ほしぞloveログ

天体観測始めました。

2024年09月

たまっている画像処理に少し取り掛かります。といっても最近撮影した話ではなく、もう何ヶ月も前のものです。

今回はその中で、MACHOさんのご好意でチリのリモート天文台で撮影させて頂いたものを仕上げました。撮影から記事にするまで長らくかかってしまい、申し訳ありませんでした。結果は画像を見て頂ければわかりますが、十分に満足できるものとなりました。


南天天体の撮影チャンス

以前、MACHOさんのご好意でチリのリモート天文台の電視観望を試させ得ていただく機会があったのですが、


今回はさらにご好意に甘えて、撮影までさせていただきました。

撮影日はGW中で、その頃に調子を悪くしてしまった私はある意味これがGW中の唯一の天文活動でした。 事前の打ち合わせで4日間割り当てて頂いたので、事前にターゲット天体を色々考えていました。実際には意外に曇りだったり、途中から私の方が入院などで、結局撮影できたのは1日半です。それでも環境といい、機材といい、結果から考えても十分楽しむことができました。

ターゲット天体には優先順位をつけてあったので、半日ごとくらいに3つの天体を撮影しました。今回のターゲットは撮影順に、
  1. NGC3372: イータカリーナ星雲
  2. SMC (小マゼラン星雲)
  3. LMC (大マゼラン星雲)
となります。南天の撮影は「ほぼ」初めてなので、全部メジャー天体です。でも全部念願の天体です。

「ほぼ」と書いたのには理由があって、星を始めて結構すぐくらいにオートラリアに出張があって、簡単な機材を持って撮影も試みたことがあります。でもその時はあいにくの満月期で、まだ機材的にも自分の技術的にも全然未熟で、随分と悔しい思いをしたものです。




撮影環境

撮影はGWなのでかなり前のことになってしまいますが、記事は当時ある程度書いておいたことと、別途記録が残っているので、なんとかなります。あとはできるだけ記憶を辿ってになります。

機材はFRA300 Pro+ASI2600MC Proです。モノクロのTOA150もあったのですが、最初は簡単なカラーからと思っていたのですが、今回は時間切れだったので、泣く泣くTOA150の方は諦めることになってしまいました。

FRA300には特に光害防止フィルターなどは何も付いていませんでしたが、さすがにかなり暗い空です、かなり迫力ある画像が撮影中からNINAの画面上で見えていました。

撮影に使うソフトは、
  • 導入と位置確認: SkyChart(Cartes du Cael)
  • ガイド: PHD2
  • 撮影: NINA
となります。赤道儀のためのASCOMドライバーなどの詳細設定がありますが、ゲストユーザーは特に触ったり、あまり意識しなくていいように、あらかじめ設定てしてくれています。リモート接続にはシン・テレワークシステムのクライアント版を使います。今回はWindows版を使いましたが、Macでは専用クライアントは無いみたいですが、Web版を使うことができるようです。

撮影までの準備は、前回電視観望の時にあらかじめ接続方法や、リモート接続した後の操作方法を聞いていたので、それほど困ることはありませんでした。唯一迷ったのが赤道儀のパークの解除方法です。電視観望のときはどこかを操作してアンパークしていたと思ったのですが、その場所が分からなくて今回はNINAからアンパークしました。ASCOM関連なども一通り見たのですが結局分からなくて、後から聞いたら、MACHOさんも普段NINAからアンパークしているみたいで、それで良かったみたいです。でも電視観望の時はNINAを使っていないはずなので、もしかしたら別のところにもパークを制御できるスイッチがあるのかもしれません。

撮影に関してはほとんど準備されていたので、特にそこまで迷うこともなく、ほとんど問題なかったでしょうか。あえて言うなら、私は普段NINAのシーケンサーは簡単なレガシータイプを使っているのですが、「レガシータイプをデフォルトでオフにする」というオプションが入っていたのでオフにしました。そのオプションの場所を探すのにちょっと迷ったくらいです。


撮影初日は少しだけ

初日、最初の撮影はNGC3372: イータカリーナ星雲狙いです。少し時系列を追います。
  1. 午前7時過ぎ、シンテレワークでドームに接続成功。チリはほぼ地球の裏側にあたるので、時差が13時間。5月で日本では日が長いのに比べて、チリはこの時期は夜が長いので撮影時間は十分確保できます。
  2. まだ日が残る明るいうちに、モニター用のASI120MCで見て、望遠鏡がPark位置にあることと、まだドームが閉じていることを確認。
  3. skychatで赤道儀の現在位置を確認して、これでもPark位置にあることを再確認。
  4. 午前8時前くらい、天文薄明に入りSharpCap+ASI120MCでドームが開いていることを確認。ドームの開閉は現地の天気を見て、現地スタッフがやってくれるようです。
  5. skychatで導入成功。NINAの試しのライブ撮影ででFRA300Pro+ASI2600MCでイータカリーナ星雲が見えた。
  6. カメラの冷却を開始し、その後PlateSolveも成功。
  7. PHD2で一度はガイドまでオンになった。
  8. 午前8時過ぎ、上記PHD2の設定中に突然PHD2の画面が見えなくなった。ドームが閉じたのか?その判断がつかない。
結局、午前9時前 SharpCap + ASI120MCで露光時間を60sにしてかなり明るく見ることで、ドームの屋根がしまっていることが確認できました。現地の天気を調べてみると、薄曇りでどうも星は見えているようですが、撮影には向かないとの判断だと思います。

その後、昼頃に再び接続してみると星が見えています。そのまま導入して、すぐに撮影を始めました。ただし、やはり少し曇り気味で、1時間半ほどで終了となってしまいました。

というわけで初日はお試し程度でした。2日目にかけます。


撮影2日目は絶好調

2日目: 最初にドームにアクセスしたのが日本時間で朝の7:44でした。初日のイータカリーナ星雲がまだ1時間半ほどの撮影しかできていないので、午前中は今一度イータカリーナ星雲を撮り溜めます。

この日の時系列のログが残っていたので、コピペしておきます。
  • 7:48 SharpCap+ASI120MCでドームが開いていることを確認。
  • 7:49 NINAからUnPark
  • 7:50 SkyyChartでNGC3372導入
  • 7:56 NINAで画像確認とPlateSolve
  • 7:58 Phd2でキャリブレーション開始。
  • 8:01 キャリブレーション完了、オートガイド開始。
  • 8:19 EAFの「ZWO forcuser (2)」に接続してオートフォーカス開始
  • 8:34 撮影開始
  • 8:40 一枚目確認。大丈夫そう。綺麗。
と当時の記録を見てもかなり順調だったことがわかります。EAFの調整から撮影開始まで少し時間が空いているのは、フィルターホイールに迷っていたからです。カラーカメラでフィルター無しなのでフィルターホイールの設定は意味がないはずなのですが、EFWが接続されているようなので、何か変わるのかと思って確証が持てませんでした。結局このフィルターはTOA150についているEFWだということが後からわかりました。

撮影が始まるとまず気づいたのが、赤道儀の安定性です。ガイドラインが相当ピターっと0付近にへばりついています。私の手持ちのCGX-Lも結構安定していると思っていましたが、さらに別次元の安定度です。実際撮れた画像を見ても、ほぼどの画像も星が円に近くなっています。

その後、記録を読み返すと、9:54に天頂越えのところで少し迷ったようです。撮影開始から2時間後です。一旦、本当に反転しているか、Parkとかしてあえて確かめたりしましたが、撮影された画像を後から見たら、すでに自動で反転されていたことがわかりました。自動反転も安定しているようで、これは楽です。反転を確認したついでに、時間的にも丁度いいのでPlateSolveとAFを今一度実行しました。その後、10:11に撮影再開です。

イータカリーナの高度が低くなってきたので、次の天体のSMC: 小マゼラン星雲に移ります。NINAに自動導入とプレートソルブ込みで指示してあって、後から見たら14:40に自動的にSMCに切り替わっていて、そのまま撮影も開始されていました。結局この日は日本時間の18時近くまで撮影していました。カメラは撮影が終わると自動で昇温するようにNINAでセットできるので、後片付けはParkすることくらいでしょうか。こちらもとても簡単で、ドームがかなり楽なのを思い知らされます。


3日目の撮影は途中まで

3日目のターゲットは大マゼラン星雲です。この日は朝から少し用事があり、接続開始時間が遅れてしまいました。時系列のログを見ても、

9:34 接続開始で、すぐにLMCを導入。Unpark, Platesoleve, PHD2, AF問題無し。
9:41 撮影開始
13:00 LMC撮影終了

と、とても順調で、昼頃にはLMCを終了しました。

実はここからTOA150にしてオメガ星団をモノクロで撮影しようとしていたのですが何か様子がおかしいです。結局13時20分にはモニターカメラでドームがしまっていることが確認できました。どうやら途中から天気が悪くなってきたようで、ドームが閉じられてしまったようです。

というわけで、ずっと天気が良かったわけではなく、その後に体調を悪くしたこともあり、割り振っていただいた4日のうち約1日半ほどしか撮影に使うことができませんでした。惜しむらくはモノクロカメラでの撮影でしたが、天気ばかりはしかたありません。それでもFRA300 ProとASI2600MCで、十分なクオリティーの画像を、十分な枚数撮影することができました。


画像処理

今回は3つの画像をほぼ並行して処理しました。

撮影後、ダークファイルとフラットファイルはあらかじめ撮影してくれていたものを頂いたので、すぐにPixInsightのWBPPにかけました。ここしばらくはモノクロカメラでのLRGB合成やSHO合成が多かったので、カラーカメラの真面目な画像処理は久しぶりです。自分でカラー合成しなくていいのは、楽でいいですね。特にフラットに関しては、モノクロだとそれぞれの色で最淡のところでどうしても差が出てしまうので、合成の時にいつも苦労しています。

今回のフラット化は、そもそも暗いところの撮影でカブリもあまりないのと、画面全体に星雲や銀河が広がっているので、全体の傾向だけ除去しようとフラット化はABEに留めています。その後、定番のSPCCやBXT、ストレッチは主にGHSを使い、Photoshopに渡すところまでは終えました。

その後は無理をしないようにと少し天文から離れていたこともあり、結局画像処理にはほとんど時間を使うことができていなくて今に至ります。もう少し言うと、Photoshopで少しだけいじってみたのですが、ノンフィルターの画像に慣れていないので、どうしてもあぶり出しに苦労しそうなことがわかって、かなり時間がかかりそうだと思ってしまい、そこからなかなか進まなかったというのが正直な所です。

ここ最近、少し時間的に余裕ができてきたので、Photosopで3枚まとめて画像処理を進めました。

まず全般に関してですが、ノーフィルターで写しているので、かなり暗い空で撮影してるとしてもHαとOIIIに関してはインパクトが弱くなっているようです。特にHαフィルターを使った時と比べると、色がどうしても眠いような感じになってしまいます。というよりも、暗い空でフィルターなしで撮影したことなんてこれまでほとんどなかったので、むしろこちらの方が正しい色に近いと言えるのかもしれません。そもそも本当の色というのが何かという議論もあるので、何が正しいか何が間違っているかの議論自体意味があるかわからないのですが、条件のいい暗い空でノーフィルターで撮影するというの経験は、しないよりはしておいた方がいいと実感しました。今後の色使いに少し影響が出るかもしれません。

個々の画像についての画像処理も踏まえながら結果を示します。


イータカリーナ星雲

まずはイータカリーナ星雲。ナロー撮影でOIIIフィルターを使うと、赤い星雲をとってもある程度の青い成分が残るのですが(例えば北アメリカ星雲)、今回のイータカリーナを見ると青成分はかなり少ないようです。色彩豊かに見せるために少し青成分を強調しましたが、こちらも本来の色はもっと赤だけに近いのかもしれません。

「NGC3372: イータカリーナ星雲」
300_00s_ABE4_BXTc_SPCC_BXT_GHS_back_GHS2_s
  • 撮影日: 2024年5月5日0時4分-1時35分、5月5日19時33分-5月6日0時4分
  • 撮影場所: チリ El Sauce Observatory
  • 鏡筒: Askar FRA300 Pro(焦点距離300mm、口径50mm、F5)
  • フィルター: なし
  • カメラ: ZWO ASI2600MC Pro (-10℃)
  • ガイド: ASI174MM、PHD2によるマルチスターガイドでディザリング
  • 撮影: NINA、bin1、Gain 100、オフセット 50、露光時間5分x63枚=5時間15分
  • 画像処理: PixInsight、Photoshop CC

これだけHαが多い領域で、たとえノーフィルターだとしても赤は出ています。それでも赤のインパクトが今一つ出ません。画像処理でどうこうするというより、やはりこれはノーフィルターの特徴の色のようです。普段ナローバンドフィルターを通してみている色とは結構違うというのが実感です。

でも南天のメジャー天体で、初撮りでここまで出るのはかなり満足です。日本からだと見えない天体だと思うと尚更です。


小マゼラン星雲

次は小マゼラン星雲です。スタック直後のあぶり出し前の画像では、赤い部分がほとんど出ていませんでした。ノーフィルターではこれくらいが限界でしょうか。それでも青い星雲本体の中での赤なので、上のイータカリーナとは違い、インパクトはあまり必要なさそうで、バランス的にはいい赤だと思います。

「SMC: 小マゼラン星雲」
300.00s_FILTER-L_RGB_BXTc_SPCC_BXT_GHS_GHS3
  • 撮影日: 2024年5月6日1時40分-6時2分
  • 露光時間5分x50枚=4時間10分
構図としては、画角に球状星団のNGC104が入っていて、SMCとの対比がいいです。実は球状星団の中心部がRAW画像の段階ですでに飽和してしまっていて、画像処理で誤魔化さざるを得なかったです。まだ少し不自然かもしれませんが、中心部以外の解像度はかなりものので、ツブツブ感がたまりません。

小マゼラン本体もそこそこカラフルなことがわかります。下に7年前に撮った小マゼラン星雲を再掲載しましたが、構図、色、分解能など、もう雲泥の差です。


大マゼラン星雲

最後は大マゼラン星雲です。こちらも一枚あたり3分という露光時間は少し長かったかもしれません。恒星が一部飽和しているのは仕方ないですが、特にLMCでは右下の星雲の明るい部分も一部飽和してしまい、恒星と星雲の分離の時点で混ざってしまうところがありました。私は普段恒星と背景の合成をPhotoshopのレイヤーの「覆い焼き(リニア) - 加算」を使いますが、今回は「スクリーン」を使いました。「スクリーン」の方が飽和を多少避けることができたので、こちらの方が正しいのかもしれません。でも「スクリーン」だと恒星が弱くなるので、結局強調しなくてはならなくて、明るい部分が新たに飽和しないように、かなり手間がかかりました。

「LMC: 大マゼラン星雲」
BNCc_SPCC_BNC_s
  • 撮影日: 2024年5月6日20時46分-23時59分
  • 露光時間5分x38枚=3時間10分

大マゼラン星雲の名を冠するのなら、もう少し広い画角で撮影できればよかったです。この大きさだと、腕が回転しているような様子は写すことができません。それでもノーフィルターでよくここまで赤が出たと思います。本体の淡い赤も表現できています。割れるような黄色のヒビをもう少し強調したかったのですが、かなり暗い部分なのでノイジーです。ここを表現したかったらもっと露光時間を伸ばす必要がありそうです。


Annotation

恒例のアノテーションです。3連チャンで行きます。さすがメジャー天体で、アノテーションも豪華です。特にLMCはすごいNGCの数です。

_300_00s_ABE4_BXTc_SPCC_BXT_GHS_back_GHS2_s_Annotated

_300_00s_FILTER_L_RGB_BXTc_SPCC_BXT_GHS_GHS3_Annotated

BNCc_SPCC_BNC_s_Annotated


初期の頃からの比較

7年前にハミルトンアイランドに行って50mmレンズとEOS 60Dで撮った小マゼラン星雲はこんな感じです。総露光時間はなんと、たったの7分20秒です。

New5

まだ星を初めて1年で海外へ持っていく機材もままならない状況、画像処理も未熟と、結果としてほとんど何も出ていないですね。小マゼラン星雲のすぐ上にあるのは大きな星かと思っていたのですが、球状星団だったのですね(笑)。これを初の南天撮影とするなら、7年間経ってやっと自己更新です。


振り返ってみて

実質初めてと言っていい南天の空です。しかもメジャー天体を3つもいっぺんに撮ることができました。もう大満足です。貴重な機会を提供していただいたMACHOさんにはとても感謝しています。

リモート天文台はセットアップは大変かもしれませんが、一度できて仕舞えばものすごくパフォーマンスが良さそうです。晴天率も日本より良さそうですし、画像がどんどん溜まっていくのか、1枚にじっくり時間をかけるのか、成果が出るのも納得です。特に今回は上げ膳据え膳で使わせて頂いただけなので、あまりに呆気なくこれだけの画像が得られて、ある意味もうびっくりです。

個人的には機材とかを触っていろいろ改良して、その改良を結果として天体写真で確認したいクチなので、今回のリモート撮影のような恵まれすぎた環境を続けてしまうと、自分の手を入れらなくて物足りなく感じてしまうかもしれません。その分、画像処理に時間をかけて個性を出すこともできると言ったところでしょうか。

この環境を自由に使えることは、羨ましくもあり、ある意味最終形態のようなものなので、ここまでできてしまうと少し寂しくもあると言うのが正直な所です。将来的には同様のサービスがもっと増えて、安価で選択肢も増えていくのかと思います。かと言って、自分でセットアップして撮影するのがなくなることもあり得ないと思います。

最後に、今回は貴重な経験をさせていただいて、本当にありがとうございました。この機会を与えてくれたMACHOさんには改めて感謝いたします。画像処理まで時間がかかってしまい申し訳ありませんでしたが、また何か機会がありましたら、よろしくお願いいたします。



星をもとめてに参加した際、星見屋さんでちょっと面白い話題が出ました。先日の星もと参加記の中に書いてもよかったのですが、少し細かすぎる話なので、独立して書いておきます。


星見屋さんブースにて

星見屋さんのブースのところで、以前福島でも見せてもらった、光球面用とプロミネンス用の2つのエタロンが入っているDaystarのGeminがデモで出ていて、店長さんと太陽について少し話ました。エタロン2つ繋がりではないですが、太陽界隈で少し話題になっている、メーカーや仕様の違うエタロンを直列に並べて使うと、コントラストが良くなるという話です。Fabry-Perotエタロンは、一般的に透過波長が周期的に表れる櫛(comb)型応答を示します。この櫛の位置がズレるので、コントラスが上がるという理解とのことです。

これはFSR (Free Spectral Range, 説明はこちらのページに) が違うことで説明できます。FSRは櫛と櫛の間の幅と考えることができます。このFSRは2枚の鏡の間の距離のみで決まるパラメータです。メーカーが違ったり、仕様が違うエタロンでは、鏡の間の距離が違うのが普通でしょう。Hαを通したいので、透過周波数は656.3nmになるように合わせてあるはずです。エタロンのデザインが違えば、その他の櫛状の透過波長も違うと考えられます。こんなことを踏まえて、星見屋さんとは、互いのcomb周波数のところの透過率を互いに落としあっていると考えると、確かに十分理解できるようなことを話しました。

実際に話したのはこのような定性的な話のみなのですが、帰りの車の中でもう少し考えてみました。


少し定量的に考えてみる

Fabry-Perot エタロンの透過率を考えてみます。詳細な式についてはこのページを参照してください。


光に対するエタロンの振幅透過率は一般的に (t1 x t2)/(1 - r1 x r2) と書くことができます。r,tは鏡の振幅反射率と振幅透過率で、添字の1と2はそれぞれ1枚目、2枚目を表しましす。

その中でも、太陽望遠鏡用のエタロンは共振周波数については完全透過であることが普通なので、2枚の鏡の反射率と透過率は一般的に等しくなります。r1 = r2 = r, t1 = t2 = tと書くと、エタロンの振幅透過率はt^2/(1-r^2) = T/(1-R)となります。Rはr^2、Tはt^2で、それぞれの鏡の強度反射率と強度透過率を表します。鏡のロスを考えないとすると、R+T=1が成り立つので、エタロンの振幅透過率は T/(1-R) = 1となり、完全透過となります。このため、共振周波数のHαのところで像が見えるわけです。

このことは上記リンク先のページにも同様に書いてあります。上記ページには光の位相のことを省いた簡略化した式で書いてあるのですが、位相まで考えると非共振のところで分母の符号が + (正)になります。特に最も透過率が低くなる完全反共振の周波数のところ(combの共振周波数同士のちょうど真ん中)では、透過率は(t1 x t2)/(1 + r1 x r2)と書くことができます。太陽用途なので2枚の鏡の反射率と透過率が同じだとすると、上と同様に t^2/(1+r^2) = T/(1+R) となります。

民生用の太陽望遠鏡エタロンのフィネスは10からせいぜい数10程度なので、強度反射率と強度透過率はそれぞれせいぜい90%と10%程度です。仮に0.9と0.1とすると、完全反共振の波長でさえ T/(1+R)  = 0.1/(1+0.9) ~ 0.1/2 = 0.05となり、振幅で5%、強度だとその2乗で0.25%程度の透過率となります。

実際Hα以外のところで0.25%漏れるとすると、comb全体では結構なコントラスト悪化になりそうです。当然BFやERFなどがあるので、Hα以外のcombのところの透過率は落ちるのですが、その残りの漏れ光でコントラストが悪くなっているということは、十分あり得そうです。エタロンとBFの関係はたとえばここを見るとグラフになってるのでわかります。一見BFの透過率はかなり小さく問題ないように思うかもしれませんが、BF透過の裾のところがすでに隣の櫛のところに引っかかりつつあるので、必ずしも無視できないかもしれません。太陽の光はものすごく明るく、全部カットすれば十分暗くなりますが、ほんの少し漏れるだけで一気に明るくなります。これは皆既日食のときのことなどを考えると、容易に想像できるのではないでしょうか。

ここで、2枚のエタロンがあることが効いてきます。もう一枚のエタロンでさらに漏れが0.25%程度になるのなら、十分な効果があるのではということです。

と、こんな話を「星もと」の会場で星見屋さんとできれば良かったのですが、その場では定量的な評価までは至らず、でも気になって帰りの車の運転の中で考えていたというわけです。もしかしたらどなたかの役に立つのではと思い、一応ここに書いておくことにしました。

(2024/9/21追記1)
初出記事に大きなミスがありました。エタロンの透過率を光の強度透過率としてではなく、振幅透過率として計算していました。きちんと強度透過率で計算すると、振幅透過率の2乗となるので、実際にはもっと漏れ光は少なくなります。上記記述は正しい値に訂正してあります。

(2024/9/21追記2)
BFについてもう少し詳しくみてみます。BFの透過率は下記ページ 


の「Coronado Blockfilter BF15 , Filter zum Okular」のところにあります。Coronadoの15mmのものということですが、他のものでもオーダーは似たようなものと考えます。(注意ですが、CoronadoはERFに相当するものもBlocking Filterと呼んでいるようなので見るべきところを間違えないようにしてください。すぐ上の「Coronado Blockfilter BF15 , Filter zum Objektiv」はERF相当のものになるようです。)

さて、上記グラフを見てみると20%透過の幅が0.9nm程度、10%透過の幅が1.2nm程度、5%透過の幅が1.6nmといったところでしょうか。3%透過の幅に至ってはグラフが途中で切れてしまっていますが、2.5nm以上はありそうです。

ここで、エタロンの櫛と櫛の間隔を考えてみます。櫛と櫛の間は、FSRを波長で考えたものそのものなので、以前見積もった通り2nm程度と思われます。BFの3%透過の幅が2nm以上なので、BFといえどそこそこの光を通してしまうということです。これはかなり大きいですね。これだけ透過してしまうとすると、仕様の違う (=FSRの違う) 2つのエタロンのダブルスタックはこの漏れをさらに0.25%に落とすので、かなり効果があることになります。


DSO用のナローバンドHαフィルターの効果について

ついでにですが、星見屋さんとは3nmとか7nmのDSO用のナローバンドHαフィルターを太陽望遠鏡に突っ込んだらコントラストが改善するかどうかについて、少し話しました。

星見屋さんによると、鏡筒によって改善具合が変わるとのことです。基本的に「鏡筒内に存在する散乱光が改善されること、Hα外のUVやIRのコーティングがどうなっているかにも依ると思う」とその場では話しました。

でも後から上の話を考えてみると、意外に非共振周波数での透過率が高そうなので、BFやERFで除去しきれない輝度が残っていて、それを改善する効果も少なくないのかもしれません。

個人的には以前実際に調べていて、気のせいというレベルでなく、明らかに効果が見られました。


ただし、当時も推測で散乱光が少なくなったのではと書いていますが、はっきりとした原因はまだよくわかっていません。でも、違う種類のエタロンのダブルスタックでコントラスト改善があるなら、上で述べたようにエタロンの漏れ光は有意に存在していると考えても、全然おかしくない気がします。これが3.5nmで改善されたというのはシナリオとしては十分にあり得るでしょう。


まとめ

太陽望遠鏡に使われるエタロンは、一般的な望遠鏡とか、一般的なフィルターと違い、なかなか直感的なイメージと振る舞いが一致しないことが多いかもしれません。だからこそ、できるだけ原理を理解して、定量的な見積もりと実際に見た場合とが大きくずれないか、ある程度確かめながら評価していくことが大切なのかと思います。

私もダブルスタック少し興味がありますが、PST以外のエタロンを持っていないので、いつかチャンスがあったらくらいでしょうか。


関西唯一の星まつり、「星をもとめて」に参加してきました。今年は星まつりの参加を少し控えています。今回はちょうどSWAgTiでディザー撮影が成功したので、Unitecさんのブースで展示させていただけることになり、日帰りでしたが少し頑張って行ってきました。

できた記事を読み返してみましたが、完全に自分目線の日記がわりなので、星もとの情報を知りたいとか、雰囲気を知りたいとかでは、あまり役に立たないです。ごめんなさい。


当日朝の移動

出発は星もと当日の日曜日の朝6時頃。私的には星まつりにしてはゆっくりめの出発で、昼前くらいの到着になるでしょうか。そもそも今回の星もと、事前の天気予報はあまり良くなくて、特にSCWだとずっと雨の予想でした。「どうせ何も見えないや」と高を括って、特に撮影や電視観望の事前テストなどはせず、SWAgTiの展示用の機材を用意しておくくらいでした。

IMG_9970
荷物の量も大したことありません。

IMG_9971
玄関からパッと座席に置いただけで出発です。

富山から日本海側経由で京都に向かう途中、敦賀JCTの手前の南條SAで休憩です。ちょうどお腹が空いたので、朝のレモン味のさっぱりラーメンを食べます。同じものを去年も食べたのを思い出しました。なのでこのラーメン、2年連続になります。
IMG_9973

日本海側周りなので基本的に渋滞は全くなかったのですが、結構のんびり運転してたので現場に着いたのは午前11時頃だったでしょうか。今回は機材をUnitecさんのブースに運ぶので、テント裏に車を停めさせて頂きました。偶然にもUnitecさんの車が後ろにきていたので、展示準備のタイミング的にもちょうどいいくらいの時間でした。

今年も場所は「るり渓」なのですが、去年までの北側の駐車場の奥のスペースとは違います。南側の開けた広場のようなところで、ステージがある場所です。聞いたところによると、第4回までの星もとはこの場所で開催されていたとのことです。

かなりダメそうだった天気予報にもかかわらず、雲は厚いですが所々に青空も見えていましたし、広場中央に並べられた太陽望遠鏡も、青空が通るタイミングでプロミネンスがよく見えています。しかも滞在中雨は一滴も降らずに、完全にいい意味での裏切りの天気でした。
IMG_9980

何人かの方が言っていましたが、星もとは「胎内などの大型星まつりほど規模が大きくなく、アットホームでいい」とのことです。天気も悪くなかったので、この日は多くの人が来ていましたが、会場が溢れたりすることもなく、食べ物なども普通に買うことができました。関西の方達の気さくな雰囲気もまた、星もとらしさを醸し出しているのかと思います。


SWAgTiの紹介

今回はUnitecさんと外山電子さんのブースに居候しました。小さな机を出してもらって、その上にモニターを置き、その横にSWAgTiを展示しました。モニターには出発前日の夜寝る前に突貫で作ったパワポスライドで説明ファイルを、ループで表示させておきました。席を空けていても、ある程度理解してもらえるのではと思ったからです。あまりこんなことはやったことはないので、スライドのクオリティはイマイチでしたが、見ていてくれた人もいたので、今後こういったことをやる場合はもう少し作り込んでいければと思います。

IMG_9987

IMG_9986

今回のSWAgTi展示の事前宣伝に関しては、ディザーのところで記事にしたくらいで、あまり大袈裟にしていなかったのですが、現場にいると意外なほど興味を示してくれる方が多かったです。ブログを読んでくれた方、その場の機材を見て不思議そうな顔をしている方、古くからもSWATファンなど、いろんな人から質問を受けました。この反響にUnitecのスタッフの方も少し驚かれていました。私の方も今年はディザーで縞ノイズを消せたので、少し自信を持って紹介することができました。

SWAgTiは一見「魔改造」に見えるかもしれませんが、実はかなり理にかなっています。オートガイド無しで、かつディザリングは有りという、ちょっと変則的な撮影です。でも、ガイド鏡も、ガイドカメラも、ガイドカメラを繋ぐケーブルも、PHD2などのガイドソフトも、一気に無くすことができるお気軽撮影です。その一方ディザリングだけはして、数時間以上の長時間露光でも縞ノイズを避けることができます。

このガイド無しお気軽撮影は、SWATの超高精度の追尾性能が大前提になります。お気軽と言っても、あくまで長時間露光を目指していて、長時間のドリフトからくる「縞ノイズ」を、AZ-GTiの2軸を使った「ディザリング」で回避しているのです。それに加えて、自動導入やプレートソルブ(まだちょっと不安定ですが...)も可能となるというおまけもついてきます。こんな説明を現地でしていたのですが、聞いてくれた皆さんは、かなり納得されているようでした。「SWATとAZ-GTiの組み合わせがメカメカしくてかっこいい」と言ってくれる方もいました(笑)。

何人かの方から「SWATが高い」という意見を聞きました。SWATは一般的な小型赤道儀どころか、中型赤道儀や大型赤道儀と比較してもまったく遜色ない精度を謳っています。しかも、その精度は全部実測してから出荷しているとのことなので「この値段でこの精度を『確実に』手に入れることができるのは、ある意味安価なのでは」と、私が思っている感想を率直に伝えたりしていました。「最近の冷却CMOSカメラは、本格的なものを揃えようとするとかなりの額になるので、それよりは全然安いですよ」などとも話していたのですが、何人かの方は本気でSWAgTiを試してくれそうな雰囲気でした。SWAgTiユーザーが増えたら、私としてはかなり嬉しいです。

まだ安定性などに少し問題があることも事実なので、できるだけこのブログで情報を発信していこうと思います。今回のブース展示も含めて、Unitecさんにはかなりお世話になっていますが、基本的には完全に私個人のアイデアで、私自身が面白いと思っていて、実用レベルで使いたいからやっているものです。なので、SWATとAZ-GTiを組み合わせることについては、Unitecさんもサイトロンさんも、何のサポートもできないかと思います。そこら辺をご理解いただいた上で、ユーザーの工夫や改造改良で楽しめる天体趣味の醍醐味というものを、各自の責任で楽しんでいただければと思います。


会場内

SWAgTiの方はモニターでの解説もあるので、適度に席を立って会場内のブースを回ります。と言っても最近物欲はあまりないので、購入品は本当にちょっとしたものだけです。KYOEIさん名物のジャンク市も遠目で見ていて、少し空いた頃にちょっとだけ箱の中を覗きましたが、何か購入するには至りませんでした。

面白かったのは星見屋さんんところに置いてあった、笠井トレーディング製のStellaBino50でしょうか。アイピース交換可能の、50mmの鏡筒2本をくっつけた双眼鏡で、プリズムなどの余分なものが一切ないので、コントラストが極めて高いです。ちょっと欲しかったですが、今回は我慢しました。
IMG_9981

星見屋ではZWOのフルセットも置いてありました。AM5の初期型かなりの特価で出てるのが会場内で話題になっていました、この値段なら欲しい人も多いのではないかと思いましたが、その場の現金でとなるとちょっと考えてしまいます。また、展示されていた新型AM5の、電源ポート付きのアリミゾが便利そうでした。
IMG_9978

似たようなコンセプトのものがPegusas Astroにありますが、日本での販売はまだないみたいです。


これと比べても、赤道儀と一体なので、アリミゾの電源入力のケーブルを赤道儀内部から持って生きているのが強みですね。

サイトロンの注目はやはりSkyWatcherの太陽望遠鏡でしょうか。実際に太陽を覗く機会がありましたが、プロミネンスが綺麗に見えていました。挿してあったアイピースがズーム型のもので、簡単に拡大して見ることもでき、表面の模様の詳細がかなりよくわかりました。
IMG_9988

他にも太陽関連では、最近色々成果を出しているgariさんと直接話すことができました。エタロンのことなども普通に話ができたので、きちんと理解されて物事を進めているようで、素晴らしいと思います。私も近いうちにPSTの光軸合わせをやってみたいと思っています。SkyWatcherの太陽望遠鏡は先端につけたエタロンが実際に外れることがわかったので、(太陽望遠鏡の改造は当然メーカー非推奨ですが)改造のし甲斐があるとgariさんと盛り上がっていました。

17時からは集合写真の撮影です。司会者の説明によると、集合写真は全員参加が義務とのことなので(笑)、私ももちろん参加しました。オークションはちらっと見ていただけで、落札とかは全然していません。時折ステージからブラスバンドの音楽が聞こえてきたりですが、ずっと聞いているというようなこともなく、会場内をフラフラしていたか、暑かったのでUnitecブースで座って体力が無くならないように過ごしていたのがメインでした。

なんでUnitecブースに長居してしまったか?それは、なんと冷風器が置かれていたからです。星とは全然関係ないのですが、これすごいですよ。コンプレッサーが入っていて、本物のクーラーと同じで冷たい風が出てきます。湿気を取る代わりに水がポタポタ出てくるのもクーラーと同じです。シャツの中に風を入れると相当気持ちがいいです。消費電力は130W程度で、ポータブル電源でも結構な時間持ちそうです。本体値段を聞いたら1万数千円と全然大したことなかったので1シーズンで壊れてもいいくらいのコストパフォーマンスです。
IMG_0012

なんで星と関係ないこんなことを強調して書くかというと、去年から現地開催が復活した星まつりの際の暑さで、実際参っている人の話を何人も聞いているからです。3週間前の胎内星まつりで2日目に体調が悪くなって早退してしまった外山電子さん。かなり心配していたのですが、この日は元気に回復されていて、同じブースでお世話になりました。聞いたらやはり胎内では熱中症だったようで、しばらく体調を悪くしてしまい、この星もとがやっと復活しての最初の星活動だとのことでした。Unitecさんも去年の胎内でバテてしまったそうで、今年は暑さ対策ということで今回のクーラーを用意してきたとのことです。去年も今年もとにかく暑くて、星まつりに限らず、外での熱中症対策として私もこのクーラー欲しくなりました。

快適といえば、デモで出ていたクッションでしょうか。


IMG_9997

リンク先にもあるように、天文ガイドの9月号でも紹介されています。星見で寝転んで見るために使ってほしいとのことで、実際皆さんとても快適そうにしていました。


夜は星空

夕方段々と暗くなってきましたが、空を見ると、なんとほぼ一面晴れています。雨予報だったので大した準備もしてなかったのですが、せっかくなのでSWAgTiにRedCat51とUranus-C Proを載せて電視観望兼撮影でもしようと機材を出しました。ところが、手持ちのM1 MacでUranus-C Proを認識できず、諦めてもっと小さな、いつものFMA135と非冷却のUranus-CをSWAgTiに載せてしまいました。しかもSWATは使わずにAZ-GTiのみで、いつもの簡単な電視観望となってしまいました。唯一良かったのが、宣伝用に24インチモニターを使っていたので、それを利用してお客さんの方に向けて電視観望の映像を表示しました。
IMG_0014

せっかくの機会なのに、口径わずか3cmで申し訳ないと思ったのですが「それでどこまで見えるか、実際見てみたい」と言ってくれるお客さんもいたので、少し気が楽になりました。導入も少し不安定だったり、月齢12.3日のかなり明るい月もありましたが、それでもM57から始まり、M27、北アメリカ星雲、アンドロメダ銀河、三日月星雲と定番ですが、連続で見せることができました。

スクリーンショット 2024-09-15 193729


IMG_0016

アンドロメダ銀河を見ている時に、ちょうど隣で外山電子さんがPHQ80にGFX100のモニター画面でアンドロメダ銀河とか写していたのですが、私の電視観望の画面を見ながらひたすら「けしからん、けしからん」と言っていました。口径わずか3cmですが、PCがあるのでリアルタイムで画像処理をしているようなものなので、やはり炙り出しで大きく有利になってしまいます。「こんないい時代になって、けしからん」ということらしいです(笑)。


夜の会場をぷらぷら散歩

21時頃になると空がかなり雲に覆われるようになってきました。電視観望のライブスタックでも星が認識できなくなってドロップし始めたので、少し放っておいて周りをぷらっと歩いてきました。

その途中、3月の「星なかまの集い」でお会いした、惑星撮影の大家のKさんから「惑星を見るのにアイピースで見るのとモニターで見るのどちらがいいと思いますか?」と尋ねられました。私は惑星はアイピースで見た方がいいと思っています。でもKさんの答えは意外で、モニターで見た方がいいという意見が多いというのです。そこで、例えば月を考えました。月はモニターで見るより目で見た方がいいと思います。明るいので十分拡大してもよく、細部まで見えるからです。その一方、星雲は電視観望だとはっきりと色がついて見えるので、眼視とは全く別の楽しみ方だと思います。惑星は月寄りか、星雲寄りかと考えると、どちらかというと月よりだと思うので、アイピースで見た方がいいと思うのです。でもKさんは惑星は暗いと言います。結局Kさんがなぜこんな質問をされたのか、最後まで意図がわからなかったのですが、惑星を極めている方の意見です。何か深い考えがあるのかと思います。大ベテランのKさんですが、自分のやり方を押し付けたり、人がやっていることを否定したりするような素振りは一切なく、一緒にいろいろと考えさせてくれます。この質問もやはり答えが深いかもしれなくて、自宅に帰ってからも今も色々考えてしまいます。

KさんがいらっしゃったブースにC14があり、実際に土星を見させて頂きました。雲越しでしたが、さすが14インチだけあって、大きく拡大していても十分に明るいです。さらに面白かったのが、そのC14を載せている片持ちの赤道儀がどう見ても手作りで、聞いたら一から設計したとのことです。赤道儀だけで重さ40kgとのことなので、さすがC14を載せられるだけのことはあります。その赤道儀のコントローラーに、なんとVixenのスカイセンサー2000がまだ現役で使われているのです。私はSS2000については昔の雑誌で見たくらいの知識しかないのですが、赤道儀の制御を一般化させる画期的な機器だったと理解しています。コンピュータで言うとオープンアーキテクチャのIBM PCといったところでしょうか。当時のVixenは規格そのものをを立ち上げるくらいの勢いがあったことが伺えます。私的には、実際に動いているSS2000を見たのは初めてで、かなり衝撃でした。そこへ飛び込んできたのが外山電子さん。なんとSS2000をまだ7台も持っているというのです。天文界隈にはすごいベテランさんが多すぎです。

雲のせいもあり、会場全体がまったりモードだった気がします。Unitecブースに帰って空を見上げても、まだ一面雲でした。あと1時間くらいで晴れるかもと言う情報を聞きましたが、次の日のこともあるので、ここで片付け始めて帰宅としました。最後挨拶だけして、22時頃に会場を後にしました。


戦利品

この日の戦利品はわずかこれだけです。
IMG_0033

星を始めた頃はものが安く買える星まつりがものすごくありがたかったのですが、私は基本的には買ったものは売ったりしないので、自宅はすでにジャンク部品やあまり使わない鏡筒などで溢れかえっています。なので自分の中で星まつりに参加する目的も変わって来ているのかと思います。少し前までは電視観望の普及にも力を入れてましたが、最近はスマート望遠鏡も出て、普及という意味ではもう十分な気もします。今は人に会ったり、面白い話があったら議論したり、今回のSWAgTiみたいに面白いアイデアがあったら見てもらうとかがメインでしょうか。


帰り道

帰りの高速では、行きにも寄った南條SAで0時過ぎの夕食です。よく考えたら、売店で買ったサラダ巻きを少し食べただけで、まともな夕食を取っていないことに気付いて、夜中でしたがガッツリ食べてしまいました。
IMG_0020

自宅に到着したのは午前2時半過ぎだったでしょうか。そのまま片付けもせず、汗をかいていたのでシャワーだけ浴びてすぐに眠りにつきました。

会場滞在は12時間を切るくらいでしたが、ちょっと体調が悪い今の私ではこれくらいが限界です。次の月曜は祝日で、十分に休養を取りました。そういえば、胎内星まつりは滞在4−5時間でブログも書いていないです。小海も行くかどうか迷っています。今年はとにかくあまり無理をしないで、できる範囲でゆったりと星活動をしていければと思います。


友人が撮影した北アメリカ星雲の画像を触る機会がありました。画像処理は初心者で、有料のソフトは使っていないとのことです。あらかじめ画像をダウンロードさせてもらって、事前に処理しておいて、その結果を元に時間が合う時にZoomで繋いで画面共有しながら画像処理について検討します。

私としてはいい機会だったので、普段とは違う画像処理を試しました。というわけで、今回のブログ記事のお題は「全て無料の画像処理ソフトで進めた場合、有料のものにどこまで迫れるか」としてみます。

といっても、忘備録がわりの自分のメモ用の側面が強いので、あまり初心者向けの記事にはなっていません。需要があるとしたら、普段PixInsightとか使っていて、他の無料ソフトを試してみようかとか思うような、ちょっと珍しい人向けです。


有料/無料画像処理ソフト

ダウンロードした画像を、まず最初はいつも通りPixInsightとPhotoshopで進めます。撮影されたファイルはライトファイルとダークファイルです。フラットファイル、バイアスファイルはなしです。
  1. WBPPでダーク補正とスタック
  2. ABEの4次でカブリ取り
  3. SPCCで色合わせ
  4. BXTで星を小さくし
  5. GHSでストレッチ
  6. NXTでノイズ除去
  7. StarNetで恒星と背景を分離
  8. その後Photoshopに送り、仕上げ
となります。この流れはいつものことなので、詳しい処理内容は省きます。できた画像は以下のようになります。

masterLight_60_00s_ABE_BXTc_SPCC_BXT_GHSx2_NXT3_cut

一方、無料ソフトに制限すると、最近の状況を見るに、以下の選択肢が現実的ではないかとでは思っています。
  1. ダーク補正してスタックするのにSiril
  2. 同じくSiri上で色合わせとDeconvolution
  3. GraXpertに移ってフラット化とストレッチとdenoise
  4. StarNetで恒星と背景を分離
  5. その後GIMPに移って仕上げ
できた画像は以下のとおりです。

starless_result_PCC_deconv_stretched_GraXpert_cut

鮮やかさは誤差の範囲として、恒星の大きさ、背景のノイズ、明るいところの細かい構造などが大きな違いでしょうか。淡いところの構造は、無料の方が出ているかと思います。こうやってみると、有料ソフトと比べても、全然遜色なく、十分処理できていると思います。

各ソフトの詳しい操作などは他の解説にゆずるとして、ポイントのみ書いておきます。


まずはSiril



このブログではこれまでSirilについて述べたことはほとんどないのですが、最近のSirilはかなり使えるようになっていると思います。一時期試しに少し使ったことがあるのですが、結構頻繁に落ちて不安定なイメージでした。でも今は、少なくとも落ちるようなことはまずなく、普通に処理ができます。この「普通に」というのは結構重要です。まずストレスがなくなりますし、特に初心者にとっては自分の操作がダメなのかソフトのトラブルなのかの見分けがつきにくいと思うので、普通に安定に動くというのは目立たないけどとても大切なのかと思います。

いつもはPixInsightなので、Sirilの操作に慣れてはいなくてとまどうことはありましたが、検索すると解説記事などすぐに見つかり、その通りに進めれば簡単にスタックまで終えることができると思います。気がついたことのみ書いておきます。
  • 最初にワーキングディレクトリを決めること。画面左上の家マークのアイコンを押して指定してやることでしていできます。処理画像のたびに指定してやる必要があります。
  • 指定したホームディレクトリの下に、lights、darks、flats、biasesとフォルダを作って、撮影したRAWファイルをその中に分類して入れます。フォルダ名の複数のsとか、きちんと指定しないと「ファイルがみつからない」とかのエラーになってうまく処理されません。
  • スタックをするためには、左上の「スクリプト」タブを押して、処理したいプロセスを選びます。今回はライトとダークファイルのみだったので、それに合わせたスクリプトがありませんでした。実際スクリプトを進めようとするとヘルプが出てきますが、英語なのでちょっと面倒かもしれません。とりあえず書いてあることはhttps://gitlab.com/free-astro/siril-scriptsを開いて、必要なスクリプトをダウンロードせよということです。prepcocessingを開き、今回必要なフラット補正を省いた処理(バイアス補正も無いようです)「OSC_Preprocessing_WithoutFlat.ssf」を選び、ダウンロードします。
  • 問題は、これのスクリプトファイルをどこに置くかです。Windows版は説明が普通にすぐ見つかるのですが、Mac版の場合どこに置けばいいか迷いました。結局、Sirilのメニューの設定からスクリプトタブを選び、そこに書かれているフォルダ内にダウンロードしたスクリプトを置いてやれば認識されることがわかりました。ただ、そこに書かれているフォルダがそもそも存在していないことが多いので、改めて自分でフォルダを作ってやる必要があります。
  • スクリプトが認識されたら、左上の「スクリプト」タブを押して、今回落としたプロセスを選びます。すると処理が始まり、スタックされた画像が保存されます。
Sirilは、PixInsightに比べると指定できるオプションは圧倒的に少ないですが、むしろPixInsightの設定項目は多すぎて使いこなせていない方も多いと思います。初心者ならあえて迷うことがないSirilにするというのはありだと思います。PixInsightの方が細かい設定ができるので、いつかSiriで処理結果に不満が出てきたなら、PixInsightに移行することを考えるという道を辿ったほうが迷いが少ないかもしれません。

スタックまでに関していえば、有料のPixInsightだろうがステライメージだろうが、無料のSirilだろうがもっとシンプルなDSSだろが、結果に大きな違いはあまり出ない気がします。撮影ファイルの条件によっては、色々トリッキーなオプションがあるPIが有利とかはあるかもしれませんが、そこで出てくるような差があるなら撮影条件を見直してきちんとしたRAW画像を得る方が真っ当な気がします。なので、個人的な意見としては、スタックまでは有料無料の差はそこまで無いのではないかというのが今回の感想です。

違いが出るのはスタック後のリニア処理でしょうか。そもそもリニア処理というのも元々PI用語と言ってしまっていいのかもしれません。PixInsightでは例えば色合わせは、PCC、SPCCなどと進化してきました。Sirilにも同様のPCC (Photometric Color Calibration)があり、その際に恒星の認識できちんと位置合わせもします。なのでコンセプトはどんどんPIに近くなっていると言っていいのでしょう。ただ、やはり細かい設定とか、SPCCで基準フィルターまで考慮するとかなど、PIにまだ一日の長があるかと思いました。色合わせした結果だけ見ると、PIのPCCとSPCCでもそこまで差が出ないように、Sirilでも特に不満はありません。むしろ無料でここまでできることを素直に評価すべきだと思います。

決定的に違うのはBXT(BlurXTerminatot)の存在でしょう。収差、四隅のズレ、ピンボケ、ガイド流れなど、BXT以前では鏡筒や赤道儀の制御など、ハードウェアで改善するしかなかった高度な調整を、ソフトで相当なレベルまで補正してしまいます。また、星雲本体などの細部出しにもかなり有用です。特に入門用撮影鏡筒と高性能撮影鏡筒との差をかなり縮めてくれるので、初心者にむしろ使って欲しいところなのですが、今のところBXTはPIの上でしか動かすことができず、無料ソフトでは到底太刀打ちできません。BXTが単体で動くようになればいいのですが、BXTの為だけにPIを導入するのもアリなレベルかと思います。ただしPIと合わせると値段が...。


GraXpert

次のフラット化ソフトですが、有料ソフトでも未だ決定打はないのかと思っています。光学的なフラット補正は当然するのですが、それでも不十分な場合が多くて、 淡いところを引き出し切るにはさらにソフト的にフラット化をするのが必須になっています。

PixInsightだと、ABE、DBE、GC(GradientCorrectiopn)など、選択肢はそこそこあります。単純なフラット化は何を使ってもそこそこうまくいくのですが、画面一面分子雲で埋もれているような場合には、複数のフラット化処理をしたり微調整をすることなども含めて、かなり手間です。また、PI以外では有料ソフトも含めてフラット化に関する補正はあまり開発されていなくて、昔からPhotoshopなどを利用して画像全体をぼかして大まかな勾配を作り出しそれで補正するなどの手がとられてきました。PixInsight無しできちんとフラット化しようとすると、かなり手間がかかる割に、淡いところを引き出し切るのにはまだまだ不十分な印象です。


ここで出てくる、ある意味決定打に近いものが無料のGraXpertです。


GraXpertについては以前CP+の時に解説しました。

よかったら、リンク先の動画と共に以下お読みください。

GraXpertを使うと、あまりに簡単にフラット化できてしまって、かつ設定項目が少なくて細かい調整ができないので、私は普段はあまり使わないのですが、今回比較してみてびっくりしました。PIでかなり気合を入れて調整をし無い限り、淡い部分に関してはGraXpertが圧勝です。私は基本的GraXpertのエンジンにはKrigingを使います。他も試しましたが、少し時間はかかってもこれが一番良い結果を生むことが多いです。PixInsightで今検討されている、バックグラウンドまで参照データと比較するMARS機能が出たらまたわかりませんが、もう相当レベルまでGraXpertだけで良い気がしました。これで不満が出るならPixInsigtの各ツールを駆使するのが次の手ですが、はるかに時間もかかり結果を出すのも結構大変だと思います。

ストレッチに関しても未だに決定打はないと思っていて、PixInsightではHistgramTransformation、ArcsinhStretch、MaskedStrerchなどがあり、最近はGHS (GeneralizedHyperbolicStrertch)がでてこれが決定打かと言われています。またPixInsightのユーザーが作成しているスクリプトレベルでは、iHDRという輝度差が激しい天体に適用できるものが提供されたりもしています。でも選択肢がこれだけあるということは、ある意味決定打になっていないということでもあるわけです。GHSはかなりいいですが、操作がちょっと複雑で、初心者がいきなりこれを触るとあまりうまくいかないのではないかと思います。

ステライメージはほぼデジタル現像一択ですね。こちらはある意味迷うことはほとんどないのと、全て日本語で操作できるので初心者にも優しいのかもしれません。ただ、数学的にはデジタル現像はGHSのかなり限られた条件下での変換ということが蒼月城さんによって指摘されていますし、(私はまだ使っていませんが) SirilにもGHSがあることを考えると、今の時代有料ソフトならではのストレッチ方法をもっと提案して欲しいとも思ってしまいます。

そういう意味でGraXpertのストレッチを考えてみます。選択肢はどれくらいあるかというと、大まかなところではどれくらい適用するかの「強さ」くらいしかないので、これまたとんでもなく楽です。無料である程度のストレッチが簡単にできるということは、やはり特筆すべきです。というか、GraXpertはフラット化とストレッチと、次のDenoiseが3つセットになっているようなものなので、一緒にストレッチも使わない手はありません。でもGraXpertのストレッチが決定打というわけでは全然ありません。有料、無料ソフトともに、将来もっと発展するであろう部分の一つだと思います。

ノイズ除去も無料ソフトだけだとかなり限られてしまいます。BXTに続いて有料と無料で差が出るところでしょうか。有料での決定打はNXT(Noise XTerminator)かと思います。単なるノイズ除去ソフトやプラグインはAI対応も含めて数多く存在しますが、鋭い恒星を多数含む天体画像処理に使えるものは本当に限られています。一般のものでは遠目で見ると一見ノイズが小さくなるように見えるのですが、その弊害として恒星の形が大きく崩れることが多くて、ほとんどが使い物になりません。PIでも昔ながらのノイズ除去ツールは用意されていますが、今時のAIを考慮したノイズ除去ツールに比べると、少し見劣りしてしまいます。

GraXpertのDenoiseはそんな中でも数少ない、恒星とともに使えるノイズ除去です。しかも無料です。効果はNTXと比べると多少劣る感はありますが、そこそこ十分なレベルかと思います。少なくともGraXpertを使うついでなので、無料の中での選択肢を考えると、Denoise機能を使わない手はないと思います。

ノイズ除去ですが、次の恒星と背景と分離するツール、無料の場合は「StarNet」を使うと状況が一変します。恒星を分離して背景だけにすれば、あとは恒星の崩れを気にしなくて良くなるので、一般的なノイズ除去ツールを使いたい放題になります。ただ、言うまでも無いですが、過剰なAIツールの使用や、例えクラシカルなノイズ除去ツールだとしても、過度なパラメータなどは偽の構造や線、見た目に不自然な模様などを作りかねないので、程々に使うのがいいのかと思います。


StarNet



恒星と背景を分離するツールとしては、有料がSXT(StarXTerminator)、無料だとStarNet V2があります。私はSXTは試用で使っただけです。結果だけ見るとStarNetとそこまでの差はなかったので、無料で十分だと言う判断でした。でも、SXTの方が細かいところでいい結果だという意見も結構あるようなのと、そこまで高いソフトではなくて買い切りでアップデートもできるので、最初からSXTという手もありかもしれません。ただSXTは、PixInsightからか、Photoshop、Affinity Photoからしか動かないので、動かすための環境も有料になります。

それよりも、メンテナンス環境に無料と有料の差がかなりあります。StarNetは使うのが結構面倒です。Macだとはコマンドライン版しかないので、毎回ターミナルから走らせてコマンドを打って走らせる必要用があります。PixInsightを使うと、PixInsight内からStarNetを呼び出すことができるのである意味GUIになるのですが、PixInsightの大型アップデートのたびにインストールし直しに近い状態でセットアップする必要があります。Sirilからも呼び出せるので、こちらもGUIのように扱うことができます。コマンドライン版のStarNetをきちんと設定したとに、Sirilの設定の
siril_starnet
で、StarNetの実行ファイルを設定し、Sirilの「画像処理」->「Star Processing」->「StarNet Star Removal」から実行します。

元々のStarNetは天体画像ファイルから背景のみを作り出すという機能しかありません。PixInsightを使うとそれをPixInsight側で拡張して、恒星のみの画像ファイルも同時に作ってくれます。Sirilでも恒星画像も作ってくれるオプション(Generate star mask)があるので、こちらも便利です。

一方、Windows版のStarNetにはGUI版があるようです。私はWindows版は使ったことがないのですが、GUI単体で動くので便利なようです。ただし、このGUIは背景画像は作ってくれるのですが、恒星のみの画像を作ってくれません。しかもSirilから呼び出すと、このGUI版が直接呼び出されるだけで、やはり恒星のみの画像を作ることができません。おそらくWindowsでもコマンドライン版をインストールして、それをSirilから呼び出すようにすれば、恒星のみの画像を作るオプションが出てくると思われますが、私は今回は試せていません。

と、StarNetは結構面倒だったりします。この面倒さを回避するためだけに有料のSXTを使うというので、十分元を取ることができる気がします。ただ繰り返しになりますが、呼び出す環境も有料ソフトからになるので、ある程度の出費を覚悟する必要があります。


GIMPで仕上げ

恒星と背景を分離したら、あとは最後の仕上げや微調整です。個性を出すところでもあります。

有料だと仕上げまでPixInsightでやってしまう方も一定数いるかと思いますが、それでも最後はレタッチソフトを使うという方の方がまだ多いでしょう。Sirilだけで終えることができるかどうかはまだ私は試していませんが、そういった強者もすでにいるのかと思います。

レタッチソフトの有料版は、Photoshopがメジャーで、最近Affinity Photoが天体用にも話題になっています。Affinity Photoは結構良いという評判だったので、私も少し試用してから、締め切りが近くなった半額セールに負けて買ってしまいました。

Affinity PhotoはPhotoshopと違い買い切りでアップデートまでできるので、値段的にはかなり安くなります。機能的にもPhotoshopにかなり迫ることができますが、やはりこなれ具合など、まだPhotoshopの方がいい印象です。ただ個人の慣れもあるので、値段も考えると評価としてはトントンでしょうか。

Affinity Photoの方がいいところもあります。Photoshopは画像の処理過程の履歴を永続的に残すことができなくて、処理している最中はまだ元に戻れるのですが、ファイルを一旦閉じてしまうと、それまでにやって履歴は全てクリアされてしまいます。ファイルの中に記録するような手段は調べた限りないようです。どうしても作業を残したい時はレイヤーを多数使うなど、ユーザー側で何か工夫する必要がありますが、全部を残すのは現実的でないので、履歴は基本残せないと言ってしまっていいでしょう。一方、Affinity Photoはオプションで履歴を残すことができます。わざわざオプションで指定しなくてはダメですが、それでも手段があるとないとでは大きく違います。Photoshop用のプラグインも、昔のもので使えないものもありましたが、手持ちで最新のものにアップデートしているものは全てAffinity Photoでも使えています。

すみません、この記事は無料ソフトの検証なのにちょっと脱線してしまいました。Photoshopに相当する無料ソフトはGIMP一択でしょうか。


基本的なことは問題なくできます。操作性が少し劣る印象ですが、これは慣れもあるので個人的な感想の範疇かもしれません。それでもやはり有料ものと比べると差があるという感想です。

明らかに不利なところは、ノイズ処理があまりに貧弱なことと、Photoshopのプラグインが使えないことでしょう。あと、領域選択もPhotoshopのほうがかなり高機能で、いろんな手段があります。星雲の構造を出したいとかで、選択方法が限られると少し差が出るかもしれません。

GIMPでも基本的なことはできるので、天体画像処理も凝ったことをしなければ大丈夫です。よく使う機能といえば、レベル補正、トーンカーブ、彩度調整などでしょうか。レイヤー機能もあるので、恒星と背景に分離した画像の再合成もレイヤーを使うと簡単に「リアルタイムで見ながら」調整できます。

またちょっと脱線になりますが、私が画像処理をPixInsightで閉じてしまわずにPhotoshopに持っていくのは、このレイヤー機能があるからです。例えばStarNetで分離した恒星と背景画像の合成は、PixInsightだとPixelMathなどを使いますが、その都度計算させて結果を確認する必要があり、リアルタイムで見ながら調整というのからは程遠いです。一方、PhotoshopやGIMPなど、レイヤーがあればその場で見ながらリアルタイムで調整ができます。このレイヤー機能での差がある限り、PixInsightだけで閉じて画像処理を終えることは当分ないと思います。その意味ではレイヤー機能があるGIMPも十分使えることになります。

GIMPには、Photoshopで便利なCameraRAWフィルターに相当するのがないのが痛いです。ストレッチする前のリニア処理では人によってあまり差が出ないと思うのですが、ノンリニア処理では好みを入れたりして人によって仕上がり具合も変わってくるのかと思います。そこにこのCameraRAWフィルターの各種便利な機能を使うことで、簡単に効果的に調整を効かせられるので、好みや個性を出しやすいのかと思います。便利な機能なので、その反面、簡単に客観性や一般性を失うこともあります。それでも趣味としてはやはり楽しいのが一番だと思うので、加減しながら自分の好みで仕上げるのがいいのかと思います。GIMPにはこれに相当する便利な機能はなく、基本操作の組み合わせで工夫することになり、よりテクニックが必要なので、初心者には少し辛くなるのかと思います。


Zoomでの画像処理の様子

実際のZoomでの画像処理検討会は、上のようなことを試しながら説明して進めていったのですが、今回は特にどんな点に関して注目したかを書いておこうと思います。


1. ピント関連

まずダウンロードした画像では、少しピントがずれていたために、恒星が多少大きくなってしまっていて、真ん中が少し抜けてしまっていました。これは事前画像処理で試したところ、BXTを通すことで劇的に改善したので、無料ソフトに限るとなかなか手がありません。やはり大原則は、撮影時にできるだけきちんとピントを合わせるのが大事なのかと思います。せっかくの機会なので、私がよくやっている手動でのピントの合わせ方を説明しました。といっても大したことは言ってなくて、
  1. ピントを合わせる時に、一旦恒星が最小になったところを通り抜けて、再び大きくなるまで移動すること。
  2. 最小になった位置からどれくら移動したかを、指先でタッチした感触は、つまみを触った回数を数えるなどして、量として覚えておくこと。
  3. その覚えた量の分だけ逆方向に戻ること。
  4. 最小を通り抜ける時に、最小時の恒星の大きさを覚えておいて、それと比較して大きくなっていないかを、最後合わせこむ。
などです。


2. ディザリング

ダーク補正でのホット/コールドピクセルの処理のあとが、一部黒い点になって残ってしまいました。縞ノイズはほぼ何も出ていなかったようなので、ガイドはかなりうまくいっていたようです。その一方、ディザリングをしなかったので、こういった欠損的なものを散らすことができなかったようです。ディザリングは縞ノイズや各種欠点をうまく散らしてくれる、天体写真撮影ではある意味もう必須と言っていいくらいの標準的な機能なのですが、その貢献度があまり目立たないために軽視されることがあります。ディザーがないと画像処理に際して思わぬところで困ったりして、しかも縞ノイズとか今回の欠損のように、画像処理だと補正しきれないことに繋がることが多いです。「次回以降はディザリングをした方がいい」とアドバイスしましたが、「今の赤道儀だと外部ディザー信号を入れることができなかったり、たとえ外部信号を入れれたとしても、ディザー中にガイドを止めることができない」とのことで、難しいとのことでした。


3. トーンカーブのアンカー

トーンカーブでアンカーの使い方を説明しました。背景の色バランスはグレーに保ったまま、例えば今回のHαの淡いところを出したい場合などです。
  1. トーンカーブを赤だけが調整できるようにRを選択します。
  2. トーンカーブの山のピークの左側の斜右上がりの直線上にいくつか、複数の点を打ちます。これがアンカーになります。
  3. アンカーは、入力と出力が同じになるように、ちょうど直線の上に打ちますが、ずれた場合は入出力が同じになるように数値を見ながら調整します。トーンカーブの明るいところをいじっても、背景(山のピークの左側)の明るさが変わらないように留めておくという意味で、アンカーというわけです。
  4. あとは山のピークの少し右側を持ち上げると、アンカーのおかげで背景の色バランスは変わらずに、淡い赤い部分だけを持ち上げることができます。
アンカーはトーンカーブの右側にも何点か打って、明るい部分が持ち上がりすぎて白飛びしないようにするなどしてもいいでしょう。


5. フィルターと青成分

これは使っている光害防止フィルターに依ると思うのですが、多少なりとも青成分があれば、好みによってはトーンカーブなどで青をあえて持ち上げることで、諧調豊かな北アメリカ星雲にすることもできるでしょう。ただ、今回は上で説明したアンカーを使って青を持ち上げても、見た目ほぼ何も変化がなかったので、青成分のヒストグラムを見てみましたが、山の右側より明るいところにほとんど青成分が含まれてませんでした。今回のフィルターは2波長に絞ったかなり強いものなので、「もう少し青成分を通す弱いフィルターでもいいのではないか」という提案をしました。


6. 撮影時間とノイズ

今回はマスク処理に関しては説明しませんでした。ちょっと高度なことと、私自身がSirilでうまくマスクを作る方法と、GIMPでマスクを簡単に扱う方法を、よく知らないからです。マスクに関しては次回以降の課題としました。

私が事前に有料ソフトで処理したものはマスク処理も含んでいる(PixInsightでマスクを作り、Photoshopで適用)ために、背景の淡い構造があるところのノイズを目立たなくする目的で、星雲本体にマスクをかけて、背景のみに結構強めのノイズ処理をしています。その一方、無料ソフトだけの場合はマスク処理はしていないので、背景のノイズ処理は大したことをしていません。でも両者を比べると、背景のノイズ処理はあまりしない方が自然に見えているので、無理にマスク処理とかしなかった方がよかったのかもしれません。

そう言った意味で、「淡いところのノイズを減らすためには撮影時間を伸ばすことが重要」という説明をしました。特に今回の鏡筒がFMA135ということで口径わずか3cmなので、口径を大きくすることも背景のノイズを改善することになるかと思います。


と、大きくはこれら6つのことを言ったかと思います。改善につながる余地があるところです。その他は基本的なことも含めて、すでにかなり勉強して理解していたので、検討会も順調に進み、19時半に初めて22時前くらいまでの2時間強で色々議論できたのかと思います。


まとめ

少し長くなったのでまとめます。
  • 無料ソフトに限った画像処理でも、かなり有料ソフトに迫ることができる。
  • 具体的には、スタックと色合わせまではSiril、フラット化とストレッチとノイズ除去はGraXpert、仕上げはGIMPなどが使える。
  • ただし、恒星の補正と背景の細部出しに有利なBXTは、有料ソフトであるがかなり強力で、無料ソフトの使用だけに限ってしまうと、BXTの有り無しで大きな差が出る。特に高価な機材を使う機会が限られている初心者にこそBXTを使ってもらうことで、機材や画像処理テクニックの差を縮めてもらいたい。
  • 恒星を含む天体画像専用のノイズ除去に関しては、有料の方が有利であるが、無料だとGraXpertが使える。恒星と背景を分離して背景のみに適用するなら、天体画像専用でない一般的なノイズ除去ソフトが使える。
まずは余分なお金を使わないで無料ソフトで画像処理を進めても、もう全然良い時代になっているのかと思います。最近はSirilとGraXpertがその牽引役なのでしょう。あとはBXT相当の無料版があれば...。

2024年9月13日、ずっと天気予報が悪く中止になりそうだった富山駅前ゲリラ観望会。このゲリラ観望会、5月以来の今年2度目になります。 

午後は結構雨が降ったりしていたのですが、夕方に近づくにつれ少しづつ青空が見えてきます。メーリングリストでゲリラ観望会決行の知らせが入ります。富山のアマチュア天文家が富山駅前に集合です。

私が到着したのはちょっと遅めで、もう暗くなっていた19時過ぎ。すでに望遠鏡は10台くらいは出ていたでしょうか。駅の南口からの人の流れに沿ってズラーっと望遠鏡がならんでいるので、俄然注目を浴びます。何人かの方から「今日は何か特別な日なのですか?」と聞かれました。「富山の天文好きが集まってボランティアで望遠鏡を除いてもらっています。今日は月が綺麗ですよ。」などと答え、並んでいる望遠鏡を勧めます。月齢10.5日で月がそこそこ明るいので、クレーターもよく見えます。途中から土星も見える高度に上がってきます。今日のメインは月と土星でした。

IMG_9954

IMG_9959

私はというと、駐車場から駅前まで少し距離があるので、いつもの手軽なFMA135電視観望セットです。富山だと一番お客さんが多い観望会になるので、ちょっと無理して24インチモニターとAC100Vが出せるバッテリーを運んだので、ちょっと大変でした。

私も最初は月からです。いつも初期アラインメントに使うベガもデネブも、アルタイルさえも、ちょうどこの時間だとかなり高い位置にあり、候補に上がってきません。明るくて大きな月を初期アラインメントに使うと楽です。最初に月を自動導入して方向がずれていても、画面を見ながら三脚を直接ずらしたり、トラバースの固定ねじをゆるめて高さ方向を回転させて調整したりもできるので、プレートソルブなんか使わなくてもへっちゃらです。

初期アラインメント後、お客さんには`しばらく月を見てもらい、その間に外部モニターを用意します。2画面が用意できたら、いよいよM27を入れて星雲です。前回の5月はシーズン的に星雲がほとんど見えなくて、かといって銀河を見るにはFMA135では焦点距離が短すぎたので、夏シーズンになり満を辞しての駅前星雲となります。

IMG_9960

地方都市といっても、さすがに新幹線がメインで止まる駅なので、駅前はかなり明るいです。それでも電視観望ならM27くらいは余裕で見えます。一般のお客さんは星雲そのものにあまり馴染みがないので、むしろ望遠鏡の小ささに驚いてくれます。「今は超高感度のカメラが使えるので、こんな小さな望遠鏡でも淡い星雲が見えるんです」とか説明して、机の下の脇に置いた小さいFMA135を見てもらいます。「間違って蹴飛ばさないでくださいね」と一言添えるのですが、その後に「小さいのでこれまで何回か実際に蹴飛ばされてます」とか言うと「確かになぁ」というような反応が返ってきます。

最近の電視観望は、M1 Mac上のVMwareで動かすARM Windows11でSharpCapを動かしています。今回は特にMacで動かしているStellarium画面との比較が役に立ちました。WMwareだと SharpCapの画面と、Mac上のStellariumとの切り替えは、3本指でタッチパッドを左右に振るだけなので、ものすごく速くて楽です。駅前なので空を見上げてもほとんど一等星しかみえません。顔を上げて真上を見てもらうと、夏の大三角はなんとか見えます。夏の大三角の大きささえ感覚的にわかってもらえれば、Stellaiumの画面上で夏の大三角を見てもらって、赤枠で示された電視観望で見る視野の広さを確認してもらって、その視野をさらに拡大すればStellariumでM27が見えてきます。その後に画面をパッとSharpCapに切り替えて「これが今実際に望遠鏡で見ている亜鈴状星雲です。同じ形ですよね!」と説明するのです。実際のM27がかなり小さく、目で見ただけでは到底見えるものではないということ、望遠鏡で見るとカラフルな天体が宇宙には存在していることなどを実感しらもらいます。

その後、北アメリカ星雲を入れたりして、スマホの画像検索で見つけた北アメリカ大陸の地図の形と比べたりします。北アメリカ星雲はこんな明るいところでも思ったよりよく見えました。どうもこの日は透明度が良かったようで、自宅に帰ってから空を見上げたら、この季節は霞んでよく見えないことが多いはくちょう座の形がはっきりわかるくらいでした。
IMG_9961

あとは定番のM57ですが、これは輝度が高いので駅前のような明るいところでも余裕で見えます。
IMG_9962

時間的にはもう昇ってきているはずだと思い、アンドロメダ銀河も入れてみました。まだかなり低い位置にあって、どうも駅前ターミナルの大型の屋根の反射光を拾うようで、迷光で画面が明るくなりすぎです。銀河の存在のものはかろうじてわかるのですが、ライブスタックするには明るすぎてサチってしまい、こちらは諦めました。気を取り直して三日月星雲に移動したのですが、こちらも大して見栄えが良くなくてお客さんウケもイマイチだったので、再びM27に移動してしばらく放っておくことにしました。

スクリーンショット 2024-09-13 205827

電視観望の間、お客さんもかなりきてくれました。4人組の女子高生のうちの一人がM27を見て「感動した」と言っていたのが印象的でした。21時過ぎになって、そろそろ撤収の準備をしてくださいと指示がありましたが、結構グダグダとしていて、まだお客さんや県天メンバーとのんびり話しながら、他の望遠鏡がかなり片付いてきてから、やっと私も片付けはじめました。

それにしても天気が良くてよかったです。今日の朝の時点では中止になるかと思っていたくらいです。駅前なので、富山でやるものとしては最も多く人が集まる観望会と言っていいでしょう。普段あまり星を見るようなことがない人達にもあピールできるところもいいです。今年は年2回のゲリラ観望会でしたが、来年もこれくらいのペースで開催できればと思います。


2024年9月7日、7月に続いて今年2回目の飛騨コスモス天文台での観望会です。

でもこの日の富山は朝からどん曇り。天気予報は富山はまだ晴れですが、コスモス天文台のある数河高原はほぼ曇りで時々晴れですが、時間と共に予報が悪くなっている様子。「富山でこれだと何も見えないな」と思いながら、「もしちょっと見えたらくらいで、まあ機材も最低限でいいか」とほぼ普段車に積んであるような機材だけにします。あ、子供用に一応スコープテックの6cmの屈折だけは載せました。

ところが、国道41号線を南下するに従って、結構青空が出てきてます。現地に着いた頃には、多少雲がところどころにぷかぷかしてましたが、なんとほぼ一面青空です。「しまった、撮影機材持ってくればよかった」と思いながらも、もうどうしようもありません。

その後まだ壊れていたドームの修理をするのですが、この日は絶不調で元の配線を記録し忘れるという体たらく。途中でかんたろうさんがきて、モーター関連の配線を説明してくれて事なきを得ましが、下手したら開けたドームが閉まらなくなるところでした。でもドームのチェーンが噛みかけていて負荷が大きくて、結局修理に至らず。ちょっと別の方法を考える必要がありそうです。

そんなこんなで、ドームの外に出たらもう結構暗くなりかけていて、細い月がもう沈む少し前くらいになっていました。早速準備を始めます。とりあえずスコープテックの屈折で月をすぐに入れて、少しだけ見てもらいますが、程なくして低空の雲で見えなくなってしまいました。


少しだけ電視観望

その間に、電視観望の準備です。機材は限られていて、いつものFMA135にCBPとUranus-Cをトラバースに乗せます。PCはM1 Macの仮装WindowsでCMOSカメラに繋ぎます。PlayerOneのカメラならもう観望会でお客さんがいたとしても、完全実用レベルです。早くZWOもARM  Windowsに正式対応してくれるといいのですが。Macは画面が大きくて映りがやはり綺麗だし、バッテリーがかなりもつので、電視観望用途で改めてWindows  PCと比べると、かなり使い勝手がいいです。この日の準備はサクサクっと、10分もかからなかったでしょうか、M27を入れて声をかけると人が集まってきました。

スクリーンショット 2024-09-07 193625

といっても、この日のお客さんの数はそれほど多くはなく、全部で10人程度だったでしょうか。途中天気がいいのでもっと集まるかと思ったのですが、意外に少なかったです。Stellariumを使って、M27がどれくらいの大きさかを実感してもらいます。Stellariumで見える夏の大三角と、実際の空で見える夏の大三角を比べてもらい、M27の位置と大きさをStellarium上で確認してもらいます。Stellariumには今使っている鏡筒の焦点距離とカメラのセンサーの大きさを入力することで 、今見えている画角をStellariumの画面上に赤い四角で示すことができます。その資格の範囲をM27に合わせてStellarium上での見えたものと、実際の電視観望でSharpCap上に見えた形がほぼ一緒なことがわかると、見ている画角の実感が湧いてきます。M27はM57とかに比べたらかなり大きいのですが、夏の大三角の大きさと比べるとそれでも目で見るには小さすぎることもわかります。それを口径わずか3cmの、ミニ三脚とトラバースに乗せた、すぐに蹴飛ばされそうな地面に転がっている小さな望遠鏡で見ているというのが、これまたインパクトがあります。

Stellarium上でちょうど北アメリカ星雲が見えたので、次は北アメリカ星雲に移ります。北アメリカ大陸の形をネットで画像検索すると、皆さんすごく納得していました。でも、なぜが画面に映る北アメリカ星雲がいまいち見栄え良くありません。今環境ならもっとくっきり見えていいはずなのにと思って、改めて空をよく見たら少し雲がかかり始めています。「あー雲が出てきてますね。」とか言っていたのも束の間、雲がどんどん濃くなり、ライブスタックでも星を認識できなくなったようで、画像をドロップし始めました。

かんたろうさんが「ドブでまだM27が見えている」と言っているので、眼視と電視観望と比較してもらおうと思い私の方でもM27を入れたのですが、もうかなり見えにくくなっています。私がM27を入れている間に「眼視の方で確認してきてください」と勧めたお客さんも、結局眼視でも見ることはできなかったみたいで、それ以降は雲が一面を覆ってほとんど何も見ることができなくなってしまいました。


ちょっとだけ土星

かろうじて東の低空がまだひらけていたので、ちょうど出始めていた土星を見てもらうことにしました。2つ穴ファインダーのスコープテックで導入しますが、かんたろうさんの45cmドブの方が導入が早くて「負けたー!」となってしまいました。敗因はちょっと雲がかかっていたので土星もそこまで明るくなく、二つ穴ファインダーだと穴を通して見るには少し辛かったことです。かんたろうさんの星座ビノファインダーは多少なりとも倍率があり明るく見えるのが有利なのだと思います。

土星は口径6cmの屈折でも、小さいながらもまだ綺麗に見えました。輪っかもかなり細いですが、きちんと見えています。その土星も程なくして見えなくなってしまい、もうまったりモードで話し始めます。


ゲストがお二人

この日は飛騨地方のFMラジオ曲のアナウンサーの方が来ていました。事前情報によるとかなり綺麗な方らしいのですが、真っ暗な中なのでほとんど認識できず。まあ、天文あるあるですね。今回は赤道儀の使い方を学びたいということで来てくれたのですが、あいにくの天気で次回以降に持ち越しです。この方、星空案内人の資格を持つほど星好きな方で、近くの近くの道の駅にある「カミオカラボ」にも行って、ラジオで紹介したりしているとのことです。
IMG_9803

というわけで、この日のもう1人のゲストはそのカミオカラボの解説スタッフの方です。ご存知の方も多いかと思いますが、この飛騨地方は山の中に宇宙物理の一大研究施設群があり、このカミオカラボでは展示されている実験装置などを通してその内容を知ることができます。この方、物理出身とのこと。私も物理出身なので、天文界隈での肩身の狭さについて妙に話が合って、ずいぶん盛り上がりました(笑)。


天体写真で盛り上がる

雲がかかってからは、そのゲストお二人と、来てくれていたお客さんも一緒に、かんたろうさんの「何か見せるものないの?」という提案で、天使観望用に使っていたMacをテザリングでネットワークに繋ぎ、私がブログにあげた写真を見ながら、会話を楽しみました。今回見たページはこのブログのトップバーからもリンクが貼ってあるここ「Nebula」になります。


このページは私がこれまで撮影した天体をまとめてあります。

メシエ順、NGC順、IC順とかになっていて、一番最初のM1:カニ星雲はここ飛騨コスモス天文台に以前据え付けてあった口径25cm、焦点距離3000mmのニュートン反射型鏡筒で撮影したものなので、この場で見せると臨場感があります。

M27:亜鈴状星雲はこの日電視観望でも見えていたもので、露光時間を増やすと蝶の羽みたいな模様があることを説明します。かんたろうさんは眼視で見た時にどうやって導入するかを解説してくれました。「や座」の先端の星から90度曲がると導入できるとか、近くに小カシオペアの「W」の字が見えるとかです。ちょっと電視観望がどうなっているか見てみたら、雲が少し薄くなったのか、かろうじてですがM27が映っています。電視観望だとリアルタイムで見ることになるので、実際に見ている方向を望遠鏡が指している方向で確認するなど、こちらも臨場感があります。電視観望の画像では、上の画像にもあるような、小カシオペアのWの上の3つの星が見えているのがわかりました。

M31:アンドロメダ銀河の所では「今日晴れていたら肉眼で見えるかアンドロメダ探しができたのに...」とか、M45:プレアデス星団とその拡大図のところでは、スバルのことを知っている人も多くて「青色が綺麗
!」とかの感想が聞こえてきました。

他にも馬頭星雲魔女の横顔など、名前と星雲の形を比べることで皆さん興味を持ってくれるようです。M78星雲のところでは鉄板のウルトラマンの故郷の話をして、元々はM87の設定だったこと、M87がブラックホールでジェットが出ていて、ジェットもかろうじて見えたことなどにつなげます。

おとめ座銀河団のところではアノテーションの画像を見せて、なぜ乙女座の方向に銀河がたくさん見えるのかをクイズとして出しました。お客さんはもちろん、ゲストのお二方にも考えてもらいました。答えは「天の川の方向は星がよく見える」ということですね。逆の言い方をすれば、「天の川のない方向には星があまりないので、『星に邪魔されずに』銀河がよく見える」ということです。物理の人ってあまりこういったこうとに興味がないことも多くて、カミオカラボスタッフの方も答えられませんでした。私も星を始めてから得た知識です。ここからさらにかんたろうさんが、「おとめ座は春の方向ですが、じゃあなぜ秋の星座の方向には銀河があまり見えないのでしょう?」というクイズを出してくれました。これは私も知らなくて聞いてみたら「我々の銀河はおとめ座銀超河団(局部超銀河団ともいうらしいです)に属しているけれどもかなり端の方にあり、よく銀河が見える方向がその銀河団の中心方向、反対側はさらに端の方を見ていることになる」ということでした。さすが天文暦30年以上というだけあって、かんたろうさんは色々知っています。


結局晴れずに撤収

天体写真を見ながらの話が散々続いたのですが、それぞれの写真のところで色々話が盛り上がるので、結局小一時間話していたことになるでしょうか。最後アイリス星雲の写真で「アイリスはあのアヤメのアイリスか?」という質問が出たりで、締めとなりました。最後に「星が見えなくても、こうやって話を聞けると来た甲斐がある」というようなことを言ってくれた人がいました。天体写真だけでこれだけ長く話すことはあまりないのですが、私も意外なほど楽しめました。

21時半頃だったでしょうか、その頃にはうっすらと星が見えている方向もありましたが、結局観望するまでには至りませんでした。一部の人には星座ビノを使ってもらって、雲があっても方向によっては目で見えない星が星座ビノだと見えるということを実感してもらいました。

その後も晴れることはなく、ずっと厚い雲のままで、お客さんも少なくなってきて、22時には撤収となりました。前回の「謎の鳴き声事件」と次の日の昼間の「隣のグランドでの熊目撃事件」のこともあるので、少人数で長居するのはちょっと怖いです。

帰り道、夕飯を食べてないことを思い出し、自宅近くの24時間営業のすき家で「月見すきやき牛丼」の大盛りを食べて満足して自宅に戻り、富山の空も曇っていることを確認してすぐにベッドに潜り寝てしまいました。今年は雨も多く、なかなか晴れてくれませんね。


まとめ

せっかくの観望会でも曇り空でほとんど見えなかったですが、天体写真を用意しておくと、それだけもかなり盛り上がります。その際、画面はできるだけ大き方がいいでしょう。今回はMacBook Proだったので、そこそこ大きな画面でした。Macはバッテリーの持ちが長いので、電視観望していても、それを切り替えて他の目的に使ったとしても、あまり気を使う必要がなく長く使えるのがいいです。


このページのトップヘ