気づいたらもう2024年も年の瀬です。最近なかなか忙しかったのですが、やっと年末の休暇に入って少し時間が取れそうなので、ずっとほったらかしていた画像処理を少し進めます。まずはM31の続きです。
今回の目的は、少し前の記事で書いたM31: アンドロメダ銀河加えて、ε130D+ASI6200MM Pro+CGEM IIでHα画像を撮影することで、前回のカラー画像に赤ポチを加えることと、できるならM31周りの背景の構造を出せればと思います。
カラー画像が焦点距離250mmに19x13mmのフォーサーズセンサー、今回のHα画像が焦点距離430mmに36x24mmのフルサイズセンサーなので、そこそこ似たような画角になります。違う鏡筒とカメラを使った場合に、画像をうまく合成できるのか?これまであまりやったことがないので、うまくいくかのテストも兼ねています。
そもそもなのですが、銀河の赤ポチ自体あまりやったことがなく、これまでは2021年11月撮影のM33と、2023年3月撮影のM106、
あと、申し訳程度で2022年4月に撮影して、2023年4月に再処理したM51くらいでしょうか。
Hα画像をどうやって赤っぽい色に持っていくか、銀河のRGB画像に対して赤ポチをどうやって自然に合成するかなど、まだまだ試行錯誤の段階です。今回は背景の淡い所も出そうと思っているので、明るい赤ポチと淡い背景の輝度バランスを崩さないようにマスク処理も必要になるのかと思います。
Hαで撮影できる背景の淡い構造は、M31で近年撮影され始めたもので、例えば100時間越えの撮影などで詳細な構造が出てきています。OIIIにも構造があることもわかってきていて、例えばこちらはFSQ106で3nmのフィルターで、OIII単体で45時間越えの撮影でOIIIの放射を新たに発見したとあります。こういった比較的広視野での背景の構造は、機器を個人で占有しての長時間露光ができるアマチュア天文で、今後も成果が出てくる分野なのかと思います。
今回は自宅でのHαの、高々5時間程度の撮影なのですが、それでも何か構造が見えるかどうかという挑戦になります。
カラー画像の撮影についてはすでに前の記事で書いているので、ここではε130Dでのナローの方のセットアップを少し書いておきます。
最初のHα画像の撮影日は10月12日の夜です。前日までの勾玉星雲からM31に切り替えるにあたり、横幅でちょうど銀河が収まるように、鏡筒とカメラを最初にセットして以来今回初めてカメラの回転角を90度変えました。カメラの回転については、ε130Dの接眼部に回転機構が標準で組み込まれているので、それを利用しました。スケアリングとか少し心配ですが、今回は恒星に関してはカラーで撮ったものを使うので、背景のみならあまり目立たないでしょう。今後L画像とか撮影したら問題になるかもしれませんが、BXTがあるのでまあなんとかなるでしょう。
赤道儀は前日からセットしてあったので、架台側をいじる必要はなかったのですが、上記のように鏡筒の方を色々いじっていたら結構時間が経っていて、月が沈む0時過ぎをとっくに超えてしまい、撮影開始は午前1時過ぎになってしまいました。
撮影後の朝になって気づいたのですが、ミスってASI620MM Proのbin1で撮影していたことに気づきました。ダーク画像は以前同設定で撮影したものを持っていたのですが、フラット画像は当然撮り直しになります。bin1だとすごいHDD喰いになるので枚数は50枚と控えて撮影、その後画像処理を進めます。
出来上がった画像を見ると何かおかしいです。撮影されたRAW画像を1枚1枚よく見ると、なんと中心が結露していることが判明しました。40枚撮影したのに、使えそうなのは最初の1-2枚だけでした。どうやらカメラのヒーターを入れ忘れていて、撮影後すぐに結露したみたいです。この結露に気づいたのが11月17日に画像処理をした時で(すでにこの時点で1ヶ月以上経っているのでずいぶんのんびりなのですが)、1-2枚だと全く意味がないので結局全部ボツにして、改めてHα画像を撮影することにしました。
2回目の撮影は11月25日で、今回は忘れないようにいつものbin2に設定します。もう冬に近くなってくるので、アンドロメダも早い時間からそこそこの高度に昇っています。夕方から撮影を開始し、月が出てくる午前2時くらいまで撮影を続けましたが、朝確認してみると天気予報の通り午前0時を回ったくらいで雲が出てきて、それ位この画像は全てボツとなりました。使えたのは5時間分の画像で、もちろん本当はもっと長時間撮影して淡いところを攻めたいのですが、北陸の冬は天気は全く期待できないので、この日撮影できただけでも貴重でした。これ以降撮影できたのは前回記事のM45の12月2日のみで、その後も年末まで全く撮影できていません。
RedCat51でのカラー画像の画像処理があらかた終わっていたのが11月27日で、その後Hαも交えて画像処理をしたのが11月30日。この時点でカラー画像は決定として、カラー画像完成のブログ記事を書いたのが12月5日です。Hαと合わせた画像処理は主に12月1日に終えていたのですが、まだ出来上がりに迷いがあり、少し置いておいたら結局今回の記事になってしまいました。
その間にPixInsightが1.8.9から1.9.0になり、Multiscale Gradient Correction (MGC)でとうとうMARSデータを一部ですが使うことができるようになりました。うまく使えればカブリ除去に劇的な効果があると思われます。
特に今回のHα画像の背景の淡さには辟易していて、高々5時間の露光では背景の構造があることはわかるのですが、それと同じくらいの輝度でε130Dのリング状の残差光が目立ってしまい、このMGCが使って上手く補正できたらとか思っていました。でも残念ながらどうやらMGCはカラー画像にしか使えないようで、今回はとりあえずHα画像で使うことはあきらめました。
それでもこのリングを取り除かないことには背景はほとんど出てこないので、MGCの代わりにフラット画像を利用してリングを手作業で丁寧に除きました。具体的にはPhotoshopに移り、かなり輝度を落としたフラット画像を別レイヤーで表示し、差の絶対値で重ね合わせています。フラット画像の輝度を微調整することで、リング状の模様をできる限り消しています。
カラー画像とHα画像は鏡筒もカメラも違うので、画角が違うのですが、合成するためには画角を一致させなければいけません。実際にはカラー画像の方が画角が小さく、Hα画像の方が少し画角が広いので、Hα画像をカラー画像に合わせることになります。これはPixInsightの StarAlignmentを使うことで特に問題なく解決しました。PixInsightの1.9.0からImage Synchronizationという新機能ができたらしいので、今後はそれを使ってもいいかのかもしれません。
下の画像は、RedCat51のカラー画像と合わせる直前のHα画像に相当します。リングを補正したHαから、さらにカラー画像の銀河をモノクロにしたものを引いています。その後、赤ポチ部分にマスクをかけ、背景をさらに炙り出しています。上の画像と比べると相当マシになり、背景の構造が見えてきているかと思います。まだリング構造は少し残っているように見えるのですが、元のカラー画像に対してこの画像を比較(明)で重ねるため、相対的に暗いリング構造は、最終画像にはほとんど出てこなくなるくらいになります。
最終画像です。
前回のカラー画像ではあまり色を出さなかったのですが、これは今回のHαの赤とのコントラストを出すことを見越してです。モノクロに近い銀河に、Hαの赤という組み合わせを狙ってみました。赤ポチは十分明るく撮影できているので、まあ問題ないでしょう。そこそこ派手にしましたが、海外の例を見ているともっと派手なものもあるので、まあこれくらいしておきます。
さて肝心の背景の構造ですが、そもそも正しいのか?他の画像と比較しても、そこまで間違っているわけではなさそうで、かなり明るい部分だけですが何か撮れているのは間違いなさそうです。だからと言って十分とはとても言い難く、ε130Dの比較的明るい鏡筒だとしても撮影時間が絶対的に足りていないでしょう。これ以上の本当に淡いところは全く見えませんでした。自宅での撮影なので光害が問題の可能性もあり、ここら辺は暗いところでの撮影と比較して今後定量的に検証していきたいと思います。改善点としては、一つは暗い場所に行くことですが、もう一つはHαフィルターを3nmのものに変更する手があるかと思います。
なかなか遠征で時間を稼ぐのは今の体力では現実的に難しそうなので、ナローバンドフィルターですでにスカイノイズが無視できて、ダークノイズかリードノイズに支配されているなら、本格的に3nmフィルター導入というのは、アリかもしれません。本当に得するかどうか、こちらも定量的に検討してみたいと思います。
秋の代表アンドロメダ銀河も、のんびり処理していたらいつの間にか年末の冬です。残りの未処理画像は夏の網状星雲と、勾玉星雲です。相変わらず天気は悪いので、まだしばらく撮影はお預けになりそうなことを考えると、焦って処理を進めても勿体無いので、ゆっくり進めようと思います。
今年の記事は多分これでおしまいです。すでに実家の名古屋に帰省してこの記事を書いています。みなさん、どうか良いお年を。
目的
今回の目的は、少し前の記事で書いたM31: アンドロメダ銀河加えて、ε130D+ASI6200MM Pro+CGEM IIでHα画像を撮影することで、前回のカラー画像に赤ポチを加えることと、できるならM31周りの背景の構造を出せればと思います。
カラー画像が焦点距離250mmに19x13mmのフォーサーズセンサー、今回のHα画像が焦点距離430mmに36x24mmのフルサイズセンサーなので、そこそこ似たような画角になります。違う鏡筒とカメラを使った場合に、画像をうまく合成できるのか?これまであまりやったことがないので、うまくいくかのテストも兼ねています。
そもそもなのですが、銀河の赤ポチ自体あまりやったことがなく、これまでは2021年11月撮影のM33と、2023年3月撮影のM106、
あと、申し訳程度で2022年4月に撮影して、2023年4月に再処理したM51くらいでしょうか。
Hα画像をどうやって赤っぽい色に持っていくか、銀河のRGB画像に対して赤ポチをどうやって自然に合成するかなど、まだまだ試行錯誤の段階です。今回は背景の淡い所も出そうと思っているので、明るい赤ポチと淡い背景の輝度バランスを崩さないようにマスク処理も必要になるのかと思います。
Hαで撮影できる背景の淡い構造は、M31で近年撮影され始めたもので、例えば100時間越えの撮影などで詳細な構造が出てきています。OIIIにも構造があることもわかってきていて、例えばこちらはFSQ106で3nmのフィルターで、OIII単体で45時間越えの撮影でOIIIの放射を新たに発見したとあります。こういった比較的広視野での背景の構造は、機器を個人で占有しての長時間露光ができるアマチュア天文で、今後も成果が出てくる分野なのかと思います。
今回は自宅でのHαの、高々5時間程度の撮影なのですが、それでも何か構造が見えるかどうかという挑戦になります。
撮影
カラー画像の撮影についてはすでに前の記事で書いているので、ここではε130Dでのナローの方のセットアップを少し書いておきます。
最初のHα画像の撮影日は10月12日の夜です。前日までの勾玉星雲からM31に切り替えるにあたり、横幅でちょうど銀河が収まるように、鏡筒とカメラを最初にセットして以来今回初めてカメラの回転角を90度変えました。カメラの回転については、ε130Dの接眼部に回転機構が標準で組み込まれているので、それを利用しました。スケアリングとか少し心配ですが、今回は恒星に関してはカラーで撮ったものを使うので、背景のみならあまり目立たないでしょう。今後L画像とか撮影したら問題になるかもしれませんが、BXTがあるのでまあなんとかなるでしょう。
赤道儀は前日からセットしてあったので、架台側をいじる必要はなかったのですが、上記のように鏡筒の方を色々いじっていたら結構時間が経っていて、月が沈む0時過ぎをとっくに超えてしまい、撮影開始は午前1時過ぎになってしまいました。
撮影後の朝になって気づいたのですが、ミスってASI620MM Proのbin1で撮影していたことに気づきました。ダーク画像は以前同設定で撮影したものを持っていたのですが、フラット画像は当然撮り直しになります。bin1だとすごいHDD喰いになるので枚数は50枚と控えて撮影、その後画像処理を進めます。
出来上がった画像を見ると何かおかしいです。撮影されたRAW画像を1枚1枚よく見ると、なんと中心が結露していることが判明しました。40枚撮影したのに、使えそうなのは最初の1-2枚だけでした。どうやらカメラのヒーターを入れ忘れていて、撮影後すぐに結露したみたいです。この結露に気づいたのが11月17日に画像処理をした時で(すでにこの時点で1ヶ月以上経っているのでずいぶんのんびりなのですが)、1-2枚だと全く意味がないので結局全部ボツにして、改めてHα画像を撮影することにしました。
2回目の撮影は11月25日で、今回は忘れないようにいつものbin2に設定します。もう冬に近くなってくるので、アンドロメダも早い時間からそこそこの高度に昇っています。夕方から撮影を開始し、月が出てくる午前2時くらいまで撮影を続けましたが、朝確認してみると天気予報の通り午前0時を回ったくらいで雲が出てきて、それ位この画像は全てボツとなりました。使えたのは5時間分の画像で、もちろん本当はもっと長時間撮影して淡いところを攻めたいのですが、北陸の冬は天気は全く期待できないので、この日撮影できただけでも貴重でした。これ以降撮影できたのは前回記事のM45の12月2日のみで、その後も年末まで全く撮影できていません。
Hα画像が淡すぎ
RedCat51でのカラー画像の画像処理があらかた終わっていたのが11月27日で、その後Hαも交えて画像処理をしたのが11月30日。この時点でカラー画像は決定として、カラー画像完成のブログ記事を書いたのが12月5日です。Hαと合わせた画像処理は主に12月1日に終えていたのですが、まだ出来上がりに迷いがあり、少し置いておいたら結局今回の記事になってしまいました。
その間にPixInsightが1.8.9から1.9.0になり、Multiscale Gradient Correction (MGC)でとうとうMARSデータを一部ですが使うことができるようになりました。うまく使えればカブリ除去に劇的な効果があると思われます。
特に今回のHα画像の背景の淡さには辟易していて、高々5時間の露光では背景の構造があることはわかるのですが、それと同じくらいの輝度でε130Dのリング状の残差光が目立ってしまい、このMGCが使って上手く補正できたらとか思っていました。でも残念ながらどうやらMGCはカラー画像にしか使えないようで、今回はとりあえずHα画像で使うことはあきらめました。
それでもこのリングを取り除かないことには背景はほとんど出てこないので、MGCの代わりにフラット画像を利用してリングを手作業で丁寧に除きました。具体的にはPhotoshopに移り、かなり輝度を落としたフラット画像を別レイヤーで表示し、差の絶対値で重ね合わせています。フラット画像の輝度を微調整することで、リング状の模様をできる限り消しています。
カラー画像とHα画像は鏡筒もカメラも違うので、画角が違うのですが、合成するためには画角を一致させなければいけません。実際にはカラー画像の方が画角が小さく、Hα画像の方が少し画角が広いので、Hα画像をカラー画像に合わせることになります。これはPixInsightの StarAlignmentを使うことで特に問題なく解決しました。PixInsightの1.9.0からImage Synchronizationという新機能ができたらしいので、今後はそれを使ってもいいかのかもしれません。
下の画像は、RedCat51のカラー画像と合わせる直前のHα画像に相当します。リングを補正したHαから、さらにカラー画像の銀河をモノクロにしたものを引いています。その後、赤ポチ部分にマスクをかけ、背景をさらに炙り出しています。上の画像と比べると相当マシになり、背景の構造が見えてきているかと思います。まだリング構造は少し残っているように見えるのですが、元のカラー画像に対してこの画像を比較(明)で重ねるため、相対的に暗いリング構造は、最終画像にはほとんど出てこなくなるくらいになります。
結果
最終画像です。
「M31: アンドロメダ銀河」
- 撮影日: 2024年10月13日0時46分-4時33分 (カラー)、2024年11月25日18時24分-23時39分 (Hα)
- 撮影場所: 富山県富山市自宅
- 鏡筒: William Optics RedCat51(f250mm、F4.9) (カラー) 、ε130D (430mm、F3.3) (Hα)
- フィルター: UV/IR cut (カラー)、Baader 6.5nm (Hα)
- 赤道儀: SWAgTi (SWAT-350V-spec Premium + AZ-GTi) (カラー)、CGEM II (Hα)
- カメラ: ZWO ASI294MC Pro (-10℃) 、ZWO ASI6200MM Pro (-10℃) (Hα)
- ガイド: なし (カラー)、f120mmガイド鏡 + ASI290MM、PHD2によるマルチスターガイドでディザリング (Hα)
- 撮影: NINA、Gain 120、露光時間3分 x 64枚 = 192分 = 3時間12分 (カラー)、Gain 100、露光時間5分 x 60枚 = 300分 = 5時間00分 (Hα)
- Dark, Flat: なし (カラー)、Gain 100、露光時間5分 x 117枚 = 585分 = 9時間45分 (Hα)
- 画像処理: PixInsight、Photoshop CC
前回のカラー画像ではあまり色を出さなかったのですが、これは今回のHαの赤とのコントラストを出すことを見越してです。モノクロに近い銀河に、Hαの赤という組み合わせを狙ってみました。赤ポチは十分明るく撮影できているので、まあ問題ないでしょう。そこそこ派手にしましたが、海外の例を見ているともっと派手なものもあるので、まあこれくらいしておきます。
さて肝心の背景の構造ですが、そもそも正しいのか?他の画像と比較しても、そこまで間違っているわけではなさそうで、かなり明るい部分だけですが何か撮れているのは間違いなさそうです。だからと言って十分とはとても言い難く、ε130Dの比較的明るい鏡筒だとしても撮影時間が絶対的に足りていないでしょう。これ以上の本当に淡いところは全く見えませんでした。自宅での撮影なので光害が問題の可能性もあり、ここら辺は暗いところでの撮影と比較して今後定量的に検証していきたいと思います。改善点としては、一つは暗い場所に行くことですが、もう一つはHαフィルターを3nmのものに変更する手があるかと思います。
なかなか遠征で時間を稼ぐのは今の体力では現実的に難しそうなので、ナローバンドフィルターですでにスカイノイズが無視できて、ダークノイズかリードノイズに支配されているなら、本格的に3nmフィルター導入というのは、アリかもしれません。本当に得するかどうか、こちらも定量的に検討してみたいと思います。
まとめ
秋の代表アンドロメダ銀河も、のんびり処理していたらいつの間にか年末の冬です。残りの未処理画像は夏の網状星雲と、勾玉星雲です。相変わらず天気は悪いので、まだしばらく撮影はお預けになりそうなことを考えると、焦って処理を進めても勿体無いので、ゆっくり進めようと思います。
今年の記事は多分これでおしまいです。すでに実家の名古屋に帰省してこの記事を書いています。みなさん、どうか良いお年を。