前回の「太陽分光SHG700始動(その3): 連続分光撮影」に引き続き、太陽分光撮影シリーズの4回目です。


今回は撮影したserファイルを処理する太陽全景画像再構築ソフトの説明をします。


JSol'Ex

撮影した.serファイルから太陽全景画像を再構築するソフトはIntispecINTISpectroheliograph reconstruction softwareJSol'Exなどがあるようですが、MLastroではJSol'Exが勧められているので、ここではJSol'Exを使ってみます。


JSol'Exの日本語での解説記事はほとんどないみたいなので、いろいろと試してみました。

ダウンロードしたらインストールしますが、インストール先がデフォルトでは自分のユーザーディレクトリの中の隠しフォルダのAppsData以下になるようなので、実行ファイルがどこにあるかなど戸惑うことがあるかもしれません。私は天文関連のアプリはショートカットをデスクトップに置いているので、実行ファイルを探すのにちょっと苦労しました。ちなみにショートカットは、エクスプローラー上で実行ファイルを選択して、シフトキーとコントロールキーを同時に押しながら、デスクトップに放り込めばできますね。


serファイルからの簡易画像生成

JSol'Exを立ち上げて、まずは手持ち機器の登録をしましょう。メニューの「Equipment」の「Spectrograph editor」で分光器を登録します。Sol'ExやSHGはバージョンごとにわかれてあらかじめ登録されているので、通常は特に変更の必要はないです。もしカスタムなどしている場合はここで設定するといいでしょう。

もう一つ、メニューの「Equipment」の「Setup editor」で鏡筒とカメラを登録します。「Latitude」と「Longitude」は設定しなくていいみたいなので、私は空白にしています。
スクリーンショット 2025-06-24 215035


処理を開始するために、serファイルを読み込みます。メニューの「file」から単体のserファイルなら「Ooen ser file」、複数のserファイルをまとめて処理したいなら「Batch mode」になります。

スクリーンショット 2025-06-24 145332

簡単には出てきた画面で、下の「Quick mode」ボタンを押せば簡易処理になり、全景を再構築した画像と、それをオートストレッチした画像のみが保存されます。
スクリーンショット 2025-06-24 205206


カスタム出力設定

高機能なJSol’Exを活用するために、きちんと設定して出力画像の種類を増やしましょう。

まずは先ほど設定した、自分の機器を選択します。上記画面の「Observatoin details」を選択し、Instrumentで「MLAstro SHG700」を、Telescopeで自分の機器、ここでは先ほど設定した自分の「FC-76」を選択します。
スクリーンショット 2025-06-24 215918


保存する画像のフォーマットは「Miscellaneous 」で必要なフォーマットにチェックを入れます。あとでスタックとかする場合はfitsやtifなどのRAWフォーマットにしておいたほうがいいかと思います。画像アップ用でJPEGやPNGを一緒に選択しておいてもいいかもしれません。

保存フォルダの形式を、同じく「Miscellaneous 」で「Batch」にしておくといいでしょう。あとでスタックする場合には、複数serファイルからできた同じ種類の画像がまとまって一つのフォルダに入ります。

スクリーンショット 2025-06-24 145715

ここからがJSol'Exの真骨頂になります。serファイルを開いて設定などした後に、まずは右下の「Full process」を押してみましょう。時間は余分にかかりますが、いろんな種類の画像が生成されます。

でもこの「Full」だと一部されない画像もあるので、「Custum process」を押して、さらに「Select all」にしたほうがいいかもしれません。これにすると、波長を少しずらした(デフォルトだと-3,0,3,15pixel)画像も合わせて生成されます。
スクリーンショット 2025-06-24 205325

波長の違いは見てるだけでも楽しいので、ぜひ試してみてください。波長をどれだけずらすかは、自分で設定できます。画面内の数値を適当に変えたり、増やしたりしてみてください。


出力される画像例

どんなファイルが生成されるのか見ていきましょう。以下に示す保存される場所は、File name patternを「Batch mode」で保存した場合になります。

まず基本はdiskフォルダとautostretchフォルダの中にある、再構築された全景です。diskの中は単に再構築しただけのRAWに近いもの、autostretchはそれをストレッチしたものです。ここではストレッチされたものを示します。
07_13_53_0000_07_13_53_autostretch_0_00

これらのフォルダには上記のHαの中心波長のみでなく、そこからずれた波長の画像も保存されています。例えば+/-3pixelずれたものです。波長への換算はざっくり0.1Å/pixelなので、それぞれ-0.3Åと+0.3Å程度ずれた画像になります。
07_13_53_0000_07_13_53_autostretch_3_00

07_13_53_0000_07_13_53_autostretch_-3_00

高々0.3Åのずれですが、中心波長画像と比べると見た目でかなり変わっていることがわかります。まず、中心波長の方が全体的に渦のような縞々が少ないように見えます。わたしはこれまでこの縞々がHα線で見る時の真骨頂かもしれないとずっと思っていたのですが、どうも本当の中心はもっとのっぺりしているのかもしれません。その代わりに、中心はちょうでは白いもやみたいなものが全体に見えます。これがなんなのか?ちょと興味があります。

他にも15pixel = 1.5Åだけ中心波長から離れた画像も保存されます。これだけズレるとほとんど白色光に近い画像になり、黒点がよく見えるようになります。
07_13_53_0000_07_13_53_autostretch_-15_00

どれだけずらすかは自分で設定することができます。先ほどのCustum processで数字で指定してある部分です。

cardフォルダの中には黒点番号、緯度経度と自転軸の傾きが書き込また画像が保存されています。太陽の自転軸は、地球の公転面に対して約7度傾いています。この画像にある自転軸は地球から見たときの見かけの自転軸です。地球は太陽の周りをまわっているので、太陽の自転軸の「地球から見たときの見かけの」傾き角は、季節によって変化します。
07_13_53_0000_07_13_53_card_0_00

このサイトで見かけの自転軸の傾き角を計算することができます。2025/6/17 22:13:53(UTC)だと-8.44度と計算されるので、画像に表示されている角度と同じですね。ちなみに、地球の自転軸の傾きもあるので、見かけの傾きは7度以上になることがあるので、今回の-8.44度は間違ってないです。

diskフォルダの中にあった、+/-3ピクセルずらした画像から、ドップラーシフト画像を生成することができます。dopplerフォルダの中に入っています。
07_13_53_0000_07_13_53_doppler

上記のような画像は任意のずれから画像を生成することもできるので、色々試してみると面白いでしょう。

実はドップラーシフト画像で気づいたのですが、最初に試した時に赤と青が反転してしまいました。本来は上の画像のように、左側が奥から手前に回転し、右側が手前から奥に回転するので、左は波長が縮んで青の短い側にに、右は波長が伸びて赤の長い側なるような色を付けるのが正しいです。なぜ色が反転したのか、探っていくとJSol'Exでserファイルを開いた時の「Process parameters」で色を入れ替えたり、上下や左右のフリップを指定できることがわかりました。
スクリーンショット 2025-06-24 205206
スクリーンショット 2025-06-24 145523

でも色を入れ替えるだけだとなぜか画像も左右反転してしまったので、左右フリップもオンにしてやっと正しいと思われる色と向きになりました。ちょっとややこしいので、一度自分で試すといいでしょう。画像の上下左右は、黒点が出ているならcardフォルダの緯度経度が書いてある画像に黒点番号も書き込まれているので、この番号の位置が黒点の位置とあっているかどうかも確かめることができます。

doppler-eclipseフォルダには、プロミネンス部分を強調してドップラーシフトでどちら向きに進んでいるかわかる画像も含まれています。
07_13_53_0000_07_13_53_doppler-eclipse

太陽表面及びプロミネンスのドップラーシフトはいつか求めてみたいとずっと思っていました。というか、このドップラーシフトを試したくて今回のSHG700に手を出したと言っても過言ではありません。以前Phoenixで波長をシフトさせて自転のドップラーシフトが見えないか考えたのですが、波長分解の敵にちょっと厳しいと判断しました。今回のような波長分解能のいい分光撮影で、やっと実現したことになります。でも0.3Åの波長シフトで十分見えるのなら、今考えるとPhoenixでも見える気がします。画像は残っているので、今度見直してみようと思います。

他にも、colorizedフォルダには自動的にカラー化された画像も保存されたりしています。
07_13_53_0000_07_13_53_colorized_0_00


さらなる画像生成

上の画像はほぼデフォルトで出力されるものの一部です。ほかにも紹介しきれないマイナーが画像もありますし、設定を変更できるのでさらにパラメーター違いの画像を各種出力できます。

でもそれでもここまでは「Simple」というモードに過ぎず、serファイル選択後に「Custom process」を押し、「Mode」で「ImageMath」を選ぶと、スクリプト形式でどんな出力にするかを指定して、画像を演算などすることで一連の画像を出力することもできます。

説明はここにありますが、さすがにこのページの説明の範囲を超えてくるので、興味がある方は各自で試してみてください。

マニュアルは簡易版がここ


詳しいものがここにあります。


他にも波長を変えた際の画像のアニメ化ができるみたいです。serファイルを処理終了後、右上画面の横タブの「Redshift」を選びます。
スクリーンショット 2025-06-24 213843

でも、一度試したのですがメモリ不足で止まってしまいました。そのうち、もう少し余裕のあるPCで試してみようと思います。ちなみに、serファイル処理後は上記のように画像が表示されていて、画像上のボタンやスライドなどでこの状態で設定を変えることができます。変えた設定は保存画像を変更するので、次の処理をするまではあらわに保存せずとも自動的に更新が保存されます。


画像以外の解析など

JSol'Exには.serファイルからの画像出力だけでなく、他にも便利な機能がいくつかあります。一つはフラウンホーファー線のリファレンス機能です。これまでHαで撮影してますが、それでも一番最初はどの輝線がどの波長を表しているのか、画像からだけだと全くよくわかりません。それでもHα線はメジャーなので、他の人が撮影した画像と比較とかして特定できるかもしれませんが、他の画像、例えば太陽撮影で次にメジャーなCaK線は一気に比較画像を探すのが難しくなります。そんな時に「Spectrograph editor」を使うと、自分で撮影した画像と比較することができます。メニューの「Tools」->「Spectrograph editor」を選んで、出てきた画面で見たい輝線を選択します。自分で撮影した画像を並べて、画面内の+/-で幅を揃えて同じような模様を探します。今回自分のセットアップで撮影した場合、上下幅が18nmに相当することも、輝線を探すときの手がかりになりました。

ちなみに、画像をロードしてJSol'Ex内で比較することもできるようなのですが、まだ実験レベルの実装らしくていまだにやり方がわからず、私は下のように画面を横並べにして比較しています。
スクリーンショット 2025-06-18 151746

吸収線をグラフ化してリファレンスと比較する機能もあります。serファイルを処理終了後、右上画面の横タブの「Profile」を選びます。
スクリーンショット 2025-06-24 204301_cut


このグラフを見ると、1点がスキャン1回ぶんになっているようで、グラフから読み取ると0.118Å/pixelのようです。光学的な波長分解能は0.18Å/pixelと計算できているのですが、実効的にはどの程度かはもう少し考えて判断したいと思います。


さらなる情報

JSol'Exは相当高機能なソフトです。今回紹介した機能はわかりやすいものばかりで、まだ複雑な機能は私も全然使い切れていません。ImageMathの所でも紹介しましたが、マニュアルは詳しいものが用意されているので、とりあえずはそれを読むことかと思います。

簡易版


詳細版



このページにチュートリアルビデオがたくさんありますが、問題は言語で、英語のものがわずか3本、あとは全部フランス語です。私はフランス語はよくわからないので見るだけですが、それでもいくつかのファイルは参考になります。




まとめ

JSol'Exはすごい高機能ですね。とにかく、ドップラーシフトがこうも簡単に出てくるのは期待以上でした。元々は自分でソフトを書かなくてはと思っていたくらいなので、ちょっと拍子抜けしたくらいです。いつかみたジェットを、今度は分光撮影してみたいです。多分波長のシフトとなって出てくると思っています。

こういったソフトが出てくるのも、Sol‘Exで文化を切り開いてくれたおかげでしょう。今後もありがたく使わせていただきたいと思います。