ほしぞloveログ

天体観測始めました。

タグ:自宅

富山の街中で観望会があり、できることなら天の川を見せたくて、広角の電視観望で見せることができないか、前日に自宅で練習してみました。


天の川のための広角電視観望

富山県主催のスターウォッチングがあるのですが、今回広角電視観望を使って天の川をお客さんに見せることができないか考えてみました。前日の夜に自宅で練習してみました。

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十分な広角なので、PCの画面を見ながらの手動での導入です。

試した機材のセットアップを詳しく書いておきます。
  • 望遠鏡代わりに1970年台の古いNIKKORレンズの35mm、F1.4、これを2.0に絞って使用しました。F1.4だと明るい星にハロが出てしまうので、1段だけ絞っています。これと、後述の光害防止フィルターでハロはほぼ抑えることができました。
  • カメラは広角狙いでASI294MCです。気軽に操作したいので冷却とかは無しです。ホットピクセルについてはSharpCapの「ダーク補正」の「Hot Pixel Removal Only」を選び、簡易補正で済ませます。
  • フィルターはQBP IIIを使用しました。天の川なので色再現はあまり意味がないですが、それでも色バランスが多少難しくなるQBP IIIで、天の川っぽい色にすることは十分に可能なようです。
  • 三脚は普通のカメラ三脚に自由雲台です。広角なので完全マニュアル導入。自動追尾も無しです。

結果としては下の画像のように天の川を十分に見ることができました。6.4秒露光で、ライブスタックで17枚加算。総露光は2分弱の109秒。この程度で天の川の形まではっきりとわかります。

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小さいですが、M8、M20、M17、M16などの星雲もハッキリと見えています。星雲でなく、普通の雲の流れも見えているので、多少雲があってもなんとかなりそうです。

ポイントは、これくらいの広角でもSharpCapのライブスタックが余裕で機能し、時間を追うごとに天の川がはっきりくっきり出てくるところです。ただし、それらしく見せるのは少しコツが必要そうです。メモ程度ですが書いておきます。
  • カラーバランスはオートだと少し赤が強過ぎたり、青が弱すぎたりします。ライブスタック時の右側のカラーバーで微調整するといいでしょう。
  • 明るさもかなり微調整が必要かと思います。特にオートストレッチの効きをよくするために、β版のSharpCap、バージョン4.1.10931を使い、「背景減算」を一番下の「低周波」か、一つ上の「非線形勾配除去」を使います。これで画面がフラット化されます。その上でライブスタック上でオートストレッチを使うとより淡い光量の差をあぶり出すことができます。それでもさらに微調整が必要で、少しだけ左2本の線の間隔を広げて、最後右パネルのヒストグラムで見た目でいいくらいに仕上げます。

上の通り、街の中心からは少し離れている自宅では天の川を余裕で出すことが出来ました。ちなみに、自宅がある場所では年数回透明度のすごくいい日に天の川が薄っすら見えることがあるくらいです。でもこの日はカスリもしないくらい、目では天の川は全く見えることはありませんでした。

ついでにもう一枚、屋根の横の北アメリカ星雲です。35mmの広角ならではで、自宅と星雲が同時に見え、リアルタイム観望感が味わえます、こういったのも電視観望の楽しみ方の一つかと思います。

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まとめ

広角電視観望で天の川を見ることを試してみました。画面にはっきり出すのは少しコツが必要そうですが、十分に見ることができるくらいにはなります。機材や設定値は一例ですが、まだいろんなパラメータを試すことができそうです。

さて自宅ではうまく出ましたが、これが市の中心街にかなり近い環水公園でどこまで見えるのか?それとも全く見えないのか?結果が楽しみです。

2023/5/17(水)、平日ですが新月間近で夜の天文薄明終了から、朝の開始まで6h23minの撮影時間。この時期にしては長い撮影時間となるので、平日で初めて2台展開してみました。

一台はSCA260でM104:ソンブレロ銀河と、もう一台はε130Dで前半おとめ座銀河団、後半網状星雲です。

焦点距離の短いε130Dにフルサイズカメラだとかなり広角になるので、銀河が中心の春だと少し厳いので広角でおとめ座銀河団、夏の星雲がメインになってくる夜中からは迷いましたが今回は淡いところがどこまで出るかみたいので、網状星雲としました。

今回とりあえずε130D網状星雲のみ画像処理をしました。


これまでの網状星雲と今回の目的

網状星雲ですが、これまでの実績では、FS-60CBにDBPをつけてEOS 6Dで自宅で撮影したものがもっともよく出たものです。
masterLight_ABE_ABE_Rhalo_PCC_ASx2_HT3_cut

中心の淡い線も多少出ていますが、フルサイズの画角が欲しくて、その場合6Dしかなかったので、カラーセンサーとなり、DBPを使ってもこれくらいがやっとでした。

この時「広角のナローは試すことはないだろう」とか言っていますが、わずか1年半で前言撤回となってしまいました...。

実際今回、ε130Dで口径が約2倍になって、ナローバンドになった場合、自宅撮影のフルサイズ広角でどこまで出るのかを見極めたいのです。


撮影

今回もAOO撮影になります。網状星雲としてはその後5/17(水)と5/17(水)に撮影を続けましたが、青のOIIIがどこまで出るかが勝負です。とくに中心の淡い線。これをもっと出したいのです。

まだ高度が低いうちにAフィルターで撮影し、後半より昇ってくるので次にBフィルターで撮影です。初日は前半はまだしも、後半は風がかなり強くなってきたので、午前3次で中断しました。あとから画像をチェックしましたが、一応ブレずに撮れているようです。CGEM IIに小型のε130Dであることと、焦点距離が短いのでブレが効きにくいのかと思いますが、多少の風には耐えられることがわかったのはいい指標でした。

まる2日同じような設定で撮影して、3日目の撮影前にこれまでの画像を改めてチェックしてみました。でもよくみると青い線が全く出てないのです。え???と思い、改めていろいろチェックしなおしたのですが、なんとここで間違えてBフィルターで撮影していたことにやっと気づきました。はい、RGBのBフィルターで撮影していたというわけです。フィルターホイールの各フィルターの名前付けでHαを「A」としたのですが、次は「B」と思い込んでしまったのです。OIIIフィルターは「O」と名付けたのですが、とても間違えやすいです。多分これからも何回かやらかす気がします。

OIIIが全く撮れていなかったことがわかったので、気を取り直して3日目はすべて「O」で撮影です。


問題点

3日間の撮影後、改めて画像を見比べてみると大きな問題があることがわかりました。炙り出すと1日目の画像のみ、中心が暗くなっているのです。よくみるとリング状の明るい部分もあるようです。下は初日にとったHα画像です。同日に(間違えて)撮影したB画像にも同様の明暗がありました。
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2日目のHα、B画像、3日目のOIIIの方はそのような現象は見ている限り確認できませんでした。

原因はおそらく迷光だと思います。時間帯によって部屋からなどの光が鏡筒付近当たったりすることがあるので、初日は自宅か、隣の家の窓が明るかったりしたのかと思います。屈折やSCA260などのこれまでの鏡筒と違い、カメラが鏡筒の先端近くに付いていることも周りの外光が入り込む原因かと思います。

フードを作ることが必須かと思います。とりあえず材料だけ揃えましたが、まだ製作まで手が回っていません。休日の時間がある時などに作りたいと思います。

あと、やはり四隅の星像が伸びます。特に下側が縦方向に伸びるのでスケアリングの可能性があることと、全体に外側に広がっている気がするのでバックフォーカスが問題かもしれません。

Image03_mosaic

これもBXTで劇的に改善するのは、前回の北アメリカ星雲と同じです。酷かった下側の縦方向の伸びなんかはほとんど目立たなくなります。

Image03_mosaic01

でもこのままだと流石にダメそうなので、次回晴れた日に光軸調整をすることにします。


ちょっとだけ光軸調整

実はこのブログを書いている今日(2023/5/31)ですが、晴れているので少しだけ星像を見ながら光軸を触ってみました。まずはカメラの回転角を90度とか180度とか変えてみたのですが、角度によってピントが合っている部分が変わるので、カメラが傾いている可能性が高そうです。副鏡と主鏡でこれを補正することはできるのか、スケアリングをいじる必要があるのか?今のCanon EFマウントアダプターを使っているとスケアリング調整はできないので、どこかのネジを緩めて何か薄いものを挟むなどの工夫が必要になるかもしれません。

その後、副鏡を少しだけ触ってみました。星像が多少良くなったりしますが、全部を合わせることは全然できなさそうです。自由度だけ見ても、副鏡、主鏡、バックフォーカス、スケアリングとかなりあります。いくつかは縮退していてもう少しいじるところは少ないでしょうが、夜に星像だけを見て闇雲に触るのは到底無理そうなのです。時間に余裕がある時にまずは明るいところで問題を切り分けながらじっくり試そうと思います。


AOO合成

テスト撮影ですが、せっかくなので仕上げてみます。

「網状星雲」
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  • 撮影日: 2023年5月16日2時14分-3時32分、5月17日2時1分-2時42分、5月17日0時12分-1時49分
  • 撮影場所: 富山県富山市自宅
  • 鏡筒: TAKAHASHI製 ε130D(f430mm、F3.3)
  • フィルター: Baader:Hα 6.5nm、OIII 10nm
  • 赤道儀: Celestron CGEM II
  • カメラ: ZWO ASI6200MM Pro (-10℃)
  • ガイド:  f50mmガイド鏡 + ASI290MM、PHD2によるマルチスターガイドでディザリング
  • 撮影: NINA、bin2、Gain 100、露光時間5分、Hα: 21枚、OIII: 19枚の計40枚で総露光時間3時間20分
  • Dark: Gain 100、露光時間5分、温度-10℃、118枚
  • Flat, Darkflat: Gain100、露光時間 Hα: 0.2秒、64枚、OIII: 0.2秒、64枚
  • 画像処理: PixInsight、Photoshop CC

今回の目的は自宅で網状星雲がどこまで出るかのテストなので、ギリギリまで淡いところを出してみました。一番上の去年の画像と比べてどうでしょうか?中心の青い縦線まではっきり出たのは成果の一つかと思います。また、本体周りの淡い赤も構造が見えているので、これもよしとしましょう。

今回は総露光時間が3時間強と大した長さでないのと、季節初めで撮影した時の高度も低いので、まだかなりノイジーです。今後高い位置で長時間露光すればもう少しマシになるでしょう。

実は網状星雲って、本体の外の左と右を比べると、右の方が一段暗くなっているようなのです。今回それがまだ全然表現できていません。これはもう少し露光時間を伸ばせば出てくるのか、それともただの勘違いなのか、いずれ答えは出るでしょう。

あと、迷光に起因すると思われる明暗が色ムラとして淡くあり、それも炙り出してしまっているので目立ってしまっています。ここも大きな課題の一つでしょうか。


まとめ

今回の新機材で、自宅撮影でも淡いところまで写す見込みはありそうなことはわかりました。フードと光軸調整をして、いつかそう遠くないうちに自宅スパゲティー星雲に挑戦したいです。

網状星雲としては一応作例として残しましたが、リベンジ案件です。できれば今シーズン中にもう一度撮影したいと思っています。



2022年の反省でも述べましたが、最近自分で考えることがあまりできてなかったので、今回の記事は久しぶりに計算です。内容は、撮影した画像にはどんなノイズが入っていて、それぞれどれくらいの割合になっているかを見積ってみたという話です。


動機

まずは動機です。1月に開田高原でM81を撮影した時に、M81本体に加えて背景のIFNが見えてきました。下は300秒露光を28枚撮影したL画像を強度にオートストレッチしています。
masterLight_BIN-2_4144x2822_EXPOSURE-300.00s_FILTER-L_mono

一方、2022年の5月にも自宅で同じM81を撮影しています。背景が埃とスカイノイズで淡いところがまってく出なかったので記事にしていないのですが、下は露光時間600秒を22枚撮影したL画像で、強度にオートストレッチして、かつできるだけ見やすいようにABEとDBEをかけてカブリを排除しています。開田高原の時よりもトータル露光時間は1.6倍ほど長く、被りを除去しても、淡い背景については上の画像には全く及びません。
masterLight_600_00s_FILTER_L_mono_integration_ABE_DBE3
明らかにスカイノイズの影響が大きいのですが、これを定量的に評価してみたくなったというものです。

もう一つの動機ですが、このブログでも電視観望について多くの記事を書いています。電視観望はリアルタイム性を求めることもあるので、露光時間を短くしてゲインを高く設定することが多いです。この設定が果たして理に適っているのかどうか、これも定量的に議論してみたいとずっと思っていました。


目的

これからする一連の議論の目的ですが、
  1. 画像に存在するどのノイズが支配的かを知ること。
  2. 信号がノイズと比較して、どの程度の割合で効くのかを示す。
  3. 電視観望で高いゲインが有利なことを示す。
を考えてたいと思っています。今回の記事はまずは1番です。こちらはスカイノイズをどう評価するかが鍵なのかと思っています。

2番は意外に難しそうです。信号である天体は恒星ならまだしも、広がっている天体の明るさの評価ってなかなか大変です。これは後回しにするかもしれません。

3番は長年の電視観望がなぜ短時間で天体を炙り出せるのかという疑問を、定量的に表す事ができたらと考えています。こちらは大体目処がついてきたので、近いうちに記事にするかと思います。


基本的なノイズ

天体画像撮影におけるノイズは5年くらい前にここで議論しています。SN比の式だけ抜き出してくると

S/N=ntSsigAnσ2+AntSsky+AntSdark+ntSsignS/N=ntSsigAnσ2+AntSsky+AntSdark+ntSsign
と書くことができます。ここで、
  • AA [pix] : 開口面積
  • nn : フレーム枚数
  • σσ [e-/pix] : 読み出しノイズ
  • tt [s] : 1フレームの積分(露光)時間
  • SskySsky  [e-/s/pix] : スカイバックグラウンド
  • SdarkSdark  [e-/s/pix] : 暗電流
  • SsigSsig  [e-/s] : 天体からの信号
となり、S/Nとしては何枚撮影したかのルートに比例する事がわかります。今回のノイズ源としては読み出しノイズ、スカイノイズ、ダークノイズを考えます。ショットノイズは天体などの信号があった場合に加わるノイズですが、今回は天体部分は無視し背景光のみを考えるため、天体からのショットノイズは無視することとします。

重要なことは、読み出しノイズは露光時間に関係なく出てくるために分母のルートの中にtがかかっていないことです。そのため、他のノイズは1枚あたりの露光時間を伸ばすとS/Nが上がりますが、読み出しノイズだけは1枚あたり露光時間を増やしてもS/Nが上がらないということを意識しておいた方がいいでしょう。その一方、撮影枚数を稼ぐことは全てのノイズに対してS/N改善につながり、読み出しノイズも含めて撮影枚数のルートでS/Nがよくなります。繰り返しになりますが、一枚あたりの露光時間を伸ばすのでは読み出しノイズだけは改善しないので、他のノイズに比べて効率が悪いということです。

分子にあたる天体信号の評価は意外に大変だったりするので、今回は分母のノイズのみを考えることにします。


パラメータ

上の式を元に、ここで考えるべきパラメータを固定しやすいもの順に書いておきます。
  1. カメラのゲイン(gain)
  2. 温度 (temperature)
  3. 1枚あたりの露光時間 (time)
  4. 空の明るさ
の4つで実際に撮影した画像の各種ノイズを推定できるはずです。少し詳しく書いておくと、
  • 1は撮影時のカメラの設定で決める値です。読み出しノイズ (read noise)を決定するパラメータです。
  • 2は撮影時のセンサーの温度で、冷却している場合はその冷却温度になります。単位は[℃]となります。この温度と次の露光時間からダークノイズを決定します。
  • 3は撮影時の画像1枚あたりの露光時間で、単位は秒 [s]。2の温度と共にダークノイズ (dark noise)を決定します。ダークノイズの単位は電荷/秒 [e/s]。これは[e/s/pixel]と書かれることもありますが、ここでは1ピクセルあたりのダークノイズを考えることにします。なお、ホットピクセルはダークノイズとは別と考え、今回は考慮しないこととします。ホットピクセルは一般的にはダーク補正で除去できる。
  • 4は撮影場所に大きく依存します。今回は実際に撮影した画像から明るさを測定することにします。単位は [ADU]で、ここからスカイノイズを推測します。ちなみに、3の露光時間も空の明るさに関係していて、長く撮影すれば明るく写り、スカイノイズも増えることになります。

実際のパラーメータですが、今回の記事ではまずはいつも使っている典型的な例で試しに見積もってみます。私はカメラは主にASI294MM Proを使っていて、最近の撮影ではほとんど以下の値を使っています。
  1. 120
  2. -10℃
  3. 300秒
これらの値と実際の画像から背景光を見積もり、各種ノイズを求めることにします。


読み出しノイズ

読み出しノイズはカメラのゲインから決まります。ZWOのASI294MM Proのページを見てみると、


真ん中の少し手前あたりにグラフがいくつか示してあります。各グラフの詳しい説明は、必要ならば以前の記事



をお読みください。上の記事でもあるように、カメラの各種特性はSharpCapを使うと自分で測定する事ができます。実測値はメーカーの値とかなり近いものが得られます。

グラフから読み出しノイズを読み取ります。gain 120の場合おおよそ

1.8 [e rms]

ということがわかります。rmsはroot mean sqareの意味で日本語だと実効値、時系列の波形の面積を積分したようなものになります。例えば片側振幅1のサイン波なら1/√2で約0.7になります。他のノイズも実効値と考えればいいはずなので、ここではrmsはあえて書かなくて

1.8 [e]

としていいでしょう。

読み出しノイズは、実際の測定では真っ暗にして最短露光時間で撮影したバイアスフレームのノイズの実測値に一致します。以前測定した結果があるので、興味のある方はこちらをご覧ください。



ダークノイズ

ダークノイズの元になる暗電流に関しては温度と1枚あたりの露光時間が決まってしまえば一意に決まってしまい、これもZWOのASI294MM Proのページから読み取ることができます。

私はこの値を実測したことはないのですが、そーなのかーさんなどがSV405CCですが同系のIMX294センサーで実測していて、メーカー値とほぼ同じような結果を得ています。

グラフから温度-10℃のところの値を読み取ると暗電流は

0.007 [e/s/pixel]

となるので、1枚あたりの露光時間300秒をかけると

2.1 [e/pix]

となります。/pixはピクセルあたりという意味なので、ここは略してしまって

2.1[e]

としてしまえばいいでしょう。単位[e]で考えた時に、暗電流のルートがダークノイズになるので、

sqrt(2.1)=1.5[e]

がダークノイズとなります。

(追記: 2023//4/19) ちょっと脱線ですが、だいこもんさんのブログを読んでいると、2019年末の記事に「dark currentはgain(dB)に依存しないのか?」という疑問が書かれています。答えだけ言うと、[e]で見ている限り横軸のゲインに依存しないというのが正しいです。もしダークカレント、もしくはダークノイズを[ADU]で見ると、元々あったノイズがアンプで増幅されると言うことなので、単純に考えて横軸のゲイン倍されたものになります。実際の画面でも横軸ゲインが高いほど多くのダークノイズが見られるでしょう。でも、コンバージョンファクターをかけて[ADU]から[e]に変換する際に、コンバージョンファクターが横軸のゲイン分の1に比例しているので、積はゲインによらずに一定になるということです。

ちなみに、ホットピクセルはダーク補正で取り除かれるべきもので、ここで議論しているダークノイズとは別物ということを補足しておきたいと思います。

(さらに追記:2023/10/15)
ダークファイルを撮影したので、実際のダークノイズを測定してみました。画像からのノイズの読み取り値は2.6 [ADU]でした。コンバージョンファクターで単位を[e]にすると、2.6x0.9 = 2.3 [e]。ここから読み出しノイズを引いてやると、2乗の差のルートであることにちゅいして、sqrt(2.3^2-1.8^2) = 1.5 [e] と見積り値に一致します。このように、見積もりと実測が、かなりの精度で一致することがわかります。


スカイノイズ

ここが今回の記事の最大のポイントです。読み出しノイズとダークノイズだけならグラフを使えばすぐに求まりますが、恐らくスカイノイズの評価が難しかったので、これまでほとんど実画像に対してノイズ源の評価がなされてこなかったのではないでしょうか?ここでは実画像の背景部の明るさからスカイノイズを推測することにします。

まず、明るさとノイズの関係ですが、ここではコンバージョンファクターを使います。コンバージョンファクターはカメラのデータとして載っています。例えばASI294MM Proでは先ほどのZWOのページにいくと縦軸「gain(e/ADC)」というところにあたります。コンバージョンファクターの詳しい説明は先ほど紹介した過去記事を読んでみてください。コンバージョンファクターは他に「ゲイン」とか「システムゲイン」などとも呼ばれたりするようです。名前はまあどうでもいいのですが、ここではこの値がどのようにして求められるかを理解すると、なぜスカイノイズに応用できるか理解してもらえるのかと思います。

コンバージョンファクターの求め方の証明は過去記事の最後に書いてあるので、そこに譲るとして、重要なことは、画像の明るさSとノイズNは次のような関係にあり、
(N[ADU])2=S[ADU]fc[e/ADU](N[ADU])2=S[ADU]fc[e/ADU]明るさとノイズの二つを結ぶのがコンバージョンファクターfcとなるということです。逆にいうと、このコンバージョンファクターを知っていれば、明るさからノイズの評価が共にADU単位で可能になります。

もっと具体的にいうと、コンバージョンファクターがわかっていると、スカイノイズが支配していると思われる背景部分の明るさを画像から読み取ることで、スカイノイズを直接計算できるということです。これは結構凄いことだと思いませんか?


実際のスカイノイズの見積もり

それでは実画像からスカイノイズを見積もってみましょう。最初に示した2枚のM81の画像のうち、上の開田高原で撮影した画像の元の1枚撮りのRAW画像を使ってみます。

上の画像は既にオートストレッチしてあるので明るく見えますが、ストレッチ前の実際のRAW画像はもっと暗く見えます。明るさ測定はPixInsight (PI)を使います。PIには画像を解析するツールが豊富で、今回はImageInspectionのうち「Statistics」を使います。まず画像の中の暗く背景と思われる部分(恒星なども含まれないように)をPreviewで選び、StatisticsでそのPreviewを選択します。その際注意することは、カメラのADCのbit深度に応じてStatisticsでの単位を正しく選ぶことです。今回使ったカメラはASI294MM Proなので14bitを選択します。輝度の値は「mean」を見ればいいでしょう。ここでは背景と思われる場所の明るさは約920 [ADU]と読み取ることができました。ついでに同じStatisticsツールのノイズの値avgDevをみると17.8 [ADU]と読み取ることが出来ました。

もっと簡単には、画像上でマウスを左クリックするとさまざまな値が出てきますので、その中のKの値を読み取っても構いません。ここでも同様に、単位を「Integer Renge」で手持ちのカメラに合わせて「14bit」などにすることに注意です。

いずれのツールを使っても、背景と思われる場所の明るさは約920[ADU]と読み取ることができました。

前節の式から、輝度をコンバージョンファクターで割ったものがノイズの2乗になることがわかります。gain120の時のコンバージョンファクターはグラフから読み取ると0.90程度となります。

これらのことから、背景に相当する部分のノイズは以下のように計算でき、

sqrt(920/0.90) = 32.0 [ADU] -> 28.8 [e]

となります。どうやら他の読み出しノイズやダークノイズより10倍程大きいことになります。あれ?でもこれだとちょっと大きすぎる気がします。しかも先ほどのStatisticsツールでの画面を直接見たノイズ17.8[ADU]をコンバージョンファクターを使って変換した

17.8 [ADU] x 0.90 [e/ADU] = 16.0 [e]

よりはるかに大きいです。これだと矛盾してしまうので何か見落としているようです。

計算をじっくり見直してみると、どうやら測定した輝度は「背景光」とオフセットの和になっているのに気づきました。撮影時のオフセットとして40を加えてありますが、この値に16をかけた640がADUで数えたオフセット量として加わっているはずです。実際のマスターバイアス画像を測定してみると、輝度として平均で約640 [ADU]のオフセットがあることがわかったので、これは撮影時に設定したものとぴったりです。この値をを920 [ADU]から引いて、280 [ADU]を背景光の貢献分とします。その背景光からのスカイノイズ成分は

sqrt(280/0.90) = 17.6 [ADU]


これを[ADU]から[e]に変換するためにさらにコンバージョンファクター[e/ADU]をかけて

17.6 [ADU] x 0.90 [e/ADU] = 15.9 [e]

となります。これだと画面からの実測値16.0[e]と少なくとも矛盾はしませんが、既に実測のトータルノイズにかなり近い値が出てしまっています。果たしてこれでいいのでしょうか?


各ノイズの貢献度合い

次にこれまで結果から、各ノイズの貢献度を見ていき、トータルノイズがどれくらいになるのかを計算します。

画像1枚あたりの背景に当たる部分の各ノイズの貢献度は多い順に
  1. スカイノイズ: 15.9[e]
  2. 読み出しノイズ: 1.8 [e]
  3. ダークノイズ: 1.5[e]
となります。Statisticsツールで測定した実際の1枚画像の背景のノイズの実測値は14.9[e]程度だったので、上の3つのノイズがランダムだとして2乗和のルートをとると、

sqrt(15.9^2+1.8^2+1.5^2) = 16.0 [e]

となり、実測の16.0[e]になる事がわかります。スカイノイズに比べてトータルノイズがほとんど増えていないので、読み出しノイズとダークノイズがほとんど影響していないじゃないかと思う方もいるかもしれません。ですが、互いに無相関なノイズは統計上は2乗和のルートになるので本当にこの程度しか貢献せず、実際にはスカイノイズが支配的な成分となっています。

ここまでの結果で、今回のスカイノイズ成分の推定は、定量的にも実画像からの測定結果とほぼ矛盾ないことがわかります。この評価は結構衝撃的で、暗いと思われた開田高原でさえスカイノイズが圧倒的だという事がわかります。


富山の明るい空

ちなみに、最初の2枚の画像のうち、下のものは自宅で撮影したM81です。富山の明るい北の空ということもあり、そのRAW画像のうちの最も暗い1枚(2022/5/31/22:48)でさえ、背景の明るさの読み取り値はなんと3200[ADU]程度にもなります。バイアス640を引くと2560[ADU]で、開田高原の背景光の値240に比べ約10倍明るく、ノイズは

sqrt(2560/0.90) = 53.3 [ADU] -> 48.0 [e]

となります。実際の画像からPIのStatisticsで読み取ったトータルノイズの値が53.4[ADU]->48.1[e]でした。

スカイノイズ48.0[e]に、読み出しノイズ1.8 [e] 、ダークノイズ1.5[e]を2乗和のルートで考えるとトータルノイズは

sqrt(45.0^2+1.8^2+1.5^2) = 48.1 [e]

となり、明るい画像でも背景光の輝度から推測したノイズをもとに計算したトータルノイズ値と、画面から実測したノイズ値が見事に一致します。

開田高原の暗い画像でさえスカイノイズが支配的でしたが、富山の明るい空ではスカイノイズが読み出しノイズ、ダークノイズに比べて遥かに支配的な状況になります。淡いところが出なかったことも納得の結果です。

うーん、でもこんなスカイノイズが大きい状況なら
  • もっと露光時間を短くして読み出しノイズを大きくしても影響ないはずだし、
  • 冷却温度ももっと上げてダークノイズが大きくなっても全然いいのでは
と思ってしまいます。でもそこはちょっと冷静になって考えます。早急な結論は禁物です。次回の記事では、そこらへんのパラメータをいじったらどうなるかなどに言及してみたいと思います。


まとめ

背景の明るさとコンバージョンファクターから、スカイノイズを見積もるという手法を考えてみました。実際の撮影画像のノイズ成分をなかなか個別に考えられなかったのは、スカイノイズの評価が難しいからだったのではないかと思います。

今回の手法は背景の明るさが支配的と思われる部分がある限り(天体写真のほとんどのケースは該当すると思われます)スカイノイズを見積もる事ができ、状況が一変するのではと思います。また手法も輝度を測るだけと簡単なので、応用範囲も広いかと思われます。

今回の手法を適用してみた結果、実際に遠征した開田高原のそこそこ暗い空で撮影した画像でさえもスカイノイズが支配的になる事がわかりました。もっと暗い状況を求めるべきなのか?それとも露光時間を短くしたり、温度を上げてしまってもいいのか?今後議論していきたいと思います。

とりあえず思いつくアイデアをばっとまとめてみましたが、もしかしたら何か大きな勘違いなどあるかもしれません。何か気づいたことがありましたらコメントなどいただけるとありがたいです。


この記事の続き



になります。露光時間と温度について、実際の撮影においてどの程度にすればいいか評価しています。








もう小海の星フェスの前のことになってしまいますが、11月8日の皆既日食で撮影した画像処理を進めています。これから数回に分けて、月食関連の記事を書いていきます。

今回はどういう方針かと、リハーサルの様子などです。


今回の方針

今回の皆既月食はかなり気合が入っていました。本番は11月8日ですが、その前の5日の土曜からいろいろ準備開始です。

前回の限りなく皆既に近い月食の時の撮影の反省から、いくつか方針を立てます。



前回のブログを読み直すなどして、今回の皆既月食で達成したい大きな目標を3つ立てました。
  • 一つのカメラで一つの設定だけだと、満月時と皆既時で輝度差がありすぎるので、写す時は毎回露光時間と輝度を変えて複数枚撮影すること。
  • 太陽時で撮影し、後から月の位置をずらすことなく、何枚か重ねて、地球の影を出すこと。
  • 天王星食を動画で撮影すること。
です。

具体的な撮影機材のセットアップは4種類考えます。
  1. 固定三脚の短焦点距離のカメラレンズで広角で、1分ごとに撮影し、月食の初めから終わりまでの全景を。
  2. FS-60CB+ASI294MCで赤道儀の同期レートを太陽時に合わせて、月が画面内で移動していく様子を撮り、あとで影で地球の形を出すもの。
  3. TSA120+ASI294MC Pro(常温)で、タイミング、位置など、被強に応じて自由に撮影するもの。
  4. 天王星食を拡大で撮影するもの。
としました。

これらを実現するために、当日までにリハーサルで特にやっておくことは、
  1. 1分の撮影に2つの設定(露光時間とゲインを自由に変えること)ができるかどうか試すこと。
  2. 満月の時の露光時間とゲインを各機器で確かめておくこと。
としました。


1つのカメラに、2つの設定での撮影テスト

特に1の、一つのカメラで複数の設定を切り替えながら繰り返し撮影というのはこれまでやったことがないので、本当にできるかどうかよくわかっていません。

試したソフトは4種。
  1. FireCapture
  2. NINA
  3. SharpCap
  4. BackYard EOS
実際に試してみて、これらのソフトの中でCMOSカメラと一眼レフカメラ両方に対応しているのは2と3ということがわかりました。さらに試していくと、例えば1分で2回、30秒ごとに設定を変えるようなことを繰り返し撮影できるのも2と3のみのようです。NINAはアドバンスド・シーケンス、SharpCapはシーケンサーというちょっと複雑なスクリプトようなものを使うと、設定を変えながら繰り返し撮影できるようです。

どちらでもよかったのですが、NINAで6Dを繋いで撮影したことがほとんどないことと、ガイドを使う必要はないので、今回はSharpCapを使うことにしました。実はNINAの方が「月の照度」というパラメータがあり、明るさがあるところになると条件を変えるというようなことができるようなのですが、複雑になりすぎるのと、当日は天気が良くないことが予想されたので、SharpCapで十分だったように思います。

SharpCapのシーケンサーはかなり直感的でわかりやすく、CMOSカメラの場合動画で撮影したいので
  1. 「Repeat」の中に
  2. 露光時間設定、ゲイン設定、キャプチャ開始、ウェイト、キャプチャ停止、ウェイト
  3. を露光時間とゲインを変えて2回書き
  4. ウェイトを含めた一回のループの時間を1分間になるように設定し、
  5. トータルの回数を4時間分の240回にする
というような設定になります。部屋の中で試しながら、色々スクリプトを書き換えて、上記の状態に行きつきました。保存ファイルは.ser形式になりますが、一つ一つのファイルサイズが大きくなりすぎないように、5秒間だけ撮影することにしました。それでも1つ800MB程で、4時間で240枚x2(30秒ごとなので1分で2枚)で約500個のファイルができることになり、トータル約400GB!となる予定です。

SharpCapのシーケンサーの設定はCMOSカメラの方が遥かに楽でした。一眼レフカメラの場合は静止画撮影になるので、「Still Mode」にして、キャプチャ開始とかではなく、1静止画をキャプチャとかになります。難しいのは、PCとカメラの接続がUSB2で転送が遅く、しかもそのダウンロード時間がばらつくので、1分間ごとのループにならないことです。そのため、ストップウォッチで計測しながら1分間になるようにウェイトを調整します。これも後から気づいたのですが、NINAのアドバンスド・シーケンスにはループする時間を直接指定できるコマンドがあるようです。次回からはもしかしたらNINAを使うかもしれません。でもNINAって大原則DSOが対象なんですよね。msオーダーの極短時間露光の月とかでもうまくいくのかどうかはきちんとテストする必要があるかと思います。

とにかくこのようにすることで、CMOSカメラも、一眼レフカメラも、30秒ごとに
  • ゲインが低く露光時間が短い満月用の設定
  • 皆既時用のゲインが高く露光時間が長い設定
の2種類を一つのカメラで撮影することができます。頑張れば20秒ごとに3種類の撮影もできますが、撮影後のファイルの数と容量ともに膨大になるので、2つの設定に抑えたほうがよさそうです。


明るさの設定

次に暗くなってからの調整です。こちらは実際には月食前日の月曜に行いました。満月に近い月齢13日のかなり明るい月が出ているので、露光時間とゲインをその月の明るさに合わせます。

問題は皆既時の明るさの設定です。これまでの月食の経験から、露光時間とゲインをかけた明るさの比が100倍(TSA120+ASI294MC)、400倍(FS-60CB+ASI294MC)、1600倍(35mmレンズ+EOS 6D)とかになるように設定しました。明るさの比にかなりばらつきがありますが、TSA120は自由撮影機なのであとから変更することもあり、かなり仮の設定です。

重要なことは、サチると何も情報は残りませんが、暗い分には画像処理で持ち上げることで十分な明るさにすることができると考え、少し暗めの設定にしておきました。この判断は正しかったようで、実際に撮れた画像は最初思ったより暗いと感じたのですが、DSOの時の炙り出しに比べたら全然大したことなく、十分すぎる情報があるので、どの設定も最終的には全く問題がなかったです。ただし、暗いと背景がノイジーになることがあるので、そこは画像処理時に適したレベル補正や、もしくはノイズ処理が必要になる場合がありました。


当日の撮影

前日までの予報では、日本海側の天気はかなり絶望的でした。もうあきらめるか、一時期は休暇を取って太平洋側に行こうかと思っていました。でも当日になり、夕方くらいから晴れそうな予報に変わってきたので、結局自宅で撮影することにしました。

雲が出るなどの、天気によっては連続撮影は意味が無くなってしまうので、様子を見ながらのセットアップになります。最初は天気が悪くても雲間からでも狙えるように、自由撮影のTSA-120とASI294MCをセットしました。途中からどんどん雲も少なくなってきたので、次に広角35mmとフルサイズのEOS 6Dを置き、さらに太陽時に合わせて連続撮影で写すFS-60CB+ASI294MCもセットします。

暗くなりかけてきたところでまずはFS-60CBの方から、ガイド鏡を仮載せしてSharpCapで赤道儀の極軸を取ります。でも雲がまだ北の空にそこそこ残っているので、雲が薄くなっているところを狙います。今回は赤道儀の精度が肝なので、Excellentがでる30秒角を切るくらいまで合わせこみます。

IMG_7046

18時には撮影を開始したかったのですが、最初の頃は雲が多くてかなり戸惑っていたため、実際に撮れた画像の時刻を確認してみると、35mmの方が部分月食開始の18時7分から、FS-60CBの方が部分日食開始が過ぎた18時13分からになってしまいました。

FS-60CBの連続撮影を開始し、ついでにTSA-120の極軸とりと連続撮影も開始したらやっと少し余裕が出て、最後にCGX-LにVISACを載せてUranus-Cを付けたものをセットアプしました。天王星食の拡大撮影用です。でもこれ、後で詳しく書きますが結局失敗でした。

途中、お隣のご夫婦がきて、一緒に月食をみました。撮影の面倒を見ていたのであまりお世話ができなくて申し訳なかったのですが、それでも双眼鏡を出してみてもらったりしました。今回は皆既の時間がかなり長かったので、そこまで焦らずに見ることができたと思います。


撮影結果は次の記事から

次の記事から、セットアップの詳細と結果を順に書いていきます。ファイルを見たら全部で900GB近くあったので、まだ処理をしている最中です。

とりあえず今回の記事では撮影の最中に、iPhoneでSharpCapの画面を撮ったものだけ載せておきます。

IMG_7044
FS-60CBで連続撮影をしている画面です。
欠け始めていて、雲がまだ多いのがわかります。
シーケンサーが走っているのが分かると思います。

IMG_7047
皆既に入って間も無くくらいの時です。
TSA-120での撮影です。右上が明るいです。

IMG_7049
天王星が認識できたところです。TSA-120で拡大して写しています。  

IMG_7053
VISACでの撮影です。天王星が出てくるところです。

最後の写真ですが、月食も終わりの頃でFS-60CBで露光を変えて2種類撮っているところです。
IMG_7055

IMG_7056
最初は画面左下から始まった月の位置も、月食が終わる頃には真ん中のかなり上まで移動してきました。太陽時に合わせてあるので、地球の影が固定されているはずで、その影を映すスクリーンのように月が動いていく様子を見ることができました。

さて、次の記事からは実際に撮影した画像を載せていきます。


 
 
 
 
 
 
 
 


小海の「星と自然のフェスタ」のレポート、2日目後半までの途中ですが、今回は番外編です。星フェスで出会った、富山の近くに住むご家族が二組、自宅に遊びに来てくれました。

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なぜ集まることになったのか

元々の経緯は書き出すとものすごく長くなりそうなので、できるだけ簡潔に書きます。

そもそもの発端は、富山市天文台が2018年の長雨による遊歩道陥没の後に長期休暇となり、2021年3月に正式に閉館となったことにあります。 教育県を標榜する富山に、天文教育に有用な施設がなくなるということは非常に寂しいことです。私が所属する富山県天文学会は、富山市に天文台の早期再設置を願い、活動を続けています。その一環として、天文台候補地の地元の方に星の魅力を伝える説明会を開きました。その際、明るい街中でも星雲、星団、銀河などを観察する手段の一つとして電視観望を紹介させて頂きました。その時に取材に来ていた富山テレビの方から、ちょうど小海の星フェスの前くらいに一度電視観望を実演してもらえないかという依頼があり、その日をいつにするか模索していました。星フェスに来てもらうことも提案したのですが富山県外でさすがに遠いということで、では自宅でではということになったのですが、天気が不安定でなかなか日程が決まりません。

そんな折、小海の星フェスで電視観望講演に参加してくれた方のうちお二方が、富山の近くに住んでいることがわかり、電視観望会のお声掛けしたのですが、ちょうど取材もあるのでその際に一緒に見ていただくのはどうでしょうという話になりました。

何度かの日程調整の後、次週は全く天気がダメそうなので、週末金曜にもしかしたら夜半から曇るかもしれないという覚悟の上で、前日の木曜に日にちを11月18日の金曜と決定し、集まる予定の皆さんに連絡しました。局の撮影の都合や、ご家族の都合もある中、急な決定にも対応して頂いてどうもありがとうございました。


富山テレビの方に電視観望を見せる

さて当日の夕方、18時頃に玄関チャイムが鳴り富山テレビのスタッフの方がいらっしゃいました。取材の方は放送を見てもらうとしてここでは詳しく書きませんが、電視観望を一通りデモして見てもらいました。カメラマンの方は小さい頃ミザールの赤道儀まで持っていたということで、かつては天文少年だったようです。久しく星には関わっていなかったとのことですが、今は映像関係の仕事ということもあり、CMOSカメラとかにもかなり興味津々で、富山の田舎とはいえこの明るい住宅街の中で口径わずか3cmの望遠鏡と言えるかどうかもわからないくらいの小さな機材で、星雲などが見えてくる様子には相当驚いているようでした。多分同世代くらいの方で銀河鉄道999のこともあると思いますが、「アンドロメダ『星雲』も見えますか?」といっていたのが印象的で、ちょうど小海で撮った画像と、実際その場で電視観望で見たアンドロメダ『銀河』にかなりインパクトを受けたようです。

もっと面白かったのがスタッフとして一緒に来ていた若い女性の方で、そもそも望遠鏡を覗いたこともないそうです。それではと、いつものSCORPTECHの二つ穴ファインダーの屈折を出して「あの明るいのが木星です。自分で操作して入れてみてください。」と試してもらいました。実際には木星は少しずれていて入らなくて、最後私が導入して見てもらったのですが、何度か見たのちに衛星や縞もわかったようでもう大騒ぎです。

さらに次はかなり低くなっている土星を導入してもらいました。今度は自分で入れることができ、土星と認識できた時の騒ぎ様のすごいこと。もう「キャー」とか言いながら大はしゃぎです。やっぱり自分で操作する望遠鏡って楽しいんですよね。自分で導入して、初めて土星の輪が見えた日には、叫びたくなるのもわかる気がします。これって子供も大人も同じなんだと思います。なんか取材のことはもう忘れていて、その姿を見てるだけで来てもらった甲斐があったなーと思ってしまいました。


Oさん一家

ちょうど土星を見ていた19時半頃でしょうか、一組目のご家族が到着です。お隣の石川県の内灘からやってきたOさん一家。小学5年生の男の子と、そのご両親です。この子、会場で会った時からかなりの天文っ子ということは薄々わかっていましたが、いろいろ話してみるとかなりの子です。興味も知識もハンパではありません。私の星友の一人、中1のMちゃんと会わせてみたいです。どんな会話になるのか興味津々です。

話を聞いていると、どうもお父さんとお母さんのほうが子供に刺激されたようで、星を家族で初めて2年になるそうですが、すでにAP赤道儀はあるし、VixenのED鏡筒はあるし、FMA180とNeptune II-CをAZ-GTiに載せているしで、もう立派な沼の住人です。この日も機材をどんどんセットアップしていきます。北陸唯一の天文ショップUCトレードが近いので、機材はそこでいろいろ相談しているとのことです。

お父さんは電視観望に興味があり、これまでなかなかうまくいかなくて、星ナビを見て小海星フェスのことを知り、講演を聞きに来てくれたとのことです。そこでカメラのゲインを相当高くしていいこと、ヒストグラムを見てのあぶり出が大切なことを理解し、小海から帰ってから自分で試してみたら見事にうまくいったとのことです。Twitterには早速月曜にカリフォルニア星雲、前日の木曜には馬頭星雲と燃える木の電視観望がうまくいっている投稿がされていました。この日もオリオン大星雲や馬頭星雲などうまく出せていました。ここまで出るのなら、もう一人でどんどん試しいけば大丈夫なくらいかと思います。

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O一家のお父さんがFMA180とNeptune II-Cで見事に馬頭星雲ゲットです。


Eさん一家

滑川からEさん一家が程なく到着。小学3年生の男の子と、お父さん、お母さんです。でも3年生には夜は少し厳しいかもしれません。到着するちょっと前に車で寝てしまったみたいで、外に出てきはしましたが、キャンプ用の椅子ですぐに寝てしまいました。寒そうだったので寝袋を出したのですが、寝袋の中は心地良かったのか、そのままぐっすり寝ていました。

Eさんのところはお父さんの方が星に夢中なようです。持っているのは入門用の池田レンズ工業のリゲル60Dなのですが、実際に持ってきてもらってそこにカメラをつけてもらおうと思っていました。惜しむらくは接岸部が1インチの25.4mmなので、今のアメリカンサイズが取り付けられないのです。これは私も確認ミスでした。アメリカンサイズから1インチの変換アダプターは自宅にあるのですが、逆は残念ながら持っていません。ネットなどで調べて次の機材を考えているとのことですが、お母さんの方からなかなか許可が出ないようで、やりとりを見てると楽しかったです。

話しているとお母さんは、そこまで星には興味がないごくごく一般の感覚の方のようです。せっかくなのでいつものクイズを出してみました。太陽はどちらから昇るかというやつです。これはすぐに東からと答えられたのですが、月がどちらから昇ってくるのかというのにはさすがにパッと答えることができません。あ、でもOさんのところの5年生の子はすぐにボソッと「東から」と出てくるので、この子はさすがです。お母さんに太陽が昇る理由(地球が自転しているから)を考えてもらい、月も同様に回っていることを理解してもらおうとしました。でも月がそもそも夜空を動いていることを知らなかったようなのです。そういえば観望会に来るような人はそもそも星が好きな人が多いのです。本当に一般の感覚に近い方はなかなか手強いです。ここからは私も本気になります。

まずやはり月も空を動いていくことから理解してもらわなくてはいけません。
  • 太陽と月はちょうど反対の位置にいると仮定して、
  • 太陽が昇って昼になるので、
  • 月が昇ると夜になるということ
からゆっくり理解してもらいました。すると
  • 月が動くこと、
  • 動くのは地球が回っているから、
  • そうすると東から昇るということ
を理解してくれました。ここからは早くて、
  • 星が東から昇ること、
  • 中には昇ったりしなくて動かない星があること、
  • それが北極星で、
  • さらに地球の回転軸の延長上に北極星が、
  • しかも南側にも動かない星があるはずのこと
までトントン拍子で理解していきました。お母さん十分センスがあります。

知識として覚えただけのことはすぐに忘れてしまいますが、自分でしっかり考えたことはなかなか忘れることがありません。たとえ忘れてしまっても、最初から考え直すこともできます。お母さん、少し自信がついたようで「子供にも教えることができる」とのことでした。他の人に説明することで、どこがあまりわかっていないのかとか自覚できるので、さらに理解が進むんですよね。

後日メールをいただきましたが、今回お母さんの方がすごく勉強になったとのことでした。私も本気モードの説明で、実はこのやりとりが一番楽しかったりしました。

お父さんの方はというと、単身赴任での引っ越しが決まっているそうです。行き先は三重とのこと。三重といえばアイベルです。いい機材が見つかることと思います。


電視観望

元々の目的は、Oさんも、Eさんも小海の講演を聞きにきてくれていて、せっかくなのでもう少し自宅でいろいろ試してみましょうということでした。せっかくなので、講演の内容がうまく伝わったかも聞いてみました。実際話もよくわかって、かなりいろいろ参考になったとのこと。サイトロンブースでの実演を見ることで、さらに理解が深まったとのことでした。やはり話だけでなく、その日の天気にもよってしまうのですが、実際に操作しているところも見てもらうのがいいと改めて実感しました。

さて、この日の電視観望はというと、実はそんなに種類は見ていません。M57、M27、M31、北アメリカ星雲、網状星雲、三日月星雲くらいだったでしょうか。むしろみんな話に夢中だった感じでした。楽しかったですよ〜。

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Oさんの所が「メシエ天体&NGC天体ビジュアルガイド」を持ってきていて、画面で見えている天体と本に載っている天体をみんなで比べて見てました。本に載っているのがそのまま見えるのが楽しいのと、カメラの回転角が違うので本を傾けて見たりと、本当に楽しかったです。

OさんのところはSuper Widebino36を持ってきていて、私も星座ビノをいくつか出して、見比べてもらいました。すばるが高く上がっていて、星座ビノでみると「星がいくつも見えるー!」と誰かが叫んでいました。アンドロメダ銀河は私はちょっと探してわかりましたが、実はこの日は透明度があまり良くなく、ほとんどの人が見つけられなかったようです。夏の大三角はみえますが、白鳥の形はほとんどわからないか、形を知っていればかろうじてわかるくらいでした。


曇ってきた...

22時頃でしょうか、雲がだんだん出てきました。家に入ってもらい、少し機材を見てもらいました。まずは玄関に出しっぱなしにしてあるセレストロン赤道儀3兄弟(Acvanced VX、CGEM II、CGX-L)を見て、Oさん息子が大興奮。私の部屋では鏡筒とかカメラとか、二階に上がって雑誌コレクションとかみて盛り上がりました。

22時半頃でしょうか、外に出ると空はすっかり雲に覆われています。子供たちもさすがに眠そうです。後片付けをしてここで解散、お別れです。楽しかったのでまた遊びにきて欲しいです。おみやげにEさんからシャトレーゼの濃厚たまごプリン、Oさんからサツマイモとお菓子、ジャムを頂きました。プリンとおお菓子は早速いただきましたが、とても美味しかったです。でも次回からは、このブログでもよく書いているのですが、本当の本当に(こう書かないと、富山では逆にもってきてという意味になるらしいです)お土産とかなしでお願いします。私としては、気楽に何度も来てもらってみんなで楽しい時間を共有できることが一番で、毎回気を使っていただくことは本末転倒になってしまいます。

新しい星友達(と勝手に思ってます)ですが、近場なので集まれるからいいですね。また他の家族も招いて何かやりたいと思います。懲りずに次回以降も気軽に来てもらえるとうれしいです。


 

何ヶ月ぶりの撮影でしょうか?記録を見ると5月31日にIC1396象の鼻星雲を撮影しているので、なんと4ヶ月ぶりということになります。


久しぶりの晴れ

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9月最終週の木曜夕方、少しだけ雲は残っていますが天気予報を見ると月曜まで晴れが続くとのこと。これは久しぶりに望遠鏡を出さなくてはいけません。

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ターゲットは色々迷いました。条件は
  • モノクロのSCA260がメインなので、引き続き焦点距離1300mmと294のフォーサーズを念頭に。
  • SIIフィルターでゴーストが出ることがわかってきたのでできればRGBかAOO。
  • 新月期が明ける頃でまだ月があまり出てないので、ナローバンドだともったいなく、RGBか?
  • Lも撮影できるので、LRGB処理の過程を確立したい。
などです。今回の候補は3つ。
  • まゆ星雲をRGBで
  • M27亜鈴状星雲をAOOで前回以上にリベンジ
  • らせん星雲をAOOで、瞳孔みたいな模様をだすリベンジ
などを考えましたが、結局久しぶりの撮影なので、今まで撮ったことのない天体ということでまゆ星雲に決定です。


久しぶりの撮影セットアップ

まずは木曜夜にRGBで撮影。ついで金曜夜にRGBの撮り増しとL画像を撮影です。久しぶりの撮影なので調整不足です。撮影画像の四隅を見てみると、左上と左下が結構流れています。どうもSCA260の光軸がずれているっぽいのです。初日はスルーしましたが、2日目のL画像撮影の時に我慢できなくなり、星像を見ながら調整しました。多少マシになってたので撮影続行。その後、土曜昼にコリメータで再調整することになりました。

週末はずっと晴れていたので、赤道儀は結局木曜夜から日曜午後まで庭に置きっぱなし。2日目以降は極軸を毎回とる必要がないのでものすごく楽です。2日目の撮影の再準備はわずか10分程度で終わってしまいます。2、3日目の金曜と土曜は近征するか迷ったのですが、疲れていたので結局自宅撮影にどとめました。そもそも3日目は曇りそうだったので、自宅でアイリス星雲を撮影していたらやはり前半で曇ってしまいました。

RGBは以前撮影したフラットの使い回しができればいいのですが、L画像のフラットはこれまで撮ったことがないので、いずれにせよ撮影し直しです。今回の撮影で一度接眼部を外す必要があることが分かったので、土曜の昼間に全てのフィルター分のRGB、AOS、L(no filter)のフラットを撮影。今回のフラットは青空を撮影しました。これまで鏡筒先端に白いビニール袋を被せて撮影したことはありますが、今回は袋なしで単に青空を撮しました。SCA260は接眼部から光が漏れている可能性があるので、撮影時とできるだけ同じ状況(鏡筒先端から入ってくる光も、たとえ他に漏れてくる光があったとしても)にして撮してやろうという魂胆です。

フラット画像で後から気付いたのですが、1割程度のコマに鳥や昆虫なのでしょうか、数秒の単位で何枚かに連続してゴミが映り込みます。今回は全て処理してから気付いたので、流石に面倒で放っておきました。そのまま使っても平均化されるので、多分大丈夫かと思います。

その後、土曜昼の接眼部の調整後も、再度青空でフラット撮影をしましたが、以降PIのblinkでチェックして弾くようにしました。

フラットダーク撮影も青空の元で同時に起きないます。先端には鏡筒カバーを被せます。鏡筒カバーは光をよく遮断することが分かっています。また、接眼部での光漏れを防ぐために防寒着を接眼部付近にかぶせて撮影しました。

まだ未処理のM81とM82は残っていますが、これをもってこれまでの設定での撮影ファイルに区切りをつけて、その週の土曜の昼間に一旦SCA260の接眼部を再設定することにしました。




初のLRGB処理

実はRGBはこれまで何度か処理していますが、LRGBでの画像処理は初めてになります。

まずはWBPPでLRGB全てをIntegrateまでします。WBPPの新バージョンの特徴のDrizzleもx1で試しましたが、Lも含めて特に改善は見られず通常のファイルで処理を開始します。まずはLRGB全てをABEの1次と2次で軽く差を取ります。そのままRGBだけ合成します。RGB画像はPCCをかけて色バランスを取っておきます。

今回の失敗は、L画像が明るすぎたようで、恒星の一部が飽和していました。そのため、LRGB合成しても、その影響は残ってしまいます。飽和しないようにLだけ露光時間を短くするとかでもいいのですが、できれば撮影時のゲインや露光時間は揃えたいです。もしくは、多少恒星がサチってもRepaired HSV Separationなどでなんとかなるので、手間を考えるとゲインと露光時間を統一するほうがトータルでは得かもしれないです。どうするかは今後の課題です。

Lはこの時点でDeconvolutionしたのですが、結果を見ると、元々飽和していなかった明るい恒星がいくつか、中心を抜いたリング状の形にどうしても飽和してしまうことに気づきました。そのため、結局はDeconvolution無しで進めることにしました。Deconvolutionは細部出しにはいいのですが、弊害も多いのでいつも苦労しています。


L合成のタイミングと彩度

Lとの合成はLRGBCombinationを使います。今の疑問はLとRGBの合成をいつのタイミングでやるかです。通常はRGBを彩度まで含めてストレッチして、Lもストレッチしてから合成するのが普通のようです。でも原理的に考えたらリニアの段階でやっても構わない気がしています。根拠は、ファイル上は32bitで十分な諧調があることです。例えば、RGB合成もあまり事前処理をせずに1:1:1でとりあえず混ぜてしまっています。これは後から輝度比を取り直しても、オフセットをそれぞれ変更しても、32bitあるファイル上の階調は十分取れているはずで、これまで困ったことはありません。

ただし、ちょっと心配なのが彩度がきちんと再現されるかです。比較のために
  1. RGBのみの場合
  2. LRGBをリニアの段階で合成して、CurvesTransformation(CT)でSaturation(彩度)を上げたもの
  3. LとRGBをそれぞれストレッチしてから、その後にLRGBで合成したもの
を比較して、彩度がどれくらい変わるのか見ることにします。彩度については、全く出ないということがなければよしとしますので、多少の違いはCTのかけ具合と思って無視してください。

1. RGBのみ
Image18_ABE_ABE

2. LRGBをリニアの段階で合成して、CTで彩度を上げ、その後にオートストレッチしたもの
Image18_ABE_ABE_LRGB_CT_HT

3. LとRGBをそれぞれオートストレッチしてから、その後にLRGBで合成したもの
Image18_ABE_ABE_HT_LRGB

まず1に比べて2と3はLの情報が入っているので、構造に関してはより詳細まで出ているのが確認できます。混ぜるときのLウェイトを小さくすると、構造の出具合が変わるようなので、LRGB全てウェイト1で合成しました。注意すべきはウェイトの値を全部小さく同じ値にしても、Lのみを選択してRGB画像にインスタンスを投げ込む場合はL画像の比率が小さくなり構造が出にくくなることでした。あと、RGB画像をチャンネルごとに分解して、LRGB全てを指定して合成する場合と、Lのみを選択してRGB画像にインスタンスを投げ込む場合でも少し結果が違う場合がありました。リファレンスなどを調べてLRGBCombinationがどう振る舞うか調べようとしたのですが、結局内部式などを見つけることはできませんでした。

肝心な色については、CTで彩度を上げると十分にその情報は残っていることがわかります。むしろ2の方が彩度が出ているのは単にCTをかけ過ぎただけで微調整がしにくかったに過ぎません。目的は色情報が残っているかを見ることなので、少なくとも元のRGBより(ノイズなどの悪影響がない範囲で)彩度が出れば良しとします。

2と3の結果だけを見ると、リニアの段階でLRGB合成をしても、ストレッチしてからLRGB合成したものに比べて彩度は劣らないと言えそうです。ただし、3はCTをかけていません。RGBとLに簡単のためScreenTransferFunctionでオートストレッチをしてHistgramTransformationしただけです。そのため恒星が飽和していますが、これはとりあえず無視するとします。2のリニアでの合成でCTをかけていないものを載せておきます。ちなみに2はオートストレッチはCTの後に最後にかけています。

masterLight_ABE_ABE_LRGB

これをみると、リニアの段階での合成は彩度が見かけ上は出ないように見えますが、情報としては残っていて、Saturationを十分に上げてやれば遜色ないと言えることがわかります。今後も注意深く見ていきますが、とりあえずはリニアの段階でLRGB合成をする方がのちの処理が楽そうなので、しばらくはこれで進めて行こうかと思います。

一応彩度は保たれそうなことが分かったので、ストレッチはArchsinhStretchを使わずにMaskedStretchを主に使うことにしました。ASにも飽和を避けるオプションはありますが、MSのほうが微調整ができて確実です。注意することは、ブラックレベルを上げすぎてしまうと後で背景の階調が取りにくくなってしまうことがあるので、かなり慎重に設定することくらいでしょうか。彩度はストレッチ後にCTで上げることにします。


背景

それでも背景の淡いところを持ち上げるのはなかなか難しいです。StarNet V2やRange maskなどを使いマスクを作り、主にPhotoshop上で駆使します。コツは暗いところを一気に切り詰めないことでしょうか。暗いところに淡い諧調が隠れているので、これらを注意深く拡大していくような感じです。

途中一つ気になったことがあります。PIの最終段階でEZ Star Reductionを使ったのですが、その画像をStarNetで切り分けた背景を見てると、なぜか分子雲に余分な細かい構造が追加されていることに気づきました。恒星の処理が背景に影響したものと考えられます。このままだと背景を炙り出しきれないことがわかったので、今回はEZ Star Reductionを使わない方向でいきました。

こう考えると、結局でPIではDecomvolutionもEZ Star ReductionもArchsinhStretchも使わず、結構シンプルな処理で落ち着きました。その代わり、PhotoshopではDeNoiseなどのノイズ除去を使っています。自宅だとやはり明るいせいでしょうか、6時間超でも淡い背景部分はまだまだノイジーで、強めのノイズ処理は必須でした。淡い部分を余裕を持って処理する場合は、10時間超え、明るい自宅なのでもしかしたらもっと長くとかになってしまうのかと思います。


結果

画像処理の結果は以下のようになります。

「IC514: まゆ星雲」
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  • 撮影日: 2022年9月29日22時50分-30日3時42分、9月30日21時14分-10月1日2時37分
  • 撮影場所: 富山県富山市自宅
  • 鏡筒: SHARP STAR製 SCA260(f1300mm)
  • フィルター: Baader RGB
  • 赤道儀: Celestron CGX-L
  • カメラ: ZWO ASI294MM Pro (-10℃)
  • ガイド:  f120mmガイド鏡 + ASI290MM、PHD2によるマルチスターガイドでディザリング
  • 撮影: NINA、Gain 120、露光時間5分、L: 41枚、R: 19枚、G: 16枚、B: 22枚の計76枚で総露光時間6時間20分
  • Dark: Gain 120、露光時間5分、温度-10℃、32枚
  • Flat, Darkflat: Gain120、露光時間 L: 0.001秒、128枚、RGB: 0.01秒、128枚
  • 画像処理: PixInsight、Photoshop CC

今回の画像を見る限り、自宅撮影にしては背景の分子雲がそこそこ出てくれたと思います。まゆ星雲の周りにこんなにモクモクした分子雲があるとは思っていませんでした。背景の淡い分子雲の処理はずっと得意でなかったのですが、やっと少しコツをつかめてきた気がします。

そのきっかけの一つが10月9日に行われた天リフ超会議の「雲のじゅうざ。」さんの発言で、「StarNetなどで一旦恒星を分離して、分子雲の様子を見る」というものです。そこでDBEを使うということでしたが、今回私はDBEは使わずにABEを使っています。ポイントはDBEだろうがABEだろうが、できるだけ大まかな明暗が無い状態にして、ストレッチがうまく行くように、その上で分子雲のモクモクを残すと理解しました。確かに青い馬星雲の背景を出す時に、StarNetで恒星をなくした背景を見て、まだまだ諧調が出し切れていないと再処理したことを思い出しました。

まゆ星雲本体はもう少し強調してもいいのかもしれませんが、まゆ星雲全体が淡いホワホワしたイメージだったので、それに近づけるようにしました。それでも細部はかなり出たと思います。これはL画像のおかげでしょう。RGBだけでの画像とは一線を画しています。

恒星の処理は相変わらず得意でないです。もっと鋭く輝くように、且つ飽和しないようなものを目指したいですが、なかなか難しいです。


まとめ

とりあえず、自宅撮影でここまで出ればかなり満足です。L画像の威力もよくわかりました。

ただし、最近画像処理に時間をかけすぎている気がします。凝り性の性格が災いしてか、いったん疑問に思うと確かめない限り全然前に進めません。時間ばかり過ぎていき、成果が全然出ないのです。今回はまあ初めてのLRGB合成ということで、今後のことを考えると少し時間をかけておきたいのはあります。それでも画像処理を始めたのが10月1日で仕上がったのが10月16日と、半月もかかっています。実際にはこの記事に書ききれていないこともいろいろ試していて、ほとんどはボツになったものです。

ある程度の画像を求めるには長時間撮影が必要になってきてもいるので、そのぶんじっくり画像処理に時間をかけるというのも一つの手かもしれません。でもまだ未処理のものが5つ残っています。天気がずっと悪いからまあいいか...。

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