私は物理屋さんで、化学と生物はど素人です。しかも物理といっても物性屋さんでもないのでこれまで顕微鏡をまともに使ったことはほとんどありませんでした。前回CMOSセンサー面を生物顕微鏡で見て興味が出たので調べてみたのですが、顕微鏡の世界も面白いです。今回はそんなお話です。

あ、普段から顕微鏡を触っている人にとっては、なんでこんな当たり前のことをと思われるかもしれませんが、どうかご容赦ください。私にとっては新しいことだらけで、間違ったことを書いているかもしれません。何か気づいたらご指摘願います。


手持ちの顕微鏡は?

望遠鏡マニアの数はまだたくさんいると思うのですが、顕微鏡マニアというのはそれよりもかなり数が少ないのではと思いました。そもそも店があまり無い。天文ショップの数も少ないですが、顕微鏡ショップの数はさらに少ないみたいです。多分顕微鏡は、教育用と研究用の別れ方が顕著なせいなのかと思いました。

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まず、手持ちの顕微鏡がどの程度のものなのか調べてみました。MIZARと書いてますが、星まつりのいつものあのショップで購入したものなので、メーカー名はあまり意味がないのかと思います。Googleの画像検索で調べてみると、形状からヤガミというところのYMシリーズ YM-400というのが同等品の様です。



学校で使われているとか書いてあるので、せいぜい小中学校の理科教材クラスのものと思われます。実売3万円程度です。私は1万円くらいで購入したので、市価の3分の1程度だったことがわかります。でも付属のレンズが通常は4倍、10倍、40倍の様なのですが、手持ちのものは40倍の代わりに100倍のものがついていました。

機能を見てみます。
  • 上部が360度回転し、どの方向からでもみることができます。接眼レンズは10倍と15倍のものが付いていました。
  • 対物レンズを3本取り付けることができます。レンズは上で書いたように4倍、10倍、100倍が付属してました。
  • ステージは粗動と微動の2段回で動かすことができます。
  • プレパラートを照らすライトは無く、反射鏡が下についています。これはLED灯などに取り替えることができそうです。
  • ステージは下に絞りがついていて、光量を調整することができます。

光学性能は別にして、値段は機能の多さに比例する様なので、最低限の機能がついたシンプルな分安価なのかと思われます。


対物レンズ

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対物レンズを少し詳しくみます。3本のレンズにはそれぞれ
  • 4/0.1 160/0.17
  • 10/0.25 160/0.17
  • 100/1.25 OIL 160/0.17
と書いてあります。最初意味がわからなかったのですが、調べてみるとアクロマートとかアポクロマートではない普通のレンズで、最初の数字が倍率、次の数字が開口数NA(Numerical Aparture)、160は鏡筒長160mm用、0.17が0.17mmの厚さのカバーガラスに対応という意味のようです。

ここで重要なのは最初の倍率と、次の開口数です。顕微鏡の原理的な分解能を表す式は何種類かあるのですが、天文関係の人にも馴染みが深いレイリーの式だと

δ=0.61 x λ / NA

となります。分解能はざっくりと波長λのオーダー、これは光を使ってみるのでまあ当たり前です。NAは開口数といいます。開口数は見たい試料までの距離とレンズ径で決まるような数で、鏡筒で言うF値の逆数のような数です。開口数が小さいと分解能は悪くなり、開口数が大きいと分解能は良くなります。開口数はレンズと試料までの間の屈折率にも依存するため、大きな開口率をとるために空気よりも屈折率の高いオイルをレンズと試料の間に満たす場合もあるとのことです。

というわけで、手持ちの100倍のところにある「OIL」というのは開口数を上げるために対物レンズ筒がオイルで満たされているイマージョンオイルと呼ばれる専用のオイルを試料に垂らして(点着すると言うそうです)レンズをそこに浸して使うための表記ということがわかります。詳しくはオリンパスのこちらのページ参照。さらに、100倍のものはスプリングと呼ばれる機構がついていることがわかりました。これはレンズの先が試料に当たると、試料を破壊することがないようにレンズ先がバネで凹むようになっています。

他に重要なパラメータとして、収差をどう補正しているかがあるようです。屈折鏡筒で言うアクロマートとか、アポクロマートとかのことです。それとは別に「プラン」と呼ぶのがあるらしくて、像面湾曲収差を補正してあることを意味するらしいです。手持ちのものはこれらは何も書いていないので、安価なノーマルなものということが分かります。

それでも、一応性能を辿るくらいの事はできるので、対物レンズもおもちゃクラスではないようです。やはり教育用の最低限の入門レベルといったところでしょうか。

対物レンズについてはオリンパスのこのページが詳しいです。


実際のレンズ探し

今回の目的ですが、CMOSセンセー面を見るのに手持ちの対物レンズの100倍だと倍率が高過ぎ、10倍は低過ぎというので、

40倍程度の対物レンズがあればいい

というところからいろいろ調べています。40倍で対物レンズを探すと、新品やヤフオクの中古品、格安から研究用の超ハイエンドまで、値段で言うと数百円からはては百万超えまであります。怖い世界の一端を見た気がします。

ここで豪華コースに行くのか、格安コースに行くのかで別れます。

少なくとも今回分かったのは、そもそもCMOSセンサー面のような基板とかを見るのは生物顕微鏡の目的からは外れているということ。だって、対物レンズの最後の0.17という数字はプレパラートにかぶせるカバーガラスの厚みに応じて球面収差を補正していると言う意味で、CMOSセンサーにカバーグラスは関係ないのです。さらにカバーガラスの厚みも実際にはばらつきがあるので、高価な対物レンズにはそれを補正する機能もついているようです。こういった機能も今回の目的では無駄になってしまいます。

ちなみに、対物レンズの取り付けネジの径ですが、生物用では20.32mm、ネジピッチ36山/インチが昔から一般的のようで、手持ちのものもこの径でした。これはRMS(Royal Microscopical Society, 英国王立顕微鏡協会)ねじとよばれるもので、この径にあっているものであれば取り付けることはできるようです。ですが、正しい倍率や性能が出ないこともあるので、注意が必要とのことです。

アクロとかアポとかプランとかの収差補正は、天文マニアにはどうしても魅力的に聞こえてしまいます。実際、センサーを見た時も中心に像を合わせると周辺の歪みが確かに気になりました。そうは言っても、まあ今のところ顕微鏡にはそこまでこだわってはいないので、実用上は問題なさそうです。

というのも、今議論している対物レンズは全て生物顕微鏡用で、そもそも基板とかをみる場合には、金属顕微鏡とかいう類の上から光を当てる顕微鏡を使うそうです。生物顕微鏡は下から光を当ててみるものですが、CMOSセンサーは基板にくっついていて当然光を通さないので、上から光を落とす反射型とか落射型とかいう範疇の顕微鏡を使うのだと、やっと分かってきました。実体顕微鏡もその仲間になるのかもしれません。でも実体顕微鏡に高倍率のものはあまり無く、そもそも金属顕微鏡自体の種類が生物顕微鏡に比べると圧倒的に少ないので、手に入れようとしても割高になってしまいそうです。

というわけで、実はもう少しいい顕微鏡を中古ででも手に入れることも考えていましたが、生物顕微鏡くらいで無いと手が出ないこともわかってきました。なので今回は諦めて格安の対物レンズだけを手に入れる方向でいくことにします。

今回の勝因は、顕微鏡ポートに差し込めるT2アダプターを買っておいたことです。高価な研究レベルの顕微鏡は撮影用の専用ポートがあり、そこにカメラを固定できるようなのです。でもこのアダプターさえあれば、手持ちの顕微鏡でもASI178MCを接眼部に取り付けることもできるので、少なくとも今の目的にはとりあえず十分です。研究のように毎日使うものでも無ければ、撮影のセットアップに手間は少しかかりますが全く問題ないでしょう。

で、ヤフオクとかも考えましたが、結局アマゾンで安い対物レンズを注文してみました。到着したら今一度、今度はできればASI294MCのセンサー面をもう少し拡大してみたいと思います。

こんな安いのを買うまでにどれだけ時間をかけているのか。 でもやっと納得して買うことができました。もしこれで不満だったら顕微鏡本体も含めて一から考え直します。