自宅撮影でなんとか淡い青を出したくて、サイトロン社の「Dual BP Filter(デュアル バンドパス フィルター)」を使ってみました。
「Dual BP Filter」はまだ9月に発売されたばかりの比較的新しいフィルターです。
48mmタイプとアメリカンサイズがあります。今回は一眼レフカメラでの撮影なので、48mmの方を使いました。
同様のフィルターにOptolong社の「L-eXtreme」がありますが、DBPの方が半値とはいかないまでも4割ほど安く、比較的手を出しやすくなっています。またDBPの特徴として、OIIIの波長495.6nmと500.7nmを両方とも透過するので、OIIIの写りがよくなるとのこと。ここら辺は後発が有利なところでしょうか。
今回はこのフィルターを使って青い星雲がどこまで出るかを試したいと思います。
これまでアンタレス付近や、青い馬星雲などいくつか自宅からの青を挑戦してきました。
でもやはりなかなか難しく、例えばスパゲティー星雲などは完全に敗北でした。
そもそもHαの赤自身が淡く、さらに淡いOIIIの青は全くといっていいほど出ませんでした。
何れにせよ青い星雲を光害地でうまく出すのは相当難しく、フィルターの力を借りるなど工夫が必要となります。
今回のターゲットは網状星雲です。赤と青の対比が綺麗で、Dual系のフィルターを手にれると一度は撮ってみたくなるという格好のターゲットです。
これは以前もCBPを使って自宅から挑戦したことがあるのですが、真ん中の淡い青が広がっているところを出すことがどうしてもできませんでした。
今回はCBPの代わりに、HαとOIIIのみを通し、さらにその透過バンド幅が狭いDBPを使っての撮影となります。DBPは48mm径のもので、FS-60CBのマルチフラットナーのところに取り付けています。
前回の撮影との相違点です。
実際には上の画像は直接は使っていません。L化して星雲部のマスクとして使っています。恒星のみ抜き出した画像もマスクとしてPhotoshop上で使っています。
実際に画像処理まで済ませたのが下の画像になります。
真ん中の淡い青もある程度出ています。昨年CBPでここは全く出なかったので、大きな進歩かと思います。他の青い部分も今回の方が遥かにはっきり出ています。
また、周りの淡い赤も少し出ていますし、右半分の分子雲も少しですが顔を出し始めています。ここもCBでは太刀打ちできなかったところです。うーん、やはりDBPすごいです。
恒星に関しては良く言うならうるさくなく、悪く言えば元気がないです。ここはDBPの特徴でしょう。
諧調深い色に関してはやはりCBPの方が出しやすかった気がします。DBPでは2色なので赤と青のバランスをうまくとる必要があります。
いつものアノテーションです。解説が入ったみたいでかっこいいですね。
でも少し傾いてしまっています。3日にわたる撮影で、最初に合わせ忘れてしまってそれには後から気づいたのですが、それ以降の撮影ではいじりたくなかったというのが真相です。画像処理で回転冴えても良かったのですが、今回はそこまでこだわっていないので、まあよしとします。
昨年CBPで撮ったものも載せておきます。
以前はそこそこ出たと思っていましたが、今回のと比べるとまだまだ全然ですね。
(2021/11/7 追記)
なぜDual系のフィルターが良いのか、この記事を書き終えた後改めて考えてみました。そもそもQBPなども含めて「ワンショットナローバンド」と呼ぶらしいです。
「ワンショット」の名の通り、一枚一枚ナローバンドフィルターを揃えなくて良いところが楽なところです。
特に広角で撮影したい場合に例えばフルサイズで撮影しようとすると、2インチクラスのナローバンドフィルター一枚一枚の値段は馬鹿になりません。一番の問題はフルサイズのモノクロカメラでしょうか。CMOSカメラでフルサイズのモノクロになってくると4-50万円コースです。
その一方、ワンショットの場合は、今回のDual BP Filterが2万円、一眼レフカメラが改造済みの6Dなら10万円程度です。この値段の差はかなりのものです。
一方、ワンショットが不利な点は、まずはカラーセンサーなので解像度が出ない点です。それでも広角で撮る場合はそこまで問題にならないでしょう。分解能が効くくらいのところで勝負する場合は、長焦点になってくると思うので、小さなセンサーサイズの方がむしろ適している場合も多く、無理に2インチクラスのフィルターを使う必要性も薄れてきます。
もう一つは、淡いところをどこまで出せるかです。これはより波長幅の狭いフィルターが選べる単独のナローの方が有利でしょう。光害地や月が明るい時にはこの差が大きくなってくるかと思います。ここのところに価値を見出すかが決め所でしょうか。それでもDual BP Filterは相当の場合において、強力にかなりの結果を出すことができて、かつ「安価で簡単」と言うところがポイントなのかと思います。
今の私だと、そこまで無理をして広角単体ナローの道に行くことは、よほどことがない限り無いのかと思います。今回この画角で、淡い青いところを出せたのは大きな成果で、かなり満足してます。
もっと狭い範囲で、例えば手持ちのASI294MM Proを使って、Dual BP Filterと単独のAOを比較するのは興味があります。純粋にDual BP Filterがどこまで迫れるかというのを見てみたいという意味です。いつか機会があればやってみたいと思います。
DBPは色が限られてしまうので多少のっぺりするとはいえ、HαとOIIIが支配的な天体はDBPは圧倒的に強いです。一眼レフカメラで一発で撮れてしまうのも楽なところです。天体を選びますが、HαとOIIIが支配的な星雲ならかなり淡いところまで出せそうです。
できるならこれでSh2-240を狙ってみたい気がします。青いところが出るか?やるとしたらまた10時間コースですね。
Dual BP Filter
「Dual BP Filter」はまだ9月に発売されたばかりの比較的新しいフィルターです。
48mmタイプとアメリカンサイズがあります。今回は一眼レフカメラでの撮影なので、48mmの方を使いました。
同様のフィルターにOptolong社の「L-eXtreme」がありますが、DBPの方が半値とはいかないまでも4割ほど安く、比較的手を出しやすくなっています。またDBPの特徴として、OIIIの波長495.6nmと500.7nmを両方とも透過するので、OIIIの写りがよくなるとのこと。ここら辺は後発が有利なところでしょうか。
今回はこのフィルターを使って青い星雲がどこまで出るかを試したいと思います。
自宅での青の挑戦
これまでアンタレス付近や、青い馬星雲などいくつか自宅からの青を挑戦してきました。
でもやはりなかなか難しく、例えばスパゲティー星雲などは完全に敗北でした。
そもそもHαの赤自身が淡く、さらに淡いOIIIの青は全くといっていいほど出ませんでした。
何れにせよ青い星雲を光害地でうまく出すのは相当難しく、フィルターの力を借りるなど工夫が必要となります。
網状星雲に狙いを定める
今回のターゲットは網状星雲です。赤と青の対比が綺麗で、Dual系のフィルターを手にれると一度は撮ってみたくなるという格好のターゲットです。
これは以前もCBPを使って自宅から挑戦したことがあるのですが、真ん中の淡い青が広がっているところを出すことがどうしてもできませんでした。
今回はCBPの代わりに、HαとOIIIのみを通し、さらにその透過バンド幅が狭いDBPを使っての撮影となります。DBPは48mm径のもので、FS-60CBのマルチフラットナーのところに取り付けています。
条件の比較
前回の撮影との相違点です。
- 鏡筒は全く同じでTakahashi FS-60CB + マルチフラットナー。
- 赤道儀は以前がCGEM IIだったものを簡単にしてAdvanced VX。
- ガイドカメラも以前が120mm+ASI290MMだったものを、50mm+ASI290MMと焦点距離を短く。
- 撮影カメラはEOS 6Dで同じ。露光時間も感度も同じ300秒でISO1600。
- PHD2のガイドは同じで、撮影ソフトもBackYardEOSで同じ。
- 撮影時間は前回が5時間ぴったり、今回が5分で49枚なので245分=4時間5分。少し不利ですね。
- 前回は8月の撮影だったのでちょうど天頂を挟んだ撮影だったので条件は良かったですが、今回は1月末から11月初めと、西の空に沈んでいくような撮影時間だったので、周りが明るく不利になります。
季節的には不利で、撮影時間は1時間減ったのでさらに不利といったところでしょうか。あとはCBPとDBPの差になります。この条件でDBPがどこまで戦えるのかが見どころとなります。
実はこの撮影、一連のSCA260のテストの最中にしています。最初に買った赤道儀AVXにFS-60CBをセットしてほっぽらかしてあるだけです。網状星雲のある白鳥座は夏の星座なので、撮影時間はせいぜい0時まで。その後は次のターゲット(胎児星雲とハート星雲)に移ります。こちらのほうも撮影は終わっているので、また画像処理したらブログ記事にします。
DBPを使って撮影している最中に思ったのですが、とにかく暗いです。白色に近い恒星だとかなりの波長が削り取られるので、6Dで露光300秒、ISO1600で撮影しても、ヒストグラムは左6分の1くらいのところでしょうか。露光時間を10分にしても良かったかもしれませんが、網状星雲は画角の中に明るい輝星が一つあるのでできるだけ抑えたいところで、今回は5分としました。
星が暗いことは画像処理にも影響します。恒星と星雲の輝度差が小さいので星が飽和するまでにまだ余裕があります。そのため、いつも使っているStarNetで恒星を分離してやってマスクを作っても、その効果が大きくないかもしれません。なのでマスクなどあまり気にせず処理してみるというのも、楽でいいのかもしれません。
あと、重要なことですが、DBPを入れたことによるゴーストなどは撮影中は全く気になりませんでした。後の画像処理でも見ている限り確認できませんでした。そのため安心して使うことができるかと思います。
画像処理の途中でStarNetを用いて恒星を消してやると、既に真ん中の青い部分はしっかりと情報として存在していることが分かります。あとはこれをどう引き出してやるかだけです。
実際の撮影
実はこの撮影、一連のSCA260のテストの最中にしています。最初に買った赤道儀AVXにFS-60CBをセットしてほっぽらかしてあるだけです。網状星雲のある白鳥座は夏の星座なので、撮影時間はせいぜい0時まで。その後は次のターゲット(胎児星雲とハート星雲)に移ります。こちらのほうも撮影は終わっているので、また画像処理したらブログ記事にします。
DBPを使って撮影している最中に思ったのですが、とにかく暗いです。白色に近い恒星だとかなりの波長が削り取られるので、6Dで露光300秒、ISO1600で撮影しても、ヒストグラムは左6分の1くらいのところでしょうか。露光時間を10分にしても良かったかもしれませんが、網状星雲は画角の中に明るい輝星が一つあるのでできるだけ抑えたいところで、今回は5分としました。
星が暗いことは画像処理にも影響します。恒星と星雲の輝度差が小さいので星が飽和するまでにまだ余裕があります。そのため、いつも使っているStarNetで恒星を分離してやってマスクを作っても、その効果が大きくないかもしれません。なのでマスクなどあまり気にせず処理してみるというのも、楽でいいのかもしれません。
あと、重要なことですが、DBPを入れたことによるゴーストなどは撮影中は全く気になりませんでした。後の画像処理でも見ている限り確認できませんでした。そのため安心して使うことができるかと思います。
画像処理
画像処理の途中でStarNetを用いて恒星を消してやると、既に真ん中の青い部分はしっかりと情報として存在していることが分かります。あとはこれをどう引き出してやるかだけです。
実際には上の画像は直接は使っていません。L化して星雲部のマスクとして使っています。恒星のみ抜き出した画像もマスクとしてPhotoshop上で使っています。
実際に画像処理まで済ませたのが下の画像になります。
「NGC6960, 6979, 6992, 6995: 網状星雲」
- 撮影日: 2021年10月30日18時26分-19時10分、10月31日20時6分-21時20分、11月2日19時48分-23時37分
- 撮影場所: 富山県富山市自宅
- 鏡筒: Takahashi FS-60CB(f355mm) + マルチフラットナー(f370mm)
- フィルター: サイトロン Dual BP Filter
- 赤道儀: Celestron Advanced VX
- カメラ: Canon EOS 6D (HKIR改造)
- ガイド: f50mmガイド鏡 + ASI290MM、PHD2によるマルチスターガイドでディザリング
- 撮影: BackYard EOS、ISO1600、露光時間300秒x49枚 = 4時間5分、bias: ISO1600, 1/4000秒x100枚、dark: ISO1600, 300秒x76枚、flat: ISO1600, 1/100秒x128枚、flatdark: ISO1600, 1/100秒x128枚
- 画像処理: PixInsight、Photoshop CC
鏡筒: Takahashi FS-60CB(f355mm) + マルチフラットナー(f370mm)
フィルター: サイトロン Dual BP Filter
赤道儀: Celestron Advanced VX
カメラ: Canon EOS 6D (HKIR改造)
ガイド: f50mmガイド鏡 + ASI290MM、PHD2によるマルチスターガイドでディザリング
撮影: BackYard EOS、ISO1600、露光時間300秒x83枚 = 6時間55分、bias: ISO1600, 1/4000秒x100枚、dark: ISO1600, 300秒x76枚、flat: ISO1600, 1/100秒x128枚、flatdark: ISO1600, 1/100秒x128枚
画像処理: PixInsight、Photoshop CC
真ん中の淡い青もある程度出ています。昨年CBPでここは全く出なかったので、大きな進歩かと思います。他の青い部分も今回の方が遥かにはっきり出ています。
また、周りの淡い赤も少し出ていますし、右半分の分子雲も少しですが顔を出し始めています。ここもCBでは太刀打ちできなかったところです。うーん、やはりDBPすごいです。
恒星に関しては良く言うならうるさくなく、悪く言えば元気がないです。ここはDBPの特徴でしょう。
諧調深い色に関してはやはりCBPの方が出しやすかった気がします。DBPでは2色なので赤と青のバランスをうまくとる必要があります。
いつものアノテーションです。解説が入ったみたいでかっこいいですね。
でも少し傾いてしまっています。3日にわたる撮影で、最初に合わせ忘れてしまってそれには後から気づいたのですが、それ以降の撮影ではいじりたくなかったというのが真相です。画像処理で回転冴えても良かったのですが、今回はそこまでこだわっていないので、まあよしとします。
比較
昨年CBPで撮ったものも載せておきます。
以前はそこそこ出たと思っていましたが、今回のと比べるとまだまだ全然ですね。
- OIIIに関してはやはりDBPが圧勝です。西の空に傾くのと、トータル露光時間が短いにもかかわらず、淡いところが格段に出ています。
- Hαに関しても相当淡いところが見え始めています。10時間くらい露光したらどうなるか楽しみです。
- 恒星に関してはやはりCBPの方が有利でしょうか。
Dual系フィルターが便利なわけ
(2021/11/7 追記)
なぜDual系のフィルターが良いのか、この記事を書き終えた後改めて考えてみました。そもそもQBPなども含めて「ワンショットナローバンド」と呼ぶらしいです。
強力。ワンショットナローバンド「Dual BP Filter」。QBPよりさらに半値幅が狭く「HαとOIIIが支配的な天体はDBPは圧倒的に強い」「HαとOIIIが支配的な星雲ならかなり淡いところまで出せそうです」。
— 天リフ編集部 (@tenmonReflexion) November 6, 2021
「ほしぞloveログ」よりピックアップ。
https://t.co/V5gLeLg40J
「ワンショット」の名の通り、一枚一枚ナローバンドフィルターを揃えなくて良いところが楽なところです。
特に広角で撮影したい場合に例えばフルサイズで撮影しようとすると、2インチクラスのナローバンドフィルター一枚一枚の値段は馬鹿になりません。一番の問題はフルサイズのモノクロカメラでしょうか。CMOSカメラでフルサイズのモノクロになってくると4-50万円コースです。
その一方、ワンショットの場合は、今回のDual BP Filterが2万円、一眼レフカメラが改造済みの6Dなら10万円程度です。この値段の差はかなりのものです。
一方、ワンショットが不利な点は、まずはカラーセンサーなので解像度が出ない点です。それでも広角で撮る場合はそこまで問題にならないでしょう。分解能が効くくらいのところで勝負する場合は、長焦点になってくると思うので、小さなセンサーサイズの方がむしろ適している場合も多く、無理に2インチクラスのフィルターを使う必要性も薄れてきます。
もう一つは、淡いところをどこまで出せるかです。これはより波長幅の狭いフィルターが選べる単独のナローの方が有利でしょう。光害地や月が明るい時にはこの差が大きくなってくるかと思います。ここのところに価値を見出すかが決め所でしょうか。それでもDual BP Filterは相当の場合において、強力にかなりの結果を出すことができて、かつ「安価で簡単」と言うところがポイントなのかと思います。
今の私だと、そこまで無理をして広角単体ナローの道に行くことは、よほどことがない限り無いのかと思います。今回この画角で、淡い青いところを出せたのは大きな成果で、かなり満足してます。
もっと狭い範囲で、例えば手持ちのASI294MM Proを使って、Dual BP Filterと単独のAOを比較するのは興味があります。純粋にDual BP Filterがどこまで迫れるかというのを見てみたいという意味です。いつか機会があればやってみたいと思います。
まとめ
DBPは色が限られてしまうので多少のっぺりするとはいえ、HαとOIIIが支配的な天体はDBPは圧倒的に強いです。一眼レフカメラで一発で撮れてしまうのも楽なところです。天体を選びますが、HαとOIIIが支配的な星雲ならかなり淡いところまで出せそうです。
できるならこれでSh2-240を狙ってみたい気がします。青いところが出るか?やるとしたらまた10時間コースですね。