手持ちの未処理画像のうち、最後のもの取り掛かりました。昨年9-10月に撮影した勾玉星雲です。
撮影日は2024年の9月30日。もうだいぶ前のことなので、ほぼ記憶はゼロです。記録から書き起こします。
この日の前半は、ε130Dで (これも少し前にやっと画像処理を終えた) 網状星雲の撮り増しをしていました。でもこの日、カメラの凍結防止ヒーターを入れ忘れて、途中から画面中心が結露してしまいました。しかもずっと気づかなかったので、かなりの範囲で結露してしまったみたいで、カメラの温度を0度より上に上げるだけでは全然解消しません。一旦常温まで戻して、30分程度放っておいたのですが、まだ結露は完全に取れず。次に、凍結防止ヒーターを入れて、温度をとりあえず5度くらいまで下げて、さらにしばらく待つと、やっと結露が無くなりました。
その間に網状星雲の撮影可能時間も過ぎてしまい、後半になって何を取るか迷ったのですが、カメラを回転させることなくちょうど画角的に入りそうな、勾玉星雲を撮影することに決めました。勾玉星雲は2018年12月に撮影しているので、6年ぶりになります。
前回の撮影は6年前のことなので、機材は鏡筒、カメラ共に進化しました。フィルターは少し迷いましたが、時間も限られているので、まずはRGBとHαにしてみました。以前カモメ星雲でHα領域と、BとかGで色調がうまく出たので、RGBで恒星、RGB背景のRをHαの背景で置き換えるという、同じ手を使う予定でした。ところが、途中から雲が出てしまったようで、R画像とG画像はほとんど使いものになりませんでした。
この日は、ヒータ以外にももう一つ大きなミスをしていて、bin2で撮るつもりがNINA上で設定するのを忘れていてbin1で撮ってしまいました。bin1でファイルサイズが大きくなってしまったこと、ピクセルサイズが小さいということなのでS/Nで考えると露光時間が実質短くなったのと同等なこと、bin1のダーク、フラットファイルが必要になることなどがデメリットです。メリットは分解能が出ることですが、そこまで細かい模様を見たいわけではないので、あまりbin1のメリットは効かないでしょう。
その後、10月11日の夜の後半にチャンスがあったので、初日の撮影と同じく泣く泣くbin1にして、RとGの撮り増しと、あとOIIIも追加で撮影しました。
その後、秋は紫金山アトラス彗星とSWAgTiでの撮影がしばらく続いたので、ε130Dでの撮影はしばらくお蔵入りになっていて、今に至ります。彗星は新鮮度が大事なこと、SWAgTi画像の処理は楽なので先に済ませてしまい、最後に残ったのが今回の勾玉彗星というわけです。残ったというか、残しておいたというか、とにかく北陸の冬場の天気は全く期待できないので、未処理のものを手持ちで置いておきたかったのですが、CP+も終わり落ち着いたのと、どうも今週末くらいからやっと冬場の天気を脱却しそうな予報になっているからです。年が明けて体力も戻ってきたので、また撮影を再開していきたいと思います。
さて画像処理ですが、今回はMGCのパラメータを少し探ってみました。その結果、RGBはある程度一意のパラメータに落ち着きました。RGBでやったことの順序と結果を書いておきます。
Gradient scale:
まずは大きな影響のあるGradient scaleを変えてみます。Gradient scaleが小さくなるほど、細かい構造で補正します。
このパラメータを決定するには2つの要因があります。まずはε130Dを使っていて、迷光の影響 (網状星雲、ダイオウイカ星雲、スパゲティ星雲、おとめ座銀河団)がある (ε130Dだけでなく、強度に炙り出していくと、おそらく反射型一般に同様の迷光があっておかしくないと考えています) こと。この画像の右下の円弧の部分がわかりやすいです。これをきちんと取り除くためには1024と512では不足で、256以下にする必要があるとわかりました。128にすると、補正画像を見ると渦上の構造が出てしまうようで、これは不自然だとして却下しました。これでGradient scaleは256で決定とします。
というか、これでε130Dで散々悩んでいた欠点がとうとう解決するに至ったというわけです。ただし、今のところRGB画像だけ有効で、しかもMARSのデータがある領域が限られているという問題もあります。でもかなり大きな一歩です。
Structure separation:
次に、Structure separationの比較をします。小さい数だと独立した大きな構造内での相対輝度差が小さくなり、大きな数だと構造の相対輝度差を強調するとのことです。直訳ですが、いまいち意味がわかりませんでした。結果を見てパッと理解できたのは、小さな数の方が細かい補正をしていることくらいでしょうか。デフォルトは3です。
まず、Structure separationが5の場合は、補正画像で渦上の構造が出てしまい却下です。1と3はあまり差はないですが、本来大きな構造で処理するはずの1の方がよく見ると細かいところも補正できていたりします。とりあえず1を採用しましたが、3でもよかったかもしれません。
元画像はこれです。
PIのWBPPでの処理をした直後で、標準的な処理かと思います。表示だけは強度のブーストオートストレッチをかけてますが、まだストレッチ前です。見ている限り、かなり淡いところまで出ていることがわかります。面白いのは、HαやOIIIには明光の影響があまり出ないことでしょうか。これまでもそうだったのですが、RGBではあからさまに見えるリングなどがナローではほとんど目立つことがありません。理由は今のところ不明です。
まずはSPFCを適用しますが、narrow band filter modeを選びます。Gray filterだけHαの656.30nmとし、RGBは効いてない考え、適当にそれぞれ656.30nm、500.70nm、500.70nmとしました。RGBの設定がこれでいいのかはよくわかってません。とりあえずモノクロのHα画像にこれを適用し、次にMGCとします。
まずRGBでいいと結論づけた
Model smoothness:
細かすぎるので、まずはよりスムーズな補正になるように、Model smoothnessを増やしてみます。
としました。これでもまだ細か過ぎで全然ダメです。
Gradient scale:
埒が開かないので、Gradient scaleを増やします。
Structure separation
ここで、Structure separationを変えてみます。
補正量を見るとStructure separationが5の方がより細かいというか、滑らかというか、スムーズな階調で補正しています。補正された画像を見ると、Structure separationが1の方が少し落ち込みが見え、5の方がその落ち込みが少ないようなので、ここでは5を採用します。
Model smoothness:
念の為、再びModel smoothnessを変えてみます。
としましたが、星雲本体の形を補正してしまっていて、落ち込みがひどく、即却下です。
さらに、念の為
も見ますが、こちらも同様に落ち込みがひどく、却下です。
Hα画像の結論としては
元画像の方がのっぺりしているのですが、MGC補正後の方は少し落ち込みがあるようにも感じます。でもその落ち込みは、星雲本体をより際出させているとも言える範囲なので、今回はMGCで補正したものを採用とします。
と、ここまでRGBとHαとOIIIについてMGCを議論しましたが、2つの画像で適したパラメータが全く違っていることから分かるように、どのパラメータがいいとすぐに言える状況ではないようです。どのような方針で探っていけばいいかを、ざっくりとだけまとめておきます。
さて、MGCについて少し個人的な所感を書いておきます。
1. 元々個人的にもかなり期待していた期待していたMARSデータを使った補正で、MGCという名前でやっと実用化されたわけですが、チュートリアルと、最初に使って、「あれ、これ結構まずいのでは?」とも思いました。MGCはMRASの参照画像と自分で撮影した画像の差を見て、その差がないように撮影画像を補正します。端的に言うと、例えば超短時間撮影などで星雲情報をがほとんど得られなかった画像に、同じ領域の星雲情報が入っているMARSデータを使ったら、撮影画像に入っていなかった星雲が浮かび上がるのではないかと思ったのです。
BXTが出た当初、AIの元データにハッブルなどのものを使っているなら、それを適用してしまうのは問題ではないかと言う意見がありました。これは補正した画像がハッブルのものになってしまうのではという杞憂だったと思うのですが、AIは直接それらのデータを利用するのではなく、ある意味普遍的な補正法則を学んでいると考えると、特に問題ではないと考えることができ、最近ではBXTの効果に大きな疑問を呈する意見はあまり聞きません。でもMGCの場合はMARSデータを直接参照して、比較、補正しています。
でも実際にはこの考えは、今の段階では杞憂でしょう。MGCでの補正はあくまで背景に相当する空間波長の低い(粗い)補正のみです。今回の検証でも細かすぎる補正は、逆に見た目でも(今回は渦模様でしたが)変な補正になるようなので、極端なパラメータを使う方がおかしくなるのかと思います。でも原理的には差を見てそれがなくなるよううに補正することはできるはずで、極端な方向に進むと、まずいところは全て補正してしまって、理想とする画像にどれも近づいてしまうという危険は含んでいるのかと思います。
2. MGCがあるから、これで背景補正は完璧だと思ってしまうことは危険です。所詮元データとの比較だけなので、当然ですが補正後の結果は元データに依ります。元データのMARSデータベースが理想的かどうかは誰にもわからず、今わかっているのは35mmと135mmレンズで撮影された、全天とはいかないまでもかなり広い範囲の背景データであるということです。ただしアマチュアレベルではないので、ある程度の基準になっていると思ってもいいはずで、それを共通の財産として広く使えるようにしようとする方向性は相当な評価ができるのかと思います。
特に、ε130Dで突き当たった迷光は、どうやっても解決できなかったもので、それを解決できる手段の一つとして使えるというのは、個人的にはとても助かっています。そもそもこのε130Dの迷光問題、以前検証したページにも書いていますが、
3. MGCは、分子雲に満たされた背景を、広い範囲と矛盾なく強力に補正してくれます。これは特にモザイク合成の接続に強力な威力を発揮するでしょう。他人の撮影画像とのモザイク合成も可能にすると思われます。
4. RGBだけでなく、Hα、OIII、SIIなどのメジャーなナローバンドでの参照データベースでの補正もいつか可能にして欲しいです。現段階ではナローバンドはまだ実用的とは全然言い難いという印象です。
ここまでMGCについてかいてきましたが、でも結局はRGB画像のMGCはほとんど活かすことはありませんでした。Hαに比べて背景の構造が出ていないので、結局Hαで上書きされてしまうからです。なので一番検証できたRGB画像なのですが、本当にMGCの検証というだけの意味合いになってしまいました。
というのも最初はRGB画像とHαとOIII画像をPhotoshopに送り、RGB画像のRとBに混ぜたりしたのですが、どうもHαの階調がうまく出ずに赤でのっぺりしてしまいました。そこで方針を変えて、PixInsightの段階でAOO画像を作り、それをベースにRGBの恒星と、一部星雲中心のRGBでしか出てこないような構造をくわえることにしました。
bin1のままだとファイルサイズが大きくなりすぎるので、全ての処理が終了して一旦JPEGで出力してか、そのJPG画像の解像度を変えてbin2相当にしています。
Hαの階調をできるだけ残すことと、赤一色にならないように、GやBを活かしつつ、OIIIも混ぜています。それでもやはり全体に赤っぽくなってしまうのは、まだまだ今後の課題でしょう。でもこの構造がHαにしか含まれれていないことを考えると仕方ないです。最近はHαをRだけに適用するのではなく、GやBに入れ込んでもいいのかと思うようになってきました。
恒例のアノテート画像です。
過去画像の再撮影です。
違いですが、
やっと未処理画像が無くなりました。天気が良くなるまでにまだ時間があるなら、過去画像の再処理やボツにした画像の処理、特にボツにしたモザイク撮影の処理などをやってもいいかと思います。
今回はMGCを特にいじってみましたが、なかなか一意の方針を示すことは難しそうなので、このようなやり方で攻めていけばいいという指標くらいでしょうか。
もう少し赤っぽい印象を押さえつつ、階調を確保する方法が欲しいです。多分暗い空に行ってRGBで撮影するのが正解なのかと思います。結局前回の網状星雲と同じような悩みかと思うので、自宅でこれを解消しようとすると、またものすごく苦労しそうなので、もう少し何かいい方法がないか考えてみます。
今後の撮影ですが、少しSCA260を復活させてみたいと思います。SCA260用の、少し面白そうなアイテムを手に入れたので試してみることを考えています。
撮影 (記録によると)
撮影日は2024年の9月30日。もうだいぶ前のことなので、ほぼ記憶はゼロです。記録から書き起こします。
この日の前半は、ε130Dで (これも少し前にやっと画像処理を終えた) 網状星雲の撮り増しをしていました。でもこの日、カメラの凍結防止ヒーターを入れ忘れて、途中から画面中心が結露してしまいました。しかもずっと気づかなかったので、かなりの範囲で結露してしまったみたいで、カメラの温度を0度より上に上げるだけでは全然解消しません。一旦常温まで戻して、30分程度放っておいたのですが、まだ結露は完全に取れず。次に、凍結防止ヒーターを入れて、温度をとりあえず5度くらいまで下げて、さらにしばらく待つと、やっと結露が無くなりました。
その間に網状星雲の撮影可能時間も過ぎてしまい、後半になって何を取るか迷ったのですが、カメラを回転させることなくちょうど画角的に入りそうな、勾玉星雲を撮影することに決めました。勾玉星雲は2018年12月に撮影しているので、6年ぶりになります。
前回の撮影は6年前のことなので、機材は鏡筒、カメラ共に進化しました。フィルターは少し迷いましたが、時間も限られているので、まずはRGBとHαにしてみました。以前カモメ星雲でHα領域と、BとかGで色調がうまく出たので、RGBで恒星、RGB背景のRをHαの背景で置き換えるという、同じ手を使う予定でした。ところが、途中から雲が出てしまったようで、R画像とG画像はほとんど使いものになりませんでした。
この日は、ヒータ以外にももう一つ大きなミスをしていて、bin2で撮るつもりがNINA上で設定するのを忘れていてbin1で撮ってしまいました。bin1でファイルサイズが大きくなってしまったこと、ピクセルサイズが小さいということなのでS/Nで考えると露光時間が実質短くなったのと同等なこと、bin1のダーク、フラットファイルが必要になることなどがデメリットです。メリットは分解能が出ることですが、そこまで細かい模様を見たいわけではないので、あまりbin1のメリットは効かないでしょう。
その後、10月11日の夜の後半にチャンスがあったので、初日の撮影と同じく泣く泣くbin1にして、RとGの撮り増しと、あとOIIIも追加で撮影しました。
その後、秋は紫金山アトラス彗星とSWAgTiでの撮影がしばらく続いたので、ε130Dでの撮影はしばらくお蔵入りになっていて、今に至ります。彗星は新鮮度が大事なこと、SWAgTi画像の処理は楽なので先に済ませてしまい、最後に残ったのが今回の勾玉彗星というわけです。残ったというか、残しておいたというか、とにかく北陸の冬場の天気は全く期待できないので、未処理のものを手持ちで置いておきたかったのですが、CP+も終わり落ち着いたのと、どうも今週末くらいからやっと冬場の天気を脱却しそうな予報になっているからです。年が明けて体力も戻ってきたので、また撮影を再開していきたいと思います。
RGB画像へのMGCの適用
さて画像処理ですが、今回はMGCのパラメータを少し探ってみました。その結果、RGBはある程度一意のパラメータに落ち着きました。RGBでやったことの順序と結果を書いておきます。
Gradient scale:
まずは大きな影響のあるGradient scaleを変えてみます。Gradient scaleが小さくなるほど、細かい構造で補正します。
- Gradient scale: 1024、Structure separation: 3、Model smoothness: 1
- Gradient scale: 512、Structure separation: 3、Model smoothness: 1
- Gradient scale: 256、Structure separation: 3、Model smoothness: 1
- Gradient scale: 128、Structure separation: 3、Model smoothness: 1
このパラメータを決定するには2つの要因があります。まずはε130Dを使っていて、迷光の影響 (網状星雲、ダイオウイカ星雲、スパゲティ星雲、おとめ座銀河団)がある (ε130Dだけでなく、強度に炙り出していくと、おそらく反射型一般に同様の迷光があっておかしくないと考えています) こと。この画像の右下の円弧の部分がわかりやすいです。これをきちんと取り除くためには1024と512では不足で、256以下にする必要があるとわかりました。128にすると、補正画像を見ると渦上の構造が出てしまうようで、これは不自然だとして却下しました。これでGradient scaleは256で決定とします。
というか、これでε130Dで散々悩んでいた欠点がとうとう解決するに至ったというわけです。ただし、今のところRGB画像だけ有効で、しかもMARSのデータがある領域が限られているという問題もあります。でもかなり大きな一歩です。
Structure separation:
次に、Structure separationの比較をします。小さい数だと独立した大きな構造内での相対輝度差が小さくなり、大きな数だと構造の相対輝度差を強調するとのことです。直訳ですが、いまいち意味がわかりませんでした。結果を見てパッと理解できたのは、小さな数の方が細かい補正をしていることくらいでしょうか。デフォルトは3です。
- Gradient scale: 256、Structure separation: 1、Model smoothness: 1
- Gradient scale: 256、Structure separation: 3、Model smoothness: 1
- Gradient scale: 256、Structure separation: 5、Model smoothness: 1
まず、Structure separationが5の場合は、補正画像で渦上の構造が出てしまい却下です。1と3はあまり差はないですが、本来大きな構造で処理するはずの1の方がよく見ると細かいところも補正できていたりします。とりあえず1を採用しましたが、3でもよかったかもしれません。
Model smoothness:
最後、Model smoothnessを変えてみます。数を大きくするとよりスムーズなモデルを使って補正し、小さくするとエッジや不連続なジャンプを描くようです。デフォルトは1です。
5と10は粗くなって、再び迷光の影響で右下の円弧が出てきたので、却下としました。
結論としては、RGB画像では
次にアンドロメダ銀河の時にはできないと思っていた、Hα画像でもMGCを試してみました。
まず、Hα単体の画像もMGCで処理できることはわかりました。でもパラメータ設定はRGBに比べてはるかに難しいです。理由ですが、かなりの推測も含みますが、おそらく基準となる画像が基本的にRGBで撮影されていることかと思います。ようするに、Hαで見えるような輝線成分の明るさやコントラストがデータの中に含まれれていないので、下手をするとのっぺりしたり、過分に処理し過ぎて、RWA画像にあった豊かな構造やコントラストが崩されてしまう可能性があります。そのため、適用するとしてもかなり緩やかに適用する必要がありそうです。
最後、Model smoothnessを変えてみます。数を大きくするとよりスムーズなモデルを使って補正し、小さくするとエッジや不連続なジャンプを描くようです。デフォルトは1です。
- Gradient scale: 256、Structure separation: 1、Model smoothness: 1
- Gradient scale: 256、Structure separation: 1、Model smoothness: 5
- Gradient scale: 256、Structure separation: 1、Model smoothness: 10
5と10は粗くなって、再び迷光の影響で右下の円弧が出てきたので、却下としました。
結論としては、RGB画像では
- Gradient scale: 256、Structure separation: 1、Model smoothness: 1
Hα画像へのMGCの適用
次にアンドロメダ銀河の時にはできないと思っていた、Hα画像でもMGCを試してみました。
まず、Hα単体の画像もMGCで処理できることはわかりました。でもパラメータ設定はRGBに比べてはるかに難しいです。理由ですが、かなりの推測も含みますが、おそらく基準となる画像が基本的にRGBで撮影されていることかと思います。ようするに、Hαで見えるような輝線成分の明るさやコントラストがデータの中に含まれれていないので、下手をするとのっぺりしたり、過分に処理し過ぎて、RWA画像にあった豊かな構造やコントラストが崩されてしまう可能性があります。そのため、適用するとしてもかなり緩やかに適用する必要がありそうです。
元画像はこれです。
PIのWBPPでの処理をした直後で、標準的な処理かと思います。表示だけは強度のブーストオートストレッチをかけてますが、まだストレッチ前です。見ている限り、かなり淡いところまで出ていることがわかります。面白いのは、HαやOIIIには明光の影響があまり出ないことでしょうか。これまでもそうだったのですが、RGBではあからさまに見えるリングなどがナローではほとんど目立つことがありません。理由は今のところ不明です。
まずはSPFCを適用しますが、narrow band filter modeを選びます。Gray filterだけHαの656.30nmとし、RGBは効いてない考え、適当にそれぞれ656.30nm、500.70nm、500.70nmとしました。RGBの設定がこれでいいのかはよくわかってません。とりあえずモノクロのHα画像にこれを適用し、次にMGCとします。
まずRGBでいいと結論づけた
- Gradient scale: 256、Structure separation: 1、Model smoothness: 1
Model smoothness:
細かすぎるので、まずはよりスムーズな補正になるように、Model smoothnessを増やしてみます。
- Gradient scale: 256、Structure separation: 1、Model smoothness: 10
としました。これでもまだ細か過ぎで全然ダメです。
Gradient scale:
埒が開かないので、Gradient scaleを増やします。
- Gradient scale: 256、Structure separation: 1、Model smoothness: 10
- Gradient scale: 1024、Structure separation: 1、Model smoothness: 10
- Gradient scale: 2048、Structure separation: 1、Model smoothness: 10
Structure separation
ここで、Structure separationを変えてみます。
- Gradient scale: 2048、Structure separation: 1、Model smoothness: 10
- Gradient scale: 2048、Structure separation: 5、Model smoothness: 10
補正量を見るとStructure separationが5の方がより細かいというか、滑らかというか、スムーズな階調で補正しています。補正された画像を見ると、Structure separationが1の方が少し落ち込みが見え、5の方がその落ち込みが少ないようなので、ここでは5を採用します。
Model smoothness:
念の為、再びModel smoothnessを変えてみます。
- Gradient scale: 2048、Structure separation: 5、Model smoothness: 1
としましたが、星雲本体の形を補正してしまっていて、落ち込みがひどく、即却下です。
さらに、念の為
- Gradient scale: 1024、Structure separation: 5、Model smoothness: 10
も見ますが、こちらも同様に落ち込みがひどく、却下です。
Hαの結論
Hα画像の結論としては
- Gradient scale: 2048、Structure separation: 5、Model smoothness: 1
元画像の方がのっぺりしているのですが、MGC補正後の方は少し落ち込みがあるようにも感じます。でもその落ち込みは、星雲本体をより際出させているとも言える範囲なので、今回はMGCで補正したものを採用とします。
OIII画像へのMGCの適用
OIII画像も試しましたが、Hαと同じ
- Gradient scale: 2048、Structure separation: 5、Model smoothness: 1
でも結論としては、OIIIにはMGCを適用しないものを採用しました。理由は、MGCによって星雲本体の特に淡い部分の一部が薄くなってしまうからです。これはOIIIで見える部分が、参照データに入っていないためで、OIIIでせっかく出た星雲本体の淡い部分を余分なものと捉えてしまい、消そうとする方向に働くからだと思われます。
MGCのまとめと所感
と、ここまでRGBとHαとOIIIについてMGCを議論しましたが、2つの画像で適したパラメータが全く違っていることから分かるように、どのパラメータがいいとすぐに言える状況ではないようです。どのような方針で探っていけばいいかを、ざっくりとだけまとめておきます。
- Gradient scaleは違いがわかりやすいので、まずはこれを変えてみるのがいいのでしょう。
- Structure separationは結果を見てもそこまで大きな差はないので、デフォルトの3でもいいのかと思います。
- あとは、Model smoothnessを1と10で変えてみて大きな差が出ないか、問題ないならデフォルトの1で、違いがあるのなら5も試してみて、いい値を探るとかするのがいいのかと思います。
さて、MGCについて少し個人的な所感を書いておきます。
1. 元々個人的にもかなり期待していた期待していたMARSデータを使った補正で、MGCという名前でやっと実用化されたわけですが、チュートリアルと、最初に使って、「あれ、これ結構まずいのでは?」とも思いました。MGCはMRASの参照画像と自分で撮影した画像の差を見て、その差がないように撮影画像を補正します。端的に言うと、例えば超短時間撮影などで星雲情報をがほとんど得られなかった画像に、同じ領域の星雲情報が入っているMARSデータを使ったら、撮影画像に入っていなかった星雲が浮かび上がるのではないかと思ったのです。
BXTが出た当初、AIの元データにハッブルなどのものを使っているなら、それを適用してしまうのは問題ではないかと言う意見がありました。これは補正した画像がハッブルのものになってしまうのではという杞憂だったと思うのですが、AIは直接それらのデータを利用するのではなく、ある意味普遍的な補正法則を学んでいると考えると、特に問題ではないと考えることができ、最近ではBXTの効果に大きな疑問を呈する意見はあまり聞きません。でもMGCの場合はMARSデータを直接参照して、比較、補正しています。
でも実際にはこの考えは、今の段階では杞憂でしょう。MGCでの補正はあくまで背景に相当する空間波長の低い(粗い)補正のみです。今回の検証でも細かすぎる補正は、逆に見た目でも(今回は渦模様でしたが)変な補正になるようなので、極端なパラメータを使う方がおかしくなるのかと思います。でも原理的には差を見てそれがなくなるよううに補正することはできるはずで、極端な方向に進むと、まずいところは全て補正してしまって、理想とする画像にどれも近づいてしまうという危険は含んでいるのかと思います。
2. MGCがあるから、これで背景補正は完璧だと思ってしまうことは危険です。所詮元データとの比較だけなので、当然ですが補正後の結果は元データに依ります。元データのMARSデータベースが理想的かどうかは誰にもわからず、今わかっているのは35mmと135mmレンズで撮影された、全天とはいかないまでもかなり広い範囲の背景データであるということです。ただしアマチュアレベルではないので、ある程度の基準になっていると思ってもいいはずで、それを共通の財産として広く使えるようにしようとする方向性は相当な評価ができるのかと思います。
特に、ε130Dで突き当たった迷光は、どうやっても解決できなかったもので、それを解決できる手段の一つとして使えるというのは、個人的にはとても助かっています。そもそもこのε130Dの迷光問題、以前検証したページにも書いていますが、
- フルサイズセンサーくらいの面積で初めて出てくること
- さらに一眼レフカメラなどでは上下の蹴られの影響の方がはるかに大きく、それを回避したフルサイズのCMOSカメラなどを使い
- その上でかなり積極的な炙り出しをして初めて出てくること
3. MGCは、分子雲に満たされた背景を、広い範囲と矛盾なく強力に補正してくれます。これは特にモザイク合成の接続に強力な威力を発揮するでしょう。他人の撮影画像とのモザイク合成も可能にすると思われます。
4. RGBだけでなく、Hα、OIII、SIIなどのメジャーなナローバンドでの参照データベースでの補正もいつか可能にして欲しいです。現段階ではナローバンドはまだ実用的とは全然言い難いという印象です。
その後の画像処理
ここまでMGCについてかいてきましたが、でも結局はRGB画像のMGCはほとんど活かすことはありませんでした。Hαに比べて背景の構造が出ていないので、結局Hαで上書きされてしまうからです。なので一番検証できたRGB画像なのですが、本当にMGCの検証というだけの意味合いになってしまいました。
というのも最初はRGB画像とHαとOIII画像をPhotoshopに送り、RGB画像のRとBに混ぜたりしたのですが、どうもHαの階調がうまく出ずに赤でのっぺりしてしまいました。そこで方針を変えて、PixInsightの段階でAOO画像を作り、それをベースにRGBの恒星と、一部星雲中心のRGBでしか出てこないような構造をくわえることにしました。
bin1のままだとファイルサイズが大きくなりすぎるので、全ての処理が終了して一旦JPEGで出力してか、そのJPG画像の解像度を変えてbin2相当にしています。
「IC405 勾玉星雲とIC41」
- 撮影日: 2024年10月1日1時1分-3時36分、10月12日1時11分-4時42分
- 撮影場所: 富山県富山市自宅
- 鏡筒: TAKAHASHI製 ε130D(f430mm、F3.3)
- フィルター: Baader:Hα 6.5nm、OIII 6.5nm、R、G、B
- 赤道儀: Celestron CGEM II
- カメラ: ZWO ASI6200MM Pro (-10℃)
- ガイド: f120mmガイド鏡 + ASI290MM、PHD2によるマルチスターガイドでディザリング
- 撮影: NINA、bin1、Gain 100、露光時間5分、Hα: 17枚、OIII: 8枚、R: 10枚、G: 13枚、B: 12枚の計60枚で総露光時間5時間0分
- Dark: Gain 100、露光時間5分、温度-10℃、37枚
- Flat, Darkflat: Gain100、露光時間 Hα: 1秒、OIII: 1秒、R: 0.05秒、G: 0.05秒、B: 0.05秒で全て128枚
- 画像処理: PixInsight、Photoshop CC
恒例のアノテート画像です。
過去画像の再撮影です。
違いですが、
- 鏡筒が口径6cmから13cm。
- カメラがEOS 6DからASI6200MM Proなので、カラーからモノクロになっていて、フルサイズなのは同じですが、解像度は倍近くになっていて、ピクセルサイズも半分近くになっています。
- フィルターはQBPだったのが、今回は実質AOO合成です。
- 露光時間は52分から5時間と伸びています。
まとめ
やっと未処理画像が無くなりました。天気が良くなるまでにまだ時間があるなら、過去画像の再処理やボツにした画像の処理、特にボツにしたモザイク撮影の処理などをやってもいいかと思います。
今回はMGCを特にいじってみましたが、なかなか一意の方針を示すことは難しそうなので、このようなやり方で攻めていけばいいという指標くらいでしょうか。
もう少し赤っぽい印象を押さえつつ、階調を確保する方法が欲しいです。多分暗い空に行ってRGBで撮影するのが正解なのかと思います。結局前回の網状星雲と同じような悩みかと思うので、自宅でこれを解消しようとすると、またものすごく苦労しそうなので、もう少し何かいい方法がないか考えてみます。
今後の撮影ですが、少しSCA260を復活させてみたいと思います。SCA260用の、少し面白そうなアイテムを手に入れたので試してみることを考えています。