自宅で淡いもの撮影シリーズ、多分このダイオウイカが最終回になるでしょう。これ以上淡いのは...さすがにもう限界です。
私の元々の天体撮影の動機は「自宅でそこそこ撮れればいいな」でした。でも「そこそこ」がいつしか「どこまで」になり、いまでは「限界は」になってしまっています...。初心から考えるとあまり良くない傾向ですね(笑)。
最初に天体写真を始めてからずいぶんかかりましたが、最近では自宅でもやっと「そこそこ」満足に撮れるようになってきました。なんか「そこそこ」の使い方が間違っているようにも感じますが、とにかくイルカさんやカモメさんやクワガタさんは分解能や階調など見てもそこそこかと思います。ここ数年のソフトの進化の効果もかなり大きいです。でもこれは明るい天体だからまだ言えることで、かなり頑張って出したスパゲッティーさんは自宅撮影の限界はもう超えているんだと思います。今回の撮影のコウモリさんはまだしも、ダイオウイカさんはスパゲティーと同レベルか、もっと淡かったりします。
Sh2-129: フライングバット星雲とその中のダイオウイカ星雲を撮影したのはもう半年も前のことで、時期的にはスパゲティー星雲を撮影した直後です。そういう意味でも自宅からどこまで淡い天体が出るのかの検証の一環になります。
ところが、撮影後に長い迷走状態に陥りました。最低限の画像処理としてWBPPまではすぐに終わったのですが、そこからが長い長い。理由ははっきりしていて、何度やっても仕上がりが気にいらなくて、ほっぽらかしてしまっていたからです。
気に入らない理由もはっきりしていて、HαとOIIIに写るものがあまりにもはっきり区別されすぎていて、Hα起因の赤は赤だけでのっぺりしてしまうし、OIIIはそもそもメインのダイオウイカさえもあまりにも写らなくて、炙り出そうとしても画面全体がノイジーになってしまうからです。
とりあえずこちらを見てください。OIIIの5分露光1枚撮りで、ABEとDBEをかけてフラット化して、かなり強度に炙り出してみたものでが、ほとんど何も見えません。フラット補正の誤差レベルで出てくる鏡筒の迷光の僅かな明暗差よりも、星雲本体の方が全然淡いくらです。
WBPP後にどうなるかというと、まあせいぜいこの程度です。OIIIだけで10時間25分あるのですが、強炙り出ししても高々これくらい出るのみです。
少しでもS/Nを稼ごうとして、ソフトウェアビニングをかけて、bin4x4状態にして、そこからdrizzleでx2をしています。これについては以前議論していて、上記画像はすでにその過程を経たものになってます。このレベルのノイズだと流石にいかんともしがたく、少しだけ画像処理を進めましたが、全く太刀打ちできませんでした。
こんな調子ですが、画像処理の基本的な方針だけは初期の方に決まりました。恒星はRGBをそれぞれ別撮りしたものから得ます。その結果Hαの恒星もOIIIの恒星も使わないことになります。なので、最初からリニアの段階でHαもOIIIも背景と恒星を分離してしまいます。HαとOIIIの背景と、RGBから作った恒星を、別々にストレッチして、あとから合わせることにしました。
OIIIですが、恒星分離するともう少しフラット化や炙り出しなどを進めることができ、やっとダイオウイカの形がそこそこ見える程度にまでなりました。
背景の一部がボケたようになっていますが、DBEなどのフラット化の時になぜかボケてしまいます。どうやらこれは階調が僅かすぎて補正しきれないことに起因するようです。例えこれくらい出ていたとしても、AOO合成して処理しようとすると青と緑の背景があまりにノイジーになりすぎ、全く処理する気にならずに、ここで長期間放置状態になりました。
その後しばらくして、OIII画像は星雲本体のマスクを作ることができることに気づき、なんとかなると思い画像処理を進めました。今度はHαは赤のみ、OIIIは青と緑のみと、ものの見事に別れきっていることに気づいて、あまりに赤がのっぺりしてしまって、さらにはダイオウイカ自身も青一辺倒で後から乗っけたようになってしまい、これまた嫌になってしまって再度長期放置していました。
体調を崩してからまだ夜の撮影を敢行できずにいるので、未処理の画像をと思い、今回重い腰を上げました。スタートは以下の画像です。これとOIII画像から作った星雲本体と明るい青い部分のマスクを使います。
ただ、これだけだと赤と青共にのっぺりするのは変わらないので、途中からRGB画像のG成分を少し加えてみました。淡いですがG画像の背景に構造は残っているようで、緑成分がHαの赤と合わさって茶色の分子雲を作り出せればと考えました。このやり方が正しいのかどうかは疑問もあるのですが、例えばこれまでもかもめ星雲の時にHαにGBの背景を合わせて、赤の「のっぺり」を防いでいます。OIIIを使っていないのがポイントで、B画像とG画像の青と緑成分を使い色の階調を稼いでいます。また、網状星雲の画像処理ではε130DのテストとしてHαとOIIIのみでAOO合成していますが、これだと右側に広がる茶色の分子雲をどうやっても表現することができません。G画像を持ってくれば何か出せるのかなと考えていて、今回はその布石でもあります。同様のことはクワガタ星雲のAOO画像でも述べています。
初出でXに投稿した画像はマスク処理が功を奏して、やっとなんとかダイオウイカ本体が出てきたものでした。でもダイオウイカ本体から透けて見えるはずのHαの赤成分が全然出ていないことに後から気づきました。今から見るとちょっと恥ずかしいですが、まだ苦労している途中の習作ということで出しておきます。
次に投稿したものは、青から透けて見える背景の赤に気をつけて処理したものです。
その後、ソフトウェアビニングでbin4相当だったOIII画像を元のbin2に戻して、さらに青ハロの処理を間違えていたことと、ダイオウイカ本体以外にも青い部分は存在していることに気づき、青をさらに注意して、再度ほぼ一から処理し直しました。大体の処理方針はもう決まっていたので、再処理でもそこまで時間はかからず、最終的には以下のようになりました。
背景が赤一辺倒、ダイオウイカ本体は青一辺倒というのから脱却して、少しだけですが階調を出せたのかと思います。処理途中は、かなり最後の方までイカ本体が少しでも見えたらいいくらいに本気で思っていましたが、結果としては正直自宅撮影でよくここまで出たと思います。結局イカ本体はある程度出てくれたので、こんな淡い天体の場合でも画像処理の手法としては存在するということが、今回学べたことです。
その一方、元々超淡くてノイジーなダイオウイカです。マスクを駆使して、相当な無理をして出していることを実感しながら処理していました。これだけ淡いと、環境のいい多少暗いところで撮影したとしても、画像処理には無理が出そうで、例えば他の方のダイオウイカ本体がかなり綺麗に出ている画像を見ても、よくよく見てみると多少強引に処理を進めたような跡が見てとられます。Xに投稿したときに海外の方から「このターゲットを狙う限り、みんな苦労して画像処理している」とか言うようなコメントがありましたが、本当にみんな苦労しているのかもしれません。
恒例のアノテーションです。
どうせなのでぶっちゃけますが、実はダイオウイカ星雲は以前撮影していて、お蔵入りにしたことがあります。2021年11月のことです。FS-60CBにDBPフィルターをつけて、EOS 6Dで撮影しました。
DBPで胎児とハート星雲を撮影してみて、結構出るのでこれならダイオウイカでもなんとかなるかなと思って意気揚々と3日に渡り撮影しました。1枚当たりの露光時間はたっぷり10分で82枚、合計で13時間40分です。下の画像は、試しにWBPP後、フラット化だけしたものですが、何個もある黒い穴はホコリなので無視するとして、強炙り出ししても心の目で見てやっと青いイカが確認できるくらいです。
ホコリの跡が目立ったのもありますが、このイカさんの淡さ見て画像処理をする気にもならずに、諦めてしまいました。でもこれが広角の明るい鏡筒でナローバンド撮影をしたくなった強烈な動機になり、それから1年ちょっと経った時にε130Dを手に入れています。(追記: 改めて過去記事を読んでみると、DBPと6Dで胎児とハート星雲を撮影してうまくいったので、次にDBPでスパゲティー星雲を撮影しようと思ったみたいです。でもスパゲティーの前に6D+DBPでダイオウイカに行って上の画像のように打ちのめされて、そのままスパゲティーに行かずに、一旦ε130Dに走ってスパゲティーを撮影して、やっと今回のダイオウイカに戻ったということみたいです。)
今の技術で2年前のダイオウイカを画像処理したらどうなるか、ちょっと興味が出たので、少しだけ挑戦してみました。念の為一からWBPPをかけ直して、ABEとGradientCorrectionでフラット化して、SPCCをかけて、BXTをかけて、リニアの状態で恒星と背景を分離するなど、基本方針はナローで撮った時と同じです。ところが、適当にストレッチしてからダイオウイカ本体の処理のために青のマスクを作ろうとしたのですが、あまりに淡くてノイジーで背景と分離することができずに、結論としてはマスク作成不可能ということで頓挫しました。やはり今の技術を持ってしても、無理なものは無理と分かっただけでも収穫かもしれません。
結局年単位の長期計画になったのですが、改めて明るい鏡筒まで手に入れて、今回ナローでイカを撮った甲斐があったというものです。
ちょうど6Dの画像処理中の6月24日、PixInsightのメジャーアップデートのお知らせがメールで届きました。目玉の新機能が多数枚の画像の速い処理を可能にするFastBatchPreprocessing(FBPP)と 、色バランスをGaia DR3データと比較して合わせるSpectrophotometricFluxCalibration (SPFC)でしょうか。とりあえずFBPPだけ試してみました。WBPPとの簡単な比較ですが、興味がある人も多いのではないでしょうか。
あ、その前に、1.8.9-3にアップデートした時点でプロジェクトファイル内に保存されていたWBPPのインスタンスが再利用できなくなったので、使い回しができなくなり新たに一から作り直す必要がありました。ダークとかフラットを登録済みで便利だったのに、また登録し直しでちょっと面倒でした。アップデートする方はこの点注意です。
1.8.9-3のインストール後、使えなくなったのはStarNetのみでした。これは前バージョンのPixInsightを消さずにフォルダ名だけ変えて残しておいて、1.8.9-3を元と同じ名前のフォルダにインストールし、古いフォルダ以下に残っていたファイルを新しい方にコピペしました。どのファイルをコピペすればいいかはここを参照してください。コピペでファイルの権限などもそのまま写されるので、このページにあるchmodなどの属性変更は必要ありませんでした。
さて処理にかかった時間の結果ですが、WBPPとFBPPで比較します。ファイルは全てEOS 6Dで撮影したカラー画像です。ファイル数は全く同じで、LIGHTが82枚、FLATが32枚、FLATDARKが32枚、DARKが106枚、BIASは以前に撮ったマスターが1枚です。
まずはこれまでのWBPPでかかった時間です。WBPPはdrizzle x1やLN Referenceなどもフルで実行しています。やっていないのはCosmeticCorrectionくらいでしょうか。トータルでは45分強かかっています。
一方、FBPPは設定でほとんどいじるところがなくて、ここまでシンプルになると迷うことが無くなるので好感が持てました。PixInsightの設定の多さや複雑さに困っている人も多いかと思います。私は多少複雑でも気にしないのですが、それでもこれだけシンプルだとかなりいいです。トータル時間は約11分です。
結果を比べると、Fast Integrationと出ているところは元のIntegrationなどに比べて3倍程度速くなっていますが、Fast IntegrationはLIGHTのみに使われていて、その他のDARKなどのIntegrationには使われないようです。Debayerも5倍弱と、かなり速くなっています。他の処理は元と同じ名前になっていて、かかる時間はほぼ同じようです。その代わりに余分な処理数を減らすことでトータルの時間を短縮しているようです。トータルでは4分の1くらいの時間になりました。
ここから考えると、LIGHTフレームの数が極端に多い場合は、かなりの時間短縮になるのかと思われますが、アナウンスであった10分の1は少し大袈裟なのかもしれません。
処理数を減らしたことに関してはdrizzleを使わないとか、ImageSolveで位置特定を個別にするとかなら、ほとんど問題になることはないと思われます。出来上がりのファイル数も少なくて、操作もシンプルで、FBPPの方がむしろ迷わなくて使いやすいのではと思うくらいです。
ダイオウイカですが、2年くらい前の撮影から進歩したことは確実です。機材が違うのが第一です。ソフトウェアの進化はそこまで効かなくて、以前の撮影の無理なものは無理という事実は変わりませんでした。
さて今後ですが、これ以上の改善の可能性もまだ多少あるかと思います。例えば今使っている2インチのOIIIフィルターはBaaderの眼視用なのですが、透過波長幅が10nmと大きいこと、さらにUV/IR領域で光を透過する可能性があり、まだ余分な光が多いはずです。実際、フラット撮影時にBaaderの撮影用のHαとSIIフィルターと比べると、OIIIのみ明らかに明るくなります。また、明るい恒星の周りにかなりはっきりとしたハロができるのも問題です。これらはきちんとした撮影用のOIIIフィルターを使うことで多少改善するかと思います。この間の福島の星まつりでやっと撮影用の2インチのOIIIフィルターを手に入れることができたので、今後は改善されるはずです。
また、今回OIIIに注力するあまり、Hαの枚数が5分の1程度の25枚で2時間程度と短かったので、もう少し枚数を増やして背景の赤の解像度を増すという手もあるかと思います。
G画像だけはもっと時間をかけて淡いところを出し、分子雲を茶色系に階調豊かにする手もあるかと思います。これはナローバンド、特にAOOで緑成分をどう主張させればいいかという、今後の課題になるのかと思います。
あとは、やはり暗いとことで撮影することでしょうか。いくらナローバンド撮影と言っても、光害での背景光の明るさが変われば、OIIIの波長のところでも違いが出るのかと思います。特にS/Nの低い淡い部分は効いてくるでしょう。
2年前に心底淡いと震撼したダイオウイカですが、自宅でのナロー撮影で、まあ画像処理は大変でしたが、これだけ出たのは満足すべきなのでしょう。でももう、自宅ではここまで淡いのは撮影しないと思います。もう少し明るいものにした方が幸せになりそうです。無理のない画像処理で、余裕を持って階調を出すとかの方が満足度が高い気がしています。
「そこそこ」撮影
私の元々の天体撮影の動機は「自宅でそこそこ撮れればいいな」でした。でも「そこそこ」がいつしか「どこまで」になり、いまでは「限界は」になってしまっています...。初心から考えるとあまり良くない傾向ですね(笑)。
最初に天体写真を始めてからずいぶんかかりましたが、最近では自宅でもやっと「そこそこ」満足に撮れるようになってきました。なんか「そこそこ」の使い方が間違っているようにも感じますが、とにかくイルカさんやカモメさんやクワガタさんは分解能や階調など見てもそこそこかと思います。ここ数年のソフトの進化の効果もかなり大きいです。でもこれは明るい天体だからまだ言えることで、かなり頑張って出したスパゲッティーさんは自宅撮影の限界はもう超えているんだと思います。今回の撮影のコウモリさんはまだしも、ダイオウイカさんはスパゲティーと同レベルか、もっと淡かったりします。
撮影したのはかなり前
Sh2-129: フライングバット星雲とその中のダイオウイカ星雲を撮影したのはもう半年も前のことで、時期的にはスパゲティー星雲を撮影した直後です。そういう意味でも自宅からどこまで淡い天体が出るのかの検証の一環になります。
ところが、撮影後に長い迷走状態に陥りました。最低限の画像処理としてWBPPまではすぐに終わったのですが、そこからが長い長い。理由ははっきりしていて、何度やっても仕上がりが気にいらなくて、ほっぽらかしてしまっていたからです。
気に入らない理由もはっきりしていて、HαとOIIIに写るものがあまりにもはっきり区別されすぎていて、Hα起因の赤は赤だけでのっぺりしてしまうし、OIIIはそもそもメインのダイオウイカさえもあまりにも写らなくて、炙り出そうとしても画面全体がノイジーになってしまうからです。
とりあえずこちらを見てください。OIIIの5分露光1枚撮りで、ABEとDBEをかけてフラット化して、かなり強度に炙り出してみたものでが、ほとんど何も見えません。フラット補正の誤差レベルで出てくる鏡筒の迷光の僅かな明暗差よりも、星雲本体の方が全然淡いくらです。
WBPP後にどうなるかというと、まあせいぜいこの程度です。OIIIだけで10時間25分あるのですが、強炙り出ししても高々これくらい出るのみです。
少しでもS/Nを稼ごうとして、ソフトウェアビニングをかけて、bin4x4状態にして、そこからdrizzleでx2をしています。これについては以前議論していて、上記画像はすでにその過程を経たものになってます。このレベルのノイズだと流石にいかんともしがたく、少しだけ画像処理を進めましたが、全く太刀打ちできませんでした。
こんな調子ですが、画像処理の基本的な方針だけは初期の方に決まりました。恒星はRGBをそれぞれ別撮りしたものから得ます。その結果Hαの恒星もOIIIの恒星も使わないことになります。なので、最初からリニアの段階でHαもOIIIも背景と恒星を分離してしまいます。HαとOIIIの背景と、RGBから作った恒星を、別々にストレッチして、あとから合わせることにしました。
OIIIですが、恒星分離するともう少しフラット化や炙り出しなどを進めることができ、やっとダイオウイカの形がそこそこ見える程度にまでなりました。
背景の一部がボケたようになっていますが、DBEなどのフラット化の時になぜかボケてしまいます。どうやらこれは階調が僅かすぎて補正しきれないことに起因するようです。例えこれくらい出ていたとしても、AOO合成して処理しようとすると青と緑の背景があまりにノイジーになりすぎ、全く処理する気にならずに、ここで長期間放置状態になりました。
その後しばらくして、OIII画像は星雲本体のマスクを作ることができることに気づき、なんとかなると思い画像処理を進めました。今度はHαは赤のみ、OIIIは青と緑のみと、ものの見事に別れきっていることに気づいて、あまりに赤がのっぺりしてしまって、さらにはダイオウイカ自身も青一辺倒で後から乗っけたようになってしまい、これまた嫌になってしまって再度長期放置していました。
体調を崩してからまだ夜の撮影を敢行できずにいるので、未処理の画像をと思い、今回重い腰を上げました。スタートは以下の画像です。これとOIII画像から作った星雲本体と明るい青い部分のマスクを使います。
ただ、これだけだと赤と青共にのっぺりするのは変わらないので、途中からRGB画像のG成分を少し加えてみました。淡いですがG画像の背景に構造は残っているようで、緑成分がHαの赤と合わさって茶色の分子雲を作り出せればと考えました。このやり方が正しいのかどうかは疑問もあるのですが、例えばこれまでもかもめ星雲の時にHαにGBの背景を合わせて、赤の「のっぺり」を防いでいます。OIIIを使っていないのがポイントで、B画像とG画像の青と緑成分を使い色の階調を稼いでいます。また、網状星雲の画像処理ではε130DのテストとしてHαとOIIIのみでAOO合成していますが、これだと右側に広がる茶色の分子雲をどうやっても表現することができません。G画像を持ってくれば何か出せるのかなと考えていて、今回はその布石でもあります。同様のことはクワガタ星雲のAOO画像でも述べています。
初出でXに投稿した画像はマスク処理が功を奏して、やっとなんとかダイオウイカ本体が出てきたものでした。でもダイオウイカ本体から透けて見えるはずのHαの赤成分が全然出ていないことに後から気づきました。今から見るとちょっと恥ずかしいですが、まだ苦労している途中の習作ということで出しておきます。
次に投稿したものは、青から透けて見える背景の赤に気をつけて処理したものです。
その後、ソフトウェアビニングでbin4相当だったOIII画像を元のbin2に戻して、さらに青ハロの処理を間違えていたことと、ダイオウイカ本体以外にも青い部分は存在していることに気づき、青をさらに注意して、再度ほぼ一から処理し直しました。大体の処理方針はもう決まっていたので、再処理でもそこまで時間はかからず、最終的には以下のようになりました。
「Sh2-129: ダイオウイカ星雲」
- 撮影日: 2023年12月4日19時13分-23時47分、12月8日18時53分-22時45分、12月29日17時56分-21時53分、12月30日18時5分-21時13分、2024年1月2日17時54分-20時47分
- 撮影場所: 富山県富山市自宅
- 鏡筒: TAKAHASHI製 ε130D(f430mm、F3.3)
- フィルター: Baader:Hα 6.5nm、OIII 10nm
- 赤道儀: Celestron CGEM II
- カメラ: ZWO ASI6200MM Pro (-10℃)
- ガイド: f120mmガイド鏡 + ASI290MM、PHD2によるマルチスターガイドでディザリング
- 撮影: NINA、bin2、Gain 100、露光時間5分、Hα: 28枚、OIII: 125枚、R: 11枚、G: 14枚、B: 11枚、の計189枚で総露光時間15時間45分
- Dark: Gain 100、露光時間5分、温度-10℃、117枚
- Flat, Darkflat: Gain100、露光時間 Hα: 0.2秒、OIII: 0.2秒、R: 0.01秒、G: 0.01秒、B: 0.01秒で全て64枚
- 画像処理: PixInsight、Photoshop CC
背景が赤一辺倒、ダイオウイカ本体は青一辺倒というのから脱却して、少しだけですが階調を出せたのかと思います。処理途中は、かなり最後の方までイカ本体が少しでも見えたらいいくらいに本気で思っていましたが、結果としては正直自宅撮影でよくここまで出たと思います。結局イカ本体はある程度出てくれたので、こんな淡い天体の場合でも画像処理の手法としては存在するということが、今回学べたことです。
その一方、元々超淡くてノイジーなダイオウイカです。マスクを駆使して、相当な無理をして出していることを実感しながら処理していました。これだけ淡いと、環境のいい多少暗いところで撮影したとしても、画像処理には無理が出そうで、例えば他の方のダイオウイカ本体がかなり綺麗に出ている画像を見ても、よくよく見てみると多少強引に処理を進めたような跡が見てとられます。Xに投稿したときに海外の方から「このターゲットを狙う限り、みんな苦労して画像処理している」とか言うようなコメントがありましたが、本当にみんな苦労しているのかもしれません。
恒例のアノテーションです。
以前に挑戦していた!?
どうせなのでぶっちゃけますが、実はダイオウイカ星雲は以前撮影していて、お蔵入りにしたことがあります。2021年11月のことです。FS-60CBにDBPフィルターをつけて、EOS 6Dで撮影しました。
DBPで胎児とハート星雲を撮影してみて、結構出るのでこれならダイオウイカでもなんとかなるかなと思って意気揚々と3日に渡り撮影しました。1枚当たりの露光時間はたっぷり10分で82枚、合計で13時間40分です。下の画像は、試しにWBPP後、フラット化だけしたものですが、何個もある黒い穴はホコリなので無視するとして、強炙り出ししても心の目で見てやっと青いイカが確認できるくらいです。
ホコリの跡が目立ったのもありますが、このイカさんの淡さ見て画像処理をする気にもならずに、諦めてしまいました。でもこれが広角の明るい鏡筒でナローバンド撮影をしたくなった強烈な動機になり、それから1年ちょっと経った時にε130Dを手に入れています。(追記: 改めて過去記事を読んでみると、DBPと6Dで胎児とハート星雲を撮影してうまくいったので、次にDBPでスパゲティー星雲を撮影しようと思ったみたいです。でもスパゲティーの前に6D+DBPでダイオウイカに行って上の画像のように打ちのめされて、そのままスパゲティーに行かずに、一旦ε130Dに走ってスパゲティーを撮影して、やっと今回のダイオウイカに戻ったということみたいです。)
今の技術で2年前のダイオウイカを画像処理したらどうなるか、ちょっと興味が出たので、少しだけ挑戦してみました。念の為一からWBPPをかけ直して、ABEとGradientCorrectionでフラット化して、SPCCをかけて、BXTをかけて、リニアの状態で恒星と背景を分離するなど、基本方針はナローで撮った時と同じです。ところが、適当にストレッチしてからダイオウイカ本体の処理のために青のマスクを作ろうとしたのですが、あまりに淡くてノイジーで背景と分離することができずに、結論としてはマスク作成不可能ということで頓挫しました。やはり今の技術を持ってしても、無理なものは無理と分かっただけでも収穫かもしれません。
結局年単位の長期計画になったのですが、改めて明るい鏡筒まで手に入れて、今回ナローでイカを撮った甲斐があったというものです。
PixInsight1.8.9-3のFBPP
ちょうど6Dの画像処理中の6月24日、PixInsightのメジャーアップデートのお知らせがメールで届きました。目玉の新機能が多数枚の画像の速い処理を可能にするFastBatchPreprocessing(FBPP)と 、色バランスをGaia DR3データと比較して合わせるSpectrophotometricFluxCalibration (SPFC)でしょうか。とりあえずFBPPだけ試してみました。WBPPとの簡単な比較ですが、興味がある人も多いのではないでしょうか。
あ、その前に、1.8.9-3にアップデートした時点でプロジェクトファイル内に保存されていたWBPPのインスタンスが再利用できなくなったので、使い回しができなくなり新たに一から作り直す必要がありました。ダークとかフラットを登録済みで便利だったのに、また登録し直しでちょっと面倒でした。アップデートする方はこの点注意です。
1.8.9-3のインストール後、使えなくなったのはStarNetのみでした。これは前バージョンのPixInsightを消さずにフォルダ名だけ変えて残しておいて、1.8.9-3を元と同じ名前のフォルダにインストールし、古いフォルダ以下に残っていたファイルを新しい方にコピペしました。どのファイルをコピペすればいいかはここを参照してください。コピペでファイルの権限などもそのまま写されるので、このページにあるchmodなどの属性変更は必要ありませんでした。
さて処理にかかった時間の結果ですが、WBPPとFBPPで比較します。ファイルは全てEOS 6Dで撮影したカラー画像です。ファイル数は全く同じで、LIGHTが82枚、FLATが32枚、FLATDARKが32枚、DARKが106枚、BIASは以前に撮ったマスターが1枚です。
まずはこれまでのWBPPでかかった時間です。WBPPはdrizzle x1やLN Referenceなどもフルで実行しています。やっていないのはCosmeticCorrectionくらいでしょうか。トータルでは45分強かかっています。
一方、FBPPは設定でほとんどいじるところがなくて、ここまでシンプルになると迷うことが無くなるので好感が持てました。PixInsightの設定の多さや複雑さに困っている人も多いかと思います。私は多少複雑でも気にしないのですが、それでもこれだけシンプルだとかなりいいです。トータル時間は約11分です。
結果を比べると、Fast Integrationと出ているところは元のIntegrationなどに比べて3倍程度速くなっていますが、Fast IntegrationはLIGHTのみに使われていて、その他のDARKなどのIntegrationには使われないようです。Debayerも5倍弱と、かなり速くなっています。他の処理は元と同じ名前になっていて、かかる時間はほぼ同じようです。その代わりに余分な処理数を減らすことでトータルの時間を短縮しているようです。トータルでは4分の1くらいの時間になりました。
ここから考えると、LIGHTフレームの数が極端に多い場合は、かなりの時間短縮になるのかと思われますが、アナウンスであった10分の1は少し大袈裟なのかもしれません。
処理数を減らしたことに関してはdrizzleを使わないとか、ImageSolveで位置特定を個別にするとかなら、ほとんど問題になることはないと思われます。出来上がりのファイル数も少なくて、操作もシンプルで、FBPPの方がむしろ迷わなくて使いやすいのではと思うくらいです。
今後の改善
ダイオウイカですが、2年くらい前の撮影から進歩したことは確実です。機材が違うのが第一です。ソフトウェアの進化はそこまで効かなくて、以前の撮影の無理なものは無理という事実は変わりませんでした。
さて今後ですが、これ以上の改善の可能性もまだ多少あるかと思います。例えば今使っている2インチのOIIIフィルターはBaaderの眼視用なのですが、透過波長幅が10nmと大きいこと、さらにUV/IR領域で光を透過する可能性があり、まだ余分な光が多いはずです。実際、フラット撮影時にBaaderの撮影用のHαとSIIフィルターと比べると、OIIIのみ明らかに明るくなります。また、明るい恒星の周りにかなりはっきりとしたハロができるのも問題です。これらはきちんとした撮影用のOIIIフィルターを使うことで多少改善するかと思います。この間の福島の星まつりでやっと撮影用の2インチのOIIIフィルターを手に入れることができたので、今後は改善されるはずです。
また、今回OIIIに注力するあまり、Hαの枚数が5分の1程度の25枚で2時間程度と短かったので、もう少し枚数を増やして背景の赤の解像度を増すという手もあるかと思います。
G画像だけはもっと時間をかけて淡いところを出し、分子雲を茶色系に階調豊かにする手もあるかと思います。これはナローバンド、特にAOOで緑成分をどう主張させればいいかという、今後の課題になるのかと思います。
あとは、やはり暗いとことで撮影することでしょうか。いくらナローバンド撮影と言っても、光害での背景光の明るさが変われば、OIIIの波長のところでも違いが出るのかと思います。特にS/Nの低い淡い部分は効いてくるでしょう。
まとめ
2年前に心底淡いと震撼したダイオウイカですが、自宅でのナロー撮影で、まあ画像処理は大変でしたが、これだけ出たのは満足すべきなのでしょう。でももう、自宅ではここまで淡いのは撮影しないと思います。もう少し明るいものにした方が幸せになりそうです。無理のない画像処理で、余裕を持って階調を出すとかの方が満足度が高い気がしています。