ほしぞloveログ

天体観測始めました。

タグ:エタロン

星をもとめてに参加した際、星見屋さんでちょっと面白い話題が出ました。先日の星もと参加記の中に書いてもよかったのですが、少し細かすぎる話なので、独立して書いておきます。


星見屋さんブースにて

星見屋さんのブースのところで、以前福島でも見せてもらった、光球面用とプロミネンス用の2つのエタロンが入っているDaystarのGeminがデモで出ていて、店長さんと太陽について少し話ました。エタロン2つ繋がりではないですが、太陽界隈で少し話題になっている、メーカーや仕様の違うエタロンを直列に並べて使うと、コントラストが良くなるという話です。Fabry-Perotエタロンは、一般的に透過波長が周期的に表れる櫛(comb)型応答を示します。この櫛の位置がズレるので、コントラスが上がるという理解とのことです。

これはFSR (Free Spectral Range, 説明はこちらのページに) が違うことで説明できます。FSRは櫛と櫛の間の幅と考えることができます。このFSRは2枚の鏡の間の距離のみで決まるパラメータです。メーカーが違ったり、仕様が違うエタロンでは、鏡の間の距離が違うのが普通でしょう。Hαを通したいので、透過周波数は656.3nmになるように合わせてあるはずです。エタロンのデザインが違えば、その他の櫛状の透過波長も違うと考えられます。こんなことを踏まえて、星見屋さんとは、互いのcomb周波数のところの透過率を互いに落としあっていると考えると、確かに十分理解できるようなことを話しました。

実際に話したのはこのような定性的な話のみなのですが、帰りの車の中でもう少し考えてみました。


少し定量的に考えてみる

Fabry-Perot エタロンの透過率を考えてみます。詳細な式についてはこのページを参照してください。


光に対するエタロンの振幅透過率は一般的に (t1 x t2)/(1 - r1 x r2) と書くことができます。r,tは鏡の振幅反射率と振幅透過率で、添字の1と2はそれぞれ1枚目、2枚目を表しましす。

その中でも、太陽望遠鏡用のエタロンは共振周波数については完全透過であることが普通なので、2枚の鏡の反射率と透過率は一般的に等しくなります。r1 = r2 = r, t1 = t2 = tと書くと、エタロンの振幅透過率はt^2/(1-r^2) = T/(1-R)となります。Rはr^2、Tはt^2で、それぞれの鏡の強度反射率と強度透過率を表します。鏡のロスを考えないとすると、R+T=1が成り立つので、エタロンの振幅透過率は T/(1-R) = 1となり、完全透過となります。このため、共振周波数のHαのところで像が見えるわけです。

このことは上記リンク先のページにも同様に書いてあります。上記ページには光の位相のことを省いた簡略化した式で書いてあるのですが、位相まで考えると非共振のところで分母の符号が + (正)になります。特に最も透過率が低くなる完全反共振の周波数のところ(combの共振周波数同士のちょうど真ん中)では、透過率は(t1 x t2)/(1 + r1 x r2)と書くことができます。太陽用途なので2枚の鏡の反射率と透過率が同じだとすると、上と同様に t^2/(1+r^2) = T/(1+R) となります。

民生用の太陽望遠鏡エタロンのフィネスは10からせいぜい数10程度なので、強度反射率と強度透過率はそれぞれせいぜい90%と10%程度です。仮に0.9と0.1とすると、完全反共振の波長でさえ T/(1+R)  = 0.1/(1+0.9) ~ 0.1/2 = 0.05となり、振幅で5%、強度だとその2乗で0.25%程度の透過率となります。

実際Hα以外のところで0.25%漏れるとすると、comb全体では結構なコントラスト悪化になりそうです。当然BFやERFなどがあるので、Hα以外のcombのところの透過率は落ちるのですが、その残りの漏れ光でコントラストが悪くなっているということは、十分あり得そうです。エタロンとBFの関係はたとえばここを見るとグラフになってるのでわかります。一見BFの透過率はかなり小さく問題ないように思うかもしれませんが、BF透過の裾のところがすでに隣の櫛のところに引っかかりつつあるので、必ずしも無視できないかもしれません。太陽の光はものすごく明るく、全部カットすれば十分暗くなりますが、ほんの少し漏れるだけで一気に明るくなります。これは皆既日食のときのことなどを考えると、容易に想像できるのではないでしょうか。

ここで、2枚のエタロンがあることが効いてきます。もう一枚のエタロンでさらに漏れが0.25%程度になるのなら、十分な効果があるのではということです。

と、こんな話を「星もと」の会場で星見屋さんとできれば良かったのですが、その場では定量的な評価までは至らず、でも気になって帰りの車の運転の中で考えていたというわけです。もしかしたらどなたかの役に立つのではと思い、一応ここに書いておくことにしました。

(2024/9/21追記1)
初出記事に大きなミスがありました。エタロンの透過率を光の強度透過率としてではなく、振幅透過率として計算していました。きちんと強度透過率で計算すると、振幅透過率の2乗となるので、実際にはもっと漏れ光は少なくなります。上記記述は正しい値に訂正してあります。

(2024/9/21追記2)
BFについてもう少し詳しくみてみます。BFの透過率は下記ページ 


の「Coronado Blockfilter BF15 , Filter zum Okular」のところにあります。Coronadoの15mmのものということですが、他のものでもオーダーは似たようなものと考えます。(注意ですが、CoronadoはERFに相当するものもBlocking Filterと呼んでいるようなので見るべきところを間違えないようにしてください。すぐ上の「Coronado Blockfilter BF15 , Filter zum Objektiv」はERF相当のものになるようです。)

さて、上記グラフを見てみると20%透過の幅が0.9nm程度、10%透過の幅が1.2nm程度、5%透過の幅が1.6nmといったところでしょうか。3%透過の幅に至ってはグラフが途中で切れてしまっていますが、2.5nm以上はありそうです。

ここで、エタロンの櫛と櫛の間隔を考えてみます。櫛と櫛の間は、FSRを波長で考えたものそのものなので、以前見積もった通り2nm程度と思われます。BFの3%透過の幅が2nm以上なので、BFといえどそこそこの光を通してしまうということです。これはかなり大きいですね。これだけ透過してしまうとすると、仕様の違う (=FSRの違う) 2つのエタロンのダブルスタックはこの漏れをさらに0.25%に落とすので、かなり効果があることになります。


DSO用のナローバンドHαフィルターの効果について

ついでにですが、星見屋さんとは3nmとか7nmのDSO用のナローバンドHαフィルターを太陽望遠鏡に突っ込んだらコントラストが改善するかどうかについて、少し話しました。

星見屋さんによると、鏡筒によって改善具合が変わるとのことです。基本的に「鏡筒内に存在する散乱光が改善されること、Hα外のUVやIRのコーティングがどうなっているかにも依ると思う」とその場では話しました。

でも後から上の話を考えてみると、意外に非共振周波数での透過率が高そうなので、BFやERFで除去しきれない輝度が残っていて、それを改善する効果も少なくないのかもしれません。

個人的には以前実際に調べていて、気のせいというレベルでなく、明らかに効果が見られました。


ただし、当時も推測で散乱光が少なくなったのではと書いていますが、はっきりとした原因はまだよくわかっていません。でも、違う種類のエタロンのダブルスタックでコントラスト改善があるなら、上で述べたようにエタロンの漏れ光は有意に存在していると考えても、全然おかしくない気がします。これが3.5nmで改善されたというのはシナリオとしては十分にあり得るでしょう。


まとめ

太陽望遠鏡に使われるエタロンは、一般的な望遠鏡とか、一般的なフィルターと違い、なかなか直感的なイメージと振る舞いが一致しないことが多いかもしれません。だからこそ、できるだけ原理を理解して、定量的な見積もりと実際に見た場合とが大きくずれないか、ある程度確かめながら評価していくことが大切なのかと思います。

私もダブルスタック少し興味がありますが、PST以外のエタロンを持っていないので、いつかチャンスがあったらくらいでしょうか。



非常に有益な情報が!

昨日の太陽撮影の記事に、hasyamaさんという方から早速有用なコメントをいただきました。どうやら黒点から伸びるあの謎の線は、ガスの噴出現象とのことです。

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上昇方向で地球方向に向かってくるガスだとすると、ドップラーシフトで波長が青側に移るために、エタロンを波長が短くなる方向に回転すると、このようガスが見えることがあるということです。逆に、下降方向などで地球から遠ざかる向きの場合は赤側にシフトするとのことです。

コメントにはFacebookへのリンクも書かれていて、以前にも同様のものが波長がずれたLUNTで撮影されたとのことです。その投稿によると、やはりこのガスの噴出はそこそこ珍しいもので、あまり頻繁に撮影されているものではないようです。

今回は実際に何をみているのか、矛盾点はないかなど、自分なりに評価してみました。新たに疑問点が出たりしていますが、ある程度納得できたので記事にしておきます。


そもそもHαで何を見ているのか?

でもそもそも、なぜガスがHαで見えるのか、理由がまだよくわかっていません。光球面は納得できます。Hαに吸収線があり、Hαの653.6nmに合わせたエタロンでそこだけ透過させると、他の波長の明るい部分を除外することができ(吸収されながらも残った)Hα固有の光で作られる模様を見ることができます。要するに、吸収された光なのでHα部分は周りの波長より暗いということです。その一方、例えば彩層面からはるかに高いところまで写る派手なコロナまで含む30.4nmや19.3nmの光は、吸収線ではなく輝線です。すなわち周りの波長より明るいということです。

Hα領域の光は太陽表面に出てくるまでに吸収されるので、プロミネンスや噴出するガスも同様にHαに吸収線を持っていることは容易に想像がつきます。でも上で書いたように、Hα領域は周りの波長より暗いので、他の波長では明るく光っていることになります。光球面上は明るすぎるので、その明るさをエタロン除いてやるとHαがよく見えるようになるのはわかります。でもプロミネンスを見ている太陽の縁のところの背景は、光球面よりはるかに暗く、それに比べてHα以外の波長で明るいはずのプロミネンスが、エタロンの調整角をHαからずらしたら見えなくなるのかが、まだ理解できていません。

私の太陽の知識はせいぜいこれくらいです。まずはこの疑問を解決したいです。


波長のずれを見積もってみよう

とりあえず上の疑問は疑問として置いておくとして、その上で今回見えたガスも、プロミネンスと同様に元々はHαのみで見えるものなのでしょう。仮にそうだとして、エタロンで光球麺を見た時、狭い透過波長のみで見ることになるので、その周りの波長は暗く見えて、その結果ガスも見えることになるのかと思います。

この仮定の元、今回Hαからずらしたエタロンで見えたガスがドップラーシフトによるものだとして、ガスの速度から計算できる波長のズレと、エタロンの調整角から推定できる波長のズレが、一致するのか、それとも全然おかしいのか、簡単に評価してみたいと思います。

まずガスの速度からの見積もりです。
  1. ガスの長さは太陽直径の100分の1よりは大きくて、10分の1には届いていないくらいですが、ざっくり1/10とします。
  2. 太陽の直径はざっくり地球が100個並ぶくらいで、地球の直径はざっくり1万kmとすると、100万kmのオーダーです。
  3. なのでガスの長さはざっくり10万kmとします。
  4. ガスが伸びる時間は1分よりは長くて1時間よりは短いと思うので、とりあえず1000秒としましょう。
  5. そうするとガスの速度は10万km / 1000秒 = 100km/秒程度となります。
  6. 光の速度は30万km/秒で、それが100km/秒程度ぶん圧縮されるとすると、ドップラー効果で波長も同様の比率100/300000 = 1/3000くらいで短くなるので、653.6nmは0.2nm程度短くなります。

次にエタロンの回転で変わる波長です。
  1. PSTのエタロンの透過波長性能は、1Å = 0.1nm程度です。
  2. エタロンは半回転くらいしかしませんが、半回転の4分の1くらい回すと見えているHα領域がほとんど見えないくらいになります。ということは8分の1回転で変化する波長が1Å程度と考えてオーダー的にはおかしくないでしょう。
  3. 今回エタロンは波長の長い側か短い側かはわかりませんが、完全に端に回し切ったところにに行っていました。ということは、真ん中がHαに合っているとして、半回転のうちのさらに半分回っていたことになるので、4分の1回転回っていたことになります。
  4. 1/8回転で1Å = 0.1nmなので、4分の1回転回っていたとすると、エタロンでは2Åぶん、すなわち0.2nm程度Hαから波長がズレていたことになります。

おおっ!!

ものすごいラフなオーダー計算ですが、ものの見事に0.2nmで、両者ドップラー効果の波長のズレとエタロンの波長のズレが一致しました。多少のファクターのズレはありますが、少なくともオーダー的にはドップラー効果でHαからズレたガスを見ていたと結論づけておかしくなさそうです。


以前の撮影でもジェットが!

そういえば、以前もジェットのようなものを見たと報告したことがあるのを思い出しました。


この時はHαで見ていたはずですが、真横に出ているので地球方向に向かう速度成分はほとんどなかったのかもしれません。また、ジェットが数分で伸びていると書いてあるので、もしかしたらジェットの速度は今回見積もったものよりもかなり速いのかもしれません。ただし、それに地球方向の速度成分をかける必要があるので、それでもオーダー的にはそこまで間違っていないかと思います。


プロミネンスでも波長のずれは起こる?

ところで、プロミネンスもタイムラブスで見ると非常に高速に動いていることがわかります。下の動画は以前撮影したものですが、わずか19分間でこれだけ動いています。
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プロミネンスの移動速度もそこそこ出ているはずで、地球に向かう速度成分も多少はあるとすると、エタロンを回転して調整する時に、いつも光球面とプロミネンス部でエタロンの最適位置が合わないように思えるのは、もしかしたらこちらもドップラーシフトが起こっているからなのでしょうか?


まとめ

簡単なオーダー見積もりでしたが、少なくともドップラー効果で波長がズレたものが見えていたようだということは納得しました。

でもまだなぜプロミネンスやガスがHαだけでよく見えるのかは納得できていません。どこかにいい説明はないのでしょうか?

でもこうやって、自分で撮影した謎の現象が理解できているというのは、とても面白いです。天文趣味の醍醐味の一つなのかと思います。






ゴールデンウイーク初日に久しぶりに太陽に復帰したのですが、まだいまいち調子が出ません。



今回も改めて認識できたのですが、長年懸念の大きな課題が2つあります。
  • 一つはPSTのHαの良蔵範囲が小さいのが気になること、
  • もう一つがシーイングはそこそこなのに粒状班がなかなか出ないこと
です。

この記事では、まずはPSTのHαの良蔵範囲について考えたいと思います。


エタロン取り出し

最近のPSTを使っての太陽のHα画像を見ていて、どうもシマシマやモジャモジャのみえる良蔵範囲が狭いのではないかと思うようになってきました。まずはエタロンの設置角度が悪いのではと思い、最初に分解して以来、久しぶりにエタロン部を分解してエタロン本体を取り出してみました。

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いい機会なのでついでにエタロンを少し観察してみます。

エタロンは、開発者のCharles FabryとAlfred Perotの二人の名前を冠したファブリーペロー干渉計などとも呼ばれ、2枚の鏡を合わせ鏡状態で平行に並べた光共振器になっています。鏡の平行度がとても大切で、鏡が傾いて取り付けられると光がうまく干渉せず、共振状態になりません。どれくらいの角度の精度が必要かは鏡間の距離に依存しますが、評価はTEM(Transverse ElectroMagnetic、横モード)00モードが他の高次モードに比べてどれだけ出てくるかで評価します。PSTでは2枚の鏡の間に等厚のスペーサを4つ入れて、角度の精度を出しているようです。上の写真をよく見ると、鏡の隙間の中にスペーサーがあるのが分かります。

エタロンを正面から見てみましょう。
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4隅にスペーサーがあるのがわかると思います。でもスペーサーの形が超適当です。これは下手なカットをして端部で厚みが変わるのを避けているためと思われます。接着はこの手のものはオプティカルコンタクト(表面の平面度を出して、分子間力で接合する方法)かと思われます。

裏面を見てみます。PSTのやばいデザインの一つ、スポンジでの固定です。
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これも理由がきちんとあって、PSTの回転リングでエタロン本体にかかる圧力を変えて透過波長を調節します。スポンジでDC的な圧力変動に対して追随するというわけです。

このスポンジも面白くて、2つのカケラを貼り付けることで平行度を出しているようです。真横から見ると、この2つのかけらがあって初めてまっ平になっているように見えます。一番上の写真を見直してみると、スポンジに欠けがあります。これはわざとなのかたまたまなのか、理由も含めてよくわかりません。でもなんか欠け際に焦げたような跡が見えるので、もしかしたら何か意味があるのかもしれません。

よくよく考えると、なぜエタロン外側の回転リングを回すと入射光に対してエタロンの角度が変わるのか、まだ理解できていません。回転リングはぱっと見平行に回しているように見えます。言い換えると、均等に圧をかけているだけの気がします。これだけだと角度変化にならない気がします。もしかしたらスポンジの裏面のカケラを置くことで、スポンジの密度を変えていて、そこを支点に入射光に対するエタロンの角度が変わっているのかもしれません。もしそうならコストを抑えたものすごいアイデアです。

とりあえず、見ている限り設置でのエタロンの平行度は問題なさそうなので、元に戻します。


2台目のPST

PSTですが、なぜか自宅にもう一台転がっています。以前やったPST分解講座の前にジャンクで安く出てたのを購入しておいたものです。

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今回、2台のPSTを2/3インチのセンサーサイズの大きいApollo-M MINIを使って、少し広い範囲で見てみました。結果はというと、
  1. これまでのPSTはPSTのリングを回すと円状に明るく(Hαからずれている)なったり暗く(Hαに合っている)なったりします。
  2. 2台目のPSTはPSTのリングを回すと筋状に明るく(Hαからずれている)なったり暗く(Hαに合っている)なったりします。
1. 円状に良像が変化するということは、レンズ系とエタロンのモードが合っていないなどが考えられます。エタロンを構成する鏡が平面鏡なのか曲率がついているものなのかは不明ですが、曲率がずれている可能性もあります。F10の鏡筒がエタロン手前のレンズで平行光になるように設計されているはずですが、レンズの焦点距離がずれている可能性もあります。もしくはエタロンと鏡筒の位置が間違っている可能性もあります。

2. 一方、スジ状に良像が変化する場合は、エタロンの鏡の平行度がおかしいとか、エタロンが傾いて取り付けられているなどの可能性があります。

いずれにせよ、Apolloに比べて1/3インチセンサーのASI290MMの方が狭い範囲を見ていて、この範囲内に良像が入っていればいいという観点で判断します。

実際の画像を見てみます。ASI290MMで撮影しています。まずはこれまでのPSTです。前日水曜日に撮ったもので、クロップ前のものです。Hαのシマシマが出ている良像範囲としては中央から右と右下方向のみで全画面の4分の1からせいぜい3分の1程度でしょうか。
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念のため良像範囲を検討した時の2019年の画像を見てみると、点々でなくきちんとHαのシマシマが出ているのはやはり4分の1程度です。

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これまで、大きな黒点とかはそこを中心にしてクロップするので、うまく写っていないところをカットして良く見せているだけでした。なので今回撮影したように、中くらいの大きさの複数の黒点が画面全体に広がっている場合は、それらを全部入れようとするとどうしてもHαが出ないところがあるというわけです。

少なくとも2019年から良像の割合はほとんど変わっていないので、エタロンの経年劣化などはないと判断しました。逆にいうと、今回エタロンを取り出してまた入れ直したりしましたが、それくらいでは良像範囲は大きく変わらないということです。エタロンは平行度が命で、自分の手で何かをして良像範囲を劇的に改善するのはかなり難しいとも言えます。

次に、2台目のPSTで連休2日目の木曜に撮ったものです。
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2日目のほうがシーイングが悪いので分解能は出てないのですがそれは無視するとして、Hαという意味ではどうも新しいPSTの方が良蔵範囲が広いようです。全画像の半分以上はシマシマが出ているように見えます。

一見黒点付近ではそれにも増して分解能が悪いようも見えますが、波長がHαに近づいてくると(シマシマがより見えるようになるために)白色光では良く見える黒点の形が分かりにくくなってくるはずで、シーイングのせいで分解能が悪いのを差っ引いても、正しい方向に向かっている気がします。


補足: 
そもそもエタロンの劣化はあまり考えにくく、ダメになる時は鏡がずれてしまったりで全く見えなくなる可能性の方が高いと思います。徐々に見えなくなるというシナリオは、鏡の反射面になんらかの支障が出る場合ですが、合わせ鏡の内側のことで、汚れたりコーティングが徐々に劣化していくことも稀かと思います。エタロンというよりは、BF(ブロッキングフィルター)やERFの経年劣化の可能性の方が遥かに高く、全体に暗くなったとかは大抵エタロン以外が原因です。実際エタロンが全く見えなくなった話はたまに聞きますが、だんだん見えなくなってきたという話はこれまで聞いたことがありません。

良像範囲はほぼエタロンの出来で決まるので、ユーザーは改善の手立てがあまりありません。せいぜい傾いていないかの位置調整くらいです。その確認の意味で、先のエタロンの位置を確認してみたというわけです。以前の議論にも書きましたが、物によっては当たりのエタロンもあり、そういったものを手に入れられるなら、大きな範囲で安定したHα像を得られるはずです。そのようなことを議論したのが、4年前の記事:



になります。今回やっと、この時不満に思っていたことを、2台目のPSTと見比べることにより、多少なりとも改善、進化に繋げることができるのかと思います。


まとめ

2台のPSTの比較で、一応の結論は出ました。
  • エタロン自体の改善はユーザーレベルではやはり難しい。
  • ASI290MMの範囲で見る限り、2台目の方が良像範囲が広い。
などです。というわけで今後しばらくは2台目のPSTで進めていこうかと思います。




PST分解中継の関連で、Niwaさんがエタロンのことについて記述してくれていました。



なんかよくわからないけど、エタロン祭りです。今日は昔「P.S.T. (その5): のエタロンの考察」で説明したエタロンでの光の折り返し回数について、式で書いてみます。

太陽望遠鏡で使われているエタロンの特性は、(光の位相を考えない)限定された状況下なら簡単な四則計算で求めることができます。エタロンのモデルとして、2枚の鏡が距離を置いて向かい合わせに平行に置かれている状況を考えます。光の振幅を\(E\)と書きます。
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上記図のように、エタロン周りの光を定義します。\(E\)は光の振幅なので、2乗したものが光の強度になります。\(E_\mathrm{in}^2\)がエタロンに入ってくる太陽光の強度を表し、\(E_\mathrm{a}^2\)はエタロン内部の光の強さ、\(E_\mathrm{out}^2\)が接眼部に出てくる光の強さになります。
\[\begin{eqnarray}E_\mathrm{a}  &=&  t_1 E_\mathrm{in} + r_1 E_\mathrm{d}\\ E_\mathrm{b}  &=& E_\mathrm{a} \\ E_\mathrm{c}  &=& r_2 E_\mathrm{b} \\ E_\mathrm{d}  &=& E_\mathrm{c} \end{eqnarray}\]\[\begin{eqnarray}E_\mathrm{ref}  &=& t_1 E_\mathrm{d} + r_1 E_\mathrm{in} \\ E_\mathrm{out}  &=& t_2 E_\mathrm{b} \end{eqnarray}\]これを解くと、
\[\begin{eqnarray} E_\mathrm{a} = E_\mathrm{b}  &=& \frac{t_1}{1 - r_1 r_2} E_\mathrm{in}\\ E_\mathrm{d} = E_\mathrm{c}  &=& \frac{t_1 r_2}{1 - r_1 r_2} E_\mathrm{in}\\ E_\mathrm{out} &=& \frac{t_1 t_2}{1 - r_1 r_2} E_\mathrm{in} \end{eqnarray}\]となります。

この式は光の位相を考えない簡略化された式ですが、ここからでもいろいろなことがわかります。簡単にするためにさらに、\[r_1 = r_2 = r\]\[t_1 = t_2 = t\]としてしまいましょう。2枚の鏡を同じものを使うということです。この場合式はもっと簡単になって、\[E_\mathrm{a} = E_\mathrm{b}  = \frac{1}{t} E_\mathrm{in} \]\[E_\mathrm{out} = E_\mathrm{in} \] となります。理由は鏡の反射率と透過率には
\[r^2 + t^2 = 1 \] という関係があるからです。(ここでは鏡には反射と透過以外にロスはないと仮定しています。)

この式の物理的な意味は、2枚の同じ特性の鏡を平行に置いた場合
  • 入ってきた光は全て通り抜ける
  • \(t<<1\)なので鏡の間の光の振幅は\(1/t\)倍に、強度は\(1/t^2 = 1/T\) (\(T=t^2\): 光の強度透過率)になる
という2つのことが言えます。さらに、近似的にはこの強度の増加比がエタロン内部での光の折り返し回数そのものです。
  • 例えば、光(の強度)を90%反射し10%透過する鏡を使うと、1/T=10となるので、10回光が折り返すエタロンとなります。
  • 例えば、光(の強度)を99%反射し1%透過する鏡を使うと、1/T=100となるので、100回光が折り返すエタロンとなります。
さて、これだけではどれだけの波長幅を通すとかまでは求められません。これを求めるには光の位相をきちんと考えて識を解かなければいけません。ちょっと面倒になるので、これはまた今度にしたいと思います。


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