PST分解中継の関連で、Niwaさんがエタロンのことについて記述してくれていました。
なんかよくわからないけど、エタロン祭りです。今日は昔「P.S.T. (その5): のエタロンの考察」で説明したエタロンでの光の折り返し回数について、式で書いてみます。
太陽望遠鏡で使われているエタロンの特性は、(光の位相を考えない)限定された状況下なら簡単な四則計算で求めることができます。エタロンのモデルとして、2枚の鏡が距離を置いて向かい合わせに平行に置かれている状況を考えます。光の振幅を\(E\)と書きます。
上記図のように、エタロン周りの光を定義します。\(E\)は光の振幅なので、2乗したものが光の強度になります。\(E_\mathrm{in}^2\)がエタロンに入ってくる太陽光の強度を表し、\(E_\mathrm{a}^2\)はエタロン内部の光の強さ、\(E_\mathrm{out}^2\)が接眼部に出てくる光の強さになります。
\[\begin{eqnarray}E_\mathrm{a} &=& t_1 E_\mathrm{in} + r_1 E_\mathrm{d}\\ E_\mathrm{b} &=& E_\mathrm{a} \\ E_\mathrm{c} &=& r_2 E_\mathrm{b} \\ E_\mathrm{d} &=& E_\mathrm{c} \end{eqnarray}\]\[\begin{eqnarray}E_\mathrm{ref} &=& t_1 E_\mathrm{d} + r_1 E_\mathrm{in} \\ E_\mathrm{out} &=& t_2 E_\mathrm{b} \end{eqnarray}\]これを解くと、
\[\begin{eqnarray} E_\mathrm{a} = E_\mathrm{b} &=& \frac{t_1}{1 - r_1 r_2} E_\mathrm{in}\\ E_\mathrm{d} = E_\mathrm{c} &=& \frac{t_1 r_2}{1 - r_1 r_2} E_\mathrm{in}\\ E_\mathrm{out} &=& \frac{t_1 t_2}{1 - r_1 r_2} E_\mathrm{in} \end{eqnarray}\]となります。
この式は光の位相を考えない簡略化された式ですが、ここからでもいろいろなことがわかります。簡単にするためにさらに、\[r_1 = r_2 = r\]\[t_1 = t_2 = t\]としてしまいましょう。2枚の鏡を同じものを使うということです。この場合式はもっと簡単になって、\[E_\mathrm{a} = E_\mathrm{b} = \frac{1}{t} E_\mathrm{in} \]\[E_\mathrm{out} = E_\mathrm{in} \] となります。理由は鏡の反射率と透過率には
\[r^2 + t^2 = 1 \] という関係があるからです。(ここでは鏡には反射と透過以外にロスはないと仮定しています。)
この式の物理的な意味は、2枚の同じ特性の鏡を平行に置いた場合
- 入ってきた光は全て通り抜ける
- \(t<<1\)なので鏡の間の光の振幅は\(1/t\)倍に、強度は\(1/t^2 = 1/T\) (\(T=t^2\): 光の強度透過率)になる
- 例えば、光(の強度)を90%反射し10%透過する鏡を使うと、1/T=10となるので、10回光が折り返すエタロンとなります。
- 例えば、光(の強度)を99%反射し1%透過する鏡を使うと、1/T=100となるので、100回光が折り返すエタロンとなります。
コメント
コメント一覧 (7)
*高校入学後一週間で数学に付いていけなくなり、夏休みに帰省した兄がマンツーマンで数学を教えてくれましたが、後年「世の中に数学を理解できない人間がいるのを知り、ビックリした。」と言われたのをいまだに思い出します。
ケニ屋さん、こんにちは。
望遠鏡も同じですが、やはりいろいろ理解して使った方が楽しいですし、応用範囲も広いかと思います。エタロンは値段から言っても複雑さや扱いにくさから言っても、やはりアマチュアが使うものとしては大変な部類になるのかと思います。
今回使った式は、よく見るとただの連立方程式です。鏡での光の反射とか透過は一般常識の範疇です。光の振幅と強度で振る舞いが違うとかは高校の物理くらいでしょうか。
式を解くだけだと中学の数学で十分かと思います。拒否反応を起こさずに、じっくりと見てみてください。そこから物理的な意味が引き出せた時は、望遠鏡で何か見えた時と同じような感動があるはずです。
エタロンで光が何度も往復し、太陽の隠れた部分がでてくるなんて、すごいことかと思います。でもこの波長依存性を説明しようとすると、数学的にも複雑になってきます。いつかできる限りわかりやすく説明しようと思っています。
振幅とエネルギーは2乗の関係にあるのですね。確かに大昔にそんなことを習った記憶があります。さらにはr^2 + t^2 =1であると。私の投稿はその辺がごっちゃになっていました。冷や汗です。でも理解がすすみました!
まだ理解が及ばない点がいくつかあって、お教えください!
1つ目はEin=Eoutのくだりです。2乗するとエネルギーということは、EinとEoutのエネルギーが一緒ということですよね。Eref分だけ最初に反射しているので、その分エネルギーが減っているように思うのですが、Erefの分はどこへ行くのでしょうか。
2つめは「強度の増加比がエタロン内部での光の折り返し回数そのもの」の部分です。例示された10%の場合、反射毎に90%になっていくとすると、10回反射しても、結構残っていそうですが、そうではないのでしょうか。
それから細かいですが、最初の式の右辺のEdには係数としてr2を書き忘れでないでしょうか。r2を入れると計算があっていたので、そうかなと思いました。
苦にならないですよね。本当に不思議です(笑)。
Erefを解いた式ははあえて書かなかったのですが、あそこに書いてある元のErefの式は実は間違っていて、本当は
Eref = t1 Ed - r1 Ein
となります。Einの前の符号が違うわけです。これを説明するためには反射面で屈折率の高い側から低い側で反射した場合は位相が反転しマイナスの符号がつくということを知っていないとダメです。逆の屈折率が低い方から屈折率の高い方で反射する場合は符号反転はありません。Erefをそのようにしてきちんと解くと、
Ere f= -r1+(t1^2 r2)/(1 - r1 r2)
という形になります。r1=r2=r, t1=t2=tとするとEref = 0となり、反射光はなくなり、全て透過することがわかると思います。
なぜ書かなかったのかというと、位相のことをまだ何も説明していないからなのですが、混乱するのでマイナスにしておいた方が良かったかもしれません。次回、位相を入れた説明をする時にはきちんと正しいものを書きます。
ここでいう折り返し回数は近似式になります。実際の折り返し回数は光の平均滞在時間で定義されます。光の平均滞在時間をτとすると、高速度cとエタロンの間の距離Lから折り返し回数がcτ/Lと定義することができます。この「平均」というところがポイントなのですが、ここら辺の説明が複雑になるので、ブログという縛りの中でどのように書けばいいか、まだ試行錯誤しているところです。
最後に、確かに最初のEaの式の右辺のEdのところにr1をつけ忘れてます(指摘されているr2でなくてr1だと思います)。きちんと見ていただいていますね。ありがとうございます。訂正しておきました。
ありがとうございます!
屈折率が高くて位相が反転するのは「ぎゅっと端で押さえつけられて、反動で反対側に行く」という謎のイメージで理解していたのを30年以上ぶりに思い出しました。逆はゆるいから、楽ちんで位相が変わらない、というイメージです。
計算すると反射光はないのですね!びっくりそろそろ定性的な理解では限界ありそうです。
我々読者目線では結果だけじゃなくて理屈も知りたい。でも前提知識に限界あるって感じですので、是非とも良いころあいを編み出すのを期待してます!
あ、ということは私のブログで固定端反射の絵にしたのは正解でしたかねぇ。固定端が自由端で悩んだんですが、分からずエイヤと。
ブログにこちらのリンクも貼らせていただきました。セットで楽しめる、初のコラボ企画!
固定端反射でいいと思います。
位相を考えるともっと面白くなります。これをできるだけわかりやすく説明できればと思っています。多分エタロン ってなかなか馴染みのないもので、想像と違う働きをしたりもすると思うので、太陽Hα撮影をするにあたり特性を知っておくことは決して損にはならないと思っています。
リンクありがとうございます。コラボいいですね!