ほしぞloveログ

天体観測始めました。

2024年03月


黒天リフさんがX上でバイアス補正について迷っている投稿がありました。


詳しいことはリンク先を読んでもらうとして、ここで上がっている疑問は大きく2つに収束して、
  1. 元々暗いダークファイルからマスターバイアスを引く際に、引きすぎになって0以下の値になり、真っ暗なピクセルが多数出てくるのではないか?
  2. ダークファイルにバイアスが含まれているなら、ライトファイルをダーク補正するだけで良さそうだが、本当にそれでいのか?それではいったいバイアス補正とはなんなのか?
というものかと思います。フラットおよび、フラットダークについては今回の範疇でないので、ここでは考えないことにします。

今回の記事は、これら2つの疑問が動機です。ちょうど今やっているノイズ解析でバイアスを考えるいい機会となりました。前回の記事のダーク補正をもう少し発展させ、バイアス補正を通して、ライトファイルを補正する場合まで考えます。



バイアス補正とは

ここではバイアスファイルとは、センサーに光が入らないようにして、露光時間を設定できる最小の値にして撮影した画像のこととします。ある意味実現しうる最小の輝度値を記録したファイルとなります。

ただし、実際のバイアスファイルの「輝度値」は注意が必要です。なぜなら、撮影時にSharpCapなどのアプリ側で設定できるオフセットを含んだ輝度値になるので、下駄をはかされた状態で記録されます。例えばASI294MM Proなら、設定したオフセットの値の16倍の値がADCの値となって輝度としてカウントされます。私はSharpCapでもNINAでも、大抵オフセット値を40として撮影いるので、撮影画像には60x16=640の値がオフセットとして記録されています。

「バイアス」の元の意味では、この定数のオフセットの意味が強いですね。

バイアスファイルの輝度値にも当然ばらつきがあります。このばらつきは「読み出しノイズ」と一致すると考えて差し支えないでしょう。極端に短い露光時間で撮影するためにセンサーからの信号は何も出てこないので、読み出し回路などから来る「読み出しノイズ」が支配的になります。また、極端に短い露光時間で撮影するということで、(時間に比例するダークカレント起因の)ダークノイズは無視できます。

バイアス補正によくある誤解で「バイアス補正はオフセットのみを引く」と捉えられがちですが、これはノイズのことを何も考えていないので、十分ではありません。オフセットに加えて、ノイズというばらつきを引く(実際には2乗和で足されるのですが)ことになるので、ばらつきの幅によっては補正した後の値が0以下になる可能性があります。特に極端に暗いファイルを補正する場合、例えばダークフレームからバイアスを引いた場合などです。最初の疑問そのものですね。

バイアスファイルを重ねてマスターバイアスを作ると、そこに含まれる「読み出しノイズ」も小さくなります。ばらつきの幅が小さくなるというイメージです。それでもマスターバイアスファイルにはばらつきが残っています。マスターバイアスに含まれる読み出しノイズはランダムで無相関なので、当然のことながら、バイアス補正をする際にはその読み出しノイズを「増やして」しまいます。一方オフセットは実際に引かれるので、平均輝度は下がります。元々暗いファイルなら、平均輝度は0付近になってしまうでしょう。そこにノイズが増えることになるので、補正後に輝度を0以下にする可能性が残ります。

注意: 今ここで、ノイズが増えるなら0以下にならないのではと思った方いませんか?もしそう思われたかがいるなら、まだノイズのイメージが正しくないです。ノイズが増えるということは、ばらつきが増えるということなので、平均輝度からのズレがより大きくなり、0以下になるピクセルが出てくる可能性がより多くなります。ヒストグラムで表すと、山の幅が大きくなるイメージです。

ちなみに、バイアスファイルの撮影は短時間で済むので、ライトファイルに比べて十分多数枚を容易に撮影することができ、読み出しノイズの増加をほとんど影響がない範囲に抑えることができるでしょう。例えば私の場合、バイアスファイルは512枚とか、1024枚撮影します。ライトファイルに比べてバイアスフレームの枚数が例えば10倍ならば、補正による読み出しノイズの増加は2乗和のルートで効くので、\(\sqrt{1^2+0.1^2} = \sqrt{1.01} \sim 1.005\)倍とほとんど無視できます。3倍の枚数のバイアスファイルでも\(\sqrt{1^2+(1/3)^2} = \sqrt{1.11} \sim 1.05\)倍と、これでも十分無視できます。ライトファイルと同枚数のバイアスファイルだと読み出しノイズは1.41倍となるので、無視できなくなってきます。

でもバイアス補正で読み出しノイズを増やしてしまうのならば、そもそもバイアスファイルを引くことのメリットってなんなのでしょうか?単純には、もし複数枚のバイアスファイルに(ホットピクセルやアンプグローのような固定ノイズ的な)コヒーレントな成分があるならば、それをさっ引くことができるのですが、そもそも本当にコヒーレントな成分なんてあるのでしょうか?

バイアスファイルはよく横縞や縦縞になって見えますが、これらがコヒーレントで決まったパターンになるならば、バイアス補正は有効です。逆にこれらの縞がランダムでどこに現れるかわからないならば、そもそもバイアス補正の意味なんて無くなってしまいます。

さらに、撮影時にディザーを適用すれば、恒星による位置合わせでバイアスのコヒーレントの部分は散らされる可能性もあります。それでも事前に取り除いて、パターンを小さくしておいた方が有利という考えでバイアス補正をしているのかと思われます。今回は試しませんが、いずれバイアスファイルにコヒーレント成分があるかどうかはきちんと検証してみたいと思います。


マスターバイアスファイル

まずは1枚のバイアスファイルを考えてみます。

1枚のバイアスファイルを

Bias:
\[B+\sigma_\text{B}\]
のように表すことができるとします。\(B\)は輝度の平均値、\(\sigma_\text{B}\)は輝度のStandard deviationで読み出しノイズそのものです。

\(N_\text{b}\)枚のバイアスファイルでスタックして、同枚数で割ったマスターバイアスのランダムノイズは、枚数のルート分の1になります。輝度の平均値は足し合わせたバイアスファイルを同じ枚数で割るので、同じ\(B\)のままです。マスターバイアスは以下のように書けます。平均輝度は同じですが、ばらつきは\(\sqrt{N_\text{b}}\)分の1に小さくなっています。

Master bias:
\[B + \frac{\sigma_\text{B}}{\sqrt{N_\text{b}}}\]


バイアスファイルをマスターバイアスファイルで補正してみる

ここで、各バイアスファイルからマスターバイアスを引くこと考えてみるのは面白いでしょう。今後の見通しがよくなるはずです。

Bias - Master bias:
\[\sqrt{\sigma_\text{B}^2+\frac{\sigma_\text{B}^2}{N_\text{b}}} = \sqrt{1+\frac{1}{N_\text{b}}} \sigma_\text{B} \]
で\(N_\text{b}\)が多数の枚数だとすると、元々1だったノイズが\( \sqrt{1+1/N_\text{b}} \)とごく僅か増えて、平均輝度値の\(B\)は消えてしまいます。

これを2枚スタックする場合、バイアスフレームの中の読み出しノイズは無相関ですが、マスターバイアスに含まれる読み出しノイズは正の相関を持つので、
\[ \sqrt{ \left( \sqrt{\sigma_\text{B}^2 + \sigma_\text{B}^2} \right)^2 +\left(\frac{\sigma_\text{B}}{\sqrt{N_\text{b}}} + \frac{\sigma_\text{B}}{\sqrt{N_\text{b}}}\right)^2} = \sqrt{2 + \frac{2^2}{N_\text{b}}} \sigma_\text{B}  \]
となります。前回の記事の、ダーク補正したライトフレームをスタックするときと同じ考え方ですね。大外のルートの中の、1項目が無相関で2乗和のルートで足し合わさるノイズ。2項目が正の相関を持ってそのまま足し合わさるノイズ。それぞれがさらに2乗和となり大外でルートになるというわけです。

3枚スタックしたら、
\[ \sqrt{ \left( \sqrt{\sigma_\text{B}^2 + \sigma_\text{B}^2 + \sigma_\text{B}^2} \right)^2 +\left(\frac{\sigma_\text{B}}{\sqrt{N_\text{b}}} + \frac{\sigma_\text{B}}{\sqrt{N_\text{b}}} + \frac{\sigma_\text{B}}{\sqrt{N_\text{b}}} \right)^2} = \sqrt{3 + \frac{3^2}{N_\text{b}}} \sigma_\text{B}  \]
となります。同じようにして、\( N_\text{a} \)枚スタックしたら
\[ \sqrt{N_\text{a} + \frac{N_\text{a}^2}{N_\text{b}}} \sigma_\text{B}  \]
となります。ここまでは足し合わせを考えていただけなので、輝度をスタックする前の画像に合わせるように\( N_\text{a} \)枚で規格化すると、
\[ \frac{\sqrt{N_\text{a} + \frac{N_\text{a}^2}{N_\text{b}}}\sigma_\text{B}  }{N_\text{a}} =  \sqrt{\frac{1}{N_\text{a}} + \frac{1}{N_\text{b}}} \sigma_\text{B} \]
となります。
 
ここまでわかったので、例えば具体例として\(N_\text{a} = N_\text{b}\)として、マスターバイアスを作った時と同じ枚数の\( N_\text{b} \)枚スタックしたら
\[ \sqrt{N_\text{b} + \frac{N_\text{b}^2}{N_\text{b}}} \sigma_\text{B} =  \sqrt{N_\text{b} + N_\text{b}} \sigma_\text{B} = \sqrt{2 N_\text{b}} \sigma_\text{B} \]
となることがわかり、読み出しノイズは\( \sqrt{2 N_\text{b}} \)倍になります。これも輝度をスタックする前の画像に合わせるように\( N_\text{b} \)枚で規格化すると、 
\[ \frac{\sqrt{2 N_\text{b}}}{N_\text{b}} \sigma_\text{B} = \sqrt{\frac{2}{N_\text{b}}} \sigma_\text{B} \]
となり、読み出しノイズの貢献度は\( \sqrt{2/N_\text{b}} \)倍、すなわち\( \sqrt{N_\text{b}} \)分の1の2回分となることがわかり、直感的かと思います。


0以下の値の存在

さてここで、最初の疑問の1について少し考えてみましょう。1枚の バイアスファイルをマスターバイアスで補正した段階で、すでに輝度の平均値は0になっています。そこに正負に広がりのあるノイズが存在するので、当然0以下の値が存在してしまうことになります。ファイルのフォーマットとしては0以下の値はとることができないので、丸め込んで0となってしまいます。これはまずいです。そのため、通常は計算過程で適当なオフセットを加えて、値を0以上に保ったまま補正などすることが必要となってきます。ここではバイアス補正を見ていますが、ダーク補正の際にもマスターダークファイルの輝度の平均値でさっ引くので、暗いライトファイルを補正する時には同じように輝度が0以下になる可能性が十分にあります。

例えばPixInsightのWBPPでは明示的にPedestal(下駄)という値を設定することができて、ここを適した値に設定することで負の値にならないように0以上にしているため、おかしな結果にはならないです。ただし、全ての計算過程で0以上が保たれて以下どうかは不明です。ここも検証ポイントなので、いつか検証したいと思います。

いずれにせよ、補正の際に何も手当をしなければ0以下の値になることは明白で、そもそもバイアスファイルを撮影する際に適したオフセットを設定すること、ダークファイルや極端に暗いライトフファイルを、バイアス補正やダーク補正する際には適当なペデスタルを加算して処理することが必須でしょう。これが最初の疑問1の答えになるかと思います。


バイアス補正は意味があるのか?

ここまではバイアスファイルを補正した話でしたが、次は実際の画像処理に相当するライトファイルの補正を考えてみましょう。

1枚のライトファイルを撮影すると、自動的にバイアス相当とダーク(バイアスを除いたもの)相当が含まれていると考えることができます。そのためライトファイルは
\[L + D + B + \sqrt{\sigma_\text{L}^2+ \sigma_\text{D}^2 +\sigma_\text{B}^2} \]
のように書くことができるとします。ここで、\( L \)、\( D \)、\( B \)はそれぞれ1枚のライト単体、ダーク単体、バイアス単体の平均輝度、\( \sigma_\text{L} \) はスカイノイズを含む、輝度のばらつきからくるショットノイズ、\( \sigma_\text{D} \)はダークノイズ、\( \sigma_\text{B} \)は読み出しノイズとします。各ノイズは無相関と考えられるので、これらは2乗和のルートの貢献となります。

ここで2つのバイアス処理を考えます。黒天リフさんの疑問の2に相当しますが、比較すべきものは
  1. ライトとダークからそれぞれマスターバイアスを引いて、できたライトからマスターダークを引く。
  2. ライトから(バイアスを引いていない)マスターダークを引く -> バイアスはダークに含まれているので、ダーク補正のみでバイアス補正も自動的にされる。
になります。例えば旧来のPixInsightでは1の方法が主にとられていて、バイアスファイルは必須とされてきました。他の画像処理も1を推奨しているのかと思われます。いつの頃からでしょうか、最近のPixInsightではあからさまに1はダメだと言い、2を推奨しています。なぜ2が明らかにいいというのか、ここではそれを検証してみたいと思います。

1と2の共通項目として、個々のバイアスファイルとマスターバイアスは以下のように表されるとします。

Bias:
\[B+\sigma_\text{B}\]

Master bias:
\[B + \frac{\sigma_\text{B}}{\sqrt{N_\text{b}}}\]
\(N_\text{b}\)はバイアスフレームの枚数です。


1のダークファイルのバイアス補正

1. 旧来の方法です。まず、1枚のダークライフからマスターバイアスを引く事を考えます。前回の記事と違い、ダークライフの平均輝度と、ダークノイズをあらわに考えていることに注意です。マスターバイアスの平均輝度分だけライトファイルの平均輝度が下がり、マスターバイアスに含まれる(スタックされ多分の小さな)読み出しノイズが増えます。1枚のダークファイルは以下のように表すことができます。

Dark:
\[(D + B) + \sqrt{\sigma_\text{D}^2 +\sigma_\text{B}^2} \]
これを、マスターバイアス

Master bias:
\[B + \frac{\sigma_\text{B}}{\sqrt{N_\text{b}}}\]
で補正します。

ダークノイズも、ダークファイル中に含まれるバイアスノイズも、マスターバイアスに含まれるノイズも、全て無相関として2乗和のルートになり、

Dark - Master bias:
\[D+\sqrt{ \sigma_\text{D}^2+\sigma_\text{B}^2 + \left( \frac{\sigma_\text{B}}{ \sqrt{N_\text{b}} } \right) ^2 } = D+ \sqrt{\sigma_\text{D}^2+\sigma_\text{B}^2 + \frac{\sigma_\text{B}^2}{N_\text{b}} }\]
となります。

ここからスタックしていきます。まずバイアス補正したダークファイルを2枚足し合わせて、明るさを合わせるために2で割ると、マスターバイアス起因のノイズは正の相関を持つことに注意して、
\[ D+ \left( \sqrt{ \left( \sqrt{2 \sigma_\text{D}^2 + 2 \sigma_\text{B}^2} \right)^2 + \left( 2 \frac{\sigma_\text{B}}{\sqrt{N_\text{b}}} \right)^2 } \right)/2 \] \[ \begin{eqnarray} &=& D+ \left(\sqrt{ \left(2 \sigma_\text{D}^2 + 2 \sigma_\text{B}^2 \right) + 2^2 \frac{\sigma_\text{B}^2}{N_\text{b}} } \right) /2\\  &=& D+ \left(\sqrt{ \left(\sigma_\text{D}^2 + \sigma_\text{B}^2 \right) + 2 \frac{\sigma_\text{B}^2}{N_\text{b}} } \right) /\sqrt{2} \end{eqnarray}\]

3枚足し合わせて、明るさを合わせるために3で割ると、
\[ D+ \left( \sqrt{ \left( \sqrt{3 \sigma_\text{D}^2 + 3 \sigma_\text{B}^2} \right)^2 + \left( 3 \frac{\sigma_\text{B}}{\sqrt{N_\text{b}}} \right)^2 } \right)/3 \] \[ \begin{eqnarray} &=& D+ \left(\sqrt{ \left(3\sigma_\text{D}^2 + 3 \sigma_\text{B}^2 \right) + 3^2 \frac{\sigma_\text{B}^2}{N_\text{b}} } \right) /3\\  &=& D+ \left(\sqrt{ \left(\sigma_\text{D}^2 + \sigma_\text{B}^2 \right) + 3 \frac{\sigma_\text{B}^2}{N_\text{b}} } \right) /\sqrt{3} \end{eqnarray}\]


\( N_\text{d} \)枚足し合わせて、明るさを合わせるために\( N_\text{d} \)で割ると、
\[ D+ \left(\sqrt{ (\left(\sigma_\text{D}^2 + \sigma_\text{B}^2 \right) + N_\text{d} \frac{\sigma_\text{B}^2}{N_\text{b}} } \right) /\sqrt{N_\text{d}} = D+ \sqrt{ \frac{\sigma_\text{D}^2}{N_\text{d}} + \frac{\sigma_\text{B}^2}{N_\text{d}} + \frac{\sigma_\text{B}^2}{N_\text{b}} } \]
となります。3項目が\(N_\text{d}\)ではなく\(N_\text{b}\)で割られていることに注意です。

ここで、例えば\(N_\text{d} = N_\text{b}\)としてバイアスとダークのスタック枚数を合わせてやると簡単になって、
\[ D+ \sqrt{ \frac{\sigma_\text{D}^2}{N_\text{b}} + \frac{\sigma_\text{B}^2}{N_\text{b}} + \frac{\sigma_\text{B}^2}{N_\text{b}} } = D+ \sqrt{ \frac{\sigma_\text{D}^2}{N_\text{b}} + 2 \frac{\sigma_\text{B}^2}{N_\text{b}} } \]

となり、ダークノイズの2乗と「2倍」のバイアスノイズの2乗の和のルートが、スタック枚数分のルートで小さくなったことわかり、直感的にもわかりやすくなるかと思います。ここで、2倍のバイアスノイズが貢献することは重要です。ダークファイルをバイアス補正した段階で、バイアスノイズが増えてしまっています。

結局、マスターダークはダークのスタック枚数\(N_\text{d}\)とバイアスのスタック枚数\(N_\text{b}\)を用いて

Master dark:
\[D+ \sqrt{ \frac{\sigma_\text{D}^2}{N_\text{d}} + \frac{\sigma_\text{B}^2}{N_\text{d}} + \frac{\sigma_\text{B}^2}{N_\text{b}} } \]
のように書けることがわかりました。


1のライトファイルのバイアス補正

次に1枚のライトファイルからマスターバイアスを引く事を考えます。マスターバイアスの平均輝度分だけライトファイルの平均輝度が下がり、マスターバイアスに含まれる(スタックされた分の小さな)読み出しノイズが増えます。上と同様の計算をして

Light - Master dark:
\[L+ D+ \sqrt{\sigma_\text{L}^2+\sigma_\text{D}^2+\sigma_\text{B}^2 + \frac{\sigma_\text{B}^2}{N_\text{b}} }\]
となります。


1のバイアス補正したライトファイルを、バイアス補正したダークファイルで補正する

次に、ここからバイアス補正済みのダークを引きます。ここでダークの平均輝度Dは無くなります。

(Light - Master bias) - bias compensated Master Dark:
\[ L+\sqrt{ \left( \sqrt{ \sigma_\text{L}^2 + \sigma_\text{D}^2+\sigma_\text{B}^2 + \frac{\sigma_\text{D}^2}{ N_\text{d}} + \frac{\sigma_\text{B}^2}{ N_\text{b}} }\right)^2 + \left( 2 \frac{\sigma_\text{B}}{ \sqrt{N_\text{b}} } \right) ^2 }\]
\[= L+\sqrt{ \sigma_\text{L}^2 + \sigma_\text{D}^2+\sigma_\text{B}^2 + \frac{\sigma_\text{D}^2}{ N_\text{d}} + \frac{\sigma_\text{B}^2}{ N_\text{b}} + 2^2 \frac{\sigma_\text{B}^2}{N_\text{b}} }\]

これを2枚スタックして2で割ると
\[ L+\left( \sqrt{ \left( \sqrt{ 2 \left( \sigma_\text{L}^2 + \sigma_\text{D}^2+\sigma_\text{B}^2 \right) } \right) ^2  + \left( 2 \frac{\sigma_\text{D}}{ \sqrt{N_\text{d}}} \right)^2 + \left( 2 \frac{\sigma_\text{B}}{ \sqrt{N_\text{b}}} \right)^2 + \left( 2 \left( 2 \frac{\sigma_\text{B}}{\sqrt{N_\text{b}}} \right) \right)^2} \right) /2 \]
\[ = L+\left( \sqrt{ 2 \left( \sigma_\text{L}^2 + \sigma_\text{D}^2+\sigma_\text{B}^2 \right)  + 2^2 \frac{\sigma_\text{D}^2}{ N_\text{d}} + 2^2 \frac{\sigma_\text{B}^2}{ N_\text{b}} + 2^2 \left( 2^2 \frac{\sigma_\text{B}^2}{N_\text{b}} \right)} \right) /2 \]
\[ = L+\left( \sqrt{\left( \sigma_\text{L}^2 + \sigma_\text{D}^2+\sigma_\text{B}^2 \right)  + 2\frac{\sigma_\text{D}^2}{ N_\text{d}} + 2 \frac{\sigma_\text{B}^2}{ N_\text{b}} + 2 \left( 2^2 \frac{\sigma_\text{B}^2}{N_\text{b}} \right)} \right) /\sqrt{2} \]

3枚スタックして3で割ると
\[ L+\left( \sqrt{ \left( \sqrt{ 3 \left( \sigma_\text{L}^2 + \sigma_\text{D}^2+\sigma_\text{B}^2 \right) } \right) ^2  + \left( 3 \frac{\sigma_\text{D}}{ \sqrt{N_\text{d}}} \right)^2 + \left( 3 \frac{\sigma_\text{B}}{ \sqrt{N_\text{b}}} \right)^2 + \left( 3 \left( 2 \frac{\sigma_\text{B}}{\sqrt{N_\text{b}}} \right) \right)^2} \right) /3 \]
\[ = L+\left( \sqrt{ 3 \left( \sigma_\text{L}^2 + \sigma_\text{D}^2+\sigma_\text{B}^2 \right)  + 3^2 \frac{\sigma_\text{D}^2}{ N_\text{d}} + 3^2 \frac{\sigma_\text{B}^2}{ N_\text{b}} + 3^2 \left( 2^2 \frac{\sigma_\text{B}^2}{N_\text{b}} \right)} \right) /3 \]
\[ = L+\left( \sqrt{\left( \sigma_\text{L}^2 + \sigma_\text{D}^2+\sigma_\text{B}^2 \right)  + 3\frac{\sigma_\text{D}^2}{ N_\text{d}} + 3 \frac{\sigma_\text{B}^2}{ N_\text{b}} + 3 \left( 2^2 \frac{\sigma_\text{B}^2}{N_\text{b}} \right)} \right) /\sqrt{3} \]

\(N_\text{l}\)枚スタックして同数枚で割るとマスターライトとなり、

Master light:
\[ L+\left( \sqrt{\left( \sigma_\text{L}^2 + \sigma_\text{D}^2+\sigma_\text{B}^2 \right)  + N_\text{l} \frac{\sigma_\text{D}^2}{ N_\text{d}} + N_\text{l} \frac{\sigma_\text{B}^2}{ N_\text{b}} + N_\text{l} \left( 2^2 \frac{\sigma_\text{B}^2}{N_\text{b}} \right)} \right) /\sqrt{N_\text{l}} \]
となります。

2項目分母の\(\sqrt{N_\text{l}}\)を分子のルートの中に入れたほうがわかりやすいでしょうか、

\[ L+\sqrt{\left( \sigma_\text{L}^2 + \sigma_\text{D}^2+\sigma_\text{B}^2 \right) /N_\text{l}  + \frac{\sigma_\text{D}^2}{ N_\text{d}} + \frac{\sigma_\text{B}^2}{ N_\text{b}} + 2^2 \frac{\sigma_\text{B}^2}{N_\text{b}} } \]

簡単のため、\(N_\text{l}=N_\text{d}=N_\text{b}\)としてライトとバイアスとダークのスタック枚数を合わせてやると少し見やすくなって

\[ L+\sqrt{\left( \sigma_\text{L}^2 + \sigma_\text{D}^2+\sigma_\text{B}^2 \right) /N_\text{l}  + \frac{\sigma_\text{D}^2}{ N_\text{l}} + \frac{\sigma_\text{B}^2}{ N_\text{l}} + 2^2 \frac{\sigma_\text{B}^2}{N_\text{l}} } \] \[ \begin{eqnarray} &=& L+\sqrt{ \left( \sigma_\text{L}^2 + \sigma_\text{D}^2+\sigma_\text{B}^2 + \sigma_\text{D}^2 + \sigma_\text{B}^2 + 2^2 \sigma_\text{B}^2  \right) /N_\text{l} }\\ &=& L+\sqrt{ \left( \sigma_\text{L}^2 + 2 \sigma_\text{D}^2 + 6 \sigma_\text{B}^2 \right) /N_\text{l} }\end{eqnarray} \]

となります。6倍の\(\sigma_\text{B}\)と2倍の\(\sigma_\text{D}\)の貢献あることがわかります。6倍の\(\sigma_\text{B}\)はマスターダークを作る際のバイアス補正で2倍、マスターライトを作る際のバイアス補正で2倍、ダークにもとからあるバイアスノイズが1倍、ライトに元からあるバイアスノイズが1倍で、計6倍となるわけです。\(\sigma_\text{D}\)はマスターライトを作る際の、ダークに元からあるものとライトに元からあるもので、2倍となります。


2の最近の手法の場合

こちらは1の計算に比べ、ずいぶんシンプルになります。ダークはバイアスを含んだままなので、マスターダークは、ダークとバイアスの輝度とダークノイズとバイアスノイズがダークの枚数のルート分小さくなった項が加わり、

Master Dark:
\[ D+B+ \sqrt{ \frac{\sigma_\text{D}^2}{N_\text{d}} + \frac{\sigma_\text{B}^2}{N_\text{d}} }\]
となり、これを1枚のライト
\[L + D + B + \sqrt{\sigma_\text{L}^2+ \sigma_\text{D}^2 +\sigma_\text{B}^2} \]
から引くと

Light - Master dark:
\[ L+ \sqrt{\sigma_\text{L}^2+\sigma_\text{D}^2+\sigma_\text{B}^2 + \frac{\sigma_\text{D}^2}{N_\text{d}} + \frac{\sigma_\text{B}^2}{N_\text{d}}}\]
となります。これを2枚スタックして、2枚で割ると
\[ L+\left( \sqrt{ \left( \sqrt{ 2 \left( \sigma_\text{L}^2 + \sigma_\text{D}^2+\sigma_\text{B}^2 \right) } \right) ^2  + \left( 2 \frac{\sigma_\text{D}}{ \sqrt{N_\text{d}}} \right)^2 + \left( 2 \frac{\sigma_\text{B}}{ \sqrt{N_\text{d}}} \right)^2} \right) /2 \]
\[ = L+\left( \sqrt{ 2 \left( \sigma_\text{L}^2 + \sigma_\text{D}^2+\sigma_\text{B}^2 \right)  + 2^2 \frac{\sigma_\text{D}^2}{ N_\text{d}} + 2^2 \frac{\sigma_\text{B}^2}{ N_\text{d}}} \right) /2 \]
\[ = L+\left( \sqrt{\left( \sigma_\text{L}^2 + \sigma_\text{D}^2+\sigma_\text{B}^2 \right)  + 2\frac{\sigma_\text{D}^2}{ N_\text{d}} + 2 \frac{\sigma_\text{B}^2}{ N_\text{d}}} \right) /\sqrt{2} \]

3枚の場合
\[ L+\left( \sqrt{ \left( \sqrt{ 3 \left( \sigma_\text{L}^2 + \sigma_\text{D}^2+\sigma_\text{B}^2 \right) } \right) ^2  + \left( 3 \frac{\sigma_\text{D}}{ \sqrt{N_\text{d}}} \right)^2 + \left( 3 \frac{\sigma_\text{B}}{ \sqrt{N_\text{d}}} \right)^2} \right) /3 \]
\[ = L+\left( \sqrt{ 3 \left( \sigma_\text{L}^2 + \sigma_\text{D}^2+\sigma_\text{B}^2 \right)  + 3^2 \frac{\sigma_\text{D}^2}{ N_\text{d}} + 3^2 \frac{\sigma_\text{B}^2}{ N_\text{d}}} \right) /3 \]
\[ = L+\left( \sqrt{\left( \sigma_\text{L}^2 + \sigma_\text{D}^2+\sigma_\text{B}^2 \right)  + 3 \frac{\sigma_\text{D}^2}{ N_\text{d}} + 3 \frac{\sigma_\text{B}^2}{ N_\text{d}}} \right) /\sqrt{3} \]

\(N_\text{l}\)枚の場合

Master light:
\[L+\left( \sqrt{\left( \sigma_\text{L}^2 + \sigma_\text{D}^2+\sigma_\text{B}^2 \right)  + N_\text{l} \frac{\sigma_\text{D}^2}{ N_\text{d}} + N_\text{l} \frac{\sigma_\text{B}^2}{ N_\text{d}}} \right) /\sqrt{N_\text{l}} \]
\[=L+\left( \sqrt{\left( \sigma_\text{L}^2 + \sigma_\text{D}^2+\sigma_\text{B}^2 \right) /N_\text{l} + \frac{\sigma_\text{D}^2}{ N_\text{d}} + \frac{\sigma_\text{B}^2}{ N_\text{d}}} \right) \]
となります。

やっと全ての計算が終わりました。最後の式は直接1の結果と比較することができます。


何が違うのか?

ここで振り返って、1と2の違いを比べてみましょう。

バイアス補正を個別にした1の方式ではルートの中に
\[2^2 \frac{\sigma_\text{B}^2}{N_\text{b}} = 4 \frac{\sigma_\text{B}^2}{N_\text{b}}\]
が余分に加わっています。バイアス補正の回数が1の方が2回多いので、最初にルート2倍、次にルート2倍でルート4倍損をしてしまっているというわけです。

ここで、黒天リフさんの疑問への回答をあらわに書くとすると、
  1. 個別のバイアス補正をすると、4つ分の読み出しノイズ\(\sigma_\text{B}/\sqrt{N_\text{b}}\) のだけの「余分な」ノイズが加わる。バイアス補正なしのライトフレームとダークフレームで補正した方が、バイアス補正の回数が少ないため、明らかに得をすることがわかる。
  2. それに加え、ダークファイルにバイアス補正を加える際に、元々暗い可能性があるダークファイルなので、補正によって輝度の値が0以下になる可能性がある。
以上の2つの理由から、単体のバイアス補正は原理的に不利で、ダークフレームに含まれるバイアスで自動的にライトフレームを補正する方が得するという結論です。

PixInsightでは以前は単体のバイアス補正が必須に近かったのですが、現在はDark frameに含まれるバイアスを考慮し、Dark補正のみで処理をするのが標準となっていますが、その根拠も今回の計算ではっきりしたことになります。

また、ライトフレームの補正まで考えているのでかなり実用的になり、今後の計算に具体的に使えそうです。ただし、フラットに関しては十分明るいと考えたので、無視できるとしています。

かなり長い記事と長い計算になってしまいましたが、そうはいってもこれも他のノイズとの比較で決定すべきで、例えば明るい空の撮影でスカイノイズが大きいなら、読み出しノイズの補正などはしてもしなくても誤差の範囲となるはずです。


まとめと、今後したいこと

今回のバイアス補正の計算はかなり大変でした。計算ミスが繰り返しみつかって、何度記事を書き直したことか。前回のダーク補正はまだまだ布石で、今回の計算でやっと、スタックを含めたノイズ評価ができるようになったのかと思います。式もTeX化したので、見やすくなったかと思います。前回の記事も余裕があったらTeX化しておきます。

今回の計算でやっとスタックを含めていろいろ計算できる準備ができたと言っていいので、今後スタック済みの画像のノイズと信号を、色々パラメータをいじることで、どんな状況が有利になるのかなど、具体的に考えていきたいと思います。

それとは別に、前回と今回の考察から、いくつか検証したいことが出てきました。そもそもバイアス補正というものが本当に意味があるかということです。ダーク補正はいずれにせよするので、バイアス補正必ずはされるのですが、バイアスにコヒーレント成分がなければ、補正そのものが意味がない気がします。なので、以下のようなことで検証したいと思っています。
  1. 100枚のバイアスファイルで作ったマスターバイアスを複数作る。複数のマスターバイアスで、模様が一緒になるかを見る。
  2. 下駄を履かせるか、履かせないかで差が出るかを見てみる。具体的にはバイアスファイルをマスターバイアスファイルで補正する過程を細かく見てみる。
などです。











ここしばらくは別の記事でしたが、再び実画像のノイズ解析です。前回の記事はこちらになります。


ここまでで、画像1枚の中にある各ノイズの貢献度が定量的にわかるようになりました。


また天体部分の信号にあたる大きさも定量的に評価でき、S/Nが評価できるようになりました。


S/Nは1枚画像では評価しきれなかったので、スタック画像で評価しましたが、あくまで簡易的な評価にすぎません。簡易的という意味は、ダーク補正はフラット補正でノイズの貢献度がどうなるかをまだ評価できていないということです。

今回の記事では、ダーク補正やフラット補正で画像の中にあるノイズがどうなるかを評価し、他数枚をインテグレートしたときに信号やノイズがどうなるのかを議論してみたいと思います。


スタック(インテグレーション)

そもそも、天体写真の画像処理で言うスタック(PixInsightではインテグレーションですね)とはどういったことなのでしょうか?

基本的には以下のように、重ね合わせる枚数に応じて、信号SとノイズNで、それぞれ個別に考えることができます。
  1. 画像の天体などの「信号部分」Sに関しては、多数枚の画像同士で相関がある(コヒーレントである)ので、そのまま足し合わされるために、信号Sは枚数に比例して増えます。
  2. 画像の天体以外の「ノイズ部分」Nに関しては多数枚の画像同士で相関がない(インコヒーレントである、コヒーレンスが無い)ので、統計的には2乗和のルートで重なっていきます。例えば5枚のノイズNがあるなら、sqrt(N^2 + N^2 + N^2 + N^2 + N^2) = sqrt(5) x Nとなるので、√5倍となるわけです。
そのSとNの比(S/N、SN比、SNR (Signal to Noise ratio))を取ることで、スタックされた画像がどれくらいの質かを評価することができます。S/N等は技術用語ですが、ある特殊分野の技術単語というわけではなく、かなり一般的な単語と言っていいかと思います。

n枚の画像をスタックすると、1の信号Sのn倍と、2のノイズNの√n倍の比を取ると、
  • S/N = n/sqrt(n) = sqrt(n)
と√n倍改善されるということです。

よくある誤解で、スタックすることでノイズが小さくなるという記述を見かけることがあります。ですが上の議論からもわかるように、ノイズが小さくなっているわけではなく、実際には大きくなっています。ノイズの増加以上に信号が増えるのでS/Nがよくなるということです。また、スタックするという言葉の中には、足し合わせた輝度をスタックした枚数で割るという意味も含まれていることが多いです。S/Nが良くなった画像をスタックした枚数で割ることで1枚画像と同じ輝度にした結果、1枚画像と比較してノイズが小さい画像が得られたということです。

もちろん、こういったことをきちんと理解して「スタックすることでノイズが小さくなる」と略して言うことは全く構わないと思います。ただ、定性的にでもいいので、どういった過程でスタックが効いてくるのかは、理解していた方が得することが多いと思います。


ダーク補正

天体写真の画像処理でも一般的な「ダーク補正」。一番の目的はホットピクセルやアンプグローなど固定ノイズの除去です。ホットピクセルは、センサーがある温度の時に撮影すると、いつも決まった位置に飽和状態に近い輝度のピクセルが現れることです。ホットピクセルの数は温度とともに多くなると思われます。アンプグローはセンサーの回路の配置に依存するようです。これが温度とどう関係があるかはほとんど記述がなく、よくわかっていません。ホットピクセルやアンプグローなどは、どのような過程、どのような頻度で出るのかなど、カメラに依存するところも多くあり、私自身あまりよくわかっていないので、今回は詳しくは扱いません。いつか温度とホットピクセルの関係は実測してみたいと思います。

ダーク補正でダークノイズは「増える」:
これまたよくある誤解が、ダーク補正をするとダークノイズが小さくなると思われていることです。ここで言うダークノイズとは、ダークカレント(暗電流)がばらつくことが起因で出てくるノイズのことです。ダークカレントとは、センサーに蓋をするなどしていくら真っ暗にしても出てくる一定の電流からの信号のことで、センサーの温度によって単位時間あたりの大きさが決まります。この信号のバラツキがダークノイズとなります。最近はメーカのカメラのところにデータが掲載されているので、そこからダークカレントを読み取ることができ、これまでもその値からダークノイズを計算し、実測のダークノイズと比較して正しいかどうか検証してきました。

何が言いたいかというと、ダーク補正をするとホットピクセルは除去できるが、ダーク補正ではどうやってもダークフレームが持っているダークノイズ(ホットピクセルでないラインダムなノイズの方)は消すことができなくてむしろ必ず増えるということです。

さらにいうと、個々のダークファイルには当然読み出しノイズ(Read noise)も含まれているので、ダーク補正時に読み出しノイズも増やしてしまうことにも注意です。読み出しノイズの増加については、次回以降「バイアスノイズ」という記事で、独立して説明します。

コヒーレンス(相関)があるかないか:
ホットピクセルは、個々のダークファイルに全て(ほぼ)同じ位置、(ほぼ)同じ明るさで出てくる、輝度が飽和しかけているピクセルのことです。アンプグローもカメラが決まれば同じ位置が光ます。どのファイルにも同じように明るく出てくるので、ばらつき具合は(中間輝度を基準とすると)全て正の方向で、互いに正の相関があり ( =「相関がある」、「コヒーレンスがある」、「コヒーレント」などとも言う)、全て足し合わされます。

一方、ダークカレンと起因のダークノイズはランダムなノイズです。個々のダークファイルのある一つのピクセルに注目して、全てのファイルの同じ位置のピクセルの値を見てみると、全ファイルのそのピクセルの輝度の平均値を基準として、個々のファイルの輝度の値は正負がバラバラになります。このことを相関がない ( =「無相関」、「コヒーレンスがない」、「インコヒーレント」などとも言う)といい、それらの値を全て足し合わせると正負なのである程度打ち消しすことになります。

ノイズの数学的な定義:
個々のダークファイルの画像のある面積を考えてみましょう。その面積の中の輝度も、平均値を中心に正負がバラバラで、その大きさも「ばらつき」があります。この「ばらつき具合」がノイズそのものです。数学的には面積内の各ピクセルの値から平均値を引いて、2乗して足し合わせたものを統計用語として「分散」と呼び、そのルートを「標準偏差」と呼びます。この標準偏差をここではノイズと呼ぶことにしましょう。

ここで注意ですが、ある面積を選ぶ時にはホットピクセルやアンプグローを含めてはいけません。ホットピクセルやアンプグローは背景のダークに比べて格段に明るく、特にホットピクセルは飽和気味の場合も多いのでで、そもそもここで考えている統計に従いません。ホットピクセルやアンプグローなどの明るい固定ノイズを除いた領域でダークノイズを測定する必要があります。ちなみに、飽和気味のホットピクセルを含んで測定してしまうと、とんでもなくばらついているようなものなので、結果はノイズがとんでもなく大きく出てしまうということは、言うまでもありませんね。

ノイズの重ね合わせの直感的なイメージ:
あるダーク画像1枚のある面積のノイズがNだったとします。他のダーク画像も同様にノイズNがあるとします。このダーク画像を例えば2枚足し合わせると、個々のピクセルは正負バラバラなのである程度打ち消します。その打ち消し具合は統計的には無相関の場合は「2乗和のルート」で合わさることになります。この場合2枚なので、
  • sqrt(N^2+N^2) = √2 x N
とルート2倍になります。正負で打ち消すということで、2倍にはならずに、元から減ることもなく1倍以下にもならなくて、結局その中間くらいということは直感的にイメージできるかと思います。

負の相関について:
あと、負の相関も考えておきましょう。ある画像で特徴的な形で明るい部分があるとします。もう一枚の画像では同じ形ですが、1枚目の明るさを打ち消すようにちょうど逆の暗い輝度を持っているとします。2枚の画像を足し合わせると、正負で、しかも明るさの絶対値は同じなので、ちょうど打ち消すことができます。このようなことを互いに「負の相関がある」と言います。でも天体写真の画像処理の範疇ではあまりない現象なのかと思います。


ダーク補正の定量的な扱い:
実際の画像処理では、ダーク補正というのはライト画像からマスターダーク画像引くことです。マスターダークファイルとは、個々のダークファイルを複数枚重ねて、輝度を元と同じになるように枚数で割ったものですから、 個々のダークノイズをNとして、n枚重ねて、輝度を枚数nで割ったとすると、マスターダークファイルのダークノイズ
  • N_ masterはsqrt(n x N^2) / n = 1/√n x N
となり、元のノイズのルートn分の1になります。

各ライトフレームにも当然ダークノイズは含まれています。ダーク補正をする際に、各ライトフレームのダークノイズと、マスターダークファイルに含まれるダークノイズは、ここまでの議論から2乗和のルートで「増える」ことになります。

1枚のライトフレームのダーク補正:
個々のライトフレームがマスターダークファイルで補正されると、補正後のダークノイズは
  • sqrt(N^2+N_ master^2) = sqrt(N^2+(1/√n x N)^2) = N x sqrt(1+1/n)
となり、sqrt(1+1/n) 倍にごく僅か増えます。

ダーク補正されたライトフレームのスタック:
これらのダーク補正されたライトフレームをスタックします。スタックの際、ライトフレームに元々あったダークノイズは個々の補正されたライトフレームでランダムに(無相関に)存在するので2乗和のルートで合わさり、輝度を揃えるために最後にライトフレームの枚数で割るとします。

マスターダークファイルで足された(ルートn分の1の小さい)ダークノイズは、スタックされる際に「(同じマスターダークファイルを使い続けるために)正の相関を持っている」ことに注意です。

2枚のスタック:
  • sqrt([sqrt(N^2+N^2)]^2 + [N/sqrt(n)+N/sqrt(n)]^2) = N sqrt(sqrt(2)^2 + [(2/sqrt(n)]^2) = N sqrt(2 + (2^2)/n) 
大外のsqrtの中の、1項目が無相関で2乗和のルートで足し合わさるノイズ。2項目が正の相関を持ってそのまま足し合わさるノイズ。それぞれがさらに2乗和となり大外のsqrtでルートになるというわけです。

3枚のスタック:
  • sqrt([sqrt(N^2+N^2+N^2)]^2 + [N/sqrt(n)+N/sqrt(n)+N/sqrt(n)]^2) = N sqrt([sqrt(3)^2 + (3/sqrt(n)]^2) = N sqrt(3 + (3^2)/n)

ライトフレームの枚数をnl枚として、
nl枚をスタックすると:
  • N sqrt([sqrt(nl)^2 + (3/sqrt(nl)]^2) = N sqrt(nl + (nl ^2)/n)

スタックされたライトフレームの輝度を、1枚の時の輝度と合わせるためにnlで割ると、上の式は少し簡単になって:
  • N sqrt(nl + (nl ^2)/n) /nl = N sqrt(1/nl + 1/n)
と ライトフレームの枚数nl分の1とダークフレームの枚数n分の1の和のルートで書ける、直感的にもわかりやすい形となります。

簡単のため、個々のライトフレームの枚数と、個々のダークフレームの枚数は同じnとしてみましょう。
n枚のスタックは:
  • N sqrt([sqrt(n)^2 + (n/sqrt(n)]^2) = N sqrt(n + (n^2)/n) = N sqrt(n + n) = N sqrt(2n)

となり、結局は「1枚当たりのライトフレームのダークノイズNがn枚」と「1枚当たりのダークフレームのダークノイズNがn枚」合わさったものと同じで、√2n倍のノイズとなります。

マスターダークを考えずに、ダーク補正をまとめて考える:
これは直接「n枚のライトフレーム」と「n枚のダークフレーム」のダークノイズを全て足し合わせたものを考えることと同等で、実際に計算してみると
  • sqrt(n x N^2 + n x N^2) =  N sqrt(2n)
と、1枚1枚処理した場合と同じなります。数学的には
  1. 事前にマスターダークを作ってから個々のライトフレームに適用しても、
  2. 全てのダークノイズをライトフレーム分とダークフレーム分を一度に足しても
同じ結果になるということです。これは直感的にわかりやすい結果ですね。

重要なことは、たとえ頑張ってライトフレームと同じ枚数のダークフレームを撮影して補正しても、補正しない場合に比べてノイズは1.4倍くらい増えてしまっているということです。もっと言うと、補正しない半分の数のライトフレームで処理したものと同等のダークノイズになってしまういうことです。ホットピクセルを減らすためだけに、かなりの犠牲を伴っていますね。

枚数が違うダークフレームでの補正:
例えばある枚数のライトフレームを枚数が違うダークフレームで補正する場合を具体的に考えてみます。

例えば10枚のライトフレームと、同じ露光時間とゲインのダークフレームが10倍の100枚あるとするとします。ダークノイズ起因のS/Nはライトフレームは1/√10=0.316となり、ダークフレームでは1/√100 =1/10となります。ダーク補正したライトフレームは
  • sqrt(1/10+1/100)=sqrt(11/100)=√10/10=0.332
となり、ダーク補正する前の0.316よりほんの少し悪くなる程度に抑えることができます。同様の計算で、2倍のダークフレームだと約4分の1のノイズ増加、3倍のダークフレームがあれば約10分の1のノイズ増加に抑えられます。

では闇雲にダークフレームの数を増やせばいいかというと、それだけでは意味がなくて、他のノイズとの兼ね合いになります。画面のノイズがダークノイズで制限されていいればどの通りなのですが、例えば明るい空で撮影した場合にはノイズ全体がスカイノイズに支配されていることも多く、こんな場合にはダークフレームの枚数は少なくても、それによるノイズの増加は無視できるということです。


フラット補正

フラットフレームは一般的にライトフレームと同じゲインですが、露光時間は異なることが普通です。そのためフラット補正を真面目に計算すると、ダーク補正よりもさらに複雑になります。

ただし、ライトフレームの輝度はライトフレームの背景よりもはるかに明るいことが条件として挙げられるので、補正の際にフラットフレームの輝度を、ライトフレームの背景の輝度に合わせるように規格化する(割る)ので、ノイズに関してもその分割られて効きが小さくなると考えられます。

その比はざっくりフラットフレームの露光時間とライトフレームの露光時間の比くらいになると考えていいでしょう。最近の私の撮影ではライトフレームが300秒露光、フラットフレームが最も長くても10秒露光程度で、通常は1秒以下です。ノイズ比が30分の1以下の場合、2乗和のルートとなると1000分の1以下となるので、実際にはほとんど効いてきません。さらにフラットファイルも多数枚をスタックするので、スタックされたライトフレームと比べても、効きは十分小さく、無視できると考えてしまっていいでしょう。

ただし、暗い中でフラットフレームを作る場合はその限りではなく、ノイジーなフラットフレームで補正をすることと同義になるので、注意が必要です。ここでは、フラットフレームは十分明るい状態で撮影し、フラット補正で加わるノイズは無視できるとします。


まとめ

スタックとダーク補正でノイズがどうなるか計算してみました。理屈に特に目新しいところはないですが、式で確かめておくと後から楽になるはずです。

今回は計算だけの記事で、しかもスタックを1枚づつ追って計算しているので、無駄に長く見えるような記事になってしまいました。でもこの計算が次のバイアス補正のところで効いてきます。ちょっと前にX上で黒天リフさんがバイスについて疑問を呈していましたが、そこらへんに答えることができればと思っています。










タイトルを見てなんだ?と思われた方もいるかと思います。CP+でお会いしたMACHOさんのお誘いで、チリのリモートで電視観望を経験させて頂きました。地球の反対側なので、日本だと昼間というわけです。


チリのリモートを使っての電視観望のお誘い

そもそものお話は、CP+でセミナーを終えた土曜日の夜、天リフ編集長のお誘いで、あぷらなーとさんと星沼会の方達と横浜駅近くの中華料理店で飲んだ時です。 隣になったMACHOさんが高校生や中学生にちりのリモートを利用して電視観望をしているので、よかったら一緒にやってみませんかとお誘いを受けたのです。

チリのリモート望遠鏡はご存知の通り、Niwaさんが音頭をとって日本で広まっているもので、素晴らしい撮影結果がどんどん出ています。私はまだ経験したことがないので、これは願ってもない機会です。3月16日の土曜日、朝の10時半から、まずはZoomにつないで顔合わせです。その際、そーなのかーさんがヘルプに入ってくれます。そーなのかーさんとは、昨年のCP+2023でお会いした時に、チリ関連の交渉や輸送などに相当活躍されているというお話を聞きしました。今回も実際の操作など、不明なところは簡潔にとてもわかりやすく説明してくれて、そーなのかーさんのサポート体制が素晴らしいです。

ZoomでMACHOさんと、そーなのかーさんと挨拶して、早速すぐに接続してみようということになりました。チリにあるリモートPCへの接続は、シンテレワークというソフトを使うとのことです。私はこのソフトを触るのは初めてですが、シンプルでおそらく歴史のある、とても安定したリモートソフトの印象を受けました。 


実際の操作

私は南天の空は全然詳しくないので、事前に少し調べておきました。といっても、大マゼラン雲などメジャーなものばかりですが、最初なので十分満足するはずです。導入はCarte du Cielを使ってASCOM経由で赤道儀と繋いでいるいるようです。でもソフトも好きなものを使っていいということで、必要ならStellariumなどをインストールして赤道儀と接続してもいいとのことでした。とりあえず今回はお手本で、最初は大マゼラン雲を導入してもらいました。

SharpCapの画面常にすぐに大マゼラン雲の中心のが出てきます。今回は普段私が電視観望をどのようなパラメータでやっているか見てみたいとのことでしたので、私自身でSharpCapをいじらせてもらいました。このリモート接続用のシンテレワークはかなり優秀で、複数の人がリモート先のPCをコントロールすることができます。本当に同時に操作とかしなければ、実用で十分に複数人で話しながらいじることができました。私の今回の環境は、Windowsからシンテレワークで接続して、 MacではZoomでつないで、同じ画面を供してもらっていたので、2画面で同時に確認できて一見無駄に思えても、動作に確証が持てて意外に便利でした。一つ不満を言うと、SharpCapのヒストグラムの黄色の点線を移動するときに、その点線を選択することがちょっと大変だったことくらいでしょうか。どうもシンテレワークから見ると、線の上にマウスカーソルを持っていってもマウスポインタが変化しないので、ここら辺だったらOKだろうと見込みをつけて左ボタンを押して線を選ぶ必要があります。

今回電視観望用に使う機材はFRA300ProにASI2600MC Proをつけたものです。これは亀の子状態でTOA150の上に乗っているそうです。こちらは撮影用でカメラはASI6200MMとのことです。機材は別カメラでモニターできるそうです。下の画面の位置がホームポジションで、パークされた状態とのことです。
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電視観望はカラーカメラなので、すぐに色がついた大マゼラン雲が出てきます。パラメータは好きにいじっていいとのことなので、私がいつも設定するように、露光時間は6.4秒、ゲインは500くらいです。露光時間がこれより短いと、読み出しノイズのような横縞が目立ってきてしまうようで、これはASI2600MCがそこまで感度が高くないからではないかとのことでした。露光6.4秒でライブスタックすると、どんどんはっきりと、色鮮やかな大マゼラン雲になっていきます。この時点ではまだ操作に夢中で画面をキャプチャーするのを忘れてしまっています。

実際、大マゼラン雲をこのように自分で操作して見たりするのは初めてです。画面いっぱいに広がるので大迫力です。次に小マゼラン雲も見たかったのですが、こちらはまだ高度がかなり低いようなので諦めます。天文を始めたから結構すぐにオーストラリアに行ったことがあって、この時は大マゼラン雲はみいていなくて、小マゼラン雲だけ撮影したことがあります。でもその時はまだ技術的にも未熟で、しかも満月近くだったこともあり、記念撮影のレベルでした。今回は短時間の電視観望ですが、大マゼランになったこともあり、はるかに満足度が高いです。


SharpCapでのキャプチャ画像

小マゼラン雲の代わりに、りゅうこつ座にあるNGC3372: イータカリーナ星雲に行きました。ここでやっと忘れずにキャプチャできました。光害防止フィルターとか無しの電視観望で、こんなに見事に見えます。これで合計わずか2分半のライブスタックです。
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操作していて気づいたのですが、SharpCapのバージョンが4.0台と少し古くて、いくつかの重要な機能が使えなかったので、途中から最新版の4.1台にアップデートしました。こんなふうに気軽にアップデートができるのも、個人で全てを操作しているからで、公共の天文台の利用とかだとある程度使うソフトには制限があり、なかなかこうはいかないと思います。

4.1で使いたかった機能は、
  • ライブスタック時のカラーバランスの自動設定の際の、鮮やかさの調整機能。1−8段階で選ぶことができ、見かけがかなり変わるので、まだ試していない方は是非試して見てください。
  • 背景のノンリニアなフラット化機能。実際試したら少しだけ炙り出しが改善しましたが、もともとカブリなどほとんどない場所だと思いますので、あまり必要ないかもしれません。
  • ホットピクセルとコールドピクセルの簡易除去。カメラによると思いますが、ASI2600MCだと、今回特に冷却とかしていませんが、元々目立つようなホットピクセルとかないように見えるので、この機能もほとんど必要ないかと思われます。
あと、新機能ではないですが、ライブスタックのカラーバランスバーの右の彩度調整バーは今回いろいろ変更しながら使いました。やはり星雲など色がついているものは、ここを少し上げてやるとかなり見栄えが良くなります。

ライブスタックのヒストグラムでまず雷ボタンで一段階オートストレッチして、その結果が右パネルのヒストグラムに伝わるので、さらに右パネルの雷ボタンでオートストレッチすると、かなり見栄えが良くなります。その際、オートストレッチを使ってもいいですが、派手すぎたり、もっと炙り出したいとかもあったりするので、必要な時はマニュアルで黄色の点線を移動するようにしました。

途中で、「保存するときのファイル形式はどうしてますか?」という質問がありました。まず、RAW16になっていることを確認して、形式は普段はfitsにしています。TIFFでもいいのですが、後で画像処理をするときにはたいていPixInsightになることと、ASI FitsViewerで簡易的にストレッチして見るのが楽だからです。保存は、ライブスタックパネルの左の方の「SAVE」から、16bitか、3つ目のストレッチ込み(これはライブスタックのヒストグラムでストレッチしたところまで)、もしくは4つ目の見たまま(これはライブスタックのヒストグラムのストレッチと、右パネルのヒストグラムのストレッチがかけ合わさったもの)で保存します。後者2つは8bitのPNG形式に強制的になってしまいますが、十分ストレッチされていれば8bitでも大丈夫でしょう。


次々に大迫力の画面が!

次に見たのが、同じりゅうこつ座にあるIC2944 で、「走るにわとり星雲(Running Chicken Nebula)」と海外では呼ばれていますが、 日本では「バット星雲(コウモリ星雲)」と呼ばれているものです。いまいちニワトリに見えない気がするのですが、もう少し淡いところも出すとニワトリに見えてくるようです。
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途中、天体を辿っていくのに、アノテーション機能を使いました。アノテーション自身は単に天体の名前を示すものですが、上の画像のリストを見るとわかるように、画面内に写っている天体の名前がリスト化されていて、その中の天体を選択して中心に持ってくることができます。さらにリストの次のタブの「Objects Nearby」では画面外の近くの天体リストを出すことができて、その中の名前を選んで中心に持ってくることもできます。要するに、次々に近辺の天体に移動しながら、天体巡りができるというわけです。あと、別機能で画面内をクリックしてそこを中心に持ってくるとかもできるようになっていました。SharpCapも確実に進化しているようです。

もう一つ確認したかったのが南十字星でしたが、画角的にちょっと入らなさそうだったので、南十字座にあるNGC4755を見てみました。結構小さいのですが、少し拡大するだけで構成の色も含めて十分に見ることができました。真ん中に見えているNGC4755の右上に見えている明るい星が、南十字の一つのミモザになります。
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驚いたのは下の方に写っているコールサック(石炭袋)と呼ばれる暗黒隊が余裕で写っていることです。電視観望でこんな暗黒体が見えるのは、やはり空がいいからなのだと思います。

次に見たオメガ星団は見事でした。少し拡大していますが、まだまだつぶつぶ感満載です。かなり拡大しても大丈夫そうでした。日本からも見えますが、光度が低く、撮影するのもなかなか大変です。
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南半球特有の最後はケンタウルス座のAです。こちらも日本からも見えますが、例えば私が住んでいる富山では南天時でも高度10度くらいとかなり低く、実際ここまで見るのは難しいでしょう。今回は中心部の構造も見えています。
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最後は、比較のために北半球でも普通に見えるかもめ星雲を導入しました。最初結構淡いと思いましたが、これまで見ていた大マゼラン雲とかが鮮やかすぎるのです。しかも聞いてみたらノーフィルターだそうです。フィルターとかのことを話していたらそこそこ時間が経ったみたいで、ライブスタックが進みHαも鮮やかになっていました。これで約9分のライブスタックです。しかもOIIIでしょうか、青い部分も綺麗に見えてきています。

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ノーフィルターでこれだけ見えるのだから、やはりチリの空はすごいです。多分低いところですが月がまだ出ていたと思いますので、それでもこれだけでます!


まとめ

うーん、チリのこのセットアップ、羨ましくなってしまいました。元々は自宅の庭でそこそこ撮れればいいくらいが目標でした。目標の中には、自分でいろいろ機材をいじって改善して、その成果が撮影した画像になって現れるようなことも入っています。なので、あらかじめセットアップされたものは避けていたのですが、短時間の電視観望さえここまで違うと、一度撮影とかまでじっくり時間をかけてみたくなってしまいます。それくらいに魅力的な空でした。

今回はとても貴重な経験をさせて頂きました。初めての南天巡りということもあり、私自身は相当楽しめました。MACHOさんとそーなのかーさん、本当にありがとうございました。今後、中高生と電視観望会など開くときは、是非ともまた参加させていただければと思います。


昨年の12月、「星なかまの集い」という研究会の実行委員の方から「講演をしてほしい」との依頼がありました。研究会の開催は3月初めで、当時は予定も詰まっていなかったので快諾しました。その方と少しやりとりして、テーマは電視観望ということになりました。そもそも私は関西の集まりはあまり経験がなく、どんなものかわからなかったのですが、コロナ明けということもあるのでしょうか、実際に顔を合わせての研究会は、夜に行われた交流会も含めて、とても楽しいものでした。


兵庫の「西はりま天文台」にむけて出発

3月2日、この日は兵庫の西はりま天文台までの移動です。前日が飲み会だったので、朝は眠い目をこすりながら5時半頃に起き、準備をして午前6時20分頃の朝イチのバスで富山駅に向かいます。みどりの窓口が開く直前の午前7時前に富山駅に到着。7時16分の金沢行きの新幹線にのりたいので、すぐに並んでみどりの窓口が開くのを待ちます。窓口が開くまでに、途中で駅員さんがどこまで行きたいかとか聞きにくるのですが、天文台最寄りの兵庫県の「佐用」駅といって、iPhoneに表示させた乗換案内の乗換回数2回の最速、最楽ルートを見せると、ちょっと怪訝そうな雰囲気に。色々確認してくれた後に聞いてみると、どうやら京都からでる特急が、途中JRと相互乗り換えで「智頭急行」という別の鉄道会社の線に入ってしまうので、途中の駅から佐用駅までの乗車券が出ないというのです。特急券は佐用まで出せるというので、とりあえず途中までの乗車券と、佐用までの特急券だけ購入し、あとは現地で聞いてみることにしました。

そんなこんなで少し時間を食ってしまい、いそいでお弁当などを買い込み、走って新幹線に乗り込みます。全線自由席で買ったのですが、新幹線も朝はガラガラ。時間ぎりぎりでも十分に座れます。

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やばかったのがサンダーバードです。実は新幹線はもう一本遅らせてもギリギリサンダーバードには乗れたのですが、無理してでも一本早めでよかったです。なんと指定席は満席、自由席も通路が人で溢れていて、グリーン以外の指定席車両の通路まで座れない人のために解放していました。3月16日には新幹線が敦賀まで開通するので、その影響もあって混んでいるのかもしれません。

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とにかく席に座ることはできたので、電車が出発してからすぐに朝ごはんです。富山-金沢間の新幹線は20分くらいなので落ち着かないんですよね。午前8時過ぎくらいでしょうか、ここでやっと富山駅で買った弁当を開けます。この日は「海鮮美食」。

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前週にCP+で東京方面に行った時は「ぶりとたいのこばこ」で、SNSで海鮮美食も美味しいと聞いていたので、今回はそちらに挑戦です。両方とも同じ会社の製品ですが、どちらもとても美味しくて、今回の海鮮美食もいろんな味が楽しめて、大満足でした。言うなれば寿司のコースが弁当箱に凝縮されたような印象です。他より100円か200円高いのですが、その価値は十分にあります。

京都駅に着くと、次の特急スーパーはくとに乗ります。京都駅での乗り換え時間は40分くらいあるのですが、先にホームの確認に行きます。まだ出発まで30分以上あったのですが、すでに車両は到着していました。
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自由席が1、2号車であることを確認して、まだ時間があるので弁当などを買いに行きます。それでもまだ出発まで十分時間はあるのですが、もう席に座ってしまいました。なんでかというと、一番前が空いていたからです。
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この見晴らしはいいですね。運転席は全体が見えるし、運転席越しに前方の景色が全部見えます。

電車内は結構時間があるので、その日の講演の最終チェックなどをします。姫路を越えると、相生と上郡という駅に泊まりますが、この上郡でJRから智頭急行にはいるようです。あ、ここからの乗車券が富山駅で買えなかった件ですが、電車が発車してすぐに車掌さんの切符の点検が来て、その時に話したらその場で発券してくれました。

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ここからは単線です。単線を特急で飛ばしていくのを見るのはかなりの迫力です。このスーパーはくとは振り子型の電車らしくて、酔いに気をつけてというXでのコメントがありました。私は酔いにあまり強くないのですが、今回は全然大丈夫でとても快適した。
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6分遅れの13時過ぎに、目的地の佐用駅に到着。ここでやっと乗る時に撮り忘れていた先頭からの写真を撮ることができました。
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駅を出ると、天教でもお世話になったMさんが待合室にいました。早めに着いたそうです。相乗りのタクシーが13時30分にくるので、しばらく待ちます。その間に以前お会いしたことがある方、初めての方含めて、全部で6人が集まりタクシーに乗り込み、西はりま天文台に向かいます。タクシーで15分かからないくらいでしょうか、歩くと90分らしいのですがずっと上り坂なので、タクシーの方が無難かと思います。


到着

西はりま天文台に到着。実はここにくるのは2回目で、別件で以前昼間のうちに来たことがあります。その時は仕事関係で短時間案内されただけなので、じっくり夜まで滞在して望遠鏡を覗いたりするのは今回が初めてです。

かなり広い敷地で、遠くに望遠鏡のある建物が見えます。左の白い建物に口径2mの「なゆた」が入っています。

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下の写真が、今回お世話になる宿泊施設(焦茶色の屋根の長い棟)と、研究会が行われる建物(左手前の赤茶色の棟)です。
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研究会の会場です。
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すぐに電視観望の講演

到着して、今回お誘いいただいた実行委員のFさんにご挨拶して、荷物などを置いたり、機材を準備していたらすぐに会の始まりです。簡単な説明の後、すぐに講演会が始まります。トップバッターが私なので、そのまま話すことに。内容は電視観望と普及についてです。持ち時間は25分と言われていましたが、少しオーバーして30分くらいになってしまいました。質問もいくつかあり、もともとメンバーは眼視の方が多い印象でしたが、電視観望をすでにやられている方、興味を持ってくれた方もいたので、少し安心しました。最近はSeestarの普及率がすごくて、メンバーの中に持っていらっしゃる方も結構いましたし、この研究会に実際に持ってこられた方もいました。また、公共天文台などの関係者の方もいらしていたので、ぜひCMOSカメラをつけて試してみてくださいと、宣伝しておきました。質問に答えた際にもいったのですが、電視観望は突き詰めた撮影とは違いますし、1人で見るというよりはむしろイベント向きだと思います。大人数で一度に楽しむことができ、暗い空をそこまで必要しないので安全面からも適しています。そういった楽しみ方の可能性が増えるということが伝わっていればと思います。

その後さらに二人の講演があり、掛け合い漫才みたいなのもあったので、関西っぽくて楽しかったです。

この日は3人の講演だけで終わりで、その後は少し早めの夕食です。目の前に座っていた小学5年生の女の子が次の日に発表するという話を聞いていたら、左隣の方もその女の子の次に発表とのこと。明日の日曜もかなり楽しめそうです。

夕食後、18時を過ぎていたのですが、まだ外はかなり明るいです。そうか、西日本に来てたのだと実感した瞬間でした。調べたら富山と兵庫では日の入りの時刻は10分ほどの違いでしかありませんでしたが、ずいぶん遅くまで明るいなと思いました。というか、富山は最近全然晴れてくれないので、早くに暗くなってしまう印象だったのかもしれません。到着した時はまだ曇りだったのですが、夕方くらいになってくると、この日はすごい快晴で、全面星が見渡せるほどでした。暗くなりかけだったので、私も電視観望機材を用意して少しだけデモをしたのですが、外に出てくる人があまり多くなかったので、何人かの方に見せることができた程度です。


「なゆた」の見学

というのも、19時半から口径2mの望遠鏡「なゆた」の見学会があります。一般の見学会に合わせた形になっていて、なゆたの建物の説明会場に行くと、かなりの人がいました。

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なゆたが入っている建物です。
食後すぐに、明るいうちに立ち寄った時に撮った写真です。

今回の研究会のメンバーが75人と聞いていたので、一般の人と合わせて確実に100人を越えて参加者がいたと思います。

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なゆたでは木星、カノープス、M37、M42のトラペジウムを見せてもらいました。M42は色がつかないか、並んでいる間に右目だけスマホで明順応しておいたのですが、残念ながら色がついているようには見えずに、普通に暗順応している左目と変わりませんでした。何度もなゆたを巡回するのですが、ちょうどその時刻にカノープスが南天するらしく、同じフロアの外の屋上エリアからカノープスを見ることができました。少なくとも地元の富山よりは南なのと、山の結構高いところからのしかも建物の屋上からなので、視界が開けていて、地平線からはそこそこの高さのカノープスを見ることができました。地元から一般の方も見学に来ているので、それらの方たちとの会話も楽しかったです。冬の天の川もやはりなかなか気づかないので「オリオン座の左からずっとカシオペア座の方に...」とか説明していました。

なゆたの制御室の前にあるモニターを見ると、SharpCapが使われているのが印象的でした。ただ、バージョンが3.2台なので、ちょっと昔のものです。

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夜の部の高校生の発表

なゆたに十分満足して宿泊棟の方に帰ると、高校生たちがMITAKAでの発表の準備をしていました。偏光グラスをかけて、画面が立体的に見えるもので、解説もよく練習しているようで、とてもわかりやすかったです。
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この高校生たちは、次の日発表もするということです。若い人たちがこういった研究会で発表するのは素晴らしいです。ぜひとも自分たちで色々考えて、こういった研究会で成果を発表して、楽しんで活動していただければと思います。そしていつまでも天文を好きでい続けて欲しいです。


色んな参加者

この研究会には、年配の方も子供も、ベテランの方も初心者も、こういった会では珍しいくらいに女性もたくさん、本当に色んな層からの参加者がいます。夕食が終わった次の交流会までの時間に、例えばある一人の方と少しお話ししました。講演の後に質問されてきた方で、赤道儀の極軸が全然取れないというのです。時間があったので、ちょっとじっくり聞いてみます。

その方はかなり勉強熱心で、極軸を合わせる説明のファイルを印刷してバインダーに閉じ、自分で理解できるようにかなり書き込みをしています。でもよくよく聞いてみると「極軸が数十度とかズレる」というのです。でも数十度?普通に考えたらちょっと信じられないような数字です。いろいろ話を聞いていて、やっとなぜか理解できました。「鏡筒はRedCatを使っている」と聞いていたので、最初結構経験のある方かと思ったら、どうやら「ほぼ完全な初心者」と言います。「いまだに一度も極軸をきちんと合わせられたことはない」というのです。極軸をどう合わせているかというと「ASIAirの極軸調整機能で、しかもそれを北極星の見えない南側に向いたベランダでやっている」というのです。私が「そもそも赤道儀を方位磁石とかで北にむけていますか?」と聞いたら、その意味自身が伝わっていない様子でした。

そこでアドバイスしたのは「まずは近くの公園でもどこでもいいので、北の空が見えるところで、まずは赤道儀を北に向けてください。方位磁石でもいいですし、今ならスマホでコンパスアプリもあります。極軸望遠鏡もあるということなので、ASIAirとかの高度な機能はまずは忘れて、基本に忠実に、手で合わせるところから初めてください。北極星が見えるところでさえ極軸が合わせられないのなら、北極星が見えないところで極軸を合わせるなんて到底できません。高度な機能に頼るのは基本ができてからがいいです。」というようなことです。

今の世の中、高度すぎる機能のものが溢れかえっています。基本を疎かに便利なところだけ使おうと思っても逆に難しくなってしまいます。なので数十度ずれても、なぜそんな不思議なことが起こるか、根本的な疑問にさえ辿り着かないのかと思います。

実際、初心者にとっては天文機器を扱うのは難しい場合があります。「地元に天文クラブとかないでしょうか?もし一緒にやってくれる人がいるなら、一緒に夕食でもとりながら、その後、機材と一緒に付き合ってもらうのもいいですよ。」と、どなたかがアドバイスしていました。本当はこの場に機材を持ってきてくれていれば、教えてくれるような人はたくさんいると思うのですが、車を持っていなくて機材を持ってくるのは大変とのことです。

一度だけ上手く撮れたというアンドロメダ銀河の写真を見せてもらいました。奇跡的に極軸が取れた時で、それ以降やはり全然ダメだとのことです。基本を疎かにせず、コツさえ掴めば、必ず上手く行くはずです。せっかく揃えた素晴らしい機材です。今のままだと苦行になってしまいかねないので、一刻も早く楽しんでいろいろできるよう、成長されることを願って病みません。私が近くに住んでいるなら、押しかけてでも一緒に作業してあげたいくらいです。


夜の交流会

さて、夜はお待ちかねの交流会。なんでも「ダメな人間の会」とかいう別名がついているとのことで、延々と夜中まで続くそうです。たくさんの方がいるので、それでも話せたのは一部の方ですが、とても楽しかったです。私も漏れずにダメ人間になっていて、飲んだくれてずっと話し込んでいたら、電視観望の機材を外に出しっぱなしにしていたのを完全に忘れてしまっていました。午前0時頃に気づいて外に出てみたら、かろうじて2等星くらいまでの星は見えるのですが、全面がガスっていて、その時点で機材は片付けることにしました。後から聞いたら、高校生たちはダメ人間にはならずにずっと外で撮影をしていたとのことです。見習わなければいけません。

その後も交流会という名の飲み会は続きました。気づいたのは、女性が結構な割合でいることです。少し会話の中に入れてもらったのですが、みなさん以前からの知り合いのようで、とても仲が良さそうに見えました。こういった会にはよく参加されるそうで、居心地がいいのでしょうか、とても楽しそうに話していました。というのも、コロナ禍でこの会もなかなか集まることができず、観望会形式のようなものは続けてきたけれども、こうやって顔を突き合わせて交流(飲み食いする)するのは2019年以来4年ぶりとのことです。そんな会に呼んでいただき、とても光栄でした。

午前2時半頃でしょうか、やっと「そろそろお開きにしましょう」とかいう宣言がかかり、解散となりそれぞれの大部屋に戻って行きました。もちろん途中で布団に入った方や、宴会場の椅子に座って眠りこけてしまった人もいますが、3-4割の人は最後まで残っていたのではないでしょうか?眠るのは少し惜しかったのですが、明日の朝食は7時45分からです。あまり寝坊もできないのでそのまま布団に入ったら、すぐに眠ってしまいました。ちょっと疲れていたようです。


2日目の研究会

朝7時15分、部屋の電気がついて起床です。着替えや部屋の掃除をなどして、朝食に向かいます。朝食後になゆたの建物の上に見た白い月が印象的でした。

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午前9時から研究発表会が始まります。月の石を探す旅や、各地の観望会などの活動の様子が発表されます。小学5年生の女の子の発表や、高校生の発表もありました。少し緊張しているように見える人もいましたが、皆さん頑張って発表していました。

最後に発表された研究奨励賞には、一つは月の石の話と、もう一つは子供達がいろいろな体験をして自分たちで発表するという活動の、2つが選ばれました。特に後者の活動発表は、子供たちに自分で考えてもらい、考えたことが「腑に落ちる」というところを重要視しているとのことでした。私も観望会で似たようにできる限り参加者自身に考えてもらうようにしているので、この方針には大いに賛同できました。

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研究発表会のあとは、恒例のビンゴ大会です。私も星柄のフェイスタオルをいただきました。その後の奨励賞の表彰式も無事に終わり、15時少し前に会は終了しました。電車の時間に余り余裕がなかったので、当初からお世話になった実行委員のFさんに挨拶して、他の方とのお別れの挨拶も余りできずにその場を去って、呼んであったタクシーに乗り込み駅に向かいました。タクシーではお一人、岡山から参加している方と相乗りしました。この方、来る時も一緒のタクシーに乗った方です。駅までのタクシーの中と、駅のホームでも少しお話ししたのですが、今回初めての参加とのことで、いろんな方とお話しできたと言っていました。どうも他の方も聞いてみると、4年ぶりということもあったのか、今回が初めての参加の方も多かったようで、それぞれ楽しむことができるのが、この会の特徴と言えるのではないでしょうか。この方ともまたいつか会えるのを楽しみに、ホームでお別れしました。

さて、帰りも同じ電車でスーパーはくとになります。自由席は今度は後部にあたるので、来たときのような運転席を見ることは当然できません。というか、来た時と変わって結構混んでいます。それでも2つ並んであている席はあったのでそこに座り、昨日の寝不足のせいもあるのでしょうか、ぐっすり眠ってしまいました。

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帰りの乗り換えは、大阪駅です。混むことを心配して指定席を取っておいたサンダーバードに乗り込み、金沢まで向かいます。

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金沢駅について走って新幹線に乗ったら、予定より一本早く乗ることができました。富山駅では妻に迎えに来てもらい、最後は車で帰宅です。21時過ぎでした。かなりうまく乗り継いで片道6時間なので、やはりちょっと遠いですね。


まとめ

今回の講演を引き受けた時はまだ予定がガラガラだったのですが、実はそのあとどんどん詰まってきて、ブログでも書いたCP+も含めてここ2週間ちょいでセミナーや講演などが7つあり、相当タイトなスケジュールでした。このブログを書いている今はやっと全て終わり、自分の時間を取ることができています。それでもこの研究会は得るものも多くて、とにかく夜が楽しかったです。ちょっと遠かったですが十分に行く価値のあるもでした。もし興味がある方は、ぜひとも来年参加してみてはいかがでしょうか。


CP+2024の前回の続きで、今回は主に24日の土曜日のことを書きます。


桜木町駅から会場まで

この日の空は打って変わって快晴です。いつもはみなとみらい駅からですが、天気もいいので桜木町駅から歩いていくことに。徒歩で12分くらいとのことです。
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といっても、このエスカレーター以降は基本的に屋根のある道で、しかも最初のうちはうごく歩道なので、全然大した距離に思えないです。昨晩止まったJR川崎駅からだと、みなとみらい線を使うより百円くらい安くなるので、最初からこちらを使えばよかったかもです。


ブース廻りその2

サイトロンブースが元気すぎて、前回のレポートでは全然新商品を紹介しきれていません。でもやはり単に紹介するだけだとつまらないので、その場で色々試したことを書いておきたいと思います。

まず、大型鏡筒のための低頭の経緯台兼赤道儀です。シンプルな構造でこれだけの重量を支えることができ、コンセプトが素晴らしいです。重心を低くしているのもいいです。実際に色々触ってみました。すると、鏡筒部分を手で押して揺らすしてみると結構下のほうで揺れるみたいで、どうやら緯度が高くなると緯度を調節して固定する2つのネジの間の距離が短くなってくるので、構造的に弱くなるようです。フタッフの方に聞いてみたら、この部分はまだ確定していない仕様のようです。なんとか発売するまでに改良されるといいなと思います。この揺れがあるかないかで評価は大きく変わるはずです。

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そんな観点から行くと、今回発表された経緯台タイプのマウントは、揺らしてもピクリともしなくて、サイトロンの全マウントの中で異彩を放っていました。
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理由は三脚の下に三角の板があり、それを押し上げて三脚をガッチリ固定しているからです。

その一方、改良で問題を解決するのは、通常はなかなか大変です。例えば、昨年のCP+でサイトロンのスタッフさんに、どんな三脚がいいのか聞かれました。私は迷うことなく上のような構造の「三脚の下側から3角の板で押し上げるタイプが良くて、カーボンタイプでさえもそうして欲しい。逆に撮影レベルのサンキャ腕そうでないものは信頼するのが難しい。」とまで言い切っていました。あれから1年経ちましたが、なんとサイトロンの開発部隊のお一人であられるマチナカリモートさんが、CP+後に以下のようなポストをXに投げてくれました。


カーボン三脚の場合、金属の板だと表面が削れないかとか心配だったのですが、上のような厚みがあるプラスチック系なら傷つけることもありません。しかもその前の投稿でマチナカリモートさん自ら「もう、別物。強度抜群で補強入れるとこんなに変わるんだ。」などと述べてくれています。これは期待大です。三脚側に改造なしで取り付けることができるとのことなので、できるなら汎用的に三脚に取り付けられるように一般化して、ぜひとも製品化まで持っていって欲しいくらいのアイデアです。

というように、一言に改良とか改造とか言っても、1年とかかかることも全然珍しくありません。なので、こういった展示会で触ってみて思ったことは、スタッフさんに伝えておこうと思い、実際に今回もスタッフさんに伝えています。でもこれサイトロンさんだから言えたのかも。実際に去年も今年も思ったことを伝えたスタッフさんは、セミナーでお世話になった仲のいいスタッフさんだからです。

あと、もう一つの期待大は太陽望遠鏡です。ちょっと珍しい、エタロンが鏡筒中央部に入っている形になっています。エタロン部では普通は平行光になっていなければならないのですが、どうせ平行光にしたならばここにもう一つエタロンを追加できるとかで、ダブルスタックタイプにもオプションで対応するとかだともっと面白いかもしれません。
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でも普通は太陽望遠鏡は改造非推奨のはずなので、やはり難しいでしょう。エタロンだけオプションで売ってくれるなら、大口径改造とかもしたいですが、まあこれも当然非推奨です。いずれにせよ、太陽望遠鏡の久し振りの新規参入メーカーとなるはずです。とても楽しみです。

もう一つ、どうしても紹介しておきたいブースがあります。「Metal Print」さんです。


一応リンクを張っておきましたが、これは展示場などでサンプルをぜひ見て頂きたいです。
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金属の板に印刷をしていて、額とかなしで平面が保たれています。印刷の綺麗さは紙とは違い、やはり金属で細かいところで平面が出ているのでしょうか、かなりシャープです。印刷は3種類あって、光沢ありのグロス、光沢なしのマット、金属の色が出るクリヤタイプだそうです。金属色が出ないのか出るのかは、下地が白か透明かということらしいです。
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星景写真もありましたが、かなりのコントラストで印刷されています。
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データはJPEGかTIFFとのことで、TIFFが16ビット以上を受け付けるかどうかは、スタッフの方もわかっていなかったので、注文時によく確認すべきかと思います。値段はそこそこですが、仕上がり具合を見たら決して高いとは思わなかったです。天体写真を印刷する場合は、印刷時に画像処理が入ってしまうと大抵うまくいかないのですが、まだそこら辺はわからないとのこと。小さなサイズで一度印刷して欲しいと言っていました。会場で40%割引のチラシが置いてあったのでもらってきました。いや、本当に一度印刷されたメタルを見て欲しいです。すごかったです。

よく考えたら、今回大手のブースはほとんど行っていません。カメラにはそこまで興味がないのがバレバレですね。カメラというよりはCMOSセンサーの方に興味があります。

というわけで、最後の私的な注目ブースは「日本写真学会」です。CMOSセンサー自身についても、この学会の柱のテーマの一つに入っていました。究極的な状況でCMOSセンサーがどういった信号を出すのか、これは基本暗いところを写す天体写真にも通じるところがあるはずです。他にあまりお客さんがいなかったので、ブースの方と少しお話しさせていただきました。学会員を募集していたのですが、会員になるためには年会費がそこそこするので、学会貧乏になってしまいこれ以上あまり入れません。いつか仕事などと別に、趣味で学会に入るのもいいのかもしれません。


いよいよセミナー本番

さて、そんなブース周りをしている間に、間も無く自分のセミナーの時間です。

少しネタバレすると、この日の朝は9時過ぎくらいに会場に到着して、10時の開場までに発表のための接続テストをしていました。すでにこの時点から結構なトラブルがあり、事前にテストしないとホントにまずい状況でした。出力は会場モニターと動画配信用の2系統あるのですが、Windowsと繋ぐとうまくいくのにMacだとどうやっても2系統のうち1系統しか信号がいかないのです。色々やって、最後は会場側の配線ミスということが判明したのですが、このテストをしていなかったら本番直前で配信ができずにアウトだったと思います。

さらに今回はMacとWindowsを手持ちの簡易Wi-Fiルーターで接続して、MacからWindowsのリモートデスクトップに繋ぎ、本番でさもSharpCapを含めてMacとWindowsを2台扱っているように見せようとしていました。この朝の時点で2台を繋ぐテストもできたのですが、このリモートデスクトップも、会場モニターの解像度と、Macから見るWindowsの解像度が別認識らしくて、最初画面の端が切れて表示されるとかのトラブルもあったので、こちらもテストしてないと本番でトラブルようなレベルでした。これも朝のテストでなんとか解決することができました。

それでも本番の一番の問題は手持ちのWi-Fiルーターだったのです。前のトークが15分ほど伸びてしまって、準備時間が少なくなったので焦っていたのもありますが、MacとWindowsが全然つながりません。お客さんが多い時間帯では、WiFiの電波が飛びまくっている状態だったのが原因かと思われます。それでもなんとか繋ぐことができて最低限の準備が終わったのがセミナー開始1分前くらいでした。もう心の準備をすることもなく、セミナーがスタートしてしまいました。

始まったのはいいのですが、やはりWindowsに繋いでもネットワークの速度が全然出なくて、リモートデスクトップどころではないのです。結局、本番のその場でもうWindowsを使うことを諦め、SharpCapでの再ライブスタックと、Windowsの「フォト」アプリを使っての画像処理は諦めたのは、その場にいた方や配信でご覧になった方はすでにご存知かと思います。もしいつか同様のことをするなら、有線の簡易ハブを持っていくか、もしくは5GHzでの接続でも良かったかもしれません。自宅外なので2.4GHzしかダメだと思い込んでいたのですが、よく考えたら会場は屋根の下なので、屋内扱いでよかったのかもしれません。

Windowsがうまくいかなくて焦っていたせいもあり、直後のMacのプレビューでのスタート画像を間違えたミスもありましたが、それでもその後の解説はなんとか体制を立て直し、無事に最後まで辿り着きました。無事に終わった時は本当にホッとしていました。

セミナーはかなり多くの方に来ていただけたようです。
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U-Chanさんが撮ってくれた写真です。

結局今回は、Wi-Fi接続の大トラブルが1件、Macでの画像処理の選択を間違えるという致命的なミスが1件と、大いに反省すべきです。それでも、画像処理をやってみたいという人にとってできる限りわかりやすく説明したつもりです。後で見直してみたら、焦っていたにもかかわらず一応頑張って説明しているように見えました。少し駆け足のところもあったので、解説ブログ記事と合わせて、配信動画も興味が湧いた時でいいので、長期的に見ていただければと思っています。

後日、配信の際に投稿されたコメントを見ました。直接の質問のようなものはありませんでしたが、多くのコメントがありました。特に雑兵Aさんは、コメントの時点で今回私が伝えたかったことに対してかなり反応してくれていて、その後のXでの投稿でも自分が試した結果を見せてくれていました。画像処理に足を突っ込み出したくらいの方が大きく進歩してくれるなら、今回のセミナーを引き受けた甲斐があったというものです。

XではあんとんしゅがーさんからNINAとPixInsightについても同じようなことをやってほしいというリクエストがありましたが、ベテラン向けはなかなか難しいです。それぞれみなさん自分の道を持っていますし、選択肢もたくさんありますし、過程も格段に複雑になってしまいます。もし何かやるとしても、全然別の方法でになるかと思います。

あと技術的な追加情報ですが、光害防止フィルターに最初CBPで撮影したのですが、青ハロが出てしまいました。その後QBP IIIを使って青ハロが消えたのですが、おそらくこれはあぷらなーとさんが説明されたことと一致しているのかと思います。私が使ったのはアクロマート鏡筒ではないですが、EDの入門的な鏡筒なので、同じような効果が得られるのかもしれません。あと、私もあぷらなーとさんと同じように、0.75倍のサイトロンのレデューサを使えばよかったと思いました。少し画角が広くなり、 より分子雲の領域を広げられたのかと思いましす。オリオン大星雲は少し画角を広げると背景を楽しむことができるかと思います。


セミナー後

セミナーが終わった後は疲れ果てていて、あぷらなーとさんのセミナーを聞いた後はもうグダーっとして、セミナー会場にある椅子に座ってのんびり話しているくらいでした。

そうそう、今回のCP+でだいこもんさんとniwaさんに初めて直接お会いできました。お二人はオンライン会議などで何度も話しているので、むしろホントに今まで顔を合わせてなかったのか?という感じでした。M&Mさんと蒼月城さんは初めてお顔を拝見しましたが、想像と全然違っていました。お二人とも想像よりかなり若かったです。多分、M&Mさんは天文歴が長いから、蒼月城さんは知識があまりにも深いから、勝手に私よりも年配の方と想像していたのだと思います。でも蒼月城さんの声は、いつものあの渋みのある、魅力的な声と同じでした。今回の画像処理セミナーの対象として(勝手に)想定していた、めだかと暮らすひとさんや、Imarin0321さんとも顔を合わせることができました。

会場を出る少し前くらいだったでしょうか、サイトロンのスタッフさんに紹介されて、中3のAPS君に会うことができました。中学生で都心でナローバンド撮影をしていて、私も結構最近「え?中3」とびっくりしてフォローさせてもらいました。なんとハーフの方で、来年はお母様の出身のイギリスの高校に行くとのことです。将来は天文学者を目指しているとのことです。帰り際、わざわざお父様と一緒に再度挨拶に来ていただきました。「APS君、イギリスでもがんばれ!」


飲み会

この後は、編集長とあぷらなーとさん、星沼会のメンバーなど、10人くらいでの飲み会でした。Aramisさんの案内で少し歩いて中華料理店へ。その途中でM&Mさんとあぷらなーとさん話していて、昔のことを聞くことができました。私はこの界隈では新参者に近いので、昔の話を聞くのはとても楽しいです。この時の会話が元で、M&Mさんがブログにまとめ記事を書いてくれています。

飲み会ではMACHOさんから面白い提案をいただきました。星ナビの今年の2月号に紹介されているのですが、MACHOさんが高校生と一緒にチリのリモートを利用して電視観望を実践しているとのことです。聞いてみるとかなり理にかなっていて、最近は学校関係だと夜に観望会を開くことも安全上難しくなってきたりしています。チリはちょうど12時間の時差があるということで、なんと授業がある昼間にリアルタイムで電視観望ができるということです。来週実際に、テストで参加させてもらう予定です。実際に高校生を交えて試すのはまだ先になりそうですが、今から楽しみでなりません。

その後、何人かのメンバーは横浜駅で帰られたのですが、他にまた別メンバーとも合流して2次会にまで行くことになりました。そこでも色々話し、店を出たのは23時15分くらい頃だったでしょうか。それでも電車も無くなることはなく、川崎のホテルまでたどりつきました。富山と違い、さすがに都会です。


帰宅とまとめ

次の日はかなり疲れていたこともあり、早めに富山に帰ることにしました。だいこもんさんがNiwaさんの個展に立ち寄ったみたいですが、私はまだ行けてないので、私も思いついて立ち寄れば良かったです。

星まつりはたいてい山の中とかの比較的遠いところで行われますが、CP+は関東中心で行われるので、集まりやすくていいですね。CP+の魅力の一つは、ものを買うことをしなくていいところだと思います。掘り出し物を探すなどせずに、新製品とかに集中できるところでしょうか。さらに天文関連のブースが限られているので、去年も今年もそうだったのですが、サイトロンブースがある意味天文民溜まり場のようになっていて、ここにいれば誰かに会えるというところですかね。やはり星まつりとは色んな意味でちょっと違う、別の価値のあるイベントなのかと思います。

今回の記事をもって、私にとっての今年のCP+も本当に終わりです。昨年のCP+はまだコロナの影響が少しあったのかと思いすが、明らかに今年はパワーアップしていたと思います。連動企画もかなり充実したものになったかと思います。画像処理を始めるきっかけになってもらえるとありがたいです。


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