先日、M106の記事をアップしましたが、記事を書き終えてから画像処理にアラがかなりあることに気づき、改めて再処理をしました。



でもこの再処理過程、苦労の連続で思ったより時間がかかりました。以下にまとめましたが、実際にはこんなにすんなりとはいっていなくて、いろんな回り道をしてある程度見通しがついたものだけを列挙しています。


問題点

問題点は以下の通りです。問題の大きさの順に、
  1. 周辺部のディスクの淡いところがノイジーで、解像度がイマイチです。改めて完成画像とマスターL画像と比べてみると、淡いところ、特に微恒星が相当欠落していることが判明しました。
  2. 明るい恒星がひしゃげていることに気づきました。
  3. 銀河中心が飛んでしまっていることに気づきました。
  4. 光条線が全然キリッとしていません。もしかしたら、微妙な画像の回転が影響しているのでしょうか?
などです。

色々調べていくと、ある程度原因と解決策が見えてきました。とりあえず簡単なところから順に行きます。


3. 銀河中心の飛び

問題3はBXTの弊害と結論づけました。

原因は、リニア画像の段階でBXTをかけていたため、銀河中心を強度に強調してしまい、その結果中心部のみ飛んでしまっていたようです。

解決策は、ストレッチ後の画像にBXTを適用することで解決しました。左がBXT->MaskedStrerchの順で、右がMaskedStrerch->BXTの順です。

comp

なんでこんなことに気づかなかったかというと、下がBXT適用後にPI上でSTFで見かけ上のオートストレッチをした画像なんですが、これだと周りも飽和気味で中心部だけ飛んでしまっているのは判別できないからです。
02_BXT_STF_Image05_ABE_DBE_SPCC_DBE_clone_Preview031

ちなみにオートストレッチしないとこんなふうです。左がBXTする前で、右がBXTをかけたあとです。これならすぐにわかるんですが、普段はSTFをかけた画像しか見ないので、気づくことができませんでした。
comp2


4. 光条線のシャープさ

問題4は撮影中にカメラが開店してしまった可能性があるので、L画像をプレートソルブにかけて調べてみました。プレートソルブは回転角まで出るので、ずれがあった場合に比較することでわかります。

L画像は1日目と4日目にのみ撮影しています。結果は、1日目のL画像がが90.50度で、4日目のL画像が86.13度と、なんと4度以上回転していました。1日目は29枚、4日目は51枚撮影していて、4日目の方が撮影枚数は多いので、少し惜しいですが1日目の分を丸々捨てるとことにしました。さらに4日目の人工衛星の軌跡がひどいものを5枚省いて、46枚でスタックしました。

まずは光条線の評価です。左が1日目と4日目を合わせた80枚、右が4日目だけの46枚です。そこまで大きくは変わりませんが、よく見ると確かに46枚だけの方が光条線は多少鋭くなっているように見えます。でも、正直もう少し鋭くなることを期待していました。-> (追記): 最後まで仕上げたら、明らかな違いになりました。1日目を捨てて正解でした。

comp_original

SCA260の分解能を少し疑ったのですが、例えばこの記事の画像を見る限り
  • 明るい星の光条線は十分に鋭く出ていていること、
  • 中途半端な明るさの星の光条線はそこまで鋭くないこと
などがわかるため、とりあえずは今回撮影した程度の鋭さが標準だと思うことにします。


もう少しL画像を評価

このL画像の枚数の違いですが、問題2に関しても議論することができそうなので、もう少し検証します。上の左右の画像をよく見比べると、微恒星に関してはやはり枚数の多い左側の方が明らかに暗い星まで写っていることがわかります。

ではこの画像にそれぞれBXTをかけてみます。同じく、左が1日目と4日目を合わせた80枚、右が4日目だけの46枚です。

comp_BXT


2つのことがわかります。
  1. 1日目に撮影した画像が加わると、明るい恒星の場合、中心部分が右に寄ってしまい、左にハロのようなものが残る結果になってしまいます。
  2. BXTによる恒星の縮小ですが、(微恒星がより出ていないはずの)右の方の画像の方が、左の画像と比べて、より多くの恒星に適用されていることがわかります。
まず1の原因ですが、元の1枚1枚の撮影画像を見てみると、明らかに星像が縦長になっていることに気づきました。1日目から4日目を全部比べてみると、日が変わっても出ていること、画像の中の位置によらず、常に縦が長くなるような方向に出ています。上の右の画像は問題ないように見えても所詮程度問題で、彩度を出すとかしていくと結局目立つようになります。撮影時の問題であることは明らかで、鏡筒の光軸ずれ、カメラ側のスケアリングのずれ、赤道儀での縦揺れなどが考えられます。前回撮影のM81の時の画像を見直してみても、こんな現象は出ていないようなので、おそらく1月から3月の間に光軸のずれが起こった可能性が高いのかと思います。ただし、波長によって出る出ないが違い、縦長がひどい順にG>L>R>B>>Aとなっているのは、まだ少し解せないところです。とりあえず今回はこの縦長星像、画像処理でなんとかごまかしますが、まずは次回鏡筒の光軸を見直すことにします。

次の2ですが、これは結構面白いです。BXTで恒星をdeconvolutionするためには、恒星をきちんと恒星として認識してもらわなくてはダメなのですが、左の画像は恒星であるのに恒星と認識されていないものが多いのです。何故かは元画像を見比べてみるとよくわかりました。 おそらくシンチレーションの違いで、1日目の画像は星像が大きく、4日目の画像は星像が明らかに小さいのです。動きの多い1日目の画像が混ざったことで点像とは見なされなくなってしまい、恒星と認識されなくなったのではと思われます。日が変わった場合の撮影では、このような違いにも気をつける必要があることがよくわかります。

いずれにせよ、BXTはかなり暗い最微恒星については恒星と認識するのは困難で、deconvolutionも適用できないようです。そうすると逆転現象が起きてしまうことも考えられ、より暗い星の方がそれより明るい星よりも(暗いけれど)大きくなってしまうなどの弊害も考えられます。

考えるべきは、この問題を許容するかどうかです。

この逆転現象とかはかなり拡大してみないとわからないこと、収差の補正や星雲部の分解出しや明るい恒星のシャープ化など現段階ではBXTを使う方のメリットがかなり大きいことから、今のところは私はこの問題を許容して、BXTを使う方向で進めたいと思います。シンチレーションの良い日を選ぶなどでもっとシャープに撮影できるならこの問題は緩和されるはずであること、将来はこういった問題もソフト的に解決される可能性があることなども含んでの判断です。


1. 淡い部分、特に微恒星が全然出ていない

問題1が1番の難問です。そもそも何故LRGB合成なのに、L画像相当の解像度が出ないのかという問題です。

これが撮影してスタックしたL画像: 
L

一方、これがRGB画像から引き出したL画像:
RGB_Lab_L

2枚を比較すると、当然撮影したL画像の方が圧倒的に情報量が多いわけです。

で、これが前回記事でアップした画像のPhotoshopに引き渡す前くらいの画像です。これが上の2枚のどちらに近かったというと、あからさまに後者のRGBから引き出したL画像の方に近いのです。
Image05_ABE_DBE_SPCC_DBE_BXT_MS

なんでこんなことが起きてしまったか、よく考えます。まず今回の撮影はRGBの撮影枚数がそれぞれ10枚程度と、L画像の(1日目、4日目合わせた)76枚と比べてかなり少ないです。こんな場合は、PixInsightでLRGB合成をする際に、LとRGBををどのような比率で合成するかをよく考えなくてはダメだったのです。

前回のLRGB合成でやったことは、L:R:G:Bを1:1:1:1の割合で混ぜたことでした。いや、これさえも本当に実現できているのかよく判りません。実施際にはLRGB合成の際に、L、R、G、Bそれぞれの画像を一度にチャンネルウェイトを0.25:0.25:0.25:0.25で合計1になるように合成しています。合計1にするのはサチるのを避けるためですが、どうもこのチャンネルウェイトは比だけを見るみたいで、絶対的な明るさは変わらないようです。例えば、R、G、Bを0.025:0.025:0.025として一桁落として合成しても、暗くなったりしません。絶対的な明るさは下のLightnessで決まるようです。1より小さくすると合成後が明るくなります。

さて、今回撮影したL画像のS/NはRGBに比べて遥かに高いので、Lの比率を大きくした方が得なはずです。試しにL:R:G:B=0.5:0.25:0.25:0.25で合成すると細部が表現され始め、L:R:G:B=1:0.25:0.25:0.25とするとさらに分解能が上がることがわかりました。その一方、Lの比率が大きくなるので、当然合成直後の画像は色がほとんど出ていなくて、かなりモノクロに近い画像になっていきます。それでも、その後に画像処理を進めていくと彩度を出すことはできるので、色情報がなくなっているわけではないようです。ただしRGBのS/Nが悪いので、色を出していくとどうしもノイジーになってしまうようです。

問題は数値の調整はできるものの、どのような比率でLとRGBを混ぜればいいのか結局のところよくわからないということです。そもそも、RGB画像をLab空間で考えると、単にLを取り替えることをすればいいはずです。それで彩度は保たれ、シャープさは良くなるはずなんです。

それならばいっそのこと、本当にRGBをLabに変換して、Lのみを入れ替えるという操作をしてやった方がいいのではと考えました。その結果が以下になります。
Image141_2

この方向は結構正しいようで、少なくとも細部は十分に出ています。また、Lab合成を使うという考えに基づくと、SPCCは合成前のRGBの時点でやった方がいいという考えに行き着きます。Lの明るさは調整可能なので、元のRGBとは彩度がずれる可能性があるからです。

さてこのLab分解とLab合成でLだけ変える方法、一見うまくいっているようですがまだ問題があって、試しに明るい恒星を見てやると以下のように緑や青が目立つようになってしまいます。

Image141_clone_Preview01_autostretch

これを回避するために色々試してみたのですが、どうやらL画像の明るさがab画像より暗い場合に起こるようです。そのためLab合成の時にL画像を少し明るくして合成します。すると以下のように、変な色が飛び出るようなこともなくなります。

Image230

一見モノクロに見えますが、色はきちんと隠れていて、試しにCurvesTransformationなどで彩度を上げると以下のように色が出てきます。
Image230_CTx5

ところが、ここでまた問題です。このように彩度を出していくと、再び緑飛びが出てきてしまうのです。
Image230_CTx5_cut

結局のところ、Lab合成でどうあがこうとしても、元の画像が悪い状態で彩度を出したら同じことの繰り返しで、変な色飛びはどうしても出てしまうということがやっと理解できました。

それで結局何をやったかというと、Lab合成する際に色情報であるaとbをぼかしてから合成することです。ここら辺はそーなのかーさんのこのページを参考にさせていただきました。


今回はConvolutionでStdDevを5として3回かけ、明るい恒星の色バランスの崩れがなくなるくらいまで、かなりぼかしました。少なくともこれで緑の形がおかしくなるようなことは避けることができました。ただし、ぼかしのバランスがaとbでどうしてもずれてしまい、恒星周りに均等にリング状の緑の輪がかかってしまったので、SCNRでProtction MethodをMinimumNeutralに、Amountを0.5にしてかけて緑を除きました。この時点でやっとBXTをかけます。結果は以下のようになりました。

Image249_a_conv5x3_bconv5x3_Lab_CTx3_SCNR_HT_SCNR_BXT

色情報を相当ぼかしたわけですが、人間の目の色情報の分解能はかなり弱いと指摘されていて、実際に色が出ていないように見えることはほとんどありません。

これでやっと満足です。この後はPhotoshopに引き渡しますが、Hαジェットを除き、もうすでにかなり仕上がり状態に近いです。


やっと仕上げまできたー!

Photoshopはもうノンリニア編集なので、好きなように仕上げます。主には彩度出しでしょうか。Hα合成も2度目なので、少し余裕が出てきました。結果が下の画像になります。まずはジェットがよく見えるように銀河をアップで。

Image249_a_conv5x3_bconv5x3_Lab_CTx3_SCNR_HT_SCNR_BXT_bg4_cut_s

次に全体像です。


「M106」
Image249_a_conv5x3_bconv5x3_Lab_CTx3_SCNR_HT_SCNR_BXT_bg4_cut

  • 撮影日: 2023年3月19日20時48分-20日4時9分、20日19時25分-23時19分、28日19時51分-29日4時38分、
  • 撮影場所: 富山県富山市自宅
  • 鏡筒: SHARP STAR製 SCA260(f1300mm)
  • フィルター: Baader RGBHα
  • 赤道儀: Celestron CGX-L
  • カメラ: ZWO ASI294MM Pro (-10℃)
  • ガイド:  f120mmガイド鏡 + ASI290MM、PHD2によるマルチスターガイドでディザリング
  • 撮影: NINA、Gain 120、露光時間5分、L:80枚、R:10枚、G:10枚、B:14枚、Hα:44枚の計158枚で総露光時間13時間10分
  • Dark: Gain 120、露光時間5分、温度-10℃、32枚
  • Flat, Darkflat: Gain120、露光時間 L:0.001秒、128枚、RGB:0.01秒、128枚、Hα:20秒、17枚(dark flatは32枚)
  • 画像処理: PixInsight、Photoshop CC


最初に挙げた問題点順に評価していくと、
  1. 銀河の淡いディスク部分の分解能はかなり出ました。
  2. 恒星のおかしな形もほぼ無くなっています。
  3. 銀河中心部の不自然さももうありません。
  4. 光条線も明らかに鋭くなりました。
と、こちらもほぼ満足です。

加えて、ジェットをもう少し派手にしてみました。自宅でここまで出れば上出来かと思います。というか、すでにちょっと炙り出し気味で、今の手持ちのHαだとこれくらいが限界かと思います。

最後は恒例のAnnotationです。
Image249_a_conv5x3_bconv5x3_Lab_CTx3_SCNR_HT_SCNR_BXT_bg2_cut_A

 

まとめ

時間はかかりましたが、再処理を突き詰めていってよかったです。あからさまに良くなったことと、じっくり付き合ったことで次回以降にどうすればいいか、かなり得るものがありました。自宅撮影の結果としては、ある程度情報を引き出しきれた気はしていて、かなり満足しています。

そもそも撮影に問題はありましたが、いつも完全ということは当然ないので、画像処理でのリカバリも含めていつもこれくらい時間をかけないとダメなんだということが、今回とても実感できました。実を言うと、特に恒星ですが、もう諦めようと何度思ったことか。

今回の方法は真っ当なものではないのは重々自覚していますが、撮影はいつもうまくいくとは限らなくて、せっかく時間をかけた画像をできるだけ使ってあげたいので、手持ちの手法としては持っておいてもいいかと思いました。というより、画像処理は一辺倒にはなかなかいかないもので、撮影画像に応じて臨機応変に対応することが大切なのではないかと、改めて感じました。