今回は、Mちゃん自宅に来るシリーズの第3段です。




4月27日の日曜の朝、曇ってはいるものの、予報では夕方くらいから晴れるみたいなので、Mちゃんに声をかけました。実は土曜も誘ったのですが、どこかの天文台でオンラインの講義があるとかで忙しいみたいでした。じゃあ次は連休中でいいかと思ってたのですが、MILTOLを試すのなら月が見える方がいいと思い、まだ満月前なので昨日の今日ですが声をかけてみました。電話口で既にMちゃんの喜んでいる声が聞こえてきましたが、午後からお母様が用事があるとのことで、昼頃に自宅に来て、今回はなんとMちゃん一人で夜まで居ることになりました。さて、どうなることやら。


到着

13時過ぎ、お母さんとやってきたMちゃん。まず最初に手渡されたのが、大きなロールケーキでした。手ぶらできてくださいと伝えてはあるのですが、気を使ってくれたのでしょう。Mちゃんのおうちはケーキ屋さんで、聞いたらなんとお母さんの方がお店をやっているとのこと。そういえばお父さんは建築関係と言っていたことを思い出しました。実は私、甘いものには目がなく、後でみんなで食べたのですが、フルーツたっぷりの、それはそれは美味しいロールケーキでした。

次に出てきたのは、アイピースやMILTOLのケースとともに、赤道儀が入った大きな箱でした。車のトランクに積むようなケースで、三脚も入っているとのこと。荷物だけ運んだら、全然気兼ねない様子でお母さんにバイバーイとしていたので、一人でいても全く大丈夫そうでした。

今日やりたいことは、
  1. 何か質問があるというのでそれを考えること
  2. MILTOLの改造
  3. 赤道儀を使いこなすこと
  4. 時間があれば天リフの中継を見ること
です。


課題の確認

まず最初にやったことは昨日聞いていたというオンラインの講義の課題でした。小学生向けにしてはえらい難しいなと思いましたが、ほとんど出来ています。「考えてみたけど、どうしても迷ったところがある」というので聞いてみたのですが、それも十分きちんと考えていて、特に何も言うことがないくらいでした。まだ途中でやっていないところもあったのですが、まずは自分でやるとのこと。とてもいい心がけだと思います。「また分からないことがあったら、次回聞く」とのことでした。


MILTOL改造

次はMILTOLの改造の続きです。

ファインダー:
聞いてみると、何回か自分で使ってみたようです。多分科学博物館での観望会でしょう、ファインダーは県天のKさん(家の前の人)につけてもらったみたいで、塩ビ管をうまく加工して、台座をつけてくれてました。そこにポルタのファインダーを付ければいいみたいで、十分かと思います。


カメラ接続:
今回はカメラへのアダプターをZWOのものからAmazonで見つけたノーブランドのT2-31.7mmアイピース変換のものにしました。



SVBONYでも同様のものがありましたが、こちらの方が安かったです。これまではT2ネジでASI224MCを固定していましたが、これでカメラの先にアイピース と同じ径のノーズを付けることができます。そうすると、将来アメリカンサイズのQBPとかを取り付けることができるようになります。でもアメリカンサイズのQBPでも小学生にとっては非常に高価なものになります。「サンタさんを信じて待とう」ということになりました。


アリガタ固定:
アリガタとのMILTOLの固定ネジは一本のままだったので、今回2本固定にするように改造します。どうもお父さんがネジで固定しようとしてくれたみたいでしたが、そもそもMILTOLのネジ穴がインチ規格です。インチのキャップネジを渡しておいたのですが、そもそもインチ規格の六角レンチがなかったようで、マイナスドライバーで締めることができるネジに代わっていました。聞いたら、お父さんネジの入手もかなり苦労していたみたいです。建築関係とのことなので、ネジは詳しいとのことですが、インチ規格は結構大変です。なので今回のもう一つの穴はM6ネジにします。

この日にやったことは、MILTOLの台座の既存の穴にM6のタップを切ること、そこのネジ穴に合わせるように、前回取り付けたアリガタに穴を開けることです。

まず、MILTOL台座の穴の位置に合わせて、アリガタの真ん中らへんの穴を開けたい位置に、マーキングと、センターポンチで位置決めをします。当然、Mちゃんに全部やってもらいます。マーキングは最初定規でやってもらいましたが、いい機会なのでノギスを使ってもらいました。ネジの径とかも測るので、ノギスで精度よく測る方法を学んでもらいました。ドリル穴の実際の位置決めのセンターポンチはバネ式のバチンとかやって打つやつで、しかも小学生の女の子の力だと結構大変そうで、頭を近づけたところで大きな音とともに跳ね返ってきたので、かなりびっくりしてました。ドリルでの穴あけは前回もやってもらったのでいいのですが、最初細いドリルで、段階を追ってM6まで開けてもらいました。太いドリルになるとちょっと怖そうにしてましたが、回転数を落とし、持ち方をしっかりしてもらうことで、基本全部自分で空けてもらいました。

MILTOLの台座の方は、タップ切りです。こちらもM5の下穴を開けて(これはバイスに固定できなかったので、私が手持ちで空けました)、そこにM6のタップでねじ山を切ります。最初大変そうなので私がやろうと思ってたら「やりたい」と言い出すので、どうぞどうぞと渡しました。垂直に立ててやるのはほぼ問題なし。タップを回すのが固いので少し躊躇してましたが「たまに戻しながらやるんだよ」というので、徐々に進んでいき、無事に下まで貫通しスルスル回るようになりました。戻すときに引っ掛けないように気をつけながらタップを外し、ネジがきちんと嵌ることを確認します。

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あまり写真を撮ってなかったのですが、
これはその中の数少ない一枚で、タップ切りの最中のものです。
塩ビ菅と、ファインダーの台座も少し見えますね。 

これで準備完了。アリガタをMILTOLの台座に、一つは1/4インチネジ、もう一つはM6ネジで固定します。最初の寸法採りが良かったのでしょう。特に修正することもなく、うまく取り付けることができました!


休憩

ここで一旦休憩。お腹が空いたみたいで、持ってきたお弁当を広げてます。宙のまにまにを持ってきたら、お弁当を食べながら夢中になって読んでました。宙のまにまには、天文ファンならご存知の方も多いと思います。高校の天文部の話で、基本ラブコメなのですが、星ネタが満載で、その中で使われた望遠鏡のモデルと言われているPENTAX75SDHFは一時期本気で欲しいと思っていました。

Mちゃんは、一度入り込むとほとんど周りの声が聞こえないみたいで、私もその間に自分のことをやってました。お弁当もそこそこに、1巻を読み終えたので「返してくれるなら持って帰っていいよ」と言っておいたのですが、コミックは鬼滅の刃全巻以降買わないとの約束があるらしいです。迷ってたみたいですが、判断は任せました。

私もお腹が空いてきて、カップ焼きそばを平らげてしまいました。


赤道儀

この時点でもう16時過ぎくらいでしょうか。次にやったことが赤道儀の動作確認です。赤道儀をプラスチックケースの中から出して、玄関で組み立ててみます。

まずは先ほどのMILTOLを赤道儀に取り付けてみます。ところがここで問題発生。赤道儀自身はVixenのSPなのですが、そこにアリガタを取り付けられるように、Vixenで売っているアリミゾを取り付けてあります。でも今回のアリガタが少し幅が狭かったようで、そのアリミゾについているネジが短すぎて届かず、固定できません。仕方ないのでM8の長めのキャップネジに付け替え、ついでに落下防止のねじ穴にM6のキャップネジをさしておきました。アリガタに切り欠きが入ってないので落下防止にはならないですが、普通のキャップネジを手で締めることになるので、もう一本ネジがあれば多少補助にはなるでしょう。

次に困ったのが、ウェイトでした。落下防止ネジがついてないのです。とりあえず手持ちの大きめのワッシャーとM8ネジで、簡易的な落下防止リングを作ることにしました。というのは、ワッシャーの穴がM6用でM8ネジが通らなかったので、穴を広げる加工が必要だったからです。はめてみると、手持ちのM8ネジだったので少し長くて取り付けが面倒とかありましたが、少なくともウェイトのネジが緩んでていても最後で止まって、落ちるようなことは無くなりました。

電池ボックスと、コントローラーをケーブルでモーターに繋げて動作確認をします。コントローラーのボタンを押すと、モーターシャフトは回っているので大丈夫そうです。が、そもそもモーターがー回っていても赤道儀が動いているかどうか分からなかったみたいです。そう、赤道儀はギヤ比がものすごく大きいので、本当に動いているかどうか分からないんですよね。まず、モーターをx32の高速回転をさせて、メモリ環のところをじっとみててもらい、やっと動いていることを確認してもらいました。次に等倍にして、カチカチ音が鳴っていることで、きちんと動いていることを実感してももらいました。


極軸の精度について

さて、この時点で18時前くらい。ここで空を見てみますが、まだまだ雲が厚く月は見えそうにもありません。ちょっと時間があるので、今回もう一つ理解して欲しかった、極軸についてです。

まず、赤緯については赤道儀に目盛りがついているので、富山なら36度から37度に合わせます。次に北向きですが、これをどう合わせればいいかあまりわかっていないみたいでした。方位磁針の磁北が、天の真北とずれるということは知っていました。調べてみると7度ほど「も」ずれていることが分かりました。7度が大きなズレということは実感しているみたいです。

ちなみに、iPhoneのコンパスは、表示を「磁北」か、補正した「真北」かを選べるので楽ですね。

基本的には北極星の位置に合わせればいいのですが、これも40分角くらいのズレがあるそうです。じゃあ、この40分のずれって、どれくらいのものなのでしょうか?これを理解してもらいたいのです。

基本は以前記事にも書いた

の話なのですが、これを小学生にもわかるように噛み砕きます。

  • まずは基本、もし赤道儀の赤経体の回転軸の向きが、極軸から1度上にずれていたら?
東の空を見たときに、星が進む方向に比べて、望遠鏡の視野は時間が経つと南側にずれていきます。これを天球を想像しながら手で指し示して理解してもらいます。なので、実際に望遠鏡をのぞいていると、星は左(北方向)にずれていきますね。

  • 次に、もし赤道儀の赤経体の回転軸の向きが、極軸から1度右(東方向)にずれていたら?
南の空を見たときに、星が進む方向に比べて、望遠鏡の視野は時間が経つと下(地上方向)側にずれていきます。これも天球を想像しながら手で指し示して理解してもらいます。実際に望遠鏡をのぞいていると、星は上にずれていきますね。

ここまではよく理解できたようでした。次はMちゃんへのクイズです。

  • もし赤道儀の赤経体の回転軸の向きが、極軸から1度東にずれていたら、東の空を見たときに、星が進む方向に比べて、望遠鏡の視野は時間が経つとどの方向にずれていくか?

これはひっかけ問題みたいで、なかなか難しいです。Mちゃん、しばらくの間ものすごく考えているみたいでした。でも結局超えたにはたどりつかづ「星と視野の動きは平行になるので動かない」と説明すると、なるほどと納得したようでした。やはりきちんと考えようと色々頭を使うと、答えを聞いたときもきちんと納得できるようです。


ずれを定量的に見積もって実感してみよう

少なくとも、極軸がある方向にずれると、視野から星がある方向にずれていくということは定性的には理解できたみたいです。じゃあ、実際どれくらいの極軸のずれで、どれくらい星が逃げていくのかという定量的な理解をして欲しいのです。

とりあえず、赤経体の軸が極軸から北に1度ずれているとしましょう。そうすると、実際の星と視野が1度の角度を持ってずれていくということはすぐに理解できました。1時間に星は15度進むということも当然知っていました。なので、半径15度で内角1度の扇型の弧の長さを求めればいいということはすぐに思いついたようです。とても勘のいい子です。

円周の長さを求めるのは学校で習ったはず。円をたどると1回転で360度ということも知っている。なのですぐに計算を始め出しました。でも半径なのに15「度」というのがややこしかったようです。「じゃあ、度じゃなくてm(メートル)」にしてしまったら?」というと、またすぐに計算が進み出し、答えが0.26メートルと出ました。今、メートルには意味はなく、度にすればいいので、答えは0.26度です。

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でもこの0.26度という大きさ自体の価値がよくわかりません。なので、今度はポルタで見ている視野角を求めてもらいました。ポルタの焦点距離は910mmです。面倒なので1000mmとしてしましましょう。ここに焦点距離10mmのアイピースをつけます。倍率は100倍です。この視野角はMちゃんも普段よくポルタを見ているので感覚的にわかります。

倍率が100倍というのを視野角に置き換えます。人間の目が顔の前面、すなわち180度を見ていると仮定します。倍率2倍はそれの半分、90度を見ることができます。倍率10倍は18度を見ることができます。ということは100倍というのは1.8度を見ることができると考えます。

面倒なので先の0.26度を0.25度、1.8度を1.75度として計算してみましょう。極軸1度のズレで、1.75度の視野に見える星が、1時間経つと0.25度ずれるので、0.25/1.75 = 1/7と、視野の7分の1ずれることになります。例えば極軸から5度ずれていたらそれの5倍なので、1時間で視野の7分の5がずれていき、最初に見ていた星のほとんどは逃げてしまいます。

ではここでさらに、赤道儀でなく経緯台で考えてみます。視野は1.75度と同じとして、経緯台でみた時は追いかけることも何もしないので、星のずれは天球の動きと同じ1時間で15度です。この時どれくらいの速さで星が視野から逃げていくかという問題です。1.75度は面倒なのでもう1.5度としてしまいましょう。すると、1.5/15=0.1時間、すなわち6分間で視野の端にあった星が反対側の視野にきてしまいます。経緯台をずっと使ってきたMちゃんにとってもこの「6分で視野から逃げていく」という計算結果は実感としてかなり納得だったみたいです。

途中、みんなでケーキを食べました。「自宅がケーキ屋さんだと食べ放題でいいね」とか、好き勝手なことを言ってましたが、太るので普段はほとんど食べないそうです。6年生だともうお年頃ですね。うちの家族は「おいしいおいしい」と言って、パクパク食べてました。楽しいひと時です。

さて結論としては、赤道儀の極軸合わせの精度は5度くらいずれても経緯台よりははるかに逃げていかないことがわかったので「赤道儀は北極星のある方向に適当にどんとおいてやればいいでしょう」ということになります。撮影をしない限り、眼視や電視観望ではこれで十分だと思います。

と、ここらへんの計算をかなり実感してもらって、今回わかったことを自分でノートにまとめてもらいました。私はその間に、天リフ中継を見る準備です。


天リフ中継

20時ちょうど、まだMちゃんはノートをまとめていたみたいですが、時間なので「始まるよー」と呼んで、しばらく出演者の写真を見ることに。Youtubeの映像を50インチのテレビに映し出して大画面で見ます。かずーさんの山の頂上へ登っていく光の列を見てMちゃんが「きれーい!」と感嘆の声をあげていました。

どうも写真も撮ってみたいようで、カメラのことを少し話しました。カメラは1台X5が余っているので、またそのうち貸してあげようと思います。しばらく中継を見ていたのですが、20時半過ぎくらいでしょうか、外を見ると雲が少なくなってきて少し月が出始めています。


月を見てみる

次の日は月曜で学校なので、あまり遅くなるのもよくありません。天リフの中継は後でも見えるからと、ぱっとここで切り替えて、せっかくなのでセットアップした赤道儀を試すことにしました。外に出た直後はまだ月に雲がかかって淡くしか見えてませんでした。時間もないのでCMOSカメラではなく、MILTOLにアイピースをつけての月の観望です。

まずは今回学んだように赤道儀を北向きにどんと置きます。次にクランプを緩めてある程度MILTOLを月の方向に向けます。今回はファインダーもついているので導入は比較的簡単です。モーターがきちんと回転することも確かめて、微調整をコントローラーで行います。途中「片方動かない!」とか叫んでましたが、ケーブルの差込みが不十分なだけでした。ここらへんもきちんと自分でチェックできるみたいです。

月が視野に入って、アイピースで見たときの一言目が「明るーい!」でした。10mmのアイピース なので、MILTOLだと20倍、小さいですが満月前なのでかなり明るく見えるはずです。あ、ピントを合わせるのに少し苦労しました。天頂プリズムは長すぎるし、アイピース だけだと短すぎます。なので、少しアイピースを抜き出すようにして固定してピントを出しました。

程なくしてお母さんの迎えの車が入ってきました。Mちゃん、早速お母さんに「見て見て!」と自慢げに覗いてもらっていました。21時過ぎ、赤道儀を全部最初にあったケースの中に入れ、MILTOLも箱にしまい、計算のメモなんかも全部後片付けをして、お土産の本(本?コミック?)を何冊か持っていって今日は終了です。とても楽しかったみたいで、何度もお礼を言ってくれました。「今度は月のない暗い時に銀河を見てみよう」と次回の約束をして、帰っていきました。

この日は午後から夜までずっとMちゃんに付き合ってたことになりますが、私自身とても楽しい時間でした。また遊びに来てくれるといいなぁ。