ほしぞloveログ

天体観測始めました。

友人が撮影した北アメリカ星雲の画像を触る機会がありました。画像処理は初心者で、有料のソフトは使っていないとのことです。あらかじめ画像をダウンロードさせてもらって、事前に処理しておいて、その結果を元に時間が合う時にZoomで繋いで画面共有しながら画像処理について検討します。

私としてはいい機会だったので、普段とは違う画像処理を試しました。というわけで、今回のブログ記事のお題は「全て無料の画像処理ソフトで進めた場合、有料のものにどこまで迫れるか」としてみます。

といっても、忘備録がわりの自分のメモ用の側面が強いので、あまり初心者向けの記事にはなっていません。需要があるとしたら、普段PixInsightとか使っていて、他の無料ソフトを試してみようかとか思うような、ちょっと珍しい人向けです。


有料/無料画像処理ソフト

ダウンロードした画像を、まず最初はいつも通りPixInsightとPhotoshopで進めます。撮影されたファイルはライトファイルとダークファイルです。フラットファイル、バイアスファイルはなしです。
  1. WBPPでダーク補正とスタック
  2. ABEの4次でカブリ取り
  3. SPCCで色合わせ
  4. BXTで星を小さくし
  5. GHSでストレッチ
  6. NXTでノイズ除去
  7. StarNetで恒星と背景を分離
  8. その後Photoshopに送り、仕上げ
となります。この流れはいつものことなので、詳しい処理内容は省きます。できた画像は以下のようになります。

masterLight_60_00s_ABE_BXTc_SPCC_BXT_GHSx2_NXT3_cut

一方、無料ソフトに制限すると、最近の状況を見るに、以下の選択肢が現実的ではないかとでは思っています。
  1. ダーク補正してスタックするのにSiril
  2. 同じくSiri上で色合わせとDeconvolution
  3. GraXpertに移ってフラット化とストレッチとdenoise
  4. StarNetで恒星と背景を分離
  5. その後GIMPに移って仕上げ
できた画像は以下のとおりです。

starless_result_PCC_deconv_stretched_GraXpert_cut

鮮やかさは誤差の範囲として、恒星の大きさ、背景のノイズ、明るいところの細かい構造などが大きな違いでしょうか。淡いところの構造は、無料の方が出ているかと思います。こうやってみると、有料ソフトと比べても、全然遜色なく、十分処理できていると思います。

各ソフトの詳しい操作などは他の解説にゆずるとして、ポイントのみ書いておきます。


まずはSiril



このブログではこれまでSirilについて述べたことはほとんどないのですが、最近のSirilはかなり使えるようになっていると思います。一時期試しに少し使ったことがあるのですが、結構頻繁に落ちて不安定なイメージでした。でも今は、少なくとも落ちるようなことはまずなく、普通に処理ができます。この「普通に」というのは結構重要です。まずストレスがなくなりますし、特に初心者にとっては自分の操作がダメなのかソフトのトラブルなのかの見分けがつきにくいと思うので、普通に安定に動くというのは目立たないけどとても大切なのかと思います。

いつもはPixInsightなので、Sirilの操作に慣れてはいなくてとまどうことはありましたが、検索すると解説記事などすぐに見つかり、その通りに進めれば簡単にスタックまで終えることができると思います。気がついたことのみ書いておきます。
  • 最初にワーキングディレクトリを決めること。画面左上の家マークのアイコンを押して指定してやることでしていできます。処理画像のたびに指定してやる必要があります。
  • 指定したホームディレクトリの下に、lights、darks、flats、biasesとフォルダを作って、撮影したRAWファイルをその中に分類して入れます。フォルダ名の複数のsとか、きちんと指定しないと「ファイルがみつからない」とかのエラーになってうまく処理されません。
  • スタックをするためには、左上の「スクリプト」タブを押して、処理したいプロセスを選びます。今回はライトとダークファイルのみだったので、それに合わせたスクリプトがありませんでした。実際スクリプトを進めようとするとヘルプが出てきますが、英語なのでちょっと面倒かもしれません。とりあえず書いてあることはhttps://gitlab.com/free-astro/siril-scriptsを開いて、必要なスクリプトをダウンロードせよということです。prepcocessingを開き、今回必要なフラット補正を省いた処理(バイアス補正も無いようです)「OSC_Preprocessing_WithoutFlat.ssf」を選び、ダウンロードします。
  • 問題は、これのスクリプトファイルをどこに置くかです。Windows版は説明が普通にすぐ見つかるのですが、Mac版の場合どこに置けばいいか迷いました。結局、Sirilのメニューの設定からスクリプトタブを選び、そこに書かれているフォルダ内にダウンロードしたスクリプトを置いてやれば認識されることがわかりました。ただ、そこに書かれているフォルダがそもそも存在していないことが多いので、改めて自分でフォルダを作ってやる必要があります。
  • スクリプトが認識されたら、左上の「スクリプト」タブを押して、今回落としたプロセスを選びます。すると処理が始まり、スタックされた画像が保存されます。
Sirilは、PixInsightに比べると指定できるオプションは圧倒的に少ないですが、むしろPixInsightの設定項目は多すぎて使いこなせていない方も多いと思います。初心者ならあえて迷うことがないSirilにするというのはありだと思います。PixInsightの方が細かい設定ができるので、いつかSiriで処理結果に不満が出てきたなら、PixInsightに移行することを考えるという道を辿ったほうが迷いが少ないかもしれません。

スタックまでに関していえば、有料のPixInsightだろうがステライメージだろうが、無料のSirilだろうがもっとシンプルなDSSだろが、結果に大きな違いはあまり出ない気がします。撮影ファイルの条件によっては、色々トリッキーなオプションがあるPIが有利とかはあるかもしれませんが、そこで出てくるような差があるなら撮影条件を見直してきちんとしたRAW画像を得る方が真っ当な気がします。なので、個人的な意見としては、スタックまでは有料無料の差はそこまで無いのではないかというのが今回の感想です。

違いが出るのはスタック後のリニア処理でしょうか。そもそもリニア処理というのも元々PI用語と言ってしまっていいのかもしれません。PixInsightでは例えば色合わせは、PCC、SPCCなどと進化してきました。Sirilにも同様のPCC (Photometric Color Calibration)があり、その際に恒星の認識できちんと位置合わせもします。なのでコンセプトはどんどんPIに近くなっていると言っていいのでしょう。ただ、やはり細かい設定とか、SPCCで基準フィルターまで考慮するとかなど、PIにまだ一日の長があるかと思いました。色合わせした結果だけ見ると、PIのPCCとSPCCでもそこまで差が出ないように、Sirilでも特に不満はありません。むしろ無料でここまでできることを素直に評価すべきだと思います。

決定的に違うのはBXT(BlurXTerminatot)の存在でしょう。収差、四隅のズレ、ピンボケ、ガイド流れなど、BXT以前では鏡筒や赤道儀の制御など、ハードウェアで改善するしかなかった高度な調整を、ソフトで相当なレベルまで補正してしまいます。また、星雲本体などの細部出しにもかなり有用です。特に入門用撮影鏡筒と高性能撮影鏡筒との差をかなり縮めてくれるので、初心者にむしろ使って欲しいところなのですが、今のところBXTはPIの上でしか動かすことができず、無料ソフトでは到底太刀打ちできません。BXTが単体で動くようになればいいのですが、BXTの為だけにPIを導入するのもアリなレベルかと思います。ただしPIと合わせると値段が...。


GraXpert

次のフラット化ソフトですが、有料ソフトでも未だ決定打はないのかと思っています。光学的なフラット補正は当然するのですが、それでも不十分な場合が多くて、 淡いところを引き出し切るにはさらにソフト的にフラット化をするのが必須になっています。

PixInsightだと、ABE、DBE、GC(GradientCorrectiopn)など、選択肢はそこそこあります。単純なフラット化は何を使ってもそこそこうまくいくのですが、画面一面分子雲で埋もれているような場合には、複数のフラット化処理をしたり微調整をすることなども含めて、かなり手間です。また、PI以外では有料ソフトも含めてあまりフラット化に関する補正はあまり開発されていなくて、昔からPhotoshopなどを利用して画像全体をぼかして大まかな勾配を作り出しそれで補正するなどの手がとられてきました。PixInsight無しできちんとフラット化しようとすると、かなり手間がかかる割に、淡いところを引き出し切るのにはまだまだ不十分な印象です。


ここで出てくる、ある意味決定打に近いものが無料のGraXpertです。


GraXertについては以前CP+の時に解説しました。

よかったら、リンク先の動画と共に以下お読みください。

GraXpertを使うと、あまりに簡単にフラット化できてしまって、かつ設定項目が少なくて細かい調整ができないので、私は普段はあまり使わないのですが、今回比較してみてびっくりしました。PIでかなり気合を入れて調整をし無い限り、淡い部分に関してはGraXpertが圧勝です。私は基本的GraXpertのエンジンにはKrigingを使います。他も試しましたが、少し時間はかかってもこれが一番良い結果を生むことが多いです。PixInsightで今検討されている、バックグラウンドまで参照データと比較するMARS機能が出たらまたわかりませんが、もう相当レベルまでGraXpertだけで良い気がしました。これで不満が出るならPixInsigtの各ツールを駆使するのが次の手ですが、はるかに時間もかかり結果を出すのも結構大変だと思います。

ストレッチに関しても未だに決定打はないと思っていて、PixInsightではHistgramTransformation、ArcsinhStretch、MaskedStrerchなどがあり、最近はGHS (GeneralizedHyperbolicStrertch)がでてこれが決定打かと言われています。またPixInsightのユーザーが作成しているスクリプトレベルでは、iHDRという輝度差が激しい天体に適用できるものが提供されたりもしています。でも選択肢がこれだけあるということは、ある意味決定打になっていないということでもあるわけです。GHSはかなりいいですが、操作がちょっと複雑で、初心者がいきなりこれを触るとあまりうまくいかないのではないかと思います。

ステライメージはほぼデジタル現像一択ですね。こちらはある意味迷うことはほとんどないのと、全て日本語で操作できるので初心者にも優しいのかもしれません。ただ、数学的にはデジタル現像はGHSのかなり限られた条件下での変換ということが蒼月城さんによって指摘されていますし、(私はまだ使っていませんが) SirilにもGHSがあることを考えると、今の時代有料ソフトならではのストレッチ方法をもっと提案して欲しいとも思ってしまいます。

そういう意味でGraXpertのストレッチを考えてみます。選択肢はどれくらいあるかというと、大まかなところではどれくらい適用するかの「強さ」くらいしかないので、これまたとんでもなく楽です。無料である程度のストレッチが簡単にできるということは、やはり特筆すべきです。というか、GraXpertはフラット化とストレッチと、次のDenoiseが3つセットになっているようなものなので、一緒にストレッチも使わない手はありません。でもGraXpertのストレッチが決定打というわけでは全然ありません。有料、無料ソフトともに、将来もっと発展するであろう部分の一つだと思います。

ノイズ除去も無料ソフトだけだとかなり限られてしまいます。BXTに続いて有料と無料で差が出るところでしょうか。有料での決定打はNXT(Noise XTerminator)かと思います。単なるノイズ除去ソフトやプラグインはAI対応も含めて数多く存在しますが、鋭い恒星を多数含む天体画像処理に使えるものは本当に限られています。一般のものでは遠目で見ると一見ノイズが小さくなるように見えるのですが、その弊害として恒星の形が大きく崩れることが多くて、ほとんどが使い物になりません。PIでも昔ながらのノイズ除去ツールは用意されていますが、今時のAIを考慮したノイズ除去ツールに比べると、少し見劣りしてしまいます。

GraXpertのDenoiseはそんな中でも数少ない、恒星とともに使えるノイズ除去です。しかも無料です。効果はNTXと比べると多少劣る感はありますが、そこそこ十分なレベルかと思います。少なくともGraXpertを使うついでなので、無料の中での選択肢を考えると、Denoise機能を使わない手はないと思います。

ノイズ除去ですが、次の恒星と背景と分離するツール、無料の場合は「StarNet」を使うと状況が一変します。恒星を分離して背景だけにすれば、あとは恒星の崩れを気にしなくて良くなるので、一般的なノイズ除去ツールを使いたい放題になります。ただ、言うまでも無いですが、過剰なAIツールの使用や、例えクラシカルなノイズ除去ツールだとしても、過度なパラメータなどは偽の構造や線、見た目に不自然な模様などを作りかねないので、程々に使うのがいいのかと思います。


StarNet



恒星と背景を分離するツールとしては、有料がSXT(StarXTerminator)、無料だとStarNet V2があります。私はSXTは試用で使っただけです。結果だけ見るとStarNetとそこまでの差はなかったので、無料で十分だと言う判断でした。でも、SXTの方が細かいところでいい結果だという意見も結構あるようなのと、そこまで高いソフトではなくて買い切りでアップデートもできるので、最初からSXTという手もありかもしれません。ただSXTは、PixInsightからか、Photoshop、Affinity Photoからしか動かないので、動かすための環境も有料になります。

それよりも、メンテナンス環境に無料と有料の差がかなりあります。StarNetは使うのが結構面倒です。Macだとはコマンドライン版しかないので、毎回ターミナルから走らせてコマンドを打って走らせる必要用があります。PixInsightを使うと、PixInsightないからStarNetを呼び出すことができるのである意味GUIになるのですが、PixInsightの大型アップデートのたびにインストールし直しに近い状態でセットアップする必要があります。Sirilからも呼び出せるので、こちらもGUIのように扱うことができます。コマンドライン版のStarNetをきちんと設定したとに、Sirilの設定の
siril_starnet
で、StarNetの実行ファイルを設定し、Sirilの「画像処理」->「Star Processing」->「StarNet Star Removal」から実行します。

元々のStarNetは天体画像ファイルから背景のみを作り出すという機能しかありません。PixInsightを使うとそれをPixInsight側で拡張して、恒星のみの画像ファイルも同時に作ってくれます。Sirilでも恒星画像も作ってくれるオプション(Generate star mask)があるので、こちらも便利です。

一方、Windows版のStarNetにはGUI版があるようです。私はWindows版は使ったことがないのですが、GUI単体で動くので便利なようです。ただし、このGUIは背景画像は作ってくれるのですが、恒星のみの画像を作ってくれません。しかもSirilから呼び出すと、このGUI版が直接呼び出されるだけで、やはり恒星のみの画像を作ることができません。おそらくWindowsでもコマンドライン版をインストールして、それをSirilから呼び出すようにすれば、恒星のみの画像を作るオプションが出てくると思われますが、私は今回は試せていません。

と、StarNetは結構面倒だったりします。この面倒さを回避するためだけに有料のSXTを使うというので、十分元を取ることができる気がします。ただ繰り返しになりますが、呼び出す環境も有料ソフトからになるので、ある程度の出費を覚悟する必要があります。


GIMPで仕上げ

恒星と背景を分離したら、あとは最後の仕上げや微調整です。個性を出すところでもあります。

有料だと仕上げまでPixInsightでやってしまう方も一定数いるかと思いますが、それでも最後はレタッチソフトを使うという方の方がまだ多いでしょう。Sirilだけで終えることができるかどうかはまだ私は試していませんが、そういった強者もすでにいるのかと思います。

レタッチソフトの有料版は、Photoshopがメジャーで、最近Affinity Photoが天体用にも話題になっています。Affinity Photoは結構良いという評判だったので、私も少し試用してから、締め切りが近くなった半額セールに負けて買ってしまいました。

Affinity PhotoはPhotoshopと違い買い切りでアップデートまでできるので、値段的にはかなり安くなります。機能的にもPhotoshopにかなり迫ることができますが、やはりこなれ具合など、まだPhotoshopの方がいい印象です。ただ個人の慣れもあるので、値段も考えると評価としてはトントンでしょうか。

Affinity Photoの方がいいところもあります。Photoshopは画像の処理過程の履歴を永続的に残すことができなくて、処理している最中はまだ元に戻れるのですが、ファイルを一旦閉じてしまうと、それまでにやって履歴は全てクリアされてしまいます。ファイルの中に記録するような手段は調べた限りないようです。どうしても作業を残したい時はレイヤーを多数使うなど、ユーザー側で何か工夫する必要がありますが、全部を残すのは現実的でないので、履歴は基本残せないと言ってしまっていいでしょう。一方、Affinity Photoはオプションで履歴を残すことができます。わざわざオプションで指定しなくてはダメですが、それでも手段があるとないとでは大きく違います。Photoshop用のプラグインも、昔のもので使えないものもありましたが、手持ちで最新のものにアップデートしているものは全てAffinity Photoでも使えています。

すみません、この記事は無料ソフトの検証なのにちょっと脱線してしまいました。Photoshopに相当する無料ソフトはGIMP一択でしょうか。


基本的なことは問題なくできます。操作性が少し劣る印象ですが、これは慣れもあるので個人的な感想の範疇かもしれません。それでもやはり有料ものと比べると差があるという感想です。

明らかに不利なところは、ノイズ処理があまりに貧弱なことと、Photoshopのプラグインが使えないことでしょう。あと、領域選択もPhotoshopのほうがかなり高機能で、いろんな手段があります。星雲の構造を出したいとかで、選択方法が限られると少し差が出るかもしれません。

GIMPでも基本的なことはできるので、天体画像処理も凝ったことをしなければ大丈夫です。よく使う機能といえば、レベル補正、トーンカーブ、彩度調整などでしょうか。レイヤー機能もあるので、恒星と背景に分離した画像の再合成もレイヤーを使うと簡単に「リアルタイムで見ながら」調整できます。

またちょっと脱線になりますが、私が画像処理をPixInsightで閉じてしまわずにPhotoshopに持っていくのは、このレイヤー機能があるからです。例えばStarNetで分離した恒星と背景画像の合成は、PixInsightだとPixelMathなどを使いますが、その都度計算させて結果を確認する必要があり、リアルタイムで見ながら調整というのからは程遠いです。一方、PhotoshopやGIMPなど、レイヤーがあればその場で見ながらリアルタイムで調整ができます。このレイヤー機能での差がある限り、PixInsightだけで閉じて画像処理を終えることは当分ないと思います。その意味ではレイヤー機能があるGIMPも十分使えることになります。

GIMPには、Photoshopで便利なCameraRAWフィルターに相当するのがないのが痛いです。ストレッチする前のリニア処理では人によってあまり差が出ないと思うのですが、ノンリニア処理では好みを入れたりして人によって仕上がり具合も変わってくるのかと思います。そこにこのCameraRAWフィルターの各種便利な機能を使うことで、簡単に効果的に調整を効かせられるので、好みや個性を出しやすいのかと思います。便利な機能なので、その反面、簡単に客観性や一般性を失うこともあります。それでも趣味としてはやはり楽しいのが一番だと思うので、加減しながら自分の好みで仕上げるのがいいのかと思います。GIMPにはこれに相当する便利な機能はなく、基本操作の組み合わせで工夫することになり、よりテクニックが必要なので、初心者には少し辛くなるのかと思います。


Zoomでの画像処理の様子

実際のZoomでの画像処理検討会は、上のようなことを試しながら説明して進めていったのですが、今回は特にどんな点に関して注目したかを書いておこうと思います。


1. ピント関連

まずダウンロードした画像では、少しピントがずれていたために、恒星が多少大きくなってしまっていて、真ん中が少し抜けてしまっていました。これは事前画像処理で試したところ、BXTを通すことで劇的に改善したので、無料ソフトに限るとなかなか手がありません。やはり大原則は、撮影時にできるだけきちんとピントを合わせるのが大事なのかと思います。せっかくの機会なので、私がよくやっている手動でのピントの合わせ方を説明しました。といっても大したことは言ってなくて、
  1. ピントを合わせる時に、一旦恒星が最小になったところを通り抜けて、再び大きくなるまで移動すること。
  2. 最小になった位置からどれくら移動したかを、指先でタッチした感触は、つまみを触った回数を数えるなどして、量として覚えておくこと。
  3. その覚えた量の分だけ逆方向に戻ること。
  4. 最小を通り抜ける時に、最小時の恒星の大きさを覚えておいて、それと比較して大きくなっていないかを、最後合わせこむ。
などです。


2. ディザリング

ダーク補正でのホット/コールドピクセルの処理のあとが、一部黒い点になって残ってしまいました。縞ノイズはほぼ何も出ていなかったようなので、ガイドはかなりうまくいっていたようです。その一方、ディザリングをしなかったので、こういった欠損的なものを散らすことができなかったようです。ディザリングは縞ノイズや各種欠点をうまく散らしてくれる、天体写真撮影ではある意味もう必須と言っていいくらいの標準的な機能なのですが、その貢献度があまり目立たないために軽視されることがあります。ディザーがないと画像処理に際して思わぬところで困ったりして、しかも縞ノイズとか今回の欠損のように、画像処理だと補正しきれないことに繋がることが多いです。「次回以降はディザリングをした方がいい」とアドバイスしましたが、「今の赤道儀だと外部ディザー信号を入れることができなかったり、たとえ外部信号を入れれたとしても、ディザー中にガイドを止めることができない」とのことで、難しいとのことでした。


3. トーンカーブのアンカー

トーンカーブでアンカーの使い方を説明しました。背景の色バランスはグレーに保ったまま、例えば今回のHαの淡いところを出したい場合などです。
  1. トーンカーブを赤だけが調整できるようにRを選択します。
  2. トーンカーブの山のピークの左側の斜右上がりの直線上にいくつか、複数の点を打ちます。これがアンカーになります。
  3. アンカーは、入力と出力が同じになるように、ちょうど直線の上に打ちますが、ずれた場合は入出力が同じになるように数値を見ながら調整します。トーンカーブの明るいところをいじっても、背景(山のピークの左側)の明るさが変わらないように留めておくという意味で、アンカーというわけです。
  4. あとは山のピークの少し右側を持ち上げると、アンカーのおかげで背景の色バランスは変わらずに、淡い赤い部分だけを持ち上げることができます。
アンカーはトーンカーブの右側にも何点か打って、明るい部分が持ち上がりすぎて白飛びしないようにするなどしてもいいでしょう。


5. フィルターと青成分

これは使っている光害防止フィルターに依ると思うのですが、多少なりとも青成分があれば、好みによってはトーンカーブなどで青をあえて持ち上げることで、諧調豊かな北アメリカ星雲にすることもできるでしょう。ただ、今回は上で説明したアンカーを使って青を持ち上げても、見た目ほぼ何も変化がなかったので、青成分のヒストグラムを見てみましたが、山の右側より明るいところにほとんど青成分が含まれてませんでした。今回のフィルターは2波長に絞ったかなり強いものなので、「もう少し青成分を通す弱いフィルターでもいいのではないか」という提案をしました。


6. 撮影時間とノイズ

今回はマスク処理に関しては説明しませんでした。ちょっと高度なことと、私自身がSirilでうまくマスクを作る方法と、GIMPでマスクを簡単に扱う方法を、よく知らないからです。マスクに関しては次回以降の課題としました。

私が事前に有料ソフトで処理したものはマスク処理も含んでいる(PixInsightでマスクを作り、Photoshopで適用)ために、背景の淡い構造があるところのノイズを目立たなくする目的で、星雲本体にマスクをかけて、背景のみに結構強めのノイズ処理をしています。その一方、無料ソフトだけの場合はマスク処理はしていないので、背景のノイズ処理は大したことをしていません。でも両者を比べると、背景のノイズ処理はあまりしない方が自然に見えているので、無理にマスク処理とかしなかった方がよかったのかもしれません。

そう言った意味で、「淡いところのノイズを減らすためには撮影時間を伸ばすことが重要」という説明をしました。特に今回の鏡筒がFMA135ということで口径わずか3cmなので、口径を大きくすることも背景のノイズを改善することになるかと思います。


と、大きくはこれら6つのことを言ったかと思います。改善につながる余地があるところです。その他は基本的なことも含めて、すでにかなり勉強して理解していたので、検討会も順調に進み、19時半に初めて22時前くらいまでの2時間強で色々議論できたのかと思います。


まとめ

少し長くなったのでまとめます。
  • 無料ソフトに限った画像処理でも、かなり有料ソフトに迫ることができる。
  • 具体的には、スタックと色合わせまではSiril、フラット化とストレッチとノイズ除去はGraXpert、仕上げはGIMPなどが使える。
  • ただし、恒星の補正と背景の細部出しに有利なBXTは、有料ソフトであるがかなり強力で、無料ソフトの使用だけに限ってしまうと、BXTの有り無しで大きな差が出る。特に高価な機材を使う機会が限られている初心者にこそBXTを使ってもらうことで、機材や画像処理テクニックの差を縮めてもらいたい。
  • 恒星を含む天体画像専用のノイズ除去に関しては、有料の方が有利であるが、無料だとGraXpertが使える。恒星と背景を分離して背景のみに適用するなら、天体画像専用でない一般的なノイズ除去ソフトが使える。
まずは余分なお金を使わないで無料ソフトで画像処理を進めても、もう全然良い時代になっているのかと思います。最近はSirilとGraXpertがその牽引役なのでしょう。あとはBXT相当の無料版があれば...。

2024年9月13日、ずっと天気予報が悪く中止になりそうだった富山駅前ゲリラ観望会。このゲリラ観望会、5月以来の今年2度目になります。 

午後は結構雨が降ったりしていたのですが、夕方に近づくにつれ少しづつ青空が見えてきます。メーリングリストでゲリラ観望会決行の知らせが入ります。富山のアマチュア天文家が富山駅前に集合です。

私が到着したのはちょっと遅めで、もう暗くなっていた19時過ぎ。すでに望遠鏡は10台くらいは出ていたでしょうか。駅の南口からの人の流れに沿ってズラーっと望遠鏡がならんでいるので、俄然注目を浴びます。何人かの方から「今日は何か特別な日なのですか?」と聞かれました。「富山の天文好きが集まってボランティアで望遠鏡を除いてもらっています。今日は月が綺麗ですよ。」などと答え、並んでいる望遠鏡を勧めます。月齢10.5日で月がそこそこ明るいので、クレーターもよく見えます。途中から土星も見える高度に上がってきます。今日のメインは月と土星でした。

IMG_9954

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私はというと、駐車場から駅前まで少し距離があるので、いつもの手軽なFMA135電視観望セットです。富山だと一番お客さんが多い観望会になるので、ちょっと無理して24インチモニターとAC100Vが出せるバッテリーを運んだので、ちょっと大変でした。

私も最初は月からです。いつも初期アラインメントに使うベガもデネブも、アルタイルさえも、ちょうどこの時間だとかなり高い位置にあり、候補に上がってきません。明るくて大きな月を初期アラインメントに使うと楽です。最初に月を自動導入して方向がずれていても、画面を見ながら三脚を直接ずらしたり、トラバースの固定ねじをゆるめて高さ方向を回転させて調整したりもできるので、プレートソルブなんか使わなくてもへっちゃらです。

初期アラインメント後、お客さんには`しばらく月を見てもらい、その間に外部モニターを用意します。2画面が用意できたら、いよいよM27を入れて星雲です。前回の5月はシーズン的に星雲がほとんど見えなくて、かといって銀河を見るにはFMA135では焦点距離が短すぎたので、夏シーズンになり満を辞しての駅前星雲となります。

IMG_9960

地方都市といっても、さすがに新幹線がメインで止まる駅なので、駅前はかなり明るいです。それでも電視観望ならM27くらいは余裕で見えます。一般のお客さんは星雲そのものにあまり馴染みがないので、むしろ望遠鏡の小ささに驚いてくれます。「今は超高感度のカメラが使えるので、こんな小さな望遠鏡でも淡い星雲が見えるんです」とか説明して、机の下の脇に置いた小さいFMA135を見てもらいます。「間違って蹴飛ばさないでくださいね」と一言添えるのですが、その後に「小さいのでこれまで何回か実際に蹴飛ばされてます」とか言うと「確かになぁ」というような反応が返ってきます。

最近の電視観望は、M1 Mac上のVMwareで動かすARM Windows11でSharpCapを動かしています。今回は特にMacで動かしているStellarium画面との比較が役に立ちました。WMwareだと SharpCapの画面と、Mac上のStellariumとの切り替えは、3本指でタッチパッドを左右に振るだけなので、ものすごく速くて楽です。駅前なので空を見上げてもほとんど一等星しかみえません。顔を上げて真上を見てもらうと、夏の大三角はなんとか見えます。夏の大三角の大きささえ感覚的にわかってもらえれば、Stellaiumの画面上で夏の大三角を見てもらって、赤枠で示された電視観望で見る視野の広さを確認してもらって、その視野をさらに拡大すればStellariumでM27が見えてきます。その後に画面をパッとSharpCapに切り替えて「これが今実際に望遠鏡で見ている亜鈴状星雲です。同じ形ですよね!」と説明するのです。実際のM27がかなり小さく、目で見ただけでは到底見えるものではないということ、望遠鏡で見るとカラフルな天体が宇宙には存在していることなどを実感しらもらいます。

その後、北アメリカ星雲を入れたりして、スマホの画像検索で見つけた北アメリカ大陸の地図の形と比べたりします。北アメリカ星雲はこんな明るいところでも思ったよりよく見えました。どうもこの日は透明度が良かったようで、自宅に帰ってから空を見上げたら、この季節は霞んでよく見えないことが多いはくちょう座の形がはっきりわかるくらいでした。
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あとは定番のM57ですが、これは輝度が高いので駅前のような明るいところでも余裕で見えます。
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時間的にはもう昇ってきているはずだと思い、アンドロメダ銀河も入れてみました。まだかなり低い位置にあって、どうも駅前ターミナルの大型の屋根の反射光を拾うようで、迷光で画面が明るくなりすぎです。銀河の存在のものはかろうじてわかるのですが、ライブスタックするには明るすぎてサチってしまい、こちらは諦めました。気を取り直して三日月星雲に移動したのですが、こちらも大して見栄えが良くなくてお客さんウケもイマイチだったので、再びM27に移動してしばらく放っておくことにしました。

スクリーンショット 2024-09-13 205827

電視観望の間、お客さんもかなりきてくれました。4人組の女子高生のうちの一人がM27を見て「感動した」と言っていたのが印象的でした。21時過ぎになって、そろそろ撤収の準備をしてくださいと指示がありましたが、結構グダグダとしていて、まだお客さんや県天メンバーとのんびり話しながら、他の望遠鏡がかなり片付いてきてから、やっと私も片付けはじめました。

それにしても天気が良くてよかったです。今日の朝の時点では中止になるかと思っていたくらいです。駅前なので、富山でやるものとしては最も多く人が集まる観望会と言っていいでしょう。普段あまり星を見るようなことがない人達にもあピールできるところもいいです。今年は年2回のゲリラ観望会でしたが、来年もこれくらいのペースで開催できればと思います。


2024年9月7日、7月に続いて今年2回目の飛騨コスモス天文台での観望会です。

でもこの日の富山は朝からどん曇り。天気予報は富山はまだ晴れですが、コスモス天文台のある数河高原はほぼ曇りで時々晴れですが、時間と共に予報が悪くなっている様子。「富山でこれだと何も見えないな」と思いながら、「もしちょっと見えたらくらいで、まあ機材も最低限でいいか」とほぼ普段車に積んであるような機材だけにします。あ、子供用に一応スコープテックの6cmの屈折だけは載せました。

ところが、国道41号線を南下するに従って、結構青空が出てきてます。現地に着いた頃には、多少雲がところどころにぷかぷかしてましたが、なんとほぼ一面青空です。「しまった、撮影機材持ってくればよかった」と思いながらも、もうどうしようもありません。

その後まだ壊れていたドームの修理をするのですが、この日は絶不調で元の配線を記録し忘れるという体たらく。途中でかんたろうさんがきて、モーター関連の配線を説明してくれて事なきを得ましが、下手したら開けたドームが閉まらなくなるところでした。でもドームのチェーンが噛みかけていて負荷が大きくて、結局修理に至らず。ちょっと別の方法を考える必要がありそうです。

そんなこんなで、ドームの外に出たらもう結構暗くなりかけていて、細い月がもう沈む少し前くらいになっていました。早速準備を始めます。とりあえずスコープテックの屈折で月をすぐに入れて、少しだけ見てもらいますが、程なくして低空の雲で見えなくなってしまいました。


少しだけ電視観望

その間に、電視観望の準備です。機材は限られていて、いつものFMA135にCBPとUranus-Cをトラバースに乗せます。PCはM1 Macの仮装WindowsでCMOSカメラに繋ぎます。PlayerOneのカメラならもう観望会でお客さんがいたとしても、完全実用レベルです。早くZWOもARM  Windowsに正式対応してくれるといいのですが。Macは画面が大きくて映りがやはり綺麗だし、バッテリーがかなりもつので、電視観望用途で改めてWindows  PCと比べると、かなり使い勝手がいいです。この日の準備はサクサクっと、10分もかからなかったでしょうか、M27を入れて声をかけると人が集まってきました。

スクリーンショット 2024-09-07 193625

といっても、この日のお客さんの数はそれほど多くはなく、全部で10人程度だったでしょうか。途中天気がいいのでもっと集まるかと思ったのですが、意外に少なかったです。Stellariumを使って、M27がどれくらいの大きさかを実感してもらいます。Stellariumで見える夏の大三角と、実際の空で見える夏の大三角を比べてもらい、M27の位置と大きさをStellarium上で確認してもらいます。Stellariumには今使っている鏡筒の焦点距離とカメラのセンサーの大きさを入力することで 、今見えている画角をStellariumの画面上に赤い四角で示すことができます。その資格の範囲をM27に合わせてStellarium上での見えたものと、実際の電視観望でSharpCap上に見えた形がほぼ一緒なことがわかると、見ている画角の実感が湧いてきます。M27はM57とかに比べたらかなり大きいのですが、夏の大三角の大きさと比べるとそれでも目で見るには小さすぎることもわかります。それを口径わずか3cmの、ミニ三脚とトラバースに乗せた、すぐに蹴飛ばされそうな地面に転がっている小さな望遠鏡で見ているというのが、これまたインパクトがあります。

Stellarium上でちょうど北アメリカ星雲が見えたので、次は北アメリカ星雲に移ります。北アメリカ大陸の形をネットで画像検索すると、皆さんすごく納得していました。でも、なぜが画面に映る北アメリカ星雲がいまいち見栄え良くありません。今環境ならもっとくっきり見えていいはずなのにと思って、改めて空をよく見たら少し雲がかかり始めています。「あー雲が出てきてますね。」とか言っていたのも束の間、雲がどんどん濃くなり、ライブスタックでも星を認識できなくなったようで、画像をドロップし始めました。

かんたろうさんが「ドブでまだM27が見えている」と言っているので、眼視と電視観望と比較してもらおうと思い私の方でもM27を入れたのですが、もうかなり見えにくくなっています。私がM27を入れている間に「眼視の方で確認してきてください」と勧めたお客さんも、結局眼視でも見ることはできなかったみたいで、それ以降は雲が一面を覆ってほとんど何も見ることができなくなってしまいました。


ちょっとだけ土星

かろうじて東の低空がまだひらけていたので、ちょうど出始めていた土星を見てもらうことにしました。2つ穴ファインダーのスコープテックで導入しますが、かんたろうさんの45cmドブの方が導入が早くて「負けたー!」となってしまいました。敗因はちょっと雲がかかっていたので土星もそこまで明るくなく、二つ穴ファインダーだと穴を通して見るには少し辛かったことです。かんたろうさんの星座ビノファインダーは多少なりとも倍率があり明るく見えるのが有利なのだと思います。

土星は口径6cmの屈折でも、小さいながらもまだ綺麗に見えました。輪っかもかなり細いですが、きちんと見えています。その土星も程なくして見えなくなってしまい、もうまったりモードで話し始めます。


ゲストがお二人

この日は飛騨地方のFMラジオ曲のアナウンサーの方が来ていました。事前情報によるとかなり綺麗な方らしいのですが、真っ暗な中なのでほとんど認識できず。まあ、天文あるあるですね。今回は赤道儀の使い方を学びたいということで来てくれたのですが、あいにくの天気で次回以降に持ち越しです。この方、星空案内人の資格を持つほど星好きな方で、近くの近くの道の駅にある「カミオカラボ」にも行って、ラジオで紹介したりしているとのことです。
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というわけで、この日のもう1人のゲストはそのカミオカラボの解説スタッフの方です。ご存知の方も多いかと思いますが、この飛騨地方は山の中に宇宙物理の一大研究施設群があり、このカミオカラボでは展示されている実験装置などを通してその内容を知ることができます。この方、物理出身とのこと。私も物理出身なので、天文界隈での肩身の狭さについて妙に話が合って、ずいぶん盛り上がりました(笑)。


天体写真で盛り上がる

雲がかかってからは、そのゲストお二人と、来てくれていたお客さんも一緒に、かんたろうさんの「何か見せるものないの?」という提案で、天使観望用に使っていたMacをテザリングでネットワークに繋ぎ、私がブログにあげた写真を見ながら、会話を楽しみました。今回見たページはこのブログのトップバーからもリンクが貼ってあるここ「Nebula」になります。


このページは私がこれまで撮影した天体をまとめてあります。

メシエ順、NGC順、IC順とかになっていて、一番最初のM1:カニ星雲はここ飛騨コスモス天文台に以前据え付けてあった口径25cm、焦点距離3000mmのニュートン反射型鏡筒で撮影したものなので、この場で見せると臨場感があります。

M27:亜鈴状星雲はこの日電視観望でも見えていたもので、露光時間を増やすと蝶の羽みたいな模様があることを説明します。かんたろうさんは眼視で見た時にどうやって導入するかを解説してくれました。「や座」の先端の星から90度曲がると導入できるとか、近くに小カシオペアの「W」の字が見えるとかです。ちょっと電視観望がどうなっているか見てみたら、雲が少し薄くなったのか、かろうじてですがM27が映っています。電視観望だとリアルタイムで見ることになるので、実際に見ている方向を望遠鏡が指している方向で確認するなど、こちらも臨場感があります。電視観望の画像では、上の画像にもあるような、小カシオペアのWの上の3つの星が見えているのがわかりました。

M31:アンドロメダ銀河の所では「今日晴れていたら肉眼で見えるかアンドロメダ探しができたのに...」とか、M45:プレアデス星団とその拡大図のところでは、スバルのことを知っている人も多くて「青色が綺麗
!」とかの感想が聞こえてきました。

他にも馬頭星雲魔女の横顔など、名前と星雲の形を比べることで皆さん興味を持ってくれるようです。M78星雲のところでは鉄板のウルトラマンの故郷の話をして、元々はM87の設定だったこと、M87がブラックホールでジェットが出ていて、ジェットもかろうじて見えたことなどにつなげます。

おとめ座銀河団のところではアノテーションの画像を見せて、なぜ乙女座の方向に銀河がたくさん見えるのかをクイズとして出しました。お客さんはもちろん、ゲストのお二方にも考えてもらいました。答えは「天の川の方向は星がよく見える」ということですね。逆の言い方をすれば、「天の川のない方向には星があまりないので、『星に邪魔されずに』銀河がよく見える」ということです。物理の人ってあまりこういったこうとに興味がないことも多くて、カミオカラボスタッフの方も答えられませんでした。私も星を始めてから得た知識です。ここからさらにかんたろうさんが、「おとめ座は春の方向ですが、じゃあなぜ秋の星座の方向には銀河があまり見えないのでしょう?」というクイズを出してくれました。これは私も知らなくて聞いてみたら「我々の銀河はおとめ座銀超河団(局部超銀河団ともいうらしいです)に属しているけれどもかなり端の方にあり、よく銀河が見える方向がその銀河団の中心方向、反対側はさらに端の方を見ていることになる」ということでした。さすが天文暦30年以上というだけあって、かんたろうさんは色々知っています。


結局晴れずに撤収

天体写真を見ながらの話が散々続いたのですが、それぞれの写真のところで色々話が盛り上がるので、結局小一時間話していたことになるでしょうか。最後アイリス星雲の写真で「アイリスはあのアヤメのアイリスか?」という質問が出たりで、締めとなりました。最後に「星が見えなくても、こうやって話を聞けると来た甲斐がある」というようなことを言ってくれた人がいました。天体写真だけでこれだけ長く話すことはあまりないのですが、私も意外なほど楽しめました。

21時半頃だったでしょうか、その頃にはうっすらと星が見えている方向もありましたが、結局観望するまでには至りませんでした。一部の人には星座ビノを使ってもらって、雲があっても方向によっては目で見えない星が星座ビノだと見えるということを実感してもらいました。

その後も晴れることはなく、ずっと厚い雲のままで、お客さんも少なくなってきて、22時には撤収となりました。前回の「謎の鳴き声事件」と次の日の昼間の「隣のグランドでの熊目撃事件」のこともあるので、少人数で長居するのはちょっと怖いです。

帰り道、夕飯を食べてないことを思い出し、自宅近くの24時間営業のすき家で「月見すきやき牛丼」の大盛りを食べて満足して自宅に戻り、富山の空も曇っていることを確認してすぐにベッドに潜り寝てしまいました。今年は雨も多く、なかなか晴れてくれませんね。


まとめ

せっかくの観望会でも曇り空でほとんど見えなかったですが、天体写真を用意しておくと、それだけもかなり盛り上がります。その際、画面はできるだけ大き方がいいでしょう。今回はMacBook Proだったので、そこそこ大きな画面でした。Macはバッテリーの持ちが長いので、電視観望していても、それを切り替えて他の目的に使ったとしても、あまり気を使う必要がなく長く使えるのがいいです。


SWAgTiのセッティングが楽なので、短い時間でも撮影する気が起きます。まだテスト撮影なので、お気楽にM20です。今年は本当に天気が良くなくて、たまに晴れてもそれが長い時間続きません。結局今回撮影できたのは、3分露光で16枚の合計わずか48分です。月が出るまで2時間くらいはあったのですが、途中で曇ってしまいました。まあ南の低空なので、雲も出やすく仕方ないですね。

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夏場の非冷却のテスト?

今回のテーマは「冷却はなくてもいいのか?」です!

前回のSWAgTiの記事で、ケーブルの数を減らしたいと書きました。夏の暑い日に冷却がないとどうなるかを試してみました...とか言いたいのですが、実はこれ全く嘘で、単に冷却するのを忘れただけです。NINAだと冷却されてないと警告が出るのですが、SharpCapはそういった親切設計にはなっていません。

NINAってできるだけ撮影を失敗しない設計になっています。冷却設定も親切で、まだ冷えている途中だと完全に冷えるまでは警告を出してくれます。例えばファイル形式はデフォルトfitsで、形式を変えるときは結構奥の方で「あえて」変更してやる必要があります。SWAgTiだと必要ないですが、例えばガイドソフトがつながっていないと警告を出してくれます。SharpCapは撮影「も」できる汎用ソフトですが、撮影「専用」ではないので、色々「設定できる余地」が残っていて、ミスもあり得てしまうというわけです。

でも今回はさらにしょぼいです。もっと言い訳するんですが、最初はSharpCap上でちゃんと冷却したんですよ。でも、一度SynScan Proとの接続がトラブって、一旦「あえて」SharpCapを落としたんですよね。後から考えたらわざわざ落とさなくてよかったんです。でも落とした後の復帰で他に気を取られていて、冷却をオンにするのを忘れて撮影を開始してしまったというわけです。そういえばライブスタック画像を見た時に「なんかノイジーだなー」とか思ってたんですよ。でも気づいたのは撮影も終了して、次の日に画像処理を始めてからでした。なんかおかしいと思ってfitsのヘッダ情報を見たら、センサー温度が32度とかになっていました...。


プレートソルブをなんとか使う

冷却は忘れてしまいましたが、その分トラブルに対して色々試したおかげで、SWAgTiでの撮影までのコツが少しわかりました。

前回報告した通り、やはりプレートソルブをすると、しばらくして接続がおかしくなるのはもう間違いないようです。今回もそうだったので、再現性があります。今回試して、接続がダメになった後にSharpCapを立ちあえげる必要がないのはわかりました。SynScan Proのみ一旦落として再起動すると、うまく再接続されるときもあるし、再接続されずにエラーが再度出るときもあります。うまくいかないときは更に、SynScan Proの「アラインメント」の「リセット」を押すと、再起動でエラーが出ることがなくなるようです。たとえリセットしたとしても、実際のアラインメント情報はAZ-GTiの方に残っているため、再度SharpCapから接続すると今向いている方向の情報がきちんと出てきます。

というわけで、こんな順序がいいのかと思います。
  1. SharpCapからSynScan Proに接続する。
  2. SynScan Proで、ワンスターアラインメントを実行する。
  3. SharpCapからプレートソルブを実行して、初期アラインメントの天体が画面中央に入るのを確認する。
  4. (この時点で落ちることは多分まだないので)SynScan Proで、撮影対象天体を導入する。
  5. SharpCapからプレートソルブを実行して、撮影対象天体が画面中央に入るのを確認する。
  6. 必要なら、SynScan Proの矢印ボタン、もしくはSharpCapの矢印ボタンで画角を調整する。
  7. (プレートソルブを何度かしたり、しばらく時間が経ったりして)接続が切れたり、接続エラーが出たら、一旦SynScan Proを落とし、SynScan Proを再起動して、アラインメントの「リセット」を押す。
  8. すでに対象天体はプレートソルブされていい位置にいるはずなので、自動追尾をSWATに切り替える。
  9. ライブスタックを始める。同時にAZ-GTiの自動追尾が強制的にオンになるので、すかさずAZ-GTiの方の自動追尾をオフにする。
  10. ライブスタックの撮影時間を希望の長時間に設定する。
  11. ライブスタックのクリアを押して、長時間露光を開始する。
くらいでしょうか。とにかくポイントは、SharpCapとAZ-GTiの接続が切れたら、一旦SynScan Proを再起動、アラインメントの「リセット」を押すことです。

あ、前回までSharpCapがそこそこ古いバージョンだったのですが、今回最新にしても基本的に接続の安定度が大きく変わることはありませんでした。プレートソルブはやはり何か問題を引き起こすようです。ただ、最近AZ-GTiの方が大幅アップデートされて、AZ-GTi単独でプレートソルブ機能が実現されたようです。これがうまく動くなら、今の不安定な原因のSharpCapからのプレートソルブをしなくていいかもしれないので、期待できそうです。


撮影開始

と、こんなテストを色々していたら、いつのまにか天文薄明終了時間になったので、撮影を開始しました。上の通り、最低限のプレートソルブは使えた(一旦SynScan Proでのアラインメントからのリセットは必要でしたが)ので、かなり楽でした。その後は、SWAgTiならではの、ガイド無し、SWATの精度の良さに頼った、AZ-GTiを利用しての簡単ディザー撮影でした。

実用上は前回からかなり進歩していて、前回は一旦AZ-GTiをホームポジションまで戻して、ワンスターアラインメントもさらには目標天体の自動導入も、プレートソルブ無しで頑張って導入していました。


非冷却ではやはり...

さて、冷却忘れの結果ですが、なかなか悲惨なことになりました。処理は前回と同じ、ダーク補正も、フラット補正も、バイアス補正も、何も無しのライトフレーム単体でのスタックです。下の画像が、スタック直後の画像をオートストレッチしたものです。
masterLight_BIN-1_3856x2180_EXPOSURE-180.00s_FILTER-NoFilter_RGB

拡大するとわかりやすいでしょうか。
180.00s_FILTER-NoFilter_RGB_cut

ディザーは効いているので、縞ノイズのようにはなっていませんが、ホットピクセルが出まくりです。今回はこれでもSharpCapで簡易ホット/クールピクセル除去をオンにしています。でも全くダメだったので、WBPP時にCosmeticCorrectionでホットピクセルをソフト的に緩和しようとしましたが、焼け石に水でした。上の画像はそのCosmeticCorrectionも効かせた状態です。

この状態から、なんとか頑張って画像処理を進めましたが、やっぱりどうやってもダメでした。ホットピクセル起因のノイズが多すぎて、M20本体を炙り出すこともままならないです。


仕方ないのでダーク補正

仕方ないので、ダークファイルを別途撮影しました。一手間増えますが、これで非冷却のホットピクセルが補正できるなら、かなりマシです。
masterLight_BIN-1_3856x2180_EXPOSURE-180.00s_FILTER-NoFilter_RGB

180.00s_FILTER-NoFilter_RGB_cut


やっと画像処理

このまま画像処理を進めても、十分耐えるようです。低空で少し下にカブリがあるみたいなので、ABEの4次だけかけて、SPCC、BXT、iHDR、GHSと進めて、最後StarNetで星と背景を分離してPhotoshopに渡します。まあ、通常やっている処理をもう少し簡単にした程度でしょうか。結果はというと、かなりマシになりました。
180_00s_ABE4_SPCC_BXT_iHDR_GHS2

M20のあたりだけ切り出してみます。

180_00s_ABE4_SPCC_BXT_iHDR_GHS2_cut

トータル露光時間が48分と、1時間にも満たないので青いところはまだ全然不十分です。今回DBPを使っていますが、比較的青がでにくい強いフィルターにしては、かろうじて青い所も出たのかと思います。


SWAgTiの利点

今回は焦点距離250mmの3分露光ですが、BXT前でも流れるようなことは全くなく、曇る前の画像は、何かで揺れてしまった1枚を除いたので、採用率94.4%でした。この追尾の安定度はSWATならではで、AZ-GTiが途中にあっても撮影中にモーターに信号さえ行かなければ全然揺れないことがわかります。

今回は、予期せず非冷却になってしまい、SWAgTiでどこまで手を抜けるか試したことになるのですが、結論としては夏場は少なくとも冷却するか、ダークファイルを別途撮影してダーク補正すれば、ホットピクセルに関しては許容範囲になるということでしょうか。

冬場ならなんとかなるか... ?


最初の予報だと28日の水曜に富山かとか言っていた台風10号ですが、ずっとノロノロで進んでいるのか止まっているのか、予報でもどちらに行こうとしているのかわからないのですが、結局富山に来るのは週明けの月曜とか火曜とかになりそうです。そんな土曜の夕方、家族は外で食べてくるとのことなので、自分は近くのかつ家でカツ丼を食べ、外に出てみると意外に晴れています。ちょうど科学博物館の観望会が始まりそうな時間だったので、ちらっと寄ってみることにしました。

それでも台風前なので、何か少しでも見えたらいいやくらいの気持ちで科学館に到着して広場に出てみると、何と一面の晴れです!

実はほとんど何も準備してこなかったので、車にある機材で最低限の電視観望です。いつものFMA135とトラバースとUranus-Cは積んであったのでラッキーでした。PCはカバンの中に入っていたM1 MacのVMware上のエミュレータ上のArm Windowsです。机は車に積んであったのですが、いつもの天文椅子は玄関に置きっぱなしだったので、キャンプ用の椅子で代用です。機材は何とかなったので早速セットアップを始めますが、流石に全く準備をしてこなかっただけあって、トラバースは電池切れ、Arm Windowsのディスプレイの解像度は全然安定せず。土壇場での観望会はやはりなかなか厳しいです。

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それでもリクエストされた北アメリカ星雲を入れてみると、透明度がかなり良いのか、富山の中心街に近いのによく見えます。悲しいのは、流石にこんな台風前に星を見ようとは思わないようで、お客さんがすごく少なかったことです。せいぜい3−4組でしょうか。このひはカターレ富山の試合があり、24時間テレビもあり、台風前なので皆さん自宅でおとなしくテレビでも見ているのではとのことでした。

最初北アメリカ星雲を見ていたのですが、バラフライ星雲を見たいというリクエストが小さな女の子からありました。さそり座方向ですが、低いのと何より小さいんですよね。焦点距離135mmでは如何ともしがたく、代わりにM8: 干潟星雲とM20: 三裂星雲を見てもらいました。あまり高い空ではないのですが、雲も少なく、よく見えていました。
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そんな中もう一人、すごい女の子がいました。北アメリカ星雲を見せたら北アメリカ大陸の地質とかを話し出すし、アンドロメダ銀河を見せたら30億年後に天の川銀河と合体するんだとか、なんか異常に詳しいです。年齢を聞いたらなんと5歳。「将来は天文学者かな?」と聞いたらキッパリと否定して「違う、古生物学者!」と一言。お母さんによると、恐竜も大好きだなんだそうです。宇宙も大好きらしくて、この富山市科学博物館の観望会もここ半年くらいほぼ毎週来ているとのことです。多分これまでも会っているはずですが、話したのは今回が初めてだと思います。帰る時に「また来週」と言っていたので、これからも会えるかと思います。将来どうなるか、今から楽しみです。

今回の電視観望は眼視との比較が多かったです。M13: ヘルクレス座球状星団とM31: アンドロメダ銀河は眼視でも見えたようです。
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電視のほうではM31の渦もなんとかわかり、M32とM101もわかったので面白かったみたいです。
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M27は眼視では厳しかったようです。M57は輝度が高く見えるのですが、M27はそれに比べると大きけれども淡いんですよね。
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眼視では土星やアルビレオも見せていたようです。C11が出ていて、終了間際に海王星を入れてくれていました。私も見せてもらいましたが、きちんと面積があり、青っぽく見えていました。

お客さんが少なかったので、アットホームな観望会の雰囲気でした。来ていた子供は小さい子ばかりだったので、21時には終了して撤収です。撤収後、スタッフさんとボラティアさんの何人かで室内に入りお茶を飲みながら話していたのですが、ボランティアさんの一人がSORA-Qという月探査の小型ロボットを持ってきて、机の上で動かしていました。JAXAとタカラトミーの共同開発で発売しているロボットらしくて、昨年発売開始ですぐに完売してしまい、一年経ってやっと次の配布が始まったそうです。この方は春に予約して、やっと購入できたそうです。金属製で、カメラもついていて、値段もそこそこ。スマホで操作できます。おもちゃメーカーが作っていると言っても、おもちゃというよりロボットです。でも、本物の月探査機のように、砂の上を走らせようとするとギヤに砂が噛んでしまうので「あくまでホビーだ」と、オーナーの方は言っていました。

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帰り際に空を見上げたら、もうすでに全面曇り。自宅についてからもずっと曇りなので、本当に観望会の時だけ晴れてくれていたようです。

台風で全く期待していなかった観望会ですが、透明度もかなり良く、多分科学博物館で見せた電視観望ではこれまでで一番綺麗に見えた口ではないでしょうか。せっかくの好条件だったので、もっとお客さんが来てくれればよかったのに...。

前回記事でSWAgTiのディザー撮影ができたことを書きましたが、書ききれなかったこともあるので、少し補足します。


機材

鏡筒ですが、最近手に入れた新機材でRedCat51です。と言っても新品ではなく、譲り受けたもので、IIでもIIIでもなく初代です。

富山県天文学会のK会長が4月に逝去されました。2016年の5月、星を始めたときに牛岳で誘われて入会して以来、折につけお世話になっていました。会内では最もアクティブな方で、とにかく天気さえ良ければいろんなところに顔を出して星を見てた方です。星や宇宙の解説が大好きで、普通に来てた一般の人にも、いつも分かりやすく説明されていました。昨年末くらいからでしょうか、急に痩せられて、体調を悪くされているようでしたが、3月の役員会には顔を出されていたのに、まだ60代半ばで、あまりに早すぎるお別れでした。熱心な方だったので、当然大量の天文機器があるのですが、遺族の方のご好意で、できれば皆さんで使ってくれないかということで、私はRedCat51とEOS 6Dを格安で譲っていただくことになりました。ちなみにK会長、6Dがよほど気に入っていたのか、3−4台もあって、私はその中であえて1台だけあった無改造機を選びました。私が持っている一眼レフカメラは全て天体改造をしてあるもので、ノーマル機を一台も持っていなくて、普通の景色も少しは撮ってみたいと思っていたので、実はとてもありがたかったのです。

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撮影用のコンパクト鏡筒としてはこれまで主にFS-60CBを使っていましたが、赤ハロ青ハロ問題を避けたいというのがありました。これはFS-60CB特有の問題で、ピント位置が赤と青で微妙にずれていて、赤か青のどちらかのハロがどうしても出てしまうというものです。ジャスピンが難しく、赤と青を均等になるように合わせたりしてきました。また、FS-60CBにレデューサをつけると焦点距離が250mm程度になるのですが、周辺星像がすこし流れるのも気になっていたこともあり、250mm程度の短焦点で性能の良い鏡筒を狙っていました。実は最近はBXTがあるので、これらのFS-60CBの欠点はソフト的にかなり解決できますが、やはり撮影時に解決したいという思いがあります。

RedCat51を使ってみて驚いたのは、周辺減光の少なさです。今回使ったカメラがUranus-C Proでセンサーサイズが1/1.2インチと決して大きくはないのですが、オートストレッチで強あぶり出ししてもほとんど周辺減光が確認できませんでした。なので、簡単撮影という目的も考えて、今回あえてフラット補正をしませんでした。さらにいうと、PixInsight上でもなんのフラット化もしていません。普通は周辺減光とかあると、輝度差で淡い部分のあぶり出しがうまくいかないはずです。でも今回はフラット補正も、ABEも、DBEも、GCも、本当に何もしていないのですが、きちんとM27の羽まで見えるくらい問題なく炙り出しができています。これは今までにない経験で、RedCat51の性能の高さの一端を見た気がしました。

前回記事でも見せましたが、改めて何のフラット補正もしていない、WBPP直後の画像を載せておきます。M27の周りを広い範囲で撮っているのってあまり見当たらないので、本当は背景の構造を出したかったのですが、今回の2時間では全然ノイジーです。でももうSWAgTiで長時間露光も楽にできるので、天気がいい時に放置で10時間とか露光しても面白いと思います。
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カメラですが、M27は結構小さいので、センサー面積が小さく、夏場なので冷却ができるものというので、PlayerOneのUranus-C Proを使いました。CP+で使わせてもらったカメラです。PlayerOne社のカメラの特徴の一つ「DPS」も魅力で、これでホットピクセルはかなり軽減されるはずです。実は今回、ダーク補正を全くしていません。PixInsightのCosmetic Correctionのみ使いました。それでホットピクセルやクールピクセルは全く問題にならないレベルになったので、お気楽撮影にふさわしいカメラだと思います。

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iHDRがすごい!

今回初めて使いましたが、PixInsightのストレッチの中でも比較的新しい「iHDR」がすごいです。M27の星雲本体とその周りの淡い羽の部分には相当な輝度差があり、普通のストレッチでは両方を同時にうまく出すことができません。そのため、一般的にはマスク処理が必要となるのですが、今回は部分的なマスクを使うことなく、ほぼ自動で輝度差が出ないようにストレッチすることができました。

iHDRの説明についてはこちらをご覧ください。
 

インストールは

https://uridarom.com/pixinsight/scripts/iHDR/

をレポジトリに登録して、アップデートをチェックするだけです。インストールされたiHDRはメニューの「Scripts」の「Sketchpad」の中に入っています。

パラメータですが、iHDRでMaskStrengthを倍の2.5にしてより明るい部分を抑え、Iterationを3にしだけで、あとはデフォルトにしました。中心の明るい部分を十分に抑えることができました。
  1. まず、背景が何回くらいIterationすれば適した明るさになるか、何度か繰り返して試してから確定します。
  2. 星雲本体の輝度差がまだ残るようならMaskStrengthの値を増やして、これも何度か調整してみます。
一度試すたびに、Undoで元に戻してから再度パラメータを変えて試し、値を確定していくと楽かと思います。その際、Undoは一度で元に戻らないことがあるので、Undoアイコンのところにカーソルを持っていって、ちょっと待って、何の作業を戻すのか表示されるのを確認すると良いと思います。これがPixelMathと表示されるうちは、まだUndoしきれていないです。

iHDRの後は、NXTでノイズを軽く落として、StarNet++で恒星と背景を分離して、最後Photoshopに渡して仕上げますが、ストレッチまでかなり仕上がりに近い形で済んでいるので、Photoshopでは軽く好みに処理するだけで済みました。


SPCC

もう一つ、PixInsightでの色合わせツールのSPCCを少し使い込んでみました。実際にはWBPPでスタック後にすぐに試したことです。

今回は光害防止フィルターとして、サイトロンのDual Band Pass (DBP) フィルターを使いました。これまではSPCCのナローバンドモードを使って適当な波長幅を指定していましたが、いい機会なのでフィルターをきちんと設定することにしました。参考にさせて頂いたのはだいこもんさんのこのページです。
 

同ページにだいこもんさん自身が作ってくれたフィルター用ファイルが紹介されていて、その中にDBPのファイルもあったので、それを使わせて頂きました。フィルターを設定して公開してくれているだいこもんさんと、さらにオリジナルのJason Coonさんに感謝です。

だいこもんさんによると、カメラがASI294MCの場合はSonyのCMOSの標準フィルターでいいとのことでしたが、Uranus-Cで使っているIMX585は特に赤外の感度が高く、標準の応答とは少し違っています。いい経験になると思い、ついでにIMX585用のカラーフィルターを作ってみました。

実際自分でフィルターデータを作ってみるとわかりますが、cvsファイルの1箇所に波長情報を全て入れるとか、透過率も1箇所にいれるとか、結構面倒です。また、メーカーのグラフから値を読み取るのですが、読み取りソフトはだいこもんさんお勧めのPlotDigitizerを使いました。面倒だったのは、赤外の領域ではRGBの線が重なっていて、グラフで一番上の色(この場合青でした)しか読み取ることができず、後から赤と緑に同じ波長の青の線を近似的に追加するなど、少し加工が必要だったことです。

IMX585_R
IMX585のR曲線ですが、長波長側は青線と重なっていて直接読めないので、
青線から起こしています。


自分で作ってIMX585とDBPの応答を合わせて、今回の撮影に合わせた応答を作りましたが、結局2つのグラフを合わせると、ただの一本線になってしまうので、IMX585のデータを作った意味があるかどうかはちょっと疑問です。でも面白いのは、例えば下のBグラフでは、長波長の赤の領域にも線があるんですよね。
DBP_IMX585_B2

これはIMX585がRGBともに長波長に感度があるからです。だからBもGも実は赤を少し含みます。どれくらいの割合かというと、B曲線ではBが0.44に対してRが0.07と16%程度、G曲線ではGが0.78に対してRが0.17と22%程度と、無視できないくらいの結構な割合で含まれることになります。カラーカメラとDBPはモノクロカメラで撮ったAOO相当になると思うのですが、DBPでは赤と青でのっぺりせずに多少なりとも色調が豊かに見えるのは、この余分な色の成分のせいなのかもしれません。ちなみに、R曲線にもGがすこしまざりますが、Rが0.96に対してGが0.03とごく僅かなので、こちらはあまり効いてこないでしょう。

上の重ねたグラフを使い、SPCCで測定した結果を見ると見事に直線に載ったので、ちょっと嬉しかったです。

SPCC

でもSPCCのフィルター制作は完全に蛇足で、SWAgTiの簡単撮影のためにはこんなことまでやる必要は全くないと思います。


SWAgTiについて

SWAgTiを改めて振り返ってみます。

高精度追尾で1軸単機能のSWATに、低精度でも2軸で高機能のAZ-GTiを組み合わせることで、SWATがまるで高精度高機能赤道儀のように生まれ変わります。実際、SWAT350のピリオディックエラーはPremium仕様で+/-2.8秒を実測して出荷しているそうです。これだけの精度を有している赤道儀はポータブル型ではほぼ皆無で、大型の高級機と比較しても何ら遜色ない素晴らしい値なので、ガイドなしでの簡単撮影が生きてきます。

AZ-GTiを赤道儀化される方も多いかと思いますが、その際の極軸を北極星方向に向ける35度の角度をつける台座に苦労します。揺れてしまわないためにも、台座の強度も重要になります。SWATには底面に角度がつけてある、SWAT自身が強固な35度の台座を兼ねることができます。

AZ-GTiは、自動導入、プレートソルブ、エンコーダー内蔵など、値段から考えたら非常に高機能で汎用性が高く、ユーザーも多いため情報に困ることはまずないと思います。プレートソルブだけは今回ディザーと併用できませんでしたが、元々できていたことなので単なるバグの可能性が高く、いずれ解決するものと思っています。AZ-GTiは精度があまりないと言っても、モーターさえ動かさなければその強固な筐体と合わせて、極めて安定しています。追尾中はSWATのみが動き、AZ-GTiのモーターは動かないので、撮影時の精度はSWATのみで決まります。AZ-GTiのモーターが動くのは、導入時や、撮影の合間のディザーの時のみです。

PCとAZ-GTiとの接続はワイヤレスなので、ケーブルの数も一本減らせています。それでも少なくとも今回の2時間は全く接続が落ちることなどなく、安定でした。なのでケーブルの数は、PCとCMOSカメラを繋ぐUSB3.0ケーブル、CMOSカメラの冷却電源ケーブル、SWATの電源ケーブルの3本です。PCは内臓バッテリー駆動です。ダーク補正しないなら、特に冬場なら、冷却カメラでなくてもいい気もするので、冷却用の電源ケーブルは減らせるかもしれません。SWATも乾電池駆動が可能なので、SWATの背中側に電池をおいてしまえばさらに長いケーブルの数を減らせます。AZ-GTiも私は電池駆動にしています。こう考えると、最小構成ではPCとカメラを繋ぐUSBケーブル一本で稼働可能かもしれません。あ、StickPCを使えばさらにUSBケーブルも短くできるので、超シンプルになるかもしれません。こうなってくるとASIAirみたいですね。どこまでシンプル化ができるか、ちょっとやってみたくなってきました。

重量に関しても少しコメントを書いておきます。SWATもAZ-GTiもそこそこの重さはあるので、二つ合わせると決して軽量とは言い難くなります。一般的な小型赤道儀程度の重量と言っていいでしょうか。それでも十分に軽くてコンパクトなので、私は鏡筒を取り付けたまま運んでいます。玄関においてあるのですが、そのままなんの組み外しも組み立てもなしで運べるのはかなり便利です。超高精度と考えると、最軽量クラスの赤道儀と言ってもいいのかと思います。

逆に、今のところの欠点ですが、SharpCapでの極軸調整を三脚をずらすことでやっているので、ちょっとテクが必要です。微動雲台を使ったほうがいいのかもしれません。ただ、微動雲台は双刃の剣で、揺れを導入するかのうせいがあるので、以前テストさせていただいた迷人会の微動雲台クラスのものが欲しいレベルかと思います。

プレートソルブが使えなかったのはかなり痛いです。でもこれはソフト的な問題のはずなので、いずれ解決するでしょう。短期的にも、何か回避策がないか少し試したいと思います。


まとめ

アイデアが出たのが去年の6月、星まつりでデモなどしましたが、今回ディザーができ縞ノイズが解決して、ある程度のキリがついたと思います。1年以上にわたるテストでしたが、(プレートソルブを除いて)何とか形になりましたでしょうか。今後は鏡筒やカメラを変えて、実用で使っていきたいと思っています。

そうそう、Unitecさんにディザーが成功したことを伝えたら「諦めないところがすごいです」と言われてしまいました。結構嬉しかったです。その経緯でUnitecさんのページでもSWAgTiがまた紹介されてます。

今週末の胎内はちょっと時間的に厳しそうなので、参加は見送ることになりそうですが、9月15日の京都の「星をもとめて」でUnitecさんのブースでまたSWAgTiをお披露目できるかと思います。その際は、お気軽にお声掛けください。


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