ほしぞloveログ

天体観測始めました。

カテゴリ: アイデア、理論など

エタロンの透過応答の精度をあげる努力をしています。


フェニックスのエタロン透過特性を測るにあたって

以前PSTのエタロンを含んだ透過応答を実測して解析しました。


現在新たにPhoenixのエタロンの応答を測定していますが、いい機会なので合わせていろいろと精度を上げようと思っています。
IMG_2381

精度向上に関し、いくつかやりたいことはあるのですが、この記事では波長のキャリブレーションについて議論します。


波長のキャリブレーション

波長のキャリブレーションは分光器SHG700で別途フラウンホーファー線をカメラで写して、その画像を解析して行います。PSTのエタロンの透過応答の測定の際も、このフラウンホーファー線を元に、波長を決めました。具体的には、撮影したフラウンフォーファー線とJSol‘ExのSpectrum Browserの画面を比較します。似たような線の位置を探し出すのですが、Spectrum Browserでは波長を数字で指定できるので、何本か同じ位置の線がわかれば、波長に換算することができます。前回は、下の画像のように目で見比べながら同じ位置の線を特定していましたが、結構面倒なんですよね。しかも、下で数値が見えている2点で合わせただけなので、精度的に、特にHαより短い波長側にズレがある可能性があります。

wavelength_select_cut

そこで、撮影したフラウンフォーファー線の画像と、波長と強度がわかっている参照データを比較して、自動的にフィッティングしてキャリブレーションしてしまおうと考えたのです。

とりあえずフィッティングしてみるが...

最初に作ったプログラムで比較した結果です。まずはHαよりも長い波長側です。
higher_HA_graph

これを見る限り、そこそこうまくフィッティングできているように思えます。ところが波長の短い側を見てみると、全く合っているように見えません。
lower_HA_graph

そもそも、目で見て合いそうな線を追ってみても、候補さえないような状態です。

ここで一度フラウンホーファー線と、JSol'Exの画像比較に戻って確かめてみました。波長が長い方を比較します。上の方に見えている黒い太い線がHαになります。その下に何本か特徴的な線があり、やはり両画像ともそこそこ合っているように見えます。
higher_HA_cut

同じ比率を保ったまま、Hαより短い波長側を見てみます。画面一番下の黒色太い線がHαです。その上を見てみますが、とてもではないですが合っているように見えません。波長が長い側と短い側で、比率は変わってもいいはずなので、線の間をそれらしく伸ばしたり縮めたりしたとしても、全く候補となるような一致する線が見当たりません。
lower_HA_cut


ここで何日か停滞しました。


参照データを考えて直してみる

実測が間違えているのか、参照データが間違えているのか、色々考えてみました。JSol'Exのデータと、今回使った参照データ (Zenodo に公開されている Solar FTS Atlas.npy, https://zenodo.org/records/14641641/files/solar_reference_atlas.npy)はほとんど同じ形をしているようです。ということは、実測したフラウンホーファー線が何か間違っているのでしょうか?いやいや、少なくともHα線より長波長側ではある程度一致したデータとなっているので、測定自身がおかしいという可能性は少ないかと思います。なので色々調べてみると、太陽スペクトルのデータには何種類もあって、純粋な太陽光を目指したものと、地上で 観測された現実のスペクトルに近いものがあるとのことです。太陽光を目指したものは多くの地球大気吸収線が除去または抑制されているそうです。

というわけで、手に入りやすい以下の4つのスペクトルを実際に比較、グラフ化してみました。
  1. Solar FTS Atlas 
  2. IAG
  3. NSO/Kurucz 1984
  4. PEPSI
作ったグラフのHαより短い側をよく見てみます。
NSO_PEPSI
Solar FTS Atlas(青)とIAG(オレンジ)に関しては、存在しない吸収線がたくさんあるようです。この範囲内でさえもパッと数えて10本くらいはあります。特にSolar FTS Atlas(青)は上側が綺麗すぎたりするので、観測データではなく理論的な線の可能性が高そうです。

その一方、NSO/Kurucz 1984(緑)とPEPSI(赤)は深さこそ差はありますが、吸収線の数が多くて、位置も合わせてかなり似通っています。こちらは地上での観測データと考えていいでしょう。実際には真空中の波長か空気中の波長かで2Å程度ずれるとかもありますが、詳細になりすぎるのでここでは省略します。


PEPSIデータでフィッシング

というわけで、参照データをPEPSIに変更して、再度フィッティングしてみます。さて、どうでしょうか?

Hαより長い波長側と
high

Hαより短い波長側です。
low
特に短い波長側で劇的な改善が見えます。まだ説明できない実測の線もありますが、参照データにある吸収線はほとんど一致していることがわかります。

これで、実測のフラウンホーファー線の波長が精度良くわかったことになります。ということは、カメラの各ピクセル位置がどの波長になるかもわかったとういことになるので、回折格子やカメラの位置を変えない範囲でエタロンやBFの透過特性を測定すれば、波長に対する応答に変換できるというわけです。


まとめ

思ったより時間がかかってしまいました。やはりプログラミングはそこまで得意でないので、ペースが遅いです。でも今回の解析で、参照できる太陽スペクトルの状況がある程度わかったので、今後も今回の情報は使えるかと思います。

とにかくこれで、今後分光器を使って波長を特定する場合に、毎回手でやる必要がなくなったのが大きいです。

もう一つエタロンの測定精度に関わることを議論しています。こちらもきちんと解決したいと思っているので、もう少し時間がかかるかもしれません。


ASO294MM ProのROIを変更することで、TSA-120での分光撮影ができるようになったのですが、その日は風が強くて撮影した画像はブレブレでイマイチでした。エタロンを使ったフェニックスでのHα画像撮影とも比較しようとしましたが、ミスでライブスタックした画像しか残っていなかったので、年末休暇の2日目の28日(土)、満を持しての比較検討です。


機材の違い

3パターンの分光撮影と、参考として口径4cmのエタロンを使った
  1. TSA120+ASI294MMPro
  2. FC76+ASI294MMPro
  3. FC76+G3M678M
  4. Phoenix+G3M678M
の計4種で撮影しました。上3つが分光、最後がエタロンです。見たいポイントは、波長分解能と、空間分解能です。

IMG_2314

IMG_2315

波長分解能は分光の3つはほとんど差が出ないことは計算上わかっています。厳密にはカメラのピクセルサイズが効いていて、G3M678Mを使ったFC-76の方がいいですが、高々1割程度の違いなので見た目ではわからないでしょう。今のセットアップでの分光撮影とフェニックスエタロンとはFWHMで5倍くらいの差があるので、ここまで差があると見た目にもわかるかと思われます。

空間分解能に関してはFC-76の口径で制限されていることがわかっているので、TSA-120が有利です。計算上はカメラの分解能は2.0umのG3M678Mでも2.3umのASI294MMのbin1でも効いていなくて(bin2だと効いてきて分解能が悪くなる)、口径の1.5倍の違いだけが効いてくるので、空間分解能は単純に1.5倍良くなるはずです。を1の1.5倍ほどいいはずです。空間分解能の1.5倍は見た目にも顕著なはずで、こちらも画像で見て確認できるはずです。

というわけで、波長分解能は計算上

3>1=2>>4

でFC76+G3M678Mが一番よく、空間分解能は計算上

1>3~2>4

でTSA120+ASI294MMProが一番いいはずです。

さて、実際の結果はどうなるのでしょうか?


撮影

撮影は、1→4→2→3の順になりました。前回のTSA120+ASI294MMPでの再現をまずして、次に簡単なフェニックスでの撮影、その後エタロンとカメラをくっつけたままFC-76につかけえて撮影、最後にカメラをG3M678Mに取り替えたという手順になります。

時間と撮影枚数などは
  1. 11時41分-12時16分で10枚
  2. 13時3分-13時27分で10枚
  3. 14時20分-14時31分で10枚
  4. 12時38分で1500枚の内上位50%
となります。撮影した時間にある程度の開きはありますが、天頂を挟んでいることと、天候も一定で風もほとんど無く、条件はそこまで変わらないと思います。

画像処理もある程度条件を揃えています。分光撮影はJSol'Exで処理後、ストレッチなどしていない「disk」フォルダのtifファイルを上記枚数分AutoStakkert!4でスタック、ImPPGで細部出しとコントラスト出しをするところまでです。前回の記録ではさらにPixInsightとPhotoshopで加工などしていますが、今回の比較ではできるだけ未加工の状態で比べたいので、それらの最後の仕上げはしていません。フェニックスの方は、動画をAutoStakkert!4スタックし、ImPPGで細部出しをしています。


全体像の比較

結果を1、2、3、4の順に並べます。

IP_aligned_lapl2_ap21123_IP
1. TSA120+ASI294MMPro

IP_aligned_lapl2_ap8066_IP
2. FC76+ASI294MMPro

IP_aligned_lapl2_ap11969_IP
3. FC76+G3M678M

12_38_40_lapl2_ap3724_IP_flipcut
4. Phoenix+G3M678M

波長分解能は上の4枚の比較でわかるかと思います。予想通り、1、2、3はほとんど同じかと思いますが、4はやはり違って見えます。見るべきところは、分光の1、2、3はダークフィラメントのコントラストが良いこと、プラージュの明るい領域の他に、もっと広域で白いモヤモヤが広がっているところでしょうか。細かい模様は4のフェニックスの方が一見よく見えています。これはHα線からズレたところに出てくる模様で、波長分解能としては悪くなっていることを表しています。分光撮影で波長幅をあえて大きくしてHαからズレたところも含めると、同様の画像が再現できることがわかっています。

TSA-120の画像はコントラストがいまいちな他に、上下に周辺減光の影響が出ていることがわかります。細長い領域で撮影し、それを赤経でスキャンするので、その端の暗い部分の影響が上下に出るというわけです。もっと言うと、コントラストが悪いのもこの周辺減光が原因です。輝度差のために簡易な画像処理の段階ではまだコントラストを補正しきれないのです。


拡大像の比較

次に、真ん中右の黒点部分をそれぞれ拡大して比較してみます。左上から1、右上が2、左下が3、右下が4です。
スクリーンショット 2025-12-30 204222_cut


空間分解能は拡大した画像を比較すると良くわかります。予想は

1>3~2>4

でしたが、結果は意外なことに

2>3>1

となりました。4のフェニックスの画像は少し出方が違うので比較が難しいのですが、あえて言うなら

2>3>4>1

くらいでしょうか。これは画像処理を進めていくとわかる結果で、FC-76はもっと細部を出しても耐えられますが、フェニックスは無理をすると破綻してしまいます。口径わずか4cmなので、限界に近い分解能が出ているのかと思います。ざっくり計算で口径4cmだと分解能は4秒、カメラの1ピクセル2umでが焦点距離400mmだと分解能が1秒くらいなので、口径からくる光学限界が見えている可能性が高いです。

問題はTSA-120で、なぜここまで出ないのかよくわかっていません。


なぜ実際の分解能が予測と違うのか?

いずれにせよFC-76のカメラ違いの順序も含めて、予想と全然違います。これにはさすがに???となってしまいました。何か順序とかに間違えがないか見直しても、特におかしなところはありません。単純なミスではなさそうなので、いくつか可能性を考えてみます。
  • まずパッと思いついたのは、撮影した時間が違うことです。でも、普通は朝早い方が条件がいいので、TSA120の結果が悪くなることはないはずです。
  • 撮影に長い時間をかけると模様が変わってくるのでぼやけたような結果になります。確かに1のTSA-120での撮影に一番時間をかけていますが、2と3のFC-76の撮影では3の方がはるかに短い時間で撮影していても、2の方が分解能が出ているので、うまく説明できません。
  • たまたま2の撮影の時だけシーイングが良かった可能性もあります。でも、いいシーイングがある程度続くのはせいぜい10分くらいで、特にいいシーイングは1時間のうちほんの30秒くらいです。機材1パターンの撮影が30分程度にわたって続いているので、こちらもある程度平均化されているかと思います。でも、シーイングの可能性は捨てきれないことも確かです。
  • 分光器の調整や、ピントがあっていなかった可能性もあります。できる限り同じような精度で調整していますが、今回は分光器の付け替えや、カメラの付け替えで、調整の精度がばらついている可能性は否定できません。でも今回は1=2>3の順で精度がいいのかと思っています。1は前回も合わせていていつもの手順通り。2は太陽像が小さくなるので、同じ手順で調整できます。3はカメラのセンサー面積が小さくなり、スリットの端が見えないので、太陽像と背景のエッジ、フラウンホーファー線のピント、粒状斑ので具合の3つを見ながら、コリメートレンズ、カメラレンズ、鏡筒の焦点の3つの自由度を合わせ込む必要があります。これら3つの自由度は独立ではないため、合わせ込みが難しく、3番目の調整が一番大変でした。もしかしたら3番目に一番時間をかけて調整したので、ここだけ逆に精度が出ている可能性もなくはないですが、いずれにせよ1番と2番に差はあまりないはずで、この調整が原因で1番と2番の順序の逆転を説明できるとは思えないです。

色々考えていて、ふと思いついたことがあります。撮影時の赤道儀のスキャンのスピードの違いです。
  • 1番と2番はASI294MMPでフレームレートが70fps程度低いので、スキャン時の赤径の移動スピードを4倍にまで落としています。その一方、3番はG3M678Mのフレームレートが300fps程度とかなり速いので、赤径の移動スピードを16倍にしてあります。
  • 1番と2番のスキャンスピードは同じですが、TSA-120とFC-76で焦点距離が違うので、太陽像自身が小さくなります。太陽の径は同じなのでスキャンしている角度は同じですが、焦点距離が短い分仕上がり画像で言う縦幅が小さくなるので、縦横比が大きくなります。要するにより仕上がり画像の横方向を相対的により(ゆっくり)細かくスキャンしていることになります。その分情報量が多くなるので分解能も増すという考えです。
  • 3番は縦横比を保つくらいの速度でスキャンしているので、分解能はそこまで上がらないはずです。
  • でも相対的には縦に比べて横方向は情報量は増えたかもしれませんが、TSA-120の画像に比べたら縦横比が増したというよりは、縦の情報量が減っただけと考えることもできるので、あまり説明できない気もします。

まとめ

TSA-120での分光撮影から久しぶりにFC-76での分光撮影にもどって思ったのは、TSA-120での撮影はかなり無理をしているなということです。スリット長を長くしましたが、焦点距離900mmはスリット長ギリギリまで太陽像が大きくなります。極軸が合っていないと撮影していてもすぐに位置がズレてしまい、スリットからはみ出してしまいます。カメラも大きなセンサーサイズを必要としますし、その分フレームレートも落ちます。単発の撮影ならまだしも、スタックすることを考えて連続撮影しようとしても、撮影時間が長くなってしまい、かつ成功率も低いので、さらに撮影時間が長くなってしまいます。毎回記録撮影をするとしたら、ここまで苦労するのは大変ではないかと思っています。しかも苦労の割に今回口径の大きいはずのTSA-120の方が分解能が悪いという結果になってしまいました。周辺減光も深刻そうだと改めて今回思いました。

分解能が出ない理由がまだはっきりしなくて、結局結論は出ないので、天気が良くなったら今一度撮影してみようと思います。簡単なのは、FC76+G3M678Mで赤道儀のスピードをx4、x8、x16、x32倍速でそれぞれ撮影し比較してみることです。x4があからさまに分解能がよくなったなら、今回のことは説明ができる可能性が出てきます。

その一方、TSA-120はASI294MMPの4倍速の一択なので、こちらも何かおかしなところがないか、またFC-76の撮影の前後で撮影するとか、FC-76の4回の撮影と交互に撮影するとかで、状況変化の影響をなくせればと思います。

とにかく、TSA-120の方がいいのか、FC-76の方がいいのか、今後の撮影の大変さに大きくかかわるので、はっきりさせたいです。もっと正直に言うと、今回のFC-76くらいの結果がコンスタントに出るならもう十分で、機材が楽なこともあり、今後もこの設定で記録していく方が楽な気がしています。

今回はTSA-120の優位性を示したかったのですが、予想外の結果となってしまいました。でもこれはこれで面白いので、かたをつけたいと思います。

今回はTSA-120の優位性を示したかったのですが、予想外の結果となってしまいました。でもこれはこれで面白いので、かたをつけたいと思います。


日記

実は次の日曜にC8で粒状斑の撮影を試みたのですが、強風で画面が揺れまくり、合計400GBくらい撮影した画像は全て無駄となりました。休暇のうちはもう富山は晴れそうにないので、実家の名古屋に年末年始で帰る時に機材一式を持っていって、今一度チャレンジしようと思っています。太平洋側が羨ましいです。

IMG_2317

ちなみに土曜の夜も撮影しています。新機材のテストです。こちらもまたまとまったら記事にします。



SHG700での太陽分光撮影ですが、安定に運用できることはほぼわかってきたので、もう少し性能アップを図りたいと思います。そのための下計算をしてみます。


改善パラメータ

太陽の分光撮影で、結果として改善ていきたいのは
  • より細かい波長分解能
  • より細かい空間分解能
の2点です。これらを改善するために分光撮影の構成機器である、1. 鏡筒、2. カメラ、3. 分光器の性能を考えていきます。

1. 望遠鏡に関しては
  • 口径
  • 焦点距離
がパラメータになります。望遠鏡によって収差も当然ありますが、簡単のためここでは考えないこととします。

2. カメラに関しては
  • ピクセルサイズ
が一番効くパラメータです。実際にはセンサーサイズやフレームレートなども関係してきますが、分解脳にはやはりどれだけ細かく写せるかというピクセル自身のサイズが重要です。

3. 分光器に関しては
  • スリット幅
  • 回折格子の溝の数の密度
  • コリメートレンズの焦点距離
  • カメラレンズの焦点距離
が大きく効いてくるでしょうか。

波長分解能についての計算はastrosurfのSol'ExのTheoryのページがわかりやすいでしょう。それでも空間分解能まで含めて自分で計算するのは結構大変なので、Ken Harrison氏が作ったエクセルファイル「SIMSPEC SHG」を使うといいでしょう。最新は2023年6月のversion V1.5bのようです。下の画像は、自分の環境用にSHG700、FC-76、G3M678Mを適用して計算したものです。
SimSpec SHG V1_5b_20250913_SHG700_FC76_G3M678M_cut

ここで注目すべき値は、
  • 波長分解能: Dispersion (r): 0.091 Å/pixel
  • 空間分解能: Spatial (best) resolution: 2.2 arcsec
で、各種パラメータをいじって、これら2つの値を改善することを目標にします。


波長分解能の改善の難しさ

表の値で波長分解能に関するところを見ていくと、よく似た値としてナイキスト周波数も考えたEstimated (best) bandwidthというのがあります。ただし、Hα回りの輝度グラフを書くと、ピクセルごとに輝度に有意な差が見えたために、Dispersionの方で考えることにしました。ここで計算された0.091 Å/pixelは、実際のHα線の撮影動画をJSol'Exで実測した値と一致しています。
スクリーンショット 2025-07-05 101928


でも現実的には、この波長分解能のを改善しようとするのは結構大変で、分光器のカメラレンズの焦点距離を長くするか、回折格子の密度を増やすか、CMOSカメラのピクセルサイズを細かくするくらいしか手がありません。前者2つはSHG700を大幅にてこ入れする必要がありますし、ピクセルサイズはすでに最小に近い部類のG3M678Mを使っているため、これも難しいです。

もしやろうとするなら、SHG700の秀逸なアセンブル(コンパクトさ)を諦めてカメラレンズの焦点距離を伸ばすのが最も簡単かと思いますが、大幅改造になるので波長分解能の改善に関しては今回は諦めることとして、将来の課題としておきたいと思います。実際には撮影して楽しむレベルでは0.091 Å/pixelという値はもう十分すぎる性能なので、ここを改善する場合何か明確な動機を持っておいた方がいいでしょう。


空間分解能の改善の可能性

一方、空間分解脳に関してはまだまだ改善の余地がありそうです。例えば、上記設定の鏡筒の口径を76mmから120mmに変えると、
  • 空間分解能は2.2 arcsecから1.4 arcsecに改善
されます。手持ちの鏡筒だとTSA120を使うことができます。ですが、その場合焦点距離が900mmになるので、太陽像が大きくなってしまいます。ここで浮上する問題点は
  • スリットの長さが短すぎて太陽像がはみ出してしまう
  • CMOSカメラのセンサーサイズが小さすぎて太陽像がはみ出してしまう
ということです。実際計算すると、太陽サイズの84.8%しか撮影できないため、このままだとモザイク撮影の必要が出てきます。もちろんモザイク画像でも、太陽の縁がある程度映っている限り可能ですが、何枚かスタックすることも考えるとかなり面倒です。

このサイズ拡大問題はそんなに単純ではなくて、スリットサイズやカメラセンサーサイズの拡大を含めて、トータル設計で改善する必要があります。

これに関して、最近MLastroから10mm長のスリットの発表がありました。標準の7mmが700mmの焦点距離まで対応しているので、ざっくりですが焦点距離を1000mm程度まで増やすことができます。これはすでに発注してあるので、そのうち自宅に届くでしょう。

たとえスリット長だけを伸ばしても、カメラセンサーサイズの制限から、それでも太陽像の93.0%までしか一度に入らない計算になります。実際は余裕を見て太陽サイズの120%程度の広さを撮影したいので、カメラセンサーサイズを大きくする必要があります。

焦点距離1000mm程度までなら、IMX183が小さなピクセルサイズと適したセンサーサイズを兼ね備えた候補なのですが、値段的にカメラをぱっと買うのは大変なので、とりあえずは手持ちのASI294MM Proのbin1を試してみようと思っています。ただし、bin1撮影はこれまでの経験でジャジャ馬っぽいことがわかっているのと、フレームレートが出にくい可能性があるので、どうしようもなければ新規にカメラを購入することになるのかと思います。

スリットとセンサーサイズは計算上に出てきてすぐにわかることなのですが、実際にこれらを改善しようとすると、実は問題はこれだけにとどまりません。例えば口径が76mmから120mmに増えると、光量が約2.5倍に増えます。ちょうど焦点位置に置かれるスリットがその光量増加に耐えられるのか、必要なら別途フィルターを追加するなどの処置が必要になるかもしれません。

それでも空間分解能で1.5倍の改善というのは、目に見えてわかる劇的な改善なので、ぜひ試してみたいと思っています。TSA-120とASI294MM Proを適用した改善後の計算結果を示しておきます。

SimSpec SHG V1_5b_20250913_SHG700_TSA120_ASI294MM_cut

カメラを変えたことによりピクセルサイズが若干大きくなって、波長分解能が少し悪くなってしまっています。それでも0.105Å/pixel程度はあるので、十分でしょう。

追記: その後、TSA-120にアップグレードし、さらにカメラをASI294MM Proにして撮影してみました。



Sol'Exとの比較

ここで少し、SHG700とSol'Exの違いについて考えてみたいと思います。数値的に光学性能だけ見れば、SHG700よりもSol'Exの方が優れていることが多いのがわかります。例えば、SHG700はコリメートレンズ、カメラレンズともに焦点距離72mmですが、Sol'Exはコリメートレンズが80mm、カメラレンズが125mmと長いものになっています。例えば今の自分のFC-76とG3M678MにSol'Exを取り付けてみます。

SimSpec SHG V1_5b_Solex_FC76_G3M678M_cut


計算結果から分かりますが、
  • 波長分解能は0.091 Å/pixelから0.052 Å/pixel
と劇的に改善することがわかります。これだけみると、Sol'Exの方が得な気がします。SHG700はなぜ一見改悪とも取れる、焦点距離を短くする方向に向ったのでしょうか?

これを考察する前に、まずはネットに上がっているSol'ExとSHG700の太陽画像の平均らしきところを比べてみましょう。明らかにわかるのですが、SHG700の方が綺麗に出ていることは誰もが思うことでしょう。もちろん例外はありますが、傾向としては明らかだと思います。

ではなぜここまで差が出るのか?少し検証してみます。といっても私自身はSol'Exは持っていないので、かなり推測の部分も多くなると思いますが、そこら辺はご容赦ください。

まず大きく違うのが、SHG700でコリメートレンズとカメラレンズのピント合わせにマイクロメータを採用していることでしょうか。これまでの実際の撮影で、両レンズの位置をマイクロメーターの値を見ずにベストの位置を探って決定し、その後に確認でマイクロメーターを見ると、ほぼ毎回マイクロメーターの1目盛以内に収まります。付属のマイクロメーターの1目盛は、1回転で50目盛で0.5mm移動なので、10ミクロンの移動量に相当します。結局これくらいの精度での位置合わせが必要になるということなのですが、Sol'Exの標準の手動での移動ではどう足掻いてもこの精度を出すのは厳しいのかと思います。XでJia Cangさんがレンズの移動をネジ式に変えて、かなり綺麗に撮影できるようになっているので、やはりここは大きく効いているのかと思います。もう一つの、3つ目の波長選択のためのマイクロメーターは、あると便利ですが、実際にはある程度の波長幅を持って撮影するので、精度という意味では撮影画像のクオリティーにはそこまで効いていないのかと思います。

もう一つの違いがスリットです。Sol’Exのスリット幅も初期の10μmから現在は7μmと進化していますが、スリット幅自身が問題というわけではありません。ポイントはSHG700のスリットは合成石英製で、熱に強いものになっているところです。そのため、多少口径の大きい鏡筒でも問題なく使えることになります。MLastroのページによると口径100mm程度まではERFなどのフィルターなしで使用することができるとのことです。口径は空間分解能に直結するので、Sol’Exで大口径を使いにくというのは、やはり差が出るのかと思います。

結局ブログ記事にはしていませんが、今年も胎内の星まつりに少し参加していて、そこで太陽分光機材を出しているブースがありました。Sol'Exと、なんとSHG700も置いてあったのですが、聞いてみるとまだSHG700は届いたばかりで使っていないとのこと。でも話を聞いている限り、Sol'Exを使う限りはコリメートレンズとカメラレンズの精度に関してはあまり気を使っていないようでした。というよりも、Sol'Exだけを使っているとレンズ位置にそこまで精度がいるという認識にならないような印象を受けました。よく「Sol'Exは面白いけど難しい」とか「再現性よく撮影することができない」とか聞くのですが、機構的にレンズの位置合わせの精度が出ないことが最大の理由なのかと推測してます。でも簡単に改造できるのもSol'Exの利点の一つなので、Jia Cangさんのように、ネジ式にするだけでも相当改善するのかと思います。


日記

久しぶりのブログ記事です。お盆からずっとほぼ休みがないレベルで忙しくて、ここ一ヶ月で天文にかけることができたのは、胎内の星まつりにかなり無理して行ったことと、8月末の友人主催の観望会のお手伝いをしたことくらいです。休日もあるにはあったのですが、ほとんど書類書きに追われていて、ブログを書く時間さえ確保できませんでした。やっと懸念事項も解決しつつあり、この連休くらいから趣味に割ける時間が戻ってきました。

ブログ記事にできなかった胎内での話を少しだけ書いておきます。

今回の参加はあまり無理をせず、土曜の朝、比較的ゆっくり自宅を出て、昼頃に会場近くに到着しました。とりあえず胎内ロイヤルパークホテルのちょっと豪華なランチを食べ、その後のんびりと会場に向かいました。最近は太陽ばっかりで、そこまで欲しいものはないので、何か買うというよりはブースをゆっくり見て回りながら、店員さんや、知り合いの人たちと会話を楽しむのがメインでした。夜も少し星を見て、また次の日も忙しいので、あまり遅くならないうちに帰宅してしまいました。

星まつり会場では、太陽に関する講演があったので、たまたまお会いした仙台の木人さんと一緒にチケットを取って聞くことができました。透過波長幅を測る手段として分光について少しだけ講演内で話があり、SHG700にも触れられていました。講演者が直接使ったというよりは、知り合いが手に入れて試してみたとのことなのですが、今後日本でも様々な結果が出てくることでしょう。今後もっと分光に関しては盛り上がってもいいのかと思っていますが、ブースで何人かのショップ関係者に聞いたところの感触はあまり良くなくて、やはり撮影と撮影後の処理の大変さがあまり好まれないようで、ちょっと残念でした。

明日の日曜は京都の「星をもとめて」に参加します。今回はユニテックさんのブースにいる予定ですので、お気軽にお声かけください。


週末にやっと撮影できましたが、まだ手持ちの画像でもう少し確かめたいことがあります。今回は、高波長分解能の分光器でエタロンで見たHα画像を再現してみます。


太陽分光撮影でHαエタロンのFWHMの差を再現してみる

今回の比較は、SHG700を手に入れる前からやってみたいと思っていたことの一つです。エタロンの透過波長幅(FWHM)の性能差によってどう見え方が変わるのかを、きちんと比較してみたかったのです。これは、今後新たなエタロンを選ぶ際の、重要な指標になっていくのかと考えています。

これまでにHα線での太陽はPSTが2台と、今年に入ってPhoenixを少しの期間触って撮影してきました。PSTのエタロンの波長透過特性はFWHM (Full Width Half Maxmum、半値全幅)で1Å、Phoenixのエタロンは0.6Å以下というのが公称値です。さらに、CP+での講演の時にも比較したのですが、京都大学飛騨天文台SMARTはFWHM0.25ÅでHαの中心波長と+/-0.5Åずらして撮影した画像を公開してくれています。

手元にあるPSTエタロンの透過特性はいずれ直接測ってみたいのですが、SHG700で撮影したもっと細かい波長分解の画像がすでにあるので、これだけでも何かできそうです。そこで今回は、これまで撮影したPSTの全景画像とPhoenixの画像、飛騨天文台SMARTの画像を、それらのFWHMの値の情報と共に、今回のSHG700で撮影した画像を同波長幅相当にした画像を生成し比較してみたいと思います。

見たいのは、波長透過幅によってどんな画像になるかの比較検証です。これまで撮影したもののうち、中心波長を比較してみます。波長分解能がいい順です。


1. SMART

SMART: 2025/1/18 (Phonenixで撮影したものと同じ日)のHαで波長幅は0.25Åです。

ポイントは、波長分解能が市販エタロンよりも数倍いいこと、そのため太陽表面に淡い白いモヤモヤした筋のようなものが随所に見えていることです。

halpha_p000_20250118031856_fits_IP_ST_MLT2

これをSHG700で再現してみます。SHG700の波長分解能は分光された光を撮影する際の1ピクセル幅で考えて0.091Åとします。中心波長とその前後の画像で上の画像に迫れるかを見ます。下は中心画像に+/-1枚の計3枚を平均化したものです。単純計算で、波長幅は3枚の間の2つ分と、両端の画像の半分が2枚分なので、合計で分光撮影の3ピクセル分と考え、0.091 x 3 = 0.273Åになります。上の画像と比べると、白いモヤモヤも含めて、そこそこ再現できているのではないでしょうか?

07_13_53-trimmed_0000_07_13_53-trimmed_averaged1

少し条件だけ書いておきます。SMARTにアップロードされている画像は、jpgファイルの場合は輝度などの多少の画像処理はされているようです。でも解像度が低く細部比較にあまり適していないと思われたので、fitsファイルを落として自分で画像処理をしました。fitsファイルはRAWに近いようで、ストレッチも含めて何も画像処理をしていないようでした。ただしノイズがかなり多かったので、ノイズ処理が影響して空間分解能が犠牲になってしまっったかもしれません。また、画像処理の度合いによってはコントラストを変えることなどで見栄えが大幅に変わることもあるのですが、SHG700の画像をJSol'Exでっ標準的に処理したものに合わせました。画像処理の影響は少なくないのですが、面白いのは表面の淡い白いモヤモヤだけは出方が画像処理とはかなり独立に波長に依存しているようなので、この見え方が似ているということは、そこそこうまく再現できているのではと考えています。


2. Phoenix

次はPhoenixで1月18日に撮影した画像です。Hαで波長幅0.6Å以下というのが公称値です。

SMART画像に比べて、太陽表面の白い淡いモヤモヤは明らかに薄くなっています。これは明らかに波長透過幅の違いによるものと考えていいでしょう。そうは言っても、市販エタロンでHαでこの白いモヤモヤが出ること自体がすごいことなのかと思います。
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上の画像をSHG700での再現してみます。Hα中心画像に+/-3枚の計7枚を平均化したものです。波長幅は7枚の間の6つ分と、両端の画像の半分が2枚分なので、合計で分光撮影の7ピクセル分と考え、0.091 x 7 = 0.637Åになります。分光の1枚画像なのと、JSol'Ex標準のストレッチだけでその後の加工はしていないので、空間分解能はPhoenixの方が上になりますが、白いモヤモヤはそこそこ再現できているのかと思います。
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ここまでの結果を見るに、実写の場合にはエタロンの透過波長幅によって表面の白いモヤモヤの見え方には違いがあって、分光でシミュレーション的に透過波長幅を再現した時にも同様の傾向が見られるので、やはりこの白いモヤモヤの出方が透過波長幅に影響を受けていることは明らかであると言えそうです。言い換えると、この白いモヤモヤの出方を見ることで、エタロンの性能をかなり直感的に判断することができるのかもしれません。


PST

さらに透過波長幅が広いPSTで2025年5月18日に撮影した画像です。Hαで波長幅1Åが公称値ですが、エタロンの個体差でかなり見え方が違うと言われているので、この値がどこまで正しいかは別途検証する必要があるかと思います。
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再現のためのSHG700の画像に合わせて、リンク先のページの実写PST画像から輝度などを少しいじっていることに注意です。

パッと見でPSTが、SMARTやPhoenixとは見え方が大きく違うのがわかるかと思います。白いモヤモヤは全く見えなくなり、代わりに表面の模様というか、ガタガタが多くなり、SMARTやPhoenixでのちょっとのっぺりとした印象とは変わって、いい意味で賑やかになっている気がします。これらの違いは画像処理で差が埋まるレベルではなく、エタロンの透過波長幅の影響が大きく出ているのかと思われます。

また、同一画像内の違う場所でエタロンの性能の違いが出てしまってるようです。中心部分は明るいためFWHMが大きくなってしまい性能が悪く見えてしまっているようで、模様もより大きな構造になっていて、荒々しく見えます。

これをSHG700で再現してみます。中心画像に+/-5枚の計11枚を平均化したものです。波長幅は11枚の間の10個分と、両端の画像の半分が2枚分なので、合計で分光撮影の11ピクセル分と考え、0.091 x 11 = 1.001Åになります。白いモヤモヤはほぼ何も見えず、ガタガタの模様もよく再現されていると思います。その一方、SHG700では画面内の波長透過幅の差はないので、PSTでの上の実写のような中心だけが明るくなるような画像は再現できません。

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SHG700単体での中心波長からのズレの比較

最後に、SHG700で撮影した中心波長のみの、0.091Åの透過波長幅の画像を載せておきます。
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SMART画像ともやはり違いがあります。これはHα吸収線の底の暗い部分で見ることができることが効いていると思われ、白いモヤモヤは太陽面全体に存在しますし、ダークフィラメントがより色濃く出ることがわかります。ダークフィラメントのコントラストについては、撮影では画像処理で誤魔化すことはできますが、眼視ではこのエタロンの性能差はより明確な違いとなって見えるのかと思います。よく「半値幅の小さいエタロンは模様がよりハッキリ見える」とかというのは、このダークフィラメントだけとっても正しいのかと思います。

透過半値幅が小さいと淡いダークフィラメントまでよりコントラストよく見えるようになるので、1年ほど前の太陽活動が最も活発だった頃には、分光撮影でダークフィラメントが太陽全体をぶった斬っているような画像を得ることができていたようです。SHG700をもう少し早く始めたかったです。これは次回の太陽最活動期の10年後くらいの目標でしょうか。


比較のまとめ

3つの比較で分かったことをまとめます。
  • SMARTの画像は太陽表面内に白い淡いモヤモヤが一番多いです。
  • PhoenixでもSMARTほどではないですが、白いモヤが多少見えています。透過波長幅が狭くなるほどこの白いモヤが見えてくるので、このモヤがどれくらい出るのかがエタロンの性能の指標の一つになるとも言えます。
  • 白いモヤモヤが一体何なのか?少なくとも私はまだ特定できていません。
  • 日付が違うので、細かい違いについては大したことは言えませんが、それを差し引いてもPSTの見え方は全然違っています。まず、白いモヤは全く見えません。波長透過幅が大きいからだと思われます。その代わりにもっと粗いガタガタの構造の模様が全面に見えます。
  • PSTと比べると、SMARTもPhoenixも、ガタガタが全然見えなくて、むしろ印象としてはのっぺりしています。
  • 以前は、PSTで見えているようなガタガタが見えるのがいいと思っていました。これはむしろ中心波長から少しズレたところに出てくる模様のようです。ただ、このガタガタがあった方が賑やかで逆に見栄え良く見えるのではという印象も捨てることができません。実際、JSol’Exのスクリプトを見ていると、あえて中心波長回りの複数枚を平均化している例があります。あまりに狭すぎる透過波長幅だと見栄えがいまいちというのは、太陽分光関連の方たちの共通の認識なのかもしれません。
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さらに、SHG700の中心画像と比べると
  • SHG700単体の透過波長幅が0.091ÅとSMARTに比べても2.5分の1程度まで行くので、白いモヤモヤはより表れるし、ダークフィラメントがよりハッキリ見える。

なぜこんな比較をしてみたか?

そもそもなぜこんなことをしたかですが、SHG700を手に入れる前に、次の太陽機材をPhoenixとSHG700のどちらにするか迷っていました。Phoenixはすでに触った経験もあり様子もわかっていたので、最初は単純にPhoenixにしようと思っていました。Phoenixのエタロンは、透過波長幅においても、面内の均一性においても、製品のばらつきにおいても、世代が完全に代わったと思わせるほど素晴らしいものになっています。

でもここで一つ疑問がありました。太陽光のHα周りのスペクトルをみると吸収線になっていて、Hαの中心波長のところが一番暗くなっています。周りの波長の明るさに邪魔されないために、Hα吸収線の底にある太陽そのものの模様が見えると解釈することができます。もしこの解釈が正しいなら、周りの邪魔な明るさだけが問題なので、例えば光害で埋もれる淡い星雲を炙り出すように、DC的な光のオフセットを除いてやれば太陽本来の模様がもっと見えてくるはずです。明るさだけの問題なら、本当にそれだけのことで、PSLエタロンの画面の不均一性の問題は残りますが、透過波長幅の問題はもしかしたらなんとかなるのではという淡い期待がありました。

でも今回の比較結果から見てみると、透過波長幅が大きくなると、もっと言い換えると、Hαの中心波長から0.5Åも上下にズレてしまうと、明るさの変化だけでは全く説明できないレベルで見かけの模様が変わってしまうことがわかりました。このことを考えると、Hα吸収線の底でHαで別途輝線として輝いている別の明るさがあると考えたほうが自然です。

実はこのことは、以前太陽のジェットを見た際に調べた時に答えは出ていて、その時の言葉では「採光面からの水素に照らされて吸収と放射を繰り返し、Hαで輝く輝線となる」と書いています。要するに、Hαで見える模様は、吸収線であり輝線である結果出てくるものということがわかります。輝線でもあると考えると、Hαの中心線からズレることによって見える模様が変わってくることは納得できます。今回はそれを改めて確かめてみたということになります。

以上のことから、結論としてはエタロンの透過波長幅が狭いもので見えてくる輝線の模様は、透過波長幅の広いものでは決して見ることができないと言えるのかと思います。性能のいいエタロンは何者にも代え難いということです。

でもですね、まだ少し疑問が残っているのです。C8とPSTエタロンでものすごくシーイングがいい時に見た黒点周りなどの模様と、シーイングが悪い時に見た黒点周りの模様は、前者がまるで透過波長幅の狭いエタロンで見たような感じで、後者はまるで透過波長幅の悪いエタロンで見たような模様に酷似しています。シーシングの良さ悪さでボケ具合が変わるのだけで説明するのはちょっと無理があるくらいの違いになります。この違いを、いまだにうまく説明することができません。

もうちょっとだけあがいてみます。上のPST相当のSHG700の再現画像を、画像処理だけで無理やり明るいところを抑えて、さらに大きな構造を抑えることで、どこまで中心波長近辺の画像に迫れるかやってみました。等価透過波長幅は同じ1.001ÅでPST相当の広いままです。

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どうでしょうか?大分印象が変わったかと思います。白い淡いところも少し見えるようになるし、太陽表面も似たような感じにすることはできます。ただしこれ、PSTの実撮影画像でやろうとしたら全然できませんでした。PSTの実写画像ではこのようになってしまいます。
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理由は、画面内でエタロンの不均一性が出てしまっていて、特に中心が明るすぎるなど、画面内輝度差が目立ってしまい、うまくいかないのです。フラット化とかまでやってみましたが、それでもいまいちでした。なのでFWHMだけならなんとか誤魔化せるが、画像内の透過波長の平坦性は如何ともしがたく、むしろそちらの方が重要な気がしています。

でもまあいずれにせよ、「良いエタロンは良い」というのは代え難い事実っぽいので、次はPhoenixに走るのかもしれません。


まとめ

今回はSHG700で分光撮影したHα周りの画像を元に、これまで触ったエタロンで得た画像などで、いろいろ比較検討してみました。波長分解能が細かいと、それより粗い波長分解能で撮影した画像はそこそこ再現できるようです。今後のエタロン選択の指標になりそうです。

撮影用途に限るならまだしばらくは手持ちのPSTで誤魔化して使えないかなとも思ってましたが、やはりいいエタロンが欲しくなってしまいました。ただ、シーイングのいい時のC8のPST画像はそこまで不満ではないので、もう少し様子見です。だって新しいエタロンを手に入れたら、どうせすぐに改造の餌食になることは目に見えてるからです。

次回は、週末に撮影した画像を処理してみます。

これまで何度となく粒状斑の撮影を試みてきましたが、どれも全く満足とはいかずに、撮影手法が正しいのかさえわからないような状態でした。今回、シーイングのいい状態をものにする方法がわかったので、再挑戦してみました。


これまで

これまでのベストは、昨年かなりシーイングがいい日に撮ったもので、それでもこの程度です。
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かろうじて粒々らしきものが見えていますが、まだ粒状斑と言うにはほど遠いです。それでも画像処理も無理しない範囲でこれだけ出たので、やはりシーイングが重要だということは少し理解できていました。でもシーイングをこれ以上劇的によくする方法は、まだ全然見通しが立っていませんでした。

その後も何度が挑戦はしていますが、上の結果をどうしても超えることができずに、もう今の機材や方針では無理なのではないかと、だんだんあきらめるようになってしまっていました。同時に、太陽全体に対するモチベーションが下がる原因にもなってしまっていて、太陽に関してhPhenixを触るまでずっと盛り上がらない日が続いていました。


悪条件なのに

最近の太陽の成果でいいシーイングを確実にものにする方法がやっと確立したことになるので、満を持して長年の課題だった粒状斑に再挑戦してみました。

と言ってもこの日は午前がずっと天気が悪く、午後になって少し晴れた程度で、まだまだほんのテストで、そこまで気合入っていません。フィルターもBaaderのOD5の減光フィルムのみで、その他はノーフィルターです。撮影中もずっと薄雲が出ていて、しかも間違えてRAW8で撮影という、普通で考えたらそのまま却下なくらいの状況でした。それでもまあ、休日の晴れ間ということで、セッティング時はしーいんぐもよさそうだったので、撮影を開始してから2時間ほど放っておきました。

30秒間隔で1ショットあたり200フレーム、合計240ショット撮影したのですが、半分くらいの時間は雲で暗くなっていて使い物にならなかったです。残りの半分切るくらいのうち、セッティングして少し経ってくらいの3本だけが分解能よく撮れてました。ベストの1本だけだとノイズがまだ目立ってしまったので、200フレームだと少し足りないのかもしれません。試しに近い時間だった3本を合わせて、600フレームのうちAS4!で上位50%を処理してみると、もう少しマシになりました。その結果です。

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天気や自分の設定ミスなどもありかなりの悪条件だと思うのですが、初めてここまで粒状斑が出て、あっさりベストを更新してしまったと言っていいでしょう。やはりこの、連続して長時間撮影していいシーイング時間を選択するという方法はかなり有効なのかと思います。

今後の課題は、OD5のフィルムだとまだ暗いようなので、同じBaaderのOD3.8フィルムに変えることと、540nm付近のフィルターを入れることでしょうか。


まとめ

粒状斑についても少し見通しがついてきました。とういか、むしろ粒状斑を出したくてシーイングのいい時をみるける方法を探っていたと言ってもいいのかと思います。天気もあまり良くなくて、まだ大した時間は試せていないので、もう少し条件のいい日で試したいと思います。まだまだ改善するはずです。





前回の記事で4月12日にシーイングの持続時間を評価してみましたが、もう一つ試したことが太陽の全景撮影です。


4月5日の挑戦

全景撮影に関しては、前週の4月5日にも口径102mm 焦点距離1000mmの国際光器のMAGELLAN 102で試しています。面積の広いフォーサーズを使い、一応全景を入れて撮影はできました。でもPST的には、BFの5mmという径も、エタロンの良透過波長エリア的にも、プロミネンスがほとんど出ていなかったことからも、限界を超えていると言っていいでしょう。


問題点は焦点距離が長すぎるために、太陽の径が大きくなりすぎてしまい、BFで蹴られることでした。これはBFのマウントの穴径を広げることで、ある程度回避しました。もう一つは、エタロンの良像範囲がリング状に変化していき、Hαに一致する範囲に制限があることです。焦点距離1000mmでの太陽径では、この波長が合う面積内に全体を入れることが難しかったということです。

いずれにせよ、焦点距離が問題なので、鏡筒を変更する必要があります。レデューサーは像が決まった後に入れるものなので、今回は使えないでしょう。


口径8cm、焦点距離400mmで挑戦

とにかく全景に関しては、焦点距離1000mmではこれ以上解がなさそうなので、焦点距離の短い鏡筒を考えます。

また、カメラもフォーサーズのASI294MM Proはそもそも冷却も使う必要がないのでちょっと勿体無いです。しかも、冷却をしないとしても12V電源を別途繋がなければ使えないので、余分なケーブルが必要となり取り回し的にも面倒です。元々は、高分解能目的でbin1のピクセルサイズ2.3μmを狙っていたのですが、bin1だと(いまだに理由はわからないのですが) 4x4のピクセルパターンがどうしても出てしまうので、bin2での撮影にせざるを得ないということがわかりました。このことは、Phoenixで試したときもそうでしたし、4月5日に試したときもそうだったので、今のところ少なくとも太陽にASI294MM Proのbin1を使うことはできないという結論です。DSOにどこまで影響があるのかは、今のところ気付いたことはないのでよくわかっていません。

というわけで、カメラはモノクロでピクセルサイズが小さいものという観点から、とりあえず手持ちのASI290MMで入る範囲ということにしました。センサーサイズは1/3''とかなり小さいので、全景を入れようとしたら、計算上は焦点距離は400mmよりもかなり短くなってしまいます。実際、焦点距離400mmのPhoenixでもASI290MMだと全景は一度に入りませんでした。ただ、400mm以下だと分解能がかなり悪くなってくるので、とりあえず今回は焦点距離400mmにASI290MMで2枚のモザイクというので妥協します。今後センサーサイズの大きいカメラを使うことを検討しているので、そのうち1枚で写せるようになるかと思います。

さて口径です。順当に行くとPSTの鏡筒がちょうど焦点距離400mmなのでそれでもいいのですが、以前手持ちの口径8cmで焦点距離400mmのiOptronの安価な鏡筒を太陽で試して、口径4cmのPSTよりも分解能がよくなったので、今回も同じことをやってみます。


適当にレールを組み合わせ、PSTを無理やりっぽいですが、何とか鏡筒に取り付けます。でも全然ピントが出ません。上の記事を改めて見て写真を確認してみると、PSTをかなり鏡筒内部に入れ込むような状態で取り付けています。同じような距離になるくらいに組み直してみると、やっとピントが出ました。やっぱり記録のための写真は撮っておくものですね。

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今回、PSTをこれくらい鏡筒の中に入れ込みました。


太陽全景画像

その状態でそれぞれ1000フレーム撮って上位75%をスタックしたもの2枚をモザイク合成したものになります。細部出しはImPPG、カラー化にはSolar Toolboxを使いました。カラー化後にモザイク合成を、Photoshopを使って手作業でやりました。
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中心部の分解能と周辺部のHαの出方にまだ違いがあるので少し不満はありますが、口径10cm、焦点距離1000mmのMAZELLANで撮ったものよりも、はるかにHαの模様が出ています。全然出なかったプロミネンスも、少なくとも形が判断できるくらいには十分出ています。分解能も、モザイクで2枚に分けている効果もあり、同じASI290MMで1枚で撮ったものよりも出ています。

まあとりあえず全景撮影用として何とか使えると思うことにしますが、特にHαのコントラストでPhoenixには劣るので、いいエタロンが欲しくなります。

分解能は口径10cmの時よりもよくなっているので、10cmという口径は全景撮影には全然貢献していなくて、ほとんど意味がないことを示しています。カメラの解像度や、Hαの良像範囲のほうが聞いていたと言っていいでしょう。では、今回の口径8cmは分解能に貢献しているのでしょうか?同じ焦点距離で口径4cmと比較してみればわかるはずです。一応以前の結果では意味があったと結論づけているので、もし時間があれば今一度同じことをやってみてもいいかもしれません。


あれ?、F値は?

さて、ここで疑問になってくるのが、そもそも「PSTのエタロンはF10を仮定してあるはずのでは?」ということです。もう少し正確にいうと「エタロンのところで平行光になるようにエタロン手前にレンズ(調べた限り焦点距離200mmの凹レンズらしい)が入っていて、そのレンズがF10の光に対してエタロンに平行光を作り出すはずなのでは?」という意味です。

でも今回使った鏡筒は口径10cmで焦点距離400mmなので、F5です。今のレンズだと平行光にならないはずなのに、なんでこれでうまくエタロンが働くのでしょうか?

いくつかわからないことが出てきました。
  • 平行光を生み出す200mm凹レンズの位置に対する要求はあるのか?焦点より後ろにレンズを置いた場合は、光がさらに広がっていくのダメなことはすぐわかります。じゃあ焦点の前ならば、どこでも平行光になるのか?特に、焦点に近づくと変なことは起こらないのか?
  • エタロンは本当に平行光しか受け付けないのか?鏡の間の距離が短くてフィネスが10程度のオーダーなら平行光にこだわる必要はないのではないか?
  • そもそも、F値ってなんなのでしょう?今の口径8cm、焦点距離400mmの鏡筒の対物側に、直径4cmの穴を中心に空けたキャップをつけたらF10になるのでしょうか?
  • 口径を制限する穴は、カメラレンズで言う「絞り」と同等なんだと思いますが、絞りの位置はどこでもいいのでしょうか?エタロンの後に入れたら無意味なのはわかるのですが、例えばエタロンより前の対物側にだったらどこにつけてもいいのでしょうか?

ここら辺の疑問が、なぜPSTのエタロンは現状リング状に良像範囲が変わっていくのか?という疑問につながります。これまでは単純にモードが合っていなくてLaguerre-Gaussianモードが見えていると思っていたのですが、これだと上の疑問に全く答えられません。


まとめと今後

ちょっとトリッキーですが、何とか太陽全景をそこそこの分解能で写し出すことができました。でも、なんでF5鏡筒でPSTエタロンが問題ないのかがよくわかっていません。とにかく事実としては、特に平行光を注意して作らなくてもエタロンは少なくとも働いているように見えることから、もしかしたら全くの思い違いをしている可能性もあります。ちょっとまだ答えは出ていないので、もう少し考えて、今後色々試していこうと思います。




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