久しぶりに新機材を手に入れました。太陽を見るためのものですが、鏡筒とかではなく接眼側にくっつける分光器です。かなり楽しそうなので、今回からしばらく太陽分光の記事が続くことになると思います。
6月10日、自宅に帰ったら待ちに待った太陽分光撮影のためのMLastroのSHG700が到着していました。
4月初頭に発注してから、約2ヶ月待ちました。値段は880USDで、日本円にすると税など合わせてほぼ14万円でした。オプションなど何も無しです。これを高いと見るか安いと見るかですが、ほぼPhoenixと同じ価格帯です。Phoenixは太陽望遠鏡の中ではエタロンの性能は抜群ですが、口径的には入門機の部類でかなり安価な方と言えるので、同価格帯のSHG700も決して高くはないのかもしれません。でもこれまで私が太陽関連でかけてきた金額(C8: 3万、PST1台目: 3万、PST2台目: 3万、ASI290MM: 4万、G3M678M: 3万)から見ると、単体で10万越えで、しかもこれまでのメイン太陽機材全部と同等の価格で、私的にはかなり高価な部類になります。実際Phoenixも欲しかったのですが、10万越えを一度に二つも買ったら大ゲンカで家庭崩壊が目に見えているので、散々迷って、今回はより多くのことができそうなSHG700にしました。
太陽の分光
6月10日、自宅に帰ったら待ちに待った太陽分光撮影のためのMLastroのSHG700が到着していました。
4月初頭に発注してから、約2ヶ月待ちました。値段は880USDで、日本円にすると税など合わせてほぼ14万円でした。オプションなど何も無しです。これを高いと見るか安いと見るかですが、ほぼPhoenixと同じ価格帯です。Phoenixは太陽望遠鏡の中ではエタロンの性能は抜群ですが、口径的には入門機の部類でかなり安価な方と言えるので、同価格帯のSHG700も決して高くはないのかもしれません。でもこれまで私が太陽関連でかけてきた金額(C8: 3万、PST1台目: 3万、PST2台目: 3万、ASI290MM: 4万、G3M678M: 3万)から見ると、単体で10万越えで、しかもこれまでのメイン太陽機材全部と同等の価格で、私的にはかなり高価な部類になります。実際Phoenixも欲しかったのですが、10万越えを一度に二つも買ったら大ゲンカで家庭崩壊が目に見えているので、散々迷って、今回はより多くのことができそうなSHG700にしました。
It was developed independently by George Ellery Hale and Henri-Alexandre Deslandres in the 1890s.
とあります。さらに日本語でもう少し詳しい文書がここにあり、これによるとアイデアとしては1868頃に考え出され、1890年頃に発展したということです。アイデアから150年以上経った現在、アマチュア天文家が市販品レベルで普通に、しかもはるかに精度良く試せるようになっているというわけです。素晴らしい時代ですね。
Sol'Exについて
アマチュア用の太陽分光で近年の大きな出来事といえば、Shelyak INSTRUMENTSのSol’Exでしょう。
3Dプリンタで各ユーザーが印刷することを前提に図面を提供し、光学部品をまとめて販売してくれています。
日本で話題になったのは2022年の夏くらいでしょうか?プロジェクトとしてはAstrosurfに2021年の資料があるのは確認できましたが、おそらくそれ以前から議論されていたのかと思います。見つけた中で一番古い関連ページはここで2020年12月でした。
Sol'Exについては、海外記事にはたくさん解説があります。わかりやすいのはやはりAstrosurfのページでしょうか。特にここのTheoryとかResoursesのところは読んでおいて損はないです。日本語だとKanzakiさんのページが詳しいです。星仲間だと木人さんが2022年から始められていて、確か福島の星まつりで講演されていたはずです。
いずれにせよ、アマチュア天文において、誰でも市販レベルで太陽分光撮影を試せるようにしたSol’Exが、大きな潮流を産んだことは間違いないでしょう。特にソフト関連は、Sol'Exコミュニティーで発達した「JSol'Ex」というものを今回のSHG700でも使うようです。
Sol'Ex自身も開発を続けていて、その後Sol'Ex Proというのが出ていたり(これは本体印刷済みのものを売っているということなのでしょうか?フランス語なのでわからなかったです)、スリットをGEN2として7μmのものを提供するなど、バージョンアップしているようです。
なぜSHG700?
少し時を戻します。CP+でPhoenixに触れて太陽熱が再開してから、海外も含めて太陽関連を調べていると、太陽全景のものすごい画像がいくつもアップされていました。
そこで何度か見たSHG700の名前。なんだろうと調べていくと、どうやらエタロンではなく分光で撮影しているらしいのです。分光撮影はSol'Exの印象が強かったので、空間的な分解能はそこまで出ないのではという印象がありました。SHG700で撮影したという画像は、分解能不足を払拭させてくれる印象で、かなりの高解像度の画像がユーザーレベルの報告みたいな形でいくつも出ています。しかも少し調べていくと、今までエタロンの制限で出来なくて悩んでいたことが相当解決できそうです。例えば、Hαの波長幅がエタロンよりも遥かに小さく、太陽の自転の左右の速度差から出るドップラーシフトとかも見えるそうです。Phoenixで自転のドップラーシフトが見えないか、以前計算したことがあるのですが、Phoenixの0.5Å以下という鋭い半値幅でもまだ一桁くらい足りないようで、全然諦めていました。
今回のSHG700ではMLastroのページによると、0.06-0.1Åが楽に出るそうです。(その後きちんと見積もると、手持ちの機材では0.18オングストローム程度になるようです。でもそれでも十分すごいです。)一般的な太陽望遠鏡についているエタロンから考えたら、相当いい波長分解能です。市販の太陽望遠鏡で、シングルエタロンとしてはかなり性能のいい部類の0.5ÅのPhoenixから見ても十分細かいです。しかもそれが決められた波長だけではなく、300nm後半から900nmを切るくらいまで広い範囲にわたって同じ分解能で見えるとのことです。CaK線などの特殊機材を持っていなければ見えなかった波長も当然見えるので、とても楽しみです。
その一方、空間分解能はそこまでいかなくて、アップされている画像を見ているとSHG700を口径8cmクラスで焦点距離600−700mmの鏡筒に取り付けて使ったとしても、Phoenixの口径4cm、焦点距離400mmと同じくらいか、少し勝てるくらいでしょうか。しかも、1枚の画像を出すのにかなり手間はかかりそうなので、達成できる空間分解のうが同じくらいだとすると、波長での有利さのSHG700をとるか、簡単さのPhoenixを取るかと言ったところでしょうか。SHG700はPhoenixと同様に、基本的には太陽全景を見るためのもののようで、いつもC8+PSTでやっているような、長焦点鏡筒を使って細部を見るという目的には適していないようです。
SHG700は、初代普及器とも言えるSol'Exよりはかなり精度が上がっていて、普及2世代目といっていいような仕様になっています。例えば、可動部の調整機構にマイクロメーターを3箇所取り付けています。その精度がどれくらい効くのかはこれから確かめていこうと思いますが、必要な所に必要な精度を持ってきたということなのかと思います。また、マイクロメーターは精度もそうですが、位置の再現性もあるので、バックラッシュなどもあるかと思いますが、再現性の高い撮影ができそうです。
もう一つの特徴はスリットでしょう。Sol'Exのスリットは元々幅10μm、長さ6mmから始まって、現在はGEN2と呼んでいる幅7 μmと10μmの2ポジション、長さ6mmが標準となっているようです。スリット幅は狭いほど空間分解能が増し、スリット長が長いほど長焦点の鏡筒を使うことができます。口径にもよりますが、基本的には長焦点の鏡筒の方が空間分解能が増します。SHG700では最初から幅7μm、長さ7mmが標準で、長さ10mmのものも検討されているようです。また、SHG700では合成石英タイプのスリットを利用しているために、熱膨張しにくく、より集光した光を当てても歪んだり壊れたりしないということです。このことは鏡筒の口径や焦点距離を大きくすることに一役勝っているようです。Sol'Exのスリットの素材も改良されてきているようですが、あくまで膨張係数の小さいガラスという表現にとどまっているようです。
一方、内蔵されている2つのコリメーターレンズとカメラレンズはSHG700のものは共に焦点距離72mmで、Sol'Ex標準のコリメーターレンズの125mm、カメラレンズの80mmと比べると、特にコリメーター側はかなり短いので、波長分解能的に多少不利になるようです。ただし、使用鏡筒の口径にも依存するので、一概にどちらが有利かは単純には言えず、鏡筒とカメラも含めた全体設計として各パラメータを考える必要があります。
最新のSol'Exで撮影した画像はかなり細かいものもアップされていて、個人的な感想としてはトータルではSHG700の方が少し勝るくらいの印象でしょうか。最高画質だけで比べたら、かなり拮抗していると思います。ただ、Sol'Exを使っている人に話を聞くと、やはり「難しい」と。何が難しいかというと、調整があまりうまくできないことと、頑張って調整してももなかなか解像しないところみたいです。それでだんだんやる気がなくなってしまうようです。SHG700でマイクロメーターを使う利点は、精度そのものよりも、むしろ調整の簡単さを狙ったものなのかもしれません。その結果として、高解像度の画像が安定してアップされているような印象です。
開封
今回の注文ではオプションなど何もつけなかったので、下の写真のようにパッケージは至ってシンプルです。これに検査成績書が1枚入っていただけです。
- 太陽だけに使うのではなく、星を分光するためのオプション部品もありましたが、今回は見送りました。でもこちらも楽しそうなので、欲しくなったら注文するかもしれません。
- カメラを差し込むためのアイピース口へと変換するアダプターが、発注時のオプションでありますが、一緒に注文しておいてもいいかもしれません。私は手持ちがあったので、注文しませんでした。
- 同様に鏡筒への取り付けとして、2インチアダプター口へ差し込むためのノーズアダプターがオプションであります。今回は1.25インチで接続するために手持ちのノーズアダプターを使いましたが、2インチの方が接続が強固になりそうなので、買っておいた方がいいかもしれません。その場合当然ですが、鏡筒の方が2インチアイピースに対応している必要があります。
- 他にも、MLastroのオススメのカメラとしてG3M678Mがオプションにありますが、AliExpressで探すとそちらの方が安かったのと到着も早そうなので、今回は一緒に頼むのはやめました。
送られてきた時、箱の長手方向の角の一辺が少し凹んでいましたが、中身には何の問題もありませんでした。初期の頃はネジが緩んでいるというクレームがあったようですが、今は改善されているそうで、少なくとも到着した本体にそのような緩みはありませんでした。
製作はベトナムでしているらしくて、ハノイからの出荷となっていました。香港を経由して大阪で輸入手続き、その後富山の自宅までという経路だったようです。出荷の連絡はMLastroから直接メールでトラックナンバー付きでくるので、その時その時にどこにあるのかがわかります。楽しみで何度も見ていたら、途中アクセス制限されてしまいました(笑)。ハノイ出荷から自宅到着までちょうど一週間でした。
- 重さはMLastroによると1.2kgとのことです。筐体はアルミニウム製。金属なので強度的には十分で、アルミなのでそこまで重くもなく、鏡筒に取り付けてもそこまで撓むことはなさそうです。
- 外観で目立つのは3つのマイクロメーターでしょう。鏡筒側と、回折格子の回転はとりあえず触らなくていいそうなので、そのままにしておきます。後述しますが、カメラ側はピントを出すためにすぐに結構な量を触る必要がありました。
組み立て
基本的に本体は出来上がった状態で、しかも調整された状態で到着するので、組み立てといっても大したことはなにもないです。とりあえず必要なアダプターなどをいくつかつけていきます。
- 鏡筒側にはT2(M42-P0.75)の雌ネジが切ってあって、しっかりたとした金属の蓋がねじ込み式でついています。この蓋を回して外して、代わりにCMOSカメラに付属していたT2(M42)-1.25インチのノーズアダプターを取り付けます。重要部品のスリットが付いている側なので、埃などが入らないように、普段は別途キャップをしておきます。
- カメラ側にもT2の雄ネジが切ってあって、こちらも金属の蓋が付いています。蓋を回して外して、手持ちの1.25インチアダプターに変換するアダプターをつけます。このアダプターはたまたまアイピース側に別途T2の雄ネジが外周に切ってあったので、カメラを取り付けない時には、付属の金属蓋をそのまま取り付けることができます。
- 本体底面部にはアルカスイス互換のプレートを取り付けました。これは最初に鏡筒なしで調整するためにカメラ三脚に簡単に取り付けるためです。ただし、本体側のネジ穴がかなり浅くてこの手のアダプターについている、手で締められるタイプの1/4インチネジだと微妙に長くて奥まで入っていきませんでした。仕方ないので、ネジを一旦プレートから外して、間にM6のワッシャーをかましました。
ピント合わせ
初期調整のために、本体をカメラ三脚に取り付け、太陽光を取り入れます。この時点ではまだ鏡筒をつなぐ必要はなく、しかも晴れていなくてもかまいません。実際、雨の日に部屋の中で、鏡筒取り付け口を窓の外に向けて試しました。
カメラはわざわざこのために新調した、MLastroオススメののG3M678Mです。手持ちのカメラでも使えないか色々考えましたが、多分これが性能的にも値段的にも一番有利です。AliExpressで探すと、安いものが見つかります。SHG700発注と同じくらいの時に別途発注して先に到着していたので、これまでのブログ記事にもあるように、すでに太陽撮影で使ってきました。
このカメラを使う利点は、ピクセルサイズが2μmとかなり小さい方なので、高分解能で撮影できることです。分光撮影ではセンサーの長手方向を利用して使うことになりますが、スリット長の7mmに丁度長さの横手方向になっているはずです。
カメラを最初に取り付けて調整するときに、カメラのピントが意外に出にくい場合があるので注意です。わたしはアイピース口に変換するアダプターに、手持ちのものを使いましたが、おそらくMLastroが想定しているアダプターよりも若干長いものなのかと思います。そのため、カメラを一番奥まで突っ込んでも、初期マイクロメーター位置の5mmの所ではピントが全然出ませんでした。もっとカメラを押し込む方向でピントが合うようです。でもピントがずれていると、線も何も見えないので手がかりが全くありません。マイクロメータを触ればいいのですが、チュートリアルには「初期位置からあまり触るな」と言っているので、ちょっとビビってました。結局、マイクロメーターで10回転、約5mmくらい伸ばして、10mmくらいの位置でやっとピントが出ました。マイクロメーターで5mmは結構な量に感じるので、最初は勇気が必要でした。でもその後、別のチュートリアルビデオを見ていたら、マイクロメーターで10mmくらいの位置でピントが出るはずだとか言っています。最初からそれくらいの位置に合わせておいてくれたらと思いました。
ファーストライトとフラウンフォーファー線
さて、ここでファーストライトになりますでしょうか。
ピントが合うと、SharpCapの画面上にとうとうフラウンフォーファー線が見えてきます。今回は1秒露光でゲインが3200(=32倍、=ZWOの300に相当、=30dB)で、ヒストグラムでストレッチしたら十分見えました。
いやー、これはすごい!
自分で撮って、ここまで綺麗に見えるとは。
ものすごい細かい線まで見えていますSHG700の標準のスリット長が7mmですが、画面を見る限りこれでG3M678Mの横幅をフル近くで使っているように見えます。これ以上長いスリットを見つけたとしても、カメラから変更しなければならないので、現時点で最もパフォーマンスが出る上手い組み合わせを考えてくれていると言えます。しかもカメラセンサーを大きくすると、ピクセルサイズが今の2μmよりも大きくなる可能性の方が高いので、その場合スリット長を伸ばす効果を相殺してしまいます。もし今後拡張する場合は、かなり考えて一気にやる必要がありそうです。
この撮影した画像ですが、そもそのどの波長なのか、どれくらいの範囲を写しているのか、どれくらいの分解脳があるのか、この時点では全くわかっていませんでした。SHG700本体の回折格子の回転調整のところを見てみると、初期位置でHαを指しているので、おそらくHα線が画面上下の真ん中近くにあるはずです。とすると、真ん中少し上の太い暗い線がHαなのでしょうか。
少しだけ調べてみると、CNにあったSol'Exで撮影したHα周りの画像と比較することで、どれくらいの範囲が取れているのか判明しました。線の模様が同じようになっていて、主要な波長を数値で示してくれています。その結果、
- 真ん中少し上にある太暗い線はやはりHαで656.28nm。
- 上1/5くらいにある次に暗い線はFe IIで651.61nm。
- 別途保存した画像から測定すると、この2つの輝線の間が506ピクセルだったので、分解能は実測で、0.923Å/pixel程度です。
- 今回撮ったものは上から下までで18nmくらいの幅を見ているのかと思います。
露光時間を増やしてスタックしたら、ノイズに埋もれている淡い輝線ももう少し見えるはずです。次の日10秒露光で30フレームをスタックして、合計300秒で見てみました。
拡大してみてもらえるとわかりますが、相当細かい線まで写っています。更にHα周りを拡大してみます。

このページの図と比較してみるとわかりますが、上の拡大写真の縦軸の範囲は、リンク先の左下の図で見えている範囲の3倍くらいに相当します。リンク先の図では、Hαより短い波長に2本、長い波長に1本落ち込みがありますが、上の画像ではそれらの線を含めてさらに淡い(細い)線も見えていることがわかります。
まとめ
とうとう太陽分光が指導しました。フラウンフォーファー線でももう大興奮です。今、やりたいことリストを作っていますが、かなり楽しそうです。
最近はもう真夏のような暑さなので、熱中症とかに気をつけながら撮影など進めていきたいと思います。
最近はもう真夏のような暑さなので、熱中症とかに気をつけながら撮影など進めていきたいと思います。
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