ほしぞloveログ

天体観測始めました。

タグ:SVBONY

これまでに5回、番外編2回も合わせると、7回に渡ってSV405CCの評価をしてきました。

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  1. SV405CCの評価(その1): センサー編 
  2. SV405CCの評価(その2): 撮影編 
  3. SV405CCの評価(その3): 画像比較
  4. SV405CCの評価(その4): 新ドライバーでの画像比較
  5. SV405CCの評価(その5): 青ズレの調査と作例
  6. 番外編1: 階調が出ない時のPedestalの効果
  7. 番外編2: ASI294MC Proでの結露
青ハロが大きな問題でしたが、なんとか解決につながる道は示せたのかなと思います。SVBONYによると、NINAでの解決はまだのようですが、いずれ解決されるでしょう。

解決されたNINAでの撮影、もしくはディザー無しでのSharpCapで撮影までしたかったのですが、ずっと天気が悪くできてません。そんな折、SVBONYさんのほうからそろそろあぷらなーとさんに送って欲しいとの連絡が来たので、今回のまとめを以ってSV405CCの評価は終了としたいと思います。


いきなり総評

まず結論から言うと、色々まだ未成熟なこともありますが、長い目で見ると明らかにこのSV405CCは「買い」ではないかと。

まずはいい理由を箇条書きに書いておきます。
  • 冷却で、フォーサーズセンサーで税込みで10万円切りと相当な安価。今回比較した同じ冷却で同センサーASI294MC Proと比べると5万円ほどの価格差があります。これは大きな利点です。
  • ホットピクセルがASI294MC Proと比べて明らかに少ない。
  • NINAの撮影では現状は青ハロが問題になるが、ソフトの問題と判明したのでいずれ解決されるはずでこれはもう大きな不利にはならない。

逆にASI294MC Proと比べて不利な点は
  • カメラ本体にUSBハブが付いていない。
  • 冷却で曇ることがあったが、時間をおけば曇りはとれる。
  • 必要冷却パワーが少し大きい。
  • なぜか撮影の最初の1枚目が暗く写ってしまう。
くらいでしょうか。 

次に、用途別に考えます。

電視観望での使用について

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電視観望ではホットピクセルがASI294MC Proよりも明らかに少ないので、いちいちリアルタイムダーク補正をしなくてよくて、圧倒的に有利です。特に露光時間やゲインを頻繁に変えるような電視観望をしている場合は、ダーク補正をしなくていいとうことはテンポよく見るのに大きな差が出ます。この特性ですが、Player OneのDPSのようにあらわに機能として謳っていないのですが、何か内部でしているのかと思われます。もっと宣伝してもいいと思います。また、SharpCapでは青ハロ問題もないので、現時点で不利になるようなこともありません。

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左がSV405CC、右がASI294MC。
右にある赤、青、緑の輝点が左にはないのがわかる。

私は電視観望で冷却を使うことがなく、軽さも含めて普段はProでないASI294MCを使うことが多いです。なので冷却が付いているSV405CCはその分重くもなり不利と考えてしまうのですが、冷却を使って電視観望する方にとっては重さのことは不利にならないでしょう。この場合、電視観望に限って言えばASI294MC Proよりホットピクセルの分だけ有利ということが言えます。

電視観望での見え味に関しては、ASI294MCもSV405CCもホットピクセルの有無以外はほとんど違いはありませんでした。なので私としてはトータルではSV405CCに軍配が上がるという判断です。


天体写真の撮影用途について

冷却CMOSカメラなので、本来は天体撮影の方が主目的です。

今のところ対応しているのはSharpCapとNINAのみです。実際の撮影を考えると、SharpCapでは依然ditherガイドがやりにくので、NINA一択になります。APTドライバーも開発中とのことですが、もう少し時間がかかるようです。

現状ではNINAでは青ハロや恒星の中心抜けを避けることができないのですが、これは時間が解決してくれるでしょう。いますぐ撮影をしたいという方は、これら欠点を画像処理で補正するのが許容できるかどうかにかかってくると思います。今すぐ青ハロなどの処理なしでフォーサーズカメラが欲しいという場合はASI294MC Proをお勧めします。とりあえず問題を許容して、後の解決を待てるという場合は、値段のことも考えるとSV405CCがかなり強力な候補になってきます。

あと一つ残念だったのが、アンプグローです。120秒以上の露光ではアンプグローが緩和されるという触れ込みだったはずですが、今のところ私は確認できていませんし、他で確認できたと言う話も聞いていません。とはいえ、アンプグローはASI294MC Proも同じ状況で、特にSV405CCが不利になると言うわけでもなく、またこれまでのASI294MC Proからの経験でも、今回のSV405CCでの撮影でも、適したダーク補正をすることでこのアンプグローは鑑賞に影響ないレベルで解決できることがわかっています。

現段階の青ハロと中心抜けを除いては、撮像結果に関しては特に不満はなく、私程度の腕の画像処理で仕上げたものでもこれくらいの写りにはなります。

「M8: 干潟星雲とM20: 三裂星雲」
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「北アメリカ星雲とペリカン星雲」
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明るい天体で写しやすいとはいえ、自宅の庭撮りでここら辺まで出るなら個人的には十分満足で、カメラの性能としてはもう不満はありません。逆にこの値段と、青ハロも中心抜けもじきに解決されるであろうことを考えると、このSV405CCは十分な買いだと思います。これが最初に書いた「買い」の根拠です。


そーなのかーさん

今回の評価の過程で、そーなのかーさんが随時面白い結果を出してくれていました。特に、同じように青ハロや星の中心が抜けることも示してくれたのはとても心強かったです。

とにかく変な結果が出ると、自分が全くおかしなことをやっていないかとか、変に間違ったことを公表して悪評が立ってしまいメーカーに迷惑をかけないかとか、色々心配になります。そのために結果の判断には相当に慎重にならざるを得ないのですが、そーなのかーさんのように他の方が同様の結果を示してくれると、すくなくとも他の環境でも再現性はあるということがわかるので、かなり気が楽になります。

このブログ上でのお礼で恐縮なのですが、改めまして、そーなのかーさん、どうもありがとうございました。

また、そーのなのかーさんは暗電流も直接測定しているなど、私なんかよりも遥かに先に進んでいろいろ解析されていて、素晴らしい結果を出しています。今後とも結果に注目したいです。




SVBONYについて

今回SVBONYさんの方からSV405CCをレビューして欲しいというオファーがあり、一連のレビューを進めてきました。担当の方がおそらく中国の方かと思いますが、私とは日本語でやりとりをしてくれていたので楽で助かりました。多分機械翻訳を使っていると思われ、たまに???な場合もありましたが、意思疎通は普通にでき、深刻なことは何もありませんでした。海外の方とももう機械翻訳で普通にやりとりできるレベルになっていると実感できます。

SVBONYのいいところは、ユーザーからのフィードバックにものすごく早く対応しているところでしょうか。その一方、不満としてはユーザーを使ってある種βテストをしているような状態とも言えなくはないので、少なくとも最初のHCGモードさえオンになっていなかったドライバーの出来を見るに、リリース前にもう少しテストして欲しかった感もあります。

まあ、リリースも当初聞いていた時期から1ヶ月近く遅くなっていたので、いろいろ苦労があったであろうことは容易に推測できますし、まだ冷却カメラとしては初めての機種なので、トラブルがあるのも仕方ないのかと思います。経験をどんどん積んでもらって、今後も求めやすい価格でいいものを提供してもらえれば、ユーザーとしては選択肢が増えて嬉しいのかなと思います。


さようならSV405CC

さて、SV405CCは本日をもってあぷらなーとさんのところに旅立ちます。あぷらなーとさんは骨折の入院から復帰されたばかりとのことなのですが、もう送っても大丈夫とのことだそうです。あぷらなーとさんの評価がどんなふうになるのか、今から興味深々です。


庶民の味方SVBONYから新しいCMOSカメラ、SV405CCのレビューを頼まれました。天気がなかなか安定せず撮影はまだですが、少し触ってみましたので、一部ですがレポートします。


SVBONYのカメラ

そもそもSVBONYのカメラはSV105から始まります。私は購入していませんが、当時から7千円ほどと圧倒的に格安で、2018年の京都るり渓の「星をもとめて」で少しだけ触らせてもらったことがあります。露光時間が500msにハード的に制限されていたため、惑星などの用途に限られていましたが、その価格は将来のカメラのアプデーとを期待させるものでした。

次のSV205はUSB3.0を採用し、価格も1万円程度で安価という方針は変わらず。IMX179というセンサーで、ピクセルサイズが1.4μmとかなり小さく、電視観望用途では厳しそうだったため、私は触らずじまいでした。

次のSV305はフィルターの有無などでいくつかのバージョンが販売されました。その当時やはり同クラスのカメラでは最安値で2万円程度でした。私はサイトロンからでたSV305SJのプロトタイプを使わせていただきました。オリジナルのSV305が赤外線カットフィルターを内蔵していて、Hα天体を見るためにフィルターを割って使っていた方もいました。当然保証外になってしまうため、SJバージョンではそのフィルターを普通のクリアフィルターにし、UV/IRカットフィルターを添付してHα天体の撮影に対応したものです。そのカメラとEVOGUIDE 50EDを使い、電視観望で2021年のCP+で発表させていただき、かなりの反響を得ることができたのかと思います。

今回のSV405CCは満を辞しての冷却カメラ、しかもセンサーは定評のあるフォーサーズサイズのIMX294です。ここまでくると、DSOなどの本格撮影も視野に入ってくるので、カメラの性能が結果を大きく左右します。そんなカメラのレビューを頼まれましたので、気合を入れて解析です。


SV405CCの到着

もともとゴールデンウィーク頃には届くと聞いてたいのですが、実際の出荷が5月末、自宅には6月初めに到着しました。到着早々からでしょうか、早速各ユーザーからいくつかのレポートが上がってきていています。XRAYさんからは作例としてM8を撮影されていて、SVBONYの公式ページにすでにアップロードされています。

さて、私も少しづつですがテストをしています。他のユーザーと重なる部分もありますが、やっていることを書いていきたいと思います。

まず、梱包ですが、カメラ以外のパーツに至るまで3重、カメラはケースを入れると4重になっているので、かなり安心です。実際一番外の箱は輸送の過程のせいか、かなりへこんでいました。

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カメラケースはしっかりしたものです。
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このケースですが、カメラにピッタリサイズで、個人的にはもう少し深く作っても良かったのかと思います。例えば初期の頃のASI294MC Proでは実際のカメラよりもケースが深く作られていて、1.25インチのノーズアダプターをつけたまましまうことができます。ところが、ASI294MM Proではケースサイズが小さくなってしまっていて、ノーズアダプターを付けるとチャックを占めることができません。SV405CCのケースは残念ながらMMの小さいケースと同じくらいの大きさでした。コストもあるかもしれませんが、こういった付属品などもユーザーよりの目線で考えてもらえるといいのではないかと思います。

関連してですが、1.25インチのノーズアダプターの先につけるキャップは付属されていません。大したものではないかもしれませんが、使い勝手を考えると付属してもらったほうが戸惑わないと思います。

ノーズアダプターはあくまで脇役なので、2インチキャップが付属されていればいいと考えてあるのかもしれません。問題はその2インチのキャップサイズが微妙に大きく、はめてもスカスカですぐに外れてしまいます。私は操作時、保管時含めて、にホコリの付着を防ぐためにセンサー面を下向きにして扱います。ケースに入れるときも当然下向きに入れます。その際にキャップがスカスカだと安心してケース内に入れることができません。このキャップは是非とも再検討して欲しいと思います。

さて、カメラを机の上に置いてみたら、妙に安定するなと思ってよく見たら、カメラ筐体の下面に切り欠きが入れてあるのに気付きました。写真でわかりますでしょうか?

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水平で安定するのでこれはいいです。惜しいのは、前面と後面についている円盤には切り欠きがされていないため、円筒部の切り欠きの効果がほとんどなくなってしまうことです。あとこの切り欠き、3方向なのですが、できれば4方向がよかったです。4方向にあれば撮影時に切り欠き面に合わせるなどの応用ができそうです。


まずはSharpCap付属のドライバーで触ってみる

最初のテストはSharpCapで行いました。ドライバーはSharpCap標準です。そのためSharpCapは最新バージョンにアップデートしておく必要があります。私が試したのは6月6日更新の4.0.9011.0です。いくつか気づいたことを書いておきます。

露光時間ですが、きりのいいのが設定できない時があります。例えば5msと指定しても4.99msになるとか、6msとしても6.01msとかになってしまいます。これとよく似た状況はSV305SVの時もありました。ゲインを50の倍数の霧の良い数字にしないと何故か1減った数になってしまうとです。入力した値が渡されるときのどこかの計算式が間違っているのかと思います。

ゲインはかなり制限があります。270までしか上げることができません。このゲインというのは0.1dB単位なので、270ということは27dBに当たります。では27dBが何倍かというと、

27db = 30dB - 3dB = (20dB + 10dB) - 3dB = (10 x 3) / sqrt(2) = 約21倍

までしかありません。ちなみに、ZWO社の同じIMX294センサーを使ったASI294MC Proは570まで上げることができます。570は57dBのことで、57 = (60 - 3) [dB] = 1000/sqrt(2) = 707倍になります。おそらく途中400程度からはデジタルゲインなのですが、それでも400ということで100倍までゲインを上げることができます。DSO撮影時にはダイナミックレンジを保つために低ゲインで使うことが多いので問題ないと思いますが、私がよくやる電視観望ではASI294MCで450程度までゲインをあげるので、やはりせめてもう10倍程度ゲインが欲しくなります。ゲインが足りない分は露光時間を上げる必要が出てくるので、反応が遅くリアルタイム性が低くなる代わりに、リードノイズ的には有利になるかと思います。

日曜に少し晴れそうだったので撮影のセットアップしたのですが、天文あるあるなのか、セッティングがほぼ終わった時点で曇ってしまいました。撮影がまで実行できていないので、操作性などはここまでとして、センサーの解析をしてみました。


参照データ: ASI294MC Pro

まずは参照として、ASI294MC Proを常温状態でSharpCapの「センサー解析」機能を使い、測定してみます。

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測定はiPad ProのColor Screenというアプリで画面の明るさと色を調整し、ヒストグラムのRGBがそこそこ重なるようにしています。

結果は以下のようになりました。
ASI294MCPro
結果を見るとわかりますが、ZWOが出しているデータとほぼ一致しているため、測定はそこそこ正しくされていると思われます。

各項目の簡単な説明

データ項目の詳しい内容はここを見て頂くとして、

 

この記事では各項目ついて簡単に解説しておきます。

1. e/ADU
「コンバージョンファクター」とか「システムゲイン」とか、単に「ゲイン」と呼ばれることもあります。基本的には電子の数とADCのカウント数を変換する係数です。横軸の「Gain」が左側の低い時はe/ADUの値が大きく、多くの電子が入ってやっとADCのカウント数が上がる、「Gain」が右側の高い時はe/ADUの値が小さくなり、少ない電子数でADCのカウント数が上がるという意味です。なんでこんな変換係数があるかというと、様々な結果をADCのカウント数だけで比較すると同一条件で比較するのが難しいためです。その代わりに、全てを電子数の「e」と変換してやることで、結果を公平に比較しやすくするためです。

2. Full Well[e]
これは一つのピクセルがどれだけ電荷を貯め込むことができるかという値です。これ以上の電荷をカウントしたらサチって(飽和状態)しまいます。実際のカウントはADCのカウント数の [ADU] でされるのですが、これを上のe/ADUを使って電子数に換算して評価します。横軸Gainが低い時はより多くの電子を貯めることでき、その一方ADUへの変換効率は悪く、横軸Gainが高い時は貯め込む電子の数は減り、その一方ADUへの変換効率はいいということです。面白いのは、SharpCapの測定結果で試しにこのFull Well [e]をe/ADUで割ると、Full Well [ADU]は16384(=2^14)ぴったりになります。これはSharpCapのセンサー解析があくまで簡易的で、横軸Gain0のときのe/ADUを測定して、後は実測のゲインでe/ADUを割って求めているだけということがわかります。

3. Read Noise [e]
日本語では読み出しノイズと呼ばれています。カメラから画像を読み出すたびに必ず発生するノイズです。読み出しで出るノイズなので、露光時間を伸ばして読み出し回数を減らすと、発生回数を減らすことができ有利になります。電子で換算した[e]で見ると、横軸Gainが高くなるにつれて小さくなり、途中からほぼ一定になることがわかります。これはむしろADUで見たほうがわかりやすくて、上記グラフ最下部にADUに換算したものを載せておきました。このグラフを含めて、ほとんどがlog-logで見るとほぼ一直線になります。

4. Dynamic Range
Full Well[e]をRead Noise[e]で割ったものをビット(正確には2の何乗か)で表示したものです。ADCの分解能の14bitの意味ではなく、実質的に表現できるダイナミックレンジとなります。Full WellとRead Noiseの単位がともに同じeであることに注意してください。このように対等に換算するためにe/ADUというシステムゲインが重要になってきて、互いに割ったりできるわけです。

グラフがとちゅうで折れているのは、ここでアナログアンプのゲイン切り替わって上がり、Read Noiseが[e]単位で見ても、[ADU]単位で見ても減っていることがわかります。Full  Wellやe/ADUはゲイン切り替わりの影響を受けていません。その結果、Dynamic Rangeでも切り替えポイント以降で得をしています。切り替え前、切り替え後でも、いずれも実質的なDynamic Rangeが14bitに到達していないので、ADCの持っている14bitという分解性能で事足りるということがわかります。


SV405CC: 初期ドライバー

さて、参照データとグラフの説明はこれくらいにして、今回のSV405CCをまずは常温状態でSharpCapでセンサー解析してみましょう。まずは最初にリリースされたドライバーでの測定です。

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まず測定中に気づいたことは、感度はASI294MC Proより少し高いのではということです。SharpCapでのセンサー解析に使ったiPadの明るさ設定を、SV405CCの方が暗くしなければスタートできませんでした。この時の設定は、iPad ProのColor ScreenというアプリでR13, G5, B12でした。ASI294MCの測定時の設定がR39, G29, B27だったので、数分の1くらいでしょうか、結構暗くしたことになります。この時、露光時間が512ms, Gain0で測定スタートできました。最近のSharpCapのセンサー測定は非常によくできていて、適切な明るさにうまく導いてくれます。

e/ADUを測定するときに、輝度とその分散の関係が直線にならないという報告が一部からなされていましたが、少なくとも私のところでSharpCapで測定している限りはそんなことはなく、ほぼ一直線になっていました。

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測定結果です。
SV405CC_old_driver
  • まずわかることは、データが全て一直線なので、HCGと呼ばれる、アナログアンプのゲイン切り替えがされている様子が見えません。
  • 先にも述べたように横軸のGainも270までしかないのも大きな差(707 \ 21 ≒ 34倍)です。
  • 次に、e/ADUとFull WellがASI294MC Proと比べて小さすぎます。e/ADUが小さいということは、より少ない電子数でADCのカウントが上がるということなので、感度が良いと思ったことと一致します。
  • [e]で見るRead NoiseはASI294MC Proと比べると一見小さく見えますが、[ADU]で見るRead NoiseはHCGが作動するまでの低ゲインではASI294MC Proと同程度で、結局Dynamic RangeもHCGが作動するまでは同等です。
  • ASI294MC ProはHCGが作動した後の高いゲインではRead Noise、Dynamic Rangeも得をしているため、SV405CCとは大きく差がついてしまっていることがわかります。撮影となると、HCGモードがオンになるところが実際かなりおいしいので、まずはここの改善が必要ということがわかります。

SV405CC: 新ドライバー

2022年6月11日の夕方、ここでちょうどSVBONYから新ドライバーがメールで送られてきたので、入れ替えです。HCGモードがオンになるとのことで楽しみです。

ドライバーが送られたのは一部のユーザーだけのようで、もしまだ新ドライバーを手に入れられていない方は、本国SVBONYのサイトからダウンロードする必要があります。

SharpCapの6月13日の最新バージョン4.0.9033.0で

Fix missing temperature, binning info to FITS files saved from cooled SVBony cameras

と書かれているので、最新のドライバーに変わったものかと思われたのですが、その後調べたらSharpCapには(ドライバーの更新日時から判断したところ)最新ドライバーは含まれていない様で、別途自分でインストールする必要があるようです。なので最新のドライバーを試したい方は、本国のSVBONYのページ、

https://www.svbony.com
 

に行き、上のタブの「SUPPORT」 -> 「Software & Driver」 -> 横の「Windos」と進み、「SVBONY Cameras」の最新版(Release date:2022-06-13以降)をダウンロードする必要があります。


ところがexeファイルを実行してインストールしてからも、SharpCapでの測定結果が何も変わっていないので一旦ここで中止して、ドライバーをよく見てみました。まず、ドライバー内のexeファイルは、ファイル名からASCOMドライバーなのかもとも思えますが、説明がないので不明です。わかりにくかったのは、X64もしくはX86の中のファイルを自分でマニュアルでSharpCapやNINAのフォルダにコピーしなければならないことです。これはRead Me.docを読んで初めてわかりました。もし新ドライバーを個別に手に入れた方は、インストール方法に注意です。

改めてSharpCapのインストールディレクトリ直下のSVBCameraSDK.dllを新しいものに自分でコピペして入れ替え、再度センサー解析をしてみます。結果は?
SV405CC_new_driver

ヤッター!見事段ができていて、HCGモードがオンになったのが分かります。FUll Wellの値も増えました。

ところがこの結果、よく見るとまだ色々おかしいです。本来HCGモードがオンになっても、e/ADUやFull Wellは一直線のままに保たれるべきです。Dynamic Rangeを見ても、結局HCGモードがオンになっている領域でも何も得していないのでこれでは意味がありません。

何が問題なのでしょうか?これはSharpCapの出力結果の、実際に測定されたゲインを見るとよくわかります。横軸のゲインと実測のゲインをグラフ化してみまます。

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本来設定したゲインに比例した明るさが実測されるはずで、グラフは一直線にならなければなりません。この横軸「ゲインの設定値」を、縦軸「実際のゲイン」に受け渡すところで、ドライバーないで何か間違えて計算してしまっているのかと思われます。

ここが直ればゲインが高く出てしまっている部分はもっと右にずれます。ジャンプした部分を右に120ほどずらしてやると、グラフが一直線になることから、おそらく(ASI294MC ProでHCGモードが発動する)120から240までがすっぽり抜けてしまっている状態かと思われます。

これをきちんと修正すれば、設定できるGainの範囲が少なくとも270+120=390まで広がり、e/ADUは正しく(実測ではなく)計算されるはずです。その結果、[e]で見たRead Noiseだけでなく、[ADU]で見たRead NoiseもHCGモードで得をするはずで、結果Dynamic Rangeも得をすることになるはずです。

ところでこの390という値に見覚えがある方はいらっしゃいますしょうか?ピンときたか方はすごいです。そうです、あぷらなーとさんによると、階調が14bitから13bitに切り替わる所です。デジタルゲインに切り替わるところかもしれません。ASI294MC Proはここから独自のことをやっている可能性があるので、逆にいうとここまではセンサー固有の同じような性能のはずなので、SV405CCも390までは出ていいはずなのかと思うわけです。



あと、ちょっと微妙なのが、Full WellとRead Noiseが明らかにASI294MC Proより2-3割大きいことです。よく見るとe/ADCも微妙に大きいです。ここは次の課題としたいと思います。心当たりはあって、ある程度の測定結果も得ていますが、まだ確証が持てません。次のドライバーでもしかしたら解決するかもしれませんが、残った場合は再度精査して報告したいと思います。


この時点で撮影する場合

梅雨に入ってしまい、なかなか天気が良くなる見込みもなく、まだSV405CCで撮影できていません。でももし今のドライバーを使って撮影するなら、どこのゲインを使えば良いのか?

上に書いたように、ちょうど旨味のある本来のGain120から240あたりがすっぽり抜けていて、今のところユーザーではそこに設定することができません。明るい天体、もしくは長時間露光でGain0を狙うのはありなのかと思います。今の「設定Gain」を上げると120以降では実際は+130されていると考えるべきで、あまり高ゲインにすることはDynamic Rangeを損なうので注意した方がいいと思います。高いゲインを狙う場合は、無理をせずに新ドライバーを待つべきかと思います。


次の課題

できたら撮影を敢行したいと思います。センサー解析の結果と、撮影画像は必ずしも一致するわけではなく、ノイズの種類によってはDynamic Rangeの不利を回避できるかもしれません。

また、冷却関連も試したいと思います。一部既に試していますので、近いうちにレポートできるかと思います。

実は今私のところにあるこのSV405CC、どうも聞くところによると、次にあぷらなーとさんのところに行くことになっているようです。SVBONYさんからは期限は問わないと聞いていたので結構のんびりしていたのですが、あぷらなーとさんの見解も早く聞きたいのでこれは急がなければと、急ピッチで進めています。あぷらなーとさんからは「じっくり試してください」と言ってもらっていますが、早く晴れてくれないか、撮影だけはやろうと思っています。


まとめ
 
まだドライバーは完全とは言えず、本当はもう少し改善されてから撮影を含めて本格的に試したいと思いますが、あまりのんびりもしていられないようです。実際もう少し試したいアイデアもありますが、どこまで時間をかけられるかが勝負になってきました。

今回の結果は全てSVBONYさんにお伝えし、既にエンジニアの方にフィードバックされたと聞いています。ある意味SVBONY初の、本格DSO撮影用のカメラです。まだまだカメラメーカーとしては経験不足のところもあるかとは思いますが、レスポンスの速さなどからSVBONYの本気度が伺えます。ぜひともきちんとドライバーを作り込み、ユーザーの選択肢の一つとして成長することを願っています。やっぱり冷却でIMX294でこの値段は魅力なのだと思います。



  1. SV405CCの評価(その1): センサー編 
  2. SV405CCの評価(その2): 撮影編 
  3. SV405CCの評価(その3): 画像比較
  4. SV405CCの評価(その4): 新ドライバーでの画像比較
  5. SV405CCの評価(その5): 青ズレの調査と作例
  6. 番外編1: 階調が出ない時のPedestalの効果
  7. 番外編2: ASI294MC Proでの結露

この記事は前記事の続きです。



今記事を書いている今晩、牛岳で試す予定だったのですが、昨晩撮影の合間に時間があったので同じことをもう少し天気がいい中で試してみました。

明るい月が南東にあるため、すばる付近がほぼ全滅。なので天頂から西の空にかけてです。

まずは28mmで白鳥座付近を見ます。

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右上に北アメリカ星雲、右下にサドル付近、左下に網状星雲と、一網打尽の欲張りな構図です。1/1.8インチのNeptune-C IIでもこれ位の広い範囲で見ることができます。ただし、レンズがF3.8とあまり明るくないため、光量不足の感が否めません。

ここで70mmに拡大してみます。まずは北アメリカ星雲。ちょうどいい画角くらいでしょうか。
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形ははっきりでますね。ただ、やはりノイジーです。

少し下がってサドル付近。
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少し左上に移動して網状星雲です。
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淡い網状星雲だとやはりこれくらいでしょうか。

ちなみにこれら、マニュアル導入なのですが、Live Stackのないリアルタイムでも3秒くらいの露光でなんとか星雲もわかるので、比較的簡単に導入できました。

夜も更けてくると、オリオン座が昇りだします。
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電線の間のM42とかろうじて馬頭星雲と燃える木です。焦点距離70mmです。

ズームを28mmに戻すとバーナードループもかろうじて見えます。
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雲もうっすら出てるので透明度がいい日ではなかったですが、とりあえず電視観望で試してみるのでこれくらいまで見えるなら、まあ楽しいのではないでしょうか。でももう少し細かくみたいので、やっぱり200mmくらいの焦点距離がいいのかもしれません。

今晩牛岳で天気が良ければいいのですが。上手く見えたらまた報告します。(追記: 結局曇り空で、このセットアップでは試せませんでした。)



以前「格安電視観望」という記事を書きました。その応用編です。




再試行の理由

今回改めてこの記事を書いたのは4つの理由があります。

1. 以前は入門用の電視観望用のカメラと言ったらASI224MCか、ASI290MC位しか選択肢がなかったのですが、近頃では多くのメーカーから入門クラスのCMOSカメラが発売されています。先日の「星をもとめて」の講演では現状で手に入るカメラを選び、選択例を示しました。最近の新しいカメラを例に試してみようと思います。




2. 多分これがもっとも大きな理由なのですが、SVBONYからCanonレンズのEFマウントをアイピース口に変更するためのアダプターが出ています。



アマゾンでも購入できます。


ちょっと前までなかったかと思いますが、いつも間にかNikon版も出たようです。



ZWOからも同様のアダプターは出ていて、こちらはT2ネジで取り付けるタイプになります。私はこれのオリジナルのバックフォーカス長が変えられるものを持っています。現在のものはバックフォーカス長が固定なはずです。


Nikon用もあるようです。


でもSVBONYのは半額以下ととにかく安い。初心者にとってこの差は大きいです。これを実際に使ってみたかったことが2つ目の理由です。

3. 以前の記事はQBPなどのフィルターを使いませんでしたが、QBP II、CBPとアメリカンサイズも出揃い1万円程度と安価になりました。効果は絶大なので、これを使わない手はありません。

4. 先日の星をもとめての講演配信を見た地元の富山県天文学会のHさんから、電視観望を始め用と思うが、カメラと鏡筒をどうすればいいか迷っていると直接質問を受けました。最初はASI294MCを勧めたのですが、最初なのでやはり入門用のものから始めたいということです。明日地元の牛岳で会う予定なのでそれまでにできるだけ簡単な方法はないか、探してみようと思ったのが4つ目の、というか突然やってみたくなった理由です。


機材

  1. CMOSカメラNEPTUNE-C IIを選びました。ZWOは最近は高級機路線で、入門機をあまり出していません。Player Oneは新しいメーカーですが、NEPTUNE-C IIを使ってみた限り、既にドライバーとかもこなれていて、実際にノイズがかなり小さい印象です。
  2. レンズは中古で数千円で手に入れた、手持ちのCanonのキットレンズ28-70mm F3.5-4.5。調べたら1988年発売だそうです。こんな古いレンズでも十分です。
  3. レンズをカメラを繋ぐアダプターは上に書いたSVBONYのCanonタイプのもの。ただしこれ、そのままだと無限遠でピントが出ないことがわかりました。対処法は後で記します。
  4. レンズの焦点距離が短いので、自動導入とかは無し。カメラ用三脚と自由雲台で、マニュアルで導入します。
  5. フィルターは、CBPかQBP。今回はQBPとしました。QBPの場合、赤外を通す可能性があるので、UV/IRカットフィルターと2段重ねで併用した方がいいでしょう。でも今買うならCBPの方がいいでしょう。CBPならUV/IRカットフィルターは必要ないです。
  6. 他にノートPC、接続用USB3.0ケーブル椅子などを用意します。

その他、こまかいものです。まず、自由雲台へのマウントですが、自由雲台にはアルカスイス互換のクランプをつけてあります。


カメラの後ろのネジ穴を利用して、Monotatoで買ったL字のアルミブラケットを取り付けています。


下側はアルカスイス互換プレートをつけ、間に上下で固定できるようなアルカスイスプレートをはさんで操作棒がわりにしています。



実際に電視観望開始

では早速組み上げて試してみましょう。

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上の写真のようになるのですが、最初試した時、このSVBONYアダプター

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無限遠どころか全くピントが出ませんでした。アダプターの距離が長すぎるのです。そのため、アダプターのアメリカンサイズに変換するところをネジを緩めてを外し(長いネジなので頑張って外す)、カメラ側の接眼アダプターも外して、T2ネジで直接カメラをアダプターに接続します。

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このさい、フィルターを取り付けられなくなるので、T2ネジとアメリカンサイズネジを変換する薄手のリングを使い(別のカメラについてきたモノですが、別途販売されていて)、


ここにフィルターを取り付けます。カメラのねじ山はまだ余るので、レンズを取り付けることもできます。

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IMG_3455


今回私が使ったレンズはオートフォーカス用で、ピントを合わせるためには強引にレンズ先端を手で回転させて伸縮させなければならず、しかもその範囲が狭いため、さらに必要に応じてレンズとSVBONYアダプターの間で回転させて距離を調整する必要がありました。そのためきちんとレンズを固定することができず、重力でレンズが垂れ下がって、星像が上側に歪んでしまいました。もう少し適したレンズの方がよかったかもしれません。

カメラレンズは単焦点レンズ、ズームレンズ(最初Zoomレンズと書いたが、これだと会議のZoom用のレンズとかと思ってしまった)ともに、短い焦点距離のものが中古まで含めれば安価に選びたい放題なので、いろいろ試すといいと思います。


曇ってるがとりあえず見てみた

この日は曇りがち。撮ったのは2ショットのみです。

昇りかけのM42オリオン大星雲です。28mmの画角でオリオン座が半分とちょっと入るくらいでしょうか。三つ星が縦に、右にリゲルが見えています。オリオン大星雲もそこまで大きくは見えません。
01_28mm_Neptune_M42

ズームレンズなので、70mmにして拡大してみました。これならオリオン大星雲も多少形がわかるくらいでしょうか。ちなみにこの時は空一面に一様な雲がかかっていて、肉眼で星はほぼ0。リゲルがかろうじてうすーく見えたくらいです。むしろよくこんな状況でここまで出たなというのが感想です。

02_28mm_Neptune_M42


まとめ

とりあえずのテストなのですが、以前のASI224MCを使った電視観望よりはるかに綺麗に見える気がします。Neptun-C IIとQBP、あとレンズを焦点距離の短いものにしたのが違いになります。明日の土曜日天気が良ければ牛岳でもう一度試します。

さらにもう一本MILTOLも用意していて、こちらは牛岳でご一緒する予定のHさんがAZ-GTiを既に買ったというので、それに載せてテストしてみようと思います。

追記: 牛岳に行く前に、このセットアップで自宅でもう一度試しました


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