お蔵入り?になりかけ
実を言うと、この記事書くのをあきらめてました。今回の彗星の核の撮影画像を見てみると、星像がかなり甘いのです。しかも星の数がかなり少なく、うまく画像処理できるか?と初めから疑問でした。実際途中まで全然うまく行かなくて、半ばお蔵入りするところでした。
というのも、ちょっと前に今回使ったSCA260のバッフル交換のアップグレードがあって、ちょうど販売店から返ってきたばかりでした。光軸調整はしてくれたとのことなのですが、その後、強度を保っているはずのアルミの長さ40cmトッププレーを自分で付け替えたため、鏡筒に歪みが残ったままになっている可能性が高いです。改めて光軸調整せずにそのまま持ち出してしまったためでしょうか、とにかく今回の撮影時にピントを合わせても星像が小さくならないのです。もしかしたら単に低空だったからかもしれません。いずれにせよ、普通だったら画像処理をする気にもならないくらいの画質でしか撮影できなかったのです。
とまあ、前置きはこれくらいにして、紫金山アトラス彗星の記事も今回で最後になるかと思います。10月20日に撮った、3セットの機材のうちの3つ目、焦点距離1300mmのSCA260にASI294MC Proを取り付けています。カメラは冷却可能ですが、今回は冷却せずに常温で稼働させています。
前回の記事で、焦点距離250mmのRedCat51とフルサイズの一眼レフカメラ6Dで撮影した画像の核の部分を拡大し、練習がてらLarson-Sekaninaフィルターで角度方向の輝度変化を強調して見てみましたが、広角画像の核の部分をかなり拡大しているため、粗いながらも回転している様子がわかりました。
今回は焦点距離が長く、それよりも遥かに解像度が良いはずなので、どこまで見えるかが楽しみです。
画像処理
とにかく、撮影した画像の処理をPIのWBPPで始めましたが、まずスタックが全然うまくいきません。各画像の位置特定でおそらく星の認識数が全然足りてないのでしょう、RANSACエラーが出まくりで、registeredにたどり着いたのが64枚のうちわずか20枚でした。Debayerまで普通に全部処理されているようなので、その後は自動のWBPPでなく、マニュアルで一ステップづつ処理することにします。
まずはStarAlignmentです。Star Detectionの基準をデフォルトの0.5から0.75にしたら、WBPPでは20枚しか認識されていなかったものが、30枚ほど位置合わせされていました。この方向で良さそうなので、さらに基準を相当甘くします。いろいろ試して、まず元々位置が大幅にズレていた15枚を省き、残り49枚で剃りを進めることにしました。さらにSensitivityとPeak responseを共に0.9程度にしたら、49枚全部を認識し、49枚分のImageIntegrationまでできました。その後、StarAlignmentした画像を、さらにCometAlignmentし、ImageIntegrationすることで無事に彗星核基準のスタック画像になりました。
今回は核の周りの構造を見たいために、基本的にスタックのみで他の処理はほぼ何もしません。ABEなどのソフト的なフラット化さえもしません。当然、恒星の分離もしませんが、核の周りだけ見るには恒星が流れていても基本的にはお構い無しのはずです。ただし、SPCCやPCCなどの恒星を使った色合わせができないことは認識しておくべきでしょう。なので最終画像はグレースケールに落として、モノクロとしました。
Larson-Sekanina フィルター
さて、核基準でスタックだけした画像に、早速Larson-Sekanina フィルターを適用してみます。パラメータを注意深く探りながら色々試して、最終的に距離2ピクセル、回転2度、量0.2であとはデフォルトと決まりました。
角度はあまり敏感ではなく、今回は2度から5度くらいまであまり変化はありませんでした。今回の画像では5度以上ずらすと根本的に違った構造が出てくるようです。そもそもズレを使って淡い輝度の違いを見やすくするものなので、ズレた時にある程度相関を持って重なる必要があるはずです。なので、今回の場合5度以上のズレになってくるとおそらくズレすぎで、全然相関がないところとのフェイク構造が出てしまうのかと思われます。前回、例え話で出した古文書などのズラしを考えてみても、一文字の中の狭い範囲内でズラすことに意味があるのであって、文字を超えて例えば上とか横の別の文字とのズレを見出い出してしまうのは、Larson-Sekanina フィルターでは距離や角度を大きくズラしすぎることに相当するでしょう。全く違う文字と重ね合わせてそのズレを見るのだと、たまたまそれぞれの文字の一部が重なるなどの偶然の相関が検出されるだけで、出てきた構造はフェイクで、結果に意味がないことは容易に想像ができるかと思います。
一方、今回入れた距離ズレの2はそこそこ敏感で、1とか3だと全然違う結果になります。前回の粗い画像でも2.5にしているのですが、これだけ分解能が違うのに、なぜ同じような値なるのかまだ謎です。彗星の核周りの構造の大きさ自身によるのでしょうか?焦点距離が前回250mmと今回1300mm、ピクセルサイズが前回6.3umと今回4.3umなので、焦点距離もピクセルサイズもより細かく見ていることになります。比を計算してみると、1300/250 x 6.3/4.3 =7.62となり、前回と今回の距離のズラしはピクセル単位で8倍くらいあっても良さそうです。前回2.5なら今回は20くらい、今回2なら、前回0.25くらいになっていいはずです。前回の画像でも、今回の画像でも、この比くらい大きくズラしてもみましたが、少なくとも有意な画像に見えることはありませんでした。もしかしたら、まだ私自身が大きな勘違いをしている可能性もあるので、今後の課題とします。
今回のLarson-Sekanina フィルターの適用結果ですが、回転のように見える構造がかなりはっきりと出ました。以下の画像は核まわりを見やすくするために、すでに縦横半分ほどにクロップしています。また、比較しやすいように良画像ともモノクロにしてあります。
フィルター適用前の画像と、
フィルター適用後の結果です。
核回りに明らかに時計回りの回転構造と、テイルに縞がはっきりと出ているのがわかります。ただ、Larson-Sekanina フィルターで出てきたテイルの縞は、フェイクの可能性もあるという情報をどこかで見たので、判断は慎重になるべきかと思います。
仕上がり画像
上記画像を、北向きを上にして、クロップして、核の周りをより詳しく見てみます。大きさを示す矢印も入れたので、スケール感もわかるかと思います。
拡大してみると、更にはっきりと時計回りに回っていることがわかります。核の大きさがわからないのですが、調べたところによると直径20-40kmとのことです。ほとんどの彗星は直径10マイル(16km)を超えることはないとのことなので、この大きさが本当なら、やはりかなり大きな彗星ということになります。
撮影をした日の地球から核までの距離は、この日は0.595 [au] = 8.9e7 [km]とのことなので、核の直径30kmとすると、核の視野角は0.069秒角程度になります。クロップ前の画像の横幅が50分角程度でそれをCMOSセンサーの横幅の4144ピクセルで見ているので、1ピクセル辺り0.72秒程度です。すなわち、1ピクセルで核の10倍程度の幅があるということです。核は相当小さいことがわかりますし、核がガスを出すことでここまで大きく見えることも実感できます。
パッと見える回転の構造は10ピクセル程度あるので、核が回転しながら、核のすぐ周辺に核の100倍程度のくらいの太さでガスを出していると推測されます。
まだ全然大したことは引き出せていないですが、このはっきりとした回転が見えただけで、もう興奮モノの面白さです。Larson-Sekanina フィルター偉大です。数学的には単純と言いましたが、相当強力で、相当の汎用性を持っていると思います。逆に言うと、汎用性を持っているからこそ単純な数式で表すことができるといってもいいのかもしれません。
汎用的なLarson-Sekanina フィルターをもっと応用できないのかと思いましたが、もしかしたらステライメージに搭載されている「回転アンシャープマスク」は応用例にあたるのかもしれません。ステライメージの回転アンシャープマスクの解説ページを見ると、Larson-Sekanina フィルターにあたるローテーショナル・グラディエントより、微細構造の抽出と滑らかさを両立し、結果を確認しながら仕上げられると言うようなことが書いてあります。惜しむらくは、この回転アンシャープマスクの使用例がほとんど皆既日食で、彗星に使った例は極々わずかなことです。もしこれを彗星核にうまく使えたら、面白い結果が出るのかもしれないと思いました。
まとめ
回転らしきものが見えるのはわかってきたので、次回の大彗星では日を変えて連続で撮影して回転がどう変化していくのかなどに興味があります。日々の変化で、核の回転速度などもう少し何か意味が引き出せるかもしれません。次回の大彗星でどこまでできるかかなり楽しみです。
今回の大彗星の一大騒動、自分的にはやっと終局を迎えました。1ヶ月以上楽しめたので、かなり満足です。特に最後に辿り着いたLarson-Sekanina フィルターでの核の回転画像は、普段の画像処理とはまた違った方向性だったからでしょうか、自分の中でかなりインパクトがありました。その一方、今回の紫金山アトラス彗星では弧を描くようなテイルは見えなかったので、私の中ではそれでもネオワイズ彗星の方が印象が大きいです。これは最初に見た大彗星だったと言うこともあるのかもしれません。
次に大彗星が来るのはいつのことか?8年で2回見たペースの通り、4年後なのか?もっと先なのか?意外にすぐ来るのか?今から楽しみに待ちたいと思います。