Celestron CGEM II
  • カメラ: ZWO ASI294MM Pro (-10℃)
  • ガイド: f120mmガイド鏡 + ASI120MM mini、PHD2によるマルチスターガイドでディザリング
  • 撮影: NINA、Gain 200、露光時間1分、64枚、R:11枚、G:24枚、B:58枚で総露光時間3時間1分dark: Gain 200、露光時間1分、L:88枚、flat: Gain 200、露光時間0.2秒(L)、0.5秒(RGB)、L:256枚、RGB各:128枚、flatdarkはLRGB共通: Gain 200、露光時間0.2秒、128枚
  • 画像処理: PixInsight、Photoshop CC

今回Hαは撮っていないので、俗にいう赤ポチはそれほど目立っていませんが、多少わかる範囲で既に出ています。あと、銀河の様子をシアンを目立たせる形で入れています。青ポチですかね。

SCA260ですが、はっきり言って非常に満足です。TSA-120と比べても、ここまであからさまに分解能が出るとは思っていませんでした。シンチレーションがいいかというと、間を空けた日での撮影なので特別いいというわけではなく、ごくごく普通の日だと思います。今のところ1分露光だと明らかに揺れていて、かなり妥協して画像を使っているので、もう少し改善する余地があるはずです。今回の撮影ではまだまだSCA260ポテンシャルを引き出せたとは全然言い難いです。それでもここまで出せるのなら、今後大いに期待できそうです。

おまけのAnnotationです。

Image111_DBE_PCC_ASx2_PCC3_bright_Annotated

広角だと縦横の線が歪むのですが、ここまで拡大するとほぼ直角になるようです。


TSA-120との比較

M33に関しては今年の10月と、かなり最近TSA-120で撮影しています。



というか、TSA-120での結果があったので直接比較できるかと思い、今回M33にしたというわけです。

その時の結果を同画角にして改めて示しておきます。
TSA120

今回よりもかなり派手ですね。これも嫌いではありませんが、細部を出したいこともあって今回はかなり控えめにしています。


揺れに対して

最後に、揺れに関して今後の方針を書いておきます。まだ変更になる可能性もあります。

指で赤道儀を弾いた時の様子を見ると、赤緯体の揺れはまだ許容範囲で、赤経体の揺れが目立ちます。よく揺れると言うことは共振周波数が低くなってしまっているということです。共振周波数は慣性モーメントで決まり、慣性モーメントは距離の2乗で効きます。

赤緯軸では鏡筒の前後の真ん中を中心に回るのでまだ慣性モーメントはそこまで大きくありませんが、赤経では鏡筒全体とウェイトも合わせて軸から離れているために、慣性モーメントはかなり大きくなっているので、共振周波数が低くなりよく揺れるのはある意味当たり前の結果です。

今一つ考えているのは、赤経軸から最も離れている鏡筒のトッププレートを外すこと。測ってみるとこれだけで900グラム以上あります。さらにガイド鏡も700グラム程度あり、トッププレートの上に置いていたため、赤経軸から離れています。軸から遠いものを合計1.6kgを外してしまえば、慣性モーメントとしてはかなり得することになります。

例えば、赤経軸から見て下部プレートと上部プレートの位置は距離にして3倍近くあります。仮に2.5倍だとしても、慣性モーメントで考えると上部プレート1枚外すことは下部プレート6枚外すことと同義です。実際にはウェイト位置も内側に来るので、その分も得するはずです。ガイド鏡の代わりはオフアキを使おうと思っているので、軽く、赤経軸からの距離は少し短くなり、有利になるはずです。

今回の画像に、さらにHαを撮り増しして足したいと思っているので、トッププレートを外してから同じ1分という露光時間で撮影して、どれだけ生き残るか比べれば、ある程度効果はわかるのではと思っています。


まとめ

今回のM33は、SCA260としての初作品になります。揺れにかなり悩まされましたが、結果には大満足です。TSA-120からここまで変わるとは、正直思っていませんでした。揺れに対しては、上にアイデアを挙げたようにまだ改善すると思います。赤道儀も欲しくなってきましたが、もう少し足掻いてみます。

SCA260を購入して1ヶ月、徐々にですが使えるようになってきました。また未処理画像も残っています。今回LRGBはなんとかなったので、今後はSAO撮影とかにも挑戦していきたいと思います。


今回はおとめ座銀河団に挑戦です。はてさて、うまく写るのでしょうか?

でもなんでマルカリアンの鎖でなくておとめ座銀河団?

普通はマルカリアンの鎖 (Markarian's chain) ですよね。なんでおとめ座銀河団なのでしょうか?理由は単純で、この撮影の前にカリフォルニア星雲をFS-60CBと6Dで撮っていて、それがこの季節は22時くらいで西の空の住宅の屋根にに沈んでいくので、その後にどうしようかと全く設定を変えずに試しに撮影したからです。焦点距離350mmクラスで、フルサイズのカメラだとマルカリアンの鎖よりもかなり広い範囲になります。なので「銀河団」とタイトルにしました。

設定が同じだと、バイアス、フラット、ダーク全てが使い回しができるので、かなり楽でパフォーマンスがいいのです。というわけで、露光時間180秒、ISO800、フィルターなしです(実はカリフォルニア星雲、フィルターなしで撮影してたと思ってたのですが、CBPが入っていたことに気づいて、その後本当にフィルター無しで撮影しました。これはまた後日記事にします。)。

今回こだわったのは位置です。マルカリアンの鎖はもちろん、見栄えのいいM100をどうしても入れたかったのと、M87もM90も入れたいし、反対側はNGC4216とIC3064も入れたかったのです。でもFS-60CBに1.04倍のマルチフラットナーを入れると、フルサイズの6Dでも本当にいっぱいいっぱいです。なので、ditheringの幅は相当小さくし、端が切れないよう最低限の動きにしました(このditherの小ささは後に問題となります)。それでもシャッターの影ができることはわかっているので、そこら辺は画像処理でどうにかするしかありません。

実際の撮影は?

撮影は3日に渡って行いました。
  1. 3月17日: 23時10分から23時29分まで6枚。その後曇り。
  2. 3月18日: 22時15分から23時18分まで14枚。その後曇り。
  3. 3月19日: 22時44分から翌日4時27分まで89枚。
最初の2日は雲に悩まされ枚数をあまり稼げなかったのでもうバッサリ捨てて、結局使ったのは3日目の89枚のみ。南天越えのために一度反転しています。(この反転も後に問題の一つとなります。)

明るさ比較ですが、同じISO800と同じ露光時間3分で、3月18日21時40分頃、西に傾いたカリフォルニア星雲の撮って出しJPEGだとこれくらい、
LIGHT_180s_ISO800_20210317-22h35m53s926ms
一見、ほぼ何も写ってませんね。よーく見ると淡ーいピングがあります。

一方同じ日に同じ条件で続けて撮影した、22時20分くらいの南天前のおとめ座銀河団の撮って出しJPEGはこれくらい
LIGHT_180s_ISO800_20210317-23h10m04s723ms
ずいぶん明るさに違いがあるのが分かると思います。自宅撮影の場合、暗い東から南天の少し高いところをを含む天頂過ぎくらいまでにかけてはISO1600とか3200でもいけそうです。一方南天を過ぎて少し西に傾きかけるとISO800位に抑えざるを得ないのかと思います。

画像処理ですが、普通通りPIのWBPPでスタックです。スタックしたマスターライト画像をDBEしたものを一旦見てみますが
integration1_DBE
人様に見せるものではないですね。ゴミがひどいです。しかも南天で赤道儀を反転したために、ゴミが軸対称に同じ位置に出てしまっています。しかも大きなゴミが途中で動いたのでしょう。補正しきれていない部分と、過補正のところが出てしまっています。

これを防ぐためにマスターフラットにぼかしをかけて処理したらとか考えたのですが、まずはフラット補正なしの画像を見たら、全く補正しないと細かいゴミが全部浮き出ることがわかり諦めました。
masterLight_integration_DBE1
フラット補正無し画像を、ゴミが見えるようにDBEしたもの。
フラット補正した画像よりさらにひどく、物凄いゴミの数。 

マスターフラット画像を見てみます。ABEで見やすくしますが、

masterFlat_RGB_VNG_clone_ABE
同じような位置に、やはり相当な数のゴミがあります。

今回スタックしたライト画像にゴミが目立ったことの理由の一つが、ditherの幅が小さく散らしきれていないためです。なのでフラット補正は必須になり、補正なしではさらに細かいゴミまで目立ってきてしまいます。フラット補正をしても残ったゴミについては、もう誤魔化すしかないです。これを反省して、この後6Dのセンサー面の掃除をしたので、これはまたそのうち記事に書きます。

気を取り直して、処理を続けます。今回はシャッターの影になるところも使う必要があるので、ABEではなくDBEで細かくムラをとります。暗黒帯とかない銀河の薄い方向なので、全体が一様になる方向で進めます。PIでStarNetをかけて、恒星のマスクを作り、さらにRangeSelectionで星雲のマスクを作り、Photoshotpに渡します。

後から切り出すことを考えているので、いかに小口径を取り繕う解像度を出していくかです。今回はその目的でSharpenを使ったので、解像度に関しては少しインチキしてるといえるかもしれません。

まずは出来上がり。

「おとめ座銀河団」
up_DBE_DBE_PCC_AS_HT_all_disks_back2_rot_denoise_larage_cut
  • 撮影日: 2021年3月19日22時44分-3月20日4時27分
  • 撮影場所: 富山県富山市
  • 鏡筒: Takahashi FS-60CB + マルチフラットナー
  • フィルター: なし
  • 赤道儀: Celestron CGEM II
  • カメラ:  Canon EOS 6D(HKIR改造, ISO800, RAW)
  • ガイド: f120mmガイド鏡 + ASI120MM mini、PHD2によるマルチスターガイドでディザリング
  • 撮影: BackYard EOS、露光時間180秒x90枚 = 4時間30分、ダーク73枚(ISO3200、露光90秒、最適化なし)、フラット256枚(ISO3200、露光1/1600秒)、フラットダーク256枚(ISO3200、露光1/1600秒)  
  • 画像処理: PixInsight、Photoshop CC、Sharpen AI

Annotaionも付けます。今回、これが楽しみでこの領域を撮影しました。ものすごい数の銀河ですね。PGCなんかもういくつあるのか。でも拡大するとわかりますが、小さなものは写っていないものも多いです。ここら辺は次回以降、光学系をもう少し変えて、拡大しての撮影になるのかと思います。

up_Annotated

PGCの数が多すぎるので、PGCを抜いて少しシンプルにしたものです。

up_Annotated_noPGC


切り出してみよう!

全体像だけだと個々の銀河のインパクトがないので、いくつか見栄えのする領域を切り出したいと思います。少しでも見かけの解像度を良くするために、上の出来上がり画像を拡大します。拡大にはTopaz labsのGigapixel AIを使って2x2倍の解像度にしています。ただ、このGigapixelなかなか扱いづらかったです。恒星が多少ひしゃげてしまいます。もしかしたらPhotoshopで単純に拡大した方が良かったかもしれません。

あと、切り出したそれぞれにもAnnotationを付けます。例え分割してもまだまだ銀河がたくさんあるので、名前付けも十分情報を含んでいます。それでは行きます。


1. マルカリアンの鎖付近

言わずとしれた、一番見栄えのするところです。M87とM88まで入れてみました。
03_Markarian_all

_03_Markarian_all_Annotated

2. M99とNGC4216

M99の渦巻きがかっこいいです。右下のNGC3つの存在感があります。
05_M99_wide

_05_M99_wide_Annotated

3. M87からM91一を網打尽

縦長で、連番を全部入れました。
06_M90_wide_portrait

_06_M90_wide_portrait_Annotated


4. M99とM100
渦巻きが2つ。これもかっこいいです。
04_M100_wide

_04_M100_wide_Annotated


さらに拡大

ここからさらに拡大して、もう少し細かいところに注目します。でも公開するかどうか迷いました。さすがにこれくらいになるとアラが見えます。お見苦しい点は今後の期待とし、今回はご容赦ください。

5. M99
07_M99_small

6. M100
13_M100_small



7. M88とM91
10_M91_M88

8. NGC4216まわり
08_NGC4216_small

どうでしょうか?銀河団は大枠で撮って、面白いところを切り出しても、意外に見えるみたいです。まあ、拡大しすぎると限界はありますが、4時間半という露光時間と、画像処理でのごまかしも効いていて、あまり大きな画面で見なければなんとかなりますでしょうか。


過去画像と比較して

 さて、前回おとめ座銀河団の中のマルカリアンの鎖を撮影したのが、2017年の3月なので、4年も前のことになります。



MARKARIAN_edit2

焦点距離600mmのFS-60QとAPS-CのEOS60Dでの撮影なので、今回より範囲は大分狭いです。前のときもノーフィルターでした。というより、フィルターなんか持ってなくてノーフィルターでいいのかなと、不安になりながら撮影してたのを覚えています。でも回り回って銀河はノーフィルターの方がいいのではという結論で今に至り、今回も(でも今回は自信を持って)ノーフィルターとなりました。

4年経った、今回撮影した画像から、ほぼ同角で切り出してみました。
01_Markarian_comp
切り出しにもかかわらず、今回の方が見栄えはいいです。本質的には粗く撮影しているので、いかに画像処理で出しているかだけなのですが、よく言えば技術が進んだ、悪くいえばいかにごまかせるようになったかでしょうか。

当時はAnnotationなんていう技術は知らなかったので、手で何が見えているか書き込んでいますが、これはこれでいい思い出です。

markarian_signed_final


まとめ

銀河団は面白いけれど、細かくみないと迫力に欠けてしまいます。なので今回切り出しということを積極的に試してみました。自分では面白かったかと思うのですが、どうでしょうか?

切り出した画像はそのまま見てもいいですが、次回撮影のアングルの候補としても使えます。手持ちの機材なら、焦点距離900mmのTSA-120と6Dなんかで撮ると解像度が上がって面白いかもしれません。

一枚の画像からたくさん楽しめたので、パフォーマンスがよくてなんかもうかった気分です。
 

ここしばらくシリーズ化しているメジャー天体撮り直しシリーズ、M31アンドロメダ銀河M45プレアデス星団に続き今回はM42オリオン座大星雲です。







これまでのオリオン大星雲

M42は初期の頃からのFS-60Qでの撮影も含めて、


QBPのテスト
の時や、


AZ-GTiの赤道儀化のとき


ラッキーイメージングなど細部出しに特化したもの、


また明るい天体のため、電視観望でもよく見ることができ、見ている画面を保存して簡易的に画像処理してもそこそこ見栄えのするものができてしいます。


電視観望の応用でAZ-GTiの経緯台モードでの撮影も試したりしました。


TSA-120を手に入れてからも、フラットナーがない状態でも解像度ベンチマークなどでトラペジウムの撮影を中心に何度も撮影してきました。分解能に関して言えば、この時が最高でしょう。


その後、昨シーズン終わりにやっとTSA-120用に35フラットナーを手に入れてから一度テストしていますが、四隅の星像の流れはもちろん改善していますが、中心像に関してはフラットナーなしの方が良かったというのが以前の結論でした。



でもテスト撮影も多く、なかなか満足のいく露光時間はかけていませんし、仕上がりに関してもまだまだ細部を出すことができるはずです。今回はそれを踏まえての、初めてのまともな長時間かけての撮影になります。


撮影開始

撮影日は平日でしたが冬シーズンにしてはたまたま晴れていた(次の日からはまたずっと天気が悪い予報)のと、月が出るの午前1時過ぎと、多少の撮影時間が確保できそうでした。平日なので自宅での庭撮りになります。夕食後準備を始めました。このシーズンオリオン座は夜の始めはまだ低い高度にいるので、焦らずに準備できます。

鏡筒はTSA-120。これに35フラットナーをつけて、前回M45の撮影の時に準備したCA-35とカメラワイドアダプターをつけます。カメラはEOS 6D。フィルターはここのところ光害地では定番のCBPです。青を少し出したいことと、赤外での星像肥大を避けることが目的です。赤道儀はいつものCGEM IIです。撮影環境はStick PCにBackYardEOSを入れて、PHD2で二軸ガイド。

一つ気をつけたことが、Stick PCの電源を最初から大容量バッテリーのAC電源出力からとったことです。これは、これまでSharpCapでの極軸合わせなど計算量が多くなった時に何度か落ちたことからの反省です。前回のM45の撮影時の画像連続チェックで落ちてからAC電源に交換して、それ以降落ちなかったので、その経験から今回は最初からAC電源です。効果はテキメンで、SharpCapでの極軸合わせの時も全く問題ありませんでした。ダメな時はネットワークが不安定になるところから始まるのですが、そんな兆候も全然なく、やはりネットワークがダメだったのも計算負荷にで電力がネットワークアダプターのほうに回っていなかった可能性が限りなく高かったと言う結論になりそうです。


オリオン大星雲の撮影目標

せっかくの明るい星雲なので、
  • 階調と分解能をできるだけ出すこと。
  • 長時間露光でノイズを抑えること。
  • 星雲周りの分子雲を出すこと。
  • トラペジウム周りで飛ばないこと。
などを目標とします。

露光時間は淡いところを出したいので300秒とします。自宅庭撮りでこれだけ長くできるのはCBPなどの光害カットフィルターがあるからです。長時間露光の代わりに、ダイナミックレンジを稼ぎたいのでISOは少し低めの800としました。これでヒストグラムのピークが1/5くらいのところになりました。それでもトラペジウム周りは完全にサチってしまうので、別途同じISOで1秒露光のものを20枚、最初に撮影しておきました。同じISOにしたのはバイアスとフラットが使いまわせると目論んだからです。でも、後で書きますが、この目論見は失敗に終わります。


露光時間とISO

ISO800にした理由ですが、このページを見るとISO100の時のダイナミックレンジが12bit=4096、ISO800で11.5bit=2896とそこまで落ちないからです。さらに300分の1の露光時間の1秒露光で20枚ほど撮影してあるので、うまくつなぐとさらに300倍のダイナミックレンジ(2896x300= ~869000)を稼ぐことができることになります。

でもまあ、画像に写っている中で一番明るいオリオン座のι(イオタ)星のHatysa(ハチサ)が2.75等級なので、それより例えば15等級下の17.75等級を見ようとすると100万のダイナミックレンジが必要になり、既に不足となります。300秒露光の画像は既に背景のヒストグラムで最大値の1/5位のところにあるので、ということは背景の5倍の明るさで既にサチることになってしまいます。こうやって考えると恒星に割り当てることのできるダイナミックレンジはものすごい小さいことになってしまいますが、これでいいのでしょうか?何十枚もスタックして背景のランダムなノイズを下げ、オフセットは引くことができるので、もちろん1枚の時よりダイナミックレンジは増えます。画像処理のストレッチ過程で暗い恒星を炙り出すので、RAW画像の見た目の5倍というよりは実際にはもっと広いダイナミックレンジを扱うことができます。それでもサチっているところはサチったままです。

逆に言うと、背景に近い暗黒帯などは(低い方の)ダイナミックレンジが十分にあるところで情報としてRAW画像の中に残しておかないと、きちんとした諧調で表現することができなくなります。例えばPhotoshopでRAW画像を見たときに背景ピーク位置が256段階の3くらいのところにあったとします。ピークの幅が3くらいで、この中に暗い部分の背景の情報が入っているとします(実際には欲しい部分は背景のピークより少し値が大きいところにありますが、幅は同程度と仮定しています)。16bit=65536で処理するとすると1段回で65536/256=16階調あることになるので、3段階だとわずか48階調で背景の暗黒帯や対象天体の淡い部分などを表現することになります。ところが、背景ピークが10倍の30あたりにあり、その幅が30程度あるとすると、16階調をかけて480階調で表現できるようになります。ADCの量子化ノイズなどと言われたりしますが、一番見たいところをADCのどこの位置に持ってくるかを露光時間はゲインで調整するというわけです。でも実際にはたとえ階調不足でも、今のソフトはよくできていて、飛び飛びになっている階調を自動で補完してくれるので、見かけ上は階段状に見えるようなことがあまりなかったりします。

とりあえず今回は明るすぎる恒星は主に画像処理で回復し、トラペジウム周りの白飛びのみを1秒露光の画像で補完することにします。

セットアップ後は自宅からぬくぬくリモートモニターです。月が出る午前1時過ぎまで仮眠でも取ろうと思いましたが、結局そのまま起きていて、片付けが終わって寝たのが2時過ぎだったので少し寝不足になってしまいました。


6Dのセンサー面の清掃とフラット画像

後日、画像処理のためにフラットなどを撮影します。まずはカメラを外せないフラットからです。本当は太陽が出ている明るい時に撮影したかったのですが、北陸はしばらく冬型の気圧配置で、今後天気は期待できそうにないので、曇りの日に撮影することに。そういえば今回はM42の撮影前にカメラのセンサー面の掃除をしたので、フラットフレーム最近いつもあるゴミの後はほぼ一掃されていました。清掃といってお、カメラの清掃モードを利用してセンサー面を露出し、エアーで吹き飛ばしただけです。これだけでかなりの効果がありました。

フラットダークとバイアスに関しては同じISOの以前使ったマスターファイルがあるので、それを再利用できます。

ダークは冷蔵庫と冷凍庫にカメラを入れて冷却状態で撮影します。温度がばらつくので、多少多めに撮影しておきます。それでも枚数が稼げないこともあるので、その場合はダーク補正なしでCosmetic Correctionのみにする時もありますが、今回はそこそこの枚数を稼げたので撮影時の温度に合わせて選択して使うことにしました。


画像処理

撮影したファイルをPIのWBPPで処理します。できたファイルをPCCにかけます。背景に分子雲が大量にあるのでカブリとの見分けがつかず、ABEやDBEは使わないことにしました。ノイズ処理とDecombolutionもPIで試しましたが、やはりまだDeNoiseの方が有利な気がして、今回も使いませんでした。いずれ移行したいですが、もう少し検討してからにしてみたいです。

恒星中心の回復はRepaired HSV Separation Scriptを使い、Masked Stretchで恒星を保ちながら炙り出しました。

問題はStarNetの適用のタイミングです。今回はPhotoshopでも炙り出す余地を残したために背景と恒星の分離を少し早い段階で済ませました。そのため、PSでの処理時に恒星をさ散らすことになってしまったので、あまりMasked Stretchの意味がなかったかもしれません。でもその一方、恒星を全くサチらせずに処理すると、恒星が野暮ったい感じになりインパクトに欠けることにもなります。今回はサチらせる方向を取りましたが、ここはもう少し検討したいところです。もしかしたら再処理するかもしれません。

1秒露光の画像の処理も同様にPIでやったのですが、WBPPが全くうまくいきませんでした。仕方ないので、マニュアルでCosmeticCorrectionから順番に確認していくと、ImageCaibrationのバイアスやフラット補正が全くうまくいきません。バイアスファイルやフラット補正ファイルは、ISOを合わせた300秒露光の補正で使ったものの使い回しなので問題ないはずです。ファイルが問題と言うよりは、補正すること自体がダメなようです。簡単に言うと暗かったライトフレームが補正で明るくなってしまうような状態です。どうやってもうまくいかなかったので、補正は諦め、撮影した21枚、21秒分を位置合わせしてスタックしただけにして、トラベジウム周りだけを使うことにしました。

300秒画像のトラペジウム周りはサチっているので、境目が滑らかになるように輝度を落とし、そこに1秒露光の画像をPhotoshop側で合成しました。

結果は以下のようになります。
masterLight_PCC_pink_MS_all5


2020/12/14追記: 次の日少し見直して1から処理し直しました。StarNetを使わずにマスク処理で恒星部を調整し不自然さと幸理をできるだけ無くしています。あと、まだ赤寄りだったのでもう少し青寄りにして色調豊かにしました。まだ不満はいくつか残っていいます。
  • 分子雲の中の微恒星周りが不自然です。これはマスクの領域を拡大しすぎたからかと思います。明るい領域の微恒星と暗い領域の微恒星では多分マスクの扱いが違うのかと思います。最後に気づいたので力尽きて諦めました。またそのうちに解決策を手段を考えます。
  • 分子雲と背景のノイズ処理が甘くてボコボコしているようなところがあります。DeNoiseの効果なのですが、他のノイズ除去フィルターでも同じようになってしまいます。Dfine2で大まかなノイズを除いてからDeNoiseで解決できる可能性もありますが、根本的には露光不足なのでさらに長い時間撮影するのが一番です。
  • かなり炙り出しているので、人工衛星の軌跡が目立ち始めています。軌跡が残っている画像は全て捨てるのが解決策なのですが、今回もかなりの枚数に軌跡が映り込んでいます。これだけ衛星が多いとオリオン座はもう難しいのかもしれません。
それ以外のところは、「今のところ」不満はありません。でも気づいてないことがまだたくさんあると思うので、あくまで今のところです。

masterLight_integration2_ABE1_PCC_SCNR_HSV_MS_all3_cut
  • 撮影日: 2020年12月9日20時57分-12月10日1時10分
  • 撮影場所: 富山県富山市
  • 鏡筒: タカハシ TSA-120 (口径120mm, 焦点距離900mm) + 35フラットナー + CBPフィルター
  • 赤道儀: Celestron CGEM II
  • センサー: Canon EOS 6D HKIR改造
  • ガイド: PHD2 + 120mmガイド鏡 + ASI178MCによるディザリング
  • 撮影: BackYard EOS, ISO1600,  露光時間: 300秒 x 50枚 = 4時間10分 + 1秒 x 21枚
  • 画像処理: PixInsight、Photoshop CC, DeNoise
分子雲については十分に出ていて、星雲本体の階調も分解能も満足できます。トラペジウム周りもそこそこ自然に出ています。

その一方、恒星部にはまだ少し不満もあります。露光時間が300秒と長いために星像がガイド揺れやシンチレーションでボテっとなるのは仕方ないです。でも1秒露光の方でトラペジウム部分を見てもあまり分離できていません。ピントがずれている可能性もありますが、おそらくこの日はシンチレーションが酷かった可能性が高そうです。

トラペジウムもピシッと見えていて、背景もきちんと出ているようなものを多露出露光合成なしで撮れるような、タイミングと機器とパラメーターが揃った時に、いつかまた気合を入れて撮影してみたいものです。でもまだ今の機材でももう少し攻めることができる(ラッキーイメージングでしょうか?)はずなので、今後も継続して挑戦していきたいと思います。オリオン大星雲は深いです。


まとめ

メジャー天体際撮影シリーズはこれで終わりかと思います。4年半前に星を始めて、最初の頃に挑戦したものでしたが、機器も技術も4年半の間に随分進歩したことがわかります。ソフト的な進歩も大きいです。

特にPixInsightでのDBEやストレッチの技術と種類の多さ、StarNetでの分離、Nik CollectionやDeNoiseなどの細部だしやノイズ除去など、自分の腕の不足を明らかに助けてくれます。今後はこういった便利なソフトから少し離れて、自分の腕で画像処理を極めたいと思っていますが、実際この楽な状況から本当に脱却できるのか?まあ、当分はそのままかもしれません。


おまけ

Annotationです。

masterLight_PCC_pink_MS_all5_Annotated


恒例の以前FS-60Qで撮影したものです。約4年前と

cut

1年半前です。

light_M42_PCC_maskstretched_ok_HDR_dark

今回の撮影もまだ不満はありますが、自己ベストは明らかに更新です。何年か経つととりあえず進歩の跡が見られるのはいいものです。オリオン大星雲は楽しいので、また条件を変えて挑戦します。



球状星団を撮影するのは初めてになります。今回、ヘルクレス座の球状星団M13をTSA120を使って撮影してみました。全天で最も美しい球状星団と言われています。


初の球状星団撮影

連休初日に入るこの日の夜、天気は悪くなく、夜中から天の川を撮影しようと思っていたのですが、それまでの繋ぎでM13を撮影してみることにしました。よく考えたら、球状星団をまともに撮影するのは初めてのことです。もちろん、眼視や電視観望などでの簡易撮影などはあります。それでも時間をかけてまじめに撮影するのは初めて、いろいろわからないことがありそうです。
  • そもそも、撮影時間はどれくらいがいいのか?星雲ほど長くなくていいのか、それともやはり長ければ長いほどいいのか。
  • 1枚あたりの露光時間はこれまで通り5分でいいのか?
  • QBPはあってもいいのか?無いほうがいいのか?

天の川が出てくるまで1時間ほどあります。最初なのでとりあえずこれまでの星雲撮影のセッテングをベースとして、撮影時間を1時間としてみました。

撮影は順調。PHD2とAPTで、ガイドも含めて特に問題はなかったです。ちょうど同じ時間帯に、あぷらなーとさんもM13を狙っていたみたいです。


画像処理と結果

球状星団の画像処理も初めてのことで、まだ全然慣れていません。疑問だらけで、また太陽映像に取り掛かっていたこともあり、時間がかかってしまいました。

星雲の場合と違って、いじればいじるほど処理の跡が目立つような感触です。なかなかごまかしが効かない、素材の出来具合がそのまま処理後の出来に直結するような気がしました。とりあえず処理した結果です。



「ヘルクレス座球状星団M13」
light_BINNING_1_integration_ABE_PCC_STR2_cut
  • 撮影日: 2020年4月29日0時24分-1時23分
  • 撮影場所: 富山県富山市下大久保
  • 鏡筒: Takahashi TSA-120 + 35フラットナー + サイトロン QBP (48mm)
  • 赤道儀: Celestron CGEM II
  • カメラ:  ZWO ASI294MC Pro
  • ガイド: PHD2 + f=120mmガイド鏡 + ASI290MMによるディザリング
  • 撮影: ATP、ゲイン220、温度0℃、露光時間300秒x11枚 = 55分 
  • PixInsight、Photoshop CCで画像処理
中心部です。

light_BINNING_1_integration_ABE_PCC_STR2_center

今調べたら簡易撮影では、星を始めて一番最初に撮影したメシエ天体がM13 M3(2020/5/16訂正:玄さんのコメントのおかげで4年を経てM3と気付くことができました。玄さん、どうもありがとうございました。)でした。星を始めて、一眼レフカメラを手に入れてすぐのM13 M3がこれ。1枚撮り、中心からずれてる、星がぶれてる、画像処理も何もしてない。さすがにこれを見ると、4年間で進歩したと思えます。でも望遠鏡とカメラでメシエ天体が写っただけでも、ものすごく嬉しかったこと覚えています。

IMG_0326



反省点色々

最初は、初めてにしてはそこそこ中心部まで見えたのかなと思っていました。でもやはりまだまだですね。以下、反省点です。
  • 一つ一つの星像が大きい。もっと分離してもいいはず。
  • 星雲みたいに背景を出す話ではないので、構成を分離するStarNet++が意味をなさないはずです。今回は試すこともしませんでしたが、背景のノイズを減らすのには役に立つかも知れません。今後の課題とします。
  • 背景のノイズを無くそうと、DeNoiseやDfine2も試しましたが、見事に恒星の不自然さを強調します。今回は試しただけで、結局使いませんでした。
  • 炙り出していくと、背景ノイズがまだ多いです。今回はトータルで1時間弱の撮影だったので、もう少し総露光時間を増やしていいかもしれません。
  • すでに炙り出しすぎの感もあります。中心部から少しずれたところなんかは、微光星なのかノイズなのか見分けがつかなくなってきます。
  • 明るい恒星の裾部分の階調が少し不足しています。微光星を出そうとするとこうなってしまいます。もう少し中心部の微光星を抑えても良かったかも知れません。
  • 同様に、左上に写っている銀河も階調不足の感があります。
  • 中心部の画像を見ると、色が白、オレンジ、青緑と3系統にはっきり分かれています。現実は多分そんなことはないので、何かおかしな画像処理過程が入っているようです。それともQBPのせいでしょうか?
  • やはりまだ決定的に分解能不足です。というか、星が肥大化しています。これは画像処理以前の撮影時の問題です。
画像処理以前のこととして、決定的だと思ったのは、一枚の撮影時間の5分が長すぎたではないかということです。長時間露光はどうしてもブレが積分されるので星像がボケてしまいます。もちろんシンチレーションとか風の揺れによるのですが、1枚は1分程度に抑えて、枚数を増やした方がいいのかも知れません。

揺れに関して少し考えてみます。撮像の揺れ時間スケールで見ると
  • 秒以下の揺れ: シンチレーション、地面の揺れ、風による機材の振動
  • 1秒程度の揺れ: 風
  • 10秒周期以上の揺れ: 赤道儀のピリオディックモーション、機材のたわみ
などがあります。
  • この中で改善できるのは10秒以上の揺れのみ。オートガイドです。それでも1時間オーダーではたわみが問題になってきます。
  • 1秒から10秒程度の揺れはオートガイドで多少は抑えることができますが、速い揺れほどその効果は小さくなります。
  • 秒以下は今のところ打つ手なし。AOを使うことで、シンチレーションみたいな画面の中で揺れるもの以外は改善できます。でもAO高いです。自分で作ることを考えた方がいいかも知れません。
このように考えるとすぐにわかるように、一枚あたりの露光時間を1分程度に短くしても大した効果はありません。ただ、揺れの大きさで考えると、突風などの突発的事象で星像が肥大することはあり得るので、露光時間を短くしてそれらの揺れの大きいものを省くことはできます。ラッキーイメージの考え方ですかね。

さらに、カラーCMOSカメラで撮影していることも分解能を低下させている原因の一つです。モノクロの冷却CMOSカメラでそこそこのセンサー面積のものをそろそろ本気で考えた方がいいのかも知れません。

少なくとも今回の結果は、TSA-120のが持っている光学的な分解能には全く達していないと思います。


おまけとまとめ

最後にいつものアノテーションです。少しだけ斜めになってました。念のため再度ImageSolverで計算したら回転のズレ結果は0.41度でした。上が北で、経線が縮まっていくので上の方が間が小さくなっていまるので、より斜めに見えてしまっているようです。

light_BINNING_1_integration_ABE_PCC_STR2_Annotated

本当はこの撮影の後に天の川が登ってくる時間になり、中心部の干潟とか三裂星雲を狙おうとしていたのですが、外に出たら曇り。この日は撤収しました。

画像処理まで進めて、まだまだ改善の余地がたくさんあることがわかりました。球状星団は撮影時の条件がそのまま出てごまかしが来なさそうです。今回の撮影の後、もう少し試したくて、別の日にVISACで長時間撮影してみました。 これはまた次の記事で書きます。


 

回転花火銀河M101を撮影してみました。この天体は電視観望では何度か観たことがありますが、撮影は初めてです。自宅からですが、富山特有の北の明るい空です。さて、どうなることやら。


light_BINNING_1_integration_ABE_DBE_STR_DBE_STR_SNP_all_PS4_cuts
銀河部分を大きくみるために最終結果を切り出したものです。


撮影

今回はもう少し北側のM101に挑戦です。挑戦と言う意味ですが、富山は日本海側のため基本的に北が市街地になっているので、北の空はどうしても明るくなってしまい、これまでも撮影は避けてきました。

前回、三つ子銀河の自宅からの撮影がQBPを入れたまま知らずに撮影してしまうというアクシデントのおかげか、思いの外うまくいったので味をしめてしまいました。これならもう少し明るい領域でもなんとかなるのではと思い、この季節北東から真北に動いていくM101にしました。

機材セットアップは三つ子銀河の時と全く同じで、TSA-120にQPDでASI294MCProです。撮影自身は順調。ガイドもほとんどズレなしです。透明度はというと、三つ子銀河の時よりは悪かったと思います。見た目でもわかるくらい三つ子さんの時は細かい星まで散りばめられていましたが、M101のこの日の空は、悪くはないですが、まあそこそこと言ったくらいでしょうか。普通に星は見えますが、細かい星まではあまり見えません。

撮影はStickPCを利用したリモート撮影です。いったんセットして撮影が始まってしまえば、あとは部屋からヌクヌク状態でモニターすることができます。予定では3時間以上の露光時間を狙います。ところが、天頂越えまでまだ少し時間がある頃、部屋からリモート接続のでダウンロードされる画像を見ていると、星が流れて出していることに気づきました。おかしいと思い、外に出てチェックしてみると、天頂越え直前でカメラが三脚の当たって止まってしまっていました。これまでこんなことあまりなかったのですが、鏡筒が長いと天頂近くになるとカメラ側が脚に当たってしまうこともあるのがわかりました。こんなことならAPTで赤道儀の反転テストを試せばよかったです。赤道儀が明らかにずれてしまったのと、もうしばらくすると月も出てくるので、この日はこれで終了としました。5分露光で30枚なので2時間半分の撮影です。


全体の流れ

ガイドのズレを見るためにいつものように2時間半分の画像を動画にしてみます。

Blink

今回は1方向に動いているわけではなく、一度左に行って、右に戻ってきているような感じです。APTのDithering Distanceで4としてあるのですが、このランダムな動きがその4というので動いているのかもよくわかりません。1方向のドリフトではないのですが、まだたわみか何かが原因で動きすぎている気がします。

上の動画は明るさを規格化してしまっていますが、一番最初と一番最後ではヒストグラムで見ると明るさが1.5倍くらい違います。なぜかだんだん暗くなっていきます。最初北東にあったM101が高度を上げながら真北へ向かっていくくらいまでを撮影したのですが、普通に目で見ても北の方が明るいのは確かです。高度が上がっていくから暗くなるのか、夜中になり町の明かりが減っていったから暗くなっていったのかはわかりませんが、(QBP有り無しで高々3倍の明るさの違いなので)1.5倍は無視できないくらいの違いです。2時間半分あるのですが、淡いところだけを出すのなら後半のみ使うくらいの方がいいのかもしれません。今回は、結局画像処理をやっている過程で、最初の30分を使うのをやめました。そのため淡い部分がもう少し出るようになった気がします。


画像処理

今回結構色々学びました。特にAPTはまだまだ経験不足で慣れていないことも多いので、癖を知っておく必要がありそうです。


1. light frame

撮影した画像を見てみると、どうもホワイトバランスが根本的に取れてません。QBPのせいでしょうか?赤がどうしても強くなってしまいます。でも、後のフラットで逆に赤が暗くなったことを考えると、QBPのせいでもない気がします。

ight_redshift
rawファイルをカラーバランス補正なしでオートストレッチした画面。
ヒストグラムを見ても赤が支配的です。

SharpCapの場合はカラーバランスをソフト側でとることができて、fitsファイルにもそれが反映されてます。APTの場合にはカラーバランスを調整できる場所がありません。いや正確には見かけのカラーバランスは調整する場所はあるのですが、画面だけに反映され、fitsファイルにはそれは反映されないようです。


2. dark補正

今回はdarkの補正の時にアンプグローをうまく差っ引くために、前回のUTOさんのアドバイスを元にOptimizeオプションをオフにして処理しました。  オンとオフで比べてみます。

light-BINNING_1
デフォルトのOptimizeがオンのまま。右上にひどいアンプグローが残っています。

light-BINNING_1
ダーク補正の際のOptimizeをオフにした場合。
アンプグローは相当マシになります。

最初BatchPreProcessで設定場所が見つからなかったので、ImageCalibrationの中でOptimizeをオフにしてバッチ処理でなくその後もマニュアルでやったのですが、後にBatchPreProcessの右側のグローバルオプションのところに設定できる場所があることを見つけました。これでバッチ処理で手間をかけずに進めることができるようになりました。

ちなみに、ダークだけをものすごく炙り出してみるとこんな風になります。

Capture 00_12_39_00001 00_17_12_c_d

右上が目立ちますが、左上にもそこそこのアンプグローがあり、よく見ると右下にも少しあります。3箇所もあるので大変そうですが、ダーク補正でOptimizeをオフにすることで解決できるので、もうそれほど大きな問題ではないのかと思います。


3. bias補正

最初bias補正をすると画面が暗くなりすぎてしまいました。これはbais frameの撮影時のbiasの値(オフセット)が大きすぎたことと、次に書くフラット補正がうまく行っていなかったことが原因かと思われます。

badbias
カラーバランス補正をしてオートストレッチすると青と緑が暗すぎてしまう。
バイアス補正でオフセットが引かれ過ぎていると考えられる。

ligh frameの撮影時、APTでのbias設定が40でした。そのためbias frameの(オフセットの意味での)bais値は撮影時に40以下にしています。最初オフセットを30にしてSharpCapdで0.0032msで撮影したのですがまだ十分下げ切れていませんでした。それに合わせてflat frameのカラーバランスも合っていなかったせいで、赤が過補正のため青と緑が相対的にオフセットを引かれすぎた状態になってしまって、出来上がり画像の青と緑が暗すぎてしまったのかと思います。

そのため改めてbiasを撮影して、その際オフセットを20に下げ、今度は念のためAPTで撮影しました。一応これでうまく行きましたが、実際にはbias値を下げたからよくなったのか、後述のフラットのバランスが取るように対策したからなのかは不明です。


4. flat補正

その中でも、今回の撮影では特にflat補正で学ぶことが多かったです。TSA-120の口径が大きすぎて、いつもやっているようなiPadでのフラット撮影は出来ませんでした。手持ちのiPadでは画面が小さすぎてはみ出てしまうのです。その代わりにMacbook Proのモニターをフラットパネル代わりに使ってやりました。使ったツールは天リフさんのこのページです。



このページはカラーバランスを整えることができるので、非常に便利です。

短時間露光のflat frameなので、最初はディスクへの画像取り込み時間が速いのでSharpCapで撮影していたのですが、条件をそろえる意味で途中からAPTでの撮影に切り替えました。ゲインはlight frameと同じ220、露光時間は以前の検証から100msです。枚数は50枚程度ですが、これも以前の検証からこれくらいの枚数で十分だと思われます。

ここから色々不思議なことがあり、まだ完全に解決できていません。あいからわらずフラットは謎が多いです。

上の「1. light frame」のところでも述べましたが、APTでlight frameを撮影すると赤色が一番強調して撮影されます。上のスナップショットでヒストグラムのところを見ると、赤が青や緑に比べて1.5倍くらい明るいのがわかります。

これは有意なずれで画像処理に影響を与えるくらいかなり大きな差です。最初QBPのせいで赤くなっているのかなと思っていたのですが、不思議なことに鏡筒とカメラの設定を全く状態を変えないでMacのモニターでホワイトバランスをとったものをflat frameとして撮影すると、今度は赤が一番暗くなるのです。青や緑に比べて2分の1以下くらいの明るさです。

flat-BINNING_1

このflat frameを使いフラット処理をすると、もともと1.5倍明るい赤が、2分の1位の暗さの赤で割られるので、その結果赤が3倍くらい明るいlight frameが出来上がることがわかりました。そのため少なくともPIでは、light framとflat frameのカラーバランスは、そこそこ同じようにする必要があることがわかります。実際にはMacの画面のカラーバランスを、あらかじめ赤が3倍くらい明るいものにして、それを撮影することで、そこそこlight flameと同じカラーバランスの取れたflat frameを作ることできるようになりました。

もう一つ問題がありました。撮影したflatの画面のうち赤色だけ様子がおかしいのです。RGBに分解してみてやると、青や緑はいたって普通に見えますが、赤色だけはセンサーの長手方向に蝶形になるような、形が現れてきて、変に見えます。

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赤だけ変な形が現れる。

とりあえず軽減する方法は見つけました。どうもフラットパネル(今回はMacbook Proのモニター)で撮影することが悪さをしているようです。まず、フラットパネルを使わずに、昼間にスーパーの袋を二重に重ねてflatを撮影してみると、この変な形は随分とマシになります。カラーバランスはその時に入る光に依るので、少し赤っぽい、実際には電球色の光を入れています。

flat_BINNING_1_integration1_RGB_VNG
蝶のような形はなくなったようにみえます。 

画像を見ても少しマシになっていることがわかると思います。でもマシになっただけで、やはり同じような形は残っています。

で、結局最終的にやったことはというと、flat補正をしないという選択肢を取りました。どう見てもこれが一番マシなのです。そもそもカメラがフォーサーズ相当で周辺減光があまりないので、それほどフラット補正にこだわる必要はないのかもしれまん。

でもここで不思議なのは、同じ鏡筒で同じ条件で撮影しているのに、なんで普通のlight frameの撮影の方では、こんな変な模様が見えてこないかです。まだflat frameの撮影方法に問題があるような気がしています。ここらへんは時間があったらもう少し試してみます。


5. 仕上げ

フラット補正なしにしてスタックした画像がまともになるとやっと、その後の仕上げの画像処理に困ることはなくなりました。ちなみにこれ以前のフラットが合っていない時の画像処理は熾烈を極め、時間も相当かけてしまいました。ちなみに最後のフラット無しの結論に至るまでに、PixInsightでのフルスタックの画像処理の回数は11回。そのうちPhotoshopに移って最後まで処理を進めたのが4回。下処理がきちんとしていればいるほど、画像処理にかける時間も少なくなりますし、出来上がった画像もいいものになります。


結果

画像処理の段階で色々紆余曲折はしましたが、そこそこ満足のいく仕上がりになりました。透明度の差もあるのでしょうか、三つ子銀河の時ほどくっきり出すのは難しかったですが、アンプグローが軽減できたのと、フラットがマシになったぶんもあり、淡い部分をより炙り出すことができていると思います。

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  • 撮影日: 2020年4月16日21時29分-4月17日0時20分
  • 撮影場所: 富山県富山市下大久保
  • 鏡筒: Takahashi TSA-120
  • 赤道儀: Celestron CGEM II
  • カメラ:  ZWO ASI294MC Pro
  • 撮影条件: ゲイン220、温度-15℃、露光時間300秒x24枚 = 2時間0分 
  • フィルター: サイトロン QBP (48mm)
  • PixInsight、StarNet++、Photoshop CC、DeNoise AIで画像処理

自宅でこれなら、まあ十分ではないでしょうか。これも一度暗いところへ行って撮影してみたい対象です。一体どれくらい変わるのか、真ん中のしわしわの部分をもっときれいに出せたらと思います。

その一方、富山の北の空でこれだけ出るのなら、もう少し自宅で時間をかけていろんな銀河を探っていきたくなりました。自宅からなら、天気さえ良ければ平日でも比較的気楽に試すことができます。


Annotation

天体の名前入りの画像です。こちらも定番になりそうです。

light__integration_ABE_DBE_STR_DBE_STR_SNP_all_PS4_cut_Ann


前回の三つ子銀河は全面縦横ズレなしだったのですが、今回は右はあっていても左側が斜めになっています。北の空だからでしょうか。座標に対しては画面が歪んで写るんですね。


まとめ

TSA-120の自宅での撮影第2段。QBPのおかげもあり、北の空の銀河でもそこそこ写ることがわかりました。銀河の撮影も楽しくなってきました。TSA-120での撮影を今しばらく続けていきたいと思います。

その一方、まだ画像処理では理解不足なところがあります。特にflatはいまだにミステリーです。きちんとしたflat撮影方法をもう少しきちんと考える必要がありそうです。
 

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