ほしぞloveログ

天体観測始めました。

カテゴリ: アイデア、理論など

10年のまとめ(その1)を書いてからだいぶ時間が経ってしまいました。ある程度は書き進めていたのですが、フェニックスの大口径化を始めてしまい、まとめ記事になかなか時間を回せなかったのです。この記事に付随したTips記事を書いていて、そちらをまとめるのが大変だったのもあります。できればこのTipsの記事と一緒に読んでほしい、というか、Tipsをまとめたくて今回の記事を書いてるような気もしてきました。



「ほしぞloveログ」のコンセプト

本来このブログは、自分がやっている天文活動を記録していこうと思って立ち上げた、日記的なものなのです。でも時間が経つにつれ、実際には解説記事のようなものが多くなり、毎回長文になってしまっています。コメントや記事の引用など、このブログを読んでくれている人が意外にたくさんいることがわかり、自分で試したことや新しく得た知見を、できる限り隠したり制限したりすることなく、わかりやすく公開することを目指したのが理由です。

そういった意味では、星を始めて、わずか10日後くらいの2016年5月8日に、カメラの操作方法を、初心者なりに解説しようと試みています。その後7月にはもう少し学んだ後の解説記事にしていますが、ミスしやすそうなところを忘れないように書こうとしています。こんなところがこのブログの原点に近いのかもしれません。

最初の調整記事は2016年の5月末と、これも最初期の頃で、ニュートン反射の光軸合わせで単に他の情報を辿るだけでなく、自分で考えたことを拙いながらも書いています。初期の頃で、今考えても無茶だったと思うのはC8の光軸調整で、C8をほぼ全バラしています。この頃はまだあまりに変なことを記事にするのは少し躊躇していたのか、記事にはあらわに書かなかったことを覚えています。でも追加記事では、補正板と主鏡も掃除したとさらっと書いていて、全バラの片鱗が少しだけ垣間見えています。でも、機材を分解するくらいでやっといろいろ理解が進んでいくというのも、天文趣味においてはまた事実で、PSTの頃にはもう全く躊躇せずに分解して記事にしてしまっています。

10年も続けていると、このブログで初めて提供した全く新しいアイデア、一部には認識されていたけれどそれまでほとんど広まっていなかった情報など、今自分で見ても役に立つと思われる情報が、結構膨大にあります。きちんと整理されていればいいのですが、必要な情報を体系立てて探すのが難しくなってしまっているので、今回10周年といういい機会に、一度まとめてみようと思ったのが、この記事と前回のTips記事になります。


電視観望関連の新しい提案

大きなところでは電視観望の普及そのものでしょうか。そもそも、リアルタイムで星雲が色付きで見えることが難しいと考えられていた時代に、そこまで暗くない場所でも、しかも小口径鏡筒でも、淡い天体を見る手法を提案してきました。また、基本は一人で覗く望遠鏡に、その場にいる人たちで一緒に天体を見ながら会話などを弾ませるという、新しいコミュニケーションの方法を提案できたのかと思います。電視観望についてはすでにまとめの(その1)である程度述べているので、ここでは当時提案した、もしくは結果として提案となったような、新しいアイデアなどだけまとめてみます。

CMOSカメラを使った電視観望:
電視観望という言葉は2016年の胎内星まつりでHUQさんから聞いた言葉ですが、当時はSonyの一眼レフカメラでHDMIでリアルタイムで星雲などを色付きで見るというものでした。CMOSカメラを使ったものは、動画を撮影するというようなことは当時も試されていましたが、電視観望のようなその場で楽しむというコンセプトでは当時はまだ誰もやっていなくて、胎内星まつりから帰った直後、2016年8月に実際に試してみて、このほしぞloveログで紹介したのが初めてです。

Revolution Imagerの紹介:
アメリカのオレンジカウンティにある天文ショップのMikeがRevolution ImagerというアナログのNTSC出力のカメラを使った電視観望パッケージを販売していて、それを持ち帰り日本で紹介しました。使い方の記事なども書いていました。後にKYOEIから販売されることになりました。

SharpCapを使った電視観望:
一番最初は電視観望用のソフトにFireCaptureを使っていましたが、上のMikeからSharpCapがいいと教えてもらい、早速使った覚えがあります。当時日本ではまだSharpCapユーザーはほとんどいなかったはずです。当時からライブスタック機能がありましたが、撮影用途ではないので使い方が理解されなかったのが理由かと思います。使い方の解説記事も書いていました。このライブスタック機能は電視観望にはなくてはならない機能で、今に至るまで使い続けています。

小口径の有効性:
原村星まつりで手に入れた口径50mmのSCOPETECHや、福島星まつりで手に入れたFS-60Qなど、小口径鏡筒で電視観望を試しています。小口径でも十分成り立つのは自分では理解していましたが、きちんと言葉にして説明したのは2019年のCANPのときだったようです。このブログできちんとした説明をしているのは2019年の小海での講演のときに使ったスライドの全掲載のところの補足解説だと思います。

広域電視観望:
電視観望にとってワンショットナローバンドフィルターの出現は大きなインパクトがありました。最初に使ったのは2018年大晦日の実家の大都会名古屋での観望会だったようです。2019年9月に改めて検証したりしていますが、インパクトがあったのは2020年2月の焦点距離の短いカメラレンズにCMOSカメラを直接取り付けた、広域の電視観望システムではないかと思います。これはQBPなどが必須で、明るいレンズと相まって、都会などの明るい場所でも淡い星雲がとてもよく見えますし、街の中で天の川などを見る際に使うこともできます。この広域コンセプトはいまだに現役で、機材は多少変わっていますが、今でも観望会で活躍しています。

一眼レフカメラでの電視観望:
ASCOMドライバーが一眼レフカメラに対応してくれたので、一眼レフカメラを使った電視観望に大きな道が開きました。このネタでCP+2023でも一度話しています。

最小構成での電視観望:
何と、口径わずか30mmの超小型望遠鏡での電視観望を試してみました。2021年5月のことです。当時はこんな小さな口径で電視観望が成り立つとは誰も思っていなくて、むしろ私自身も懐疑的でしたが、あまりに普通に綺麗に見えるので自分自身びっくりしたことを覚えています。AZ-GTiからトラバースに移行できたのもさらに小ささを加速させることができました。屋根から昇る北アメリカ星雲とかはいまだにお気に入りです。この小さな電視観望セットは今でも現役で使っていて、観望会では大活躍です。これはSeestar S30やDWARF 3、DWARF miniなどの小型のスマート望遠鏡に繋がっていくようなコンセプトなのかと思います。

他にも、その時その時の新しいことを試したりしていて、SharpCapの2017年11月のオートストレッチの登場ですぐに試してみたり、フォーサーズと当時としてはかなり大きめのセンサーサイズのASI294MCを20217年12月に使ったりと、いろいろ紹介しています。

こうやってみると、電視観望の基本技術は立ち上げ時の2016年から2017年くらいまでのかなり早い段階で確立していて、その後大きなことは広域電視観望が2020年、ミニマム化が2021年で、そのあとはもう安定期に入ってしまったように感じます。逆にいうと、それ以降新しいことはあまりなくて、スマート望遠鏡が出てきてからは、初心者の入口としての役割はスマート望遠鏡にかなり引き継がれつつありますが、自由に構成を変えて試せる手組み電視観望には、まだ別の面白さが残っているのかもしれません。例えば銀河仕様にカスタム化するなど、スマート望遠鏡にはない応用性みたいなことはまだまだ試せるのかと思います。


CMOSカメラのノイズ

電視観望に加えて、このブログのもう一つの大きなテーマは、カメラのノイズ関連でしょう。当時はほとんど知られていなかったカメラの特性グラフの読み方など、このブログがきっかけの一つとなり、今では常識になったものも多くあります。

CMOSカメラの性能評価:
初期の頃の大きなものは、CMOSカメラの性能の評価の仕方の解説かと思います。ASI294MCを手に入れた2017年の頃の話です。もちろんその当時から、開発レベルでは評価方法については確立していて、その結果はカメラメーカーが示すグラフに表れていました。でも、アマチュアレベルでそのグラフをどう見たらいいかを解説している記事は、少なくとも私が探した限り皆無でした。販売店の方でもきちんと理解していたかどうかは怪しくて、公開はしてきませんでしたが、販売店の方達に個別に何度も説明してきたという経緯があります。今では、gainとかコンバージョンファクターなどと呼ばれるADUとeの変換係数の意味や、ノイズをeで評価する意味などもきちんと理解されるようになってきていて、あぷらなーとさんNiwaさんそーなのかーさんなども測定や応用をしてくれています。いずれもほしぞloveログの記事にリンクを張ってくれているのは嬉しい限りです。

ノイズ解析:
その後のノイズの解説記事も、いまだにレファレンスとしてリンクを張られることも多いです。この段階ではまだ一般的なノイズの話でしたが、これがノイズ評価の一連の記事へと発展していきます。特に初回には、これまで定量的に評価しにくかった背景ノイズについて「実際に撮影した画像からどれくらいの量の背景ノイズが全ノイズにどれくらい寄与しているかを推測する方法」を提案していて、撮影画像内にあるノイズの種類別の貢献度をある程度きちんと評価できるようになりました。地味に重要なのは、(その3)で対象天体をどう測定すればいいかを考えてS/Nで議論したことです。明るいところはいいのですが、淡いところは暗い環境が必要なことが如実にわかります。(その6)ではPixInsightではバイアスファイルを使わない方向が主流となっているのですが、その根拠も解説していて、かなり面白いかと思っています。でもこの一連のノイズ評価記事、自分の中では上手くまとめたと思っているのですが、どうも一般ウケはそこまで良くないみたいで、少し複雑すぎたのかもしれません。


太陽関連

太陽望遠鏡の仕組み:
ほしぞloveログでは太陽望遠鏡のファブリーペローエタロンの理解についても促してきました。もともと光共振器については詳しかったのですが、太陽望遠鏡がエタロンを使っているということを当時知らずに、ちょうどPSTを購入する直前の2017年の星まつりでその事を聞いて、なるほどうまいこと利用するなあと、ずいぶん納得しました。でもその後、アマチュア天文で太陽に詳しいという方と何人も話したのですが、誰もエタロンの仕組みについてきちんと理解している人に出会うことができませんでした。この状況はあまり良くないと思い、このブログでも2018年2月のPST購入当初のかなり初期の頃から解説を試みてきましたし、CP+でも2024年に結構ガチに解説してみました。他の日本語の記事でもエタロンについて書かれているのを見るようになってきたので、多少なりとも効果はあったのでしょうか。定性的なほんわかとした記述はいくつかありましたが、数値が入った説明がされていることはなかったか、あってもごくごく稀だったので、いい方向に向かっているのかと思います。

大口径化:
PSTなどの大口径化については、古くから日本でも行われてきました。このブログでも中古のジャンクPST入手直後から、口径8cm、10cmと試してきましたが、最後20cmまで試した例は、今でもあまりないと思います。このブログでは、うまく行った時だけでなく、失敗した例もできるだけ載せています。特に、20cmに挑戦するときに熱でフィルターが割れてしまったことがあるので、安全性についてもかなり呼びかけてきたつもりです。

分光関連:
2022年頃に日本でも流行ったSol'Exはスルーしてしまったので、その後に出たSHG700ではできるだけやったことをまとめておこうと思って記事を書いてきました。2025年の6月からですが、おそらくSHG700を手に入れたのは、日本の中ではかなり早かったと思います。実際、いまだに日本語でのSHG700関連の記事はあまりないので、何を書いても新しいことになってしまいます。その中でも、ジェットのドップラーシフトとか、Hαグレインとか、エタロンの透過特性を測るとか、アマチュア天文の中では世界的にみても結構珍しいことをしてきたのかと思います。


SWAgTi

できるだけ簡単で、かつ精度のいい撮影ということで、高精度低機能赤道儀SWATと、高性能低精度経緯台AZ-GTiのいいところどりで、2つを組み合わせて高精度高機能で、かつオートガイドもなしで簡単に、でも3分程度の露光ができるシステムを組みました。SWAgTiと名付けました。面白いのは、ガイドはしないけれどもディザーはするという、これまた変わった方法を取りました。これは縞ノイズを回避したいという要請からです。でもガイドする手間は省きたくて、最初はSharpCapを使ってかなり苦労して実現しました。その後、NINAでも同様にガイド無しディザーができることがわかり、ある程度システムとしては完成しました。軽くて300mm程度の短焦点鏡筒は、もうこのシステムで手軽に撮影するので十分です。


画像処理関連

画像処理でも、全く新しいこと、あまり知られていなかったことをいくつか取り上げています。縞ノイズの原因の一つが、暗い中で撮ったノイジーなフラットファイルであることを突き止めたり、BXTとDrizzleを併用すると更にBXTの効果が引き出されることや、ビニングについての解説などです。他にも、PCC時代にセンサー間の応答の違いの問題を指摘していて、今のSPCCのようなものが必要だと予言していますが、本当に思ったより早くSPCCで実現されたのはビックリでした。彗星の画像処理ではLarson-Secaninaフィルター原理の説明もしていて、核の回転がよく出ている画像を示しています。

上のことはTips記事にも書いてありますが、画像処理では各々記事で毎回色々議論しています。細かいことが多すぎて探りきれないので、またいい記事に気づいたらTips記事に追加していきます。例えば、LRGB合成に関する議論なんかは面白いと思います。LRGB合成はノンリニアで処理すべきという意見なのですが、私としてはまだ完全に納得できていません。


その他、細かいアイデアなど

まだまだこのブログで提案してきたアイデアなどはたくさんあります。個々それぞれの記事は基本的に「何か新しくあったこと」を書くようにしているので、細かいテクニックなどは普段のブログの記事に埋もれていることも多いです。細かいことを全部挙げるとかなり多いので、最初に述べたように別途記事にTipsとしてまとめました。本記事と多少重なることもあるかと思いますが、これまでの10年に限らず、新たに出てきたことも追加していこうと思っていて、今後リファレンス的に参照してもらえれば嬉しいかなと思います。




まとめ

こうして振り返ってみると、10年間で一貫していたのは、流行りの機材を紹介することではなく、実際に試し、測り、考え、失敗も含めて公開することだったのかもしれません。今後も同じように、まだ誰もきちんと整理していないこと、自分で納得できていないことを、一つずつ試して記事にしていければと思います。

「ほしぞloveログ」で記事にした、役に立つテクニックや面白いアイデア、小ネタなどをまとめておきます。参考になったと思ったら、コメントに感想を書いて頂けると嬉しいです。

各項目を5つの星の数 (⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎)で自己評価していますが、星の数は、実用性、独自性、今でも参照する価値、反響の大きさなどを総合して付けています 。あくまで自己評価です。

今後も新しいことが出てきたら、随時追加していく予定です。


見え方、ノイズ関連など

汎用0.5倍レデューサについて (⭐︎):
最初期の2016年10月頃に書いた光学機材的な話の一つで、なぜ0.5倍がいつも成り立つかについて書きました。その後、2020年1月にその適用範囲についてを記事にしています。

望遠鏡で星の数が多くなる理由 (⭐︎):
最初期の2016年11月、いろいろ考え始めた時期の記事です。なぜ望遠鏡で見ると星の数が増えるかを考えています。同じ記事内に、なぜ望遠鏡で昼間に星が見えるかの理由も書いています。

ノイズについて基本的なこと 
(⭐︎⭐︎⭐︎):
星を初めて半年ちょいの2017年1月、かなり初期の頃にノイズについて定性的に書きました。この頃はまだたいしたことは書いていないのですが、基本は押さえていると思います。その後、2017年12月に定式化した記事を書いています。この式はいまだに参照されることが多いです。ここら辺から凝った記事が多くなってきました。

カメラスペックの見方(⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎):
CMOSカメラの性能評価については当初から販売店のカメラの仕様のページに掲載されていましたが、読み方の説明は一切なく、販売店の方でもきちんと理解されていなかったと思います。ASI294MCを例に、2017年12月にCMOSカメラ特性グラフの読み方を解説したのは、少なくとも当時のアマチュア天文で日本語でここまで具体的に解説した例はあまり見当たらなかったと思います。その後、EOS6Dでも同様の解説をしています。




ノイズの測定方法 (⭐︎⭐︎⭐︎):
ノイズを実際に測定する方法です。普段はSharpCapでセンサーを解析する際にノイズも測定していて、メーカー値と同様の値を得ていますが、PixInsightを使って独立に読み出しノイズを測定して、一致することを確認しています。PixInsightを使わない方法を、Pyhtonか何かで書いてしまった方がいいかもしれません。いつかやります。


ノイズについての議論 (⭐︎⭐︎⭐︎):
2020年10月ノイズについて、みなさんと議論した時の記事です。この頃から結構真剣に考え始めています。今読み返しても、結構考えさせられ、いまだに参考になります。

ダークフレームは何枚必要か? (⭐︎⭐︎⭐︎):
初期の2017年11月にダークフレームが何枚必要かを議論しています。その後、かなり経って2024年3月にもう少し詳しい計算をしていて、2024年8月に更にその計算よりもう少し枚数が少なくていいことを示しています。後者はちょっとアドバンストな内容になっていますが、実用上とても大切な話です。


ノイズの定式化 (⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎):
2023年3月からの一連の記事で、各種ノイズを定式化しています。
  1. 最初の記事(その1)で、評価しにくい背景光からくるショットノイズについて定量的に見積もっているのはかなり画期的だったのかと思います。
  2. (その2)では、明るさに応じた適切な露光時間を選ぶという戦略を立てることを提案しています。
  3. ノイズだけでなく、(その3)では信号まで計算してS/Nを数値的に出しています。
  4. 具体的な例として、(その4)でいくつかの場所での明るさの違いで比較しています。
  5. (その5)でダークノイズについての定式化
  6. (その6)でバイアスノイズの定式化と、バイアスファイルの必要性について議論し、PixInsightなどでデフォルトのバイアスファイルはダークファイルに含まれるので必要ないということを、数式上で証明しています。
これらの記事は、ある意味このブログの集大成のようなものでかなり力を入れたのですが、複雑すぎるのか一部の人を除き反応がイマイチでした。でも私のライフワークみたいなものなので、今後も機会があれば続けます。







惑星撮影の分解能の限界 (⭐︎⭐︎):
2018年5月にハッブルの木星の画像を使って、ドーズ限界と、それが破れるのかどうかを議論しています。これはその後、2019年8月にカメラの分解能の議論に繋がり、2026年の太陽粒状斑画像でも議論されて、眼視で恒星という点での評価のドーズ限界やレイリー限界と、CMOSカメラで面を見た場合で違うことが議論されています。




大気分散による色ずれ(⭐︎⭐︎⭐︎):
大気分散でどれくらい赤と青がズレて見えるか計算しています。エクセルの表もアップしてあるので、使いやすいかと思います。

眼視で色つきの星雲 (⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎):
あえて明順応させることで星雲に色がつくことを実感しました。電視観望と合わせて楽しめる眼視の楽しみ方です。この記事の後、星まつりなどであえて明順応するのがはやったみたいです。

星座ビノ (⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎):
星座ビノの見え方の評価記事(123)は、今でも人気のある記事です。


機材について

赤道儀の基本的なセッティング (⭐︎⭐︎):
赤道儀を使う時に一般的に気をつけることを書いています。自分でやっていて気づいたことのまとめです。この時期から、基本がいかに大切かを説く記事が出始めています。

カメラの回転角を夜を待たずに合わせる方法 (⭐︎⭐︎⭐︎):
2022年の比較的新しい記事です。追加機材なしで、SharpCapの画面を見てカメラの回転角を精度よく合わせる方法です。昼間でも合わせることができます。

赤道儀設置の時間短縮 (⭐︎⭐︎⭐︎):
プレートソルブを利用した省略したアラインメント方法や、SharpCapの極軸調整を使うことで赤道儀の水平を取らずにセットアップする方法です。意外に時間が短縮できて便利で、いつも使っている方法です。


極軸のズレで追尾はどれくらいズレるか? (⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎):
2017年3月の記事で、初期の頃の傑作記事かと思っています。極軸をどのくらいの精度で合わせたら、追尾はどれくらいの時間でどれくらいズレるのかを、面倒な計算なしで簡単に見積もる方法です。

その他数値見積もりシリーズ (⭐︎⭐︎):
上記シリーズですが、他にも鏡筒の揺れの大きさと、画角でどれくらい揺れるかの変換や、覚えておくと便利な数値集などがありますが、上の見積りが最も実用的かと思います。

振動解析について (⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎):
2019年の夏に前半後半に分けて書いた記事です。初期の頃に、かなり気合を入れて書いた記事です。その後、2020年7月のZEROや、2020年10月の迷人会の自由微動雲台の振動解析につながる、一連の重要な記事です。

たわみの見積もり (⭐︎⭐︎⭐︎):
赤道儀の赤経を90度回した時に、機材がどれくらい撓むのかを、見ているカメラのピクセル単位で何ピクセルくらいズレるかで、ラフに見積もる方法です。SharpCapの極軸調整機能を利用しています。

システマティック化三脚 (⭐︎⭐︎):
中古で買ったエレベーター式のGitzoの三脚をシステマティック化して安定度増し増しにした記事です。Gitzoは心から信頼できる三脚で、揺らしてもピクッともしません。この改造した三脚はいまだに現役で、最も稼働率が高い器材の一つです。

Advanced VXの分解 (⭐︎⭐︎):
最初の赤道儀のAVXは、妻の車にぶつけられ一度大破し、その後自分で修理するなど、分解レベルで磨いたり、ガタ取りを赤経体でしたり、赤緯体でしたり、じっくり付き合いました。


CGEM IIの発振防止 (⭐︎⭐︎⭐︎):
AVXの次に手に入れた赤道儀ですが、ガイド中に発振してしまうことがあります。制御のしくみから、どう解決すればいいかの例を示しています。

SWAgTi (⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎):
高精度低機能赤道儀SWATと、高性能低精度赤道儀AZ-GTiを組み合わせて、両方のいいところだけを使う高精度高機能の赤道儀を組んでみました。オートガイドなしでの追尾でも十分に精度が出るのが特徴で、SWAgTiと名付けました。


ガイドの設定の煩わしさをすべて無くしたのですが、縞ノイズ対策に「ディザーだけはする」という手法です。最初はSharpCapを使って実現しました。


そのうちに、NINAでもガイドなしディザーを実現できることがわかり、システムとしてはある程度完成しました。


ケーブル一本のプレートソルブ (⭐︎⭐︎):
AZ-GTiやトラバースを電池駆動で動作させると、ケーブルはカメラとPCを繋ぐ一本だけになります。かなりシンプルで、かつプレートソルブまでできるという記事です。今でこそスマート望遠鏡もあるので当たり前かもしれませんが、当初は反響が大きかったです。


ガイド鏡の強固な固定 (⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎):
ガイド鏡の固定が甘いと長時間撮影で赤道儀が動いていくと、たわみで位置が徐々にズレていきます。どう固定したらいいかの一例を示しています。

アルカスイス互換プレートの利用例 (⭐︎⭐︎⭐︎):
ほとんど全ての鏡筒の上部に、長めのアルカスイス互換プレートをつけています。持ち手と、ファインダーやガイド鏡などの固定に使います。安価で、強固に固定でき、簡単に取り外しできるので、とても便利です。

小ネタ集 (⭐︎⭐︎):
上記2つのアイデアのほかに、揺れを起こさない考え方、暗い電球、テーブルの活用、椅子の選び方、小型PCの使用、SharpCapを利用した極軸調整、初期アラインメントでの簡略化、水平とりの重要性、ピント合わせの実操作方法など、小ネタについて書いています。

その他小ネタ (⭐︎⭐︎):
各種接続アダプターのネジ規格と整理方法についてや、一眼レフカメラを使うときに便利な小ネタ集赤道儀の小ネタも少しあります。



画像処理

縞ノイズの原因 (⭐︎⭐︎⭐︎):
縞ノイズのひとつの原因と思われるものを特定しています。フラット画像の光量が十分でない場合、フラット画像自身がノイジーで、それがスタック時ライト画像を重ねていくときの一方向のずれで、線のようなノイズが出てしまいます。3本立ての記事になっています。


BXTにDrizzleを併用する (⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎):
BXTとDrizzleを併用するアイデアです。最近はある程度一般的になってきましたが、当時はまだ誰も試したことがなかったです。BXTはなかり強力で、BXTそのものにはまだ分解能を上げる余地があるのに、画像の縦横の画素数という意味での解像度が足りていないので、Drizzleで解像度を上げてやるとBXTの引き出しきれていない能力を使い切ってやるというアイデアです。BXT単体よりも、Drizzle単体よりも分解能が上がります。


Software binning使用の推奨 (⭐︎⭐︎) :
上と関連してですが、カメラのbinningについて検討しています。software binningはhardware binningに比べて不利になると言われていますが、それは読み出しノイズで制限されている限られた場合だけなので、そうでなければどんどんsoftware binningを使ってもいいですよというお話です。bin2で撮影して、2倍のdrizzleをかけて、BXTをかけるのが、ファイル容量、処理時の負荷などを考えると、かえって有利になったりもします。具体的に検証もしています。



Larson-Secaninaフィルターの原理 (⭐︎⭐︎⭐︎) :
彗星の画像処理でLarson-Secaninaフィルターを適用して、角の回転をよく見えるようにしてみました。このフィルターはアマチュア天文でもそれまでもよく利用されていたのですが、原理の説明とともにどう使えばいいかを載せておきました。


NINAのオーバーシュートの片側設定(⭐︎⭐︎) :
NINAのEAFのオーバーシュート設定でうまくいかなくて、散々検索してもどこにも解決策が載っていなくて、でも実はマニュアルにちゃんと書いてあったという間抜けな記事です。解決策は片側にのみオーバーシュートのバックラッシュを適用するというものでしたが、その後この解決策は普通に広まったようです。



太陽関連

PSTの分解 (⭐︎⭐︎⭐︎):
2018年2月、PSTを手に入れてわずか3日目にPSTの中身を見せていろいろ解説しています。その後すぐにBF部を分解し、最後、エタロン本体が取り出せるまで分解しています。強力な溶剤をうまく使うことで分解できることを示しています。

エタロンの解説 (⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎):
2018年4月、エタロンの原理みたいなものを簡単に解説しています。定式化はしばらくして2020年6月に記事にしています。

口径8cm鏡筒にPSTを繋ぐ (⭐︎⭐︎):
2018年3月にPST大口径化の一番最初のテストと、その後2025年4月に再び試しています。

口径20cmのC8にPSTを繋ぐ (⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎):
ERFがわりにUV/IRフィルターを使って大口径20cmのC8にPSTを接続した記事です。以前に一度熱でフィルターを割っているので、しばらく開発が止まっていて、やっとブレークスルーとなりました。これ以降は分解能が格段に上がっていますが、まだしばらくはシーイングに悩まされます。シーイングを確実に解決することができるようになったのは下の記事からです。


いいシーイングの探し方 (⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎):
太陽撮影におけるいいシーイングの探り方を説明しています。C8+PSTヘリオスター100Hα、TSA120+Phoenixで試しています。


太陽画像でのフラット撮影の重要性 (⭐︎⭐︎⭐︎):
太陽撮影の一連の手順を説明しています。特に、フラット補正は実はかなり重要で、細かい模様を出すことにもつながります。


Phoenixエタロンの中心周波数の調整 (⭐︎⭐︎):
Phoenixでエタロンのつまみをいっぱいまで回しても、Hαの中心まで届かないことがあります。そんな時はマイナスドライバー一本で調整することができます。


Phoenixの大口径化 (⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎):
2026年からPhoenixの大口径化に挑戦しています。まとめ記事にしてあるので連続で読んでみてください。



分光:
SHG700での分光撮影の一連のまとめ記事です。あまり詳しい解説記事がないと思うので、基本から応用まで、参考になるかと思います。


その中で、いくつか重要なものをピックアップしておきます。

分光器の調整方法 (⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎):
SHG700は3つの自由度があるのですが、どこをどれくらいの精度で調整すればいいかという話は、実はほとんどどこにも解説されていません。手順とともに何度か、気付いたたびに詳細に解説しています。
  1. フラウンホーファー線でカメラレンズの位置を合わせる
  2. 購入直後はできるだけ触らない
  3. 波長を変えた時の一連の手順
  4. ミスしやすいところ、スリットの端部を見ることを忘れない

半値幅と見え方の関係 (⭐︎⭐︎⭐︎):
PSTとフェニックスの撮影画像に加え、参考で研究レベルのSMARTの画像を、それぞれの半値幅と関連づけて評価しています。

ジェットのドップラーシフト (⭐︎⭐︎⭐︎):
ジェットを波長ごとにみると吹き上がりと吹き下がりで見え方が全然違うことがわかります。


コロナを見る (⭐︎⭐︎⭐︎):
太陽表面のコロナの構造を、He D3線から推測する方法です。


太陽分光撮影の性能アップ (⭐︎⭐︎):
分光撮影の性能を数値的に評価する方法です。


波長のキャリブレーション (⭐︎⭐︎⭐︎):
エタロンの特性評価で、基準となる波長のキャリブレーションをフラウンホーファー線を使ってする話です。



分光器でエタロンの特性を測る (⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎):
PSTとフェニックス、ヘリオスター100Hαのエタロンの特性を測定しています。絶対値はまだずれがある可能性がありますが、測定方法は全部同じなので、相対的にどれくらいの性能差があるかはかなり正確に測定できているかと思います。





いいエタロンの見分け方 (⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎):
太陽Hαの撮影画像からいい半値幅のエタロンの目安がわかることを説明しています。その際見える白いモヤモヤについて解説しています。


太陽黒点の3分間振動の撮影とその解説 (⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎):
アマチュア天文ではほとんど例のない太陽黒点の振動を撮影することができました。




これまでフェニックスの大口径化で見たコリメートレンズの収差が、一体どれくらいのものなのか、少し検討しておきたいと思います。


セットアップ

接続する鏡筒で試したのは3種類で

  A. 口径10cm、焦点距離1000mm、F10
  B. 口径8cm、焦点距離400mm、 F5
  C. 口径12cm、焦点距離900mm、 F7.5

となります。

試したコリメートレンズは2種類で、いずれも焦点距離は-200mmです。
  1. アマゾンで購入した凹凹単レンズ、焦点距離は-200mm、直径50mm
  2. PSTのエタロン前部についていたレンズで、焦点距離は-200mmと言われている、有効直径は実測で23mm
焦点距離-200mmのコリメートレンズでエタロンに入れる平行光を作ると考えると、各鏡筒の焦点距離から200mmを引いたところにコリメートレンズを置くべきで、その場合のコリメートレンズ位置でのビームの直径は
  • Aでは20mm
  • Bでは40mm
  • Cでは12cm x 200mm / 900mm = 26.7mm
となります。


レンズ径の影響

まず簡単なところで、ビーム径を考えます。基本的には径が大きくなればなるほど急速に収差の影響が大きくなります。今回考えるべきはHα単色なので、色収差は関係なしとします。収差の影響は
  • 一番関係のある球面収差はレンズ径の3乗に比例
  • 波面収差(収差全体)ではレンズ径の4乗に比例
なのですが、ここでは主に球面収差を考えるとして、今回は径の3乗に比例と考えることにします。径はレンズ径と書きましたが、ビーム径がレンズ径よりも小さければ、ビーム径で収差が決まります。

例えばレンズ径を全て使うとしたら、レンズ1とレンズ2で比較すると、(50mm / 26mm)^3 = 7.1倍もAmazonで買ったレンズの方が収差が大きいです。

Amazonで見つけた直径50mmの単レンズの代わりに、有効直径23mmのPSTのレンズを使ったので
  • B-1: 一番収差が大きかったBの鏡筒に1のレンズをつけたB-1の場合、ビーム径が主要因になり、直径40mmになります。この時の収差を1とします。
  • B-2: レンズをPSTのものに変えた、B-2ではレンズ直径23mmで決まり、(23mm /40mm)^3 = 0.19倍なので、これだけで収差は約5分の1になります。
  • A-1: 時系列的に一番最初に試したA-1では、(20mm / 40mm)^3 = 0.125倍なので8分の1になります。
  • A-2: PSTレンズに変えたA-2では20mm制限は変わらないので、(20mm /40mm)^3 = 0.125倍で同じ8分の1になります。
  • C-1: TSA-120にアマゾンレンズのC-1では、(27mm /40mm)^3 = 0.31倍なので約3分の1になります。
  • C-2: TSA-120にPSTレンズのC-2では、(23mm / 40mm)^3 = 0.19倍なので約5分の1になります。


どれくらい改善したらいいのか?

径を小さくするだけでも、改善があることはわかります。でも、一体どれくらい改善したら、どれくらい見え方が変わるのかがわからないと、どこまで改善したらいいかの見当がつきません。ざっくりでもいいので、何か目安にならないか考えてみました。

収差の絶対値は結局よくわからないので、相対的な差で収差が何分の1くらいになれば、見え方はどう改善されるかというのがわかればいいのかと思います。また、収差と実際に見る像との「関係」が何かの方法でわかれば、今後収差を何分の1くらいに改善したらいいかなどがわかるのかと思います。

収差は、波長λに対してどれくらいの大きさかを目安にすると、わかりやすそうです。かなりざっくりですが、
  • 0.5λ かなりボケる
  • 0.25λ ピントは合うが眠い
  • 0.15λ 使えるが細部が甘い
  • 0.07λ かなりシャープ
  • 0.03λ ほぼ理想に近い
というのが波長を基準に、どれくらいの収差がある時に、見え味がどうなるかという関係と言えるとのことです。波長の絶対値はもしかしたら間違っているかもしれないのですが、ここで重要なのは、収差が相対的に10倍強も変わると、理想的なところから相当悪いところまで、見方が全然変わるということです。

  • 例えば、収差が大きいと思われるA-1は、見た目がもうボケボケで、ほぼ何も見えないような壊滅状態でした。
スクリーンショット 2026-05-05 100244
口径8cm+アマゾンレンズで、最もピントを合わせた時です。ボケボケです。

  • これが、PSTのレンズ径の23mmで絞られた場合には、径だけの改善でも収差は5分の1になっているはずなので、かなりよく見えるようになってもおかしくないと思います。実際に劇的に改善したのが (その2) での結果でした。
スクリーンショット 2026-05-05 111938

  • その後、口径10cmに変えたときには、ビーム径が20mmに絞られるので、収差は最初から比べて8分の1になり、すぐ上の5分の1からもう少し改善されたはずです。
スクリーンショット 2026-05-05 115822

  • この後、PSTレンズのまま口径120mmのTSA-120に変えてビーム径は約27mmになったので、結局レンズ径の23mmで決まり、径による収差は1/8から1/5になり少し悪化したはずです。結果的には口径8cmにPSTレンズを使った時と同じ程度になっているはずです。でもこの状態で撮影すると、TSA-120 + PSTレンズでもう口径限界と思われるくらいまで分解能が出ました。なので、もう直径20mmとか23mmのレベルでは、径による収差の違いはほとんど効いていなくて、十分収差は抑えられていると言っていいでしょう。
  • もしこのときにTSA-120のままPSTレンズを50mmレンズに戻したとしても、ビーム径は26mmにしかならないので、収差は1.5倍強程度しか悪化しなかったと思われます。このことについては、その後5月16日に確かめていて、下の画像のようになりました。径の違いだけで収差が1.5倍程度増加しているはずですが、レンズの種類自体も変わっていてその分の収差の違いが含まれていることに注意です。
スクリーンショット 2026-05-16 134535_Amazonlens_best


アイリスでビーム径を絞る

上の最後の2つの比較で出た違いをもう少し探るために、ビーム径を絞るためのアイリスを発注しました。上の状態でアイリスを挿入し、ビーム径を順次絞っていきます。もし上の悪化がビーム系だけからきているのなら、アイリスでビーム径を23mm程度に絞れば、2枚上と同程度まで改善されるはずです。結果はというと、改善はほとんど見られませんでした。

一応確認のために、さらにアイリスで絞っていきます。もし収差がビーム径リミットなら像は改善されていくはずですが、むしろどんどん悪化していき、見た目でかなりボケるようになってきました。これはエタロンにある中央遮蔽が効いてくるものと思われます。エタロンの中央遮蔽は1cm程度なので、アイリスで絞った径が直径1cmに近くなると、かなり暗くなって像はボケボケになってしまいます。

ちょっと脱線ですが、中央遮蔽は当然光を遮ってしまい、像が暗くなります。今回の場合、PSTのレンズ径が23mmなので、エタロンの直径を10mmとすると、(10mm / 23mm)^2 = 0.189と面積で2割ほど塞いでいることになります。まあ、このくらいならば影響はあまりなさそうなので、とりあえず問題ないのかもしれません。

レンズの種類による収差の違い

ここまでの結果から、少なくともアマゾンレンズとPSTレンズでビームを同じ径にしても、アマゾンレンズの方が収差が大きいように見えるので、ビーム径だけでは説明できない何か違いがあることがわかりました。比較したレンズは同じ単レンズですが、そもそも種類が違うので、これを検討してみます。

今回比較した2つのレンズは同じ単レンズですが、
  1. 凹凹の焦点距離-200mmの単レンズ
  2. 凹凸の焦点距離-200mmの「メニスカス」の単レンズ
になります。最初PSTレンズを見たときは単なる単レンズだと思っていて気づかなかったのですが、改めてPSTレンズをよく見てみると、対物側が凸で接眼側が凹のメニスカスレンズだということに気づきました。

メニスカスレンズの方が収差が半分から最大で5分の1程度になるそうです。ここでは典型的に3分の1程度になると考えます。収差が10分の1になると、ボケボケから理想的になるということから、3分の1という量は明らかに無視できない改善幅になります。これが、ビーム径では説明できなかった改善分です。

ここまででざっくりですが、収差の原因の切り分けがある程度できてきたのかと思います。


どんなコリメートレンズがいいのか?

せっかくなので、どのようなコリメートレンズを使えばいいのかを、少しだけ検討しておきます。

  • 例えば、焦点距離-100mmのレンズを使えば、接続する鏡筒の対物レンズ側へ近づける距離が短くなり、楽になります。
ここで重要なのは、コリメートレンズの焦点距離でどれくらい収差が変わるかです。基本的には、焦点距離が短くなるほど、焦点距離の3乗で収差が悪化すると考えることができます。今の-200mmのレンズを-100mmにした場合は、(200mm / 100mm)^3 = 8倍も悪くなります。10倍程度の違いで理想状態とボケボケで変わるとしたら、これは全く無視できない大きな違いになります。

  • では逆に焦点距離-400mmのレンズを使った場合はどうでしょうか?
収差は(200mm/400mm)^3 = 0.125倍で、8分の1になります。これはかなりいいことがわかりますが、「接続鏡筒の焦点位置から400mmも対物レンズ側にコリメートレンズを近づける」というのは結構大変で、鏡筒を切るとか、鏡筒に穴を開けるとか、筒は使わずに対物レンズだけ使い支持棒などで対物レンズとコリメートレンズを固定するなどの、かなり特殊な工夫が必要になります。

こう考えると、PSTが-200mmのメニスカスのコリメートレンズを選んだというのは、かなり考えた結果だということがよくわかります。これまでのTSA-120mmで分解能が十分出たという結果から、-200mmならば焦点距離的には十分収差が抑えられているということがわかるので、それ以上無理に焦点距離を負側に伸ばすことをしなくていいこともわかります。

問題は、-200mm程度の負の焦点距離のメニスカスレンズが簡単に手に入らないことです。負側の焦点距離のメニスカスレンズは、あるにはあるのですが種類がほとんどなく、特に長焦点はほとんど見つかりません。

一つの方法は、望遠鏡用のアクロマートレンズを分解して使うことです。望遠鏡用のアクロマートレンズは負の焦点距離のメニスカスレンズと両凸レンズを組み合わせて作ってあり、うまく探すと適した焦点距離のメニスカスレンズが見つかる可能性があります。

試しに手持ちの使っていないアクロマートレンズを分解して、ちょうど-200mmに合うようなものがないか探してみました。凹レンズの焦点距離を見ただけでどう判断すればいいのか、あまり経験がないのでわからないのですが、見つかったものはいずれも-200mmのPSTレンズよりはキツめに(像がより小さく)見えたので、-100mmとかもっと焦点距離が短いものかと思われます。実際にフェニックスの手前に置いて太陽を見てみましたが、いずれも調整の範囲内でピントが出るものは見つかりませんでした。

何か他にいいアイデアはないかというと、もし-200mmのアクロマートレンズが手に入れば、色収差だけでなく球面収差もある程度小さいと思われるので、おそらく代用できるでしょう。でもなかなか既製品では見つからないのと、特注を受け付けてくれるところもありますが、それだとどうしても高価になってしまいます。

もう一つのアイデアは、負の焦点距離のレンズと正の焦点距離のレンズを組み合わせて、合成焦点距離が-200mmになるようにすることです。例えば、
  1. -200mmの単レンズ1枚の場合
  2. -400mm単レンズ2枚で、ピッタリレンズをくっつけて、合成焦点距離−200mmにした場合
を比較してみます。2の2枚レンズの場合、まず焦点距離分で(200mm/400mm)^3 = 0.125倍だけ収差が改善され、これが2枚重なるので収差は0.25倍で、トータルで4分の1の収差になります。これは凹凹レンズからメニスカスレンズに変えた時と同じくらいの改善率になります。

いずれにせよ、いいコリメートレンズを見つけることが、フェニックス大口径化のキーとなると言っていいでしょう。


レンズ間距離の調整

さらにTSA-120で確かめたとき、フェニックス(に付けてあるコリメートレンズ)をTSA-120により近づけたときに、収差が良くなって見えたのですが、これを少し考えてみます。

  1. TSA-120の焦点距離900mmの対物レンズに直径23mmのPSTコリメートレンズが近づくということは、対物レンズに当たるビーム径がどんどん大きくなっていくということです。
  2. レンズ間距離がデフォルトの700mmから690mm、680mmと短くすると、ビーム径は26mm、27mm、28mmとざっくり1mmづつ大きくなっていきます。
  3. レンズ径の制限で23mmに絞られるのは変わらないのですが、26mmが23mmに絞られるのと、28mmが23mmに絞られるのとでは、後者の方が有利になります。
  4. それが3乗で効くので、(26/23)^3=1.445、(27/23)^3=1.618、(28/23)^3=1.804と1:0.893:0.801と2割も収差が改善されます。
実際2cmくらい動かしたので、この2割で目で見てわかるレベルで改善されたというのは、あながちおかしくなさそうな結果です。 少なくとも、定性的には動かす方向と改善の方向は合っていると思われます。

大口径化の(その4)の記事で、銀命堂さんがシミュレーションしてくれて、レンズ間距離が720mm付近でHαが飛び抜けて有利になるところがあるとのことです。このシミュレーションが上と同じようなことを意味しているのか、今のところ不明ですが、もしかしたらこの有利なところをたまたま見ていた結果なのかもしれません。


残った課題

収差については、ある程度のことはわかってきたことと、とりあえずPSTレンズで十分分解能が出るまで行けるということもわかってきたので、大体は解決かと思っています。

今悩んでいるのが、広い範囲で見るとリング状のボケが存在していることです。すでにC8で見ていた時より広い範囲で見えていて、分解能も20cmと12cmの口径差ほど出ていないように見えるので、まあいいと言えばいいのですが、できれば改善したいと思っています。このリング状のボケが、収差からきているのか、エタロンの波長ズレなどからきているのか、何か周辺を遮っているようなものが影響しているのか、まだ切り分けができていないです。切り分けのアイデアは多少あるので、もう少しだけ検証できればと思っています。


まとめ

120mmでは手持ちのものである程度やれることはやったかと思います。多少の課題は残っていますが、これでもう実用とするか、ここから更に大口径化の道を発展させていくのか迷っています。後者はゴールがまだまだ先になるのと、相当大変になることが予想できるので、もしやるならもう少し根本的に方法を考える必要がありそうです。

こういった改造はとても楽しいですが、太陽望遠鏡は危険なことも多分にあるので、安全には十分に気をつけ、あくまで自己責任で楽しむようにしてください。






いよいよCP+で話したネタ
の記事化も、これで最後になります。

これらのネタを、今回の記事も合わせて4つの記事にしました。どれも、少なくとも日本のアマチュア天文ではあまり話題になったことがないものです。

海外を見るとヘリオスター100Hαのエタロンの測定結果はいくつかアップロードされていて、その中の最新の#5は私が測った結果とほぼ同じFWHMの値が出ています。#3はFSRが全然違うので、何か波長のキャリブレーションを失敗している気がします。

こうやってみると、CP+のセミナーのために色々試したとはいえ、新しいことも多く、今後も参照できるような結果になったのではないかと思います。

というわけで、今回はCP+でも目玉になった、5番目の太陽黒点の3分周期振動についてです。


撮影

撮影データは前回記事のシーイングの時間変化を検証した際の30秒に一回で200フレーム撮影し、60分で120枚撮影したものと同じになります。

120枚の画像を見比べている最中にまず思ったことは、「黒点の形が結構変わる」ということです。これは最初シーイングが時間変化しているからかと思っていました。でもある時、PixInsightのBlinkで短時間で連続的に表示していった時に、どうも何か意味のある動きのように見えました。

改めてよく見てみると、どうも黒点の動きが周期的に変化していることに気づきました。その黒点の動きが周りにシュワシュワと広がっていっているように見えたのです。どうやら黒点自身が振動していて、その動きが周りに伝搬しているようです。ここで「黒点、振動」で検索をかけると、3分周期の振動が存在すると言うことがわかりました。画面上で実際に周期を測定してみると、約6枚ごとに振動しているように見えました。1枚あたり30秒ですので、ほぼ3分周期で間違いないようです。

その後さらに、3分周期の動画がないかいろいろ検索してみました。探した限り、わずかに黒点周りが揺れてるような動画は見つかりましたが、あまりはっきりせず、むしろその動画からFFTでスペクトル計算し、そのピークを見積り周期が1÷3分=0.00556秒程度と求めていて、それで3分周期の振動があると結論づけているものがほとんどで、動画などでクリアに見るというよりは解析の結果の振動と結論づけているような印象でした。ましてや、振動が周りに広がっていくような動画を見つける事は、少なくとも探した範囲ではできませんでした。

ちなみに、撮影をしたのが2月14日で、画像処理を進めながら黒点が動いていることに気づいたのが2月23日くらい、振動していると気づいて「黒点 振動」で検索してみたのが2月26日で、CP+に出発するわずか前々日のことです。

この段階で、CP +での発表は結構インパクトがあるものになるのでは?と予測できましたが、相変わらず宣伝は下手くそなので、Xでそれとなく呟いただけで、事前にうまく知らせる事はできませんでした。結局、せいぜい発表前日の会場で会った知り合いの方たちに「すごいのが撮れた」と話すのが関の山でした。

実際にセミナー本番で見せたときにはかなりのインパクトで、会場でも「おぉー!」というような雰囲気でした。その後のSNSでの反応もかなりすごいものがありました。もっとうまく事前に宣伝しておけばよかったと、後になって思いました...。


タイムラプス映像

下はCP+で見せたものと同じ、2倍のバローを入れて撮影したもので、その日見えていた一番大きな黒点になります。


黒点が揺れている様子、その揺れが周りに伝わっている様子がかなりはっきりとわかるかと思います。もし振動らしい映像が見えない場合はおそらく解像度がSDになっているので、Youtubeの設定でHDモードを選んでみてください。かなりマシになると思います。

ちなみに、アップロードする際に、なぜこれまで黒点振動の映像があまりなかったかがわかった気がします。モノクロだとYoutubeの画像圧縮が働いてしまい、うまく振動に見えないのです。フォーマットを264にして解像度を1440pにしてやっと振動がはっきり見えてきました。それでも手元のオリジナルファイルでローカルで見るものよりもどうしても劣ってしまっています。このような、モノクロで、画面の一部の淡い揺れに近に注目して欲しいような動画は、かなりうまくアップロードしないとノイズなどと勘違いされてしまうようです。

さらに次の日の別のタイムラプス動画で、こちらはバローなしの1倍で、30秒おきではなく、1分おきに撮影した、太陽の全景の下半分程度の画角のものです。

ただしこれだと、動いている様子などはほとんどわからないので、黒点部分を一部を拡大してみます。

同様に、もう一つの黒点も拡大してみます。

今回は1分ごとの撮影なので、コマ数が少なく振動がわかりにくいですが、それでも振動が広がっていく様子はわかると思います。

プロミネンスも激しく動いているのがわかります。

ダークフィラメントはプロミネンスと同じものですが、上から覗いている形になり、動きがわかりにくいです。それでも下の動画を見る限り、1時間で大きく動いていることがわかります。



静止画像

全体の高解像度画像で最も分解能よく撮れたものも載せておきます。モノクロと、よくある反転、カラー、カラー反転になります。このように加工してもまた印象が違って見えて面白いと思います。

10_36_27_lapl2_ap6587_mono_sharpen

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10_36_27_lapl2_ap6587_color_inv

さらに、そこから切り出した画像です。そこそこ高解像度なので、切り出し画像でも十分見応えがあるかと思います。

10_36_27_lapl2_ap6587_mono_sharpen_cut1

10_36_27_lapl2_ap6587_mono_inv_inv_cut1-topaz-upscale-2x

10_36_27_lapl2_ap6587_color_sharpen_cut2

10_36_27_lapl2_ap6587_color_inv_cut1

こんなふうに広角から切り出して楽しめるのは、全景に近い画角が撮影範囲内に入り、なおかつ分解能がそこそこあるからで、ヘリオスター100Hαはとても使いがいのある太陽望遠鏡なのかと思います。かなりバランスがとれていて、フラッグシップと呼ぶに相応しい性能と言えるのかと思います。モウスコシヤスケレバ...。


太陽の振動

CP+の時にはまだ黒点振動が見えただけくらいで、そもそもなぜこんなことが起こるのか理由はあまり把握できていませんでした。今回ブログ化するにあたり、時間もあったので少し調べてみました。

そもそも、太陽には5分周期の振動があるそうです。これは検索するとすぐに出てきて、1960年代に発見され、「対流」が起源で励起される「音波」のpモードと呼ばれる「固有振動」で説明できるということが1970年代くらいにわかってきたそうです。

起源である対流は表面では粒状斑となって現れることが有名で、私もちょっと前にやっとうまく撮影することができました。粒状斑の典型サイズは観測から L=1000km のオーダーで、典型速度 v = 1-2 km/s とわかっています。大きさと速度から、ざっくりとした寿命 τ が L/v で計算でき、τ ~ 500s となり、5-10分ほどのオーダーになります。

このように粒状斑のスケールからわかるように、対流が5分オーダーの音波を供給して、太陽内部の「pモード」と呼ばれる固有振動 (共鳴) を励起します。pモードのpはpressure (圧力) の意味だそうです。 pモードは3つの固有モードn, l, mで表され、
  • n: 半径方向の節数
  • l: 球面調和次数
  • m: 方位角次数
という関係があるそうで、pモードの周期は主にnのみで決まるとのことです。この中で周期5分オーダーのモードはn=20の場合で、このモードが先の対流が原因で最も大きく励起されます。

ではなぜ5分の周期が3分の周期になるのでしょうか?これはどうやら、黒点にこのモードが現れる際に、重力加速度と音速で決まるようなローパルフィルターの効果があり、それが5分程度のカットオフ周波数をもち、そこより多少低い周波数成分のみが通り抜け、結果として3分周期が最も大きく観測されるというのが今の解釈のようです。

カットオフ周波数 f は重力加速度 g と音速 Vs を用いて f = g/(2 Vs)/(2π) と表すことができます。太陽表面重力はg = 274 [ms^-2]、音速は光球付近では大体 Vs = 7 [km/s] 程度とのことなので、f = 0.00312 [Hz]となり、周期 P で書くと 1/f = 320 秒 = 5分20秒となります。これが黒点においては、磁場に沿った伝播と温度構造の変化によって有効カットオフが少し下がり、Pが3−4分になるとのことです。5分周りに広がったスペクトルが、黒点においては3分の成分だけが残るという理解だそうです。

さらに波の増幅という効果があって、波の振幅 a は密度 ρ と a ∝ ρ ^(−1/2) という関係があり、上空に行くと密度が急減するので波の振幅は一気に増幅します。すわなち、伝播できる波だけが急激に強くなるという効果があります。このようにして3分成分が大きく観測観測されるということのようです。

ここまでで、自分としては3分周期になる理由はカットオフ周波数によるスペクトル選択だと納得しました。でも、なぜ黒点のみ3分になるのでしょうか?カットオフが理由なら、光球面の周期も5分ではなく3分になっていい気がします。もう少し調べてみました。

黒点だけが3分になる主な原因は「磁場による波の導波(wave guiding)」だそうです。波が彩層まで届くかどうかが、黒点と、光球面などの静穏領域で違うとのことです。静穏領域では5分の波はほぼ水平に伝播するため彩層まで行かずに反射と干渉を繰り返します。一方、黒点では強い垂直磁場があり、音波は磁力線に沿って伝播します。波が垂直に導かれる(wave guide)ため、ローパスフィルターの影響が顕著になり、3分周期が支配的になるとうことのようです。

ここら辺まで来て、やっと納得できました。

さらに調べていくと面白い記述を見つけました。「3分振動は黒点の中心から同心円状に外へ波として広がることがあります。これは sunspot oscillation wavefront と呼ばれ、黒点が 巨大な波動導波管(magnetic waveguide) のように振る舞っている証拠と考えられています。」とのことです。今回撮影できたの映像のように、振動が広がっていく様子がはっきり見えたのも、この導波(wave guiding)の効果と考えられるようです。

とりあえずの調べ物はこれくらいにしておきます。


まとめ

黒点振動を含めて、ここまでの画像が撮れるとは思っていなかったので、自分自身もうびっくりでした。これもヘリオスター100Hαの高性能エタロンと高分解能のおかげだと思います。CP+セミナーのための評価というだけでなく、エタロンの透過特性の測定も合わせて、十分すぎるほと楽しまさせていただきました。サイトロンさんには改めて感謝いたします。

やっとCP+の顛末をまとめることができたので、次は何をしようかちょっと迷っています。やりたいことがまだありすぎで、時間は限られているので、天気とかのタイミングと、その時の興味と、いろんな準備状況など合わせて、少しづつ、焦らずに進めていこうと思います。



シーイングを客観的に評価するのは結構大変です。今回は太陽望遠鏡としてヘリオスター100Hαにモノクロのピクセルサイズ2μmのG3M678Mを用いて撮影した多数の画像を使い、シーイングを計測してみようと思います。

本記事はCP+で話した太陽トークでまだ記事にしてないことの一つで、
の3と4になります。


撮影条件

撮影日は2026年2月14日、ヘリオスター100Hαで太陽を約30秒に1回、約1時間で合計120枚撮影しました。一回あたりの撮影では、露光時間5ms、gain200 (ZWOのカメラでgain60=6dB=2倍に相当) で、200フレームを撮影しています。フレームレートは40fps程度で、一回の撮影で5秒くらいかかります。

ちなみに、1ファイル3GB程度の大きさになるので、120回撮影すると400GBものサイズになります。今回は通常の1倍撮影と、2倍のバローレンズをつけた撮影の、120x2=240回になります。画像処理も入れるSSDを1TB近くを消費したことになります。今回はテストなので全ファイルを残していますが、シーイングの悪い時間帯のserファイルは消すとかしないと、流石にストレージが持ちません。

1回の撮影でできたserファイルの200フレームのうち、AutoStakkert!4で上位80%をスタックします。これを120回分まとめて全て連続処理しますが、できた1枚1枚の画像ファイルのサイズはバラバラになってしまうので、ImPPGで画像サイズを合わせます。必須ではないですが、同じくImPPGで位置合わせまでしてしまうと、後からのタイムラプス映像を作る時の処理が楽になるでしょう。

これ以降シーイング評価の話になりますが、実際にやったのは目で画像を見て分解能別に分別することです。目で画像の分解能を見分けるためにはスタック直後の画像ではボケボケで見分けがつかないのでダメで、それをImPPGのバッチ処理を使い、細部出しをしたもので判別しています。その後、アルゴリズムで画像から分解能を評価するテストに進みましたが、その際はImPPGで細部出しをしたものではシーイングが現実的な値にならずにうまく評価できませんでした。そのため、以下の話はスタック直後の画像で評価しています。


シーイングの評価

画像からシーイングを評価する方法としては何種類かありますが、ここでは5つの方法を試しました。
  1. Tenengrad: 画像のシャープネス(鮮明度)や焦点の合い具合を評価するためによく用いられる勾配ベースの指標
  2. ラプラシアン分散(Laplacian Variance): 画像内のエッジ(輪郭)の強さを表す「ラプラシアン」を計算し、その分散(ばらつき)を算出する。
  3. FFT高周波比(高周波/低周波パワー比): 信号の全パワーに対する特定の高周波帯域(バンド)のパワーの割合を計算する。
  4. エッジ遷移幅: エッジ画像からエッジスプレッド関数 (ESF、画像上の輝度変化)を求め、それを微分してラインスプレッド関数 (LSF)を求める。エッジ法線方向に輝度プロファイルを取り、誤差関数(erf)やロジスティックでフィットして遷移幅を得る。
  5. フレーム間jitter(位相相関で微小シフト): シーイングは「ぼけ」だけでなく「像の揺れ」も大きいので、サブピクセルの微小移動は残る。連続フレームの相互相関からピーク位置のシフト求め、jitter のRMSを計算。
1-5までの評価を120枚に渡り、横軸時系列で、縦軸を粗さ細かさの変化でプロットします。

それぞれの計算結果が正しいかどうかの判断はなかなか難しいです。ここでは120枚の画像を目で見て1枚1枚粗さ別に仕分けして、それを時系列でプロットしてみた場合と比較してみました。

その結果、少なくとも3と5は、見た目で分けた傾向とは全く違いました。3はブレが大きい場合の違いを見分けることが得意でないようです。5は大きく間違えている場合がいくつかあったので却下しました。

1、2、4に関しては、目で見た傾向とは似たものが得られました。相対的な変化は甲乙つけ難いですが、問題はこの粗さ細かさの相対的な時系列変化を、シーイングという秒角の単位の絶対的な評価にしてやる必要があります。この場合、arcsec/pixelの値がわかっていれば、秒角にまで落とし込むことができるはずです。ところが、これがなかなかうまくいくことができずに、結局1のTenengradのみがそれらしい値になりました。2と4はいずれも1秒角以下と現実的な値から乖離していたので、今回はこのTenengradを採用することにしました。


シーイング変化の結果

その際の結果が以下になります。
graph_x1_ok



グラフを見る限り、1時間の間にシーイングがどんどん良くなっているのがわかります。9時頃は4秒書く以上と、典型的か少し悪い程度。それが改善されていって、10時頃からは1秒角程度になっているので、相当良かったことがわかります。この評価ですが、見た目で仕分けたものと比較してみます。見た目の画像は先に書いたように、ImPPGで細部出しをしたもので分別しています。

graph_x1_eye_ok

右軸の目の評価はランク付けしただけの値なので、秒角とは無関係ですが、少なくともTenengradで評価した傾向は目で見て分けた傾向とそこそこ合っているように見えます。その目で仕分けた画像を、分解能別の頻度分布を画像枚数で表してみます。
hist_x1_ok
頻度は正規分布にそこそこ従っているように見えます。全枚数をある程度の順位付けした後、一番いいものと一番悪いもの、ちょうど真ん中のもの、真ん中とベスト、ワーストの中間の5枚を引き出して並べてみたものが下の比較図です。左がワースト、右がベストになります。

five

同じ機材、同じ手法、同じ日でも、1時間内で見た目でわかるほど大きく分解能が変化することがわかります。このばらつきが上記のような分布に従うとすると、何も考えずに適当に撮影すると真ん中ら辺の画像になる確率が一番高くなります。きちんと選ぶと、1時間で120枚撮影したうちのわずか数枚は、ものすごくいいシーイングになりますが、その確率は数%と小さいので、偶然に頼るのはあまり得策でないことがわかります。


2倍バローでどうなるか?

上記の撮影に加えて、連続して2倍のバローレンズをつけて焦点距離を伸ばし、再び同条件で1時間、120枚の撮影をしました。焦点距離を増やしたということは、カメラのピクセルサイズの制限が緩和されるので、うまくいくとより分解能がよくなるはずです。

これも同様に時系列で解析します。

graph_x2_ok

横軸の時間を見てもらうとわかりますが、1倍の撮影の直後の時間帯から始めていて、グラフの値も1倍の最後のところをほぼ踏襲しているように見えるので、評価としては同様のことができていると思われます。

続いて、目で仕分けしたものとの同一プロットです。

graph_x2_eye_ok


まあそこそこ傾向は一致しているように見えます。というより、目で見ていてももう良すぎて差がわからないと言った状況でした。

同様に分布図です。

hist_x2_ok

1倍の時は正規分布に近い形をしていましたが、2倍の場合はどちらかというとピークが左側に寄ってしまっていて分解能が頭打ちのような状況になっているのかと思います。一つの解釈は、もう口径や光学系の制限に近づいてしまい、これ以上シーイングが良くなっても、像は良くならないと考えることができそうです。もしまだシーイングのばらつきが効いているなら、分布はもっと左側に広がってもいいはずだということです。

実際、1倍の時の一番いい画像と、2倍の時の1番いい画像を比べてみます。
x1_x2

確かに微妙に2倍の方がいいように見えますが、そこまで大きな差は無いと言えそうです。いいシーイングを実現してはじめて、やっとヘリオスター100Hαの性能限界に近づくことができるということなのかと思います。逆に言うと、口径100mmの性能を引き出すのは、そう簡単ではないということです。

もし、ヘリオスターの76mmでも100mmでもいいのですが、撮影したらフェニックスとそう結果が変わらなかったと悩んでいる場合は、ぜひともシーイングを選ぶということをやってみてください。方法はいろいろあるかと思いますが、これまでの経験から30秒くらいの単位で大きく変わることもあるので、やはり今回のように長時間、30秒くらいのスパンで間欠的に撮影して選ぶのが確実なのかと思います。


シーイングがこんなにいいのは本当か?

ここで少し疑問が湧きます。上のシーイングの時系列グラフを見てみると、1秒角を切っているところがあります。日本でのシーイングは典型的には2-4秒角、いい時でも1秒角と言われています。今回のように1秒角を平気で切るようなことはあり得るのでしょうか?

少し調べてみると、一般的な天文観測サイトでは
  • 良い観測地(世界標準)-> 中央値 0.6–0.8″
  • 普通の観測地 -> 中央値 0.8–1.5″程度
  • 都市・低地 -> 中央値 2″以上も普通
とのことです。でもこれは世界でのことで、日本ではいろいろ不利な面があり、典型的には
  • 山岳観測所(木曽・岡山など) -> 中央値 1–2″程度が中心
  • 良い夜(山) -> 中央値 0.8–1.0″
  • 非常に良い夜 -> 中央値 0.6–0.8″
  • 平地・都市 -> 中央値 2–4″以上も普通
とのことです。これらの値は全て中央値であることに注意です。今回の撮影は自宅なのですが、時間によって1秒角から5秒角くらいまではブレても良さそうです。今回の測定結果を見ると、6秒角くらいから1秒角を切った時間帯もあります。もう少しきちんと考えてみます。

そもそも、シーイングとは普通はどう測定されるのかというと、一般的にはDIMM(Differential Image Motion Monitor)とも呼ばれ、ミリ秒単位の短い露光で「波面の傾きの揺らぎ」を測定し、その「ばらつき(分散)」を評価します。注意すべきことは、DIMMでは短時間露光が必須ということです。仮に露光時間を長くして平均化すると画面はぼやけるのですが、その一方でばらつきは小さくなってしまうため、もしシーイングとして評価しようとすると、良すぎる値が出てしまいます。要するに、平均化で見た目はボケてもシーイングがいいと判断してしまい、逆センスとなるわけです。これはシーイングという指標が、高次の細かい波形を見ているわけではないことを示しています。

その一方、今回の撮影は惑星のように、ごく短時間露光で撮影して多数枚をスタックしています。具体的には5ms撮影で160枚スタックしたものを1枚の静止画としています。AutoStakkertは特徴点を抽出して画像を歪めて位置合わせするようなアルゴリズムのはずなので、短時間で露光したものは一瞬一瞬のブレの少ない状態を撮影して、その特徴的な位置を認識し、次の画像も特徴的な位置を合わせるように画面を歪ませて画像を重ね合わせています。なので同じトータル時間 (ここでは5秒くらい) で単純に平均化した画像と比較すると、位置合わせして多數枚スタックした画像はシャープさが格段に良くなります。こう考えると、短時間露光で評価したシーイングと、位置合わせ多数枚スタックは同等の露光時間で評価したと言っていいのかと思います。

もう少し詳しく書いておきます。今回スタックした画像というものは、厳密にはシーイングそのものは違っていて、実効的にはPSF(Point Spread Function)を評価しています。PSFは点光源がどのように広がるかを表す関数で、これを「秒角/pixel」という画角とカメラセンサーから出てくる値から、PSFのFWHM を秒角単位にしたものです。短時間露光のスタックなので、短時間露光で測定したシーイング相当になるというのは上記で説明したとおりでいいでしょう。ただし、短時間露光スタックの方が一般的にいいFWHM値が出てしまうようです。理由は難しくはなく、位置合わせによって本来シーイングが見るべき傾き成分が取り除かれてしまい低周波成分が減るため、PSFのFWHMが小さくなるとのことです。例えばオフアキでのAO撮影のように、単純に各フレームを平行移動でそろえるだけでも一般的にFWHMは改善しますし、画像を歪ませての位置合わせとなると改善はさらに大きくなります。

さらにですが、今回は200枚中の上位160枚で8割を選んで使っていますが、この割合をもっと減らして1つのserファイル内でラッキーイメージング的なことをもっと進めると、さらに改善幅は大きくなる可能性があります。

というわけで、普通に評価するシーイングよりもスタックした方がある程度良い値になるというのは少なくとも定性的にはおかしくなさそうで、上記のグラフで出した良すぎる値は十分あり得るのかと思います。

このように厳密にいうとスタック撮影から評価した分解能はシーイングとは違うということになりますが、ここではイメージしやすいということで、グラフ内ではシーイングという言葉をあえて残すことにします。


まとめ

撮影した多数の太陽のHα画像から、シーイング相当の時間変化を定量的に評価してみました。1時間でシーイングは大きく変化し、その際の最も分解能の出ている画像と、最もボケた画像では、大きく違うことがわかりました。同じ機材を使って、ここまで大きな差があることは驚き以外のなにものでもありません。いいシーイングを選ぶということは非常に重要で、口径の大きいヘリオスター100Hαはシーイングを選ぶだけの価値がある太陽望遠鏡だということです。その一方で、口径限界まで達するとそれ以上いいシーイングがあったとしても、分解能は頭打ちになってしまいもうそれ以上改善しません。

口径100mmはハイエンドクラスの太陽望遠鏡なのですが、口径200mmや300mmでの太陽画像の分解能はさらに別世界となります。例えばここは、口径300mmの太陽望遠鏡を市販しているメーカーになります。最後は口径が効いてくるのは、惑星の場合と同じなのかと思います。


日記

2月の途中から3月はとにかく忙しかったです。CP+もありましたが、その前後も合わせて出張が多くて、ほとんど自宅にいない日が続きました。たまに自宅にいても1日とか2日で、次の日朝早く出発することを考えるとなかなか夜の撮影もままならない日が続きました。

そんな中で、先日実家の名古屋に行く用事があり、ついでにSCORPIOに寄ってきました。いつもの如く何か買うわけではないので申し訳なかったのですが、店長さんにCP+の黒点振動の動画を見せたりして盛り上がりました。ちょうど来ていたお客さんに、小学4年生の男の子と、さらにその後中学2年生の女の子がいたので、黒点振動や撮影した星雲や銀河の写真をみてもらいました。二人とも天文に興味がある子達で、一人は望遠鏡の受け取りに、もう一人は赤道儀の検討に家族と一緒に来店していました。その間に、ヘリオスター76Hαを覗かせてもらったりして、結局2時間近く滞在してしまいました。店を出た後に、たまたま宙うたさんが来店されたらしくて、つい先日購入されたヘリオスター100Hαを持ち込んで76Hαと並んで太陽を見ていたとのこと。せっかくなので宙うたさんとお会いしたかったです。もう少し長くいればよかったのかもしれません。

更に今週末は天文仲間のお客さんが自宅に来る予定です。少し準備をしたいので、できれば平日のうちに晴れてくれればいいのですが。


CP+で話した太陽トークで示した新しいこと:
の2つ目、白いモヤモヤについてCP+前に調べたことを記事にしておきます。


分光で気づいた白いモヤモヤ

太陽Hα画像で白モヤモヤに気づいたのは、分光撮影を始めた頃です。分光で一番最初に撮影した2025年6月20日時の記事の中の画像でも、すでにそのモヤもモヤが出ています。


下がその時の画像で、白く明るいプラージュとは別に、広い範囲にわたって淡い白でモヤモヤしたものが広がっているのがわかるかと思います。
10_09_34_x4_20250617_autostretch_0_00

なぜそんなことに気づいたかというと、分光を始める直前に口径8cmの鏡筒にPSTをつけて太陽全景を撮影していた時の画像をよく覚えていたからです。以下のような画像です。
10_57_04_lapl2_ap10495_IP

FWHMが大きいPSTながら、上の画像は太陽を全景でそこそこ撮れているので、すでにあまり不満はありませんでした。いわゆる典型的なHα画像で、太陽表面全体が「賑やかな模様」で覆われていて、その迫力を十分に楽しむことができます。

これに比べると、一つ上の分光画像は太陽表面全体がなんか「のっぺり」しているのです。最初は「あれ?活動期が突如終わったのか?」とか、「うまく撮れていないのか?」とか、「分光ってもしかしてFWHMは小さいけどつまらない画像しか撮れない?」とかいろいろ思っていました。

その一方、のっぺりした表面の中に何か「白いモヤモヤ」したものが写っていて、PST画像では見えない何かが写っているのではと思い、ネットに上がっている画像と比較してみました。確かにFWHMの小さい分光画像には再現性よく「白いモヤモヤ」が写っていて、かつ「のっぺり」。PSTやLUNTなどの比較的FWHMが大きいと思われる同じ日の太陽画像には「賑やかな太陽表面」である一方白いモヤモヤは写っていません。

ブログの記事の中で明確にそのことについて触れたのは、7月1日のCaK線を撮影してHα線画像と比較した時です。この時点ですでにCaK画像とHα画像についての相似性について言及しています。


もっとはっきり議論したのは応用編に入ってからの7月14日の記事です。


ここでは、FWHMの大きさによって見え方がどれくらい違うかを、0.25ÅのSMART(左)と、0.6Å以下のフェニックス(真ん中)、1Å以下のPST(右)で比較しています。
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上の段が実画像で、下の段が波長分解能が0.091ÅのSHG700で、Hαを中心に波長域を広げて重ね合わせることで上の段の画像をシミュレートしたものです。FWHMが小さいと見える白いモヤモヤですが、フェニックスでもごく僅かに見えていて、PST画像に至っては全く見えなくなっています。

同日のFWHMが0.091ÅのSHG700の画像が以下になりますが、白いモヤモヤがSMART画像よりもさらにはっきり見えているのがわかります。
07_13_53-trimmed_0000_07_13_53-trimmed_averaged0

このように、Hα中心線にかなり近づいた時のみ出てくる、白いモヤモヤに見える何かが存在することはわかるかと思います。ちなみに、JSol'Exの標準スクリプトで処理される観賞用のHα画像は、中心波長だけだとのっぺりして面白みがないのか、中心波長に周りの波長を少し加えて多少見栄えがするように仕上げたりしています。


白いモヤモヤの名前

この白いモヤモヤですが、名前とかはついているのでしょうか?

この時点ですでにフェニックスやヘリオスターの76Hαは製品として市販されていましたし、エタロンのダブルスタックでFWHMを実効的に狭くして撮影したという画像がある程度出回っていて、そこにもそれらしき白いモヤは写っているものはあります。でもFHWMが分光撮影に比べたらまだ広く、そこまではっきりしていないせいなのか、ほとんど話題になるようなことはありませんでした。

この時点で2025年の夏くらいで、ちょうど胎内の星まつりで太陽に詳しいSさんの講演があったので、その講演に参加しリモート越しでしたが直接尋ねてみました。講演内で紹介されていたダブルスタックエタロンで移したという画像に、実際に白いモヤモヤが写っていたからです。しかしながら、名前もそうですが、白いモヤモヤ自身に気づいていらっしゃらないようでした。その後何人かの太陽に詳しい方に聞いてみたのですが、当時は分光でもSHG700ほどの分解能で太陽を見ている人はまだ日本では皆無で、ダブルスタックで見ている人も画像に写ってはいるものの気づいている人も皆無でした。

そんな中、2026年2月に新潟に行く機会があり、たまたまその時期に開催れていた新潟天文研究会の写真展に立ち寄った時のことです。そこで太陽に大変詳しいWさんとお会いすることができ、自分が撮った白いモヤモヤを画像を見せながら聞いてみると、「名前そのものは覚えていないが、少なくとも名前がついていたはずだ」との心強い意見が得られました。そこで、ちょうどCP+のこともあるので、本気で調べてみることにしました。


白いモヤモヤの正体

大きなヒントはHα画像と、同日に撮影したCaK画像の比較でした。


09_01_29-trimmed_0000_09_01_29-trimmed_autostretch_0_00

08_40_23-trimmed_0000_08_40_23-trimmed_colorized_0_00

上の2枚を比べると、プラージュクラスの白い明るい部分以外でも、より淡い白い部分で一致する模様がたくさんあるのがわかります。

まず、CaKの画像のプラージュ以外の淡い部分はChromospheric Network(彩層ネットワーク)、あるいはNetwork Bright Points / Network Elementsなどと呼ばれていることは比較的簡単にわかりました。

今回の事象の大元は、プラズマの流れにより太陽表面の磁力線が掃き寄せられて磁場が集中し「磁気ネットワーク」が形成され、磁場集中により周囲のセル内部に比べて彩層(光球の上の層)では輝度が高く、明るい網目状の構造(ネットワーク)として観測されるとのことです。プラージュが強磁場での活動領域とすると、ネットワークは静穏領域での磁場活動とかんがえるといいのでしょう。

今回見えたCaK画像の場合「磁気ネットワークが彩層に投影されたもの」という理解になります。ただし、今回撮影したCaK画像の透過波長幅は0.1Å程度とかなりの分解能になるのですが、一般的なCaKフィルターの透過幅は数Åと分光での撮影に比べて数十倍広いので、上の画像のような白く淡いモヤモヤに相当する部分はあまりはっきりとは出ないようです。このことについては私は一般的なCaKフィルターを持っていないので、確かめることはできていません。

「磁気ネットワーク」という物理的な現象はわかったのですが、それがHα画像になるとなぜ白いモヤモヤになるのか?ここがまだ謎でした。調べていくと
  • Photospheric magnetic network (光球面の磁場ネットワーク) → Chromospheric network (彩層面ネットワーク) → Hα fibril canopy
という三層対応となっていることがわかりました。fabril canopyに対する日本語はまだあまりないみたいです。

もっと具体的には
  • CaKでの形成高度が~1000–1500 kmで主に垂直方向の磁場集中を強調され、「磁場の足元」が明るい
  • Hαでは形成高度が~1500–2000 kmで磁場に沿った水平フィブリルが支配的、ネットワーク境界から横方向へ拡張されている
ということです。もう少しわかりやすく書くと、Hαではフィブリルが横方向に広がるため、ネットワーク境界から“傘状”に拡張され、「淡いベール」になる。すなわち、CaKで見える網目の“源”がHαではフィブリルとして広がり、モヤになるということのようです。フィブリルもしくはファイブリルは日本語では原線維とか微小繊維と訳されるようで、ファイバーと同じ語源を持ち、光ファイバーの断面もフィブリル構造とのことなので、それを想像すると少しイメージが湧くかもしれません。

日本語の解説はここがわかりやすいです。


ネットワークからネットワークに向けて出ている細長い構造をファイブリル (fibril) と呼び、解像度が低い画像ではまだら模様に写るため「モットル (mottle, 斑紋) 」と呼んでいるとのことです。ただ、ここの説明が本当に白いモヤモヤのことを言っているのかはまだ少し納得がいっていなくて、むしろここ

白紋のことなのかもしれません。

いずれにせよ、今回の画像から少なくとも言えることは、このモットルやフィブリルなどと呼ばれる白いモヤモヤを見ることができる太陽望遠鏡は、エタロン、分光という手法に限らず、非常に優れた狭い波長透過幅を持っているということでしょう。

CP+では、ヘリオスター100Hαは十分に見ることができ、エタロンの透過曲線を実測してもFWHMが0.32Åと非常に優れていて、フェニックスもそれには少し劣るが、FWHMが0.37Åと優れていて白いモヤモヤが僅かに見えるということを示しました。


他波長との比較

別の日のHa、CaK、Hβ、Hγの画像を見比べても、同様の模様の相似性がわかります。


以下それぞれの画像と、(波長)、透過波長幅です。

Hα (6562.81Å), 0.091Å
09_39_22-trimmed_0000_09_39_22-trimmed_colorized_0_00


CaK (3933.66Å), 0.113Å
IP_resize_lapl2_ap5118_IP

Hβ (4861.34Å), 0.108Å: 白いモヤモヤに相当する分が、周りより少し暗く出ているように見えます。
03_Hbeta_0001_08_44_26_colorized_0_00

Hγ (4340.47Å), 0.111Å
04_Hgamma_0000_08_56_44-trimmed_colorized_0_00

HβやHγではネットワーク構造は吸収(暗いコントラスト)として出ていると考えるのが妥当なようです。


まとめ

分光撮影を始めて、Hα線周りをかなり波長幅の狭いFWHMで撮影できるようになって以来、ずっと謎だった白いモヤモヤの正体が、CP+で発表することをきっかけに調べて、やっと正体が判明しました。

まとめると、
  • 磁場ネットワークが大元。
  • CaK: ネットワーク構造が 明るい網目として彩層に強く出ている。
  • Hα: 同じ磁場構造がフィブリル構造として広がり白いモヤモヤになる。
  • Hγ, Hβ: 同じ場所が 吸収寄り(暗)になり、低コントラストで現れ得る。
というようなことがわかりました。

アマチュア天文の機材でこれだけのことが検証できるというのはすごいです。しかも今回、自分で撮影したものの正体を調べていくとだんだんわかってくるという、もう謎解きプロセスと言っていいようなものをそのまま味わうことができました。これだから天文趣味はやめられません。

分光で検証できますが、優れたエタロンを持つヘリオスター100Hαでも見ることができ、頑張ればフェニックスでも見ることができるので、皆さんも挑戦してみてはいかがでしょうか?

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