ほしぞloveログ

天体観測始めました。

タグ:TSA-120

SHG700での太陽分光撮影ですが、安定に運用できることはほぼわかってきたので、もう少し性能アップを図りたいと思います。そのための下計算をしてみます。


改善パラメータ

太陽の分光撮影で、結果として改善ていきたいのは
  • より細かい波長分解能
  • より細かい空間分解能
の2点です。これらを改善するために分光撮影の構成機器である、1. 鏡筒、2. カメラ、3. 分光器の性能を考えていきます。

1. 望遠鏡に関しては
  • 口径
  • 焦点距離
がパラメータになります。望遠鏡によって収差も当然ありますが、簡単のためここでは考えないこととします。

2. カメラに関しては
  • ピクセルサイズ
が一番効くパラメータです。実際にはセンサーサイズやフレームレートなども関係してきますが、分解脳にはやはりどれだけ細かく写せるかというピクセル自身のサイズが重要です。

3. 分光器に関しては
  • スリット幅
  • 回折格子の溝の数の密度
  • コリメートレンズの焦点距離
  • カメラレンズの焦点距離
が大きく効いてくるでしょうか。

波長分解能についての計算はastrosurfのSol'ExのTheoryのページがわかりやすいでしょう。それでも空間分解能まで含めて自分で計算するのは結構大変なので、Ken Harrison氏が作ったエクセルファイル「SIMSPEC SHG」を使うといいでしょう。最新は2023年6月のversion V1.5bのようです。下の画像は、自分の環境用にSHG700、FC-76、G3M678Mを適用して計算したものです。
SimSpec SHG V1_5b_20250913_SHG700_FC76_G3M678M_cut

ここで注目すべき値は、
  • 波長分解能: Dispersion (r): 0.091 Å/pixel
  • 空間分解能: Spatial (best) resolution: 2.2 arcsec
で、各種パラメータをいじって、これら2つの値を改善することを目標にします。


波長分解能の改善の難しさ

表の値で波長分解能に関するところを見ていくと、よく似た値としてナイキスト周波数も考えたEstimated (best) bandwidthというのがあります。ただし、Hα回りの輝度グラフを書くと、ピクセルごとに輝度に有意な差が見えたために、Dispersionの方で考えることにしました。ここで計算された0.091 Å/pixelは、実際のHα線の撮影動画をJSol'Exで実測した値と一致しています。
スクリーンショット 2025-07-05 101928


でも現実的には、この波長分解能のを改善しようとするのは結構大変で、分光器のカメラレンズの焦点距離を長くするか、回折格子の密度を増やすか、CMOSカメラのピクセルサイズを細かくするくらいしか手がありません。前者2つはSHG700を大幅にてこ入れする必要がありますし、ピクセルサイズはすでに最小に近い部類のG3M678Mを使っているため、これも難しいです。

もしやろうとするなら、SHG700の秀逸なアセンブル(コンパクトさ)を諦めてカメラレンズの焦点距離を伸ばすのが最も簡単かと思いますが、大幅改造になるので波長分解能の改善に関しては今回は諦めることとして、将来の課題としておきたいと思います。実際には撮影して楽しむレベルでは0.091 Å/pixelという値はもう十分すぎる性能なので、ここを改善する場合何か明確な動機を持っておいた方がいいでしょう。


空間分解能の改善の可能性

一方、空間分解脳に関してはまだまだ改善の余地がありそうです。例えば、上記設定の鏡筒の口径を76mmから120mmに変えると、
  • 空間分解能は2.2 arcsecから1.4 arcsecに改善
されます。手持ちの鏡筒だとTSA120を使うことができます。ですが、その場合焦点距離が900mmになるので、太陽像が大きくなってしまいます。ここで浮上する問題点は
  • スリットの長さが短すぎて太陽像がはみ出してしまう
  • CMOSカメラのセンサーサイズが小さすぎて太陽像がはみ出してしまう
ということです。実際計算すると、太陽サイズの84.8%しか撮影できないため、このままだとモザイク撮影の必要が出てきます。もちろんモザイク画像でも、太陽の縁がある程度映っている限り可能ですが、何枚かスタックすることも考えるとかなり面倒です。

このサイズ拡大問題はそんなに単純ではなくて、スリットサイズやカメラセンサーサイズの拡大を含めて、トータル設計で改善する必要があります。

これに関して、最近MLastroから10mm長のスリットの発表がありました。標準の7mmが700mmの焦点距離まで対応しているので、ざっくりですが焦点距離を1000mm程度まで増やすことができます。これはすでに発注してあるので、そのうち自宅に届くでしょう。

たとえスリット長だけを伸ばしても、カメラセンサーサイズの制限から、それでも太陽像の93.0%までしか一度に入らない計算になります。実際は余裕を見て太陽サイズの120%程度の広さを撮影したいので、カメラセンサーサイズを大きくする必要があります。

焦点距離1000mm程度までなら、IMX183が小さなピクセルサイズと適したセンサーサイズを兼ね備えた候補なのですが、値段的にカメラをぱっと買うのは大変なので、とりあえずは手持ちのASI294MM Proのbin1を試してみようと思っています。ただし、bin1撮影はこれまでの経験でジャジャ馬っぽいことがわかっているのと、フレームレートが出にくい可能性があるので、どうしようもなければ新規にカメラを購入することになるのかと思います。

スリットとセンサーサイズは計算上に出てきてすぐにわかることなのですが、実際にこれらを改善しようとすると、実は問題はこれだけにとどまりません。例えば口径が76mmから120mmに増えると、光量が約2.5倍に増えます。ちょうど焦点位置に置かれるスリットがその光量増加に耐えられるのか、必要なら別途フィルターを追加するなどの処置が必要になるかもしれません。

それでも空間分解能で1.5倍の改善というのは、目に見えてわかる劇的な改善なので、ぜひ試してみたいと思っています。TSA-120とASI294MM Proを適用した改善後の計算結果を示しておきます。

SimSpec SHG V1_5b_20250913_SHG700_TSA120_ASI294MM_cut

カメラを変えたことによりピクセルサイズが若干大きくなって、波長分解能が少し悪くなってしまっています。それでも0.105Å/pixel程度はあるので、十分でしょう。


Sol'Exとの比較

ここで少し、SHG700とSol'Exの違いについて考えてみたいと思います。数値的に光学性能だけ見れば、SHG700よりもSol'Exの方が優れていることが多いのがわかります。例えば、SHG700はコリメートレンズ、カメラレンズともに焦点距離72mmですが、Sol'Exはコリメートレンズが80mm、カメラレンズが125mmと長いものになっています。例えば今の自分のFC-76とG3M678MにSol'Exを取り付けてみます。

SimSpec SHG V1_5b_Solex_FC76_G3M678M_cut


計算結果から分かりますが、
  • 波長分解能は0.091 Å/pixelから0.052 Å/pixel
と劇的に改善することがわかります。これだけみると、Sol'Exの方が得な気がします。SHG700はなぜ一見改悪とも取れる、焦点距離を短くする方向に向ったのでしょうか?

これを考察する前に、まずはネットに上がっているSol'ExとSHG700の太陽画像の平均らしきところを比べてみましょう。明らかにわかるのですが、SHG700の方が綺麗に出ていることは誰もが思うことでしょう。もちろん例外はありますが、傾向としては明らかだと思います。

ではなぜここまで差が出るのか?少し検証してみます。といっても私自身はSol'Exは持っていないので、かなり推測の部分も多くなると思いますが、そこら辺はご容赦ください。

まず大きく違うのが、SHG700でコリメートレンズとカメラレンズのピント合わせにマイクロメータを採用していることでしょうか。これまでの実際の撮影で、両レンズの位置をマイクロメーターの値を見ずにベストの位置を探って決定し、その後に確認でマイクロメーターを見ると、ほぼ毎回マイクロメーターの1目盛以内に収まります。付属のマイクロメーターの1目盛は、1回転で50目盛で0.5mm移動なので、10ミクロンの移動量に相当します。結局これくらいの精度での位置合わせが必要になるということなのですが、Sol'Exの標準の手動での移動ではどう足掻いてもこの精度を出すのは厳しいのかと思います。XでJia Cangさんがレンズの移動をネジ式に変えて、かなり綺麗に撮影できるようになっているので、やはりここは大きく効いているのかと思います。もう一つの、3つ目の波長選択のためのマイクロメーターは、あると便利ですが、実際にはある程度の波長幅を持って撮影するので、精度という意味では撮影画像のクオリティーにはそこまで効いていないのかと思います。

もう一つの違いがスリットです。Sol’Exのスリット幅も初期の10μmから現在は7μmと進化していますが、スリット幅自身が問題というわけではありません。ポイントはSHG700のスリットは合成石英製で、熱に強いものになっているところです。そのため、多少口径の大きい鏡筒でも問題なく使えることになります。MLastroのページによると口径100mm程度まではERFなどのフィルターなしで使用することができるとのことです。口径は空間分解能に直結するので、Sol’Exで大口径を使いにくというのは、やはり差が出るのかと思います。

結局ブログ記事にはしていませんが、今年も胎内の星まつりに少し参加していて、そこで太陽分光機材を出しているブースがありました。Sol'Exと、なんとSHG700も置いてあったのですが、聞いてみるとまだSHG700は届いたばかりで使っていないとのこと。でも話を聞いている限り、Sol'Exを使う限りはコリメートレンズとカメラレンズの精度に関してはあまり気を使っていないようでした。というよりも、Sol'Exだけを使っているとレンズ位置にそこまで精度がいるという認識にならないような印象を受けました。よく「Sol'Exは面白いけど難しい」とか「再現性よく撮影することができない」とか聞くのですが、機構的にレンズの位置合わせの精度が出ないことが最大の理由なのかと推測してます。でも簡単に改造できるのもSol'Exの利点の一つなので、Jia Cangさんのように、ネジ式にするだけでも相当改善するのかと思います。


日記

久しぶりのブログ記事です。お盆からずっとほぼ休みがないレベルで忙しくて、ここ一ヶ月で天文にかけることができたのは、胎内の星まつりにかなり無理して行ったことと、8月末の友人主催の観望会のお手伝いをしたことくらいです。休日もあるにはあったのですが、ほとんど書類書きに追われていて、ブログを書く時間さえ確保できませんでした。やっと懸念事項も解決しつつあり、この連休くらいから趣味に割ける時間が戻ってきました。

ブログ記事にできなかった胎内での話を少しだけ書いておきます。

今回の参加はあまり無理をせず、土曜の朝、比較的ゆっくり自宅を出て、昼頃に会場近くに到着しました。とりあえず胎内ロイヤルパークホテルのちょっと豪華なランチを食べ、その後のんびりと会場に向かいました。最近は太陽ばっかりで、そこまで欲しいものはないので、何か買うというよりはブースをゆっくり見て回りながら、店員さんや、知り合いの人たちと会話を楽しむのがメインでした。夜も少し星を見て、また次の日も忙しいので、あまり遅くならないうちに帰宅してしまいました。

星まつり会場では、太陽に関する講演があったので、たまたまお会いした仙台の木人さんと一緒にチケットを取って聞くことができました。透過波長幅を測る手段として分光について少しだけ講演内で話があり、SHG700にも触れられていました。講演者が直接使ったというよりは、知り合いが手に入れて試してみたとのことなのですが、今後日本でも様々な結果が出てくることでしょう。今後もっと分光に関しては盛り上がってもいいのかと思っていますが、ブースで何人かのショップ関係者に聞いたところの感触はあまり良くなくて、やはり撮影と撮影後の処理の大変さがあまり好まれないようで、ちょっと残念でした。

明日の日曜は京都の「星をもとめて」に参加します。今回はユニテックさんのブースにいる予定ですので、お気軽にお声かけください。


もう小海の星フェスの前のことになってしまいますが、11月8日の皆既日食で撮影した画像処理を進めています。これから数回に分けて、月食関連の記事を書いていきます。

今回はどういう方針かと、リハーサルの様子などです。


今回の方針

今回の皆既月食はかなり気合が入っていました。本番は11月8日ですが、その前の5日の土曜からいろいろ準備開始です。

前回の限りなく皆既に近い月食の時の撮影の反省から、いくつか方針を立てます。



前回のブログを読み直すなどして、今回の皆既月食で達成したい大きな目標を3つ立てました。
  • 一つのカメラで一つの設定だけだと、満月時と皆既時で輝度差がありすぎるので、写す時は毎回露光時間と輝度を変えて複数枚撮影すること。
  • 太陽時で撮影し、後から月の位置をずらすことなく、何枚か重ねて、地球の影を出すこと。
  • 天王星食を動画で撮影すること。
です。

具体的な撮影機材のセットアップは4種類考えます。
  1. 固定三脚の短焦点距離のカメラレンズで広角で、1分ごとに撮影し、月食の初めから終わりまでの全景を。
  2. FS-60CB+ASI294MCで赤道儀の同期レートを太陽時に合わせて、月が画面内で移動していく様子を撮り、あとで影で地球の形を出すもの。
  3. TSA120+ASI294MC Pro(常温)で、タイミング、位置など、被強に応じて自由に撮影するもの。
  4. 天王星食を拡大で撮影するもの。
としました。

これらを実現するために、当日までにリハーサルで特にやっておくことは、
  1. 1分の撮影に2つの設定(露光時間とゲインを自由に変えること)ができるかどうか試すこと。
  2. 満月の時の露光時間とゲインを各機器で確かめておくこと。
としました。


1つのカメラに、2つの設定での撮影テスト

特に1の、一つのカメラで複数の設定を切り替えながら繰り返し撮影というのはこれまでやったことがないので、本当にできるかどうかよくわかっていません。

試したソフトは4種。
  1. FireCapture
  2. NINA
  3. SharpCap
  4. BackYard EOS
実際に試してみて、これらのソフトの中でCMOSカメラと一眼レフカメラ両方に対応しているのは2と3ということがわかりました。さらに試していくと、例えば1分で2回、30秒ごとに設定を変えるようなことを繰り返し撮影できるのも2と3のみのようです。NINAはアドバンスド・シーケンス、SharpCapはシーケンサーというちょっと複雑なスクリプトようなものを使うと、設定を変えながら繰り返し撮影できるようです。

どちらでもよかったのですが、NINAで6Dを繋いで撮影したことがほとんどないことと、ガイドを使う必要はないので、今回はSharpCapを使うことにしました。実はNINAの方が「月の照度」というパラメータがあり、明るさがあるところになると条件を変えるというようなことができるようなのですが、複雑になりすぎるのと、当日は天気が良くないことが予想されたので、SharpCapで十分だったように思います。

SharpCapのシーケンサーはかなり直感的でわかりやすく、CMOSカメラの場合動画で撮影したいので
  1. 「Repeat」の中に
  2. 露光時間設定、ゲイン設定、キャプチャ開始、ウェイト、キャプチャ停止、ウェイト
  3. を露光時間とゲインを変えて2回書き
  4. ウェイトを含めた一回のループの時間を1分間になるように設定し、
  5. トータルの回数を4時間分の240回にする
というような設定になります。部屋の中で試しながら、色々スクリプトを書き換えて、上記の状態に行きつきました。保存ファイルは.ser形式になりますが、一つ一つのファイルサイズが大きくなりすぎないように、5秒間だけ撮影することにしました。それでも1つ800MB程で、4時間で240枚x2(30秒ごとなので1分で2枚)で約500個のファイルができることになり、トータル約400GB!となる予定です。

SharpCapのシーケンサーの設定はCMOSカメラの方が遥かに楽でした。一眼レフカメラの場合は静止画撮影になるので、「Still Mode」にして、キャプチャ開始とかではなく、1静止画をキャプチャとかになります。難しいのは、PCとカメラの接続がUSB2で転送が遅く、しかもそのダウンロード時間がばらつくので、1分間ごとのループにならないことです。そのため、ストップウォッチで計測しながら1分間になるようにウェイトを調整します。これも後から気づいたのですが、NINAのアドバンスド・シーケンスにはループする時間を直接指定できるコマンドがあるようです。次回からはもしかしたらNINAを使うかもしれません。でもNINAって大原則DSOが対象なんですよね。msオーダーの極短時間露光の月とかでもうまくいくのかどうかはきちんとテストする必要があるかと思います。

とにかくこのようにすることで、CMOSカメラも、一眼レフカメラも、30秒ごとに
  • ゲインが低く露光時間が短い満月用の設定
  • 皆既時用のゲインが高く露光時間が長い設定
の2種類を一つのカメラで撮影することができます。頑張れば20秒ごとに3種類の撮影もできますが、撮影後のファイルの数と容量ともに膨大になるので、2つの設定に抑えたほうがよさそうです。


明るさの設定

次に暗くなってからの調整です。こちらは実際には月食前日の月曜に行いました。満月に近い月齢13日のかなり明るい月が出ているので、露光時間とゲインをその月の明るさに合わせます。

問題は皆既時の明るさの設定です。これまでの月食の経験から、露光時間とゲインをかけた明るさの比が100倍(TSA120+ASI294MC)、400倍(FS-60CB+ASI294MC)、1600倍(35mmレンズ+EOS 6D)とかになるように設定しました。明るさの比にかなりばらつきがありますが、TSA120は自由撮影機なのであとから変更することもあり、かなり仮の設定です。

重要なことは、サチると何も情報は残りませんが、暗い分には画像処理で持ち上げることで十分な明るさにすることができると考え、少し暗めの設定にしておきました。この判断は正しかったようで、実際に撮れた画像は最初思ったより暗いと感じたのですが、DSOの時の炙り出しに比べたら全然大したことなく、十分すぎる情報があるので、どの設定も最終的には全く問題がなかったです。ただし、暗いと背景がノイジーになることがあるので、そこは画像処理時に適したレベル補正や、もしくはノイズ処理が必要になる場合がありました。


当日の撮影

前日までの予報では、日本海側の天気はかなり絶望的でした。もうあきらめるか、一時期は休暇を取って太平洋側に行こうかと思っていました。でも当日になり、夕方くらいから晴れそうな予報に変わってきたので、結局自宅で撮影することにしました。

雲が出るなどの、天気によっては連続撮影は意味が無くなってしまうので、様子を見ながらのセットアップになります。最初は天気が悪くても雲間からでも狙えるように、自由撮影のTSA-120とASI294MCをセットしました。途中からどんどん雲も少なくなってきたので、次に広角35mmとフルサイズのEOS 6Dを置き、さらに太陽時に合わせて連続撮影で写すFS-60CB+ASI294MCもセットします。

暗くなりかけてきたところでまずはFS-60CBの方から、ガイド鏡を仮載せしてSharpCapで赤道儀の極軸を取ります。でも雲がまだ北の空にそこそこ残っているので、雲が薄くなっているところを狙います。今回は赤道儀の精度が肝なので、Excellentがでる30秒角を切るくらいまで合わせこみます。

IMG_7046

18時には撮影を開始したかったのですが、最初の頃は雲が多くてかなり戸惑っていたため、実際に撮れた画像の時刻を確認してみると、35mmの方が部分月食開始の18時7分から、FS-60CBの方が部分日食開始が過ぎた18時13分からになってしまいました。

FS-60CBの連続撮影を開始し、ついでにTSA-120の極軸とりと連続撮影も開始したらやっと少し余裕が出て、最後にCGX-LにVISACを載せてUranus-Cを付けたものをセットアプしました。天王星食の拡大撮影用です。でもこれ、後で詳しく書きますが結局失敗でした。

途中、お隣のご夫婦がきて、一緒に月食をみました。撮影の面倒を見ていたのであまりお世話ができなくて申し訳なかったのですが、それでも双眼鏡を出してみてもらったりしました。今回は皆既の時間がかなり長かったので、そこまで焦らずに見ることができたと思います。


撮影結果は次の記事から

次の記事から、セットアップの詳細と結果を順に書いていきます。ファイルを見たら全部で900GB近くあったので、まだ処理をしている最中です。

とりあえず今回の記事では撮影の最中に、iPhoneでSharpCapの画面を撮ったものだけ載せておきます。

IMG_7044
FS-60CBで連続撮影をしている画面です。
欠け始めていて、雲がまだ多いのがわかります。
シーケンサーが走っているのが分かると思います。

IMG_7047
皆既に入って間も無くくらいの時です。
TSA-120での撮影です。右上が明るいです。

IMG_7049
天王星が認識できたところです。TSA-120で拡大して写しています。  

IMG_7053
VISACでの撮影です。天王星が出てくるところです。

最後の写真ですが、月食も終わりの頃でFS-60CBで露光を変えて2種類撮っているところです。
IMG_7055

IMG_7056
最初は画面左下から始まった月の位置も、月食が終わる頃には真ん中のかなり上まで移動してきました。太陽時に合わせてあるので、地球の影が固定されているはずで、その影を映すスクリーンのように月が動いていく様子を見ることができました。

さて、次の記事からは実際に撮影した画像を載せていきます。


 
 
 
 
 
 
 
 


久しぶりのSCA260の記事です。M33のLを撮影したところまで書いたのでしょうか。

 

そのあとに小海の星フェスがあったり、月食があったりで、SCA260のことはほっぽらかしでした。でも何もしていなかったわけではなくて、上のように11月初めにM33のLを撮影した後、星フェスの前にはRGBをそれぞれ撮影していたりしました。その後、ダークやらフラットやらも星フェス前には撮影し終えていたのですが、その後の画像処理に時間がかかってしまい、今の記事になってしまいました。

あと、ちょうこくしつ座のNGC253も撮影してあるのですが、こちらはまだ全然未処理で、まとまったら記事にするつもりです。


RGBの撮影

さてRGBの撮影ですが、記録を見ると11月5日で、もうかなり前のことなので色々思い出さなくてはいけません。撮影は一番出にくいBが天頂の頃にと思い、0時ころまではRGBの順で、0時頃にLを撮り増しして、さらにBGRの順で撮影しようとしました。でもやはり揺れと、さらには途中ピントを変えたことによるピンボケで大量に無駄にし、時間も押して最後のGRは撮影できませんでした。

結局使えたのがR: 11/64枚、G: 24/70枚、B: 58/117枚と、相当な率の低さです。ただし、ピンボケを除くとR: 11/31枚、G: 24/30枚、B: 58/60枚となり、R以外はそれなりに好調です。Rは風が少し強かったのだと思います。それでもGBも実はかなり妥協して残して、今の赤道儀では1分でもどうしてもある程度は揺れてしまうようです。今のところ3分露光だとほぼ全滅なので、露光時間を伸ばすためにもなんとか解決策を考えなくてはいけません。

おっきな赤道儀を購入できれば一発解決なのですが、鏡筒を買ってすぐなのでまだしばらくは予算がありません。ここは今後少し考えます。


画像処理

まずはLを処理します。スタックされた画像を見るともう明らかに分解能が出まくりです。以前撮影したTSA-120よりもかなり分解しています。今回は星像がまだ揺れている段階での結果でこれなので、SCA260のポテンシャルはまだまだありそうです。

次にRGBを個別に処理します。特に今回Rの枚数が極端に少ないので心配だったのですが、ほとんど問題なさそうでした。それよりもBが枚数は多いのですが、おそらく雲のせいかと思いますが、RとGに比べてムラが多いのです。これは後の画像処理でかなり苦労することとなりました。このムラ少し不思議で、M33の腕の後に沿ってある様も見えますし、たまたまなのか四隅のうち左上と左下がまるで周辺減光があるかの様にも見えます。元の個別の画像に行ってもある程度の枚数にその様に見えているので、もしかしたらそのムラが正しくて、ムラのなさそうに見えているのが雲なのかもしれません。

RGB合成後はPCCをかけて、一旦恒星の色を合わせておきます。この時点で先のBのムラで全体にバランスがズレた部分が見えたので、DBEをかけて(ABEではM33自身も補正しようとしてしまい太刀打ちできませんでした)ある程度補正します。


初のLRGB合成

一応RGBとLが用意できたので、今回初のLRGB合成に挑戦しましたが、これがまた結構難しいです。

まず、RGBをストレッチや色バランスまで含めてある程度の画像処理を進めてからLを合成すればいいとのこと。Lもストレッチまである程度進めておきます。

LRGB合成はPixInsightのLRGBCombinationを使いました。問題は、LとRGBのストレッチの度合いです。両方ともオートストレッチでフルに炙り出してから合成すればほとんど問題ないのですが、私はストレッチし切る前にPhotoshopに渡したいので、それだとうまく合成できないのです。具体的にはLが明るいと、色がほとんどなくなりモノクロに近くなります。Lが暗いと、(おそらく出来上がった画像の暗部が切られてしまって)カラーバランスがおかしくなります。

なのでもうLを捨てて、RGBだけで処理を進めようかとも思いましたが、せっかくのLの撮影時間が勿体無いのと、やはりLの方が細部まで出ている様に見えるので、今回は出来上がりを見ながらLのストレッチ具合を何度も調整して合成しました。これ他に何かスマートな方法はないのでしょうか?

いずれにせよ、ここまでできてしまえばあとはいつものように炙り出すだけです。


結果

今回は1枚撮りだけみても、そもそも分解能がかなり出ています。撮影時間は3時間ほどですが、大口径のこともありノイズもあまり大したことがありません。なので伸び伸びと気軽にあぶり出しをすすめることができました。以前ほど青紫に寄せることもしなくてよく、真ん中の飽和も適度に抑える方向で進めました。結果は以下のようになります。

「M33:さんかく座銀河」
Image111_DBE_PCC_ASx2_PCC3_bright
  • 撮影日: L: 2021年11月2日23時51分-11月3日1時6分、11月6日0時58分-2時10分、R: 2021年11月5日23時43分-23時59分、G: 2021年11月6日0時1分-0時43分、B: 2021年11月6日2時21分-3時33分、
  • 撮影場所: 富山県富山市自宅
  • 鏡筒: SHARP STAR製 SCA260(f1300mm)
  • フィルター: Baader RGB
  • 赤道儀: Celestron CGEM II
  • カメラ: ZWO ASI294MM Pro (-10℃)
  • ガイド: f120mmガイド鏡 + ASI120MM mini、PHD2によるマルチスターガイドでディザリング
  • 撮影: NINA、Gain 200、露光時間1分、64枚、R:11枚、G:24枚、B:58枚で総露光時間3時間1分dark: Gain 200、露光時間1分、L:88枚、flat: Gain 200、露光時間0.2秒(L)、0.5秒(RGB)、L:256枚、RGB各:128枚、flatdarkはLRGB共通: Gain 200、露光時間0.2秒、128枚
  • 画像処理: PixInsight、Photoshop CC

今回Hαは撮っていないので、俗にいう赤ポチはそれほど目立っていませんが、多少わかる範囲で既に出ています。あと、銀河の様子をシアンを目立たせる形で入れています。青ポチですかね。

SCA260ですが、はっきり言って非常に満足です。TSA-120と比べても、ここまであからさまに分解能が出るとは思っていませんでした。シンチレーションがいいかというと、間を空けた日での撮影なので特別いいというわけではなく、ごくごく普通の日だと思います。今のところ1分露光だと明らかに揺れていて、かなり妥協して画像を使っているので、もう少し改善する余地があるはずです。今回の撮影ではまだまだSCA260ポテンシャルを引き出せたとは全然言い難いです。それでもここまで出せるのなら、今後大いに期待できそうです。

おまけのAnnotationです。

Image111_DBE_PCC_ASx2_PCC3_bright_Annotated

広角だと縦横の線が歪むのですが、ここまで拡大するとほぼ直角になるようです。


TSA-120との比較

M33に関しては今年の10月と、かなり最近TSA-120で撮影しています。



というか、TSA-120での結果があったので直接比較できるかと思い、今回M33にしたというわけです。

その時の結果を同画角にして改めて示しておきます。
TSA120

今回よりもかなり派手ですね。これも嫌いではありませんが、細部を出したいこともあって今回はかなり控えめにしています。


揺れに対して

最後に、揺れに関して今後の方針を書いておきます。まだ変更になる可能性もあります。

指で赤道儀を弾いた時の様子を見ると、赤緯体の揺れはまだ許容範囲で、赤経体の揺れが目立ちます。よく揺れると言うことは共振周波数が低くなってしまっているということです。共振周波数は慣性モーメントで決まり、慣性モーメントは距離の2乗で効きます。

赤緯軸では鏡筒の前後の真ん中を中心に回るのでまだ慣性モーメントはそこまで大きくありませんが、赤経では鏡筒全体とウェイトも合わせて軸から離れているために、慣性モーメントはかなり大きくなっているので、共振周波数が低くなりよく揺れるのはある意味当たり前の結果です。

今一つ考えているのは、赤経軸から最も離れている鏡筒のトッププレートを外すこと。測ってみるとこれだけで900グラム以上あります。さらにガイド鏡も700グラム程度あり、トッププレートの上に置いていたため、赤経軸から離れています。軸から遠いものを合計1.6kgを外してしまえば、慣性モーメントとしてはかなり得することになります。

例えば、赤経軸から見て下部プレートと上部プレートの位置は距離にして3倍近くあります。仮に2.5倍だとしても、慣性モーメントで考えると上部プレート1枚外すことは下部プレート6枚外すことと同義です。実際にはウェイト位置も内側に来るので、その分も得するはずです。ガイド鏡の代わりはオフアキを使おうと思っているので、軽く、赤経軸からの距離は少し短くなり、有利になるはずです。

今回の画像に、さらにHαを撮り増しして足したいと思っているので、トッププレートを外してから同じ1分という露光時間で撮影して、どれだけ生き残るか比べれば、ある程度効果はわかるのではと思っています。


まとめ

今回のM33は、SCA260としての初作品になります。揺れにかなり悩まされましたが、結果には大満足です。TSA-120からここまで変わるとは、正直思っていませんでした。揺れに対しては、上にアイデアを挙げたようにまだ改善すると思います。赤道儀も欲しくなってきましたが、もう少し足掻いてみます。

SCA260を購入して1ヶ月、徐々にですが使えるようになってきました。また未処理画像も残っています。今回LRGBはなんとかなったので、今後はSAO撮影とかにも挑戦していきたいと思います。


2021年11月19日は、月の97.8%が欠ける限りなく皆既に近いと言われる月食です。前回の2021年5月26日の皆既月食は、ブログ記事にすることがほぼ何もないくらい雲が厚くて全滅でした。さて今回はどうなることやら。


準備

実は私、まだまともな月食の撮影はしたことがありません。星を初めてまだそこまで年数がたっていなくて、初の皆既月食は2018年でした。



同じ2018年にもう一度チャンスがありました。


この2回はいずれも雲に悩まされ、かろうじて雲越しの月を救い上げたか、皆既時には雲で撃沈だったりでした。その他部分月食の機会もありましたが、いずれも天気が悪かったりで、まだまともな撮影を実現できたことはありません。

そんな中、今回は北陸は天気が悪いとの予報だったので、もともとあまり気合は入らず、しかも月食当日の11月19日は平日で仕事もあるのであまりたいした準備もしていませんでした。でも当日になると予報に反して天気が良さそうです。仕事が終わってそれこそ超特急で準備をして、いつもの東が開けている近くの河原に陣取りました。とにかく時間がギリギリでした。

地平線(と言っても遠くの立山連峰が5度くらいの高さまでありますが)までひらけて見える前回の撮影場所にしようとしたのですが、冬の月に近いので出てくる位置が思ったより北に寄っていることに気づきました。そのため少し場所をずらし、月の出から見えるような位置に陣取りました。もう準備の途中ですでに肉眼でぼやけた、それでも既に欠けている月が見え始めているのに気づいてました。山の際の低空に雲があるため、最初は月が霞んでいたので、まだ少しだけ準備に時間をかけることができそうです。


機材1: 広角

まずは急いで、簡単な方の広角撮影の準備をします。EOS 6DとNikkor 50mmオールドレンズで月の出始めから月食終了まで1分ごとの連続撮影です。準備の間にやったことは
  1. 三脚にカメラをセットし、月を拡大してピントのチェック。
  2. 設定はF値2.8、露光1/5秒、ISO400で、かけている部分の模様が見えるくらいに。
  3. 画角のチェック。縦長で最下部に地面が入るように、かつ月が左端に来るように。これで月食終了時に月が右上のはずです。
1分ごとの撮影は、Magic Lanternのインターバル撮影の機能を使っています。バッテリーは長時間っ撮影でも電池切れにならない様に、2系統のUSBから電源を取得できる外部バッテリーを使っています。とりあえず撮影を始めて、月食が終わるまで3時間近く放っておきました。

その中から5分おきのものを抜き出して、比較明合成したものが以下になります。

StarStaX_IMG_6320-IMG_6480_lighten_5min

ちなみに1分ごとのものを全部合わせるとこうなります。

StarStaX_IMG_6320-IMG_6478_lighten

これをタイムラプス映像としてみると、


画像処理までして実感したこの撮影の反省です。1分という時間間隔はそこそこokです。それでもタイプラプスにするなら30秒の方がスムーズかもしれません。一番の問題は月食で欠けている部分に露光を合わせると、月の明るいところは完全に飽和してしまうことです。この写真も途中から露光を切り替えて、明るい部分の模様が見える様にした方が良かったかもしれません。でも長時間撮影なので、一度撮影を始めたら触りたくないんですよね。

そこで次回に向けて考えたのは、撮影は1分おきなので、その間に露光を3種類くらい変えればいいのではないかと思うのです。今回の設定と、2018年の7月の皆既月食のときの設定から考えて
  1. 明るい部分: F4、露光1/200秒、ISO100
  2. 今回の設定と等価F4、露光1/2.5秒、ISO400
  3. 欠けた部分: F4、露光1秒、ISO800
くらいでしょうか?

こういった複数の設定を繰り返すのは、いつも6Dで使うBackYardEOSはちょっと面倒かと思います。なので、NINAかSharpCapのASCOM接続とかになるのでしょうか、いずれ次回の月食までにテストしたいと思います。

あと50mmのもう少しいいレンズが欲しいですが、他にもほしいものがたくさんあり、なかなか優先度が上がりません。


機材2: FC-76での連続撮影

2台目は、FC-76 + ASI294MC + Advanced VXで、もう少し大きな月のタイムラプス映像と、地球の影を炙り出すために、5秒間のワンショットを1分おきに2時間半近く、合計150ショット近く撮影。撮影ソフトはFireCapture、露光時間は25ミリ秒でゲインが220です。5秒で70枚ほどが撮影されます。

画像処理ですが、AutoStakkert!3でスタック、あとはPhotoshopのアクションとLightroomの同期機能を使い、全数同じような処理をします。最大食だけは見やすいように少し目立つ処理をしました。

最大食時から前後20分おきの画像を並べてみました。フィルターなどは入れていません。

all_cut

参考にしたのはこのページです。



この位置に合う様に、月を一直線に並べていくと影がきちんと円を描きます。

FC-76での撮影も問題点は広角の場合と同じで、月食で欠けている部分に明るさを合わせると、月の明るいところは完全に飽和してしまうことです。なのでこちらも2種類か3種類程度に露光を変えるといいのかもしれません。今回、一つのファイルが1分のうち5秒撮影で1.5GB程度です。1時間で90GB、皆既月食の初めから終わりまでの約3時間撮ると270GBです。トータル1TBのディスクなので、1分に15秒までならなんとかぎりぎり撮影できそうです。

あとは追尾をどうするですが、かんたろうさん情報によると極軸の精度さえ出ていれば、追尾レートを太陽時に合わせておけば、比較明合成だけで位置が合うそうです。ただし、数時間にわたり位置がずれない様に極軸を合わせるのもなかなか大変なので、むしろ恒星時に合わせる様にガイド鏡とPHD2を使うのもいいのかもしれません。

太陽に合わせても、恒星に合わせても、いずれにせよ画面の中を走っていくので、ある程度の画角をあらかじめとっておくことが必要になります。

もう一つのやり方は、FireCaptureで形を認識してガイドした方がいいかのかもしれません。でも月食時に形が変わっても可能なのでしょうか?

この問題、位置がきちんと後から計算できるなら、月にある程度合うように撮影してしまえば楽です。もし太陽の見た目の位置と月の見た目の位置が情報としてわかっているなら、そして太陽、地球、月間の距離がわかっているなら、簡単な作図で計算できるのかもしれません。時間があるときにやってみようと思います。

FC-76では2時間半ほど撮影を続けたので、タイムラプス映像を作ることも可能です。でも撮影した全画像を見ると結構ずれてしまっていて、センター合わせがかなり難しいです。手動で合わせるには150枚近いのでさすがに大変。PIPPの位置合わせ機能を試しましたが、明るいところがサチっていると認識がうまくいかないようです。位置認識ソフトを自分で書くかどうか迷ってます。ハフ変換というのを使うと画像から円が認識できるらしいのですが、これでうまくいくのか?まだ処理で悩んでいるので、うまくいったら公開します。


極軸精度と月食撮影時のずれの見積もり

ついでなので、今の極軸の精度で足りるのかどうかザックリ見積もってみます。まず極軸の精度ですがSharpCapで50秒から1分角の精度がでます。誤差もあったりするので1分角としましょう。そうすると簡単な計算から、最大で4分間で1秒角ずれていくことになります。

 

1時間で25秒角、3時間で1分と15秒角ずれるというわけです。月の視直径が30分角くらいなので、これくらいなら大丈夫そうですね。やはり次回は十分な画角をとって太陽時で追尾でしょうか。


機材3: TSA-120による自由撮影

最後のセットアップは、TSA-120 + ASI294MC Pro(常温) + 35フラットナー + UV/IRカットフィルター +
CGEM IIで、画角いっぱいの月を自由な時に撮影するものです。SharpCapで25ミリ秒露光でゲインが220で100枚撮影をワンショットとします。

でもこの撮影画像、なかなか青い成分が出てこなくて、パッと処理しただけではターコイズフリンジらしいものが出てきません。明るい部分と暗い部分の境が出る様にかなり苦労して処理すると、青成分が含まれていることがわかりターコイズフリンジらしいものが見えてきます。

2021-11-19-0903_2_lapl5_ap3030_2_cut

でもかやはり無理をしている気がします。ここまで画像処理を必要とするほど大変なのでしょうか?

ネットに上がっている写真を見ると、ターコイズフリンジが全然出ていないものと、かなりはっきり出ているものに分かれている気がします。はっきり出ているのは簡単に出たものなのでしょうか?それとも私がやったようにかなり苦労したのでしょうか?

ここら辺でかなり迷走しました。この画像処理、月食の本来の色のことなど考えだすとものすごく長くなりそうなので顛末は別の記事で書きたいと思います。


まとめ

ある意味初のまともな月食撮影でした。でもやはり準備をさぼっていたため、いまいちだった感は否めません。今回の反省をもとに、次回はもう少し撮影体制を見直したいと思います。

それとは別に、ターコイズフリンジとタイムラプスでいまだに色々迷っています。既にかなり時間がかかっていますが、もう少し結果が出たらまたメモがてらですが、ブログ記事にしたいと思います。



9月30日、飛騨コスモス天文台で観望会がありました。前半は以下の記事で。


今回の記事はその途中くらいから、観望会が終了した後のアイリス星雲を撮影した話と、残った人でDSOの眼視観望をしたお話です。


撮影準備再開

スタッフさんも解散し、最後のお客さんも帰られた23時前頃から、本格的に撮影の準備に入ります。普段富山での自宅撮影は、日本海側ということもあり北の空が明るいのですが、飛騨まで来ると北の空は十分暗くなります。北の空をスマホで簡易測定するとSQMで21.4程度でした。むしろ南が高山市の明かりで少し明るいくらいです。なので、ここにきた時に撮影は北の空を中心に撮影することがいいのかと思います。

今夜の目的はケフェウス座にあるアイリス星雲です。青く綺麗に輝く、散光星雲の仲間になります。アイリス星雲はNGC7023と言われることもあるらしいのですが、正確にはLBN 487もしくはCaldwell 4というのが正しくて、NGC7023はアイリス星雲の中にある散開星団のことを指すそうです。

機材はTSA120とEOS 6D。ここ最近モノクロ撮影できしたが、少し広角を狙いたいため、フルサイズのカラーとしました。ハロ防止にUV/IRカットフィルターを入れましたが、6Dだと赤外にそこまで感度は無い
はずなので必要なかったかもしれません。それらをいつものCGEM IIに載せます。実は機材の設置のほとんどは観望会が始まる前の夕方に済ませていました。

準備の途中にかんたろうさんが、SharpCapの極軸設定に興味があるというのでお見せすることに。かんたろうさんはPole Masterを使ったことがあるらしくて自分の中で比較していたようですが、SharpCapの極軸調整の方があまりに簡単に思えたらしく、苦笑い状態でした。SharpCapのこの機能は有料版でのみ使えるのですが、年間2000円とお小遣い程度です。カメラも汎用的なCMOSカメラが使えるので、カメラを既に持っている方には安価に精度の良い極軸調整が実現できます。

夕方の時点で撮影用のBackYardEOSでのカメラの認識がうまくいかなくて、観望会中の撮影をあきらめたので、準備はそこからの再開です。接続はBYEを立ち上げ直したらうまくいきました。これは過去にもあった現象です。もう一つは、ユーザー認証がうまくいかなかったことです。認証というのでネットワークが必要と思ったのですが、実際にインターネットは必要なく、なぜかユーザー名だけが必要でした。しかもパスワードはBYEが覚えていてくれたようです。これまでこんなことはなかったので、何かバグっぽい振る舞いです。

その後は比較的順調で、カメラのピント出しと水平出し、アイリス星雲の導入もすぐにうまくいきました。今回はアイリス星雲を右に、ゴースト星雲Sh2-136(vdB 141)を左に入れての構図です。6Dの設定は露光時間300秒、ISO1600、オートガイドもうまくスタートして撮影開始です。この時点で23時20分くらいだったでしょうか。

この時間まで残っていたMちゃんが撮影中のPCの画面を見て、「星が見えていないところがある」と気づきました。分子雲です。画面の時点で分子雲がはっきりと確認できているくらいなので、仕上がりが楽しみなのです。問題は月の出が0時40分で、この時点では時間があまりとれないと思っていました。


かんたろうさんの25cmで眼視体験

撮影開始でちょっと余裕ができたので、隣に設置しているかんたろうさんのOrionの25cmニュートン反射で眼視体験をさせてもらいます。25cmだとかなり大きく、重さは20kg程度とのことです。でも赤道儀がJPなので全然余裕みたいです。

これまでもかんたろうさんには、牛岳などで眼視で色々見せてもらっています。この日もすでに観望会中に二重星団など見せてもらっていましたが、ここからはかなりたくさんのものを見せてもらい、あまり眼視経験のない私にとってはいい経験となりました。見させてもらった順に行きます。
  • まずはリゲルBから。まだリゲルは出てきたばかりで東の低い空にあります。それでも左の揺らめいている光芒の中に時折小さな星を確認することができます。これは後ほど再度確認することになります。
  • 続いてぎょしゃ座の散開星団。多分M36かと。その後、双子座の散開星団M35。これは隣りにNGC2158という小さな散開星団があるそうです。小さい方は私にはかなり淡く見えましたが、そらし目で十分確認することができました。
ここら辺で、Mちゃんのところが帰宅です。もう0時半を過ぎていて暗いかと思います。
  • 次がM42の中のトラペジウム。さすがにE、F星までは見えませんでした。それよりも少し引いたM42の弓なりの形が見事でした。かんたろうさんが、帰ってしまったMちゃんに「見せてあげたかった」としきりに呟いていました。
  • その近くの、うさぎ座クリムゾンスター。赤い星と言われていますが、かなり濃いオレンジに見えました。
  • 燃える木を導入してもらいましたが、かんたろうさんは見えると言っています。私もそらし目を駆使し、かろうじてわかりました。でも多分、かんたろうさんほど見えてないと思えるようになってきました。眼視はおそらく知識が必要です。どこに何があるか、わかっているのといないのでは、(多分)全然見え方が違います。そう言った意味では、近くのアルニタクも見えているので、(さかさまになってはいますが)どこに燃える木があるかもわかっています。それでもかんたろうさんとは見え方に差がある気がします。もしかしたら自分の目は暗いところの感度低いのかもしれません。これまで生きてきて、サングラスを欲しいと思ったことが一度もありません。眩しいのに強いということは、暗いものに対する感度は逆に無いのかもしれないとこのとき思いました。
  • リゲルが昇ってきたので、再度リゲルBに挑戦します。今度は光芒がもっと小さくなり、常にはっきり見えるようになってきました。
うーん、眼視かなり楽しいです。でも問題は大口径になればなるほどはずで、暗い空が必要なこと。かんたろうさんも25cm以上を欲しがっているようです。もう少し撮影を楽しんで、その興味が落ち着いたら次の方向性としてはいいかもしれません。今ちょうど双望会にオンライン参加しながらこのブログを書いていますが、話を聞いていると眼視もものすごく奥が深そうです。


撮影完了までと帰宅

実は私、この日10月2日の月の出は0時40分だと思い込んでいました。でもなかなか月が出てきません。山の下に隠れているのかなと思っていましたが、0時を越えていたので10月3日の月の出を見る必要があったんですね。午前1時48分が月の出とブログを書いてて気付きました。だから月が出てこなかったのですね。時間がないと焦っていたのですが、思いっきり間抜けです。

月と言ってもかなり新月に近く暗いので、結局午前2時半頃まで撮影してました。途中、ガイドが一旦止まってしまっていたようです。午前2時前に気づいて、再度ガイドを動かしたのですが、後でチェックしたら、0時40分くらいから1時50分くらいまで止まっていたようです。星像が流れてしまっていてかなりの枚数を捨てることになってしまいました。撮影が終わってからチェックしてみると、見事にガイド鏡が曇ってしまっていました。

その後片付けをして帰宅は午前3時頃。かんたろうさんは昇ってきたシリウスのBを見ようと頑張ってましたが、流石に厳しいようでした。午前4時頃に自宅に到着。次の日は朝から2度目のワクチンだったので、そのまま片付けもせず寝てしまいました。

夜露が心配だったので、次の日曜日の朝、家を出る前に機材を出して陰干しです。


画像処理と結果

後日、自宅で部屋の白い壁を利用したフラットとフラットダークを撮影。フラットは最近ずっとこれですが、鏡筒に袋などを被せることもなく、明るい壁を直接撮影しているだけで、楽でいいです。これでフラット補正が合わなかったことは意識している限りありません。ただし、壁への光の当たり方で輝度が方向によってかわることがあるので、PixInsightのABEの1次で補正する必要があることがあります。また、天体撮影が終わった後に別の日にフラットが撮影できるので楽でいいのですが、逆に言うとフラット撮影が終わるまではカメラを外したくないので、次の撮影に使えないとかが欠点でしょうか。

バイアスとダークは過去のものを使い回しなので楽なものです。

画像処理はいつものようにPixInsightのWBPPから。途中特に不具合もなく終了。その後、ABEを(主にフラット撮影時の明るさのスロープを取るため)1次で一回、(メカニカルシャッターの影での下部のS/N低下と、画角がずれていった際の特に上下の枚数不足を補正するため)2次で一回かけます。分子雲のモクモクを残したいため、今回はDBEは使いません。PCCも順調。

結局露光時間が高々2時間なので、やはりノイズが大きいのは否めません。適度にツールを駆使し、多少見栄えがいいように調整します。

結果です。

masterLight_RGB_integration_ABE_ABE_PCC_AS3_HT6_ABE_cut1b

  • 撮影日: 2021年10月2日23時21分-10月3日0時31分
  • 撮影場所: 岐阜県飛騨市飛騨コスモス天文台
  • 鏡筒: Takahashi TSA-120 + 35フラットナー
  • フィルター: 2インチUV/IRカットフィルター
  • 赤道儀: Celestron CGEM II
  • カメラ: Canon EOS 6D (HKIR改造)
  • ガイド: f120mmガイド鏡 + ASI120MM mini、PHD2によるマルチスターガイドでディザリング
  • 撮影: BackYard EOS、露光時間300秒x24枚 = 2時間0分
  • 画像処理: PixInsight、Photoshop CC、DeNoise AI

左側のゴースト星雲は一部でバンザイ星雲?とも言われているらしくて、バンザイをした人の姿が確認できます。
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ちょっと解像度不足でわかりにくいのですが、本当は二人います。もう少し露光時間を伸ばしてノイズを減らす必要がありそうです。

あとはいつものAnnotationです。デフォルトの設定だと寂しかったので、今回はLBNなどを追加しました。
masterLight_ABE_ABE_PCC_AS3_HT6_ABE_cut1_ok_annotation



まとめ

今回はほぼ初めての北の空の撮影になります。実際北の空に近いのは、自宅から撮影したN51子持ち銀河くらい。 この時も撮影時間不足か、今見ると解像とてきにあまり満足ではありません。ナローも始めたので、今後自宅でも北の空を撮影していきたいと思います。

あと、眼視体験はかなりインパクトがありました。ちょうど双望会も重なったので、結構な刺激をうけています。最近のLambdaさんの焦点ずらしのアイピースの件も興味があります。手を出すかなあ?ハマるとまた大変だろうなあ?


一晩に2回も機材を出し入れすることになるとは。そして同じネタで2回もブログ記事を書くことになるとは。

前の記事で雨が降りそうで撤収したと書きました。21時頃です。21時20分にはブログを書き終えてました。その後、テレビを見ながらソファーでうたた寝。22時30分過ぎ「もう眠いから今日は寝るか」と思いつつふと外に出てみると、まさに月が顔を出しそうなところでした。

IMG_3369

もう全部片付け終わっていて機材を、急遽再セットアップです。面倒なのと、どれだけこの転機が持つか分からないので、極軸も取らずにとりあえず導入。

IMG_3370

とりあえず1ショット、1000フレーム分撮影しました。

一旦落ち着いてカメラの回転角やピントを再度調整し、思ったより揺れているな(もしかしたら温度順応が不十分で筒内気流だったかも)と思いながら、あと500フレーム撮影して、その場で画像処理。先にTwitterにだけ投稿しておきました。

E_0Tb3QVQAERd4_
  • 月齢14.6日
  • 撮影日: 2021年9月21日23時00分
  • 撮影場所: 富山県富山市自宅
  • 鏡筒: Takahashi TSA-120
  • フィルター: なし 
  • 赤道儀: Celestron CGEM II
  • カメラ:  ZWO ASI294MC Pro(常温で使用)
  • ガイド: なし
  • 撮影: SharpCap、露光時間2ミリ秒x250/500枚  
  • 画像処理: AutoStakkert!3、Registax6


撮影終了後、改めて周りを見渡してみました。

月は南の高いところに昇り、中秋の名月の名にふさわしく周りを明るく照らしています。
誰もいなくて、虫の鳴き声と涼しい風が秋の気配を漂わせます。
月を独り占めした夜の世界の帝王のような、それでいて誰かが入ってきてすぐに壊れてしまいそうな、そんな緊張感のある世界でした。

こんな雰囲気まで記録できるのはまだ記憶だけなのでしょうか。文章はそれを思い出すきっかけになりますね。いつか写真にそんなことまで写しとれるようになれればと思います。月を撮影していると、いつもこんなことを考えてしまいます。

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