ほしぞloveログ

天体観測始めました。

タグ:波長

エタロンの透過応答の精度をあげる努力をしています。


フェニックスのエタロン透過特性を測るにあたって

以前PSTのエタロンを含んだ透過応答を実測して解析しました。


現在新たにPhoenixのエタロンの応答を測定していますが、いい機会なので合わせていろいろと精度を上げようと思っています。
IMG_2381

精度向上に関し、いくつかやりたいことはあるのですが、この記事では波長のキャリブレーションについて議論します。


波長のキャリブレーション

波長のキャリブレーションは分光器SHG700で別途フラウンホーファー線をカメラで写して、その画像を解析して行います。PSTのエタロンの透過応答の測定の際も、このフラウンホーファー線を元に、波長を決めました。具体的には、撮影したフラウンフォーファー線とJSol‘ExのSpectrum Browserの画面を比較します。似たような線の位置を探し出すのですが、Spectrum Browserでは波長を数字で指定できるので、何本か同じ位置の線がわかれば、波長に換算することができます。前回は、下の画像のように目で見比べながら同じ位置の線を特定していましたが、結構面倒なんですよね。しかも、下で数値が見えている2点で合わせただけなので、精度的に、特にHαより短い波長側にズレがある可能性があります。

wavelength_select_cut

そこで、撮影したフラウンフォーファー線の画像と、波長と強度がわかっている参照データを比較して、自動的にフィッティングしてキャリブレーションしてしまおうと考えたのです。

とりあえずフィッティングしてみるが...

最初に作ったプログラムで比較した結果です。まずはHαよりも長い波長側です。
higher_HA_graph

これを見る限り、そこそこうまくフィッティングできているように思えます。ところが波長の短い側を見てみると、全く合っているように見えません。
lower_HA_graph

そもそも、目で見て合いそうな線を追ってみても、候補さえないような状態です。

ここで一度フラウンホーファー線と、JSol'Exの画像比較に戻って確かめてみました。波長が長い方を比較します。上の方に見えている黒い太い線がHαになります。その下に何本か特徴的な線があり、やはり両画像ともそこそこ合っているように見えます。
higher_HA_cut

同じ比率を保ったまま、Hαより短い波長側を見てみます。画面一番下の黒色太い線がHαです。その上を見てみますが、とてもではないですが合っているように見えません。波長が長い側と短い側で、比率は変わってもいいはずなので、線の間をそれらしく伸ばしたり縮めたりしたとしても、全く候補となるような一致する線が見当たりません。
lower_HA_cut


ここで何日か停滞しました。


参照データを考えて直してみる

実測が間違えているのか、参照データが間違えているのか、色々考えてみました。JSol'Exのデータと、今回使った参照データ (Zenodo に公開されている Solar FTS Atlas.npy, https://zenodo.org/records/14641641/files/solar_reference_atlas.npy)はほとんど同じ形をしているようです。ということは、実測したフラウンホーファー線が何か間違っているのでしょうか?いやいや、少なくともHα線より長波長側ではある程度一致したデータとなっているので、測定自身がおかしいという可能性は少ないかと思います。なので色々調べてみると、太陽スペクトルのデータには何種類もあって、純粋な太陽光を目指したものと、地上で 観測された現実のスペクトルに近いものがあるとのことです。太陽光を目指したものは多くの地球大気吸収線が除去または抑制されているそうです。

というわけで、手に入りやすい以下の4つのスペクトルを実際に比較、グラフ化してみました。
  1. Solar FTS Atlas 
  2. IAG
  3. NSO/Kurucz 1984
  4. PEPSI
作ったグラフのHαより短い側をよく見てみます。
NSO_PEPSI
Solar FTS Atlas(青)とIAG(オレンジ)に関しては、存在しない吸収線がたくさんあるようです。この範囲内でさえもパッと数えて10本くらいはあります。特にSolar FTS Atlas(青)は上側が綺麗すぎたりするので、観測データではなく理論的な線の可能性が高そうです。

その一方、NSO/Kurucz 1984(緑)とPEPSI(赤)は深さこそ差はありますが、吸収線の数が多くて、位置も合わせてかなり似通っています。こちらは地上での観測データと考えていいでしょう。実際には真空中の波長か空気中の波長かで2Å程度ずれるとかもありますが、詳細になりすぎるのでここでは省略します。


PEPSIデータでフィッシング

というわけで、参照データをPEPSIに変更して、再度フィッティングしてみます。さて、どうでしょうか?

Hαより長い波長側と
high

Hαより短い波長側です。
low
特に短い波長側で劇的な改善が見えます。まだ説明できない実測の線もありますが、参照データにある吸収線はほとんど一致していることがわかります。

これで、実測のフラウンホーファー線の波長が精度良くわかったことになります。ということは、カメラの各ピクセル位置がどの波長になるかもわかったとういことになるので、回折格子やカメラの位置を変えない範囲でエタロンやBFの透過特性を測定すれば、波長に対する応答に変換できるというわけです。


まとめ

思ったより時間がかかってしまいました。やはりプログラミングはそこまで得意でないので、ペースが遅いです。でも今回の解析で、参照できる太陽スペクトルの状況がある程度わかったので、今後も今回の情報は使えるかと思います。

とにかくこれで、今後分光器を使って波長を特定する場合に、毎回手でやる必要がなくなったのが大きいです。

もう一つエタロンの測定精度に関わることを議論しています。こちらもきちんと解決したいと思っているので、もう少し時間がかかるかもしれません。


前回示したように、画像の一部でドップラーシフトの連続変化が見えるなら、頑張れば画像全体でも見えるはずです。


今回は、全画面でのドップラーシフトをアニメ化する方法を探ってみたいと思います。いい機会なので、JSol'Exの強力なスクリプト言語のImage Mathを使ってみようと思います。


1. 自動画像生成+マニュアルでアニメ化

まずは連続波長ずれ画像(静止画)を出力する一番簡単な方法です。

とりあえず、JSol'Exでserファイルを開いて、「Custum prosess」を選んで「Mode」を「Simple」にして、下の「Select all」ボタンを押し、右上の数字が並んでいるところに「-10;-9;-8;-7;-6;-5;-4;-3;-2;-1;0;1;2;3;4;5;6;7;8;9;10」などと入れてやって、-10pixelから+10pixlelまでシフトした画像を生成してくれます。
redshift_cut

autostrerchフォルダなどに出力された21枚の画像を、適当なツールを使ってアニメ化するというのが、まずは一つ目の簡単な方法になります。例えば、PixInsightのBlinkで動画化することができます。

実際に作って見ました。ブログに載せるために縮小してgif化してますが、これだけでも迫力があります。
Blink_10_blog

一旦はこれで作ったのですが、でもまだまだ不満が残ります。


Image Math

まず、どれだけ波長がシフトしているかの数字を画面内に入れたいのですが、なかなかいいツールが見つかりません。高々20枚ほどなのでPhotoshopなどでマニュアルで入れるのでも構いませんが、JSol'ExのImageMath機能を使うと、さらに細かいことが色々できるみたいです。せっかくなので、ここで使い方を一通り把握しておきたいと思います。

まず、マニュアルや解説に相当するページですが、以下の4つくらいでしょうか。

https://melix.github.io/astro4j/3.3.1/en/jsolex.html
https://melix.github.io/astro4j/3.3.1/en/imagemath.html
https://youtu.be/l6tb-UFC6Zs?si=oyHAQhvETiXK3iJe
https://youtu.be/8XKzFcmvqfI?si=GXIArv_YOCPATGgI

上の2つはバージョンごとにページがあるので、今使っているバージョンのものを見るといいでしょう。アドレス内の数値を自分のバージョンに合わせてください。いっそのこと最新バージョンの3.3.1を落とすのもいいでしょう。このJSol'Exですが、まだ開発絶頂期の範囲なのか、バージョンアップの頻度がものすごいです。私が使い始めたわずか2週間の間に、3.2.1から3.2.2、3.3.0、3.3.1と、3回もアップデートしています。

下の2つは動画ですが、1つ目は基礎からImageMathまでわかりやすく英語で解説してくれています。え?日本語でないからわかりにくい?いやいや、2つ目の動画はImageMath専用の解説ですが、フランス語です。私は大学でフランス語を選択してましたが、今では全くわかりません。作者が解説してくれているJSol’Ex関連のビデオは結構たくさんあります。

https://melix.github.io/blog/jsolex.html

でも見てみるとわかりますが、21本中英語版はわずか3本、他は全部フランス語です。なので英語にしてくれているものは大きな情報源になり、かなり助かります。でもフランス語でも画面を見ているとわかるところもあり、特にImageMathについてはソースコードを見るとわかることも多いので、多少は役に立つと思います。というか、他の方のものなども散々探しましたが、どうもこれくらいしか解説はないようです。


Image Mathを使ってみる

実際にImageMathを触るときは、まずはサンプルコードを見るといいでしょう。JSol'Exのメニューの「Tools」から「Image Math editor」を選びます。出てきた画面で「Sample scripts」を押すと、いくつかの例が出てきます。

IM_card

この中で一番わかりやすいのは「Technical card」でしょうか。Full modeで緯度とか経度が書き込まれるcardという画像が出ていますが、それと同じ画像を作るスクリプトです。中身はこんな感じです。

#
# Generates a technical card similar to the built-in one
#

[params]
gamma=1.5
cropFactor=1.2

[tmp]
contrast=sharpen(auto_contrast(img(0);gamma))
cropped=autocrop2(contrast;cropFactor)
globe=draw_globe(cropped)

[outputs]
techcard=draw_solar_params(draw_obs_details(globe))

まずはこのスクリプトを、そのままSaveボタンを押して適当な名前をつけてどこかに保存してみてください。

次にserファイルを開いて、「Custum process」に進んで、出てきた画面の右上の「Mode」を「ImageMath」にします。右横の「Open ImageMath」ボタンを押してエディタを開き、「Load」ボタンを押して先ほど保存したファイルを開きます。

もし先ほどのスクリプトを保存していない場合は、ここであらためて「Technical card」を選択してもいいですが、SaveしてLoadせずに進めると何も読み込まれない状態になってImageMathの処理がされないので注意です。それから、ここで開いたサンプルファイル一覧では、「Tools」から「Image Math editor」から開いた場合で見たサンプルファイル一覧に出てくるものより少ないものしか出てこないので、これも注意です。なので、サンプルファイルは基本的にはメニューの「Tools」から辿って開くようにした方がいいいです。

Image Math editorの「Ok」ボタンを押し元の画面に戻って、「Unselect all」を押します。これでImage Mathの処理のみが行われるので時間の節約になります。JSol'Ex上に処理された緯度経度情報が入った画面が表示されると思います。その後のスクリプトの改造ですが、この画面の右下にImageMath scriptという場所があって、そこに先ほどのソースコードの内容が表示されていると思います。ここをいじっていきます。

手始めに、このモノクロのcard画像をカラー化してみましょう。

まず[param]、[tmp]、[output]の3つのパートに分かれているのがわかります。[param]は変数 (数値) の定義、[tmp]は内部的な画像処理で、[outputs]で指定されたもののみが実際の画像として出力保存されます。

改造のための情報を得るために、関数リファレンスページでコントロールキーとFキーを押すなどして「color」などとページ内検索します。どんなコマンドを使えばいいかはこの関数リファレンスページの関数一覧を一通り読むか、他のサンプルファイルを読み込んでみるといいでしょう。検索すると「COLORIZE」という関数が出てきます。使用例には

colorize(img: img(0), profile: "H-alpha")
colorize(range(-1, 1), "Calcium (K)")

などと書かれていますが、これを参考にします。例えば今処理しているcardスクリプトでは[tmp]の最後にglobeという画像が出来上がっているので、同じ[tmp]のところに

colorized=colorize(globe;"H-alpha")

という1行を追加して、colorizedという変数に画像を入れてみましょう。上の使用例と結構違っているので注意が必要です。それぞれの引数の間は「, (カンマ)」ではなくて、「; (セミコロン)」が標準みたいです。カンマでもいいみたいなのですが、サンプルコードでは全てセミコロンになっているので、私もセミコロンで統一することにしました。あと、引数のところの「img」とか「profile」は入れても入れなくてもいいみたいですが、入れるなら全て入れて、入れないなら全て入れないようにしないとダメみたいです。他のサンプルコードを見ると、入れない方が標準みたいです。

あとは、[output]の中の1行を

techcard=draw_solar_params(draw_obs_details(colorized))

のように書き換えて、先ほど作ったcolorizedを引き継ぎます。これでもう一度JSol'Ex画面右下のImage Math Scriptの「Run」ボタンを押して走らせるとカラー化された緯度軽度情報が入った画像が出来上がる位はずです。ただし、ここで書き換えたスクリプトはあらわにセーブしないと、再度立ち上げた時には元のモノクロの状態のスクリプトしか残ってないので、気をつけてください。

ちなみに、ここで出来たカラー画像ですが、フルモードなどで自動で作ったカラー画像とは色使いが違います。自動処理の方のカラー化はもう少し凝ったことをしているようです。


2. Image Mathで全画面ドップラーシフトをアニメ化

ここまででImage Mathの使い方のきっかけくらいは掴めたのかと思います。次は目的の全景のドップラーシフトアニメーションを作ってみましょう。といっても、これもサンプルファイルがあります。同様にImage Math editorで見えるサンプルリストの中から「Continuum animation」を選びます。以下のような内容です。

#
# Creates an animation of the continuum
#

[params]
# the animation will be created with images from [-shift;+shift]
shift=5
# autocrop factor
cropFactor=1.1
# contrast adjustment
gamma=1.2
# interpolation steps
steps=5
# delay between frames
delay=20

[tmp]
continuum=transition(range(-shift,shift);steps)
cropped=autocrop2(continuum;cropFactor)
contrast_adjusted=auto_contrast(cropped;gamma)

[outputs]
continuum_anim = anim(contrast_adjusted;delay)

このコードをそのまま使ってもいいのですが、前回のアニメであったような波長などの書き込みはありません。ここでは練習として、動画の各画像にテキストで波長を書き込んでみましょう。

使うコマンドはdraw_textです。[tmp]の最後に1行

text_added=draw_text(contrast_adjusted; 200; 2900; "Shift from Hα: %SHIFT%Å", 72; "FFFFFF")

を付け加えます。200とか2900は位置なので、自分の画像の大きさに合わせて適当に数字を変えてください。%SHIFT%はリファレンスマニュアルのdraw_textのところに書いてありますが、あらかじめ予約されている変数で、単位がÅに換算されたそれぞれの画像の波長のずれを表します。72はフォントの大きさです。こちらも適当に変えてください。FFFFFFは色で、RGBを各2バイトで表していて、この場合はRもGもBも255で一番明るくしてあるので白色になります。

[outputs]内では、最後の行を以下のようにtext_added変数を引き継いだ形に変更します。

continuum_anim = anim(text_added;delay)

基本的にはこれで走るはずですが、[params]内にある数値に少し触れておきます。
  • まず、shiftですが、これは[tmp]内のrange関数の引数に使われます。単位はピクセルなので、serファイルのHαの中心線から上下5ピクセルを処理します。ここは10くらいにしておくと楽しいでしょう。
  • stepですが、transition関数引数で使われていて、1ピクセルと1ピクセルの間を何枚補完するかになります。5の場合はかなり滑らかになります。ただし、先ほど表示したテキストの波長は間が補完されず、元画像の飛び飛びの波長しか出せないみたいなので、私はここは1にしました。
  • 最後delayですが、[output]のanim関数の引数で使われていて、フレームとフレームの間の時間で、単位はmsです。これはshiftとstepの数に合わせて調整しますが、私は1波長1枚としたので、ここでは200としました。

出来たスクリプトは以下のようになります。

#
# Creates an animation of the continuum
#

[params]
# the animation will be created with images from [-shift;+shift]
shift=10
# autocrop factor
cropFactor=1.1
# contrast adjustment
gamma=1.2
# interpolation steps
steps=1
# delay between frames
delay=200

[tmp]
continuum=transition(range(-shift,shift);steps)
cropped=autocrop2(continuum;cropFactor)
contrast_adjusted=auto_contrast(cropped;gamma)
text_added=draw_text(contrast_adjusted; 200; 2900; "Shift from Hα: %SHIFT%Å", 72; "FFFFFF")

[outputs]
continuum_anim = anim(text_added;delay)

走らせた結果ですが、以下のようになります。ブログにアップロードできるように、元々出力された3040x3040のmp4ファイルを600x600のgifに落としています。無事に数値が入って、わかりやすくなりました。

step
  • 撮影日: 2025年6月18日7時13分
  • 撮影場所: 富山県富山市自宅
  • 鏡筒: Takahashi FC-76(f600mm、F7.9) 
  • 分光器: SHG700
  • 赤道儀: Celestrn CGEM II
  • カメラ: ToupTek G3M678M
  • 撮影: SharpCap Gain 200 (=6dB)、露光時間1ms、ROI: 3840x100、平均381fps
  • 画像処理: JSol'Ex

これでももう結構十分で、ここでフルサイズの画像をアップしてもいいのですが、追加でもう一つ手法を紹介します。


3. もっと簡単な全画面ドップラーシフトのアニメ化の方法

Image Mathをある程度見てみて、上の動画まで完成させた後に、もっとはるかに簡単に全景画像を作る方法があることを知りました。悔しいですが、紹介しておきます。

処理したいserファイルを、Quick modeで一度処理します。出てきた画像の上で、コントロールキーを押しながら左クリックで処理したい部分を選択します。そして右クリックして「Create animation or panel」を選択します。

anime_select

すると次のような設定画面が出るので適当に設定して「Generate」ボタンを押します。
anime_setting

時間がかかりますが、処理が終わると以下のような画像と動画ができます。
07_13_53-trimmed_0000_07_13_53-trimmed_custom-panel_cut

out

上の動画はブログ用に縮小しています。フルサイズの動画はここにおいておきました。どうもショート動画になってしまうようですが、かなりの解像度なのでぜひ全画面化や、さらに拡大して見てみてください。

この領域選択はどこでもできます。最初からこんな大きな全景範囲で処理すると大変なので、まずは小さなサイズで試してみるといいと思います。例えばプロミネンスなどです。

out

この便利な機能、マニュアルにも記述がないみたいです。


まとめ

今回は3通りの全画面の連続波長ずらしのアニメ化の方法を示しました。本当は2つ目までだったのですが、一旦2つ目までの記事をほとんど書き終えてから3つ目の画像の一部選択の方法があることを知りました。まさか全画面ではできないかと思っていたら、あまりに簡単にできてしまったので、悔しかったですが紹介することにしました。でもまあ、Image Mathの使い方がわかったからよしとしましょう。

次の記事はこのドップラーシフトの全景画像を使って、色々議論したいと思っています。


前回から始めたSHG700の応用編


第1回目は波長を大きくずらし太陽表面をさまざまな輝線で見てみました。今回はHα周りで波長をずらしたらどうなるかを見てみます。といっても、これもJSol’Exの標準機能なので、応用というにはまだ物足りないかもしれませんが、それでもこれまであまり見たことのないものかと思います。


ドップラーシフトを連続で見る

まず処理したいserファイルを改めて開きます。バッチモードでなく、単体のファイルを開きます。今回はフルモード、もしくはカスタムモードで全選択して処理を進めます。処理が済んだら、次に画面右の横向きになっているタブのうち「Doppler shift」を押すと次のような画面になります。

redshift_cut

「Box size」は見たい領域で、デフォルトが256x256ですが、出来上がり画像としてはちょっと狭いので512x512くらいがいいかと思います。

ここで選ぶレッドシフトのAからEの領域ですが、これは解析した画像の「redshift」フォルダの中に入っている画像を見ると、ドップラーシフトがあった場所に四角いマーカーが追加されていて、AからEくらいまでのアルファベットで区別されているのがわかります。
07_13_53-trimmed_0000_07_13_53-trimmed_redshift_0_00_brighter
全部選ぶとかなりの処理量になるので、今回は形が面白そうな真ん中近くのBを選んでみました。

ちなみに、最初全部選んで16GBメモリのWindows Surface8で処理したら、メモリ不足で止まってしまい最後まで辿り着けませんでした。そのため、Bを一つだけ選んで、しかもJSol‘ExのARM Mac版をダウンロードし、32GBのメモリを積んでいるM1 Macで処理することにしました。普段太陽用に使っているWindowsのSurface 8より、普通の処理でさえも相当速いことがわかったので、今後重い処理はMacの方が楽そうです。

「Pixex shift margin」は余分にどれだけ見るかみたいですが、とりあえずデフォルトの2でいいでしょう。あとは「Type」で静止画と動画の両方を選び、「Annotate animations」をチェックし数字を波長などの画像内に埋め込みます。「Use full range in panels」もオンでいいでしょう。オフだとプラス側だけの波長になりますが、オンにするとプラスとマイナス両側の波長が処理され、速度が正と負でどう画像に違いが出るかがよくわかります。これで画面下の「Generate」ボタンを押して処理を進めます。かなりの時間がかかるので放っておきましょう。

全部の処理が済むと、今回ずらした全ての波長をパネル城に並べた1枚の画像と、連続表示した動画ができます。静止画の中の各画像に数値が入っていますが、これがどれくらい波長をずらしたかと、それに対応した速度差になります。
07_13_53-trimmed_0000_07_13_53-trimmed_redshift-B

「Profile」タブで見ると、私の機材だとHα線周りでは0.091Å/pixelになることがわかっていて、 このことから1枚1枚が、1ピクセルずらした処理に相当していることがわかります。
スクリーンショット 2025-07-05 101928

同時に出力される動画はmp4形式です。ここではブログに載せやすいように、以下のようにffmpegでgif形式に変換しました。

ffmpeg -i sample_redshift-B.mp4 -filter_complex "[0:v] fps=10,scale=480:-1,split [a][b];[a] palettegen [p];[b][p] paletteuse" output.gif

動画はすごいですよ。

output-palette

波長がズレると見える模様と見えない模様があることがわかります。これは地球から見た時のHαからの速度ずれが起こっていて、ドップラーシフトを起こした結果だと考えているわけです。

ところでこの動画、どうやらその上で示した静止画の1枚1枚をそのまま繋げているだけではなくて、滑らかに見せるために、隣同士の画像の間の画像を補完して動画化しているようです。その証拠に、中心波長の次が0.02Åとかのあり得ないくらい細かい値になっています。近くの2枚の画像の比率を変えてブレンドしたりしているのかと推測します。中間的な波長は真の波長シフトとは違うかもしれませんが、波長の間をシフトさせて見たい時にはこの手法は使えるのかもしれません。


一つの疑問

ここで一つ疑問が湧きます。そもそも、例えばこのgifアニメに写っている、前半と後半で見え方かが変わってくる例えば真ん中の黒い模様は、元々はHαの波長のみで存在しているものなのでしょうか?それとも、Hαの吸収線で周りの波長からの光が暗くなるから、Hα吸収線の底の部分が見えてくるだけで、そこで見えているものは他の波長も暗くできるなら他の波長でも見えるものなのでしょうか?

もしこのドップラーシフト画像が正しいなら、元々はHα線を中心にHα線のみに存在する輝線で、その上や下の波長では見え方が違っていて、地球から見た速度に差があるからHαからズレた波長でも見えているということになります。

その一方、例えばプロミネンスはこれまでHα線のみで見えると思い込んでいましたが、CaKで見た時も同様の形が見えることを今回初めて知りました。Hαで見えてCaKでも見えるのなら、他の波長にも存在していると考えて不思議はなさそうです。そうするとドップラーシフトで見え方が変わるということと矛盾してしまう気がします。

暗線なのか輝線なのかという問題になるのかと思います。まだ自分の中で結論が出ていないので、今後もう少し検討したいと思います。


まとめ

ドップラーシフトがある領域を、波長をずらして見てみました。かなり面白いのですが、これでもJSol'Exの標準機能の一つにすぎません。さらにImage Mathと呼ばれるスクリプトを使うと、もっと色々なことができるようで、どんどん応用になっていきます。これらの件、今後もう少し突っ込んで進めてみたいと思います。


非常に有益な情報が!

昨日の太陽撮影の記事に、hasyamaさんという方から早速有用なコメントをいただきました。どうやら黒点から伸びるあの謎の線は、ガスの噴出現象とのことです。

09_33_03_lapl2_ap1826_IP_cut

上昇方向で地球方向に向かってくるガスだとすると、ドップラーシフトで波長が青側に移るために、エタロンを波長が短くなる方向に回転すると、このようガスが見えることがあるということです。逆に、下降方向などで地球から遠ざかる向きの場合は赤側にシフトするとのことです。

コメントにはFacebookへのリンクも書かれていて、以前にも同様のものが波長がずれたLUNTで撮影されたとのことです。その投稿によると、やはりこのガスの噴出はそこそこ珍しいもので、あまり頻繁に撮影されているものではないようです。

今回は実際に何をみているのか、矛盾点はないかなど、自分なりに評価してみました。新たに疑問点が出たりしていますが、ある程度納得できたので記事にしておきます。


そもそもHαで何を見ているのか?

でもそもそも、なぜガスがHαで見えるのか、理由がまだよくわかっていません。光球面は納得できます。Hαに吸収線があり、Hαの653.6nmに合わせたエタロンでそこだけ透過させると、他の波長の明るい部分を除外することができ(吸収されながらも残った)Hα固有の光で作られる模様を見ることができます。要するに、吸収された光なのでHα部分は周りの波長より暗いということです。その一方、例えば彩層面からはるかに高いところまで写る派手なコロナまで含む30.4nmや19.3nmの光は、吸収線ではなく輝線です。すなわち周りの波長より明るいということです。

Hα領域の光は太陽表面に出てくるまでに吸収されるので、プロミネンスや噴出するガスも同様にHαに吸収線を持っていることは容易に想像がつきます。でも上で書いたように、Hα領域は周りの波長より暗いので、他の波長では明るく光っていることになります。光球面上は明るすぎるので、その明るさをエタロン除いてやるとHαがよく見えるようになるのはわかります。でもプロミネンスを見ている太陽の縁のところの背景は、光球面よりはるかに暗く、それに比べてHα以外の波長で明るいはずのプロミネンスが、エタロンの調整角をHαからずらしたら見えなくなるのかが、まだ理解できていません。

私の太陽の知識はせいぜいこれくらいです。まずはこの疑問を解決したいです。


波長のずれを見積もってみよう

とりあえず上の疑問は疑問として置いておくとして、その上で今回見えたガスも、プロミネンスと同様に元々はHαのみで見えるものなのでしょう。仮にそうだとして、エタロンで光球麺を見た時、狭い透過波長のみで見ることになるので、その周りの波長は暗く見えて、その結果ガスも見えることになるのかと思います。

この仮定の元、今回Hαからずらしたエタロンで見えたガスがドップラーシフトによるものだとして、ガスの速度から計算できる波長のズレと、エタロンの調整角から推定できる波長のズレが、一致するのか、それとも全然おかしいのか、簡単に評価してみたいと思います。

まずガスの速度からの見積もりです。
  1. ガスの長さは太陽直径の100分の1よりは大きくて、10分の1には届いていないくらいですが、ざっくり1/10とします。
  2. 太陽の直径はざっくり地球が100個並ぶくらいで、地球の直径はざっくり1万kmとすると、100万kmのオーダーです。
  3. なのでガスの長さはざっくり10万kmとします。
  4. ガスが伸びる時間は1分よりは長くて1時間よりは短いと思うので、とりあえず1000秒としましょう。
  5. そうするとガスの速度は10万km / 1000秒 = 100km/秒程度となります。
  6. 光の速度は30万km/秒で、それが100km/秒程度ぶん圧縮されるとすると、ドップラー効果で波長も同様の比率100/300000 = 1/3000くらいで短くなるので、653.6nmは0.2nm程度短くなります。

次にエタロンの回転で変わる波長です。
  1. PSTのエタロンの透過波長性能は、1Å = 0.1nm程度です。
  2. エタロンは半回転くらいしかしませんが、半回転の4分の1くらい回すと見えているHα領域がほとんど見えないくらいになります。ということは8分の1回転で変化する波長が1Å程度と考えてオーダー的にはおかしくないでしょう。
  3. 今回エタロンは波長の長い側か短い側かはわかりませんが、完全に端に回し切ったところにに行っていました。ということは、真ん中がHαに合っているとして、半回転のうちのさらに半分回っていたことになるので、4分の1回転回っていたことになります。
  4. 1/8回転で1Å = 0.1nmなので、4分の1回転回っていたとすると、エタロンでは2Åぶん、すなわち0.2nm程度Hαから波長がズレていたことになります。

おおっ!!

ものすごいラフなオーダー計算ですが、ものの見事に0.2nmで、両者ドップラー効果の波長のズレとエタロンの波長のズレが一致しました。多少のファクターのズレはありますが、少なくともオーダー的にはドップラー効果でHαからズレたガスを見ていたと結論づけておかしくなさそうです。


以前の撮影でもジェットが!

そういえば、以前もジェットのようなものを見たと報告したことがあるのを思い出しました。


この時はHαで見ていたはずですが、真横に出ているので地球方向に向かう速度成分はほとんどなかったのかもしれません。また、ジェットが数分で伸びていると書いてあるので、もしかしたらジェットの速度は今回見積もったものよりもかなり速いのかもしれません。ただし、それに地球方向の速度成分をかける必要があるので、それでもオーダー的にはそこまで間違っていないかと思います。


プロミネンスでも波長のずれは起こる?

ところで、プロミネンスもタイムラブスで見ると非常に高速に動いていることがわかります。下の動画は以前撮影したものですが、わずか19分間でこれだけ動いています。
Blink

プロミネンスの移動速度もそこそこ出ているはずで、地球に向かう速度成分も多少はあるとすると、エタロンを回転して調整する時に、いつも光球面とプロミネンス部でエタロンの最適位置が合わないように思えるのは、もしかしたらこちらもドップラーシフトが起こっているからなのでしょうか?


まとめ

簡単なオーダー見積もりでしたが、少なくともドップラー効果で波長がズレたものが見えていたようだということは納得しました。

でもまだなぜプロミネンスやガスがHαだけでよく見えるのかは納得できていません。どこかにいい説明はないのでしょうか?

でもこうやって、自分で撮影した謎の現象が理解できているというのは、とても面白いです。天文趣味の醍醐味の一つなのかと思います。






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