ほしぞloveログ

天体観測始めました。

タグ:M81

前回の記事では、ノイズだけ考えたら露光時間を短くしてもいいという結論でしたが、一つ重要なことを言い忘れてました。今回の記事につながることなのですが、露光時間を短くしすぎると、天体自身が暗くなりすぎる場合があります。これまで考えてきたノイズNに対して、目的の天体である信号Sが小さすぎて、S/N(Signal to Noise ratio, SN比)が悪くなってしまうということです。

露光時間を伸ばしたり縮めたりすることで、ADC(Analog to Digital Converter)のダイナミックレンジ内に、適した大きさの信号を入れるということです。露光時間を伸ばすと、ダークノイズもスカイノイズも大きくなるので、単に暗いからといって闇雲に長くすればいいというわけでもないです。

露光時間もそうですが、カメラのゲイン(一眼レフカメラならISO)も同じような状況で、こちらも信号をADCのダイナミックレンジ内に持ってくるという重要な役割があります。同時に、ゲインを変えると読み出しノイズの効きも変わってくるので、こちらも単純な話ではありません。




ゲインの調整

まず簡単なゲインの方から片付けましょう。最近のCMOSカメラのゲインの選択については、天体写真撮影の場合、ほぼ2択のみだと考えています。具体的には、ゲイン0か、HCG (High Conversion Gain)モードが起動するところです。HCGが起動するゲインはカメラによりますが、典型的にはゲイン100とか120とかです。少しピックアップしてみると
  • ZWO ASI294MC, MC Pro, MM Pro (IMX294): gain 120
  • Player One Artemis-C Pro (IMX294): gain 120 
  • ZWO ASI533 MC Pro, MM Pro (IMX533): gain 100
  • Player One Saturn-C (IMX533): gain ~125
  • ZWO ASI2600 MC Pro, MM Pro (IMX571): gain ~100
  • Player One Poseidon-C Pro, M Pro (IMX571): gain ~120
  • ZWO ASI2400 MC Pro (IMX410): gain ~140
と、100から140、典型的には120ですかね。センサーが同じでもHCG発動ゲインはメーカーによって違うので、これはセンサー自身で決まるのではなく、カメラメーカーの組み込みの際のアナログ回路のゲイン調整で決まるものかと推測されます。

どのカメラも、グラフを見てもらうとわかりますが、ゲインが0かHCGのところでダイナミックレンジが大きいです。このダイナミックレンジが大きいというのが有利なところになるので、ゲインは2択となるわけです。明るい対象ならゲイン0、暗い対象ならHCGということです。

ラッキーイメージや電視観望など、露光時間が極端に短く、ダイナミックレンジを犠牲にしても明るく撮りたい場合は、ゲインをもっと上げて信号をADCの適正範囲内に持ってくるということは、戦略として正しいかと思います。私はラッキーイメージはあまりやりませんが、電視観望の場合はゲインを400とかそれ以上にします。

さて、典型的なHCGのゲイン120ですが、ゲイン0とどれくらい明るさが違うのでしょうか?ゲインの単位は0.1dBなので、12dBの違いがあることになります。では12dBとはどれくらいの倍率なのでしょうか?

定義式は20 x log10(gain)なので、0dBで1倍、20dBで10倍、40dBで100倍、−20dBで0.1倍、-40dBで0.01倍、6dBで2倍、−6dbで1/2倍、10dBで約3倍、−10dbで約1/3倍とかなるので、12dbだと6+6dBで、2x2=4倍になります。実測でもほぼ4倍になります。そう、高々4倍なのですよね。

高々これくらいの違いなので、淡い天体写真の場合にはゲインを上げて明るく撮ったほうが有利なので、実質的にはゲインはHCGのところ一択だと思っていて、私はゲイン0dBで撮影したことは未だありません。

というわけで、ゲインはHCGのところで固定としましょう。これ以降の明るさ調整は、露光時間のみで行うことにするとします。


露光時間の調整

ゲインが固定なら、露光時間は目標天体が十分な明るさになるように設定すればいいだけです。でも、この「十分な明るさ」というのが、ものすごく難しいのです。

ある露光時間で撮影した天体の明るさと、前回までで求めたノイズからS/Nが決まります。当然S/Nは高いほどいいので、露光時間を伸ばせば伸ばすほどS/Nは上がり、星雲などの淡い天体はよく見えるでしょう。でも撮影しているのは星雲とかの淡い天体ばかりではなく、恒星など狭い範囲ですが非常に明るくなる天体も含まれています。露光時間を長くすると、当然このような明るい恒星などは飽和してしまいます。そのため、露光時間に上限ができます。それでも画角内に3等星や2等星以上の明るい恒星があると、飽和を避けて淡い天体を写すことは難しくなってきて、その場合は飽和を許容し、明るい恒星のためにあえて露光時間を短くして暗くして別撮りし、HDR(High Dynamic Range)合成などという手を取ることもあり得ます。

露光時間の上限は飽和のみで決まるというわけではなく、赤道儀などの性能でも決まり、星像が流れない範囲で露光時間の上限が決まるということもあるでしょう。突発的な車のライトの映り込みなどもあり得ることを考えると、露光時間を例えば1時間とすることはあまり現実的ではありません。


S/Nの見積もりかた

これまでの検証で、具体例として開田高原で撮影したM81の1枚画像では、背景光の部分は14.9 [e]くらいのノイズがあって、その中でスカイノイズが支配的だということがわかっています。

でも1枚撮りの画像を見ているだけだと、どこが分子雲でどこが背景なのか、なかなかわからないと思います。例え分子雲がある場所だとしても、この1枚画像だけでは分子雲としての信号に相当するSが小さいため、S/Nが相当低くなってしまっていて、おそらく1以下とかになっているということです。

ではここでクイズです。そもそも、S/Nが「1」ということはどういうことなのでしょうか?単純にはノイズNに対して、同じ大きさの信号Sがあるということです。でも、Nと同じ大きさのSというのも、よく考えるとあまり単純なことではありません。例えば、ノイズとして背景光が支配的で、背景光の量が100、そのノイズがルートをとってN=10と仮定します。この時、天体が写っている領域の輝度を測定したとして、一体幾つならば、S/Nが1となるでしょうか?単位は面倒なのでノイズも信号も [ADU] (ADCのカウント数)とします。

ノイズが10 [ADU]なので、測定された輝度が10 [ADU] となる所がS/Nが1となるのでしょうか?でも、一番暗いはずの背景光自身が100もあるので、(ある領域の輝度を平均した場合)輝度が10の所なんて、そもそも無いですよね。なので、ここでは測定された(平均)輝度から背景光を引いたものと比較するとしましょう。色々考えたのですが、こう考えるのが一番自然かと思います。この場合、輝度が110と測定されたところが110-100=10でSが10となり、S/Nが1となる所です。例えば、輝度が200ならば、200-100=100でS/Nが10になりますね。

でも実はこれだけではまだ不十分で、まず撮影された画像には底上げされたオフセットがある可能性があります。SharpCapやNINAで「輝度」とか「オフセット」とかいう値です。ASI294MM Proではこの値に16をかけたものが画面全部に加わっています。 この値をあらかじめ輝度から引いてやらなければならないことに注意です。私は撮影時はいつも40という値を使っているので、40x16=640を、測定した輝度から引いた値が正しい輝度になります。

さらにややこしいのが、天体部分の明るさからくるショットノイズがノイズとして加わります。分母のノイズ部分に、明るさのルートからくるショットノイズを2乗和のルートを取る形で加えてやり、それがノイズNとなります。淡い天体部分ではあまり効きませんが、明るい天体部分では無視できないでしょう。 

さらに忘れてはいけないのは、背景ではスカイノイズが 支配的として考えましたが、ダークノイズや読み出しノイズが支配的な状況では、これらのノイズも2乗和のルートを取る形で加えてやる必要があります。

こうしてNが決まるので、多少ややこしいですが、Sの値としては、測定した輝度値から背景光量とオフセット量を引くということに注意すればいいのかと思います。


実際の画像でのS/Nの見積もり
 
では、実際の撮影画像でどれくらい信号があるのか見積もってみましょう。評価したいのはこれまでと同じ、開田高原で撮影したM81のL画像の1枚撮りです。1枚撮りのRAW画像をストレッチしたものが下になります。

2023-01-21_22-52-45_M 81_L_-10.50C_300.00s_0000_HT
 
今回は背景と分子雲のところの違いを見たいのですが、1枚撮り画像だと背景と分子雲の見分けがつきません。そのためまずはスタック済みでS/Nを上げたものを使います。

ただし、通常のWBPPなどのプロセスでスタックしたものは、ダーク補正やフラット補正、さらにIntegration時に背景の規格化などをしていて、背景の値が変わってしまうため、今回はこれらの補正や規格化を一切しないでスタックした画像を、別途用意しました。スタック済み画像で評価して、スタックの効果を取り除いて1枚画像でのS/Nを評価しようという算段です。

下が、スタック済み未処理画像をjpegにしたものです。リニア画像なので、実際の見た目は真っ暗で、所々に恒星が見えるだけです。
just_integration1_HT_normal

わかりやすくするためにマニュアルでストレッチしたものを下に載せておきますが、測定はあくまで上の真っ暗な画像を使います。フラット補正や、ABE、DBEなどをしていないため、周辺減光もそのまま残ってしまっています。それでも銀河本体の周りに分子雲があるところなどがわかると思います。

just_integration1_HT

その中で、右下部分で、下の画像のように三点を抜き出して評価します。
previews

  • Preview01が「背景」に近いかなり暗いところ
  • Preview02が少なくとも「分子雲」とはっきりわかるところ
  • Preview03が「銀河の腕」の部分
の3箇所で進めます。一点での測定ではノイズのため輝度にばらつきが出てしまうので、PixInsightのプレビュー機能を使い、ある程度の面積の平均輝度を測定しました。実際の測定は暗いリニア画像を用いています。
    結果は
    • 背景: 940.8 [ADU]
    • 分子雲: 943.2 [ADU]
    • 銀河の腕: 974.9 [ADU]
    となりました。今回、背景と言っても本当の背景かどうかはわからないのですが、周辺減光の影響があまりなさそうな所でかなり暗いところを選んだので、ここの輝度を背景光の平均輝度とします。このシリーズのその1で測定した920と20程度の差がありますが、あの時は比較的暗い画像を選んだので、スタックして平均をとるとこのくらいになるのかと思います。場所は同じようなところを選んでいます。

    これらの値から、オフセット分の40x16 = 640を引くと
    • 背景: 300.8 [ADU]
    • 分子雲: 303.2 [ADU]
    • 銀河の腕: 334.9 [ADU]
    となります。これが実測の輝度となります。

    さらに、天体部分の後ろ2つから、背景光分の輝度300.8を引くと
    • 分子雲: 3.2 [ADU]
    • 銀河の腕: 34.9 [ADU]
    となりますが、これが信号のSに相当します。単位は[ADU]なので、コンバージョンファクターを使って[ADU]から[e]に変換します。コンバージョンファクターは測定値の[ADU]から、比較に便利な共通単位の[e]に変換できる、重要な値でしたね。ここでは横軸gainが120の所の、0.9 [e/ADU]を上の値に掛けてやります。その結果
    • 分子雲: 2.9 [e]
    • 銀河の腕: 31.4 [e]
    となります。

    一方ノイズですが、同じ場所の実測値を使います。これまで見積もり値を使ってきましたが、実測値とよく一致していることがもうわかっているので、そのまま実測値を使ってしまっていいでしょう。なぜ実測値を使いたいかというと、天体の明るさが起因のショットノイズも含んでいるからです。そのため、より現実的なS/Nを得ることができるからです。ノイズの実測値は、単位を[e]にするところまで求めて、
    • 背景: 3.07 [ADU] -> 2.76 [e]
    • 分子雲: 3.16 [ADU] -> 2.84 [e]
    • 銀河の腕: 3.73 [ADU] -> 3.36 [e]
    となります。

    SとNが単位[e]で出たので、S/Nが計算でき、
    • 分子雲部分のS/N: 2.9/2.76 =  1.04
    • 銀河の腕部分のS/N: 31.4/3.36 = 11.0
    となりました。

    ヒョエー!?
    分子雲のところ、何とS/Nがわずか1程度です!
    しかもこれ28枚の画像をスタックした後の値ですよ...。

    S/N=1ということは、背景に比べた明るさの持ち上がり具合が、そこでの輝度のばらつき具合と同じくらいということです。実際、スタックされた画像を見る限り、やはりそれくらいかと思います。

    さらに1枚画像で考えると、S/Nはルート28 = 5.3分の1に減るので、1.04 / 5.3 = 0.196となります。やはり1枚画像ではS/Nが1よりかなり下で、分子雲がノイズの中に埋もれてしまい、見分けがつかなかったということに納得できます。

    その一方、銀河の部分はかなり明るくS/Nも10以上と高いです。スタックの効果を無くした1枚画像でも、同様の計算で11.0 / 5.3 = 2.08となり、S/Nが2を超えていて十分に大きく、撮影直後でもストレッチさえしてしまえば腕の形も認識できることがわかります。
     

    まとめ

    今回は信号を考えてみて、実際の画像の特に淡いところを見積もってみました。S/Nの具体的な評価方法がかなり見通しよくなったかと思いますし、実際の画像を見た直感的な印象ともかなり一致すると思います。

    今回の計算中に、前の記事での細かい計算ミスが見つかり、直しておきました。もしかしたらまだ大きな勘違いがあるかもしれないので、もし何か気づいた方がいましたら、コメントなどお願いします。







    2022年の反省でも述べましたが、最近自分で考えることがあまりできてなかったので、今回の記事は久しぶりに計算です。内容は、撮影した画像にはどんなノイズが入っていて、それぞれどれくらいの割合になっているかを見積ってみたという話です。


    動機

    まずは動機です。1月に開田高原でM81を撮影した時に、M81本体に加えて背景のIFNが見えてきました。下は300秒露光を28枚撮影したL画像を強度にオートストレッチしています。
    masterLight_BIN-2_4144x2822_EXPOSURE-300.00s_FILTER-L_mono

    一方、2022年の5月にも自宅で同じM81を撮影しています。背景が埃とスカイノイズで淡いところがまってく出なかったので記事にしていないのですが、下は露光時間600秒を22枚撮影したL画像で、強度にオートストレッチして、かつできるだけ見やすいようにABEとDBEをかけてカブリを排除しています。開田高原の時よりもトータル露光時間は1.6倍ほど長く、被りを除去しても、淡い背景については上の画像には全く及びません。
    masterLight_600_00s_FILTER_L_mono_integration_ABE_DBE3
    明らかにスカイノイズの影響が大きいのですが、これを定量的に評価してみたくなったというものです。

    もう一つの動機ですが、このブログでも電視観望について多くの記事を書いています。電視観望はリアルタイム性を求めることもあるので、露光時間を短くしてゲインを高く設定することが多いです。この設定が果たして理に適っているのかどうか、これも定量的に議論してみたいとずっと思っていました。


    目的

    これからする一連の議論の目的ですが、
    1. 画像に存在するどのノイズが支配的かを知ること。
    2. 信号がノイズと比較して、どの程度の割合で効くのかを示す。
    3. 電視観望で高いゲインが有利なことを示す。
    を考えてたいと思っています。今回の記事はまずは1番です。こちらはスカイノイズをどう評価するかが鍵なのかと思っています。

    2番は意外に難しそうです。信号である天体は恒星ならまだしも、広がっている天体の明るさの評価ってなかなか大変です。これは後回しにするかもしれません。

    3番は長年の電視観望がなぜ短時間で天体を炙り出せるのかという疑問を、定量的に表す事ができたらと考えています。こちらは大体目処がついてきたので、近いうちに記事にするかと思います。


    基本的なノイズ

    天体画像撮影におけるノイズは5年くらい前にここで議論しています。SN比の式だけ抜き出してくると

    S/N=ntSsigAnσ2+AntSsky+AntSdark+ntSsignS/N=ntSsigAnσ2+AntSsky+AntSdark+ntSsign
    と書くことができます。ここで、
    • AA [pix] : 開口面積
    • nn : フレーム枚数
    • σσ [e-/pix] : 読み出しノイズ
    • tt [s] : 1フレームの積分(露光)時間
    • SskySsky  [e-/s/pix] : スカイバックグラウンド
    • SdarkSdark  [e-/s/pix] : 暗電流
    • SsigSsig  [e-/s] : 天体からの信号
    となり、S/Nとしては何枚撮影したかのルートに比例する事がわかります。今回のノイズ源としては読み出しノイズ、スカイノイズ、ダークノイズを考えます。ショットノイズは天体などの信号があった場合に加わるノイズですが、今回は天体部分は無視し背景光のみを考えるため、天体からのショットノイズは無視することとします。

    重要なことは、読み出しノイズは露光時間に関係なく出てくるために分母のルートの中にtがかかっていないことです。そのため、他のノイズは1枚あたりの露光時間を伸ばすとS/Nが上がりますが、読み出しノイズだけは1枚あたり露光時間を増やしてもS/Nが上がらないということを意識しておいた方がいいでしょう。その一方、撮影枚数を稼ぐことは全てのノイズに対してS/N改善につながり、読み出しノイズも含めて撮影枚数のルートでS/Nがよくなります。繰り返しになりますが、一枚あたりの露光時間を伸ばすのでは読み出しノイズだけは改善しないので、他のノイズに比べて効率が悪いということです。

    分子にあたる天体信号の評価は意外に大変だったりするので、今回は分母のノイズのみを考えることにします。


    パラメータ

    上の式を元に、ここで考えるべきパラメータを固定しやすいもの順に書いておきます。
    1. カメラのゲイン(gain)
    2. 温度 (temperature)
    3. 1枚あたりの露光時間 (time)
    4. 空の明るさ
    の4つで実際に撮影した画像の各種ノイズを推定できるはずです。少し詳しく書いておくと、
    • 1は撮影時のカメラの設定で決める値です。読み出しノイズ (read noise)を決定するパラメータです。
    • 2は撮影時のセンサーの温度で、冷却している場合はその冷却温度になります。単位は[℃]となります。この温度と次の露光時間からダークノイズを決定します。
    • 3は撮影時の画像1枚あたりの露光時間で、単位は秒 [s]。2の温度と共にダークノイズ (dark noise)を決定します。ダークノイズの単位は電荷/秒 [e/s]。これは[e/s/pixel]と書かれることもありますが、ここでは1ピクセルあたりのダークノイズを考えることにします。なお、ホットピクセルはダークノイズとは別と考え、今回は考慮しないこととします。ホットピクセルは一般的にはダーク補正で除去できる。
    • 4は撮影場所に大きく依存します。今回は実際に撮影した画像から明るさを測定することにします。単位は [ADU]で、ここからスカイノイズを推測します。ちなみに、3の露光時間も空の明るさに関係していて、長く撮影すれば明るく写り、スカイノイズも増えることになります。

    実際のパラーメータですが、今回の記事ではまずはいつも使っている典型的な例で試しに見積もってみます。私はカメラは主にASI294MM Proを使っていて、最近の撮影ではほとんど以下の値を使っています。
    1. 120
    2. -10℃
    3. 300秒
    これらの値と実際の画像から背景光を見積もり、各種ノイズを求めることにします。


    読み出しノイズ

    読み出しノイズはカメラのゲインから決まります。ZWOのASI294MM Proのページを見てみると、


    真ん中の少し手前あたりにグラフがいくつか示してあります。各グラフの詳しい説明は、必要ならば以前の記事



    をお読みください。上の記事でもあるように、カメラの各種特性はSharpCapを使うと自分で測定する事ができます。実測値はメーカーの値とかなり近いものが得られます。

    グラフから読み出しノイズを読み取ります。gain 120の場合おおよそ

    1.8 [e rms]

    ということがわかります。rmsはroot mean sqareの意味で日本語だと実効値、時系列の波形の面積を積分したようなものになります。例えば片側振幅1のサイン波なら1/√2で約0.7になります。他のノイズも実効値と考えればいいはずなので、ここではrmsはあえて書かなくて

    1.8 [e]

    としていいでしょう。

    読み出しノイズは、実際の測定では真っ暗にして最短露光時間で撮影したバイアスフレームのノイズの実測値に一致します。以前測定した結果があるので、興味のある方はこちらをご覧ください。



    ダークノイズ

    ダークノイズの元になる暗電流に関しては温度と1枚あたりの露光時間が決まってしまえば一意に決まってしまい、これもZWOのASI294MM Proのページから読み取ることができます。

    私はこの値を実測したことはないのですが、そーなのかーさんなどが実測していて、メーカー値とほぼ同じような結果を得ています。

    グラフから温度-10℃のところの値を読み取ると暗電流は

    0.007 [e/s/pixel]

    となるので、1枚あたりの露光時間300秒をかけると

    2.1 [e/pix]

    となります。/pixはピクセルあたりという意味なので、ここは略してしまって

    2.1[e]

    としてしまえばいいでしょう。単位[e]で考えた時に、暗電流のルートがダークノイズになるので、

    sqrt(2.1)=1.5[e]

    がダークノイズとなります。

    (追記: 2023//4/19) ちょっと脱線ですが、だいこもんさんのブログを読んでいると、2019年末の記事に「dark currentはgain(dB)に依存しないのか?」という疑問が書かれています。答えだけ言うと、[e]で見ている限り横軸のゲインに依存しないというのが正しいです。もしダークカレント、もしくはダークノイズを[ADU]で見ると、元々あったノイズがアンプで増幅されると言うことなので、単純に考えて横軸のゲイン倍されたものになります。実際の画面でも横軸ゲインが高いほど多くのダークノイズが見られるでしょう。でも、コンバージョンファクターをかけて[ADU]から[e]に変換する際に、コンバージョンファクターが横軸のゲイン分の1に比例しているので、積はゲインによらずに一定になるということです。

    ちなみに、ホットピクセルはダーク補正で取り除かれるべきもので、ここで議論しているダークノイズとは別物ということを補足しておきたいと思います。

    (さらに追記:2023/10/15)
    ダークファイルを撮影したので、実際のダークノイズを測定してみました。画像からのノイズの読み取り値は2.6 [ADU]でした。コンバージョンファクターで単位を[e]にすると、2.6x0.9 = 2.3 [e]。ここから読み出しノイズを引いてやると、2乗の差のルートであることにちゅいして、sqrt(2.3^2-1.8^2) = 1.5 [e] と見積り値に一致します。このように、見積もりと実測が、かなりの精度で一致することがわかります。


    スカイノイズ

    ここが今回の記事の最大のポイントです。読み出しノイズとダークノイズだけならグラフを使えばすぐに求まりますが、恐らくスカイノイズの評価が難しかったので、これまでほとんど実画像に対してノイズ源の評価がなされてこなかったのではないでしょうか?ここでは実画像の背景部の明るさからスカイノイズを推測することにします。

    まず、明るさとノイズの関係ですが、ここではコンバージョンファクターを使います。コンバージョンファクターはカメラのデータとして載っています。例えばASI294MM Proでは先ほどのZWOのページにいくと縦軸「gain(e/ADC)」というところにあたります。コンバージョンファクターの詳しい説明は先ほど紹介した過去記事を読んでみてください。コンバージョンファクターは他に「ゲイン」とか「システムゲイン」などとも呼ばれたりするようです。名前はまあどうでもいいのですが、ここではこの値がどのようにして求められるかを理解すると、なぜスカイノイズに応用できるか理解してもらえるのかと思います。

    コンバージョンファクターの求め方の証明は過去記事の最後に書いてあるので、そこに譲るとして、重要なことは、画像の明るさSとノイズNは次のような関係にあり、
    (N[ADU])2=S[ADU]fc[e/ADU](N[ADU])2=S[ADU]fc[e/ADU]明るさとノイズの二つを結ぶのがコンバージョンファクターfcとなるということです。逆にいうと、このコンバージョンファクターを知っていれば、明るさからノイズの評価が共にADU単位で可能になります。

    もっと具体的にいうと、コンバージョンファクターがわかっていると、スカイノイズが支配していると思われる背景部分の明るさを画像から読み取ることで、スカイノイズを直接計算できるということです。これは結構凄いことだと思いませんか?


    実際のスカイノイズの見積もり

    それでは実画像からスカイノイズを見積もってみましょう。最初に示した2枚のM81の画像のうち、上の開田高原で撮影した画像の元の1枚撮りのRAW画像を使ってみます。

    上の画像は既にオートストレッチしてあるので明るく見えますが、ストレッチ前の実際のRAW画像はもっと暗く見えます。明るさ測定はPixInsight (PI)を使います。PIには画像を解析するツールが豊富で、今回はImageInspectionのうち「Statistics」を使います。まず画像の中の暗く背景と思われる部分(恒星なども含まれないように)をPreviewで選び、StatisticsでそのPreviewを選択します。その際注意することは、カメラのADCのbit深度に応じてStatisticsでの単位を正しく選ぶことです。今回使ったカメラはASI294MM Proなので14bitを選択します。輝度の値は「mean」を見ればいいでしょう。ここでは背景と思われる場所の明るさは約920 [ADU]と読み取ることができました。ついでに同じStatisticsツールのノイズの値avgDevをみると17.8 [ADU]と読み取ることが出来ました。

    もっと簡単には、画像上でマウスを左クリックするとさまざまな値が出てきますので、その中のKの値を読み取っても構いません。ここでも同様に、単位を「Integer Renge」で手持ちのカメラに合わせて「14bit」などにすることに注意です。

    いずれのツールを使っても、背景と思われる場所の明るさは約920[ADU]と読み取ることができました。

    前節の式から、輝度をコンバージョンファクターで割ったものがノイズの2乗になることがわかります。gain120の時のコンバージョンファクターはグラフから読み取ると0.90程度となります。

    これらのことから、背景に相当する部分のノイズは以下のように計算でき、

    sqrt(920/0.90) = 32.0 [ADU] -> 28.8 [e]

    となります。どうやら他の読み出しノイズやダークノイズより10倍程大きいことになります。あれ?でもこれだとちょっと大きすぎる気がします。しかも先ほどのStatisticsツールでの画面を直接見たノイズ17.8[ADU]をコンバージョンファクターを使って変換した

    17.8 [ADU] x 0.90 [e/ADU] = 16.0 [e]

    よりはるかに大きいです。これだと矛盾してしまうので何か見落としているようです。

    計算をじっくり見直してみると、どうやら測定した輝度は「背景光」とオフセットの和になっているのに気づきました。撮影時のオフセットとして40を加えてありますが、この値に16をかけた640がADUで数えたオフセット量として加わっているはずです。実際のマスターバイアス画像を測定してみると、輝度として平均で約640 [ADU]のオフセットがあることがわかったので、これは撮影時に設定したものとぴったりです。この値をを920 [ADU]から引いて、280 [ADU]を背景光の貢献分とします。その背景光からのスカイノイズ成分は

    sqrt(280/0.90) = 17.6 [ADU]


    これを[ADU]から[e]に変換するためにさらにコンバージョンファクター[e/ADU]をかけて

    17.6 [ADU] x 0.90 [e/ADU] = 15.9 [e]

    となります。これだと画面からの実測値16.0[e]と少なくとも矛盾はしませんが、既に実測のトータルノイズにかなり近い値が出てしまっています。果たしてこれでいいのでしょうか?


    各ノイズの貢献度合い

    次にこれまで結果から、各ノイズの貢献度を見ていき、トータルノイズがどれくらいになるのかを計算します。

    画像1枚あたりの背景に当たる部分の各ノイズの貢献度は多い順に
    1. スカイノイズ: 15.9[e]
    2. 読み出しノイズ: 1.8 [e]
    3. ダークノイズ: 1.5[e]
    となります。Statisticsツールで測定した実際の1枚画像の背景のノイズの実測値は14.9[e]程度だったので、上の3つのノイズがランダムだとして2乗和のルートをとると、

    sqrt(15.9^2+1.8^2+1.5^2) = 16.0 [e]

    となり、実測の16.0[e]になる事がわかります。スカイノイズに比べてトータルノイズがほとんど増えていないので、読み出しノイズとダークノイズがほとんど影響していないじゃないかと思う方もいるかもしれません。ですが、互いに無相関なノイズは統計上は2乗和のルートになるので本当にこの程度しか貢献せず、実際にはスカイノイズが支配的な成分となっています。

    ここまでの結果で、今回のスカイノイズ成分の推定は、定量的にも実画像からの測定結果とほぼ矛盾ないことがわかります。この評価は結構衝撃的で、暗いと思われた開田高原でさえスカイノイズが圧倒的だという事がわかります。


    富山の明るい空

    ちなみに、最初の2枚の画像のうち、下のものは自宅で撮影したM81です。富山の明るい北の空ということもあり、そのRAW画像のうちの最も暗い1枚(2022/5/31/22:48)でさえ、背景の明るさの読み取り値はなんと3200[ADU]程度にもなります。バイアス640を引くと2560[ADU]で、開田高原の背景光の値240に比べ約10倍明るく、ノイズは

    sqrt(2560/0.90) = 53.3 [ADU] -> 48.0 [e]

    となります。実際の画像からPIのStatisticsで読み取ったトータルノイズの値が53.4[ADU]->48.1[e]でした。

    スカイノイズ48.0[e]に、読み出しノイズ1.8 [e] 、ダークノイズ1.5[e]を2乗和のルートで考えるとトータルノイズは

    sqrt(45.0^2+1.8^2+1.5^2) = 48.1 [e]

    となり、明るい画像でも背景光の輝度から推測したノイズをもとに計算したトータルノイズ値と、画面から実測したノイズ値が見事に一致します。

    開田高原の暗い画像でさえスカイノイズが支配的でしたが、富山の明るい空ではスカイノイズが読み出しノイズ、ダークノイズに比べて遥かに支配的な状況になります。淡いところが出なかったことも納得の結果です。

    うーん、でもこんなスカイノイズが大きい状況なら
    • もっと露光時間を短くして読み出しノイズを大きくしても影響ないはずだし、
    • 冷却温度ももっと上げてダークノイズが大きくなっても全然いいのでは
    と思ってしまいます。でもそこはちょっと冷静になって考えます。早急な結論は禁物です。次回の記事では、そこらへんのパラメータをいじったらどうなるかなどに言及してみたいと思います。


    まとめ

    背景の明るさとコンバージョンファクターから、スカイノイズを見積もるという手法を考えてみました。実際の撮影画像のノイズ成分をなかなか個別に考えられなかったのは、スカイノイズの評価が難しいからだったのではないかと思います。

    今回の手法は背景の明るさが支配的と思われる部分がある限り(天体写真のほとんどのケースは該当すると思われます)スカイノイズを見積もる事ができ、状況が一変するのではと思います。また手法も輝度を測るだけと簡単なので、応用範囲も広いかと思われます。

    今回の手法を適用してみた結果、実際に遠征した開田高原のそこそこ暗い空で撮影した画像でさえもスカイノイズが支配的になる事がわかりました。もっと暗い状況を求めるべきなのか?それとも露光時間を短くしたり、温度を上げてしまってもいいのか?今後議論していきたいと思います。

    とりあえず思いつくアイデアをばっとまとめてみましたが、もしかしたら何か大きな勘違いなどあるかもしれません。何か気づいたことがありましたらコメントなどいただけるとありがたいです。


    この記事の続き



    になります。露光時間と温度について、実際の撮影においてどの程度にすればいいか評価しています。








    先週末に開田高原に遠征した際に撮影したM81です。撮影時の様子は前回の記事に書いてるので、今回は主に画像処理についてです。



    WBPPとLRGB合成

    今回は撮影した画像はLRGBに加えて、赤ポチをアクセントに加えたいのでHαも撮っています。

    撮影中のNINAの画像ですが、5分の1枚どりなのでに以前自宅で3時間分をスタックしたのに迫るくらいの淡いところが出ています。撮影中からこれは期待できそうだという感触でした。
    Fm_6VpNacAM0yEK


    画像処理はPixInsightのWBPPでLRGBAいっぺんに処理します。

    L画像を撮影している際の午前2時半頃に子午線で反転した際に、どうやらカメラが回転してしまったようです。光条線ではほとんど目立ちませんでしたが、強度にストレッチしたら画像周りに三角形でS/Nが悪い部分が見えたので、少し余分にクロップしています。

    できたL、R、G、BをそのままPIのLRGBcombinationで一気に合成してしまいます。RGBの色バランスが例えずれていてもSCPPで背景のニュートラルまでふくめて調整できることと、彩度は保たれていることは検証してあるからです。


    SPCCの参照銀河

    SPCCで参照銀河を平均とM81のSa型で比べてみました。

    平均:
    Image09_LRGB_crop_ABE1_ABE2_SPCCave

    Sa型:
    Image09_LRGB_crop_ABE1_ABE2_SPCCsa

    やはり少し違いが出ます。Sa型の方がより青く出るようです。銀河によってタイプを変えることで、より近い色になるのかと思います。今回はSa型を採用しました。


    NoiseXTerminator

    ノイズ処理でよく出てくる不自然なモコモコはあまり好きではないのですが、ツールを色々変えてもどうしてもある程度出てきてしまいます。NoiseXTerminator (NXT)も例外ではないのですが、Denoiseの値を例えば0.75などの大きくして一度にかけるのではなく、例えば0.25とかして3回かけた方がいいようです。

    NXTをかける前:
    Image09_ABE_ABE


    Denoise:0.75, Detail:0
    Image09_ABE_ABE_NXTx075

    Denoise:0.25x3, Detail:0
    Image09_ABE_ABE_NXTx025x3

    0.75一回の時は明らかにノイズ処理によりのっぺりしていますが、0.25が3回の時はあまり大きな構造は見えず、ノッペリ感もなく、適度に細かいノイズは除去されています。

    まだ最適な使い方はよくわかりませんが、Denoiseの度合いとかける回数である程度の空間周波数の調整はできそうなことがわかります。


    結果

    出来上がった画像です。

    「M81:ボーデの銀河」
    Image09_LRGB_crop_ABE1_ABE2_SPCCsa_BXT_MS_SCNR6
    • 撮影日: 2023年1月21日21時19分-22日5時22分
    • 撮影場所: 長野県開田高原
    • 鏡筒: SHARP STAR製 SCA260(f1300mm)
    • フィルター: Baader RGB
    • 赤道儀: Celestron CGX-L
    • カメラ: ZWO ASI294MM Pro (-10℃)
    • ガイド:  f120mmガイド鏡 + ASI290MM、PHD2によるマルチスターガイドでディザリング
    • 撮影: NINA、Gain 120、露光時間5分、L:28枚、R:12枚、G:11枚、B:12枚、Hα:6枚の計69枚で総露光時間5時間45分
    • Dark: Gain 120、露光時間5分、温度-10℃、32枚
    • Flat, Darkflat: Gain120、露光時間 L:0.001秒、128枚、RGB:0.01秒、128枚、Hα:20秒、17枚(dark flatは32枚)
    • 画像処理: PixInsight、Photoshop CC

    反省点です。
    • 背景のモクモクがやっと出たのはかなり嬉しかったです。実は昨年5月に自宅で撮影していて、その時はどう画像処理してもカスリもしなかったので、お蔵入りになりました。なので今回暗い開田高原で撮影した甲斐が大いにありました。その一方、まだかなりノイジーで今回は画像処理で誤魔化しているところがあるのは否めません。L画像だけで10時間とか撮影したくなってきます。
    • 背景に緑色の構造が見えます。これが本当に正しいのか?形はあっているようですが、色がこれでいいのかまだよくわかっていません。ゴースト星雲の時もそうだったのですが、WBPPのLocal Normarizationが悪さをしている可能性があります。もしくはフラットを使い回しているので、合っていないのかもしれません。
    • 恒星が少し不自然です。今回MaskedStretchを使ったのですが、どうも暗くなって迫力にかけます。最近はHistgramTransformでわざとサチらせた方が自然に見える気がしています。まだ恒星処理は下手です。
    • 恒星があまり綺麗でないもう一つの原因が、背景を相当炙り出しているからです。今回スターマスクの類を使わなかったのですが、スターマスクを使ってもう少し丁寧に処理した方が良かったのかと思います。
    • BXTで恒星を小さくできるのですが、小さすぎておかしくならないように多少加減しています。でも後の炙り出しで多少見かけが大きくなることがあるので、リニアの段階ではもう少し小さくしていいのではと思いました。
    • 右上に斜めに走る2本の光が入ってしまっています。RAW画像を見るとL、G画像はほぼ全て、B画像は後半のもので確認できました。RとA画像には入っていませんでした。どうも漏れ光の疑いがあります。原因究明と、フラット取り直しが必要そうです。
    • 昨年春の撮影(結局お蔵入りしたもの)はM82とモザイク合成することを前提にセットで撮っています。自宅と開田高原で背景にこれだけ差があると、おそらく自宅でとってもモザイク合成するのは難しいでしょう。もう一度あの寒いところに行くか?それとも春を待って飛騨コスモスで撮るか?迷うところです。

    恒例のAnnotationです。画像処理での回転補正なしですが、縦横もかなり合っていますね。
    Image09_LRGB_crop_ABE1_ABE2_SPCCsa_BXT_MS_SCNR5_Annotated


    Integrated Flux Nebula

    銀河周りにある淡いモヤモヤですが、「Integrated Flux Nebula」と呼ばれていて、略して「IFN」とか、「IF Nebula」とか言うようです。日本語ではなんて言うんでしょうか?調べてみたら「銀河巻雲」という言葉が出てきました。

    IFNが認識されたのは結構最近とのことで、文献を見ると2005年が一番古いようで、その著者のSteve Mandelによって名付けられたようです。彼のスライドを見ると例が出ています。一見の価値ありで、アマチュア天文に関しても少し触れられています。

    基本的にはIFNは我々の銀河系の外に広がっているもので、天の川全体からのエネルギーによって照らされているということです。

    M81、M82まわりのINFが有名みたいで、上記文献でも表紙にM81とM82が出ています。星雲本体を超えて、もっと相当広い範囲にわたって広がっている星雲全体を言うようです。今回はそのうちのM81本体のごく一部が出てきたということです。文献に「我々が思っているより多くの星雲がある」と書いてあり、さらにプロもそれに続けと書いてあるので、もしかしたらアマチュアの結果が先に出てきたのかもしれません。そういった意味では我々アマチュア天文家としても非常に興味深いものになるのかと思います。暗い空が必要ですが、IFNをターゲットとして、短焦点でもっと広い範囲を長時間かけて撮影してみるのも面白いのかもしれません。


    まとめ

    背景に関しては自宅では絶対出そうにないところまででているので、寒い中撮影した甲斐が十分にありました。やはり暗いところで撮影するのは十分に価値のあることだと思います。

    IFNをターゲットに少し挑戦してみたくなりました。焦点距離は400mm以下でしょうか。手持ちで単焦点であまり明るい鏡筒がないので、できればε130とかが欲しくなります。

    明るい対象は自宅で、淡いものは遠征でという使い分けを今後していくことになるのかと思います。そのためには遠征前にターゲットを十分に吟味しておくべきです。でも今回なんか、その場でM81に決めたので、これじゃあダメですね。


    星友のかんたろうさんに誘われて、2023年1月21日(土)に開田高原まで遠征しました。私は普段あまり遠征はしないので、ここも初めての場所になります。楽しかったですが、とにかく寒かったです。


    お誘いが

    年末の周参見遠征の後、年が明けてからかんたろうさんから電話が。「21日どうしますか?」と。そういえば確かに観望会すると言っていました。場所を聞くと木曽の方だと言うので「雪が問題なければ参加します。」とお伝えしていました。日にちが近づいてきましたが、どうやら天気は晴れそうです。平日はいそがしいので、当日の土曜の朝に準備です。

    せっかくの暗い場所なので撮影を前提とします。この日の装備はSCA260と、眼視用にTSA120、電視観望用に周参見でも披露したFMA135+ACUTERマウントです。あと、星座ビノの見比べをしたいとリクエストがあったので、星座ビノが大量に入っているケースを忘れないように車に積み込みます。寒波が来るかもしれないとのことなので、防寒対策はしっかりしておきます。

    あと、手持ちのコンパクトWiFiルーターが壊れてしまったので、そこらへんにあったルーターで設定を終えておきます。StickPCなのでWiFiに固定アドレスで接続できないと、外部モニターを取り付けたりとかで、外では設定が辛いのです。


    出発

    自宅を出たのは昼の12時位でしょうか。朝食も昼食も食べる暇がなかったので、コンビニの座席で炒飯弁当を食べていきました。この時に念のために3切れ入りのサンドイッチとおにぎり一つ、おやつのシュークリームを買っていきました。実はこれがナイス判断で、高山市を超えて何か買おうと思っていたら、山の中の道50km以上現地までコンビニが一軒もなく、夕食とか買えそうなところがありませんでした。結局このコンビニで買った予備食が夕食と夜食になってしまいました。

    途中の道は雪のところも多く、結構怖かったです。特に最後の山越えのところはずっと雪でした。そこまでは結構雲があったのですが、山を越えた途端に青空が晴れ渡っていました。現地には15時半頃に着いたでしょうか。東屋のような屋根付きで座ることができる場所もある駐車場です。周りに電灯とかはないとのことで、しかも全方向低空まで開けていて、かなり理想的な場所です。車で5分くらいの所に、冬でもありがたい暖房付きのトイレもあります。


    現地到着

    到着した時にはかんたろうさんと、県天のKさんがすでにいました。Kさんは以前自宅にもきて頂いた方で、どうやらかんたろうさんを師匠としているみたいです。二人ともすでに鏡筒を出していました。かんたろうさんは45cmドブを筆頭に、5−6台用意しているそうです。KさんはFSQ85をSX2に載せています。Kさんの赤道儀、以前牛岳でかんたろうさんと一緒に見た時に結構揺れがあったのですが、今回三脚が下からプレートで持ち上げるタイプのものに変わっていて、相当頑丈になっていました。でも三脚の足を結構伸ばしていたのと、ハーフピラーがまだ揺れの原因になると、かんたろうさんに指摘されてました。

    私も準備を始めます。SCA260+CGX-L+ASI294MM ProとTSA120+CGEM IIを出した後、星座ビノを8個位用意しておきました。

    中1のMちゃん親子も到着。流石に徹夜は厳しいというので、近くに宿を撮ったとのことです。素泊まりチェックインさえしておけばいつ宿に帰ってもよく、24時間入浴可能とのこと。星屋さんにとってはこういう宿はありがたいですね。


    トラブルが

    ちょっと暗くなってきて、赤道儀の極軸合わせをします。その途中、メンバーが来る途中で車が溝にハマったとの緊急連絡が。みんなで車を持ち上げたら外れるかもということで、何人かで現場に向かいます。私の車もかんたろうさんの車も機材いっぱいで人が乗る余地がないので、Mちゃんのお母様の車で向かいます。

    少し迷いながら、結局歩いていけるくらいの近い距離だとわかり、現場に到着。持ち上げようとしましたが、重すぎて無理だと判断し、ちょうど事前に呼んでいたJAFの方がきてくれたのでおまかせすることに。

    この撮影場所ですが、国道からおみやげ屋経由で入る経路のはいいのですが、Googleマップに従うと反対側の細い道から案内されるらしく、しかも上り坂で雪のためにスリップしてしまったとのことです。もしこの場所に初めて来られる方は、くれぐれも気をつけてください。国道沿いのおみやげ屋から奥に入るのがコツです。ちなみにスリップした方は同じ富山の方で、普段雪道に慣れている富山勢でも厳しい坂道なので、おかしいと思ったら素直に引き返す方がいいです。

    さすがJAFの方、手際よく車を引き上げて、無事に脱出することができました。その際、車で道を塞いでしまっていて、たまたまそこでストップしていた名古屋からきていた方たちと待っている間色々話しました。なんでもカメラで生計を立てている方で、ここら辺にもよく撮影に来るそうです。星が専門というわけではないですが、この日は夜空を撮りにきたとのこと。撮影場所を探していたらしいのですが、結局我々と同じ場所でご一緒することになり、結局朝までいることになってしまったようです。夜も望遠鏡を見ていたのですが、明け方に明るくなってから改めて望遠鏡をじっくり観察されていました。


    撮影開始

    事故処理の後は現場に戻り、撮影の準備の続きです。今回のターゲットはM81です。実は、去年の春に自宅でM81とM82を別々に撮影しモザイクと思っていたのがあるのですが、画像処理の間にどうにも気に入らなくていつかやろうと思いながらお蔵入りになっていました。その時の画像です。
    2022-05-06_M81_SCA260_ASI294MMPro_bin2_10min_home
    10分x22枚で合計3時間40分のL画像になりますが、強度に炙り出すと埃のリングが何箇所かに残っているのと、強度に炙り出しても背景の薄いモクモクがどうしてもでなかったものです。ABEとかDBEとか駆使してもせいぜいこれくらいです。

    ちなみにこちらが今回撮影したL画像です。
    masterLight_BIN-2_4144x2822_EXPOSURE-300.00s_FILTER-L_mono
    5分x29枚で合計2時間25分のL画像で撮影時間は全然短いのですが、背景のモクモクは遥かに出ているがわかるかと思います。こちらはまだABEとかかける前です。さすが開田高原の暗い空です。

    最近思うのは、自宅だとそこそこかなりの淡い所(例えばまゆ星雲とか、ゴースト星雲とか)までは出るのですが、本当に最淡の所はかなり時間をかけてもほとんど出てこないことがわかってきました。例えばゴースト星雲の手の下のヒレとかです。光害地なので、ある意味当たり前かもしれませんが、どこまで出るか挑戦している最中で、だんだん限界が見えてきたような所です。明るい天体は自宅でもいいのですが、本当に暗い天体はやはり遠征でとか、うまく切り分けていくのがいいと思うようになってきました。

    開田高原の暗さについてです。iPhoneアプリのDark Sky Meterで測定すると、20.65とか20.91とかでそこまで暗いわけではないようです。実際、東は伊那市の明るさ、南西は名古屋の明るさがわかります。南北と天頂は暗くて、この日は冬の天の川もちょうど南北にはまるようにきれいに見えていました。ここによく来る地元の方によると「最近は明るいことも多く、この日もそこそこ明るい」とのこと。「長期的に明るくなっているのか、季節的なものなのか、たまたまなのかわからないが、今シーズンは明るい。」とのことです。それでもこの日は透明度が良かったのでしょう。ものすごい星の数でした。電話で妻が富山も星が綺麗と言っていたので、かなり広い範囲で透明度が良かったのかもしれません。


    寒い、寒い、寒い

    この日は寒さも広範囲で厳しかったようで、とにかく開田高原も寒い寒い。温度計は−15℃とかいう声も聞こえていました。実は富山はよっぽど寒くても-4~5℃なので、北陸勢は全員参っていました。かんたろうさんによると、今回は冬で星が見えない富山勢のための観望会で、金沢からはあんとんシュガーさんも来ていました。

    私も確かにこれくらい寒いところに行ったことはあります。でもごく短時間で、一晩中この気温で外に出ていたというのは初めてでした。分厚い靴下を履いてカイロを靴の中に入れ、電熱線付きのチョッキを着て、ズボンは3枚で一番外はスキーウェアみたいなやつです。それでも耐えられないくらい寒かったです。

    途中Twitterでやりとりしていると、どうも智さんが開田高原に来ていて近くにいるみたいです。せっかくなので電話で話すと、歩いてこれるくらいの距離のところで撮影しているとのこと。撮影も落ち着いているというので、遊びに来てくれました。智さんは撮影はほとんどいつも開田高原ということで、寒さについてもよく知っていました。明け方に向けてまだまだ寒くなるとか。そういえば昔、Zoomで智さんとあんとんシュガーさんと一緒に話したことがあります。今回初顔合わせとなり、お互い挨拶していました。多分これは有名遠征地ならではの光景なんですね。

    0時半頃にはMちゃんが寒さと眠気でギブアップ。Mちゃん、この日はポルタを持ってきていて自分で見ていたのですが、そのうち霜が降りてきて、レンズも曇りだし、冬の天体観測の厳しさの洗礼を受けたようです。冬にはヒーターが必要なことを学んだと思います。

    夜中を過ぎると自分の機材も霜がひどくなってきました。
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    寒さによる今回のトラブルのまとめです。
    • M1 Macbook Proのファンが「フォー」っとすごい音を出して周りだし、しばらくして落ちました。温度間違えて認識している感じでした。
    • その一方、Surface 8Proが寒さに負けず動いていました。それでもバッテリーは満タンのはずなのに15%とか出て、なぜか全然減っていかないというミステリーでした。
    • 新規で使い始めたLifePO4バッテリーが最初から低温警告が出て動かず。
    • 鉛バッテリーは夏なら平気で一晩持つはずですが、早々とへたりました。
    • 赤道儀は最初モーターが動かず。
    バッテリーは車の中で温めたら復活、モーターは何度か電源入れ直してなんとか動きました。ここまで冷えることがあるとすると、機材も少し考え直す必要がありそうです。でもまあ、機材の前に体の方が参りそうで、やっぱり自宅ぬくぬく作戦の方が楽でいいです。

    あまりの寒さで、当初は電視観望を披露したり、明け方近くにZTF彗星を撮影することも考えていましたが、もうすっかり萎えてしまって、途中から車の中に閉じ込もっていました。

    かんたろうさんは寒さに全く負けることなく、手袋もせずにドブで皆さんに案内していました。私も色々見せてもらいました。M42はやはりトラペジウム周りが周参見の時と同じように青とか青紫に見えます。トール兜星雲、M51子持ち星雲なども迫力がありました。4時半頃に車で寝ているところをたたき起こされてケンタウルス座アルファを見させられました。「寝てるんじゃない」ということらしいです(笑)。かなり淡くて、なんとか認識はできましたが、かんたろうさんは見えると言っていた暗黒帯どうしてもわかりませんでした。それに比べると、さそり座がもう上がってきていて、M4ははっきりと見えました。

    だんだん曇ってきたみたいで、明らかに見える星の数が減っています。もう薄明が始まりそうな午前5時20分、私もここで撮影を止めにしました。あまりに霜がひどいので、片付けるのは明るくなってからにして、今一度仮眠をとります。


    朝 

    朝、7時20分頃に起きたでしょうか。機材はこんな感じです。
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    さて片付けです。できるだけ霜を落として車の中に詰め込みますが、家に帰ったら全部陰干しする必要がありそうです。8時半頃でしょうか、全て機材を車に積み込み、開田高原を後にします。他のメンバーはこの後木曽シュミットの見学に行くそうです。私は昼に用事があるので、この日は退散です。

    帰る時に撮影場所から見た御岳山がとてもきれいでした。
    ontake

    朝は日の出を撮影しにきている人が多くいました。
    hinode

    私もiPhoneで1枚パシャリ。
    IMG_7327


    帰り道のガスト

    帰り道、スリップなどはなかったですが、これを真っ暗な夜に走るのはちょっと怖いです。

    15分頃走ったところで、Mちゃん親子が泊まっている「日の出旅館」を認識しました。ちょっと距離はありますが、次回はここで宿を取るのもいいのかもしれません。

    仮眠を取ったので途中眠くはなかったですが、夕食がサンドイッチとおにぎり一個、夜食がシュークリーム一個だけだったので、ドライブ中お腹が空いていました。最初のコンビニで何か買おうと思っていましたが、高山近くになってやっとコンビニが見えたので、あと少し我慢して街中の店を探しました。まだ10時前であまり空いているレストランはなかったのですが、ガストがモーニングをやっていました。

    ガストのモーニングかなりいいですね。いつも行くコメダ珈琲と比べてしまいますが、ドリンクバーは飲み放題だし、コメダのパンと茹で卵だけよりももっとしっかりした食事がよく似た値段で食べることができます。この日は和食のモーニングにして、さらに10時半のランチメニューになってからから好しの唐揚げを追加で頼んでしまったので少し割高になってしまいましたが、長居もできそうなのでモーニングだけの勝負ならガストの方がいいかもしれません。


    自分にお疲れ様

    その後、安全運転で12時半頃に自宅に到着。すぐに機材を陰干しにし、少し用事を済ましてからは昼寝です。やはり寝不足で、ぐっすり眠れました。最近徹夜は辛いです。起きたら夕方で、ほとんど日曜は潰れてしまいました。寒かったのもあるのですが遠征はかなり体力を使います。遠征の時はやはりせっかくの暗い空を生かした撮影を目指すのがいいと改めて思いました。

    自宅に着いた時、妻が富山も昨日から寒くて、昼になっても全然部屋が暖まらないとか不満を言っていましたが、長野の寒さに比べたらもう全然で、実は富山は寒くないんだということを思ってしまいました。遠征はできれば冬よりは暖かい季節のほうがよさそうです。

    M81の画像処理を終えたら、また記事にします。


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