ほしぞloveログ

天体観測始めました。

タグ:72ED

シュミットさんからお借りしているEVOSTAR 72EDですが、前回のおまけ記事で最後と思っていたのですが、せっかくなのでレデューサーを使っての撮影をし、画像処理までしてみました。




カメラ選択

カメラをフルサイズ一眼にするか、CMOSカメラにするか迷ったのですが、 結局ASI294MC Proにしました。理由は2つあります。

元々の焦点距離が420mmで0.72倍のレデューサーを入れると約300mm。これだと結構広い画角となるので対象が限られてきてしまいます。パッと思いつくのが
  • カリフォルニア星雲
  • カモメ星雲
  • 勾玉星雲
くらいです。複数天体もありとすると
  • オリオン大星雲と馬頭星雲まで
  • 馬頭星雲からバーナードループの一部まで
  • モンキー星雲とクラゲ星雲を一緒に
などですが、やはり一画面に二つの中くらいの天体だとインパクトに欠けそうです。他にもSh2-240もありますが、さすがに自宅からだと暗すぎます。マルカリアンチェーンもありですが、後述のQBPを使いたいので、銀河は今回はパスです。結局この画角だと対象が思ったより少ないので、少し画角を絞る意味でフォーサーズ相当のASI294MC Proにしました。

もう一つの理由が、31.7mmのアメリカンサイズQBP(Quad Band Pass) フィルターで撮影レベルできちんと試してみたかったことです。Black Pandaさんにせっかく作っていただいたQBPですが、これまでは元々の目的である電視観望でのみ試してきました。CMOSカメラに取り付けた状態で、もっと条件の厳しい撮影レベルで使えるかどうかの判断をしてみたかったのです。

ASI294MC Proとの組み合わせだと、対象天体も一気に増えてきます。冬だけでも
  • オリオン大星雲
  • 馬頭星雲と燃える木
  • モンキー星雲
  • クラゲ星雲
  • バラ星雲
  • 魔女の横顔
夏のことまで考えるとやはりこの画角が一番楽しそうです。その中で今回は、最初の星像チェックで見事に失敗したバラ星雲をリベンジしたいと思います。

一方、撮影時に気付いたのですが、ASI294MC Proにしたことにより、接眼部に取り付けるアダプターの選択肢が少ないために、レデューサーからのバックフォーカス長が長くなってしまっています。長くする方向には差し込み部分を少なくて調整し星像の違いを試したのですが、短くする方向に試すことができませんでした。長くする方向では星像は改善しなかったので、アダプターをもう少し考えて短くする方向を探る必要があるかと思います。


撮影

実はバラ星雲の撮影、4日間にわたっています。
  • 1日目は2時間ぶんの画像を撮ったのですが、ガイドなしで撮影してみてやはり縞ノイズが盛大に出てボツ。
  • 2日目は30分ぶんの画像を撮影したのですが、後からみたら透明度が悪くてボツ。
  • 3日目は準備して撮影を始めたら、1枚だけ綺麗に取れて、2枚目以降雲が出て全くダメでいやになってボツ。
  • 4日目にして2時間撮影して、人工衛星(流れ星?)が盛大に写っているのを除いてやっとまともな撮影画像を得ることができました。
おかげで4日目はセッティング開始から撮影を始めるまでにわずか20分ちょい。もう全部組んであるので、外に出すだけです。19時半ころから玄関にある赤道儀と鏡筒を庭に運び、極軸をとって、バラさん導入。PHD2でガイドを始め、20時前には撮影を開始していました。今回は露光が5分と長時間撮影の範囲になります。撮影ソフトはディザーをしながらガイド撮影をしたいので、今回初めてAPT (Astro Photography Tools)を使いました。PHD2との組み合わせで、ほとんど何も考えることなくうまくディザーまでできました。これについては後日、別記事で扱います。

また、恥ずかしながら今回初めて冷却してまともな撮影をしてみました。冷却のテストはしてたのですが、撮影したことなかったんですよね。ダークノイズが減るのはもちろんいいことなのですが、ダークフレームを撮るときに温度を一意に固定できることにありがたみを感じました。これまで6Dで撮影した後は、カメラを冷蔵庫に入れたりしてダークフレームを撮っていたので、それに比べたら随分効率がいいです。

実際の撮影ですが、そもそも開始時から結構西の空の方なので光害であまりいい方向ではありません。それでも4日目は透明度が良かったせいもあり、そこそこの画像を20枚得ることができました。約2時間の撮影後は近所の屋根に隠れてしまうような状況でした。


画像処理

画像処理はいつも通りのPixInsight (PI)です。1日目の画像はディザーなしで縞ノイズでいろいろ頑張ったけど今回もやはりどうしようもなかったので、4日目に撮った画像のみ20枚を使っています。フラットは撮ったのですが、うまく合わなかったので諦めてPIのDBE (Dynamic Backgroud Extraction) で済ませました。アンプノイズのところは適当にごまかしています。ダークフレームは-15℃で28枚、バイアスフレームは同じゲインであることに気をつけ、温度に依存しないはずなので常温で最短露光時間で100枚撮っています。

BatchProcessでスタックされた画像まで出した後、DBEとストレッチまでPIで済ませてTIFFで保存。それをStarNet++で恒星と背景に分けてPhotoshop CCに渡してあぶり出します。今回はDeNoiseは(試用期間が切れてまだ購入していないこともあり)無しです。DeNoiseを使うと綺麗になりすぎるので、淡いところとかの評価をしにくくなります。でも本当の理由は今月はお小遣いがないのでただの負け惜しみです。素直に使ってもっと綺麗にしたいです(笑)。ただし、NikCollectionのDfine2は使っています。

結果です。

「バラ星雲」
light_BINNING_1_integration_DBE_DBE_DBE_STR_all_PS5a
  • 撮影日: 2020年3月26日20時2分-21時59分
  • 撮影場所: 富山県富山市下大久保
  • 鏡筒: SkyWatcher EVOSTAR 72ED
  • 赤道儀: Celestron CGEM II
  • カメラ:  ZWO ASI294MC Pro
  • 撮影条件: ゲイン220、温度-15℃、露光時間300秒x20枚 = 1時間40分 
  • フィルター: サイトロン QBP(アメリカンサイズ)
  • PixInsight、StarNet++、Photoshop CCで画像処理

淡いところの諧調がまだ不十分で少し不満ですが、2枚玉アポ入門機で、自宅での撮影、しかも季節終わりの西の空でここまで出れば十分と言えるのではないでしょうか。光害を軽減し撮影時のコントラストを上げるという意味で、QBPの効果も大きいです。以前心配していたハロなども何も気になるところはありませんでした。アメリカンサイズのQBPも撮影レベルで十分な性能を発揮できていると思います。

その一方、やはりレデューサーを入れても最周辺には星像の歪みがどうしても残ってしまっています。撮って出しではほどんど目立たなかったと思っていたのですが、その撮って出し画像もよくみるとAPS-Cサイズでも僅かながら歪んでいることに気づきました。今回のCMOSカメラではバックフォーカスが長くなってしまい調整し切れていないので、接眼部を改良しバックフォーカスを短くすることで星像はまだよくなる可能性は残されているはずです。今回はその歪みがあぶり出しによっって目立ってしまっているようです。といっても、本当に一番外側だけで、少し中に入るだけで一気にマシになるので、周辺を多少トリミングするつもりで最初から画角を決めるのがいいのかもしれません。


恒星の出し方

あと、個人的には今回のポイントは恒星の処理です。StarNet++で恒星と星雲画像を分けるのですが、恒星画像の結合時にできるだけ境目が目立たないように、一部の明るい星をのぞいてサチらないように、色の特徴が残るように仕上げてみました。今年の目標課題の一つでしたが、少し時間をかけて探ることができたので記録がてら手法を書いておきます。

レイヤーは「覆い焼き(リニア)加算」にします。「比較(明)」とか他にもいろいろ試しましたが、恒星の色が失われずに残るのと、境目が変に段になったりせずに滑らかになるので、これが一番いいみたいです。多分、StarNet++で作った星雲画像から、恒星だけの画像をPhotoshopで作るときに「差の絶対値」で作るので、くっつけるときは「和」である加算の方が素直なのだと思います。

ただし、名前の通り「加算」なので星雲背景が明るいと、構成部分の明るさのためにすぐにサチってしまいます。この場合は恒星レイヤーをCamera Rawフィルターのハイライトを下げることで、サチらない範囲まで持っていきます。ただしこのフィルター、レイヤーのみを表示しながらしか調整できないので、元の画面に戻って効果を確認するなど、何度も往復して微調整をする必要があります。

あと、個々の恒星の外周と背景のつなぎ目の諧調が飛ぶ場合があるので、その場合はCamera Rawフィルターの黒レベルで調整します。ここら辺に気をつければ、あとは彩度で色を出そうが、多少何をしても破綻するようなことはないようです。


まとめ

元々、前回の記事でもう終わりにしようと思っていたのですが、せっかくの鏡筒だったのでバラ星雲を再度撮影し、画像処理まで進めてみました。アメリカンサイズのQPDの撮影での実力も見えたので良かったです。こちらはやると言っていてなかなかできていなかったので、やっと少し肩の荷がおりました。

周辺の歪み改善にまだ少し課題を残しましたが、結構綺麗に出たのではないかと思っています。これだけの画像を残せるなら十分なコストパフォーマンスであると言えるのかと思います。正直いうと、後1時間くらいかけて淡いところをもう少し出したかった気もしますが、季節ギリギリなのでまあこれくらいが限界かと思います。

少し前の記事で書いたように、タカハシの新マルチフラットナーを持っている方は、フルサイズのカメラで同程度の画角になるはずです。周辺像が気になる方はこちらで試してみてもいいでしょう。

今回の撮影を通じで、必要に迫られてですが、やっとAPTでのディザーもうまくできたので、今後CMOSカメラでの撮影にも力を入れていこうと思います。





先日テストした、シュミットさんからお借りしているEVOSTAR 72EDですが、簡易星雲撮影ということで、カメラに1/1.8インチというセンサー面積の小さいASI178MCを使い、星像が綺麗な中心像を主に使った例を示しました。




コメントの中で、APS-Cやフルサイズ面積の星像もみたいというリクエストがありました。天気もあまりチャンスがなく、トラブルなどもありなかなか進展していませんでしたが、やっとまともに検証できたので結果を示したいと思います。


一眼レフカメラの取り付け

72EDには2インチアイピース口が標準となります。基本的には他のアダプターなどは付属していないので、一眼レフカメラを取り付けために、いくつかのアダプターをあらかじめ準備しておく必要があります。

まずは、EVOSTAR 72EDの販売ページに行ってみます。



そこに色々なオプションパーツへのリンクが張ってあります。この中で必要なものを挙げていきます。

とりあえずはカメラ接続だけなら2インチの延長等を兼ねたM42への変換アダプター



が必要になります。これがあればあとはカメラメーカーごとに対応したT2マウントアダプターがあれば、手持ちの一眼レフカメラに直接接続できます。




撮影だけの場合は上記のものでいいのですが、普通は31.7mmサイズのアイピースも使うと思いますので、上記の代わりに別のM42ネジになっていないタイプの2インチ延長筒と、2インチから1.25インチの変換アダプターにしておいた方がいいかもしれません。





この場合、カメラを取り付けるにはさらに2インチスリーブとM42ネジへの変換アダプターが必要になります。



実はカメラを鏡筒に取り付けるだけなら、2インチスリーブとM42ネジへの変換アダプターだけでもいいのですが、フォーカサーの伸びに限界があるためピントが出ません。そのため実際には延長筒は必須になります。

私は今回は後者のタイプでカメラを接続しています。後者の場合もT2マウントアダプターが必要なのは、前者と同様です。

実際に接続した場合、下の写真のようになります。

IMG_9649

惜しむらくは、鏡筒バンドを取り付けることのできる位置が限られているので、一眼レフカメラを取り付けるとどうしても後ろが重くなりがちになってしまうことです。赤道儀などに取り付ける際はバランスに注意が必要です。


72ED用、専用レデューサー

前回の評価記事のコメントの一つに「レデューサーの性能も見たい」と言うようなコメントがありました。でも今回お借りしたのは鏡筒だけで、レデューサーは無いんですよね。

と・こ・ろ・が、前回の記事を見てシュミットさんが、な、なんと、レデューサーも評価用のサンプルがたまたまあるとのことで、貸してくれることになりました。これで俄然撮影の方もやる気になってきます。

ジャンジャカジャーン!とうとう専用レデューサー到着でーす。

IMG_9499




「焦点距離を0.85倍に縮小し(焦点距離357mm 口径比4.9)、視野周辺の星像を改善する」とのことなので期待大です。定価は40,975円(税込)ですが、今ホームページを見ると20%オフになっていて税込 32,780円になっていました。鏡筒の値段が税込 47,300円なので、決して安いものではありませんが、価値があるかどうかは後の実際の画像を見て判断してみてください。


専用レデューサーの実際の取り付け

レデューサーの取り付けは、中にマニュアルが入っているので迷うことはないかと思います。ただ、日本語になっていないので少しわかりにくいかもしれません。簡単にですがここで解説しておきます。

まず、付属の2インチスリーブを回して取り外し、代わりにレデューサーに付属のアダプターリングを取り付けます。レデューサー本体の前後のキャップを回して外し、そのアダプターリングに直接取り付けるだけです。

IMG_9505


(お詫び: 初出記事にレデューサーのネジ径に間違いがありました。レデューサーのカメラ側の接続ネジはM48径が正しいです。ご迷惑をおかけしました。)

次にカメラ用アダプターの接続ですが、ここで問題が発生しました。レデューサーのカメラ側のネジがM48ではないようで、普通のT2アダプターだとM42が標準のようでねじ込むことができません。

ホームページ
にはきちんとM48と書いてあります。しかもよく見ると「同社」専用アダプターを使って下さいと書いています。

EOS用、NIKON用があるようです。





さらに専用の回転装置もあるようです。



回転装置は鏡筒とレデューサーの間に挟むものなので、レデューサーとカメラ間の距離はカメラアダプターのみで決まるようです。

さて、レデューサーについているカメラ側のネジを実測するとM53のやはりM48のようです。私の場合はたまたま持っていたタカハシのカメラマウントDX-S EOS:KA01250がM53の一段下がった内側についているネジがM48だったので、接続だけはできました。

下の写真の左がレデューサー、右側のアダプターが一般的なT2アダプターでM42(自宅にあるのは3つともM42でした)、真ん中がタカハシのM53ので外側がM53、内側にM48が切ってあります。径の違いが写真でもわかるかと思います。カメラ接続アダプターを購入するときはT2(M42)でなく、間違えずにM48のものを選んでください。バックフォーカスも考えると、上記の専用品を買うのが良いのかもしれません(すみません、今回は検証できていません)。


IMG_9738


今回このタカハシのM53のアダプターの内側のM48を使って固定することで撮影しましたが、専用品と違ってカメラセンサーまでの距離が変わりますし、ねじ込みも数回転しかねじ山が引っかからずに少し不安だったので、あり合わせのものを使わずに、専用品を購入した方がいいでしょう。

さて、とりあえず撮影の準備ができました!実際に撮影して星像を見てみましょう。


撮影環境

今回はセットアップしたEVOSTAR 72EDを手持ちの赤道儀CGEM IIに鏡筒を載せて撮影しています。
  • 露光時間30秒でM42付近を撮影しています。
  • テスト撮影で星像を見るだけなので、1ショットの30秒短時間撮影の撮って出しとしています。
  • スタックなどの画像処理は一切していません。
  • QBPなどのフィルター類も入れていません。
  • カメラはEOS 6D。天体用に赤外線フィルターを外したものです。

赤道儀への取り付けですが、先に書いた通り、前後バランスはやはりカメラがついているせいもあり、後ろ側が重いです。赤道儀に取り付ける際、できるだけ前の方に取り付けるようにします。


フルサイズ星像

撮影結果です。まずは鏡筒単体です。露光時間30秒は全部共通、ここでのISOは3200です。JPEGの撮って出し画像になります。

IMG_5427

やはり、アポクロマート鏡筒と言っても2枚玉の限界、さすがに四隅の星像は大きく歪んでしまっています。さらに気になるのが周辺減光です。撮って出しなのでなんの加工もしていません。思った周りが暗くなるようです。

四隅を拡大して見てみます。300ピクセル四方を切り出しています。最周辺の8マスがフルサイズ換算、中の周囲8マスがAPS-C相当になります。

IMG_5427_cut

中心像はいいのですが、やはり素のままの鏡筒ではフルサイズでもAPS-Cでも星像の流れは大きいです。


専用レデューサーでの星像

次に、専用レデューサーでの星像です。0.72倍で明るくなるので、ISOを1600に落としてあります。あとは露光時間30秒も含めて全て同じ条件です。あ、回転角は取り付け時にサボって合わせなかったために(合わせるためにはイモネジを緩めて調整する必要があります)適当です。こんなことを回避するためにも専用回転装置はあったほうがいいのかと思います。

IMG_5429

レデューサーのおかげで鏡筒単体に比べて、圧倒的に星像が改善されています。あと、特筆すべきが周辺減光の改善です。普通は周辺減光厳しくなるのかと思いましたが、JPEG撮って出しで特に何もしていないので、実際に改善されているものと思われます。

四隅も拡大して見てみます。

IMG_5429_cut

相当いいです。フルサイズだと、よく見るとまだ少し歪んでいるところもありますが、APS-Cだとほぼ点像になっています。しかも今回使ったカメラ接続アダプターが専用のものではないので、レデューサーとカメラセンサー間の距離がメーカー推奨値と違うため、最適化されたものとはまだ違う可能性があることも考慮に入れておく必要があります。それでも十分な星像です。

手持ちのものに例えるなら、フルサイズだとFS-60CBにレデューサーをつけたものとそう変わりはないくらいでしょうか。この値段でこれだけの星像を得られるのは、ある意味驚きです。撮影にも余裕で耐えることのできる十分な性能だと思います。


まとめ

今回の記事で、フルサイズまでの星像を見てみました。素のままでは2枚玉の限界もあり、四隅の星像は乱されてしまいますが、レデューサーをつけることで相当改善することがわかりました。APS-Cサイズならほぼ点像、フルサイズでも十分許容範囲の星像です。

初めてのアポクロマートとしては相当魅力的な値段がつけられているEVOSTAR 72ED。前回の記事で電視観望用として最適ではと書きましたが、レデューサーを取り付ければ撮影用鏡筒としても十分な性能を発揮しそうです。


EVOSTAR 72ED関連の記事、まだ続きます。あと2つくらいネタがあります。乞うご期待。

2020/3/15 追記: 次の記事でレデューサーに引き続き、フラットナー?を試しています。




今回の目的は、AZ-GTiの経緯台モードを使って、できるだけ簡単に星雲を撮影しようというものです。


もっと簡単に星雲とか撮影できないか? 

ここしばらく、できるだけ簡単に星を楽しむことができないかを考えています。明るい広角レンズとただの三脚を使った電視観望もその過程のひとつです。これはQBPという武器があって初めて実現することでした。

同様に、撮影に関しても高すぎる敷居をもっと下げることができないか、ずっと考えていました。もちろん、究極的な画像を求めよういう場合は別ですが、もっと手軽に、画質は自分で満足できればいいくらいの撮影というのも、あっていいと思うのです。ここではAZ-GTiを武器として試しています。

眼視から少し手を伸ばしてみたい、電視観望よりもう少し綺麗な天体を自分で撮ってみたいとかいう人たちがきっといるはずです。天体写真の敷居を下げることで、天文人口を増やすことにつながればと思います。


経緯台撮影の問題点

赤道儀は極軸合わせなど、若干敷居が高いので、より簡単な経緯台を想定します。今回は自動導入と自動追尾がついているAZ-GTiを使うことにします。

しかしながら経緯台は撮影にはあまり向いているとはいえません。問題点は二つあります。
  • 経緯台なので撮影していると写野が回転していくのですが、それをどうするか?
  • ガイドも当然なしなので、星像がふらついたり流れたりして長時間露光ができない点。

でもこれらは、もしかしたら電視観望で培った技術が解決するのではと考えるようになってきました。カメラは一眼レフカメラは使わずに、その代わりに電視観望のようにCMOSカメラを使います。


撮影手順

簡単星雲撮影のセットアップは基本的に電視観望とよく似ています。今回はテスト記事なので全くの初心者が必要な細かい手順の説明は省きます。電視観望をやったことがある人くらいが対象です。本当の初心者向けの記事は、もっと細かい位置からの手順を踏まえて後日まとめるつもりです。

IMG_9267

経緯台にはAZ-GTi、鏡筒には評価用に手元にあったSkyWatcerのEVOSTAR 72EDを使います。比較的安価なアポクロマート鏡筒なので、初心者にも手頃かと思います。CMOSカメラはASI178MCを使います。ASI224MCでも良かったのですが、安価で少しでもセンサーの大きさを稼ぎたかったのでこれにしました。
  1. 今回のターゲットは初心者向けに、かなり明るいオリオン大星雲M42とします。
  2. AZ-GTiは経緯台モードで自動追尾します。精度はそこまでないのと、原理的に写野が回転していくので露光時間は長すぎると星が流れていきます。長くても30秒くらい、できれば10秒くらいまでが無難。今回は短めの3秒としました。
  3. ソフトは定番のSharpCapを使います。
  4. ゲインは高すぎるとノイズが多くなってしまいます。逆に低すぎると何も映りません。露光時間は短めなので、少し高めでもよくて、最大のゲインから1段か数段下げるといいかと思います。今回は310としました。
  5. 目的の天体がそこそこ見えていたらSharpCap上でライブスタックをしてみます。
  6. ライブスタックパネル左下の何分かおきに画像を保存するにチェックを入れます。今回は3分にしておきました。
  7. AZ-GTiの精度だと、長時間撮影していると画面がずれていくかもしれません。例えば10分くらい経ってから画面を見てみて、もし天体がずれているような時は再びSysScanのコントローラーを使って天体を真ん中に入れます。その際、ライブスタックのリセットボタンを押すのを忘れないようにしてください。
ポイントは、星像が流れないようにするために、短時間露光に抑えることです。その一方露光時間が短いと読み出しノイズが支配的になりがちですが、そこは枚数を稼ぐことで緩和します。ゲインが高いのでダイナミックレンジが不足しがちですが、淡い部分を映し出す方を優先します。また、ライブスタックを活用することで、撮影枚数を減らします。

と、ここまで読んで分かる通り、やっていることは電視観望とほとんど大差ありません。それでも、赤道儀やガイドなどの、通常の撮影に比べて遥かに手軽なことがわかると思います。

今回はライブスタック3秒x60スタックで、一枚あたり3分露光した画像を、合計1時間程度撮影し、その中の画面からずれていない10枚、30分ぶんの画像を取得しました。画像のズレはAZ-GTiのものもありますが、1時間も撮影するとそもそも15度程度写野が回転してしまいます。

写野の回転は原理的にどうしようもありません。多少の回転はトリミングで見えないようにします。なので超長時間露光は難しいですが、それとて時間が経ったらカメラ自身をマニュアルで回転させてしまえば対応できないこともありません。


撮影画像のスタック

初心者にとって厄介なのは、撮影よりもむしろ画像処理です。

写野の回転と同時に、周辺の歪みによるスタック時のずれが問題になってくる可能性があります。今回はPixInsightで星を認識して星像を合わせるような重ね方をしています。でも初心者にPIを求めるのは酷と言うものです。

ステライメージは回転は補正してくれますが、画面を歪めて星を重ねるような機能はないので、こういった場合は難しいです。あとはDSSでしょうか。DSSは一番最初に星を始めた頃に触っただけなので、ほとんど理解していないのですが、調べた限りでは画面を歪ませて合わせるような機能はないみたいです。

そういった意味でも、小さめのセンサーを使って星像がブレにくい中心像だけ使うと言うのは理にかなっているとおもいます。DSSは無料で使えることもあり、最初からあまりお金をかけることができない初心者にとってはほとんど唯一の選択肢になるので、検討する余地は十分にあると思います。


追尾時のズレの様子

撮影した10枚をスタックして画像処理をしてみました。まず、どれくらいずれている10枚でやったのか、スタック直後でストレッチだけかけた画像です。

integration

初期アラインメントがワンスターアラインメントしかやっていないので、AZ-GTiの設置時の水平度不足による並行ずれと、長時間の撮影による回転のズレが生じているのがわかると思います。

水平精度をさぼったので、並行ズレは結構酷くて、10分に一回くらい構図を合わせ直していました。ちなみに、20枚撮影して落とした10枚は、様子を見ていなくて平行移動し過ぎてはみ出していたもので、10枚全部がそれです。さすがにこれはひどいので、水平をきちんと取ることにより、もう少し抑えることができるはずです。逆に言うと、星像のズレとかで落としたものは一枚もないです。SharpCapのアラインメントは相当優秀です。

回転ずれは時間とともに出てきます。もっと短時間で終わらせてしまうのも一つの手です。


撮影した画像の仕上げ

画像処理をして、そこからトリミングしてまともなところを切り出します。画像処理にそれほど時間をかけていないのでイマイチなところも多々ありますが、経緯台で簡易で撮ったにしては、そこそこ写るのかと思います。

integration2_cut
  • 撮影場所: 富山県富山市
  • 撮影時間: 2020年2月1日22時25分
  • 鏡筒: SkyWatcher EVOSTAR 72ED
  • 経緯台: SkyWatcher AZ-GTi
  • カメラ: ZWO ASI178MC
  • 露光: ゲイン310、3秒x60枚のライブスタック x10枚 = 総露光時間30分
  • フィルターなし、SharpCapでのリアルタイムダーク補正 (3秒x16枚)あり、フラット補正なし
  • PixInsigjt、Photoshopで画像処理
トラベジウムとか少し多段でマスクをかけましたが、そもそも短時間のラッキーイメージングの手法に近くて露光不足気味で、元々ほとんど飛んでいないところが効いてきています。


いっそ、一枚撮りで


もう一つの方法が、ライブスタックの画像保存までの時間を10分とか20分とか長くしてしまって、SharpCapのライブスタック結果の一枚画像のみにして、後からスタックをしないことです。

SharpCapでは、ライブスタックの最中は恒星を多数認識して、その星がずれないようにスタックするたびに画像を歪ませて重ね合わせるので、この機能を使う利点は相当大きいです。その代わりに、長時間撮影のために天体全体が徐々にずれていくのが問題になります。これは撮影の間に画面を見ていると回転していってずれていく様子が積算されていくのがわかるので、適当なところで止めてしまえばいいのかと思います。

さらに画像の保存方式も初心者にはいくつか選択肢があって、RAWのfits形式で保存することももちろんできるのですが、もっと一般なtiff形式、もしくはPNG形式でもいいのかもしれません。特に、PCで見えている画像そのものをファイルに保存してしまう機能もあるので、これを使うと後の画像処理でストレッチをする必要もなくなります。

これと似たようなことは実はかなり昔に試していて、どの形式で保存するのが綺麗かと言う比較をしたことがあります。意外なことに、SharpCapのライブスタックに任せてしまったPNGでも十分に見るに耐える画像になっています。

少し前ですが、名古屋での大晦日年越し電視観望中に1時間ほどほったらかしておいてた3秒露光の画像を、そのままライブスタックし続けた画像が残っていました。

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1時間くらい放っておいたライブスタック画像。撮って出し。

カメラはASI294MC Pro、鏡筒はFS-60CBに旧フラットナーですが、AZ-GTiでの自動追尾なので、そういった意味では今回の撮影方法そのものの、一枚撮りバージョンになります。ダーク補正とフラット補正をリアルタイムでしてあります。

撮って出しと言っていいのかよくわかりませんが、画面に見えているのをそのままPNGで落として、それをアップロード用にJPGにしたものです。撮影時間は1時間ほどと書きましたが、時間はあまりよく覚えていません。15度くらいいという画面の回転角から、それ位の長さだったんだろうと推測しているだけです。重要なのは、AZ-GTiでのほったらかしでも、水平の設置さえ良ければこれくらいの時間は位置を合わせ直すことなく撮影できることです。

上の画像をある程度仕上げてみます。回転で切れてしまっている部分をトリミング。ASI294MCはセンサー面積が広いので、中心部だけでも十分な面積が生き残っています。

まずはWindowsの「フォト」の「編集と作成」から「調整」のみを使った場合。

Stack_198frames_634s_WithDisplayStretch_win_photo
Windwos「フォト」での加工例。

簡単な調整だけでも多少は出てきます。

次はMacの「プレビュー」の「ツール」「カラーを調整」のみを使ったものです。

Stack_198frames_634s_WithDisplayStretch_mac
Mac「プレビュー」での加工例。

うーん、どうでしょうか、Windowsの方が、ディテール、ノイズともにまさっている気がします。ここら辺は腕にも大きく依存するので、容易に逆転するかもしれません。

いずれのケースでも、さすがにトラペジウム周りのサチってしまっているところは救い出すことはできませんでした。でも、一枚PNGからここら辺まで出れば、撮影を試してみるというのならある程度十分で、これに不満が出るならスタックや赤道儀を用いるなど、次のステップに進むことになるのかと思います。

重要なのは、このようなOS付属の簡易的なツールでも、多少は画像処理ができてしまうと言うことです。これは初心者にとっては大きなメリットでしょう。逆に、改めてみてわかったのは、さすがに1時間スタックは星像が多少肥大するとするということ。これは課題の一つかもしれません。

最後は、このPNG1枚画像をツールの制限なしに画像処理した場合です。と言ってもPhotoshopです。あと、最後の仕上げに今話題のTopazのDenoiseを試してみました。これは結構強力です。しかも簡単なので初心者向けです。有料なのが初心者にとって唯一のネックかもしれません。でもそれだけの金額を出す価値のあるソフトかと思います。Denoiseに関してはまた別記事で書こうと思います。

Stack_198frames_634s_WithDisplayStretch_DN_cut
Photoshop CC+Topaz Denoiseでの画像処理。


まとめ

AZ-GTiを使った経緯台での撮影は一言で言うと「やはり楽」です。似たようなことを既にやっている方も、もしかしたら初心者でも同様のことをごく自然な流れとしてやってしまっている方もいるのではないかと思います。

ポンと北に向けて適当に置くだけ、極軸を取る必要なし、ワンスターアラインメント、ガイドもなし、大きくずれたら直す、というので大幅に大変さを軽減できます。30分露光でここら辺まで出れば、最初に挑戦する撮影としてはかなり満足できるのではないかと思います。

その一方、画像処理の敷居は依然高いかもしれません。後でスタックするのが敷居が高いのも事実なので、一枚どりで画面の見たままで保存してしまうのでもいいのかと思います。あとはGIMPなどの無料の画像処理ソフトや、今回試したWindowsの「フォト」やMacのプレビューでの簡易画像処理だけでも最初はいいのかもしれません。 


後日、今回使ったEVOSTAR 72Dについて、試用記を書いています。よかったら合わせてご覧ください。



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