ほしぞloveログ

天体観測始めました。

タグ:G3M678M

なんとサイトロンさんからSkywatcher社の最新の太陽望遠鏡「ヘリオスター100Hα」をお借りすることができました。

サイトロンさんは2024年4月にACUTER OPTICS社の「フェニックス」で太陽望遠鏡を扱い始め、2025年3月にSkywatcher社のヘリオスター76Hα、2025年11月には屈折太陽望遠鏡の中では最大のクラスの口径100mmというヘリオスター100Hαの取り扱いを始めました。

これまで星まつりなどでヘリオスター100Hαを含めて何度か見比べる機会はありましたが、じっくり扱うのは初めてです。今回試すことができたのは、2026年1月17日の午前と、翌日18日の午後の一部の、晴れ間のチャンスのときで、時間も限られていたため、まだ最初の評価でしかありませんが、そのすごさは十分に実感できました。


ヘリオスター100Hαの外観

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鏡筒は大きなケースの中に入っています。中身は鏡筒本体と、ブロッキングフィルターが中に組み込まれている天頂プリズム、20mmのアイピース、遮光板などです。サイトロンが作成した日本語のマニュアルも入っています。

早速出して、赤道儀にセットしてみます。赤道儀は今回は手持ちのCGEM IIを使いました。ヘリオスター 100Hαの重量は6kgなのでもう一段階小さいAdvanced VXでも十分稼働できるかと思いますが、撮影まで考えるともう一段階大きなCGEM IIクラスの赤道儀の方が安定するのかと思います。
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面白いのは太陽ファインダーで、手持ちのハンドルと兼ねている秀逸なデザインのものです。

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最近は太陽でも長時間撮影になることもあり、ガイド鏡が必要だったりするのですが、ガイド鏡を取り付けるためのねじ穴も充実しています。
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フォーカサーも減速器が付いたタイプで細かい調整ができます。フォーカス部の動きの硬さを調節するつまみも使いやすいものがつけられています。

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眼視観察

今回は手持ちの太陽望遠鏡の入門機のフェニックスと比較してみたいと思います。

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まずは眼視での比較です。眼視に関してはあまり大した経験はないので、元々の予定ではパッと終わらせて、すぐに撮影に向かう予定でした。でもここで思ったより時間を使ってしまいます。なぜなら、フェニックスとヘリオスター100Hαの見え具合にあまりに差があったからです。使ったアイピースはヘリオスター100Hαに付属の20mmのものと、手持ちのハイペリオンの13mmです。これとVixexの2倍のバローレンズを組み合わせて見比べています。

まずですが、フェニックスも眼視で十分に見えています。プロミネンスも、ダークフィラメントも、プラージュも普通に見えます。さて、どれくらい違うのだろうとヘリオスターを覗くと、「えっ!?」と声を出してしまうほど違いました。まず、ダークフィラメントの濃さが全然違います。さらにプラージュがキラキラ輝いています。この日は黒点群が大きくつ出ていたのですが、大きい方はフェニックスでも十分に見ることができました。でも小さい方はフェニックスではそこまで気づかなくて、ヘリオスターを見て「あれ?もう一つある?」と改めてフェニックスを見て「あー、これは見落とすな」と思うくらいに、ヘリオスターだと細かいところが見えるのです。黒点周りの模様の一つ一つの細かいところが見えるというのでしょうか、もう全然違いました。

スマホで写真を撮ったみました。フェニックスと
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ヘリオスター100Hαです。
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そもそも、焦点距離がフェニックスの400mmに対して、ヘリオスター100Hαは760mmと倍近く違うので、同じアイピースで見ると、見た目の大きさも倍近く違うのはわかるかと思います。そして、ヘリオスター100Hαの方が、太陽表面の模様がより見えているのもわかるかと思います。

それでもスマホの撮影では眼視での違いは全然伝わりません。ここからは言葉の説明のみになりますが、雰囲気だけでも伝わればと思います。

眼視で見比べたときに相当な違いがあるので、何が違うのか確かめたくなります。フェニックスに
  1. ヘリオスターに付属の20mmアイピースと
  2. ハイペリオン13mmと
で見比べてみます。2にすると太陽は倍近くまで大きくなり、ヘリオスターに1を付けたときと同じくらいになります。それでもフェニックスで見ている限り、ダークフィラメントやプラージュのコントラストも、黒点周りの細かさも良くなることはほとんどありません。

そこでフェニックス側で13mmアイピースに、さらに2倍のバローレンズを付けてよく見てみたのですが、根本的に解像度が良く出ません。この時点で、「あ、これは口径の差だ」とものすごく腑に落ちました。40mmと100mmの口径の差は眼視でも明らかで、フェニックスとヘリオスターと一緒に見比べてしまうと、やはりフェニックスの口径の小ささをどうしても実感してしまいます。その観点からいくと、ヘリオスターに13mmのアイピースを付けたときは、さらに細かい模様を見ることができます。その時のスマホで撮影した画像です。
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口径による明るさも効いているでしょう。フェニックスに13mmのアイピースを付けて、2倍のバローを付けたときにはやはり暗いという印象です。ヘリオスターに13mmのアイピースを付けると大体同じ大きさの太陽像になるのですが、まだ十分明るく感じます。口径で100/40=2.5倍なので、明るさはその2乗で6.25倍になります。これだけの明るさに違いがあるのは、高倍率にしたときに効いてきます。

分解能に関しては口径の違いで納得したのですが、コントラストの違いは口径では説明できません。分解能がいいと、よりはっきりとは見えるので、多少コントラストが上がったように見えるのも理解できるでのすが、どうもそれだけでは到底説明できないレベルで違いがあります。これはエタロンの違いなのでしょうか?このとき結論は出ませんでしたが、次の日に撮影までして謎が解けました。

結局この日は撮影しようしてカメラをセットしたところで雲が出てきて終了でした。次の天気は2週間予報を見ても全然晴れにならなさそうなので、早めに眼視を切り上げて撮影に移った方が良かったみたいで、ちょっと失敗したかな思い、その日は撤収しました。


撮影での比較

次の日、朝から天気予報通り曇っていたのであきらめていたのですが、午後から一部晴れ間が見えてきました。時間は限られていますが、早速撮影に取り掛かります。

この日もフェニックスとヘリオスター100Hαを並べて同じような時間帯に撮影します。
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カメラですが、フェニックスにはいつものG3M678Mですが、ヘリオスターだと全景が入らないので、大きなセンサーサイズでピクセルサイズの小さいASI294MM Proをbin1で使います。ピクセルサイズはG3M678Mが2μmでASI290MMがbin1だと2.3μmとなるのでフェニックスるの方が有利ですが、ヘリオスターは焦点距離が倍近くであることと、さらに口径の差もあるために、分解能は出るはずです。ただし、ASI294MM Proをbin1で使うと、格子状の模様が出ることがあるので、そこが不利になるかもしれません。

まずは全景で比較してみます。共に500フレーム撮影し、そのうちの400枚をAutoStakkert!4でスタックしています。細部出しはImPPGですが、できるだけ同じような処理をしました。普通は更にPhotoshop などで仕上げをするのですが、今回は比較のためにできるだけシンプルにということで、細部出し以降は無しもしていません。あと、天頂プリズムのせいで上下が反転した画像になってしまっていますが、そのままにしてあります。

フェニックスと
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ヘリオスター100Hαです。
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ヘリオスターの方は格子模様が心配でしたが、とりあえず今回は大丈夫なようです。いまだに条件が良くわかりませんが、出るときは何をやっても出るというのが今までの経験です。

全景だとフェニックスも縁をスターもそこまで違いがわからないので、拡大して比較しています。解像度が違うので、Windwos上のフォトで拡大した画像を表示し、全画面キャプチャーしています。左がフェニックスで、右がヘリオスター100Hαです。
スクリーンショット 2026-01-20 213957_cut

さすがに違いが判りますね。ヘリオスター100Hαの方がより細かいところまで出ています。


考察

え?撮影だと思ったより違わない?

確かにそうなんです。実は撮影になると、そこまで差が出ないのです。
  • フェニックスの方はこれまでの経験から、おそらく口径からくる限界近くの分解能を出しています。
  • 悪いはずのフェニックスのコントラストは画像処理で輝度のオフセットを変えることができ、うまくごまかせてしまいます。
  • 一方、ヘリオスターは口径の限界には達していなくて、むしろシーイングによって分解能が制限されてしまっていると考えられます。100mm位の口径になってくると、シーイングのいい時に撮影しないと、口径の有利さを十分に生かせません。
以前口径20㎝のC8で試したしたときのように、長時間撮影の中でいいシーイングの時を選び出して見てやると、口径100mmを生かした分解能になるのかと期待します。

では眼視で言っていたコントラストの差は撮影では出ているのでしょうか?実はこれも撮影で明確に相当する違いがあります。再び全景画像を見てみます。一見あまり差がないような全景ですが、よく見ると全然違っていることがわかります。
  • フェニックスの方は全体的に粗い模様が出て元気に見える一方、
  • ヘリオスターの方は細かく見えて一見のっぺりしているように見えます。
細かく出るのは波長分解能が優れていて、これまで分光撮影でさんざん見てきた、プラージュとは別の白いモヤモヤがヘリオスターの方にのみ全体に広がっています。これは明らかにエタロンの性能に差があり、ヘリオスター100Hαのエタロンの方が透過波長幅が狭くて性能がいいことを示しています。もしかしたらフェニックスのエタロンの合わせこみが不十分だった可能性も残っていますが、それでもそこそこは合わせたつもりで、調整のレベルを超えた違いなのかと思います。

エタロンに差があるのは、眼視で見たコントラストの違いも説明ができます。波長透過幅が大きいと、Hα線からずれた連続光の明るさが大きく邪魔をします。Hα線からずれると、とたんに明るくなるので、少しのずれが背景光の輝度に大きく影響するからです。これは特にダークフィラメントのコントラストに効いてきます。波長分解能がいいと、ダークフィラメントが黒く濃くみえるようになります。撮影の際は輝度のオフセットを調整するなどして多少はごまかせるのですが、人間の眼にはそのような機能はないので、コントラストの違いがそのまま見たときの印象になります。


まとめ

どうやら、今手元にあるヘリオスター100Hαのエタロンの性能がフェニックスのものよりもかなりいいというのは間違いなさそうです。このことは眼視での見え方、特にコントラストに効いてくるので、ヘリオスター100Hαは眼視で十分に楽しむがのが適している鏡筒かと思われます。もちろん撮影でも有利ですが、口径100mmの性能を生かすためには、シーイングのいい時を狙う必要があります。

フェニックスは太陽望遠鏡の中でもあくまで入門機です。これまでの入門機クラスのものと比べても見え味は非常に優れていて、性能も安定しています。今回の比較で言えることは、それでもヘリオスター100Hαとフェニックスには明確な差があって、ヘリオスター100Hαはハイエンドクラスの名に恥じない素晴らしい性能を持った太陽望遠鏡であるということです。特に眼視ではその違いがはっきりと分かると思いますので、星まつりの展示など、機会がある方はぜひとも見比べてみてください。

ヘリオスター100Hαは今後一か月くらい使用できる予定です。北陸の冬はあまり晴れないのですが、まだチャンスはこれかあもあるかと思いますので、またレポートを続けていきたいと思います。


ASO294MM ProのROIを変更することで、TSA-120での分光撮影ができるようになったのですが、その日は風が強くて撮影した画像はブレブレでイマイチでした。エタロンを使ったフェニックスでのHα画像撮影とも比較しようとしましたが、ミスでライブスタックした画像しか残っていなかったので、年末休暇の2日目の28日(土)、満を持しての比較検討です。


機材の違い

3パターンの分光撮影と、参考として口径4cmのエタロンを使った
  1. TSA120+ASI294MMPro
  2. FC76+ASI294MMPro
  3. FC76+G3M678M
  4. Phoenix+G3M678M
の計4種で撮影しました。上3つが分光、最後がエタロンです。見たいポイントは、波長分解能と、空間分解能です。

IMG_2314

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波長分解能は分光の3つはほとんど差が出ないことは計算上わかっています。厳密にはカメラのピクセルサイズが効いていて、G3M678Mを使ったFC-76の方がいいですが、高々1割程度の違いなので見た目ではわからないでしょう。今のセットアップでの分光撮影とフェニックスエタロンとはFWHMで5倍くらいの差があるので、ここまで差があると見た目にもわかるかと思われます。

空間分解能に関してはFC-76の口径で制限されていることがわかっているので、TSA-120が有利です。計算上はカメラの分解能は2.0umのG3M678Mでも2.3umのASI294MMのbin1でも効いていなくて(bin2だと効いてきて分解能が悪くなる)、口径の1.5倍の違いだけが効いてくるので、空間分解能は単純に1.5倍良くなるはずです。を1の1.5倍ほどいいはずです。空間分解能の1.5倍は見た目にも顕著なはずで、こちらも画像で見て確認できるはずです。

というわけで、波長分解能は計算上

3>1=2>>4

でFC76+G3M678Mが一番よく、空間分解能は計算上

1>3~2>4

でTSA120+ASI294MMProが一番いいはずです。

さて、実際の結果はどうなるのでしょうか?


撮影

撮影は、1→4→2→3の順になりました。前回のTSA120+ASI294MMPでの再現をまずして、次に簡単なフェニックスでの撮影、その後エタロンとカメラをくっつけたままFC-76につかけえて撮影、最後にカメラをG3M678Mに取り替えたという手順になります。

時間と撮影枚数などは
  1. 11時41分-12時16分で10枚
  2. 13時3分-13時27分で10枚
  3. 14時20分-14時31分で10枚
  4. 12時38分で1500枚の内上位50%
となります。撮影した時間にある程度の開きはありますが、天頂を挟んでいることと、天候も一定で風もほとんど無く、条件はそこまで変わらないと思います。

画像処理もある程度条件を揃えています。分光撮影はJSol'Exで処理後、ストレッチなどしていない「disk」フォルダのtifファイルを上記枚数分AutoStakkert!4でスタック、ImPPGで細部出しとコントラスト出しをするところまでです。前回の記録ではさらにPixInsightとPhotoshopで加工などしていますが、今回の比較ではできるだけ未加工の状態で比べたいので、それらの最後の仕上げはしていません。フェニックスの方は、動画をAutoStakkert!4スタックし、ImPPGで細部出しをしています。


全体像の比較

結果を1、2、3、4の順に並べます。

IP_aligned_lapl2_ap21123_IP
1. TSA120+ASI294MMPro

IP_aligned_lapl2_ap8066_IP
2. FC76+ASI294MMPro

IP_aligned_lapl2_ap11969_IP
3. FC76+G3M678M

12_38_40_lapl2_ap3724_IP_flipcut
4. Phoenix+G3M678M

波長分解能は上の4枚の比較でわかるかと思います。予想通り、1、2、3はほとんど同じかと思いますが、4はやはり違って見えます。見るべきところは、分光の1、2、3はダークフィラメントのコントラストが良いこと、プラージュの明るい領域の他に、もっと広域で白いモヤモヤが広がっているところでしょうか。細かい模様は4のフェニックスの方が一見よく見えています。これはHα線からズレたところに出てくる模様で、波長分解能としては悪くなっていることを表しています。分光撮影で波長幅をあえて大きくしてHαからズレたところも含めると、同様の画像が再現できることがわかっています。

TSA-120の画像はコントラストがいまいちな他に、上下に周辺減光の影響が出ていることがわかります。細長い領域で撮影し、それを赤経でスキャンするので、その端の暗い部分の影響が上下に出るというわけです。もっと言うと、コントラストが悪いのもこの周辺減光が原因です。輝度差のために簡易な画像処理の段階ではまだコントラストを補正しきれないのです。


拡大像の比較

次に、真ん中右の黒点部分をそれぞれ拡大して比較してみます。左上から1、右上が2、左下が3、右下が4です。
スクリーンショット 2025-12-30 204222_cut


空間分解能は拡大した画像を比較すると良くわかります。予想は

1>3~2>4

でしたが、結果は意外なことに

2>3>1

となりました。4のフェニックスの画像は少し出方が違うので比較が難しいのですが、あえて言うなら

2>3>4>1

くらいでしょうか。これは画像処理を進めていくとわかる結果で、FC-76はもっと細部を出しても耐えられますが、フェニックスは無理をすると破綻してしまいます。口径わずか4cmなので、限界に近い分解能が出ているのかと思います。ざっくり計算で口径4cmだと分解能は4秒、カメラの1ピクセル2umでが焦点距離400mmだと分解能が1秒くらいなので、口径からくる光学限界が見えている可能性が高いです。

問題はTSA-120で、なぜここまで出ないのかよくわかっていません。


なぜ実際の分解能が予測と違うのか?

いずれにせよFC-76のカメラ違いの順序も含めて、予想と全然違います。これにはさすがに???となってしまいました。何か順序とかに間違えがないか見直しても、特におかしなところはありません。単純なミスではなさそうなので、いくつか可能性を考えてみます。
  • まずパッと思いついたのは、撮影した時間が違うことです。でも、普通は朝早い方が条件がいいので、TSA120の結果が悪くなることはないはずです。
  • 撮影に長い時間をかけると模様が変わってくるのでぼやけたような結果になります。確かに1のTSA-120での撮影に一番時間をかけていますが、2と3のFC-76の撮影では3の方がはるかに短い時間で撮影していても、2の方が分解能が出ているので、うまく説明できません。
  • たまたま2の撮影の時だけシーイングが良かった可能性もあります。でも、いいシーイングがある程度続くのはせいぜい10分くらいで、特にいいシーイングは1時間のうちほんの30秒くらいです。機材1パターンの撮影が30分程度にわたって続いているので、こちらもある程度平均化されているかと思います。でも、シーイングの可能性は捨てきれないことも確かです。
  • 分光器の調整や、ピントがあっていなかった可能性もあります。できる限り同じような精度で調整していますが、今回は分光器の付け替えや、カメラの付け替えで、調整の精度がばらついている可能性は否定できません。でも今回は1=2>3の順で精度がいいのかと思っています。1は前回も合わせていていつもの手順通り。2は太陽像が小さくなるので、同じ手順で調整できます。3はカメラのセンサー面積が小さくなり、スリットの端が見えないので、太陽像と背景のエッジ、フラウンホーファー線のピント、粒状斑ので具合の3つを見ながら、コリメートレンズ、カメラレンズ、鏡筒の焦点の3つの自由度を合わせ込む必要があります。これら3つの自由度は独立ではないため、合わせ込みが難しく、3番目の調整が一番大変でした。もしかしたら3番目に一番時間をかけて調整したので、ここだけ逆に精度が出ている可能性もなくはないですが、いずれにせよ1番と2番に差はあまりないはずで、この調整が原因で1番と2番の順序の逆転を説明できるとは思えないです。

色々考えていて、ふと思いついたことがあります。撮影時の赤道儀のスキャンのスピードの違いです。
  • 1番と2番はASI294MMPでフレームレートが70fps程度低いので、スキャン時の赤径の移動スピードを4倍にまで落としています。その一方、3番はG3M678Mのフレームレートが300fps程度とかなり速いので、赤径の移動スピードを16倍にしてあります。
  • 1番と2番のスキャンスピードは同じですが、TSA-120とFC-76で焦点距離が違うので、太陽像自身が小さくなります。太陽の径は同じなのでスキャンしている角度は同じですが、焦点距離が短い分仕上がり画像で言う縦幅が小さくなるので、縦横比が大きくなります。要するにより仕上がり画像の横方向を相対的により(ゆっくり)細かくスキャンしていることになります。その分情報量が多くなるので分解能も増すという考えです。
  • 3番は縦横比を保つくらいの速度でスキャンしているので、分解能はそこまで上がらないはずです。
  • でも相対的には縦に比べて横方向は情報量は増えたかもしれませんが、TSA-120の画像に比べたら縦横比が増したというよりは、縦の情報量が減っただけと考えることもできるので、あまり説明できない気もします。

まとめ

TSA-120での分光撮影から久しぶりにFC-76での分光撮影にもどって思ったのは、TSA-120での撮影はかなり無理をしているなということです。スリット長を長くしましたが、焦点距離900mmはスリット長ギリギリまで太陽像が大きくなります。極軸が合っていないと撮影していてもすぐに位置がズレてしまい、スリットからはみ出してしまいます。カメラも大きなセンサーサイズを必要としますし、その分フレームレートも落ちます。単発の撮影ならまだしも、スタックすることを考えて連続撮影しようとしても、撮影時間が長くなってしまい、かつ成功率も低いので、さらに撮影時間が長くなってしまいます。毎回記録撮影をするとしたら、ここまで苦労するのは大変ではないかと思っています。しかも苦労の割に今回口径の大きいはずのTSA-120の方が分解能が悪いという結果になってしまいました。周辺減光も深刻そうだと改めて今回思いました。

分解能が出ない理由がまだはっきりしなくて、結局結論は出ないので、天気が良くなったら今一度撮影してみようと思います。簡単なのは、FC76+G3M678Mで赤道儀のスピードをx4、x8、x16、x32倍速でそれぞれ撮影し比較してみることです。x4があからさまに分解能がよくなったなら、今回のことは説明ができる可能性が出てきます。

その一方、TSA-120はASI294MMPの4倍速の一択なので、こちらも何かおかしなところがないか、またFC-76の撮影の前後で撮影するとか、FC-76の4回の撮影と交互に撮影するとかで、状況変化の影響をなくせればと思います。

とにかく、TSA-120の方がいいのか、FC-76の方がいいのか、今後の撮影の大変さに大きくかかわるので、はっきりさせたいです。もっと正直に言うと、今回のFC-76くらいの結果がコンスタントに出るならもう十分で、機材が楽なこともあり、今後もこの設定で記録していく方が楽な気がしています。

今回はTSA-120の優位性を示したかったのですが、予想外の結果となってしまいました。でもこれはこれで面白いので、かたをつけたいと思います。

今回はTSA-120の優位性を示したかったのですが、予想外の結果となってしまいました。でもこれはこれで面白いので、かたをつけたいと思います。


日記

実は次の日曜にC8で粒状斑の撮影を試みたのですが、強風で画面が揺れまくり、合計400GBくらい撮影した画像は全て無駄となりました。休暇のうちはもう富山は晴れそうにないので、実家の名古屋に年末年始で帰る時に機材一式を持っていって、今一度チャレンジしようと思っています。太平洋側が羨ましいです。

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ちなみに土曜の夜も撮影しています。新機材のテストです。こちらもまたまとまったら記事にします。



今回はフェニックスでできるだけ高分解能で撮影したという話です。


以前より高分解能カメラで

以前CP+でフェニックスをお借りしていた時
は、手持ちで太陽の全景が入るモノクロカメラでちょうど良さそうなものはApplo-M miniくらいでした。このカメラはグローバルシャッターが付いていて、シーイングなどで素早く動く太陽の模様を撮影するのには向いているのですが、ピクセルサイズが4.5μmとそこそこ大きく、高分解能撮影にはちょっと厳しいです。当時、分解能の比較として手持ちのピクセルサイズ2.9μmのASI290Mで画像比較をしてみました。下の画像はCP+で使ったスライドの1ページです。

スライド76

下の2段は同型のASI294で、カラーとモノクロ(ただし、センサーはIMX294とIMX492で違うものです)で比較したもので、同じピクセルサイズならやはりモノクロの方が分解能的に有利なことがわかります。ピクセルサイズの違いは、上の段の2枚を比べてもらえばわかるように、ピクセルサイズが高々2/3になっただけなのに、小さい方がかなり有利ということがわかると思います。その一方、このASI290MMはセンサー全体のサイズが小さいため、フェニックスでの撮影では太陽の全景が入らないので不便で、その当時のフェニックスには常用使いにはなりませんでした。

その後SHG700での分光撮影のために、センサーサイズが大きくさらにピクセルサイズも2.0μmと小さい、ToupTekのカメラG3M678Mを手に入れました口径8cmの鏡筒にPSTをつけた状態で、ASI290MMとG3M678Mの比較は以前していますが、今回はフェニックスでこのカメラを使って撮影してみます。全景が入るのはもちろん、分解能がどこまで向上しているのか楽しみです。


とりあえず眼視をもう少し

試したのは2025年12月6日のことです。前回フェニックスのファーストライトの続きで、まずは眼視で楽しみます。

ところが、エタロンの様子がちょっとおかしいです。元々回転リングの動く角度は60度程度と大きくないのですが、その範囲でHα線の周りを走査できるようになっているはずです。ですが今回は接眼側から見てエタロン回転リングを反時計方向に回していくと徐々にプロミネンスが濃く大きくなっていき、大きくなりきっているかどうかわからないくらいで回転できる範囲が終わってしまい、それ以上エタロンを調整できないのです。

少なくとも、先々週のファーストライトではこんなことは気づきませんでした。夕方間近で時間がなくて気づかなかっただけかもしれませんが、流石にこれだけ不自然だと気づいていておかしくないレベルです。

前回と大きく違っていることは、ここ最近で気温が急激に下がったので、エタロンの振る舞いが違っている可能性があることです。そういえば、CP+で借りたフェニックスも同じ方向にHα線の中心波長が寄ってしまっていたことを覚えています。季節もちょうど同じ冬だったので、元々暖かい時期に回転中心に調整したものが、気温変化で同方向にずれてしまっていると考えてもおかしくなさそうです。

さて、これで撮影してもつまらないでしょう。せっかくの透過幅の狭いエタロンの能力を引き出すことができません。販売店に相談して送り返してもいいのですが、それだとまた時間がかかってしまいます。

フェニックスのエタロンは、裏にスポンジがついていて、PSTのエタロンと似た構造になっています。下の画像はCP+講演のときのスライドの1ページですが、裏から見たエタロン部のところにオレンジ色のスポンジのようなものが見えるのがわかるかと思います。

スライド32

PSTエタロンの特許が切れたので同型のエタロンを作ることができるようになったとの噂もあり、構造は酷似していると考えられます。PSTのエタロンならエタロン本体(2枚鏡の心臓部)以外は完バラしているので、構造はよく理解しています。手で触れる外側の回転リングの内側にもう一つ回転リングがあり、実際の調整は内側のリングで圧力をかけてエタロンの2枚の鏡の間の距離を変えています。外側のリングと内側のリングは一本のネジで固定されていて、しかも内側のリングには円周上にネジ穴がいくつも開けられているために、ネジをそのうちのどれかに締め込むことによって、内側のリングと外側のリングの相対的な位置が決められています。

もしフェニックスのエタロン部の構造が同じなら、同様のネジがあるはずで、そのネジを緩めて外側の回転リングを独立して回してやり、ネジを別の穴に挿して締めてやることで調整範囲を変えることができるはずです。


Hα中心位置の調整

フェニックスのエタロン部の外観を見ると、ちょうどそれらしいネジがありました。

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これから示す方法は、決して難しい方法ではありませんが、マニュアルなどには記載されていない方法で、あくまで自己責任での調整になります。これで故障などしても販売店の保証は受けられなくなる可能性があります。それを理解した上で、必要な方はお試しください。中心波長が回転範囲内に入っていないと思っても、心配な方は販売店に修理依頼などをお尋ねください。このブログではあくまで調整方法があるということを示すだけで、それによって生じた不具合などを補償することはできません。繰り返しになりますが、あくまで自己責任ということを理解した上で実行するようにしてください


事前準備1: 外側リングをどちら方向にずらした方がいいかをあらかじめ確認しておきます。
  1. 太陽を見ながら、Hα線の中心と思われる位置に外側回転リングを回して合わせます。
  2. 波長中心に持って行ける場合は、そこからリングを回して、回転端までどちらの方向が狭いか、どちらの方向が広いかを確認します。
  3. 回転端まで狭い方向にリングを回しきってしまいます。
  4. もし、Hα線の中心に行く前に回転端に到達してしまった場合はそのままにしてください。こちらも下の調整では回しきった反対側の方向に回転リングを回します。

事前準備2:
  1. 金色の金属の回転リングの対物側の端と、エタロンを上から固定している文字が印刷されている金色の金属円盤との黒い溝状の隙間の長さを確認しておきます。3-4mmくらいかと思います。

実作業:
  1. 上の写真で見えている、外側リングに埋め込まれているネジをマイナスドライバーで緩めてネジを引き出します。
  2. ある程度緩めるとそれ以上出てこなくなるので、つまんで少し引っ張ってやります。
  3. ネジが内側リングの穴から抜けると、外側のリングが独立して軽い力で回転方向にも、前後にも動くようになります。その際、ネジが外側リングからスッポリ抜けてしまっても構いませんが、その際は再び外側リングに挿し込んで、尚且つ内側リングからは抜けた状態になるようにネジをもっていってください。
  4. 事前準備2で確認した、黒い溝の隙間の距離を保ちながら、事前準備で確認した、回転端に達したのと反対方向にリングをゆっくり回します。
  5. 黒い溝の隙間の距離を保つことに気をつけつつ、ネジの頭を少し押しながら回していくと、ネジが少し押し込める場所があることがわかります。ここが隣のネジ穴になります。
  6. 一度ネジを数回転回して仮止めしてから、実際の太陽像を見ながら外側回転リングを(内側回転リングと一緒に)回して、Hα線が回転範囲の中心に来たかどうか確認します。
  7. ネジ穴をずらした距離が不十分なら、さらに隣のネジ穴を探して同じことを繰り返します。

私の場合はHα中心が丁度回転端付近にまで達していたので、3つくらいネジ穴をずらしたところで、回転範囲の中心にHα線の中心が来るようになりました。


スマホアダプターでの撮影

上のように調整した後は、眼視で見てもプロミネンスがちょうど回転中心付近でよく見えるようになりました。表面の複雑な模様もよく見えます。大きな黒点が出ていてちょうど真正面にきているので、眼視でも迫力がありました。

付属アイピースは焦点距離を調節できるタイプのものなので、拡大もできて便利です。また、スマホアダプターも付属されているので、使ってみました。うまくスマホを固定するのに少しコツはいりますが、固定さえできればあとは簡単に撮影することができます。普通に写すとかなり明るくなってしまうので、スマホのカメラ機能で輝度を落とすといいのかもしれません。

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jpegで保存されていますが、これでも多少の画像処理をするだけでプロミネンスや表面の模様が見えてきます。
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G3M678の効果

スマホの殺絵だけでも楽しいかもしれませんが、ここからはモノクロCMOSカメラを使った本格的な撮影にうつります。カメラはG3M678Mです。このカメラはピクセルサイズが2μmと天体用カメラとしてはかなり細かい部類で、分解能を上げることができると思われます。その一方、センサーサイズも1/1.8インチとそこそこ大きく、今回のフェニックスの焦点距離400mmだと太陽全景がプロミネンスも含めてちょうど入るくらいの大きさです。

フェニックスの鏡筒の口径は8cmですが、エタロンを取り付けたときはエタロンの開口径の4cmに制限されるため、実効的には口径4cmとなります。その場合の分解能は例えばドーズ限界を考えると11.6秒 / 4cm = 2.9秒となります。

その一方、センサーサイズが7.7x4.3mmなので、焦点距離400mで画角を計算すると1.10 x 0.616度となります。解像度が3840x2160なので、1ピクセル当たりの画角は1.03秒となります。上のドーズ限界と比べると、カメラの分解能の方がすでに十分細かいので、オーバーサンプリングになります。うーん、こうやって改めて比較してみると、すでにオーバースペックのカメラですね。

それでも、ドーズ限界は眼視における2つの星を輝度で見たときの分離限界とも言えるので、撮影の際にはのちの画像処理も考えると輝度差を拡大できるので、分解能はもう少しよくなるはずです。例えば、かなり昔に惑星撮影でドーズ限界をどれくらい超えることができるかを議論したことがあって、ざっくり1.5-2倍程度まで改善できそうだという検討結果でした。

また、カメラのピクセルサイズと分解能について議論したこともあり、ピクセルサイズがレイリー限界やドーズ限界よりも細かい方がより分解能を上げる効果があるのではないかと、当時は結論付けています。

なので、おそらくですがまだこのレベルだとピクセルサイズが小さくなることは効果があって、今回のカメラは分解能に対してまだ貢献できるのかと思います。実際には口径4cmの分解能にかなり近いところを攻めるくらいになっているはずで、言い換えると、フェニックスの性能限界にちょうど迫るくらいになっているのかと思います。

ここら辺の検証は、カメラを例えば手持ちの2.9μm/pixelのASI290MMにわざと分解能を落として比較するとか、バローレンズを入れて分解能が上がるのか上がらないのかを見るなどで実際に確かめることができるのかと思います。余裕があったら試してみたいと思います。


G3M678での撮影

実際にG3M678Mで見てみます。まずはSharpCapで簡易的にライブスタック機能を使います。この時点で黒点周りのHαの模様もかなりの分解能で見えることがわかります。

スクリーンショット 2025-12-06 095839

この時にそのままPNGで保存したファイルになります。
Snapshot of 09_56_57_Stack_00001 09_56_56

どうでしょうか?画面にWaveletの設定が出ていますが、ほぼオート設定です。500枚のライブスタックで、簡単にここまで見ることができますが、これは楽でいいです。実際ここまで出るのはかなり楽しいと言わざるを得ません。

せっかくなので、serフォーマットで動画で撮影し、マニュアルでスタックして、画像処理までしてみました
10_32_12_lapl2_ap3783_IP

直接比較してみるとどうでしょうか?左がSharpCapのライブスタック、右がserファイルからのマニュアル処理です。
comp

さすがにライブスタックそのままだと差が大きいので、別途画像処理してみましょう。左がSharpCapのライブスタックを画像処理したものです。右は上と同じでserファイルからのマニュアル処理です。
comp2

どうでしょうか?両方とも画像処理することが前提なら、ライブスタック画像もマニュアル処理にかなり迫ることができます。それでもやはり差はあって、特に明るいところと暗いところの階調の滑らかさや分解能など、きちんと出すならやはり動画からマニュアルで処理した方が多少いいようです。

今回のフェニックスとG3M678Mは、太陽全景を一度に写しつつ、口径4cmのフェニックスの限界近くに達しているものと思わ、ある意味ベストに近い組み合わせなのかと思います。これ以上分解能を上げるには大きな口径の鏡筒を使うのが正しい方向です。口径を増やして、さらに拡大して撮影して分解能を上げるのが、次に考えることになるのかと思います。


まとめ

今回の組み合わせは、フェニックスが15万円強、G3M678Mが4万円強で、合計20万円程度です。決して安い価格ではありませんが、一昔前の太陽望遠鏡ではこの値段ではここまでの性能を出すのはかなり難しかったと思います。太陽望遠鏡としてはまだ入門機なのですが、それでもフェニックスの透過波長幅は0.6Å以下とかなり優秀で、ここまで太陽Hα画像が出るのなら、しかも簡単なライブスタックでもこれくらいは出るのなら相当なコストパフォーマンスです。

上の全景画像のように簡単に全面がムラなくほぼ一様にHα中心に見えるというのは、実は驚異的なことだと思います。例えば手持ちのPSTエタロンでは、均一範囲は3-4割と言われています。フェニックスエタロンは製品ごとのばらつきもほとんどないと聞いているので、安心して手に入れることができる入門用の太陽望遠鏡なのかと思います。いい時代になったものです。フェニックスエタロンの詳しい性能については、CP+での講演動画をご覧いただければと思います。




その後、お客さんが

この日は天気は良かったのですが、思ったより風が強かったので、フェニックスでの撮影を終えてからは少し気が抜けてしまって、自宅でのんびりしていました。そんな折、お客さんがきてくました。以前、太陽を見に来てくれたMさんの所の中3のお嬢さんです。私が朝からXでつぶやいていたのを見てお母さんと一緒に訪れてくれました。

まだフェニックスのセットアップは残っていたので、アイピースに戻して実際に太陽を見てもらいました。と言ってももう夕方近くで、太陽が隣の家の高い木にかかってしまっていたので、わざわざ赤道儀をずらして太陽が見える位置に移動しての観察になります。星座ビノに太陽フィルムを付けたもので、太陽黒点も直接見てもらいました。

満月の次の日でちょうど月の話が出たので、望遠鏡を一本持って帰ってもらいました。ビクセンのポルタで、昔星まつりで中古で特価で手に入れたものです。振動比較で使ったくらいでほとんど使っていなかったので、長期貸し出しということで自由に使ってもらいたいです。うまく月が見えたかどうか、今度会ったときに感想を聞いてみたいです。


太陽分光撮影のアップグレード計画の開始です。

アップグレートはトータルで考える

以前議論したように、現在のFC-76+SHG700+G3M678Mがどこまで性能が上がるのか、実際に機材をアップグレードして試してみることにします。

きっかけは、元々SHG700に標準で付いていた幅7μm、長さ7mmのスリットが、幅は同じで長さが10mmのものにアップグレードされることが検討され、そのテストも完了し、やっと一般配布が始まったことです。私も発表されてすぐに発注しました。到着はかなり前だったのですが、今のセットアップでやりたいことも大体できたので、やっとテスト開始というわけです。

そもそも、スリットの長さが長くなると何が良いのかというと、一言で言うと鏡筒の焦点距離が伸ばせると言うことです。分光撮影ではスリット上で焦点を合わせる必要があることから、焦点距離によって太陽像の大きさが一意に決まってしまいます。ざっくり言うと、長さ7mmのスリットで焦点距離700mmまで、長さ10mmのスリットで長さ1000mmまでです。今使っているFC-76の焦点距離は600mmなので、7mmスリットでまだ少し余裕があります。今回は10mmスリット用に、焦点距離900mmのTSA-120を使うことを考えています。

でも単純に焦点距離を伸ばせば良いのかというとそうでもなくて、例えばカメラセンサー上の太陽像の大きさも大きくなるので、センサー面積を大きくするか、カメラレンズの焦点距離を短くするなどの手当てをしてやる必要があります。また、焦点距離が長くなると口径も大きくなりがちで、その分集光された光のエネルギーが上がるので、スリットが焼けたり壊れたりしないかなども考慮する必要があります。SHG700で使われているスリットは溶融石英製で熱膨張率が小さいため、MLastroによると口径4インチ(102mm)までは大丈夫とのことです。普通のBK7などのスリットだと耐熱量はもっと下がるので、普通はNDフィルターなどを入れる必要があります。だた、溶融石英と言えど今回は口径120mmと推奨口径より大きくになるので、少し心配です。


参照画像撮影と事前テスト

まず比較のために現在のFC-76ベースでのHα画像を撮影しておきます。その結果は前回の記事にまとめてあります。そうです、前回記事はいつもの記録撮影に加えて、新システム移行に際しての比較テストという意味も兼ねていたのです。これと今回撮影する画像との比較で、性能が上がったかどうか判別します。

比較のための事前撮影が終わった後に、まず最初にやったのは、口径を大きくしてスリットが溶けたり燃えたりしないかの安全テストです。口径が120/76=1.58倍となるので、光量は(120/76)^2~2.5倍となります。上でも書いたように少し心配なので、C8にPSTを取り付けた際に使ったようなUV/IRカットフィルターを入れてやります

太陽のエネルギースペクトルを考えると、可視光の割合は全エネルギーの約半分(47~52%)とのことです。今の76mmで十分余裕があること、120mmそのにするとその2.5倍になるくらいなので、可視光以外をカットしてしまえばスリットにダメージが出るようなことはなさそうです。

それでも念のために、まずはSHG700には何も手を加えず、鏡筒をTSA-120に変更します。
IMG_2173

最悪スリットにダメージがあったとしても、長さの短いものが壊れるだけで、新しい10mmのものはまだ壊したくないという意図があります。光を入れる際も、少し光りを入れてから一旦鏡筒からSHG700を外して、スリット部やその周りが熱くなっていないかなどを確認しながら、徐々に入れる光の量を増やしていきます。フルで光が入っても問題なさそうなことを確認できた後も、光を入れる時間を徐々に増やして、その都度外して暑くなっていないか確かめます。数分間入れても全く熱くならないことができたので、撮影に入ります。カメラはまずはこれまでと同じG3M678Mです。当然ですがもう全景は入らないので、左右2つに分けて撮影します。JSol’Exでの太陽像再構築は、全景が入っていなくても可能なはずです。1ショットだけ撮影したところで太陽像を再構築してみましたが、問題なさそうなので、左側5ショット、右側5ショットを撮影しました。

実際のスリット交換と、失敗したカメラ交換

次に、スリットを新しい10mmの長いものに変更します。二つスリットを並べましたが、溝をカメラで写すのはちょっと大変で、部屋の明かりを利用して何とか片方づつ写るようにしてみました。右が古い7mmスリットで、左が新しい10mmスリットになります。
IMG_2184

IMG_2185

古いスリットは、SHG700に取り付ける台座とスリット部の台座が分かれていたのですが、新しいスリットは一体型になっていました。
コスト的には新しい方が正しいのかと思います。もしかしたら、スリットの角度を変更したくなったときに少し困るかもしれません。

新しいスリットをSHG700に取り付け、さらにカメラのセンサー面積を大きくするために今回はフォーサーズのASI294MM Proを使ってみました。ですが、ここから大きくトラブることになります。まず、アイピース型のカメラではなくなるので、カメラを取り付け口の中に入れ込むことができなくなり、ピントが出なくなります。そのためアメリカンサイズに変更するアダプターを取り外しT2ネジでとりつけることになりますが、ねじ込み式になるのでカメラの回転角の調整ができなくなります。最初どうするか迷ったのですが、MLastroのチュートリアルビデオを見直すと、SHG700本体側にイモネジがあって、そこを緩めることで取り付けアダプターを回転できるとわかりました。

決定的な問題点は、ASI294MM Proは任意のROI(Region Of Intrest、ソフト的な画角)を選べないのです。ZWOのマニュアルによると選べるROIはどうも固定っぽいです。しかも、フレームレートが最小のROIの320x240でも高々60-80fps程度で、実際にほしい300fps程度には全く届きません。最大幅にしてテイフレームレートになっても、赤道儀をものすごくゆっくり動かして撮影することはできるかもしれませんが、さすがにあまり実用的ではありません。

この時点でASI294MMを使うのを諦めました。別のモノクロでセンサー面積の広い、且つピクセルサイズが小さいカメラを手に入れる必要があります。とりあえずTSA-120での全景撮影はしばらくお預けです。

追記: 後日、ASI294MM ProでROIを変える方法が見つかりました。これで全景を一度に撮影できるようになりました。ただし、フレームレートが遅いので、撮影に時間がかかるのが難点です。



とりあえずの画像比較

TSA-120での全景撮影はあきらめましたが、撮影時に左右(再構築時には上下)に分かれた画像はできたので、それをFC-76の画像と比較してみます。前回記事で示した画像は処理済みで比較しにくいので、JSol’Exで出力したRAWに近い「disk」イメージで、スタックなどもしないで比較します。

まずはFC-76のもの。
09_03_03-trimmed_0000_09_03_03-trimmed_disk_0_00

次に2つに分かれたTSA-120のものです。
0000_14_07_56_disk_0_00

0008_14_14_13_disk_0_00

同じ日の撮影ですが、2時間ほど間が空いているので、Hαの構造は結構変わってしまっていますが、差がわかりやすいところを拡大して並べて見ます。左がFC-76、右がTSA-120です。
comp

よく見比べないとわかりにくいかもしれませが、それでも明らかに右のTSA-120のほうが細部まで出ています。十分に価値のあるアップグレードになりそうなので、新しいカメラを手に入れることにしました。

カメラセンサーはIMX-183が良さそうです。ZWOでも出てますし、ToupTekでもあります。ToupTek提供でMLastroブランドでも出るみたいです。選択肢はありそうなので、値段と在庫を見て決めればいいのかと思います。ただし、ピクセルサイズがG3M678Mの2.0μmより大きく、2.3μmとなるので、上の比較画像ほどは差が出ないと思いますが、それでも価値は十分にありそうです。将来的なさらなるアップグレードも視野に入れて、機材を徐々に充実させていきたいと思います。

まとめ

残念ながら手持ちのカメラではROIとフレームレートが不十分でしたが、分解能向上のポテンシャルは十分確認することができました。スリットはそのままで、鏡筒は一旦FC-76に戻してしばらくは撮影を続け、新しいカメラが来たらTSA-120に再び交換して試してみたいと思います。



11月17日からの週末の5連続の記事です。







SHG700での太陽分光撮影ですが、安定に運用できることはほぼわかってきたので、もう少し性能アップを図りたいと思います。そのための下計算をしてみます。


改善パラメータ

太陽の分光撮影で、結果として改善ていきたいのは
  • より細かい波長分解能
  • より細かい空間分解能
の2点です。これらを改善するために分光撮影の構成機器である、1. 鏡筒、2. カメラ、3. 分光器の性能を考えていきます。

1. 望遠鏡に関しては
  • 口径
  • 焦点距離
がパラメータになります。望遠鏡によって収差も当然ありますが、簡単のためここでは考えないこととします。

2. カメラに関しては
  • ピクセルサイズ
が一番効くパラメータです。実際にはセンサーサイズやフレームレートなども関係してきますが、分解脳にはやはりどれだけ細かく写せるかというピクセル自身のサイズが重要です。

3. 分光器に関しては
  • スリット幅
  • 回折格子の溝の数の密度
  • コリメートレンズの焦点距離
  • カメラレンズの焦点距離
が大きく効いてくるでしょうか。

波長分解能についての計算はastrosurfのSol'ExのTheoryのページがわかりやすいでしょう。それでも空間分解能まで含めて自分で計算するのは結構大変なので、Ken Harrison氏が作ったエクセルファイル「SIMSPEC SHG」を使うといいでしょう。最新は2023年6月のversion V1.5bのようです。下の画像は、自分の環境用にSHG700、FC-76、G3M678Mを適用して計算したものです。
SimSpec SHG V1_5b_20250913_SHG700_FC76_G3M678M_cut

ここで注目すべき値は、
  • 波長分解能: Dispersion (r): 0.091 Å/pixel
  • 空間分解能: Spatial (best) resolution: 2.2 arcsec
で、各種パラメータをいじって、これら2つの値を改善することを目標にします。


波長分解能の改善の難しさ

表の値で波長分解能に関するところを見ていくと、よく似た値としてナイキスト周波数も考えたEstimated (best) bandwidthというのがあります。ただし、Hα回りの輝度グラフを書くと、ピクセルごとに輝度に有意な差が見えたために、Dispersionの方で考えることにしました。ここで計算された0.091 Å/pixelは、実際のHα線の撮影動画をJSol'Exで実測した値と一致しています。
スクリーンショット 2025-07-05 101928


でも現実的には、この波長分解能のを改善しようとするのは結構大変で、分光器のカメラレンズの焦点距離を長くするか、回折格子の密度を増やすか、CMOSカメラのピクセルサイズを細かくするくらいしか手がありません。前者2つはSHG700を大幅にてこ入れする必要がありますし、ピクセルサイズはすでに最小に近い部類のG3M678Mを使っているため、これも難しいです。

もしやろうとするなら、SHG700の秀逸なアセンブル(コンパクトさ)を諦めてカメラレンズの焦点距離を伸ばすのが最も簡単かと思いますが、大幅改造になるので波長分解能の改善に関しては今回は諦めることとして、将来の課題としておきたいと思います。実際には撮影して楽しむレベルでは0.091 Å/pixelという値はもう十分すぎる性能なので、ここを改善する場合何か明確な動機を持っておいた方がいいでしょう。


空間分解能の改善の可能性

一方、空間分解脳に関してはまだまだ改善の余地がありそうです。例えば、上記設定の鏡筒の口径を76mmから120mmに変えると、
  • 空間分解能は2.2 arcsecから1.4 arcsecに改善
されます。手持ちの鏡筒だとTSA120を使うことができます。ですが、その場合焦点距離が900mmになるので、太陽像が大きくなってしまいます。ここで浮上する問題点は
  • スリットの長さが短すぎて太陽像がはみ出してしまう
  • CMOSカメラのセンサーサイズが小さすぎて太陽像がはみ出してしまう
ということです。実際計算すると、太陽サイズの84.8%しか撮影できないため、このままだとモザイク撮影の必要が出てきます。もちろんモザイク画像でも、太陽の縁がある程度映っている限り可能ですが、何枚かスタックすることも考えるとかなり面倒です。

このサイズ拡大問題はそんなに単純ではなくて、スリットサイズやカメラセンサーサイズの拡大を含めて、トータル設計で改善する必要があります。

これに関して、最近MLastroから10mm長のスリットの発表がありました。標準の7mmが700mmの焦点距離まで対応しているので、ざっくりですが焦点距離を1000mm程度まで増やすことができます。これはすでに発注してあるので、そのうち自宅に届くでしょう。

たとえスリット長だけを伸ばしても、カメラセンサーサイズの制限から、それでも太陽像の93.0%までしか一度に入らない計算になります。実際は余裕を見て太陽サイズの120%程度の広さを撮影したいので、カメラセンサーサイズを大きくする必要があります。

焦点距離1000mm程度までなら、IMX183が小さなピクセルサイズと適したセンサーサイズを兼ね備えた候補なのですが、値段的にカメラをぱっと買うのは大変なので、とりあえずは手持ちのASI294MM Proのbin1を試してみようと思っています。ただし、bin1撮影はこれまでの経験でジャジャ馬っぽいことがわかっているのと、フレームレートが出にくい可能性があるので、どうしようもなければ新規にカメラを購入することになるのかと思います。

スリットとセンサーサイズは計算上に出てきてすぐにわかることなのですが、実際にこれらを改善しようとすると、実は問題はこれだけにとどまりません。例えば口径が76mmから120mmに増えると、光量が約2.5倍に増えます。ちょうど焦点位置に置かれるスリットがその光量増加に耐えられるのか、必要なら別途フィルターを追加するなどの処置が必要になるかもしれません。

それでも空間分解能で1.5倍の改善というのは、目に見えてわかる劇的な改善なので、ぜひ試してみたいと思っています。TSA-120とASI294MM Proを適用した改善後の計算結果を示しておきます。

SimSpec SHG V1_5b_20250913_SHG700_TSA120_ASI294MM_cut

カメラを変えたことによりピクセルサイズが若干大きくなって、波長分解能が少し悪くなってしまっています。それでも0.105Å/pixel程度はあるので、十分でしょう。

追記: その後、TSA-120にアップグレードし、さらにカメラをASI294MM Proにして撮影してみました。



Sol'Exとの比較

ここで少し、SHG700とSol'Exの違いについて考えてみたいと思います。数値的に光学性能だけ見れば、SHG700よりもSol'Exの方が優れていることが多いのがわかります。例えば、SHG700はコリメートレンズ、カメラレンズともに焦点距離72mmですが、Sol'Exはコリメートレンズが80mm、カメラレンズが125mmと長いものになっています。例えば今の自分のFC-76とG3M678MにSol'Exを取り付けてみます。

SimSpec SHG V1_5b_Solex_FC76_G3M678M_cut


計算結果から分かりますが、
  • 波長分解能は0.091 Å/pixelから0.052 Å/pixel
と劇的に改善することがわかります。これだけみると、Sol'Exの方が得な気がします。SHG700はなぜ一見改悪とも取れる、焦点距離を短くする方向に向ったのでしょうか?

これを考察する前に、まずはネットに上がっているSol'ExとSHG700の太陽画像の平均らしきところを比べてみましょう。明らかにわかるのですが、SHG700の方が綺麗に出ていることは誰もが思うことでしょう。もちろん例外はありますが、傾向としては明らかだと思います。

ではなぜここまで差が出るのか?少し検証してみます。といっても私自身はSol'Exは持っていないので、かなり推測の部分も多くなると思いますが、そこら辺はご容赦ください。

まず大きく違うのが、SHG700でコリメートレンズとカメラレンズのピント合わせにマイクロメータを採用していることでしょうか。これまでの実際の撮影で、両レンズの位置をマイクロメーターの値を見ずにベストの位置を探って決定し、その後に確認でマイクロメーターを見ると、ほぼ毎回マイクロメーターの1目盛以内に収まります。付属のマイクロメーターの1目盛は、1回転で50目盛で0.5mm移動なので、10ミクロンの移動量に相当します。結局これくらいの精度での位置合わせが必要になるということなのですが、Sol'Exの標準の手動での移動ではどう足掻いてもこの精度を出すのは厳しいのかと思います。XでJia Cangさんがレンズの移動をネジ式に変えて、かなり綺麗に撮影できるようになっているので、やはりここは大きく効いているのかと思います。もう一つの、3つ目の波長選択のためのマイクロメーターは、あると便利ですが、実際にはある程度の波長幅を持って撮影するので、精度という意味では撮影画像のクオリティーにはそこまで効いていないのかと思います。

もう一つの違いがスリットです。Sol’Exのスリット幅も初期の10μmから現在は7μmと進化していますが、スリット幅自身が問題というわけではありません。ポイントはSHG700のスリットは合成石英製で、熱に強いものになっているところです。そのため、多少口径の大きい鏡筒でも問題なく使えることになります。MLastroのページによると口径100mm程度まではERFなどのフィルターなしで使用することができるとのことです。口径は空間分解能に直結するので、Sol’Exで大口径を使いにくというのは、やはり差が出るのかと思います。

結局ブログ記事にはしていませんが、今年も胎内の星まつりに少し参加していて、そこで太陽分光機材を出しているブースがありました。Sol'Exと、なんとSHG700も置いてあったのですが、聞いてみるとまだSHG700は届いたばかりで使っていないとのこと。でも話を聞いている限り、Sol'Exを使う限りはコリメートレンズとカメラレンズの精度に関してはあまり気を使っていないようでした。というよりも、Sol'Exだけを使っているとレンズ位置にそこまで精度がいるという認識にならないような印象を受けました。よく「Sol'Exは面白いけど難しい」とか「再現性よく撮影することができない」とか聞くのですが、機構的にレンズの位置合わせの精度が出ないことが最大の理由なのかと推測してます。でも簡単に改造できるのもSol'Exの利点の一つなので、Jia Cangさんのように、ネジ式にするだけでも相当改善するのかと思います。


日記

久しぶりのブログ記事です。お盆からずっとほぼ休みがないレベルで忙しくて、ここ一ヶ月で天文にかけることができたのは、胎内の星まつりにかなり無理して行ったことと、8月末の友人主催の観望会のお手伝いをしたことくらいです。休日もあるにはあったのですが、ほとんど書類書きに追われていて、ブログを書く時間さえ確保できませんでした。やっと懸念事項も解決しつつあり、この連休くらいから趣味に割ける時間が戻ってきました。

ブログ記事にできなかった胎内での話を少しだけ書いておきます。

今回の参加はあまり無理をせず、土曜の朝、比較的ゆっくり自宅を出て、昼頃に会場近くに到着しました。とりあえず胎内ロイヤルパークホテルのちょっと豪華なランチを食べ、その後のんびりと会場に向かいました。最近は太陽ばっかりで、そこまで欲しいものはないので、何か買うというよりはブースをゆっくり見て回りながら、店員さんや、知り合いの人たちと会話を楽しむのがメインでした。夜も少し星を見て、また次の日も忙しいので、あまり遅くならないうちに帰宅してしまいました。

星まつり会場では、太陽に関する講演があったので、たまたまお会いした仙台の木人さんと一緒にチケットを取って聞くことができました。透過波長幅を測る手段として分光について少しだけ講演内で話があり、SHG700にも触れられていました。講演者が直接使ったというよりは、知り合いが手に入れて試してみたとのことなのですが、今後日本でも様々な結果が出てくることでしょう。今後もっと分光に関しては盛り上がってもいいのかと思っていますが、ブースで何人かのショップ関係者に聞いたところの感触はあまり良くなくて、やはり撮影と撮影後の処理の大変さがあまり好まれないようで、ちょっと残念でした。

明日の日曜は京都の「星をもとめて」に参加します。今回はユニテックさんのブースにいる予定ですので、お気軽にお声かけください。


7月11日の連続波長シフトの記事のコメントでMakiさんから、Hαから波長をずらしてみると「Hαグレイン」というものが見えるかもしれないという情報がありました。今回はそれを発端にいろいろ試した話です。

Hαグレインとは?

Makiさんによると、太陽の下部の彩層にはたくさん『毛穴』みたいな穴があり、時により黒い『ゴマヒゲ』みたいなものが写るはずで、Hαから0.6Åほど短波長側で見え、3分から5分周期くらいで現れるとのことです。



このページの動画の±0.5~0.6Åの画像にもそれらしき『穴』がたくさん写っているとのことです。

興味が出たので、自分でも調べて見ました。天文学辞典によると
太陽の彩層に見られるネットワーク構造の内側にH𝛂線で観測される暗点。この暗点は、H𝛂線の中心波長から0.6Å程度だけ短波長側で観測されることから、音速が10 km s-1程度の彩層内を超音速で上昇する構造である。この暗点は、約3分の周期で強度が変化して現れたり消えたりする。この変化は、カルシウムのHK線で見える輝点の変動と同期している。光球下から発生した音波が彩層に伝播する際に衝撃波化し、この衝撃波によって彩層が加熱された結果としてHK線で輝点が観測されたと解釈されている。H𝛂グレインとカルシウム輝点の関係はまだよくわかっていない。
とのことです。他にもここに研究トピックスの形で、ここに学位論文のまとめの形で少し説明があります。「グレインという現象はまだ統一された定義があるわけではありませんが 、ここでは彩層の Hα 線のフィルターを通して観測した画像の中で、直径1∼2arcsec(1000km)ほどの黒い粒状の構造を指します。」とのことです。

今のFC-76とG3M678Mで空間分解能を計算すると、視直径31.47分(7月)の太陽が2780ピクセルで撮影されているので、シーイングなどを考えないものすごい単純計算で0.68秒/pixelくらいの分解能なので、うまくいくと数ピクセルの大きさの黒い点として見えることになりそうです。

残念ながら学位論文自身は電子化されていないようで、見つけることはできませんでしたが、学位論文の結果と思われるペーパーについては見つけることができました。ここにありますが、フリーアクセスのようなので興味のある方は読んでみるといいかと思います。

今回まずはHαのみで見てみますが、Ca II H線(3968.47Åで、3933.66ÅのCa II K (CaK) 線の近く)などとの相関も見られるということなので、いつか多波長の同時観測も視野に入れて複数台の機材を揃えれたらと思います。


本当に写っているのか?

最初に試したことが、7月11日の記事で示した画像で、0.091Å x 7ピクセル分 = +/-0.637Åずれたの2枚の画像の差分を取ってみることでした。模様はHα中心から対称に出ていて、その中でグレインが-0.6Åのみに出るのなら、それらしい点が写ってもおかしくないと思ったからです。差分画像をさらに輝度の高いところだけを強調してみると、確かにそれらしい点が写っています。
004_07_13_53-trimmed_0000_07_13_53-trimmed_autostretch_-7_00

わかりやすいように反転してみます。
004_07_13_53-trimmed_0000_07_13_53-trimmed_autostretch_-7_00_inv

わかりにくい場合はクリックして拡大してみると、細かい黒い点がたくさん残っているのがわかります。Hα中心から波長が長い側と短い側に、等間隔ずれたところを比較しているので、ドップラーシフトの差は出るかもしれませんが、基本的に正負の波長ずれに対して対称な模様となっているはずです。もしそこに差があると黒く出てくるということなので、このゴマのように見えるたくさんの黒い点は、少なくとも正負0.6Åずれたところで違いがあるということになります。

差分を見る前の、元の-0.6Å画像を下に示します。同じ黒い点の位置を見比べてみると、確かに黒い点があるのがわかります。
07_13_53-trimmed_0000_07_13_53-trimmed_autostretch_-6_00

でもこれが本当にグレインなのか、そもそもグレインがどれくらいの分布で広がっているのかよくわからないのと、長波長側の+0.6Åに写っているように見える黒い点もあることから、いまいち確証が持てません。


グレインの時間変動

次に考えたのが、グレインの特徴の3-5分周期で出たり消えたりしているのかどうか、調べてみようと思いました。

そこで試したのが、前回の記事のタイムラプス映像です。

先に記事にはしましたが、このタイムラプス映像は元々はジェットを撮る目的などではなく、グレインの時間変化を見たくて連続撮影を試したというわけです。ジェットがたまたま撮れていたので、特徴的なドップラーシフトでの見え方の違いを動画で見せたのはあくまでおまけでした。

動画化する途中でも、グレインがどう見えるかは気にしていたのですが、まず位置合わせがしっかりしていないとどの点が数分間続いているのかさえよくわかりません。なので位置合わせはかなりの時間を割いて十分合わせられるようにパラメータ調整などの手法を工夫しました。

でも、位置が合ったとしても見分けるのはかなり困難です。3分から5分くらいの周期ということは、今回の動画で5-10コマで出てきて消えるわけです。しかも短波長側だけに出ているということで、長波長側に出ていないことも確認する必要があります。実際はっきり写るのは高々数コマになるので、先の動画の左右2つを見比べるだけでも大変で、繰り返し見ていてもいまいち確証が持てませんでした。行き詰まったところで、一旦グレインについてはストップして、先にジェットの方をまとめることにして、ブログ記事を公開しました。

ところが前回の記事公開後、Xの方でMASAさんから「このジェットのドップラーシフトを色付けして見てみると面白いのでは?」というコメントがありました。これまでドップラーシフトはJSol'Exを使って出していて、serファイルを処理した時のみドップラーシフトを出力できるだけなので、今回のように処理済みの波長のシフト画像から色付きのドップラーシフト画像を作るのはちょっと面倒だと思っていました。

でもMASAさんからさらに「アップした動画に擬似的に色をつけて見たら面白かった」とのコメントが入り、私も興味に勝てずに、結局処理済み画像から色付きのドップラーシフト画像を作るコードを書くことになってしまいました。

アルゴリズムはJSol'ExのImageMathのサンプルコードを見ることができたので、あとはpythonに落とし込むだけでした。+側をred、-側をblueとし、+側画像と-側画像の最小値をgreenとするのが一般的なようです。そうしてできた動画が以下になります。

rgb

噴き上がる時が赤で地球から遠ざかっていき、落ちる時が青で地球側に向かってくるということで、確かにジェットの速度が変わっていく様子が色付きでわかるので、かなりわかりやすくて面白いです。

と、この動画を見ていて思ったのが、あれ?これってグレインの可視化の方法としてはベストに近いのでは?ということでした。一つの画面だけを見ていて、青い点が出て消えるものを探せばいいのです。実際上の動画でもそれらしいものがすでに見えています。


確かにグレインっぽいものが時間変動している!

いくつかの場所を見てみましたが、青い点を目立たるようにして見たいということで、太陽の右側(西側)を見ることにしました。理由は、ドップラーシフトで背景が赤にシフトするので、波長が短い側にある青い点は見やすくなるからです。グレインは数ピクセルくらいのサイズになりそうなので、ある程度拡大しないと見えないのかと思います。上と同じように、右側下部を600x600ピクセルくらいの大きさで切り取ってみました。

rgb

これでもまだ変動が激しく、青が目立つと言っても小さな点なので、かなりわかりにくいです。

もう少しわかりやすくするために、青がある閾値以上で、ある大きさの範囲にあり、点状に近い形のものを自動で検出して、それが同じような位置に連続で出ているものをピックアップするようにしてみました。1画面だけ出ているものが灰色、2画面連続で出ているものが淡い青色、3画面以上出ているものを濃い青丸で囲んでみました。これらの処理はpythonで書きましたが、特に閾値などのパラメータ設定がかなり難しくて、ここまでピックアップするのに100回近くパラメータを調整しています。高画像版はYoutubeにアップしています。

rgb

やっとグレインらしきものが出て消えていく様子がはっきりと分かるようになったのかと思います。

3分周期とのことですが、
  • 一つのグレインが出たり入ったりを連続で繰り返すのが3分ごとなのか?
  • 一つのグレインが出始めて消えるの過程が3分間で、その位置では繰り返して出ることはないのか?
は今の所不明です。同じ位置で繰り返しているように見えるのがあるようにも思えますが、ほとんどは一度出たら消えています。そもそもグレインがどういうものなのかがあまりわかっていないようなので、今回見えたものが本当にグレインなのかどうかはわかりませんが、少なくともHα線から-0.6Åずれとところに3分くらいの周期で出たり消えたりするような点状の模様があるということは言えるのかと思います。


まとめと今後

今回はHαグレインらしきものが見えたというところで終わりとしたいと思います。アマチュアレベルの分光器でこんなものが見える可能性が出てきたということだけも、かなり面白い結果だと思います。

この後発展させていくとしたら、やはり2006年の論文にあるようなCaHとの相関を見ることでしょうか。これだと複数台のSHG700が欲しくなります。もしくは、Hαのグレインの3分周期をグラフ化して、同様にCaHもグラフ化するとかでしょうか。これだと1台でもなんとかなるかもしれません。

HαとCaHのみでなく、他の波長でももしかしたら同様のグレイン現象があるのかもしれません。他の波長ではまだ誰もやっていないようなので、もしかしたら科学的な成果につながっていくかもしれません。こんなことまで視野に入ってくるSHG700はこれからもいろんな可能性を秘めているのかと思います。


日記

お盆期間は忙しくて、天文関連の記事はHαグレインについてだけです。雨だったり、満月だったり、暑かったり、結局あまり休みにはならずに仕事が入ったりで、ほとんど撮影とかはできませんでした。

イベントとしては、8月7日に富山駅近くの環水公園で観望会がありました。雲が多く、夏の大三角とかと最後の方で月を見たくらいですが、多くの人が訪れてくれました。県天メンバーだけでなく、富山大、県立大の天文部も参加してくれていました。

他にも、8月12日には母校の高校の天文部の合宿に参加させてもらいました。こちらも天気が悪くて、見えた星はおそらくデネブだと思いますが、1個だけでした。ちょうどペルセウス座流星群が極大期で、部のメンバーが電波観測で流星群を捉えようとしていました。これまで学校でテストはしてたとのことですが、実際の観測は初めてみたいで、いくつか検出できていたようです。私はあまり詳しくなかったので、原理を少し調べてみましたが、結構面白そうです。機材も含めてそこまで大変ではなさそうです。天気に関わらず、雨の日でも検出できるというのはちょっと面白いかもしれません。ちょっと手を出してみてもいいかとも思いますが、観測というのが続くと思えないので、今回みたいな流星群の時にイベント的にやってみるのは、天気が悪い時の補足手段としてもいいのかもしれません。

分光は一度にたくさんのデータがとれて、いろいろ解析することがあります。お盆期間も結局はこの記事のための処理でほとんど費やしてしまいました。さらに、他にも撮影した大量のデータで未処理のものがあり、時間を結構かけていますが結果に結びついていません。しかも、今後機材の方にもう少し進歩がありそうな感じです。とにかく分光はこれまで手を出してこなかった分野で、とてつもなく奥が深いので、今後ももう少し踏み込んでいきたいと思います。




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