3月3日にSCA260で撮影した馬頭星雲。



作例として仕上げるために、合計6晩も撮影を続けました。 


目的

今回の目的は、
  1. ある程度振動対策を施したSCA260で、3分露光で多数枚スタックしてどこまで恒星が点像に迫れるか見る。
  2. 馬頭星雲の、特に本体の暗黒帯部分で、細部がどこまで出るか見る。
  3. 近くのアルニタクのゴーストを抑えることができるか?
  4. 馬頭星雲のすぐ下のNGC2023の青がどこまで出るのか見る。
などです。


長期間撮影

さて6日に渡って撮影を続けた理由ですが、この時期のオリオン座は早い時間に西の低い空に傾き、高い位置で撮るには時間が限られてしまうからです。実際、6晩のうち前半3晩は、曇っていたりでセットアップに時間がかかり、撮影開始時刻が21時とか22時以降になってしまい、かなり低空での撮影からになってしまいました。後から見返すと低空の霞や雲のせいか、背景が明るすぎて星雲本体が淡くしか出ていなかったり、画面にムラがあったりしたため、3晩分の画像はほぼ全て処理には使えませんでした。


アルニタクとの攻防

特に不思議だったのが、最初の2晩にだけアルニタクのゴーストが顕著に出てしまったことです。というより、最初にゴーストを見たときに、これをどうやって除去したらいいのか真剣に悩んだのですが、フィルターなど設定を全く変えることなく後半の撮影ではゴーストが消えていました。やはりかすみのせいなのでしょうか?これはいまだに理由がわかっていません。

Image101
上部に大きな輪っかのようなゴーストが出てしまっています。

さらに、アルニタクの周りに青い光芒が見えますが、これは高度が高い場合には出ることがなくなりました。こちらは低空の霞で散乱されて出てきていたのかと推測します。

光条線は最後まで残ってしまいました。だいこもんさんが光条線を短くする方法を提案してくれてましたが、これくらい輝度差がある恒星が画角近くに入ってくる場合は試す価値がありそうです。




振動について

今の赤道儀CGEM IIに重いSCA260を載せると振動はどうしても残ってしまいます。これまで鏡筒の軽量化を中心にいろいろ振動対策はしてきましたが、やはり露光時間1分程度が実用範囲、今回のように3分露光だと採用率がかなり下がってしまいます。風がほとんどない場合でも揺れは残るので、風が強い日はほぼ全滅です。ただ、揺れの方向はある程度ランダムになっているので、多少星像が歪んでしまっても多数枚のスタックで平均化され、仕上がりはマシになると思います。


画像処理処理に使った枚数

撮影枚数は、使わなかったものを含めると
  • R: 48枚、G: 66枚、B: 61枚、Hα: 58枚
となります。3分露光なので、
  • R: 144分、G: 198分、B: 183分、Hα: 174分で、合計11時間39分
とかなりの長時間になります。そのうち、ある程度まともで使おうとしたものが
  • R: 22枚、G: 31枚、B: 31枚、Hα: 35枚
となります。落とした画像のほとんどは6晩のうちの前半3晩のもので、撮影開始時間が遅くて低空の霞などのためです。前半3晩は撮影枚数、採択率も散々で、わずか
  • R: 0/12枚、G: 3/10枚、B: 3/10枚、Hα: 4/22枚
というものでした。後半の3晩は、前半の反省から早い時間に準備したため、一気に撮影枚数と採択率があがり、
  • R: 22/36枚、G: 28/56枚、B: 28/51枚、Hα: 31/36枚
となりました。後半使わなかった画像の多くは、やはり時間が遅くなり低空になってしまったものです。それとは別に、揺れてしまって使えないものがありましたが、それらの率はそこまで多くありません。

さらにですが、使おうとした枚数とPixInsightで実際に使われた枚数は少し違って、
  • R: 22枚、G: 30枚、B: 22枚、Hα: 23枚
枚でした。registeredフォルダを見ると実際にスタックされた枚数が判明します。BとHαがかなり落とされてしまいました。今まで気づいたことがなかったのですが、スタック時など特に位置合わせがうまくいかない時に弾かれるようです。なので今回は合計時間は思ったより少なくて、合計291分で4時間51分でした。パラメータをいじることでもう救い上げることができそうなのですが、もしかしたらこれまでの作例でもPIに登録した枚数より実際にスタックされた枚数のほうが少なかったケースがあるのかもしれません。


西の低空の影響

少し西の低空の影響がどれくらいあるのか見てみます。

1. まず、3月9日の19時13分と22時41分をB画像で比べてみます。19時のをオートストレッチにかけて、同じパラメータを22時のものに適用しました。

19時13分のB画像。
2022-03-09_19-13-08_IC 432_LIGHT_B_-10.00C_180.00s_G120_0005

22時41分のB画像
2022-03-09_22-41-21_IC 432_LIGHT_B_-10.00C_180.00s_G120_0004
明らかに22時台のほうが明るくなり、馬頭星雲が薄くなります。一番のポイントはNGC2023の写る範囲がせまくなっていること。

2. 続いて、3月10日のRを20時16分と22時53分で比較します。

20時16分のR。Bより馬頭星雲がクリアに出ているのはわかりますが、星の数が全然増えています。
2022-03-10_20-16-58_IC 432_LIGHT_R_-10.00C_180.00s_G120_0000

22時53分のR。この日は西が相当明るかったようです。
2022-03-10_22-53-37_IC 432_LIGHT_R_-10.00C_180.00s_G120_0009

これをオートストレッチしただけだと同じような明るさで比べることができます。
2022-03-10_22-53-37_IC 432_LIGHT_R_-10.00C_180.00s_G120_0009_STF
明らかに淡いのとともに、画面にムラがあるのが分かります。薄い雲のせいでしょうか?

3. その一方、同じ3月10日のHαだと背景に差があまり出ません。

19時45分と
2022-03-10_19-45-11_IC 432_LIGHT_A_-10.00C_180.00s_G120_0000

22時21分です。
2022-03-10_19-45-11_IC 432_LIGHT_A_-10.00C_180.00s_G120_0000

あまりに背景の明るさが変わらないので、最初ミスかと思って再確認しましたが、やはりきちんと19時のパラメータで22時のもストレッチされてました。背景光の影響があまり出ないのはやはりナローバンドの威力と言っていいのでしょうか。背景光の明るさに差はなくても、細部ので方はきっちりと差が出ていて、やはり高度のある19時台の方が細かいです。あと、恒星の数がRに比べてかなり少なく、GやBと同程度です。波長から考えたらRに近い数が出ると思ったのですが、Hα以外の赤い領域でも多く光っているためRと差が出たということなのかと思います。

赤に比べて波長の短い青は低空でより散乱しやすいので、やはり青を出したいときはできるだけ高度が高いところで撮影するのが良さそうです。また、RでもHαでも細部の出方は結構違うので、こうやってみるといずれにせよ高度のあるところで撮るのが有利なのがわかります。


7nm Hαフィルターの効果

実はナローバンドフィルターをRGBと混ぜたのはまだほとんど経験がなくて、M33の赤ポチで混ぜたくらいです。そこで、ちょっと蛇足ですが今回使った7nmのHαフィルターを使うとどれくらい得するか、簡単に見積もってみたいと思います。

可視光が400-750nmと仮定して、光量が波長によらずに平均的に広がっていると仮定します。Hαが7nmなので、波長だけで単純にフィルターなしの場合と比較すると7/350 = 1/50と背景光は50分の1程度になるわけです。フィルターなしで撮影する場合に同程度のクオリティーにしようと思うと、50倍の時間をかける必要があります。

これは次のように考えることができます。シグナルに当たるHαはフィルター有り無しで変わらないとして、背景光が50倍だとしたらスカイノイズはルート50~7倍程度増えます。Hαフィルターをつけた場合に比べて、フィルターなしの時は、背景光ノイズに関してはルート50倍ノイジーだと言うことです。ルート50倍ノイジーなものを、同程度にするためには50倍の露光時間にする必要があり、そうすると信号は50倍ノイズはルート50倍になるので、S/N(Signal to Noise ratio)では50/ルート50 となり、ルート50倍得するというわけです。

Redフィルターの透過範囲が600nmから700nm程度なので、それとHαと比べても100/7で15倍程度となり、背景光に関してはRフィルターで15倍程度の時間をかけて、今回のHαと同程度となります。うーん、これはかなり大きな差ですね。この明らかにS/NのいいHα画像をどうやって混ぜ込んでいくかがキーになるのかと思います。


画像処理

RGBの画像処理はこれまでと特に変わりはありません。PixInsightのWBPPです。

初日の画像だけで処理した低い空のものはこのページの一番上の画像なんですが、強度のすとれっちをかけてあるので、普通のオートストレッチで見てみます。
Image101_STF
赤が弱く、アルニタクのゴーストと青い光芒が目立ちます。その一方、NGC2023の青が不十分です。

次はここまで使ったRGBをほぼ捨てて、オリオン座が高い空の時にRGBをほぼ全部を撮り直した場合です。NGC2023がかなりはっきりしてきました。アルニタクのゴーストが(なぜか)消え、青の光芒もなくなりました。赤もはっきりしてきました。結構いい感じですが、左下辺りにどうも緑のムラがあります。

Image17_PCC

ちょうどこの時期にPixInsightの1.8.9へのアップデートがあり、WeightedBatchPreprocessing Scriptにlocal normalizationが加えられたとのこと。local normalizationはこれまで使ったことはありませんでしたが、薄雲越しのムラができやすい撮影や、複数の日にまたがり条件が変わる撮影などの場合に、状態を合わせてくれる処理のようです。WBPPの中で自動で行われるとのことなので、実際にオプションをオンにして試してみました。

アップデート前(上)と後(下)でG画像を比較してみます。
masterLight_BIN-2_EXPOSURE-180.00s_FILTER-G_Mono

masterLight_BIN-2_EXPOSURE-180.00s_FILTER-G_Mono_1
他は特に何もしていませんが、明らかに違いますね。ムラがかなりきちんと撮れてストレッチに伴い細部がかなり出ています。このG画像を使ってRGB合成した結果は以下のようになり、かなりまともになってきました。

Image34_PCC

まだBに少しムラがある気がしますが、B画像はアップデート前後でほとんど違いが出ませんでした。とりあえずまだ不明な点も多いのですが、今後理解していきたいと思います。

RGB画像はPixInsightでストレッチまでして、Starnet++ Ver.2で恒星と背景を分離して、Photoshopに引き渡します。Hα画像もストレッチまでして、同様に恒星と背景を分離します。

恒星に関してはPCCを施したRGBの色が正しいと仮定して、Hαの恒星は捨てることにしました。Photoshop上でHαg像をレベル補正を使いRに変換し、それを「比較(明)」でレイヤーとして重ねます。元のRをを調整することで重なり具合を調整できますが、Hαの細部の暗い部分が鈍ってしまう可能性があるので、もう少しいい方法を見つける必要がありそうです。もちろんPixInsightの段階で重ねてもいいのですが、後に微調整をしたくなることを考えると、現段階ではPhotoshop上で処理してしまった方が楽そうです。


結果

最終的にできた画像が以下になります。

「IC434: 馬頭星雲」
Image34_PCC_AS_HT5a_cut
  • 撮影日: 2022年3月3日22時46分-23時7分、3月4日22時4分-22時14分、3月8日21時58分-23時06分、3月9日19時13分-22時25分、3月10日19時45分-22時2分
  • 撮影場所: 富山県富山市自宅
  • 鏡筒: SHARP STAR製 SCA260(f1300mm)
  • フィルター: Baader RGB, Hα:7nm
  • 赤道儀: Celestron CGEM II
  • カメラ: ZWO ASI294MM Pro (-10℃)
  • ガイド:  f120mmガイド鏡 + ASI290MM、PHD2によるマルチスターガイドでディザリング
  • 撮影: NINA、Gain 120、露光時間3分、R: 22枚、G: 30枚、B: 22枚、Hα: 23枚の計97枚で総露光時間4時間51分
  • Dark: Gain 120、露光時間3分、128枚
  • Flat, Darkflat: Gain 120、露光時間 RGB: 0.08秒、Hα: 1秒、それぞれ128枚
  • 画像処理: PixInsight、Photoshop CC

まだHαからの赤が強い気がします。もう少し落としてもいいかも。馬の頭の中を含めて、細かい模様はそこそこ出たと思います。NGC2023は青色は出ましたが、もう少し細部が出てもいい気がします。画像処理の腕がまだまだなのかと思います。恒星の星像はスタックするとかなり真円に近くなりますが、少し同一方向に延びています。これは赤道儀特有の揺れが残ってしまった部分かと思います。

それでもそこそこ撮れたので、まあ満足かと思います。


まとめ

かなり長い期間かかって、やっと画像処理までたどり着けました。最初に撮影した分だけで処理したときは、ゴーストもあれば、色は全然出ないで、どうしようかと思いました。低空での撮影が問題だとわかってやっと目処が立ってきました。

SCA260での撮影は、今の赤道儀ではどうしても振動が取り切れません。同じ日の夜半過ぎからM100とM101を撮影してあり、まだその処理が残っています。今回のような画面全体で見るような星雲とかはまだいいのですが、小さい系外銀河などでは揺れによる星像の悪化がどうしても目立ってしまうことがわかってきました。撮影した銀河の処理を見てからの判断ですが、赤道儀をもっと頑丈なものにしていく必要がありそうです。

あ、今回の馬頭星雲、暗黒帯の中の模様も出てきたので結構満足して妻に見せました。でも中の模様のせいか馬の頭とは全く認識できないみたいで、首のない進撃の巨人にしか見えないとのことです。あーぁ、画像処理は奥が深いです...。