太陽分光撮影のアップグレード計画の開始です。

アップグレートはトータルで考える

以前議論したように、現在のFC-76+SHG700+G3M678Mがどこまで性能が上がるのか、実際に機材をアップグレードして試してみることにします。

きっかけは、元々SHG700に標準で付いていた幅7μm、長さ7mmのスリットが、幅は同じで長さが10mmのものにアップグレードされることが検討され、そのテストも完了し、やっと一般配布が始まったことです。私も発表されてすぐに発注しました。到着はかなり前だったのですが、今のセットアップでやりたいことも大体できたので、やっとテスト開始というわけです。

そもそも、スリットの長さが長くなると何が良いのかというと、一言で言うと鏡筒の焦点距離が伸ばせると言うことです。分光撮影ではスリット上で焦点を合わせる必要があることから、焦点距離によって太陽像の大きさが一意に決まってしまいます。ざっくり言うと、長さ7mmのスリットで焦点距離700mmまで、長さ10mmのスリットで長さ1000mmまでです。今使っているFC-76の焦点距離は600mmなので、7mmスリットでまだ少し余裕があります。今回は10mmスリット用に、焦点距離900mmのTSA-120を使うことを考えています。

でも単純に焦点距離を伸ばせば良いのかというとそうでもなくて、例えばカメラセンサー上の太陽像の大きさも大きくなるので、センサー面積を大きくするか、カメラレンズの焦点距離を短くするなどの手当てをしてやる必要があります。また、焦点距離が長くなると口径も大きくなりがちで、その分集光された光のエネルギーが上がるので、スリットが焼けたり壊れたりしないかなども考慮する必要があります。SHG700で使われているスリットは溶融石英製で熱膨張率が小さいため、MLastroによると口径4インチ(102mm)までは大丈夫とのことです。普通のBK7などのスリットだと耐熱量はもっと下がるので、普通はNDフィルターなどを入れる必要があります。だた、溶融石英と言えど今回は口径120mmと推奨口径より大きくになるので、少し心配です。


参照画像撮影と事前テスト

まず比較のために現在のFC-76ベースでのHα画像を撮影しておきます。その結果は前回の記事にまとめてあります。そうです、前回記事はいつもの記録撮影に加えて、新システム移行に際しての比較テストという意味も兼ねていたのです。これと今回撮影する画像との比較で、性能が上がったかどうか判別します。

比較のための事前撮影が終わった後に、まず最初にやったのは、口径を大きくしてスリットが溶けたり燃えたりしないかの安全テストです。口径が120/76=1.58倍となるので、光量は(120/76)^2~2.5倍となります。上でも書いたように少し心配なので、C8にPSTを取り付けた際に使ったようなUV/IRカットフィルターを入れてやります

太陽のエネルギースペクトルを考えると、可視光の割合は全エネルギーの約半分(47~52%)とのことです。今の76mmで十分余裕があること、120mmそのにするとその2.5倍になるくらいなので、可視光以外をカットしてしまえばスリットにダメージが出るようなことはなさそうです。

それでも念のために、まずはSHG700には何も手を加えず、鏡筒をTSA-120に変更します。
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最悪スリットにダメージがあったとしても、長さの短いものが壊れるだけで、新しい10mmのものはまだ壊したくないという意図があります。光を入れる際も、少し光りを入れてから一旦鏡筒からSHG700を外して、スリット部やその周りが熱くなっていないかなどを確認しながら、徐々に入れる光の量を増やしていきます。フルで光が入っても問題なさそうなことを確認できた後も、光を入れる時間を徐々に増やして、その都度外して暑くなっていないか確かめます。数分間入れても全く熱くならないことができたので、撮影に入ります。カメラはまずはこれまでと同じG3M678Mです。当然ですがもう全景は入らないので、左右2つに分けて撮影します。JSol’Exでの太陽像再構築は、全景が入っていなくても可能なはずです。1ショットだけ撮影したところで太陽像を再構築してみましたが、問題なさそうなので、左側5ショット、右側5ショットを撮影しました。

実際のスリット交換と、失敗したカメラ交換

次に、スリットを新しい10mmの長いものに変更します。二つスリットを並べましたが、溝をカメラで写すのはちょっと大変で、部屋の明かりを利用して何とか片方づつ写るようにしてみました。右が古い7mmスリットで、左が新しい10mmスリットになります。
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古いスリットは、SHG700に取り付ける台座とスリット部の台座が分かれていたのですが、新しいスリットは一体型になっていました。
コスト的には新しい方が正しいのかと思います。もしかしたら、スリットの角度を変更したくなったときに少し困るかもしれません。

新しいスリットをSHG700に取り付け、さらにカメラのセンサー面積を大きくするために今回はフォーサーズのASI294MM Proを使ってみました。ですが、ここから大きくトラブることになります。まず、アイピース型のカメラではなくなるので、カメラを取り付け口の中に入れ込むことができなくなり、ピントが出なくなります。そのためアメリカンサイズに変更するアダプターを取り外しT2ネジでとりつけることになりますが、ねじ込み式になるのでカメラの回転角の調整ができなくなります。最初どうするか迷ったのですが、MLastroのチュートリアルビデオを見直すと、SHG700本体側にイモネジがあって、そこを緩めることで取り付けアダプターを回転できるとわかりました。

決定的な問題点は、ASI294MM Proは任意のROI(Region Of Intrest、ソフト的な画角)を選べないのです。ZWOのマニュアルによると選べるROIはどうも固定っぽいです。しかも、フレームレートが最小のROIの320x240でも高々60-80fps程度で、実際にほしい300fps程度には全く届きません。最大幅にしてテイフレームレートになっても、赤道儀をものすごくゆっくり動かして撮影することはできるかもしれませんが、さすがにあまり実用的ではありません。

この時点でASI294MMを使うのを諦めました。別のモノクロでセンサー面積の広い、且つピクセルサイズが小さいカメラを手に入れる必要があります。とりあえずTSA-120での全景撮影はしばらくお預けです。

追記: 後日、ASI294MM ProでROIを変える方法が見つかりました。これで全景を一度に撮影できるようになりました。ただし、フレームレートが遅いので、撮影に時間がかかるのが難点です。



とりあえずの画像比較

TSA-120での全景撮影はあきらめましたが、撮影時に左右(再構築時には上下)に分かれた画像はできたので、それをFC-76の画像と比較してみます。前回記事で示した画像は処理済みで比較しにくいので、JSol’Exで出力したRAWに近い「disk」イメージで、スタックなどもしないで比較します。

まずはFC-76のもの。
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次に2つに分かれたTSA-120のものです。
0000_14_07_56_disk_0_00

0008_14_14_13_disk_0_00

同じ日の撮影ですが、2時間ほど間が空いているので、Hαの構造は結構変わってしまっていますが、差がわかりやすいところを拡大して並べて見ます。左がFC-76、右がTSA-120です。
comp

よく見比べないとわかりにくいかもしれませが、それでも明らかに右のTSA-120のほうが細部まで出ています。十分に価値のあるアップグレードになりそうなので、新しいカメラを手に入れることにしました。

カメラセンサーはIMX-183が良さそうです。ZWOでも出てますし、ToupTekでもあります。ToupTek提供でMLastroブランドでも出るみたいです。選択肢はありそうなので、値段と在庫を見て決めればいいのかと思います。ただし、ピクセルサイズがG3M678Mの2.0μmより大きく、2.3μmとなるので、上の比較画像ほどは差が出ないと思いますが、それでも価値は十分にありそうです。将来的なさらなるアップグレードも視野に入れて、機材を徐々に充実させていきたいと思います。

まとめ

残念ながら手持ちのカメラではROIとフレームレートが不十分でしたが、分解能向上のポテンシャルは十分確認することができました。スリットはそのままで、鏡筒は一旦FC-76に戻してしばらくは撮影を続け、新しいカメラが来たらTSA-120に再び交換して試してみたいと思います。



11月17日からの週末の5連続の記事です。