ほしぞloveログ

天体観測始めました。

2024年08月

最初の予報だと28日の水曜に富山かとか言っていた台風10号ですが、ずっとノロノロで進んでいるのか止まっているのか、予報でもどちらに行こうとしているのかわからないのですが、結局富山に来るのは週明けの月曜とか火曜とかになりそうです。そんな土曜の夕方、家族は外で食べてくるとのことなので、自分は近くのかつ家でカツ丼を食べ、外に出てみると意外に晴れています。ちょうど科学博物館の観望会が始まりそうな時間だったので、ちらっと寄ってみることにしました。

それでも台風前なので、何か少しでも見えたらいいやくらいの気持ちで科学館に到着して広場に出てみると、何と一面の晴れです!

実はほとんど何も準備してこなかったので、車にある機材で最低限の電視観望です。いつものFMA135とトラバースとUranus-Cは積んであったのでラッキーでした。PCはカバンの中に入っていたM1 MacのVMware上のエミュレータ上のArm Windowsです。机は車に積んであったのですが、いつもの天文椅子は玄関に置きっぱなしだったので、キャンプ用の椅子で代用です。機材は何とかなったので早速セットアップを始めますが、流石に全く準備をしてこなかっただけあって、トラバースは電池切れ、Arm Windowsのディスプレイの解像度は全然安定せず。土壇場での観望会はやはりなかなか厳しいです。

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それでもリクエストされた北アメリカ星雲を入れてみると、透明度がかなり良いのか、富山の中心街に近いのによく見えます。悲しいのは、流石にこんな台風前に星を見ようとは思わないようで、お客さんがすごく少なかったことです。せいぜい3−4組でしょうか。このひはカターレ富山の試合があり、24時間テレビもあり、台風前なので皆さん自宅でおとなしくテレビでも見ているのではとのことでした。

最初北アメリカ星雲を見ていたのですが、バラフライ星雲を見たいというリクエストが小さな女の子からありました。さそり座方向ですが、低いのと何より小さいんですよね。焦点距離135mmでは如何ともしがたく、代わりにM8: 干潟星雲とM20: 三裂星雲を見てもらいました。あまり高い空ではないのですが、雲も少なく、よく見えていました。
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そんな中もう一人、すごい女の子がいました。北アメリカ星雲を見せたら北アメリカ大陸の地質とかを話し出すし、アンドロメダ銀河を見せたら30億年後に天の川銀河と合体するんだとか、なんか異常に詳しいです。年齢を聞いたらなんと5歳。「将来は天文学者かな?」と聞いたらキッパリと否定して「違う、古生物学者!」と一言。お母さんによると、恐竜も大好きだなんだそうです。宇宙も大好きらしくて、この富山市科学博物館の観望会もここ半年くらいほぼ毎週来ているとのことです。多分これまでも会っているはずですが、話したのは今回が初めてだと思います。帰る時に「また来週」と言っていたので、これからも会えるかと思います。将来どうなるか、今から楽しみです。

今回の電視観望は眼視との比較が多かったです。M13: ヘルクレス座球状星団とM31: アンドロメダ銀河は眼視でも見えたようです。
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電視のほうではM31の渦もなんとかわかり、M32とM101もわかったので面白かったみたいです。
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M27は眼視では厳しかったようです。M57は輝度が高く見えるのですが、M27はそれに比べると大きけれども淡いんですよね。
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眼視では土星やアルビレオも見せていたようです。C11が出ていて、終了間際に海王星を入れてくれていました。私も見せてもらいましたが、きちんと面積があり、青っぽく見えていました。

お客さんが少なかったので、アットホームな観望会の雰囲気でした。来ていた子供は小さい子ばかりだったので、21時には終了して撤収です。撤収後、スタッフさんとボラティアさんの何人かで室内に入りお茶を飲みながら話していたのですが、ボランティアさんの一人がSORA-Qという月探査の小型ロボットを持ってきて、机の上で動かしていました。JAXAとタカラトミーの共同開発で発売しているロボットらしくて、昨年発売開始ですぐに完売してしまい、一年経ってやっと次の配布が始まったそうです。この方は春に予約して、やっと購入できたそうです。金属製で、カメラもついていて、値段もそこそこ。スマホで操作できます。おもちゃメーカーが作っていると言っても、おもちゃというよりロボットです。でも、本物の月探査機のように、砂の上を走らせようとするとギヤに砂が噛んでしまうので「あくまでホビーだ」と、オーナーの方は言っていました。

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帰り際に空を見上げたら、もうすでに全面曇り。自宅についてからもずっと曇りなので、本当に観望会の時だけ晴れてくれていたようです。

台風で全く期待していなかった観望会ですが、透明度もかなり良く、多分科学博物館で見せた電視観望ではこれまでで一番綺麗に見えた口ではないでしょうか。せっかくの好条件だったので、もっとお客さんが来てくれればよかったのに...。

前回記事でSWAgTiのディザー撮影ができたことを書きましたが、書ききれなかったこともあるので、少し補足します。


機材

鏡筒ですが、最近手に入れた新機材でRedCat51です。と言っても新品ではなく、譲り受けたもので、IIでもIIIでもなく初代です。

富山県天文学会のK会長が4月に逝去されました。2016年の5月、星を始めたときに牛岳で誘われて入会して以来、折につけお世話になっていました。会内では最もアクティブな方で、とにかく天気さえ良ければいろんなところに顔を出して星を見てた方です。星や宇宙の解説が大好きで、普通に来てた一般の人にも、いつも分かりやすく説明されていました。昨年末くらいからでしょうか、急に痩せられて、体調を悪くされているようでしたが、3月の役員会には顔を出されていたのに、まだ60代半ばで、あまりに早すぎるお別れでした。熱心な方だったので、当然大量の天文機器があるのですが、遺族の方のご好意で、できれば皆さんで使ってくれないかということで、私はRedCat51とEOS 6Dを格安で譲っていただくことになりました。ちなみにK会長、6Dがよほど気に入っていたのか、3−4台もあって、私はその中であえて1台だけあった無改造機を選びました。私が持っている一眼レフカメラは全て天体改造をしてあるもので、ノーマル機を一台も持っていなくて、普通の景色も少しは撮ってみたいと思っていたので、実はとてもありがたかったのです。

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撮影用のコンパクト鏡筒としてはこれまで主にFS-60CBを使っていましたが、赤ハロ青ハロ問題を避けたいというのがありました。これはFS-60CB特有の問題で、ピント位置が赤と青で微妙にずれていて、赤か青のどちらかのハロがどうしても出てしまうというものです。ジャスピンが難しく、赤と青を均等になるように合わせたりしてきました。また、FS-60CBにレデューサをつけると焦点距離が250mm程度になるのですが、周辺星像がすこし流れるのも気になっていたこともあり、250mm程度の短焦点で性能の良い鏡筒を狙っていました。実は最近はBXTがあるので、これらのFS-60CBの欠点はソフト的にかなり解決できますが、やはり撮影時に解決したいという思いがあります。

RedCat51を使ってみて驚いたのは、周辺減光の少なさです。今回使ったカメラがUranus-C Proでセンサーサイズが1/1.2インチと決して大きくはないのですが、オートストレッチで強あぶり出ししてもほとんど周辺減光が確認できませんでした。なので、簡単撮影という目的も考えて、今回あえてフラット補正をしませんでした。さらにいうと、PixInsight上でもなんのフラット化もしていません。普通は周辺減光とかあると、輝度差で淡い部分のあぶり出しがうまくいかないはずです。でも今回はフラット補正も、ABEも、DBEも、GCも、本当に何もしていないのですが、きちんとM27の羽まで見えるくらい問題なく炙り出しができています。これは今までにない経験で、RedCat51の性能の高さの一端を見た気がしました。

前回記事でも見せましたが、改めて何のフラット補正もしていない、WBPP直後の画像を載せておきます。M27の周りを広い範囲で撮っているのってあまり見当たらないので、本当は背景の構造を出したかったのですが、今回の2時間では全然ノイジーです。でももうSWAgTiで長時間露光も楽にできるので、天気がいい時に放置で10時間とか露光しても面白いと思います。
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カメラですが、M27は結構小さいので、センサー面積が小さく、夏場なので冷却ができるものというので、PlayerOneのUranus-C Proを使いました。CP+で使わせてもらったカメラです。PlayerOne社のカメラの特徴の一つ「DPS」も魅力で、これでホットピクセルはかなり軽減されるはずです。実は今回、ダーク補正を全くしていません。PixInsightのCosmetic Correctionのみ使いました。それでホットピクセルやクールピクセルは全く問題にならないレベルになったので、お気楽撮影にふさわしいカメラだと思います。

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iHDRがすごい!

今回初めて使いましたが、PixInsightのストレッチの中でも比較的新しい「iHDR」がすごいです。M27の星雲本体とその周りの淡い羽の部分には相当な輝度差があり、普通のストレッチでは両方を同時にうまく出すことができません。そのため、一般的にはマスク処理が必要となるのですが、今回は部分的なマスクを使うことなく、ほぼ自動で輝度差が出ないようにストレッチすることができました。

iHDRの説明についてはこちらをご覧ください。
 

インストールは

https://uridarom.com/pixinsight/scripts/iHDR/

をレポジトリに登録して、アップデートをチェックするだけです。インストールされたiHDRはメニューの「Scripts」の「Sketchpad」の中に入っています。

パラメータですが、iHDRでMaskStrengthを倍の2.5にしてより明るい部分を抑え、Iterationを3にしだけで、あとはデフォルトにしました。中心の明るい部分を十分に抑えることができました。
  1. まず、背景が何回くらいIterationすれば適した明るさになるか、何度か繰り返して試してから確定します。
  2. 星雲本体の輝度差がまだ残るようならMaskStrengthの値を増やして、これも何度か調整してみます。
一度試すたびに、Undoで元に戻してから再度パラメータを変えて試し、値を確定していくと楽かと思います。その際、Undoは一度で元に戻らないことがあるので、Undoアイコンのところにカーソルを持っていって、ちょっと待って、何の作業を戻すのか表示されるのを確認すると良いと思います。これがPixelMathと表示されるうちは、まだUndoしきれていないです。

iHDRの後は、NXTでノイズを軽く落として、StarNet++で恒星と背景を分離して、最後Photoshopに渡して仕上げますが、ストレッチまでかなり仕上がりに近い形で済んでいるので、Photoshopでは軽く好みに処理するだけで済みました。


SPCC

もう一つ、PixInsightでの色合わせツールのSPCCを少し使い込んでみました。実際にはWBPPでスタック後にすぐに試したことです。

今回は光害防止フィルターとして、サイトロンのDual Band Pass (DBP) フィルターを使いました。これまではSPCCのナローバンドモードを使って適当な波長幅を指定していましたが、いい機会なのでフィルターをきちんと設定することにしました。参考にさせて頂いたのはだいこもんさんのこのページです。
 

同ページにだいこもんさん自身が作ってくれたフィルター用ファイルが紹介されていて、その中にDBPのファイルもあったので、それを使わせて頂きました。フィルターを設定して公開してくれているだいこもんさんと、さらにオリジナルのJason Coonさんに感謝です。

だいこもんさんによると、カメラがASI294MCの場合はSonyのCMOSの標準フィルターでいいとのことでしたが、Uranus-Cで使っているIMX585は特に赤外の感度が高く、標準の応答とは少し違っています。いい経験になると思い、ついでにIMX585用のカラーフィルターを作ってみました。

実際自分でフィルターデータを作ってみるとわかりますが、cvsファイルの1箇所に波長情報を全て入れるとか、透過率も1箇所にいれるとか、結構面倒です。また、メーカーのグラフから値を読み取るのですが、読み取りソフトはだいこもんさんお勧めのPlotDigitizerを使いました。面倒だったのは、赤外の領域ではRGBの線が重なっていて、グラフで一番上の色(この場合青でした)しか読み取ることができず、後から赤と緑に同じ波長の青の線を近似的に追加するなど、少し加工が必要だったことです。

IMX585_R
IMX585のR曲線ですが、長波長側は青線と重なっていて直接読めないので、
青線から起こしています。


自分で作ってIMX585とDBPの応答を合わせて、今回の撮影に合わせた応答を作りましたが、結局2つのグラフを合わせると、ただの一本線になってしまうので、IMX585のデータを作った意味があるかどうかはちょっと疑問です。でも面白いのは、例えば下のBグラフでは、長波長の赤の領域にも線があるんですよね。
DBP_IMX585_B2

これはIMX585がRGBともに長波長に感度があるからです。だからBもGも実は赤を少し含みます。どれくらいの割合かというと、B曲線ではBが0.44に対してRが0.07と16%程度、G曲線ではGが0.78に対してRが0.17と22%程度と、無視できないくらいの結構な割合で含まれることになります。カラーカメラとDBPはモノクロカメラで撮ったAOO相当になると思うのですが、DBPでは赤と青でのっぺりせずに多少なりとも色調が豊かに見えるのは、この余分な色の成分のせいなのかもしれません。ちなみに、R曲線にもGがすこしまざりますが、Rが0.96に対してGが0.03とごく僅かなので、こちらはあまり効いてこないでしょう。

上の重ねたグラフを使い、SPCCで測定した結果を見ると見事に直線に載ったので、ちょっと嬉しかったです。

SPCC

でもSPCCのフィルター制作は完全に蛇足で、SWAgTiの簡単撮影のためにはこんなことまでやる必要は全くないと思います。


SWAgTiについて

SWAgTiを改めて振り返ってみます。

高精度追尾で1軸単機能のSWATに、低精度でも2軸で高機能のAZ-GTiを組み合わせることで、SWATがまるで高精度高機能赤道儀のように生まれ変わります。実際、SWAT350のピリオディックエラーはPremium仕様で+/-2.8秒を実測して出荷しているそうです。これだけの精度を有している赤道儀はポータブル型ではほぼ皆無で、大型の高級機と比較しても何ら遜色ない素晴らしい値なので、ガイドなしでの簡単撮影が生きてきます。

AZ-GTiを赤道儀化される方も多いかと思いますが、その際の極軸を北極星方向に向ける35度の角度をつける台座に苦労します。揺れてしまわないためにも、台座の強度も重要になります。SWATには底面に角度がつけてある、SWAT自身が強固な35度の台座を兼ねることができます。

AZ-GTiは、自動導入、プレートソルブ、エンコーダー内蔵など、値段から考えたら非常に高機能で汎用性が高く、ユーザーも多いため情報に困ることはまずないと思います。プレートソルブだけは今回ディザーと併用できませんでしたが、元々できていたことなので単なるバグの可能性が高く、いずれ解決するものと思っています。AZ-GTiは精度があまりないと言っても、モーターさえ動かさなければその強固な筐体と合わせて、極めて安定しています。追尾中はSWATのみが動き、AZ-GTiのモーターは動かないので、撮影時の精度はSWATのみで決まります。AZ-GTiのモーターが動くのは、導入時や、撮影の合間のディザーの時のみです。

PCとAZ-GTiとの接続はワイヤレスなので、ケーブルの数も一本減らせています。それでも少なくとも今回の2時間は全く接続が落ちることなどなく、安定でした。なのでケーブルの数は、PCとCMOSカメラを繋ぐUSB3.0ケーブル、CMOSカメラの冷却電源ケーブル、SWATの電源ケーブルの3本です。PCは内臓バッテリー駆動です。ダーク補正しないなら、特に冬場なら、冷却カメラでなくてもいい気もするので、冷却用の電源ケーブルは減らせるかもしれません。SWATも乾電池駆動が可能なので、SWATの背中側に電池をおいてしまえばさらに長いケーブルの数を減らせます。AZ-GTiも私は電池駆動にしています。こう考えると、最小構成ではPCとカメラを繋ぐUSBケーブル一本で稼働可能かもしれません。あ、StickPCを使えばさらにUSBケーブルも短くできるので、超シンプルになるかもしれません。こうなってくるとASIAirみたいですね。どこまでシンプル化ができるか、ちょっとやってみたくなってきました。

重量に関しても少しコメントを書いておきます。SWATもAZ-GTiもそこそこの重さはあるので、二つ合わせると決して軽量とは言い難くなります。一般的な小型赤道儀程度の重量と言っていいでしょうか。それでも十分に軽くてコンパクトなので、私は鏡筒を取り付けたまま運んでいます。玄関においてあるのですが、そのままなんの組み外しも組み立てもなしで運べるのはかなり便利です。超高精度と考えると、最軽量クラスの赤道儀と言ってもいいのかと思います。

逆に、今のところの欠点ですが、SharpCapでの極軸調整を三脚をずらすことでやっているので、ちょっとテクが必要です。微動雲台を使ったほうがいいのかもしれません。ただ、微動雲台は双刃の剣で、揺れを導入するかのうせいがあるので、以前テストさせていただいた迷人会の微動雲台クラスのものが欲しいレベルかと思います。

プレートソルブが使えなかったのはかなり痛いです。でもこれはソフト的な問題のはずなので、いずれ解決するでしょう。短期的にも、何か回避策がないか少し試したいと思います。


まとめ

アイデアが出たのが去年の6月、星まつりでデモなどしましたが、今回ディザーができ縞ノイズが解決して、ある程度のキリがついたと思います。1年以上にわたるテストでしたが、(プレートソルブを除いて)何とか形になりましたでしょうか。今後は鏡筒やカメラを変えて、実用で使っていきたいと思っています。

そうそう、Unitecさんにディザーが成功したことを伝えたら「諦めないところがすごいです」と言われてしまいました。結構嬉しかったです。その経緯でUnitecさんのページでもSWAgTiがまた紹介されてます。

今週末の胎内はちょっと時間的に厳しそうなので、参加は見送ることになりそうですが、9月15日の京都の「星をもとめて」でUnitecさんのブースでまたSWAgTiをお披露目できるかと思います。その際は、お気軽にお声掛けください。


前回の記事で、SWAgTiのディザーがうまくいくかもと書きましたが、まだ確証がありませんでした。


少し晴れ間があった日の夜、改めてディザー撮影ができるかどうか試してみました。長時間露光が効く天体ということで、M27亜鈴状星雲の羽を狙うことにしました。 

最初に結果だけ書いてしまいます。3分露光で40枚、2時間分の撮影ができましたが、
見事にディザーで画面を揺らすことができました!

動画で示します。ピョコピョコずれているのがわかるかと思います。
Blink

これで縞ノイズが解決されるのか、画像処理までしてみます。


設定

今回のSWAgTiのディザーをソフト的にどう設定したのか、詳しく書いておきます。

ディザーですが、通常の場合はオートガイド撮影が前提で、オートガイドによってソフト側から撮影中に信号を出して架台を制御できる状態にしているわけです。ディザーはそれに加えて1枚1枚の撮影の合間に、架台に信号を出して少しだけ(数〜数十ピクセル)画角をずらし、ホットピクセルが重ならないようにして、また撮影に入ります。

通常のディザー撮影から考えると、SharpCapのディザー撮影はかなり特殊です。まずガイド撮影やディザーは基本的にライブモードを使います。なぜこう設計したのかは少し疑問もあるのですが、とにかくライブモードでしかガイド撮影もディザーも出来ません。さらに特殊なことは、SharpCapでは、オートガイドなしでディザーすることができます。要するに、ガイド鏡がなくても、PHD2などのガイドソフトを使わなくても、それらとは独立にディザーができてしまうということです。もちろん、ディザーで架台に信号を送る必要はあるので、その制御のためのセットアップは必要です。それでもこの「オートガイドが必要ない」ということは、SWAgTiのお気楽撮影の目的にかなり合致していて、今のところSharpCap以外にガイド無しでディザー出来るソフトは、少なくとも私が探した限りでは見つかりませんでした。今回SWAgTiの撮影ソフトにSharpCapを選んだのは、ガイドと独立してディザーができるというのが1番の理由です。だって、SWATの追尾性能が飛び抜けていいのに、あえてガイド鏡とか用意するのはなんか負けた気がするからです。

そのディザーの設定です。まずはSharpCapの設定のガイドタブから。
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  • 「ガイディングアプリケーションは」3つ目の「ガイディング無し」を選びます。これでガイドは無しでディザーのみできるようになります。
「ディザリング」のパラメーターは状況に応じて適当に設定しますが、重要なのはどれだけずらすか、収まるまでにどれくらいかかるかでしょうか。
  • 今回はディザーでの揺れ幅を見るために「最大ディザステップ」をかなり大きくしています。これはもっと小さくてもいいでしょう。
  • 「最小整定時間」はある程度長めの方がいいかと思います。ディザー時にAZ-GTiを動かすのですが、モーターの精度がSWATと比べて劣るので、キックしてしばらく揺れる可能性があります。一年前のテストではそんな兆候が見られたのですが、今回撮影した画像を見ている限りではキックのようなものは確認できなかったので、あまり気にしなくてもいいのかもしれません。

次に、ライブスタックモードでのガイドタブの設定です。
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  • 最初の「Monitor Guiding Applicaton」にチェックを入れると、実際にディザーされます。
  • 「Only stack when guiding is active」はチェックしましたが、ちょっと確かめきれていません。これがないとディザーしている最中もライブスタックするかもしれません。
  • 私は3枚撮影するごとにディザーするようにしています。1枚ごとにディザーをかけると撮影終了までの時間が増えてしまからです。
  • 「Reduce Exposure While Dithering」はオンにしておいてください。長時間露光に設定してあっても、ディザーの最中は短時間露光に勝手に切り替えてくれます。揺れが収まったかどうか見るのに、短時間露光で比較することが必要になります。
  • 右に、ディザーやドリフトなどで中心からずれていくと、プレートソルブを使って元に戻すという機能もあります。今回は使っていませんが、M27のような中心が決まりやすい天体はオンにしておいたがいいかもしれません。

もう一つ重要な設定があります。ライブスタック画面左の「Raw Frames」のところです。
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  • ここを「Save except for when Paused/Dithering」にしておきます。こうしないと、ディザリング中の短時間露光の画像が何枚も保存されてしまいます。
今回は露光時間を180秒、ゲインを200でHGCモードにしてライブスタクを始めると、3分ごとにRAW画像が保存され、3枚ごとにディザーが適用されます。ディザーが動いているかどうかは、ライブスタックパネルの「Log」タグを見ると、実行時に色々メッセージが出てくるので、それを読むとうまくいっているかなど詳細が分かります。

あとは通常のライブスタックと同じでしょうか。あ、一つ忘れそうなことがあります。毎回のことなのですが、AZ-GTiで追尾をオフにしても、SharpCapでライブスタックを立ち上げた瞬間になぜか強制的にAZ-GTiの追尾がオンになります。ライブスタックをオンにしたときに、毎回必ずAZ-GTiの追尾を改めてオフにするようにしてください。そうしないと2重で追尾することになり、星が画面内を流れていきます。


プレートソルブがトラブルの種

撮影中は少し雲がかかっていましたが、基本的に安定していて順調でした。前回書きましたが、プレートソルブが安定性に関係するのは確実みたいです。

まだ一回しか試せてませんが、最初にプレートソルブをしてから長時間露光を開始すると、やはり1枚目の途中でSharpCapの「望遠鏡制御」のところの「赤経」の更新頻度が徐々に広がり、程なくして更新が止まります。その後、ディザーをするときにSharpCapからSynSan Proに信号を出しても反応がないので、エラーダイアログが出てきます。

一旦、AZ-GTiの電源を落とし、PCも再起動し、次はプレートソルブなしでマニュアルで再度初期アラインメントから試すと、不安定なところは微塵も出ずに、まるまる2時間連続で撮影ができました。プレートソルブの具体的などの操作が原因なのかまでは特定できていません。できればプレートソルブはつかいたいので、何か回避策がないか今後探っていきたと思います。


ライブモードでの実際のディザー撮影

さて、撮影ですがディザーはライブスタックモードですることになるので、必然的に常時仕上がり具合を見ることができます。これが結構楽しかったです。なんと、総露光時間わずか30分ですでに羽が確認できます。
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鏡筒のせい?カメラのせい?ちなみに鏡筒は最近手に入れたRedCat51で、カメラがUranus-C Proです。フィルターはサイトロンのDBP(Dual Band Pass)の48mmをRedCatに取り付けて使いました。機材については次回記事で詳しく書きます。

約2時間経ったのちのライブスタック画像です。羽もさらに濃くなっています。
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うれしいことに、少なくともこれを見る限り縞ノイズは全く発生していないようです!

2時間少し撮影しましたが、最後の数枚は雲が出てきたので、ちょうど2時間分を画像処理に回すことにします。上のライブスタック画像は最後の雲の画像も入ってしまっていますが、長時間露光から考えたら影響は少ないようです。


ライブスタックとWBPPでのスタック

ライブスタック画像をfits形式で保存したRAWファイルと、PixInsightでスタックした画像にどれくらい違いがあるか比較してみましょう。一見したところではクオリティーは同じかと思いました。

これがライブスタック画像をオートストレッチした画像です。
Stack_16bits_41frames_7380s_22_23_34_cut


次がPixInsight上でスタックした画像をオートストレッチした画像です。
180.00s_RGB_cut

ほとんど同じに見えるかもしれませんが、よく見るとライブスタック画像の左上の真ん中よりに明るい緑の輝点群が、右下に軽く青の輝点群があるのがわかります。ホットピクセルが残っていて、ディザーで散らされたものの残りと思われます。PixInsightではWBPPの際に、Cosmetic CorrectionをAutomaticでhigh sigma = 10でかけたので、そこでホットピクセルが除去されたのかと思われます。ライブスタックでもSharpCapで簡易ホットピクセル除去をするだけでも、ライブスタック画像もそのまま処理できるくらいにホットピクセルが消えるかもしれませんが、今回は試していません。

今回、WBPPではフラット補正もダーク補正もしていません。RedCat51と1/1.2インチのUramus-Cではフラット補正は必要がないほど周辺減光はないです。あ、CMOSセンサー面に埃がついているとダメですよ。フラット補正が必須になります。フラット補正をサボるためには、少なくともセンサー面はきれいにしておきましょう。ダーク補正もしていないので、ホットピクセルとコールドピクセルはCosmetic Correctionで除去しているだけですが、これで十分なようです。ダーク補正をしない場合は大きなメリットが一つあります。ダーク補正によってダークカレント起因のダークノイズが余分に加算されないということです。今回のような強い光害補正フィルターを使った「暗くて」、さらに「長時間露光」での撮影では、背景などの淡い部分がダークノイズで制限されている可能性があり、画像処理でダークノイズを増やさないことはかなり有利になります。具体的には、ダーク補正をするとダークノイズは√2倍になり、信号は増えなくて1倍のままなので、仕上がり画像のSN比の違いは最大で1/√2 = 0.71倍となり、損をします。ダーク補正についてのもっと詳しい計算を知りたい方はここをご覧ください。


一つ心配だったのは、バイアス補正でした。今回、バイアス補正もしていません。なのでバイアスファイルに含まれる決まった模様などのコヒーレントなノイズは除去されていないことになります。バイアスファイルに含まれるノイズは読み出しノイズと考えていいかと思いますが、長時間露光で相対的に読み出しノイズは効きが弱くなるはずなので、みている限り今回は影響がないように思われます。

と、今のところこのセットアップだとフラット補正もダーク補正もバイアス補正も、あえてしなくても問題はなさそうです。仮に多少画質に影響はあったとしても、フラットファイルとダークファイルとバイアスファイルを撮影する手間を省くのは、相当気楽です。


画像処理

画像処理はSWAgTiのコンセプトを崩さないように、できるだけシンプルにしたいと思います。WBPPでも、上で書いたようにライトフレームだけを処理しています。

上で書いたように、このRedCat51とIMX585の1/1.2インチ程度の範囲だと、光学的なフラット補正無しでも周辺減光がほぼありません。一度ABEの4次をかけましたがほとんど補正しなかったので、簡単のためPixInsightでのソフト的なフラット補正も無しとしました。 
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スタック直後の画像の強あぶり出し。周辺減光はほとんど見られません。
左にカブリが少しあるように見えますが、これは実際に何か構造があるようです。
この構造はかなり淡く、今回の露光時間ではまだノイジーで
うまく出すことは諦めました。

結局PixInsightで使ったのは、スタックでWBPP、色調整でSPCC、恒星出しにBXT、ストレッチにiHDR、最後にNoiseXTerminatorで背景のノイズを緩和して、StarNet++で恒星と背景を分離までで、あとはPhotoshopに渡します。今回iHDRがうまくいって、自動的にうまく羽根まで炙り出してくれたので、Photoshopでは背景と恒星を重ねること以外には、ホントに最後微調整したくらいです。


結果

まずは全体像です。
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少し画角が広いので、クロップしてみます。わずか2時間の露光ですが、既に羽もはっきりとわかります。

180.00s_RGB_SPCC_BXT05_02_10_iHDRx3_NXT05_015_back2_cut

肝心な縞ノイズですが、拡大した画像でも全く見えていません。

SWAgTiのディザー撮影大成功です。

これでSWAgTiが一気に実用的になりました。今後デフォルト機器として、使う頻度が増えてくると思います。


まとめ

SWAgTiのアイデアが出てから苦節1年。縞ノイズがどうしても気になって、どうやって解決しようかずっと悩んでいました。

一時はSharpCapとSynScan Proの間に何かソフト的に割り込ませようとも思いましたが、プログラミングはあまり得意でないので時間がかかりそうでした。でもそこにSharpCapが大幅改善されていて、(プレートソルブで不安定になる以外は)ほぼ目的通りのことができました。正直言って、わざわざガイド無しディザーを実用レベルに持ってくるためのアップデートだったとしか思えません。でもそもそもガイドも無しでディザーをやりたい人が実際どれくらいいるのでしょうか?たまたま開発がこの方向で進んだのか、もしくは誰かが開発者に助言してくれたのか、最近SharpCapフォーラムなどあまりフォローしていないので状況がわかっていませんが、とにかく感謝でしかありません。

ここまで使えるようになると、このSWAgTiで色々試したいことが出てきます。軽くて、コンパクトで、設置も楽。精度も出るし、機能的にも十分。5kg以下の機材は全てSWAgTiまかせにしてよさそうです。CGX-LもしくはCGEM IIとSWAgTiの2台体制でも、時間的にも精神的にも十分余裕が出そうです。使用頻度が大幅に増える予感しかありません。


久しぶりのSWAgTi ネタです。

1年ほど前から試していた
SWAT+AZ-GTi = SWAgTi (gは発音せず、スワッティ)。


SWATの追尾精度とAZ-GTiの柔軟性を合わせて、単機能に近いSWATに自動導入やプレートソルブなどの現代的な便利な機能を追加して使うことができるようになります。かつ追尾精度はSWATそのままと、互いの弱点を補い、いいとこ取りの機能となります。


SWAgTiの弱点

SWAgTiで目指していたところは「気軽な撮影」です。元々SWAT自身は1自由度の追尾精度がものすごくいい赤道儀で、ガイドなしでもそこそこの焦点距離で星を点像にすることができます。以前の SWAT350のテストでは、370mmの焦点距離で3分露光の場合、ガイドなしで歩留まり率は100%だったので、実用的にも十分だと思います。ガイドなしで気軽なSWATの撮影に、AZ-GTiの2自由度の便利な機能を追加して、さらに気軽にしようというのがアイデアです。

これまでのテストの過程で出てきた唯一の欠点が、長時間撮影時にディザーができないことです。


ディザーができないと、長時間撮影のドリフトなどでホットピクセルやクールピクセルが縞ノイズを作ることがあります。


実際に、SWAgTiの長時間撮影ででてきた縞ノイズの例がここにあります。


上のページでも挑戦していますが、縞ノイズは画像処理で改善しようとしても、緩和することはあっても完全に消すことはかなり困難です。できることなら撮影時に縞ノイズが出ないようにしたほうがはるかに楽で、ディザーはその解決策としては最も有効な方法です。

ところが、SWAgTi動作時にはSWAT側で恒星を追尾して、AZ-GTi側の恒星追尾を切る必要があり、AZ-GTiの恒星追尾がオフになるとSharpCapで出すディザー信号がAZ-GTiのモーター側伝わらずに、ディザーができないという結果になってしまったのです。

もちろんSWAT単体ではディザーすることはできないので、SWAgTiがSWATに比べて不利になったということではありません。ドリフトは数時間以上の長時間撮影で問題になってくるので、短時間撮影だと縞ノイズはそこまで目立ちません。SWAT単体で長時間撮影する際にどうするかですが、SWAT開発者が去年の胎内の星まつりで示してくれたように「撮影中に何度かわざと三脚をずらしてドリフトする方向を変える」とか、今年の福島の星まつりで見せてもらった10時間以上かけて撮影したというオリオン大星雲では「日を変えて何度も撮影することでドリフトの方向を一定にしない」などの対策をしているようです。ある意味余計な機材を使わないシンプルな解決策で、開発者の方が「そんな複雑なことはしてないですよ」とおっしゃられていたことが印象的でした。

なので、少し手間をかければ縞ノイズを避ける方法はあるということですが、私的にはやっぱりなんとかしたいので、再度ディザーに挑戦です。


ソフト的に何か間に割り込ませるか?

では具体的にどうするかですが、最初はSharpCapとAZ-GTiの間に何かソフト的に挟んで、命令を無理やり出せるようにしようと考えていました。Uedaさんがトラバースの赤道儀化でSynScan Appとトラバースの間に赤道儀のふりをするような別ソフトを間に入れて上手くいっているので、同じような手法が使えないかと思いました。幸いなことにソースコードを公開してくださっていて、C#で書かれているようです。初めての言語だったのですが、コードは規模的にも大きくなく、自分でビルドまでできて、とてもいい勉強になりました。SWAgTi用にどうハックすればいいのか、ある程度の目安が立ってきたので、とりあえず取り組んでみようと思っていた矢先でした。


SharpCapが変わった?

まずは状況の確認で、以前のSWAgTiの設定を再現します。再現といっても、プログラミングのための準備なので昼間の明るいうちでの確認になります。SWATとAZ-GTiを組み合わせて、SynScan ProからAZ-GTiに接続し、SharpCapからSynScan Proを操作できるように接続します。

ところがです、いつぞやのSharpCapのプレートソルブ関連の大幅アップデートらへんのことだと思うのですが、AZ-GTi側の恒星追尾をオフにしてもどうもディザー信号がきちんとモータまで届いているようなのです。

具体的にはSharpCapの右パネルの「望遠鏡制御」のところを見るのですが、AZ-GTiが恒星を追尾していると「方位」「高度」「赤経」が動き続けます。AZ-GTiが恒星を追尾を止めると「方位」「高度」は止まり、「赤経」のみ数値が動き続けるようになります。ここで SWATに恒星追尾を引き渡すと、ここまでのAZ-GTiの代わりにSWATが動き出し実際に星を追尾してくれるようになります。この状態でも、SharpCapの「望遠鏡制御」のところの矢印ボタンを押すと、信号はきちんとモーターまで行き、見ている方向を変えることができます。その際「方位」「高度」の数値もモーターへの信号に連動して動きます。ここまでは以前にも試した結果と同じでした。

ここでSharpCap上でライブスタックを立ち上げてディーザーをオンにします。以前はディザーをしようとしても実際にはモーターまで信号がいかなくて、画面は全く揺らされないことは確認していました。でも今回「望遠鏡制御」の数値を見ている限り、ディーザーのたびに「方位」「高度」の数値が動いているのです。以前この数値が動いていた記憶は全くない(動いていれば必ず気づいていたはず)ので、勘違いでなければ何か状況がわかっているはずです。少なくとも、現段階でこれらの動いている数値を信じるならば、ディザーはきちんと作動していることになります。


夜のテストは全くうまくいかず

昼間に試しただけでは、PC上に出てくる数値は動いていても実際の撮影画面が動くかどうかは見ていないので、まだ本当にディザーが動いているかどうかの確証は持てませんでした。なので夜になって実際に試してみました。ところがディザーを試す以前に、かなりひどい状況にぶち当たってしまいました。

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具体的には、一眼レフカメラ(EOS 6D)をSharpCapに繋ぎ、AZ-GTiで操作しました。CMOSカメラでなくてもSharpCapに繋ぎさえすれば、一眼レフカメラで極軸調整もプレートソルブも、全然問題なくできます。


今回も極軸調整をFS-60CBと6Dの画面で直接やり、初期アラインメントも6Dでプレートソルブを使うことで簡単に済ますことができました。
スクリーンショット 2024-08-03 215020_cut

その後、ターゲット天体を導入し、SharpCap右パネルの「望遠鏡制御」の矢印ボタンを使って位置決めをします。ここら辺までは問題ないです。

次に追尾をSynScan ProからSWATに渡して撮影に入る準備をします。ところが長時間露光を開始すると程なくしてSynScanとの接続がダメになります。ディザーをするためにはライブスタックモードにしなくてはいけません。 この接続トラブルはライブスタックに関係なく、ライブスタックをする以前に露光時間を分のオーダーとかに長くした時に発生するようです。SharpCapの「望遠鏡制御」のところでAZ-GTiからの位置情報が数値で見えるのですが、SWATで追尾しているので「赤経」の数値だけが増えていきます。最初はスムーズに数値が変わるが見えるのですが、徐々に数値が飛び飛びになり、最後は止まってしまって、それ以降は接続は切れているような状態になります。処理に時間がかかっているような印象で、何度やっても同じ状況になります。最初はCPUの負荷か何かと思って、SynScanの再起動、SharpCapの再起動、最後はPCまで再起動でもダメでした。

実はSharpCapとSynScan Proとの接続不安定な時は、SynScan Proを管理者権限で立ち上げると安定になるという情報があります。知り合いが試してみて、管理者権限での起動がものすごく効いて、実際にかなり安定になったという例を聞いています。ですが、今回の場合は管理者権限も効果がなく、状況は変わりませんでした。

次に一眼レフカメラが原因かと思って、ASI294MC Proに変えたり、さらにはPCが何か原因の可能性があるとも思い、別PCを持ってきて試しましたが、いずれの場合も最初はプレートソルブまで含めて順調なのに、長時間露光(180秒)の撮影の途中でSynScanとの接続がダメになり、その後はPCを再起動するまでは何をやってもダメです。ダメというのは、SharpCapからSynScan Proになんらかの信号を送った時に接続エラーが表示されるということです。PC再起動後はまたプレートソルブもできるようになりますが、長時間撮影開始でダメになると言うのを何度か繰り返しました。というわけでこの晩はここで諦めましたが、これまで電視観望で同じような状況にはしていたので、もしかしたら長時間露光がダメったのかもしれません。電視観望ではせいぜい10秒露光が最長ですが、今回は撮影ということで3分露光にまで伸ばしています。長時間露光が何か負担になっているのかもしれません。

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長時間露光を開始すると毎回こんなエラーが出てしまします。 


昼間に原因究明

次の日、昼間に今一度、全く同じ設定で試しましたが、なぜか今度は何をやっても安定します。カメラを変えようが、PCを変えようが、昨晩のトラブルは何だったんだというくらい、どうやっても不安定な状況を再現できません。3分の長時間露光でも全く問題がないです。一体何が問題なのでしょうか?

違うことといえば、昼間で実際に星が見えないので、プレートソルブはしていませんし、ライブスタックも星の位置合わせをせずに単に重ねていっているだけす。


再び夜に試して光明が!

その晩、昼間の状態を再現すべく、試しにプレートソルブなしでマニュアルアラインメントしてから長時間撮影してみたら、何と完全安定です。その後すぐに曇ってしまったので、プレートソルブありで不安定になるかどうかのテストができませんでしたが、長時間露光そのものは大丈夫ということはわかりました。ディザーも実際一回動かすことができて「望遠鏡制御」のところの「方位」も「高度」も数値が変わったのですが、肝心のディザー前後の撮影画像比較での動きがあったのかなかったのか、あったとしても移動量の設定値が小さ過ぎたようで、確証が得られるほどの揺れは確認できませんでした。

雲でこれ以上試せないので、この日はこれで撤収ました。今の段階でディザーが出来ているかどうかの判断はできていません。でも見込みはありそうです。今後もテストを続けたいと思います。

(2024/8/17追記: ディザー撮影成功しました!)



日記

あまりブログ記事にならない細かいネタも多いので、久しぶりに日記としてまとめて書いておきます。

お盆の季節になりました。8月7日の富山環水公園の観望会に引き続き、8月10日も高岡市のおとぎの森で観望会がありました。2週連続になります。初参加の観望会で、これまでは他の予定と重なることも多く参加できてませんでしたが、今年はお盆の休暇の初日で少し余裕もあるので参加することに決めました。機材は先週とと同じく電視観望で、20時20分頃に月によるスピカ食があるとのことで、外部モニターも用意して大勢で見ることができればと思っていました。夕方のまだ明るい頃は月もが見えていたのですが、暗くなり始めて機材も準備もできたころには空一面が曇ってしまい、それ以降は星も明るい月さえも、カメラを通した電視観望でも全く見えないくらいの雲になってしまいました。お客さんは100人以上と、かなりたくさん来てくれていたので、とても残念でした。もうこうなるとどうしようもないので、天文の話やクイズをずっとしていました。一番受けたのはASI294MCで暗闇が見えるかどうかで、カメラの周りには子供達が群がっていて画面に映る自分の姿を見て大騒ぎでした。

次の日の8月11日は自分の出身高校の天文部の合宿に参加させてもらいました。場所は奥飛騨で、富山からだとそう遠くない距離なので気軽に参加できました。昨年の12月にも豊田市元気村の合宿にも参加させてもらったのですが、それに引き続きとなります。年末の合宿もそうでしたが、残念ながら今回も天気には全く恵まれず、星一つ見ることもできませんでした。なんでもコロナ後にやっと復活した1年前の同じ場所での合宿の時は台風で、ここ最近の合宿は天文部としては非常に厳しいとのことでした。私は日を跨ぐ前くらいに帰路につきましたが、次の日は神岡の道の駅にある「カミオカラボ」まで行くそうです。でも夜の天気予報はあまり良くありません。ペルセウス座流星群なので、少しでも見えることができればいいのですが。

実は私も奥飛騨まで行く途中にカミオカラボに寄っていきました。
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こんな面白い写真が撮れます。


とにかく最近は天気が全然ダメです。昼間はまだ比較的晴れているのですが、夜になるとドン曇りというパターンです。ペルセウス座流星群も自宅から雲の薄いところで1個だけ見ましたが、とても撮影とかするレベルの天気ではないです。せっかくの休暇でまだ月が昇っている時間もかぎられているので、なんとかお盆中に長時間撮影をしたいのですが、天気予報を見る限りまだしばらくは難しそうでうす。


2024年8月2日(金)、今年も富山県主催の「とやまスターウォッチングat富岩運河環水公園」がありました。昨年の様子は以下をご覧ください。


そもそも金曜の平日開催で、昨年初めて参加したものですが、今年も参加することにしました。


今年の方針

ちなみに、去年の記事を読み直してみると、いくつか反省点が書いてあります。
  • 2つ電視観望をやって、さらに子供に自由に触ってもらうSCOPETECHの屈折を出したが、手が回らなかった。さらに星座ビノも用意していたが、お客さん全員に十分な時間がかけられなくて無理があった。
今年も改めて思ったのですが、市街地での公園でやるのでお客さんの数が相当多くて、細かい操作などを伝える時間が確保できません。今年は欲張らずに子供用屈折も星座ビノも無しにしました。
  • 広域電視観望で、天の川の見える範囲が少し狭くて川のように見えないので、天の川と認識されにくい。
天の川を見たことがないお客さんもたくさんいます。天の川と言われても、実際どれが天の川か最初はわかりにくものです。いつもは35mmレンズを使いますがそれだと範囲が狭くて皮の形に見えません。今回はSamyangのF2.8の14mmを使って広角で川らしく見えればと思います。

あと、去年は
  • 準備と説明と機材トラブルなどで他の参加者とあまり話す機会がなかった
ので、今年はもう少し他の人と交流することを目標としたいと思います。


2つの電視観望

電視観望を2つ用意します。セットアップは昨年と似ていますが、少しだけ変わっています。

メインは天の川を見せること。これまで広域電視観望は主にはF1.4の35mmとか50mmのカメラレンズで見せていますが、もう少し広い範囲を見せた方がより天の川らしくなると思い、今回初めてF2.8の14mmレンズを用意してみました。これに光害防止としてQBPフィルターを使います。フィルターは1.25インチのもので、ASI294MCの側に薄手のアダプターを使って、レンズに干渉しないように取り付けます。操作は自由雲台です。たまに「広域電視観望の際のマウントはなんですか?」と聞かれることがありますが、これだけ広く見えると画角の移動はよほど時間が立たないと効いてこないので、自由雲台で固定で十分です。これでライブスタックもできるので、実際の画面が流れることもありません。

お客さんを飽きさせないために、もう1セット普通の電視観望を用意しておきます。もう夏の星雲が上がっている時期なので、街中ですが十分に楽しめるでしょう。こちらはいつものFMA135とUranus-Cをトラバースに載せています。そういえば去年はまだAZ-GTiを使っていました。トラバースがまだまだ実用に耐えなくて心配だったのですが、今年はトラバースがもう完全にデフォルト機器になっているので、成長したものです。今回も安定に稼働できました。トラバースの「小ささ」がさらにインパクトを上げていて、今回も「こんなので見えるの!?」という声を何度も聞きました。カバンの中に全セットを入れることができるので、駐車場から設置場所まで距離がある時でも、ほとんど苦になりません。

あと、今回初めて外部モニターを「2台」用意しました。こういった大規模な観望会にはお客さんもたくさん来ますし、電視観望も2セット用意するので、モニターも2台あった方が説明も楽だと思ったからです。1台は24インチでメインの天の川用、もう一台は15インチのコンパクトモニターで星雲用です。


機材の準備

18時過ぎには環水公園に到着しました。駐車場もまだ十分空いていたので、観望会会場の近くに車を駐めることができました。セットアップは最近は手慣れたもので、普通は10分とか15分もあれば終わってしまいますが、今回はモニターが2台あったので、少し手間取りました。モニターの解像度はHDMIでそれほど高くないので、PCの設定をそちらに合わせるのに時間がかかってしまいました。やはり一度は事前にテストしておくべきです。しかも星雲用はM1 MacのArm Windowsで動かしているので、モニターを最初うまく認識できませんでした。一旦VMwareを完全に落として、Mac画面をモニターに出せることを確認して、その後VMwareを立ち上げるとうまくいきました。

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広域用のレンズは最初から14mmにしてみました。うまく行くのかどうか、ぶっつけ本番です。

19時前には準備も終わり、まだ明るいので会場を一回りしますが、すぐに星が見えるくらいになり、広角電視観望ではこと座の形も十分にわかるくらいになります。昨年は19時にスタッフが一度集まって打ち合わせがあったのですが今年はそういうのは特になくて、もうお客さんも来始めているのでそのまま観望会になだれ込みます。

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観望会会場の環水公園は駅に近いかなり大きな公園で、世界一美しいと言われたスターバックがあるなど、富山の観光スポットにもなっています。駐車場もきちんと整備さえているので、観望会にはお客さんも数多く訪れます。この日は昼間から天気も良く、実際かなりたくさんの方が来てくれました。


いよいよ観望会開始

19時を過ぎるとお客さんももうかなりきていますし、スタッフの方も含めて知り合いの方もたくさんいます。結構明るいうちからM57を入れてみましたが、もう余裕で見えます。プレートソルブができるくらいの星の数が見えたら、たとえ街中であろうと輝度の高い星雲は問題なく見えます。

画面を見ながら、周りの人といろいろ話しました。今回は、電視観望に注目してくれる人がかなり多かった印象です。2016年からずっとやってきた電視観望で、星まつりなどではものすごく盛り上がっていたのですが、意外に地元の富山ではあまり盛り上がらない印象でした。今回はスタッフの方も学生の方も含めて、結構皆さん技術を知りたがっているような感じでした。

恐らくなのですが、これはSeeStar効果なのではないかと思っています。やはりあれだけ数が出てメジャーになってくると、少なくとも天文関連の方には電視観望でかなり見えるという認識が広まってきているのではないかと思います。電視観望そのものに信頼が出てきたと言ってもいいでしょうか。私自身は結局いまだにSeeStarは使ったことがないのですが、大手メーカーが本腰を入れてくれるのはとてもありがたくて、長い目で見てもとても良い傾向だと思いました。

話してくれた方の中に、県天メンバーではないけれども富山在住で天文が趣味で、このブログを一から読んでくれたというかたがいました。この長いブログを最初から読んでくれるという奇特な方(笑)がたまにいますが、とても嬉しいです。技術的な方のようで、この「ほしぞloveログ」でどのように技術を上げてきたかに興味を持ってくれていました。またお話しできればと思います。

県天に新しく加入された方とも顔を合わせることができました。自宅近くに住んでいる方で、電視観望に興味を持っているということなので、また一緒に試すことができればと思います。

さて、19時半ころからスライドを使った中国出身の方の七夕の話があります。私は聞くことができなかったのですが、大きな拍手が聞こえてきたので、面白い話だったのではと思います。


2つの電視観望の見せ方

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今回の電視観望は、2セットあることを活用してみます。まず広角電視観望で夏の大三角を見せ、そこから画面内でこと座を拡大します。次に隣のモニターに移り、こと座の端の2つの星が写っていることを確認して、その後M57を拡大して、星雲について説明します。先週の科学博物館でも同じように説明しましたが、このやり方は実際の大きさが直感的にわかってもらえるので、なかなかいいのかと思います。これまでの35mmレンズだと夏の大三角が入らずに、アプリを使っていたのですが、今回の14mmレンズはやはりかなり広角で、夏の大三角が余裕で入るので、全体からわかってもらえて、とても説明しやすかったです。

スクリーンショット 2024-08-02 202535
星雲がどんなものが知らないと、どれが星雲かわからないこともあるので、
アノテーションがある方がお客さんもわかりやすいようです。

天の川は実際どうだったかというと、ずっと雲がかかっていたので、そのすきまから見るような状態でした。天の川に比べると雲は明る過ぎるので、どうしても不利になってしまいます。今回初めて試した14mmレンズですが、より広い範囲を見渡せるのは有利な点でした。その一方、広角すぎて周りの景色が入ってしまうことがあることと、このレンズは周辺減光が結構あるために、SharpCapでのリアルタイム背景補正(フラット化)があまりうまくいきませんでした。実際の画像は以下のくらいです。

スクリーンショット 2024-08-02 202517

適当な枚数をスタックしているので、雲が流れているのがわかると思います。流れていない赤いシミが天の川になります。背景補正に非線形勾配除去を使っているのですが、雲などが明るすぎて飽和してしまうとこの背景補正がうまくいかなくなります。そのためゲインか露光時間を少し下げる必要があります。補正がうまく行っても、やはり周辺減光の影響を取り去ることはできずに、右上や左下が少し暗くなってしまっているのがわかります。天の川だけを見やすくするために、画面を拡大して画角を少し絞っています。これだともう広角の有利さがなくなってくるので、本末転倒になってきます。やはりなかなか最初からはうまくいかないもものです。次回、もう少し雲が少ない時に、改めて評価したいと思います。

14mmレンズで天の川が少し認識しにくかったので、途中からいつもの35mmに戻しました。下の画像が35mmで見た場合です。
スクリーンショット 2024-08-02 205220

明るさはずいぶん均等になり、あぶり出しがかなり楽になります。が、当然画角は小さくなるので、ここら辺はトレードオフなのかと思います。この日の天気は悪くなかったですが、去年の方が少し良かったでしょうか。途中からだんだん雲が濃くなってきて、最後の方は天の川も見えなくなってしまいました。

県立大の学生が何人か、富山大の学生がなんと20人くらい来ていました。途中何人かのメンバーが電視観望を見にきてくれました。まずは街中で天の川が見えることに驚いていました。「観望会で説明とかどんな風にしますか?」と聞かれたので、ちょうどこの日にやっていた夏の大三角と、こと座とM57と天の川の関係とかを、七夕に交えて話すことや、天文クイズのことなどを例として伝えました。天文クイズは実際に来ていた学生さんに解いてもらいました。いつもの「月はどちらから昇ってどちらに沈むか?」というクイズで、天文部の人でさえパッと気づいた人は数人でした。もちろん、太陽がどちらから昇ってどちらに沈むかは全員知っていて、太陽が動くのは当然地球が回っているからということも全員知っていました。知識としては十分あるにも関わらず、月になると知識として知らないので答えられなかった人が多かったのですが、さすが大学生のしかも天文部です。すぐに納得して、その後の例えばベガは?と聞くと、普通に東から登り、西に沈むと妙に納得してくれてました。画面に見えている天の川と銀河の方向の関係のクイズも出したのですが、これはちょっと難しいと思われたようだったので、少し反省です。もう少しこなれた誘導を考えた方がいいかもしれません。


観望回終了

一応観望会は21時まででしたが、あまり時間は厳しくなくて、お客さんがいなくなったらやめにしましょうかというような雰囲気でした。19時くらいから始めて、かなりの人が見にきてくれ、ずっと説明していた気がします。それでも結局見せたのは夏の大三角と、こと座とベガ、天の川と、M57、あとはせいぜいM27くらいでした。ひっきりなしにお客さんが来るので、あまり種類を見せることができなかったのは反省点でしょうか。

私は21時20分くらいまで粘っていましたが、駐車場の出車ゲートが22時で開かなくなってしまうというので、ここで撤収です。片付けはほんの10分もあればすぐに終わり、片付け終わってから一通り挨拶をして、まだ盛り上がっている学生たちのところに行きました。20人くらいの大所帯なので、かなり楽しそうです。学生たちに22時にゲートが開かなくなることを伝えて、私も21時40分頃には退散しました。


まとめ

今年もたくさんのお客さんに電視観望を見てもらいました。特に天の川は、こんな街中でも見る方法があるということにびっくりしていたお客さんが多かったです。また、富山県天文学会のメンバーはもちろん、他にもたくさんの望遠鏡が出ていたので、お客さんはかなり楽しめたのではないかと思います。でもこの日もとても暑かったです...。


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