ほしぞloveログ

天体観測始めました。

今週末は天気があまり良くないので、先週撮影した画像の検証をしてみます。


カメラセンサーの違い

前々回、口径8cmの鏡筒+PSTにTouptekのG3M678Mを使って太陽全景を撮影した記事を書きました。これまではASI290MMだったのですが、これに比べるとセンサーが1/3インチから1/1.8インチになったので、一辺で1.5倍長くなりより広角で撮影できるようになったこと。さらにピクセルサイズが2.9μmから2.0μmに小さくなったので、こちらも1.5倍くらい分解能が良くなったことが利点です。

SharpCapで全景をリアルタイムスタック撮影し、PNGに直接落とした画像は前々回掲載したのですが、同時に動画のserファイルでASI290MMでもG3M678Mでも撮影しておいたので、それらの動画ファイルからマニュアルでフル処理をして、どこまで細部が出るのか試してみました。

露光時間はASI290MMが1msで、G3M678Mが0.5msです。ピクセルサイズはG3M678Mの方が小さいのですが、画面での明るさはG3M678Mの方が上でした。ゲインはASI290MMは100(= 10dB = ~3倍)として、G3M678Mの方の設定が最初わからなかったので400として大体画面の明るさが一致しました。ZWOの場合だとgain = 400は40dBという意味で、100倍になります。でもG3M678Mの400はどう見てもそこまで明るくなく、後で分かったことですが、これはデジタル一眼レフカメラのISOと全く同じだと理解しました。すなわち、100はISO100でgain=1、400はISO400と同じでgain=4というわけです。SharpCapでカーソルを近づけると、なんと値が何倍まで含めて直接表示されるように進化していました。こう考えてもG3M678Mはかなり明るいカメラということがわかりますが、これは単にconversion factor [e/ADU]が小さいのかと思います。

その他の条件はほぼ同じにしてあります。それぞれ500フレームをserフォーマットで撮影して、そのうちAS!4で上位50%をスタックした後、ImPPGで同じパラメータで細部出しをしています。この状態で拡大して二つのカメラの比較してみます。左がASI290MMで右がG3M678Mです。

スクリーンショット 2025-05-08 2128402_cut

この比較は面白いです。前々回の記事でも示したのですが、口径からくる分解能の制限のほうが厳しいために、センサーのピクセルサイズはあまり効いてこないはずです。なので本質的な分解能はあまり変わりません。でも拡大しているのでピクセルの大きさ自体はすでに見えるくらいになっていて、オーバーサンプリング状態だとしてもピクセルサイズの影響は多少なりともあるようで、やはり右の新カメラの方が分解能がいい印象です。その一方、ピクセルサイズが小さいということは1ピクセルあたりの光子数は少なくなり、トータル露光時間も半分なので、ノイズ的には不利になるはずです。拡大して比べるとわかりますが、ピクセルごとの輝度のバラつき(=ノイズ)は左の方が多く見えます。もう一つの不安要素が、ピントを明るい中で合わせているのでどこまで正確かいまいち自信がないです。ピントが合っているとするなら、そこそこ理屈に近いような画像の比較になっているのかと思います。

カメラを触っていて、もう一つ新カメラが不利なところがあるのに気づきました。フレームレートが出ないのです。ASI290MMは60-70fpsくらいは出ていましたが、G3M678Mの場合は23fps程度でした。ROIで画面を小さくしてもフレームレートは変化がなかったです。もしかしたらこの低フレームレートは撮影によっては将来決定的に不利になるかもしれません。


全体画像

G3M678Mで撮影した画像を、その後PixInsightのSolarToolboxでカラー化し、最後Photoshopに渡して仕上げました。モノクロとカラーと反転バージョンを載せておきます。

15_06_36_lapl2_ap18975_IP2_mono_cut

15_06_36_lapl2_ap18975_IP2_color_cut

15_06_36_lapl2_ap18975_IP2_color_inv_cut

リムの内側の表面外周部の模様がそこまで出ていないのが少し不満なくらいでしょうか。 最周部と中央の間に少し段差があるように見えるのが不思議です。そもそもPSTエタロンなので、最近のPhoenixとかの0.5Åクラスのエタロンには勝てないですが、それでも十分楽しめるくらいにはなっているかと思います。


SharpCapとの比較

先週SharpCapで見えた全景をPNGに落としたものを前々回の記事でも示しましたが、それと今回のserファイルからマニュアルで画像処理したものを比較してみます。左がSharpCap、右がマニュアル処理です。

スクリーンショット 2025-05-10 135439_cut

思ったより違いがあります。SharpCapの方ももう少し見栄えを良くすることができるのかもしれません。まだまだテスト段階なので、今後もっと詰めていこうと思います。


まとめと今後

と、上のところまで書き終えて週末を迎えて、次の週(今週末)に再度カメラを立ち上げたときに、なんと上の撮影を全て8bitで撮影していたことに気づきました。SharpCapの比較で差が出たのは、ビット数が関係しているのかもしれません。

やっぱりまだ触り始めなので、見逃していることがあります。ちなみに、ゲインがISOだったことも今週気づきいたことです。


太陽画像の処理をしているのですが、AutoStakkertの画像選別がいまいち信用できていません。

最近は1ms程度の露光時間で、そう多くない200フレーム程度を撮影し1ショットとし、この1ショットを30秒ごとに撮影して、1時間とか2時間とか長時間の連続撮影しています。その中で統計的に飛び抜けてシーイングのいい時間帯を探すと、そのショットはたのショットに比べて平均的にシーイングがいいので、そのうちの上位90%とかを使うことにしています。

その対極の方法が、1ショットを数千フレーム、時には万のオーダーのフレーム数で撮影して、スタック時にその中から上位フレームを数%とかのかなり少数を選んでスタックすることでしょうか。

後者の方法でやっていたこともあるのですが、そもそも平均的にシーイングがイマイチな時間を撮影している限り劇的によくなることはないことは、ここ1ヶ月くらいで理解できました。それはそれとして、上位フレームを選ぶのにAutoStakkertを使っていますが、長時間ファイルから少数を選んでもスタック結果を見る限りきちんと上位フレームを選べている実感があまりなく、この結果がいまいち信用できなかったのです。

少なくともこれまで、きちんとしたフレームが選ばれるという確認を自分では取ったことがなかったので、今回少し検証してみました。


PIPPを使ってAutoStakkertの画質評価を検証

かなり昔にインストールしたserファイルの事前処理アプリのPIPPを最近再び使うようになってきて、思ったより色々できそうなことを再認識できたので、ちょっと面白そうな実験をしてみました。

PIPPの機能の一つとして「複数のserファイルを結合する」ということができます。serファイルの読み込みの「Source Files」のタブで複数のserファイルを読み込んだ状態で、同じ画面内の「Multiple Soure Files:」で「Join mode」を選ぶことで、結合された動画ファイルを生成する処理となります。


1:
ここに2つのserファイルを用意します。一つは A:シーイングがいい時間帯のもので、分解能がよく出るとわかっているserファイルです。Aのファイルを実際に90%スタックして、ImPPGで細部出しをしたものが以下の画像になります。分解能も出ているのでシーイングが良かったことがわかります。
12_05_56_lapl2_ap3965_out

もう一つは、B:シーイングが悪い時間帯のもので、分解能が出ないとわかっているもので、同条件でBを細部出しまでしても、以下の画像のようにかなりボケボケです。
12_12_43_lapl2_ap3955_out

これらA、Bの2つのserファイルを、PIPPを使って特に余分な処理を何もせずに、そのまま単純に結合します。結合の順序は、分解能が出ていないBを先、分解能が出ているAを後としました。これはAutoStakkertではいいと判断されたコマが先に持ってこられるので、きちんと順序づけできているかどうか、元ファイルの先にいいものがあるか、後にいいものがあるのかで不公平が出ないようにチェックするためです。

結合したseeファイルをAutoStakkert!4で読み込み、解析だけすると、各コマの質の評価がされます。
スクリーンショット 2025-05-09 110155_cut1

評価されたグラフの灰色の線で結果を見ると、ファイルの先に記録されているほぼ半分のコマは評価が低く、後半半分のコマの評価が高いです。緑色の線はこの評価を利用していい順に並べ替えた後の結果なので、ここでは無視してください。これはPIPPで指定したように、前半はシーイングが悪いB、後半はシーイングがいいAという順序の通りになっていて、AS!4でもきちんと評価できていることがわかります。

AS!4ではその後、この評価結果の通りにいいものから先に並べかえてしょりをすることになります。一番最初に来ているコマを見てみると次のように分解能がいいAからのものが来ていて、
スクリーンショット 2025-05-09 110155_cut2

一番後ろに来ているコマを見てみると、ボケボケのBからきているのものになっていることがわかります。
スクリーンショット 2025-05-09 110242_cut2

上の2枚の比較はよく見ないとわからないかもしれません。スタックして細部を出した後にものすごい差が出るとしても、動画の状態での一コマの比較ではこのように最良コマと最悪コマで見たとしても、わずかこの程度の差に過ぎません。もし元々撮った一つのserファイルを、AutoStakkert!4でいい悪いを評価してもらったとしても、見える差は非常に小さくて、それが本当にいいのか悪いのか、少なくとも私の眼力でははっきり見分けることができません。

それでも上の結果だけ見ると、AutoStakkert!4の順位づけは正しく使えるという評価になりますが、それは本当なのでしょうか?


では明るさが違うと?

2:
では次に少し意地悪をして、C: シーイングは良かったけれども少し暗く撮影したserファイルと、D: シーイングは悪かったけれども明るく撮影できたファイルを用意します。2つのserファイルC、Dを同様にPIPPで単純に結合します。ちなみに、それぞれ細部出しまでした画像が以下になります。

C: 分解能が出ていても、全体的に暗い
12_02_14_lapl2_ap3963_out

D: 分解能が出ていないが、全体的に明るい:
12_30_03_lapl2_ap3859_out

今回はserファイルの結合順序を、シーイングがいいCを先、シーイングが悪いDを後とします。結合したserファイルをAutoStakkert!4で読みこんで同様に解析にかけます。シーイングをきちんと評価しているなら、前半がいい評価で、後半が悪い評価になるはずです。

結果は以下のようになります。
スクリーンショット 2025-05-09 110740_cut1

ここでも灰色の線を見ます。はい、期待とは全く逆で、前半のシーイングがいいCを悪く評価し、後半のシーイングが悪いDを良く評価してしまっています。

これは、判断基準の一つに「明るさ」というものを使っているからかと思われます。しかもこの明るさが違う場合の評価の差が、先の明るさが同等くらいの時の評価の差よりもはるかに大きくなっているので、シーイングの差よりも明るさの差の方をはるかに重要視しているというまずい結果なのかと推測できます。

ここら辺がAutoStakkert!4での評価が信頼できないところの一つです。

(2025/5/10: 追記) 記事公開後、ASで上位10%を選択してスタックしたものと、Ninoxで上位10%選択してASで100%スタックしたもので差が出るかという質問があったので、試してみました。私はあまり差が出ないと予測していたのですが、結果は思ったより差が出ました。細部出しまでふくめて、同じ条件で処理した結果を示します。

まずはAutoStakkert4で上位10%選んだものです。
12_12_06_lapl2_ap3983_IP

次はNinoxで上位10%選択してAutoStakkert4で100%スタックしたものです。
12_12_06_pipp_lapl2_ap3944_IP

かなりわかりにくいので、わかりやすいところを一部拡大して並べて見ます。左がAutoStakkert4で上位10%選んだもの、右がNinoxで上位10%選択してAutoStakkert!4で100%スタックしたものです。
スクリーンショット 2025-05-10 170954_cut
特に黒点や、その右上は明らかに右のNinoxの方がいいかと思います。

別の個所を比較します。同じく左がAutoStakkert!4で上位10%選んだもの、右がNinoxで上位10%選択してAutoStakkert4で100%スタックしたものです。
スクリーンショット 2025-05-10 172527_cut

こちらの比較は左のASの方が細部まで出ています。どうやら得意不得意があるみたいで、まだどちらがいいのかちょっと迷っていますが、今現在の判断は、最細部がASの方が出ているとすると、ASの方に傾いていますでしょうか。

1つ目の比較だけで判断していた時はNinoxを使えばいいという判断弟でしたが、2つ目の比較でASの方がいいとなったので、どちらのアルゴリズムを選んだ方がいいのか迷うことになります。serファイル内に明るさの変化がある場合はNinox、変化がない場合はASでしょうか。結構面倒です。もう少し検証例を増やした方がいいのかもしれません。(追記終わり)


画像評価のアルゴリズム

少しAutoStakkert!4の画像評価のアルゴリズムを示しておきます。元々は私自身も、AS4!でどんな評価アルゴリズムが使われているのか全然知らなかったのですが、いつも非常に的確な意見を言ってくれる薜くんが、X上でCloudy Nightsで議論の情報をくれました。このページの中の2つ目のリンク先を開き、その中のさらに2つのリンクをたどると、元の論文と思われるものにたどり着きます。特に2つ目のリンクが具体的にどんな太陽の画像を使っているかも示してあり、Gram  matrix Gijと呼ばれる評価関数を使っていることが示されています。Gram  matrixは

(1) The size of the Gram matrix depends only on the number of feature maps instead of the image size.(2) The Gram matrix is only related to texture features of an image, not itsstructural content.

とのことなので、画像の特徴を表すことに適しているようです。これらを利用して、Lqualityを求め、そのLqualityがPE (perception evaluation)そのもので、そのPEとPSF (point spread functionsを表すD/r0との関係をFigure 6で示してくれています。AutoStakkertはこれを利用しているということなので、適当に評価しているわけでは全くなく、かなりしっかり評価しているようです。

その一方、ここまでしっかり評価しているのなら、高々明るさだけの違いでシーイングの評価が、ひどいレベルで完全にひっくり返ってしまうのは何なんだというのが、今の個人的な感想です。

(2025/5/10: 追記)
tentaiさんの情報によると、結局AutoStakkertはLaplacian、下に出てくるNinoxはGradientという、かなり一般的なシンプルなアルゴリズムで処理されていて、リンク先の論文にあるPE (perception evaluation)を求めるような、複雑な判別はしていないことが判明してきました。
シンプルなアルゴリズムでは、例えば輝度に依存するというような実際に判断したいものとは違う基準で判別されることも十分にありうるのかと思います。

複雑な判別とはどれくらいのものなのか、試しにサンプルコードを走らせてみました。太陽表面のHαのサンプル画像が付いていて、PE (perception evaluation)を計算してくれるみたいです。結果は0.239とかいう数字が出てきました。数字そのものの評価はまだよくわかっていませんが、問題は計算時間で、付属の1024x1024ピクセルの小さな画像でも1枚計算するのにM1 Macで1分以上かかりました。実際に撮影する数百枚や、千枚を超える画像を評価する必要があるので、トータルではちょっと計算時間がかかりすぎ、毎回これだとさすがに実用的ではなくなってくるので、結局は今のシンプルなLaplacianやGradientが現実的なのかもしれません。

記事にコメントを書いてくれたほんのり光芒さんのASの評価記事の中でがJUN1WATAさんのLaplacianを利用したserファイルのフィルターを書いた記事がリンクされていました。4月の記事で私も読んでいるはずですが、その時はまだ重要性を認識できていなかったと思います。今読むとものすごく面白くて、OpenCVを利用したコードを公開してくれているので、もし判別のためのフィルターを組みたくなったらここを参考にさせてもらうことになるかと思います。

徐々に理解が進んできていて楽しいです。コメントや情報など参考にさせて頂いたHIROPONさん、OHZAKIさん、tentaiさん、ほんのり光芒のみゃおさん、JUN1WATAさん、ありがとうございました。
(追記終り)


PIPPのNinoxアルゴリズム

ASの明るさ判断に文句ばっかり言っても仕方がないので、ここでもう一つ試します。すぐ上で試したCとDのserファイルの結合時に、PIPPの方で画質評価を適用してやります。


3:
PIPPには「Quality Options」とうタブがあり、その中の「Quality Algorithm Selection」で画質を何通りかで評価でき、各コマをその評価に従っていいものから順に並べ替えてserファイルを再度作ることができます。複数のserファイルを扱う場合でも、複数ファイルに含まれる全コマを並べ替えます。

まずはデフォルトの「Default PIPP Quality Algorithm」というのを選択して再結合したserファイルを作ります。実際にできたserファイルをSER Playerで見てみると、明るくて分解能の悪い画像が前半に来ていて、暗い分解能のいい画像が後半に来ているので、AutoStakkert!4の場合と同じような結果になっています。実際、AS!4で解析してみると、
スクリーンショット 2025-05-09 112004_cut
のように、先に分解能の悪いDから来たと思われる明るいコマをいいと評価し、後半に分解能のいいCから来た暗いコマを悪いと評価してしまっています。これを見る限り、PIPPのDefault PIPP Quality AlgorithmとAutoStakkert!4のアルゴリズムはよく似ているのかと思われます。


4:
次に、PIPPで「Quality Options」の「Quality Algorithm Selection」で「Original Ninox Quality Algorithm」を選んで、2つのserファイルC、Dから再結合したserファイルを作ります。
スクリーンショット 2025-05-09 112357_cut3

できたserファイルをSER Playerで見てみます。おっ!、今度はきちんと暗くても分解能がいいコマが先に来ていて、明るくても分解能が悪いコマが後半にきています。AutoStakkert!4でも解析してみると、
スクリーンショット 2025-05-09 112357_cut1
の灰色の線を見てもわかるように、やはり間違えて分解能のいい前半を悪いと評価して、分解能の悪い後半をいいと評価してしまっています。明るさが優先されてしまっているのがわかります。


結論

「Original Ninox Quality Algorithm」できちんと評価して、必要ない部分はPIPPの方で枚数制限をしてserファイルにして、AutoStakkert!4ではそのいいコマだけを100%利用するようにすれば、変な評価をする可能性のあるAutoStakkert!4の評価を、避けてスタックすることができます。

今回、すくなくとも、「Original Ninox Quality Algorithm」は分解能に対して期待した正しい評価を下してくれることがわかりました。まだこれが完璧なのかどうかの評価ではありませんが、今後はAutoStakkertの評価をそのまま使うことはせずに、きちんと上位画像を選択したいときは少し手間ですが、事前にPIPPの「Original Ninox Quality Algorithm」を通すことにしたいと思います。

ちなみに、Cloudy Nightsの議論一つ目のリンクがNinoxについて書いてあるとのことなのですが、見る限りリンク先は何も表示されません。興味深いのでとても残念です。


まとめ

自分で実際に確かめてみて、やっと少しスタック時の画像選択評価についてあるていど納得できてきました。

AutoStakkertでの画質評価で、いいものがを選択できるという意見も聞きますが、国内国外問わず、AutoStakkertの画像仕分けは信用できないという意見は随所に散見します。

私自身もこれまでAutoStakkertでの画質評価において明るさが関係することは、以前皆既月食で雲があり明るさが変わる悪条件のときに試したので定性的には知っていました。でもきちんとした検証はできていませんでした。実際には、今回のように撮影している最中にも明るさが変化することは十分あり得るはずで、少なくとも今回の結果で、AutoStakkertの明るさの評価が効きすぎていて、他の重要な評価が無視されることがある得るということがよくわかりました。

今回、「分解能」と「明るさ」があらかじめはっきり区別できる撮影ファイルを使うことで、PIPPの「Original Ninox Quality Algorithm」が、見かけの明るさのには惑わされずに、分解能をきちんと見て評価しているらしいことがわかりました。これは、今後も役立つ、大きな確認事項になると思います。

ただこれ以上の評価は、順位付けされたserファイル内のコマを見ても、自信をもってはっきりとどれがいいとは言えないので、なかなか難しいと思います。また余裕があったら、はっきり傾向のわかるserファイルの数を増やして、もう少し検証してみるのもいいのかもしれません。

ゴールデンウィーク中の太陽の目玉は、何と言っても大型黒点でしょう。


名古屋市科学館での太陽

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5月3日の4連休の初日に実家の名古屋に行った際、名古屋市科学館に行きました。9時10分頃に到着したのですが、運よく10時からの一般向けの回のチケットを、残り10席くらいでとることができました。ゴールデンウィークなので次の11時20分からのファミリー向けの回の方が人気があったようです。

今回のプラネタリウムは土星の輪の消失の解説が面白かったです。名古屋市科学館はいつも生解説なのが魅力です。今回も素晴らしいトークでした。解説によると、3月24日に地球が土星の輪の平面内を通過するので一度輪が見えなくなっていて、次が5月7日なのですが、その時は今度は太陽が土星の輪の平面内を通過するために輪に平行にしか光が当たらなくなり見えなくなるとのことです。このことを、CGで土星の輪に乗っかって地球と太陽を見るという試みをしていました。非常に直感的でわかりやすくてよかったです。

科学館の常設展示の中で今回特に面白かったのは、太陽のリアルタイム映像でした。プラネタリウム中にも解説していたのですが、同じフロアで太陽の白色光を減光して投影していて、この日は話題の大型黒点がよく見えました。
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北が上になるように写しました。おおがた黒点が間も無く正面にくるくらいです。

他にも、5階の天文コーナーがいろいろ変わっていました。円形の部屋の壁全面を利用して、一周で宇宙のスケールを距離で表している展示があって、かなりわかりやすい試みだと思います。
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ここがスタート。

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壁全面に、宇宙の果てまでの距離に応じた展示があります。

この日は特別展で科学館の地下で「鳥」展が開催されていました。かなり人気らしくて、入場のところから並んでいて、中もすごい人でした。いろんな鳥が各「目」に分かれていて、たくさんのはく製が展示されています。「目」での分類は、ある意味鳥の進化の歴史でもあるようで、鳥の進化そのものがわかるという内容で、とても充実していました。
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こんな展示が44目(多分)まで続きます。

私は鳥にはそこまで興味はないごくごく普通ののですが、非常に興味を引くように展示が工夫されていて、鳥に詳しくないとしてもとても面白いと思います。


天文ショップスコーピオでの太陽

その後、大須方面まで歩いて移動し、上前津から地下鉄に乗り、伏見で東山線に乗り換えて八田駅まで行き、天文ショップのスコーピオに顔を出しました。早速店長さんが口径76mmの太陽望遠鏡Heliostarを見せてくれました。
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CP+で話したPhoenixも良かったですが、Heliostarは口径が76mmとPhoenixの40mmの倍近くになり、特にアイピースの焦点距離を短くして拡大した時は、見応えも格段に良くなります。今回は標準の20mmアイピースに加えて、10mmと5mmのアイピースで見させてもらいました。5mmは126倍とかなり拡大して見ることになるので、流石に少しは暗くなりますが、それでも元の口径が76mmと大きいので、不満のない十分な明るさで見ることができます。ここまで拡大しても細かいところまでよく見えるのは、やはり76mmの恩恵でしょう。これで拡大して見た大型黒点は、かなり細かい模様も見えて大迫力でした。

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スマホで撮影してみましたが難しいです。
目で見た方がはるかに迫力があります。

この大黒点は肉眼黒点の可能性もあり、スコーピオの店長さんと太陽フィルムで見てみました。肉眼黒点としてはそこまで大きなものではないので、かなり小さかったですが確かに何の拡大もなく見ることができました。


Hαで太陽大黒点を撮影

次の日の4日には富山の自宅に帰ってきて、今回の黒点を撮影しようとしました。午前中は曇りで諦め、午後からHαで撮影したのですが、少しの晴れ間を狙っての撮影だったので時間をかけられずに、大した解像度は得られませんでした。むしろこの日はいろんな調整に時間を費やしました。この日のことはまたまとめて記事にします。

天気予報では次の日の5日は朝から快晴のはずです。張り切って朝の5時半には起きたのですが、外はなぜかどん曇りです。その場でSCWを見直してもWindyを見直しても雲はないはずです。もう状況がよくわからないので、ふてくされてガストのモーニングで時間を潰します。10半頃にはかなり晴れてきたので自宅に戻り、11時頃にはほぼ快晴、11時半頃には準備も完了して、前日あまりうまくいかなかった撮影を始めました。機材はいつものC8+PST+ASI290MMです。赤道儀は簡単に出せるCGEM IIです。

30秒インターバルで1ショットあたり200フレームで120ショット余り撮影しましたが、シーイングは普通よりは多少いいくらいだったでしょうか。撮影した中の、連続の2ショットがかなりシーイングが良かったので、2ファイル分の合計400フレームのうちPIPPで上位300フレームを選び、その300フレームをすべてAS4!でスタックしました。その後はImPPGで細部出しですが、最近の精細な画像ではsigmaは0.5一択で、あとは適時調整します。コントラスト出しやカラー化などはPixInsightのSolar Toolboxで、その後仕上げにPhotoshopに回しています。

結果はモノクロ、カラー、カラー反転の3つを示しておきます。
12_04_42_pipp_lapl2_ap3929_IP2_05_13_50

12_04_42_pipp_lapl2_ap3929_IP2_05_13_50_color

12_04_42_pipp_lapl2_ap3929_IP2_05_13_50_color_inv

今回のゴールデンウィーク中の目的の一つ、大黒点の撮影がある程度分解能よくできました。このように目立つ黒点が出た時も、確実に分解能よく撮影する手法が確立して、それが実践できるようになってきたのかと思います。また、少なくとも静止画に関しては撮影、選別、画像処理のルーチンはほぼ出来上がったと言っていいので、処理もその日のうちに終わり、今回も当日のうちにXに投稿しています。太陽は時間勝負のところもあるので、ここら辺の早い処理というのも目的の一つでした。


お客さんと太陽を見る

C8での撮影を終えて、全景用に鏡筒を変更しようとして家の中に入っているときに、玄関のチャイムがなりました。最近近くに引っ越してきた、アメリカ在住時代からの古くからの友人が、お嬢さんを連れてやって来ました。何でもお嬢さんの方が、私のXの投稿で朝から太陽をやっているのを見て、興味を持って来たとのことです。実はお嬢さんは赤ちゃんの頃に顔を見ているだけで、聞いたらもう中3とのことで、はじめましてではないのですが、実際にははじめまして状態でした。わざわざ太陽なんかに来てくれるくらいなので、星のことには結構興味があるみたいで、話してみると色々詳しくてちょっとびっくりでした。

まずは、太陽グラスで黒点を見てもらいますが、大黒天と言っても肉眼だとやはり小さくてわからないようです。そこで、星座ビノに太陽グラスをテープで固定して見てもらうことにしました。
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これだとさすがに黒点も十分に見えるはずで、二人とも「見えた!」と叫んでました。

太陽と言っても、C8の撮影は撮り続けて待っているだけなのですが、太陽全景ならSharpCapでリアルタイムで色付きで見えるので、多少は楽しいはずです。というわけで、鏡筒交換の準備を続けながら太陽全景を一緒に見てもらうことにしました。


8cm鏡筒用に太陽用ファインダーとガイド鏡

口径8cmの鏡筒も改良が進んでいます。玄関のチャイムが鳴った時は、ちょうど太陽ファインダーを取り付ける準備をしているところでした。C8の場合は鏡筒内からの反射光のスポットが補正版に当たるので、それが中心に来るようにアラインメントを取ればいいので目安があって簡単なのですが、口径8cmの場合はそのような指標がなくて、毎回導入に手こずっていました。10cmに取り付けていた太陽ファインダーがあったのを思い出し、それアルカスイス互換のクイックシューを取り付け、8cm鏡筒の下部に取り付けたアルカスイス互換プレートにそのまま取り付けられるようにしました。

IMG_1354

写真のようにアルカスイスプレートの前方にファインダーを取り付けるのですが、導入後は取り外して、撮影時は下に写っているガイド鏡に交換します。今後は、この後に出てくる新カメラで一度に太陽全景が撮れるようになるので、タイムラプスなどの長時間撮影をしたい時にガイド鏡が活躍するはずです。

こんなふうに実物を見せながら、ファインダーの動作原理から、取り付けの際のアルカスイス互換リリースの取り付け、鏡筒に固定してからの導入などもお客さん二人に説明しながら、いよいよ太陽像を見てもらいます。


太陽撮影用新カメラG3M678M

今回の目玉は新カメラの投入です。ToupTekのG3M678Mという機種です。
IMG_1342
中身は至ってシンプルで、マニュアルもドライバー関連も入っていません。
左上の黒いアダプターを使うと、
アメリカンサイズのフィルターを取り付けることができます。

IMX678センサーを使っていて、ピクセルサイズが2μmとかなり細かい撮影が可能です。これまでのASI290MMが2.9μmなので、約1.5倍くらい細かくなるわけです。同センサーのカラータイプはZWOからもでていますが、モノクロで天体用はToupTekからだけのようです。 (追記: 2025/5/8) ZWOでも同センサーでASI678MMが出ていますが、いずれも売り切れや取り寄せなど、日本の代理店を通してだと入手が大変そうなのと、値段がかなり上がります。海外では太陽でG3M678Mの実績が多数報告されているので、初期不良や故障の場合は少し面倒かもしれませんが、今回はG3M678Mを選びます。(追記ここまで) 分解能を考える場合は、カラーとモノクロではモノクロの方が単純に2倍細かくなるので、単波長の太陽撮影では同じセンサーならモノクロタイプの方が圧倒的に有利です。センサーサイズは1/1.8''と、これまでのASI290MMの1/3インチよりこちらも1.5倍くらい大きくなるので、今回は大きな面積を取ることができ、かつ細かく撮影できると、いいことずくめです。

その一方で、もちろん犠牲にするものがあって、それはピクセルサイズが小さくなることによる感度の低下と、センサー面積が大きくなることで高価になることでしょうか。でも太陽撮影で十分明るいものを見るので感度はそこまで問題ではないでしょう。またセンサー面積が大きくなったと言っても、たかだか惑星用カメラの面積なので大したことはなく、CMOSカメラとしてはまだ安価な部類でしょう。しかも今回はじめてAliExpressを使って安いところを探して購入してみました。ToupTekの日本語のページもありましたが、ただ単に日本語化しているだけのようで、ドル払いで、しかも割高なので、結局AliExpressにしました。支払いもPayPalでできたので、直接カード番号を入れるとはしなくてよく、多少安心です。発注から到着まで20日ほどかかるとのことでしたが、実際には15日くらいで少し早めに来て、ちょうどこの日C8から8cm鏡筒に交換している最中に到着したので、タイミング的なこともありますが、ゴールデンウイーク中に使うことができて、結構好印象です。


太陽全景撮影

さて、今日の太陽全景です。まずはいつものようにASI290MMで撮影し、特に問題ないことを確認します。その後、今回の新カメラに交換します。このカメラはアイピース径と同じ筒タイプのカメラなので、アイピース口の中に押し込んでセンサー面をより鏡筒側に近くにすることができます。

IMG_1348

今回はカメラの差し込み位置などの最適化はまだできていないので、適当な位置に入れてピントが出るかどうか試したくらいです。ドライバーとかはあえて何もインストールしなかったのですが、SharpCapではそのまま認識して、接続までできました。

さて実際にSharpCapで見てみると太陽全景が一度に入っていることがわかります。こんなふうに撮影まで何のトラブルもなくできたので一安心です。

スクリーンショット 2025-05-05 150358
とりあえずの細部出しです。今後パラメータを調整していきます。

スクリーンショット 2025-05-11 141625
Stabilization/Alignmentの設定を見たいというリクエストがあったので、
フォルダーモニター機能で保存してあったファイルを再生し、追加しました。
ガイドが前提なので、最低限の設定になっています。

PCでこの画面を見て、高分解、モノクロで、やっと一度に太陽全体が入って、かなり嬉しかったです。このカメラは今後の太陽撮影に色々使えそうで、今回の全景撮影はまだほんの一例に過ぎないです。

この状態で、とりあえずリアルタイムスタックでカラー化とプロミネンス鏡長をしたものを、PNGで画像を保存してみました。SharpCap以外での画像処理はしていません。(ブログにアップロードする関係でサイドの黒いところをクロップして、jpgに変換だけしてあります。)
15_03_37_Sun_00001 15_03_37_WithDisplayStretch

ここまでがワンステップで出るので、これまでやっていたかなりのことを省くことができて、相当楽になります。今後は、気軽に全景のタイムラプスとかもできそうなので、どんどん試していきたいと思います。

今回はASI290MMで撮影したものもありますが、まだG3M678Mの方の最適化ができていないので、比較は次回以降にします。とりあえずのパッと見では差がほとんどないか、まだASI290MMの方が少しいいみたいです。たとえ口径8cmだとしても、焦点距離が400mmと短いために、ピクセルサイズの小ささが効くような状況ではないからだと推測しています。この件はもう少し詳細に調べます。


まとめ

今年のゴールデンウィークは太陽三昧でした。大黒天の撮影もうまくいきましたし、新カメラも到着して全景撮影にも進展がありました。もう少し晴れの時間が欲しかったですが、天気が悪い時には画像処理やブログを書いていました。名古屋に行ったり、お客さんが来たりもしたので、かなり充実していて楽しかったです。

ブログに書いたこと以外でも、まだエタロン良像範囲の調整を数週間前からずっと続けています。こちらは今の段階でも進展はありますがまだ途中なので、もう少し結論が出てからまとめるようにします。





前回の週末太陽記事 (その1)に引き続いて、(その2) になります。今回の記事は前回のような撮影ではなく、各種テスト関連になります。



前回挙げた週末作業での目標は以下のとおりです。
  1. いつもの口径20cmのC8+ASI290MM+PSTでプロミネンスを1時間撮影し、ベストの静止画を作り、あわよくばタイムラプス映像を作る。
  2. 同セットアップで黒点周りを1時間撮影し、ベストの静止画を作り、あわよくばタイムラプス映像を作る。
  3. 太陽減光フィルムをC8先端に取り付け、PST部分を2倍のバローに置き換え、粒状斑の撮影を1時間程度。
  4. 口径8cmの鏡筒+PST+ASI290MMで、太陽の全景を見ながら、手持ちの2つのPSTを比較。
  5. 同セットアップで、太陽の全景を見ながら、エタロンの位置の違いで分解能が変わるかのテスト。
  6. 同セットアップで、ベストの選択肢で太陽の全景を撮影。
  7. 同セットアップで、SharpCapのリアルタイムスタックで撮影したらどうなるかのテスト。
  8. PST付属の4cmと、口径8cmで分解能は得するかの再検証。
  9. C8+ASI290MM+PSTに戻して、エタロン視野拡大の初期テスト。

1から3までが前回記事に相当しますので、今回の記事は4以降についてです。最近の手順は、午前中がシーイングがいい可能性が高いということで撮影を先に済まし、各種テストなどは主に午後にやるようにしています。


手持ち2台のPSTの比較

簡単なものから済ませます。まずは4の、手持ちの2つのPSTで性能の差はあるか?です。これについてはずっと以前に比較していて、C8で見た時には差があることはわかっています。2023年5月に2台目の使用を開始した時と、その後9月の過去2回で、2台目の方が明らかに良いと結論付けています。今回は、口径8cmでもこの違いがわかるのかを見てみます。

簡単な比較なので結果だけ載せます。まずは1台目の古くからあるPSTを8cm鏡筒に取り付けたものです。1台目はエタロンを中身まで取り出していますし、ボックスの蓋を開けて中身のペンタプリズムの位置もいじっているので、そのせいで性能が変わっている可能性もあるのですが、今のところの印象は多少いじろうが何をしようが、エタロン自身の性能をどうこうすることはできずに、基本このPST固有の性能が依然出ているというものです。今回のエタロン調整は、太陽真ん中にHα波長の中心が来るように合わせました。

12_28_23_8cm_10mm_lapl2_ap2171_out_prominene

これを見る限り、左右に明るい部分が出てしまっているので、Hα波長に合っている範囲にムラがあることがわかります。エタロンのリングを回すことで、波長があっている範囲を右や左に動かしたりできますが、その分反対側に見えない範囲が増えます。初期の頃のC8ではこの中のいい部分を使っていたことになります。

続いて2台目です。こちらは明らかに1台目より良像範囲が広いです。
13_27_54_2ndPST_lower_30mm_lapl2_ap2041_out

この違いには結構驚きました。C8で見た時よりも差が大きいです。画像を比較すると、本来写るべきフィラメントが1台目だと写っていないものが多くあります。プロミネンスは1台目も炙り出したので見えてますが、2台目と比べると明らかに薄いです。

できればC8に2台目、8cmに1台目としたかったのですが、ここまで差があると2台目だけを使うことになりそうです。1台目をもう少しいじってどこまで2台目に迫れるかは、いつか試してみてもいいかもしれません。


ちなみに、4月6日の記事で書いた口径10cm、焦点距離1000mmの鏡筒とASI294MM Proで撮影したものは1台目のPST、4月23日の記事で書いた口径8cm、焦点距離400mmの鏡筒とASI290MMで撮影したものは2台目のPSTを使っていたので、公平な比較ではなかったです。でもまあ、8cmの方が取り回しは楽だし、カメラも294を使うのは勿体無いので、今後も全景用に8cmを使うことには変更はありません。


エタロン位置の最適化

ここからは8cmでの全景撮影の最適化を目指します。

そもそもは、4月23日の記事で8cmで全景を撮影した時の疑問に対してgariさんからのコメントがあったことが発端です。

もう少し戻ると、元々の疑問の一つは、F10用に作られたPSTのエタロンのはずなのに、口径8cmのF5でHαが見えるのは何故か?というものでしたが、これはコメント内の議論で、

「2枚のレンズf1とf2があった時に、合成レンズの公式 1/f = 1/f1 + 1/f2 - d/(f1 f1) から、平行光(太陽光)が対物レンズに入ってきて、エタロン手前のレンズを通り抜けた時に平行光になる。平行光はf=♾️ということなので左辺が0になるため、1/f1 + 1/f2 = d/(f1 f1) が成り立ち、レンズ間の距離: d = f1 + f2 が最適距離になり、これを満たすような距離を取れば、平行光が得られる。PSTでは実際
400mmレンズ-> 距離200mm-> -200mmレンズ-> 平行光-> 距離200mm-> 焦点
となっているので、上の合成レンズの式を満たす。この議論には口径が入ってこないので、この条件は口径8cmでも成り立ち、F5とかF10というのは意味をなさない。」

と結論づけていています。PSTはF10で動くという話がずっと言われていますが、結局はF値に関係なくレンズ間距離さえ合わせれば平行光が出せるので、PSTの場合「F10」ということだけが一人歩きしているように思えます。

その上で、gariさんの疑問は2つで、要約すると
  1. 口径8cmでF5にしたとしても、エタロン前のレンズ径が2cmなのでここでF10にリミットされるはずで、焦点距離が同じ400mmなら口径を大きくしても分解能が上がるのは不思議。
  2. エタロンは完全に平行光を入れなくてもそこそこ機能するのでは?少なくと数cm移動しても見え方に変化はなかった。
というものです。

その一方で、私の方では以前PST標準の口径4cmと今回使った口径8cmを比較した時には分解能明確な違いが見られたという経験があります。

gariさんの疑問1に対しては、同じくコメントの中で議論していて、
  1. レンズ径は実測で23mm程度なのでF5にした場合光はまだ蹴られますが、15%ほど得するはず。
  2. gariさんの疑問2を事実とすると、エタロンが平行光をそこまで要求しないのでレンズ間距離は多少適当でも大丈夫で、レンズを含めたエタロン全体を、(エタロンが働く範囲で)できるだけビーム径が小さくなる後ろに置いた方が得する。
という推測ができます。例えばエタロン2cm後ろに下げたとします。対物レンズは口径8cmで焦点距離が400mmmなので、エタロン前のレンズが200mmの位置に置いてあるとすると、ビーム径は半分の40mmになります。エタロンを2cm下げるとレンズ間距離も2cm伸び、エタロン前のレンズでのビーム径は36mmになります。なので実効的なF値は5から大きくなって、F5 x 36/23 = F7.8となるので、元のPSTのF10と比べると得するはずです。

口径4cmの時のドーズ限界が2.9秒角くらい、口径8cmの時が1.45秒角くらいなので、上の計算が合っているなら、1.45秒角 x F7.8/F5 = 2.3秒角くらいになるはずす。今使っているASI290MMだと焦点距離400mmで1.4秒角/pixとかなので、まだ手持ちのカメラで十分違いが認識できるはずです。

というわけで、そもそも口径8cm鏡筒にPSTを取り付けた状態で、エタロンをどれくらい動かせるのか確かめてみました。エタロンはアルカスイスの長いレールのようなプレートに取り付けてあるので、簡単にスライドできます。PSTの箱がエタロンが鏡筒の筒の部分に当たるまで前に出した時にもピントが合うことが確認できました。反対にピントが出る範囲でできるだけエタロンを後ろに下げてみると、33mmまで下げることができました。平行光を出す位置が確定しないのですが、上の考えがあっているかどうかを確認する意味で、エタロン前後で差が見えるかどうかは見てみる価値はありそうです。

IMG_1197

結果です。今回はエタロン位置が前後で30mm違う場合にそれぞれ撮影し、中心付近のダークフィラメントを拡大してみてみました。左がエタロン位置が前でレンズ径が相対的に小さく、右がエタロン位置が後ろでレンズ径が相対的に大きく有利なので、右側の方が解像度が出るはずです。

スクリーンショット 2025-04-30 111413_cut

よく見ないと分からないかもしれませんが、それでも有意に右の後ろに下げたほうが細かいところまで出ているので、定性的には上の考えは間違ってはなさそうです。

エタロン前のレンズ径に制限がある場合にレンズ位置が30mm違うと、光径は30/400 = 0.075で約8%小さくなり、解像度は逆に約8%上がるはずです。解像度が2倍変わると劇的に変わり、1.5倍でも見ただけで改善しているのがすぐわかるので、8%ならまあこのくらいではないでしょうか。

本当は目的の8の、「4cmのPST鏡筒と、8cm鏡筒との直接比較」をすれば良かったのですが、ちょっと時間的に交換するまではいかず、今回は試すことはできませんでした。


全景画像

さて、口径8cmで分解能を最適化することができたとして、これで一旦撮影してみたいと思います。1.25msで500フレーム撮影して、上位75%をスタックしました。

13_27_54_2ndPST_lower_30mm_out_cut

全景としてはかなりの分解能になっています。これならそこそこ満足です。中央部に比べて、周辺の分解能は落ちていますが、エタロンの精度に限界があるので、PSTエタロンを使っている限りここら辺が限界でしょう。それでもプロミネンスもきちんと見えているので、まあ良しとします。これ以上を求めるなら、半値全幅を減らす方向の方がいいので、エタロンそのものの性能から考え直さないとだめなのかと思います。

比較のために、目的7のSharpCapでリアルタイムスタックをして、全景に近いものを見てみます。
スクリーンショット 2025-04-26 134504

さらに、SharpCap画面に映って画像をそのままPNGで保存して、太陽の上下2枚の画像をモザイク合成したものです。
Snapshot of 13_45_15_Stack_00001 13_45_15_WithDisplayStretch_cut

もう全景だけなら画像処理ソフトは必要なくて、SharpCapだけで十分な気がします。

一応拡大図を示しておきます。左が1000フレームスタックでマニュアルで上位75%をスタックし時間をかけて画像処理をしたもの、右側がSharpCapでのリアルタイムスタックでこのときは常時100フレームスタックです。

スクリーンショット 2025-05-04 104036_cut

こうやって比べて見ると、SharpCapのリアルタイムスタックの方がノイジーですが、これはフレーム数が100枚と少ないだけなので、もう少しフレーム数を増やしてやりさえすれば、実用上はこれでもう十分かと思います。


まとめと次回以降の課題

この週はかなり時間をかけることができて、色々試したいことが進みました。撮影もある程度コンスタントにこなせるようになってきたので、ここら辺は今後はルーチンワークになっていくのかと思います。

まだ少し課題が残っています。
  • 目標の8番の「PST付属の4cmと、口径8cmで分解能は得するかの再検証」はまだやってませんが、そこまで興味がないので、もしできたらくらいで次回以降の課題とします。
  • 目標に挙げた最後の9番の「C8+ASI290MM+PSTに戻して、エタロン視野拡大の初期テスト」は、色々試しているのですが、まだ結論が出る前でもう少し試したいことがあるので、もう少し進展してからまとめます。

上のこと以外にも実はまだ試したいことが山積みです。次の週 (今ブログを書いている5月4日のゴールデンウィーク中) は天気はある程度晴れるとの予報なので、もう少し進められたらと思います。




4月26日と27日の土日は太陽三昧でした。特に26日は朝から1日中快晴で、多くの撮影と機材のテストができました。26日の撮り逃し分を27日に撮ったのですが、風が強くて結構大変でした。


足回りの強化

待ちに待った週末の休みです。しかも土曜は快晴の予報。実際、金曜夜の23時頃から晴れてきて、朝までSCA260とRedCat51+SWAgTiで撮影してました。SCA260を出したので、赤道儀はCGX-Lと大型のものになります。いつも太陽でC8を載せて使っているCGEM IIよりも一回り大きいので、安定度が増すはずです。太陽撮影時に細かい揺れがちょっと気になっているので、いい機会だと思い、出しっぱなしのCGX-Lを使うことにしました。

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ついでに、今の構造で一番弱そうだと思われるC8下のVixen規格のアリガタを、Losmandy規格の幅広のものに載せ替えました。それでも鏡筒バンドの下部の接続部が一番細くてそこがネックになりそうなので、以前VISACでやったような、真ん中のネジ加えて2本のイモネジを左右に入れて、押しネジ状態にして強度を増しています。

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実際かなり揺れは収まったようで、PHD2のガイドグラフを見てても明らかに静かになりました。ただし、風の状況などにもよるので、もうしばらく様子を見てから結論を出そうと思います。


この週の目標

今週末にやりたいことは
  1. いつもの口径20cmのC8+ASI290MM+PSTでプロミネンスを1時間撮影し、ベストの静止画を作り、あわよくばタイムラプス映像を作る。
  2. 同セットアップで黒点周りを1時間撮影し、ベストの静止画を作り、あわよくばタイムラプス映像を作る。
  3. 太陽減光フィルムをC8先端に取り付け、PST部分を2倍のバローに置き換え、粒状斑の撮影を1時間程度。
  4. 口径8cmの鏡筒+PST+ASI290MMで、太陽の全景を見ながら、手持ちの2つのPSTを比較。
  5. 同セットアップで、太陽の全景を見ながら、エタロンの位置の違いで分解能が変わるかのテスト。
  6. 同セットアップで、ベストの選択肢で太陽の全景を撮影。
  7. 同セットアップで、SharpCapのリアルタイムスタックで撮影したらどうなるかのテスト。
  8. PST付属の4cmと、口径8cmで分解能は得するかの再検証。
  9. C8+ASI290MM+PSTに戻して、エタロン視野拡大の初期テスト。
と、結構な量があります。


1時間の撮影を3本

午前中のシーイングのいい時を逃さないために、まずは撮影で1と2と3です。この日のシーイングは普通か、それより少しいいくらいでしょうか。朝だからといって、必ずしもものすごくいいというわけではなさそうです。

大きなプロミネンスがいくつも出ていますが、いいシーイングを探すために撮影場所を一箇所に絞って長時間撮影したいので、全部のプロミネンスを撮影することは大変です。とりあえず今回は一番見栄えの良い、リング状に広がっている10時半方向のものを選びました。太陽周辺に沿ってかなり広がっているので、カメラの横手に入るように向きを変えて撮影しました。

露光時間は1.25ms、ゲインは100で、1ショットあたり200フレーム撮影しています。1ショット撮影した後に30秒のインターバルが入って、トータル120枚撮影しました。これまで誤解していたのですが、SharpCapで指定できるのはインターバルタイムなので、例えば何かのトラブルでフレームレートが落ちたりするとその分撮影にかかる時間が増え、1枚1枚の間隔もずれてしまいます。1枚目が7時46分22秒、120枚目が8時54分30秒なので、1枚1分計算より8分8秒余分にかかっています。これを120枚で割ると、1枚あたりの平均撮影時間は4.07秒ということになります。タイムラプス映像のためには、フレーム数で指定するより撮影時間で指定する方がいいのかもしれません。できればキリのいい等間隔で、フレーム枚数も揃えたいのですが、可能なのかどうかまだ調べられていません。

撮影を開始て少し落ち着ついたので、1時間後にアラームかけて、ここで自宅に入り朝食をとりながら少しのんびりします。1時間後、アラームが鳴って続いて黒点の撮影です。この時点で午前9時くらいです。条件はプロミネンスの時と同じで、30秒インターバル毎に200フレームでトータル120枚です。

こちらも撮影を開始すると時間ができるので、早速先ほどのプロミネンスの画像処理を並行で進めます。とりえあえず選別のために、全部を上位90%をスタックします。AutoStakkert4!でのスタックは結構時間がかかり、120枚をバッチ処理すると1時間では収まりません。待っているのも時間がもったいないので、処理ができた端からImPPGにかけてチェックしていきます。

見たいのはシーイングの度合いです。やはりそこまでいいわけではありませんでしたが、中には飛び抜けて分解能が出ている画像が何枚が見つかりました。なので、この時点で少なくとも静止画用の画像は確保できたと思って良さそうです。

そうこうしているうちに黒点の撮影時間が終わり、続いて粒状斑の撮影に移ります。減光フィルターを鏡筒先端に取り付け、PSTを外して、2倍のPowerMATEを付けて午前10時20分くらいから撮影開始です。この撮影中も画像処理を続けました。

その後、黒点周りと粒状斑撮影分も画像をチェックしましたが、この日の粒状斑ぶんは画像処理をする価値がないほどのシーイングになってしまっていました。明らかにプロミネンスや黒点を撮影していたときよりは悪化しています。やはり午前の早いうちの方がシーイングがいいことが多いようです。


静止画

この日の粒状斑撮影ぶんは諦めて、プロミネンスと黒点周りのみ画像処理を進めます。この時点で私としては珍しく粒状斑を撮影した動画ファイルはすべて削除しました。流石に使うことはもうないという判断ですが、それでもまだ少し心配なのは性格ですね。

まずはプロミネンス、黒点共にベストのものを選びます。それぞれ120本のserファイルから、上位90%をスタックし、ImPPGで細かいところを出したものを見比べます。

やはりシーイングは4月5日には程遠かったですが、何枚かは突如分解能がいいものがありそうです。分解能がいいのは10分から20分に1回くらい出てきて、そのいい時は2-3枚続くこともあるいった状況でしょうか。一番いいものでも、4月5日の6つのレベルのうち、せいぜい上から2番目の内の悪い方くらいでしょうか。全体的には4月12日よりは幾分いいのかと思います。


プロミネンス:
静止画のために選んだプロミネンス画像は、8時0分9秒と8時1分15秒。一つ飛ばしの比較的近い2つの画像で、その二つの元の動画のserファイルをTIFFに分解し、再びAS4!で上位75%をスタックしたものを使いました。チェックの最中で、プロミネンスの方には途中で大きな吹き上がりがありそうなことがわかり、タイムラプス映像も楽しみになってきました。

プロミネンスの静止画を仕上げたものですが以下になります。シーイングはそこまで良くはなかったですが、そこそこ細部も出ているので、まあ十分な仕上がりかと思います。

TIFF_lapl3_ap2603_IP_ST_color_inv_cut


黒点周り:
一方、黒点周りの画像はあまり時間的な変化が大きくないので、少し飛ばして9時31分41秒と9時36分38秒のserファイルをTIFFに分解し、AS4!で上位75%をスタックしました。

2つのseeファイルを使った理由は、200フレームだとどうしてもノイズが目立つというのが主です。75%を使ったので結局合計300フレームですが、これでもまだ少しノイジーで、画像処理でノイズ軽減ツールが必須です。ノイズレスにするためには少なくとも500フレームは必要そうですが、1ショットにこれだけ撮影するとディスク容量を食いすぎます。実際今回は、1時間の撮影でserファイルだけで100GB近くになります。3種撮影で300GBで画像処理も含めるともっと大きくなります。現在1TBのSSDを使っていますが、でこれが2倍とか3倍になると考えると今のセットアップではもう無理で、さらに外部の速い接続でのディスクなどが必要になってしまいます。それに付随して、電源やケーブル、ファイルの転送速度などまで考えると、どんどん大変になってくるので、今の所はこの複数のファイルを使うという方法になっています。

結果です。通常のカラーと、反転したもの2枚を載せておきます。

TIFF_lapl2_ap3951_IP_ST_color_2_mod

TIFF_lapl2_ap3951_IP_ST_color_inv

こちらも最良のシーイングからは劣りますが、自分的には十分満足な結果です。


タイムラプス映像

プロミネンス:
続いてタイムラプス映像です。今回は4月5日の分に続き2度目ということもあり、処理手法に関しても大分こなれてきました。前回はいろんなテストも兼ねていたので、1週間ほどかかってしまいましたが、今回はプロミネンスの方は2日後の月曜には動画になるまでに完成し、一旦Xに投稿しています。

手法はこなれたので、仕上げのためのなめらか具合とかも出るようになってきましたが、やはり良シーイングには勝てなくて、分解能に関しては前回の方が上かと思います。プロミネンスは途中で大きな速い噴出があったので、結構なインパクトがあります。こんな面白さがあるのは太陽ならではですね。夜の天体でここまで激しいのは余程のイベントとかでない限り、なかなか無いです。


このタイムラプス動画ができたときに、噴出のところを得意げに妻に見せました。

私: 「見て見て! これすごくない?飛び出てるよ!」
妻: 「うーん、要するに炎でしょ? たき火やるとこんなのよく見るよ。」
私: 「え?... 違う... これ...太陽の...」

残念ながらすごさは全く伝わりませんでした。


黒点周り:
プロミネンスが面白かった一方で、黒点周りはほとんど動きがなく、途中まで処理してやる気を無くしました。このままお蔵入りにしようと思っていたのですが、1時間程度ではこれくらいの動きだということで、カラー化も仕上げもしてないですが、参考程度に公開しておきます。左側のダークフィラメント以外、ホントに動かないのでつまらないです。むしろ、動かないこと自体に価値があるのかもしれません。


やはり動画は、動かない黒点周りよりも、動きがダイナミックなプロミネンスの方が面白いです。

今後は1本あたりを撮影時間をトータル30分くらいにして、プロミネンスの本数を増やし、黒点は静止画だけにするのも手かと思います。動きの少ない黒点の動きを見ようとしたら、最低2時間くらいの撮影時間が欲しいです。


粒状班の再現性

ちょっと時間は前後しますが、先に粒状斑のことを書いておきます。4月26日は10時半頃からの撮影でしたが、この時点でシーイングはボロボロで、処理は諦めました。その晩も晴れていたので、夜はSCA260
に載せ替えてM101を撮影。そのまま27日の日曜の朝も晴れだったので、昨晩は午前3時頃に寝たにもかかわらず、午前6時半ころから起きて、気になっていた粒状斑の撮影のみ再開しました。

ただし、風が部屋の中にいてもビュービュー音が聞こえるくらいだったので、細かい分解能が必要な粒状斑の撮影は厳しそうでした。午前は何度かに分けて30分程度の撮影を繰り返しましたが、結局全部使い物にはならず、もう諦めて撮影を開始して放っておいて外にモーニングを食べに行ったりしてました。自宅に帰ってからは少し雲も出始めたので、もう半分以上諦めていたのですが、風も収まってきた午後1時過ぎに雲の合間に撮影したものが意外なほど分解能がよく出ました。なので必ずしも午前だけがシーイングがいいのではなく、午後にもチャンスはあるということがわかりました。

粒状斑はまだタイムラプスにできる見込みは全くないので、途中曇って暗くなっても構わないですし、ダメだと判断した動画ファイルはすぐに捨てることができます。なのでディスク容量が許す限り撮影して、判断した端から捨てていけば、かなりの時間撮影することができそうです。

午後に撮影したものの中から、分解能が良さそうな4本の動画ファイルを選び、今回は一旦全てTIFF画像に分解するのではなく、PIPPでゲインとガンマ補正をした後に、一つのserファイルに結合しました。合計800フレーム分になります。これをAS4!で上位10%、20%、50%、80%とスタックして、細部出しは同じ条件にしたImPPGを使い、それぞれの画像を比較してみました。

上位画像を絞った方が分解能が出ると思ったのですが、見た限り有意な違いは認識できませんでした。それよりも、ノイズが残るかどうかの差の方がはるかに大きく、10%や20%ではImPPGの炙り出しの時点で粒状のノイズが目立ってしまい、ノイズ軽減処理が必須になりそうです。50%や80%ではノイズ感はかなり軽減され、ノイズ軽減処理なしでもなんとかなりそうです。

これに関連して、最近はImPPGの「Lucy-Richardson deconvolution」の「Sigma」の値をいつも最低の0.5にして使っています。これを少しでも上げると、つぶ状のノイズが一気に目立つようになるからです。このことは結構以前から気づいていて、大きな値はシーイングが悪く分解能が出ていない時には有効のですが、最近のようにシーイングいい時を選べるようになると、デフォルトの1.3でも仕上がりの分解能が劣ってしまいます。さらに最近の撮影のようにフレーム数が少ないとつぶ状のノイズがどうしても目立ってしまいます。シーイングを選んで撮影したときは結局0.5一択になってしまい、ImPPGを使う意味が薄れてきてしまいました。

そのため今回はPixInsightのMultiscaleLinearTransformでwavelet変換をしてみました。Registaxでも良かったのですが、もう流石に古すぎるのと、PIのMLTの方がもう少し細かいパラメータ設定ができること、将来的にContainerを使ってバッチ処理もできることなどが理由です。

MLTで画像処理してみると、先週の4月19日に撮影したものよりも少し劣る程度で、一応は粒が見えるくらいの画像が得られました。

13_34_29_pipp_lapl3_ap3858_PI_cut._modjpg

粒状斑については、結局二日かけてもベスト更新はなりませんでしたが、これである程度の再現性もある程度あることがわかったので、次はもう少し条件を変えてみる予定です。


まとめ

今回の記事は目標の1から3までです。残りの4以降もまだまだ盛り沢山なので、一旦区切って今回の記事はここまでにしておきます。

とにかく、プロミネンス画像と黒点画像はコンスタントに撮れるようになってきました。タイムラプス映像も工程がこなれてきたので、処理にかかる時間は大幅に減っています。次の記事の分はすでに大体のテスト結果が出たのですが、その結果を元にまたやりたいことが出てきてしまいました。連休中に進められるといいのですが。





最近ずっと太陽の記事ばかりですが、夜の撮影も多少進めています。試したのは3月21日と23日で、SWAgTiでモンキー星雲を撮影してみました。


春霞がひどい

3月21日はひどい春霞でした。黄砂も来ていたらしいです。雲は見えないのに星も見えないという、訳のわからない日でした。明るい星がかろうじて数個見えるくらいです。しかも家の中にいても風がビュービュー吹く音が聞こえるほど強くて、決して撮影に適した日とはは言えませんでした。でも久しぶりの晴れだったので、とにかく何か撮ってみようと試してみたというわけです。

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機材は簡単に、RedCat51 + Uranus-C Pro + CBP+ SWAgTiです。CBPはあまり強くないフィルターですが、モンキー星雲なら電視観望で数秒露光でも普通は何か見えます。でもこの日はPCの画面で見ても限りなく淡です。結局この日は3分露光で66枚撮影しましたが、後から見たら風のせいでブレブレで、使えそうなものは約半分の32枚でした。しかも、過去が画像のモンキー星雲のRAWファイルと比べても淡いです。

気を取り直して2日後の3月23日、撮り増しすることにしました。というか、21日の画像が淡すぎたので、できれば一から撮り直したいと思っていました。でもこの日も霞がすごかったです。黄砂予報は少し緩和されたので多少マシかと思っていましたが、後で比べたら結局同じくらいの淡さでした。もしかしたら何か機器の方に問題があるかと思ったくらいです。ちなみに、23日にはε130Dでばら星雲も撮影していますが、こちらはまだ明るい機材のせいか、多少マシなようです。それでも普通から考えたらかなり淡かったです。2つの機器で淡いので、やはりこれは機材のせいではなく、単に春霞がひどいのでしょう。

天体撮影では天気だけはどうしようもないので、この23日もそのまま撮影を続行し、71枚撮って56枚を使うことにしました。21日の画像を比べてもほとんど変わりないくらい淡かったのと、すでに7時間撮影していて、使わないファイルを除いても4時間半分くらいあること、その後の天気があまり良くなかったので、もう諦めて画像処理に進むことにしました。


画像処理

撮影後の画像処理はすぐに始めたのですが、MGCでストップしてしまいました。フィルターにCBPを使っているのである意味ナローバンド撮影といっていいのでしょうか、MGCを適用すると補正画像がこんなふうになってしまいます。

integration_ABE_MGC_gradient_model

これだと肝心のモンキー星雲本体が大きく補正されて、かなり暗くなってしまいます。この時はSPCCやSPFCのフィルターをありあわせのもので適当に済ませてしまっていたので、これを直せばなんとかなるかと思い、この時点でしばらくお蔵入りになってしまっていました。

先週末までで太陽のブログ記事を書くのもすこし落ち着いたので、モンキー星雲の画像処理を再開しました。やったことはSPCC用のCBPと、Uranuns-Cのフィルターを作ることです。CBPはだいこもんさんが作ってくれたものを使い、Uranus-C用のIMX585のカラーレスポンスは以前作っていたので、グラフを読み取るとかの手間はなく、ただ単にCBPとIMX585のフィルター情報をFilterManager上で重ね合わせるだけでした。


MGCのバージョンアップ

でも結局フィルターを正しくしてもMGCの補正はほとんど変わりませんでした。MGCはちょうど3月21日ににバージョンアップしていて、MARS DR1 Database Version 1.1が使えるようになっています。


このバージョンアップはかなりの進化で、オリオン領域の露光時間を10倍くらいにしたとか、これまでのHαに加えてOIIIに対応したというアナウンスがされていてAOO画像に対応、さらにSIIもRを代用すればなんとかなるかもということです。

それならばCBPでも対応できるのかと思っていたのですが、フィルターをCBP+IMX585にしても、MGCでナローバンドを設定しても、結局はだめでした。ナローバンドの設定は、例えばBをOIIIにすると青の補正が全くされないとかです。補正するのところをナローに変えると補正されなくなるようなので、例えばRをHα、GをOIII、BをOIIIとかにすると、補正画像側の星雲本体部分が真っ暗で、暗い黒で補正するので星雲本体が明るくボケボケになってしまうような状況でした。

まだ探りきれていないのかもしれませんが、ナローバンド、特に今回のようなワンショットナローバンド画像は、もう少しこなれるのを待っていた方がいいのかと思います。

MGCでの補正はあきらめ、あとは普通通り処理しました。

(2025/4.29: 追記) MGCで星雲本体が補正される問題は、結局Gradient Scaleが小さすぎたことでした。以前勾玉星雲の時にGradient Scaleの値を探っています。ε130Dの迷光の跡を消そうとしてGradient Scaleを小さくして、そのときは256が一番結果が良かったので、そのまま鵜呑みをしてモンキー星雲にも256を使っていました。今回のような大きな星雲が真ん中にドンとあるときは、Gradient Scaleを小さくするのは過補正になる可能性があるということです。実際、Gradient Scaleを1024にすると補正画像からモンキー星雲本体の形が完全に消え、1段階小さい768だともう星雲本体が補正されてしまいます。元々のMGCの目的から考えると、大きな構造を補正する目的なので、細かすぎる補正は目的にそぐわないといっても良いのかと思います。臨機応変に対応しなければと、改めて反省しました。(追記終り)

あ、そういえば今回はセンサー面の埃が目立っていて、星雲本体の上に大きな丸が乗っかってしまっていました。
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なのでお気楽撮影という方針には反するのですが、フラット撮影して補正するという手間をかけてしまいました。といっても、自宅で明るい昼間に部屋の中の白い壁を写すだけなので、まあ大した手間ではありません。フラットはフラットダークを撮らないと色々面倒なことが起こる可能性が高いので、フラットダークも撮影しています。フラットもフラットダークも1枚あたり30ミリ秒秒とかなので、大した時間はかかりません。その一方、ダークファイルは撮影に時間がかかるので、今回もダーク補正は無しです。ここら辺はSWAgTiのお気楽撮影を守りたいと思っています。


結果は...

さて、結果です。

「NGC2174:モンキー星雲」
Image15_DBE_cut
  • 撮影日: 2025321203分-225620253231946分-2324
  • 撮影場所: 富山県富山市自宅
  • 鏡筒: William Optics RedCat51(f250mm、F4.9)
  • フィルター: なし
  • 赤道儀: SWAgTi (SWAT-350V-spec Premium + AZ-GTi)
  • カメラ: Player One Uranus-C Pro(-10℃)
  • ガイド: なし
  • 撮影: NINA、Gain 120、露光時間3分 x 88枚 = 264分 = 4時間24
  • Dark: なし、Flat, Flatdark: Gain 220, 露光時間0.03秒x128枚
  • 画像処理: PixInsight、Photoshop CC

星雲本体の色は出ていますが、まわりの分子雲みたいなのは皆無です。と思って調べたのですが、モンキー星雲の周りってあまり分子運ないみたいなんですよね。その代わりに、モンキーの右下に青い丸ポチがある画像をいくつか見つけました。この青丸、出てる画像と出てないな画像に分かれるみたいです。出ている画像はRGBで、出ていない画像はナローでした。そう言った目で見てみると、ごくわずかですが青っぽい色が出ています。これは比較的弱いCBPを使ったからかと思います。特にCBPは青色領域を結構通すので、色が自然に近くなり処理がしやすく、私は結構好んで使っています。でもいつか、本当のBで撮影したいと思ったのですが、もう季節は過ぎてしまったので、来シーズンの課題とします。

恒例のアノテーションです。結構斜めになってしまっています。玄関に置いてあるのを出してそのまま撮影するので、あまり真面目にセットしていないのがこんなところからもわかってしまいます。
Image01_Annotated


過去画像との比較

比較のために、
以前撮影したモンキー星雲を再掲載します。6年前の2019年1月にFS-60QにEOS 6Dで撮影しています。約2年後の2020年12月にDeNoise AIが出た頃に、一度再処理しています。

light_BINNING_1_integration_DBE_PCC_HSVRepair_AS_all4_cut

色に関しては星雲も恒星も含めて今回の方が階調も出ているのでまだいいのですが、恒星の分解能はそれほど変わらず、星雲の分解能は以前よりも劣っていると言っていいでしょうか。これではベスト更新と言っていいのかどうか?

原因ははっきりとしていて、春霞で暗くてボケボケ、むしろよくここまで出たと言ってもいいくらいです。この撮影を通して思ったことは、やはり条件の悪い時は無理してももうどうしようもないと。その一方、機材や技術の進化で、昔の条件のいい時に撮ったものと、今の条件の悪い時に時に撮ったものが、まあ同じくらいの土俵に上がるので、実際にいろいろ進歩はしているはずです。


まとめ

北陸の晴れは貴重なので、春霞の中で無理をしてモンキー星雲を撮影しました。やっぱり晴れというだけではダメですね。私は機材とか画像処理とかに進歩があって、その結果を撮影して確認したいクチなので、ベスト更新ができないとかなり凹むこともわかりました。これからもう少し条件が良くなっていくと思うので、また別天体で今後梅雨までの期間を期待したいと思います。

でも、昼間の太陽撮影と夜の天体撮影はかなりきついです。まず、睡眠時間がとれません。撮影の日はやはり遅くまで起きてますし、太陽は朝の方が条件が良さそうなので早く起きます。昼寝とかすればいいのですが、太陽の画像処理は早めにやりたいし、その合間で夜の撮影の方の画像処理も進めます。さらにブログ記事まで書きたいので、流石にちょっと大変です。

性格的にやりたいことがあると延々と作業してしまうので、意識的に他のことをしないとダメみたいです。まだバラ星雲、M101、猫の手星雲、獅子座の銀河あたりの画像処理が残ってます。太陽も土日で大量に撮影とテストをしたので、まとめが全然追いついてません。ちょっとペースを落とした方がいいのかもしれません。


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