ほしぞloveログ

天体観測始めました。

タグ:Hα

今回は、4月から撮影の合間にずっと続けているエタロンの調整についてです。現段階でまだ結論は出てませんが、かなり溜まってきたので、途中経過を一旦記事にまとめておきます。


はじめに

4月30日に書いた記事の中で書いた目標の最後の9番、C8+PSTでの良像範囲の改善です。今回の記事の範囲ではカメラはASI290MMを使っています。次回以降の記事では新カメラも使っていきます。

エタロンの調整はなかなか難しいので、簡単でわかりやすいところから順番に丁寧にやっていきます。この記事の後に試したことで、答えがわかっていてすでに意味がないこともありますが、それを飛ばして書くと意味がつながらなくなることもあるので、基本はやったことを順に書いておくことにします。

作業に入る前に、前提条件を書いておきます。
  • エタロンの回転角の自由度による不定性をどうするか? -> 画面中央が暗くなる位置で、ほぼ一意に決まると考える。
PSTのエタロンは、調整リングを回転させ、エタロンに圧力を加えることで鏡間の距離を変化させ、透過波長を調整します。現在の手持ちのエタロンは良像範囲は狭いのですが、暗い部分が画面中心にくることで中心波長を判断していて、その位置さえ再現すれば回転角はほぼ一意に決まるので、毎回その角度に持ってくるようにして一連の作業を進めています。もちろんん多少の誤差はありますが、今回の調整範囲程度では十分再現性もあると考えています。

(補足) 以前は入射光に対するエタロンの角度を変えて中心波長を調整すると思っていましたが、それだと計算上十分な角度変化が取れなさそう (今考えるとFSRの10%くらいは変わっていいはずで、当時の計算は2%) なので、ずっと疑問に思っていました。PSTを作ったCoronado社が持っている特許と、実際に実装されている方式を見る限り、圧力式と思って間違いないと思われます。2024年春までに一連の特許が切れたために最近のエタロンに採用されたようです。Phoenixのエタロンも、後部のスポンジの存在など、見ている限りPSTのものに酷似しています。

もう一つ、今回の一連の作業で困難と思われることを書いておきます。
  1. エタロンへの入射光の平行光度と、エタロンがきちんと働いているかの関係がまだよくわかっていない。
  2. 良像かどうか、スタックして細部出しをしないとわからないことがある。
  3. ニュートンリングが撮影時に確認できない。
などです。

1については、前回前々回の記事で、8cmでエタロン位置を0-5cm程度動かして、エタロン内に入射する光を平行光からずれた状態を作ったはずなのですが、結局エタロンの働きに差を見出すことはできませんでした。鏡間距離が短いことと、フィネスが低い( = 光の折り返し回数が少ない)ことが要因だと推測していますが、もっと動かしたら違いがわかるのか、実はすでに影響が出ていて気づいていないだけなのか、もう少し検証が必要です。

2は結構厄介です。はっきりとした悪い像はリアルタイム見てもわかるのですが、中にはリアルタイムで(まだボケた状態で)見て問題無いと思っていても、スタックした後で(これもまだボケた状態で)見て問題無いと思っていても、ImPPGで細部を出すと、なんかボケ気味だという場所が画面の中の部分的に存在することがあります。撮影時に確かめられるといいのですが、かなり最後の方まで画像処理して出てくるので、すぐに判断ができなくて調査が進みません。この一部がボケる原因そのものも、まだよくわかっていません。

3は、今回以降の一連の検証作業の途中で、カメラの角度が問題だということがわかってくるのですが、カメラの角度を変えるとニュートンリングが出てくることがあります。ニュートンリングを避けたいのですが、軽いものだと太陽表面の模様などに隠れて、撮影中はよくわからないのです。これも画像処理を進めていく過程、特にタイムラプス映像まで作ると、リング上の模様が動いているのがわかることがあります。撮影時に判断ができないので、困りものです。


PSTを回転

最初にやったのはかなり簡単なことです。

1. PSTとC8の取り付け相対角度を変える

まずいつもの通りC8+PST+ASI290MMで太陽表面のHα画像を撮影します。上に書いた通り、エタロンリングの調整は画面中央付近が一番暗くなるところを選ぶので、ほぼ一意に決まります。少しわかりやすいところを選びましたが、いつものように画面右側が明らかに模様が出ていないのがわかります。

スクリーンショット 2025-04-26 141939

次に順次PSTをC8に対して90度づつ回転していきます。その際、同時にCOMSカメラも順次90度回転させていき、視野の角度が回転しないように補正するようにします。PSTを90度や180度回転させただけではそこまで違いがわからなかったのですが、270度回転させた時には明らかに改善が見られました。

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その時の画像です。見ている場所が違うので少し比較しにくいですが、明らかに右側が改善しているのがわかると思います。

スクリーンショット 2025-04-26 141435_270

この状態で、500フレーム撮影し、改善するかどうか比較してみました。
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うーん、右側は思ったより改善してません。この日(4月26日)はここでおしまいとなりました。


もしかしてエタロンのではない?

2. チルト角度調整

4月30日の記事で書いたように、上のテストの次の日 (4月27日) に粒状斑を撮影しています。そこでふと気づいたのですが、ここでも同じように右側がボケボケなんですよね。クロップしていない画像を改めて載せておきます。

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PSTで右側がボケていたのはエタロンの透過中心波長がHαからズレていたと思い込んでいたのですが、粒状斑の撮影では白光なのでエタロンは全然関係ないはずです。ということは、これはC8かカメラから来ているでは?と考えたわけです。

ここで怪しいのは、カメラの手前に入れてあるチルトアダプターです。もともとの目的は、焦点距離が長くなりF値が大きくなると、直線的に入ってくる光が多くなるためにニュートンリングが発生しやすくなるので、それを回避する目的でカメラを傾けて取り付けるために入れています。ただ、その傾き角をかなり大きく取ってしまっているので、もしかしたらそれで焦点が合っていないだけなのではないかと思ったわけです。

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しかも、午前と午後では赤道儀が反転するので、画面で見て上側を北に保つためにCMOSカメラを午前と午後で180度回転するのですが、たまにこの180度回転を忘れてしまう時があって、その忘れた時はボケが右から左に移動してるのを思い出しました。もしこのボケがエタロンからきているなら、ここでボケの左右反転は起きないはずですが、もしこのボケがチルトアダプターからきているとしたら、カメラとチルトアダプターの取り付けはねじ込み式なので相対角度は常に保たれているので、左右反転が起きるはずで、今ある現象を説明することができます。

この推測を確かめるために、ゴールデンウィークの5月4日の午後の曇りの中の晴れ間を利用して、実際にチルトアダプターを変更してみました。

結果は上から順に、チルトアダプターが 1. これまで通りほぼ最大角、2. 半分の角度、3. 傾きなしとなります。
スクリーンショット 2025-05-04 152454_01_original
スクリーンショット 2025-05-04 153620_02_hal;f
スクリーンショット 2025-05-04 153912_03_0degree

下にフラット補正時のヒストグラムが残ってしまっているので少し比較しにくいですが、右側が明らかに改善されていきます。傾きをなくした時にもニュートンリングはパッと見は確認できません。傾きなしが一番いいので、とりあえずこれ以降は傾きなしでさらに調整を進めます。(その後、別の黒点画像を連続撮影し、タイムラプス映像にしたところで、明らかにニュートンリングの存在がわかりました。なので、傾きをなくす場合は、何らかの対策が必要です。)


C8に対するエタロン位置調整

3. C8に対して、どれだけPST本体を押し込むか

次に試したかったことは、鏡筒に対するPST固定位置の変更でした。でもその前に、カメラ位置の自由度を高めるために、ここでいったんチルトアダプターを外してカメラをより押し込む方向に動かしました。その結果を載せます。

スクリーンショット 2025-05-04 154255_04_notilter

右側の見え方が有意に悪くなっていますが、理由はまだよくわからないので、一旦は放っておきます。ここでのテストは上の画像がスタートになります。

鏡筒に対して、レンズ込みのエタロン位置を相対的に変えるために、手持ちの2インチの延長アダプターをC8とPSTの間に挟み込みます。これでエタロン位置も含めてPST全体が3cmほど後ろに下がったことになります。ここから更にPSTの入れ込み度合いを調整することで、もう少し位置を変化させることができ、最大で6cmくらい下げることができます。その際のピントは、C8側で合わせます。C8の主鏡の位置をずらすということですが、この調整範囲がかなり広くて、以降のテストで様々な個所の位置を変えていますが、すべてピントを出すことができます。この調整範囲の広さはC8を選んだ利点の一つです。

結果になります。上から順に 1. 2インチ延長アダプター挿入後で初期位置から3cm下がった状態、2. さらにアダプターに浅くPSTを入れることでさらに3cmほど、合計で6cmほど後ろに下げた後となります。
スクリーンショット 2025-05-04 154649_05_2inch_adapter

スクリーンショット 2025-05-04 155148_07_2inch_adpter_faresr

上3枚を比較してみると、最初の位置からエタロンを変化させても、予想に反して右側の映り具合はほとんど変化しません。これは8cm鏡筒でのコメントの議論がヒントになって謎が解決しました。gariさんが「PSTの黒箱を望遠鏡に挿してピントを合わせられる場合、対物がいずれの場合でも焦点位置からだいたい200mm手前の位置に-200mmのレンズが配置されることになるので、いずれの対物でもほぼ平行光になります」と言っていて、その後、私から「PSTの場合、レンズ位置とカメラの位置が固定だから、ここをいじれない限り大きく状況は変わらないということですね」と返しています。今回はPSTのピント調整を使わずに、この段階ではカメラ位置も調整していなくて、手前のC8のみでピントを合わせていることになります。結局エタロン以降でのセンサー面までの光の状態に(ほぼ)違いはないので、コメントでの議論が実証されたような形になるのかと思い、納得できました。


カメラ位置の調整

面白いのはここからです。

4. カメラの位置を変えて、エタロンとカメラセンサー面の間の距離を変える

上の最後の状態から、カメラをPSTに対して浅く差し込むようにして、エタロンから遠くで固定するようにしてみました。右側に明らかな改善が見られ、細かい模様が出ています。
スクリーンショット 2025-05-04 155839_09_2inch_adapter_faethest_tilter_far

ここに載せている状況以外でもいろいろ試してみましたが、やはりカメラを遠くに付ける方が右側のボケが少なくなるのは確実なようです。なので結局、C8とPSTの間の2インチ延長アダプターは外して、チルトアダプターを再度取り付けました。その時の画像が以下です。

スクリーンショット 2025-05-04 160149_10_no2inchadapter_tilter_camera_far

ただしこれがベストかというと、たぶんまだ結論を出すのは早そうです。まず画面右側はいいのですが、逆に左側の分解能が出ていない気がします。また、画面上にニュートンリングっぽい回転状の模様が出ているようにも見えます。でも見分けはかなり微妙で難しくて、明らかな差が出るような状況にない限りは自信をもってこれがいいというのは難しいです。


再度PSTを回転

5. PSTをC8に対して、再び回転させてみる

上の状態をもう少し改善できないかと思い、ここから、再度前週に試したPSTの取り付け角度を探ることにしました。書き忘れてましたが、この日のテストは再びPSTを0度で取り付けていて、前週の270度ではなくなっています。正直に言うと、単に270度のことを完全に忘れていただけで、何の疑いもなく最初からいつも通りに0度に取り付けてしまっていました。

0度から順に変えていきます。上から0度、90度、180度、270度です。
スクリーンショット 2025-05-04 162401_01_0deg_original_tilter0deg
スクリーンショット 2025-05-04 162931_03_90deg
スクリーンショット 2025-05-04 163133_05_180deg
スクリーンショット 2025-05-04 162709_01_270deg

これら4枚を比べると、特に画面左側が、有意に180度 > 90 or 270度 > 0度となっていると言えそうです。前週の270度がよかったというのは、やはりチルトアダプターでの右側のピンボケの効果が含まれた複合原因だったといってよさそうで、今回の180度の方がより独立した正しい判断だと言うことができそうです。


更にカメラを遠く

6. カメラを最大限遠くに固定

この日の最後に、カメラ位置をもっと遠くにしたらどうかということで、カメラのところに1インチの延長アダプターを挟み込んでみました。下が結果になります。

スクリーンショット 2025-05-04 164049_06_180deg_externder_best_but_darker

大きく変わったことが2つあります。まず、明らかに全体が暗くなりました。画面での見かけ上はストレッチを駆使して同じくらいになるように調整していますが、ヒストグラムの山の位置を比べて見ると明らかに左に移動しているので、実際は暗くなっているのがわかります。この暗くなるのが、BFの径が小さいことによる制限からきているのか、エタロンの働きが変わってよりHαに合ったので暗くなったのか、もしくは全く別の理由なのかは今のところ不明です。ただ、全体的に分解能はよくなったようにも見えますが、これは時間にも依るものなのかもしれないのでまだ結論は出ていません。

まとめ

と、今回の記事はここまでとしたいと思います。

ここ最近ずっとこのエタロン調整のことを考えています。週末の天気が悪くて、何の検証もできなかったのが不満なのか、昨晩はとうとう夢の中にエタロンが出てきて、全く訳のわからない調整を延々としていました。もうちょっとした末期症状です。

この後、より画角の広いG3M678Mが来て、さらにいろんなことがわかるのですが、これまた長くなるので、次回以降に書くことにします。


ゴールデンウィーク中の太陽の目玉は、何と言っても大型黒点でしょう。


名古屋市科学館での太陽

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5月3日の4連休の初日に実家の名古屋に行った際、名古屋市科学館に行きました。9時10分頃に到着したのですが、運よく10時からの一般向けの回のチケットを、残り10席くらいでとることができました。ゴールデンウィークなので次の11時20分からのファミリー向けの回の方が人気があったようです。

今回のプラネタリウムは土星の輪の消失の解説が面白かったです。名古屋市科学館はいつも生解説なのが魅力です。今回も素晴らしいトークでした。解説によると、3月24日に地球が土星の輪の平面内を通過するので一度輪が見えなくなっていて、次が5月7日なのですが、その時は今度は太陽が土星の輪の平面内を通過するために輪に平行にしか光が当たらなくなり見えなくなるとのことです。このことを、CGで土星の輪に乗っかって地球と太陽を見るという試みをしていました。非常に直感的でわかりやすくてよかったです。

科学館の常設展示の中で今回特に面白かったのは、太陽のリアルタイム映像でした。プラネタリウム中にも解説していたのですが、同じフロアで太陽の白色光を減光して投影していて、この日は話題の大型黒点がよく見えました。
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北が上になるように写しました。おおがた黒点が間も無く正面にくるくらいです。

他にも、5階の天文コーナーがいろいろ変わっていました。円形の部屋の壁全面を利用して、一周で宇宙のスケールを距離で表している展示があって、かなりわかりやすい試みだと思います。
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ここがスタート。

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壁全面に、宇宙の果てまでの距離に応じた展示があります。

この日は特別展で科学館の地下で「鳥」展が開催されていました。かなり人気らしくて、入場のところから並んでいて、中もすごい人でした。いろんな鳥が各「目」に分かれていて、たくさんのはく製が展示されています。「目」での分類は、ある意味鳥の進化の歴史でもあるようで、鳥の進化そのものがわかるという内容で、とても充実していました。
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こんな展示が44目(多分)まで続きます。

私は鳥にはそこまで興味はないごくごく普通ののですが、非常に興味を引くように展示が工夫されていて、鳥に詳しくないとしてもとても面白いと思います。


天文ショップスコーピオでの太陽

その後、大須方面まで歩いて移動し、上前津から地下鉄に乗り、伏見で東山線に乗り換えて八田駅まで行き、天文ショップのスコーピオに顔を出しました。早速店長さんが口径76mmの太陽望遠鏡Heliostarを見せてくれました。
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CP+で話したPhoenixも良かったですが、Heliostarは口径が76mmとPhoenixの40mmの倍近くになり、特にアイピースの焦点距離を短くして拡大した時は、見応えも格段に良くなります。今回は標準の20mmアイピースに加えて、10mmと5mmのアイピースで見させてもらいました。5mmは126倍とかなり拡大して見ることになるので、流石に少しは暗くなりますが、それでも元の口径が76mmと大きいので、不満のない十分な明るさで見ることができます。ここまで拡大しても細かいところまでよく見えるのは、やはり76mmの恩恵でしょう。これで拡大して見た大型黒点は、かなり細かい模様も見えて大迫力でした。

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スマホで撮影してみましたが難しいです。
目で見た方がはるかに迫力があります。

この大黒点は肉眼黒点の可能性もあり、スコーピオの店長さんと太陽フィルムで見てみました。肉眼黒点としてはそこまで大きなものではないので、かなり小さかったですが確かに何の拡大もなく見ることができました。


Hαで太陽大黒点を撮影

次の日の4日には富山の自宅に帰ってきて、今回の黒点を撮影しようとしました。午前中は曇りで諦め、午後からHαで撮影したのですが、少しの晴れ間を狙っての撮影だったので時間をかけられずに、大した解像度は得られませんでした。むしろこの日はいろんな調整に時間を費やしました。この日のことはまたまとめて記事にします。

天気予報では次の日の5日は朝から快晴のはずです。張り切って朝の5時半には起きたのですが、外はなぜかどん曇りです。その場でSCWを見直してもWindyを見直しても雲はないはずです。もう状況がよくわからないので、ふてくされてガストのモーニングで時間を潰します。10半頃にはかなり晴れてきたので自宅に戻り、11時頃にはほぼ快晴、11時半頃には準備も完了して、前日あまりうまくいかなかった撮影を始めました。機材はいつものC8+PST+ASI290MMです。赤道儀は簡単に出せるCGEM IIです。

30秒インターバルで1ショットあたり200フレームで120ショット余り撮影しましたが、シーイングは普通よりは多少いいくらいだったでしょうか。撮影した中の、連続の2ショットがかなりシーイングが良かったので、2ファイル分の合計400フレームのうちPIPPで上位300フレームを選び、その300フレームをすべてAS4!でスタックしました。その後はImPPGで細部出しですが、最近の精細な画像ではsigmaは0.5一択で、あとは適時調整します。コントラスト出しやカラー化などはPixInsightのSolar Toolboxで、その後仕上げにPhotoshopに回しています。

結果はモノクロ、カラー、カラー反転の3つを示しておきます。
12_04_42_pipp_lapl2_ap3929_IP2_05_13_50

12_04_42_pipp_lapl2_ap3929_IP2_05_13_50_color

12_04_42_pipp_lapl2_ap3929_IP2_05_13_50_color_inv

今回のゴールデンウィーク中の目的の一つ、大黒点の撮影がある程度分解能よくできました。このように目立つ黒点が出た時も、確実に分解能よく撮影する手法が確立して、それが実践できるようになってきたのかと思います。また、少なくとも静止画に関しては撮影、選別、画像処理のルーチンはほぼ出来上がったと言っていいので、処理もその日のうちに終わり、今回も当日のうちにXに投稿しています。太陽は時間勝負のところもあるので、ここら辺の早い処理というのも目的の一つでした。


お客さんと太陽を見る

C8での撮影を終えて、全景用に鏡筒を変更しようとして家の中に入っているときに、玄関のチャイムがなりました。最近近くに引っ越してきた、アメリカ在住時代からの古くからの友人が、お嬢さんを連れてやって来ました。何でもお嬢さんの方が、私のXの投稿で朝から太陽をやっているのを見て、興味を持って来たとのことです。実はお嬢さんは赤ちゃんの頃に顔を見ているだけで、聞いたらもう中3とのことで、はじめましてではないのですが、実際にははじめまして状態でした。わざわざ太陽なんかに来てくれるくらいなので、星のことには結構興味があるみたいで、話してみると色々詳しくてちょっとびっくりでした。

まずは、太陽グラスで黒点を見てもらいますが、大黒天と言っても肉眼だとやはり小さくてわからないようです。そこで、星座ビノに太陽グラスをテープで固定して見てもらうことにしました。
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これだとさすがに黒点も十分に見えるはずで、二人とも「見えた!」と叫んでました。

太陽と言っても、C8の撮影は撮り続けて待っているだけなのですが、太陽全景ならSharpCapでリアルタイムで色付きで見えるので、多少は楽しいはずです。というわけで、鏡筒交換の準備を続けながら太陽全景を一緒に見てもらうことにしました。


8cm鏡筒用に太陽用ファインダーとガイド鏡

口径8cmの鏡筒も改良が進んでいます。玄関のチャイムが鳴った時は、ちょうど太陽ファインダーを取り付ける準備をしているところでした。C8の場合は鏡筒内からの反射光のスポットが補正版に当たるので、それが中心に来るようにアラインメントを取ればいいので目安があって簡単なのですが、口径8cmの場合はそのような指標がなくて、毎回導入に手こずっていました。10cmに取り付けていた太陽ファインダーがあったのを思い出し、それアルカスイス互換のクイックシューを取り付け、8cm鏡筒の下部に取り付けたアルカスイス互換プレートにそのまま取り付けられるようにしました。

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写真のようにアルカスイスプレートの前方にファインダーを取り付けるのですが、導入後は取り外して、撮影時は下に写っているガイド鏡に交換します。今後は、この後に出てくる新カメラで一度に太陽全景が撮れるようになるので、タイムラプスなどの長時間撮影をしたい時にガイド鏡が活躍するはずです。

こんなふうに実物を見せながら、ファインダーの動作原理から、取り付けの際のアルカスイス互換リリースの取り付け、鏡筒に固定してからの導入などもお客さん二人に説明しながら、いよいよ太陽像を見てもらいます。


太陽撮影用新カメラG3M678M

今回の目玉は新カメラの投入です。ToupTekのG3M678Mという機種です。
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中身は至ってシンプルで、マニュアルもドライバー関連も入っていません。
左上の黒いアダプターを使うと、
アメリカンサイズのフィルターを取り付けることができます。

IMX678センサーを使っていて、ピクセルサイズが2μmとかなり細かい撮影が可能です。これまでのASI290MMが2.9μmなので、約1.5倍くらい細かくなるわけです。同センサーのカラータイプはZWOからもでていますが、モノクロで天体用はToupTekからだけのようです。 (追記: 2025/5/8) ZWOでも同センサーでASI678MMが出ていますが、いずれも売り切れや取り寄せなど、日本の代理店を通してだと入手が大変そうなのと、値段がかなり上がります。海外では太陽でG3M678Mの実績が多数報告されているので、初期不良や故障の場合は少し面倒かもしれませんが、今回はG3M678Mを選びます。(追記ここまで) 分解能を考える場合は、カラーとモノクロではモノクロの方が単純に2倍細かくなるので、単波長の太陽撮影では同じセンサーならモノクロタイプの方が圧倒的に有利です。センサーサイズは1/1.8''と、これまでのASI290MMの1/3インチよりこちらも1.5倍くらい大きくなるので、今回は大きな面積を取ることができ、かつ細かく撮影できると、いいことずくめです。

その一方で、もちろん犠牲にするものがあって、それはピクセルサイズが小さくなることによる感度の低下と、センサー面積が大きくなることで高価になることでしょうか。でも太陽撮影で十分明るいものを見るので感度はそこまで問題ではないでしょう。またセンサー面積が大きくなったと言っても、たかだか惑星用カメラの面積なので大したことはなく、CMOSカメラとしてはまだ安価な部類でしょう。しかも今回はじめてAliExpressを使って安いところを探して購入してみました。ToupTekの日本語のページもありましたが、ただ単に日本語化しているだけのようで、ドル払いで、しかも割高なので、結局AliExpressにしました。支払いもPayPalでできたので、直接カード番号を入れるとはしなくてよく、多少安心です。発注から到着まで20日ほどかかるとのことでしたが、実際には15日くらいで少し早めに来て、ちょうどこの日C8から8cm鏡筒に交換している最中に到着したので、タイミング的なこともありますが、ゴールデンウイーク中に使うことができて、結構好印象です。


太陽全景撮影

さて、今日の太陽全景です。まずはいつものようにASI290MMで撮影し、特に問題ないことを確認します。その後、今回の新カメラに交換します。このカメラはアイピース径と同じ筒タイプのカメラなので、アイピース口の中に押し込んでセンサー面をより鏡筒側に近くにすることができます。

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今回はカメラの差し込み位置などの最適化はまだできていないので、適当な位置に入れてピントが出るかどうか試したくらいです。ドライバーとかはあえて何もインストールしなかったのですが、SharpCapではそのまま認識して、接続までできました。

さて実際にSharpCapで見てみると太陽全景が一度に入っていることがわかります。こんなふうに撮影まで何のトラブルもなくできたので一安心です。

スクリーンショット 2025-05-05 150358
とりあえずの細部出しです。今後パラメータを調整していきます。

スクリーンショット 2025-05-11 141625
Stabilization/Alignmentの設定を見たいというリクエストがあったので、
フォルダーモニター機能で保存してあったファイルを再生し、追加しました。
ガイドが前提なので、最低限の設定になっています。

PCでこの画面を見て、高分解、モノクロで、やっと一度に太陽全体が入って、かなり嬉しかったです。このカメラは今後の太陽撮影に色々使えそうで、今回の全景撮影はまだほんの一例に過ぎないです。

この状態で、とりあえずリアルタイムスタックでカラー化とプロミネンス鏡長をしたものを、PNGで画像を保存してみました。SharpCap以外での画像処理はしていません。(ブログにアップロードする関係でサイドの黒いところをクロップして、jpgに変換だけしてあります。)
15_03_37_Sun_00001 15_03_37_WithDisplayStretch

ここまでがワンステップで出るので、これまでやっていたかなりのことを省くことができて、相当楽になります。今後は、気軽に全景のタイムラプスとかもできそうなので、どんどん試していきたいと思います。

今回はASI290MMで撮影したものもありますが、まだG3M678Mの方の最適化ができていないので、比較は次回以降にします。とりあえずのパッと見では差がほとんどないか、まだASI290MMの方が少しいいみたいです。たとえ口径8cmだとしても、焦点距離が400mmと短いために、ピクセルサイズの小ささが効くような状況ではないからだと推測しています。この件はもう少し詳細に調べます。


まとめ

今年のゴールデンウィークは太陽三昧でした。大黒天の撮影もうまくいきましたし、新カメラも到着して全景撮影にも進展がありました。もう少し晴れの時間が欲しかったですが、天気が悪い時には画像処理やブログを書いていました。名古屋に行ったり、お客さんが来たりもしたので、かなり充実していて楽しかったです。

ブログに書いたこと以外でも、まだエタロン良像範囲の調整を数週間前からずっと続けています。こちらは今の段階でも進展はありますがまだ途中なので、もう少し結論が出てからまとめるようにします。





4月26日と27日の土日は太陽三昧でした。特に26日は朝から1日中快晴で、多くの撮影と機材のテストができました。26日の撮り逃し分を27日に撮ったのですが、風が強くて結構大変でした。


足回りの強化

待ちに待った週末の休みです。しかも土曜は快晴の予報。実際、金曜夜の23時頃から晴れてきて、朝までSCA260とRedCat51+SWAgTiで撮影してました。SCA260を出したので、赤道儀はCGX-Lと大型のものになります。いつも太陽でC8を載せて使っているCGEM IIよりも一回り大きいので、安定度が増すはずです。太陽撮影時に細かい揺れがちょっと気になっているので、いい機会だと思い、出しっぱなしのCGX-Lを使うことにしました。

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ついでに、今の構造で一番弱そうだと思われるC8下のVixen規格のアリガタを、Losmandy規格の幅広のものに載せ替えました。それでも鏡筒バンドの下部の接続部が一番細くてそこがネックになりそうなので、以前VISACでやったような、真ん中のネジ加えて2本のイモネジを左右に入れて、押しネジ状態にして強度を増しています。

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実際かなり揺れは収まったようで、PHD2のガイドグラフを見てても明らかに静かになりました。ただし、風の状況などにもよるので、もうしばらく様子を見てから結論を出そうと思います。


この週の目標

今週末にやりたいことは
  1. いつもの口径20cmのC8+ASI290MM+PSTでプロミネンスを1時間撮影し、ベストの静止画を作り、あわよくばタイムラプス映像を作る。
  2. 同セットアップで黒点周りを1時間撮影し、ベストの静止画を作り、あわよくばタイムラプス映像を作る。
  3. 太陽減光フィルムをC8先端に取り付け、PST部分を2倍のバローに置き換え、粒状斑の撮影を1時間程度。
  4. 口径8cmの鏡筒+PST+ASI290MMで、太陽の全景を見ながら、手持ちの2つのPSTを比較。
  5. 同セットアップで、太陽の全景を見ながら、エタロンの位置の違いで分解能が変わるかのテスト。
  6. 同セットアップで、ベストの選択肢で太陽の全景を撮影。
  7. 同セットアップで、SharpCapのリアルタイムスタックで撮影したらどうなるかのテスト。
  8. PST付属の4cmと、口径8cmで分解能は得するかの再検証。
  9. C8+ASI290MM+PSTに戻して、エタロン視野拡大の初期テスト。
と、結構な量があります。


1時間の撮影を3本

午前中のシーイングのいい時を逃さないために、まずは撮影で1と2と3です。この日のシーイングは普通か、それより少しいいくらいでしょうか。朝だからといって、必ずしもものすごくいいというわけではなさそうです。

大きなプロミネンスがいくつも出ていますが、いいシーイングを探すために撮影場所を一箇所に絞って長時間撮影したいので、全部のプロミネンスを撮影することは大変です。とりあえず今回は一番見栄えの良い、リング状に広がっている10時半方向のものを選びました。太陽周辺に沿ってかなり広がっているので、カメラの横手に入るように向きを変えて撮影しました。

露光時間は1.25ms、ゲインは100で、1ショットあたり200フレーム撮影しています。1ショット撮影した後に30秒のインターバルが入って、トータル120枚撮影しました。これまで誤解していたのですが、SharpCapで指定できるのはインターバルタイムなので、例えば何かのトラブルでフレームレートが落ちたりするとその分撮影にかかる時間が増え、1枚1枚の間隔もずれてしまいます。1枚目が7時46分22秒、120枚目が8時54分30秒なので、1枚1分計算より8分8秒余分にかかっています。これを120枚で割ると、1枚あたりの平均撮影時間は4.07秒ということになります。タイムラプス映像のためには、フレーム数で指定するより撮影時間で指定する方がいいのかもしれません。できればキリのいい等間隔で、フレーム枚数も揃えたいのですが、可能なのかどうかまだ調べられていません。

撮影を開始て少し落ち着ついたので、1時間後にアラームかけて、ここで自宅に入り朝食をとりながら少しのんびりします。1時間後、アラームが鳴って続いて黒点の撮影です。この時点で午前9時くらいです。条件はプロミネンスの時と同じで、30秒インターバル毎に200フレームでトータル120枚です。

こちらも撮影を開始すると時間ができるので、早速先ほどのプロミネンスの画像処理を並行で進めます。とりえあえず選別のために、全部を上位90%をスタックします。AutoStakkert4!でのスタックは結構時間がかかり、120枚をバッチ処理すると1時間では収まりません。待っているのも時間がもったいないので、処理ができた端からImPPGにかけてチェックしていきます。

見たいのはシーイングの度合いです。やはりそこまでいいわけではありませんでしたが、中には飛び抜けて分解能が出ている画像が何枚が見つかりました。なので、この時点で少なくとも静止画用の画像は確保できたと思って良さそうです。

そうこうしているうちに黒点の撮影時間が終わり、続いて粒状斑の撮影に移ります。減光フィルターを鏡筒先端に取り付け、PSTを外して、2倍のPowerMATEを付けて午前10時20分くらいから撮影開始です。この撮影中も画像処理を続けました。

その後、黒点周りと粒状斑撮影分も画像をチェックしましたが、この日の粒状斑ぶんは画像処理をする価値がないほどのシーイングになってしまっていました。明らかにプロミネンスや黒点を撮影していたときよりは悪化しています。やはり午前の早いうちの方がシーイングがいいことが多いようです。


静止画

この日の粒状斑撮影ぶんは諦めて、プロミネンスと黒点周りのみ画像処理を進めます。この時点で私としては珍しく粒状斑を撮影した動画ファイルはすべて削除しました。流石に使うことはもうないという判断ですが、それでもまだ少し心配なのは性格ですね。

まずはプロミネンス、黒点共にベストのものを選びます。それぞれ120本のserファイルから、上位90%をスタックし、ImPPGで細かいところを出したものを見比べます。

やはりシーイングは4月5日には程遠かったですが、何枚かは突如分解能がいいものがありそうです。分解能がいいのは10分から20分に1回くらい出てきて、そのいい時は2-3枚続くこともあるいった状況でしょうか。一番いいものでも、4月5日の6つのレベルのうち、せいぜい上から2番目の内の悪い方くらいでしょうか。全体的には4月12日よりは幾分いいのかと思います。


プロミネンス:
静止画のために選んだプロミネンス画像は、8時0分9秒と8時1分15秒。一つ飛ばしの比較的近い2つの画像で、その二つの元の動画のserファイルをTIFFに分解し、再びAS4!で上位75%をスタックしたものを使いました。チェックの最中で、プロミネンスの方には途中で大きな吹き上がりがありそうなことがわかり、タイムラプス映像も楽しみになってきました。

プロミネンスの静止画を仕上げたものですが以下になります。シーイングはそこまで良くはなかったですが、そこそこ細部も出ているので、まあ十分な仕上がりかと思います。

TIFF_lapl3_ap2603_IP_ST_color_inv_cut


黒点周り:
一方、黒点周りの画像はあまり時間的な変化が大きくないので、少し飛ばして9時31分41秒と9時36分38秒のserファイルをTIFFに分解し、AS4!で上位75%をスタックしました。

2つのseeファイルを使った理由は、200フレームだとどうしてもノイズが目立つというのが主です。75%を使ったので結局合計300フレームですが、これでもまだ少しノイジーで、画像処理でノイズ軽減ツールが必須です。ノイズレスにするためには少なくとも500フレームは必要そうですが、1ショットにこれだけ撮影するとディスク容量を食いすぎます。実際今回は、1時間の撮影でserファイルだけで100GB近くになります。3種撮影で300GBで画像処理も含めるともっと大きくなります。現在1TBのSSDを使っていますが、でこれが2倍とか3倍になると考えると今のセットアップではもう無理で、さらに外部の速い接続でのディスクなどが必要になってしまいます。それに付随して、電源やケーブル、ファイルの転送速度などまで考えると、どんどん大変になってくるので、今の所はこの複数のファイルを使うという方法になっています。

結果です。通常のカラーと、反転したもの2枚を載せておきます。

TIFF_lapl2_ap3951_IP_ST_color_2_mod

TIFF_lapl2_ap3951_IP_ST_color_inv

こちらも最良のシーイングからは劣りますが、自分的には十分満足な結果です。


タイムラプス映像

プロミネンス:
続いてタイムラプス映像です。今回は4月5日の分に続き2度目ということもあり、処理手法に関しても大分こなれてきました。前回はいろんなテストも兼ねていたので、1週間ほどかかってしまいましたが、今回はプロミネンスの方は2日後の月曜には動画になるまでに完成し、一旦Xに投稿しています。

手法はこなれたので、仕上げのためのなめらか具合とかも出るようになってきましたが、やはり良シーイングには勝てなくて、分解能に関しては前回の方が上かと思います。プロミネンスは途中で大きな速い噴出があったので、結構なインパクトがあります。こんな面白さがあるのは太陽ならではですね。夜の天体でここまで激しいのは余程のイベントとかでない限り、なかなか無いです。


このタイムラプス動画ができたときに、噴出のところを得意げに妻に見せました。

私: 「見て見て! これすごくない?飛び出てるよ!」
妻: 「うーん、要するに炎でしょ? たき火やるとこんなのよく見るよ。」
私: 「え?... 違う... これ...太陽の...」

残念ながらすごさは全く伝わりませんでした。


黒点周り:
プロミネンスが面白かった一方で、黒点周りはほとんど動きがなく、途中まで処理してやる気を無くしました。このままお蔵入りにしようと思っていたのですが、1時間程度ではこれくらいの動きだということで、カラー化も仕上げもしてないですが、参考程度に公開しておきます。左側のダークフィラメント以外、ホントに動かないのでつまらないです。むしろ、動かないこと自体に価値があるのかもしれません。


やはり動画は、動かない黒点周りよりも、動きがダイナミックなプロミネンスの方が面白いです。

今後は1本あたりを撮影時間をトータル30分くらいにして、プロミネンスの本数を増やし、黒点は静止画だけにするのも手かと思います。動きの少ない黒点の動きを見ようとしたら、最低2時間くらいの撮影時間が欲しいです。


粒状班の再現性

ちょっと時間は前後しますが、先に粒状斑のことを書いておきます。4月26日は10時半頃からの撮影でしたが、この時点でシーイングはボロボロで、処理は諦めました。その晩も晴れていたので、夜はSCA260
に載せ替えてM101を撮影。そのまま27日の日曜の朝も晴れだったので、昨晩は午前3時頃に寝たにもかかわらず、午前6時半ころから起きて、気になっていた粒状斑の撮影のみ再開しました。

ただし、風が部屋の中にいてもビュービュー音が聞こえるくらいだったので、細かい分解能が必要な粒状斑の撮影は厳しそうでした。午前は何度かに分けて30分程度の撮影を繰り返しましたが、結局全部使い物にはならず、もう諦めて撮影を開始して放っておいて外にモーニングを食べに行ったりしてました。自宅に帰ってからは少し雲も出始めたので、もう半分以上諦めていたのですが、風も収まってきた午後1時過ぎに雲の合間に撮影したものが意外なほど分解能がよく出ました。なので必ずしも午前だけがシーイングがいいのではなく、午後にもチャンスはあるということがわかりました。

粒状斑はまだタイムラプスにできる見込みは全くないので、途中曇って暗くなっても構わないですし、ダメだと判断した動画ファイルはすぐに捨てることができます。なのでディスク容量が許す限り撮影して、判断した端から捨てていけば、かなりの時間撮影することができそうです。

午後に撮影したものの中から、分解能が良さそうな4本の動画ファイルを選び、今回は一旦全てTIFF画像に分解するのではなく、PIPPでゲインとガンマ補正をした後に、一つのserファイルに結合しました。合計800フレーム分になります。これをAS4!で上位10%、20%、50%、80%とスタックして、細部出しは同じ条件にしたImPPGを使い、それぞれの画像を比較してみました。

上位画像を絞った方が分解能が出ると思ったのですが、見た限り有意な違いは認識できませんでした。それよりも、ノイズが残るかどうかの差の方がはるかに大きく、10%や20%ではImPPGの炙り出しの時点で粒状のノイズが目立ってしまい、ノイズ軽減処理が必須になりそうです。50%や80%ではノイズ感はかなり軽減され、ノイズ軽減処理なしでもなんとかなりそうです。

これに関連して、最近はImPPGの「Lucy-Richardson deconvolution」の「Sigma」の値をいつも最低の0.5にして使っています。これを少しでも上げると、つぶ状のノイズが一気に目立つようになるからです。このことは結構以前から気づいていて、大きな値はシーイングが悪く分解能が出ていない時には有効のですが、最近のようにシーイングいい時を選べるようになると、デフォルトの1.3でも仕上がりの分解能が劣ってしまいます。さらに最近の撮影のようにフレーム数が少ないとつぶ状のノイズがどうしても目立ってしまいます。シーイングを選んで撮影したときは結局0.5一択になってしまい、ImPPGを使う意味が薄れてきてしまいました。

そのため今回はPixInsightのMultiscaleLinearTransformでwavelet変換をしてみました。Registaxでも良かったのですが、もう流石に古すぎるのと、PIのMLTの方がもう少し細かいパラメータ設定ができること、将来的にContainerを使ってバッチ処理もできることなどが理由です。

MLTで画像処理してみると、先週の4月19日に撮影したものよりも少し劣る程度で、一応は粒が見えるくらいの画像が得られました。

13_34_29_pipp_lapl3_ap3858_PI_cut._modjpg

粒状斑については、結局二日かけてもベスト更新はなりませんでしたが、これである程度の再現性もある程度あることがわかったので、次はもう少し条件を変えてみる予定です。


まとめ

今回の記事は目標の1から3までです。残りの4以降もまだまだ盛り沢山なので、一旦区切って今回の記事はここまでにしておきます。

とにかく、プロミネンス画像と黒点画像はコンスタントに撮れるようになってきました。タイムラプス映像も工程がこなれてきたので、処理にかかる時間は大幅に減っています。次の記事の分はすでに大体のテスト結果が出たのですが、その結果を元にまたやりたいことが出てきてしまいました。連休中に進められるといいのですが。





つい先日仕上げた勾玉星雲ですが、赤が強いのが気に入らなかったので再処理しました。


RGB画像の見直し

WBPPまでは同じですが、そこからはかなり方針を変えています。元々はAOOにRGBの恒星を加えたようなものでした。Hαはよく撮影できているので、この階調の豊かさを残したかったのです。問題はOIIIで、星雲本体の際中心部以外にはほとんど構造を持っていなくて、結局は背景を含むほとんどの場所が赤一色になってしまい、もうどうしようもないです。

そこで改めてRGB画像を見てみました。自宅撮影で背景光が明るくて、スカイノイズが支配的なためにノイジーなのですが、強炙り出ししてみるとそこそこ階調が残っていることがわかります。例えばHαとR画像を比較すると、

Hα画像:
MGC2048_5_10_better_BXT_HT_NXT_back_LHE_A_s

R画像:
Image22_R_s
と、Hα画像に比べてR画像はノイジーですが、同じような形の模様が見えています。

ところがOIIIとB画像を比べてみると

OIII画像:
integration_O_ABE2_SPFC_BXT_back_LHE_OIII_s

B画像:
Image22_B_s
B画像の方が当然ノイジーなのですが、より広い領域にわたり青成分が広がっているのがわかります。

ちなみにG画像は以下のようになり、これもOIII画像より構造を含んでいます。
Image22_G_s

というわけで、方針としてはRGB画像のRをHαと入れ替え、GとBは少しきつめのノイズ軽減をしてきちんと使い、OIIIは最初から使わないという方向でいきます。


比較

結果は
Image26_HT4_cut_s

となり、赤の諧調をそこそこ残しつつ、星雲本体の中心以外はほぼ赤一辺倒だったものから脱却し、多少なりともBとかGを生かすことができました。前回はMGCで頑張って調整したRGBをほぼ全く生かせてなかったのですが、これでMGCの結果も生かせたことになります。

ちなみにAOOベースのものはこれだったので、やはりかなり赤だけが相当強いのがわかります。
Image03_AOO2_s_brighter_cut

ただ、こうやってAOOベースと比べるとRGBベースはどうしてもノイジー感が出てしまいます。これは痛し痒しで、まあ彩度とノイズレスのどちらを取るかなので、仕方ないですね。


MARSデータベースのアップデート

3月21日にこの記事を書いているのですが、画像処理は昨日のうちに終えています。ちょうど今朝、新しいMARSデータベースがリリースされたとアナウンスされました。なんとOIIIデータが含まれたらしいです。これでAOOは可能になり、SAOもRをSに適用することで簡易的に可能となったとのことです。あと、オリオンのデータの露光時間が68分から11時間と約10倍になったとのことですが、もうオリオンも季節終わりなので、実際に使えるのは来シーズンでしょうか。

今回のRGB+Aでの画像処理ですが、せっかくのMARSアップデートなので、今一度OIIIを復活させて再再処理してみてもいいかもしれません。


CP+2025のサイトロンブースでのセミナーですが、太陽Hα望遠鏡についての話で話で、特に心臓部のエタロンについてはかなり凝った内容になっていたかと思います。すでにアーカイブ配信で当日の様子が視聴可能になっていますが、少しわかりにくいところもありますので、今回補足として記事を書いておこうと思います。


トークの構成

まずは実用上役に立つように、配信に対しての補足記事を書きます。配信はここにアップロードされています。

トークの構成は、
  1. 0:30~ イントロ
  2. 2:40~ Hα太陽望遠鏡「フェニックス」の紹介
  3. 5:05~ 太陽観察について
  4. 9:36~ 太陽Hα撮影について
  5. 13:21~ 太陽Hαの画像処理について
  6. 21:08~ エタロンの解説
  7. 38:35~ フェニックのエタロンの評価
  8. 41:27~ 最近のSharpCapを使ったライブスタックとリアルタイム画像処理
  9. 43:40~ SharpCapを使ったタイムラプス撮影
  10. 45:28~ カメラと分解能
  11. 48:18~ まとめ
  12. 49:35~ 質問
 などとなっています。


エタロンの式についての補足

最初の補足は、一番難しいと思われるエタロンの式についてです。スライドの27ページからで、配信では31分10秒くらいからになります。式の上に書いてある図なのですが、実はこれ、本番直前に図をわかりやすくしようとして書き換えていて、それが仇になりました。その時の自分の様子を改めて配信で見てもわかりますが、エタロンの式を書いてあるページに来て「えっ??」と話が止まってしまいました。式に書いてある変数を表す文字が図の名からすっぽり抜けてしまっているのです。

というわけで、図が入っている26-28ページを再掲載します。

スライド26
本来はここで少し式の解説をする予定でした。実際、図を追っていけば左の式は特に難しいことはなく、\(E_\rm{b} \), \( E_ \rm{c} \), \( E_ \rm{d}\)は一つの光を一つ前の光で表しているだけです。難しいのはEaだけで、入ってくる\(E_ \rm{in}\)と\(E_ \rm{d}\)が折り返す2つの光で書かれています。式を解くのは、\(E_ \rm{c}\) 、\(E_ \rm{b}\)と代入していって、\(E_ \rm{d}\)を\(E_ \rm{a}\)で表し、最後の\(E_ \rm{d}\)を最初の式に入れるだけで、多分中学生くらいで解ける連立方程式です。

すると真ん中に書いてある式になるので、あとは\(E_ \rm{a}\)について解くだけで、\(E_ \rm{a}\)は右の式のようになります。\(E_ \rm{a}\)が出れば\(E_ \rm{b}\)も同じなので、\(E_ \rm{out}\)も簡単に出ます。

ここで注目して欲しいのは、右の式はどれも分母に\((1-r_1 r_2)\)を持っていることです。このように自己繰り返しするような系では、一般的に分母に似たような式が出てきてきます。\(r_1\)も\(r_2\)も1に近い数値が入るので、分母は0に近い数になります。ということは、0に近い数で割ることになるので、エタロン内部では光は増幅されます。これは光が折り返していることと同義です。

スライド27
1ページ目では意識していませんでしたが、これらの式は光の「振幅」を表しています。振幅を2乗すると「強度」になります。なので、\(r_1\) , \(r_2\)は光の振幅に対する鏡の反射率、\(t_1\) , \(t_2\)は光の振幅に対する鏡の透過率です。そのため強度で考えた\(r_1^2+ t_1^2=1\)や\(r_2^2+ t_2^2=1\)は成り立ちますが、振幅のままの\(r_1+ t_1=1\)や\(r_2+ t_2=1\)は成り立たちません。

ここでは同じ鏡を2枚用意する場合を考えて、\(r_1\) と\(r_2\)をともに\(r\)、\(t_1\)と\(t_2\)をともに\(t\)としてしまうと、\(r^2+ t^2=1\)が成り立ちます。そうすると\(E_ \rm{out}\)の分母は\(1-r^2\)となって、それは\(t^2\)となるので、分子の\(t^2\)と打ち消し合って\(E_ \rm{out}= \)\( E_ \rm{in}\)となります。すなわち、2枚の鏡を同じものとした場合には、エタロンで共振した光はすべて接眼側に抜けるということを意味します。波長Hαの光(と共振する櫛状の波長)だけは「全て」透過し、他はエタロンで反射してしまうということです。

一般的にファブリーペロー共振器は2枚の鏡で違う反射率、透過率のものを使うことが多いのですが、太陽望遠鏡のように必要な光をもれなく使うという観点からいくと、この「全て」通り抜けるという条件、同じ鏡を2枚使うということは重要になります。製造工程からも同じものなので有利なはずです。

スライド28
ここまでは光がちょうど折り返す場合のみを考えていましたが、その条件だとどれくらいの幅で光を通すかという一番知りたい情報がまだ出てきません。そのため、ここではちょうど折り返す場合以外のことも見るために、光に位相の情報を加えて考えます。ここでは対象波長がFSR(櫛と櫛の間の幅) Δλの何倍変化するかを\(x\) とおいて\(2\pi\)をかけてやるので、位相となります。その前に2をかけているのは、光は往復するので、半波長がの整数倍になればいいというところからきています。

ここで出てきた\(E_ \rm{out}\)の式を2乗すると、かなり複雑になるので今回のトークでは示しませんでしたが、
\[|E_ \text{out}|^2=\frac{T^2}{(1-R)^2}\frac{1}{1+ \frac{4R}{(1-R)^2}\sin^2(\Phi/2)}\]
となります。ここで\(t^2\)を\(T\)、\(r^2\)を\(R\)としています。この式をプロットしたのが、次の29ページのグラフになるというわけです。

スライド29
今回はこのグラフからフェニックスのエタロンには強度反射率15%、強度透過率85%程度の鏡が2枚使われていることがわかります。

でも実はこんなグラフを書かなくても、もっと簡単に反射率と透過率を求める方法があります。まず、下に示すP24に書いていたように、今回メーカーからFSRが1.07nmという情報を得ることができました。
スライド24
また、透過幅が0.6Å以下ということもわかっています。ここで、元々あるFSR \(\Delta\lambda\)がどれくらい狭められ透過波長幅 \(\lambda_\rm{FWHM}\)になったのかの比「フィネス」を考えます。透過波長幅の添え字のFWHMはFull Width Half Maximumで「半値全幅」を表し、最大値の半分の値になるところの幅という意味です。フィネスは日本語では「鋭さ」という意味で、ファブリペロー共振器の性能を表すパラメータの一つです。今回は1.07/0.06=19となり、これをフェニックスのエタロンの「フィネス」と考えます。フィネスはファブリペロー共振器の性能を表す重要な指標の一つです。

フィネスは、今回証明は省きますが、
\[\frac{\Delta\lambda} {\lambda _\rm{FWHM}} =\frac{\pi \sqrt{r_1 r_2}}{1-r_1 r_2}= \frac{\pi r}{1-R}\]
と書くことができます。2つ上の図の中の薄い色の字で書いてありますが、これが19となるので、\(r\)は1に近いと考えて、\(R\)について解くと強度反射率が0.85となり、また\(R+T=1\)の関係から強度透過率が0.15となることがわかります。

さらに、フィネスと折り返し回数は比例関係にあり、その係数は\(2/\pi\)になります。すなわち、フィネスを1.5で割ったものが大体の折り返し回数になるわけです。今回は19/15~12回程度でしょうか。ただしこれは片道なので、往復だと6往復すると考えることができます。

さらにさらに、フィネスが
\[\frac{\pi r}{1-R}\]
と書けて、折り返し回数(片道)はその\(2/\pi\)なので、往復の回数はさらにこれを半分にすると結局、
\[\frac{r}{1-R}\]
と書くことができます。ここでも\(R+T=1\)の関係があるのと、\(r\)は1に近いと考えると、結局は折り返し回数は
\[=\frac{r}{T} \sim\frac{1}{T}\]
と簡単になり、強度透過率の逆数となります。言い換えると、折り返し回数か強度透過率のどちらかを知っていれば、どちらかはすぐに求めることができるというわけです。

というわけで、FSRと透過幅、鏡の反射率と透過率、フィネスと折り返し回数は密接な関係にあることが理解できたと思います。と、こんな話をトークの中でしようと考えていたのですが、図の中に文字を入れるのを忘れてしまい、頭が真っ白になって説明を全部すっ飛ばすことになってしまいました。でも上の説明をトークの中でしようとすると完全に時間オーバーになったと思うので、ちょっと悔しいですが結果的には良かったのかもしれません。今回この記事では、トークで話そうと思っていたことよりもさらに詳しく書いてあるので、興味がある方は上の話を丁寧に追ってみてください。かなり面白いと思います。

ここまでのややこしい説明をかなり簡単に、概念的に説明したのが、25ページになります。

透過率があるために一回反射するごとに透過率分だけ光が逃げていくというものです。この場合の透過率は強度透過率ですね。例えば透過率10%なら、一回反射するごとに10%光が逃げていき、10回くらい繰り返したら光は0になりので折り返し回数は10回、例えば透過率1%なら、一回反射するごとに1%光が逃げていき、100回くらい繰り返したら光は0になるので折り返し回数は100回というものです。これはかなりオリジナルな説明で、こんなふうに簡単に説明しているところはあまりないと思います。私が知っている限り、大型のファブリペロー共振機を使っている研究者が同じような説明をしているようです(笑)。

実際には前の鏡と後ろの鏡で逃げていくこと、光が0になるためには倍くらい折り返さなければダメだということもあるので、折り返し回数はこの簡易説明の通りにはなりませんが、オーダー的には間違っていないのでこれでいいでしょう。これに対する答えとしては、両側に同じ強度透過率\(T\)の鏡に挟まれたエタロンだとして、折り返し回数は往復で約\(1/T\)回となることを、すぐ上の最後で示したわけです。


SharpCapの進化

次の補足ですが、反響がかなり大きかったSharpCapでのリアルタイムでの太陽スタックと細部出しの画像処理についてです。配信動画の41分27秒、71ページからになります。実際の操作は動画の方を見ていただいた方が動きがわかるのでいいのかと思います。

スライド71
まず、保存動画の再生ですが、serファイルも選択できるので本来読み込めるはずのかと思いますが、私の環境ではダメでした。なのでSerPlayerというソフトで、全コマtiffファイルに変換して、それを読み込むことにしました。もしかしたらただのバグかもしれないので、そのうちにser形式も直接読めるようになるかと期待しています。

SharpCapでのリアルタイム処理はすごいですね。惑星のリアルタイム処理機能が搭載されたのが2023年の11月、次の月の12月には太陽と月に対応しています。今では位置合わせとライブスタック、細部出し、擬似カラー化、プロミネンスなどの周辺部の強調などが実現されています。

セミナーではあまり話せなかったのですが、位置合わせも何通りかあり、かなり強力です。基本的にライブスタックは位置合わせ前提なので、ライブスタック開始と同時に画面内でのソフト的な太陽の位置合わせが実行されます。これもシングルポイントやマルチポイントなどオプションが選べるので、試してみてください。私の環境ではシングルでもマルチでもあまり差はなく、両方ともうまく動きました。でも雲が多少でも邪魔し出すと位置合わせがずれてしまうようで、この状況もシングルもマルチでもあまり違いはありませんでした。あと、雲が出だすとプロミネンス強調が突然、見かけ上オフになったりすることがありました。なので、よく晴れている時以外は多少動作が変になることがあるようです。

タイムラプスする時には、長時間で位置合わせが必要になります。ライブスタックでの位置合わせ以外にも、もう少し大きな枠での位置合わせがあり、例えば「ツール」の中で「フィーチャートラッキング」というのが選べます。これは特徴的な形を見て架台に信号を出してハード的に追っかけるのですが、太陽の全景が画面内に入っていると結構うまくいきます。ただ、たまに間違えてどんどんずれていくことがあるので、長時間だとそこまで信用できません。もう一つ、同じく「ツール」から「太陽/月フレーミングアシスタント」という位置合わせがあります。これは昼間に赤道儀の極軸や、自動追尾経緯台でも精度が出ない場合の補正のような感じなのですが、ずれていく画像を手で追っかけて、その情報を元に補正をかけるようです。でもいまいち私も仕組みを理解していません。何もしないよりは、この太陽/月フレーミングアシスタントを使った方が長い時間追えるのですが、ライブスタックと相性が悪く、こちらもいまいち信頼が持てません。

一番良かったのはオートガイドで有名なPHD2の太陽版です。トークの中でちらっと話しましたが、1年くらい前に話題になったもので、こちらはかなり確実に太陽を追ってくれます。

まだベータ版扱いのようで見つかりにくいのですが、ここからダウンロードできます。


今回は詳しい説明は省きますが、興味がある方は一度試してみるといいかと思います。ちなみに、フェニックスのように太陽の全景が見えている場合は、メインのカメラをPHD2で同時に使うことでカメラを1台で済ませることもできました。ただし、ゲインや露光時間の設定を互いに取り合うので、SharpCapで合わせてPHD2はそのまま設定はいじらずなどの工夫が必要です。基本的には別途ガイド鏡に太陽フィルターをつけ、別途カメラを用意するのが真っ当です。


エタロン回転角

エタロンの回転角に関しては少し自信がなくなってきました。手元にあった時に確かめた範囲では、エタロンは60度動きました。でもトークが終わってから改めて会場でHeriostarとフェニックスのエタロンを触っていたら30度しか回らないように見えました。

使っていたフェニックスはすでにサイトロンにお返ししてあり、CP+会場で当日展示されると聞いていました。でも会場のフェニックスを見る限り、私が使っていたエタロンとは思えないような黒いペンのようなマーカー跡がいくつもありました。これを見る限り私が使っていたものとは違うようです。私が使っていた60度回るのと、会場で見た30度回る、少なくとも二つのバージョンがあるのでしょうか?

いずれにせよ、トークの中でHαの中心波長から0.5Å離れたと推測したところまで、4枚の間の画像を撮影して示したという事実は変わりません。ただし、もし私の勘違いで実際に使っていたものが30度しか回転しないとしたら、プレゼンの中で太陽画像と共に示した回転角は全て半分になります。いずれにせよ、60度もしくは30度を「15段階で撮影した」ということは同じです。


質問について

最後の補足は質問に関してです。最も壊れやすいところはどこかとの質問があったのですが、ERFと答えました。その際、壊れても別の部品で代用は効くと答えたのですが、これはまずかったと反省しています。

そもそも眼視の太陽望遠鏡は大原則、何か壊れたら代理店またはメーカーに問い合わせるべきです。メーカー純正以外の部品では気づかない、もしくは見えない非可視光域での漏れ光がないはと限りません。眼視の場合は最悪失明の危険があるので、メーカー純正以外の部品は使うべきではないと思います。

そうはいっても、天文という分野が機器の工夫で進化してきたことを考えると、自己責任において他のメーカの部品を使うという自由はあるかと思いますが、太陽は本当に危険なので、自己責任といえどもくれぐれも安全に気をつけて頂きたいです。少なくとも使う部品の仕様がわかないなら、カメラでの撮影ならまだしも、失明の危険がある眼視用には使うべきではないというのが大原則だと思います。


今回のトークの話が来た時

元々、今回の話を持ちかけられたのが、昨年の11月くらいだったでしょうか。でもその時点では何をネタにするかは決まってませんでした。いくつかアイデアは出ていましたが、他の講演者とネタが被る可能性もあるので、なかなか決まりません。

11月末くらいでサイトロンのスタッフさんから太陽はどうでしょうかというアイデアが出ました。サイトロンとしてはフェニックスが結構売れているので、そこを後押ししたいような意図があったのかと思います。私の方はというと、なかなか理解され難いHαフィルター、すなわちファブリペローエタロンの理解が深まるのではという目論見が出てきました。そもそもサイトロンのスタッフさんも「透過波長幅がどうやって決まるか知らない」と言うので、「是非ともわかりやすい解説を聞いてみたい」とのことでした。

ところがフェニックスが届いたのが年末の12月30日くらい。北陸の冬の天気は全く期待できなくて、結局最初に撮影ができたのは年が明けてしばらく経った1月18日でした。太陽撮影は昼間なので、休日に晴れてくれないと撮影できなくて、もう全然進みません。結局撮影できたのはわずか4日間で、いずれも快晴というわけではなく、雲もそこそこあった日でした。長時間の撮影は全くできず、最長で連続して撮れたのがトークの中でも見せたタイムラプスの30分でした。少なくともあともう一日撮影日があれば、もう少しまともなタイムラプスになったかもしれません。

撮影を進める中で、サイトロンスタッフの方に最近のSharpCapの進化を見せたらどうかと提案しました。SharpCapの惑星と太陽のライブスタックとリアルタイムの細部出しの機能はもう1年以上前に搭載されていて、実際かなりすごいのですが、惑星でも太陽でもこの機能を使っている人はそこまで多くないようです。せっかくなので太陽撮影がここまで簡単になっているということをまとめてもいいのではないかということになり、トーク最後の方に追加したのですが、「こんな機能があると初めて知った」など、ここも反響が多かったところでした。


今回の太陽セミナーの意義

ところで、今回のセミナーでどこまで話すかかなり迷いました。いろいろ考えて出した結論は、エタロンの説明をできるだけしようということです。

私が星を初めて1年くらい経った2017年に、福島のスターライトフェスティバルで何種類かの太陽望遠鏡を同時に見せてもらいました。その時だったか、その前だったか覚えていないのですが、Hα太陽望遠鏡の原理が光共振器であるファブリペローエタロンだと太陽望遠鏡を持っている方から聞きました。ファブリペロー共振器に関しては比較的馴染みが深かったので、私にとってはある意味「何だ、そんな利用の仕方をしているのか!」とある意味驚きでした。ところが、アマチュア天文家の、それもかなり太陽に詳しいというような方と話しても、実はエタロンの原理そのものについてはほとんど知られていないようなのです。少なくとも当時も、また今現在調べてみても、太陽望遠鏡のことを日本語で原理を書いてあるようなホームページなどはほぼ皆無です。代理店やメーカーのページを見ても、ごくごく定性的な話はしているところも見つかるのですが、数値的に説明してあるところはやはり皆無です。

そもそもとんでもなく高価なHα太陽望遠鏡に辿り着くような人は、アマチュア天文家の中でもある意味行き着いたような人が多いです。そんな興味があるであろう人たちが、原理を理解できないような状況というのはあまり好ましくはないのではと、ずっと思っていました。ほしぞloveログの中で機を見て何度か説明はしているのですが、まとまっていないのでブログ記事だけではなかなか伝わりにくいようです。

なので今回は非常にいい機会と捉えました。CP+のサイトロンの講演は、多くのアマチュア天文家の方に注目してもらえます。しかも動画配信が残るので、あとで繰り返して見ることもできます。当然、講演内で複雑なエタロンについて全ての説明をするのは無理なので、今回は「エタロンというきちんと理屈があるものが働くことで、Hα線が見えるようになる」ということを広く知ってもらうのを目標にしました。しかもそれを定性的なお話だけではなく、きちんと定量的にも根拠があることを示して、実際にHα線が数値として見えるということ理解してもらうことも目標としました。その場で式や数値を全部を追ってもらうのではなく、後の配信もあることを前提にして、興味がある人が後からでいいので、より深い理解を得られるような話にしようと決意しました。


まとめ

事前の難しすぎるのではという心配をよそに、セミナーの後はかなりの反響がありました。そもそも太陽に行き着く人はある程度嗜んだ人が多いので、興味が尽きないのかと思います。セミナー直後も、その後の会場で会う方からも多くの質問がありました。SNSなどでも質問や面白かったというコメントをいくつもいただきました。

フェニックスで見る太陽の楽しさは、太陽未経験の人にも伝わったようで、早速フェニックス欲しくなったという話を直に何人かの方からか聞きました。太陽Hα望遠鏡としては入門用の値段設定で、かつ聞いている限りフェニックスの性能にばらつきが少ないというのは、これまでの太陽望遠鏡からは明らかな進化だと思います。技術向上で、いいエタロンが実現できているからかと思います。太陽活動期の真っ最中なので、今は始めるのに本当にチャンスかと思います。

あと、反省点として話すときはマスクを取れば良かったと思いました。

今回のセミナーで、太陽に興味を持ってくれる方がでて、太陽Hαで見る人が増えてくれると嬉しい限りです。

また、今回のトークやこの補正記事でここがわからないとか、ここをもっと解説してくれなどというリクエストがある方は、コメントに書き込んでください。答えられる範囲で答えたいと思います。

気づいたらもう2024年も年の瀬です。最近なかなか忙しかったのですが、やっと年末の休暇に入って少し時間が取れそうなので、ずっとほったらかしていた画像処理を少し進めます。まずはM31の続きです。


目的

今回の目的は、少し前の記事で書いたM31: アンドロメダ銀河加えて、ε130D+ASI6200MM Pro+CGEM IIでHα画像を撮影することで、前回のカラー画像に赤ポチを加えることと、できるならM31周りの背景の構造を出せればと思います。

カラー画像が焦点距離250mmに19x13mmのフォーサーズセンサー、今回のHα画像が焦点距離430mmに36x24mmのフルサイズセンサーなので、そこそこ似たような画角になります。違う鏡筒とカメラを使った場合に、画像をうまく合成できるのか?これまであまりやったことがないので、うまくいくかのテストも兼ねています。



そもそもなのですが、銀河の赤ポチ自体あまりやったことがなく、これまでは2021年11月撮影のM33と、2023年3月撮影のM106



あと、申し訳程度で2022年4月に撮影して、2023年4月に再処理したM51くらいでしょうか。


Hα画像をどうやって赤っぽい色に持っていくか、銀河のRGB画像に対して赤ポチをどうやって自然に合成するかなど、まだまだ試行錯誤の段階です。今回は背景の淡い所も出そうと思っているので、明るい赤ポチと淡い背景の輝度バランスを崩さないようにマスク処理も必要になるのかと思います。

Hαで撮影できる背景の淡い構造は、M31で近年撮影され始めたもので、例えば100時間越えの撮影などで詳細な構造が出てきています。OIIIにも構造があることもわかってきていて、例えばこちらはFSQ106で3nmのフィルターで、OIII単体で45時間越えの撮影でOIIIの放射を新たに発見したとあります。こういった比較的広視野での背景の構造は、機器を個人で占有しての長時間露光ができるアマチュア天文で、今後も成果が出てくる分野なのかと思います。

今回は自宅でのHαの、高々5時間程度の撮影なのですが、それでも何か構造が見えるかどうかという挑戦になります。


撮影

カラー画像の撮影についてはすでに前の記事で書いているので、ここではε130Dでのナローの方のセットアップを少し書いておきます。

最初のHα画像の撮影日は10月12日の夜です。前日までの勾玉星雲からM31に切り替えるにあたり、横幅でちょうど銀河が収まるように、鏡筒とカメラを最初にセットして以来今回初めてカメラの回転角を90度変えました。カメラの回転については、ε130Dの接眼部に回転機構が標準で組み込まれているので、それを利用しました。スケアリングとか少し心配ですが、今回は恒星に関してはカラーで撮ったものを使うので、背景のみならあまり目立たないでしょう。今後L画像とか撮影したら問題になるかもしれませんが、BXTがあるのでまあなんとかなるでしょう。

赤道儀は前日からセットしてあったので、架台側をいじる必要はなかったのですが、上記のように鏡筒の方を色々いじっていたら結構時間が経っていて、月が沈む0時過ぎをとっくに超えてしまい、撮影開始は午前1時過ぎになってしまいました。

撮影後の朝になって気づいたのですが、ミスってASI620MM Proのbin1で撮影していたことに気づきました。ダーク画像は以前同設定で撮影したものを持っていたのですが、フラット画像は当然撮り直しになります。bin1だとすごいHDD喰いになるので枚数は50枚と控えて撮影、その後画像処理を進めます。

出来上がった画像を見ると何かおかしいです。撮影されたRAW画像を1枚1枚よく見ると、なんと中心が結露していることが判明しました。40枚撮影したのに、使えそうなのは最初の1-2枚だけでした。どうやらカメラのヒーターを入れ忘れていて、撮影後すぐに結露したみたいです。この結露に気づいたのが11月17日に画像処理をした時で(すでにこの時点で1ヶ月以上経っているのでずいぶんのんびりなのですが)、1-2枚だと全く意味がないので結局全部ボツにして、改めてHα画像を撮影することにしました。

2回目の撮影は11月25日で、今回は忘れないようにいつものbin2に設定します。もう冬に近くなってくるので、アンドロメダも早い時間からそこそこの高度に昇っています。夕方から撮影を開始し、月が出てくる午前2時くらいまで撮影を続けましたが、朝確認してみると天気予報の通り午前0時を回ったくらいで雲が出てきて、それ位この画像は全てボツとなりました。使えたのは5時間分の画像で、もちろん本当はもっと長時間撮影して淡いところを攻めたいのですが、北陸の冬は天気は全く期待できないので、この日撮影できただけでも貴重でした。これ以降撮影できたのは前回記事のM45の12月2日のみで、その後も年末まで全く撮影できていません。


Hα画像が淡すぎ

RedCat51でのカラー画像の画像処理があらかた終わっていたのが11月27日で、その後Hαも交えて画像処理をしたのが11月30日。この時点でカラー画像は決定として、カラー画像完成のブログ記事を書いたのが12月5日です。Hαと合わせた画像処理は主に12月1日に終えていたのですが、まだ出来上がりに迷いがあり、少し置いておいたら結局今回の記事になってしまいました。

その間にPixInsightが1.8.9から1.9.0になり、Multiscale Gradient Correction (MGC)でとうとうMARSデータを一部ですが使うことができるようになりました。うまく使えればカブリ除去に劇的な効果があると思われます。

特に今回のHα画像の背景の淡さには辟易していて、高々5時間の露光では背景の構造があることはわかるのですが、それと同じくらいの輝度でε130Dのリング状の残差光が目立ってしまい、このMGCが使って上手く補正できたらとか思っていました。でも残念ながらどうやらMGCはカラー画像にしか使えないようで、今回はとりあえずHα画像で使うことはあきらめました。

4784x3194_EXPOSURE_300_00s_FILTER_A_ABE_HT_center

それでもこのリングを取り除かないことには背景はほとんど出てこないので、MGCの代わりにフラット画像を利用してリングを手作業で丁寧に除きました。具体的にはPhotoshopに移り、かなり輝度を落としたフラット画像を別レイヤーで表示し、差の絶対値で重ね合わせています。フラット画像の輝度を微調整することで、リング状の模様をできる限り消しています。

カラー画像とHα画像は鏡筒もカメラも違うので、画角が違うのですが、合成するためには画角を一致させなければいけません。実際にはカラー画像の方が画角が小さく、Hα画像の方が少し画角が広いので、Hα画像をカラー画像に合わせることになります。これはPixInsightの StarAlignmentを使うことで特に問題なく解決しました。PixInsightの1.9.0からImage Synchronizationという新機能ができたらしいので、今後はそれを使ってもいいかのかもしれません。

下の画像は、RedCat51のカラー画像と合わせる直前のHα画像に相当します。リングを補正したHαから、さらにカラー画像の銀河をモノクロにしたものを引いています。その後、赤ポチ部分にマスクをかけ、背景をさらに炙り出しています。上の画像と比べると相当マシになり、背景の構造が見えてきているかと思います。まだリング構造は少し残っているように見えるのですが、元のカラー画像に対してこの画像を比較(明)で重ねるため、相対的に暗いリング構造は、最終画像にはほとんど出てこなくなるくらいになります。
4144x2822_180_00s_RGB_integration_ABE4_SPCC_BXT5_HA


結果

最終画像です。

「M31: アンドロメダ銀河」
4144x2822_180_00s_RGB_integration_ABE4_SPCC_BXT5_red_cut
  • 撮影日: 2024年10月13日0時46分-4時33分 (カラー)、2024年11月25日18時24分-23時39分 (Hα)
  • 撮影場所: 富山県富山市自宅
  • 鏡筒: William Optics RedCat51(f250mm、F4.9)  (カラー) 、ε130D (430mm、F3.3)  (Hα)
  • フィルター: UV/IR cut  (カラー)、Baader 6.5nm  (Hα)
  • 赤道儀: SWAgTi (SWAT-350V-spec Premium + AZ-GTi)  (カラー)、CGEM II  (Hα)
  • カメラ: ZWO ASI294MC Pro (-10℃) 、ZWO ASI6200MM Pro (-10℃)  (Hα)
  • ガイド: なし (カラー)、f120mmガイド鏡 + ASI290MM、PHD2によるマルチスターガイドでディザリング (Hα)
  • 撮影: NINA、Gain 120、露光時間3分 x 64枚 = 192分 = 3時間12分 (カラー)、Gain 100、露光時間5分 x 60枚 = 300分 = 5時間00分 (Hα) 
  • Dark, Flat: なし (カラー)、Gain 100、露光時間5分 x 117枚 = 585分 = 9時間45分 (Hα)
  • 画像処理: PixInsight、Photoshop CC

前回のカラー画像ではあまり色を出さなかったのですが、これは今回のHαの赤とのコントラストを出すことを見越してです。モノクロに近い銀河に、Hαの赤という組み合わせを狙ってみました。赤ポチは十分明るく撮影できているので、まあ問題ないでしょう。そこそこ派手にしましたが、海外の例を見ているともっと派手なものもあるので、まあこれくらいしておきます。

さて肝心の背景の構造ですが、そもそも正しいのか?他の画像と比較しても、そこまで間違っているわけではなさそうで、かなり明るい部分だけですが何か撮れているのは間違いなさそうです。だからと言って十分とはとても言い難く、ε130Dの比較的明るい鏡筒だとしても撮影時間が絶対的に足りていないでしょう。これ以上の本当に淡いところは全く見えませんでした。自宅での撮影なので光害が問題の可能性もあり、ここら辺は暗いところでの撮影と比較して今後定量的に検証していきたいと思います。改善点としては、一つは暗い場所に行くことですが、もう一つはHαフィルターを3nmのものに変更する手があるかと思います。

なかなか遠征で時間を稼ぐのは今の体力では現実的に難しそうなので、ナローバンドフィルターですでにスカイノイズが無視できて、ダークノイズかリードノイズに支配されているなら、本格的に3nmフィルター導入というのは、アリかもしれません。本当に得するかどうか、こちらも定量的に検討してみたいと思います。


まとめ

秋の代表アンドロメダ銀河も、のんびり処理していたらいつの間にか年末の冬です。残りの未処理画像は夏の網状星雲と、勾玉星雲です。相変わらず天気は悪いので、まだしばらく撮影はお預けになりそうなことを考えると、焦って処理を進めても勿体無いので、ゆっくり進めようと思います。

今年の記事は多分これでおしまいです。すでに実家の名古屋に帰省してこの記事を書いています。みなさん、どうか良いお年を。

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