前回記事のゴースト星雲の処理の続きです。




前回はSPCCまでで、モノクロ撮影でBaaderフィルターを選んだらうまく補正ができたという話でした。今回は主にBlurXTerminatorについて試してみて、ゴースト星雲を仕上げています。


BlurXTerminator 

今回はBlurXTerminator (以下BXT)と呼ばれるdeconvolutionソフトを処理してみます。このソフトはRussell Croman氏が独自に書いているもので、氏が書いているいくつかのソフトの最新のものです。特に2021年から機械学習を取り入れたXTerminatorシリーズはノイズ除去のためのNoiseXTerminator (NXT)、スターレス画像を作るStarXTerminator (SXT)といずれも大きな話題となっています。

ノイズ除去ソフトは他にも実用レベルのものがいくつもあるのと、スターレス画像についてはStarNet V2が無料でかなり性能がいいので、私はこれまで氏のソフトは使ってきませんでした。それでも今回のBXTは分解能が信じられないほどに向上するようです。

私自身がdeconvolutionが苦手で、これまでも実際に作例にまで適用したのは数例。大抵は試してもあまり効果がなかったり、リンギングが出たりで、よほどうまくいった場合でないと適用してきませんでした。deconvolutionはどうしても時間を費やしてしまうので、画像処理の中でも大きな鬼門の一つでした。

BXTは、マニュアルとかに書いてあるわけではないようなのですが、基本的にはリニア画像のL画像のみに使うべきだという噂です。とりあえずまずはスタック直後のL画像で検証してみます。パラメータは基本的に2つだけで、
  1. 星像をどこまで小さくするかと、
  2. 分解能をどこまで出すか
だけです。

星像の補正

パラメータは上記の2つだけですが、BXTで「Correct」と呼ばれている、あまり注目されていな星像補正の効果があります。これだけでもかなりすごいので、まずはそこに注目してみたいと思います。

この機能はBXTを走らせるとデフォルトで適用される機能です。ですがこの機能の凄さを確かめるために「Correct Only」オプションをオンにして、この機能だけを試してみます。星像を小さくしたりとか、星雲の分解能を上げるといいった効果を適用「しない」、ある意味BXTのベースとなるような機能です。

マニュアルを読むと以下のものを補正できるそうです。
  • limited amounts of motion blur (guiding errors)
  • astigmatism
  • primary and secondary coma
  • unequal FWHM in color channels
  • slight chromatic aberration
  • asymmetric star halos.
とあります。日本語に意訳すると、
  • ある程度のブレ(ガイドエラー)
  • 非点収差
  • 1、2次のコマ収差
  • 各色のFWHM (星像の大きさ) の違い
  • 多少の色収差
  • 非対称なハロ
となります。どうやらものすごい威力のようです。マニュアルにはさらに「画像位置によってそれぞれローカルなPSFを適用する」ということで、たとえば四隅ごとに星像の流れが違っていてもそれぞれの流れに応じて補正してくれるようです。こんなソフトは私の知る限りこれまでなかったはずで、もし本当ならすごいことです。

試しにスタック後のL画像でオリジナルの画像とCorrect onlyだけで試した結果を比較して、四隅をGIFアニメにしてみました。
masterLight_BIN_2_4144x2822_EXPOSURE_300_00s_FILTER_L

自分的には四隅とも十分真円に見えていたので、全然問題ないと思っていました。でもBXTは躊躇することなくおかしいと認識しているようで、正しく直してくれているようです。左下は星像の大きさが少し小さくなるくらいでままだましですが、左上の画像は少し下方向に、右上の画像は大きく左下方向に、右下の画像は大きく左方向にずれていたことがわかります。本当に正しく直しているかどうかは今の段階では不明ですが、少なくとも見た目は正しい方向に直しくれているようです。効果が分かりにくいという方は、できるだけ画面を拡大して見てみてください。

この結果はすごいです。実際の撮影が完璧にできることはほとんど無理で、何らかの不具合がある方がごくごく普通です。これらのことが画像処理で補正できるなら、安価な機材が高価な機材に迫ることができるかもしれませんし、なにより撮影時のミスなどで無駄にしたと思われる時間を救い出せるかもしれません。はっきり言って、この機能だけでも購入する価値があると思います。

また、BXTはL画像のみに適用した方がいいとも言われていますが、マニュアルによると各色の星像の大きさの違いも補正できるということなので、BXTをカラー画像に適用することも可能かと思われます。


恒星の縮小

上記補正はBXTでデフォルトで適用される機能。さらにすごい機能が続きます。BXTの適用例を見ていると、普通は星雲部の構造を出すのに期待すると思うのですが、私はdeconvolutionの原理といってもいい星像を小さくする効果にとんでもなく驚かされました。まずは背景の効果をオフにして、星像改善のみSharpen Starsが0.25、Adust Star Halosが-0.25として、適用してみます。

Original:
orignal

BXT (恒星の縮小のみ):
staronly

まだ小さくすることもでき不自然になることもほとんどないですが、とりあえず今回はほどほどにしておきます。特に左下の明るい星に注目してもらえるとよくわかるかと思いますが、近づいていていあまり分離できていない2つの星がはっきりと分離されます。パラメータによってはハロの処理が少し不自然に見えたりもしますが、自分で頑張ってやった場合より遥かにましなハロになっているので、全然許容範囲です。

これもすごい効果ですね。星像を小さくするのはいつも相当苦労するのですが、リンギングなどもほとんど出ることがなく、このソフトが決定版の気がしています。ぜひともM57の分解能ベンチマークに使ってみたいです。


背景の分解能出し

やっとBXTの一番の目玉の背景の構造を出す機能です。今回はゴースト星雲のバンザイしている手のところなどを見ながらパラメータを攻めていきました。結局のところ、構造を出すSharpen Nonstellerはかなり大きな値にしないとほとんど効果は見えなかったのでデフォルトの0.9のまま、それよりもPSFをマニュアルで設定することで効果が大きく変わることがわかりました。興味があるところをpreviewで表示して効果を見ながら値を決めればいいと思いますが、今回は最終的にPSF Diameterを0.75、Sharpen Nonstellerを0.90にしました。

結果としては以下のような違いとなりました。

Original:
orignal

BTX(恒星の縮小と背景の分解能出し):
BXT_all

あまり効果があるように見えていませんが、これ以上分解能を出すと、ゴースト君が崩れてきてしまいました。かなり拡大して見ているのですが、ここまで拡大してみることをしないなら、もっと大きな構造を見ながら細部を調整するという手もあるかと思います。


その後の画像処理

でもですね、結局L画像にBXTを適用するのは止めました。じゃあどうしたかというと、スタック後RGB合成した後、そのままL画像とLRGB合成をして、その後にSPCC、CTで色出し、その後にやっとBXTを適用しました。

理由は、L画像のみに適用するよりもLRGB画像に適用する方が、特に細部出しのところでノイズに負けずにゴースト部分が出たというのが大きいです。

カラー画像に適用した場合でも、懸念していた恒星の色ズレもなかったです。今回は色々やって最後この順序になりましたが、この順序が正しいかどうかもまだよく分かっていません。BXTはパラメータこそ少ないですが、他のプロセスとの組み合わせで、順序なども考えたら無限の組み合わせがあり、ものすごく奥の深いソフトなのかと思います。

その際、BXTのついでに、NoiseXTerminator(NXT)も使ってみました。もちろんノイズ除去の効果があったのはいうまでもないのですが、その結果大きく変わったことがありました。PixInsightの使用する割合が多くなり、これまでストレッチ後のほとんどの処理を担っていたPhotoshopの割合が相当減って、処理の大方針が大きく変わったのです。具体的にはdeconvolutionが楽になったこと、そのため恒星の処理が楽になったこと、ノイズ処理もPixInsightでNXTで動くことが大きいです。不確定要素を少なくするという意味でも、PIの処理を増やすのは多分真っ当な方向で、以前から考えていてできる限りの処理をPIのみで済ませたいという思いがやっと実現できつつある気がします。

あともう一つ、PIのWBPPでいつものようにLocal Normarizationをオンにしおいたのですが、どうやらこれが悪さをしていたようでした。RGBでそれぞれの背景の大構造でズレが起きてしまったようで、背景に大きな色むらができてしまいました。ABEのせいかとも思い色々探っていって、やっと最後にLNが原因だと突き止めるに至りました。明るい光害地で、かなり無理して淡いところを出していて、スカイノイズの影響は大きいはずです。もしかしたらそこら辺も関連しているのかもしれません。暗いところに行くか、さらに撮影時間を伸ばす必要がありそうです。ここら辺が今後の課題でしょうか。


仕上げ

今回Photoshopでやったことは、最後の好みの色付けくらいです。恒星も背景もPIできちんと出してからPhotoshopに渡したので、かなり楽でした。

「sh2-136ゴースト星雲」
Image13_ABE_ABE_ABE_cut
  • 撮影日: 2022年10月25日20時2分-26日0時27分、10月26日19時17分-21日0時0分
  • 撮影場所: 富山県富山市自宅
  • 鏡筒: SHARP STAR製 SCA260(f1300mm)
  • フィルター: Baader RGB
  • 赤道儀: Celestron CGX-L
  • カメラ: ZWO ASI294MM Pro (初日分は-10℃、2日目は+9℃から11℃)
  • ガイド:  f120mmガイド鏡 + ASI290MM、PHD2によるマルチスターガイドでディザリング
  • 撮影: NINA、Gain 120、露光時間5分、L: 54枚、R: 18枚、G: 15枚、B: 12枚の計99枚で総露光時間9時間55分
  • Dark: Gain 120、露光時間5分、温度-10℃、32枚
  • Flat, Darkflat: Gain120、露光時間 L: 0.001秒、128枚、RGB: 0.01秒、128枚
  • 画像処理: PixInsight、Photoshop CC


おまけ

恒例のAnnotatonです。
Image13_ABE_ABE_ABE_cut_Annotated

あと、前以前飛騨コスモス天文台でTSA120で撮影したゴースト星雲と比較してみます。

まずは以前のもの:
TSA120

今回の画像を同じ画角で比べると、
Image13_ABE_ABE_ABE_cut_comp
自宅といえど、さすが大口径で露光時間も長いだけあります。分解能、恒星、ノイズ、いずれも大きく進歩しています。バンザイしているところもきれいに出ていますね。


まとめ

画像処理をサボっている間に、SPCCやBXTとかなり状況が進んでいました。新しいツールも躊躇せずに、どんどん取り込んでいければと思います。BXTも迷走したりしていますが、使い方によって明らかに良くなったりするので、最適な方法を探っていくほかないと思います。