ほしぞloveログ

天体観測始めました。

タグ:入門

先日お知らせた、CP+とほしぞloveログの連携企画

電視観望技術を利用して天体写真を撮影してみよう

ですが、いよいよ開始します。企画名は略して「電視撮影」として、今回の記事のタイトルにも使っています。今回は (その1) で、機材の準備です。

記事としては、今回紹介する機材を用いてCP+当日までにオリオン大星雲の撮影をし、その過程をブログで公開していきます。セミナー当日は時間が限られると思うので画像処理をメインに見せたいと思っています。セミナーを聞いた人も、撮影に興味が出たらブログを見てもらうように誘導するつもりです。


機材選択

セミナーを引き受けたあとに、具体的にどのように進めるかをサイトロンのスタッフさんと一緒に相談したのですが、ここでポイントとなったのは「入門者でも手が出せる天体写真撮影機材を使おう」ということです。

天体写真の撮影はなんだかんだ言って敷居が高いです。初めて撮影に挑戦する方を想定して、電視観望を利用して技術的に敷居を下げることだけでなく、機材に関しても「撮影ができるクラス」で「手の出しやすい価格帯」のものを選択することにしました。その結果、
  1. 赤道儀: SkyWatcher Star Adventurer GTi
  2. 鏡筒: SkyWatcher EVOLUX 62ED + ED62 Reducer
  3. カメラ: PlayerOne Uranus-C Pro
という機材を選んでみました。

1. Star Adventurer GTi、略してSA-GTiは1年ほど前にSkyWatcher社から発売開始された赤道儀で、2軸制御としては三脚込みで税込9万円台前半と、最安の部類になるかと思います。もっと安いのだと、同じSkyWatcher社のこれまた最安クラスの自動追尾経緯台に「AZ-GTi」というのがあるのですが、これはファームウェアを書き換えることで赤道儀モードで使うことができます。ただし赤道儀動作はメーカーオフィシャルではないためかなり敷居が高く、少なくとも初心者にお勧めできるものではないと思います。SA-GTiはある意味、AZ-GTiのメーカーオフィシャルな赤道儀としてアップグレードされたものと言えるのかと思います。

2. 鏡筒に関しては名前にEDと冠しているように、アクロマートクラスとは一線を画したもので、専用レデューサも発売されているように、明らかに写真撮影を意識したものです。「レデューサ」とは、焦点距離を短くして視野を広げるためのものですが、同時に星像を改善する働きを持たせていることが多いです。今回も撮影を目指すので、画面四隅の星まで綺麗な点になることを願って、62ED専用のレデューサを使うことにします。鏡筒が実売約6万円、レデューサを入れても約10.5万円と、撮影鏡筒としては安価な部類に入ります。初心者がはじめに手にいれる撮影用鏡筒としては手頃で、いい選択肢ではないのかと思います。

ちょっと心配なのはこのEVOLUX 62ED、シュミットの販売ページに行っても在庫切れで、他のショップやAmazonでも在庫切れやお取り寄せとなっているところばかりです。3年前のCP+でEVO GUIDE50での電視観望を紹介して、その後しばらくの間、肝心のEVOGUIDEが在庫切れという状況が続いたことを思い出してしまいました。もちろん今回CP+で見せようと思っている画像処理の方法は、他の鏡筒でも問題なく応用が効くので、お手持ちの鏡筒で構わないのですが、もしかしたら在庫有りのものにしたほうが良かったのかもしれません。

3. カメラですが、今回の目的が撮影ということなので、冷却タイプのCMOSカメラを選びました。冬季ということでそもそも冷えていることと、撮影も入門用に簡単にということでそこまで露光時間を長く取らない予定なので、ダークノイズはそこまで効かないでしょう。またホットピクセルやコールドピクセルもPlayerOneのカメラの特徴のDPS (Dead Pixel Supressioin) 機能で軽減されるので、冷却は必要ないかもしれません。それでも今後撮影に進んでいくと、一枚一枚撮影しダーク補正をする可能性は高く、冷却を選んでおくに越したことはありません。もう一つは冷却そのものというよりは、「一定の温度で撮影できる」ということが、温度管理という意味で便利だったりします。


赤道儀SA-GTiの組み立て

最初は赤道儀Star Adventurer GTiの組立です。日本語版のマニュアルが同封されているので、基本的にはマニュアルを見て進めていけばいいでしょう。

1. 箱から三脚を取り出し足を広げます。三角受け皿をはめ込み、回転させて固定します。
2. ハーフピラーを三脚の上に載せ、三脚上部から出ているネジを締め、固定します。
IMG_8929

3. ハーフピラー上部の3つのネジを緩めて、接続部を外します。
4. 赤道儀を箱から取り出し、上で外したハーフピラー上部を赤道儀本体底部ににねじ止めします。
5. 赤道儀をハーフピラーの上に載せ、ハーフピラー上部の3つのネジを締めて固定します。
6. 赤経体の経度を日本の35度付近に合わせます。赤経体が上下に動くように、赤道儀本体左右についている2つの大きめのネジが緩んでいることを確認(箱から出した直後は全て緩んでいました)して、前部についているネジを締めながら赤経の角度を35度付近にまでします。
IMG_8931

7. ウェイトバーを取り付けますが、ここで少し迷いました。マニュアルにあまりはっきりと書かれていませんが、バーの根元に取り付けるアダプターの上下に注意です。ウェイトバーがアダプターにすっぽりハマる向きに取り付け、その後ウェイトバーを赤道儀本体に取り付けます。

IMG_8971

機械的な組立はこれくらいです。

次に電源についてです。電池駆動もできますが、撮影中はどうせ冷却カメラに12V電源を使うことになるので、赤道儀、冷却カメラともに12Vの外部のDC電源を使うことにしました。

ちなみに、電池駆動する時の場合の手順です。こちらの方が少し迷うかもしれません。
  1. インターフェースパネル下のネジを外して、インターフェース部分を取り囲んでいるカバーを外します。
  2. 極軸望遠鏡のカバーを外し、電池ケースを2つ取り出します。(注1. 極軸望遠鏡のカバーを外さないと、電池ケースを取り出すことができません。外れないからと言って、無理に引っ張って壊さないようにしてください。)
  3. それぞれのケースに4本、計8本単3電池を入れます。電池は受電式のものでも十分稼働します。
  4. ケースを赤道儀本体に戻します。(注2. その場合、極軸望遠鏡のカバーができなくなりますが、これは液漏れを防止するための仕様とのこと。)
あと、付属のUSBケーブルを挿しておきます。PCとはこのUSBケーブルを介して接続します。
IMG_8965

赤道儀の組立はここまでです。


鏡筒とレデューサー

鏡筒のEVOLUX 62EDですが、どうやら日本ではあまり本数が出回っていないのかもしれません。日本語のレビューなどを探してもごくわずかしか見つかりません。専用ケースが付いてくるようですが、今回私の場合はデモ機をお借りしているので、専用ケースはありませんでした。

まずは鏡筒本体に鏡筒にレデューサをつけます。鏡筒接眼側についている、緑のアダプターを回転させ外します。

ここで、必要ならばフィルターを鏡筒側に取り付けます。取り付けることができるのは48mm径のもので、後に詳しく書きますが、今回はCBP(Commet BandPassフィルター)を取り付けました。

IMG_8951
CBPを鏡筒側に取り付けた様子。

(2024/2/4追加) [[注意]] 初出の記事で、フィルターをこの位置に入れると書きましたが、レデューサ側にはまり込んででしまうとものすごく外しにくくなることがわかりました。カニ目レンチなどがあれば頑張って外すことはできますが、かなり大変なのと、フィルターを傷つける可能性があるので、フィルターを入れる位置は再考します。

フィルターを挟み込むようにして、レデューサを鏡筒本体に取り付けます。下の写真のように、レデューサーの字の向きが鏡筒の字の向きと逆になりますが、これが正しいです。

IMG_8952


CMOSカメラの接続

次にカメラと鏡筒の接続です。

Uranus-C Proには17.5mmと20mmの延長アダプターがついています。さらに、カメラのシャーシ端面からセンサー面までの距離は17.5mmとのことです。ここで、63ED レデューサーに必要なバックフォーカスを調べてみると、55mmだとわかりました。レデューサの「後端」から測って、55mm伸ばしたところに「センサー面」が来ればいいということになります。先ほどの距離を足してみると、17.5+20+17.5 = 55mmで、何とちょうど55mmとなるではありませんか。これは、最近の鏡筒のバックフォーカスは55mmのものが多いので、カメラの方でそれにうまく合うようなアダプターを付属しているというわけです。

とうわけで付属のアダプター2つを挟んでカメラをレデューサの後ろに取り付けます。ネジは全てT2と呼ばれるカメラ界隈で使われている規格で、径42mm ピッチ0.75mmになります。

IMG_8953

CMOSカメラの電源ですが、メインはUSBで供給されます。コネクタはType-Cです。露光時間が長いので、USB2.0でもなんとかなると思いますが、転送速度はやはり早い方がいいので基本はUSB3.0以上で接続した方がいいでしょう。冷却用のDCの12V電源も別途必要になります。撮影用のバッテリーを一つ買うといいと思います。下の写真のようなDCジャックができれば複数付いているバッテリーを選ぶといいでしょう。

IMG_8974

これで赤道儀SA-GTiも駆動できるようになります。

バッテリーとCMOSカメラ、赤道儀を接続するDC電源用のケーブルも必要です。ケーブルを選ぶときに、オスメスを間違えないように気をつけてください。今回のように、通常はオス-オスタイプが必要になりますが、実際に売っているのはオス-メスタイプが多いので、そんな場合はオスメス変換のアダプターを一緒に購入するといいでしょう。

IMG_8975

これで鏡筒とカメラの準備は完了です。


赤道儀に鏡筒を載せてみる

鏡筒部を赤道儀に載せてみましょう。鏡筒にはアリガタプレートが最初から付いているので、そのまま赤道儀に取り付けることができます。
  1. まずは赤道儀のウェイトのネジを緩め、ウェイトバーの下の方までウェイトを十分下げて、再びネジを締め固定します。赤経体のネジを緩めて、ウェイトをぷらぷらさせ、手を離して一番下に下がるところで赤経体のネジをしめます。
  2. 赤緯体のネジを緩めて、鏡筒を乗せたときに真っ直ぐ上を向くくらいの位置までアリミゾ部を回転させ、再び赤緯体のネジを締めます。
  3. アリミゾの所のクランプネジを緩めて、鏡筒のアリガタのところをアリミゾ部にはめ込んで、再びネジを締めて固定します。一度ゆっくり手を離してみて、落ちたりしないか確認し、さらに鏡筒部をつついてグラグラ動いたりしないか確認します。
  4. 赤経体のネジを緩めて、さらにウェイトのネジを緩めて、赤経体を回転させ、水平になるように持っていき、ウェイト位置を中央側にずらして、赤経体のバランスをとります。手を離しても赤経体が回転しないところを探してウェイトのネジを締め固定します。
  5. 赤経体は水平のまま、一旦赤経体のネジを締め水平からずれないように固定します。
  6. 次は赤緯体のネジを緩めてバランスをとります。鏡筒が落ちたりしないように注意しながら、アリミゾクランプのネジを少し緩めて、鏡筒部を前後に動かして、手を離しても回転しないところを見つけてください。手を離す際は「毎回」アリミゾクランプのネジを締めるのを忘れないようにしてください。油断すると鏡筒が地面に真っ逆さまになります。
  7. 赤経、赤緯の重量バランスが取れたら、赤経体のねじ、赤緯体のネジを緩めて元のホームポジション(鏡筒が上に来るように赤経体を上に戻し、赤緯体は鏡筒先端が北を向くようになるような位置です)に戻し、再びネジを固定しててください。

ガイド鏡

今回の撮影では、長時間撮影しても視野がずれていかないように、オートガイドと呼ばれる手法を用います。別途もっと視野の広い焦点距離の短い望遠鏡とカメラを用意して、1秒程度の短時間露光で常に画角を確認して、ずれたらそれを補正するようなフィードバック信号を赤道儀に返します。

そのためのガイド鏡を用意しておきます。ガイド鏡の「鏡」は望遠鏡からきていますが、今回は安価な監視カメラ用のCマウントレンズ(実際にはCSマウントレンズで、延長アダプターをつけてCマウントとしています)を使いました。ガイド鏡はメイン鏡筒の焦点距離の10分の1程度の焦点距離があれば十分です。今回はメイン鏡筒がレデューサーをつけて360mmなので、ガイド鏡の焦点距離は50mmとしました。こういったレンズはアマゾンなどで「cマウントレンズ」と検索すると簡単に手に入れることができます。

カメラは手持ちであったPlayerOneのNeptune-Cを使います。

ガイド鏡は、カメラにL字の適当な金具をつけ、底にアルカスイス互換のクランプをつけます。一方鏡筒側には、鏡筒付属のアリガタにアルカスイス互換のプレートをとりつけました。これらもアマゾンで「アルカスイス」と検索すると、安価な互換品を簡単に手に入れることができます。これで着脱も自由です。

IMG_8967


まとめ

全てを組み上げた全体図になります。

IMG_8956

今回の機材はあくまで一例です。機材はお手持ちのものがあれば、もちろんそれらを使えばいいかと思います。

初めて天体機材を触る場合は、最初の組み立ては昼間の明るいうちにやっておいたほうがといいと思います。最初はなかなかうまくいかなくて、組み上げるだけでも大変です。暗い中ではさらに大変になります。あせらずに、余裕を持って、時間をかけて組み立ててみてください。

一応これで、機材の準備は完了です。次回はPCを接続して電源を入れてみましょう。いよいよ望遠鏡の像を見ることになります。










昨晩、kyoyaさんの質問に答える形で、Zoomを使い天文入門講座を開催しました。

きっかけ

きっかけはほとんど忘れかけていたのですが、kyoyaさんと話していて思い出しました。2月末にTwitter上で何かのkyoyaさんの発言で「色々調べているとなぜかSamさんのブログに行き着く 」というのがあったのに私が反応したことかと思います。

kyoyaさんは以前Clubhouseでの星座ビノの話題で呼ばれた時に一緒に話して他ことがあります。その後kyoyaさんからDMで質問があり、それに答えているときに望遠鏡を「倍率」で理解していることに気づきました。話を聞いてみると「焦点距離」でなかなか理解できないようなのです。そこで入門講座でもやりましょうか?という話になり、kyoyaさんがすごく盛り上がってくれたので今回のことが実現しました。

今回もkyoyaさんの仲のいいかたに声をかけていただいて、結局10人近く集まりましたでしょうか。
screen
一人一人自己紹介してもらいましたが、メンバーは多くが初心者です。これは説明のしがいがありそうです。一部私よりもはるかにベテランの方もいらっしゃいました。もし私が間違ったことを言ったらどんどん突っ込んで欲しいとお願いしておきました。


目的と方針

今回の特徴は、あらかじめkyoyaさんの星見の環境と、やりたいこと、質問事項などを聞いておいて、それらをもとに私がスライドを作り、Zoom会議の中で互いにやり取りしてkyoyaさんと他の参加者にも「理解してもらう」というものです。

あらかじめもらっていた質問は私にとってはとてもありがたく、ある意味財産になります。初心者がどう言ったところでつまづくのか、何がわからないのか教えてくれます。例えばkyoyaさんは星雲とはかなり小さいものだと思っていたとのことです。CP+の配信のスライドの動画で月からオリオン星雲に移動するのがありましたが、その時に倍率を変えて拡大したのではと思っていたとのことです。オリオン星雲が満月ほどの大きさがあるとか、北アメリカ星雲とかもっと大きいとか、なかなか想像できなかったとのことです。

今回の講義では、数学は使わずに算数だけにして小学生でもわかるものを目指しました。kyoyaさんがわからなそうな顔をしていたら、わかってもらうまでできる限り噛み砕いて説明します。途中、同じくらいの初心者の方が先にわかったら、その方に説明してもらうという様なこともしてもらいました。コメントを見てもかなり活発にやり取りしてくれていたみたいで、その中でも倍率を変えるのgoogleマップでズームすることと同じではという意見は秀逸でした。倍率を上げて拡大するということは、見える範囲を狭くするということです。


講座の一例

プライベートな講座なので一部だけですが、使ったスライドを載せておきます。今回は質問に加え、倍率を噛み砕いて理解するとか、角度と時間の関係を実感するなどをかなり時間をかけて、わかるまでやり取りしました。

スライド7

スライド8

kyoyaさんの質問にあったのですが、「追尾しないと望遠鏡で見えている星はどれくらいの時間で視野から逃げていくか?」という様な疑問にも、できる限り自分で答えてもらうようにしました。望遠鏡の倍率と視野角の関係がわかり、星は時間当たりどれくらいの角度動くかが分かれば概算できますね。
  1. 例えば100倍の倍率で見ていると、1倍の視野を180度と仮定したら100倍で 180/100~2度くらい。
  2. 星は24時間で360度動くので、1時間で15度動く。
  3. 2度なら2/15時間=8/60時間=8分で望遠鏡の視野から逃げる。
という様な感じです。理解さえできれば小学生でも算数で簡単に出せます。


まとめ

このような議論を20時から延々と23時半まで続けてました。他の方の反応も見ていましたが、かなりわかってくれたみたいで、中には目から鱗が落ちる説明だと言ってくれた方もいました。

あ、でも「天文入門」と題打っておきながら、kyoyaさんの質問がかなり電視観望と機材によっていたので、天文らしい天文の話は全くできませんでした。そこら辺が反省材料でしょうか。

私もとても楽しかったので、他の方も興味を持ってくれるなら、そのうちに第2弾とかやってみたいと思います。

今年2022年も昨年に引き続き、CP+のサイトロンブースでトークをさせてもらえることになりました。


今年も話すことになりました!

事の発端は小海の「星と自然のフェスタ」でのシュミットさんでのお手伝いの時です。「また今年もCP+に出展するので電視観望でお話しできませんか?」というオファーでした。二つ返事でOKといきたかったのですが、ちょうどその頃の予定を見ると仕事の方がかなり立て込んでいます。「まだ日程も決まっていないし、どれだけ枠が取れるかもわからない」ということで、決定は後日ということになりました。

その後、プロデューサー役の天リフ編集長とのスケジュール調整で2月25日土曜の昼からのパシフィコ横浜会場でのステージ枠が唯一の時間が取れる場所ということで、決定となりました。

ところが皆さんご存知の通り、今年もリアル開催は中止になってしまい、オンライン配信のみとなってしまいました。もしかしてライブ配信も可能かと少し考えたのですが、実は土日が仕事で東京に滞在する予定になっています。夜まで仕事があるので、諦めて土曜日朝からサイトロン本社に立ち寄って収録という運びになりました。天リフ編集長もきてくれているらしいので、楽しい撮影になりそうです。


今年の内容

今年は「もっと入門寄りに」というリクエストを受けています。そこでタイトルは

「電視観望入門」
NEWTONYとCeres-Cで星雲の色を観てみよう

としました。この一年の間に最安に近いCMOSカメラCeres-Cも販売され、それを活かす短焦点鏡筒というという形でNEWTONYが使えます。できるだけ敷居を下げて、これまで星雲などを見たことない方や、天文初心者に電視観望を体験してもらえればと思っています。

IMG_4422a


あとは、特にCP+ということで天文以外のカメラクラスターの方にも聞いてほしくて、一眼レフカメラ用のレンズを利用した電視観望も少し話そうと思っています。

一応スライドなどの準備は全てできましたが、とにかく今年は晴れの日が極端に少なくて、しかも月がかなり明るい日で撮影に苦労しました。もしかしたら今週木曜夜にもうワンチャンスあるかもしれません。うまくいったら少し枠組みを変えて、土曜日の収録に臨みたいと思います。


いよいよ日曜夜の配信です!

というわけで、

2月27日(日)の夜21時20分から
サイトロンジャパン CP+2022オンラインセミナー 
 
をご覧ください

xlhAIFxK.jpg-large

CP+の中でも日曜一番遅くの時間帯でオオトリのような感じになってしまっていす。皆さんよろしくお願いいたします。
 

毎年この時期に、京都るり渓で開催される関西屈指の星まつり「星をもとめて」。星を始めた2016年はこんな星まつりがあるとは気づかず、初参加を楽しみしていていた2017年は台風で中止。やっと2018年2019年に参加することができました。







通称「星もと」と呼ばれるこの星まつり、数少ない西日本の星まつりで、大阪あすとろぐらふぃ〜迷人会の方々や、あぷらなーとさんなど、地理的に関東の星まつりになかなか参加できない多くの方にお会いできた貴重な星まつりです。でも昨年は残念ながら中止。今年は最後まで現地開催とWeb開催で議論があったらしいのですが、最終的にはWeb開催となったとのことです。

2019年の現地でラッキイメージングの大家の山下さんとお会いできたのも、貴重な機会でした。山下さんはこの「星もと」の運営もされているとのことで、「次の星もとでぜひ電視観望について話して下さい。」とお願いされました。ところが昨年は星もと自身が中止。今年8月の終わり頃このブログに講演依頼のコメントが入りました。その後個別に連絡を取り、2年前の約束を果たす意味でも、もちろん快諾しました。

というわけで、

9月19日(日)開催の今年のオンラインの「星をもとめて」で
「やってみよう電視観望」というタイトルで、講演をします。
私のトークは18時30分から19時20分の予定です。 

20210919_hoshimoto


内容ですが、山下さんから入門向けにとお願いされました。最近は「電視観望」という言葉もかなり一般化してきて一般の辞書にも載ったりしているようです。


「電視観望」という言葉を聞いて、ちょっと調べてみたら興味が湧いてきた、これから始めてみたいというような方もたくさんいらっしゃるかと思います。そういった方々をメインのターゲットに考えています。あと、少し詳しい方に向けて、なぜ電視観望という技術が成立するのか、これまでブログなどで説明してきましたが、少しまとめてみようと思っています。

公式の「星をもとめて」のWebページもできたようです。


他にも、小惑星観測の話や、山下さん自身もラッキーイメージングで講演されます。配信はYoutubeですが、事前にZoom参加を申請しておくと質問などできるようです。聞きたいことがある方はぜひZoom参加を申請してみて下さい。終了後懇親会もあるとのことなので、もし他の講演者や私Samとも話してみたいとかいう方がいましたら、ぜひ申請をしてみてください。

9月19日というと、実はもう一週間後なんですよね。最近忙しくてブログもなかなか更新できていないのですが、肝心の当日の資料の準備がまだほとんどできていません。過去に電視観望で何度か講演しているので、ある程度のスライドは既にありますが、なかなか晴れないので新たに撮影し直しとかは難しいかもしれません。最新の情報も合わせて、できるだけわかりやすい話になるように構成を組み立てようと思っています。もし当日晴れたらライブ中継をするかもしれません。

このブログを読んでくれた方で、もし周りに電視観望に興味を持たれている方がいましたら、ぜひこの配信のことを宣伝して頂けるとありがたいです。これがきっかけで天文に興味を持たれる方が、一人でも多くなれば何よりです。



次回記事: 実際に講演しました。
 


今回の目的は、AZ-GTiの経緯台モードを使って、できるだけ簡単に星雲を撮影しようというものです。


もっと簡単に星雲とか撮影できないか? 

ここしばらく、できるだけ簡単に星を楽しむことができないかを考えています。明るい広角レンズとただの三脚を使った電視観望もその過程のひとつです。これはQBPという武器があって初めて実現することでした。

同様に、撮影に関しても高すぎる敷居をもっと下げることができないか、ずっと考えていました。もちろん、究極的な画像を求めよういう場合は別ですが、もっと手軽に、画質は自分で満足できればいいくらいの撮影というのも、あっていいと思うのです。ここではAZ-GTiを武器として試しています。

眼視から少し手を伸ばしてみたい、電視観望よりもう少し綺麗な天体を自分で撮ってみたいとかいう人たちがきっといるはずです。天体写真の敷居を下げることで、天文人口を増やすことにつながればと思います。


経緯台撮影の問題点

赤道儀は極軸合わせなど、若干敷居が高いので、より簡単な経緯台を想定します。今回は自動導入と自動追尾がついているAZ-GTiを使うことにします。

しかしながら経緯台は撮影にはあまり向いているとはいえません。問題点は二つあります。
  • 経緯台なので撮影していると写野が回転していくのですが、それをどうするか?
  • ガイドも当然なしなので、星像がふらついたり流れたりして長時間露光ができない点。

でもこれらは、もしかしたら電視観望で培った技術が解決するのではと考えるようになってきました。カメラは一眼レフカメラは使わずに、その代わりに電視観望のようにCMOSカメラを使います。


撮影手順

簡単星雲撮影のセットアップは基本的に電視観望とよく似ています。今回はテスト記事なので全くの初心者が必要な細かい手順の説明は省きます。電視観望をやったことがある人くらいが対象です。本当の初心者向けの記事は、もっと細かい位置からの手順を踏まえて後日まとめるつもりです。

IMG_9267

経緯台にはAZ-GTi、鏡筒には評価用に手元にあったSkyWatcerのEVOSTAR 72EDを使います。比較的安価なアポクロマート鏡筒なので、初心者にも手頃かと思います。CMOSカメラはASI178MCを使います。ASI224MCでも良かったのですが、安価で少しでもセンサーの大きさを稼ぎたかったのでこれにしました。
  1. 今回のターゲットは初心者向けに、かなり明るいオリオン大星雲M42とします。
  2. AZ-GTiは経緯台モードで自動追尾します。精度はそこまでないのと、原理的に写野が回転していくので露光時間は長すぎると星が流れていきます。長くても30秒くらい、できれば10秒くらいまでが無難。今回は短めの3秒としました。
  3. ソフトは定番のSharpCapを使います。
  4. ゲインは高すぎるとノイズが多くなってしまいます。逆に低すぎると何も映りません。露光時間は短めなので、少し高めでもよくて、最大のゲインから1段か数段下げるといいかと思います。今回は310としました。
  5. 目的の天体がそこそこ見えていたらSharpCap上でライブスタックをしてみます。
  6. ライブスタックパネル左下の何分かおきに画像を保存するにチェックを入れます。今回は3分にしておきました。
  7. AZ-GTiの精度だと、長時間撮影していると画面がずれていくかもしれません。例えば10分くらい経ってから画面を見てみて、もし天体がずれているような時は再びSysScanのコントローラーを使って天体を真ん中に入れます。その際、ライブスタックのリセットボタンを押すのを忘れないようにしてください。
ポイントは、星像が流れないようにするために、短時間露光に抑えることです。その一方露光時間が短いと読み出しノイズが支配的になりがちですが、そこは枚数を稼ぐことで緩和します。ゲインが高いのでダイナミックレンジが不足しがちですが、淡い部分を映し出す方を優先します。また、ライブスタックを活用することで、撮影枚数を減らします。

と、ここまで読んで分かる通り、やっていることは電視観望とほとんど大差ありません。それでも、赤道儀やガイドなどの、通常の撮影に比べて遥かに手軽なことがわかると思います。

今回はライブスタック3秒x60スタックで、一枚あたり3分露光した画像を、合計1時間程度撮影し、その中の画面からずれていない10枚、30分ぶんの画像を取得しました。画像のズレはAZ-GTiのものもありますが、1時間も撮影するとそもそも15度程度写野が回転してしまいます。

写野の回転は原理的にどうしようもありません。多少の回転はトリミングで見えないようにします。なので超長時間露光は難しいですが、それとて時間が経ったらカメラ自身をマニュアルで回転させてしまえば対応できないこともありません。


撮影画像のスタック

初心者にとって厄介なのは、撮影よりもむしろ画像処理です。

写野の回転と同時に、周辺の歪みによるスタック時のずれが問題になってくる可能性があります。今回はPixInsightで星を認識して星像を合わせるような重ね方をしています。でも初心者にPIを求めるのは酷と言うものです。

ステライメージは回転は補正してくれますが、画面を歪めて星を重ねるような機能はないので、こういった場合は難しいです。あとはDSSでしょうか。DSSは一番最初に星を始めた頃に触っただけなので、ほとんど理解していないのですが、調べた限りでは画面を歪ませて合わせるような機能はないみたいです。

そういった意味でも、小さめのセンサーを使って星像がブレにくい中心像だけ使うと言うのは理にかなっているとおもいます。DSSは無料で使えることもあり、最初からあまりお金をかけることができない初心者にとってはほとんど唯一の選択肢になるので、検討する余地は十分にあると思います。


追尾時のズレの様子

撮影した10枚をスタックして画像処理をしてみました。まず、どれくらいずれている10枚でやったのか、スタック直後でストレッチだけかけた画像です。

integration

初期アラインメントがワンスターアラインメントしかやっていないので、AZ-GTiの設置時の水平度不足による並行ずれと、長時間の撮影による回転のズレが生じているのがわかると思います。

水平精度をさぼったので、並行ズレは結構酷くて、10分に一回くらい構図を合わせ直していました。ちなみに、20枚撮影して落とした10枚は、様子を見ていなくて平行移動し過ぎてはみ出していたもので、10枚全部がそれです。さすがにこれはひどいので、水平をきちんと取ることにより、もう少し抑えることができるはずです。逆に言うと、星像のズレとかで落としたものは一枚もないです。SharpCapのアラインメントは相当優秀です。

回転ずれは時間とともに出てきます。もっと短時間で終わらせてしまうのも一つの手です。


撮影した画像の仕上げ

画像処理をして、そこからトリミングしてまともなところを切り出します。画像処理にそれほど時間をかけていないのでイマイチなところも多々ありますが、経緯台で簡易で撮ったにしては、そこそこ写るのかと思います。

integration2_cut
  • 撮影場所: 富山県富山市
  • 撮影時間: 2020年2月1日22時25分
  • 鏡筒: SkyWatcher EVOSTAR 72ED
  • 経緯台: SkyWatcher AZ-GTi
  • カメラ: ZWO ASI178MC
  • 露光: ゲイン310、3秒x60枚のライブスタック x10枚 = 総露光時間30分
  • フィルターなし、SharpCapでのリアルタイムダーク補正 (3秒x16枚)あり、フラット補正なし
  • PixInsigjt、Photoshopで画像処理
トラベジウムとか少し多段でマスクをかけましたが、そもそも短時間のラッキーイメージングの手法に近くて露光不足気味で、元々ほとんど飛んでいないところが効いてきています。


いっそ、一枚撮りで


もう一つの方法が、ライブスタックの画像保存までの時間を10分とか20分とか長くしてしまって、SharpCapのライブスタック結果の一枚画像のみにして、後からスタックをしないことです。

SharpCapでは、ライブスタックの最中は恒星を多数認識して、その星がずれないようにスタックするたびに画像を歪ませて重ね合わせるので、この機能を使う利点は相当大きいです。その代わりに、長時間撮影のために天体全体が徐々にずれていくのが問題になります。これは撮影の間に画面を見ていると回転していってずれていく様子が積算されていくのがわかるので、適当なところで止めてしまえばいいのかと思います。

さらに画像の保存方式も初心者にはいくつか選択肢があって、RAWのfits形式で保存することももちろんできるのですが、もっと一般なtiff形式、もしくはPNG形式でもいいのかもしれません。特に、PCで見えている画像そのものをファイルに保存してしまう機能もあるので、これを使うと後の画像処理でストレッチをする必要もなくなります。

これと似たようなことは実はかなり昔に試していて、どの形式で保存するのが綺麗かと言う比較をしたことがあります。意外なことに、SharpCapのライブスタックに任せてしまったPNGでも十分に見るに耐える画像になっています。

少し前ですが、名古屋での大晦日年越し電視観望中に1時間ほどほったらかしておいてた3秒露光の画像を、そのままライブスタックし続けた画像が残っていました。

Stack_198frames_634s_WithDisplayStretch
1時間くらい放っておいたライブスタック画像。撮って出し。

カメラはASI294MC Pro、鏡筒はFS-60CBに旧フラットナーですが、AZ-GTiでの自動追尾なので、そういった意味では今回の撮影方法そのものの、一枚撮りバージョンになります。ダーク補正とフラット補正をリアルタイムでしてあります。

撮って出しと言っていいのかよくわかりませんが、画面に見えているのをそのままPNGで落として、それをアップロード用にJPGにしたものです。撮影時間は1時間ほどと書きましたが、時間はあまりよく覚えていません。15度くらいいという画面の回転角から、それ位の長さだったんだろうと推測しているだけです。重要なのは、AZ-GTiでのほったらかしでも、水平の設置さえ良ければこれくらいの時間は位置を合わせ直すことなく撮影できることです。

上の画像をある程度仕上げてみます。回転で切れてしまっている部分をトリミング。ASI294MCはセンサー面積が広いので、中心部だけでも十分な面積が生き残っています。

まずはWindowsの「フォト」の「編集と作成」から「調整」のみを使った場合。

Stack_198frames_634s_WithDisplayStretch_win_photo
Windwos「フォト」での加工例。

簡単な調整だけでも多少は出てきます。

次はMacの「プレビュー」の「ツール」「カラーを調整」のみを使ったものです。

Stack_198frames_634s_WithDisplayStretch_mac
Mac「プレビュー」での加工例。

うーん、どうでしょうか、Windowsの方が、ディテール、ノイズともにまさっている気がします。ここら辺は腕にも大きく依存するので、容易に逆転するかもしれません。

いずれのケースでも、さすがにトラペジウム周りのサチってしまっているところは救い出すことはできませんでした。でも、一枚PNGからここら辺まで出れば、撮影を試してみるというのならある程度十分で、これに不満が出るならスタックや赤道儀を用いるなど、次のステップに進むことになるのかと思います。

重要なのは、このようなOS付属の簡易的なツールでも、多少は画像処理ができてしまうと言うことです。これは初心者にとっては大きなメリットでしょう。逆に、改めてみてわかったのは、さすがに1時間スタックは星像が多少肥大するとするということ。これは課題の一つかもしれません。

最後は、このPNG1枚画像をツールの制限なしに画像処理した場合です。と言ってもPhotoshopです。あと、最後の仕上げに今話題のTopazのDenoiseを試してみました。これは結構強力です。しかも簡単なので初心者向けです。有料なのが初心者にとって唯一のネックかもしれません。でもそれだけの金額を出す価値のあるソフトかと思います。Denoiseに関してはまた別記事で書こうと思います。

Stack_198frames_634s_WithDisplayStretch_DN_cut
Photoshop CC+Topaz Denoiseでの画像処理。


まとめ

AZ-GTiを使った経緯台での撮影は一言で言うと「やはり楽」です。似たようなことを既にやっている方も、もしかしたら初心者でも同様のことをごく自然な流れとしてやってしまっている方もいるのではないかと思います。

ポンと北に向けて適当に置くだけ、極軸を取る必要なし、ワンスターアラインメント、ガイドもなし、大きくずれたら直す、というので大幅に大変さを軽減できます。30分露光でここら辺まで出れば、最初に挑戦する撮影としてはかなり満足できるのではないかと思います。

その一方、画像処理の敷居は依然高いかもしれません。後でスタックするのが敷居が高いのも事実なので、一枚どりで画面の見たままで保存してしまうのでもいいのかと思います。あとはGIMPなどの無料の画像処理ソフトや、今回試したWindowsの「フォト」やMacのプレビューでの簡易画像処理だけでも最初はいいのかもしれません。 


後日、今回使ったEVOSTAR 72Dについて、試用記を書いています。よかったら合わせてご覧ください。



このページのトップヘ