ほしぞloveログ

天体観測始めました。

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以前の分光器SHG700を使って測定したPSTのエタロンに引き続いて、いよいよフェニックスのエタロンの透過特性を測定します。



解析時のオフセットの見直し

でもその前に、以前、2025年9月23日に測定したPSTのエタロンの透過特性で少し訂正があります。グラフを再掲載しますが、ピークとピークの間の底の部分の実測とモデルが少しズレています。

fit_result_ok

この理由を以前はロスのせいと述べていましたが、これは勘違いということが判明しました。正しい原因は、測定時にカメラの設定でオフセットをつけていたのに。モデル化するときにそのオフセットをきちんと考慮していなかったことです。撮影時のオフセットはADCのカウントにすると16bit換算で2000に相当します。カメラは12bitのG3M678MでSharpCapでの撮影時にオフセットを2000としたのですが、これは(ちょっと不思議なのですが)16bitで換算された時の値になるようです。その際のエタロンの櫛のピークの高さが40000程度なので、5%ほどのずれになり、無視できない範囲です。上の画像もちょうど5%くらいずれています。オフセットの補正をして、改めてフィットしてやると下の画像のようになります。
fit2_result
底の部分が一致するようになったことがわかります。その際のFWHMは0.71Åとなり、前回より少し小さく出ています。

底の部分を合わせることがなぜ重要かというと、そのずれの分ピーク位置の高さが変わるからです。ピークの高さが変わると、当然半分の高さも変わってしまうので、FWHM(Full Width Half Maximum)も「半値全幅」の名の通り、その幅が変わってしまうからです。底位置での高さの式は

(T/(1+R))^2

で表され、上の鏡の反射率と透過率(1-R=0.28)を入れると(0.28/1.72)^2=0.026となります。この高さも使われることで、より正確なフィッティングになります。

PSTのエタロンについては、別の日の2025年10月5日に測定したデータもあります。それを同様にフィッティングしてグラフ化すると以下のようになりました。
fit_result

フィッティングから求めたFWHMは0.98Åとなりました。上記の0.7Å程度と結構違います。まだ原因がはっきりしたわけではないですが、おそらく測定の際にPSTエタロンに入射する光の当たり具合が違うために起きているようです。パラメータは大きく2種類あると考えられ、
  • 面内のどこに、どれくらいの面積で光が当たるか
  • エタロンに対する光の入射角
が問題になるかと思われます。これらのばらつきは、この時点ではまだ解決していないので、今後の課題となります。


Phoenix

PSTは一旦置いておいて、次にPhoenixのエタロンの特性を測定したいと思います。測定は2026年1月4日に行いましたが、LED光源が暗すぎて櫛の底の部分がノイズに埋もれてしまっていたので、再度2月7日に測定しました。

IMG_2524

Phoenixは鏡筒の先端部にエタロンが付いているため、鏡筒を通した光を分光器SHG700に入れます。エタロンの特性を見たいので、上の写真からBFとERFは外しています。

今回、鏡筒という長い筒を使うことで、エタロンへの入射光の角度を一定に近いものにすることができることがわかりました。PSTの測定の時にはエタロン単体に近い状態で測定していたので、LED光源の角度を変えるとピーク位置が変わるような様子が見えましたが、鏡筒込みのPhoenixの場合は画面を見ている限りはそのようなことはないようです。ただし、光がエタロンの面内のどこに当たるか、どれくらいの面積で当たるかはまだ確定していません。LEDライトは、先端に付いているレンズ位置をスライドさせることにより光束を広げたり収束できるもので、今回はとりあえず光束径がエタロン径に合うようにしましたが、LEDとエタロンの距離を一定に取れていないのでまだ不確定性があるはずです。それでもPSTの時よりはかなり安定に測定できいるのは間違いないでしょう。

更に、前回記事にした波長のキャリブレーションをしました。
Figure_1
フィットされたデータを見てわかりましたが、短い波長側と長い波長側で5%程違います。Hα中心はほぼ計算通りの0.0905Å/pixelですが、短い側は0.0928Å/pixel、長い側は0.0885Å/pixelです。使っているのはHα線のみなのでこのずれは効いてはこないですが、櫛構造のフィッティングで広い範囲を使う場合は多少効いてくるでしょう。

更に、PSTの再計算で検討したのオフセットもきちんと考慮しながら、エタロンの測定データをフィッティングしてみます。
fit_result_ok

フィッティングは実際にはもっと広い範囲で実行し、グラフでは見やすいように表示する範囲を狭めているため、このフィッティングは櫛構造になるというエタロンの原理そのものの特性を含んでいます。

グラフの横軸の範囲は先に示したPSTと同じなので、直接グラフの形で比べることができます。パッと見だけでもピークの幅が明らかに細くなっていて、Phoenixのエタロンの性能が圧倒的に良くなっているのがわかります。

もう少し詳しく見てみます。まず、Phoenixの場合、PSTに比べてピークとピークの間の幅が広がっているのがわかります。FSRと呼ばれる量ですが、今回は10ÅとPSTの1.5倍程度に広がっています。広ければ広いほど、隣のピークの影響が小さくなるので、これは大きな改善といえます。FSRは「2枚の鏡の間の距離」だけで決まる量で、PSTの0.3mm程度から0.2mm程度に狭くなったことがわかります。ただしFSRが大きくなると、同じ反射率の鏡を使った場合にはピークの幅がより大きくなり不利になります。それにも関わらず、細いピーク幅を実現しているということは、より反射率の高い鏡を使い、フィネスの高い、光の折り返し回数の多い高性能なエタロンを作り出しているというわけです。実際、鏡の強度反射率はPSTの70%程度から、Phoenixでは90%と、かなりアグレッシブな鏡になっていることが実測からわかります。高反射率の鏡を使うとエタロンとしての性能は上がりますが、その一方取り扱いは難しくなり、よりフラジャイルなエタロンとなりますので、くれぐれも荒い扱いは避けるべきです。

そしてFWHMは0.37Åと公称値の0.6Å以下を十分余裕を持って満たしています。今回は得られた画像の真ん中の部分のみを使っていて、これはエタロンの中心部のみを見ていることになるので、良すぎる値が出ている可能性があることは明記しておくべきでしょう。また、LED光源の設置にまだ不確定性が残っているので、絶対値としてFWHMについてはまだ検証の余地があるかもしれません。それでもPSTと相対的に比較することは少なくともできるはずで、共に不確定性はあるにしても結果が大きく変わることはなく、ピークの幅だけを比べても半分以下になっていることは、エタロンの性能として圧倒的に進化しているということは言えるのかと思います。

もう少し比較します。BFでHα線の波長以外をどれだけブロックできるかと、太陽光まで考えた時にどれくらい変わるかです。まずは参照として、以前掲載したPSTの場合です。

sum_eta_BF
sum_eta_BF_spe
1枚目のグラフを見るとわかりますが、Hα線の隣の左右のピークが少しですが残ってしまっています。更に2枚目では、それに太陽光のスペクトルを掛けたものを表しています。太陽光のHα線は吸収線ですが、それ以外では連続光で明るくなっているので、漏れ光としては大きくなり、左右のピークの影響は更に大きくなってしまいます。そもそものHα線のすぐ周りの裾の明るくなっているところも拾ってしまっていますし、左右のピークの高さもそれぞれ15%程度、両方あるのでそれの2倍と、無視できる範囲ではありません。

Phoenixの結果を示します。
all

all_sun_multi


1枚目のグラフでは、左右のピークの影響は全くなくなっているのがわかります。BFの透過幅自体はPSTでもPhoenixでも同じくらいです。PhoenixでFSRが広がっているのが効いていることがよくわかります。2枚目にあるように、太陽のスペクトルを掛けると、やはりHα線以外では明るいので少し影響は見えますが、PSTに比べたらほとんど影響がなくなっていることがわかります。あと、ピークの幅が小さいことが、Hα線すぐ裾の明るくなる部分もきちんとカットしてくれていることもわかります。

2枚目が実測の見え方に相当するので、2枚目で比較すべきだと思いますが、差がより明確に出ているのがわかると思います。実際に目で見たり撮影に影響するのは、全波長で積分した光量になるのですが、コントラストが圧倒的に改善することは容易に想像できるのかと思います。


まとめ

エタロン特性も大分まともに測定できるようになってきました。今回で光源の入射角についてはかなり改善できたのかと思います。測定結果を見る限り、Phoenixのエタロンはかなりすごいことがわかりました。ただ、FWHMが0.37Åと公称値の0.6Å以下というのに比べて良すぎる気もするので、もう少し検証は必要なのかと思います。PSTも鏡筒を付けて入射角の依存性を少なくして改めて測定したいと思っていますが、それで大勢が変わるとは思えず、今回の比較でわかるように太陽望遠鏡としてのエタロンの性能の進化にはもう驚くばかりです。さらに、FWHMの測定結果だけでなく、実際に太陽像を見た時の面内の見え方のばらつきも圧倒的に少なくなっていることから、世代が変わったと言っていいくらいの進化と結論づけていいかと思います。

さて、次はHeliostar100Hαの測定結果です。お楽しみに。


3連休の週末記事 (その2) です。前回記事で、真ん中の日曜のことを書いてしまいしたが、今回は初日の土曜のことに戻ります。


3連休初日の朝

土曜は朝から晴れていたので、早速太陽です。先週日曜は久しぶりにC8+PSTでリハビリでしたが、最低限画像が撮れたくらいというレベルなので、今週はもう少し進めました。

撮影は昼からなのでシーイングはもうそこまで良くはないですが、黒点周りを2箇所、プロミネンスを1箇所、それぞれ30秒間隔で1時間弱くらい約120ショット撮影し、その中で一番シーイングのいいものを1枚選んで処理しました。同じ午後撮影でもシーイングのいい時は短時間ですが必ず訪れるので、前回のへっぽこ画像よりははるかにましになります。


撮影結果

左の東の方です。黒点が2つ出ています。この時間帯はあまりシーイングはよくなかったです。
12_24_19_lapl2_ap2544_IP_cut

東端にでてきた新しい黒点です。ちょっとマシなシーイングの時がありました。
13_12_00_lapl3_ap1920_out_cut

東に大きなプロミネンスがいくつかあり、そのうちの一つです。カメラの向きを90度変えて、横手方向にプロミネンスが広がるように撮影しています。この時はもう少しマシなシーイングでした。
13_56_29_l3_ap1607_IP_color_inv_cut

処理はAutoStakkertで、120ショットの動画を全部まとめてバッチ処理してスタックし、120枚の画像にします。できた画像に、ImPPGのバッチ処理をかけて細部出しなどをします。その中でベストのものを選びます。ベスト画像を改めて一からImPPGで細部出して、あとはPixInsightのSolarToolsで処理し、
最後Photoshopで仕上げました。


TSA-120でHα

追加でTSA-120にPSTを取り付けて撮影してみました。もう夕方近くで隣の家の屋根に沈みそうだったので、とりあえずパッと撮っただけです。フラット化もできなかったので、画面内で輝度差がありますが、さすがに分解能は特筆すべきものがあるでしょう。時間があるときにもう少しTSA-120で太陽で遊んでみるのもいいのかもしれません。
15_19_22_lapl2_ap2227_IP

この撮影をした時間帯はまだ15時半前です。もうずいぶん日が短くなって、太陽高度も下がっているのを実感します。


まとめ

C8とPSTのリハビリはまあこれくらいでいいでしょう。TSA-120が意外に楽しそうです。高級機を太陽に使うのはちょっと心配だったのですが、今のところトラブルは無さそうです。今後どんどん活用していきたいと思います。(というので、前回の粒状斑の記事になったというわけです。)



もう11月23日で、次の週末に入ってしまいましたが、やっと先週末の天文活動の最後の16日にやったことの記事になります。週末の一連の記事としては、その5になります。

久しぶりにC8+PSTを再稼働させました。最近ずっと分光で、エタロンでの撮影は6月依頼で疎遠になっていたので、ある意味リハビリです。

まず、PSTの調子が悪くて、特に夏になってエタロンの調整が全く効かなくなりました。調整リングを回転させても全く像が変わらないのです。色々いじっていて、多分ですが原因がわかりました。PSTエタロンは後部にリング状のスポンジが入っていて、調整リングを回転させたときの圧力をスポンジ部で吸収します。でもこのスポンジは低反発素材みたいな感じで、暑くなるとクタクタに柔らかくなるようなタイプみたいです。今年の夏はものすごく暑くなったので、そのスポンジの反発が全く効かなくなってしまったことが原因かと思われます。同様の話はショップの人にも聞いたことがあって、すぽんじたいぷのものはしばらく冷暗所に置いておくと勝手に直るとのことでした。当時の私は原因が変わらずで、分解していろいろ触っていて、結局そのままにしてほったらかしてしまっていました。今回はその再調整からです。最近は寒くなってきたので、予想通りPSTは普通に波長を調整できるようになっていました。実際には、以前夏にエタロン部を分解して、回転リングをゆるゆる状態にしてしまっていたのです、少し締める方向に回して固定してやると、普通に波長移動ができるようになりました。

とりあえずワンショットだけ撮影しました。もう午後になっていたので、シーイングは駄目でボケボケですが、一通りの過程を確認することができました。

12_36_05_lapl2_ap830_IP

で、なんで突然またエタロン撮影に戻ったかというと、一つは太陽分光撮影もある程度やりたいことは出来てきて少し飽きてきたこと。また、前々回の記事で鏡筒をTSA-120にアップグレードしようとしたら新しいカメラが必要で、でもその予算がまだ確保できないのでしばらく動けないからです。で、さらになんで予算がないかというと、ちょっとあるものを注文してしまったからで、それがHαエタロンでの撮影に関係あるからです。連休中には届きそうなので、また記事にします。

やっとこれで今週分の記事に移れます。今週は3連休で、しかも結構天気がいいので、初日から昼は太陽撮影、夜は星雲撮影、合間を縫って画像処理で大忙しです。



11月17日からの週末の5連続の記事です。







前回、SHG700を使ってPSTエタロンの応答を測定しました。



今回は、透過幅6Å程度と言われているBF(Blocking Filter)及び、ERF (Energy Rejection Filter) 相当に普段使っている透過幅7nmのHαフィルターの応答を測定し、PST全体の応答を検証して見ます。


BFの測定

まずはBFです。実はBFについては、前回の測定の時にすでに測定していました。でも中心波長がHα線の6553Åから全然ずれてしまっていて、隣のピーク近くまでいってしまっていたので、測定自身を疑っていました。今回はHα波長と比較しながら測定してみます。

この日の測定もやはり曇りの日です。太陽の散乱光をSHG700を使ってフラウンホーファー線を映し出します。これが波長のキャリブレーションになるので、正確に見えるようにピントや回折格子の回転角を合わせます。特に今回は、Hα中心波長からのズレをすぐに判断したいので、SharpCapの画面上レチクリ機能を利用して、レチクル線に合うように回折格子を調整しました。具体的には下の画面のようになります。上下のちょうど中心の赤線がHαぴったりになるので、これからする測定もすぐに判断できるはずです。
スクリーンショット 2025-10-05 130303

そして一連の測定後に再度フラウンホーファー線を見て、最初の位置からズレていないことを確認すれば、時間的な波長のズレや、測定で間違って回折格子をズラしてしまったとかがないことも担保されるでしょう。

さて、実際のBFを測定してみました。BFは2つ持っているので、前回測定したもの(実はこちらがスペアのもの)と、普段使っているものも(本当は常用しているものはできるだけ崩したくないのですが)新たに外して測定してみました。ところが何と、前回中心から全然ズレていたものが今回かなり中心に来て、普段常用で使っている正しいはずのものが中心波長から全然ズレています。やはりHαの中心にこないんですよね。

流石にこれはおかしいと思い、いろいろ触ってみました。わかったことは入射光に対してものすごい角度依存性があるということです。例えばズレている時の測定状況は以下のような感じ、上下中心の赤い線から中心がズレるどころか、ほとんどBFの透過範囲にさえ入っていません。
スクリーンショット 2025-10-05 131358

今の段階では精度良く角度を調整できるような機構はないので、LEDの角度を手で微調整します。そうすると下の画像のように、あれだけズレていた透過範囲の中心を赤線の上、すなわちHα線の中心に持ってくることができてしまいます。
スクリーンショット 2025-10-05 132001

本来ならこの時点で入射光の角度依存性を丁寧に測定すべきなのですが、そのためには光源と分光器をきちんと固定して、角度を正確にずらすことができるような機構が必要になってきます。今はそのようなものはないのと、ちょっと大変そうなので、もしかしたら次は望遠鏡にSHG700を取り付けて、直接太陽を見て測定するとかにするかもしれません。角度調整はBFは無理ですが、エタロンは波長調整のための回転部を回すと角度が変わるはずなので、その関係を見るのも面白いかと思います。これらは今後の課題としたいと思います。

話を戻して、BFの透過特性をHα線を中心に持って来た状態で測ってみました。Hα線の周りを拡大したものになっています。グラフのオレンジの点線がフラウンフォーファー線から求めたHα線の位置になります。以下のようになります。
BF

まずここからわかることは、全然左右対称でないこと、ピーク位置は裾野に比べて中心には位置していないことです。。

ピーク位置での測定された最大透過光を1として、左右の光量が0.5になるところの波長を読み取り、その差から波長幅を読み取ったものがFWHM (Full WIdth Half Maximum) になります。今回は6.2Å程度でした。これは一般的に言われている6Å程度というのにかなり近い値です。


ERF

次は、ERF代わりに使っている7nmの天体撮影用のHαフィルターです。

本来はPSTには、BFで取りこぼして透過してしまう、短波長側と長波長側 (実際にはBFは短波長には漏れていないみたいなので、主に長波長側のみ) をカットするフィルターがあります。直接中を見ると枠にITF (Induced Transmission Filter) と書かれているものです。ところがこのフィルターの透過範囲が広すぎて(ここCoronado Blockfilter BF15 , Filter zum ObjektivによるとFWHMで100nm程度)、今のSHG700では一度に測定することができません。今の私のシステム(SHG700+G3M678M)だと測定範囲は18nm程度なので、端の方まで測ろうとすると10回くらい移動しなくてはいけません。面倒なことと、今回はHαの基準を真ん中に合わせたのを崩したくないこと、実際にもうERFとしてITFは使っていなくて、代わりに天体撮影用のHαフィルターを使っているので、今回はITFは諦めることにしてHαフィルターの方を測定します。

測定したHαフィルターは、手元にあるサイトロン製の透過幅7nmのアメリカンサイズのものです。サイトロンジャパンオリジナルと謳っていて、日本で作っていて、合成石英ガラスを採用しているとのことです。ただ、シュミットの販売ページを見ると現在は「在庫なし」となっているようです。これをPSTのアイピース側に入れて実際に使っています。

測定結果です。
HA

左右対称にはなっていませんが、BFに比べて大きな透過幅なので大きな問題ではないでしょう。こちらも一番透過する値の半分の所の左右の波長を読んで、その差をとってやると6.45nmと出ました。公称の7nmを満たしています。


PST全体の性能評価

今回測定したBFとERF(の代わり)を、さらにこちらも改めて実測したエタロンも合わせて表示してみます。エタロンもBFもHαフィルターも真ん中がちょうどHα線になるように、それぞれLEDライトの光の入射角を調整しています。なので、ここでは中心波長からどれだけずれているかなどの議論はできません。
all_wide

特に、興味のあるHα周りを拡大してみます。
all_narrow

BFの透過の端のところが左右の隣のエタロンのピークに少しかかっていることがわかります。狭い範囲なので、Hαフィルターはほぼフラットになります。

これ以降は平らなHαフィルターは省きます。まず、エタロンとBFのを合わせた透過率がどれくらいになるのか、その積を見てみましょう。
sum_eta_BF

確かにエタロンの隣のピークのところの透過率が少し盛り上がっていますが、5%以下なので大した問題ではなさそうです。

でもここで、さらに実測した太陽のスペクトルをかけたものを示します。
sum_eta_BF_spe

元々太陽の吸収線であるHαの暗いところを見ようとしているのですが、それ以外の波長のところは全然明るいわけです。エタロンの隣のピークのところもHα線からはるかに離れているので、当然明るいです。

それを考慮するとHαの中心波長位置に比べて、隣のピーク位置でそれぞれ15%程度の「明るさ」のピークになります。両側にあるので、合わせて30%程度になるでしょうか。実際の明るさは波長で積分したものになるので、Hα線周りの裾野も大きく、そこまで影響はないかもしれませんが、太陽スペクトルと一緒に考えると、そもそもそのHα周りの裾野の影響も相当大きいということを認識しておくべきでしょう。これらの影響はコントラスト低下につながります。そのため、
  • よりフィネスが高い、狭帯域のエタロン
  • 鏡の間の距離がより長い、FSRの大きいエタロン
  • 狭帯域のBF
などが求められるわけです。

その一方、コントラストの影響は眼視には直結しますが、撮影では一定の明るさの光はオフセットとして差し引くことができるので、影響は眼視ほど大きくはありません。もちろん、明るいということはショットノイズも大きいということなので、ノイズとしての影響は当然でます。

さらに、これは明るさだけの問題ではなくて、以前調べたように波長ごとに像そのものが大きく変わるので、コントラストの問題というよりは、どの波長を見るかという波長域の問題になります。



以前検討してみたメーカーの違うエタロンのダブルスタックは眼視という観点では主にコントラストに効き、撮影という観点では主に波長域に効くと考えると、いずれにせよかなり効果的なのかと思います。


まとめと今後

エタロン、BF、ERFと、やっとPSTの性能の実測ができました。ただし、入射光の角度依存性があることは分かりましたが、きちんとした検証は今後の課題です。

このPSTの透過曲線に、太陽スペクルを掛け合わせると、さらにいろいろ検討できることもわかりました。これまで考えてきたことが少しづつつながって、どんどん謎解きが進みます。アマチュア天文の醍醐味ですね。

さてとりあえずの次の目標ですが、手持ちのナローバンドフィルターをそれぞれ測定してみたいと思っています。せっかく手に入れた測定手段なので、まだまだ続きます。


何日か前の記事で少しだけ書きましたが、分光器のSHG700を使って、太陽望遠鏡のHαエタロンの性能を表すFWHM(Full Width Half Maximum, 半値全幅)を実測してみました。これは太陽望遠鏡のフィルターがFabry-Perot cavityを利用したものだと知った2017年頃からやってみたかったことで、一時は中古の研究用の分光測定器を買うことを本気で考えていました。長年の夢の一つが叶ったことになります。


測定方法

今回SHG700で測定したものは、
  1. 太陽光の散乱光
  2. エタロンの透過光
の2種類です。ここからFWHMまで持っていきます。

1の散乱光は、SHG700を鏡筒から外して単体にして。部屋の中の(直射日光ではない)白い壁に向けます。白く明るい壁ですが、所詮背景光なので光量は大したことはなくて、露光時間を12.8秒でG3M678Mのゲインを400とし、さらにライブスタックで10枚重ねて、十分フラウンホーファー線の構造が見えるようにしました。

2のエタロンの透過光ですが、最初1と同様に太陽の散乱光を使って測定しようと思いました。でも光量が十分でなく、エタロンが共振しない暗いところは十分に見ることができません。太陽光を直接入れて測定するのがいいのですが、あいにくこの日は曇りです。というか、晴れないので痺れを切らしてこの測定を開始したので、太陽が出てないです。代わりに下の写真のようにLEDの小さなライトを使いました。
G1ghTC8aoAAOVvC

PCの画面にも出ていますが、うまくエタロンのComb (櫛形) 構造が見えるようになりました。

ただし測定は結構難しくて、ライトの光の絞り具合とか、ライトと分光器の間の距離だとか、ライトの位置や角度など、うまく合わせないとなかなか綺麗な線が出ません。とりあえず今回は机の上に適当に置いてやりましたが、できるなら光学定盤などを使い安定した測定にしたいです。特に、エタロンは入射光に角度依存性があって、いつかそれも含めて測定したいので、光の角度をきちんと調整できる機構が欲しくなります。


撮影画像

測定した画像は以下のようになります。

まず1の背景光です。
Capture_00001_WithDisplayStretch
太陽光のスペクトルが綺麗に出ているので、この画像から波長のキャリブレーションをすることができそうです。でもこれだけだと、Hα線は目立つのでまだしも、どの線がどの波長なのかよくわかりません。JSol'Exの「Spectrum browser」で見る参照スペクトルと比べてみても、なんか違うように見えます。

下の画像を見るとわかると思いますが、左が今回撮った散乱光、真ん中の細長いSharpCapの画像が以前撮った太陽を直接見たもの、右がJSol'Exの参照画面です。
Fraun_comp_cut

左と真ん中は同じような構造になっているので、まずは背景光がきちんと取れていると判断します。でも右の参照画面の線はかなり実測と違うことがわかります。なので下の画像のように、Hα線と目立って一致しているもう一本の線の波長を調べて、それを基準として他は波長が線形に変化していると仮定して、縦方向の波長を1次の直線でフィットすることにしました。

wavelength_select_cut


2のエタロンですが、本当は透過「率」を知りたいのですが、これは結構難しいとわかりました。まず、エタロンがある場合とない場合の画像を2枚撮影します。まずはエタロンありの画像をLEDライトの位置や角度を変えうまく撮れる状況を作ります。
Capture_00001

その撮影したままの状態をキープしながら、エタロンだけを動かして取り除きます。こうすることで同じ状況で基準光を撮影することができます。
Capture_00001

基準光は一見一定に見えますが、画像の上から下までで緩やかに暗くなっていくことがわかりました。エタロンの透過光のピーク位置もやはり同様に緩やかに暗くなっていくので、基準光で割ることにより、エタロンの透過光のピーク位置が平らに近くなります。

それでも、エタロンがないときにはSHG700の入射口径全体から光が入り、エタロンがあるときにはエタロン前後のレンズ径などに制限された光しか入らないので、透過率が低く出過ぎてしまいます。そのため透過「率」とすることは諦めて、ピーク位置を1とするようように規格化しました。

波長は画像の縦方向で変化しますが、スリットに長さがあるために画像の横方向にもフラウンホーファー線は広がっていて、しかも線が直線にはならずに曲線になっています。(どういった仕組みで曲線になるのか、どう調整したら直線にできるのかの方法は私はまだわかっていないので、こちらもいずれ解決したいです。おそらくスリット位置と回折格子の相対位置で決まるのではと推測しています。)しかも、エタロンの透過光の明るいところと暗いところの幅は横位置によって多少変わります。

今回は1の画像も2の画像も、真ん中あたりの斜めになっていない場所の10ライン程度の縦線を抜き出して、横方向に平均値をとりました。エタロンについては真ん中ら辺が明るい線が一番細いようなので、こちらも真ん中ら辺を選ぶのが一番良さそうです。

背景光のフラウンホーファー線を見ている限り、SHG700の回折格子を触りさえしなければ、撮影ごとの波長のズレのようなものはなさそうなこともわかりました。


波長のキャリブレーション

1の背景光画像のフラウンホーファー線では、波長がリニアに変化すると仮定して、上で決めた基準の2点Hαの6562.81Åと6643.63Åを元に1次の直線でフィットします。この時のあるところの数値と次の数値との差が、1ピクセルあたりに変化する波長となり、今回は0.089Å/pixelとなりました。しかしながら、SIMSPEC SHGで求めた0.091Å/pixelや普段撮影動画をJSol'Exで再構築した際にはこれまで0.091Å/pixelと出ていて、2%ほど結果が異なることがわかりました。

この違いの原因は2点だけを基準として波長が1次的に変化すると仮定したことかと思いますが、今のところはっきりとした原因は不明です。まあ今回は基準点のHα周りのFWHMを求めるのが最大の目的で、そこまで影響はないはずなので、とりあえずこのズレは無視することにします。


エタロンフィッティング

エタロンの透過光ですが、透過光を数値化したものを、基準光で割ったものをグラフにします。
etalon_ok

ここからHα周りのピークを抜き出して、フィッティングします。ピークの高さは右に行くに従って上がっていくようですが、基準光でのノーマライズがうまくいっていないのか、それともこうなるのが正しいのかよくわかりませんでした。Hα周りだけに絞ってしまえば、局所的にはほぼ同じ高さとしてしまっていいでしょう。

フィッティングはFitykというソフトでローレンツ関数やVoigtを使う例がいくつか示されているので、私も同様に試してみましたが、いくつか問題がありそうです。

下の画像は実際にFitykでフィットしてみたものです。
Voigt_cut

一つ目の問題は、これらの関数は基本的にピークの両側は0になることを想定していることです。ところが、エタロンの応答を表す関数は繰り返し構造になるため、ピークとピークの間の透過率が0になりません。ピークとピークの真ん中のちょうど反共振の位置では、エタロンの透過率は、同じ特性の鏡を2枚使うと仮定して、鏡の強度反射率Rと強度透過率Tを使って

(T/(1+R))^2

のような形に書けます。例えばここで、強度透過率T=0.3、強度反射率R=0.7とすると、ピークの真ん中でも(0.3/1.7)^2=0.0311と、3%ほど光を通してしまいます。

Fitykでは、別途定数を用いてフィッティングさせるような手法が取られているようですが、これだと個別の赤い2本の線のうち曲線の方を見てもらえばわかりますが、明らかに実測のピークより細い線でフィッティングされてしまっています。これは結果として、FWHMが小さく出過ぎてしまい、実際よりも性能がいいという間違った結果を出してしまいます。

今回の上の結果では、グラフ右にあるFWHMの数値を見ると、0.65ÅとPSTとしてはにわかに信じられないくらいのいい値が出てしまっています。例えばこのページでも同様の間違いをしていて、HeliostarのエタロンのFWHMがなんと0.3Åと、これも良すぎる値を出してしまっています。ピークの高さの半分のところの幅を見るだけでも、少なくとも0.4Åはあることがパッと見るだけでわかるので、明らかな間違いです。このグラフが出た時に何でこんな良すぎる値になるのかおかしいと思ったのですが、実際に自分でFitykを使ってみることでなぜこんな間違いに陥ったのかがよくわかりました。

二つ目の問題点は、ローレンツ関数やVoigt関数だと、一つのピークのみしかフィットすることができないことです。原理的に、エタロンの透過光の応答のような周期的なものを表すことはできません。このため、周期構造から求めることができる、FSR(Free Spectral Range)をきちんとフィッティングして求めることができません。

FSRはFinesse、FWHMとともにとても重要なパラメーターで、

Finesse = FSR / FWHM

というとてもシンプルな関係があります。Finesseはπで割って2をかけると、エタロン内での光の折り返し回数をすぐに計算できる、非常に重要な指標となります。FSRはエタロンの2枚の鏡の間の距離と反比例関係にあるので、FSRがわかるとエタロン間の距離を直接求めることができます。このように、複数のピークを含めてフィッティングしてFSRを求めることはかなり意義があると言えます。

では、なぜこれまであまり周期的な関数でフィットされてこなかったのでしょうか?これは推測なんですが、単に関数が結構複雑になるためにあまり挑戦してこなかっただけなのかと思います。少なくともFItykのような既存のソフトでフィットするのはかなり大変になりそうです。

今回は周期的な関数を書き下して、自分でpythonでコードを書いて、いくつかのピークをまとめてフィッティングしてみました。結果は以下のようになります。
fit_result_ok

フィッティング曲線がきちんと周期的に出ること、ピークとピークの間が0にならないことがわかるかと思います。ただし、ピークとピークの間の暗い部分が実測とフィッティング曲線でずれてしまっています。これは鏡のロスを考えないで、R+T=1という理想的な鏡を考えてしまったことに由来します。ロスを考えるとさらに複雑になるので、今回は諦めました。それでもFWHMの推定は、ピークの高さをきちんと0を基準に考えているので現実により近い値になっているはずです。


パラメータなど

実際の計算手順としては、フィッティングパラメータとして使った鏡の反射率と透過率、鏡間の距離がまずわかります。鏡の反射率からFinesseが計算でき、鏡間の距離からFSRがけいさんできます。FinesseとFSRがわかると、FWHMがわかるというわけです。下に少しだけ式を書いておきました。

代表的なパラメータはグラフの中に書き込んでおきましたが、今回分かったエタロンの特性を表すパラメーターは以下の通りです。
  • 鏡の振幅反射率、振幅透過率: r, t
  • 鏡の強度反射率、強度透過率: R = r^2 = 0.70, T = t^2 = 0.30
  • キャビティーの鋭さを表すFinesse = π r/(1-R) = 8.75
  • エタロンを構成する鏡と鏡の間の距離 = 0.313 [mm]
  • 周期の幅を表すFSR (Free Spectrul Range) = 6.88 [Å]
  • エタロンの性能を表すFWHM = FSR/Finesse=0.787 [Å]
  • 光の折り返し回数: Finesse *2/π = 5.6 [回 (片道)]
目的のFWHMは0.787 [Å] と出ましたが、公称1 [Å] 以下という値と比べてもそこそこ信頼性のある数字になったのかと思います。FWHMだけでなく、他の重要なパラメータもかなりの精度でわかり、PSTエタロンの特性がかなり特定できたと言っていいかと思います。長年の疑問にやっと答えが出たと言えそうで、かなり嬉しいです。
逆に、今回の測定でまだわからないことは
  • 光の入射角度の依存性
  • Hαからのピークの中心波長のずれ (入射光の角度と、エタロン回転調整をいじっていないため)
  • 個々の鏡の反射率と透過率がどれくらい違うか (2枚の鏡の反射率と透過率を同じと仮定したため)
  • 鏡のロス
などになります。今後の課題としたいと思います。


まとめと今後

手に入れたSHG700で、手持ちのPSTエタロンの透過特性を、うまく測定することができました。角度依存性などの課題はまだ残されていますが、目的のFWHMが測定でき、これまでわからなかった鏡の反射率、ミラー間の距離やFSR、フィネスまで確定できたのはかなり満足感が高いです。

今後やりたいことが、エタロン以外にも太陽望遠鏡でに必須の、BFの測定とかERFの測定です。他にも、ナローバンドフィルターやワンショットナローバンドフィルターも、メーカーが謳っている半値幅が本当に出ているのか、実測してみたいと思っています。




週末にやっと撮影できましたが、まだ手持ちの画像でもう少し確かめたいことがあります。今回は、高波長分解能の分光器でエタロンで見たHα画像を再現してみます。


太陽分光撮影でHαエタロンのFWHMの差を再現してみる

今回の比較は、SHG700を手に入れる前からやってみたいと思っていたことの一つです。エタロンの透過波長幅(FWHM)の性能差によってどう見え方が変わるのかを、きちんと比較してみたかったのです。これは、今後新たなエタロンを選ぶ際の、重要な指標になっていくのかと考えています。

これまでにHα線での太陽はPSTが2台と、今年に入ってPhoenixを少しの期間触って撮影してきました。PSTのエタロンの波長透過特性はFWHM (Full Width Half Maxmum、半値全幅)で1Å、Phoenixのエタロンは0.6Å以下というのが公称値です。さらに、CP+での講演の時にも比較したのですが、京都大学飛騨天文台SMARTはFWHM0.25ÅでHαの中心波長と+/-0.5Åずらして撮影した画像を公開してくれています。

手元にあるPSTエタロンの透過特性はいずれ直接測ってみたいのですが、SHG700で撮影したもっと細かい波長分解の画像がすでにあるので、これだけでも何かできそうです。そこで今回は、これまで撮影したPSTの全景画像とPhoenixの画像、飛騨天文台SMARTの画像を、それらのFWHMの値の情報と共に、今回のSHG700で撮影した画像を同波長幅相当にした画像を生成し比較してみたいと思います。

見たいのは、波長透過幅によってどんな画像になるかの比較検証です。これまで撮影したもののうち、中心波長を比較してみます。波長分解能がいい順です。


1. SMART

SMART: 2025/1/18 (Phonenixで撮影したものと同じ日)のHαで波長幅は0.25Åです。

ポイントは、波長分解能が市販エタロンよりも数倍いいこと、そのため太陽表面に淡い白いモヤモヤした筋のようなものが随所に見えていることです。

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これをSHG700で再現してみます。SHG700の波長分解能は分光された光を撮影する際の1ピクセル幅で考えて0.091Åとします。中心波長とその前後の画像で上の画像に迫れるかを見ます。下は中心画像に+/-1枚の計3枚を平均化したものです。単純計算で、波長幅は3枚の間の2つ分と、両端の画像の半分が2枚分なので、合計で分光撮影の3ピクセル分と考え、0.091 x 3 = 0.273Åになります。上の画像と比べると、白いモヤモヤも含めて、そこそこ再現できているのではないでしょうか?

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少し条件だけ書いておきます。SMARTにアップロードされている画像は、jpgファイルの場合は輝度などの多少の画像処理はされているようです。でも解像度が低く細部比較にあまり適していないと思われたので、fitsファイルを落として自分で画像処理をしました。fitsファイルはRAWに近いようで、ストレッチも含めて何も画像処理をしていないようでした。ただしノイズがかなり多かったので、ノイズ処理が影響して空間分解能が犠牲になってしまっったかもしれません。また、画像処理の度合いによってはコントラストを変えることなどで見栄えが大幅に変わることもあるのですが、SHG700の画像をJSol'Exでっ標準的に処理したものに合わせました。画像処理の影響は少なくないのですが、面白いのは表面の淡い白いモヤモヤだけは出方が画像処理とはかなり独立に波長に依存しているようなので、この見え方が似ているということは、そこそこうまく再現できているのではと考えています。


2. Phoenix

次はPhoenixで1月18日に撮影した画像です。Hαで波長幅0.6Å以下というのが公称値です。

SMART画像に比べて、太陽表面の白い淡いモヤモヤは明らかに薄くなっています。これは明らかに波長透過幅の違いによるものと考えていいでしょう。そうは言っても、市販エタロンでHαでこの白いモヤモヤが出ること自体がすごいことなのかと思います。
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上の画像をSHG700での再現してみます。Hα中心画像に+/-3枚の計7枚を平均化したものです。波長幅は7枚の間の6つ分と、両端の画像の半分が2枚分なので、合計で分光撮影の7ピクセル分と考え、0.091 x 7 = 0.637Åになります。分光の1枚画像なのと、JSol'Ex標準のストレッチだけでその後の加工はしていないので、空間分解能はPhoenixの方が上になりますが、白いモヤモヤはそこそこ再現できているのかと思います。
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ここまでの結果を見るに、実写の場合にはエタロンの透過波長幅によって表面の白いモヤモヤの見え方には違いがあって、分光でシミュレーション的に透過波長幅を再現した時にも同様の傾向が見られるので、やはりこの白いモヤモヤの出方が透過波長幅に影響を受けていることは明らかであると言えそうです。言い換えると、この白いモヤモヤの出方を見ることで、エタロンの性能をかなり直感的に判断することができるのかもしれません。


PST

さらに透過波長幅が広いPSTで2025年5月18日に撮影した画像です。Hαで波長幅1Åが公称値ですが、エタロンの個体差でかなり見え方が違うと言われているので、この値がどこまで正しいかは別途検証する必要があるかと思います。
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再現のためのSHG700の画像に合わせて、リンク先のページの実写PST画像から輝度などを少しいじっていることに注意です。

パッと見でPSTが、SMARTやPhoenixとは見え方が大きく違うのがわかるかと思います。白いモヤモヤは全く見えなくなり、代わりに表面の模様というか、ガタガタが多くなり、SMARTやPhoenixでのちょっとのっぺりとした印象とは変わって、いい意味で賑やかになっている気がします。これらの違いは画像処理で差が埋まるレベルではなく、エタロンの透過波長幅の影響が大きく出ているのかと思われます。

また、同一画像内の違う場所でエタロンの性能の違いが出てしまってるようです。中心部分は明るいためFWHMが大きくなってしまい性能が悪く見えてしまっているようで、模様もより大きな構造になっていて、荒々しく見えます。

これをSHG700で再現してみます。中心画像に+/-5枚の計11枚を平均化したものです。波長幅は11枚の間の10個分と、両端の画像の半分が2枚分なので、合計で分光撮影の11ピクセル分と考え、0.091 x 11 = 1.001Åになります。白いモヤモヤはほぼ何も見えず、ガタガタの模様もよく再現されていると思います。その一方、SHG700では画面内の波長透過幅の差はないので、PSTでの上の実写のような中心だけが明るくなるような画像は再現できません。

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SHG700単体での中心波長からのズレの比較

最後に、SHG700で撮影した中心波長のみの、0.091Åの透過波長幅の画像を載せておきます。
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SMART画像ともやはり違いがあります。これはHα吸収線の底の暗い部分で見ることができることが効いていると思われ、白いモヤモヤは太陽面全体に存在しますし、ダークフィラメントがより色濃く出ることがわかります。ダークフィラメントのコントラストについては、撮影では画像処理で誤魔化すことはできますが、眼視ではこのエタロンの性能差はより明確な違いとなって見えるのかと思います。よく「半値幅の小さいエタロンは模様がよりハッキリ見える」とかというのは、このダークフィラメントだけとっても正しいのかと思います。

透過半値幅が小さいと淡いダークフィラメントまでよりコントラストよく見えるようになるので、1年ほど前の太陽活動が最も活発だった頃には、分光撮影でダークフィラメントが太陽全体をぶった斬っているような画像を得ることができていたようです。SHG700をもう少し早く始めたかったです。これは次回の太陽最活動期の10年後くらいの目標でしょうか。


比較のまとめ

3つの比較で分かったことをまとめます。
  • SMARTの画像は太陽表面内に白い淡いモヤモヤが一番多いです。
  • PhoenixでもSMARTほどではないですが、白いモヤが多少見えています。透過波長幅が狭くなるほどこの白いモヤが見えてくるので、このモヤがどれくらい出るのかがエタロンの性能の指標の一つになるとも言えます。
  • 白いモヤモヤが一体何なのか?少なくとも私はまだ特定できていません。
  • 日付が違うので、細かい違いについては大したことは言えませんが、それを差し引いてもPSTの見え方は全然違っています。まず、白いモヤは全く見えません。波長透過幅が大きいからだと思われます。その代わりにもっと粗いガタガタの構造の模様が全面に見えます。
  • PSTと比べると、SMARTもPhoenixも、ガタガタが全然見えなくて、むしろ印象としてはのっぺりしています。
  • 以前は、PSTで見えているようなガタガタが見えるのがいいと思っていました。これはむしろ中心波長から少しズレたところに出てくる模様のようです。ただ、このガタガタがあった方が賑やかで逆に見栄え良く見えるのではという印象も捨てることができません。実際、JSol’Exのスクリプトを見ていると、あえて中心波長回りの複数枚を平均化している例があります。あまりに狭すぎる透過波長幅だと見栄えがいまいちというのは、太陽分光関連の方たちの共通の認識なのかもしれません。
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さらに、SHG700の中心画像と比べると
  • SHG700単体の透過波長幅が0.091ÅとSMARTに比べても2.5分の1程度まで行くので、白いモヤモヤはより表れるし、ダークフィラメントがよりハッキリ見える。

なぜこんな比較をしてみたか?

そもそもなぜこんなことをしたかですが、SHG700を手に入れる前に、次の太陽機材をPhoenixとSHG700のどちらにするか迷っていました。Phoenixはすでに触った経験もあり様子もわかっていたので、最初は単純にPhoenixにしようと思っていました。Phoenixのエタロンは、透過波長幅においても、面内の均一性においても、製品のばらつきにおいても、世代が完全に代わったと思わせるほど素晴らしいものになっています。

でもここで一つ疑問がありました。太陽光のHα周りのスペクトルをみると吸収線になっていて、Hαの中心波長のところが一番暗くなっています。周りの波長の明るさに邪魔されないために、Hα吸収線の底にある太陽そのものの模様が見えると解釈することができます。もしこの解釈が正しいなら、周りの邪魔な明るさだけが問題なので、例えば光害で埋もれる淡い星雲を炙り出すように、DC的な光のオフセットを除いてやれば太陽本来の模様がもっと見えてくるはずです。明るさだけの問題なら、本当にそれだけのことで、PSLエタロンの画面の不均一性の問題は残りますが、透過波長幅の問題はもしかしたらなんとかなるのではという淡い期待がありました。

でも今回の比較結果から見てみると、透過波長幅が大きくなると、もっと言い換えると、Hαの中心波長から0.5Åも上下にズレてしまうと、明るさの変化だけでは全く説明できないレベルで見かけの模様が変わってしまうことがわかりました。このことを考えると、Hα吸収線の底でHαで別途輝線として輝いている別の明るさがあると考えたほうが自然です。

実はこのことは、以前太陽のジェットを見た際に調べた時に答えは出ていて、その時の言葉では「採光面からの水素に照らされて吸収と放射を繰り返し、Hαで輝く輝線となる」と書いています。要するに、Hαで見える模様は、吸収線であり輝線である結果出てくるものということがわかります。輝線でもあると考えると、Hαの中心線からズレることによって見える模様が変わってくることは納得できます。今回はそれを改めて確かめてみたということになります。

以上のことから、結論としてはエタロンの透過波長幅が狭いもので見えてくる輝線の模様は、透過波長幅の広いものでは決して見ることができないと言えるのかと思います。性能のいいエタロンは何者にも代え難いということです。

でもですね、まだ少し疑問が残っているのです。C8とPSTエタロンでものすごくシーイングがいい時に見た黒点周りなどの模様と、シーイングが悪い時に見た黒点周りの模様は、前者がまるで透過波長幅の狭いエタロンで見たような感じで、後者はまるで透過波長幅の悪いエタロンで見たような模様に酷似しています。シーシングの良さ悪さでボケ具合が変わるのだけで説明するのはちょっと無理があるくらいの違いになります。この違いを、いまだにうまく説明することができません。

もうちょっとだけあがいてみます。上のPST相当のSHG700の再現画像を、画像処理だけで無理やり明るいところを抑えて、さらに大きな構造を抑えることで、どこまで中心波長近辺の画像に迫れるかやってみました。等価透過波長幅は同じ1.001ÅでPST相当の広いままです。

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どうでしょうか?大分印象が変わったかと思います。白い淡いところも少し見えるようになるし、太陽表面も似たような感じにすることはできます。ただしこれ、PSTの実撮影画像でやろうとしたら全然できませんでした。PSTの実写画像ではこのようになってしまいます。
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理由は、画面内でエタロンの不均一性が出てしまっていて、特に中心が明るすぎるなど、画面内輝度差が目立ってしまい、うまくいかないのです。フラット化とかまでやってみましたが、それでもいまいちでした。なのでFWHMだけならなんとか誤魔化せるが、画像内の透過波長の平坦性は如何ともしがたく、むしろそちらの方が重要な気がしています。

でもまあいずれにせよ、「良いエタロンは良い」というのは代え難い事実っぽいので、次はPhoenixに走るのかもしれません。


まとめ

今回はSHG700で分光撮影したHα周りの画像を元に、これまで触ったエタロンで得た画像などで、いろいろ比較検討してみました。波長分解能が細かいと、それより粗い波長分解能で撮影した画像はそこそこ再現できるようです。今後のエタロン選択の指標になりそうです。

撮影用途に限るならまだしばらくは手持ちのPSTで誤魔化して使えないかなとも思ってましたが、やはりいいエタロンが欲しくなってしまいました。ただ、シーイングのいい時のC8のPST画像はそこまで不満ではないので、もう少し様子見です。だって新しいエタロンを手に入れたら、どうせすぐに改造の餌食になることは目に見えてるからです。

次回は、週末に撮影した画像を処理してみます。

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