前回の記事で今年5月に撮影した南天の天体を処理しましたが、今回はさらに前の4月の撮影結果になります。
私は春の銀河はあまり得意ではありません。SCA260の1300mmの焦点距離と、ASI294MM Proの画角だと、少し広くて銀河の細かい構造に迫力があまり出ないからです。それでも今回は、一度撮影してみたかったヘルクレス座銀河団に挑戦してみました。
銀河団といえばおとめ座銀河団が有名で、以前撮影しています。範囲もヘルクレス座銀河団よりも遥かに広く、焦点距離420mmのε130Dとフルサイズのカメラでもまだ収まりきりません。
今回のヘルクレス銀河団の場合、もっと小さい領域に小さい銀河が集まっていて、一部を拡大して細かい銀河を見ることになるので、分解能が勝負となり、きちんと撮影しようとするとかなり手強いです。
撮影はもうかなり前で記憶の彼方なのですが、その時の様子は当時文章にして残してあったので、ほぼそのままの形でブログ記事として使いました。その時のことを読んでて、赤道儀の反転を失敗したのも思い出しました。ことなきを得たのですが、冷や汗ものでした。
時期的には4月初めに撮影したM104の次で、4月中頃になります。LRGB合成の予定で、3晩にわたって撮影し、Lだけで6時間以上、RGBがそれぞれ約1時間と、合計9時間以上になっています。画像処理の途中で思ったのが、思ったより色が出ないので、もう少しRGBをの枚数を増やしても良かったのかもしれません。
M104のときには画像処理にかなり時間をかけてしまったのも、今回のヘルクレス座銀河団の画像処理が遅れてしまった理由の一つです。実は画像処理は4月の時点で一度パッとやっていたのですが、気に入らなかったので改めて一からやり直しでした。それから約半年後になりますが、今回新たに書いた記事は主に画像処理についての部分です。
今回の撮影ですが、夜中の2時半頃に子午線反転があります。この時間夜中に起きているときついこともあり、NINAの自動反転機能で乗り切ろうとしました。ただし、自動反転は以前痛い思いをしたことがある
ので、ある程度の対策をしてました。
数十cm程度の短いUSBケーブルとDC電源ケーブルをカメラ側に取り付け、カメラの周りにケーブルタイで固定して、引っ張られた時に必ずケーブルの長手方向にのみ力がかかるようにして、引っ張って抜けるようにしておいたのです。
今回はこれが功を奏しました。朝起きて撮影結果を見ると、PHD2が途中で止まっていて、カメラが認識されないと出ています。撮影画像のタイムスタンプもちょうど反転時刻くらいまでで、その後は撮影されていません。これはまずい!と直ぐに外に出てみてみると、どうやら赤緯体がクルッと一回転しているような状態で、ケーブルが首に巻かれているような状態になっていました。
それでも想定通り、短いケーブルのところでUSBもDC電源も共に抜けていて、ことなきを得ました。こんな風に首を巻いた状態は初めてでしたが、赤緯体が初期位置からほぼ真反対に向いた状態での撮影になるのでこんなことが起きたのかもしれません。南天の高いところの天体は少し注意が必要かもしれません。今のところはっきりとした原因は不明ですが、とにかく機材が壊れなくて何よりでした。
手持ちのバッテリーの一つが、気温が低いと変な振る舞いを見せることが確実となってきました。以前開田高原に行ったときには低温警告が出たのですが、警告は出なくても、温度が低いと電圧降下が激しいようです。
まず、気温が低い時は最初は使えるのですが、途中で電池の消耗が早いと自ら誤認識してしまうようです。一晩持つことはなく、夜中気温が低くなってくると止まってしまいます。こうなると、電源を入れようとボタンを押しても何も反応がないのですが、充電しようとしてACアダプターに繋ぐと何故か一瞬(秒単位)で100%になります。温度がまだ低いうちにACアダプターを外すとまた直ぐにダウンしてしまうのですが、しばらく待って温度が少し上がってからACアダプターを抜いても100%を保ったままになります。充電し切れているとはとても思えない短時間で100%になるので、何か表示がおかしいかです。
季節が進み気温が上がってくると、一晩持つようになってきます。撮影が終わって朝チェックすると、気温によって0%と出る時と、数十%残る時があります。0%となっているときにACアダプターに繋ぐと、これもなぜか一瞬で100%に戻りますが、一晩使っているので明らかに電力が多く残っているとは思えず、充電時の表示が何かおかしいと思われます。一方、数十%とか残っている時は、すぐに100%にはならずに、数十%が徐々に増えて、でも直ぐに(1分くらい?)で99%とかになります。温度が上がってきて徐々に振る舞いがまともなものに近づいてくる印象ですが、まだ春くらいの温度だと信用できません。一応100%充電されていると表示されていようが、そのまま充電を続けて半日くらい放っておきますが、次回使うときは今のところ問題なく使えています。
他のバッテリーを5台ほど使ってきましたが、同じような状況で同時に使っても、今のところこの一台のみがこのような変な振る舞いをします。たまたまこの個体だけなのか、興味がありますが、Amazonのレビューとかみても低温関連のことはあまり書いてないので、よくわかりません。Amazonの同機種のレビューを見ると、低温以外でもよく似たトラブルはたくさん報告されていて、途中から充電できなくなったとか、保証期間を過ぎると修理もできないとかの投稿がたくさんあります。大手のものだから数が出ているからというのもあるのかもしれません。
今回のようなことがあると改めて思うのですが、大型のバッテリーを買って1台で運用するようなことは、撮影失敗のリスクを考えるとちょっと怖いと思ってしまいます。私は1万円からせいぜい2万円までの機種で抑えていて、そのクラスの数を揃えるという戦略です。トラブルの時はすぐに交換して、冗長性で回避できることと、不具合時の1台あたりの金額的なダメージを防ぐのが目的です。低温時には問題があるこのバッテリーも、その後暑い夏には普通に使うことができたので、冬場は他のバッテリーを使えば良く、長い目で見たらそこまでダメージはないです。
撮影直後の画像処理では銀河がのっぺりと絵のようになってしまい、やる気を無くしてしまいました。反省して、今回はRAW画像の選択からやり直しです。
まず、前回画像処理した自分の画像と、Astrobinのヘラクレス銀河団でよく写っているものを見比べてみました。のっぺりは仕方ないとして、パッとわかる決定的な違いは微恒星の数です。例えばAstrobinのImage of the day (IOD) に選ばれた画像と自分の画像で、同じ領域を切り出してPixInsightのSubframeSelectorで認識できる星の数を比べてみると、IODの方が約1.5倍の星の数になりました。実際の画像を見ても、細かい星があるかないかでかなり違って見えて、1.5倍というのはちょうど納得できるくらいの数字です。
1回目の画像処理ではFWHMが5以下、星の数が250以上という閾値を設けてRAWのL画像を振り分けました。その場合、376枚中、147枚が採用されました。できるだけ小さな星を救おうとしたために、悪い画像を切り捨てたつもりですが、かなりの枚数を捨てていることになります。今回、2回目の画像処理はFWHMが7以下、星の数が150以上と条件を緩め、採用枚数を376枚中、274枚としました。
まずこれで微恒星の数が変わるかです。ここでいう微恒星の数というのは、M104の時に散々議論したBXTで認識される小さな星の数ということです。
結果はというと、M104の時とほぼ同じで、
一方2回目では、
次に今回の画像処理でやり直したことは、drizzleの有無です。今回は最初drizzle無しで処理しましたが、小さい銀河が多数あるので、改めて比較するとdrizzle x2の方が有利そうです。
そのため、2度目の処理はdrizzle x2を使いました。
本当はM104の時のように、撮影時からASI294MMのbin1にしてもよかったのですが、撮影時から画像サイズが大きくなり、画像処理の負担も大きくなり、かなりきついです。フラットなども合わせると、ディスク容量も平気で数100GBを使用してしまいます。bin2のdrizzleのx2なら、最後のインテグレーションで増えるだけなので、全然許容範囲です。drizzle x2にBXTをかけるとかなり解像度が出ることがわかっているので、これでbin1に迫れるといいのですが。
ただし今回は、露光時間をこれまでの自分の標準の5分から1分に短くしました。恒星が飽和するのをできるだけ避けるためです。そのため撮影枚数はこれまでの5倍と多くなるので、その分ディスク容量を食います。
4月の最初の画像処理でのっぺりとしてしまった原因もわかりました。ストレッチ時のGHSの使い方が原因でした。GHSは最初にSP (Symmetric Point)を選ぶのですが、SPに0以外の値を入れてしまうと銀河の中の淡い部分が明るくなりがちで、どうも階調が取れません。今回だけなのかもしれませんが、SPは0にして、当然LP保護も0になりますが、HPの保護は明るいところをあまり明るくしないように適当に0.5とかにしました。あとの残りのパラメータはStretch FactorとLocal Intensityだけなので、これで銀河の暗いところから明るいところまで階調ができるだけ残るようにストレッチとLPを調整しました。どちらも大きくしすぎないことがコツみたいですが、まだあまりよくわかっていない部分もあるので、もう少し経験が必要みたいです。
さらにその後、GHS以外にもいくつか試したのですが、今回は背景の淡い構造を出す必要はないこと、飽和しないことという条件で、結局もっとシンプルなMaskedStretchとしました。結果を見ると、もう少し彩度を出しても良かったので、ArcsinhStretchでもよかったのかもしれません。
そこからの最後の仕上げはかなり苦労して、結局5回くらいやり直しました。Astrobinを見ていると、銀河も恒星も色彩豊かで、一つの銀河内でオレンジから青白まで出ているものもあるのですが、自分の画像だとなかなかそこまで出ないです。RGBの撮影時間が短いので色情報がノイジーなこともあるのかと思います。もう少し手はあるのかもしれませんが、キリがないのでできる範囲でまとめました。まだ少し不満が残っているので、微恒星の写りも含めていつかリベンジしたいです。
今回画像処理した結果を示します。drizzle x2だと画像が大きくなりすぎてアップロードできなかったので、ブログ用に少しだけ(75%くらい)解像度を落としています。
画角が少し広いので、一部銀河団の中心部を切り取った画像も載せておきます。銀河をできるだけ取り込むために、縦型に切り出した後、90度回転させています。これぞ「銀河団」という感じです。
特に拡大図の方をみると、4月ののっぺり画像処理から比べたら、輝度の階調を残し、色調もある程度確保することができたと思います。BXTの効果も絶大で、drizzle x2と合わさって、銀河の細部もよく出ていますし、恒星の肥大も抑えられています。
見る距離や拡大率にもよると思いますが、小さな銀河なので離れた時見てもある程度はっきり見えるように、もう少し輝度や彩度を出してもいい気もします。その一方、あまり派手でないこのくらいがいいのかとも思えます。まだ自分の中で銀河にあまりはっきりとした基準がないので、今後しばらく試行錯誤かと思います。
上で議論したように、M104の時と同じでBXTで認識できない微恒星を取りこぼしてしまっているので、あるところより暗い恒星が全く見えなくなるという、あからさまな閾値ができてしまっています。BXTで小さな銀河と恒星の見分けが本当にできているか、StarNetで恒星と背景を分離するときに、銀河をうまく背景に分離できているかどうかは、まだ多少疑問が残ります。私は趣味と割り切っているのであまり気にしていませんが、気にする人は気になるかもしれません。ただし、同じクオリティーをBXTなどなしで出そうとすると、鏡筒の大口径化、赤道儀の大型化、シンチレーションのいい撮影地の選択、更なる長時間撮影など、敷居がはるかにはるかに上がります。簡単に同程度の効果をソフト的に実現するBXTやStarNetは、やはりすごいと言わざるを得ません。
最後に、恒例のアノテーションです。
確かにそこそこ銀河の数はありますが、おとめ座銀河団の時のアノテーション画像ほどではなく、面積も数もやはりもう少し小ぢんまりとした印象です。
長く処理されずに残っていたヘルクレス座銀河団も、やっとブログ記事にたどりつきました。細部をいかに出すかで、おとめ座銀河団の時はε130Dで最初から焦点距離が短かったのであまり気にしなかったのですが、今回は焦点距離1300mmなので、かなり細かい描写でシンチレーションとかも効いてくるはずです。処理してみると、思ったよりはるかに手強かったです。
HDDの中身を見ても未処理画像も、だいぶん底が尽きてきました。残っているのは中途半端に撮影したものとかで、今後処理する気になるかどうかもよくわからないものばかりです。なんとか救ってやりたいものもあるのですが、もう2年前に撮影したものとかもあるので、撮り直したほうが早いかもしれません。
撮影にも画像処理にも時間がかかるようになっています。もっと気楽に済ませたいという思いもあります。この場合はSWAgTiとかを活用すればいいのでしょうか。でも大口径のものと比べてしまい、満足できるのかどうかはまた別問題になるのかと思います。
さて、次はここしばらく何日か撮影している網状星雲です。もう諦めて画像処理を進めるか、さらに撮影枚数を増やすか。いや、全然気楽な方向に行ってないですね...。
春の銀河
私は春の銀河はあまり得意ではありません。SCA260の1300mmの焦点距離と、ASI294MM Proの画角だと、少し広くて銀河の細かい構造に迫力があまり出ないからです。それでも今回は、一度撮影してみたかったヘルクレス座銀河団に挑戦してみました。
銀河団といえばおとめ座銀河団が有名で、以前撮影しています。範囲もヘルクレス座銀河団よりも遥かに広く、焦点距離420mmのε130Dとフルサイズのカメラでもまだ収まりきりません。
今回のヘルクレス銀河団の場合、もっと小さい領域に小さい銀河が集まっていて、一部を拡大して細かい銀河を見ることになるので、分解能が勝負となり、きちんと撮影しようとするとかなり手強いです。
撮影はもうかなり前で記憶の彼方なのですが、その時の様子は当時文章にして残してあったので、ほぼそのままの形でブログ記事として使いました。その時のことを読んでて、赤道儀の反転を失敗したのも思い出しました。ことなきを得たのですが、冷や汗ものでした。
時期的には4月初めに撮影したM104の次で、4月中頃になります。LRGB合成の予定で、3晩にわたって撮影し、Lだけで6時間以上、RGBがそれぞれ約1時間と、合計9時間以上になっています。画像処理の途中で思ったのが、思ったより色が出ないので、もう少しRGBをの枚数を増やしても良かったのかもしれません。
M104のときには画像処理にかなり時間をかけてしまったのも、今回のヘルクレス座銀河団の画像処理が遅れてしまった理由の一つです。実は画像処理は4月の時点で一度パッとやっていたのですが、気に入らなかったので改めて一からやり直しでした。それから約半年後になりますが、今回新たに書いた記事は主に画像処理についての部分です。
撮影時のトラブル1: 赤道儀の反転失敗
今回の撮影ですが、夜中の2時半頃に子午線反転があります。この時間夜中に起きているときついこともあり、NINAの自動反転機能で乗り切ろうとしました。ただし、自動反転は以前痛い思いをしたことがある
ので、ある程度の対策をしてました。
数十cm程度の短いUSBケーブルとDC電源ケーブルをカメラ側に取り付け、カメラの周りにケーブルタイで固定して、引っ張られた時に必ずケーブルの長手方向にのみ力がかかるようにして、引っ張って抜けるようにしておいたのです。
青いUSBケーブルとDCジャックケーブルが宙ぶらりんになっています。
引っ張られて抜けてしまっていましたが、
このおかげで機材の破損はありませんでした。
引っ張られて抜けてしまっていましたが、
このおかげで機材の破損はありませんでした。
今回はこれが功を奏しました。朝起きて撮影結果を見ると、PHD2が途中で止まっていて、カメラが認識されないと出ています。撮影画像のタイムスタンプもちょうど反転時刻くらいまでで、その後は撮影されていません。これはまずい!と直ぐに外に出てみてみると、どうやら赤緯体がクルッと一回転しているような状態で、ケーブルが首に巻かれているような状態になっていました。
それでも想定通り、短いケーブルのところでUSBもDC電源も共に抜けていて、ことなきを得ました。こんな風に首を巻いた状態は初めてでしたが、赤緯体が初期位置からほぼ真反対に向いた状態での撮影になるのでこんなことが起きたのかもしれません。南天の高いところの天体は少し注意が必要かもしれません。今のところはっきりとした原因は不明ですが、とにかく機材が壊れなくて何よりでした。
撮影時のトラブル2: バッテリー
手持ちのバッテリーの一つが、気温が低いと変な振る舞いを見せることが確実となってきました。以前開田高原に行ったときには低温警告が出たのですが、警告は出なくても、温度が低いと電圧降下が激しいようです。
まず、気温が低い時は最初は使えるのですが、途中で電池の消耗が早いと自ら誤認識してしまうようです。一晩持つことはなく、夜中気温が低くなってくると止まってしまいます。こうなると、電源を入れようとボタンを押しても何も反応がないのですが、充電しようとしてACアダプターに繋ぐと何故か一瞬(秒単位)で100%になります。温度がまだ低いうちにACアダプターを外すとまた直ぐにダウンしてしまうのですが、しばらく待って温度が少し上がってからACアダプターを抜いても100%を保ったままになります。充電し切れているとはとても思えない短時間で100%になるので、何か表示がおかしいかです。
季節が進み気温が上がってくると、一晩持つようになってきます。撮影が終わって朝チェックすると、気温によって0%と出る時と、数十%残る時があります。0%となっているときにACアダプターに繋ぐと、これもなぜか一瞬で100%に戻りますが、一晩使っているので明らかに電力が多く残っているとは思えず、充電時の表示が何かおかしいと思われます。一方、数十%とか残っている時は、すぐに100%にはならずに、数十%が徐々に増えて、でも直ぐに(1分くらい?)で99%とかになります。温度が上がってきて徐々に振る舞いがまともなものに近づいてくる印象ですが、まだ春くらいの温度だと信用できません。一応100%充電されていると表示されていようが、そのまま充電を続けて半日くらい放っておきますが、次回使うときは今のところ問題なく使えています。
他のバッテリーを5台ほど使ってきましたが、同じような状況で同時に使っても、今のところこの一台のみがこのような変な振る舞いをします。たまたまこの個体だけなのか、興味がありますが、Amazonのレビューとかみても低温関連のことはあまり書いてないので、よくわかりません。Amazonの同機種のレビューを見ると、低温以外でもよく似たトラブルはたくさん報告されていて、途中から充電できなくなったとか、保証期間を過ぎると修理もできないとかの投稿がたくさんあります。大手のものだから数が出ているからというのもあるのかもしれません。
今回のようなことがあると改めて思うのですが、大型のバッテリーを買って1台で運用するようなことは、撮影失敗のリスクを考えるとちょっと怖いと思ってしまいます。私は1万円からせいぜい2万円までの機種で抑えていて、そのクラスの数を揃えるという戦略です。トラブルの時はすぐに交換して、冗長性で回避できることと、不具合時の1台あたりの金額的なダメージを防ぐのが目的です。低温時には問題があるこのバッテリーも、その後暑い夏には普通に使うことができたので、冬場は他のバッテリーを使えば良く、長い目で見たらそこまでダメージはないです。
画像処理
撮影直後の画像処理では銀河がのっぺりと絵のようになってしまい、やる気を無くしてしまいました。反省して、今回はRAW画像の選択からやり直しです。
まず、前回画像処理した自分の画像と、Astrobinのヘラクレス銀河団でよく写っているものを見比べてみました。のっぺりは仕方ないとして、パッとわかる決定的な違いは微恒星の数です。例えばAstrobinのImage of the day (IOD) に選ばれた画像と自分の画像で、同じ領域を切り出してPixInsightのSubframeSelectorで認識できる星の数を比べてみると、IODの方が約1.5倍の星の数になりました。実際の画像を見ても、細かい星があるかないかでかなり違って見えて、1.5倍というのはちょうど納得できるくらいの数字です。
1回目の画像処理ではFWHMが5以下、星の数が250以上という閾値を設けてRAWのL画像を振り分けました。その場合、376枚中、147枚が採用されました。できるだけ小さな星を救おうとしたために、悪い画像を切り捨てたつもりですが、かなりの枚数を捨てていることになります。今回、2回目の画像処理はFWHMが7以下、星の数が150以上と条件を緩め、採用枚数を376枚中、274枚としました。
まずこれで微恒星の数が変わるかです。ここでいう微恒星の数というのは、M104の時に散々議論したBXTで認識される小さな星の数ということです。
結果はというと、M104の時とほぼ同じで、
- 1回目の、枚数を絞ったFWHMが小さい方が、出来上がりの恒星の大きさは小さい。
- この場合、背景ノイズが大きい。
- ノイズに埋もれた淡い微恒星を救いきれない。
一方2回目では、
- FWHMは大きくても枚数が多い方が背景のノイズは明らかに小さくなる。
- S/N測定でもいい結果出ている。
- かつ残る恒星の数も多少増える。
- 恒星の大きさが少し大きくなる。
次に今回の画像処理でやり直したことは、drizzleの有無です。今回は最初drizzle無しで処理しましたが、小さい銀河が多数あるので、改めて比較するとdrizzle x2の方が有利そうです。
左がdrizzle x2で、右がdrizzle無し。
わかりにくい場合はクリックして拡大してみてください。
わかりにくい場合はクリックして拡大してみてください。
そのため、2度目の処理はdrizzle x2を使いました。
本当はM104の時のように、撮影時からASI294MMのbin1にしてもよかったのですが、撮影時から画像サイズが大きくなり、画像処理の負担も大きくなり、かなりきついです。フラットなども合わせると、ディスク容量も平気で数100GBを使用してしまいます。bin2のdrizzleのx2なら、最後のインテグレーションで増えるだけなので、全然許容範囲です。drizzle x2にBXTをかけるとかなり解像度が出ることがわかっているので、これでbin1に迫れるといいのですが。
ただし今回は、露光時間をこれまでの自分の標準の5分から1分に短くしました。恒星が飽和するのをできるだけ避けるためです。そのため撮影枚数はこれまでの5倍と多くなるので、その分ディスク容量を食います。
4月の最初の画像処理でのっぺりとしてしまった原因もわかりました。ストレッチ時のGHSの使い方が原因でした。GHSは最初にSP (Symmetric Point)を選ぶのですが、SPに0以外の値を入れてしまうと銀河の中の淡い部分が明るくなりがちで、どうも階調が取れません。今回だけなのかもしれませんが、SPは0にして、当然LP保護も0になりますが、HPの保護は明るいところをあまり明るくしないように適当に0.5とかにしました。あとの残りのパラメータはStretch FactorとLocal Intensityだけなので、これで銀河の暗いところから明るいところまで階調ができるだけ残るようにストレッチとLPを調整しました。どちらも大きくしすぎないことがコツみたいですが、まだあまりよくわかっていない部分もあるので、もう少し経験が必要みたいです。
さらにその後、GHS以外にもいくつか試したのですが、今回は背景の淡い構造を出す必要はないこと、飽和しないことという条件で、結局もっとシンプルなMaskedStretchとしました。結果を見ると、もう少し彩度を出しても良かったので、ArcsinhStretchでもよかったのかもしれません。
そこからの最後の仕上げはかなり苦労して、結局5回くらいやり直しました。Astrobinを見ていると、銀河も恒星も色彩豊かで、一つの銀河内でオレンジから青白まで出ているものもあるのですが、自分の画像だとなかなかそこまで出ないです。RGBの撮影時間が短いので色情報がノイジーなこともあるのかと思います。もう少し手はあるのかもしれませんが、キリがないのでできる範囲でまとめました。まだ少し不満が残っているので、微恒星の写りも含めていつかリベンジしたいです。
結果
今回画像処理した結果を示します。drizzle x2だと画像が大きくなりすぎてアップロードできなかったので、ブログ用に少しだけ(75%くらい)解像度を落としています。
- 撮影日: 2024年4月13日1時35分-4時8分、4月13日22時17分-14日2時32分、4月14日22時26分-15日3時27分
- 撮影場所: 富山県富山市自宅
- 鏡筒: SHARP STAR製 SCA260(f1300mm)
- フィルター: ZWO社のLRGBフィルター
- 赤道儀: Celestron CGX-L
- カメラ: ZWO ASI294MM Pro (-10℃)
- ガイド: f120mmガイド鏡 + ASI290MM、PHD2によるマルチスターガイドでディザリング
- 撮影: NINA、Gain 120で露光時間1分でL: 274枚、R: 57枚、G: 54枚、B: 60枚、総露光時間445分 =7時間25分
- Dark: Gain 120で露光時間1分が64枚
- Flat, Darkflat: Gain 120でLRGB: それぞれ128枚
- 画像処理: PixInsight、Photoshop
画角が少し広いので、一部銀河団の中心部を切り取った画像も載せておきます。銀河をできるだけ取り込むために、縦型に切り出した後、90度回転させています。これぞ「銀河団」という感じです。
特に拡大図の方をみると、4月ののっぺり画像処理から比べたら、輝度の階調を残し、色調もある程度確保することができたと思います。BXTの効果も絶大で、drizzle x2と合わさって、銀河の細部もよく出ていますし、恒星の肥大も抑えられています。
見る距離や拡大率にもよると思いますが、小さな銀河なので離れた時見てもある程度はっきり見えるように、もう少し輝度や彩度を出してもいい気もします。その一方、あまり派手でないこのくらいがいいのかとも思えます。まだ自分の中で銀河にあまりはっきりとした基準がないので、今後しばらく試行錯誤かと思います。
上で議論したように、M104の時と同じでBXTで認識できない微恒星を取りこぼしてしまっているので、あるところより暗い恒星が全く見えなくなるという、あからさまな閾値ができてしまっています。BXTで小さな銀河と恒星の見分けが本当にできているか、StarNetで恒星と背景を分離するときに、銀河をうまく背景に分離できているかどうかは、まだ多少疑問が残ります。私は趣味と割り切っているのであまり気にしていませんが、気にする人は気になるかもしれません。ただし、同じクオリティーをBXTなどなしで出そうとすると、鏡筒の大口径化、赤道儀の大型化、シンチレーションのいい撮影地の選択、更なる長時間撮影など、敷居がはるかにはるかに上がります。簡単に同程度の効果をソフト的に実現するBXTやStarNetは、やはりすごいと言わざるを得ません。
最後に、恒例のアノテーションです。
確かにそこそこ銀河の数はありますが、おとめ座銀河団の時のアノテーション画像ほどではなく、面積も数もやはりもう少し小ぢんまりとした印象です。
まとめ
長く処理されずに残っていたヘルクレス座銀河団も、やっとブログ記事にたどりつきました。細部をいかに出すかで、おとめ座銀河団の時はε130Dで最初から焦点距離が短かったのであまり気にしなかったのですが、今回は焦点距離1300mmなので、かなり細かい描写でシンチレーションとかも効いてくるはずです。処理してみると、思ったよりはるかに手強かったです。
HDDの中身を見ても未処理画像も、だいぶん底が尽きてきました。残っているのは中途半端に撮影したものとかで、今後処理する気になるかどうかもよくわからないものばかりです。なんとか救ってやりたいものもあるのですが、もう2年前に撮影したものとかもあるので、撮り直したほうが早いかもしれません。
撮影にも画像処理にも時間がかかるようになっています。もっと気楽に済ませたいという思いもあります。この場合はSWAgTiとかを活用すればいいのでしょうか。でも大口径のものと比べてしまい、満足できるのかどうかはまた別問題になるのかと思います。
さて、次はここしばらく何日か撮影している網状星雲です。もう諦めて画像処理を進めるか、さらに撮影枚数を増やすか。いや、全然気楽な方向に行ってないですね...。