ほしぞloveログ

天体観測始めました。

タグ:GraXpert

友人が撮影した北アメリカ星雲の画像を触る機会がありました。画像処理は初心者で、有料のソフトは使っていないとのことです。あらかじめ画像をダウンロードさせてもらって、事前に処理しておいて、その結果を元に時間が合う時にZoomで繋いで画面共有しながら画像処理について検討します。

私としてはいい機会だったので、普段とは違う画像処理を試しました。というわけで、今回のブログ記事のお題は「全て無料の画像処理ソフトで進めた場合、有料のものにどこまで迫れるか」としてみます。

といっても、忘備録がわりの自分のメモ用の側面が強いので、あまり初心者向けの記事にはなっていません。需要があるとしたら、普段PixInsightとか使っていて、他の無料ソフトを試してみようかとか思うような、ちょっと珍しい人向けです。


有料/無料画像処理ソフト

ダウンロードした画像を、まず最初はいつも通りPixInsightとPhotoshopで進めます。撮影されたファイルはライトファイルとダークファイルです。フラットファイル、バイアスファイルはなしです。
  1. WBPPでダーク補正とスタック
  2. ABEの4次でカブリ取り
  3. SPCCで色合わせ
  4. BXTで星を小さくし
  5. GHSでストレッチ
  6. NXTでノイズ除去
  7. StarNetで恒星と背景を分離
  8. その後Photoshopに送り、仕上げ
となります。この流れはいつものことなので、詳しい処理内容は省きます。できた画像は以下のようになります。

masterLight_60_00s_ABE_BXTc_SPCC_BXT_GHSx2_NXT3_cut

一方、無料ソフトに制限すると、最近の状況を見るに、以下の選択肢が現実的ではないかとでは思っています。
  1. ダーク補正してスタックするのにSiril
  2. 同じくSiri上で色合わせとDeconvolution
  3. GraXpertに移ってフラット化とストレッチとdenoise
  4. StarNetで恒星と背景を分離
  5. その後GIMPに移って仕上げ
できた画像は以下のとおりです。

starless_result_PCC_deconv_stretched_GraXpert_cut

鮮やかさは誤差の範囲として、恒星の大きさ、背景のノイズ、明るいところの細かい構造などが大きな違いでしょうか。淡いところの構造は、無料の方が出ているかと思います。こうやってみると、有料ソフトと比べても、全然遜色なく、十分処理できていると思います。

各ソフトの詳しい操作などは他の解説にゆずるとして、ポイントのみ書いておきます。


まずはSiril



このブログではこれまでSirilについて述べたことはほとんどないのですが、最近のSirilはかなり使えるようになっていると思います。一時期試しに少し使ったことがあるのですが、結構頻繁に落ちて不安定なイメージでした。でも今は、少なくとも落ちるようなことはまずなく、普通に処理ができます。この「普通に」というのは結構重要です。まずストレスがなくなりますし、特に初心者にとっては自分の操作がダメなのかソフトのトラブルなのかの見分けがつきにくいと思うので、普通に安定に動くというのは目立たないけどとても大切なのかと思います。

いつもはPixInsightなので、Sirilの操作に慣れてはいなくてとまどうことはありましたが、検索すると解説記事などすぐに見つかり、その通りに進めれば簡単にスタックまで終えることができると思います。気がついたことのみ書いておきます。
  • 最初にワーキングディレクトリを決めること。画面左上の家マークのアイコンを押して指定してやることでしていできます。処理画像のたびに指定してやる必要があります。
  • 指定したホームディレクトリの下に、lights、darks、flats、biasesとフォルダを作って、撮影したRAWファイルをその中に分類して入れます。フォルダ名の複数のsとか、きちんと指定しないと「ファイルがみつからない」とかのエラーになってうまく処理されません。
  • スタックをするためには、左上の「スクリプト」タブを押して、処理したいプロセスを選びます。今回はライトとダークファイルのみだったので、それに合わせたスクリプトがありませんでした。実際スクリプトを進めようとするとヘルプが出てきますが、英語なのでちょっと面倒かもしれません。とりあえず書いてあることはhttps://gitlab.com/free-astro/siril-scriptsを開いて、必要なスクリプトをダウンロードせよということです。prepcocessingを開き、今回必要なフラット補正を省いた処理(バイアス補正も無いようです)「OSC_Preprocessing_WithoutFlat.ssf」を選び、ダウンロードします。
  • 問題は、これのスクリプトファイルをどこに置くかです。Windows版は説明が普通にすぐ見つかるのですが、Mac版の場合どこに置けばいいか迷いました。結局、Sirilのメニューの設定からスクリプトタブを選び、そこに書かれているフォルダ内にダウンロードしたスクリプトを置いてやれば認識されることがわかりました。ただ、そこに書かれているフォルダがそもそも存在していないことが多いので、改めて自分でフォルダを作ってやる必要があります。
  • スクリプトが認識されたら、左上の「スクリプト」タブを押して、今回落としたプロセスを選びます。すると処理が始まり、スタックされた画像が保存されます。
Sirilは、PixInsightに比べると指定できるオプションは圧倒的に少ないですが、むしろPixInsightの設定項目は多すぎて使いこなせていない方も多いと思います。初心者ならあえて迷うことがないSirilにするというのはありだと思います。PixInsightの方が細かい設定ができるので、いつかSiriで処理結果に不満が出てきたなら、PixInsightに移行することを考えるという道を辿ったほうが迷いが少ないかもしれません。

スタックまでに関していえば、有料のPixInsightだろうがステライメージだろうが、無料のSirilだろうがもっとシンプルなDSSだろが、結果に大きな違いはあまり出ない気がします。撮影ファイルの条件によっては、色々トリッキーなオプションがあるPIが有利とかはあるかもしれませんが、そこで出てくるような差があるなら撮影条件を見直してきちんとしたRAW画像を得る方が真っ当な気がします。なので、個人的な意見としては、スタックまでは有料無料の差はそこまで無いのではないかというのが今回の感想です。

違いが出るのはスタック後のリニア処理でしょうか。そもそもリニア処理というのも元々PI用語と言ってしまっていいのかもしれません。PixInsightでは例えば色合わせは、PCC、SPCCなどと進化してきました。Sirilにも同様のPCC (Photometric Color Calibration)があり、その際に恒星の認識できちんと位置合わせもします。なのでコンセプトはどんどんPIに近くなっていると言っていいのでしょう。ただ、やはり細かい設定とか、SPCCで基準フィルターまで考慮するとかなど、PIにまだ一日の長があるかと思いました。色合わせした結果だけ見ると、PIのPCCとSPCCでもそこまで差が出ないように、Sirilでも特に不満はありません。むしろ無料でここまでできることを素直に評価すべきだと思います。

決定的に違うのはBXT(BlurXTerminatot)の存在でしょう。収差、四隅のズレ、ピンボケ、ガイド流れなど、BXT以前では鏡筒や赤道儀の制御など、ハードウェアで改善するしかなかった高度な調整を、ソフトで相当なレベルまで補正してしまいます。また、星雲本体などの細部出しにもかなり有用です。特に入門用撮影鏡筒と高性能撮影鏡筒との差をかなり縮めてくれるので、初心者にむしろ使って欲しいところなのですが、今のところBXTはPIの上でしか動かすことができず、無料ソフトでは到底太刀打ちできません。BXTが単体で動くようになればいいのですが、BXTの為だけにPIを導入するのもアリなレベルかと思います。ただしPIと合わせると値段が...。


GraXpert

次のフラット化ソフトですが、有料ソフトでも未だ決定打はないのかと思っています。光学的なフラット補正は当然するのですが、それでも不十分な場合が多くて、 淡いところを引き出し切るにはさらにソフト的にフラット化をするのが必須になっています。

PixInsightだと、ABE、DBE、GC(GradientCorrectiopn)など、選択肢はそこそこあります。単純なフラット化は何を使ってもそこそこうまくいくのですが、画面一面分子雲で埋もれているような場合には、複数のフラット化処理をしたり微調整をすることなども含めて、かなり手間です。また、PI以外では有料ソフトも含めてあまりフラット化に関する補正はあまり開発されていなくて、昔からPhotoshopなどを利用して画像全体をぼかして大まかな勾配を作り出しそれで補正するなどの手がとられてきました。PixInsight無しできちんとフラット化しようとすると、かなり手間がかかる割に、淡いところを引き出し切るのにはまだまだ不十分な印象です。


ここで出てくる、ある意味決定打に近いものが無料のGraXpertです。


GraXertについては以前CP+の時に解説しました。

よかったら、リンク先の動画と共に以下お読みください。

GraXpertを使うと、あまりに簡単にフラット化できてしまって、かつ設定項目が少なくて細かい調整ができないので、私は普段はあまり使わないのですが、今回比較してみてびっくりしました。PIでかなり気合を入れて調整をし無い限り、淡い部分に関してはGraXpertが圧勝です。私は基本的GraXpertのエンジンにはKrigingを使います。他も試しましたが、少し時間はかかってもこれが一番良い結果を生むことが多いです。PixInsightで今検討されている、バックグラウンドまで参照データと比較するMARS機能が出たらまたわかりませんが、もう相当レベルまでGraXpertだけで良い気がしました。これで不満が出るならPixInsigtの各ツールを駆使するのが次の手ですが、はるかに時間もかかり結果を出すのも結構大変だと思います。

ストレッチに関しても未だに決定打はないと思っていて、PixInsightではHistgramTransformation、ArcsinhStretch、MaskedStrerchなどがあり、最近はGHS (GeneralizedHyperbolicStrertch)がでてこれが決定打かと言われています。またPixInsightのユーザーが作成しているスクリプトレベルでは、iHDRという輝度差が激しい天体に適用できるものが提供されたりもしています。でも選択肢がこれだけあるということは、ある意味決定打になっていないということでもあるわけです。GHSはかなりいいですが、操作がちょっと複雑で、初心者がいきなりこれを触るとあまりうまくいかないのではないかと思います。

ステライメージはほぼデジタル現像一択ですね。こちらはある意味迷うことはほとんどないのと、全て日本語で操作できるので初心者にも優しいのかもしれません。ただ、数学的にはデジタル現像はGHSのかなり限られた条件下での変換ということが蒼月城さんによって指摘されていますし、(私はまだ使っていませんが) SirilにもGHSがあることを考えると、今の時代有料ソフトならではのストレッチ方法をもっと提案して欲しいとも思ってしまいます。

そういう意味でGraXpertのストレッチを考えてみます。選択肢はどれくらいあるかというと、大まかなところではどれくらい適用するかの「強さ」くらいしかないので、これまたとんでもなく楽です。無料である程度のストレッチが簡単にできるということは、やはり特筆すべきです。というか、GraXpertはフラット化とストレッチと、次のDenoiseが3つセットになっているようなものなので、一緒にストレッチも使わない手はありません。でもGraXpertのストレッチが決定打というわけでは全然ありません。有料、無料ソフトともに、将来もっと発展するであろう部分の一つだと思います。

ノイズ除去も無料ソフトだけだとかなり限られてしまいます。BXTに続いて有料と無料で差が出るところでしょうか。有料での決定打はNXT(Noise XTerminator)かと思います。単なるノイズ除去ソフトやプラグインはAI対応も含めて数多く存在しますが、鋭い恒星を多数含む天体画像処理に使えるものは本当に限られています。一般のものでは遠目で見ると一見ノイズが小さくなるように見えるのですが、その弊害として恒星の形が大きく崩れることが多くて、ほとんどが使い物になりません。PIでも昔ながらのノイズ除去ツールは用意されていますが、今時のAIを考慮したノイズ除去ツールに比べると、少し見劣りしてしまいます。

GraXpertのDenoiseはそんな中でも数少ない、恒星とともに使えるノイズ除去です。しかも無料です。効果はNTXと比べると多少劣る感はありますが、そこそこ十分なレベルかと思います。少なくともGraXpertを使うついでなので、無料の中での選択肢を考えると、Denoise機能を使わない手はないと思います。

ノイズ除去ですが、次の恒星と背景と分離するツール、無料の場合は「StarNet」を使うと状況が一変します。恒星を分離して背景だけにすれば、あとは恒星の崩れを気にしなくて良くなるので、一般的なノイズ除去ツールを使いたい放題になります。ただ、言うまでも無いですが、過剰なAIツールの使用や、例えクラシカルなノイズ除去ツールだとしても、過度なパラメータなどは偽の構造や線、見た目に不自然な模様などを作りかねないので、程々に使うのがいいのかと思います。


StarNet



恒星と背景を分離するツールとしては、有料がSXT(StarXTerminator)、無料だとStarNet V2があります。私はSXTは試用で使っただけです。結果だけ見るとStarNetとそこまでの差はなかったので、無料で十分だと言う判断でした。でも、SXTの方が細かいところでいい結果だという意見も結構あるようなのと、そこまで高いソフトではなくて買い切りでアップデートもできるので、最初からSXTという手もありかもしれません。ただSXTは、PixInsightからか、Photoshop、Affinity Photoからしか動かないので、動かすための環境も有料になります。

それよりも、メンテナンス環境に無料と有料の差がかなりあります。StarNetは使うのが結構面倒です。Macだとはコマンドライン版しかないので、毎回ターミナルから走らせてコマンドを打って走らせる必要用があります。PixInsightを使うと、PixInsightないからStarNetを呼び出すことができるのである意味GUIになるのですが、PixInsightの大型アップデートのたびにインストールし直しに近い状態でセットアップする必要があります。Sirilからも呼び出せるので、こちらもGUIのように扱うことができます。コマンドライン版のStarNetをきちんと設定したとに、Sirilの設定の
siril_starnet
で、StarNetの実行ファイルを設定し、Sirilの「画像処理」->「Star Processing」->「StarNet Star Removal」から実行します。

元々のStarNetは天体画像ファイルから背景のみを作り出すという機能しかありません。PixInsightを使うとそれをPixInsight側で拡張して、恒星のみの画像ファイルも同時に作ってくれます。Sirilでも恒星画像も作ってくれるオプション(Generate star mask)があるので、こちらも便利です。

一方、Windows版のStarNetにはGUI版があるようです。私はWindows版は使ったことがないのですが、GUI単体で動くので便利なようです。ただし、このGUIは背景画像は作ってくれるのですが、恒星のみの画像を作ってくれません。しかもSirilから呼び出すと、このGUI版が直接呼び出されるだけで、やはり恒星のみの画像を作ることができません。おそらくWindowsでもコマンドライン版をインストールして、それをSirilから呼び出すようにすれば、恒星のみの画像を作るオプションが出てくると思われますが、私は今回は試せていません。

と、StarNetは結構面倒だったりします。この面倒さを回避するためだけに有料のSXTを使うというので、十分元を取ることができる気がします。ただ繰り返しになりますが、呼び出す環境も有料ソフトからになるので、ある程度の出費を覚悟する必要があります。


GIMPで仕上げ

恒星と背景を分離したら、あとは最後の仕上げや微調整です。個性を出すところでもあります。

有料だと仕上げまでPixInsightでやってしまう方も一定数いるかと思いますが、それでも最後はレタッチソフトを使うという方の方がまだ多いでしょう。Sirilだけで終えることができるかどうかはまだ私は試していませんが、そういった強者もすでにいるのかと思います。

レタッチソフトの有料版は、Photoshopがメジャーで、最近Affinity Photoが天体用にも話題になっています。Affinity Photoは結構良いという評判だったので、私も少し試用してから、締め切りが近くなった半額セールに負けて買ってしまいました。

Affinity PhotoはPhotoshopと違い買い切りでアップデートまでできるので、値段的にはかなり安くなります。機能的にもPhotoshopにかなり迫ることができますが、やはりこなれ具合など、まだPhotoshopの方がいい印象です。ただ個人の慣れもあるので、値段も考えると評価としてはトントンでしょうか。

Affinity Photoの方がいいところもあります。Photoshopは画像の処理過程の履歴を永続的に残すことができなくて、処理している最中はまだ元に戻れるのですが、ファイルを一旦閉じてしまうと、それまでにやって履歴は全てクリアされてしまいます。ファイルの中に記録するような手段は調べた限りないようです。どうしても作業を残したい時はレイヤーを多数使うなど、ユーザー側で何か工夫する必要がありますが、全部を残すのは現実的でないので、履歴は基本残せないと言ってしまっていいでしょう。一方、Affinity Photoはオプションで履歴を残すことができます。わざわざオプションで指定しなくてはダメですが、それでも手段があるとないとでは大きく違います。Photoshop用のプラグインも、昔のもので使えないものもありましたが、手持ちで最新のものにアップデートしているものは全てAffinity Photoでも使えています。

すみません、この記事は無料ソフトの検証なのにちょっと脱線してしまいました。Photoshopに相当する無料ソフトはGIMP一択でしょうか。


基本的なことは問題なくできます。操作性が少し劣る印象ですが、これは慣れもあるので個人的な感想の範疇かもしれません。それでもやはり有料ものと比べると差があるという感想です。

明らかに不利なところは、ノイズ処理があまりに貧弱なことと、Photoshopのプラグインが使えないことでしょう。あと、領域選択もPhotoshopのほうがかなり高機能で、いろんな手段があります。星雲の構造を出したいとかで、選択方法が限られると少し差が出るかもしれません。

GIMPでも基本的なことはできるので、天体画像処理も凝ったことをしなければ大丈夫です。よく使う機能といえば、レベル補正、トーンカーブ、彩度調整などでしょうか。レイヤー機能もあるので、恒星と背景に分離した画像の再合成もレイヤーを使うと簡単に「リアルタイムで見ながら」調整できます。

またちょっと脱線になりますが、私が画像処理をPixInsightで閉じてしまわずにPhotoshopに持っていくのは、このレイヤー機能があるからです。例えばStarNetで分離した恒星と背景画像の合成は、PixInsightだとPixelMathなどを使いますが、その都度計算させて結果を確認する必要があり、リアルタイムで見ながら調整というのからは程遠いです。一方、PhotoshopやGIMPなど、レイヤーがあればその場で見ながらリアルタイムで調整ができます。このレイヤー機能での差がある限り、PixInsightだけで閉じて画像処理を終えることは当分ないと思います。その意味ではレイヤー機能があるGIMPも十分使えることになります。

GIMPには、Photoshopで便利なCameraRAWフィルターに相当するのがないのが痛いです。ストレッチする前のリニア処理では人によってあまり差が出ないと思うのですが、ノンリニア処理では好みを入れたりして人によって仕上がり具合も変わってくるのかと思います。そこにこのCameraRAWフィルターの各種便利な機能を使うことで、簡単に効果的に調整を効かせられるので、好みや個性を出しやすいのかと思います。便利な機能なので、その反面、簡単に客観性や一般性を失うこともあります。それでも趣味としてはやはり楽しいのが一番だと思うので、加減しながら自分の好みで仕上げるのがいいのかと思います。GIMPにはこれに相当する便利な機能はなく、基本操作の組み合わせで工夫することになり、よりテクニックが必要なので、初心者には少し辛くなるのかと思います。


Zoomでの画像処理の様子

実際のZoomでの画像処理検討会は、上のようなことを試しながら説明して進めていったのですが、今回は特にどんな点に関して注目したかを書いておこうと思います。


1. ピント関連

まずダウンロードした画像では、少しピントがずれていたために、恒星が多少大きくなってしまっていて、真ん中が少し抜けてしまっていました。これは事前画像処理で試したところ、BXTを通すことで劇的に改善したので、無料ソフトに限るとなかなか手がありません。やはり大原則は、撮影時にできるだけきちんとピントを合わせるのが大事なのかと思います。せっかくの機会なので、私がよくやっている手動でのピントの合わせ方を説明しました。といっても大したことは言ってなくて、
  1. ピントを合わせる時に、一旦恒星が最小になったところを通り抜けて、再び大きくなるまで移動すること。
  2. 最小になった位置からどれくら移動したかを、指先でタッチした感触は、つまみを触った回数を数えるなどして、量として覚えておくこと。
  3. その覚えた量の分だけ逆方向に戻ること。
  4. 最小を通り抜ける時に、最小時の恒星の大きさを覚えておいて、それと比較して大きくなっていないかを、最後合わせこむ。
などです。


2. ディザリング

ダーク補正でのホット/コールドピクセルの処理のあとが、一部黒い点になって残ってしまいました。縞ノイズはほぼ何も出ていなかったようなので、ガイドはかなりうまくいっていたようです。その一方、ディザリングをしなかったので、こういった欠損的なものを散らすことができなかったようです。ディザリングは縞ノイズや各種欠点をうまく散らしてくれる、天体写真撮影ではある意味もう必須と言っていいくらいの標準的な機能なのですが、その貢献度があまり目立たないために軽視されることがあります。ディザーがないと画像処理に際して思わぬところで困ったりして、しかも縞ノイズとか今回の欠損のように、画像処理だと補正しきれないことに繋がることが多いです。「次回以降はディザリングをした方がいい」とアドバイスしましたが、「今の赤道儀だと外部ディザー信号を入れることができなかったり、たとえ外部信号を入れれたとしても、ディザー中にガイドを止めることができない」とのことで、難しいとのことでした。


3. トーンカーブのアンカー

トーンカーブでアンカーの使い方を説明しました。背景の色バランスはグレーに保ったまま、例えば今回のHαの淡いところを出したい場合などです。
  1. トーンカーブを赤だけが調整できるようにRを選択します。
  2. トーンカーブの山のピークの左側の斜右上がりの直線上にいくつか、複数の点を打ちます。これがアンカーになります。
  3. アンカーは、入力と出力が同じになるように、ちょうど直線の上に打ちますが、ずれた場合は入出力が同じになるように数値を見ながら調整します。トーンカーブの明るいところをいじっても、背景(山のピークの左側)の明るさが変わらないように留めておくという意味で、アンカーというわけです。
  4. あとは山のピークの少し右側を持ち上げると、アンカーのおかげで背景の色バランスは変わらずに、淡い赤い部分だけを持ち上げることができます。
アンカーはトーンカーブの右側にも何点か打って、明るい部分が持ち上がりすぎて白飛びしないようにするなどしてもいいでしょう。


5. フィルターと青成分

これは使っている光害防止フィルターに依ると思うのですが、多少なりとも青成分があれば、好みによってはトーンカーブなどで青をあえて持ち上げることで、諧調豊かな北アメリカ星雲にすることもできるでしょう。ただ、今回は上で説明したアンカーを使って青を持ち上げても、見た目ほぼ何も変化がなかったので、青成分のヒストグラムを見てみましたが、山の右側より明るいところにほとんど青成分が含まれてませんでした。今回のフィルターは2波長に絞ったかなり強いものなので、「もう少し青成分を通す弱いフィルターでもいいのではないか」という提案をしました。


6. 撮影時間とノイズ

今回はマスク処理に関しては説明しませんでした。ちょっと高度なことと、私自身がSirilでうまくマスクを作る方法と、GIMPでマスクを簡単に扱う方法を、よく知らないからです。マスクに関しては次回以降の課題としました。

私が事前に有料ソフトで処理したものはマスク処理も含んでいる(PixInsightでマスクを作り、Photoshopで適用)ために、背景の淡い構造があるところのノイズを目立たなくする目的で、星雲本体にマスクをかけて、背景のみに結構強めのノイズ処理をしています。その一方、無料ソフトだけの場合はマスク処理はしていないので、背景のノイズ処理は大したことをしていません。でも両者を比べると、背景のノイズ処理はあまりしない方が自然に見えているので、無理にマスク処理とかしなかった方がよかったのかもしれません。

そう言った意味で、「淡いところのノイズを減らすためには撮影時間を伸ばすことが重要」という説明をしました。特に今回の鏡筒がFMA135ということで口径わずか3cmなので、口径を大きくすることも背景のノイズを改善することになるかと思います。


と、大きくはこれら6つのことを言ったかと思います。改善につながる余地があるところです。その他は基本的なことも含めて、すでにかなり勉強して理解していたので、検討会も順調に進み、19時半に初めて22時前くらいまでの2時間強で色々議論できたのかと思います。


まとめ

少し長くなったのでまとめます。
  • 無料ソフトに限った画像処理でも、かなり有料ソフトに迫ることができる。
  • 具体的には、スタックと色合わせまではSiril、フラット化とストレッチとノイズ除去はGraXpert、仕上げはGIMPなどが使える。
  • ただし、恒星の補正と背景の細部出しに有利なBXTは、有料ソフトであるがかなり強力で、無料ソフトの使用だけに限ってしまうと、BXTの有り無しで大きな差が出る。特に高価な機材を使う機会が限られている初心者にこそBXTを使ってもらうことで、機材や画像処理テクニックの差を縮めてもらいたい。
  • 恒星を含む天体画像専用のノイズ除去に関しては、有料の方が有利であるが、無料だとGraXpertが使える。恒星と背景を分離して背景のみに適用するなら、天体画像専用でない一般的なノイズ除去ソフトが使える。
まずは余分なお金を使わないで無料ソフトで画像処理を進めても、もう全然良い時代になっているのかと思います。最近はSirilとGraXpertがその牽引役なのでしょう。あとはBXT相当の無料版があれば...。

CP+のセミナー、いかがでしたでしょうか?細かい操作も多かったので、その場では少し見にくいところなどもあったかもしれません。すでに動画配信が用意されているので、わかりにくかったところは繰り返しチェックしてみてください。

 

今回の記事は、動画配信を元に、わかりにくかったところの補足をしようと思います。


処理画像の準備

セミナーの中で話した、撮影までの状況と、SharpCapでの再ライブスタックは、これまでの記事で書かれています。







今回の記事は、セミナーで示した中でも、特に画像処理の部分について補足していきたいと思います。「なぜ」この操作をするべきなのかという意味を伝えることができればと思います。

セミナーは
  1. (23:50) 入門用にMacの「プレビュー」を使って、その場で処理
  2. (27:05) 初心者用にPhotoshopを使って、その場で処理
  3. (32:40) 中級者用に「GraXpert」とPhotoshopを使って、その場で処理
  4. (41:50) 上級者用に「PixInsight」をあらかじめ使った処理の結果を流れだけ
という内容 (括弧内の時間は配信動画での位置) でした。

使用した画像は、SharpCapで1分露光で撮影したオリオン大星雲を60枚したものです。これを、上の1と2はオートストレッチしたものをPNGフォーマットで8ビットで保存されてもの、3と4はRAW画像のfitsフォーマットで16ビットで保存されたものです。

オートストレッチで保存できるのは2種類あって
  1. 「Save with Adjustments」を選ぶ、LiveStackでのオートストレッチのみかかったもの
  2. 「Save exactlly as seen」を選ぶ、LiveStackでのオートストレッチに、さらに右パネルのオートストレッチが重ねてかけられてもの
です。今回は後者の2の保存画像を元に画像処理を始めます。いかが、SharpCapで保存されたライブスタック済み、オートストレッチ済みの初期画像です。

ここでオートストレッチについては少し注意が必要で、何度か試したのですが、ホワイトバランスや輝度が必ずしも一定にならないことがわかりました。全く同じRAWファイルをスタックした場合は同じ結果になるのですが、スタック枚数が変わったり、別のファイルをスタックしたりすると、見た目に色や明るさが変わることがあります。どうも比較的暗いファイルでこれが起こるようで、ノイズの入り具合で左右されるようです。明るさはまだ自分でヒストグラムの黄色の点線を移動することで調整できるのですが、RGBのバランスは大まかにはできますが、極端に暗い画像をストレッチするときの微妙な調整はSharpCap上ではできないようです。Photoshopでは背景と星雲本体を個別に色合わせできるのでいいのですが、WindowsのフォトやMacのプレビューでは背景も星雲本体も同じように色バランスを変えてしまいます。このことを念頭においてください。


Windowsのフォトでの簡易画像処理

まず、入門用のOSに付いている簡易なアプリを使っての画像処理です。

セミナー当日はMacとWindowsの接続が不調で、SharpCapのライブスタックとWindowsのフォトでの加工をお見せすることができませんでした。手持ちの携帯Wi-FiルーターでMacからWindowsにリモートデスクトップで接続しようとしたのですが、2.4GHzの信号が飛び交い過ぎていたようで、遅すぎで使い物になりませんでした。あらかじめテストはしていたのですが、本番でこんなに変わるとは思ってませんでした。

お詫びではないですが、Windowsのフォトについては、配信動画の代わりに、ここでパラメータと結果画面を追加しておきます。画像処理前の、SharpCapのオートストレッチで保存された画像は以下のものとします。

Stack_60frames_3600s_20_34_59_WithDisplayStretch

これをWindowsのフォトで処理します。
  1. WindowsではPNGファイルをダブルクリックすると、フォトが立ち上がります。画像処理をするには、上部真ん中にあるアイコン群のうち、左端の「画像の編集」アイコンをクリックします。
  2. 上部に出てくるメニューの「調整」を押します。
  3. フォトの弱点は、背景を暗くするのがしにくいことでしょうか。今回は「コントラスト」を右に寄せることで背景を暗くします。
  4. 星雲中心部が明るくなりすぎてます。トラペジウムを残したいので「強調表示」を左にして明るい部分を暗くします。
  5. 色バランスは「暖かさ」と「濃淡」で整えます。「暖かさ」左に寄せて青を出し。「濃淡」を右に移動しバランスを整えます。
  6. 「彩度」をあげて、鮮やかにします。
setting

画面が暗い場合は「露出」を少し上げるといいかもしれません。「明るさ」は変化が大きすぎるので使いにくいです。

上のパラメータを適用すると、結果は以下のようになります。
photo

たったこれだけの画像処理でも、見栄えは大きく変わることがわかると思います。


Macのプレビューでの簡易画像処理

Macのプレビューでの画像処理過程はセミナー中に見せることができました。でも今動画を見直していたら、どうも本来処理すべき初期画像を間違えていたようです。

Windowsとの接続がうまくいかなくて、内心かなり焦っていたようで、本来は上のフォトで示した初期画像にすべきだったのですが、間違えて出してしまったのがすでに加工済みの下の画像で、これを元に画像処理を進めてしまいました。焦っていたとはいえ、これは完全に私のミスです。本当に申し訳ありませんでした。
Stack_60frames_3600s_20_34_59_WithDisplayStretch 2

ここでは、改めて本来加工するはずの下の画像で進めようと思います。フォトで使ったものと同じものです。
Stack_60frames_3600s_20_34_59_WithDisplayStretch

最終的なパラメータはこれくらいでしょうか。一つづつ説明してきます。
setting
  1. オートストレッチで星雲本体を炙り出た状態だと、星雲中心部が明るくなりすぎます。トラペジウムを残したいので「ハイライト」を下げます。
  2. 背景が明るすぎるので、上のヒストグラムの左のマークを右に動かします。星雲本体を炙り出すために、真ん中のマークを左に少し寄せます。これは後のPhotoshopの「レベル補正」に相当します。
  3. 色バランスは「色温度」と「色合い」で揃えるしかないようです。「色濃度」は左に動かすと青っぽくなります。「色合い」は右に動かすとバランスが整います。最後は画面を見ながら微調整します。
  4. 「シャープネス」を右に寄せると、細部を少し出すことができますが、今回はノイズがより目立ってしまうので、ほとんどいじっていません。

結果は以下のようになりました。
Stack_60frames_3600s_20_34_59_WithDisplayStretch
これをみると、セミナー本番中にプレビューで処理を開始したものとよく似ているかと思います。要するに、練習でプレビューで処理をしたものを間違えて開いてしまったと言うわけです。こんなことも気づかないとは、やはりその時はかなり焦っていたんですね。それでも次のPhotoshopの処理はそれに気づいて、SharpCapから直接保存されたものを処理に使っています。


Windowsのフォトも、Macのプレビューも、いじることができるパラメータはそう多くはないので、解はある程度一意に決まります。むしろパラメータは画像処理を始めるときの初期のホワイトバランスと、初期の背景の明るさに依りますでしょうか?これはSharpCapの保存時に決まるのですが、保存時に細かい調整ができないのが問題です。それでも、方針さえしっかりしていれば、パラメータに関してはここら辺しかありえないというのがわかるかと思います。繰り返して試してみるといいかと思います。


Photoshopを使った画像処理

次はPhotoshopです。こちらはできることが一気に増えるので、パラメータ決定の際に迷うかもしれません。それでも方針をしっかり立てることで、かなり絞り込むことができるはずです。

初期画像は上と同じもので、SharpCapでストレッチされたPNGファイルです。
Stack_60frames_3600s_20_34_59_WithDisplayStretch
  1. (27:10) まず、背景の色バランスの調整です。これはPhotoshopのメニューから「イメージ」「色調補正」「レベル補正」を使うと楽でしょう。RGBの各色をそれぞれ個別に調整して、まずは各色の山のピーク位置と、各色の山の幅を調整します。調整の様子は動画で確認してみてください。山の位置が揃うと、背景の色バランスがとれたことになります。
  2. (27:40) 次に動画では、同じ「レベル補正」を使って背景を暗くしています。左の三角を少し右に移動します。暗くしすぎると、後から分子雲が出にくくなるので、これはもしかしたら必要無かったかもしれません。
  3. (27:55) 次に、青を少し強調します。一般的に星雲本体の青は出にくかったりします。特に今回は光害防止フィルターでQBP IIIを使っているので、そのまま処理すると、赤でのっぺりした星雲になりがちです。「イメージ」「色調補正」「トーンカーブ」と行って、「ブルー」を選び、ここは慎重に真ん中ら辺を少しだけ上げます。トーンカーブは左の方が暗い背景に相当し、真ん中ら辺が星雲の淡いところ、右が星雲の明るいところや、恒星に相当します。
  4. ただし真ん中を上げると、せっかくバランスをとった背景も青くなってしまうので、トーンカーブの線上の左の方をクリックしてアンカーを打ち、暗い背景部分があまり変わらないようにします。アンカーの部分だけが動かなくなるので、アンカーの右の方の線を動かすと、アンカーの左側も変わってしまって背景のバランスが崩れることがあります。そんな時は、左の方にアンカーを複数打って、背景バランスが崩れないようにしてください。
  5. (28:20) 少し地味なので、彩度を上げて各色の諧調が豊かな、見栄えがする画像にします。「イメージ」「色調補正」「自然な彩度」と選びます。その中に2つ触れるパラメータがありますが、「彩度」の方はかなり大きく変わってしまうので、私は「自然な彩度」の方を触ることが多いです。
  6. 補足ですが、色を出そうとしてよくあることなのですが、彩度を単体であげるとくすんだような俗にいう「眠い」画像になります。そんな時はまずは輝度を上げるようにしてください。輝度に関しては、画面に集中してしまうと、暗い状態でもいいと思ってしまうことがよくあります。一度ネットなどで自分が一番いいと思う画像をブラウザ上で見て、そのすぐ横に今編集している画像を並べてみてください。思ったより明るさも色も出ていないことに気づくかもしれません。客観的になるのは難しいですよね。並べて比べながら、まずは一番いいと思う画像くらいになるように明るさや彩度を出してみるのがいいのかと思います。
  7. (28:40) Photoshopで便利な機能が、「フィルター」の中の「CameraRawフィルター」です。まずは「ライト」の中の「ハイライト」を下げることでトラペジウムを守ってやります。
  8. (29:10) 次に、背景に含まれる分子雲を引き出すために「ブラック」を右に振り、「シャドウ」を左に振ります。ブラックとシャドウはよく似ていますが、逆にブラックを左にシャドウを右に振ってやると、似て非なるものだとわかるでしょう。この分子雲の炙り出しは、「効果」の「明瞭度」も効き目があります。セミナーでは説明しませんでしたが、「コントラスト」も同じような効果がありますが、こちらは強すぎる感があるので、使うとしても微妙に調整します。
  9. セミナーでは説明しませんでしたが、細部は「効果」の「テクスチャ」である程度出すことができます。同時に背景のノイズや不自然な大きな構造も出すことになるので、かけすぎには注意が必要です。
  10. (29:35) ここまで分子雲をかなりあぶり出してきたことになるので、かなりノイズが目立っていると思います。Photoshopでも簡単なノイズ処理ができます。その一つが「CameraRawフィルター」の「ディテール」の「ノイズ軽減」です。ノイズの具合に応じて、50とか、最大の100とかに振ってやります。同時に「カラーノイズ」も除去してしまいましょう。カラーノイズは画像を拡大すると、RGBの細かい色違いのノイズがあるのがわかると思います。拡大しながらカラーノイズが除去されるのを確認してみるといいかと思います。
  11. (30:45) ノイズを除去すると、どうしても細部が鈍ってしまいます。これは同じところの「シャープ」を上げてある程度回避できますが、完全に戻すことはPhotoshop単体ではできないかと思います。ノイズ処理に関してはここら辺がPhotoshopの限界でしょうか。
  12. (31:15) 最後に仕上げで再びトーンカーブをいじっています。ここら辺は好みでいいと思いますが、今回はまだ青が足りないのでBのを少し上げました。派手さは赤色で決まるので、Rも少し上げます。緑は自然さを調整します。赤とか青が強くて、全体に紫っぽくて人工的な気がする場合は、Gをトーンカーブで気持ち上げると自然に見えたりします。セミナーでは説明しませんでしたが、必要ならばトーンカーブの右側にも適時アンカーを打って、明るい部分が明るすぎにならないようにします。特にせっかく撮影時に残ったトラペジウムを、明るくしすぎて消さないようにします。
Photoshop

こんなところで完成としましたが、いずれにせよここでは、背景と星雲本体を個別に色バランスをとりつつ、背景を炙り出し、コントラストを上げることが重要です。背景はそもそも暗いためにノイズが多く、分子雲を炙り出すとどうしてもノイズが目立つようになるので、何らかのノイズ処理が必要になってきます。

WindowsのフォトやMacのプレビューだけで処理したものと比べると、背景と本体のバランスがとれていて、それらしい画像になってきたのかと思います。


GraXpert

ただし、Photoshopでの処理だけだと、背景の分子雲はまだあまり見えていないですね。この淡いところを出すにはどうしたらいいでしょうか?基本は、星雲本体と背景の輝度差をなくすことです。特に、画面全体に広がるような大きな構造(「空間周波数が低い」などと言います)での輝度差をなくすことが重要です。ここでは「GraXpert」という無料のアプリを使います。WindowsにもMacにも対応しています。

GraXpertは操作がそれほど多くないので複雑ではないのですが、少しクセがあります。

1. (32:35) GraXpertにストレッチ機能があるので、今回はすでにストレッチされたPNGではなく、暗いままのRAWフォーマットのFITSファイルを使いましょう。ストレッチされてない画像なので。最初にGraXpertの「1」の「Load Image」で開くとこんなふうに真っ暗に見えるかと思います。
Stack_16bits_60frames_3600s_20_21_42_fits_nostretch

2. (33:05) GraXpertの「2」の「Stretch Options」で何か選ぶと、明るい画像になるかと思います。ここでは見やすくするために「30% Bg」を選びます。

3. (33:15) 画像の周りに黒いスジなどある場合はフラット化がうまくいきません。ライブスタックの時にディザリングなどで少しづつ画像がずれていくと、黒い筋になったりするので、まずはそれを左メニュー一番上の「Crop」の横の「+」を押して、出てきた「Crop mode on/off」を押します。黒い筋を省くように選択して、クロップして取り除きます。クロップ機能がGraXpertにあるのは、画像周辺の情報の欠落に敏感だからなのでしょうね。実際の取り除きの様子は配信動画を参考にしてください。

4. 「Saturation」は彩度のことなので、少し上げておくと後から彩度を出すのが楽になるかもしれません。今回は1.5を選びました。

5. (33:48) 「3」の「Points per row」と「Grid Tolerance」は画像によって適時調整してください。「Create Grid」を押します。目安は星雲本体が黄色の枠で選択されないくらいです。ここであまり神経質にならなくてもいいのがGraXpertのいいところでしょうか。

6. (34:00) 「Interporation Method」ですが、これは4種類ありますが、各自試してみてください。場合によって適不適があります。私はKriging>RBF>AI>Splineくらいの印象でしょうか?セミナーでは時間のかからないRBFを選びました。Methodによっては差が出る場合もありますが、ほとんど差が出ない場合もあります。

7. (34:25) しばらく待って結果が出たら、画面真ん中上の「Processed」と「Original」で比較してみるといいでしょう。その差が「Background」で見ることができます。
bg
こうやってみると、左が緑に寄っていて、右が赤に寄っていたことがわかります。

8. (35:28)できた画像をこのまま保存すると、ストレッチがかかりすぎているので、「Stretch Options」で「10% Bg」程度を再度選びます。その後「5」の「Saving」で「16bit TIFF」を選択し、「Save Stretched & Processed」を押して、ファイルを保存します。

TIFFファイルはサイズが大きくなるので、ここではTIFFファイルをjpgに変換したものを表示しておきます。
Stack_16bits_60frames_3600s_20_34_59_stretched_GraXpert

9. (36:14) 保存されたTIFFファイルをPhotoshopで開き、あとは上でPhotoshopで処理したものとほぼ同様に進めます。

10. (36:20) 今回の場合、ヒストグラムで全ての山がそろっています。GraXpertで背景のホワイトバランスも合わせてくれています。

11. (36:28) 背景が暗いのですが、中心部は明るいので、Camera RAWフィルターで、ハイライトを下げ、黒レベルを上げ、さらに露光を少し上げると、背景の分子雲がPhotoshop単体で出したものよりも、すでに黙々しているのがわかります。これがGraXpertのフラット化の効果です。

12. (37:17) あとは同様にトーンカーブで青を少し出します。

13. (37:35) GraXpertのフラット化の弊害として、色が出にくいというのがあります。彩度を少し強調するといいでしょう。

14. (38:15) Camera RAWフィルターの「ディテール」の「ノイズ軽減」でノイズが目立ちにくくなります。ここまでの完成画像を示します。

Stack_16bits_60frames_3600s_20_34_59_stretched_GraXpert_final

明らかにPhotoshop単体より、GraXpertでフラット化することにより、背景の分子雲が出たのかと思います。

よりあぶり出せたのはいいのですが、その分ノイズが目立つと思います。そのため、動画では (40:13)あたりで DeNoise AIを紹介しています。これはAIを利用したノイズ除去ツールで、非常に強力なのですが、恒星の処理が苦手で、星が崩れたりしてしまいます。今回は中心が抜けたような星になってしまいました。

これは次に話すように、星と背景を分離するなどして、背景のみに実行することでうまく使うことができますが、ここまで来ると今回の範囲を超えてくるので、参考までにノイズツールはこのようなものもあるということだけ認識しておいてください。


PixInsight

セミナーでは最後にPixInsightでの処理を紹介しましたが、これは今回の目的の範囲を超えていると思いますので、参考程度に処理したものを順に示すだけにしました。なのでここでも詳細な解説は控えておきます。というか、これを解説し出すとこの一記事では到底収まりきりません。

ポイントは
  1. (42:40) BlurXTerminatorで収差を改善し星を小さくシャープにすること
  2. (44:47) 星と背景を分離すること
でしょうか。これらはPhotoshopでの処理とは全く異なり、天体画像処理専用ソフトの強いところです。最初からここまで手を出す必要は全くないと思いますが、いつか自分の処理が不満になった時に、こんな手法もあるということくらいを頭の片隅に入れておけばいいでしょう。


比較

最後に、今回それぞれで画像処理をした
  1. Macのプレビュー
  2. Photoshotp
  3. Graxpert
  4. PixInsight
の4枚を並べて比べてみます。左上からZの字を書くように、上の1、2、3、4と配置しています。

all

Macのプレビューだと、背景と星雲本体を別々に色合わせできなかったことがよくわかります。Photoshopになると、色がある程度バランスよくなっています。分子雲のモクモクはGraXpertが一番出ているでしょうか?

セミナー当日見せるのを忘れてしまいましたが、同じ4枚を拡大したものも比較してみます。
all_magnified

Macのプレビューはノイズ処理がないので、やはりノイジーです。拡大すると、PhotoshopのみとGraXpertが入った時の違いもよくわかります。モクモクのあぶり出しと同時に、細部もでています。それでも細部はPixInsightがBXTのおかげで圧倒的でしょうか。

セミナーの最後でも言いましたが、4枚目でも情報を引き出し切ったかというと、かなりいいところまで入っていると思いますが、まだ少し余地が残っていると思います。マスクを使ったりすることで、ノイズ処理やあぶり出しをもう少し改善することはできるかと思います。


まとめ

さて、今回のセミナーと合わせての一連のブログ記事いかがだったでしょうか?電視観望から始まり、撮影に発展し、画像処理までを解説してきました。セミナー本番は少し詰め込みすぎたかもしれませんが、後の配信を前提に動作を示すことを中心としたので、よろしければ動画を繰り返し見ながら確認して頂ければと思います。皆さんの画像処理の何かのヒントになるのなら、今回のセミナーを引き受けた甲斐が十分にあるというものです。

画像処理はとても奥深いところがあり、今回示したBlurXterminatorもそうですが、まだまだ今後ソフトや技術も進化していくはずです。大切なことは、ここまで説明したことの繰り返しになるかもしれませんが、闇雲に処理を進めるのではなく、何が問題で、どうすれば解決するかの方針を立てて、手持ちの技術で実際に進めていくことかと思います。画像処理といっても、いわゆる普通の問題解決プロセスと同じですね。

今回色々な手法を示しましたが、これが唯一の方法だなんてことは口が裂けても言えませんし、正しい方法かどうかもわかりません。あくまで一例で、他の方法もそれぞれ皆さんで、試行錯誤もあるかと思いますが、いろいろ編み出して頂ければと思います。











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