ほしぞloveログ

天体観測始めました。

タグ:神通川

大興奮だった紫金山アトラス彗星ですが、10月14日に見えて以来、次の日も同じ場所に行ったりしましたが、結局あれからずっと天気がダメで、見えたのは今のところ14日だけです。



先日のブログ記事では、見えたその日のうちに速報として記事を書きましたが、その後画像処理を進めてみました。と言っても大した枚数を撮っているわけではなく、しかも雲がまだ残っていたので、スタックしても雲が流れてしまい、どうしても見栄えが悪くしなってしまいます。なのでほとんどは1枚撮りを加工しています。機材は前回も書いた通り、EOS 6Dにシグマの105mmレンズをつけF2.0、固定三脚に載せて撮っています。


明るい中で見え始めた彗星

まずは、比較的早い時間のもので、18時4分です。まだ周りはかなり明るくて、彗星の核が見え初め、次に尾が見え始め、尾がやっと雲から出たところくらいです。

1枚撮りになります。 F2.8、ISO800、1秒露光で写しています。Photoshopで処理していますが、周りの明るさが残る時間帯なので、あまり加工せずにその場で見えた時の印象を残しました。といっても、そもそもが天体改造したカメラなので、赤外領域が明るく写っているはずで、ホワイトバランスを調整してそこそこ目で見える印象に合わせている画像です。そこから記憶に残っている印象に近づけていきます。

「10月14日、見え始めた紫金山アトラス彗星」
LIGHT_Tv1s_800iso_f2-8_+21c_20241014-18h04m59s158ms

太陽が沈んだあとの夕焼けの赤い空が残る中、上の方から徐々に暗くなっていきます。空の青さはまだ残っていて、まだ全景を現しきれない彗星が、徐々にはっきりと見えてくるような状況です。


地面と一緒に

次もまだ早い時間帯で、高度はある程度下がってきていますが、依然高い位置にあります。地面を入れてちょうどいいくらいになっています。時間は18時25分です。

F2.8、ISO1600、2秒露光です。これ以降は全て同じ設定で撮影しています。こちらもPhotoshopのみでの処理です。

「地平線と紫金山アトラス彗星」
LIGHT_Tv2s_1600iso_f2-8_+20c_20241014-18h25m43s212ms

彗星はどんどん明るくなってきていて、背景には星も見え始めています。地面のすぐ上にはまだ少し赤い空が見えていました。


全景

そこそこ時間が経ち、雲に沈む寸前の全景です。

「紫金山アトラス彗星全景」
LIGHT_Tv2s_1600iso_f2-8_+20c_20241014-18h29m47s208ms_2

この画像ををPixInsightのABEで平坦日して、ギリギリまで炙り出してテイルがどこまで伸びているかをみてみました。淡いところは雲にかかりつつあるので、どこまでが尾なのか、はっきりとはわかりませんが、核からテイルと思われるところまでそ測定すると、約13度になることが分かりました。20度を超えているという報告もあるようなので、まだこの後も伸びているのかと思います。

LIGHT_Tv2s_1600iso_f2_8_20c_20241014_18h29m47s208ms_RGB


アンチテイルとネックライン構造

今回の紫金山アトラス彗星の特徴の一つは、はっきりと出たネックライン構造でしょう。雲に沈むより少し手前の、十分に周りが暗くなった時に写した2秒露光の画像を、少しでもわかりやすくするために5枚スタックして画像処理で炙り出してみました。複数枚スタックのために雲が移動しているのが映り込んでしまうために、少し大胆にクロップしています。

2_00s_FILTER_NoFilter_RGB_integration_ABE1_ABE_back_ABE3_cut

テイルの反対側に、テイルと同じくらいの太さの淡いアンチテイルと、そのアンチテイルの中にネックライン構造と呼ばれる鋭い線が見えます。初期の頃はこんな鋭い構造は何かのミスかと思った方もいるようですが、同じような画像が続々と出てきているので、少なくとも存在しているのは間違いないでしょう。

過去の彗星画像でネックライン構造と言われているものも、カラーでここまではっきりと直線状になっているのはめずらしく、しかも相当多く撮影されていると思われるので、やはり今回の紫金山アトラス彗星の特筆すべき特徴と言っていいのかと思います。


木村-劉 理論

ネックライン構造についてはかなり昔に、

"On the structure of cometary dust tails", Kimura Hiroshi, Chinese Astronomy Volume 1, Issue 2, December 1977, Pages 235-264

で提案されたようで、著者の1人は日本人です。当時の所属を見ると「Purple Mountain Observatory, Academia Sinica」となっているので、なんとも今回の紫金山アトラス彗星に相応しいではありませんか。あれ、Academia Sinicaって台湾ですよね?でも紫金山天文台は南京では?と思って調べてみたら、今の紫金山天文台は「Purple Mountain Observatory, Chinese Academy of Sciences」と書くそうです。「中国科学院紫金山天文台の前身は1928年に成立した国立中央研究院天文研究所である。1950年に現在の名称に改称された。」とあるので、昔はAcademia Sinicaと言っていたのかもしれません。

ネックライン構造とは、一旦放出されたダストが再び彗星軌道上に集まることによって見え、そのダストの集まる場所が太陽を挟んで180度程度のところなので、ちょうど視線の方向が軌道平面に近いと核の180度向こうのダストの集まりが線のように見える現象だと考えられます。でも、なぜダストが再び軌道に集まるのでしょうか?

「彗星夏の学校」という集まりで論文のレビューをしていて、2008年の収録誌の中にネックライン構造を理解するのに、比較的わかりやすく書いてあるレビューがありました。これによると、ネックライン構造を説明するのは、ダストテイルの輝度分布を求める過程で出てきて、
  1. 19 世紀~20 世紀初めの古くからのBessel-Bredichin 理論でシンクロン(等時放出線)とシンダイン(等斥力線)の2次元で扱う網状の輝度分布図を書くことができる。
  2. 1968年のFinson-Probstein理論でシンクロン・シンダイン網の各点で、球殻が拡散していくモデルを導入し、輝度分布を3次元的に扱えるようになった。
  3. 1977年の木村-劉 理論で、球殻の広がり方に制限を加えることで、軌道上に再びダストが集まるネックライン構造があると説明された。
  4. 木村-劉 理論はその後のMarco Fulle(1987、1989)によって逆算法という逆モンテカルロ法に相当する方法で解説できる。
と書いてあります。でも、どうしてダストが再び集まるかという理由についてはあらわには書いてありません。4の逆算法は、観測したダストの「輝度分布の画像」から、彗星のパラメータを求める手法で、おそらくですが 鋭い(当時は名前がなかった) ネックライン構造も含めたダスト分布の観測をどうやって説明するかの計算手法の確立の過程で、ダストが集まる現象も説明ができ、それをネックライン構造と呼ぶようになったのではないかと推測しました。

「ネックライン構造」という言葉は50年近く前に提案された言葉ですが、アマチュア天文の範疇ではほとんど認識されていなかったようです。木村-劉 論文ではネックライン構造の他に、「サンワードテイル(Sunward tail)」という言葉も使っていて、こちらは日本語で検索している限り全く使われていないようなので、さらにマイナーな言葉です。論文レベルではNeck-line strucutreもSunward tailも普通に使われているので、どちらも主に専門用語の範疇と考えられ、アマチュア天文家にあまり認識されていないのも仕方ないのかと思います。

さて、今回のネックライン構造ですが、どういった物理過程でダストが軌道上に集まってくるのか?元論文まであたる必要がありそうです。私も時間があったら少し読んでみようと思います。


まとめ

今回の紫金山アトラス彗星、かなり楽しめますねー。ここまで盛り上がるとは、私自身はあまり期待していませんでした。

すでに暗くなってきているようですが、それでも尾はどんどん長くなっているようですし、なんと言ってもネックライン構造!自分で撮った写真にも綺麗にはっきりと出ました。いやー、カッコいいです。紛れもなく記憶に残る大彗星です。

10月20日の日曜からは、月が昇る前に観測できそうなので、暗い場所に行く価値が出てきそうです。それまでに尾はどれだけ残っているのか?天気は大丈夫か?できるだけのことはしたいと思います。


前回記事で書いたように、昨日は尻尾がほんの辛うじて見えたくらいで、まあ見えなかったと言っていい、紫金山・アトラス彗星(C/2023 A3)。



今日は一転、ものの見事に大迫力で見えました!!!

昨日は悔しさに任せて書き殴っていたブログ記事ですが、今日は全然気分が違います。晴れ晴れとして書いているので、筆が進みます。


天気予報はイマイチ

2024年10月14日は連休3日目の月曜日。そもそもこの日は午前中こそ晴れていましたが、午後くらいから雲が出始め、夕方までかなり雲が多かったです。16時頃に外を見て、まあダメだと思い諦めてテレビを見てました。17時になる10分くらい前でしょうか、窓から少し弱いながらも太陽の光が差し込んでいたので、とりあえずダメもとで外にだけ出ようと、昨日と同じ場所へ向かいました。昨日の機材はそのまま車に積んであるので、17時には現地に着いていました。

空を見ると、天気は辛うじて昨日よりマシなくらいで、まだ雲がかなり残っています。最悪晴れている場所があれば移動することも考えて、機材は昨日よりもかなりシンプルで、シグマの105mmにEOS 6Dのみです。架台は固定三脚ですが、昨日のマンフロット三脚に自由雲台から変えて、ビデオ用三脚に近いような水平と垂直を独立して傾けれるものにしました。これは正解でした。撮影していると、あと少しだけ角を中央に移動とか、地面を少しだけ入れたいとか、微妙の角度を調整したくなるのです。

IMG_0209


早く見えないかな?

機材の準備はものの10分ほどすみました。昨日一度セットしている経験が効いています。最初に撮った写真のタイムスタンプを見てみると、17時13分でした。太陽が遠くの山に沈んだ直後で、流石にまだ明るすぎます。

太陽が沈む位置から、その時の彗星の位置は南へ7-8度、高さはまだ20数度あるはずです。105mmレンズとフルサイズの画角は19.3x13.0度あります。地面を画面内に入れると、まだ彗星は画面からはみ出るような位置にあります。そこで、地面から少し上くらいにカメラを向けて、彗星が確実に画面内に入るような位置にして、見えるようになるのを待ちます。

カメラは昨日と同じ、PCに繋いでBackYardEOSでシャッターを切り、モニターしています。ピントは、昨日合わせた時にパーマセルテープで固定しておたのですが、見る限りズレたりしていることはなさそうです。ここから1分おきくらいにシャッターを切って彗星が見えるのを待ちます。

17時20分、流石にまだ見えません。
17時30分、ちょっとくらい見えないかな?
17時40分、そろそろ見えてもいいのでは?
17時45分、流石に見えるはずでは?
17時50分、なんで見えない?何か間違っているのか?
17時52分、おお! 核が見えている!!

とこんな感じで、いまかいまかと待っていました。


まずは核が見えた!

LIGHT_Tv1s_200iso_f3-5_+22c_20241014-17h52m49s662ms_rot
核の位置は画面中央より少し左寄りでした。

その前の撮って出しJPG写真を注意深く見てみると、17時46分の画像では核は確認できませんが、17時48分の画像には写っていました。

その後さらにRAW画像をPixInsightで炙り出してみると、17時46分の画像にははっきりみえていますが、1分前の17時45分の画像以前には写っていません。これはまだ明るかったというよりは、残っていた雲が厚くて核を隠していたようでした。


尾も見えてきた

核が見えてからは順調そのものです。彗星の尾が左上に向かっているので、核の位置を中央右下になるように少しだけカメラの方向を変えます。

17時59分には核が完全に雲から出てきて、尾っぽが見え始めます。
LIGHT_Tv1s_400iso_f2-8_+21c_20241014-17h59m57s332ms_rot

5分後の18時4分には尾の全体も雲から出てきました。
_LIGHT_Tv1s_800iso_f2-8_+21c_20241014-18h04m59s158ms_rot

この辺りで双眼鏡で見てみましたが、尾がはっきりと見えました。ただ、肉眼だと周りが明るいからか、核も尾もあまりよく見えませんでした。


全体像が凄い

18時12分の画像では彗星の全体が確認できます。現地でWindowsの「フォト」を使って、少しだけ画像処理しました。
LIGHT_Tv2s_1600iso_f2-8_+20c_20241014-18h12m39s037ms_2_rot

つぎは18時26分の写真です。だいぶん下に降りてきたので、地面と一緒に写してみました。
LIGHT_Tv2s_1600iso_f2-8_+20c_20241014-18h26m04s845ms_rot

暗くなって核が雲に隠れる直前の18時29分の写真を、PixInsightで炙り出して尾の長さを見てみました。画面の長手方向の3分の2はあると言っていいでしょうか。

LIGHT_Tv2s_1600iso_f2_8_20c_20241014_18h29m04s229ms_ABE_HT_NXT

縦方向が19度ちょい程度なので、少し斜めに伸びていることも考えると、尾の長さはこの画面で見えているだけでも13度以上と言っていいでしょう。これは紛れもなく大彗星と言っていいのかと思います。


とうとう終わり

18時41分には低空の厚い雲の中に核が入ってしまいました。
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再び見えることはないのかと、少しだけ待ちましたが、これ以降は尾もどんどん低くなってきて見えなくなってきたので、この日はここで終了としました。

明日以降は少し天気が悪くなりそうですが、まだチャンスがあると思います。どこまで成長するのか?それとももう尾は短くなっていくのか?今後も楽しみです。


片付けと帰宅

興奮も冷めやらぬまま後片付けです。大した機材は出していないので片付けは簡単で、19時前には現地を出発しました。今日は自宅に息子しかいないので、すき家によって牛丼大盛と旨辛すき焼き牛丼中盛りを買って、自宅で子供と食べて、ブログを書いて、今に至ります。

今回の紫金山アトラス彗星はとにかくもう満足でした。やり残したことというと、タイムラプスを撮りたかったかもしれないのと、今使っている古いiPhone XRで写るかどうか試すことくらいです。ただ、肉眼ではっきり見えたネオワイズ彗星に比べて、今回は肉眼ではよく見えなかったので、自分の中の順位としてはやはりネオワイズ、紫金山アトラスでしょうか。ネオワイズは初めて見た大彗星だったので、そのインパクトもあるのかもしれません。でも、そもそも今日はダメもとで外に出てみたくらいの気分だったので、それを考えたら十分過ぎるくらいの結果です。

とりあえず今回の記事は速報で、撮って出しと簡易処理です。きちんとスタックしたりしての画像処理はもう少し時間をかけてやろうと思っています。


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