うーん、前回の記事では副鏡のオフセット量は考えないようにしていたのですが、コメントもあったので、誤差も含めて少し考察してみます。
目的
光軸調整をした後の反射型望遠鏡で見ている光軸は、どれくらい鏡筒の中心軸とずれるのか?言い換えると、鏡筒の入射光側の入り口で何mmくらいずれて見えているかという問題です。これを求めることにします。
自由度の確認
調整の自由度(それぞれ3つのネジのセットがありますが、自由度としては2です。厳密にいうと光軸方向にもずらせるので自由度は3ですが、とりあえず無視します。副鏡だけは無視できないのであとで扱います。)
でも実は実際の自由度はこれだけではなく、他にもずれを引き起こす原因はたくさんあり、ざっと考えただけでも
誤差の見積もり: 接眼部での調整をしない場合
前回の光軸調整で、最初の1、2だけを合わせた場合、すなわちレーザーコリメーターで合わせたのと同じ状態の時に、どれくらいの誤差が残っているかを評価してみます。評価するところは、接眼部の中心軸が鏡筒に垂直に立っていると仮定した時の、「接眼部の中心軸と鏡筒の中心軸の交点」を理想的な点として、そこから現実的にはどれくらいの範囲でずれている可能性があるかで考えます。
1. 簡単のために2の副鏡のオフセットはとりあえず無いと仮定します。
2. まず、スパイダーの長さは4本を頑張って合わせますが、まあ工作精度、測定精度から1mmくらいでしょうか。この時点で、1.のオフセットがないとしても、上で考えた「理想的な接眼部の中心軸と鏡筒の中心軸の交点」から1mmくらいずれている可能性があるということとです。この調子でいきます。
3. は副鏡の回転角5度くらいのずれを、副鏡についている3本の押しネジで補正する必要があります。押しネジの間の距離が3cmくらいだとして、5度=5 x pi/360 ~ 0.05[rad]なので、0.03m x 0.05rad = 1.5mmくらいのずれとなります。まあ1.と同じくらいですね。副鏡についているネジを閉める時の位置も多少ずらすことができるので、それでもまあ頑張って円筒を手で合わせて気を使いながらネジを締めるとして、0.3mmくらいのずれに抑えるとしましょう。
4. これは正しい位置さえわからないので、押しネジと引きネジの長さの半分くらいの範囲で平気で前後します。3mmくらいは平気で変わるでしょう。
大まかな計算なので、ここでそれぞれの誤差の2乗和のルートを取ります。
sqrt(1mm^2+1.5mm^2+0.3mm^2+3mm^2) = 3.5mm
となります。副鏡は45度傾いた斜鏡になっているので、ルート2で割ってやると
3.5/1.4 = 2.5mm
と結構気を使って設定してもこれくらいの範囲で理想点からずれる可能性が高いということです。気を使わないとこれよりもっとずれていきます。一番ずれやすいところはスパイダーの長さでしょうか。5mmくらいずれることは平気であるので、倍くらいの誤差になってしまうことは平気であるということです。
では次に、理想点から2.5mmくらいのずれがあった時に、接眼部の角度はどれくらいずれるかというと、理想点からアイピース先端までの距離が100mm程度、そこに2.5mmの誤差があったら角度にして2.5mm/100mm = 0.025rad ~ 3度になります。接眼部の3本の押しネジの間隔が10cmくらいなので、押しネジのところで約2.5mmのずれ、この押しネジはM3なので、ネジ山のピッチは0.5mm。回転数にすると5回転です。今回の接眼部でのネジの調整は+/-2回転くらいの範囲で合わせたので、ほぼ一致します。
さらに、主鏡の面が鏡筒の中心軸からどれくらいの角度ずれる可能性があるか考えます。副鏡の位置から考えると、だいたい主鏡から700mmくらい離れたところに3.5mmの誤差があるので、3.5mm/700mm = 0.005rad = 0.57度くらいのずれです。結構な量ですね。これくらいのずれがあると、入射口のあたりでは0.005rad x 800mm = 4mmくらいずれたところを見ていることになります。まあ、こんなもんでしょうか。
こうやって考えると、そもそもの工作精度や調整精度から、オフセット量と同程度の範囲で位置に誤差があるために、あまりオフセットの量を気にして光軸合わせをしてもしょうがない気がします。
誤差の見積もり: 接眼部での調整をした場合
さらに、前回の光軸調整の、接眼部までキチンと合わせたとすると、アイピース中心と主鏡中心で結ばれる光軸が、スパイダー中心に向きを揃えることになるので、誤差はスパイダー中心の精度で決まることになります。これだと1mmくらいのオーダーになるので、ざっくりいって誤差は上記の2.5mmくらいから3分の1くらいになるということです。
まとめ
いろいろ考えましたが、結論としてはレーザーコリメータで合わせる範囲で問題はない。最終的には星を見てきちんと合わせる必要があるということでしょうか。
結局は普通のやり方は特に問題ないというごくごく当たり前の結論になりました。
最後に
もともと前回の光軸調整の記事を書いたわけは、独立した2自由度の調整の場合のみでなく、さらに1自由度絡んだ調整が必要なことが、光学機器での調整ではよくあるということを示したかったからです。このある自由度を変えたら、他の自由度も全て合わせ直すような方法はround walkとかいうのですが、歩き回るとかいう意味でしょうか、最適点を見つける一般的な手法です。めんどくさいのであまり解説とかしてある記事はないのですが、身につけておくと機器の性能を最大限引き出す時に役立つことがよくあります。
目的
光軸調整をした後の反射型望遠鏡で見ている光軸は、どれくらい鏡筒の中心軸とずれるのか?言い換えると、鏡筒の入射光側の入り口で何mmくらいずれて見えているかという問題です。これを求めることにします。
自由度の確認
調整の自由度(それぞれ3つのネジのセットがありますが、自由度としては2です。厳密にいうと光軸方向にもずらせるので自由度は3ですが、とりあえず無視します。副鏡だけは無視できないのであとで扱います。)
- 副鏡の角度 x 2自由度
- 主鏡の角度 x 2自由度
- 接眼部の角度 x 2自由度
でも実は実際の自由度はこれだけではなく、他にもずれを引き起こす原因はたくさんあり、ざっと考えただけでも
- 副鏡のオフセット量(副鏡が接眼部より奥にどれだけシフトしているか)mm~1cm
- スパイダーネジの締め具合による副鏡の上下左右の位置: mm~1cm
- 副鏡の引きネジを締めたときの副鏡の回転と、上下左右の位置(光軸方向とは垂直の方向の意味): ~5度と~0.3mm
- 副鏡の引きネジと押しネジの締め具合のバランスによる光軸方向のオフセット量: ~mm
- 光軸調整アイピースの十字: ~0.1mm
- センターマークの位置精度: <1mm
誤差の見積もり: 接眼部での調整をしない場合
前回の光軸調整で、最初の1、2だけを合わせた場合、すなわちレーザーコリメーターで合わせたのと同じ状態の時に、どれくらいの誤差が残っているかを評価してみます。評価するところは、接眼部の中心軸が鏡筒に垂直に立っていると仮定した時の、「接眼部の中心軸と鏡筒の中心軸の交点」を理想的な点として、そこから現実的にはどれくらいの範囲でずれている可能性があるかで考えます。
1. 簡単のために2の副鏡のオフセットはとりあえず無いと仮定します。
2. まず、スパイダーの長さは4本を頑張って合わせますが、まあ工作精度、測定精度から1mmくらいでしょうか。この時点で、1.のオフセットがないとしても、上で考えた「理想的な接眼部の中心軸と鏡筒の中心軸の交点」から1mmくらいずれている可能性があるということとです。この調子でいきます。
3. は副鏡の回転角5度くらいのずれを、副鏡についている3本の押しネジで補正する必要があります。押しネジの間の距離が3cmくらいだとして、5度=5 x pi/360 ~ 0.05[rad]なので、0.03m x 0.05rad = 1.5mmくらいのずれとなります。まあ1.と同じくらいですね。副鏡についているネジを閉める時の位置も多少ずらすことができるので、それでもまあ頑張って円筒を手で合わせて気を使いながらネジを締めるとして、0.3mmくらいのずれに抑えるとしましょう。
4. これは正しい位置さえわからないので、押しネジと引きネジの長さの半分くらいの範囲で平気で前後します。3mmくらいは平気で変わるでしょう。
大まかな計算なので、ここでそれぞれの誤差の2乗和のルートを取ります。
sqrt(1mm^2+1.5mm^2+0.3mm^2+3mm^2) = 3.5mm
となります。副鏡は45度傾いた斜鏡になっているので、ルート2で割ってやると
3.5/1.4 = 2.5mm
と結構気を使って設定してもこれくらいの範囲で理想点からずれる可能性が高いということです。気を使わないとこれよりもっとずれていきます。一番ずれやすいところはスパイダーの長さでしょうか。5mmくらいずれることは平気であるので、倍くらいの誤差になってしまうことは平気であるということです。
では次に、理想点から2.5mmくらいのずれがあった時に、接眼部の角度はどれくらいずれるかというと、理想点からアイピース先端までの距離が100mm程度、そこに2.5mmの誤差があったら角度にして2.5mm/100mm = 0.025rad ~ 3度になります。接眼部の3本の押しネジの間隔が10cmくらいなので、押しネジのところで約2.5mmのずれ、この押しネジはM3なので、ネジ山のピッチは0.5mm。回転数にすると5回転です。今回の接眼部でのネジの調整は+/-2回転くらいの範囲で合わせたので、ほぼ一致します。
さらに、主鏡の面が鏡筒の中心軸からどれくらいの角度ずれる可能性があるか考えます。副鏡の位置から考えると、だいたい主鏡から700mmくらい離れたところに3.5mmの誤差があるので、3.5mm/700mm = 0.005rad = 0.57度くらいのずれです。結構な量ですね。これくらいのずれがあると、入射口のあたりでは0.005rad x 800mm = 4mmくらいずれたところを見ていることになります。まあ、こんなもんでしょうか。
こうやって考えると、そもそもの工作精度や調整精度から、オフセット量と同程度の範囲で位置に誤差があるために、あまりオフセットの量を気にして光軸合わせをしてもしょうがない気がします。
誤差の見積もり: 接眼部での調整をした場合
さらに、前回の光軸調整の、接眼部までキチンと合わせたとすると、アイピース中心と主鏡中心で結ばれる光軸が、スパイダー中心に向きを揃えることになるので、誤差はスパイダー中心の精度で決まることになります。これだと1mmくらいのオーダーになるので、ざっくりいって誤差は上記の2.5mmくらいから3分の1くらいになるということです。
まとめ
いろいろ考えましたが、結論としてはレーザーコリメータで合わせる範囲で問題はない。最終的には星を見てきちんと合わせる必要があるということでしょうか。
結局は普通のやり方は特に問題ないというごくごく当たり前の結論になりました。
最後に
もともと前回の光軸調整の記事を書いたわけは、独立した2自由度の調整の場合のみでなく、さらに1自由度絡んだ調整が必要なことが、光学機器での調整ではよくあるということを示したかったからです。このある自由度を変えたら、他の自由度も全て合わせ直すような方法はround walkとかいうのですが、歩き回るとかいう意味でしょうか、最適点を見つける一般的な手法です。めんどくさいのであまり解説とかしてある記事はないのですが、身につけておくと機器の性能を最大限引き出す時に役立つことがよくあります。