限りなく皆既に近い月食から1月以上経ち、もうほとんど話題にあがることもなくなってきました。
今回の記事を公開するかどうか随分迷いましたが、やはり考えた過程として残しておこうと思います。多少衝撃的な内容かもしれませんが、全く間違っている可能性もあるので、あまり気にしないでください。
まずはこの記事を書こうと思った動機です。ターコイズフリンジ に関して、TSA-120で撮影したものと、FC-76で撮影したものに、大きな違いがあったことがきっかけとなります。
TSA-120の場合
まずはTSA-120で撮影したもの。皆既にかなり近い時間帯の月食です。
1. まずはできたTiFF画像をPhotoshopで限りなくシンプルに処理してみました。ヒストグラムを見ながら背景のピークを合わせるだけです。
月食当日にライブで処理してTwitterに投稿した時がこれくらいの処理でした。
他の方の投稿を見てターコイズフリンジ があまりに出ていないので、少しがっかりしたのを覚えています
2. 次にもう少し濃い赤銅色を目指し、赤をレベル補正のみで出した場合。これだとどうしても青い成分が出てこなくて、ターコイズフリンジらしいものは全く出てきません。
3. 次に上の画像を、トーンカーブでBlueの明るい部分を上げることで、かなり無理をして青を出します。わかりにくいですが、境のところの色に青成分が出てきているのがわかるかと思います。でもこの時点で真っ当な画像処理とは言い難くなってきてしまいます。
4. さらに眼視で見た時に近くなるようにしてみます。青成分が含まれていることがわかりターコイズフリンジらしいものが見えてきます。
5. さらにかなり苦労してですが、明るい部分と暗い部分の境が出る様に処理すると、綺麗なターコイズフリンジが出てきているように見え、一般的にいうターコイズフリンジ が見えている月食のような画像になります。
上の画像は以前の記事で最後に「ターコイズフリンジ が見えている」と言って出した画像と雰囲気は近いです。以前の記事でも述べているのですが、はっきり言ってかなり無理をして青を出している気がします。ターコイズフリンジを見るのにここまでの画像処理を必要とするほど大変なのでしょうか?
FC-76の場合
その一方、FC-76で撮影した画像で処理をしてみました。そうすると今度は拍子抜けするほど簡単にターコイズフリンジらしいものが出てくるのです。
さて、スタックと細部出しを終えた画像をもとに、画像処理を進めます。
1. Photoshopで背景のピークを合わせたのみです。TSA-120の時とカメラは同じASI294MCなのでカラーバランスはそもそもあまり変わらないはずです。背景のピークを合わせただけなのでほとんど同じようになると思うのですが、既に青っぽくなっています。また、赤銅色部分も右上が明るく、左下(右下も)は暗くなっているのがわかります。この目でTSA-120の画像を見返すと赤銅色部分の明るさに差が少なくのっぺりしているのがわかります。
2. ほんの少し青を強調するだけで、境のところに青っぽいところが出てきました。すでにかなりターコイズフリンジっぽいです。
3. そこからさらに少しいじるだけでかなり明確に青いところが出てしまいます。TSA-120で苦労して出した最後の画像と比べると、差は明らかでしょう。
出来上がった画像を比較してみても、TSA-120の方は赤銅色のところの明るさの差が少なくのっぺりしています。一方、FC-76の方は赤銅色の部分の明るいところと暗いところの差があります。明るい部分が拡散されている様な感じです。
改めて機材を見返してみると、カメラの条件はASI294MC同士なのでほぼ同じはずです。違いは
他の方の情報でも、ターコイズフリンジが出ている場合と出ていない場合が分かれているような気がします。
とりあえずここまででは私が経験したことや、聞いたことを書いただけで、これだけでは全く結論は出ません。青色部分が多かれ少なかれ存在するのは確からしいです。ただし、本当にオリジナルのオゾン層の影響で見えているものなのか、それとも画像処理に伴って何か見えてきたものなのか、判断がとても難しいです。
加えて、赤銅色の加減自身も相当難しいです。とにかく月食時の基準となる色を客観的には何を参照にすればいいのか、結局は不明でした。そうなると自分の感覚に頼るしかありません。
そもそも、ターコイズフリンジ が出てくる原因はオゾン層にあると言われています。
以上の情報から、オゾン層を通った青い光がほぼ真っ直ぐ進むなら、オゾン層の厚さがそのままターコイズフリンジの幅となりそうです。オゾン層は高度10kmから50km程度の厚さ40kmのところに90%が存在するとのことなので、地球の半径が6400kmとすると、 40/6400=0.6%ほどとなるはずです。前回撮影した画像の地球の影
から考えると、月の直径は地球の半径のざっくり半分程度です。とすると、青い光が真っ直ぐ進むと考えるなら、月の直径の1.2%程度の厚さにしからなず、非常に細いターコイズフリンジにしかならないはずです。もしこの推測が本当に正しいのなら、私の画像も含めて青い部分が月の直径の1割とかもあるような画像を説明するのが難しくなってしまいます。
ここまではあくまで素人のラフな見積もりですが、少し学術的な方向に注目してみましょう。ターコイズフリンジ については、Gedzelman, S. D. & Vollmer, M. 2008, Appl. Opt., 47, 149が初期の頃に出た論文のようです。月食時にどのように見えるかのシミュレーションの結果が実際に2008年に撮影された写真とともに載っています。これを見ると、青い部分の幅が月の直径の10-20%ほどになっています。
ただし、シミュレーションの詳細については書かれていないことと、写真についても画像処理の方法については何も書かれていないので、どのくらい強調しているなどはやはりわかりません。それでも青い部分が存在することは確からしいので、ターコイズフリンジが存在するのは間違い無いのでしょう。ただ、シミュレーションの色の結果についても「まだ正確ではなくデータ不足」と論文中にはっきり書いてあるので、ターコイズフリンジの太さについてはよくわからないようです。
あと、月食当日に双眼鏡で覗いた時の様子を書いておきます。使った双眼鏡はいつも車に入れている2019年の「星もと」で手に入れたJasonというブランドのクラシカル双眼鏡です。
見えた月はまだはっきりと記憶に残っています。まず、赤銅色と言われるものは画像になっているような派手な色ではなく、かなり落ち着いた色でした。最大食から少ししてから見たので、明るい部分が多少出始めていて、その明るさが、背景を含み食の部分にも影響を及ぼしています。よく言うと、すごくナチュラルに見える月食で、悪く言うとコントラストが悪いと言えるのかもしれません。重要なことは、明るいところと食の暗いところの境に明らかに青緑色の部分がはっきり見えたことです。これは気のせいでもなんでもなく、何度見てもはっきりと見えました。「これがターコイズフリンジか」とかなり感動しました。
ただ、上の画像やTwitterで示したように、その場で処理した最大食時のTSA-120には全くその青緑が写らず、明らかに見た目と違っていました。また、この双眼鏡は相当古いものであり、整備してあるとはいえコントラストがどこまで良いのかはよくわかりません。
もしコントラストが悪いと、鏡筒で違いが出たことも含めて、以下のようなことも可能性としては考えられます。
皆既に近い月食をまねてPhotoshopでポンチ絵で描いてやります。明るい部分はRGBで192:192:192のグレー、赤銅色部分はRGBで64:32:0としました。
上の画像に、Photshopの「Camera Raw フィルター」の「かすみの除去」のスライダーを-80にして、わざとかすみを与えてやります。
見た目はそれほど変わりませんが、明るい部分が暗い部分に少し浸食しています。コントラストが低下したような状態を再現しています。
次にこの画像をPhotoshopのトーンカーブでBlueを持ち上げてやります。
すると、明るいところと赤銅色の境のところに、青みがかった色が出てきます。
その一方、「かすみの除去」機能を使わないでコントラストを高く保ったまま同様にトーンカーブでBlueを持ち上げてやった場合には、上記のような赤銅色の境のところに、青みがかったような色は一切出てきません。
以上のことは白色の非常に明るい部分が、悪いコントラストにより、暗い部分を侵食する可能性があることを示しています。コントラストが十分良いと、このような侵食は無いということです。
月食中は、月の明るいところと、皆既月食の赤銅色のような暗いところというように、明るさに差があります。さらにその月を撮影するときに、雲越しであったり、低空で霞んでいたり、今回の撮影のように鏡筒の状態などによって、コントラストが悪い場合があります。そのような状態では、上記のような過程が起こることがあり、画像処理によっては擬似的に青い部分が見受けられることもあるかもしれません。
同様なことを考察したアマチュアの記事も随所に散見します。例えば「ほんのり工房さん」は色温度について議論していて興味深いです。
TSA-120とFC-76で撮影したものと、双眼鏡で目で見たもののそれぞれの違いをどう説明したらいいのか?コントラストの低下が青い色を出している可能性を考えてみました。このコントラスト説が正しいのかどうかまだ全くわかりません。
オゾン層が成層圏を中心に大気の密度の薄いところにあるために、そこを通る青い光は真っ直ぐ進むというものすごく簡単な仮定から、ターコイズフリンジ は月の直径の1%程度とかなり細くなるのではと考えましたが、これはこれまでに撮影されている多くの結果とはかなり異なります。
論文によるとシミュレーションの結果から青い部分が出るのはおかしく無いとのことですが、やはりどれくらいの領域で出るかははっきりとはわからないようです。月の直径の1ー2割出ている結果のようにも見えますが、画像処理などの過程も不明なため、結果は注意深く見る必要がありそうです。
色々考えさせられた月食でしたが、今回はまだたいしたデータも揃っていませんし、考察も不十分ですので、結論を出すには全然至りません。次回はもう少し謎に迫れるよう色々考えてみたいと思います。
今回の記事を公開するかどうか随分迷いましたが、やはり考えた過程として残しておこうと思います。多少衝撃的な内容かもしれませんが、全く間違っている可能性もあるので、あまり気にしないでください。
TSA-120とFC-76での違い
まずはこの記事を書こうと思った動機です。ターコイズフリンジ に関して、TSA-120で撮影したものと、FC-76で撮影したものに、大きな違いがあったことがきっかけとなります。
TSA-120の場合
まずはTSA-120で撮影したもの。皆既にかなり近い時間帯の月食です。
- 機材はTSA-120 + ASI294MC Pro(常温) + 35フラットナー + UV/IRカットフィルター + CGEM IIです。
- 撮影はSharpCapで25ミリ秒露光、ゲインが220で100枚撮影をワンショットとし、serフォーマットで記録します。
- これをAS!3でスタックしRegistaxで軽く細部を出しています。ここがスタートです。
1. まずはできたTiFF画像をPhotoshopで限りなくシンプルに処理してみました。ヒストグラムを見ながら背景のピークを合わせるだけです。
月食当日にライブで処理してTwitterに投稿した時がこれくらいの処理でした。
最大食(18時3分頃)を簡易画像処理。
— Sam@ほしぞloveログ (@hoshizoloveblog) November 19, 2021
TSA-120+ASI294MC Pro(常温)で、25ms露光、ゲイン320。125/250フレームをAS!3でスタック、Registax6でWavelet、Photoshopで処理。
赤銅色がかなりきれいで、皆既でなくても相当満足です。 pic.twitter.com/csxQOy0Voc
他の方の投稿を見てターコイズフリンジ があまりに出ていないので、少しがっかりしたのを覚えています
2. 次にもう少し濃い赤銅色を目指し、赤をレベル補正のみで出した場合。これだとどうしても青い成分が出てこなくて、ターコイズフリンジらしいものは全く出てきません。
3. 次に上の画像を、トーンカーブでBlueの明るい部分を上げることで、かなり無理をして青を出します。わかりにくいですが、境のところの色に青成分が出てきているのがわかるかと思います。でもこの時点で真っ当な画像処理とは言い難くなってきてしまいます。
4. さらに眼視で見た時に近くなるようにしてみます。青成分が含まれていることがわかりターコイズフリンジらしいものが見えてきます。
5. さらにかなり苦労してですが、明るい部分と暗い部分の境が出る様に処理すると、綺麗なターコイズフリンジが出てきているように見え、一般的にいうターコイズフリンジ が見えている月食のような画像になります。
FC-76の場合
その一方、FC-76で撮影した画像で処理をしてみました。そうすると今度は拍子抜けするほど簡単にターコイズフリンジらしいものが出てくるのです。
- 機材はFC-76 + ASI294MC + Advanced VXです。
- 撮影ソフトはFireCapture、露光時間は25ミリ秒でゲインが220です。70枚程度をワンショットとし、serフォーマットで記録します。
- これをAS!3でスタックしRegistaxで軽く細部を出しています。ここがスタートです。
TSA-120での撮影との違いは鏡筒以外ほとんどなく、カメラはProかどうかの違いはありますがともにASI294MCで同等。ソフトはSharpCapとFireCaptureですが、同露光時間で同ゲイン、撮影枚数は100枚と70枚ですがまあ同等と言っていいでしょう。
やはり一番の違いは鏡筒で、特にFC-76はジャンク品で白濁している対物レンズというところが最大の違いなのかと思います。
そのため、少しコントラストが落ちるということを確認しています。やはり一番の違いは鏡筒で、特にFC-76はジャンク品で白濁している対物レンズというところが最大の違いなのかと思います。
さて、スタックと細部出しを終えた画像をもとに、画像処理を進めます。
1. Photoshopで背景のピークを合わせたのみです。TSA-120の時とカメラは同じASI294MCなのでカラーバランスはそもそもあまり変わらないはずです。背景のピークを合わせただけなのでほとんど同じようになると思うのですが、既に青っぽくなっています。また、赤銅色部分も右上が明るく、左下(右下も)は暗くなっているのがわかります。この目でTSA-120の画像を見返すと赤銅色部分の明るさに差が少なくのっぺりしているのがわかります。
2. ほんの少し青を強調するだけで、境のところに青っぽいところが出てきました。すでにかなりターコイズフリンジっぽいです。
3. そこからさらに少しいじるだけでかなり明確に青いところが出てしまいます。TSA-120で苦労して出した最後の画像と比べると、差は明らかでしょう。
出来上がった画像を比較してみても、TSA-120の方は赤銅色のところの明るさの差が少なくのっぺりしています。一方、FC-76の方は赤銅色の部分の明るいところと暗いところの差があります。明るい部分が拡散されている様な感じです。
- TSA-120 -> 赤い、ターコイズフリンジが出ない、赤銅色部分に明暗が少ない。
- FC-76 -> 簡単にターコイズフリンジが出る、赤銅色部分に明暗がある。
改めて機材を見返してみると、カメラの条件はASI294MC同士なのでほぼ同じはずです。違いは
- TSA-120: 焦点距離900mmで35フラットナーが入っている。UV/IRカットフィルターが入っている。TSA-120はそもそも屈折鏡筒の中でもコントラストは抜群にいい。
- FC-76: 焦点距離600mmでマルチフラットナーなど入れてないので、周辺で歪みあり。フィルターは無し。白濁ありで、コントラストがかなり悪いかも。
他の方の情報でも、ターコイズフリンジが出ている場合と出ていない場合が分かれているような気がします。
- 一部の情報で同じ機材でも露光時間が短いとターコイズフリンジが見えなくて、露光時間を長くするとターコイズフリンジが出やすくなると言うのがありました。これももしかしたらある程度以上露光をすると明るいところの影響が周りに出やすくなりターコイズフリンジらしく見えるのでしょうか?
- また、山の上に登るなど高度の高い所で撮影した画像にはターコイズフリンジが出なかったという話も聞きました。大気のかすみ具合によるコントラストの悪化影響が効くかもしれないということを示唆しているのでしょうか?
とりあえずここまででは私が経験したことや、聞いたことを書いただけで、これだけでは全く結論は出ません。青色部分が多かれ少なかれ存在するのは確からしいです。ただし、本当にオリジナルのオゾン層の影響で見えているものなのか、それとも画像処理に伴って何か見えてきたものなのか、判断がとても難しいです。
加えて、赤銅色の加減自身も相当難しいです。とにかく月食時の基準となる色を客観的には何を参照にすればいいのか、結局は不明でした。そうなると自分の感覚に頼るしかありません。
オゾン層について
そもそも、ターコイズフリンジ が出てくる原因はオゾン層にあると言われています。
- まず、月食とは太陽と月の間に地球が入り込み、地球の影が月の食になるということです。
- 地球の影で暗くなるはずなのに、月食時に赤銅色が出るのはなぜかというと、赤い光は地球の大気のところで屈折するために、本来届かない食のところに到達し、赤銅色を作ります。夕焼けが赤くなるのと同じ理由とのことです。
- 青い光はレイリー散乱と呼ばれる大気での散乱のために、月には届きません。これが色部分に青い色がないことの理由です。
- ではなぜターコイズフリンジ がでるかというと、地球のオゾン層を通るときに、赤よりも青い光に対して透過率が高いからとのことです。
- オゾン層は大気のかなり上部にあるため、空気が少なくレイリー散乱が起きないために、青い光はそのまま透過し、屈折などもせずにまっすぐ月まで届くとのこと。その光がターコイズフリンジとなるようです。
以上の情報から、オゾン層を通った青い光がほぼ真っ直ぐ進むなら、オゾン層の厚さがそのままターコイズフリンジの幅となりそうです。オゾン層は高度10kmから50km程度の厚さ40kmのところに90%が存在するとのことなので、地球の半径が6400kmとすると、 40/6400=0.6%ほどとなるはずです。前回撮影した画像の地球の影
から考えると、月の直径は地球の半径のざっくり半分程度です。とすると、青い光が真っ直ぐ進むと考えるなら、月の直径の1.2%程度の厚さにしからなず、非常に細いターコイズフリンジにしかならないはずです。もしこの推測が本当に正しいのなら、私の画像も含めて青い部分が月の直径の1割とかもあるような画像を説明するのが難しくなってしまいます。
ここまではあくまで素人のラフな見積もりですが、少し学術的な方向に注目してみましょう。ターコイズフリンジ については、Gedzelman, S. D. & Vollmer, M. 2008, Appl. Opt., 47, 149が初期の頃に出た論文のようです。月食時にどのように見えるかのシミュレーションの結果が実際に2008年に撮影された写真とともに載っています。これを見ると、青い部分の幅が月の直径の10-20%ほどになっています。
ただし、シミュレーションの詳細については書かれていないことと、写真についても画像処理の方法については何も書かれていないので、どのくらい強調しているなどはやはりわかりません。それでも青い部分が存在することは確からしいので、ターコイズフリンジが存在するのは間違い無いのでしょう。ただ、シミュレーションの色の結果についても「まだ正確ではなくデータ不足」と論文中にはっきり書いてあるので、ターコイズフリンジの太さについてはよくわからないようです。
双眼鏡で除いた時の見え方
あと、月食当日に双眼鏡で覗いた時の様子を書いておきます。使った双眼鏡はいつも車に入れている2019年の「星もと」で手に入れたJasonというブランドのクラシカル双眼鏡です。
見えた月はまだはっきりと記憶に残っています。まず、赤銅色と言われるものは画像になっているような派手な色ではなく、かなり落ち着いた色でした。最大食から少ししてから見たので、明るい部分が多少出始めていて、その明るさが、背景を含み食の部分にも影響を及ぼしています。よく言うと、すごくナチュラルに見える月食で、悪く言うとコントラストが悪いと言えるのかもしれません。重要なことは、明るいところと食の暗いところの境に明らかに青緑色の部分がはっきり見えたことです。これは気のせいでもなんでもなく、何度見てもはっきりと見えました。「これがターコイズフリンジか」とかなり感動しました。
ただ、上の画像やTwitterで示したように、その場で処理した最大食時のTSA-120には全くその青緑が写らず、明らかに見た目と違っていました。また、この双眼鏡は相当古いものであり、整備してあるとはいえコントラストがどこまで良いのかはよくわかりません。
もしコントラストが悪いと、鏡筒で違いが出たことも含めて、以下のようなことも可能性としては考えられます。
コントラストの影響の簡単な実験
皆既に近い月食をまねてPhotoshopでポンチ絵で描いてやります。明るい部分はRGBで192:192:192のグレー、赤銅色部分はRGBで64:32:0としました。
上の画像に、Photshopの「Camera Raw フィルター」の「かすみの除去」のスライダーを-80にして、わざとかすみを与えてやります。
見た目はそれほど変わりませんが、明るい部分が暗い部分に少し浸食しています。コントラストが低下したような状態を再現しています。
次にこの画像をPhotoshopのトーンカーブでBlueを持ち上げてやります。
すると、明るいところと赤銅色の境のところに、青みがかった色が出てきます。
その一方、「かすみの除去」機能を使わないでコントラストを高く保ったまま同様にトーンカーブでBlueを持ち上げてやった場合には、上記のような赤銅色の境のところに、青みがかったような色は一切出てきません。
以上のことは白色の非常に明るい部分が、悪いコントラストにより、暗い部分を侵食する可能性があることを示しています。コントラストが十分良いと、このような侵食は無いということです。
月食中は、月の明るいところと、皆既月食の赤銅色のような暗いところというように、明るさに差があります。さらにその月を撮影するときに、雲越しであったり、低空で霞んでいたり、今回の撮影のように鏡筒の状態などによって、コントラストが悪い場合があります。そのような状態では、上記のような過程が起こることがあり、画像処理によっては擬似的に青い部分が見受けられることもあるかもしれません。
同様なことを考察したアマチュアの記事も随所に散見します。例えば「ほんのり工房さん」は色温度について議論していて興味深いです。
まとめ
TSA-120とFC-76で撮影したものと、双眼鏡で目で見たもののそれぞれの違いをどう説明したらいいのか?コントラストの低下が青い色を出している可能性を考えてみました。このコントラスト説が正しいのかどうかまだ全くわかりません。
オゾン層が成層圏を中心に大気の密度の薄いところにあるために、そこを通る青い光は真っ直ぐ進むというものすごく簡単な仮定から、ターコイズフリンジ は月の直径の1%程度とかなり細くなるのではと考えましたが、これはこれまでに撮影されている多くの結果とはかなり異なります。
論文によるとシミュレーションの結果から青い部分が出るのはおかしく無いとのことですが、やはりどれくらいの領域で出るかははっきりとはわからないようです。月の直径の1ー2割出ている結果のようにも見えますが、画像処理などの過程も不明なため、結果は注意深く見る必要がありそうです。
色々考えさせられた月食でしたが、今回はまだたいしたデータも揃っていませんし、考察も不十分ですので、結論を出すには全然至りません。次回はもう少し謎に迫れるよう色々考えてみたいと思います。