今回の目的はSWAgTi君を使って、ノータッチガイド撮影でディザーをすることです。
でも結論だけ言うと、現段階の環境でノータッチガイドで、ディーザーだけ追加というのは難しいと言うことがわかりました。どんなことを試したか、実際の撮影に即して書いておこうと思います。
前回の記事で、極軸の精度について話しました。でも実際に撮影を始めてみると、合わせたはずの極軸精度よりも、一方向に大きく流れていってしまうことがわかりました。
原因の目処はついています。機材の撓み(たわみ)によるものです。ここで言う撓みとは、一般的なガイド撮影で問題となる「鏡筒とガイド鏡の相対的な撓み」のことではなく、「鏡筒、ガイド鏡、AZ-GTi、SWAT、三脚など、ありとあらゆるところで起きる撓み」のことで、影響は遥かに大きいです。
ガイド撮影の場合は、ガイド鏡で見た星の初期位置からのずれを赤道儀に返すことで、撮影鏡筒の向きがずれないよう補正します。それでも、ガイド鏡の固定が十分でなかったりすると、その撓みによってガイド鏡と撮影鏡筒の相対的なずれが発生して、撮影鏡筒での星像の流れに繋がります。でもこのズレは高々相対ズレに起因することなので、実用上はそこまで大きくはないです。それでも数時間とかに及ぶ長時間撮影では無視できない量になり、縞ノイズになることがあり、ディーザーを使い撮影途中で少し方向を変え、縞ノイズになる原因のホットピクセルやクールピクセルを散らしてやることにより、スタック画像ではほぼ影響がなくなります。
今回のノータッチガイドの場合の撓みは、撮影中に起きたどの場所で起きた機材の撓みもそのまま直結して星の流れになっていくので、遥かに影響が大きくなります。その大きさをざっくりですが見積もってみました。使ったのはSharpCapの曲軸調整機能です。
まず、使う機材を設置して、ガイド鏡を北に向けて、通常のように極軸調整をします。今回はFS-60CBの焦点距離が370mmと大して長くないことと、カメラがUranus-Cでそこそこセンサー面積が広いので、ガイド鏡を使わずに撮影鏡筒で直接極軸調整をしました。前回の記事でも書きましたが、微動雲台とか使わなくても、三脚の足の伸び縮みと水平方向の移動で、1分角程度の精度で合わせることは十分に可能です。調整の際に、赤道儀の赤経方向を90度程度傾けることで、カメラで見た製造の位置を比べ極軸方向とのずれを計算します。今回も下のように1分角以下程度、42秒角の精度で調整することができました。
極軸調整が終わった直後は、最初の位置に比べて鏡筒が90度赤経方向に傾いた位置にあります。今回、この位置から再度極軸調整をスタートします。再びずれの計算のために90度赤経方向に回転し、元の位置に戻します。その結果が以下になります。
本来、たわみなどなければ最初に調整した時と同じくらいの値の1分角以下程度が出なければなりません。今回は3分角程度のずれが出てしまっています。何度か試しましたが、毎回有意にこれくらいずれます。反対側に90度回転させて測定した場合は5分角位のズレになることもありました。これは90度赤経方向に回転した時の撓みの量相当のずれをそのまま表していることになるはずです。
というこうこは、撮影して赤経が回転していくにつれ、6時間で3分角から5分角はずれてしまうことになります。STAgTi君での撮影時間を仮に2時間としても、1-2分角位はずれてしまということです。前回計算したように、カメラの1ピクセルが1.6秒角に相当するので、40ピクセルから80ピクセルくらい、もし左右両方向の回転のずれを合わせると120ピクセルくらいずれる可能性があり、それくらいの長さの縞ノイズが出ても全くおかしくないことになります。
例えば2時間程度何もいじらずに撮影した実際の画像はライブスタック画像は以下のようになり、盛大な縞ノイズが出ていることがわかります。縦方向に典型的に120ピクセルくらいの縞ノイズになっていて、オーダー的には撓み起因のずれで縞ノイズになっていると考えておかしくなさそうです。
この撓みがどこから来ているのか?三脚なのか、SWATの固定なのか、SWATとAZ-GTiの固定なのか、鏡筒の載せ方が悪いのか、はたまた全体で悪さをしているのか?今後調査して、弱いところが見つかったら補強していく方向になるかと思います。
ここで一つ、SWAgTiでの撮影し際してのテクニックです。ユニテックさんが前回の「ほしぞloveログ」の記事を紹介してくれた際に紹介してくれました。
SWATは電源ケーブルを繋ぐことですぐに動作体制に入りますが、その際赤経方向に一旦大きくズレ、やがて戻ってくるキックバックのようなことが起きます。元に戻るまで数十秒待つことになります。これを防ぐためには、あらかじめSWATの電源を入れておいて、その際に追尾モードを「DEC」に合わせておけば追尾をしないでそのまま止まってくれます。AZ-GTiの追尾をオフにする際に、この「DEC」を「STAR」にすれば、キックなしでスムーズに移行できるとのことです。
実際私も試してみましたが、撮影の際の画面を見る限りジャンプの様なものは全く見えずみ、スムーズに切り替えることが出来ました。
今回の記事のメインの目的です。撮影する際にディザーを試してみます。
すでにSWATでの追尾にしてあり、AZ-GTiはSynScan ProとASCOM経由でSharpCapと接続されていますが追尾は止めてある状態から始めます。
1. SharpCap+AZ-GTi
SharpCapの設定でガイドのタブを選び、3つあるガイド検知方法のうちの一番下のASCOMを選びます。ちなみに1番上がphd2で、次がMGENです。3つ目を選ぶことで、ガイドソフトがなくてもディザーをすることができるようになります。
SharpCap上でガイド(ガイドソフトが有り無しにかかわらず)をする場合はライブスタックモードにする必要があります。ここらへんがSharpCapがイマイチ撮影に対してはちょっと?なところなのですが、まあこういうコンセプトということでとりあえずはよしとしましょう。
さて、撮影開始という意味でライブスタックを始めますが、ここで問題発生です。なぜかAZ-GTiの自動恒星追尾が勝手にオンになるのです。なので、再度マニュアルでAZ-GTiの自動追尾をオフにして、ずれた位置を少し合わせ直して、ライブスタックをクリアして一から撮影を始めます。ディザーは3枚おきにする様に設定しました。SharpCapのライブスタック画面のガイドタブのステータスを見ていると、ディーザーをしようとしているように見えます。でも10枚ほど撮影してから画像をチェックしても、全然ディザーされてる様子が見えません。
いろいろ試してわかったことは、ライブスタックを始めるときに「ガイドをするように選択している」と、勝手にAZ-GTiの「自動追尾がオン」になること、それをマニュアルであえてオフにしたりして「自動追尾がオン」にならない限りディザー信号はAZ-GTi側に行かないことがわかりました。
言い換えると、SharpCapからSynScan Proに信号を送る限りでは、AZ-GTiの自動追尾をSWATに切り替えた状態で、ノータッチガイドでディザーをする方法はないということです。
2. PHD2を使い、カメラ赤道儀共にシミュレーター
気を取り直して、次の方法を考えます。返す先がSynScan Proでだめなら、他の場所にと考えPHD2を立ち上げました。この場合、SharpCapの設定でガイドのタブの3つあるガイド検知方法のうち、一番上のPHD2を選びます。
ガイド鏡は使っていないので、PHD2は単なる擬似ガイダーとして使います。とりあえずはPHD2の設定でカメラも赤道儀もシミュレーターを選びます。SharpCapのディザー設定で、ディザーは3枚おきにするようにしました。3枚目になるとSharpCapはディザー信号をPHD2に送り、PHD2も反応していますが、AZ-GTiには信号が行かないようで、ディザー時にきちんと画角がずれている様子が全く確認できません。返す赤道儀がシミュレーターなので理解できる結果です。
2. PHD2を使い、カメラはシミュレーターだが、赤道儀はSynScan Proに設定
次に、カメラはシミュレーターで、赤道儀はSynScan Proを選び、実際にAZ-GTi信号を返すようにしてみます。確認ですが、ディザー信号だけ返したくて、SWATの精度を生かすためにガイド信号は返したくないです。
まず、PHD2の設定でガイド信号を返さないオプションを選んでみました。Advanced Setupの「guiding」タブの「Enable mount guide output」のチェックマークを外します。ですが、この状態だとSynScan Pro側に信号が全く行かないようで、ディザー信号も返すことができず、ディザー動作はしないようです。
次に、「Enable mount guide output」にチェックを入れ直して、ガイド信号を返すようにします。この場合も、ディザー信号のみ返してガイド信号は返したくないので、Agrを最初の0、MinMo(ズレがこの値を超えたら信号を赤道儀に返す)を最大の20、Hysを最小の10などとします。
これは短時間では一見うまくいきます。3枚撮影するごとにディザー信号のみSynScan Proに返すようにしたので、3枚おきにディザー信号がAZ-Gtiまで行き、実際に指定したピクセル(上の設定だと50ピクセル)分だけ動きます。目で見てその動きがリアルタイムでわかるので、やっとうまくいったと喜んでいました。問題はそのまま長時間撮影が続いた場合です。疑似カメラのターゲット星からのズレがまだ小さい場合はいいのですが、そのズレが何度かディーザーを繰り返しある程度大きくなると、最大時間まで待って(上のSharpCapの設定だと20秒間)再び3分露光が始まります。さらに、あまりにターゲット星とのズレが大きくなると、PHD2の方でガイドが始まってしまい、これは実際にSynScan Proに信号を返していくので、その後どんどんズレが大きくなり、カメラは疑似カメラのままでフィードバックされたことを検知しないので収束することなく、最後破綻します。
あと、この過程で気づいた最大の問題は、AZ-GTiの精度がSWATと比べると悪いために、ディザー信号をAZ-GTiに返すと大きく揺れ過ぎてしまうことです。そのため、十分な緩和時間を取る必要があるのですが、上の20秒とかでは短すぎるようで、分単位の緩和時間が必要そうな様子です。
今回はここで詰みとなりました。PHD2のパラメータはもう少し探れば何か見つかるかもしれませんが、大原則でディザーだけ返すというのはダメそうでした。その後、2軸ガイドとかも試したのですが、これはまた機会があったら記事にします。
ここまで試した上で、必要なことを考えてみます。とにかく大事なことは、ガイド信号を返さずに、ディザー信号だけ返すようなソフト側の対応です。今のところ一番見込みがあるのが、ASCOM経由でSynScan Proに信号を送る方法です。SynScan Proの恒星時追尾だけオフにして、SharpCapからのディザー信号をSynScan Proが受け取って実際にAZ-GTiを動かすことですが、上述のように恒星追尾をオフにするとディザー信号は伝わらないようで、今のところこれはできません。それでもSharpCapの矢印ボタンには反応するので、この矢印ボタン相当のところに返すことができれば、今回の目的は達成できそうです。
PHD2は触ってみた限り、そもそも外部から来た信号とPHD2から出す信号の区別がつかないようで、ディザー信号だけAZ-GTiに出すというのは根本的に難しいようです。
それでも原理的にソフト側で解決できる問題ではあるので、今のところはいつか解決するのを期待することとします。
ディザーは諦めたのですが、3日ほどに渡ってM27を色々試しながら撮り溜めた画像があり、それぞれバラバラの位置で撮影しているので、ある意味ナチュラルディザー状態になっています。せっかくなので仕上げてみます。
ある程度長時間連続で位置をずらさずに撮影した分の縞ノイズは多少なりとも出てしまいますが、画像処理でなんとかできるレベルです。今回はM27の周りの淡い羽部分が少し見え始めるくらいまで出すことはできました。
今回の撮影は富山の住宅街での自宅撮影なので光害はそこそこあります。これ以上出したい場合は、もっと鋭いワンショットナローバンドフィルターを使う、ナローバンドとモノクロカメラで撮影する、口径を大きくする、露光時間を伸ばすなどの工夫が必要になってくると思います。また、ダークノイズに関しては非冷却カメラはどうしても不利で、特に夏場の暑い夜はかなりのノイズが出ていることが1枚ショットの画像を見るとよくわかります。冷却のためのケーブルは増えてしまいお気軽撮影からは少し遠くなりますが、夏場で淡い天体を撮影する場合は冷却カメラの恩恵は無視できないでしょう。
今のところオートでディザーをする方法は見つかっていないので、縞ノイズがどうしても気になる場合は、少し面倒ですが、適時LiveStackの露光を一時停止して、マニュアルでランダムに位置を少しずらしてやれば、気にならないレベルに持ってくることができると思います。
SWATとAZ-GTiの組み合わせのSWAgTiというお気楽撮影に、少しだけマニュアルディザーをするという工夫を加えるだけで、ここくらいまでは出すことができることがわかってきました。
結論としては、今のところノータッチガイドで撮影すると、どうしても縞ノイズが出てしまいます。ディザーはソフト側の対応が必要そうです。あと、AZ-GTiとの精度差があるので、十分な緩和時間をとることです。
マニュアルディザーである程度回避できるのですが、何かもっと簡単な方法はないのか?どうなるSWAgTi...。
ユニテックさんとやりとりしていて、また面白い情報を聞くことができました。もしかしたら興味があるかともいるかと思いますので、共有します。SWATの寒冷地での使用についてで、個別で対応してくれるかもと言うことです。以下、ユニテックさんのメールから抜粋です。
ただしボールベアリングは汎用のシールド型なので、-20℃くらいが限界と思います。寒冷地仕様の場合は、開放型のボールベアリングにして、上の-50℃対応のグリスにします。金属の収縮率の違いもあるので、極低温動作を保証してトラブルになると大変なので…。
寒冷地仕様は各部クリアランスをわずかに大きくつける(熱収縮を考慮して)ので、遊びが大きくなるデメリットもあり、個別に希望した方のみの対応です。こういった小回りが効くのは手作りの弱小メーカーだからですね。(笑)」
でも結論だけ言うと、現段階の環境でノータッチガイドで、ディーザーだけ追加というのは難しいと言うことがわかりました。どんなことを試したか、実際の撮影に即して書いておこうと思います。
たわみの影響
前回の記事で、極軸の精度について話しました。でも実際に撮影を始めてみると、合わせたはずの極軸精度よりも、一方向に大きく流れていってしまうことがわかりました。
原因の目処はついています。機材の撓み(たわみ)によるものです。ここで言う撓みとは、一般的なガイド撮影で問題となる「鏡筒とガイド鏡の相対的な撓み」のことではなく、「鏡筒、ガイド鏡、AZ-GTi、SWAT、三脚など、ありとあらゆるところで起きる撓み」のことで、影響は遥かに大きいです。
ガイド撮影の場合は、ガイド鏡で見た星の初期位置からのずれを赤道儀に返すことで、撮影鏡筒の向きがずれないよう補正します。それでも、ガイド鏡の固定が十分でなかったりすると、その撓みによってガイド鏡と撮影鏡筒の相対的なずれが発生して、撮影鏡筒での星像の流れに繋がります。でもこのズレは高々相対ズレに起因することなので、実用上はそこまで大きくはないです。それでも数時間とかに及ぶ長時間撮影では無視できない量になり、縞ノイズになることがあり、ディーザーを使い撮影途中で少し方向を変え、縞ノイズになる原因のホットピクセルやクールピクセルを散らしてやることにより、スタック画像ではほぼ影響がなくなります。
今回のノータッチガイドの場合の撓みは、撮影中に起きたどの場所で起きた機材の撓みもそのまま直結して星の流れになっていくので、遥かに影響が大きくなります。その大きさをざっくりですが見積もってみました。使ったのはSharpCapの曲軸調整機能です。
まず、使う機材を設置して、ガイド鏡を北に向けて、通常のように極軸調整をします。今回はFS-60CBの焦点距離が370mmと大して長くないことと、カメラがUranus-Cでそこそこセンサー面積が広いので、ガイド鏡を使わずに撮影鏡筒で直接極軸調整をしました。前回の記事でも書きましたが、微動雲台とか使わなくても、三脚の足の伸び縮みと水平方向の移動で、1分角程度の精度で合わせることは十分に可能です。調整の際に、赤道儀の赤経方向を90度程度傾けることで、カメラで見た製造の位置を比べ極軸方向とのずれを計算します。今回も下のように1分角以下程度、42秒角の精度で調整することができました。
極軸調整が終わった直後は、最初の位置に比べて鏡筒が90度赤経方向に傾いた位置にあります。今回、この位置から再度極軸調整をスタートします。再びずれの計算のために90度赤経方向に回転し、元の位置に戻します。その結果が以下になります。
本来、たわみなどなければ最初に調整した時と同じくらいの値の1分角以下程度が出なければなりません。今回は3分角程度のずれが出てしまっています。何度か試しましたが、毎回有意にこれくらいずれます。反対側に90度回転させて測定した場合は5分角位のズレになることもありました。これは90度赤経方向に回転した時の撓みの量相当のずれをそのまま表していることになるはずです。
というこうこは、撮影して赤経が回転していくにつれ、6時間で3分角から5分角はずれてしまうことになります。STAgTi君での撮影時間を仮に2時間としても、1-2分角位はずれてしまということです。前回計算したように、カメラの1ピクセルが1.6秒角に相当するので、40ピクセルから80ピクセルくらい、もし左右両方向の回転のずれを合わせると120ピクセルくらいずれる可能性があり、それくらいの長さの縞ノイズが出ても全くおかしくないことになります。
例えば2時間程度何もいじらずに撮影した実際の画像はライブスタック画像は以下のようになり、盛大な縞ノイズが出ていることがわかります。縦方向に典型的に120ピクセルくらいの縞ノイズになっていて、オーダー的には撓み起因のずれで縞ノイズになっていると考えておかしくなさそうです。
この撓みがどこから来ているのか?三脚なのか、SWATの固定なのか、SWATとAZ-GTiの固定なのか、鏡筒の載せ方が悪いのか、はたまた全体で悪さをしているのか?今後調査して、弱いところが見つかったら補強していく方向になるかと思います。
撮影時のテクニック「DECモード」
ここで一つ、SWAgTiでの撮影し際してのテクニックです。ユニテックさんが前回の「ほしぞloveログ」の記事を紹介してくれた際に紹介してくれました。
SWATは電源ケーブルを繋ぐことですぐに動作体制に入りますが、その際赤経方向に一旦大きくズレ、やがて戻ってくるキックバックのようなことが起きます。元に戻るまで数十秒待つことになります。これを防ぐためには、あらかじめSWATの電源を入れておいて、その際に追尾モードを「DEC」に合わせておけば追尾をしないでそのまま止まってくれます。AZ-GTiの追尾をオフにする際に、この「DEC」を「STAR」にすれば、キックなしでスムーズに移行できるとのことです。
実際私も試してみましたが、撮影の際の画面を見る限りジャンプの様なものは全く見えずみ、スムーズに切り替えることが出来ました。
ディザーで縞ノイズを回避したい
今回の記事のメインの目的です。撮影する際にディザーを試してみます。
すでにSWATでの追尾にしてあり、AZ-GTiはSynScan ProとASCOM経由でSharpCapと接続されていますが追尾は止めてある状態から始めます。
1. SharpCap+AZ-GTi
SharpCapの設定でガイドのタブを選び、3つあるガイド検知方法のうちの一番下のASCOMを選びます。ちなみに1番上がphd2で、次がMGENです。3つ目を選ぶことで、ガイドソフトがなくてもディザーをすることができるようになります。
SharpCap上でガイド(ガイドソフトが有り無しにかかわらず)をする場合はライブスタックモードにする必要があります。ここらへんがSharpCapがイマイチ撮影に対してはちょっと?なところなのですが、まあこういうコンセプトということでとりあえずはよしとしましょう。
さて、撮影開始という意味でライブスタックを始めますが、ここで問題発生です。なぜかAZ-GTiの自動恒星追尾が勝手にオンになるのです。なので、再度マニュアルでAZ-GTiの自動追尾をオフにして、ずれた位置を少し合わせ直して、ライブスタックをクリアして一から撮影を始めます。ディザーは3枚おきにする様に設定しました。SharpCapのライブスタック画面のガイドタブのステータスを見ていると、ディーザーをしようとしているように見えます。でも10枚ほど撮影してから画像をチェックしても、全然ディザーされてる様子が見えません。
いろいろ試してわかったことは、ライブスタックを始めるときに「ガイドをするように選択している」と、勝手にAZ-GTiの「自動追尾がオン」になること、それをマニュアルであえてオフにしたりして「自動追尾がオン」にならない限りディザー信号はAZ-GTi側に行かないことがわかりました。
言い換えると、SharpCapからSynScan Proに信号を送る限りでは、AZ-GTiの自動追尾をSWATに切り替えた状態で、ノータッチガイドでディザーをする方法はないということです。
2. PHD2を使い、カメラ赤道儀共にシミュレーター
気を取り直して、次の方法を考えます。返す先がSynScan Proでだめなら、他の場所にと考えPHD2を立ち上げました。この場合、SharpCapの設定でガイドのタブの3つあるガイド検知方法のうち、一番上のPHD2を選びます。
ガイド鏡は使っていないので、PHD2は単なる擬似ガイダーとして使います。とりあえずはPHD2の設定でカメラも赤道儀もシミュレーターを選びます。SharpCapのディザー設定で、ディザーは3枚おきにするようにしました。3枚目になるとSharpCapはディザー信号をPHD2に送り、PHD2も反応していますが、AZ-GTiには信号が行かないようで、ディザー時にきちんと画角がずれている様子が全く確認できません。返す赤道儀がシミュレーターなので理解できる結果です。
2. PHD2を使い、カメラはシミュレーターだが、赤道儀はSynScan Proに設定
次に、カメラはシミュレーターで、赤道儀はSynScan Proを選び、実際にAZ-GTi信号を返すようにしてみます。確認ですが、ディザー信号だけ返したくて、SWATの精度を生かすためにガイド信号は返したくないです。
まず、PHD2の設定でガイド信号を返さないオプションを選んでみました。Advanced Setupの「guiding」タブの「Enable mount guide output」のチェックマークを外します。ですが、この状態だとSynScan Pro側に信号が全く行かないようで、ディザー信号も返すことができず、ディザー動作はしないようです。
次に、「Enable mount guide output」にチェックを入れ直して、ガイド信号を返すようにします。この場合も、ディザー信号のみ返してガイド信号は返したくないので、Agrを最初の0、MinMo(ズレがこの値を超えたら信号を赤道儀に返す)を最大の20、Hysを最小の10などとします。
ダミーカメラでSynScan Proに返しているため、
何度かディザーをしたあとはターゲット星が全然ずれてしまいます。
何度かディザーをしたあとはターゲット星が全然ずれてしまいます。
これは短時間では一見うまくいきます。3枚撮影するごとにディザー信号のみSynScan Proに返すようにしたので、3枚おきにディザー信号がAZ-Gtiまで行き、実際に指定したピクセル(上の設定だと50ピクセル)分だけ動きます。目で見てその動きがリアルタイムでわかるので、やっとうまくいったと喜んでいました。問題はそのまま長時間撮影が続いた場合です。疑似カメラのターゲット星からのズレがまだ小さい場合はいいのですが、そのズレが何度かディーザーを繰り返しある程度大きくなると、最大時間まで待って(上のSharpCapの設定だと20秒間)再び3分露光が始まります。さらに、あまりにターゲット星とのズレが大きくなると、PHD2の方でガイドが始まってしまい、これは実際にSynScan Proに信号を返していくので、その後どんどんズレが大きくなり、カメラは疑似カメラのままでフィードバックされたことを検知しないので収束することなく、最後破綻します。
あと、この過程で気づいた最大の問題は、AZ-GTiの精度がSWATと比べると悪いために、ディザー信号をAZ-GTiに返すと大きく揺れ過ぎてしまうことです。そのため、十分な緩和時間を取る必要があるのですが、上の20秒とかでは短すぎるようで、分単位の緩和時間が必要そうな様子です。
今後どうすべきか
今回はここで詰みとなりました。PHD2のパラメータはもう少し探れば何か見つかるかもしれませんが、大原則でディザーだけ返すというのはダメそうでした。その後、2軸ガイドとかも試したのですが、これはまた機会があったら記事にします。
ここまで試した上で、必要なことを考えてみます。とにかく大事なことは、ガイド信号を返さずに、ディザー信号だけ返すようなソフト側の対応です。今のところ一番見込みがあるのが、ASCOM経由でSynScan Proに信号を送る方法です。SynScan Proの恒星時追尾だけオフにして、SharpCapからのディザー信号をSynScan Proが受け取って実際にAZ-GTiを動かすことですが、上述のように恒星追尾をオフにするとディザー信号は伝わらないようで、今のところこれはできません。それでもSharpCapの矢印ボタンには反応するので、この矢印ボタン相当のところに返すことができれば、今回の目的は達成できそうです。
PHD2は触ってみた限り、そもそも外部から来た信号とPHD2から出す信号の区別がつかないようで、ディザー信号だけAZ-GTiに出すというのは根本的に難しいようです。
それでも原理的にソフト側で解決できる問題ではあるので、今のところはいつか解決するのを期待することとします。
せっかくなので仕上げてみる
ディザーは諦めたのですが、3日ほどに渡ってM27を色々試しながら撮り溜めた画像があり、それぞれバラバラの位置で撮影しているので、ある意味ナチュラルディザー状態になっています。せっかくなので仕上げてみます。
- 撮影日: 2023年7月17日22時18分-23時16分、7月22日1時40分-2時6分、7月22日21時55分-23時39分
- 撮影場所: 富山県富山市自宅
- 鏡筒: TAKAHASHI FS-60CB+マルチフラットナー(f370mm、F6.2)
- フィルター: サイトロン Dual Band Pass (DBP)
- 赤道儀: SWAT+AZ-GTi
- カメラ: Player One Uranus-C(常温)
- ガイド: なし
- 撮影: SharpCap、bin1、Gain 200、露光時間3分x57で総露光時間2時間51分
- Dark: Gain 200、露光時間3分、常温、64枚
- Flat, Darkflat, Gain200、0.05秒、64枚
- 画像処理: PixInsight、Photoshop CC
ある程度長時間連続で位置をずらさずに撮影した分の縞ノイズは多少なりとも出てしまいますが、画像処理でなんとかできるレベルです。今回はM27の周りの淡い羽部分が少し見え始めるくらいまで出すことはできました。
今回の撮影は富山の住宅街での自宅撮影なので光害はそこそこあります。これ以上出したい場合は、もっと鋭いワンショットナローバンドフィルターを使う、ナローバンドとモノクロカメラで撮影する、口径を大きくする、露光時間を伸ばすなどの工夫が必要になってくると思います。また、ダークノイズに関しては非冷却カメラはどうしても不利で、特に夏場の暑い夜はかなりのノイズが出ていることが1枚ショットの画像を見るとよくわかります。冷却のためのケーブルは増えてしまいお気軽撮影からは少し遠くなりますが、夏場で淡い天体を撮影する場合は冷却カメラの恩恵は無視できないでしょう。
今のところオートでディザーをする方法は見つかっていないので、縞ノイズがどうしても気になる場合は、少し面倒ですが、適時LiveStackの露光を一時停止して、マニュアルでランダムに位置を少しずらしてやれば、気にならないレベルに持ってくることができると思います。
SWATとAZ-GTiの組み合わせのSWAgTiというお気楽撮影に、少しだけマニュアルディザーをするという工夫を加えるだけで、ここくらいまでは出すことができることがわかってきました。
まとめ
結論としては、今のところノータッチガイドで撮影すると、どうしても縞ノイズが出てしまいます。ディザーはソフト側の対応が必要そうです。あと、AZ-GTiとの精度差があるので、十分な緩和時間をとることです。
マニュアルディザーである程度回避できるのですが、何かもっと簡単な方法はないのか?どうなるSWAgTi...。
寒冷地でのSWAT
ユニテックさんとやりとりしていて、また面白い情報を聞くことができました。もしかしたら興味があるかともいるかと思いますので、共有します。SWATの寒冷地での使用についてで、個別で対応してくれるかもと言うことです。以下、ユニテックさんのメールから抜粋です。
「ちなみにSWAT用のグリスは-50℃に対応したものを使っています。ただし-50℃対応はグリスメーカーの仕様書での値でSWATの動作を保証しているわけではないです(試したことがない)。公称してませんが、実用最低温度は-10℃程度(自分で試した値)としています(-20℃で動いたという報告はあります)。
ただしボールベアリングは汎用のシールド型なので、-20℃くらいが限界と思います。寒冷地仕様の場合は、開放型のボールベアリングにして、上の-50℃対応のグリスにします。金属の収縮率の違いもあるので、極低温動作を保証してトラブルになると大変なので…。
寒冷地仕様は各部クリアランスをわずかに大きくつける(熱収縮を考慮して)ので、遊びが大きくなるデメリットもあり、個別に希望した方のみの対応です。こういった小回りが効くのは手作りの弱小メーカーだからですね。(笑)」
とのことです。もし寒冷地で使うことを想定している場合は、個別に相談してみるのがいいのかと思います。