ほしぞloveログ

天体観測始めました。

2021年12月

限りなく皆既に近い月食から1月以上経ち、もうほとんど話題にあがることもなくなってきました。



今回の記事を公開するかどうか随分迷いましたが、やはり考えた過程として残しておこうと思います。多少衝撃的な内容かもしれませんが、全く間違っている可能性もあるので、あまり気にしないでください。


TSA-120とFC-76での違い

まずはこの記事を書こうと思った動機です。ターコイズフリンジ に関して、TSA-120で撮影したものと、FC-76で撮影したものに、大きな違いがあったことがきっかけとなります。


TSA-120の場合

まずはTSA-120で撮影したもの。皆既にかなり近い時間帯の月食です。
  • 機材はTSA-120 + ASI294MC Pro(常温) + 35フラットナー + UV/IRカットフィルター + CGEM IIです。
  • 撮影はSharpCapで25ミリ秒露光、ゲインが220で100枚撮影をワンショットとし、serフォーマットで記録します。
  • これをAS!3でスタックしRegistaxで軽く細部を出しています。ここがスタートです。

1. まずはできたTiFF画像をPhotoshopで限りなくシンプルに処理してみました。ヒストグラムを見ながら背景のピークを合わせるだけです。
2021-11-19-0923_0_lapl5_ap3030_level
月食当日にライブで処理してTwitterに投稿した時がこれくらいの処理でした。

他の方の投稿を見てターコイズフリンジ があまりに出ていないので、少しがっかりしたのを覚えています

2. 次にもう少し濃い赤銅色を目指し、赤をレベル補正のみで出した場合。これだとどうしても青い成分が出てこなくて、ターコイズフリンジらしいものは全く出てきません。
2021-11-19-0923_0_lapl5_ap3030_level2

3. 次に上の画像を、トーンカーブでBlueの明るい部分を上げることで、かなり無理をして青を出します。わかりにくいですが、境のところの色に青成分が出てきているのがわかるかと思います。でもこの時点で真っ当な画像処理とは言い難くなってきてしまいます。
2021-11-19-0923_0_lapl5_ap3030_level2_blue

4. さらに眼視で見た時に近くなるようにしてみます。青成分が含まれていることがわかりターコイズフリンジらしいものが見えてきます。
2021-11-19-0923_0_lapl5_ap3030_level2_blue_eye

5. さらにかなり苦労してですが、明るい部分と暗い部分の境が出る様に処理すると、綺麗なターコイズフリンジが出てきているように見え、一般的にいうターコイズフリンジ が見えている月食のような画像になります。
2021-11-19-0923_0_lapl5_ap3030_level2_blue_eye_fringe

上の画像は以前の記事で最後に「ターコイズフリンジ が見えている」と言って出した画像と雰囲気は近いです。以前の記事でも述べているのですが、はっきり言ってかなり無理をして青を出している気がします。ターコイズフリンジを見るのにここまでの画像処理を必要とするほど大変なのでしょうか?


FC-76の場合

その一方、FC-76で撮影した画像で処理をしてみました。そうすると今度は拍子抜けするほど簡単にターコイズフリンジらしいものが出てくるのです。
  • 機材はFC-76 + ASI294MC + Advanced VXです。
  • 撮影ソフトはFireCapture、露光時間は25ミリ秒でゲインが220です。70枚程度をワンショットとし、serフォーマットで記録します。
  • これをAS!3でスタックしRegistaxで軽く細部を出しています。ここがスタートです。
TSA-120での撮影との違いは鏡筒以外ほとんどなく、カメラはProかどうかの違いはありますがともにASI294MCで同等。ソフトはSharpCapとFireCaptureですが、同露光時間で同ゲイン、撮影枚数は100枚と70枚ですがまあ同等と言っていいでしょう。

やはり一番の違いは鏡筒で、特にFC-76はジャンク品で白濁している対物レンズというところが最大の違いなのかと思います。


そのため、少しコントラストが落ちるということを確認しています。



さて、スタックと細部出しを終えた画像をもとに、画像処理を進めます。

1. Photoshopで背景のピークを合わせたのみです。TSA-120の時とカメラは同じASI294MCなのでカラーバランスはそもそもあまり変わらないはずです。背景のピークを合わせただけなのでほとんど同じようになると思うのですが、既に青っぽくなっています。また、赤銅色部分も右上が明るく、左下(右下も)は暗くなっているのがわかります。この目でTSA-120の画像を見返すと赤銅色部分の明るさに差が少なくのっぺりしているのがわかります。

Moon_182346_lapl5_ap301

2. ほんの少し青を強調するだけで、境のところに青っぽいところが出てきました。すでにかなりターコイズフリンジっぽいです。

Moon_182346_lapl5_ap301_blue_eye

3. そこからさらに少しいじるだけでかなり明確に青いところが出てしまいます。TSA-120で苦労して出した最後の画像と比べると、差は明らかでしょう。

Moon_182346_lapl5_ap301_blue_eye_fringe


出来上がった画像を比較してみても、TSA-120の方は赤銅色のところの明るさの差が少なくのっぺりしています。一方、FC-76の方は赤銅色の部分の明るいところと暗いところの差があります。明るい部分が拡散されている様な感じです。
  • TSA-120 -> 赤い、ターコイズフリンジが出ない、赤銅色部分に明暗が少ない。
  • FC-76 ->  簡単にターコイズフリンジが出る、赤銅色部分に明暗がある。

改めて機材を見返してみると、カメラの条件はASI294MC同士なのでほぼ同じはずです。違いは
  • TSA-120: 焦点距離900mmで35フラットナーが入っている。UV/IRカットフィルターが入っている。TSA-120はそもそも屈折鏡筒の中でもコントラストは抜群にいい。
  • FC-76: 焦点距離600mmでマルチフラットナーなど入れてないので、周辺で歪みあり。フィルターは無し。白濁ありで、コントラストがかなり悪いかも。
こうやって考えると、この青い部分の出方の違いはコントラストの違いによるものなのでしょうか?特にFC-76は対物レンズが白濁しているジャンクものです。こちらの方が明らかにコントラストが悪いのですが、これが逆に功を奏して、ターコイズフリンジらしく見えているだけなのでしょうか?

他の方の情報でも、ターコイズフリンジが出ている場合と出ていない場合が分かれているような気がします。
  • 一部の情報で同じ機材でも露光時間が短いとターコイズフリンジが見えなくて、露光時間を長くするとターコイズフリンジが出やすくなると言うのがありました。これももしかしたらある程度以上露光をすると明るいところの影響が周りに出やすくなりターコイズフリンジらしく見えるのでしょうか?
  • また、山の上に登るなど高度の高い所で撮影した画像にはターコイズフリンジが出なかったという話も聞きました。大気のかすみ具合によるコントラストの悪化影響が効くかもしれないということを示唆しているのでしょうか?

とりあえずここまででは私が経験したことや、聞いたことを書いただけで、これだけでは全く結論は出ません。青色部分が多かれ少なかれ存在するのは確からしいです。ただし、本当にオリジナルのオゾン層の影響で見えているものなのか、それとも画像処理に伴って何か見えてきたものなのか、判断がとても難しいです。

加えて、赤銅色の加減自身も相当難しいです。とにかく月食時の基準となる色を客観的には何を参照にすればいいのか、結局は不明でした。そうなると自分の感覚に頼るしかありません。


オゾン層について

そもそも、ターコイズフリンジ が出てくる原因はオゾン層にあると言われています。
  • まず、月食とは太陽と月の間に地球が入り込み、地球の影が月の食になるということです。
  • 地球の影で暗くなるはずなのに、月食時に赤銅色が出るのはなぜかというと、赤い光は地球の大気のところで屈折するために、本来届かない食のところに到達し、赤銅色を作ります。夕焼けが赤くなるのと同じ理由とのことです。
  • 青い光はレイリー散乱と呼ばれる大気での散乱のために、月には届きません。これが色部分に青い色がないことの理由です。
  • ではなぜターコイズフリンジ がでるかというと、地球のオゾン層を通るときに、赤よりも青い光に対して透過率が高いからとのことです。

  • オゾン層は大気のかなり上部にあるため、空気が少なくレイリー散乱が起きないために、青い光はそのまま透過し、屈折などもせずにまっすぐ月まで届くとのこと。その光がターコイズフリンジとなるようです。

以上の情報から、オゾン層を通った青い光がほぼ真っ直ぐ進むなら、オゾン層の厚さがそのままターコイズフリンジの幅となりそうです。オゾン層は高度10kmから50km程度の厚さ40kmのところに90%が存在するとのことなので、地球の半径が6400kmとすると、 40/6400=0.6%ほどとなるはずです。前回撮影した画像の地球の影
all_cut
から考えると、月の直径は地球の半径のざっくり半分程度です。とすると、青い光が真っ直ぐ進むと考えるなら、月の直径の1.2%程度の厚さにしからなず、非常に細いターコイズフリンジにしかならないはずです。もしこの推測が本当に正しいのなら、私の画像も含めて青い部分が月の直径の1割とかもあるような画像を説明するのが難しくなってしまいます。

ここまではあくまで素人のラフな見積もりですが、少し学術的な方向に注目してみましょう。ターコイズフリンジ については、Gedzelman, S. D. & Vollmer, M. 2008, Appl. Opt., 47, 149が初期の頃に出た論文のようです。月食時にどのように見えるかのシミュレーションの結果が実際に2008年に撮影された写真とともに載っています。これを見ると、青い部分の幅が月の直径の10-20%ほどになっています。

ただし、シミュレーションの詳細については書かれていないことと、写真についても画像処理の方法については何も書かれていないので、どのくらい強調しているなどはやはりわかりません。それでも青い部分が存在することは確からしいので、ターコイズフリンジが存在するのは間違い無いのでしょう。ただ、シミュレーションの色の結果についても「まだ正確ではなくデータ不足」と論文中にはっきり書いてあるので、ターコイズフリンジの太さについてはよくわからないようです。


双眼鏡で除いた時の見え方

あと、月食当日に双眼鏡で覗いた時の様子を書いておきます。使った双眼鏡はいつも車に入れている2019年の「星もと」で手に入れたJasonというブランドのクラシカル双眼鏡です。

見えた月はまだはっきりと記憶に残っています。まず、赤銅色と言われるものは画像になっているような派手な色ではなく、かなり落ち着いた色でした。最大食から少ししてから見たので、明るい部分が多少出始めていて、その明るさが、背景を含み食の部分にも影響を及ぼしています。よく言うと、すごくナチュラルに見える月食で、悪く言うとコントラストが悪いと言えるのかもしれません。重要なことは、明るいところと食の暗いところの境に明らかに青緑色の部分がはっきり見えたことです。これは気のせいでもなんでもなく、何度見てもはっきりと見えました。「これがターコイズフリンジか」とかなり感動しました。

ただ、上の画像やTwitterで示したように、その場で処理した最大食時のTSA-120には全くその青緑が写らず、明らかに見た目と違っていました。また、この双眼鏡は相当古いものであり、整備してあるとはいえコントラストがどこまで良いのかはよくわかりません。

もしコントラストが悪いと、鏡筒で違いが出たことも含めて、以下のようなことも可能性としては考えられます。


コントラストの影響の簡単な実験

皆既に近い月食をまねてPhotoshopでポンチ絵で描いてやります。明るい部分はRGBで192:192:192のグレー、赤銅色部分はRGBで64:32:0としました。

2021-11-19-0924_2_lapl5_ap3030_2nd_0_original

上の画像に、Photshopの「Camera Raw フィルター」の「かすみの除去」のスライダーを-80にして、わざとかすみを与えてやります。

2021-11-19-0924_2_lapl5_ap3030_2nd_1_kasumi

見た目はそれほど変わりませんが、明るい部分が暗い部分に少し浸食しています。コントラストが低下したような状態を再現しています。

次にこの画像をPhotoshopのトーンカーブでBlueを持ち上げてやります。

2021-11-19-0924_2_lapl5_ap3030_2nd_2_blue

すると、明るいところと赤銅色の境のところに、青みがかった色が出てきます。

その一方、「かすみの除去」機能を使わないでコントラストを高く保ったまま同様にトーンカーブでBlueを持ち上げてやった場合には、上記のような赤銅色の境のところに、青みがかったような色は一切出てきません。
2021-11-19-0924_2_lapl5_ap3030_2nd_3_nokasumi_blue


以上のことは白色の非常に明るい部分が、悪いコントラストにより、暗い部分を侵食する可能性があることを示しています。コントラストが十分良いと、このような侵食は無いということです。

月食中は、月の明るいところと、皆既月食の赤銅色のような暗いところというように、明るさに差があります。さらにその月を撮影するときに、雲越しであったり、低空で霞んでいたり、今回の撮影のように鏡筒の状態などによって、コントラストが悪い場合があります。そのような状態では、上記のような過程が起こることがあり、画像処理によっては擬似的に青い部分が見受けられることもあるかもしれません。

同様なことを考察したアマチュアの記事も随所に散見します。例えば「ほんのり工房さん」は色温度について議論していて興味深いです。




まとめ

TSA-120とFC-76で撮影したものと、双眼鏡で目で見たもののそれぞれの違いをどう説明したらいいのか?コントラストの低下が青い色を出している可能性を考えてみました。このコントラスト説が正しいのかどうかまだ全くわかりません。

オゾン層が成層圏を中心に大気の密度の薄いところにあるために、そこを通る青い光は真っ直ぐ進むというものすごく簡単な仮定から、ターコイズフリンジ は月の直径の1%程度とかなり細くなるのではと考えましたが、これはこれまでに撮影されている多くの結果とはかなり異なります。

論文によるとシミュレーションの結果から青い部分が出るのはおかしく無いとのことですが、やはりどれくらいの領域で出るかははっきりとはわからないようです。月の直径の1ー2割出ている結果のようにも見えますが、画像処理などの過程も不明なため、結果は注意深く見る必要がありそうです。

色々考えさせられた月食でしたが、今回はまだたいしたデータも揃っていませんし、考察も不十分ですので、結論を出すには全然至りません。次回はもう少し謎に迫れるよう色々考えてみたいと思います。


前半の星景、星雲、銀河に関してはこちらになります。





「ASI294MM Proでのお月様撮影」
21_56_42_lapl4_ap7882_IP.2tif_stitch
  • 月齢9.5日
  • 撮影日: 2021年7月19日21時56分

「7月23日の月」
00_36_22_lapl2_ap8304_IP-denoise2-standard_stitch
  • 月齢12.7日
  • 撮影日: 2021年7月23日0時22分

「中秋の名月」
E_0Tb3QVQAERd4_
  • 月齢14.6日
  • 撮影日: 2021年9月21日23時00分

「限りなく皆既に近い月食」
StarStaX_IMG_6320-IMG_6480_lighten_5min


all_cut

2021-11-19-0903_2_lapl5_ap3030_2_cut

  • 撮影日時: 2021年11月19日


太陽


「コンスタントに出る太陽黒点」
_12_58_34_lapl4_ap2556_IP_DBE_cut

_12_59_24_lapl4_ap2549_IP_ABE_cut

13_01_41_lapl4_ap2492_IP_cut

13_04_16_lapl4_ap2361_IP_cut
  • 撮影日時: 2020/12/27 12:58から13時4分

「太陽プロミネンス」
14_35_25_lapl4_ap1540_RS_color_cut

14_38_10_lapl4_ap1318_IP_cut

14_39_23_lapl4_ap1371_IP_cut

14_42_32_lapl4_ap2326_IP_cut
  • 撮影日時: 2021/1/31 14:35から14時45分

「C8での太陽プロミネンスのタイムラプス」
14_35_41_lapl4_ap1177_IP3_cut

14_35_41_lapl4_ap1177_IP5_cut

  • 撮影日時: 2021/2/6 14:35

「2月11日のプロミネンス」
13_08_26_lapl4_ap2357_IP_cut

13_09_55_lapl4_ap1048_IP

13_10_52_lapl4_ap942_IP

13_11_43_lapl4_ap879_IP

13_12_37_lapl4_ap1199_IP

13_13_25_lapl4_ap1129_IP

13_14_37_lapl4_ap1182_IP

13_15_24_lapl4_ap1977_IP

  • 撮影日時: 2021/2/11 13:09-13:20

「2月21日の太陽」
14_03_05_lapl4_ap1219_IP
  • 撮影日時: 2021/2/21 14:03-14:09

「2月27日の太陽」
13_01_29_lapl4_ap1700_IP_cut

13_06_46_lapl4_ap1651_IP_cut

13_13_54_lapl4_ap1552_IP_cut

13_11_27_lapl4_ap2057_IP

13_12_06_lapl4_ap1565_IP_cut

13_18_59_lapl4_ap2398_IP_cut
  • 撮影日時: 2021/2/27 13:01-13:011

「4月3日の太陽」
10_28_53_lapl4_ap10625_IP_cut
  • 撮影日時: 2021/4/3 10:28

12_02_41_lapl4_ap10625_IP
  • 撮影日時: 2021/4/3 12:41

「4月24日の太陽」
15_02_44_lapl4_ap2482_IP._cuttif

15_02_44_lapl4_ap2482_IP._cut_color

14_49_27_lapl4_ap2487_IP

14_45_24_lapl4_ap2550_IP

14_47_02_lapl4_ap2521_IP

14_47_32_lapl4_ap2483_IP

「5月8日、光軸調整後」
12_42_38_lapl4_ap1472_IP_cut
  • 撮影時間: 2021/5/8 12:42

12_42_38_lapl4_ap1472_IP

12_44_21_lapl4_ap1344_IP_cut

「5月9日の太陽」
12_50_58_lapl4_ap2196_IP_cut
  • 撮影時間: 2021/5/9 12:50

12_50_58_lapl4_ap2196_IP_color_cut

13_02_33_lapl4_ap1952_IP_cut

13_00_20_lapl4_ap2474_IP2_cut

12_56_51_lapl4_ap2208_IP_cut

12_54_38_lapl4_ap1404_IP_cut

12_55_11_lapl4_ap1179_IP_cut

12_56_00_lapl4_ap1321_IP_cut

「AR2824」 
10_18_30_lapl4_ap2271_IP_cut

10_18_30_lapl4_ap2271_IP_color_cut
  • 撮影時間: 2021/5/23 10:18


「AR2882」
13_06_17_lapl3_ap2496_IP_cut
  • 撮影時間: 2021/10/10 13時6分 gain70, 1.25ms x 2000フレーム中上位50%を使用

番外編


IMG_1721
  • 2020年27日、妻の誕生日にて

「立山」
IMG_4697

IMG_2725

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IMG_4758_cut
  • 2021年6月12日撮影


まとめと反省

太陽は前半は盛り上がっていましたが、後半、特に黒点が顕著に出出してからは、天気が悪かったりでいまいち盛り上がりませんでした。せっかく撮影体制は整ったので、来年はもう少し撮影回数を増やしたいと思います。特に、粒状斑をしっかり出してみたいです。

月に関しては、皆既に近い月食でかなり楽しめました。ターコイズフリンジはまだ色々疑問も残りますが、とりあえず撮影できたのでよしとしましょう。全体像より、少し細部にシフトしたい気もしています。バローをどう使うかでしょうか?

こうやってみると、今年惑星を全然撮っていないことがわかります。惑星は口径勝負の気がしてしまって、こちらもイマイチ盛り上がりに欠けています。SCA260で惑星撮影したらどうなるのでしょうか?来年少しやってみたいと思います。


昨晩からの大雪で何もできそうにありません。いい時期なので今年の撮影記録をまとめておきます。

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長くなってしまったので、月と太陽は別ページの記事にしました。


星景

「真脇遺跡」
IMG_1536_PS
  • 撮影日: 2021年2月13日5時39分


星雲

「半月期にノーフィルターで撮影したM78」
masterLight_DBE4_crop_PCC_pink_AS3_cut
  • 撮影日: 2021年1月20日21時51分-1月21日1時12分、1月21日18時12分-21時20分

「Sh2-240」
masterLight_cut_ABE_PCC_AS2_SFT_all6_bright
  • 撮影日: 2021年2月6日21時22分-2月7日1時30分、2月11日19時19分-2月12日0時25分、2月13日19時10分-2月14日0時47分

「NGC1499カリフォルニア星雲」
master_cut_rot_DBE_DBE_PCC_SCNR_ASx4_HTx2_CT2
  • 撮影日: 2021年3月3日20時26分-22時29分

「NGC1499カリフォルニア星雲(その2:高ISO)」
Image66._ASx2_HT2
  • 撮影日: 2021年3月3日20時23分-22時15分

「IC4592: 青い馬星雲」
masterLight_DBE_PCC_ASx5_ET_HT3a
  • 撮影日: 2021年4月11日2時34分-4時27分、4月12日0時35分-4時8分

「FMA135で撮影した北アメリカ星雲からサドル付近
FMA135_2
  • 撮影日: 2021年日5月4日2時35分-3時48分

「自宅から撮影したアンタレス付近」
master_ABE1_ABE_PCC_pink_ASx2_HT4b_cut
  • 撮影日: 2021年日5月9日22時37分-5月10日2時7分

「M57: 惑星状星雲」
Image04_clipped_banding_DBE_PCC_AS_HT2_MT_PCC_ok
  • 撮影日: 2021年日7月17日1時16分-2時51分

「初めてのナローバンド撮影: M27」
Image09_DBE2_stretched7_cut_crop_b
  • 撮影日: 2021年9月6日21時14分-23時23分(OIII)、9月24日22時13分-9月24日0時12分(Hα)

「アイリス星雲」
masterLight_RGB_integration_ABE_ABE_PCC_AS3_HT6_ABE_cut1b

12894988-D2E2-4C17-B8E1-65DE9B357379
  • 撮影日: 2021年10月2日23時21分-10月3日0時31分

NGC6960, 6979, 6992, 6995: 網状星雲」
masterLight_ABE_ABE_Rhalo_PCC_ASx2_HT3_cut
  • 撮影日: 2021年10月30日18時26分-19時10分、10月31日20時6分-21時20分、11月2日19時48分-23時37分

「IC1805: ハート星雲とIC1848: 胎児星雲」
masterLight_Rsmall_ABE_crop_SCNR_ASx2_HT
  • 撮影日: 2021年10月30日1時15分-5時2分、10月31日0時57分-5時2分


銀河

「おとめ座銀河団」
up_DBE_DBE_PCC_AS_HT_all_disks_back2_rot_denoise_larage_cut

up_Annotated
  • 撮影日: 2021年3月19日22時44分-3月20日4時27分

「マルカリアンの鎖付近」
03_Markarian_all

「M99とNGC4216」
05_M99_wide

「M87からM91一を網打尽」
06_M90_wide_portrait

「M99とM100」
04_M100_wide

M99」
07_M99_small

「M100」
13_M100_small

「M88とM91」
10_M91_M88

「NGC4216まわり」
08_NGC4216_small

「VISACで撮影したNGC4216、NGC4206、NGC4222」
masterLight_cut_ABE_pink_ASx4_ET_ok_tune4a
  • 撮影日: 2021年4月5日20時12分-4月6日4時14分

「M104: ソンブレロ銀河」
masterLight_ABE_DBE_PCC_HT
  • 撮影日: 2021年4月7日22時4分-4月8日3時28分

「M87」
masterLight_ABE_ABE_ABE_AS_HT2

masterLight_ABE_ABE_ABE_AS_HT3_cut
  • 撮影日: 2021年4月11日0時49分-4月8日1時45分

「TSA120で撮影したM33:さんかく座銀河」
Image17_DBE_DBE_ASx2_HTx2_4_cut_b
  • 撮影日: 2021年10月10日1時41分-4時37分、2021年10月10日20時34分-10月11日0時47分
「SCA260で撮影したM33: さんかく座銀河」
Image111_DBE_PCC_ASx2_PCC3_bright
  • 撮影日: L: 2021年11月2日23時51分-11月3日1時6分、11月6日0時58分-2時10分、R: 2021年11月5日23時43分-23時59分、G: 2021年11月6日0時1分-0時43分、B: 2021年11月6日2時21分-3時33分、

「M33さんかく座銀河のHα領域
Image111_DBE_PCC_ASx2_PCC3_bright4_modest

Image111_DBE_PCC_ASx2_PCC3_bright4

Image111_DBE_PCC_ASx2_PCC3_bright4

「ちょうこくしつ座: NGC253」
Image17_crop_ABE_ABE_DBE_DBE_PCC_DBE_mod2
  • 撮影日: L: 2021年11月3日19時53分-21時38分、11月4日0時25分-1時5分、R: 2021年11月3日22時21分-22時54分、G: 2021年11月3日22時55分-23時28分、B: 2021年11月3日21時47分-22時20分


まとめと反省

並べてみると色々わかります。

例えば、カリフォルニア星雲は先に撮った方は星が滲んでますが、後の方が星像は小さく出ています。その一方、細部に関しては先の方が良かったようです。淡い分子雲に関してはISOの高い後の方が出ているので、少し不思議です。画像処理を見直しても良いかもしれません。

青い馬やSh2-240など、自宅での青はやはりなかなか難しいことがわかります。網状星雲などDBPが貢献しています。必要ならOIIIのみで撮ったものを追加するとかが手かもしれません。

銀河は今後SCA260の分解能に期待しています。それでもFS-60CBで撮影したおとめ座銀河団は小口径ながらとても楽しかったです。

星景は1枚だけでした。真脇遺跡も夏に行きたかったですが、結局天気と時間が合わなくてダメでした。来年はもう少し力を入れたいです。

今年はなかなか時間が取れなかったと思っていましたが、それでもこうしてみると、特に星雲はそこそこ撮影できている気がします。細かい反省はまた1月末くらいに記事にしたいと思います。


後半の月、太陽もご覧ください。 

前回の記事で、SCA260の揺れの対策のことを書きました。



今回はその成果を見てみようと、1作例目でLRGBで撮ったM33にHαで追加撮影して、赤ポチを入れてみようと思います。赤ポチを入れる事自体初めてなので、どうなるかとても楽しみです。


赤ポチとHαバブル

今回はいきなり結果から見せることにします。赤ポチが入ると相当派手になります。
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今回注目したのが銀河の周辺部にある泡のようなHαの丸いかたまりです。バブルみたいに見えますね。これはどう言う過程で生まれるものなのでしょうか?一個一個が超新星爆発?とにかくここを出したくて、かなり盛ってみたというわけです。

そもそもHαで見ると、なんで銀河内にこんなに明るいところが点在しているのでしょうか?「赤ポチ」という言葉が使用されるのはアマチュア天文に限られているようですが、それぞれの場所で何かHαで光る物理的な過程があるはずです。我々の銀河も、天の川を撮影するとよくわかるように、断面で見るとHαで光っていることがよくわかります。わからないのは、このような領域が点在している理由です。

少し調べればわかるのですが、Hαで光るのは水素原子のバルマー系列線のエネルギー準位がn=3からn=2へ電子が遷移するときに出てくる時に出てくる光です。星間密度が高いところではHαでよく光っていて、その領域では星が盛んに形成されているとのことです。

とすると、今回撮影した赤いところは銀河形成の過程で物質が密になっているような場所なのか?もしそうだとすると、銀河の周りにあるバブルのようなHαはどう説明できるのか?全く違う過程なのか?興味は尽きません。


赤ポチの出具合

今回の画像、少し派手すぎるかもしれませんが、まあ嬉しかったと言う事で盛り込んでみました。日本だと派手すぎでもっと控えめなのが好みな方のほうが多いのかと思います。少し落としたものですがこれくらいでしょうか?
Image111_DBE_PCC_ASx2_PCC3_bright4_modest
でもここまで落とすとバブルがほとんど見えなくなってしまうので痛し痒しです。

その一方、海外に目を向けると上のが地味に見えるくらい盛っている画像もあるようです。もっと派手にしたバージョンです。海外だとこれくらい派手なのも珍しくありません。
Image111_DBE_PCC_ASx2_PCC3_bright4
ここら辺は文化や好みも多分に関係しているのかと思いますが、ここまで盛るとバブルも相当はっきりしてきます。うまくバブルが見えて派手にならない方向を探るのもいいのかもしれません。

ちなみに、今回Hαで加えた部分を外すと以下のようになります。上の画像を見てからだとかなり寂しく感じてしまいます。
Image111_DBE_PCC_ASx2_PCC3_bright4_noHa
Hαで盛れるので、Hα以外の部分は前回の画像より少しだけ控えめの処理にしてあります。

さてさて、今回のHαの撮影、実は失敗続きで撮り直し撮り直しで、3回目の撮影でやっと使える画像なったものです。アホなミスばかりですが、反省がてらきちんと書いておこうと思います。いつものように長くなって申し訳ないのですが、もし興味があればこれ以降お付き合いください。


撮影時の揺れ

まず、揺れについて少しまとめておきます。結論だけ言うと、上部プレートとガイド鏡を外す事で、劇的に改善されました。その日のシンチレーションの大きさによりますが、改善前はかなりの確率で
  • 赤道儀の揺れ > シンチレーション > 風 > 地面振動
だったのが、
  • シンチレーション > 赤道儀の揺れ > 風 > 地面振動
が典型的となりました。

改良前は1分の露光では以前はかなり甘めに判断して半分程度の救出率だったのが、改良後は1分露光では普通の判断基準でほぼ全て救い上げることができるようになりました。3分露光も少し試しましたが、少し揺れてしまいました。ただし揺れの方向が一方向ではなくランダムだったので、おそらく(地面振動を防ぐために柔らかい振動吸収パッド三脚の足の下に置いていたので)風強くて揺れていて
  • 風 > シンチレーション > 赤道儀の揺れ > 地面振動
と言うような状況になっていたと思われます。これは再度確認したいと思います。

いずれにせよ、かなり状況は改善されてきているため、露光時間10秒とか1分とかのラッキーイメージに頼るような手法では既にOK、これ以降さらなる長時間露光での撮影に進みたいと思います。


撮影1回目: オフアキうまくいかず、ガイド鏡を使う

SCA260の改良後の11月28日、Hα画像の撮影を試みました。でもこの日はトラブル続きです。

まずフィルターがホイール内部で引っかかりエラーが出ていました。これはホイールに取り付けるアダプターリングを入れ込みすぎたためでした。これまで取り付けていた厚さ1mmほどのスペーサーリングを挟むのを忘れてしまっていたことが原因です。これだけでも原因がわかるまで30分ほどかかっています。

次に、今回ガイド鏡を使わずにオフアキに切り替えようとしたのですが、そのオフアキ用に用意したカメラASI290MMで星が全く見えまえん。プリズムの向きを間違えたかとか思ったのですが、確認してみても問題なさそう。ピントが合わないだけかと思って、一度主鏡で合わせたピントを崩して、フォーかサー位置を短くしたり長くしたり、オフアキに差し込んでいるカメラアダプターを出し入れしたりしましたが、やはり何も見えず。

結局、時間がもったいないのでガイド無しで撮影を始めることにしました。極軸はそこそこ合わせてあるので、1分露光くらいならピリオディックモーションも目立たず何とかなるでしょうと、この時は思っていました。ところが、肝心の揺れはというと全然収らなかったのです。

でも揺れをよく見ると、これまでの揺れと全然違います。これまでの揺れは赤経が動く方向に長く伸びるのですが、今回は丸が大きくなったり、揺れの方向が定まらずランダムです。ははぁ、と思いました。星像が丸く大きくなるのはおそらくシンチレーションが原因です。あと風が強かったので、星像が方向が定まらずに伸びるのはおそらく風のせいです。ガイドは数秒以上の揺れなら抑えることができるので、風の方向を抑えるのには結構効くのではと推測し、急遽ガイド鏡を復活させ、下部プレートに小判鮫状態で取り付けたというわけです。

効果はかなりあり、少なくともこれまで困っていた星像が一方向に長くなるのはほぼ抑えることができました。赤道儀の揺れはかなり収まったとは思うのですが、シンチレーションで星像がかなり大きくなっていて細部が全然出ていません。赤道儀の揺れがシンチレーションに隠れてしまい影響が少し見えにくくなっている可能性は否定できません。シンチレーションのいい日に再度撮影して、きちんと評価してみたいです。

もう一つ気づいたのが、長時間ガイドでのドリフトがほとんど出ないことです。ガイド鏡を下に移動したことで回転軸に対してより近くなり、実質的にたわみが少なくなったのではと推測しています。上部に置くとガイド鏡が鏡筒の上でふわふわ浮いたような状態にあったのではと思います。これは一般的に当てはまる可能性が高く、特に大型鏡筒ではガイド鏡は鏡筒の上部に取り付けるより、下部に小判鮫状態にして取り付けた方が有利だと思われます。それでもカメラの近くに取り付けるオフアキには勝てないとは思います。

この日の撮影、シンチレーションが悪かったこともありますが、そんなことは関係なしに結局全て無駄になります。


撮影2回目: ビニング間違いに気づき再撮影

先日のHαの撮影後、画像処理するときになって何とHα画像を1x1のビニングで撮影したことに気づきました。バイアスやダーク、新たに撮影したフラットもフラットダークも普通に2x2ビニングで撮影しているので全て使えません。結局12月5日に2x2ビニングでHα画像を丸々撮り直すことにしました。

さらに前回全く像が見えなかったオフアキを見直しました。カメラは独立にピント調整と回転角が調整できるように、T2->アイピース口アダプターを使って、カメラをASI120MM miniに変更して差し込み式にしました。このセットアップで、そもそも明るいところで何か見えるか試してみました。プリズムの差し込み位置で像が見えたり、差し込みすぎると撮影画像にプリズムでできる影が見えることが分かったので、プリズム位置をある程度固定し、カメラのアイピース口への差し込み具合でピントを調整するようにしました。

ところが、実際に撮影を始めるとオフアキで見える星の数があまりに少ないことがわかりました。相当拡大した状態になっているからですが、シンチレーションでの揺れもあってか、ほとんど認識できないか、認識してもすぐに見失ってしまいます。少しでもマシにしようと、PHD2側で2x2でビニングし、「3x3 median」というノイズ低減をして、やっと少なくとも1個そこそこ安定に認識する様になりました。

この状態で90枚撮影しました。しかしこれも無駄になるのです。


撮影3回目: やっと成功

12月10日、再度前回2回目の撮影の大きな間違いに気づきました。

フィルターが汚いことには気づいていたので掃除をしようとホイールの蓋を開けてみたのですが、なんとHαフィルターが入っていると思っていたら実際にはUV/IRフィルターが入っていたのです!

確かにこれまでHαにしては妙に明るかったのですが、ずっと間違ったフィルターで撮影していたことにになります。いつHαから取り替えたんだろうと思い出してみても全く記憶がありません。肝心のHαフィルターを探してみたら、フィルターケースの中にきちんと入っていました。よく考えると太陽撮影の時に使った気がするので、夏の頃でもう相当前になります。改めてHαに交換し、再度撮り直すことにしました。

あと、なぜこれまでBフィルターだけムラが出ていたのかの原因もわかりました。何か変なもので拭いたのか、Bだけものすごく汚くなっています。そういえばM57の撮影の時に曇って暗い中で青だけ拭いたりした覚えがあります。これも初夏の頃なので、もう完全に忘却の彼方でした。

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綺麗に清掃したので、今後はBでもRGと同様に撮影できると思います。他のフィルターも埃を吹き飛ばし、再度ホイールに蓋をします。

この日はシンチレーションもそこそこいいみたいです。さっそくHαを取り直します。一応データも載せておきます。
  • 撮影日: Hα: 2021年12月10日22時48分-12月11日0時31分
  • 撮影場所: 富山県富山市自宅
  • 鏡筒: SHARP STAR製 SCA260(f1300mm)
  • フィルター: Baader Hα
  • 赤道儀: Celestron CGEM II
  • カメラ: ZWO ASI294MM Pro (-10℃)
  • ガイド: ASI120MM miniによるオフアキ、PHD2によるマルチスターガイドでディザリング
  • 撮影: NINA、Gain 200、露光時間1分、80枚、dark: Gain 200、露光時間1分、64枚、flatとflatdark: Gain 200、露光時間0.002秒、128枚
  • 画像処理: PixInsight

これを元に、前回LRGB合成で仕上げた画像にPhotoshop上で合成します。合成方法はHα画像をRGBモードに変換して、レベル補正で緑成分と青成分を無くします。ここら辺は太陽画像処理の応用ですね。赤成分のみになったものをLRGB画像に比較(明)で合成してみました。こうすることでHαの度合いを自由に調整することができるようになります。

こうして出来上がった画像が最初に示した画像になります。


まとめ

Hα画像を利用した赤ポチですが、単に赤ポチというだけでなく、Hαバブルみたいなものが見えるなど、M33の別の様相が見えて面白かったです。失敗ばかりで途中かなり凹みましたが、なんとか形になりました。

揺れに関しては、順調に改善されてきていると思います。風が吹いていようが1分露光はかなり余裕で撮影できるようになった言えそうです。次回撮影ではもう少し露光時間を伸ばしてみようと思います。

SCA260の1作例目としてM33をLRGBで撮影、2作例目としてNGC253を同じくLRGBで撮影しました。




その時の一番の問題点が「揺れ」。今回はこの揺れを軽減しようという試みです。


現状確認

SCA260の重量が15kgで、今使っている赤道儀CGEM IIの耐荷重が18kgです。一見、耐荷重以内で大丈夫かと思えそうです。実際SCA260を発注する時も「できるだけ大口径が欲しいけど、重量はまあ大丈夫だろう」と気軽に思って決めたのですが、SCORPIOの店長さんの予測では「かなり厳しいのではないか」というものでした。

実際に撮影を始めてみたのですが、明らかに赤道儀の赤経体の動きのモードで揺れやすいのがわかりました。3分間露光では揺れが大きすぎて星像が全く丸になりません。露光時間を1分にして、かなり甘い基準にすることである程度の歩留まりで撮影画像を救い出すことができるくらいです。

赤道儀の対荷重は重さだけで決まるのではなく、より正確には慣性モーメントで決まるはずです。慣性モーメントは質量と、回転軸からの距離の2乗の積になります。同じ重量でも、回転軸から離れたところに質量が集中していれば慣性モーメントが距離の2乗で大きくなり、逆に近くに質量が回転軸中心に寄っている方が慣性モーメントは急激に小さくなります。慣性モーメントが小さければ、共振周波数は高くなり、かつ固くなるために同じ外力に対して揺れの振幅は小さくなります。

その観点でSCA260を見てやると、下部にロスマンディー互換のアリガタが付いているのはいいとして、上部にも同じ長さの汎用的なアルミプレートが付いています。

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加えて、アルミ製のごついハンドルを上のプレートに付けていたり、ガチガチに強化してそこそこ重くなったガイド鏡を上部に取り付けているので、慣性モーメント的にはさらに不利な状態です。

今回これらを取り外して、慣性モーメントを小さくして、共振周波数を上げ、最終的に揺れを小さくするような改造をしてみます。


取り外したもの

実際に鏡筒上部についているものを取り外してみて重さを測って見ると、プレート類だけで913g、ガイド鏡と合わせると何と1655gもあります。重量だけ見てもトータルの約1割を占めているので無視できないようなレベルです。

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慣性モーメントとして赤経体の回転軸からの距離で考えると、上のアルミプレートの位置は下のアリガタアルミプレートから2.5倍ほど離れています。距離の2乗で効くので、上のプレートを1枚外すことは下のプレートを6枚外すくらいのことに相当します。これはかなり大きな差です。

プレートを外した代わりに、持ち運びしやすいように軽めのハンドルを取り付けることにしました。適したネジ穴の幅が92mmと分かったのですが、この92mmにあったハンドルがなかなか見つかりません。唯一見つけたのが、モノタロウで買えるRSブランドの2本セットものです。プラスチック製で軽いです。



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ただし、ネジ穴がM5なので、M6ネジを差し込める様にM6ピッタリのドリルで穴を広げてやります。もともとはねじ山がきちんと収まる様にザグリが入っていましたが、今回は無視してザグリ穴はそのままに、長めのM6ねじで上から蓋をする様に取り付けました。

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穴を広げたので強度が少し心配でしたが、片方のハンドルだけで持っても全く問題なさそうです。念の為基本的には2つのハンドルを同時に持つことで、仮に一つ壊れたとかでも落下しないように扱いたいと思います。

また、ガイド鏡はオフアキに取り替えました。ただし、極軸調整や初期導入にはガイド鏡クラスのカメラがあると便利なので、これまで使っていたものを小判鮫方式で下のプレートの前部に取り付けることにしました。

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このガイド鏡は撮影を始めたら取り外すので、撮影時の重量増加にはならずに揺れは抑えられるはずです。仮に小判鮫状態で取り付けたままでも、上のプレートに取り付けた状態と下のプレートに取り付けた場合では、赤経体の回転軸から見ると距離が4分の1ほどになります。慣性モーメントでは16分の1ほどになったことになるので、揺れに対しては無視できるくらいになります。

揺れとは関係ないですが、接眼部を見直してオフアキ、ホイール、カメラの向きを揃えました。各ネジの間に円カッターで余っていたクリアファイルを切って作ったリングを嵌め込み、厚さ調整をしてネジの回転位置を調整します。微調整はクリアファイルにセロテープを貼ることで位置を合わせました。

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さてこれらの改造で、撮影時の揺れがどれくらいになるのか、結果が楽しみです。


M33に引き続き、SCA260の2作例目となります。ちょうこくしつ座のNGC253です。前回同様、かなりの分解能が期待できます。




次は何にしよう?

SCA260最初の天体は、これまでの物と比較しやすい様に、直近でTSA-120で撮影したM33としました。M33を撮影した次の日の11月3日も晴れていたので、SCA260で引き続き連夜の撮影です。

次の天体はこれまで撮ったことのないもの、かつSCA260の実力を見ることができるように、もう一度銀河にしてみたいと思います。色々悩んで、銀河としては大型な部類のちょうこくしつ座の「NGC253」に決めました。大きな銀河なのですが、自宅から見ると南天時でも高度28度とかなり低いところを通り、撮影する時間が限らるため、なかなか難しい天体です。しかも自宅の南側に電線があるので、でできるだけ電線からははなれてかなり自宅寄りに赤道儀を設置します。自宅屋根がギリギリ入るか入らないかの位置で、できるだけ撮影時間を稼ぎます。さらに後半の南西方向には高い木があり、なかなか厳しいです。

今回の狙いは3点
  1. 重いSCA260と耐荷重ギリギリのCGEM IIでの揺れの影響がどれくらいなのか見ること
  2. LRGB撮影と画像処理の手法確立
  3. 分解能がどれくらい出るのか確認
です。といっても、条件はM33の時と変わらず、同設定の繰り返しになるので再現性を確かめるような意味合いも強いです。


撮影

まず1の揺れについてです。試しに露光3分で何枚かだけ撮影したましたが、やはり揺れすぎで全ての画像で星像が丸にならずに早々と諦めます。露光1分にするとそこそこ星像が丸になります。これは前回のM33の時と同様で再現性ありです。逆にいうと、今の設定では1分露光くらいで頭打ちということが確認できてしまったようなものなので、何らかの改善策が必要になります。

ゲインに関してはM33の時の200から今回は120に変えています。ダイナミックレンジが少し得になるはずです。今後露光時間を伸ばして明るくなる時のための練習も兼ねています。ライトフレームの撮影は11月3日、その後11月7日の休日にbias、dark、flat、flatdarkを撮影しています。各補正フレームはM33用のゲイン200と、NGC253用のゲイン120で撮っておいたので、それらを使います。M33とNGC253の撮影で接眼部の回転装置は触っていないので、視野がずれるようなことはないはずなので多分大丈夫なはずです。

2.のLRGB撮影ですが、RGBフィルターはBaaderのもの、L画像はフィルター無しでやってます。電動タイプのフィルターホイールを使っていますが、RGBとLではピント位置が違うので、マニュアルでピントを合わせ直しています。同じ厚さのLフィルターを手に入れればピント合わせなしで済むので購入を考えた方がいいかもしれません。目安はLが120分、RGBがそれぞれ30分程度です。撮影順序はL→B→R→G→Lです。


画像処理

画像処理ではPixIsightのWBPPでLRGBを一度にまとめて処理できるかどうが試してみました。ファイル名なのか、fitsファイルのタグの中なのかわかりませんが、うまくライトフレームもフラットフレームもLRGBをうまく区別してくれました。

フラットフレームは部屋の白い壁を写しましたが、Lが0.5秒、RGBが暗いので1秒で撮影しています。でもflat darkの時間を1秒で一種類しか取らなかったので、RGBにフラットダークを割り当てることがうまくいきませんでした。darkの時間をあらわに外して指定することで一見通りそうに見えたのですが、実際にWBPPを走らせると途中で止まってしまいます。そのため結局RGBにはflat darkを使わず、代わりにMasterのみ補正して処理することになってしまいました。M33の時にはLRGBをそれぞれ独立WBPPにかけたました。この時もflat darkの時間を一種類しか取らなかったのですが、個別処理の時はdarkの時間をあらわに外して指定することで普通に通ったので、まだ個別処理と一括処理の整合性が取れていないようです。

もう一つの大きな問題点が青のムラです。M33の時にも同様な青のムラが現れたので、どうも再現性ありです。M33の時には青のライトフレームに雲が入ったのではと思っていたのですが、フラット画像を見てみると白い壁を写したはずのフラット画像にもムラがあります。RとGにはそこまであらわなムラは確認できません。


フラット画像の謎

ちょっとフラットに関して色々疑問が出てきたので、まずはそれを確認するためにフラット画像をマニュアルでそれぞれストレッチして特徴がわかりやすいようにしてみてみました。

L画像: ゴミがひどいですが、フィルターなしなのでこのゴミがどこから来ているのか不明です。そしてそのゴミのリングを見ると対象ではないです。光軸がまだずれているかもしれません。またよく見ると縦横の格子状の島があります。これはなんでしょうか?
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R画像: Lのゴミに加えて、さらにRフィルターについていると思われるゴミがあります。格子状の模様も同じく確認できます。周辺減光に関してはなぜかLよりもマシかもしれません。これも理由不明です。
masterFlat_BIN-2_FILTER-R_Mono

G画像: 周辺の急激な落ち込みがひどいです。Gフィルターについていると思われるゴミもあります。縦横の縞もあまり目立たないですが存在します。
masterFlat_BIN-2_FILTER-G_Mono

B画像: 周辺の落ち込みもありますが、何よりムラムラです。縦横の縞もよく見るとやはり存在します。
masterFlat_BIN-2_FILTER-B_Mono

まとめると
  • ゴミが多いこと
  • 格子状の模様が全てに存在していそうなこと
  • 周辺減光の様子がLRGBで結構違うこと
  • 青のみに大きな構造のムラがあること
うーん、かなり問題がありそうです。これまでこんなことはなかったので、大口径のフラット撮影を見直す必要がありそうです。そういえばTSA-120の初期の頃に赤だけ変な模様が出たことがありました。この時はMacbook Proをフラットパネルがわりにして撮影していたのですが、その後シンプルに袋とかかぶせることもにしないで、白い壁に太陽光を拡散させた状態で撮影することでこのような問題は無くなりました。今回もこの方法を踏襲しています。ただし、口径26cmのような広く同一に光が当たる面がなかなかないので、同じ部屋で場所を少し変え蛍光灯の人工光としました。また、壁はTSA-120の時もSCA260の時も真っ白ではなく縦横に数ミリの幅で編み込んで見えるような壁紙です。この縦横が出たのかもしれませんが、距離で言ったらピントは全く合っていないので影響はないと考えていました。

いずれにせよフラット撮影をもう少し検討します。


結果

前回のM33同様、最初にRGBを合成し、その後LRGBを合成しています。そこからPhotoshopに渡しますが、実は画像処理は、青のムラと縦横縞でかなり苦労しました。炙り出すと縦横縞も見えてきてしまいました。今回は仕上げであまり目立たないようにしています。

結果です。

「ちょうこくしつ座: NGC253」
Image17_crop_ABE_ABE_DBE_DBE_PCC_DBE_mod2
  • 撮影日: L: 2021年11月3日19時53分-21時38分、11月4日0時25分-1時5分、R: 2021年11月3日22時21分-22時54分、G: 2021年11月3日22時55分-23時28分、B: 2021年11月3日21時47分-22時20分
  • 撮影場所: 富山県富山市自宅
  • 鏡筒: SHARP STAR製 SCA260(f1300mm)
  • フィルター: Baader RGB、Lはフィルターなし
  • 赤道儀: Celestron CGEM II
  • カメラ: ZWO ASI294MM Pro (-10℃)
  • ガイド: f120mmガイド鏡 + ASI120MM mini、PHD2によるマルチスターガイドでディザリング
  • 撮影: NINA、Gain 120、露光時間1分、L:103枚、R:25枚、G:25枚、B:29枚で総露光時間3時間2分dark: Gain 120、露光時間1分、L:64枚、flat: Gain 120、露光時間0.5秒(L)、1秒(RGB)、LRGB各:128枚、flatdarkはLRGB共通: Gain 120、露光時間0.5秒、128枚
  • 画像処理: PixInsight、Photoshop CC

仕上げた画像を見る限り、分解能はかなり満足です。ただし揺れている画像は省いているのですが、枚数を稼ぎたいのである程度妥協しています。風の吹き具合だと思うのですが、LRGBのそれぞれで径が違って出てしまいます。なので、まだ改善する余地があるはずです。

いつものおまけのAnnotationです。

Image17_crop_ABE_ABE_DBE_DBE_PCC_DBE_mod2_Annotated


まとめ

SCA260の2作例目としてちょうこくしつ座のNGC253を選びました。分解能に関してはかなり満足する結果となりましたが、まだ赤道儀の揺れが存在することと、フラット撮影に問題があります。2回目の撮影なので慣れてきましたが、いろいろと問題も認識できてたと言ったところでしょうか。

このSCA260の性能はすごいと思います。決して安くはない鏡筒ですが、この性能を考えたら十分すぎるくらい納得の値段です。まだ性能を引き出し切れていないところにもどかしさを感じますが、徐々に手応えを感じてきています。銀河だけでなく、例えばフルサイズの一眼でカラー撮影など、まだまだいろいろ試してみたいです。

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