前回の記事でSCA260の赤道儀の反転時のガタつきによる光軸ズレを解決しました。


早く撮影したいのですが天気はしばらく回復しなさそうなので、ガタつきが判明した反転前の前半のトール兜星雲の画像を撮り増し分を加えて、以前の画像に追加して仕上げてみました。


以前の画像の問題点

前回仕上げた際画像の問題点は、
  1. 露光時間が足りないため、背景がノイジーで炙り出しにくかったこと
  2. Hα画像とOIII画像を合成すると、背景に大きなムラが出てしまったこと
  3. おそらく光軸があっていなかったために特に微恒星などにシャープさがないこと
  4. シャープさ、とくに恒星の中心が出ていないせいか、StarNetで恒星と青雲を含む背景が分離できなかったこと
などです。

1については今回追加した分でHα: 3分x27枚、OIII: 3分x36枚、総露光時間3時間9分となり、前回までのHα17枚、OIII19枚の計36枚で総露光時間1時間45分に比べて倍近くになりました。

2についてはOIII画像のフラットフレームのみ変なムラがあったので、OIIIのライトフレームにHαフィルターで撮影したマスターフレームを適用することで、かなりましになりました。なぜOIIIのフラットのみそんなにムラがあるのか理由は不明です。曇った日の窓からの光が壁に当たるのを使いましたが、壁の反射などどこかでOIIIの帯域に関して均一でないのかもしれません。また、フィルターのおかげで暗くて十分な光量が取れなかったのかもしれませんが、まだ何も根拠はありません。これは時間をとってもう少し追求してみます。

3については、SCA260の光軸を合わせてから赤道儀を反転するまでの画像を追加で使ったので、少しマシかと思います。それでも時間と共に光軸合わせをした水平からどんどんずれていくので、撮影した画像の四隅をよく見ると少しズレの影響が出ているようです。今後はもうずれないはずなので次回以降の撮影に期待したいと思います。

4ですが、今回たまたまStarNet2がリリースされていて、かなり性能アップされているので少し比較してみます。


StarNet2の威力

これまでもStarNetは背景と恒星を分離してくれて、スターマスクにするなど非常に強力なツールでした。でも、恒星分離がうまくいかないことも多くあり、例えば風などでブレてしまった時、長焦点距離で恒星が大きくなってしまった時、そして前回のトール兜撮影の時のように光軸がズレた時など、主として恒星の中心が出ていない時に恒星を恒星として判断できないようで、分離できない微恒星がたくさん残ることが時々ありました。特に長焦点での場合などは頻繁に起こりました。

これは前回のトール兜でStarNetで分離しようとして全然うまくいかなかった画像です。かなりの星が残ってしまっています。

Image11_DBE_DBE_AS_HT_HT

このような場合には、事前にSTFのオートストレッチとHistgramTransformatioinでわざと恒星をサチらせてとか、ExponentialTransformationでわざわざ中心を尖らせてからStarNetをかけるとかしていましたが、今回のトール兜はそれらのテクを駆使しても全く太刀打ちできませんでした。前回の仕上げの時の炙り出しで攻めきれなかったのは、このStarNetがうまくいかなかったことが大きな原因の一つです。

ところが、今回リリースされたStarNet2はものすごい威力で、この全く太刀打ちできなかった画像もなんなく恒星分離できてしまいます。



StarNet2のインストールに関してはすでに各所で解説されているので、ここでは詳しくは書きませんが、一つだけ。Mac版のPixInsightですが、その時点の最新版の1.8.8-12にしたら、StaNet2をダウンロードしてくると付属されているlibtensorflow.2.dylibとlibtensorflow_framework.2.dylibがすでにPixInsightのbinに入っていました。私は結局StarNet2に付属のものはコピーせずに、PIに入っていたものをそのまま使いましたが、今のところ特に問題は起きていません。

StarNet2はオプションも簡単で、背景も同時に出力するオプションにチェックを入れるだけで、あとはStrideも256のままで、以前よりも短時間で遥かに強力に恒星を分離でき、以前は目立っていた恒星の後のブロック状のノイズもほとんどわからなくなっています。

上のStarNetでうまくいかなかった画像をStarNet2で処理してみるとここまで綺麗に分離してくれます。
Image11_DBE_DBE_AS_HT_HT

ここまで綺麗に分離してくれると、いろいろ応用できそうです。


画像処理と結果

撮り増し分も合わせて、StarNet2を使い、トール兜星雲を仕上げてみます。前回との違いは、
  1. Hα: 3分x27枚、OIII: 3分x36枚、総露光時間3時間9分と大幅増加。前回までのHα17枚、OIII19枚の計36枚で総露光時間1時間45分に比べて倍近くになりました。
  2. ムラのあるOIIIのフラットフレームは使わずに、HαのマスターフラットをOIIIのライトフレームのフラット補正に使いました。
  3. StarNet2を使って恒星を分離。
  4. StarNet2でうまく分離できたので、恒星のL画像を使いEZ Star Reductionを使いました。明るい星は小さくなりましたが、微恒星はほとんど変わらず、やはり甘いです。
  5. 普通は分離した構成画像をマスクとして使いますが、今回は恒星だけの画像も、背景の画像も変なブロックノイズがないので、Photoshop上で「覆い焼き(リニア) - 加算」で合成しています。
とこれくらいでしょうか。

この中で大きく貢献しているのはStarNet2だと思います。撮り増し分は星像に関しては少しシャープでマシなのですが、低空で透明度が悪かったので微恒星の写りがあまり良くなく、暗い星が写っていないのと、トール兜の写りも淡いです。それよりも、きちんと構成と背景を分離できたことで思う存分あぶりだせたのが大きいです。あと、OIIIのムラが緩和されたのも、炙り出ししやすくなったという意味で地味に貢献しています。

結果です。

「NGC2359: トール兜星雲」
Image07_DBE_PCC_DBE_AS_HTx3_reducestar2_3_crop_mod
  • 撮影日: 2022年1月22日22時2分-23日2時5分、1月27日18時57分-21時00分
  • 撮影場所: 富山県富山市自宅
  • 鏡筒: SHARP STAR製 SCA260(f1300mm)
  • フィルター: Baader Hα:7nm、OIII:7nm
  • 赤道儀: Celestron CGEM II
  • カメラ: ZWO ASI294MM Pro (-10℃)
  • ガイド: オフアクシスガイダー + ASI120MM mini、PHD2によるマルチスターガイドでディザリング
  • 撮影: NINA、Gain 120、露光時間3分、Hα27枚、OIII36枚の計63枚で総露光時間3時間9分
  • Dark: Gain 120、露光時間3分、128枚
  • Flat, Darkflat: Gain 120、露光時間0.2秒、128枚
  • 画像処理: PixInsight、Photoshop CC
前回の画像と比べても、背景ムラがなくなり、恒星がシャープになり、トール兜星雲本体も細かく出るなど、かなり良くなっているかと思います。まだ微恒星のシャープさは不満がありますが、これは今回は仕方ないでしょう。次回以降に期待したいです。でもまあ、総じてそこそこ満足です。次は別の天体に移りたいと思います。

いつものAnnotationです。

Image07_DBE_PCC_DBE_AS_HTx3_reducestar2_3_Annotated


まとめ

StarNet2のリリースもあり、うまく撮り増し分が生きたと思います。微恒星のシャープさがまだ足りませんが、次回以降にさらに挑戦したいと思います。シーイングにもよるので、これくらい以上がコンスタントに出るなら、まあ満足かと思います。

今回ももそうですが、恒星の処理がまだあまりうまくないので、もう少し時間をかけてどんなのがいいか挑戦してみたいと思います。

天気が悪くてなかなか欲求不満が改善されませんが、少しガス抜きになりました。早く晴れて欲しいです。