前回、SHG700を使ってPSTエタロンの応答を測定しました。



今回は、透過幅6Å程度と言われているBF(Blocking Filter)及び、ERF (Energy Rejection Filter) 相当に普段使っている透過幅7nmのHαフィルターの応答を測定し、PST全体の応答を検証して見ます。


BFの測定

まずはBFです。実はBFについては、前回の測定の時にすでに測定していました。でも中心波長がHα線の6553Åから全然ずれてしまっていて、隣のピーク近くまでいってしまっていたので、測定自身を疑っていました。今回はHα波長と比較しながら測定してみます。

この日の測定もやはり曇りの日です。太陽の散乱光をSHG700を使ってフラウンホーファー線を映し出します。これが波長のキャリブレーションになるので、正確に見えるようにピントや回折格子の回転角を合わせます。特に今回は、Hα中心波長からのズレをすぐに判断したいので、SharpCapの画面上レチクリ機能を利用して、レチクル線に合うように回折格子を調整しました。具体的には下の画面のようになります。上下のちょうど中心の赤線がHαぴったりになるので、これからする測定もすぐに判断できるはずです。
スクリーンショット 2025-10-05 130303

そして一連の測定後に再度フラウンホーファー線を見て、最初の位置からズレていないことを確認すれば、時間的な波長のズレや、測定で間違って回折格子をズラしてしまったとかがないことも担保されるでしょう。

さて、実際のBFを測定してみました。BFは2つ持っているので、前回測定したもの(実はこちらがスペアのもの)と、普段使っているものも(本当は常用しているものはできるだけ崩したくないのですが)新たに外して測定してみました。ところが何と、前回中心から全然ズレていたものが今回かなり中心に来て、普段常用で使っている正しいはずのものが中心波長から全然ズレています。やはりHαの中心にこないんですよね。

流石にこれはおかしいと思い、いろいろ触ってみました。わかったことは入射光に対してものすごい角度依存性があるということです。例えばズレている時の測定状況は以下のような感じ、上下中心の赤い線から中心がズレるどころか、ほとんどBFの透過範囲にさえ入っていません。
スクリーンショット 2025-10-05 131358

今の段階では精度良く角度を調整できるような機構はないので、LEDの角度を手で微調整します。そうすると下の画像のように、あれだけズレていた透過範囲の中心を赤線の上、すなわちHα線の中心に持ってくることができてしまいます。
スクリーンショット 2025-10-05 132001

本来ならこの時点で入射光の角度依存性を丁寧に測定すべきなのですが、そのためには光源と分光器をきちんと固定して、角度を正確にずらすことができるような機構が必要になってきます。今はそのようなものはないのと、ちょっと大変そうなので、もしかしたら次は望遠鏡にSHG700を取り付けて、直接太陽を見て測定するとかにするかもしれません。角度調整はBFは無理ですが、エタロンは波長調整のための回転部を回すと角度が変わるはずなので、その関係を見るのも面白いかと思います。これらは今後の課題としたいと思います。

話を戻して、BFの透過特性をHα線を中心に持って来た状態で測ってみました。Hα線の周りを拡大したものになっています。グラフのオレンジの点線がフラウンフォーファー線から求めたHα線の位置になります。以下のようになります。
BF

まずここからわかることは、全然左右対称でないこと、ピーク位置は裾野に比べて中心には位置していないことです。。

ピーク位置での測定された最大透過光を1として、左右の光量が0.5になるところの波長を読み取り、その差から波長幅を読み取ったものがFWHM (Full WIdth Half Maximum) になります。今回は6.2Å程度でした。これは一般的に言われている6Å程度というのにかなり近い値です。


ERF

次は、ERF代わりに使っている7nmの天体撮影用のHαフィルターです。

本来はPSTには、BFで取りこぼして透過してしまう、短波長側と長波長側 (実際にはBFは短波長には漏れていないみたいなので、主に長波長側のみ) をカットするフィルターがあります。直接中を見ると枠にITF (Induced Transmission Filter) と書かれているものです。ところがこのフィルターの透過範囲が広すぎて(ここCoronado Blockfilter BF15 , Filter zum ObjektivによるとFWHMで100nm程度)、今のSHG700では一度に測定することができません。今の私のシステム(SHG700+G3M678M)だと測定範囲は18nm程度なので、端の方まで測ろうとすると10回くらい移動しなくてはいけません。面倒なことと、今回はHαの基準を真ん中に合わせたのを崩したくないこと、実際にもうERFとしてITFは使っていなくて、代わりに天体撮影用のHαフィルターを使っているので、今回はITFは諦めることにしてHαフィルターの方を測定します。

測定したHαフィルターは、手元にあるサイトロン製の透過幅7nmのアメリカンサイズのものです。サイトロンジャパンオリジナルと謳っていて、日本で作っていて、合成石英ガラスを採用しているとのことです。ただ、シュミットの販売ページを見ると現在は「在庫なし」となっているようです。これをPSTのアイピース側に入れて実際に使っています。

測定結果です。
HA

左右対称にはなっていませんが、BFに比べて大きな透過幅なので大きな問題ではないでしょう。こちらも一番透過する値の半分の所の左右の波長を読んで、その差をとってやると6.45nmと出ました。公称の7nmを満たしています。


PST全体の性能評価

今回測定したBFとERF(の代わり)を、さらにこちらも改めて実測したエタロンも合わせて表示してみます。エタロンもBFもHαフィルターも真ん中がちょうどHα線になるように、それぞれLEDライトの光の入射角を調整しています。なので、ここでは中心波長からどれだけずれているかなどの議論はできません。
all_wide

特に、興味のあるHα周りを拡大してみます。
all_narrow

BFの透過の端のところが左右の隣のエタロンのピークに少しかかっていることがわかります。狭い範囲なので、Hαフィルターはほぼフラットになります。

これ以降は平らなHαフィルターは省きます。まず、エタロンとBFのを合わせた透過率がどれくらいになるのか、その積を見てみましょう。
sum_eta_BF

確かにエタロンの隣のピークのところの透過率が少し盛り上がっていますが、5%以下なので大した問題ではなさそうです。

でもここで、さらに実測した太陽のスペクトルをかけたものを示します。
sum_eta_BF_spe

元々太陽の吸収線であるHαの暗いところを見ようとしているのですが、それ以外の波長のところは全然明るいわけです。エタロンの隣のピークのところもHα線からはるかに離れているので、当然明るいです。

それを考慮するとHαの中心波長位置に比べて、隣のピーク位置でそれぞれ15%程度の「明るさ」のピークになります。両側にあるので、合わせて30%程度になるでしょうか。実際の明るさは波長で積分したものになるので、Hα線周りの裾野も大きく、そこまで影響はないかもしれませんが、太陽スペクトルと一緒に考えると、そもそもそのHα周りの裾野の影響も相当大きいということを認識しておくべきでしょう。これらの影響はコントラスト低下につながります。そのため、
  • よりフィネスが高い、狭帯域のエタロン
  • 鏡の間の距離がより長い、FSRの大きいエタロン
  • 狭帯域のBF
などが求められるわけです。

その一方、コントラストの影響は眼視には直結しますが、撮影では一定の明るさの光はオフセットとして差し引くことができるので、影響は眼視ほど大きくはありません。もちろん、明るいということはショットノイズも大きいということなので、ノイズとしての影響は当然でます。

さらに、これは明るさだけの問題ではなくて、以前調べたように波長ごとに像そのものが大きく変わるので、コントラストの問題というよりは、どの波長を見るかという波長域の問題になります。



以前検討してみたメーカーの違うエタロンのダブルスタックは眼視という観点では主にコントラストに効き、撮影という観点では主に波長域に効くと考えると、いずれにせよかなり効果的なのかと思います。


まとめと今後

エタロン、BF、ERFと、やっとPSTの性能の実測ができました。ただし、入射光の角度依存性があることは分かりましたが、きちんとした検証は今後の課題です。

このPSTの透過曲線に、太陽スペクルを掛け合わせると、さらにいろいろ検討できることもわかりました。これまで考えてきたことが少しづつつながって、どんどん謎解きが進みます。アマチュア天文の醍醐味ですね。

さてとりあえずの次の目標ですが、手持ちのナローバンドフィルターをそれぞれ測定してみたいと思っています。せっかく手に入れた測定手段なので、まだまだ続きます。