ほしぞloveログ

天体観測始めました。

タグ:シーイング

これまで何度となく粒状班の撮影を試みてきましたが、どれも全く満足とはいかずに、撮影手法が正しいのかさえわからないような状態でした。今回、シーイングのいい状態をものにする方法がわかったので、再挑戦してみました。


これまで

これまでのベストは、昨年かなりシーイングがいい日に撮ったもので、それでもこの程度です。
_08_10_59_F0001_1000_lapl3_ap680_IP_0_5_4_5_5_ABE_MLT_cut

かろうじて粒々らしきものが見えていますが、まだ粒状班と言うにはほど遠いです。それでも画像処理も無理しない範囲でこれだけ出たので、やはりシーイングが重要だということは少し理解できていました。でもシーイングをこれ以上劇的によくする方法は、まだ全然見通しが立っていませんでした。

その後も何度が挑戦はしていますが、上の結果をどうしても超えることができずに、もう今の機材や方針では無理なのではないかと、だんだんあきらめるようになってしまっていました。同時に、太陽全体に対するモチベーションが下がる原因にもなってしまっていて、太陽に関してhPhenixを触るまでずっと盛り上がらない日が続いていました。


悪条件なのに

最近の太陽の成果でいいシーイングを確実にものにする方法がやっと確立したことになるので、満を持して長年の課題だった粒状班に再挑戦してみました。

と言ってもこの日は午前がずっと天気が悪く、午後になって少し晴れた程度で、まだまだほんのテストで、そこまで気合入っていません。フィルターもBaaderのOD5の減光フィルムのみで、その他はノーフィルターです。撮影中もずっと薄雲が出ていて、しかも間違えてRAW8で撮影という、普通で考えたらそのまま却下なくらいの状況でした。それでもまあ、休日の晴れ間ということで、セッティング時はしーいんぐもよさそうだったので、撮影を開始してから2時間ほど放っておきました。

30秒間隔で1ショットあたり200フレーム、合計240ショット撮影したのですが、半分くらいの時間は雲で暗くなっていて使い物にならなかったです。残りの半分切るくらいのうち、セッティングして少し経ってくらいの3本だけが分解能よく撮れてました。ベストの1本だけだとノイズがまだ目立ってしまったので、200フレームだと少し足りないのかもしれません。試しに近い時間だった3本を合わせて、600フレームのうちAS4!で上位50%を処理してみると、もう少しマシになりました。その結果です。

all_lapl2_ap3866_IP_cut2

天気や自分の設定ミスなどもありかなりの悪条件だと思うのですが、初めてここまで粒状斑が出て、あっさりベストを更新してしまったと言っていいでしょう。やはりこの、連続して長時間撮影していいシーイング時間を選択するという方法はかなり有効なのかと思います。

今後の課題は、OD5のフィルムだとまだ暗いようなので、同じBaaderのOD3.8フィルムに変えることと、540nm付近のフィルターを入れることでしょうか。


まとめ

粒状斑についても少し見通しがついてきました。とういか、むしろ粒状斑を出したくてシーイングのいい時をみるける方法を探っていたと言ってもいいのかと思います。天気もあまり良くなくて、まだ大した時間は試せていないので、もう少し条件のいい日で試したいと思います。まだまだ改善するはずです。





黒点周りのタイムラプス映像のための画像を処理していてい、とても面白いことに気づきました。これは今後の分解能出しに大きく影響しそうです。


短時間で大きく変わる分解能

全く同じ条件で撮影しているのに、1枚1枚の画像の分解能が全然違うのです。例を示します。

こちらはある時刻10時42分のものです。200フレーム撮影したもののうち、AS4!で上位90%をスタックし、ImPPGで細部出しをしています。かなり解像度が出ているのがわかります。
10_42_19_lapl2_ap3983_out

次はその1分後のものです。全く同じ条件でAS4!でスタックし、ImPPGでこれも全く同じパラメータで細部出しをしています。何も変えていないのに、ボケボケです。
10_43_23_lapl2_ap3860_out

次はさらに1分後です。再び解像度は復元しています。
10_44_28_lapl2_ap3962_out

わずか1分でここまで変わっていいのかというくらいの違いです。これらの例の他にも、解像度が悪いのが3枚ほど続き、復帰しているなどもあります。


2時間の中でベストとワースト

120分の中で、ベストの11時46分5秒のものと、ワーストの11時16分55秒のものです。処理条件は上の3枚と全く同じです。ここまで違っていいのかというくらいの違いです。
11_46_05_lapl2_ap3983_IP2_13

11_16_55_lapl2_ap3756_out


分解能が変わる原因

この突発的な解像度の変化の原因は、いくつかの可能性が考えられます。
  • シンチレーションの悪化
  • 風で揺れた
  • 何かの拍子に地面が揺れた
  • たまたま機材の不調などな
などでしょうか。

これらの分解能の違いはリアルタイムで画面を見ていた時は、あまり違いに気づけませんでした。今回、ImPPGで細部出しをして、そこで比較していいものと悪いものを動画に戻って比べて見てみると、ああなるほどと思ったくらいです。

分解能が悪くなるのは、2時間の撮影中のある時間帯だけに起こっているのではなく、最初から最後までバラバラに発生しています。こう考えると、
  • 地面の突発的な揺れがこんなふうにバラバラの時間で満遍なく発生するとはあまり考えられません。
  • また、風の場合は画面が大きく揺れることがわかっていますが、分解能が悪い時の動画を生で見てみると、どうも細かい揺れが多いように見えます。
  • 機材の揺れだと事故的に単発で起こるか、もしくは何かが原因で周期的に起こるかなどです。短髪にしては頻度が多すぎます。また、ばらついてはいるものの、周期的に起こっているわけではないようです。
なので、とりあえず今の所はシーイングの時間変動と考えるのがもっともらしいと思っていますが、もし仮にそうだとしたら、シーイングが分単位でここまで変化するとは本当に驚きです。シーイングが時間で変わることは知識としては知っていましたが、30分とか、せいぜい早くても10分とかいう単位だと思い込んでいました。今の所時間スケールはまだはっきりとはわかりませんが、分かそれ以下の時間でで大きく変わると考えて良さそうです。

こうなると今後の撮影方針はかなり変わってきます。これまではいいシーイングを探して、3-4時間の中で数十分おきに撮影したりしたことはありました。その時は明確な差は判らなかったので、それ以降いいシーイングを探すのはあきらめてしまっていました。今回の結果から考えると、数十分おきとかではいいところを探しきることはできなかったのでしょう。


分解能の時間のばらつき具合

120枚の分解能の内訳ですが、
  1. ベストに近いもの: 5枚
  2. ベストクラスからは劣るけれども、そこそこいいもの: 15枚
  3. 特別いいわけではないけれど、普通にいいもの: 39枚
  4. それより分解能があからさまに劣るもの: 39枚(前々々回のブログ記事で示した、最初の時間の撮影で1000フレームで仕上げたものはこのランクの中の悪い方か、次の5のランクの中のいい方くらいでした)
  5. 仕上げには絶対使いたくないもの: 17枚
  6. ワーストクラス: 5枚
といったところでしょうか。

ベストの5枚の時間はそれぞれ: 
  • 11時5分1秒
  • 11時43分54秒
  • 11時46分5秒
  • 11時55分48秒
  • 12時26分3秒

ワーストの5枚の時間はそれぞれ: 
  • 10時43分23秒
  • 11時16分55秒
  • 11時19分5\4秒
  • 12時27分8秒
  • 12時28分13秒
となっているので、少し近い時間帯もありますが、そこまで偏っているわけではなくて、結構散らばっているのがわかるかと思います。

せっかくなので、典型的な画像も載せておきましょう。順に上の順位の1から6の中で、それぞれ真ん中らへんのものを選んでいます。

1_10_45_33_lapl2_ap3969_out
2_11_11_30_lapl2_ap3983_out
3_12_10_54_lapl2_ap3858_out
4_12_20_38_lapl2_ap3952_out
5_12_08_44_lapl2_ap3915_out
6_11_19_04_lapl2_ap3906_out

ある程度正規分布に従いそうなので、数多く撮影して一番いいものを選ぶというので、これまで適当な時間を一本だけ撮影するよりは、大幅な改善が期待できそうです。


ベストの200フレームの中で

あともう一つ、ベストと思われる11時46分5秒の200フレーム撮影のうち、ベストと思われるものとワーストと思われるものを示しておきます。一本のserファイルを200枚のTIFF形式に分解し、個々の画像にImPPGで細部出しをしてみました。

11_46_05_102_out

11_46_05_182_out

わずか数秒の撮影中にも、分解能のいいもの、悪いものが存在するようです。この200フレームを、いいと思うものと、悪いと思うものの2種類に分けてみたのですが、いい時も悪い時も10枚くらい続くことが多かったです。ということはいい時と悪い時が0.3-0.4秒おきくらいのタイムスケールで替わっていると考えることができます。まだ今回だけの話なので、これがどこまで一般的かはわかりませんが、もしこのタイムスケールが本当だとすると、想像していたよりもはるかに速く入れ替わっているという印象ですです。


4月5日の評価

その後の別の日の連続撮影などから分かったのですが、4月3日は(朝ということもあるでしょうが)基本的に平均してかなり分解能よく撮れた日だったのかと思います。分解能が悪かった日も、機材や画像処理の条件は4月3日と同じで、さらに特に風が強いとかでもなかったので、少なくともシーイングが大きく変わったと考えてよさそうです。このような日の場合は、ほとんどの時間帯の分解能が悪くて、ごくごく稀に分解能がいい時があるというような感じです。これまでたくさん撮影してきましたが、実はほとんどの日は、このようなシーイングがあまりよくない状態だったと思われます。たまによく撮れた日は、平均してシーイングがよかったのでしょう。でもベストでは全然はなかったはずです。

「太陽撮影はシーイングがいい時間帯を見つけて撮影すればいい」というようなことは聞いていたのですが、この意味が実は全くわかっていなかったことが、今回よくわかりました。シーイングが特別いい日でなくても、本当にシーイングがいいかなり短時間の瞬間があるということがやっと理解できました。これまでこんな短い時間で比較して選んだことはなかったので、いい瞬間に巡り会えたことはほぼなかったと思っていいと思います。

4月5日の結果から、シーイングは、1分あればいい状態から悪い状態へとポンポン変化して、さらに突き詰めると、0.1秒とかいうスケールでいい悪いが入れ替わっても全くおかしくないということがわかりました。もう少しサンプル数は増やしたいですが、だいぶん正体が見えてきたので、実際の撮影間隔をどれくらい取ればいいかがある程度決定できそうです。


いいシーイングの威力

2時間の撮影の中でベストを選ぶのと、適当な時間にたまたま撮ったものを比べてみましょう。まず、タイムラプスで撮影した120枚の中で分解能がベストと思える、11時26分5秒のものを処理したものです。露光時間1.25msで、200フレーム撮影したものです。60FPSくらいは出ているので、3-4秒間にわたり撮影したことになります。200フレームのうち、さらに(AS4!の選別がまだ信用できないので)目で91枚を選別したものをスタックしています。
11_46_05_lapl2_ap3963_IP_ST

次に、前々回のブログに載せた、この日の最初の方でに1000フレームで撮影したものを下に再掲載して、比較してみます。露光時間は同じですが、60FPSとすると20秒くらいに渡って撮影しています。そのうちAS4!で上位75%を採用しているので、750枚のスタックになります。
07_52_22_lapl2_ap3839_c

比較すると、上の方がわずか91フレームながら、圧倒的に高解像度なのがわかるかと思います。下の方は塗り絵みたいで気持ち悪いです。でも最初の記事を書いたときはこれでも分解能はいい方だとしんじていました。

もちろんノイズ的には少数フレームの方が不利なので、軽めのノイズ処理をしていますが、仕上がりは比べるまでもないと思います。ベスト画像を選ぶことが、いかに大事かがわかるかと思います。

いい時間を選ぶことでかなりきれいに出たので楽しくなってしまい、91フレームのものを、色反転したもの、さらにモノクロとその反転も作ってみました。
11_46_05_lapl2_ap3963_IP_ST_inv
11_46_05_lapl2_ap3963_IP_ST_mono
11_46_05_lapl2_ap3963_IP_ST_inv_mono

ここまで出ると、こうやっていろんなパターンを作る甲斐もあるというものです。ただ、こうやって見て改めて思うのは、PSTのエタロンの限界です。どの画像もそうなのですが、上の方とか右の方は、やはり波長がずれていて、分解能も落ちてしまっています。分解能が良くなってくると、その差も目立つようです。ここら辺の改善が次の課題でしょうか。でもそんなに簡単ではなさそうです。

同じく、プロミネンスです。こちらは1分おきに200フレームで30分間撮影したものの中から、ベストなものを選び、AS4!で上位90%を選んでスタックしたものです。

08_44_10_lapl3_ap3959_newIP_ST

次が前々々回示したもので、1000フレームを75%スタックしたものです。
08_00_23_lapl2_ap1030_nodot_c_2

プロミネンスだけでなく、太陽表面が全然違います。分解能がいいと、表面に結晶の花が咲いたような模様になります。上の方の画像の画面の右はやはりエタロンのせいで波長がずれてしまっていて、分解能が全く出ていません。ここまで違うと、うまく出ていない所はもうクロップしてしまった方がいいのかと思います。実際、下の画像は目立たないようにクロップしていました。


まとめ

これまで仕上げ用には最低500フレーム、場合によっては2000フレームとか撮影していましたが、大事なのはフレーム数ではなくて、シーイングがいい時間帯をいかに選ぶかということでした。いい時間帯を選んだ上で、仕上げるのには100フレームもあれば十分だということもわかりました。

これまでなかなかいいシーイングの見つけ方がわからなかったのですが、この4月5日は平均してシーイングがいい日だったので、色々検証することができました。今回は、口径20cmで焦点距離2000mmという機材の分解能に制限されない状態だったので、シーイングがいい状況にきちんと対応でき、その違いを知ることができたと考えてもいいと思います。言い換えると、口径20㎝とかを生かそうとしたら、シーイングを相当選ばないと意味がないということです。

そして、シーイングがいい瞬間は確率的に少ないですが、確実に存在はするので、それを取りこぼさないように長時間で何ショットも取り続けて、その中でベストのものを選ぶのがいいのかと思います。こうすることで、これまで本当に運頼みだった良シーイングを、ある程度確実にものにする方法を得たということになります。その代償として失うものは、余分に使う撮影時間とディスク容量といったところでしょうか(笑)。

ただし、静止画の場合はこれでいいのを選べるのですが、タイムラプスだとベストを選び続けるのは不可能です。これは仕方ないのですが、静止画と動画は画像処理も違う手法が取れるので、そこらへんに解があるのかと思っています。





前回の記事のM104撮影に際し、少し検討したことがあるので、メモがてら書いておきます。大したことではなく、ホントに補足程度です。



恒星の飽和

今回のM104の撮影では、2023年5月と2024年4月で、機材や設定はほぼ同じで、露光時間だけ5分から1分に縮めました。5分露光では多くの星が飽和していて、1分間にしてもそこそこの数の恒星が飽和していることを前回示しました。

いい機会なので恒星の飽和について少し考えてみました。これは恒星周りを3次元でプロットしてみるとよくわかります。1分露光のL画像のストレッチ前のリニアの時のものを一部を拡大しています。

Image28_Preview05_3dplot
全角画像の左下の端にかかっている3つの明るい星。

3つ並んだ星はどれも豪快にてっぺんが平らになっていて飽和していますが、階調がどれくらい足りていないのかはこれだけだと良くわかりません。そこで、画面の中でちょうどギリギリ飽和するくらいのある星をStellariumで調べてみると12.5等級とのことでした。次に、画面の中で最も明るい星の等級を同じくStellariumで調べてみると「HD109875」で7.65等級とのことでした。12.5 - 7.65 = 4.75等級 = 87.1倍となりました。ということは、今回の画像ではまだ明るさを100分の1近くにしなければ、全ての星の飽和を無くすことができないのがわかります。ここではASI294MM Proのbin1設定で見積もっているのでダイナミックレンジは12bitと狭いですが、たとえ16bitのカメラを持ってきても4bit = 16倍稼げるだけで、100分の1という差は賄いきれません。

露光時間で考えてみます。今回は1分露光なので、同じカメラで同じgainだとすると60s / 90 = 0.67秒程度の短い露光時間にする必要があります。今回の撮影時のカメラのgainが120なので、たとえgainを0にしたとしても-12dB = 0.25倍程度です。この場合は露光時間を2.7秒程度まで伸ばせますが、それでも全く現実的でないほど短い露光時間です。これだと淡いところは読み出しノイズに埋もれてしまう可能性が高いです。

画像に写る星の明るさは、星がどれだけ鋭く写るかにも依るので、鏡筒の口径、スポットダイアグラム、シンチレーション、風や地面振動による鏡筒の揺れ具合、それらを積分する露光時間にも依ります。もちろん性能が良くなればより星像は鋭くなるので条件は厳しくなり、要求されるダイナミックレンジは大きく、露光時間はより短くなります。

より一般的には、飽和しないための露光時間は画角に写った星のうち「一番明るい星」に依ります。Stellariumで調べてみましたが、今回撮影したものと同じ画角だと10等星は撮影位置を選べば避けることができそうですが、11等星を画角の中に一つも含まないというのはかなり難しそうです。さらに対象天体は中心に持ってくることが多いので、任意の場所を選べるわけでもありません。10等星は画角内に入ってくる確率がそこそこあるとすると、計算すると6.9秒程度まで露光時間を短くしなければならなくなり、やはり現実的でなくなってきます。

ものすごいラフな見積もりですが、恒星の飽和を完全に避け、かつ淡い天体を写すというのはかなり難しいということがわかるかと思います。こうなってくると、どうしても飽和を避けたい場合は、明るい恒星のみを写す超短時間露光を別撮りして、画像処理時にHDR合成することでしょうか。

というわけで、今後も恒星の飽和はあまり気にすることをせずに、撮影を続けたいと思います。


シンチレーションについて

今回L画像は2024年の4月1日と4月10日の夜に撮影しています。1枚撮りのRAW画像を切り取って、オートストレッチしたものを両日比べてみます。高度が同じ(31度)になるように時間を選んでいます。

1: 202/4/2 00:05:
01_good_1min_2024-04-02_00-05-46_M 104_L_-10.00C_60.00s_0059

2: 202/4/11 01:25 00:05:
02_bad_1min_2024-04-11_01-25-11_M 104_L_-10.50C_60.00s_0000

パッと見で、明らかに4/2の方がシンチレーションがいいことがわかります。

3: もう一つ、2023年5月11日に5分露光で撮影したものです。露光時間が長いので微恒星まで写り込んでいて、一見こちらの方が良さそうに見えますが、星像の大きさだけをよく見比べると今年の4/2の方が小さくてよく見えます。
03_middle_5min__2023_05_11_23_35_26_LIGHT_L_10_00C_300s_G120

実際にPIのFWHMEccentrisityツール(gausiaan, 0.5)で径を測定すると
  1. 12.51px
  2. 23.22px
  3. 13.64px
となり、画像を見た印象とほぼ一致しているのかと思います。

でも、いくらbin1での撮影といえ、そもそも12.5pxでもかなり大きい気がします。SCA260のスポットダイアグラムを見てみます。

sca260_2

いくつか数字があるのでわかりにくいのですが、図はどれも一辺200μmです。右下の一番大きなスポットの長辺が30umくらいでしょうか?これに相当する数値はField 4のGEO radius 15.53umのようです。radiusで半径なので2倍して31.06umでほぼ一致しています。

ではRMS radiusとは何かというと、光の強度分布をガウシアンだと仮定すると、標準偏差σがRMS radiusと一致します。σとFWHMの関係は、計算するとFWHM = 2.36σとなるので、例えばField 1のFWHMは1.916 x 2.36 = 4.50umとなります。

今回はASI294MM Proでセンサーの長辺が19.2mm、短辺が13.1mmなので、四隅までの距離は中心からsqrt(19.2^2+13.1^2) / 2 = 11.6mmとなり、Field 1と2の真ん中くらいでしょうか。2.51umと1.92umの真ん中を取り、RMS radiusを2.25umとしましょう。FWHMは2.25 x 2.36= 5.23umです。

今回のセンサーはASI294MM Proをbin1で使っているので、1pxあたり2.31umです。

ここまでの見積もりが正しいとすると、FWHMをピクセルで表すと、SCA260の中心付近では5.23[um] / 2.31[um/px] = 2.26[px]となりかなり小さい値が見込まれます。これとシンチレーションが良かった4月2日の12.51pxと比べると、実測は5倍以上大きいことになります。スポットダイアグラムなんて全然意味がないくらいに大きな星像になっているというわけです。

では今回撮影したM104の星像が、他のよく撮れている方の画像と比べて大きすぎるかというと、そんなことはなくて、ある意味一般的な恒星の大きさと言えるかと思います。そもそも他と比べてそこまで星像が肥大するようなら、M104本体の分解能もそこまで出ないはずです。

では、何がおかしいのでしょうか?

これまでこんなことはあまり定量的に見積もってこなかったので、冷静に考えてみました。まず気づいたのは、焦点距離に関わらず高性能な鏡筒のスポットダイアグラムも中心像ってそこまで大きく変わらないことです。例えば焦点距離300mmのFRA300 Proのスポットダイアグラムの数値を見ると、RMS radiusで中心では1.961umとSCAとほとんど同じ大きさです。これだけを信じると写る恒星の大きさは同じになるはずです。じゃあ焦点距離が長い鏡筒で写した恒星がそこまで小さくなるかというと、小さい系外銀河の画像などを見てもすぐにわかりますが、現実にはそんなことはなく、一つ一つの恒星の大きさは大きくなってしまい、星の密度も全然小さくなります。スポットダイアグラムでは同じ径なのに、焦点距離が違うと、なぜ撮影した画像ではこんなに違うのかという疑問に置き換えられたということです。

ここまで考えると答えはすぐに出てきて、焦点距離が長いので、同じ大きさの素子のカメラだとするとより拡大して見ていることになり、揺れなどの影響がより効いてくるということです。

揺れを見積もってみます。PHD2の出力を見てみると、角度揺れはRMSで概ね2秒角以内には収まっているようです。焦点距離1300mmとセンサーサイズ19.2mm x 13.1mmから、このサイトで計算すると画角は0.85x0.578度とわかるので、ピクセル数(1binであることに注意して)8288x5644でそれぞれの辺で割ると、1ピクセルあたり0.36秒角とわかります。そのため、PHD2から見積もった角度揺れで5ピクセルくらいは揺れていることになるので、スポットダイアグラムから見積もった2.26ピクセルの倍くらいにはなっています。実際にはこの2倍の揺れの周りに、元のスポットダイアグラムで表されるガウス分布が散らばるとすると、周りに片側0.5倍、両側で1倍程度の広がりを持ってもおかしくはないでしょう。これで3.3倍程度で、実像の5倍までまだ少し足りませんが、ある程度の説明はできそうで、少なくとも角度揺れだけでスポットダイアグラムで期待される径は、全然出るわけがないことがわかります。

ここで、オートフォーカス時の短時間のHFRを見てみます。2023年5月11日のL画像の撮影途中で合わせた時の画像が残っていました。
キャプチャ

この時のフォーカス位置でのHFRは7を少し切るくらいです。HFRはHalf Flux Radiusの略で半径、HFD(Half Flux Diameter)と呼ばれるものもあって、こちらは直径です。FWHMはFull Widthで直径なので、HFDと比較すべきなので、HFRの2倍と比較するとしましょう。でもFWHMとHFDは定義が違っていて、FWHMは最大値の「ある一点」を元に半分の値を径とするもの、FHDは定義によると「統計的に」中心を求めていることが大きな違いです。HFDの方が実測のような崩れた星像にも強いことがわかります。でも理想的なガウシアン分布に対してはいずれも2.36σになることがわかっているので、ここでは簡単のため同じものとして扱います。

2023年5月11日のL画像の撮影ではほぼFWHM =~ 2倍の HFR = 14を切るくらいになるので、測定自身はFWHMもHFRも、共にうまくできているようです。でもここでAF時のグラフを見てみると、フォーカスポイントの真ん中あたりにおいては、フィッティング曲線が実測値よりもかなり下に来ていることがわかります。そうです、なんらかの理由で径が一定値以下に下がることはないということを示しているのです。

この「なんらかの理由」が何なのかは、今のところ不明です。鏡筒の光学性能そのものの可能性もありますし、シーイングの可能性もありますし、シーイングや筒内対流を含むシンチレーションの可能性もありますし、地面の揺れ、風の影響などもあるかと思います。でも確実に2つのことが言えます。まず一つは、日によってFWHMが違っているので、シンチレーションに制限されている可能性が高いということ。もう一つは、短時間測定のHFRでもほぼ同様の結果なので、長時間積分の影響やガイドの影響はほとんど効いていないことです。

いずれにせよ、AF測定でここまではっきり制限が見えているので、逆に言い換えると、ここを見ながら底がフィッティング曲線に近づくような改善を目指していけばいいことになります。

ちなみに、ε130DのAF時の結果が以下になります。実測とフィッティング曲線がほとんど一致しています。でもこれは必ずしもε130Dの性能がいいというわけではなくて、単純に焦点距離が短いから、シンチレーションなどの揺れが効きにくいというだけだと思われます。
AF_good

SCA260でもこれくらい一致が見られるようなら、もっと星像は改善するはずです。日によって変わるシンチレーションや風の影響が小さい日を選んで撮影すること、赤道儀に弱いところがないか見直す、赤道儀をさらに強固なものにするなどでしょうか。性能のいいレデューサやバローを使って焦点距離を変えることで、鏡筒の性能か周りの環境かを切り分けることができるかもしれません。


まとめ

M104の撮影で気づいたことをまとめました。細かいことでしたが、自分的にはこれまであまり考えてこなかったことなので、面白かったです。

実は入院中で結構時間はあって、多少細かいことまで考える余裕がありました。このようにじっくり考えるのは結構楽しいのですが、実際にはなかなか時間が取れてこれませんでした。今後も焦って進めるのではなく、少し余裕を持って考える時間を確保するのが大事かなと今回改めて思いました。

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