ほしぞloveログ

天体観測始めました。

タグ:M100

前回、SCA260で撮影した馬頭星雲のことを記事にしましたが、3月のオリオン座は早くに西の空に傾くため、後半は別の天体を撮影することにしました。撮影が複数日にまたがっていたので、フラットやダークが使いまわせるよう、基本何も変えない同じ露光時間、同じゲイン、同じカメラ回転角が条件です。

少し迷ったのですが、M100に決めました。理由は
  1. 春の銀河まつりに参戦するのは今年の目標の一つであること
  2. M33などの大きな銀河はすでに試したので、少し小さめの銀河を試したかったこと
  3. 以前おとめ座銀河団を広角で撮影した時にM99やM100が小さいながらもかっこよかったから
などです。

 


まだ赤道儀はCGEM IIで撮影したときのものです。撮影は3分露光です。M100は小さいので真ん中らへんに小さく写っているだけです。これで分解能が出るのかが今回の勝負です。

でも結論だけ言うと、撮影した画像を見て早々と勝負に負けました。やはりこれくらい小さい天体を撮ろうとすると、揺れが大きすぎるのです。


撮影のことはもう忘却の彼方に

撮影は3月3日と3月9日の二日に渡りました。最初の3月3日の方はまだ使えたのが
  • R:18/20枚、G:20/20枚、B:20/20枚
とマシでしたが(それでもかなり甘い判断です)、3月9日の方は(もう忘れてしまいましたが、風が多少拭いていたのかと思いますが)使えたのがわずか、
  • R:4/12枚、G:2/10枚、B:4/35枚
と散々でした。画像を見ていると、大きく揺れて2つの点になってしまっているのが多かったです。これを見て、さすがにCGEM IIで系外銀河の分解能に挑戦するのは辛いことが実感できました。まあ、頭では何となくわかっていたのですが、信じたくないバイアスがかかっていたのかも...。

本当は3月3日の撮影でBがまだまだノイジーだなと思い、3月9日はBを重点的に撮り増ししたのですが、使えたBはわずか1割と、この揺れのおかげであまりやる気が起きずに、実際の撮影からかなり日にちが経ってしまいました。とりあえず見えるだけでいいやと重い腰を上げ、やっと画像処理を進めることにしました。


WBPPの変化

PixInsightのWBPPですが、最近いくつか気づいたことがあります。まずBiasファイルですが、これはDarkファイルがBaisを含んでいるために、もう処理には使われていません。CalibrationタブのDark設定のところであえてBiasを含まないというオプションを使うと、「検証の結果、biasを引いたダークは今後はお勧めしない」と怒られてしまいます。かといって、Biasファイルを全く指定しないとエラーで止まったりするので、Master Biasをおまじないで登録しておくことにしています。ちょっとまだ整合性が取れていないようです。

あと、Pedestalというのを入れてみることにしました。これは画像処理の過程で0以下の輝度になることを防ぐようです。
WBPP
最近のWBPPでの設定。

Reference画像をオートで選ぶと、たいていRとかの明るく画質がいいのを選んでくれるのですが、これを基準にしてしまうと例えば暗いBがIntegration時に大量に弾かれてしまうことがわかりました。実際にIntegrationされたのはわずか
  • R:21/22枚、G:16/22枚、B:11/24枚
でした。これは前回の馬頭星雲でも同じことが起きていて、原因がわからなかったのですが、Reference画像をマニュアルであえて暗めのものを選ぶことで回避できることがわかりました。その結果、
  • R:22/22枚、G:22/22枚、B:24/24枚
と全てIntegrationに回りました

RGB合成した画像を見てみると、揺れが平均化されているせいか、かなり真円に近くなりました。
Image27_ABE_PCC_crop_DBE_mosaic01

これだといいと思ってしまうかもしれませんが、一枚一枚は揺れていることと、大きく揺れることもあるので採択率は悪いし、何より銀河の解像度は出ていないはずなのでやはりダメです。


EZ Deonを(少しだけ)使ったdeconvolution

今回の画像処理のポイントは、PixInsightでDecomvolutionを試してみたことです。実はこれまで何回も試していたのですが、一度もうまく行ったことがなく、今回ScriptsにあるEZ Deconを使うことではじめておかしくない結果が得られました。

そもそもDeconvolutionはPSFをあらかじめ作るとか、StarNETであらかじめマスクを作っておくとか、R Range maskが必要とか結構面倒です。しかもマスクをの微調整で結果が劇的に変わったりします。参考にしたのはniwaさんのページ


相変わらずものすごく親切な説明で、素晴らしいです。とても感謝しています。さらにはリンギングを無くすために皆さんでいろいろ議論されたことも、最後の方のリンク先から辿ることができ、かなり実用的です。

それでもこのDeconvolution、なかなかうまくいかないんですよね。なので今回EZ Deconという簡単にdeconvolutionを試すことができるスクリプトを使いました。EZ DeconはEZ Processing Suiteの中の一つで、インストール方法はこちらを見るとわかります。


上のページは英語ですが、niwaさんが日本語でも解説してくれています。


EZ Deconを走らせると、こんな画面になります。
decom1

最初はよく分からないのでおもむろに「How to use EZ Decon」というヘルプボタンを押します。読んでいくと以下のようなことが書いてあります。

1. まずは処理したい画像(リニアステージのもの)を選択し、Star Maskを作れと言います。このスクリプトはまだStarNETのV2には対応していないようなので、今回は別途StarNet  V2で星マスクと作っておいて、スクリプト中で選択しました。

2. 次のレンジマスクはこのスクリプトでおまかせして作ってもらいました。

3. 最後「Deconvolution」タブをに移って、PSFを作れとのこと。なんとこのスクリプト、PSFが「Generate PSF」ボタン一発でできてしまいます。これはかなり楽です。

4. ここからがすごいです。deconvolutionを試すのですが、「Evaluate EZ Decon Run」ボタンを押すたびにタブが増えていき、右の方の「Change Tab to Original」ボタンと「Change Tab to Decon Run XX」ボタンを交互に繰り返し押すと、オリジナルとの違いを簡単に切り替えて比較することができます。基本的に変更できるパラメータはスターマスクをどう扱うかのみ。ヘルプに書いてますが、スターマスクを強調したりソフトにしたりすることで結果の違いを見ます。
  • もし画像がノイジーになるなら、Wavletの強さ(strength)を増やす。
  • もし画像がシャープになりすぎるなら、繰り返し(iteration)の数を減らす。
  • もし恒星にリンギングが出るなら、Star Maskの半径を増やして、恒星をよりカバーする。
とのことです。

5. うまくいきそうなら、最後に下の「Run EZ Decon」を押して実際の画像に反映させます。

でも結局このEZ deconでは、どうしても最後までリンギングが残ってしまい、結果は使わなかたんですよね。その代わり、EZ deconで生成されたPSF画像を使い、niwaさんが解説してくれていた、このページ

のもりのせいかつkさんのGlobal dark 0方法でやることで、リンギングを抑えてうまく細部を出すことができたようです。

decon_comp

左がDeconvolution前、右がDeconvolution後です。EZ Star Reductionもかけてしまったので、恒星の大きさは無視してください。銀河の細部は多少出てるようになったと思います。

というわけで、このEZ Decon、結局は簡単PSF生成ツールとしてしか使いませんでしたが、スターマスクの効き具合の感覚とかを気軽に試して、振る舞いを理解するのにはすごく役に立ちました。deconvolutionで困っている人は、一度同じように試すといいのかもしれません。

ところで、DeconvolutionのLocal supportというのがいまいち何をしているのかわかりません。スターマスクをリンギング防止に使っているのなら、恒星自身のdeconvolutionができていない気もするのです。実際、恒星がスリムになったような効果は見えませんでした。そういうものなのか、それとも撮影条件が悪くあまり効かないのか、もう少し理解する必要がありそうです。

その後、ものはついでにEZ star reductionも適用しました。以前、トール兜星雲の時にも試しましたが、その時はそこまで有用性は見出せませんでしたが、今回はかなりの効果があったようです。


いつものPhotohopでの仕上げ

あとは普通にPhotoshopに持っていっての処理でしょうか。今回少し違ったのは、Photoshopで細部があまり出せなかったことです。すでにdeconvolutionである程度の細部出しができているためでしょうか。試しにdeconvolutionなしの画像をPhotoshopに引き渡し、いつも通り加工するのですが、こちらは細部が出てきます。ですが、出来上がった画像の細部はほぼ同等でした。細部をどこで出すかだけの問題で、その画像が持っている限界があり、ポテンシャル以上のものは出ないということがよくわかりました。まだまだDeconvolutionをたいして試していないので、少し甘い気もしますが、むしろ自然な処理具合な気がしています。今後は(やっとですが)Deconvolutionの方に移行していくことになると思います。

結果です。

「M100」
Image27_ABE_PCC_crop_DBE_decom_stredu_ABE_PCC6
  • 撮影日: 2022年3月3日23時51分-3月4日4時37分、3月10日2時54分-5時1分
  • 撮影場所: 富山県富山市自宅
  • 鏡筒: SHARP STAR製 SCA260(f1300mm)
  • フィルター: Baader RGB
  • 赤道儀: Celestron CGEM II
  • カメラ: ZWO ASI294MM Pro (-10℃)
  • ガイド:  f120mmガイド鏡 + ASI290MM、PHD2によるマルチスターガイドでディザリング
  • 撮影: NINA、Gain 120、露光時間3分、R: 22枚、G: 22枚、B: 24枚の計68枚で総露光時間3時間24分
  • Dark: Gain 120、露光時間3分、128枚
  • Flat, Darkflat: Gain 120、露光時間 RGB: 0.08秒、RGBそれぞれ128枚
  • 画像処理: PixInsight、Photoshop CC

実は赤ポチとか青ポチとか期待してHαとOIIIも撮影したのですが、枚数が少なすぎで諦めました。M100の周りの淡いところがもう少し出るかと期待していたのですが、少し露光時間が足りないのかもしれません。もしくはゲインを例えばもう3倍とか上げた方がよかったかもしれません。

恒例のAnnotationです。M100の他にもNGC4312を始めいくつか銀河があるのがわかります。

Image27_ABE_PCC_crop_DBE_decom_stredu_ABE_PCC6_Annotated

最後に、FS-60CBで撮影した時画像
up_DBE_DBE_PCC_AS_HT_all_disks_back2_rot_denoise_larage_cut
からM100の同じ領域を抜き出して拡大してみます。
FS-60

回転して向きをあわせてますが、左端は映ってない領域でした。恒星はまだいいとして、FS-60CBで撮ったM100の解像度が良すぎてなんか怖いです。


まとめ

撮影途中で揺れているのがわかってしまい、あまりやる気の出なかった画像処理ですが、やってみると意外に実のあるものでした。これまで何度も試してことごとく諦めていたDeconvolutionですが、今回のこのEZ Deconでできなかったらもう2度とやらないかもしれないと思いながらやりました。まだ満足とはいきませんが、今後続けていく気にはなりました。それでもFS-60CBで撮ったのが今思うとすごすぎます。SCA260の口径が大きくてもまだ揺れが大きくて性能出しきれていないのでしょう。

まだCGEM IIで撮影した、M101が残っています。サクッと終わらせたいのですが、とにかく忙しくてなかなか時間が取れません。某天文雑誌の原稿もやっと目処がついてきました。その後、晴れてやっとCGX-Lで三つ子銀河と、M51の画像処理ができます。


2台目のCMOSカメラが必要になってきて、どうするか悩んでいたのですが、ついこの間の4月12日にZWOに直接頼んだものが、なんとわずか3日後の今日4月15日に到着してしまいました。US$300以上だとFree fast shippingが選べるのですが、それにしても速いです。支払いはPaypalですが、その場で決済ができるし、数日で届くならもう海外と言って躊躇する必要はないのかもしれません。初期不良とかの時はやはり面倒にはなりますが。

IMG_1683

結局選んだのは ASI178MC。いろいろ悩んだのですが、HUQさんが同じセンサーサイズのASI185MCでうまくいっているのは聞いているので、それよりも高解像度でだいぶん感度が低いASI178MCでどこまで電視ができるのか、どうしても確かめたかったからです。最悪もし電視で使えなくても電子ファインダーとしての使い道はあるはずなので、無駄にはならないはずです。ASI224MCでは付いてこなかったレンズキャップが新たに付属しています。Cマントアダプターなどは以前と同じものです。


早速ですが、今日は晴れていて、しかも22時くらいから月の出なので、写真撮影はあまり期待できないため、新カメラのテストとしました。 

まずはファーストライトでM42です。もたもたしていたら西の空の低いところにきてしまっていました。

IMG_1684


真ん中斜めの黒い太い影は電線で、下の三角の影は隣の家の屋根です。低いところということもあり、ASI224MCでよく見えていた構造とかまであまりよく見えていません。これはASI224MCに比べてRの感度が低いので、Hαが見にくいのかもしれません。時間がなくてあまり試せなかったので、星雲に関しては後日もう一度比較しようと思います。


さて、気づいたことですが、
  • ASI178MCとASI224MCをサンワサプライ製のUSBハブUSB-HAC402BKを使うことで、同時に2つのSharpCapを立ち上げそれぞれ表示できることが確認できた。
  • センサーサイズがASI224MCより大きいため、ASI224MCで入れていた0.5倍のレデューサーを外したらこれまでとほぼ同じ画角になる。レデューサを外せるので星像が流れない。これは結構なプラス。
  • 明るい時にASI178MCの出力画像を見ると、ASI224MCで必要だったIRカットフィルター無しでホワイトバランスが取れている。
  • Gainが510までしかない。(ASI224MCは600まで。)
  • Image ControlsのBrightnessが600まである。(ASI224MCは240まで。)
  • Stack中のDisplay ControlsやHistgramの反応速度が著しく遅い。一回、一回のスタックが終わるまで変更が適用されない。ここは大きなマイナス。
  • 左右下隅にかなり明るいノイズ、右上にも多少明るいノイズが見える。 これも結構なマイナス。 

次に、実際に時間をかけて撮った映像です。ターゲットはM100です。まずはASI178MCから。隅に明るいノイズがあるのが見えます。また横縞ノイズも見えるのと、全体的にノイジーです。星像は丸に近いです。露光時間が8秒、ゲインが450になっています。スタック時間は120秒程度です。M100を確認することはできます。右にNGC4312も見えます。

ASI178MC_M100_nobinning


次に同じ画角でASI224MC。0.5倍のレデューサーとIRカットフィルターが加わっています。そのため4隅が流れます。露光時間は8秒、ゲインは330です。スタック時間は同じく120秒です。上より明らかにノイズが少ないです。。M100の腕まで綺麗に見えています。

ASI224MC_M100_nobinning_120sec


ゲインが450と330なので、120違います。ヒストグラムを見るとピークの位置が大体位置が合っているので、これくらいのゲインの違いで、ほぼ同じ明るさになるということです。ゲインが60違うと2倍のゲイン差になるので、120違うというと4倍違うことになります。SONYの提唱するSNR1sでの検知できる最少光の差がIMX224が0.13ルクスとIMX178が0.46ルクスで3.5倍くらいの差なので、4倍違うというのはほぼ一致します。これが一番知りたかったことですが、電視に限って言えばSNR1sの値で性能が決まってしまうといってあまり間違いがなさそうな印象です。



さて、画面だけ見比べるとASI178の方でゲインさえ上げてしまえば、同じような明るさになりそこそこ映るので、あまり差がないように思えるかもしれませんが、実感としてはASI224MCの方が圧勝です。上の画像はスタックした画像なのでわかりにくいのですが、スタック一番最初の一発目に出てくる画像で認識できる天体に大きな差があります。電視ではリアルタイム性が重要になってくるので、一発目の画像の質が結構需要になってきます。そういった意味でASI224MCの方が圧勝という印象です。


また、同じ時間かけたとしてもASI178の方がゲインが高いので、そのぶんノイズも大きくなります。すごい単純計算(同じゲインの時に、同じノイズが出るとかいう適当な仮定をした場合ですが)で見積もると、ゲイン差が約4倍なので、同じ時間をかけて撮ると、ノイズはsqrt(4)=2倍の差になります。この2倍のノイズを同程度のS/Nまで持っていくためには4倍の時間をかけて初めて同程度のクオリティーとなります。至極真っ当な結論です。

同程度のクオリティーを出す場合、露出時間がゲインに比例するということは覚悟していて、まあその通りに近い結果なのですが、印象としては電視に限っていうと一発目が重要だということが実感できて、結局期待はずれでした。残念ですが、ASI178MCは主に電視ファインダーなど、広い画角で高解像度が生きる方向で使っていきます。



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