これまでフェニックスの大口径化で見たコリメートレンズの収差が、一体どれくらいのものなのか、少し検討しておきたいと思います。


セットアップ

接続する鏡筒で試したのは3種類で

  A. 口径10cm、焦点距離1000mm、F10
  B. 口径8cm、焦点距離400mm、 F5
  C. 口径12cm、焦点距離900mm、 F7.5

となります。

試したコリメートレンズは2種類で、いずれも焦点距離は-200mmです。
  1. アマゾンで購入した凹凹単レンズ、焦点距離は-200mm、直径50mm
  2. PSTのエタロン前部についていたレンズで、焦点距離は-200mmと言われている、有効直径は実測で23mm
焦点距離-200mmのコリメートレンズでエタロンに入れる平行光を作ると考えると、各鏡筒の焦点距離から200mmを引いたところにコリメートレンズを置くべきで、その場合のコリメートレンズ位置でのビームの直径は
  • Aでは20mm
  • Bでは40mm
  • Cでは12cm x 200mm / 900mm = 26.7mm
となります。


レンズ径の影響

まず簡単なところで、ビーム径を考えます。基本的には径が大きくなればなるほど急速に収差の影響が大きくなります。今回考えるべきはHα単色なので、色収差は関係なしとします。収差の影響は
  • 一番関係のある球面収差はレンズ径の3乗に比例
  • 波面収差(収差全体)ではレンズ径の4乗に比例
なのですが、ここでは主に球面収差を考えるとして、今回は径の3乗に比例と考えることにします。径はレンズ径と書きましたが、ビーム径がレンズ径よりも小さければ、ビーム径で収差が決まります。

例えばレンズ径を全て使うとしたら、レンズ1とレンズ2で比較すると、(50mm / 26mm)^3 = 7.1倍もAmazonで買ったレンズの方が収差が大きいです。

Amazonで見つけた直径50mmの単レンズの代わりに、有効直径23mmのPSTのレンズを使ったので
  • B-1: 一番収差が大きかったBの鏡筒に1のレンズをつけたB-1の場合、ビーム径が主要因になり、直径40mmになります。この時の収差を1とします。
  • B-2: レンズをPSTのものに変えた、B-2ではレンズ直径23mmで決まり、(23mm /40mm)^3 = 0.19倍なので、これだけで収差は約5分の1になります。
  • A-1: 時系列的に一番最初に試したA-1では、(20mm / 40mm)^3 = 0.125倍なので8分の1になります。
  • A-2: PSTレンズに変えたA-2では20mm制限は変わらないので、(20mm /40mm)^3 = 0.125倍で同じ8分の1になります。
  • C-1: TSA-120にアマゾンレンズのC-1では、(27mm /40mm)^3 = 0.31倍なので約3分の1になります。
  • C-2: TSA-120にPSTレンズのC-2では、(23mm / 40mm)^3 = 0.19倍なので約5分の1になります。


どれくらい改善したらいいのか?

径を小さくするだけでも、改善があることはわかります。でも、一体どれくらい改善したら、どれくらい見え方が変わるのかがわからないと、どこまで改善したらいいかの見当がつきません。ざっくりでもいいので、何か目安にならないか考えてみました。

収差の絶対値は結局よくわからないので、相対的な差で収差が何分の1くらいになれば、見え方はどう改善されるかというのがわかればいいのかと思います。また、収差と実際に見る像との「関係」が何かの方法でわかれば、今後収差を何分の1くらいに改善したらいいかなどがわかるのかと思います。

収差は、波長λに対してどれくらいの大きさかを目安にすると、わかりやすそうです。かなりざっくりですが、
  • 0.5λ かなりボケる
  • 0.25λ ピントは合うが眠い
  • 0.15λ 使えるが細部が甘い
  • 0.07λ かなりシャープ
  • 0.03λ ほぼ理想に近い
というのが波長を基準に、どれくらいの収差がある時に、見え味がどうなるかという関係と言えるとのことです。波長の絶対値はもしかしたら間違っているかもしれないのですが、ここで重要なのは、収差が相対的に10倍強も変わると、理想的なところから相当悪いところまで、見方が全然変わるということです。

  • 例えば、収差が大きいと思われるA-1は、見た目がもうボケボケで、ほぼ何も見えないような壊滅状態でした。
スクリーンショット 2026-05-05 100244
口径8cm+アマゾンレンズで、最もピントを合わせた時です。ボケボケです。

  • これが、PSTのレンズ径の23mmで絞られた場合には、径だけの改善でも収差は5分の1になっているはずなので、かなりよく見えるようになってもおかしくないと思います。実際に劇的に改善したのが (その2) での結果でした。
スクリーンショット 2026-05-05 111938

  • その後、口径10cmに変えたときには、ビーム径が20mmに絞られるので、収差は最初から比べて8分の1になり、すぐ上の5分の1からもう少し改善されたはずです。
スクリーンショット 2026-05-05 115822

  • この後、PSTレンズのまま口径120mmのTSA-120に変えてビーム径は約27mmになったので、結局レンズ径の23mmで決まり、径による収差は1/8から1/5になり少し悪化したはずです。結果的には口径8cmにPSTレンズを使った時と同じ程度になっているはずです。でもこの状態で撮影すると、TSA-120 + PSTレンズでもう口径限界と思われるくらいまで分解能が出ました。なので、もう直径20mmとか23mmのレベルでは、径による収差の違いはほとんど効いていなくて、十分収差は抑えられていると言っていいでしょう。
  • もしこのときにTSA-120のままPSTレンズを50mmレンズに戻したとしても、ビーム径は26mmにしかならないので、収差は1.5倍強程度しか悪化しなかったと思われます。このことについては、その後5月16日に確かめていて、下の画像のようになりました。径の違いだけで収差が1.5倍程度増加しているはずですが、レンズの種類自体も変わっていてその分の収差の違いが含まれていることに注意です。
スクリーンショット 2026-05-16 134535_Amazonlens_best


アイリスでビーム径を絞る

上の最後の2つの比較で出た違いをもう少し探るために、ビーム径を絞るためのアイリスを発注しました。上の状態でアイリスを挿入し、ビーム径を順次絞っていきます。もし上の悪化がビーム系だけからきているのなら、アイリスでビーム径を23mm程度に絞れば、2枚上と同程度まで改善されるはずです。結果はというと、改善はほとんど見られませんでした。

一応確認のために、さらにアイリスで絞っていきます。もし収差がビーム径リミットなら像は改善されていくはずですが、むしろどんどん悪化していき、見た目でかなりボケるようになってきました。これはエタロンにある中央遮蔽が効いてくるものと思われます。エタロンの中央遮蔽は1cm程度なので、アイリスで絞った径が直径1cmに近くなると、かなり暗くなって像はボケボケになってしまいます。

ちょっと脱線ですが、中央遮蔽は当然光を遮ってしまい、像が暗くなります。今回の場合、PSTのレンズ径が23mmなので、エタロンの直径を10mmとすると、(10mm / 23mm)^2 = 0.189と面積で2割ほど塞いでいることになります。まあ、このくらいならば影響はあまりなさそうなので、とりあえず問題ないのかもしれません。

レンズの種類による収差の違い

ここまでの結果から、少なくともアマゾンレンズとPSTレンズでビームを同じ径にしても、アマゾンレンズの方が収差が大きいように見えるので、ビーム径だけでは説明できない何か違いがあることがわかりました。比較したレンズは同じ単レンズですが、そもそも種類が違うので、これを検討してみます。

今回比較した2つのレンズは同じ単レンズですが、
  1. 凹凹の焦点距離-200mmの単レンズ
  2. 凹凸の焦点距離-200mmの「メニスカス」の単レンズ
になります。最初PSTレンズを見たときは単なる単レンズだと思っていて気づかなかったのですが、改めてPSTレンズをよく見てみると、対物側が凸で接眼側が凹のメニスカスレンズだということに気づきました。

メニスカスレンズの方が収差が半分から最大で5分の1程度になるそうです。ここでは典型的に3分の1程度になると考えます。収差が10分の1になると、ボケボケから理想的になるということから、3分の1という量は明らかに無視できない改善幅になります。これが、ビーム径では説明できなかった改善分です。

ここまででざっくりですが、収差の原因の切り分けがある程度できてきたのかと思います。


どんなコリメートレンズがいいのか?

せっかくなので、どのようなコリメートレンズを使えばいいのかを、少しだけ検討しておきます。

  • 例えば、焦点距離-100mmのレンズを使えば、接続する鏡筒の対物レンズ側へ近づける距離が短くなり、楽になります。
ここで重要なのは、コリメートレンズの焦点距離でどれくらい収差が変わるかです。基本的には、焦点距離が短くなるほど、焦点距離の3乗で収差が悪化すると考えることができます。今の-200mmのレンズを-100mmにした場合は、(200mm / 100mm)^3 = 8倍も悪くなります。10倍程度の違いで理想状態とボケボケで変わるとしたら、これは全く無視できない大きな違いになります。

  • では逆に焦点距離-400mmのレンズを使った場合はどうでしょうか?
収差は(200mm/400mm)^3 = 0.125倍で、8分の1になります。これはかなりいいことがわかりますが、「接続鏡筒の焦点位置から400mmも対物レンズ側にコリメートレンズを近づける」というのは結構大変で、鏡筒を切るとか、鏡筒に穴を開けるとか、筒は使わずに対物レンズだけ使い支持棒などで対物レンズとコリメートレンズを固定するなどの、かなり特殊な工夫が必要になります。

こう考えると、PSTが-200mmのメニスカスのコリメートレンズを選んだというのは、かなり考えた結果だということがよくわかります。これまでのTSA-120mmで分解能が十分出たという結果から、-200mmならば焦点距離的には十分収差が抑えられているということがわかるので、それ以上無理に焦点距離を負側に伸ばすことをしなくていいこともわかります。

問題は、-200mm程度の負の焦点距離のメニスカスレンズが簡単に手に入らないことです。負側の焦点距離のメニスカスレンズは、あるにはあるのですが種類がほとんどなく、特に長焦点はほとんど見つかりません。

一つの方法は、望遠鏡用のアクロマートレンズを分解して使うことです。望遠鏡用のアクロマートレンズは負の焦点距離のメニスカスレンズと両凸レンズを組み合わせて作ってあり、うまく探すと適した焦点距離のメニスカスレンズが見つかる可能性があります。

試しに手持ちの使っていないアクロマートレンズを分解して、ちょうど-200mmに合うようなものがないか探してみました。凹レンズの焦点距離を見ただけでどう判断すればいいのか、あまり経験がないのでわからないのですが、見つかったものはいずれも-200mmのPSTレンズよりはキツめに(像がより小さく)見えたので、-100mmとかもっと焦点距離が短いものかと思われます。実際にフェニックスの手前に置いて太陽を見てみましたが、いずれも調整の範囲内でピントが出るものは見つかりませんでした。

何か他にいいアイデアはないかというと、もし-200mmのアクロマートレンズが手に入れば、色収差だけでなく球面収差もある程度小さいと思われるので、おそらく代用できるでしょう。でもなかなか既製品では見つからないのと、特注を受け付けてくれるところもありますが、それだとどうしても高価になってしまいます。

もう一つのアイデアは、負の焦点距離のレンズと正の焦点距離のレンズを組み合わせて、合成焦点距離が-200mmになるようにすることです。例えば、
  1. -200mmの単レンズ1枚の場合
  2. -400mm単レンズ2枚で、ピッタリレンズをくっつけて、合成焦点距離−200mmにした場合
を比較してみます。2の2枚レンズの場合、まず焦点距離分で(200mm/400mm)^3 = 0.125倍だけ収差が改善され、これが2枚重なるので収差は0.25倍で、トータルで4分の1の収差になります。これは凹凹レンズからメニスカスレンズに変えた時と同じくらいの改善率になります。

いずれにせよ、いいコリメートレンズを見つけることが、フェニックス大口径化のキーとなると言っていいでしょう。


レンズ間距離の調整

さらにTSA-120で確かめたとき、フェニックス(に付けてあるコリメートレンズ)をTSA-120により近づけたときに、収差が良くなって見えたのですが、これを少し考えてみます。

  1. TSA-120の焦点距離900mmの対物レンズに直径23mmのPSTコリメートレンズが近づくということは、対物レンズに当たるビーム径がどんどん大きくなっていくということです。
  2. レンズ間距離がデフォルトの700mmから690mm、680mmと短くすると、ビーム径は26mm、27mm、28mmとざっくり1mmづつ大きくなっていきます。
  3. レンズ径の制限で23mmに絞られるのは変わらないのですが、26mmが23mmに絞られるのと、28mmが23mmに絞られるのとでは、後者の方が有利になります。
  4. それが3乗で効くので、(26/23)^3=1.445、(27/23)^3=1.618、(28/23)^3=1.804と1:0.893:0.801と2割も収差が改善されます。
実際2cmくらい動かしたので、この2割で目で見てわかるレベルで改善されたというのは、あながちおかしくなさそうな結果です。 少なくとも、定性的には動かす方向と改善の方向は合っていると思われます。

大口径化の(その4)の記事で、銀命堂さんがシミュレーションしてくれて、レンズ間距離が720mm付近でHαが飛び抜けて有利になるところがあるとのことです。このシミュレーションが上と同じようなことを意味しているのか、今のところ不明ですが、もしかしたらこの有利なところをたまたま見ていた結果なのかもしれません。


残った課題

収差については、ある程度のことはわかってきたことと、とりあえずPSTレンズで十分分解能が出るまで行けるということもわかってきたので、大体は解決かと思っています。

今悩んでいるのが、広い範囲で見るとリング状のボケが存在していることです。すでにC8で見ていた時より広い範囲で見えていて、分解能も20cmと12cmの口径差ほど出ていないように見えるので、まあいいと言えばいいのですが、できれば改善したいと思っています。このリング状のボケが、収差からきているのか、エタロンの波長ズレなどからきているのか、何か周辺を遮っているようなものが影響しているのか、まだ切り分けができていないです。切り分けのアイデアは多少あるので、もう少しだけ検証できればと思っています。


まとめ

120mmでは手持ちのものである程度やれることはやったかと思います。多少の課題は残っていますが、これでもう実用とするか、ここから更に大口径化の道を発展させていくのか迷っています。後者はゴールがまだまだ先になるのと、相当大変になることが予想できるので、もしやるならもう少し根本的に方法を考える必要がありそうです。

こういった改造はとても楽しいですが、太陽望遠鏡は危険なことも多分にあるので、安全には十分に気をつけ、あくまで自己責任で楽しむようにしてください。