分光撮影で、太陽のコロナの構造を一部見ることができます。これはすごい!
太陽のコロナは非常に淡いため、通常の観測では見ることができません。そのため皆既日食で暗くなった時に、周りの放射状に広がっていくコロナが観測されるのはよく知られています。
コロナは太陽の周りだけでなく、光球面にもその複雑な構造が存在しています。コロナは100万度以上の高温で、可視光よりもX線での放射が大きく、その構造はX線で観測することで見ることができます。X線を見るカメラは、研究レベルでは民生品(浜フォトなど)が手に入ります。ですが、太陽からのX線は地球の大気で吸収されてしまうため、たとえX線のカメラを使ったとしても、地上から観測することはできません。そのため、通常は衛星からの撮影に限られてしまうので、どうしてもアマチュュア天文では手が出ない、研究ベースのものになってしまいます。
ですが、可視光の範囲にもコロナの情報を含む波長が存在するのです!今回利用したのは、以前撮影したHe D3線です。
といっても普通にHe D3線を撮影しただけだとノイズに埋もれがちなので、He D3画像を50枚とか100枚とか、枚数を稼いで統計的にノイズを減らして、より淡い構造を見ることでやっと出てくるくらいのもののようです。
例えば1975年のこの論文に、太陽表面ではなく縁(へり)についてですが、比較的わかりやすく議論されています。PDF版が右のアイコンをクリックすると無料で読めるので、興味がある方は読んでみてください。
ごく簡単に説明すると、ヘリウムがコロナのXUV 放射(X 線および極端紫外線放射)で励起されるならうまく説明できるだろうと書かれています。その励起のアイデアはなんと1939年に提唱されていて、さらに1971年このアイデアが支持されたということで日本人の論文が参照されています。
論文ではコロナの放射がHe I及びHe IIにどれくらい影響するかを定量的に見積もり、最終的にD3線の輝度で見えるレベルになるのかどうかの評価を数値的に確認し、D3線で十分なコントラストで見えることが示されています。議論は主に縁についてですが、最終的にはコロナホールなどの構造でもうまく適用できるとして、実際にうまく撮影ができている例があると結論づけています。
50年以上も前からこんな議論がされていたことに驚くのですが、それでも研究レベルのことがアマチュア天文の機材で簡単に楽しめる時代になったということは、やはり機材や画像処理のものすごい進歩を感じざるを得ません。
撮影ですが、以前のHe D3の撮影の記事でも説明した通り、D3線は輝線のみなので基本的に明るく、そのまま見ても構造は全く見えません。撮影した画像から、少し波長をずらした連続光を、画像処理においてさっ引く必要があるため、D3線を含みながら近くにある暗線を含めて、多少広い波長範囲で撮影してやる必要があります。
さらに今回は枚数を稼ぐ必要があります。分光での撮影は早くても1回につき30秒から1分程度かかります。50枚とか100枚撮影しようとすると1時間オーダーのそれなりに長時間撮影になるので、太陽方向からずれていかないように赤道儀の極軸合わせの精度が重要になります。昼間の撮影になるため当然北極星は見えず、赤道儀の極軸の精度があまり出ないので、最初のうちは数枚連続撮影するだけで、徐々に見えている太陽が東西方向にずれていってしまいました。
前回の撮影時の経験から、太陽が画面で見ていて左側にずれていった場合、赤道儀を水平方向に(モーターでなく、赤道儀の根本のネジで)東方向(上から見て時計回り)に回転させることで補正できることが分かっていました。今回は画面で見て右にずれていったので赤道儀を西方向に回転させ調整します。でも何故かどんどんズレが大きくなっていく気がするんですよね。何度か回転させた後やっと気づきました。あ、昼ですでに天頂越えして赤道儀が反転してるから、画面で動く方向が逆になっているんだと。単純なことですが、最初からはなかなか気づかないものです。極軸調整後は10枚以上撮影しても全くずれなくなりました。
撮影時間は2025年11月4日の昼前11時から40分くらいです。11時の時点で赤道儀はすでに反転していたので、その後も画像を反転などする必要がなく一定方向で撮影できました。今回は52枚撮影し、その中の51枚を使用しました。もう少し枚数を稼ぎたかったのですが、最後は雲が出てきて終了となりました。
撮影した51枚のスタックですが、まずImPPGで位置合わせして、その後PixInsightのFFTRegisgtrationでさらに位置合わせをします。その際は「拡大縮小」に加え、「回転」と「大きな変換」オプションもオンにしましたが、ログでずれを見ている限りImPPGだけでもほとんど位置は合うのかと思います。FFTRegisgtrationはスタックも同時にやってくれるので、今回はそのままこちらのスタック機能を使用しました。まずはスタック直後の画像です。この時点ではコロナの構造などはまだほとんどわかりません。JSol'ExではP角の補正を自動でしてくれるので、一般の画像と比べるためにこの時点でその日の傾きの約24度ぶんを時計回りに回転させています。
JSol'Exの出力の時点で十分明るい画像になっているので、極端なストレッチは必要ありません。それよりも、どの程度の輝度の変化を見やすくするかという観点でのストレッチが重要になります。あと、輝度を反転させると構造がわかりやすくなります。He D3線の結果です。波長は5875.62Åになります。
下は、同日11月4日のX線の比較画像です。残念ながら、いつも見ているSDOが機器の故障で9月13日を最後に更新が止まってしまっています。それでもこれもいつも見ている宇宙天気ニュースが日別に更新てしてくれていますし、SOHOが動画になってしまいますが、各波長で公開してくれています。今回は宇宙天気ニュースの画像を使用しました。元はGOES衛星のSUVI 195カメラとのことなので、195Åになります。X線なので、上のHe D3線の30分の1程度のかなり短い波長になります。
どうでしょうか?全然波長が違うにもかかわらず、X線で見えるコロナホールと呼ばれる暗い大きな面積部分と、その周りにある黒い筋のような線が、He D3線でもかなりかなり再現されていることがわかります。上下に暗い部分が出てしまうのは機材によるわずかなムラで、どうしても上下が明るく写ってしまいます。それが反転して、ここまであぶり出した結果暗くなってしまいます。白い明るい部分はこの日の活動領域で、コロナではないですがこの部分の形も同じようなものが再現できています。
He D3を使ったコロナ構造の観測は古くから行われていますが、Solexの広がりきっかけで、アマチュアレベルでここまで見えるようになってきました。今回、私もやっとSHG700を使って自分で確かめることができました。
今後も機器の発達や、新しいアイデアで日食でなくてもコロナを観測する方法が出てくるのかと思います。例えば、「コロナグラフ」と呼ばれる、円盤などで光球面を覆う遮蔽を使って人工日食を作りコロナを観測するというアイデアは昔からあって、最近ではProba-3が本当の日食で撮影したかのようなコロナ画像を出しています。アマチュア天文の範囲コロナグラフがうまくいったという例は探した限り見つかりませんでしたが、分光を使った方法やさらに全く新しい手法が出てくるかもしれません。将来どこまで見えるようになるのか、とても楽しみです。
コロナは簡単には見えない
太陽のコロナは非常に淡いため、通常の観測では見ることができません。そのため皆既日食で暗くなった時に、周りの放射状に広がっていくコロナが観測されるのはよく知られています。
コロナは太陽の周りだけでなく、光球面にもその複雑な構造が存在しています。コロナは100万度以上の高温で、可視光よりもX線での放射が大きく、その構造はX線で観測することで見ることができます。X線を見るカメラは、研究レベルでは民生品(浜フォトなど)が手に入ります。ですが、太陽からのX線は地球の大気で吸収されてしまうため、たとえX線のカメラを使ったとしても、地上から観測することはできません。そのため、通常は衛星からの撮影に限られてしまうので、どうしてもアマチュュア天文では手が出ない、研究ベースのものになってしまいます。
ですが、可視光の範囲にもコロナの情報を含む波長が存在するのです!今回利用したのは、以前撮影したHe D3線です。
といっても普通にHe D3線を撮影しただけだとノイズに埋もれがちなので、He D3画像を50枚とか100枚とか、枚数を稼いで統計的にノイズを減らして、より淡い構造を見ることでやっと出てくるくらいのもののようです。
なぜHe D3にコロナの情報が含まれるのか?
例えば1975年のこの論文に、太陽表面ではなく縁(へり)についてですが、比較的わかりやすく議論されています。PDF版が右のアイコンをクリックすると無料で読めるので、興味がある方は読んでみてください。
ごく簡単に説明すると、ヘリウムがコロナのXUV 放射(X 線および極端紫外線放射)で励起されるならうまく説明できるだろうと書かれています。その励起のアイデアはなんと1939年に提唱されていて、さらに1971年このアイデアが支持されたということで日本人の論文が参照されています。
論文ではコロナの放射がHe I及びHe IIにどれくらい影響するかを定量的に見積もり、最終的にD3線の輝度で見えるレベルになるのかどうかの評価を数値的に確認し、D3線で十分なコントラストで見えることが示されています。議論は主に縁についてですが、最終的にはコロナホールなどの構造でもうまく適用できるとして、実際にうまく撮影ができている例があると結論づけています。
50年以上も前からこんな議論がされていたことに驚くのですが、それでも研究レベルのことがアマチュア天文の機材で簡単に楽しめる時代になったということは、やはり機材や画像処理のものすごい進歩を感じざるを得ません。
撮影
撮影ですが、以前のHe D3の撮影の記事でも説明した通り、D3線は輝線のみなので基本的に明るく、そのまま見ても構造は全く見えません。撮影した画像から、少し波長をずらした連続光を、画像処理においてさっ引く必要があるため、D3線を含みながら近くにある暗線を含めて、多少広い波長範囲で撮影してやる必要があります。
さらに今回は枚数を稼ぐ必要があります。分光での撮影は早くても1回につき30秒から1分程度かかります。50枚とか100枚撮影しようとすると1時間オーダーのそれなりに長時間撮影になるので、太陽方向からずれていかないように赤道儀の極軸合わせの精度が重要になります。昼間の撮影になるため当然北極星は見えず、赤道儀の極軸の精度があまり出ないので、最初のうちは数枚連続撮影するだけで、徐々に見えている太陽が東西方向にずれていってしまいました。
前回の撮影時の経験から、太陽が画面で見ていて左側にずれていった場合、赤道儀を水平方向に(モーターでなく、赤道儀の根本のネジで)東方向(上から見て時計回り)に回転させることで補正できることが分かっていました。今回は画面で見て右にずれていったので赤道儀を西方向に回転させ調整します。でも何故かどんどんズレが大きくなっていく気がするんですよね。何度か回転させた後やっと気づきました。あ、昼ですでに天頂越えして赤道儀が反転してるから、画面で動く方向が逆になっているんだと。単純なことですが、最初からはなかなか気づかないものです。極軸調整後は10枚以上撮影しても全くずれなくなりました。
撮影時間は2025年11月4日の昼前11時から40分くらいです。11時の時点で赤道儀はすでに反転していたので、その後も画像を反転などする必要がなく一定方向で撮影できました。今回は52枚撮影し、その中の51枚を使用しました。もう少し枚数を稼ぎたかったのですが、最後は雲が出てきて終了となりました。
画像処理
撮影した51枚のスタックですが、まずImPPGで位置合わせして、その後PixInsightのFFTRegisgtrationでさらに位置合わせをします。その際は「拡大縮小」に加え、「回転」と「大きな変換」オプションもオンにしましたが、ログでずれを見ている限りImPPGだけでもほとんど位置は合うのかと思います。FFTRegisgtrationはスタックも同時にやってくれるので、今回はそのままこちらのスタック機能を使用しました。まずはスタック直後の画像です。この時点ではコロナの構造などはまだほとんどわかりません。JSol'ExではP角の補正を自動でしてくれるので、一般の画像と比べるためにこの時点でその日の傾きの約24度ぶんを時計回りに回転させています。
コロナ構造の比較
JSol'Exの出力の時点で十分明るい画像になっているので、極端なストレッチは必要ありません。それよりも、どの程度の輝度の変化を見やすくするかという観点でのストレッチが重要になります。あと、輝度を反転させると構造がわかりやすくなります。He D3線の結果です。波長は5875.62Åになります。
下は、同日11月4日のX線の比較画像です。残念ながら、いつも見ているSDOが機器の故障で9月13日を最後に更新が止まってしまっています。それでもこれもいつも見ている宇宙天気ニュースが日別に更新てしてくれていますし、SOHOが動画になってしまいますが、各波長で公開してくれています。今回は宇宙天気ニュースの画像を使用しました。元はGOES衛星のSUVI 195カメラとのことなので、195Åになります。X線なので、上のHe D3線の30分の1程度のかなり短い波長になります。
どうでしょうか?全然波長が違うにもかかわらず、X線で見えるコロナホールと呼ばれる暗い大きな面積部分と、その周りにある黒い筋のような線が、He D3線でもかなりかなり再現されていることがわかります。上下に暗い部分が出てしまうのは機材によるわずかなムラで、どうしても上下が明るく写ってしまいます。それが反転して、ここまであぶり出した結果暗くなってしまいます。白い明るい部分はこの日の活動領域で、コロナではないですがこの部分の形も同じようなものが再現できています。
まとめ
He D3を使ったコロナ構造の観測は古くから行われていますが、Solexの広がりきっかけで、アマチュアレベルでここまで見えるようになってきました。今回、私もやっとSHG700を使って自分で確かめることができました。
今後も機器の発達や、新しいアイデアで日食でなくてもコロナを観測する方法が出てくるのかと思います。例えば、「コロナグラフ」と呼ばれる、円盤などで光球面を覆う遮蔽を使って人工日食を作りコロナを観測するというアイデアは昔からあって、最近ではProba-3が本当の日食で撮影したかのようなコロナ画像を出しています。アマチュア天文の範囲コロナグラフがうまくいったという例は探した限り見つかりませんでしたが、分光を使った方法やさらに全く新しい手法が出てくるかもしれません。将来どこまで見えるようになるのか、とても楽しみです。























