ほしぞloveログ

天体観測始めました。

2023年11月

2年近く前に自宅から撮影したSh2-240、かなり淡く、当時はFS-60CB+CBP+EOS 6Dで12時間越えとかなり頑張ってみたのですが、画像処理で相当無理して出していたのがわかります。

 

結果を見ても明らかですが、これは敗退だったと言えるでしょう。

今年の春にε130Dを購入した最大の理由が、このリベンジです。無理ナントだった、超新星レムナントを自宅でどこまで出すことができるのか?特に前回は全く出なかったOIIIの青が、自宅でも本当に出るのかがポイントです。


Sh2-240の下調べ

今回のターゲット、皆さんなんて呼びますか?Sh2-240という呼び名が多分一番メジャーでしょうか?一方、Sim147(シメイズ147, Simeis 147)という名前も持っています。通称はスパゲティ星雲 (Spaghetti Nebula) と呼ばれていて、これは最初日本語で誰かがつけたと思っていたら、英語のWikidiaとかにも普通に載っているので、どうも世界的に一般にこの通称で呼ばれているようです。

星雲としてはかなり大きくて、見かけの直径は約3度もあります。月が0.5度くらいなので、一辺で6個分、面積だと36倍の大きさです。おうし座からぎょしゃ座にかけて広がるレムナント(超新星残骸)です。約3000光年先にあるとのことで、10万年ほど前に現れてこの大きさにまで広がったようです。一つの超新星爆発がこんな複雑な形を作るのは、まさに宇宙の神秘かと思います。

ちょっと脱線ですが、Sh2はシャープレスカタログ(Sharpless catalog)と呼ばれていて、淡い天体を撮影しようとするとすぐに候補として出てきます。




アメリカの天文学者スチュワート・シャープレスが、パロマー天文台のスカイサーベイからの画像を使用して銀河系のHII領域を調査し、1953年にSh1として142天体をカタログに登録、その後1959年に第2版とのSh2として313の天体を登録しているとのことです。

シャープレスカタログはまだいいのですが、シメイズカタログは調べてもあまりよくわかりませんでした。日本語だとHIROPONさんのページくらいしか引っ掛からなくて、

「クリミアにあるシメイズ天文台で、ソ連の天文学者ヴェラ・ガゼ(Vera Fedorovna Gaze, 1899~1954)とグリゴーリ・シャイン(Grigory Abramovich Shajn, 1892~1956)によって1955年に編集された散光星雲のカタログです。カタログはクリミア天体物理天文台の会報に掲載されており、主に北半球にある306個の散光星雲を一覧にしています。有名な天体としては、おうし座~ぎょしゃ座にかけて存在する超新星残骸Simeis 147(=Sh2-240)があります。」

とあります。「シメイズ」と検索しても、ほぼシメイズ147しか結果が出てこなくて、色々調べてやっとSimbadの中のカタログまで辿り着きました。232個が登録されているようです。


久しぶりのε130D

ε130Dですが、5月にアメペリ星雲網状星雲おとめ座銀河団を撮って以来になります。これまではテスト撮影のようなもので、
  • bin2と分解能とBXTの関係
  • 淡いOIIIがどこまで出るか
  • bin1で系外銀河の描写がどこまで可能か
など、かなり実験的です。いずれも、ε130Dの分解能と口径の大きさを遺憾なく発揮した結果となりました。

その一方で
などが問題点として浮かんできました。今回の撮影の前に、上記二つの問題に対してもある程度解決の目処をつけようとしています。


星像の改善

まず最初の問題、星像についてですが、コリメートアイピースを利用しての光軸調整自身は何度かしてみました。でも、何度調整しても結果として毎回同じようなズレになるので、通常の光軸調整とは別のシステマティックなずれがあるような気がします。

具体的な問題としては、
  • 鏡筒に付いている回転装置を回すと、像が変わる。
  • 四隅の星像が流れる。特に、縦方向に像の上下でピントの内外が違うのがはっきりわかる。
などがあります。これらのことから、光軸というよりはスケアリングがずれているのではないかと考え、K-ASTECのスケアリング調整が可能なテーパーリング接続キットを購入しました。



IMG_8512

オフアキは使わないので、上の写真の右のように12.5mmの延長リングも合わせて購入したのですが、これはカメラ付属の5mm幅のセンサーチルトアダプターを「付けたまま」接続します。最初勘違いしていて、このセンサーチルトアダプターを外して組んでしまい、星像が改善しないと悩んでいました。一度スターベースに遊びに行った時に星像が合わないと相談して、スタッフの方の指摘で気づきました。どうもありがとうございました。

その後、スケアリング調整です。接眼部の鏡筒側の回転装置を回転させて、縦にしても横にしても、きちんと遠方の景色のカメラ中心がずれないように、合わせました。このこともスターベースで話したのですが、カメラ中心基準だとテーパー部のネジの締め具合で中心位置がずれてしまうので、回転させた時に中心が基準にならないかもという指摘をうけました。そのため、ネジの締め具合が毎回均等になるようにして中心の再現性がある程度あることを確認してから、回転させても遠方景色の中心がずれないようにスケアリングを調整しています。

IMG_8659
こんな風に回転装置でフィルターホイールごと回転させて、
遠方を見ながら、カメラ中心がずれないようにスケアリングを調整しました。

今回の撮影での四隅の様子です。
2023_11_21_03_22_49_ASI6200MM_2x2_A_300s_g100_9_80C_mosaic
まだ左下と左真ん中が縦に伸びていて、右上が右斜め方向に伸びています。

それでも調整前の北アメリカ星雲の時などは下のようで、真ん中以外全方向が伸びていたので、かなり改善されています。
_2023_05_04_00_51_54_A_9_90_300_00s_0001_mosaic

下の画像は、RGBを5分9枚づつインテグレートしたものですが、方向が多少散らされるのか、さらに目立たなくなります。
Image04_ABE_DBE1_mosaic01
それでも強拡大すると、完全に伸びがなくなっていないのがわかりますが、私的には許容範囲です。それよりも青が少しずれているのが気になるくらいなので、ここまで調整できればよしとします。

ちなみに、上のものにBXTをかけるとさらに星像は引き締まり、青のずれもなくなり、真円に近づきます。それでもまだ左下は少し縦に伸びています。
Image04_ABE_DBE1_mosaic

これくらなら歪みと言っても微々たるものなので、私的には結構満足です。今後ε130Dでもどんどん撮影していこうと思います。

ところで今回の星像の改善に一番効いたと思われるのは、実はスケアリングではなく、バックフォーカスでした。もともとε130Dにタカハシ純正のCanon用の変換アダプターを付けて、カメラ側にZWOのCanonマウントアダプターを使っていたのですが、これだと指定のバックフォーカス長の56.2mmぴったりで、フィルターの厚みなどを光量すると、微妙に長さが足りないのです。K-ASTECのテーバー接続リングは、あらかじめ1mmほど長く設定して出荷され57.2mm -0.2,+0.8の範囲で調整できます。実際にはもう少し伸ばしましたが、以前より1.5mmほど伸ばしたことが星像の改善に一番貢献したものと思われます。


フードの影響

今回簡易的に鏡筒先端にフードを付けてみました。

IMG_8784

ε130Dでこれまでフラット補正がうまくいかなかった原因の一つが「フードを取り付けていなくて周辺の光が入り込み、その光の入り込み具合が赤道儀の回転とともに変わっていって、単一のマスターフラットファイルでは補正しきれないのでは」と考えたからです。フード自身はまだ仮のもので、福島の星まつりで特価で手に入れたものを使いました。

今回はRGBAOと5種類撮影しましたが、その中でB画像の迷光が一番ひどく見えました。スタック後のBにABEの4次をかけて、オートストレッチの強い方をかけたものです。
masterLight_BIN_2_EXPOSURE_300_00s_FILTER_B_ABE

まだかなり残っていますが、HαやOIIIはこれより大分マシだったので、これがMaxだと思ってください。

下は以前おとめ座銀河団を撮影した際に、フードなしで撮ったスタック後のL画像にABEの4次をかけて、オートストレッチの強い方をかけたものです。

masterLight_BIN_1_EXPOSURE_300_00s_FILTER_L_ABE

L画像とB画像なので直接比較は不公平かもしれませんが、フードで少しマシになったようにも見えます。それでもフードが解というには厳しくて、やはりε130Dと付き合っていくには非対称的な迷光を許容していく必要がありそうです。

というより、この非対称性って接眼部が横についていることからきている可能性が高いと思っていて、ε130Dだけの問題ではなく、そのような形の反射型全般の構造的な問題かと思っています。

「そんなの出てないよ」という方も、フラット画像にABEの4次をかけて、オートストレッチの強い方をかけてみてください。できれば中心だけを見るのではなく、CMOSカメラのAPSCとかフルサイズクラスで見ると外の方に見えるのかと思います。「CMOSカメラ」とあえて書いたのは、一眼レフカメラだとカメラ本体のミラー部のケラレが上下に出てしまう可能性があるからです。そのケラレでの光の落ち方の大きさが、今議論している迷光の模様よりも大きい場合があって、ストレッチで炙り出してもケラレの方で制限されてしまい、迷光の微妙な違いがわからないことがあります。画像処理によっては問題にならないレベルかもしれませんが、今回のように淡いところを強度にあぶり出していく場合は、どうしても問題になってきます。

あ、ブログを書いていて最後に見直した時に思ったのですが、よく考えたら今回のフラット、以前のものを使い回しています。フードのない時に撮ったフラットということです。フードをつけて取り直したらもう少しマシになるかもしれません。休日で、天気のいい昼間に撮り直してみます。
 

撮影時

撮影は11月20日から22日の3日間に渡りました。上弦の月を過ぎた頃で、前半は月も明るくSh2-240自体の高度も低いので、どの日も後半がメインとなります。初日の前半は準備と星像確認に費やし、0時頃から撮影開始でした。

フィルターですが、前回はCBPでした。今回はカメラもモノクロなので、HαもOIIIも個別のです。どちらもBaaderのものになり、バンド幅もかなり小さくなるのでコントラスも向上するはずでが、OIIIが眼視用で青ハロが出ることがわかっているので、少し気になるところです。

2日目と3日目は、前半まだSh2-240の高度が低いので、その間クワガタ星雲を撮影しました。半月越えの月が出ていますが、ナローバンド撮影なのでなんとかなるかどうかのテストも兼ねています。この話はまた別の記事で書こうと思います。

2日目の後半は順調に枚数を稼いだのですが、途中でPCに繋げてあるバッテリーが落ちたようで、残されたファイルを見ると午前3時過ぎのものが最後でした。

3日目前半のクワガタ星雲の撮影後に、急遽Sh2-240のRGBを個別に撮ることにしました。以前の北アメリカ星雲のAOO撮影で赤の淡いところを出すのに無理をして、恒星の色がおかしくなり、恒星の周りに赤ハロのようなものが目立ってしまったからです。短時間ながらもRGBで別撮りしておけば、恒星の色もある程度残るのではとの期待です。各色5分で9枚、45分づつ撮影しました。3日目の後半は途中から風がすごいことになってきたので、午前3次頃に中断して片付けました。

そうそう、Xではつぶやいたのですが、最近自宅の近辺でクマの被害がかなり出ています。歩いて行ける距離の所で一人亡くなっていて、さすがにそのクマは駆除されたのですが、その後も車で5分くらいのところでも二人襲われています。さらに、これも自宅から5分くらいのところですが、いつも仕事に行く時に使う道を横切るクマの映像がニュースで流れていました。

実際の撮影は冗談抜きでクマに怯えながらでした。できる限り外に出ている時間を短縮して、セットしたらあとはプレートソルブやEAFを駆使してリモート撮影に徹底します。それでも反転の時だけは心配で、その場に行ってケーブルとかが引っかからないか見ながら、マニュアルで反転してました。


ビニングについて

元々今回の記事の中でビニングについて書こうとしていましたが、結構な分量になってしまったので、独立した記事としました。詳しくは前回の記事を見てください。

少しだけ書いておくと、富山の自宅でスカイノイズが大きいことを緩和するために、bin2でソフトウェアビニングをかけて撮影し、輝度を上げショットノイズのS/Nを上げようとしました。

 

bin1に比べて4倍の露光時間をかけたことに相当しますが、それでも露光時間がまだ足りないか、もっと暗いところに行くべきなのかと思います。ちなみに、今回の撮影時間がトータル12時間なので、bin1で撮影していたらショットノイズに関しては、48時間撮影したのと同等のS/Nとなります。


画像処理

まず、OIIIの一枚画像を見てみます。ABEの4次をかけ、強い方のオートストレッチをかけます。何か模様は出ているようです。これならスタックさえすればなんとかなりそうです。

2023_11_21_00_34_08_2x2_O_300_00s_g100_10_00C_0005_ABE

次にPixInsightのWBPPが終わった段階のマスターOIII画像を改めて見てみます。ABEの4次をかけ、強い方のオートストレッチをかけます。淡いながらも(この時点では)十分に出ていると思いました。

masterLight_BIN_2_300_00s_FILTER_O_integration_ABE

Hαも同様に見てみますが、OIIIがでているので、Hαは余裕と思っていました。

masterLight_BIN_2_300_00s_FILTER_A_mono_drizzle_1x_ABE

でも、その後の画像処理は困難を極めました。やはり淡い青がつらいのです。青が出てると言っても、そもそも青単独のところは一部で、多くは赤と重なっていて仕上がりで明るい紫になります。単独の青は、もっと淡いところにまだ隠れいているようです。今回の条件ではそこまで届きませんでした。

青は他にも問題があって、そもそも今回使っているOIIIフィルターが眼視用で、どうもUV/IR領域がカットされていないようなのです。そのため、青ハロができてしまったりして強度の炙り出しが難しくなります。無理に出そうとすると、その青ハロが霞を増加しているように見えてしまい、処理を難しくしています。青ハロだけでなく、淡い天体部分と背景の輝度がかなり近い(背景ノイズが大きい)ので、淡いところを出そうとすると無理が出ます。


drizzle x1の効果

Niwaさんが、SPCCをする際は1倍でもいいのでdrizzleをするといいとの記事を書いてくれています。ノイズが少し軽減され、背景が緑化されるのを防ぐこともできるそうです。私は緑化で困ったことはないのですが、1倍なら特にファイルサイズが増えることもないので、ノイズが軽減されるならと試してみました。

drizzleされたマスターライトとものと、されていないマスターライトができあがるので、PixInsightのスクリプトからSNRを比較してみました。結果はdrizzleしたものがSNR = 7.475e+04 、してないものがSNR = 4.222e+04とのことで、2倍近くの向上がみられました。

comp1

上の画像は、左がdrizzleなしの通常の処理、右が1倍のdrizzleです。drizzleをかけると、背景のクールピクセルっぽい黒い穴が少なくなっていることがわかります。SN比の向上と一致していますね。その代わりに、少し星像が肥大しているでしょうか?シャープさがなくなったようにも見えます。

多少の不利さもありそうですが、2倍近くのS/Nの向上はかなり魅力的なので、今後も使っていくことになりそうです。


結果

やっと画像処理の結果です。
Image22_DBE_SPCC_back_BXT_HT1_HT2_NXT_SCNRG6_cut
  • 撮影日: 2023年11月21日0時8分-5時23分、11月21日22時48分-22日2時25分、11月22日22時14分-23日3時14分
  • 撮影場所: 富山県富山市自宅
  • 鏡筒: TAKAHASHI製 ε130D(f430mm、F3.3)
  • フィルター: Baader:Hα 6.5nm、OIII 10nm
  • 赤道儀: Celestron CGEM II
  • カメラ: ZWO ASI6200MM Pro (-10℃)
  • ガイド:  f120mmガイド鏡 + ASI290MM、PHD2によるマルチスターガイドでディザリング
  • 撮影: NINA、bin2、Gain 100、露光時間5分、Hα: 48枚、OIII: 70枚、R: 9枚、G: 9枚、B: 9枚、の計145枚で総露光時間12時間5分
  • Dark: Gain 100、露光時間5分、温度-10℃、117枚
  • Flat, Darkflat: Gain100、露光時間 Hα: 0.2秒、OIII: 0.2秒、R: 0.01秒、G: 0.01秒、B: 0.01秒で全て64枚
  • 画像処理: PixInsight、Photoshop CC

結果を見るに、かなり出たのではないでしょうか!いろいろ苦労はありましたが、今回のレムナント、明らかにリベンジは果たせたと思います。

まず2年前に全く出なかった青は明らかに出ています。赤も無理して出していたものは、かなり複雑な模様まで詳細に出るようになりました。鏡筒だけでなく、ナローバンドフィルター、モノクロ冷却カメラと、機材も総取っ替えで挑んだ甲斐がありました。自宅からでも無理ナントではなかったと言っていいでしょう。

その一方、これで終わりかというと、画像を見てもまだ無理をしている感があるのも事実です。
  • まず、青に関してですが、やはりOIIIフィルターが眼視用のせいか、どうも恒星周りに青ハロっぽいのが出てしまっています。この青ハロの明るさが、淡いところの明るさと同程度になるために、淡いところをこれ以上炙り出すのが難しくなっています。星もとで48mmのOIIIフィルターを特価で見つけた時に、パッと買っておけばと、今でも悔やまれます。
  • 一方、Hαの赤も、よく見るといくつかの大きなリングの中に、ノイズに埋もれそうな淡い構造が明らかに見え始めています。これだけ見てもまだHαの方も露光時間を増やした方がいいいのかと思います。
  • 焦点距離が430mmとまだ微妙に長くて、全景が入っていません。モザイク撮影で周りも少し入れてみたいです。
こうやってみるとまだ不満な点もあるので、できるならもう一度リベンジしたいです。

今回の成果の一つは、ε130Dの星像がしっかりしてきたことです。今後は躊躇せずに、この鏡筒で撮影をどんどんしていきたいと思います。その一方、フードはフラット補正に少しは貢献しましたが、まだ完全な解決までは遠いです。でも他にアイデアもないので、これはもうあるものとして付き合っていくしかないと思います。


ナローバンド撮影と光害の関係

ナローバンドで、明るい月夜や明るい場所と、暗い場所でどれくらいスカイノイズに差が出るのか、今後きちんと実測と計算をしてみたいと思います。もしかしたらナローバンドフィルターの影響が強くて、意外なほど周りの明るさがあっても撮影結果に差が無いのではとも少し思っています。ナローで淡いところを出す場合、光害はあまり関係なく、いかに天体を明るく撮るかにかかっていて、口径、F値、露光時間、ピクセルサイズなどで決まってしまうのではないかという推測です。

もしこれが数値的に示されたとすると、自宅で撮るのは環境的には決して難しいことではなく、あとは機材と露光時間の根性という話になります。あ、ビニングなどの工夫もありますか。

暗いところにいって、ナローバンド撮影をしてみればすぐに判明するので、いつかまた遠征した時にナローで撮影して差を見てみたいと思います。


ビニング x drizzle x BXT

もう一つのアイデアです。

今回bin2で撮影しましたが、いわゆるソフトウェアビニングなので、bin1で撮影してから、画像処理の段階でPC上でbin2にしても同じことになります。しかも、16bitカメラなので後からビニングして32bitファイルに書き込めば、4倍の明るさになるのでダイナミックレンジは2bit得するはずです。

今回は後からのビニングができるのかわからなかったので撮影時にビニングしていますが、元のbin1の解像度が高すぎるので、bin2でもまだ十分な解像度があります。いっそのことここから更にビニングしてbin4相当にして更に4倍の明るさにして、でも流石にそれだと解像度がしょぼくなりすぎるので、drizzleで2倍にするというのもありだと思います。

もちろんそれだけだとS/Nは得しても、解像度に関してはあまり得しないので、この状態でBXTをかけるというアイデアです。drizzleとBXTは相乗効果が非常に高い可能性があることはすでに検証しているので、
 
解像度がほぼ今のままで、更に淡いところを出せるかもしれません。bin4だとすると今回のbin2に比べたら4倍、元のbin1に比べると16倍の露光時間になります。今回トタールで12時間半の撮影時間なので、16倍ならちょうど200時間の撮影時間と同等ということになります。自宅撮影の可能性をさらに広げてくれるかもしれません。分解能がどこまで犠牲になるかも注意しながら、余裕があったら試してみたいと思います。


まとめ

長い記事になってしまいましたが、半年くらいの細々とやっていたε130Dの調整も入っているので、実際にはまだまだ書き足りないくらいです。念願だった自宅レムナントがやっと出てくれたので、かなり満足している一方、まだ十分でないこともわかったので、いつかまたリベンジしたいと思います。

これでε130Dも多少安定して撮影できそうです。今後、どんどん活用していきたいと思います。

次はイカ釣りかな?


日記

コロナの後遺症か、熱がひいてからも数週間体力がなくて、今回やっと望遠鏡を出す気になりました。それでもこのブログを書いている現在もまだ咳が続いていたりします。

この間にも、どんどん試したいことが増えています。SharpCapの惑星ライブスタックとか、SharpCapでガイドなしのdhitherとかです。でももう既に冬型の気圧配置になってしまったのでしょうか、天気が全然ダメです。天気が悪くても、まだノイズ解析は進めたいですし、小海でお借りしたInteractiveの読み込みとかもしたいです。これらもまた、いずれ記事にしたいと思います。時間が全然足りません。


画像からのノイズ解析の一環でいろいろ考えているのですが、ビニングについて考えていたら1回分くらいの記事の分量になってしまいました。番外編として独立記事とします。

一般的にCMOSカメラでの撮影でbin1以外を選択すると、通常はソフトウェアビニングとなり、本来のハードウェアビニングに比べて不利であると言われています。でもこのことについて真面目に議論している記述をあまりみたことがないので、少し考えてみます。

ちなみに、ハードウェアビニングは以前主流だったCCDカメラには搭載されていた機能ですが、最近主流のCMOSカメラではハードウェアビニング は原理的に搭載するのが難しく、ソフトウェアビニングとなります。それでも例えばASI294MM Proなどは、4つのピクセルを合わせて1ピクセルとしたものが標準で、オプションで1ピクセルごとの画素のデータも読み取ることができ、実施的にハードウェアビニングと同じような機能を搭載しているものもあります。




ビニングでのS/N向上

そもそも、ビニングとはどんなものなのでしょうか?撮影ソフトの機能だけでみたら、bin2は縦横2つで計4つのピクセルを1つのピクセルとして扱い、4倍の明るさを得る手法です。明るさが4倍なのでショットノイズは√4=2倍になり、そのため、ショットノイズに対してのS/Nは4/2=2倍よくなります。

これだけのS/N増加をbin1で得ようとしたら4倍の時間をかける必要があります。例えば、bin2で1時間撮影することとbin1で4時間撮影することが同じ、bin2で4時間撮影することとbin1で16時間撮影することが同じ、bin2で10時間撮影することとbin1で40時間撮影することが同じです。10時間撮影は頑張れば可能ですが、40時間撮影はそれこそ長期にわたって安定した天気と、相当な根気が必要になってきます。撮影日数は1週間オーダーになるでしょう。私が住んでいる富山ではこんなに連続で晴れることはほぼあり得ないので、今の私の環境ではトータルで10時間くらいが限界です。例え10時間でも、実際には設置やトラブル回避などにも時間をとられるので、数日にわたります。

bin3なら3x3=9個のピクセルを一つとして扱うので、9倍の明るさ、√9=3倍のショットノイズで、S/Nの向上は9/3=3倍となり、同じS/Nをbin1で得ようとしたら、9倍の時間をかける必要があります。

このように、S/Nの向上という観点からはビニングは効果があることはあきらかです。その代わりに空間分解能(解像度)を犠牲にしています。


ハードウェアビニング

ハードウェアビニングの特徴は、カメラのセンサー部の段階でピクセルを足し合わせてから、情報として読み出すことです。例えばbin2の場合、輝度は4倍になり、読み出しノイズは1倍のままなので、読み出しノイズに関してはS/Nで4倍も得することになります。その代わりに、分解能が一辺あたり半分、面積では4分の1になります。

また、ハードウェアビニングではダイナミックレンジが、例えばbin2では2ビット分減る可能性があぷらなーとさんによって指摘されています。というか、ASI1600ってCMOSカメラなのにハードウェアビニングできるんですね。本家ZWOのページを見ると、確かにできると書いてます。

 

このように、ハードウェアビニングも少なからず不利な点があることに注意する必要があります。

まとめると、ハードウェアビニングでは、例えばbin2はbin1に比べて
  1. 空間分解能が一辺半分になって(不利)
  2. 4倍明るくなり(有利)
  3. ショットノイズに対してS/Nが2倍良くなり(有利)
  4. 読み出しノイズに対してS/Nが4倍良くなり(有利)
  5. ダイナミックレンジが2ビット減る(不利)
ということになります。


ソフトウェアビニング

次に、ソフトウェアビニングについて考えてみます。一般に、ソフトウェアビニングはハードウェアビニングより不利と言われていますが、どうなのでしょうか?

まず、ビニングで輝度が上がることによるショットノイズについてはハードウェアビニングもソフトウェアビニングも効果に違いはありません。

ではソフトウェアビニングの何が不利なのかというと、読み出しノイズの部分です。ハードウェアビニングではセンサー部でピクセルを足し合わせているので、足し合わせた輝度について1回読み出すだけでいいのですが、ソフトウェアビニングでは輝度の値を読み出した後に「ソフト的に」輝度を足し合わせるので、読み出し回数は足し合わせるピクセルの数の分だけ必要となります。読み出しノイズはその回数分増えるので、bin1に比べて不利になります。

ソフトウェビニングをすることで、ハードウェアビニングに対してどれくらい読み出しノイズが増えるか、計算してみましょう。例えばbin2の場合、bin1の一つのピクセルの読み出しノイズをN_rとすると、ノイズは2乗和のルートで効いてくるので、4ピクセル分で4回読み出すとすると

sqrt(N_r^2+N_r^2+N_r^2+N_r^2) = sqrt(4xN_r^2) = 2N_r

となり、2倍の読み出しノイズとなります。このことがハードウェアビニングに対して、ソフトウェアビニングは不利になるという根拠になります。でもこれはあくまでハードウェアビニングに対して2倍不利になるというだけで、bin2のソフトウェアビニングでも輝度は4倍となるので、S/Nをとると4/2 = 2倍有利になるので、読み出しノイズに関して得します。ハードウェアビニングに対して得する度合いが小さいというだけです。

まとめると、ソフトウェアビニングでは、例えばbin2はbin1に比べて
  1. 空間分解能が一辺半分になっていて(不利)
  2. 4倍明るくなり(有利)
  3. ショットノイズに対してS/Nが2倍良くなり(有利)
  4. 読み出しノイズに対してS/Nが2倍良くなり(有利)
  5. ダイナミックレンジも変化無し(同じ)
ということになります。

あ、ダイナミクレンジに関しては、16ビットセンサーだと勿体無いかもしれません。元々16ビットの情報を持っているとすると、ソフトウェアビニングで計算機内部では18ビット相当まで行きますが、ファイルフォーマットが16ビットだとすると、ファイルに保存するときに2ビット分はいずれ捨てられることになります。あくまで勿体無いというだけで、少なくとも16ビットのままで悪くはならないのですが、ファイルフォーマットのダイナミックレンジを撮影ソフトから書き出す時に大きくできれば、さらに2ビット稼げる可能性があります。

ダイナミックレンジに関しては、私自身はきちんと検証しているわけではないので、あくまで理論的な話です。例えば14ビットセンサーのbin2のソフトウェアビニングが、14ビットで保存されるのか、(ファイルのフォーマット的には余裕があるので)16ビットで保存されるのかちょっと興味があります。


本当にソフトウェアビニングは不利なの?

ここまでの記事なら、よくあるハードウェアビニングとソフトウェアビニングの説明になります。よくある記事と言っても、実際には定性的に説明してあるページがほとんどで、実際に数値できちんと書いてあるところは探すのが大変なくらい少ないです。

で、ここからが「ほしぞloveログ」ならではの本番の記事となります。多分どこも議論しているところはないと思います。それは、ソフトウェアビニングはハードウェアビニングに比べて本当に不利かという疑問です。

ここまでの上記の検証で、ソフトウェアビニングがハードウェアビニングに比べて不利な点は、読み出しノイズについてのみです。しかもダイナミックレンジに関しては、むしろソフトウェアビニングの方が有利な可能性が高いです。

読み出しノイズについてもう少し考えてみます。これまでの実画像からのノイズの検証で、撮影画像のノイズ成分についてずっと議論してきました。その結果、開田高原や海外チリなどのかなり暗い環境においてさえも、実際のトータルのノイズはスカイノイズに制限されていることが多く、読み出しノイズがほとんど効いていないことがわかります。特に自宅のような光害地ではその傾向が顕著で、圧倒的にスカイノイズが支配的で、読み出しノイズやダークノイズはほぼ完全に無視できることがわかります。

このように、本格天体撮影のほとんどの場合において、読み出しノイズが支配的な状況になるとはあまり考えられず、その場合は唯一の違いであるハードウェアビニングとソフトウェアビニングでの読み出しノイズでの有利不利はなくなると考えられます。ダイナミックレンジの観点からは、むしろソフトウェアビニングの方が有利になる可能性さえあります。

ただし、
  • 環境のいい暗い空において
  • 暗い鏡筒使っている
  • 一枚あたりの露光時間が短い
  • ナローバンド撮影で明るさを制限して撮影している
などの場合には、読み出しノイズが支配的な状況になることもあるはずです。その場合、ハードウェアビニングのほうがソフトウェアビニングに対して有利になることは当然あり得ますが、これまでの検討からかなり稀な状況であると思われます。

そもそもハードウェアビニングとソフトウェアビニングの違いを気にするような方は、かなり撮影にも凝った方なのかと思います。明るいF値の鏡筒を使うことも多く、長時間露光で、読み出しノイズよりもダークノイズやスカイノイズに支配的な状況になりがちかと思います。もし今回の私の検討が正しいとするならば、ハードウェアビニングとソフトウェアビニングの違いについては気にする必要はなく、(分解能を気にする状況でなければですが)遠慮なく現在のCMOSカメラのソフトウェアビニング使っていいのかと思います。

どうしても心配な方は、自分で撮影した画像で一度ノイズを実測してみるといいかと思います。最近のこのブログの記事を見返すと、ノイズの原理と測定方法など書いておいてあるので、どなたも簡単に測定と評価までできるのかと思います。




特に淡いSh4-240のOIII成分

というわけで、つい最近淡いSh2-240を、上記のような考えの元でソフトウェアビニングのbin2で、明るい自宅の庭で撮影してみました。

光害地であるため、ナローバンド撮影といえどもスカイノイズが完全に支配的です。これまでの議論から、このような状況での撮影ではハードウェアビニングとソフトウェアビニングの読み出しノイズの差なんて完全に無視できます。それよりも淡い天体に対して輝度を高くでき、S/Nを稼ぐことができるほうがはるかに有利になります。例えば、ショットノイズ(=スカイノイズ)に関しては露光時間4倍で撮影することと同等なので圧倒的に有利で、現実的な撮影時間で淡い部分を出すことにかなり貢献してくれます。

masterLight_BIN_2_300_00s_FILTER_O_integration_ABE

結果を見る限り、光害地からの撮影でも、特に淡いOIII成分も情報と十分に残っていることがわかります。今回は6時間半の撮影ですが、これをもしbin1で撮影していたら、(空間分解能は無視するとして)同等のS/Nを得るためには28時間の撮影時間となっていたはずです。


まとめ

今回の記事ではビニングについてまとめてみました。特にハードウェアビニングとソフトウェアビニングの違いついて、少し定量的に議論してみました。ちょうどこの満月期で、しかも天気も悪いので昼間に太陽を見ることもなく、時間をかけてじっくり考えることができました。

読み出しノイズに支配されないような状況下では、ハードウェアビニングとソフトウェアビニングについて大きな差はないので、必要ならば分解能を犠牲にして輝度を上げS/Nを上げることができる、現在のCMOSカメラで使えるソフトウェアビニングを遠慮なく使っていいという結論になります。ただし、自分で考えたことなので大きく勘違いして間違っている可能性もあります。何か気づいた際にはコメントでも残していただけるとありがたいです。


参考記事

この記事をほぼ書き終えて、改めて検証のために、ある程度の理屈と感度向上を数値まで含めてで日本語で記述しているあるページを探してみましたが、ほとんど見つけることができませんでした。これまでビニングに関しては神話的に色々囁かれていたような状況だったことが想像できます。
  • 画像のビニングについて、定性的な説明だけをしているページはたくさんあります。感度が4倍になるとだけ書いているページもある程度見つかります。でもきちんと理由とともに説明していあるページは、調べた限りWikipediaだけでした。

 

  • 実画像で検証してあるページがありました。ひろしさんという方が書いている「ヒロシの天体観測」というブログの中に書いてあり、2011年とかなり古い、CCD時代の記事です。いろんなケースを比較していて、とても好感が持てます。ハードウェアビニングとソフトウェアビニングで結果があまり変わらないとか、レンジもハードビニングのほうが狭いなど、理由がはっきりとせずかなり疑問もあったようです。画像の比較結果は、今回の私の記事での説明と矛盾するようなことはないように思いますし、疑問に対しても今回の記事の内容でかなり程度説明できるように思えます。コメント欄を見ても、当時活発に議論していることがわかります。


  • シベットさんのブログ「浮気なぼくら」でも検証記事があります。bin1からbin4まで4つ比較していて、それぞれで違いはないと結論づけられていますが、ヒストグラムを見てもbinの数が増えるごとに明らかに山の幅が短くなっていること(=ノイズが小さくなっているということ)、画像を見ても背景のノイズが明らかに減っているので、S/Nという観点からは十分な効果が出ていると思われます。



きまぐれ日記

これまで書いてきたノイズ検証の関連で、だいこもんさんとNiwaさんから画像を提供して比較検討してきました。その過程でお二方からDMで質問や議論があり、直接話しますかということになりました。

ちょうど昨晩、星沼会の定例のミーティングといういうことで、そこで話せばいいのではと、私もゲスト参加させていただきました。メンバーはだいこもんさん、Niwaさん、hinokirさん、ぐらすのすちさんでした。

ミーティング自体は21時から始まっていたのですが、私は途中21時から参加して、結局0時近くまで話し込んでいました。ノイズの話で盛り上がること自体がそもそも濃いのですが、さすが星沼会、他に話している内容もとても濃かったです。私自身もかなり楽しい時間を過ごすことができました。ゲスト参加を認めていただき、どうもありがとうございました。

ブログ記事と関係ないのですが、天文関連でちょっとしたことがあったら、こんなふうに記事にに混ぜて日記がてら書いて行けたらと思っています。

この記事は「実画像のノイズ評価(その3): 信号について」の続きになります。



久しぶりのブログ更新になってしまいました。実は小海の星フェスからコロナになってしまいました。4−5日で平熱に戻ったのですが、その後体力が全然戻らず、仕事から帰っても疲れ果ててすぐに寝てしまうことをずっと続けていました。新月期で晴れた平日もあったのですが、全く機材を出す気力がありませんでした。細々と今回の計算だけは続けていて、発症から3週間たってやっとブログを新たに書くくらいの気力がもどってきました。

というわけで前回の記事から結構経ってしまいましたが、今回の記事ではこれまでのノイズ評価がどこまで通用するか、具体例を検証してみたいと思います。だいこもんさんと、Niwaさんの協力もありましたので、いくつかの撮影条件を比べてノイズ評価が正しいかどうか検証してみることにします。


開田高原で撮影したファイルの検証

まずはこれまで通り、開田高原のものから。使っているカメラはASI294MM Proです。


1. Read noise


最初はRead noiseを検証してみましょう。比較すべきは、
  1. ASI294MM ProのRead noiseのグラフから読み取ったノイズ
  2. 自分で撮影したBiasファイルから実測したノイズ
の2つです。

  1. 今回の撮影ではゲインを120としたので、その時のRead noiseの値をグラフから読み取ると、1.8 [e]程度でしょうか。
  2. その一方、Baisファイルはゲインを120として、最初露光時間(0.032ms)で撮影し、RAW16のfits形式で保存します。実測はPixInsightのStatisticsツールをつかいました。撮影されたファイルは実際には14bit階調なので、Statisticsツールで「14bit [0,16383]」を選びます。その時のavgDevの値を読むと2 [ADU]となります。この場合単位はADUなので、比較できるようにeに変換するため、コンバージョンファクターを使います。コンバージョンファクターはグラフの縦軸「Gain(e/ADU)」から読み取ります。横軸の「Gain(0.1dB)」の120のところでは0.95 [e/ADU] 程度となります。これを使うと、Baisファイルのノイズは1.9 [e]となり、グラフから読み取った値にほぼ一致します。
結論としては、Read noiseに関しては、メーカーの示すグラフから読み取った値と、実測の値が10%以下の精度でかなり一致していると言えます。実はこのことは、2019年に既に確認していて、その時もよく一致していることがわかっています。


2. Dark noise

次にDark noiseを検証します。こちらも比較すべきは、
  1. ASI294MM Proの Dark currentのグラフから読み取った暗電流値から計算したdark noise
  2. 自分で撮影したDarkファイルから実測したノイズ
の2つです。

  1. 今回の撮影時の温度は-10℃、1枚あたりの露光時間は300秒です。グラフから安電流は0.006 [e/s/pix]程度、露光時間の300 [s]をかけて1.86 [e/pix]。単位がeなので、ノイズはそのルートをとればよく、ピクセルあたりでは1.3 [e]となります。
  2. 一方、自分で撮影したダークファイルから、Biasファイルの時と同様にノイズをPixInsightで実測すると2.5 [ADU]となりました。これをコンバージョンファクター0.95[e/ADU]で単位をeに変換してやり、2.38 [e]となります。ここからRead noise 1.8 [e]を引いたものが実測のDark noiseとなります。ただし引く際には、互いに相関のないランダムなノイズなので、実測値の2乗とRead noiseの2乗の差を取り、ルートを取ることになります。出てきた値は1.4 [e]となりました。
結果としては、Dark noiseに関してもメーカーのグラフから求めた値と、実測の値が10%以下の精度で一致していることがわかります。


3. トータルノイズ

さらに、開田高原で撮影したライトフレームの輝度から推測したノイズと、ライトフレームのノイズの実測値を視覚します。
  1. 天体や分子雲が支配的でない暗い部分の輝度をPixInsightのStatisticsで実測すると、920 [ADU]程度となりました。ここから撮影時のオフセット40x16=640を引き、実際の輝度が280[ADU]であることがわかります。これをコンバージョンファクターで[e]にすると266 [e]。単位が[e]なので、ノイズは輝度のルートをとると直接出てきて、16.3 [e]となります。
  2. その一方、ライトフレームからPixInsightのStatisticsでノイズを直接測定すると、16.9 [e]となりました。
撮影したライトフレームの輝度から計算したノイズと、実測のノイズが10%以下の精度でかなり一致していることがわかります。


4. Sky noise

輝度から推測したノイズと直接測ったノイズから、トータルノイズがかなり一致することがわかったということと、Read noiseもDark noiseも推測値と実測値がかなり一致していることがわかるので、残り(今は天体が写っていない部分を考えているので、天体からのショットノイズはないと考える)のSky noiseもそこそこ一致すると推測できます。Sky  noiseは、トータルノイズからRead noiseとDark noiseを引いたものと考えることができます。ただしこの場合も、それぞれのノイズを2乗して、トータルからRead noiseとDark noiseを引く必要があることに注意です。その結果、Sky noiseは16.2[e]程度となりました。トータルノイズが16.3 [e]なので、Read noiseとDark noiseはほとんど効いていなくて、ほぼSky  noiseに支配されていることがわかります。


開田高原撮影のまとめ


まとめると、

グラフから読み取ったRead noise1.8 [e]
実測のRead noise1.9 [e]

グラフから読み取ったDark noise
1.3 [e]
実測のDark noise [e]1.4 [e]

背景光の輝度から推測したトータルノイズ

16.3 

[e]
実測のトータルノイズ [e]16.9 [e]

Sky noise
16.2 [e]

となります。

開田高原の暗い空であっても、L画像であること、口径260mmでF5のかなり光を集める鏡筒であることなどから、Sky noiseが支配的になってしまうのかと思われます。これが小さい口径で暗い鏡筒を使った場合や、明るい鏡筒でもナローバンドフィルターを使い入射する光を小さくした場合には、Read noiseとDark noiseが効いてくる可能性が高くなることに注意です。


条件を変えた場合

少なくとも、これまで検証してきた開田高原で撮影したライトフレームでは、メーカーグラフからの読み取り値と実測などがかなり一致することがわかりました。他の例とも比べてみましょう。

ここでは4つを比較します。鏡筒、カメラ、露光時間、ゲイン、温度、背景光の明るさなどがそれぞれ違います。
  1. 開田高原: SCA260 (d260mm、f1300mm)、ASI294MM Pro、露光時間300秒、gain120、-10℃
  2. 自宅: SCA260 (d260mm、f1300mm)、ASI294MM Pro、露光時間300秒、gain120、-10℃
  3. チリ1: RS200SS (d200mm、f760mm)、ASI294MM Pro、露光時間120秒、gain120、-20℃
  4. チリ2: FSQ106N (d200mm、f760mm)、ASI1600MM Pro、露光時間300秒、gain0、-20℃
協力: だいこもんさん(チリ1)、Niwaさん(チリ2)

個々の計算過程は省略しますが、結果は

1. 開田高原2. 自宅3. チリ14. チリ2
グラフからのRead noise [e]1.8 1.8 1.8 3.6 
実測のRead noise [e]1.9 1.9 1.9 3.6 

グラフからのDark noise [e]
1.3 1.3 0.9 1.4 
実測のDark noise [e]1.4 1.4 0.9 1.3 

背景光輝度からのトータルノイズ [e]
16.3 49.3 12.0 7.0 
実測のトータルノイズ [e]16.9 51.3 12.5 8.3 

Sky noise [e]
16.2 49.3 11.8 5.8 

となりました。各種条件はかなり違っていますが、どれも推測値と実測値がかなりの精度で一致しています。これまでの検証が大きく間違ってはいないことがわかるのかと思います。言い換えると、グラフからの推測値だけである程度正しいことがわかるので、今後の計算では実測値を用いなくともグラフから計算した値を用いて話を進めても、ほぼ問題ないと言えるのかと思います。

「背景光輝度からのトータルノイズ」と「Sky noise」を比較すると、やはりSky noiseが支配的なのがよくわかり、それでもチリ2のように暗いところで小口径の場合は、Sky  noiseの貢献度が小さくなり、Read noiseやdark noiseの貢献度があるていど大きくなることがわかります。

逆に言うと、Read noiseやdark noiseが効かない範囲でうまく撮影されているとも言えます。Read noiseやdark noiseが支配的と言うことはある意味暗すぎるわけです。暗い鏡筒を使っていたり、1枚あたりの露光時間が足りなかったり、ゲインが小さすぎるなどの状況や、ナローバンドフィルターやかなりきつい光害防止フィルターを使った場合などは暗すぎる状況になることがあります。

Read noiseやdark noiseが効かない状態の撮影ができているなら、あとはどこまで淡いところが出るかは背景がどこまで暗くできるかに依ります。より暗い空が有利となってきます。この状態ではもう1枚あたりの露光時間を伸ばしても意味はなくなり、トータルの露光時間を伸ばすことでSky noiseの影響を小さくしていくしか手はありません。

今回の記事でははまだ1枚撮影のみをこと議論しているのですが、本当は多数枚撮影してスタックした時のことを考えて判断するべきですね。次回以降に議論できればと思います。


撮影時の背景光の輝度推測

実は、鏡筒とカメラのパラメータがわかっている(口径、焦点距離、量子効率、ピクセルサイズ、コンバージョンファクターなど)ので、画像から撮影時の背景光の輝度が推測できるはずです。それぞれの場所でのSQMがわかっていれば、推測値と比較して画像として得られた背景光がある程度正しいのかどうか検証できるはずです。

結果としては、開田高原とだいこもんさんが撮影したチリの画像は、1.4倍くらい開田高原の方が明るかったです。開田高原はPolution Mapで見た場合、SQM21.8程度、チリはだいこもんさんによるとSQM22.1程度のことなので、10^((22.1-21.8)/2.5)=1.32倍なので、比較ではそこそこ正しいです。ただ、開田高原の当日の現地でiPhoneのアプリで簡易測定したSQMだと20.9が最高だったので、開田高原の実際はもっと(2.5倍くらい)明るかった可能性もあります。

でもNiwaさんが撮影したチリの画像からの推測値の輝度はだいこもんさんが撮影したものより1.8倍くらい明るく出てしまい、どうしても合いません。新月期ではないのではと思いましたが、撮影日から調べてみると新月期です。方向など何か別の明るい理由があったのか、まだ計算がどこかおかしいのかよくかっていません。Niwaさんのだけカメラが違うので、何か取り込めていないパラメータがある可能性もあります。

また、富山の自宅での撮影では開田高原より10倍以上明るく、Polution Mapで見たSQM20.6とかけ離れています。一つの可能性は、北の空なので街明かりが効いていたというのはあり得るかもしれません。と考えると、チリも方向によって明るさが結構違うのか?昔方個別の光害マップ「ふくろう」というのがあったのですが、残念ながらもう稼働していないようです。

いずれにせよ、画像ファイルからの背景光の輝度の測定はまだあまり正確ではないようなので、具体的な値は割愛します。だいこもんさんにも言われましたが、輝度は既知の恒星の明るさから求めるべきなのかもしれません。でも今回の範囲は越えるので、輝度の推測は諦めることにします。 


まとめ

これまでのノイズの検証が正しいかどうか、簡単にですが検証してみました。条件を変えてもそこそこ正確に見積もれているのかと思います。

といっても、メーカーが示しているグラフからの計算値との比較なので、ある意味そのグラフが実際の測定と正しいかどうかの検証とも言えます。少なくともメーカーが示しているグラフは、今回の測定で自己矛盾のような現象は見られず、実際にユーザーが手にしているカメラでの実測とかなり近い値となっていると思われます。

これ以降の記事では「グラフから推測したノイズはそこそこ正しい」と考えて進めていけばいいと言うことが言えるのかと思います。








 

この記事は「小海「星と自然のフェスタ2023」参加記: 2日目前半」からの続きとなります。




講演終了後

電視観望の講演が終わって部屋に戻り、妻に「48人も入ったよ」と報告したら「見てた!すごい!」と言ってくれました。全員が席に着くまで案内を手伝ってくれてたので、ある程度の人数は既に知ってくれていたようです。妻は元々あまりたくさんの人がきてくれるとは思ってなかったみたいで、ちょっと見直してくれたみたいです。「講演も聞いてたの?」と聞くと、案内だけしてすぐに部屋に戻ったとのこと。あとはゴロゴロしてたみたいです。

とにかく今回メインの講演が無事に終わったので、私は部屋でしばし放心状態でした。本番まではかなり気を張っていたのであまり感じなかったのですが、有料講演だったということもあり、実際にはかなりプレッシャーを感じていたみたいです。終わってから、改めて思いました。

でもあまりのんびりもしれられません。次はサイトロンブースでのデモです。18時には準備を始めたいので、程なくして講演で使った機材を一部再び持って、車で下の第一会場に向かいます。


第1会場で電視観望デモ

下の第1会場に着くと、すでにかなり暗くなっていました。必要な機材を車から持ち出して、打ち合わせで決めてあった場所に向かいます。途中、暗がりの中からサイトロンスタッフさんが私の姿に気づいてくれて、声をかけてくれました。結局少し手前に場所を移したそうです。VixenさんがPENTAXの150mmでしょうか、大型屈折を出していた場所の手前あたりに陣取ることになりました。

予報では心配だった天気も、空を見る限りかなりいいです。少しだけ雲も見えますが、昨晩よりは遥かにましでしょう。この日は土曜でメインの日なので、お客さんもたくさんくるはずで、大型の32インチのモニターと、私の方は少し小ぶりの24インチモニターを出します。32インチの方はメインのハイエンド電視観望でAskarの151PHQ。なんと150mmクラスのフォトグラフィークラスのアポです。私の方は小さいモニターにつなぎ、気軽に天の川電視観望です。手軽さと広角という、ハイエンドとは逆方向の電視観望の楽しさを伝えれればとの思いです。

天の川電視観望は準備も気軽で、三脚と自由雲台、あとはCOMSカメラに明るめ広角のカメラレンズだけです。赤道儀も経緯台さえも必要なく、当然自動導入や自動追尾さえもなくて、全部マニュアル導入で追尾なしの放ったらかしです。今回カメラはフォーサーズサイズのASI294MC、レンズは35mm F1.4の1970年台のNIKKORレンズです。F1.4だと明るい星の周りに大きくハロが出ることがわかっているので、F2.0に絞って使います。この日はほぼ満月だったので、光害防止フィルターとしてサイトロンのDBP(Dual Band Pass)フィルターを入れています。

途中、講演を聞いてくれた方も含めて、このシンプルさに興味を覚えてくれる人が多かったです。古くからカメラファンの方には、手持ちのレンズで気軽に試せそうなとことも興味を引いたようです。ほぼ満月の日に6.4秒露光一枚撮りでこれくらい見ることができます。フィルターのせいもありますが、SharpCapのリアルタイムフラット補正がかなり効いています。この機能、以前はベータ版の身についていましたが、現在は4.1の最新版の正式機能として採用されています。
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天の川電視観望を見せている間に、サイトロンスタッフの方が151PHQで導入まで準備してくれています。この時点でまだ開始予定時刻の19時前だったのですが、少し雲が多くなってきたので、本番中に曇った時のためにM27をしばらくライブスタックさせておいて、予備画像として残しておくことにしました。でもこの時点ですごくて、途中の高々十数分のライブスタック画像で画像ですでに亜鈴状星雲本体の周りにある、蝶の形をした羽の部分がうっすらですが出てきてしまっています。
Stack_63frames_1890s_WithDisplayStretch_cut

さて、19時くらいになりお客さんもかなり集まっているので、改めて今回のコンセプトを話します。
  1. まず特徴は、ハイエンド機材を使うことで電視観望がどこまで行けるのか、その一端を見て頂きたいこと。
  2. その後の簡易画像処理で、その場で見るということに主眼を置いて、どこまで綺麗になるのか示してみようというものです。
具体的には、気軽にトータル15分程度のライブスタックで、見たままの画像を、フォーマットも気軽に8ビットのPNGで保存し、Photoshopでこれも気軽にほぼcamera RAWフィルターだけで5分程度で画像処理をしたら、どこまで出るのかのデモンストレーションということです。

最初はらせん星雲にしました。上下に雲がありますが、星雲本体あたりはちょうど雲が開けていて、10分程度なら露光できそうです。ここで151PHQならではの問題が。なぜかライブスタックがうまくいきません。どうやら、微恒星が点像で鋭すぎてノイズと見分けがつかなくて、星認識がうまくいっていないようです。これはライブスタックのノイズリダクションをオフにすることで、無事にスタックし続けることができました。私自身もこんな経験は初めてで、ハイエンド屈折の能力の一端を見た気がします。このやりとりを見ていたお客さんの中にはかなり驚いていた方もいたようですが、サイトロンの方が「性能もすごいですが、価格もすごいです」と今月発売開始された際の価格を伝えるとそちらも「オオーっ」という反応が。

曇りになるまでの十数分、ライブスタックを重ねた画像をPNG形式で保存して、
Stack_32frames_960s

それをPhotoshopで画像処理します。それでも保存時でストレッチまで済んでいるので、そこそこ出ています。背景を少し黒く締めて、彩度を上げて色を出します。流石に虹彩のような放射状の線は出ませんでしたが、十数分の露光に5分程度の画像処理で仕上げただけでそこそこ見える画像になったのは、やはり151mmの口径の威力もあったのかと思います。
Stack_32frames_960s_01

自宅に帰ってから改めて画像を見ましたが、さすがに5分程度の画像処理だとまだまだ持っている情報を引き出せていない気がしました。始まりの画像は同じ8bitのPNGですが、30分程度時間をかけて、ソフトには制限をかけずにもう少し炙り出してみました。本体周りの淡いところと、本体の構造はもう少し出せたのかとと思います。
Stack_58frames_1740s_WithDisplayStretch_ABE_cc_1_cut

続いて、網状星雲です。網状星雲の「い」の字の形のうち、今回は明るい星が入っている東側のNGC6992-5の方です。内側の淡いところがどこまで出るかも興味があります。ちょうどはくちょう座方向はこの時十分に晴れていたので、焦ることはなくライブスタックで十数分の露光をかけました。まずはライブスタック直後です。
Stack_47frames_1410s

かなり淡いですが、現場で5分程度でPhotoshopで画像処理をしたものです。
Stack_52frames_1560s

これだけでもかなり出てきたのがわかります。改めてもう少し時間をかけて処理したものが以下です。
Stack_79frames_2370s_WithDisplayStretch1_ABE
さらに隠れていた淡い部分が出てきたのかと思います。これもあくまで8bitのPNG画像で簡単に見たままで保存した画像から処理しています。それでもこれくらいは情報が隠れていることがわかります。

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今回特に思ったことは、画像処理に対する需要がかなりあるのではということです。凝った画像処理はキリがないのですが、もっと基礎的な最初のとっかかりというか、今後扱うことになる本流とはどういうものかという紹介とか、例えば今回なら電視観望で得た画像をどう処理するべきかといったような、初心者がせっかく撮った画像をいかに鑑賞するくらいまで仕上げるかといったことです。画像処理も慣れてしまえばいろんな方法があることもわかってくると思うのですが、最初のうちは何から手を出していいのかわかりにくのかと思います。もしかしたら、来年の講演はこういったことを話せればいいのかもしれません。


片付け

21時近くになると、空もだんだん曇ってきました。最後まで見ていてくれたお客さんに今回のデモのまとめを話し、解散となりました。私も片付けを始め、21時半頃には第1会場を後にします。

部屋に戻る前に上の方も見ていこうと、アストロカーのところに寄ってみると、ちょうど最後のお客さんが終わるところでした。そのまま主催者のSさんとお会いすることができ、講演に招待していただいたお礼と、来年どうなるのかなどを少し話しました。

その後、第2会場に立ち寄って、やっとRYOさんとお話することができました。今回の講演では私のが電視観望の基礎、RYOさんのが電視観望の応用というような、連動企画のような状況になっていました。RYOさんとは準備段階でも連絡を頂くなど、いろいろお世話になっていました。今回の講演は二人ともかなり盛り上がったと思うもで、RYOさんとはいつかなにか合同で企画してみたいと思います。あいにく期待のRYOさん自慢のシステムGOZENSAMAは雲が出てきて稼働するところは見えなかったですが、RASA8を使ってリアルタイム電視観望の流れを汲むということで、原点復帰で非常に興味深いです。

この時点でかなり寒くなってきていて、22時15分くらいだったでしょうか、部屋に戻りちょうどウダウダしていた妻も誘って、そのまま温泉へ。どうも聞いてみたら、妻も大1会場まで見にきてくれていたみたいです。一角だけ人だかりができていたと言っていました。

温泉が冷えた体を温めてくれました。温泉を出た後の恒例のアイスを食べながら、たまたま同じ時間になったサイトロンスタッフさんと、画像処理の反応の大きさとかについて話していました。

部屋に戻って、初日朝にかった菓子パンをひとつだけ食べて(結局この日の夕食はこれだけでした)、疲れ果てて寝てしまいました。でもかなり満足した疲れでした。


3日目

朝ちょっとゆっくりめに起きて、8時頃から朝食に。休日ということもあり、子供づれの家族もたくさんいて、かなり混んでいて2階の空いている席に案内されました。昨晩はほとんど何も食べてなかったので、朝はやっとお腹が空いてそこそこ食べることができました。でも調子に乗ってまた食べ過ぎてしまい、この日も昼食抜きとなってしまいました。

朝食後は荷物をまとめてチェックアウトです。その後に、第1会場に少しだけ寄ってみると、エーデルワイス内の片付けはすでに終わっていて、キャンプ会場も撤収をしている方が多かったです。会場に残っていた何人かの方と挨拶をして、星フェス会場を後にします。

帰り道は、来た時の佐久経由ではなく、松本経由にしました。来るときに通れなかった、メルヘン街道を行ってみます。昨年より開催時期が一月近く早くなり、雪や道路が凍る心配もないので、一度走ってみたかったのです。でも、昨年までに実際通ってきた人から聞いていたのは「かなりの悪路で、あまり使いたくない」という声です。砂利道か何かなのかと想像していたのですが、実際通ってみたら全然そんなことはなく、多少クネクネしているものの、全然普通に通れる道です。アスファルトも少し凸凹していたところもありますが、富山の地元の山の狭い道とかと比べたら全然まともでした。しかもちょうど紅葉シーズンです。下の方はまだ少し早く、最高高度近くはもう葉っぱが散っているような状況だったので、高さに応じて紅葉度合いが楽しめ、とてもきれいでした。道には宣伝の看板なども皆無で、頂上あたりは尾根沿いにあたるのか、クネクネ道も少なく、昔海外にいた頃に走った道を思い出しました。

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メルヘン街道も頂上を越えどんどん進んでいくと、高度もだんだん下がり紅葉をピークから早い状態へと逆戻りしていきます。別荘がが出てきて、レストランとかの店も出てきて、普通の民家も出てきて、最後諏訪の市街地に入り車の渋滞が始まると、とうとうリゾート気分も終わりです。

高速は諏訪ICから松本ICまでで、大した距離ではありません。行きとの高速代の差額は5000円位、距離が100km近く短くなるので、ガソリン代の差額が1500円くらいでやはり無視できない額になります。高速は少しの間なので、諏訪SAに入り、少しお土産を買い、松本で高速をでてすぐに給油。そこから下道なのと、眠くなってしまったので妻に運転を代わってもらい、無事に帰宅しました。


妻の感想

恒例の妻の意見です。今年はどうでしたでしょうか?
  • いつもより1ヶ月近く早いので、紅葉が楽しめてよかった。
  • お風呂は源泉でいつもながらよかった。23時の終了間際だと星を見ていた人がたくさん一度に来るので、混んで大変かもしれない。
  • 去年ほど(自分が)ドタバタしていなかった。初日の夜に一緒に(私Samと)食事ができたからかもしれない。前回は何か行事(古スコ懇親会)があって一人で夕食だったからかも。
  • 何もしない贅沢が素晴らしく快適で、だんだん海外リゾートっぽいイメージになってきた。
  • ホテルの対応もかなりよかった。お客さんが大人数でもドタバタしていなかった。(これは私も思いました。昨年も一昨年に比べかなり改善されたと思いましたが、今年は不満が全然なかったです。)
  • ウェルカムスイーツが想像より本格的だった。
  • やはりここはガトーキングダム(日本語で「お菓子の王国」?)の名に恥じない夢にまで見た「お菓子の城」だった。でも食べすぎた。さすがシャトレーゼ。(妻は普段からシャトレーゼの大ファンです。)
  • お腹をこなすのに、美術館まで散歩で往復した。適度な距離で楽しかった。
  • 佐久ICからの、高い所を走る天空の道のような高速道路(実際には無料の道路)も良かったが、帰りの諏訪へ向かうメルヘン街道もすごくよかった。
とのことです。どうやら今年はほとんど不満もなく、いつもの辛口批評も口を潜めています。見ている限りかなり満足していたようでした。星に関してほとんど感想がなかったので、星以外で十分楽しんでいたということでしょうか。あまり相手ができなかったので、私としては勝手に楽しんでくれていたようでありがたいのですが...。


まとめとお礼

最後にですが、今回の星フェス、私としてはとても充実していて、十分に楽しむことができました。講演とデモがあり、準備なども含めると時間が少し足りないくらいで、もっと現場をゆっくり見て、他の方ともたくさんお話ししたかったというのも少しありますが、多分体力的にもほぼ限界かと思います。

会場では至る所でボランティアさんたちが、会場の設営準備から星フェスの役割分担までたくさんのことをこなしてくれていました。本当にありがとうございました。主催のテレスコ工房のSさんには、講演のお誘いから、星フェス開催までの相談など、大変お世話になりました。今回の星フェスは、これまでとは違ったエーデルワイスという新たな会場で、特に寒い夜など相当快適でした。まだまだこの星フェスは進化し続けるのではと思わせてくれました。今年も開催までにおそらく相当な困難がたくさんあったかと思います。それでも3日間、楽しい星フェスとなったのは、Sさんはじめ、スタッフの方々、ボランティアの方々のお力のおかげかと思います。心から感謝しています。小海の星フェスは、今では完全に日本の大型星まつりの一翼を担っています。できることなら来年以降も続いてほしいと、心から思います。私自身も来年以降も微力ながらも協力できればと思っています。

とにかく楽しかったー!!!


 



この記事は前回の「小海「星と自然のフェスタ2023」参加記: 1日目」の続きになります。




午前中

2日目の朝、少しゆっくり8時頃に起きてすぐに朝食に。同じくビュッフェですが、お腹が全然こなれていなくて、ヨーグルトなどごく僅かにしておきます。もう年齢のことも考えないとダメで、いつまでも若い気分で気兼ねなく食べていたらきっとダメになります。

朝食後は受付に行こうと第2会場の上まで行きますが、望遠鏡を出す受付は下ですればいいとのことで、そのまま第1会場へ。途中第2会場をみますが、まだ朝早いせいか、お客さんもまばらでした。

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第2会場に着くと、すぐにマリーチさんとお嬢様に会いました。8月の大鹿村でもお会いしていて、その時はたくさん話せたのですが、今回はホントに挨拶だけでした。しかもお土産までもらってしまい、ありがとうございました。このお菓子、妻が家で食べて大絶賛。ぜひお礼を言っておいてほしいとのことでした。でも本当に、気を遣わないでくださいね。マリーチさんのお人柄はよく知っていますし、無理とかは決してしないでいただければと。

そのまま会場に進むのですが、2日目は全部のブースが開いています。朝から結構な人がいます。
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途中、望遠鏡組み立て教室や
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鳥の絵を描く講座も開かれていて、かなり盛況な印象を受けました。
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一通りぐるっと回りますが、結局一番印象に残っているのがSkyWatcherの太陽Hα望遠鏡で実際に太陽が見えたことでしょうか。
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サイトロンのスタッフの方が準備しているのを、
天リフ編集長が興味深げに眺めているところです。

口径は6cmなので、PSTの4cmと比べると1.5倍です。この時点で入門用というより一気に初中級用でしょうか。エタロンは回転で波長を調整できるタイプで、実際に回転させてプロミネンスなど見たのですが、少しの角度でプロミネンスの明るさがかわるので、比較的波長を大きく変えられるようでした。角度を合わせるとプロミネンスがはっきりと浮かび上がります。まだエタロンの精度はわかりませんが、少なくどもパッと見たところでは広い視野に渡ってHαが見えていたと思うので、試作レベルとはいえすでにそこそこの精度は出ているように思われます。

あと、第1会場の少し小上がりになったところのフリマエリアにも行きました。

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星座ビノ製作者の上板2丁目さんと少しお話しさせていただきました。ビノを作るときに必要な、二つのビノの平行度を測る器具が面白かったです。こういった器具を使ってきちんと調整しているところも、上板さん製星座ビノの信頼性が高い理由の一つだと思います。後から聞いたのですが、1日目に出てきたEさんのところも上板さんのところの星座ビノを買ったそうです。今回特価だったようなのですが、ここの星座ビノを買っておけば間違い無く最高峰のものです。あ、自分の持ってるNikonのビノの枠を交換してくれると言ってくれたのをすっかり忘れてました。上板さん、ごめんなさい。またいつかの機会がありましたらお願いいたします。

そうそう、今年もプリンは買いましたよ。2019年以来毎年買っていて、昔の母の手作りプリンを思い出させてくれる味で、シンプルですが変な雑味は一切なく、卵の風味が豊かで、今時こう言った味のプリンを見つけるのは大変です。おいしかったので今年もXで宣伝しておきました。

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昼になってやっとお腹が少しこなれてきましたが、Kaienさんにバームクーヘンを一ついただいて、講演前にお腹を膨らすのは心配だったので、昼ごはんはこれでおしまいです。

12時半頃になって、部屋に戻って講演の最終準備をします。そういえば、車で昨晩機材を運んだのですが21時以降は車の移動が禁止ということで、そのままにしていました。講演で少し機材を見せたいので、車で上まで移動します。講演参加者には特典としてプレゼンファイルを配布する予定なのですが、途中で各ページにブログ記事へのリンクを張れば、詳細説明が後からわかるのではと思い、このときに色々追加しました。

14時半からはスイーツの時間です。この日は昨日会場だった奥のバースペース?ではなく、レストランスペースでのスイーツバフェでした。人が多いからだと思いますが、明らかに子供の姿が多いです。今日から土曜なので、それもそのはずです。うーんこれも昼ごはんかな?でもこの日はゼリーだけにしておきました。甘くない安倍川餅みたいなのが逆に美味しくて、これがホントに昼ごはんがわりになったのは秘密です(笑)


いよいよ講演本番!

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部屋に戻って、最後のスライド確認をして、15時40分くらいに講演会場に向かいます。と言っても部屋から歩いて30秒くらいです。講演で見せるコンパクトな機材を2セットを手で持って、妻に配布資料を持ってもらいます。会場外の廊下のところにはすでにそこそこの人が。参加者の方とも少し話をして、すぐに開場時間の15時50分になります。前の講演が終わって、人が出てきます。すぐに部屋の中に入って、プロジェクターと接続テストをします。スタッフの方が講演参加料を集めてくれて、人を中に入れ始めてくれます。妻には部屋の中に入ってきた方に、資料を配ってもらいます。

接続テストはすぐに終わり、参加者に目を向けると、ドンドン人が増えていて、椅子が足りるか心配になるほどでした。後で聞いたら、48人!もの方が参加してくれたとのこと。今回有料の講演で、しかも昨年よりも参加料が上がっていたので、どこまで人が入ってくれるのか全然読めずにかなり不安でした。色々特典なども考え宣伝したりもしたのですが、講演依頼を受けた時からずっと考えていたことは、やはり電視観望の一連の基礎講座のようなものを欲している人が、一定数いるのではないかということでした。


講演に際し考えたこと

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このことはこれまで何度か電視観望について解説してきて思ったのですが、電視観望が広まりつつある状況で、やはりつまづく人が少なくないようなのです。その時、情報があるにはあるが、散らばっていてなかなか欲しい情報まで辿り着けないという声でした。これまでの過去の講演のプレゼンファイルを見ても、同じ話だと何度か聞いている人には申し訳ないという思いもあり、少しずつ複雑になってきています。でもそんな話を初心者が初めて聞いたらわかりにくいはずで、繰り返しになってもいいので一連の解説をしっかりすることが大事なのではと思ったのです。

講演を引き受けた当初はこんなふうに考えていましたが、星フェスの時期が近づいてきてタイトルと内容を伝える頃になってくると、状況がかなり変わっていました。Seestarです。ZWOが本腰を入れて開発しているSeestarは、価格、性能、操作性など、電視観望初心者に向けて圧倒的に魅力な機器です。初心者が自分でこれまでのような電視観望を組もうとして努力した場合、ある程度の時間と経験を積まなければ、Seestarが遥かに手軽に出してくれる結果には辿り着かないでしょう。価格が初心者にとっても現実的になったSeestarを使うことはある意味真っ当な選択なのかと思いますし、私も推薦します。

ただし、今の段階でSeestar以降のことが議論になっていることは、まだほとんどないようです。Seestarを買った何人かの人はずっと使い続けるかもしれませんし、何人かの方は飽きてしまうかもしれません。何人かの方はそのうちSeestarの性能に不満が出てくることでしょう。一体型というのは機材を変更できないこととほぼ同義で、鏡筒やカメラの性能を上げることは難しいはずです。そのようなことまで考えていくと、やはりこれまでの電視観望を、ある意味応用の広い「カスタム型」と考えると、きっと電視観望の原理や基礎、自分で組むときの手順などが必要とされることは、何ら変わらないと思ったのです。今回の講演は、タイトルと内容は「カスタム型」と言って見た目は少し違ったかもしれませんが、基本的にはこれまでの電視観望の一連の手法を、まとめて理解できるような内容にしました。

その一方、高々1時間の話で全ての内容を伝えることはかなり難しいことも事実で、講演というのはこれから自分で興味を持って調べてくためのきっかけというのが大きな役割かと思っています。このきっかけから詳細情報へ繋ぐために、テキスト的な定番の本などがあればいいのですが、現段階ではそのようなものは存在していなくて、情報はあるにはあるのですが、かなり散らばっています。会場での準備の最中に対処療法ですが、プレゼンファイルの各ページにこの「ほしぞloveログ」への該当記事へリンクを張っておくことを思い付きました。元々、プレゼンファイルをどこかにアップロードして、そのリンクを知らせることで、講演を聞いてくれた人に後から見返してもらおうとは思っていました。ブログ記事へのリンクをプレゼン資料内に埋め込んでおけば、かなり詳細な情報まで伝わるかと考えたのです。ただ、昔の記事で情報が古いこともあることと、リンク先の記事が長いことはご容赦いただけたらと、会場でお話ししました。

会場ではみなさんかなり真剣に聞いてくれていたのかと思います。有料で参加して頂いているので、かなり興味がある方が集まってくれたのかと思います。質問時間が数分しかありませでしたが、それでも時間一杯まで質問は出ましたし、その後につながる、サイトロンでの電視観望デモでも、講演を聞いてくれた方がたくさん来て質問をしてくれていました。講演を聞いて何かわからないこことかありましたら、このブログへのコメントでもいいですし、Twitterで質問していただいても構いません。公開だと質問しにくいことなどは、一旦Twitterの方に書き込んでいただいて、相互フォローした後に、DMで質問内容など書いていただいても構いません。

講演終了後、星ナビ2023年1月号でコリメート撮影を利用した電視観望の記事を書いた方と少しお話をしました。私はコリメート撮影はしたことはありませんが、とても参考になりました。電視観望と一言で言っても現在では範囲はかなり広く、新しい手法も日々開発されているのかと思います。文化としてだんだん習熟していくのかと思います。


近況

今回の記事はここまでにしたいと思います。

実は小海から帰って、月曜の夜くらいから喉の調子がおかしいなと思っていたら、火曜朝からグングン熱が上がり、38度後半から39度台をずっとうろうろ木曜明け方くらいまでずっと辛くて、ただ寝るだけで何もできない期間が続きました。木曜は熱も収まり36度後半と37度台をウロウロしていますが、昨日までと比べるとかなり楽で、やっとブログの続きも書けるようになってきました。近くの病院が混んでいるみたいで初診では発熱外来を受けてもらえなかったのですが、どうも子供の熱がうつったようで、症状がとても似ています。子供はコロナでもインフルエンザでもなかったということとで、調べてみたらアデノウィルスというのの症状があまりにも当てはまります。まだ3連休なので、ゆっくり休むつもりです。



 




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