年末の12月初めくらいから撮り続けていたSh2-308 ミルクポット星雲がやっと仕上がりました。
海外ではDolphin Head Nebulaと呼ばれているようで、日本でも「イルカ星雲」とか「イルカの頭星雲」とも呼ばれているようです。その一方、Milk Pot Nebulaとかで検索しても全く引っかからないので、どうもミルクポットと言っているのは日本だけのようです。
本当にイルカの口に似たような特徴的な形と、OIIIで写すと青く目立ってとても綺麗で、星を始めた当初からいつか詳細な形と共に撮影したいと思っていた星雲の一つです。最高高度が31度程度と比較的低い空なので、撮影可能期間もあまり長くなく、やっと実現できたというわけです。
実際の撮影開始は結構前で、12月4日の夜中過ぎからです。自宅なので平日も撮影可能で、同じ日の前半に北西方向のダイオウイカ星雲、後半に東から昇ってきているイルカ星雲を撮影しています。
一般に淡いと言われているイルカさんですが、同日に撮影していたダイオウイカ星雲がとんでもない淡さなので、イルカ星雲はずいぶん濃く感じました。下の写真の左は6時間40分のOIIIのダイオウイカで、ABEにDBEもかけて強あぶり出ししてやっとこれくらい。一方右は3時間10分でABEをかけただけでこんなにはっきり出ます。
今回のイルカ星雲は、5分露光でOIIIが59枚、Hαが39枚でAOO合成の予定です。さらに恒星用にR、G、Bでそれぞれ8枚ほど撮影しています。OIIIとHαは比較的早くに撮り終えていたのですが、RGBが曇っている日が多くてなかなか撮り溜めできず、撮影は最終的に1月14日まで食い込んでしまいました。
R、G、B画像もそれぞれ同じ5分露光なのですが、明るい星はサチってしまっています。今後はRGBの各フィルターでの撮影は露光時間を短くするか、ゲインを落とした方がいいようです。
画像処理を進めていてすぐに、今回はイルカ星雲本体の青よりも、背景の赤がポイントではないかと思うようになりました。
背景の淡い部分を出すには、フラット化がどこまでできるかがとても重要です。通常のフラットフレームを撮影してのフラット補正は当然として、それだけでは取りきれない
私はフラットフレームは晴れた昼間の部屋の中の白い壁を写しているので、どうしても窓側と部屋中心側で輝度差が出てしまいます。これはABEの1次で簡単に補正できるので、まずはHαもOIIIもインテグレーション後にすぐにABEの1次をかけます。ABE1次の後は出てきた画像を見て、毎回それぞれ方針を考えます。
実は今回、フラット化のために最近人気のフリーのフラット化ツールGraXpertを使ってみました。以前からインストールはしていたのですが、ほとんど使ったことはありませんでした。
今回GraXpertをPixInsightから呼び出せるようにしようと思って、この動画にあるように
https://www.ideviceapps.de/PixInsight/Utilities/
をレポジトリに登録して、ScriptのToolboxの中のメニューにも出てきたのですが、いざPixInsightからGraXpertを呼び出すと「GraXpertの最新版が必要」と言われました。アップデートしようとして最新版をインストールしたわけですが、アップデート後PIから呼び出しても、どうも動いている様子が全くありません。確認のために、まずは単独でGraXpertを立ち上げてみましたが、セキュリティーの問題を回避した後もうまく起動しません。ちなみにMacのM1です。
それでどうしたかというと、アプリケーションフォルダのGraXpertをフォルダから右クリックして「パッケージの内容を表示」でコンテンツの中身を見てみます。ContentsのMacOSの中にあるGraXpertがターミナルから起動できる実行ファイルで、これをダブルクリックすることでエラーメッセージを確認することができます。今回はいくつかpyhthonのライブラリが足りないとか出ていたので、手動でインストールしたのですが、結局解決せず。
そもそもメインPCのpython関連はそんなに変なことをしていないので、おかしいと思い調べたら、最新版はMac OS 13.6以上が必要とのこと。私はアップデート後のトラブルが嫌であまり最新のOSには手を出していなかったのですが、自分のバージョンを見たら12.4とか2世代も古いです。仕方ないので久しぶりにOSをアップデートし、一気に14.2.1のSonomaになって、無事にGraXoertが立ち上がりました。
ちょっと蛇足になってしまいましたが、
さてGraXpertの結果ですが、背景の星雲の形が大きく変わってしまい、残念ながら撃沈でした。比較してみます。最初がABEのみでフラット化したもの、
次がGraXpertで今回は見送ったものになります。AIとKrigingで試しましたが、大きな傾向は変わりませんでした。画像はKrigingのものです。
違いは左下の濃い赤の部分で、GraXpertではムラと判断され、取り除かれてしまっています。また、イルカ星雲本体があるあたりの背景のHαも同様に取り除かれてしまっています。
このように、背景全体に分子雲が広がっているような場合は非常に難しく、DBEでもあまりいい結果にならないことがわかっているので、今回は再びHαとOIIIに戻って、今一度注意深くABEのみで処理することにしました。 GraXpertの方が良い結果を出す場合もあると報告されているので、実際のフラット化処理の際には一意の決まり手は存在せず、毎回臨機応変に対応すべきなのでしょう。
さて、今回最終的に使ったABEの具体的な手順を書いておきます。これも今回限りそこそこ上手くいったと思われる、あくまで一例です。
ポイントは
こうやって考えると、PixInsightのMARSプロジェクトにかなり期待したいです。何が正しい背景で、何がカブリなどのフェイクかの指標を示してもらえるのは、とてもありがたいです。もちろん、誰も到達していないような淡さなどは当然データベースに登録されないと思うので、限界はあるはずです。でも私みたいな庭撮りでやっている範囲では、十分な助けとなってくれると思います。
1月19日の金曜の夜、SLIMの月面着陸の様子をネットで追いながら、画像処理をしていました。着陸後、結果発表までかなり時間があったので、寝るのは諦めてのんびり進めます。その時に一旦仕上げて、Xに投稿したのが以下の画像です。
イルカ星雲本体はかなりはっきり出ています。イルカなのでOIIIの青がよく似合っています。また、背景の赤もかなり出ているのではないでしょうか。ナローバンドと言えど、自宅で背景がここまで出るのなら、結構満足です。周りの赤いところまで出してある画像はそこまでないのでしょう、結構な反響がありました。
イルカ星雲本体に含まれる赤はもっと解像度が欲しいところですし、全体に霞みがかったようになってしまっています。淡いOIIIを無理して強調した弊害です。OIIIフィルターにバーダーの眼視用のものを使っていることが原因かと思われます。IR/UVカットができないために、青ハロが目立ち、その弊害で霞みがかったようになってしまっています。
土曜の朝起きて、いつものコメダ珈琲に行き、画像処理の続きです。改めて昨晩処理したものを見てみると、ノイズ処理がのっぺりしていて、恒星の色も含めて全然ダメだと反省しました。特に、拡大するとアラが目立ちます。
そもそもε130Dの焦点距離が430mmとあまり長いものではないので、画角的にイルカ星雲本体が少し小さくなってしまいます。後から拡大しても耐え得るように、WBPP時にDrizzleの2倍をかけておいて、Drizzle+BXT法で、イルカさん本体の解像度を上げてみます。
下の画像は、左がDrizzle x1で右がDrizzle x2、上段がBXT無しで下段がBXTありです。差が分かりにくい場合は画面をクリックして、拡大するなどして比べてみてください。
ところでこのDrizzle+BXT法ですが、2023年5月に検証して、その後何度がこのブログ内でも実際に適用してきたのですが (1, 2, 3) 、最近のXでの天リフ編集長の「効果があるのかないのか実はよくわからなかった」という発言にあるように、当時は余り信用されなかったようです(笑)。
ところが上のリンク先にもあるように、ここ最近だいこもんさんや他の何人かの方が同様の方法を試してくださっていて、いずれも劇的な効果を上げているようです。とうとう流行期がきたようです!
この手法を科学的な画像としてそのまま使うことはさすがにできませんが、鑑賞目的ならば、本物のさらに細かい構造が見えてきている可能性があると思うと、夢が大きく膨らむのかと思います。多少の手間と、(一から揃えるとPixInsightとBXTでそこそこの値段になるので) あまり多少ではないコストになりますが、それでも対する効果としては十分なものがあるのかと思います。
土曜日はこんなことをやっていて、力尽きました。
日曜日もほぼ丸一日かけて、Drizzle x2の画像の処理を進めます。なかなか上手くいかなくて、バージョン10まで進めてやっとそこそこ納得しました。あとから10段階を連続で見てみると、徐々に問題点が改善されていく過程がわかります。
金曜夜中に処理したDrizzle x1と、日曜夜遅くにDrizzle x2で最終的に仕上げた後の画像の比較してみます。ともにBXTをかけたものです。
まずはDrizzle x1
次にDrizzle x2です。
画像処理にかけた気合と時間が大きく違うこともありますが、それにしても結果が全然違います。では一体何をしたかというと、大きくはノイズ処理の見直しと、恒星の処理の見直しです。
特にノイズ処理は結構大変で、少し油断するとすぐにモワモワしてしまったり、分解能が悪くなったりで、全然上手くいかなかったです。でも筋道立てて丁寧にやっていくと、なんとか解は存在するといった感じでしょうか。
まず、ノイズ処理で気づいたことが一つあります。Drizzleで解像度2倍にした画像にはノイズ処理が効かないことがあるようです。興味があったので少し調べてみました。
今回試してみたノイズ処理ソフトは
結果です。拡大しないと一見、金曜夜中の画像とそこまで変わらないと思えるかもしれません。でも、少し細部を見ると全く違います。
私的にはかなり満足なのですが、子供に上の画像を見せたら「霞んで見えるのが惜しい」と言われました。ナローバンドフィルターは星まつりで安いB級品をちょくちょく集めてきたのですが、パッと手に入れることができた眼視用OIIIフィルターだと多分もう厳しいので、新品で購入してしまった方がいいのかもしれません。でも新品でも在庫がないみたいです。いっそのことUV/IRカットフィルターを重ねてしまうのも手かもしれません。
上の画像は拡大すると真価を発揮します。イルカに見えるように画像を90度左回転し、左に明るい赤の壁を置くような構図にしてみました。
恒星の色もでているかと思います。大きくクロップしたとは思えないくらいです。
さらにイルカ星雲本体のみにしてみますが、ここまで拡大してもまだ大丈夫かと思います。
この画像も子供に見せたら、「イルカの中の赤いところがまだ出ていない。頭のところにある脳みそみたいなところはまだマシだが、下の心臓の形はもっと出るはずだ」とか言われて、どこからか検索してきたもっと細部が出ている画像を見せられました。でもその画像の説明を見たらそもそも大口径の350mmでf/3、撮影時間がなんと45時間...、さすがに太刀打ちできるはずもないです。
超辛口な息子の意見に少したじろぎましたが、ナローバンドだとしても自宅撮影でここまで出るなら、もうかなり満足です。あとは毎回コンスタントにこれくらいまで出すことができるかでしょうか。もう少し練習が必要な気がしています。
金曜夜から土日のほとんどを画像処理にかけてしまいました。やり直しを含めて、今回は丁寧な処理の画大切さを実感しました。淡いところを出すときは、特に慎重に手順を考えて処理しないとすぐに破綻してしまいます。
結局これ1枚に32時間くらい画像処理にかけたので、ちょっとスキルが上がったはずです。1枚に集中してできる限りのめり込むことは、かなり効果があるのかと思います。
でも次のダイオウイカとまともに戦えるとはまだ思えません。今のところ全然ノイジーです。ダイオウイカ星雲はそれくらい手強いです。
海外ではDolphin Head Nebulaと呼ばれているようで、日本でも「イルカ星雲」とか「イルカの頭星雲」とも呼ばれているようです。その一方、Milk Pot Nebulaとかで検索しても全く引っかからないので、どうもミルクポットと言っているのは日本だけのようです。
本当にイルカの口に似たような特徴的な形と、OIIIで写すと青く目立ってとても綺麗で、星を始めた当初からいつか詳細な形と共に撮影したいと思っていた星雲の一つです。最高高度が31度程度と比較的低い空なので、撮影可能期間もあまり長くなく、やっと実現できたというわけです。
撮影
実際の撮影開始は結構前で、12月4日の夜中過ぎからです。自宅なので平日も撮影可能で、同じ日の前半に北西方向のダイオウイカ星雲、後半に東から昇ってきているイルカ星雲を撮影しています。
一般に淡いと言われているイルカさんですが、同日に撮影していたダイオウイカ星雲がとんでもない淡さなので、イルカ星雲はずいぶん濃く感じました。下の写真の左は6時間40分のOIIIのダイオウイカで、ABEにDBEもかけて強あぶり出ししてやっとこれくらい。一方右は3時間10分でABEをかけただけでこんなにはっきり出ます。
今回のイルカ星雲は、5分露光でOIIIが59枚、Hαが39枚でAOO合成の予定です。さらに恒星用にR、G、Bでそれぞれ8枚ほど撮影しています。OIIIとHαは比較的早くに撮り終えていたのですが、RGBが曇っている日が多くてなかなか撮り溜めできず、撮影は最終的に1月14日まで食い込んでしまいました。
R、G、B画像もそれぞれ同じ5分露光なのですが、明るい星はサチってしまっています。今後はRGBの各フィルターでの撮影は露光時間を短くするか、ゲインを落とした方がいいようです。
RGB合成した画像の左側真ん中に写っている一番明るい星を、
PIの3Dプロットで表示。
PIの3Dプロットで表示。
画像処理
画像処理を進めていてすぐに、今回はイルカ星雲本体の青よりも、背景の赤がポイントではないかと思うようになりました。
- まず、イルカさんの中にも赤い部分が存在しているようで、今回程度のHαの露光時間では全然分解して表現できていないように思います。
- 背景の左側の赤い部分は、周辺減光か分子雲かの見分けがつきにくかったのです。特に左下の暗くなっている部分は暗くなっていますが、これは周辺減光なのか迷いました。他の方の画像を見ると確かに暗くなっているので正しいようです。
- 右側と上部には、かなり濃い波のような分子雲があり、こちらはHαだけでなくOIII成分も持っているようで、左下の赤とは明らかに違った色合いになり面白いです。
- 画面真ん中の星雲本体の周りに、下から右上方向に進むかなり淡い筋のような模様が見えますが、これも迷光などではなく本当に存在するもののようです。この筋はHαだけでなくOIIIにも存在するので、ここでも色の変化が見られとても興味深いです。
背景の淡い部分を出すには、フラット化がどこまでできるかがとても重要です。通常のフラットフレームを撮影してのフラット補正は当然として、それだけでは取りきれない
- 輝度勾配
- 周辺減光の差の残り
- ライトフレーム撮影時とフラットフレーム撮影時の迷光の入り具合の差
私はフラットフレームは晴れた昼間の部屋の中の白い壁を写しているので、どうしても窓側と部屋中心側で輝度差が出てしまいます。これはABEの1次で簡単に補正できるので、まずはHαもOIIIもインテグレーション後にすぐにABEの1次をかけます。ABE1次の後は出てきた画像を見て、毎回それぞれ方針を考えます。
GraXpert
実は今回、フラット化のために最近人気のフリーのフラット化ツールGraXpertを使ってみました。以前からインストールはしていたのですが、ほとんど使ったことはありませんでした。
今回GraXpertをPixInsightから呼び出せるようにしようと思って、この動画にあるように
https://www.ideviceapps.de/PixInsight/Utilities/
をレポジトリに登録して、ScriptのToolboxの中のメニューにも出てきたのですが、いざPixInsightからGraXpertを呼び出すと「GraXpertの最新版が必要」と言われました。アップデートしようとして最新版をインストールしたわけですが、アップデート後PIから呼び出しても、どうも動いている様子が全くありません。確認のために、まずは単独でGraXpertを立ち上げてみましたが、セキュリティーの問題を回避した後もうまく起動しません。ちなみにMacのM1です。
それでどうしたかというと、アプリケーションフォルダのGraXpertをフォルダから右クリックして「パッケージの内容を表示」でコンテンツの中身を見てみます。ContentsのMacOSの中にあるGraXpertがターミナルから起動できる実行ファイルで、これをダブルクリックすることでエラーメッセージを確認することができます。今回はいくつかpyhthonのライブラリが足りないとか出ていたので、手動でインストールしたのですが、結局解決せず。
そもそもメインPCのpython関連はそんなに変なことをしていないので、おかしいと思い調べたら、最新版はMac OS 13.6以上が必要とのこと。私はアップデート後のトラブルが嫌であまり最新のOSには手を出していなかったのですが、自分のバージョンを見たら12.4とか2世代も古いです。仕方ないので久しぶりにOSをアップデートし、一気に14.2.1のSonomaになって、無事にGraXoertが立ち上がりました。
ちょっと蛇足になってしまいましたが、
- うまくいかないときはターミナルから立ち上げてエラーメッセージが確認できること
- OSのアップデートが必要なこともある
さてGraXpertの結果ですが、背景の星雲の形が大きく変わってしまい、残念ながら撃沈でした。比較してみます。最初がABEのみでフラット化したもの、
次がGraXpertで今回は見送ったものになります。AIとKrigingで試しましたが、大きな傾向は変わりませんでした。画像はKrigingのものです。
違いは左下の濃い赤の部分で、GraXpertではムラと判断され、取り除かれてしまっています。また、イルカ星雲本体があるあたりの背景のHαも同様に取り除かれてしまっています。
このように、背景全体に分子雲が広がっているような場合は非常に難しく、DBEでもあまりいい結果にならないことがわかっているので、今回は再びHαとOIIIに戻って、今一度注意深くABEのみで処理することにしました。 GraXpertの方が良い結果を出す場合もあると報告されているので、実際のフラット化処理の際には一意の決まり手は存在せず、毎回臨機応変に対応すべきなのでしょう。
ABEのみでのフラット化
さて、今回最終的に使ったABEの具体的な手順を書いておきます。これも今回限りそこそこ上手くいったと思われる、あくまで一例です。
- Hα: ABE1次、ABE2次
- OIII: ABE1次、ABE2次、ABE3次、ABE3次
- AOO: ABE4次
ポイントは
- 過去に他の人が撮影した画像などを参考にして、自分の背景がおかしすぎることがないこと
- オートストレッチで十分に炙り出せる範囲にフラット化を進めること
こうやって考えると、PixInsightのMARSプロジェクトにかなり期待したいです。何が正しい背景で、何がカブリなどのフェイクかの指標を示してもらえるのは、とてもありがたいです。もちろん、誰も到達していないような淡さなどは当然データベースに登録されないと思うので、限界はあるはずです。でも私みたいな庭撮りでやっている範囲では、十分な助けとなってくれると思います。
とりあえずの画像処理
1月19日の金曜の夜、SLIMの月面着陸の様子をネットで追いながら、画像処理をしていました。着陸後、結果発表までかなり時間があったので、寝るのは諦めてのんびり進めます。その時に一旦仕上げて、Xに投稿したのが以下の画像です。
イルカ星雲本体はかなりはっきり出ています。イルカなのでOIIIの青がよく似合っています。また、背景の赤もかなり出ているのではないでしょうか。ナローバンドと言えど、自宅で背景がここまで出るのなら、結構満足です。周りの赤いところまで出してある画像はそこまでないのでしょう、結構な反響がありました。
イルカ星雲本体に含まれる赤はもっと解像度が欲しいところですし、全体に霞みがかったようになってしまっています。淡いOIIIを無理して強調した弊害です。OIIIフィルターにバーダーの眼視用のものを使っていることが原因かと思われます。IR/UVカットができないために、青ハロが目立ち、その弊害で霞みがかったようになってしまっています。
Drizzle+BXTが流行!?
土曜の朝起きて、いつものコメダ珈琲に行き、画像処理の続きです。改めて昨晩処理したものを見てみると、ノイズ処理がのっぺりしていて、恒星の色も含めて全然ダメだと反省しました。特に、拡大するとアラが目立ちます。
そもそもε130Dの焦点距離が430mmとあまり長いものではないので、画角的にイルカ星雲本体が少し小さくなってしまいます。後から拡大しても耐え得るように、WBPP時にDrizzleの2倍をかけておいて、Drizzle+BXT法で、イルカさん本体の解像度を上げてみます。
下の画像は、左がDrizzle x1で右がDrizzle x2、上段がBXT無しで下段がBXTありです。差が分かりにくい場合は画面をクリックして、拡大するなどして比べてみてください。
- まず上段で左右を比べると、Drizzleを2倍にすることで、恒星の分解能が上がっていることがわかります。
- 次に左側で上下を比べると、(Drizzleは1倍のままで) BXTの有無で、恒星が小さくなり、背景の細かい模様もより出るのがわかります。ただし、画像の解像度そのもので分解能は制限されていて、1ピクセル単位のガタガタも見えてしまっています。
- さらに下段のみ注目して左右を比べると、右のDrizzle2倍にさらにBXTをかけたものでは、恒星のガタガタも解消され、かつ背景もピクセル単位のガタガタが解消されさらに細かい模様が見えています。
ところでこのDrizzle+BXT法ですが、2023年5月に検証して、その後何度がこのブログ内でも実際に適用してきたのですが (1, 2, 3) 、最近のXでの天リフ編集長の「効果があるのかないのか実はよくわからなかった」という発言にあるように、当時は余り信用されなかったようです(笑)。
効果があるのかないのか実はよくわからなかった「Drizzle」処理がBXTと併用することで劇的な効果に。 https://t.co/gwfJ1lgTph
— 天リフ編集部 (@tenmonReflexion) January 18, 2024
ところが上のリンク先にもあるように、ここ最近だいこもんさんや他の何人かの方が同様の方法を試してくださっていて、いずれも劇的な効果を上げているようです。とうとう流行期がきたようです!
この手法を科学的な画像としてそのまま使うことはさすがにできませんが、鑑賞目的ならば、本物のさらに細かい構造が見えてきている可能性があると思うと、夢が大きく膨らむのかと思います。多少の手間と、(一から揃えるとPixInsightとBXTでそこそこの値段になるので) あまり多少ではないコストになりますが、それでも対する効果としては十分なものがあるのかと思います。
土曜日はこんなことをやっていて、力尽きました。
Drizzle x2
日曜日もほぼ丸一日かけて、Drizzle x2の画像の処理を進めます。なかなか上手くいかなくて、バージョン10まで進めてやっとそこそこ納得しました。あとから10段階を連続で見てみると、徐々に問題点が改善されていく過程がわかります。
金曜夜中に処理したDrizzle x1と、日曜夜遅くにDrizzle x2で最終的に仕上げた後の画像の比較してみます。ともにBXTをかけたものです。
まずはDrizzle x1
次にDrizzle x2です。
画像処理にかけた気合と時間が大きく違うこともありますが、それにしても結果が全然違います。では一体何をしたかというと、大きくはノイズ処理の見直しと、恒星の処理の見直しです。
Drizzle後のノイズ処理
特にノイズ処理は結構大変で、少し油断するとすぐにモワモワしてしまったり、分解能が悪くなったりで、全然上手くいかなかったです。でも筋道立てて丁寧にやっていくと、なんとか解は存在するといった感じでしょうか。
まず、ノイズ処理で気づいたことが一つあります。Drizzleで解像度2倍にした画像にはノイズ処理が効かないことがあるようです。興味があったので少し調べてみました。
今回試してみたノイズ処理ソフトは
- Nik CollectionのDfine 2
- PhotoshopのCamera RAWフィルターのディテールのノイズ軽減
- DeNoise AI
- NoiseXterminator
です。この中で効果があったのはDfine 2とNoiseXterminatorでした。他の2つは元々大きな構造のノイズが苦手な傾向があることは気になっていましたが、今回Drizzleで2倍の画素数にしたため、同じノイズでもより細かい画素数で表現されるようになり、相対的に大きな構造のノイズを扱っているような状態になったのかと推測します。まだ少し試しただけなので検証というレベルではなく、他のノイズ処理ソフト、例えばTGVDenoiseなどのPIのノイズ処理関連なども含めて、もう少し調べる必要があると思います。それぞれ得意な空間周波数があるような気がしています。
結局今回使ったのは、PI上でNXT、Photoshop上でDfine 2でした。これでモコモコしたノイズが残るとかを避けることができました。またNXTはカラーノイズ対策はできないので、カラーノイズはDfine2に任せました。
結局今回使ったのは、PI上でNXT、Photoshop上でDfine 2でした。これでモコモコしたノイズが残るとかを避けることができました。またNXTはカラーノイズ対策はできないので、カラーノイズはDfine2に任せました。
結果
結果です。拡大しないと一見、金曜夜中の画像とそこまで変わらないと思えるかもしれません。でも、少し細部を見ると全く違います。
「Sh2-308: イルカ星雲」
- 撮影日: 2023年12月5日0時3分-3時9分、12月9日0時2分-1時5分、12月29日22時3分-30日4時20分、2024年1月4日20時50分-22時43分、その他2夜
- 撮影場所: 富山県富山市自宅
- 鏡筒: TAKAHASHI製 ε130D(f430mm、F3.3)
- フィルター: Baader:Hα 6.5nm、OIII 10nm、R、G、B
- 赤道儀: Celestron CGEM II
- カメラ: ZWO ASI6200MM Pro (-10℃)
- ガイド: f120mmガイド鏡 + ASI290MM、PHD2によるマルチスターガイドでディザリング
- 撮影: NINA、bin2、Gain 100、露光時間5分、Hα: 39枚、OIII: 59枚、R: 8枚、G: 9枚、B: 8枚、の計123枚で総露光時間10時間15分
- Dark: Gain 100、露光時間5分、温度-10℃、117枚
- Flat, Darkflat: Gain100、露光時間 Hα: 0.2秒、OIII: 0.2秒、R: 0.01秒、G: 0.01秒、B: 0.01秒で全て64枚
- 画像処理: PixInsight、Photoshop CC
私的にはかなり満足なのですが、子供に上の画像を見せたら「霞んで見えるのが惜しい」と言われました。ナローバンドフィルターは星まつりで安いB級品をちょくちょく集めてきたのですが、パッと手に入れることができた眼視用OIIIフィルターだと多分もう厳しいので、新品で購入してしまった方がいいのかもしれません。でも新品でも在庫がないみたいです。いっそのことUV/IRカットフィルターを重ねてしまうのも手かもしれません。
上の画像は拡大すると真価を発揮します。イルカに見えるように画像を90度左回転し、左に明るい赤の壁を置くような構図にしてみました。
恒星の色もでているかと思います。大きくクロップしたとは思えないくらいです。
さらにイルカ星雲本体のみにしてみますが、ここまで拡大してもまだ大丈夫かと思います。
この画像も子供に見せたら、「イルカの中の赤いところがまだ出ていない。頭のところにある脳みそみたいなところはまだマシだが、下の心臓の形はもっと出るはずだ」とか言われて、どこからか検索してきたもっと細部が出ている画像を見せられました。でもその画像の説明を見たらそもそも大口径の350mmでf/3、撮影時間がなんと45時間...、さすがに太刀打ちできるはずもないです。
超辛口な息子の意見に少したじろぎましたが、ナローバンドだとしても自宅撮影でここまで出るなら、もうかなり満足です。あとは毎回コンスタントにこれくらいまで出すことができるかでしょうか。もう少し練習が必要な気がしています。
まとめ
金曜夜から土日のほとんどを画像処理にかけてしまいました。やり直しを含めて、今回は丁寧な処理の画大切さを実感しました。淡いところを出すときは、特に慎重に手順を考えて処理しないとすぐに破綻してしまいます。
結局これ1枚に32時間くらい画像処理にかけたので、ちょっとスキルが上がったはずです。1枚に集中してできる限りのめり込むことは、かなり効果があるのかと思います。
でも次のダイオウイカとまともに戦えるとはまだ思えません。今のところ全然ノイジーです。ダイオウイカ星雲はそれくらい手強いです。