6月1日の記事で書いたエタロン改善ですが、最後に少し謎が残っていました。
6月5日、平日ですが朝早くから試したところで、2の原因の一部は理由がわかりました。前の記事で推測はしていたのですが、先に答えだけ言ってしまうと、接眼部についているBF(ブロッキングフィルター)と呼ばれている、直径5mmの径の小ささが原因でした。
試したことは、まずは前回のようにカメラをできるだけPSTのアイピース口に対して浅く取り付けて、エタロンとセンサー面の距離を長くとります。具体的な順序は
PST -> BF+アイピース取り付け口 -> アイピース口延長筒(手持ちのVixen製のもの) -> カメラ(G3M678M)
となります。ピントが出るように、C8の主鏡位置移動のつまみを回して合わせます。前回同様に距離が短い場合に比べて画面全体が暗くなるので、再現性はあります。
次に、接続順序を以下のように変更します。
PST -> アイピース口延長筒(PSTに付属していたもの) -> BF+アイピース取り付け口 -> カメラ(G3M678M)
ようするに、エタ論とカメラ間の全体の距離を保ちながら、Vixen製の延長筒を外しBFとカメラセンサー面の相対距離を縮めたわけです。全体長を保つために、BFの手前に別途延長筒を取り付けています。ピントは、C8の調整つまみを回すのではなく、カメラをアイピース口に出し入れすることで調整しています。カメラ位置を変えることでピントが出たなら、そこは全長が同じだった位置ということになります。
視野の大きさや、分解能に見た目の変化はほとんどないですが、明るさだけは倍程度になりました。(見かけの明るさはヒストグラムに応じてオートストレッチしているので同じようになりますが、ヒストグラムの山の位置は変わっているので実際の明るさは変化しています。) これはBFの小径が通る光を制限していたことになり、BFの位置がより焦点近くに移動したために、BFでの光束径が小さくなり、より多くの光が通ることになったのかと思われます。
この結果を踏まえて、BFとセンサー面の距離がある程度短い方が有利ということで、PSTとBFの間に、PST付属のアイピース口延長筒をもう一つ追加 (PSTが2台あるのでもう一台から奪ってきたもの) しました。それでもまだカメラ位置はエタロンから遠い方が良さそうなので、さらにBFとカメラの間にVixen製のアイピース口延長筒を入れたものをデフォルトの設定としました。
1については考察のみしてみます。
8cm鏡筒でエタロン位置の最適化を探った時、エタロンを対物レンズから遠ざけるほど、カメラ位置はPST側に押し込まなければピントが出なかったという経験をしています。
対物レンズの焦点距離をf1、エタロン手前のレンズの焦点距離をf2として、その2枚で得られる合成焦点距離fは、レンズ間の距離をdとすると
と書くことができます。エタロン内部で平行光を作る条件は、f = ♾️なので、
ここで、エタロン位置を対物レンズから遠ざけるということは、dを大きくするということです。これは合成焦点距離が正の無限大でない数になります。言い換えると、平行光にはならずに、光を有限の距離で収束させる合成レンズになるということです。わかりにくい場合は、具体的に数値を入れてみるといいでしょう。最初の式に、f1 = 400と f2 = -200を入れてみると
1/f = -1/400 + d/(400 x 200)
となり、右辺の初項と2項目が等しいとバランスが取れて平行光になります。dは正の数で、増えると2項目が増えて、右辺は正になるので、結局合成焦点距離fも正になり、光を収束することになります。
エタロン後部に置かれた焦点距離 f3 = 200 [mm]のレンズで集光するのですが、エタロンをより後ろに動かすと、もともとあった平行光が、dが伸びたことでより集光された状態になるので、カメラまでの焦点距離がより短くなる方向になります。なので8cm鏡筒で試したように、現実にカメラをPST側により押し込んだときに焦点が合うというのは、正しいと言えそうです。
以上のことを踏まえて、C8で起こったことを考えます。
ここ1週間くらいずっと考えていましたが、いまだに結論は出ていません。
というわけでまだ謎は残りますが、とりあえずこれで撮影してみます。
まずは黒点AR4100、4101周りです。30秒おきに1ms露光で200フレームづつ、合計60枚で約30分間撮影しました。シーイングはあまりよくなく、その中で一番いいものを画像処理しました。画像処理は、ImPPG、PixInsightのSolarToolbox、Photohopなどです。いつものように、モノクロ、カラー化、さらに反転させたものです。それぞれ端の方を少しクロップしています。
その後、タイムラプス映像も作りましたが、高々30分であることと、シーイングが良くない時間が多かったので、結構ボケボケです。参考程度に載せておきます。フレアが最後に収まっていくのと、次のフレアが起こる始めくらいが見えています。
その後、プロミネンスを撮影し、タイムラプス化しました。前回記事の東端9時方向に出ていた大きなものです。カメラの回転角を変えて、長手方向に全体が入るようにしました。30秒おきに1ms露光で200フレームづつ、合計120枚で約1時間撮影しました。最後のffmpegのコマンドだけメモがわりに残しておきます。
前回記事のものを再掲載しますが、やはり分解能の違いは明白で、全景からの切り出しでは細部を出すのは難しいことがわかります。
一度に全体と細部を撮る方法はないのか?口径が大きく、C8程度の焦点距離に、広い面積に渡り精度のいいエタロンを探して取り付け、ピクセルサイズの小さいフルサイズモノクロセンサーを使うとかでしょうか。まあ、技術的にも予算的にも全然無理な気がします。
ここまでの調整の甲斐もあり、G3M678Mで撮影範囲も広がり、かつ分解能も上がっています。その一方、今回の画像を見ても、まだ真ん中と端の方では差があり、これはHαの分解能なのか、収差などでピントがあっていないのかまだわかりませんが(エタロンがかなり無理をした位置に置いてあるので、後者の可能性も高いと思います。)、画角的には欲張りすぎな気がしています。
というわけで、カメラをASI290MMに戻すことを考えています。戻すことは結構利点があって
その一方、ASI290MMに戻すときの問題点がニュートンリングです。G3M678Mでは全く出なくなったニュートンリングですが、ASI290MMではカメラを傾けない限りはまた復活するでしょう。大きな違いはセンサー前の保護ガラスかと思っていて、一度ASI290MMの保護ガラスを外してニュートンリングが出なくなるかどうか見てみようと思います。
結局視野が広がる謎は解けていませんし、さらにまだカメラ位置と画角と分解能の関係は印象だけで検証さえもできていませんが、実用的にはやれることは大体やったので、この時点でカメラをASI290MMに戻すことでほぼ問題ないでしょう。少なくとも以前よりは良い状態で撮影できるようになるはずです。
あとはエタロンそのものを探ることですが、これはさらに大変そうなのと、今の状態でも撮影結果にはそこそこ満足できそうなので、しばらく放っておきます。今後は撮影例を増やしていきたいと思います。
さて、いよいよ次回からは新機材、分光で太陽を撮影する「SHG700」の始動です。多分できることがものすごく増えるので、じっくり取り組もうかと思っています。
- なぜエタロンとカメラの間の距離を長くすると、両像範囲が拡大するのか?
- なぜエタロンとカメラの間の距離を長くすると、画面が暗くなるのか?
- なぜエタロンとカメラの間の距離を長くすると、分解能が良くなったように見えるのは気のせいか?
暗くなる理由
6月5日、平日ですが朝早くから試したところで、2の原因の一部は理由がわかりました。前の記事で推測はしていたのですが、先に答えだけ言ってしまうと、接眼部についているBF(ブロッキングフィルター)と呼ばれている、直径5mmの径の小ささが原因でした。
試したことは、まずは前回のようにカメラをできるだけPSTのアイピース口に対して浅く取り付けて、エタロンとセンサー面の距離を長くとります。具体的な順序は
PST -> BF+アイピース取り付け口 -> アイピース口延長筒(手持ちのVixen製のもの) -> カメラ(G3M678M)
となります。ピントが出るように、C8の主鏡位置移動のつまみを回して合わせます。前回同様に距離が短い場合に比べて画面全体が暗くなるので、再現性はあります。
次に、接続順序を以下のように変更します。
PST -> アイピース口延長筒(PSTに付属していたもの) -> BF+アイピース取り付け口 -> カメラ(G3M678M)
ようするに、エタ論とカメラ間の全体の距離を保ちながら、Vixen製の延長筒を外しBFとカメラセンサー面の相対距離を縮めたわけです。全体長を保つために、BFの手前に別途延長筒を取り付けています。ピントは、C8の調整つまみを回すのではなく、カメラをアイピース口に出し入れすることで調整しています。カメラ位置を変えることでピントが出たなら、そこは全長が同じだった位置ということになります。
視野の大きさや、分解能に見た目の変化はほとんどないですが、明るさだけは倍程度になりました。(見かけの明るさはヒストグラムに応じてオートストレッチしているので同じようになりますが、ヒストグラムの山の位置は変わっているので実際の明るさは変化しています。) これはBFの小径が通る光を制限していたことになり、BFの位置がより焦点近くに移動したために、BFでの光束径が小さくなり、より多くの光が通ることになったのかと思われます。
この結果を踏まえて、BFとセンサー面の距離がある程度短い方が有利ということで、PSTとBFの間に、PST付属のアイピース口延長筒をもう一つ追加 (PSTが2台あるのでもう一台から奪ってきたもの) しました。それでもまだカメラ位置はエタロンから遠い方が良さそうなので、さらにBFとカメラの間にVixen製のアイピース口延長筒を入れたものをデフォルトの設定としました。
視野が広がる理由がまだわからない
1については考察のみしてみます。
8cm鏡筒でエタロン位置の最適化を探った時、エタロンを対物レンズから遠ざけるほど、カメラ位置はPST側に押し込まなければピントが出なかったという経験をしています。
対物レンズの焦点距離をf1、エタロン手前のレンズの焦点距離をf2として、その2枚で得られる合成焦点距離fは、レンズ間の距離をdとすると
1/f = 1/f1 + 1/f2 - d/(f1 f2)
と書くことができます。エタロン内部で平行光を作る条件は、f = ♾️なので、
0 = 1/f1 + 1/f2 - d/(f1 f2)
で両辺にf1 f2をかけて、0 = f2 + f1 - d
なのでd = f1 + f2
となる長さで、エタロン内部に平行な光が提供されます。エタロン手前のレンズは凹レンズで焦点距離はf2 = -200 [mm]とわかっているので、例えばよく使っている8cm鏡筒で、対物レンズの焦点距離f1 = 400 [mm]の場合は、d = 200 [mm]となり、実際にその辺りの距離にエタロンをおいて運用してうまく動いているようなので、間違っていないでしょう。
ここで、エタロン位置を対物レンズから遠ざけるということは、dを大きくするということです。これは合成焦点距離が正の無限大でない数になります。言い換えると、平行光にはならずに、光を有限の距離で収束させる合成レンズになるということです。わかりにくい場合は、具体的に数値を入れてみるといいでしょう。最初の式に、f1 = 400と f2 = -200を入れてみると
1/f = 1/400 - 1/200 + d/(400 x 200)
となります。右辺最初の2項を合わせると負になるので、1/f = -1/400 + d/(400 x 200)
となり、右辺の初項と2項目が等しいとバランスが取れて平行光になります。dは正の数で、増えると2項目が増えて、右辺は正になるので、結局合成焦点距離fも正になり、光を収束することになります。
エタロン後部に置かれた焦点距離 f3 = 200 [mm]のレンズで集光するのですが、エタロンをより後ろに動かすと、もともとあった平行光が、dが伸びたことでより集光された状態になるので、カメラまでの焦点距離がより短くなる方向になります。なので8cm鏡筒で試したように、現実にカメラをPST側により押し込んだときに焦点が合うというのは、正しいと言えそうです。
以上のことを踏まえて、C8で起こったことを考えます。
- 今回は、カメラの位置をPSTから遠ざけるほど視野が広がりました。カメラをPSTから遠ざけてピントを出したということは、上の考察から「エタロンはより対物レンズに近づいた」ということになります。そして、エタロン後部のレンズを出た光が焦点を結ぶ距離は、より後ろに下がったということになります。
- その一方、センサー上で見えている太陽表面のエリアは広がりましたが、これは拡大率が変わったわけではなくて、センサー内に映る円の大きさが大きくなったために、より多くの範囲が見えているというだけです。
ここ1週間くらいずっと考えていましたが、いまだに結論は出ていません。
黒点撮影
というわけでまだ謎は残りますが、とりあえずこれで撮影してみます。
まずは黒点AR4100、4101周りです。30秒おきに1ms露光で200フレームづつ、合計60枚で約30分間撮影しました。シーイングはあまりよくなく、その中で一番いいものを画像処理しました。画像処理は、ImPPG、PixInsightのSolarToolbox、Photohopなどです。いつものように、モノクロ、カラー化、さらに反転させたものです。それぞれ端の方を少しクロップしています。
その後、タイムラプス映像も作りましたが、高々30分であることと、シーイングが良くない時間が多かったので、結構ボケボケです。参考程度に載せておきます。フレアが最後に収まっていくのと、次のフレアが起こる始めくらいが見えています。
プロミネンス撮影
その後、プロミネンスを撮影し、タイムラプス化しました。前回記事の東端9時方向に出ていた大きなものです。カメラの回転角を変えて、長手方向に全体が入るようにしました。30秒おきに1ms露光で200フレームづつ、合計120枚で約1時間撮影しました。最後のffmpegのコマンドだけメモがわりに残しておきます。
- ffmpeg -y -r 20 -i Blink%05d.png Blink_20.mp4
- ffmpeg -i .\Blink_20.mp4 -vf "crop=3500:1900:175:125" Blink_20_cut.mp4
- ffmpeg -i .\Blink_12_cut.mp4 -vf "scale=1920:-1" -vcodec libx264 -pix_fmt yuv420p -strict -2 -acodec aac .\Blink_12_cut_X.mp4
前回記事のものを再掲載しますが、やはり分解能の違いは明白で、全景からの切り出しでは細部を出すのは難しいことがわかります。
一度に全体と細部を撮る方法はないのか?口径が大きく、C8程度の焦点距離に、広い面積に渡り精度のいいエタロンを探して取り付け、ピクセルサイズの小さいフルサイズモノクロセンサーを使うとかでしょうか。まあ、技術的にも予算的にも全然無理な気がします。
カメラをASI290MMに戻すか?
ここまでの調整の甲斐もあり、G3M678Mで撮影範囲も広がり、かつ分解能も上がっています。その一方、今回の画像を見ても、まだ真ん中と端の方では差があり、これはHαの分解能なのか、収差などでピントがあっていないのかまだわかりませんが(エタロンがかなり無理をした位置に置いてあるので、後者の可能性も高いと思います。)、画角的には欲張りすぎな気がしています。
というわけで、カメラをASI290MMに戻すことを考えています。戻すことは結構利点があって
- 大きな黒点が少なくなってきて、ある程度の狭角で撮らないと迫力が出ない。
- G3M678Mだと、ワンショットあたりのファイルサイズが3-4GBで、すでに大きすです。ASI290MMだと800MB程度です。ちなみにこの6月5日に撮影したファイルの総量は600GB超えです...
- G3M678Mのフレームレートが23fpsと結構遅いです。ASI290MMは60-70fpsくらい出ます。
- 画素数もすでに多すぎる気がします。タイムラプス映像でYouTubeにアップするとしたら、横は1920ピクセルあれば十分です。G3M678Mはいわゆる4Kカメラで横幅3840ピクセルと倍もあり、今回もかなり削って、最後は横が1920ピクセルになるように縮小しています。
- また、分解能に関してはシーイングの方が効きやすいので、2μmまでは必要ない気もしています。画像処理、特にImPPGでの細部出しの時に、1ピクセルレベルの細部が十分聞いていない気がしています。
- G3M678Mを今後別目的(分光太陽撮影のための新機材のSGH700)で専用に使いたい、というかそもそもこのカメラを買ったのはSHG700のためです。
その一方、ASI290MMに戻すときの問題点がニュートンリングです。G3M678Mでは全く出なくなったニュートンリングですが、ASI290MMではカメラを傾けない限りはまた復活するでしょう。大きな違いはセンサー前の保護ガラスかと思っていて、一度ASI290MMの保護ガラスを外してニュートンリングが出なくなるかどうか見てみようと思います。
まとめ
結局視野が広がる謎は解けていませんし、さらにまだカメラ位置と画角と分解能の関係は印象だけで検証さえもできていませんが、実用的にはやれることは大体やったので、この時点でカメラをASI290MMに戻すことでほぼ問題ないでしょう。少なくとも以前よりは良い状態で撮影できるようになるはずです。
あとはエタロンそのものを探ることですが、これはさらに大変そうなのと、今の状態でも撮影結果にはそこそこ満足できそうなので、しばらく放っておきます。今後は撮影例を増やしていきたいと思います。
さて、いよいよ次回からは新機材、分光で太陽を撮影する「SHG700」の始動です。多分できることがものすごく増えるので、じっくり取り組もうかと思っています。