ほしぞloveログ

天体観測始めました。

カテゴリ: 調整・改造

6月1日の記事で書いたエタロン改善ですが、最後に少し謎が残っていました。
  1. なぜエタロンとカメラの間の距離を長くすると、両像範囲が拡大するのか?
  2. なぜエタロンとカメラの間の距離を長くすると、画面が暗くなるのか?
  3. なぜエタロンとカメラの間の距離を長くすると、分解能が良くなったように見えるのは気のせいか?
などです。その後、少し検証しました。


暗くなる理由

6月5日、平日ですが朝早くから試したところで、2の原因の一部は理由がわかりました。前の記事で推測はしていたのですが、先に答えだけ言ってしまうと、接眼部についているBF(ブロッキングフィルター)と呼ばれている、直径5mmの径の小ささが原因でした。

試したことは、まずは前回のようにカメラをできるだけPSTのアイピース口に対して浅く取り付けて、エタロンとセンサー面の距離を長くとります。具体的な順序は

PST -> BF+アイピース取り付け口 -> アイピース口延長筒(手持ちのVixen製のもの) -> カメラ(G3M678M)

となります。ピントが出るように、C8の主鏡位置移動のつまみを回して合わせます。前回同様に距離が短い場合に比べて画面全体が暗くなるので、再現性はあります。
スクリーンショット 2025-06-05 073153_01_75mm_PST_BF_VIXENextender

次に、接続順序を以下のように変更します。

PST -> アイピース口延長筒(PSTに付属していたもの) -> BF+アイピース取り付け口 -> カメラ(G3M678M)

スクリーンショット 2025-06-05 07375702_75mm_PST_extender_BF_camera

ようするに、エタ論とカメラ間の全体の距離を保ちながら、Vixen製の延長筒を外しBFとカメラセンサー面の相対距離を縮めたわけです。全体長を保つために、BFの手前に別途延長筒を取り付けています。ピントは、C8の調整つまみを回すのではなく、カメラをアイピース口に出し入れすることで調整しています。カメラ位置を変えることでピントが出たなら、そこは全長が同じだった位置ということになります。

視野の大きさや、分解能に見た目の変化はほとんどないですが、明るさだけは倍程度になりました。(見かけの明るさはヒストグラムに応じてオートストレッチしているので同じようになりますが、ヒストグラムの山の位置は変わっているので実際の明るさは変化しています。) これはBFの小径が通る光を制限していたことになり、BFの位置がより焦点近くに移動したために、BFでの光束径が小さくなり、より多くの光が通ることになったのかと思われます。

この結果を踏まえて、BFとセンサー面の距離がある程度短い方が有利ということで、PSTとBFの間に、PST付属のアイピース口延長筒をもう一つ追加 (PSTが2台あるのでもう一台から奪ってきたもの) しました。それでもまだカメラ位置はエタロンから遠い方が良さそうなので、さらにBFとカメラの間にVixen製のアイピース口延長筒を入れたものをデフォルトの設定としました。


視野が広がる理由がまだわからない

1については考察のみしてみます。

8cm鏡筒でエタロン位置の最適化を探った時、エタロンを対物レンズから遠ざけるほど、カメラ位置はPST側に押し込まなければピントが出なかったという経験をしています。

対物レンズの焦点距離をf1、エタロン手前のレンズの焦点距離をf2として、その2枚で得られる合成焦点距離fは、レンズ間の距離をdとすると
1/f = 1/f1 + 1/f2 - d/(f1 f2)

と書くことができます。エタロン内部で平行光を作る条件は、= ♾️なので、

0 = 1/f1 + 1/f2 - d/(f1 f2)
で両辺にf1 f2をかけて、

0 = f2 + f1 - d
なので

d  = f1 + f2
となる長さで、エタロン内部に平行な光が提供されます。エタロン手前のレンズは凹レンズで焦点距離はf2 = -200 [mm]とわかっているので、例えばよく使っている8cm鏡筒で、対物レンズの焦点距離f= 400 [mm]の場合は、d = 200 [mm]となり、実際にその辺りの距離にエタロンをおいて運用してうまく動いているようなので、間違っていないでしょう。

ここで、エタロン位置を対物レンズから遠ざけるということは、dを大きくするということです。これは合成焦点距離が正の無限大でない数になります。言い換えると、平行光にはならずに、光を有限の距離で収束させる合成レンズになるということです。わかりにくい場合は、具体的に数値を入れてみるといいでしょう。最初の式に、f= 400と f = -200を入れてみると

1/f = 1/400 - 1/200 + d/(400 x 200)
となります。右辺最初の2項を合わせると負になるので、

1/f = -1/400  + d/(400 x 200)

となり、右辺の初項と2項目が等しいとバランスが取れて平行光になります。dは正の数で、増えると2項目が増えて、右辺は正になるので、結局合成焦点距離fも正になり、光を収束することになります。

エタロン後部に置かれた焦点距離 f= 200 [mm]のレンズで集光するのですが、エタロンをより後ろに動かすと、もともとあった平行光が、dが伸びたことでより集光された状態になるので、カメラまでの焦点距離がより短くなる方向になります。なので8cm鏡筒で試したように、現実にカメラをPST側により押し込んだときに焦点が合うというのは、正しいと言えそうです。

以上のことを踏まえて、C8で起こったことを考えます。
  1. 今回は、カメラの位置をPSTから遠ざけるほど視野が広がりました。カメラをPSTから遠ざけてピントを出したということは、上の考察から「エタロンはより対物レンズに近づいた」ということになります。そして、エタロン後部のレンズを出た光が焦点を結ぶ距離は、より後ろに下がったということになります。
  2. その一方、センサー上で見えている太陽表面のエリアは広がりましたが、これは拡大率が変わったわけではなくて、センサー内に映る円の大きさが大きくなったために、より多くの範囲が見えているというだけです。
これら2つのことがどうしても一見対立しているようで、なかなかいい説明ができません。エタロンが相対的に対物レンズ(この場合主鏡)に近づいたということは、レンズ径やエタロン径の制限がより効く方向なので、視野が狭くなると思えるのです。

ここ1週間くらいずっと考えていましたが、いまだに結論は出ていません。


黒点撮影

というわけでまだ謎は残りますが、とりあえずこれで撮影してみます。

まずは黒点AR4100、4101周りです。30秒おきに1ms露光で200フレームづつ、合計60枚で約30分間撮影しました。シーイングはあまりよくなく、その中で一番いいものを画像処理しました。画像処理は、ImPPG、PixInsightのSolarToolbox、Photohopなどです。いつものように、モノクロ、カラー化、さらに反転させたものです。それぞれ端の方を少しクロップしています。

08_56_22_lapl2_ap3397_IP_2_50_mono_cut

08_56_22_lapl2_ap3397_IP_2_50_color_cut

08_56_22_lapl2_ap3397_IP_2_50_color_inv_cut

その後、タイムラプス映像も作りましたが、高々30分であることと、シーイングが良くない時間が多かったので、結構ボケボケです。参考程度に載せておきます。フレアが最後に収まっていくのと、次のフレアが起こる始めくらいが見えています。



プロミネンス撮影

その後、プロミネンスを撮影し、タイムラプス化しました。前回記事の東端9時方向に出ていた大きなものです。カメラの回転角を変えて、長手方向に全体が入るようにしました。30秒おきに1ms露光で200フレームづつ、合計120枚で約1時間撮影しました。最後のffmpegのコマンドだけメモがわりに残しておきます。
  • ffmpeg -y -r 20 -i Blink%05d.png Blink_20.mp4
  • ffmpeg -i .\Blink_20.mp4 -vf "crop=3500:1900:175:125" Blink_20_cut.mp4
  • ffmpeg -i .\Blink_12_cut.mp4 -vf "scale=1920:-1" -vcodec libx264 -pix_fmt yuv420p -strict -2 -acodec aac .\Blink_12_cut_X.mp4


前回記事のものを再掲載しますが、やはり分解能の違いは明白で、全景からの切り出しでは細部を出すのは難しいことがわかります。


一度に全体と細部を撮る方法はないのか?口径が大きく、C8程度の焦点距離に、広い面積に渡り精度のいいエタロンを探して取り付け、ピクセルサイズの小さいフルサイズモノクロセンサーを使うとかでしょうか。まあ、技術的にも予算的にも全然無理な気がします。


カメラをASI290MMに戻すか?

ここまでの調整の甲斐もあり、G3M678Mで撮影範囲も広がり、かつ分解能も上がっています。その一方、今回の画像を見ても、まだ真ん中と端の方では差があり、これはHαの分解能なのか、収差などでピントがあっていないのかまだわかりませんが(エタロンがかなり無理をした位置に置いてあるので、後者の可能性も高いと思います。)、画角的には欲張りすぎな気がしています。

というわけで、カメラをASI290MMに戻すことを考えています。戻すことは結構利点があって
  • 大きな黒点が少なくなってきて、ある程度の狭角で撮らないと迫力が出ない。
  • G3M678Mだと、ワンショットあたりのファイルサイズが3-4GBで、すでに大きすです。ASI290MMだと800MB程度です。ちなみにこの6月5日に撮影したファイルの総量は600GB超えです...
  • G3M678Mのフレームレートが23fpsと結構遅いです。ASI290MMは60-70fpsくらい出ます。
  • 画素数もすでに多すぎる気がします。タイムラプス映像でYouTubeにアップするとしたら、横は1920ピクセルあれば十分です。G3M678Mはいわゆる4Kカメラで横幅3840ピクセルと倍もあり、今回もかなり削って、最後は横が1920ピクセルになるように縮小しています。
  • また、分解能に関してはシーイングの方が効きやすいので、2μmまでは必要ない気もしています。画像処理、特にImPPGでの細部出しの時に、1ピクセルレベルの細部が十分聞いていない気がしています。
  • G3M678Mを今後別目的(分光太陽撮影のための新機材のSGH700)で専用に使いたい、というかそもそもこのカメラを買ったのはSHG700のためです。
などの理由があります。

その一方、ASI290MMに戻すときの問題点がニュートンリングです。G3M678Mでは全く出なくなったニュートンリングですが、ASI290MMではカメラを傾けない限りはまた復活するでしょう。大きな違いはセンサー前の保護ガラスかと思っていて、一度ASI290MMの保護ガラスを外してニュートンリングが出なくなるかどうか見てみようと思います。


まとめ

結局視野が広がる謎は解けていませんし、さらにまだカメラ位置と画角と分解能の関係は印象だけで検証さえもできていませんが、実用的にはやれることは大体やったので、この時点でカメラをASI290MMに戻すことでほぼ問題ないでしょう。少なくとも以前よりは良い状態で撮影できるようになるはずです。

あとはエタロンそのものを探ることですが、これはさらに大変そうなのと、今の状態でも撮影結果にはそこそこ満足できそうなので、しばらく放っておきます。今後は撮影例を増やしていきたいと思います。

さて、いよいよ次回からは新機材、分光で太陽を撮影する「SHG700」の始動です。多分できることがものすごく増えるので、じっくり取り組もうかと思っています。







前回の週末太陽記事 (その1)に引き続いて、(その2) になります。今回の記事は前回のような撮影ではなく、各種テスト関連になります。



前回挙げた週末作業での目標は以下のとおりです。
  1. いつもの口径20cmのC8+ASI290MM+PSTでプロミネンスを1時間撮影し、ベストの静止画を作り、あわよくばタイムラプス映像を作る。
  2. 同セットアップで黒点周りを1時間撮影し、ベストの静止画を作り、あわよくばタイムラプス映像を作る。
  3. 太陽減光フィルムをC8先端に取り付け、PST部分を2倍のバローに置き換え、粒状斑の撮影を1時間程度。
  4. 口径8cmの鏡筒+PST+ASI290MMで、太陽の全景を見ながら、手持ちの2つのPSTを比較。
  5. 同セットアップで、太陽の全景を見ながら、エタロンの位置の違いで分解能が変わるかのテスト。
  6. 同セットアップで、ベストの選択肢で太陽の全景を撮影。
  7. 同セットアップで、SharpCapのリアルタイムスタックで撮影したらどうなるかのテスト。
  8. PST付属の4cmと、口径8cmで分解能は得するかの再検証。
  9. C8+ASI290MM+PSTに戻して、エタロン視野拡大の初期テスト。

1から3までが前回記事に相当しますので、今回の記事は4以降についてです。最近の手順は、午前中がシーイングがいい可能性が高いということで撮影を先に済まし、各種テストなどは主に午後にやるようにしています。


手持ち2台のPSTの比較

簡単なものから済ませます。まずは4の、手持ちの2つのPSTで性能の差はあるか?です。これについてはずっと以前に比較していて、C8で見た時には差があることはわかっています。2023年5月に2台目の使用を開始した時と、その後9月の過去2回で、2台目の方が明らかに良いと結論付けています。今回は、口径8cmでもこの違いがわかるのかを見てみます。

簡単な比較なので結果だけ載せます。まずは1台目の古くからあるPSTを8cm鏡筒に取り付けたものです。1台目はエタロンを中身まで取り出していますし、ボックスの蓋を開けて中身のペンタプリズムの位置もいじっているので、そのせいで性能が変わっている可能性もあるのですが、今のところの印象は多少いじろうが何をしようが、エタロン自身の性能をどうこうすることはできずに、基本このPST固有の性能が依然出ているというものです。今回のエタロン調整は、太陽真ん中にHα波長の中心が来るように合わせました。

12_28_23_8cm_10mm_lapl2_ap2171_out_prominene

これを見る限り、左右に明るい部分が出てしまっているので、Hα波長に合っている範囲にムラがあることがわかります。エタロンのリングを回すことで、波長があっている範囲を右や左に動かしたりできますが、その分反対側に見えない範囲が増えます。初期の頃のC8ではこの中のいい部分を使っていたことになります。

続いて2台目です。こちらは明らかに1台目より良像範囲が広いです。
13_27_54_2ndPST_lower_30mm_lapl2_ap2041_out

この違いには結構驚きました。C8で見た時よりも差が大きいです。画像を比較すると、本来写るべきフィラメントが1台目だと写っていないものが多くあります。プロミネンスは1台目も炙り出したので見えてますが、2台目と比べると明らかに薄いです。

できればC8に2台目、8cmに1台目としたかったのですが、ここまで差があると2台目だけを使うことになりそうです。1台目をもう少しいじってどこまで2台目に迫れるかは、いつか試してみてもいいかもしれません。


ちなみに、4月6日の記事で書いた口径10cm、焦点距離1000mmの鏡筒とASI294MM Proで撮影したものは1台目のPST、4月23日の記事で書いた口径8cm、焦点距離400mmの鏡筒とASI290MMで撮影したものは2台目のPSTを使っていたので、公平な比較ではなかったです。でもまあ、8cmの方が取り回しは楽だし、カメラも294を使うのは勿体無いので、今後も全景用に8cmを使うことには変更はありません。


エタロン位置の最適化

ここからは8cmでの全景撮影の最適化を目指します。

そもそもは、4月23日の記事で8cmで全景を撮影した時の疑問に対してgariさんからのコメントがあったことが発端です。

もう少し戻ると、元々の疑問の一つは、F10用に作られたPSTのエタロンのはずなのに、口径8cmのF5でHαが見えるのは何故か?というものでしたが、これはコメント内の議論で、

「2枚のレンズf1とf2があった時に、合成レンズの公式 1/f = 1/f1 + 1/f2 - d/(f1 f1) から、平行光(太陽光)が対物レンズに入ってきて、エタロン手前のレンズを通り抜けた時に平行光になる。平行光はf=♾️ということなので左辺が0になるため、1/f1 + 1/f2 = d/(f1 f1) が成り立ち、レンズ間の距離: d = f1 + f2 が最適距離になり、これを満たすような距離を取れば、平行光が得られる。PSTでは実際
400mmレンズ-> 距離200mm-> -200mmレンズ-> 平行光-> 距離200mm-> 焦点
となっているので、上の合成レンズの式を満たす。この議論には口径が入ってこないので、この条件は口径8cmでも成り立ち、F5とかF10というのは意味をなさない。」

と結論づけていています。PSTはF10で動くという話がずっと言われていますが、結局はF値に関係なくレンズ間距離さえ合わせれば平行光が出せるので、PSTの場合「F10」ということだけが一人歩きしているように思えます。

その上で、gariさんの疑問は2つで、要約すると
  1. 口径8cmでF5にしたとしても、エタロン前のレンズ径が2cmなのでここでF10にリミットされるはずで、焦点距離が同じ400mmなら口径を大きくしても分解能が上がるのは不思議。
  2. エタロンは完全に平行光を入れなくてもそこそこ機能するのでは?少なくと数cm移動しても見え方に変化はなかった。
というものです。

その一方で、私の方では以前PST標準の口径4cmと今回使った口径8cmを比較した時には分解能明確な違いが見られたという経験があります。

gariさんの疑問1に対しては、同じくコメントの中で議論していて、
  1. レンズ径は実測で23mm程度なのでF5にした場合光はまだ蹴られますが、15%ほど得するはず。
  2. gariさんの疑問2を事実とすると、エタロンが平行光をそこまで要求しないのでレンズ間距離は多少適当でも大丈夫で、レンズを含めたエタロン全体を、(エタロンが働く範囲で)できるだけビーム径が小さくなる後ろに置いた方が得する。
という推測ができます。例えばエタロン2cm後ろに下げたとします。対物レンズは口径8cmで焦点距離が400mmmなので、エタロン前のレンズが200mmの位置に置いてあるとすると、ビーム径は半分の40mmになります。エタロンを2cm下げるとレンズ間距離も2cm伸び、エタロン前のレンズでのビーム径は36mmになります。なので実効的なF値は5から大きくなって、F5 x 36/23 = F7.8となるので、元のPSTのF10と比べると得するはずです。

口径4cmの時のドーズ限界が2.9秒角くらい、口径8cmの時が1.45秒角くらいなので、上の計算が合っているなら、1.45秒角 x F7.8/F5 = 2.3秒角くらいになるはずす。今使っているASI290MMだと焦点距離400mmで1.4秒角/pixとかなので、まだ手持ちのカメラで十分違いが認識できるはずです。

というわけで、そもそも口径8cm鏡筒にPSTを取り付けた状態で、エタロンをどれくらい動かせるのか確かめてみました。エタロンはアルカスイスの長いレールのようなプレートに取り付けてあるので、簡単にスライドできます。PSTの箱がエタロンが鏡筒の筒の部分に当たるまで前に出した時にもピントが合うことが確認できました。反対にピントが出る範囲でできるだけエタロンを後ろに下げてみると、33mmまで下げることができました。平行光を出す位置が確定しないのですが、上の考えがあっているかどうかを確認する意味で、エタロン前後で差が見えるかどうかは見てみる価値はありそうです。

IMG_1197

結果です。今回はエタロン位置が前後で30mm違う場合にそれぞれ撮影し、中心付近のダークフィラメントを拡大してみてみました。左がエタロン位置が前でレンズ径が相対的に小さく、右がエタロン位置が後ろでレンズ径が相対的に大きく有利なので、右側の方が解像度が出るはずです。

スクリーンショット 2025-04-30 111413_cut

よく見ないと分からないかもしれませんが、それでも有意に右の後ろに下げたほうが細かいところまで出ているので、定性的には上の考えは間違ってはなさそうです。

エタロン前のレンズ径に制限がある場合にレンズ位置が30mm違うと、光径は30/400 = 0.075で約8%小さくなり、解像度は逆に約8%上がるはずです。解像度が2倍変わると劇的に変わり、1.5倍でも見ただけで改善しているのがすぐわかるので、8%ならまあこのくらいではないでしょうか。

本当は目的の8の、「4cmのPST鏡筒と、8cm鏡筒との直接比較」をすれば良かったのですが、ちょっと時間的に交換するまではいかず、今回は試すことはできませんでした。


全景画像

さて、口径8cmで分解能を最適化することができたとして、これで一旦撮影してみたいと思います。1.25msで500フレーム撮影して、上位75%をスタックしました。

13_27_54_2ndPST_lower_30mm_out_cut

全景としてはかなりの分解能になっています。これならそこそこ満足です。中央部に比べて、周辺の分解能は落ちていますが、エタロンの精度に限界があるので、PSTエタロンを使っている限りここら辺が限界でしょう。それでもプロミネンスもきちんと見えているので、まあ良しとします。これ以上を求めるなら、半値全幅を減らす方向の方がいいので、エタロンそのものの性能から考え直さないとだめなのかと思います。

比較のために、目的7のSharpCapでリアルタイムスタックをして、全景に近いものを見てみます。
スクリーンショット 2025-04-26 134504

さらに、SharpCap画面に映って画像をそのままPNGで保存して、太陽の上下2枚の画像をモザイク合成したものです。
Snapshot of 13_45_15_Stack_00001 13_45_15_WithDisplayStretch_cut

もう全景だけなら画像処理ソフトは必要なくて、SharpCapだけで十分な気がします。

一応拡大図を示しておきます。左が1000フレームスタックでマニュアルで上位75%をスタックし時間をかけて画像処理をしたもの、右側がSharpCapでのリアルタイムスタックでこのときは常時100フレームスタックです。

スクリーンショット 2025-05-04 104036_cut

こうやって比べて見ると、SharpCapのリアルタイムスタックの方がノイジーですが、これはフレーム数が100枚と少ないだけなので、もう少しフレーム数を増やしてやりさえすれば、実用上はこれでもう十分かと思います。


まとめと次回以降の課題

この週はかなり時間をかけることができて、色々試したいことが進みました。撮影もある程度コンスタントにこなせるようになってきたので、ここら辺は今後はルーチンワークになっていくのかと思います。

まだ少し課題が残っています。
  • 目標の8番の「PST付属の4cmと、口径8cmで分解能は得するかの再検証」はまだやってませんが、そこまで興味がないので、もしできたらくらいで次回以降の課題とします。
  • 目標に挙げた最後の9番の「C8+ASI290MM+PSTに戻して、エタロン視野拡大の初期テスト」は、色々試しているのですが、まだ結論が出る前でもう少し試したいことがあるので、もう少し進展してからまとめます。

上のこと以外にも実はまだ試したいことが山積みです。次の週 (今ブログを書いている5月4日のゴールデンウィーク中) は天気はある程度晴れるとの予報なので、もう少し進められたらと思います。




待ちに待った雲が全然ない昼間の快晴!タイムラプスも長時間できそうです。太陽撮影がはかどります。


この日の目標

最近太陽熱がずっと続いています。昼間は休みの日しか活動できないので、休みの日で且つ晴れの日が待ち遠しいです。2025年4月5日は午前中は晴れの予報で、午後からは曇りの予報だったので、休みの日には珍しく午前7時くらいには起きて準備を始めました。

この日の計画は盛りだくさんで、なんと太陽望遠鏡を2台も出すことになりました。撮影データとしてもかなりの量がとれたので、1回分の記事にはできなさそうです。元々考えていたのは
  1. いつもの口径20cmのC8+ASI290MM+PSTで黒点周りと大きなプロミネンスを一通り撮影。
  2. 同セットアップでプロミネンスのタイムラプス撮影を2時間くらい。
  3. 同セットアップで黒点周りののタイムラプス撮影を2時間くらい。
  4. 1台目のPSTをオリジナルに戻し、眼視と撮影
  5. 1台目のPSTを、初期の頃の魔改造に使っていた手持ちの口径10cm F10 (国際光器のMAGELLAN 102)に取り付け、ASI294MM Proで太陽全景を撮れるか試す。
  6. PSTの視野を広げるために少し改造。
  7. 改造後のPSTで10cm Mazaranで視野の広がりを確認。
  8. 改造後のPSTで20cmC8で視野の広がりを確認。
くらいでしょうか。最後曇ったので少し時間が足りませんでしたが、かなりのことはできました。


とりあえず撮影

とりあえず朝の早いうちに1の撮影は一通り済ませたので、まずはその結果です。あ、この日は結局昼すぐには薄い霞みたいな雲が全面に出てきて、それでも撮影やテストは続けたのですが、午後1時半には完全にぼやけ出したので撤収、そのあとは大量の画像をずっと処理してました。

画像処理については今回改めてかなり見直しました。例えば今回の画像はすべてカラー化してあります。カラー化してもモノクロに劣らないようなコントラストを安定につけることができるようになってきまひた。画像処理ついてはまた機会があったら別途記事にします。


まずは黒点関連です。最初は一番大きなAR4046です。番号はいつもの通り宇宙天気ニュースで調べてます。真ん中から少し西に寄っています。
07_55_23_lapl2_ap3860_c

次は4048群です。こちらはこの日がほぼ真ん中です。大きな黒点に、細かい黒点がたくさん連なっています。
07_52_22_lapl2_ap3839_c

小さな黒点群AR4049です。位置的には4046の真下あたりでしょうか。
07_53_39_lapl2_ap3859_c


最後はかなり西に寄ったAR4044です。周辺部も入っているので、彩層面を反転しています。なので、一番白いところが黒点になります。
07_56_37_lapl2_ap2789_lowdot_c2


次はプロミネンスです。大きなものが東の9時方向に出ていました。画像は横長の画角を生かすために90度時計回りに回転させています。
08_00_23_lapl2_ap1030_nodot_c_2

画像を見てもわかりますが、この日は朝早かったこともあったのでしょうか、相当シーイングが良かったようです。どれもかなりの分解能が出ています。これくらいのものが撮影できると、画像処理は相当楽です。これくらいいつも撮影できるならいいのですが、これをコンスタントに出すのが当面の目標でしょうか。


全景を入れてみる

最初の一連の撮影の後、タイムラプス映像の撮影を開始しましたが、こちらは長時間なのでその間に他にやれることをやっておきます。

この日試したかったのは、なんとかして太陽の全景を一度に撮れないかということでした。ずっと以前、口径10cmで全景を出したことはあります。



この時は太陽活動はまだほとんど低迷期で、あまり表面の様子が分からなかったこと、その後画像処理技術も上がったことで、同じ機材でどこまで全景の模様に迫れるかという比較をしたかったのです。これはPhoenixだとあまりに簡単に、しかもかなり綺麗に全景が得られたことも影響しています。

まずは、昔やっていた設定と全く同じで試してみます。機材は口径10cm 焦点距離1000mmの国際光器のMAZELLAN 102というF10鏡筒にPSTを、カメラは視野の広いフォーサーズのASI294MM Proです。これで太陽を見てみますが、本当になんとかギリギリで全部視野内に入ります。でも相当厳しいです。

面白かったのが、鏡筒の先端につけるキャップが2段構造になっていて、真ん中の径4cm位の穴を開けると、明らかに視野が狭くなることでした。これだと全景が入りません。実は最初に4cmで試したので、あれ?以前は入ったのにとびっくりしました。その後に、キャップを全部取り外し10cmをフルで使うと、太陽全景がギリギリですが入ってきて、以前と同様になったというのが実際です。

確かに4cmに絞ると視野は狭くなりそうなのですが、なんでそうなるのかまだいまいち理解できていません。光は対物側のいろんな方向から入ってくるので、たとえ先端で口径を絞っても、暗くなることや周辺がぼやけることはあったとしても、あからさまに視野が狭くなることはないと思っていました。これはF10という平行光に近いのが効いているのでしょうか?たとえそうだとしても、少し定量的に理解しておきたいと思いました。

いずれにせよ10cmをフルに使っても、まだ太陽全体を一度に見るにはまだ視野はギリのギリです。視野を制限しているもう一つ怪しい場所はBFの径です。焦点近くに置くとは言え、わずか5mm程の直径なので、ここで視野が制限されている可能性が十分にあります。大口径のBFを手に入れられればいいのですが、太陽望遠鏡の中でもエタロンに次いで高価な部品の一つなので、購入するとなると10万円以上の大きな出費になること間違いなしです。


BFの加工を少し

そんな理由もあり、BF部分を分解して少し調べてみました。以前も分解した通り、アイピース部分を外すと、ERFとBFに分けることができます。

IMG_1133

上がBRFで、下がBFになります。BFの径はかなり小さいのがわかります。BF部の蓋をさらにかに目レンチで外します。

IMG_1134

BF自身は直方体に近い形をしていて、太陽光が入射する面に金色のコーティングがしてあります。両辺の長さをノギスで測定すると、両方とも5.9mmでした。その一方、BFをマウントする台座と蓋は丸い穴が空いていて、その直径は台座側が5.2mmで蓋側が5.1mmでした。要するに、実際の径はBF自身でなく、そのマウント側で制限されているというとこです。高々0.7-8mmの違いですが、5.1mmから考えたら15%くらいの違いになります。

IMG_1137
大きさを比較しても、やはり穴の径よりもBF本体の方が大きく見えます。

今回は穴を広げすぎて光が漏れたりしないように少し余裕を見て、手持ちの5.5mmのドリル刃を使ってマウントの台座と蓋の径を広げることにしました。ドリル刃がスポスポが通るくらいにするので、5.6mmくらいなっているとして、元の最小径の5.1mmから見たら1割程度の拡大になります。

ドリルで穴を開けた後、MAZALLANで再び、他の設定は何も変えずにカメラで視野を見てみると、おお、確実に太陽全景がはっきり見える範囲が増えています。


全景のテスト撮影

ここで太陽全景を撮影しておきます。まだ周辺減光の影響がかなり残っていることは確かで、そのせいもあるのか太陽中央と端の方の輝度差が激しく、端の方のHαの模様は画面を見ただけではほとんど見えませんでした。その後、画像処理をして輝度差を落としてみると、多少なりとも模様は出ているようです。
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ただ、これで十分かというと全くそんなことはなくて、やはりエタロン径とBF径的に無理があるのと、カメラもフォーサーズみたいなセンサー面積が大きいのを使うのはもったいないです。しかもピクセルサイズの粗い294では口径10㎝を生かせてるとも到底思えません。もっと焦点距離を短くして、見える太陽径を小さくして、ピクセルサイズの小さい小面積のCMOSカメラを使った方が、PSTのエタロンのいいところを使えるはずなので、有利なはずです。

手持ち機材で、全景を撮るだけでこんなに苦労とするならとも思ってしまいます。今迷っているのは、Phoenixを購入するかどうか。これならかなり楽に全景が撮れますし、今後改造するときにも特に精度のいいエタロンは格好の素材になります。でもそもそも、手持ちのPSTも2台とも中古のジャンクで格安で買っていて、C8も3万円ほど、MAZALLANはタダで譲り受けています。太陽関連で全部合わせても新品の少し大きめのBF一個の値段にも及ばないので、このまま格安路線を続けれればと思っています。というか、これくらい安価でないと改造なんて怖くてとてもできないです。あー、でもPhoenixのエタロンかなりよかったのでやっぱり買っておいた方がいいかなー?


続きは次回

とりあえず今回の記事はこんなとことにしておきます。タイムラプスで結構すごいのが撮れたのですが、ちょっと安定度に難ありで、処理に時間がかかりそうです。






前記事ではPSTの調整などのことを書きましたが、同日の土曜と次の日の日曜に太陽に対応したPHD2で、実際の太陽オートガイドを試しました。

PHD2による太陽ガイドが開発されている

CP+の講演の中でPHD2の対応対応についてちらっとだけつぶやいたのですが、まだ日本ではほとんど認識されていなかったようで、一部の太陽マニアにはかなり響いたみたいです。その後、実際試された方が何人もいるようです。

それまでは太陽のオートガイドには以前このブログでも紹介した、Lusol-Guideがよく使われていたようです。私も何度が試したのですが、
  • ソフトの開発が止まっていること。
  • 元々有料だったこと。 (当時Lusol-Guideに気づいたhiroさんが、ほぼ表舞台から遠ざかっていたと思われる作者まで奇跡的にたどり着いて、無料で使って構わないという確認をとってくれました。)
  • 自分で試した限り、ガイド精度が10ピクセル程度と、そこまでよくはないこと。
  • そもそもタイプラプスのために保存するser形式の動画ファイルが、HDDに対してかなり負担になること。
などから、その後Lusol-Guideというよりも太陽タイムラプス自体をあまり試すことはなくなっていました。

そんな折、PHD2の太陽版がリリースされたのは2024年の3月頃のことです。その後2024年8月にJun1Watanabeさんがラズパイで太陽の中心を星のように小さく表してPHD2に渡すという独自の太陽ガイドシステムを発表しています。ここ1年で、太陽ガイドに関していくつか選択できるまでになったというのは、とてもありがたいことです。

私はPhoenixが来てからPHD2を簡単に試しただけなのですが、使い勝手もPHD2と本質的に同じで、使いやすく本格的な制御にも対応していて、安定に動かすことができました。今の私 (わたし) 的な再太陽ブームにおける今回の目的は
  1. かなり拡大して撮影するC8で、タイプラプス映像が作れるくらい安定したガイドを構築すること。
  2. あわよくば、SharpCapでリアルタイムでスタックしてできた画像のみを保存することで、とんでもない大きさのraw形式での動画ファイルの保存を避けてディスク容量を節約できればいいかな。
くらいの2つを考えいます。


実際に太陽PHD2を試してみる

まず、現在の太陽用のPHD2はいまだに開発バージョンということで、自己責任の範囲で試すべきで、マニュアルやサポートなどは十分でないということを理解しておく必要があります。

2025年3月24日現在の最新バージョンはリリースノートによるとv2.6.13dev7とのことです。


インストール後、カメラや赤道儀などの接続は普通のPHD2と何ら変わりはありません。

ガイド鏡筒ですが、普通に撮影用に使うものを流用すればいいかと思います。太陽は非常明るく、集光した際のエネルギーも大きくなるので、カメラを焼いてしまう恐れがあります。そのため、太陽用のフィルターなどを別途鏡筒前に取り付けるなどして手当てしてやる必要があります。

ガイドカメラはカラーでもモノクロでも構いません。モノクロの方が分解能がいいですが、大きな太陽を円でフィッティングするので、どこまでカメラの分解能が効くかは、別途きちんと検討する必要があるかと思います。

裏技的になりますが、ガイド鏡やガイドカメラを別途用意しなくても、例えばCP+で話したようなPhoenixとApollo-M miniなどの組み合わせで太陽の全景が一度に画面内に入るなら、そのメインの画像をガイドに使うこともできます。ただし、撮影用とガイド用で設定を共有しなければならないなどの制限もあるので、注意が必要です。また、カメラを共有する場合、太陽が全面一度に見えている場合はいいのですが、バローを付けたり、センサー面積の小さいカメラを使って太陽の一部しか見えていない時は、うまくいきませんでした。今回のPHD2の太陽版は、オプションで特徴点を見つけてそれを基準にガイドする機能も持っているのですが、試した限り短時間ガイドはできるのですが、少なくとも安定して長時間稼働させることはできませんでした。

C8のように太陽をかなり拡大して見る場合は、当然全景を見ることはできないで、別途ガイド鏡を用意することにしました。今回とりあえず使ったものはEVOGUIDE 50ED IIとASI178MCです。焦点距離が200mmでカラーですがピクセルサイズが2.4μmなので、かなり分解能良く見えるはずです。

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以下、設定方法を書いておきます。

1. PHD2太陽版を立ち上げ、カメラと赤道儀を接続してから、露光を開始します。露光時間が長すぎて明るすぎる画面が見えると思います。

2. 最初にやることが、下の脳みそマークの右にある、太陽の設定ボタンを押します。すると別途設定画面が出てくるので、例えば下の画像のように設定します。この場合、2つ目のオプションがオフになっているので、太陽全体が見えている時の設定になります。

スクリーンショット 2025-03-22 121740_cut02

3. まずは露光時間とゲインを設定します。SharpCapできちんと見えるくらいの値にすればいいです。ここでは露光時間2msでゲイン0なので、かなり暗い設定ですが、これくらいでやっと飽和せずに黒点とかも見えました。ちなみに1msとゲイン0が設定できる最小の値なので、それ以上暗くしたいならフィルターを暗いものにするとかしないとダメです。飽和していてもうまく太陽の周りをフィッティングすることはでき、太陽中心はきちんと出るので、実際にはもう少し明るい設定にしても大丈夫です。

4. 太陽の形が見えたら、最小径と最大径を設定します。まずは100と2000とか極端な値を入れて、画面に円、もしくは半円が出るか試します。この円は、最小径もしくは最大径を変更するたびに、しばらくの間表示されます。
スクリーンショット 2025-03-23 081533
線が細くてわかりにくいですが、左上に設定した径の半円が出ています。

5. 出てきた円と太陽の大きさを比べて、ある程度太陽の大きさが範囲に含まれるように絞り込みます。

6. 径がそこそこ決まったら、ここで左下の「露光開始ボタン」の右隣の、「認識ボタン」を押します。
緑の円が太陽の周りにフィットされるはずです。うまくフィットされない場合は、最小径と最大径の設定を見直してください。
スクリーンショット 2025-03-23 082057

7. さらに「認識ボタン」の右隣の「ガイド開始ボタン」を押すと、初めての場合はキャリブレーションが始まります。キャリブレーションがうまく開始されない場合は、シフトキーを押しながら、マウスで左クリックしてください。

8. キャリブレーションが終了すると、自動的にガイドが始まります。


太陽を使って昼間の極軸調整

1日のうちで最初にPHD2を走らせた時は、ここで一旦ストップボタンを押して、極軸調整をするといいでしょう。

昼間は北極星は当然見えないので、極軸を合わせるのは普通は困難なはずです。PHD2にはドリフトアラインメントという機能があり、これで極軸を合わせることができます。この太陽バージョンのPHD2は、星の代わりに太陽を使ってドリフトを測定し、極軸調整ができるというわけです。ただし、太陽を使うということで、通常の星と違い少しクセがあります。

1. 露光して太陽中心を認識している状態で、PHD2のメニューの「ツール」から「ドリフトアラインメント」を選びます。

2. 「ドリフト」ボタンを押すと、ガイドをしない状態で太陽の中心位置が赤経、赤緯別に下に表示される時系列グラフに記録されていきます。その線が真っ直ぐになればいいのですが、極軸があっていないと上下どちらかに斜めに動いていきます。
スクリーンショット 2025-03-22 160853

3. 動く方向が確認できたら「調整」ボタンを押してから、まずは赤道儀の土台に付いている横方向のネジ(モーターを動かしてはダメです)をどちらか一方に、例えば半回転回してみます。

4. 再び「ドリフト」ボタンを押して、グラフがどう移動していくのか見ます。

5. 先ほどよりもグラフが真っ直ぐになったら、ネジを正しい方向に回した方ことになります。傾きが急になったのなら、間違った方向に回したことになります。

6. 傾きに変化が見えない場合は、再び「調整」を押し、ネジを同じ方向にさらに大きく、例えば今度は1回転回してまた「ドリフト」を押します。傾きが変わったと認識できるまでこれを繰り返します。

7. グラフが真っ直ぐになり、赤道儀の横方向があってきたら「次へ」ボタンを押して、今度は赤道儀の縦方向のネジを同様に調整します。

8. グラフが平らになってくると、太陽の中心周りにどれくらいの精度であっているかのマジェンタ色の円が表示されます。これが十分小さくなるまで合わせ込みます。
スクリーンショット 2025-03-23 083325


太陽極軸合わせのクセ 1:
問題は、ネジを回したときに、太陽の位置がずれてしまい、ガイド鏡で見ている範囲から外れてしまうと、それ以上何も進まなくなってしまうことです。こうなる前に、赤道儀の(今度はネジではなく)モーターで太陽が画面内に入るように調整します。ここが星を使う場合と最も違う点でしょうか。

太陽極軸合わせのクセ 2:
もう一つ問題があります。本来、赤道儀の横方向の設定は、ガイド鏡を南中方向に向けて赤緯のグラフを見るべきです。一旦それがあってから、さらに次にガイド鏡を東か西の方向を向け、今度は赤道儀の縦方向のネジを調整します。でも太陽は一つしかなくて、その時にある太陽の方向しかガイド鏡で見ることができません。なので、見ている方向によっては横方向もしくは縦方向の感度が良くなくて、うまく合わせられないことがあることに注意してください。


太陽ドリフトアラインメントの精度の例

昼間にドリフトアラインメントで太陽でそこそこ合わせた後に、実際夜になって北極星を使って、改めてSharpCapの極軸調整で精度を見てみました。すると、4分角程度のズレがありました。

これまでドリフトガイドを使わずに、昼間の赤道儀をどうやって合わせてきたかというと、
  1. 赤道儀の水平をできるだけ合わせる。
  2. さらに赤道儀に付いている赤経赤緯の位置を表す矢印などのインデックスを見ながら、ホームポジションにできるだけ精度よく合わせる。
  3. 赤道儀の内部時計の時刻もできるだけ正確に合わせる。
  4. その状態で、赤道着の初期アラインメントで太陽を自動導入すると、本来極軸があっていたなら鏡筒はきちんと太陽の方向を向くはず。
  5. 鏡筒につけたカメラ映像で見ながら、実際に見ている方向と、太陽方向とのずれがなくなるように(赤道儀のモーターは使わずに)土台の調整ネジだけを使って、鏡筒が太陽の方向に向くように(カメラの映像内に太陽が入ってくるように)合わせる。

というような手順です。この方法での精度はせいぜい1度角程度でしょう。このように考えると、ドリフトアラインメントを使った場合は4分角(=0.067度)、ザックリですが10倍程度は精度が上がると思っていいのでしょう。

一方、夜に北極星を基準にSharpCapで極軸調整するときは1分角以下は余裕で、例えば30秒角くらいまで合わせることができると考えると、太陽を使った昼間のドリフトアラインメントでの極軸精度は、夜の場合のザックリ10分の1くらいでしょうか。そもそも、ドリフトアラインメントではある程度調整を絞り込んでいくと、ピリオディックモーションの影響も無視できなくなってくるので、原理的に精度がそこまで出ないので、まあ妥当な結果かと思います。

それでも闇雲に合わせるよりは遥かに精度が上がるので、太陽やたぶん昼間の月でもできるかもしれないので、これを利用しない手はないと思います。昼間の極軸合わせはとても大変で、太陽撮影でもそうですが、例えば明るいうちから彗星や金星などを追尾したい場合や、昼間の明るい恒星観測などの際の自動導入など、応用範囲も広いのかと思います。


まずは静止画

3月23日ですが、上のガイドの作業をする前に、まずはガイド無しでいつものように一通り朝イチで撮影したので、紹介しておきます。黒点周りが2枚と、プロミネンスです。特にプロミネンスは見事でした。

  • 午前8時40分14秒: AR4030
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解像度は前日に負けます。シーイングは1日の中でも時間によって大きく変わるので、この時はあまり良くなかったです。風が強くてそれで画面が揺れるので、シーイングの良し悪しまであまり判断することができませんでした。

  • 午前8時48分43秒: AR4036
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一方、こちらの黒点は下のプロミネンス3枚を撮影した後に、さらに追加で撮影したもので、上のAR4030を撮影したよりもシーイングは良かったようです。わずか8分でもシーイングは結構変わります。


ここからプロミネンスを3枚です。結構大きなものが出ていました。かなり分解能よく撮れているようです。スピキュールもピンピコ見えていて、シーイングもそこそこだったことがわかります。
  • 午前8時42分50秒
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  • 午前8時43分57秒
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  • 午前8時44分43秒
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PHD2ガイドでタイムラプス撮影

オートガイドが活躍するのは長時間撮影の場合です。太陽だとタイムラプス映像にして、プロミネンスやフレアなどが時間ごとに変化する様子を、位置を変えずに撮影できるのが最も有効な活用方法かと思います。

SharpCapは電視観望で良く使われているように、ライブスタックが有名ですが、これは速くても秒ごとくらいでのスタックになります。最近のSharpCapでは、惑星や月や太陽をミリ秒単位でリアルタイムでスタックすることができ、さらにリアルタイムでWavelet変換して細部の炙り出しをするという、驚異的な進化を遂げています。Phoenixで太陽の全景を見ながら試した場合では、非常にうまく処理できていて、もう後処理が必要ないくらいのレベルになっています。具体的な様子は、CP+の太陽セミナー配信の41分30秒あたりからをご覧ください。

一方今回は、太陽全体が見えないようなC8で拡大した画像ををうまくリアルタイム処理できるか試してみました。

結論を言うと、ある程度は処理できます。ある程度というのは、プロミネンスはそこそこ細部まで炙り出すことができ、黒点周りなどの表面のHαの模様も、うまくパラメータを設定すればある程度の細部は出すことはできます。それでもプロミネンスもですが、特に表面の模様は、別途動画を撮影して後から処理したものとは仕上がり具合にどうしても差があります。決定的なのは、何かの拍子で位置が多少ズレた場合に、一気にリアルタイム処理での画像がボケたようになって、しばらく回復しないことです。これはPHD2の問題というよりは、SharpCapのリアルタイム位置合わせの問題のようで、うまくガイドができている時にも10分とか20分とかに一回程度発生します。これが発生した時は、素直にリアルタイムスタックのリセットボタンを押した方が回復が早いです。いじれるパラメータを全て触りましたが、完全に回避する方法は今回は見つけられませんでした。

なので全景が入らない場合は、.serの動画で撮影せざるを得ないというのが、今の所の結論です。

今回は2つのタイムラプス例を紹介します。実際プロミネンスは5種くらい、黒点周りは2種くらい撮影したのですが、どれも長続きしませんでした。結局SharpCapでリアルタイム処理で20分くらい撮影できたものと、個別に動画を撮影して日が沈むまで1時間くらい最後に撮ったものくらいしか、見る価値がありませんでした。

最初にSharpCapのリアルタイム処理でうまくいったと思ったものです。撮り始めてから1時間くらい自宅の中にいて、どれどれと思って見てみたのですが、途中からボケボケになって、さらに曇ってしまっていました。でも最初の方はプロミネンスの活発な動きが映っています。大きな動きの途中からしか撮影開始できなかったので、もう少し早くから始めればと、もたもたしていたのをちょっと後悔しました。

output-palette

上の画像はShapCapで保存されたtifファイルを、ffmpegを使ってmp4にして、さらにffmpegでgif化してます。コマンドは

ffmpeg -i Blink.mp4 -filter_complex "[0:v] fps=10,scale=640:-1,split [a][b];[a] palettegen [p];[b][p] paletteuse" output-palette.gif

としました。グローバルパレットを使うことで、解像度とファイルの小ささを両立しています。

このあとは同じようにプロミネンスの撮影を開始して、Costcoに買い物に行ってしまいました。2時間ほどして戻ってきてから見てみると、やはり10分も持たずにボケボケ画像になってしまっています。ここからどんな時にボケボケになるか見ていると、例えば雲が通り過ぎた時、風で大きく揺れた時など、結構頻繁に起こることがわかりました。

そもそもこの時点で、ガイド渋滞がいい時でも+/-4秒くらいで、ジャンプもそこそこあります。
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ここで、ガイド鏡をEVOGUIDEからいつもDSOで使っているものに変えました。
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焦点距離は200mmから120mmになること、カメラがASI290MMでピクセルサイズは2.9μmと少し大きくなりますが、モノクロになるので実質ピクセルサイズは小さくなったことになります。実質の解像度はほとんど同じでしょう。

やはり安定度は大きく違いました。EVOGUIDEは2つのスコープリングで固定しているために微調整はしやすいですが、固定の安定度という意味ではまだまだです。普段使っているバイクに取り付けるための金具を使ったガイド鏡はガチガチに固定することができます。


これに変えてから、一気に+/-2秒程度の誤差に抑えることができるようになりました。短時間の揺れもそうですが、長時間のたわみも影響するはずなので、やはりガイド鏡の固定は堅固なものに越したことはありません。
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その後、再びSharpCapでリアルタイムのスタックに挑戦しますが、やはりあまり長続きせず、途中何かの拍子にボケボケになってしまいます。夕方16時を過ぎたあたりでとうとうリアルタイムスタックはあきらめて、動画のserファイルも併用して保存することにしました。

結局のところ、C8のように長焦点で拡大した太陽Hαは、SharpCapでのリアルタイム処理で長時間安定に撮影するのはまだちょっと厳しいという結論です。気軽に見るだけとか、短時間ならまだ使えるのかと思います。

撮影は30秒おきに100フレーム撮影し、それを99本撮りましたが、最後のほうは夕方でかなり暗くなったので、そのうち60本を使いました。高々100フレームに抑えたのですが、これだけでも総ファイル量は40GB程度になってしまいます。

こちらの動画ファイルをAutoStakkart4!、ImPPGのバッチ処理をして、Fijiで位置合わせをしたものが以下になります。位置合わせは他にもいろいろ試しましたが、結局Fijiに勝てるものはなかったです。


タイムラプス化は、PixInsightのBlinkで一連の画像のチェックがてらjpgに変換し、その後別途ffmpegを使いました。コントラストが勝手に変わって彩層面の模様がサチるようなことがあったので、以下のオプションを使いました。
ffmpeg -y -r 15 -i Blink%05d_r.jpg -c:v libx265 -crf 15 -tag:v hvc1 Blink.mp4

また、X用には以下のコマンドで変換することでアップロードできるようになりました。
ffmpeg -i Blink.mp4 -vf "scale=1600:-1" -vcodec libx264 -pix_fmt yuv420p -strict -2 -acodec aac output.mp4

最後の最後で動画を撮影し始めたので、半分あきらめてのテスト撮影のような感じでしたが、出来上がったタイムラプス映像のプロミネンスの動きにはもうびっくりです! 高々30分と思っていましたが、こんなに激しく動いてるんですね。

でも今回注目してほしいのは彩層面のほうです。PHD2でのガイドがよほど効いていたのか、模様の再現性がかなりあることがわかります。位置合わせもここまでうまくいくとは思っていませんでした。よく見ると彩層面も30分の間に動いていて、プロミネンスのようなもの (彩層面上だからダークフィラメントといったほうがいいのでしょうか) が出てくる様子もわかります。これだけ安定なら、次回は黒点周りとかをガイド+動画で撮影してみようかと思います。


まとめ

ガイドの効果はかなり大きいことがわかりました。以前試したLusol-Guideもきちんと動きましたが、精度はPHD2のほうが圧倒的にいいでしょう。制御系もDSOで実績があるので、状況に応じて安定したパラメータを探ることができます。

SharpCapでのタイムラプス撮影は、今回C8では厳しかったですが、Phoenixの時のように全体が見えているのならまた安定度も違ってくるのかもしれません。C8での撮影でも、これまでのようにserで保存すれば、PHD2のガイドの安定度と相まって彩層面の細かい模様まで長時間にわたって安定して再現できることがわかりました。これはかなり大きな成果なので、今後黒点周りなどに挑戦していきたいと思います。

SWATに取り付ける極軸微動ユニットを新しく導入しました。



SWAgTiで極軸を三脚の足を伸び縮みさせたり、水平方向にちょーっとだけズラしているのを見て、気の毒に思ってくれたのか、先日の「星もと」に参加した際に、Unitecさんが貸してくれました。SWAgTiを応援してくれている意味もあるのかと思います。しばらく使ってていいとのことなので、撮影にどんどん使っていこうと思います。


専用プレート

まず取り付けですが、SWATだと専用プレートを使うと取り外しが楽になります。底面と同じ大きさのプレートはネジ2本で取り付けることができて、そのまま極時首同ユニットのクランプで挟むことができます。 これまでは毎回SWAT本体をクルクル回転させて三脚のネジに止めていたので、これだけも楽になります。

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SWATを取り付ける向きを迷いました。最初SWATが真ん中に来るようにと思って取り付けたら、Unitecさん曰く反対に取り付けてしまっているとのことです。SWATの重心をわざと南側にずらすことで、鏡筒を取り付けたときに重心位置が、ちょうど三脚中心の真上に来るように設計しているとのことです。

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試してみると、鏡筒取り付け後はかなり安定していて、どちらかに倒れ込むような感じは全然なかったので、安心して使うことができそうです。

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実際に使ってみて

なかなか天気がよくならずに試せなかったのですが、10月初めに短時間ですが少し晴れた時があったので、実際に極軸調整を試してみました。

まず最初にSharpCapの極軸合わせ機能を走らせます。ここでSharpCapの指示に従って極軸調整を進めていくのですが、この微動ユニットは可動部分のガタがほとんど無いので、一方向のネジを締めるときに他方が動くようなことがほぼありません。また、可動方向の動きも粘度があるような物凄く安定した動きで、速い揺れやガタが全くないし、ネジを回した分だけピッタリ動き、余分に動くこともネジを離したら戻るようなこともなく、相当な好印象です。このネジを触っただけでも、可動部とネジを相当作り込んでいると思いました。

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極軸微動ユニットでの極軸調整は、これまでの三脚の脚を動かしての苦労がなんだったんだというくらい安定で簡単でした。特にネジの精度がいいので、拍子抜けするくらいの手数でものすごい精度で合わせることができました。0.5分角(30秒角)以下くらいならすぐに達成できて、SharpCapの評価でも、簡単にExcellentになります。

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こんな値まで調整できます。ネジの操作具合がなかなりいです。

写真では5秒角とか、とんでもないレベルの数字まで調整できてしまいます。でもこの数字に本当に意味があるかどうかは、次に書いてある手法で評価されることになります。


極軸調整を2度繰り返して異常を検知

SharpCapで極軸調整は90度赤経を回転させることで、回転させる前と回転した後の画像内の星の位置の違いから、極軸とのずれを計算します。私は一度極軸調整をしてから、逆方向に90赤経を回転戻す際に、ついでに必ず二度目の極軸調整をします。

位置違いで二度極軸調整をすることで、かなりの情報を得ることがわかります。三脚や赤道儀、鏡筒支持部などが弱いと、赤経体を動かしたときに全体にたわみが発生したりして、二度目の極軸調整の計算の際に大きくズレた値がでます。ズレの値は脆弱なシステムだと数分角から、酷いと10分角を超えることもあります。10分角もあると長時間露光でかなりの量でズレていくので、その分ガイドに負担がいったり、ガイド鏡自身がたわんでいる場合などは、大きくドリフトすることがあります。

頑丈なシステムだと、二度目の極軸調整でのズレは1分角程度に抑えることができます。これまで2度極軸調整を繰り返したことがない方は、一度自分のシステムで試してみるといいかと思います。いつも使っているシステムがどれくらい安定なのかを示す、一つの指標になるかと思います。

このズレは、三脚や赤道儀毎にある程度決まるようで、同じシステムの場合、毎回同じようなズレの値を示します。私はCelestronの赤道儀を3台使っているのですが、3台ともそれぞれ毎回同じような値を示します。ズレの大きさはやはり小>中>大の順になります。この「機器ごとに同じ値を毎回示す」ことは次のように、もう一つの有益な情報をもたらしてくれます。

例えば、2度目の極軸調整でいつものズレの値より大きなずれが出た場合は、何かおかしいことがある場合がほとんどです。明らかに大きなズレが出たときに改めてチェックすると、大抵どこかネジが緩んでいるのが見つかるので、その後の撮影時のトラブルに遭う確率を、かなり減らすことができます。


SWAT用極軸微動ユニットで2度極軸調整をすると

さてなぜこんな話をしたかというと、SWAT用の極軸微動ユニットを使って、1度目の極軸調整は上で書いた通り10秒角以下のすごい値にできますが、その後、90度回転させる2度目の極軸調整をしたら、ズレが大きく出でしまったからです。何度か試しましたが、毎回2分角から4分角程度のズレが出ました。最初これが三脚を含めた今回のシステムの限界かと思ったのですが、ズレの値があまり安定せず、毎回違います。

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2度目の極軸調整時のずれ。かなり大きく出ています。

これは何度か試して原因がわかりました。以前、大阪迷人会の極軸微動雲台を試験したことがありますが、そこに付いていたような「別のネジを別方向から締めることで、これ以上可動方向に動かないように固定するような機構」がないのです。そのため、このSWAT用の極軸微動ユニットを使うときには、押しネジを両側から十分に押した状態にしてやる必要があるようです。もちろん調整時に、片側だけのネジを締めて片側はユルユルということはなく、普通にネジは両側から締めているのですが、ある程度両側ともしっかり締めてやることで、今回明らかに数値的に違いが出たということです。

具体的には、SharpCapの1度目の極軸調整の時に、一方向のネジを締めながらある程度いい位置になってきたら、反対側のネジをそこそこ固く締めてしまいます。最後の微調整は、この状態で両側のネジを最後に締め込むような形でいい値に近づけていくと、これ以上ズレることはなくなるようです。数値的には2度目極軸調整時のズレが、最大でも1分角以下、典型的には0.5分角程度になりました。何度か試しても再現性があったので、ここら辺が今回のシステムの安定度と言えると思いますが、これはかなり優秀な値で、大型赤道儀のCGX-Lと同等か、ヘタをするともう少しいいくらいです。

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押しネジを両側きちんと閉めた場合の、2度目の極軸調整の典型的なズレ。
相当安定な値です。

ポタ赤の安定度としてはもう十分すぎるくらいなので、これ以降の使い勝手や安定度などの評価は、実際の撮影で試したいと思います。


まとめ

今回使用させて頂いているSWAT用極時微動ユニットは、調整時のネジの操作のしやすさや可動部の安定性に関しては特筆すべきレベルで、極軸調整をとても素早くスムーズに、精度良く済ますことができます。ただし、押しネジの両側からの挟み込みを十分にすることが重要で、挟み込みをきちんとすると相当な安定度を実現できることがわかりました。

その際の安定度の評価では、極軸調整を90度行って90度戻すというように二度繰り返すことで、定量的に評価できることを示しました。

押しネジを十分に締めるということは今回のSWAT用だけの話ではなく、赤道儀一般にも言えることだと思いますので、長時間露光になるとドリフトなどで、どうしても安定しないという場合は、一度押しネジを両側から締めることに気を付けてみるといいかと思います。


非常に有益な情報が!

昨日の太陽撮影の記事に、hasyamaさんという方から早速有用なコメントをいただきました。どうやら黒点から伸びるあの謎の線は、ガスの噴出現象とのことです。

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上昇方向で地球方向に向かってくるガスだとすると、ドップラーシフトで波長が青側に移るために、エタロンを波長が短くなる方向に回転すると、このようガスが見えることがあるということです。逆に、下降方向などで地球から遠ざかる向きの場合は赤側にシフトするとのことです。

コメントにはFacebookへのリンクも書かれていて、以前にも同様のものが波長がずれたLUNTで撮影されたとのことです。その投稿によると、やはりこのガスの噴出はそこそこ珍しいもので、あまり頻繁に撮影されているものではないようです。

今回は実際に何をみているのか、矛盾点はないかなど、自分なりに評価してみました。新たに疑問点が出たりしていますが、ある程度納得できたので記事にしておきます。


そもそもHαで何を見ているのか?

でもそもそも、なぜガスがHαで見えるのか、理由がまだよくわかっていません。光球面は納得できます。Hαに吸収線があり、Hαの653.6nmに合わせたエタロンでそこだけ透過させると、他の波長の明るい部分を除外することができ(吸収されながらも残った)Hα固有の光で作られる模様を見ることができます。要するに、吸収された光なのでHα部分は周りの波長より暗いということです。その一方、例えば彩層面からはるかに高いところまで写る派手なコロナまで含む30.4nmや19.3nmの光は、吸収線ではなく輝線です。すなわち周りの波長より明るいということです。

Hα領域の光は太陽表面に出てくるまでに吸収されるので、プロミネンスや噴出するガスも同様にHαに吸収線を持っていることは容易に想像がつきます。でも上で書いたように、Hα領域は周りの波長より暗いので、他の波長では明るく光っていることになります。光球面上は明るすぎるので、その明るさをエタロン除いてやるとHαがよく見えるようになるのはわかります。でもプロミネンスを見ている太陽の縁のところの背景は、光球面よりはるかに暗く、それに比べてHα以外の波長で明るいはずのプロミネンスが、エタロンの調整角をHαからずらしたら見えなくなるのかが、まだ理解できていません。

私の太陽の知識はせいぜいこれくらいです。まずはこの疑問を解決したいです。


波長のずれを見積もってみよう

とりあえず上の疑問は疑問として置いておくとして、その上で今回見えたガスも、プロミネンスと同様に元々はHαのみで見えるものなのでしょう。仮にそうだとして、エタロンで光球麺を見た時、狭い透過波長のみで見ることになるので、その周りの波長は暗く見えて、その結果ガスも見えることになるのかと思います。

この仮定の元、今回Hαからずらしたエタロンで見えたガスがドップラーシフトによるものだとして、ガスの速度から計算できる波長のズレと、エタロンの調整角から推定できる波長のズレが、一致するのか、それとも全然おかしいのか、簡単に評価してみたいと思います。

まずガスの速度からの見積もりです。
  1. ガスの長さは太陽直径の100分の1よりは大きくて、10分の1には届いていないくらいですが、ざっくり1/10とします。
  2. 太陽の直径はざっくり地球が100個並ぶくらいで、地球の直径はざっくり1万kmとすると、100万kmのオーダーです。
  3. なのでガスの長さはざっくり10万kmとします。
  4. ガスが伸びる時間は1分よりは長くて1時間よりは短いと思うので、とりあえず1000秒としましょう。
  5. そうするとガスの速度は10万km / 1000秒 = 100km/秒程度となります。
  6. 光の速度は30万km/秒で、それが100km/秒程度ぶん圧縮されるとすると、ドップラー効果で波長も同様の比率100/300000 = 1/3000くらいで短くなるので、653.6nmは0.2nm程度短くなります。

次にエタロンの回転で変わる波長です。
  1. PSTのエタロンの透過波長性能は、1Å = 0.1nm程度です。
  2. エタロンは半回転くらいしかしませんが、半回転の4分の1くらい回すと見えているHα領域がほとんど見えないくらいになります。ということは8分の1回転で変化する波長が1Å程度と考えてオーダー的にはおかしくないでしょう。
  3. 今回エタロンは波長の長い側か短い側かはわかりませんが、完全に端に回し切ったところにに行っていました。ということは、真ん中がHαに合っているとして、半回転のうちのさらに半分回っていたことになるので、4分の1回転回っていたことになります。
  4. 1/8回転で1Å = 0.1nmなので、4分の1回転回っていたとすると、エタロンでは2Åぶん、すなわち0.2nm程度Hαから波長がズレていたことになります。

おおっ!!

ものすごいラフなオーダー計算ですが、ものの見事に0.2nmで、両者ドップラー効果の波長のズレとエタロンの波長のズレが一致しました。多少のファクターのズレはありますが、少なくともオーダー的にはドップラー効果でHαからズレたガスを見ていたと結論づけておかしくなさそうです。


以前の撮影でもジェットが!

そういえば、以前もジェットのようなものを見たと報告したことがあるのを思い出しました。


この時はHαで見ていたはずですが、真横に出ているので地球方向に向かう速度成分はほとんどなかったのかもしれません。また、ジェットが数分で伸びていると書いてあるので、もしかしたらジェットの速度は今回見積もったものよりもかなり速いのかもしれません。ただし、それに地球方向の速度成分をかける必要があるので、それでもオーダー的にはそこまで間違っていないかと思います。


プロミネンスでも波長のずれは起こる?

ところで、プロミネンスもタイムラブスで見ると非常に高速に動いていることがわかります。下の動画は以前撮影したものですが、わずか19分間でこれだけ動いています。
Blink

プロミネンスの移動速度もそこそこ出ているはずで、地球に向かう速度成分も多少はあるとすると、エタロンを回転して調整する時に、いつも光球面とプロミネンス部でエタロンの最適位置が合わないように思えるのは、もしかしたらこちらもドップラーシフトが起こっているからなのでしょうか?


まとめ

簡単なオーダー見積もりでしたが、少なくともドップラー効果で波長がズレたものが見えていたようだということは納得しました。

でもまだなぜプロミネンスやガスがHαだけでよく見えるのかは納得できていません。どこかにいい説明はないのでしょうか?

でもこうやって、自分で撮影した謎の現象が理解できているというのは、とても面白いです。天文趣味の醍醐味の一つなのかと思います。






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