以前の分光器SHG700を使って測定したPSTのエタロンに引き続いて、いよいよフェニックスのエタロンの透過特性を測定します。



解析時のオフセットの見直し

でもその前に、以前、2025年9月23日に測定したPSTのエタロンの透過特性で少し訂正があります。グラフを再掲載しますが、ピークとピークの間の底の部分の実測とモデルが少しズレています。

fit_result_ok

この理由を以前はロスのせいと述べていましたが、これは勘違いということが判明しました。正しい原因は、測定時にカメラの設定でオフセットをつけていたのに。モデル化するときにそのオフセットをきちんと考慮していなかったことです。撮影時のオフセットはADCのカウントにすると16bit換算で2000に相当します。カメラは12bitのG3M678MでSharpCapでの撮影時にオフセットを2000としたのですが、これは(ちょっと不思議なのですが)16bitで換算された時の値になるようです。その際のエタロンの櫛のピークの高さが40000程度なので、5%ほどのずれになり、無視できない範囲です。上の画像もちょうど5%くらいずれています。オフセットの補正をして、改めてフィットしてやると下の画像のようになります。
fit2_result
底の部分が一致するようになったことがわかります。その際のFWHMは0.71Åとなり、前回より少し小さく出ています。

底の部分を合わせることがなぜ重要かというと、そのずれの分ピーク位置の高さが変わるからです。ピークの高さが変わると、当然半分の高さも変わってしまうので、FWHM(Full Width Half Maximum)も「半値全幅」の名の通り、その幅が変わってしまうからです。底位置での高さの式は

(T/(1+R))^2

で表され、上の鏡の反射率と透過率(1-R=0.28)を入れると(0.28/1.72)^2=0.026となります。この高さも使われることで、より正確なフィッティングになります。

PSTのエタロンについては、別の日の2025年10月5日に測定したデータもあります。それを同様にフィッティングしてグラフ化すると以下のようになりました。
fit_result

フィッティングから求めたFWHMは0.98Åとなりました。上記の0.7Å程度と結構違います。まだ原因がはっきりしたわけではないですが、おそらく測定の際にPSTエタロンに入射する光の当たり具合が違うために起きているようです。パラメータは大きく2種類あると考えられ、
  • 面内のどこに、どれくらいの面積で光が当たるか
  • エタロンに対する光の入射角
が問題になるかと思われます。これらのばらつきは、この時点ではまだ解決していないので、今後の課題となります。


Phoenix

PSTは一旦置いておいて、次にPhoenixのエタロンの特性を測定したいと思います。測定は2026年1月4日に行いましたが、LED光源が暗すぎて櫛の底の部分がノイズに埋もれてしまっていたので、再度2月7日に測定しました。

IMG_2524

Phoenixは鏡筒の先端部にエタロンが付いているため、鏡筒を通した光を分光器SHG700に入れます。エタロンの特性を見たいので、上の写真からBFとERFは外しています。

今回、鏡筒という長い筒を使うことで、エタロンへの入射光の角度を一定に近いものにすることができることがわかりました。PSTの測定の時にはエタロン単体に近い状態で測定していたので、LED光源の角度を変えるとピーク位置が変わるような様子が見えましたが、鏡筒込みのPhoenixの場合は画面を見ている限りはそのようなことはないようです。ただし、光がエタロンの面内のどこに当たるか、どれくらいの面積で当たるかはまだ確定していません。LEDライトは、先端に付いているレンズ位置をスライドさせることにより光束を広げたり収束できるもので、今回はとりあえず光束径がエタロン径に合うようにしましたが、LEDとエタロンの距離を一定に取れていないのでまだ不確定性があるはずです。それでもPSTの時よりはかなり安定に測定できいるのは間違いないでしょう。

更に、前回記事にした波長のキャリブレーションをしました。
Figure_1
フィットされたデータを見てわかりましたが、短い波長側と長い波長側で5%程違います。Hα中心はほぼ計算通りの0.0905Å/pixelですが、短い側は0.0928Å/pixel、長い側は0.0885Å/pixelです。使っているのはHα線のみなのでこのずれは効いてはこないですが、櫛構造のフィッティングで広い範囲を使う場合は多少効いてくるでしょう。

更に、PSTの再計算で検討したのオフセットもきちんと考慮しながら、エタロンの測定データをフィッティングしてみます。
fit_result_ok

フィッティングは実際にはもっと広い範囲で実行し、グラフでは見やすいように表示する範囲を狭めているため、このフィッティングは櫛構造になるというエタロンの原理そのものの特性を含んでいます。

グラフの横軸の範囲は先に示したPSTと同じなので、直接グラフの形で比べることができます。パッと見だけでもピークの幅が明らかに細くなっていて、Phoenixのエタロンの性能が圧倒的に良くなっているのがわかります。

もう少し詳しく見てみます。まず、Phoenixの場合、PSTに比べてピークとピークの間の幅が広がっているのがわかります。FSRと呼ばれる量ですが、今回は10ÅとPSTの1.5倍程度に広がっています。広ければ広いほど、隣のピークの影響が小さくなるので、これは大きな改善といえます。FSRは「2枚の鏡の間の距離」だけで決まる量で、PSTの0.3mm程度から0.2mm程度に狭くなったことがわかります。ただしFSRが大きくなると、同じ反射率の鏡を使った場合にはピークの幅がより大きくなり不利になります。それにも関わらず、細いピーク幅を実現しているということは、より反射率の高い鏡を使い、フィネスの高い、光の折り返し回数の多い高性能なエタロンを作り出しているというわけです。実際、鏡の強度反射率はPSTの70%程度から、Phoenixでは90%と、かなりアグレッシブな鏡になっていることが実測からわかります。高反射率の鏡を使うとエタロンとしての性能は上がりますが、その一方取り扱いは難しくなり、よりフラジャイルなエタロンとなりますので、くれぐれも荒い扱いは避けるべきです。

そしてFWHMは0.37Åと公称値の0.6Å以下を十分余裕を持って満たしています。今回は得られた画像の真ん中の部分のみを使っていて、これはエタロンの中心部のみを見ていることになるので、良すぎる値が出ている可能性があることは明記しておくべきでしょう。また、LED光源の設置にまだ不確定性が残っているので、絶対値としてFWHMについてはまだ検証の余地があるかもしれません。それでもPSTと相対的に比較することは少なくともできるはずで、共に不確定性はあるにしても結果が大きく変わることはなく、ピークの幅だけを比べても半分以下になっていることは、エタロンの性能として圧倒的に進化しているということは言えるのかと思います。

もう少し比較します。BFでHα線の波長以外をどれだけブロックできるかと、太陽光まで考えた時にどれくらい変わるかです。まずは参照として、以前掲載したPSTの場合です。

sum_eta_BF
sum_eta_BF_spe
1枚目のグラフを見るとわかりますが、Hα線の隣の左右のピークが少しですが残ってしまっています。更に2枚目では、それに太陽光のスペクトルを掛けたものを表しています。太陽光のHα線は吸収線ですが、それ以外では連続光で明るくなっているので、漏れ光としては大きくなり、左右のピークの影響は更に大きくなってしまいます。そもそものHα線のすぐ周りの裾の明るくなっているところも拾ってしまっていますし、左右のピークの高さもそれぞれ15%程度、両方あるのでそれの2倍と、無視できる範囲ではありません。

Phoenixの結果を示します。
all

all_sun_multi


1枚目のグラフでは、左右のピークの影響は全くなくなっているのがわかります。BFの透過幅自体はPSTでもPhoenixでも同じくらいです。PhoenixでFSRが広がっているのが効いていることがよくわかります。2枚目にあるように、太陽のスペクトルを掛けると、やはりHα線以外では明るいので少し影響は見えますが、PSTに比べたらほとんど影響がなくなっていることがわかります。あと、ピークの幅が小さいことが、Hα線すぐ裾の明るくなる部分もきちんとカットしてくれていることもわかります。

2枚目が実測の見え方に相当するので、2枚目で比較すべきだと思いますが、差がより明確に出ているのがわかると思います。実際に目で見たり撮影に影響するのは、全波長で積分した光量になるのですが、コントラストが圧倒的に改善することは容易に想像できるのかと思います。


まとめ

エタロン特性も大分まともに測定できるようになってきました。今回で光源の入射角についてはかなり改善できたのかと思います。測定結果を見る限り、Phoenixのエタロンはかなりすごいことがわかりました。ただ、FWHMが0.37Åと公称値の0.6Å以下というのに比べて良すぎる気もするので、もう少し検証は必要なのかと思います。PSTも鏡筒を付けて入射角の依存性を少なくして改めて測定したいと思っていますが、それで大勢が変わるとは思えず、今回の比較でわかるように太陽望遠鏡としてのエタロンの性能の進化にはもう驚くばかりです。さらに、FWHMの測定結果だけでなく、実際に太陽像を見た時の面内の見え方のばらつきも圧倒的に少なくなっていることから、世代が変わったと言っていいくらいの進化と結論づけていいかと思います。

さて、次はHeliostar100Hαの測定結果です。お楽しみに。