CP+連動企画、「電視観望技術を利用して天体写真を撮影してみよう」ですが、前回でやっとオリオン大星雲の撮影を開始することができました。
機材の設置からソフトの設定まで、やはり工程が多いですよね。天体写真撮影が敷居が高いと言われるはずです。それでも電視観望でオートストレッチまで済んでいるので、画像処理は楽になるはずです。そこら辺をCP+でお見せできたらと思っています。
前回の記事で重要なことを一つ書き忘れていました。画像保存時におけるホワイトバランスの重要性です。
ライブスタック中に普段画面を見る時からでいいので、3つのことをしておくといいです。
今回の記事もこのような状態で画像を保存したものを使っています。
撮影までに赤道儀の設置や、オートガイドを使った長時間撮影など、それなりに準備だけでも大変でした。電視観望の技術を使い、ここからの画像処理は楽になるとしても、ここまでの準備をもう少し簡単にできないものなのでしょうか?今回はいろいろ設定を変えてみることで、簡単になるのかどうか議論してみます。
今回比較したいものを準備が簡単な順に並べてみます。矢印の右側は、予想される問題点です。順に詳しく見ていきます。
まず対極で、できる限り簡単な撮影というものをしてみましょう。
ここでは赤道儀の代わりに、自動導入機能がある経緯台AZ-GTiを使ってみます。鏡筒を軽いもの、例えばFMA135やFMA180とかなら、もっと手軽にトラバースでも構いません。特にトラバースは超小型で自動導入も自動追尾もできるので、対極という意味ではこちらの方がいいのかもしれません。トラバースについては以前撮影例を記事にしているので、よかったらご覧ください。
これらの経緯台は赤道儀と違って、極軸調整などを省くことができます。最初はオートガイドやディザー撮影も無しとします。経緯台なのですが、自動追尾はできます。それでも経緯台は縦と横とでしか動かせないので、長時間で回転していく星を追尾しようとすると、視野の回転が問題となるはずです。視野の回転はそこそこ激しいので、星像が天になるためには露光時間に制限ができます。鏡筒やカメラにもよりますが、今回の機材だと現実的には10秒程度でしょう。また視野が流れてしまうことによる「縞ノイズ」が問題になってきます。
今回使うAZ-GTiの写真です。SA-GTiの元になった機器だと思いますが、経緯台だけあってAZ-GTiもかなり小さいです。
実際に撮影した結果を示します。問題を見やすくするために、かなり明るくしています。1枚当たり10秒露光で、30フレームなので高々5分程度の撮影ですが、
まず視野回転しているのがわかります。右下の方にずれていっている様子がわかります。ずれが三角型になっているのが、視野が回転している証拠です。多少ならば最終的にトリミングすればいいのですが、長時間撮影ではカットする部分が大きくなってしまいます。
PlayerOneのCMOSカメラにはDPS (Dead Pixel Supression)という機能があり、輝度が飽和してしまうようなホットピクセルは、輝度が0近くになってしまうコールドピクセルという、センサーにどうしても存在してしまうわずかの欠損を目立たなくしています。さらに今回、SharpCapの設定でホットピクセル/コールドピクセルの簡易除去をしていしてます。それでもホットピ/コールドピクセルのようなものが存在しているようで、高々5分の撮影でもスクラッチ状のノイズを残してしまいます。拡大するとよくわかります。
このように経緯台での簡単撮影では、回転とスクラッチ上のノイズが問題になってしまいます。でも逆に言うと、対極的に簡単な撮影でも問題点は高々これくらいです。セットアップが簡単になるなら、十分ペイするくらいのささいな問題点かもしれません。
この後に画像処理をすることで、たった5分の撮影でも、大迫力のオリオン大星雲の魅力は十分に出てきます。撮影時間が長くなるほど、縞ノイズの問題が深刻になってくることが予測されるでしょうか。許容範囲は人にも求める仕上がり具合にもよると思いますが、後の画像処理次第で十分天体写真として通用するものになるかと思います。
経緯台での簡単撮影ですが、どうせ撮影するなら一手間だけかけてみましょう。ここではオートガイドなしのディザーを提案してみます。天体写真に経験のある方だと、ガイドなしでディザーなんかできるのか?と思われる方もいるかもしれませんが、SharpCapのLiveStack撮影ではそれが可能になります。
設定方法です。
ホットピクセルやクールピクセルが散らされて、かなり目立たなくなっています。拡大してみます。これくらいなら十分許容範囲ではないでしょうか?
このように、自動導入経緯台にディザーをかけての撮影というのは、一つのシンプル撮影の到達点かと思います。それでももちろん問題はあって、
この星像のずれは、視野回転影響も大きいです。経緯台でオートガイドをすることも不可能ではありませんが、思ったより大変なのと、オートガイドをしたとしても原理的に視野回転は防ぐことはできません。これ以上露光時間を伸ばしたいとすると、赤道儀に移行した方が無難と思われます。
というわけで、ここから再び赤道儀のSA-GTiに戻ります。
下の画像はSA-GTiで、オートガイドもディざーも無しで、露光時間を20秒として「1枚だけ」撮影した画像です。
中心部付近を拡大してみますが、赤道儀ということもあり視野回転もないし、20秒程度の露光なら星像も全然流れていないことがわかります。
「1枚だけ」の撮影なら問題ないのですが、その一方これを例えば20秒露光で「30枚、合計10分」撮影すると何が起こるかというと、以下のようになります。
気づきにくいかもしれないので、拡大します。
星はライブスタックで位置を確認して重ねあわているので、依然流れていません。問題はホットピクセルやクールピクセルが流れて、背景にいくつか縦方向の紫色に見えるスクラッチができているのです。
これは赤道儀のギヤの精度に起因して起こる、「ピリオディックモーション」などと呼ばれる現象が原因です。赤道儀にもよりますが8分程度の周期で、赤経方向にsin波的に揺れてしまう動きが存在します。どれくらい揺れるかは、ギヤの精度に依存します。
ライブスタック技術で、星を位置合わせして重ねるために、星自身は流れなくなっています。その代わりに、1枚1枚に存在する固定位置のホットピクセルやクールピクセルは逆に重なることはなくて、30枚の撮影で軌跡として流れるように残ってしまうというわけです。
ちなみに、今回のこの軌跡は測定してみると22ピクセル程度の長さです。鏡筒の焦点距離360mmとカメラセンサーの大きさ11.2mm x 6.3mm から、このサイトなどで画角を計算すると1.78度 x 1.00度と出ます。センサーの画素数が3856×2180なので、1.78度 x 60 x 60 = 6408秒角、これを3856で割ると、1ピクセルあたり1.79秒角となります。これが22ピクセルあるので、39.3秒角、プラスマイナスで考えると、+/-19.7秒角のピリオディックエラーということになります。この値はオリオン大星雲で測定しましたが、天の赤道付近なので、この値から大きく変わることはないでしょう(実際には赤緯-5度付近にあるので、5%程度小さく測定されています。それを補正しても+/-21秒角程度でしょう。)。以前測定したAZ-GTiを赤道儀モードで測定した値が+/-75秒角程度でした(今思うとかなり大きな値なので、再計算しましたが間違ってませんでした)から、随分と改善されていることになります。
少し脱線しましたが、このように赤道儀を使ってもピリオディックモーションからくる制限があります。これを解決するために、次はディザーを考えます。
3で見た、ピリオディックモーションでのホット/クールピクセルの軌跡をなくすために、赤道儀でディザーをしたら、どうなるでしょうか?ただし、オートガイドはなしです。露光時間20秒、総露光時間5分間です。
拡大します。
3の時よりかなりマシになっていますが、まだ少し軌跡が残っています。これは少し設定ミスがあって、記録を見たらディザー設定の「最大ディザステップ」が10と少し小さく設定し過ぎたようです。AZ-GTiの時は40だったので、もう少し散らせばもっとまともになるかもしれません。
さて、ディザーで軌跡が少しマシになることは分かりましたが、まだ根本的な問題があります。1枚当たりの最大露光時間がピリオディックモーションで制限されているということです。例えば下の画像は、これまで通りオートガイドなしで60秒露光したものです。
中心付近を拡大するとわかりますが、既に星が流れてしまっています。これは1枚撮影する間にピリオディックモーションによって星が動いてしまい、1枚の画像の中にその動きが記録されてしまうことが原因です。
これを避けるためには、1枚撮影している間に、星の位置を保つようにオートガイドをする必要が出てきます。
まず、20秒露光でトータル5分、ディザーあり、それにPHD2によるオートガイドを加えます。ディザーはPHD2の支配下に置かれるので、PHD2でのディザー幅の設定となり、4の時より大きな幅で動かしています。
変な軌跡も完全に消えていますし、星像も流れていません
さらに条件を厳しくして、露光時間を60秒露光と伸ばして、トータルで少し長く16分、ディザーあり、それにPHD2によるオートガイドを加えたものです。
このようにガイドのおかげで、長時間露光してもピリオディックモーションが出てこなくて、星流れていないのがわかります。
赤道儀を使って1枚当たりの露光時間を伸ばそうとすると、やはりガイドとディザーを使った方がいいという結果になります。
ここまでをまとめます。
ここまでで大体の検証は終わりですが、露光時間を伸ばすための努力だったと言ってもいいかもしれません。その反証として最後にもう一つ、1枚当たりの露光時間が短い場合の弊害を見てみましょう。
ここではこれまでのSA-GTiの赤道儀で、露光時間を3秒に下げ、さらにカメラのアナログゲインも220から0にするという、極端な場合を示します。上の5が60秒露光だったので20分の1、さらにアナログゲインが220変わっているので、220 [0.1dB] = 22 [dB] = 20 + 2 [dB] = 10 x 1.26 [倍] = 12.6 [倍]小さくなります。露光時間と合わせると、1/(20 x 12.6) = 1/252 ~ 0.004と0.4%ほどの明るさになったということです。これで100フレーム、合計300秒=5分撮影した結果です。
たくさんの縦線と、淡いですが横線も見えています。これは俗に言う「読み出しノイズ (リードノイズ)」が見えてきてしまっているということです。露光時間が短かったり、ゲインが低かったりした場合にこのような状態になります。要するに暗すぎるということです。
同じ露光時間3秒でも、アナログゲインが220の場合はかなりマシになります。1枚当たりの露光時間は上と同じ3秒、100フレームで5分間の撮影は同じです。オートガイドをしていないので、ホット/クールピクセルの軌跡は残ってしまっています。かなり炙り出しているので、縦縞はまだ見えますが、横縞に関してはほとんど無視できます。
背景はまだひどいですが、面白いのはオリオン大星雲の中心のトラペジウムはよく見えているということです。どうも前回までに撮影したゲイン220で1分露光は少し明るすぎるのかもしれません。中心を取るか背景を取るか、ここら辺が難しくまた面白いところです。
いずれにせよ、露光時間が短いとか、ゲインが小さいとかで、写している天体からの信号が小さい場合、読み出しノイズが支配的になって、縦横の縞ノイズが現れてきます。ホットピクセルやクールピクセルが流れる縞ノイズは斜めに流れることが多いので、このように垂直、水平にノイズが出るようならば、自分の撮影時の設定が暗すぎはしないか、一度疑ってみるといいと思います。
いろいろ検証しましたが、結局のところ、電視観望を利用した撮影と言っても、撮影の段階で解決できることはできる限り解決しておいた方がいいということです。
今回の結果から、電視観望技術を利用した撮影方法は、主に下の2つの方法に収束すると思います。
次回は、長時間露光のパラメータを探ってみます。
機材の設置からソフトの設定まで、やはり工程が多いですよね。天体写真撮影が敷居が高いと言われるはずです。それでも電視観望でオートストレッチまで済んでいるので、画像処理は楽になるはずです。そこら辺をCP+でお見せできたらと思っています。
オートストレッチ
前回の記事で重要なことを一つ書き忘れていました。画像保存時におけるホワイトバランスの重要性です。
ライブスタック中に普段画面を見る時からでいいので、3つのことをしておくといいです。
- ライブスタック画面の「Histogram」タブを開き、左のカラーバーの下にある雷マークアイコンを押し、ホワイトバランスを整えます。
- 次に同じくライブスタック画面の「Histogram」の左の上のもう一つの雷マークアイコンを押し、オートストレッチします。
- 新たに右パネル「ヒストグラムストレッチ」の方の雷マークを押し、さらに炙り出します。もし画像が明るすぎる場合は、右側パネルのヒストグラムの、山を挟んでいる左と真ん中の2本の線を少し動かしてみるといいでしょう。
今回の記事もこのような状態で画像を保存したものを使っています。
検証項目
撮影までに赤道儀の設置や、オートガイドを使った長時間撮影など、それなりに準備だけでも大変でした。電視観望の技術を使い、ここからの画像処理は楽になるとしても、ここまでの準備をもう少し簡単にできないものなのでしょうか?今回はいろいろ設定を変えてみることで、簡単になるのかどうか議論してみます。
今回比較したいものを準備が簡単な順に並べてみます。矢印の右側は、予想される問題点です。
- 経緯台AZ-GTiでの10秒露光 → 露光時間に制限がある(10秒程度)、視野回転、縞ノイズが問題になる
- 経緯台AZ-GTiでの10秒露光+ディザー → 露光時間に制限がある(10秒程度)、視野回転
- 赤道儀SA-GTiでの20秒露光 → ピリオディックモーションのために縞ノイズが問題になる
- 赤道儀SA-GTiでの20秒露光+ディザー → 露光時間に制限がある(20秒程度)
- 赤道儀SA-GTiでの60秒露光+ディザー+ガイド
- 赤道儀SA-GTiでの3秒露光でゲインを0に下げる+ディザー+ガイド → 読み出しノイズが顕著になる
1. 経緯台AZ-GTiでの10秒露光 (ガイドなし、ディザーなし)
まず対極で、できる限り簡単な撮影というものをしてみましょう。
ここでは赤道儀の代わりに、自動導入機能がある経緯台AZ-GTiを使ってみます。鏡筒を軽いもの、例えばFMA135やFMA180とかなら、もっと手軽にトラバースでも構いません。特にトラバースは超小型で自動導入も自動追尾もできるので、対極という意味ではこちらの方がいいのかもしれません。トラバースについては以前撮影例を記事にしているので、よかったらご覧ください。
これらの経緯台は赤道儀と違って、極軸調整などを省くことができます。最初はオートガイドやディザー撮影も無しとします。経緯台なのですが、自動追尾はできます。それでも経緯台は縦と横とでしか動かせないので、長時間で回転していく星を追尾しようとすると、視野の回転が問題となるはずです。視野の回転はそこそこ激しいので、星像が天になるためには露光時間に制限ができます。鏡筒やカメラにもよりますが、今回の機材だと現実的には10秒程度でしょう。また視野が流れてしまうことによる「縞ノイズ」が問題になってきます。
今回使うAZ-GTiの写真です。SA-GTiの元になった機器だと思いますが、経緯台だけあってAZ-GTiもかなり小さいです。
左がトラバース、右がAZ-GTiです。どちらもコンパクトです。
実際に撮影した結果を示します。問題を見やすくするために、かなり明るくしています。1枚当たり10秒露光で、30フレームなので高々5分程度の撮影ですが、
まず視野回転しているのがわかります。右下の方にずれていっている様子がわかります。ずれが三角型になっているのが、視野が回転している証拠です。多少ならば最終的にトリミングすればいいのですが、長時間撮影ではカットする部分が大きくなってしまいます。
PlayerOneのCMOSカメラにはDPS (Dead Pixel Supression)という機能があり、輝度が飽和してしまうようなホットピクセルは、輝度が0近くになってしまうコールドピクセルという、センサーにどうしても存在してしまうわずかの欠損を目立たなくしています。さらに今回、SharpCapの設定でホットピクセル/コールドピクセルの簡易除去をしていしてます。それでもホットピ/コールドピクセルのようなものが存在しているようで、高々5分の撮影でもスクラッチ状のノイズを残してしまいます。拡大するとよくわかります。
このように経緯台での簡単撮影では、回転とスクラッチ上のノイズが問題になってしまいます。でも逆に言うと、対極的に簡単な撮影でも問題点は高々これくらいです。セットアップが簡単になるなら、十分ペイするくらいのささいな問題点かもしれません。
この後に画像処理をすることで、たった5分の撮影でも、大迫力のオリオン大星雲の魅力は十分に出てきます。撮影時間が長くなるほど、縞ノイズの問題が深刻になってくることが予測されるでしょうか。許容範囲は人にも求める仕上がり具合にもよると思いますが、後の画像処理次第で十分天体写真として通用するものになるかと思います。
2. 経緯台AZ-GTiでの10秒露光 + ディザー (ガイドなし)ここに文章を入力
経緯台での簡単撮影ですが、どうせ撮影するなら一手間だけかけてみましょう。ここではオートガイドなしのディザーを提案してみます。天体写真に経験のある方だと、ガイドなしでディザーなんかできるのか?と思われる方もいるかもしれませんが、SharpCapのLiveStack撮影ではそれが可能になります。
設定方法です。
- SharpCapメニューの「ファイル」の「SharpCapの設定」の中の「ガイディング」タブを開きます。
- 下の画面のように「ガイディングアプリケーション」を3つ目の「ASCOMマウントパルス...」を選びます。
- 「ディザリング」の「最大ディザステップ」は、AZ-GTi単体で上の「1. 経緯台AZ-GTiでの10秒露光 (ガイドなし、ディザーなし)」で見たホットピクセルやクールピクセルをできるだけ散らしたいため、かなり大きな値にします。ここでは40としました。
- その代わり、AZ-GTiが十分に落ち着くように、「ディザリング」の「最大整定時間」を大きくとります。ここでは60秒としました。
- 最後に下の「OK」を押します。
このように、自動導入経緯台にディザーをかけての撮影というのは、一つのシンプル撮影の到達点かと思います。それでももちろん問題はあって、
- 視野回転は避けられないこと
- 露光時間を長く取れない
この星像のずれは、視野回転影響も大きいです。経緯台でオートガイドをすることも不可能ではありませんが、思ったより大変なのと、オートガイドをしたとしても原理的に視野回転は防ぐことはできません。これ以上露光時間を伸ばしたいとすると、赤道儀に移行した方が無難と思われます。
3. 赤道儀SA-GTiでの20秒露光 (ガイドなし、ディザーなし)
というわけで、ここから再び赤道儀のSA-GTiに戻ります。
下の画像はSA-GTiで、オートガイドもディざーも無しで、露光時間を20秒として「1枚だけ」撮影した画像です。
中心部付近を拡大してみますが、赤道儀ということもあり視野回転もないし、20秒程度の露光なら星像も全然流れていないことがわかります。
「1枚だけ」の撮影なら問題ないのですが、その一方これを例えば20秒露光で「30枚、合計10分」撮影すると何が起こるかというと、以下のようになります。
気づきにくいかもしれないので、拡大します。
星はライブスタックで位置を確認して重ねあわているので、依然流れていません。問題はホットピクセルやクールピクセルが流れて、背景にいくつか縦方向の紫色に見えるスクラッチができているのです。
これは赤道儀のギヤの精度に起因して起こる、「ピリオディックモーション」などと呼ばれる現象が原因です。赤道儀にもよりますが8分程度の周期で、赤経方向にsin波的に揺れてしまう動きが存在します。どれくらい揺れるかは、ギヤの精度に依存します。
ライブスタック技術で、星を位置合わせして重ねるために、星自身は流れなくなっています。その代わりに、1枚1枚に存在する固定位置のホットピクセルやクールピクセルは逆に重なることはなくて、30枚の撮影で軌跡として流れるように残ってしまうというわけです。
ちなみに、今回のこの軌跡は測定してみると22ピクセル程度の長さです。鏡筒の焦点距離360mmとカメラセンサーの大きさ11.2mm x 6.3mm から、このサイトなどで画角を計算すると1.78度 x 1.00度と出ます。センサーの画素数が3856×2180なので、1.78度 x 60 x 60 = 6408秒角、これを3856で割ると、1ピクセルあたり1.79秒角となります。これが22ピクセルあるので、39.3秒角、プラスマイナスで考えると、+/-19.7秒角のピリオディックエラーということになります。この値はオリオン大星雲で測定しましたが、天の赤道付近なので、この値から大きく変わることはないでしょう(実際には赤緯-5度付近にあるので、5%程度小さく測定されています。それを補正しても+/-21秒角程度でしょう。)。以前測定したAZ-GTiを赤道儀モードで測定した値が+/-75秒角程度でした(今思うとかなり大きな値なので、再計算しましたが間違ってませんでした)から、随分と改善されていることになります。
少し脱線しましたが、このように赤道儀を使ってもピリオディックモーションからくる制限があります。これを解決するために、次はディザーを考えます。
4. 赤道儀SA-GTiでの20秒露光+ディザー (ガイドなし)
3で見た、ピリオディックモーションでのホット/クールピクセルの軌跡をなくすために、赤道儀でディザーをしたら、どうなるでしょうか?ただし、オートガイドはなしです。露光時間20秒、総露光時間5分間です。
拡大します。
3の時よりかなりマシになっていますが、まだ少し軌跡が残っています。これは少し設定ミスがあって、記録を見たらディザー設定の「最大ディザステップ」が10と少し小さく設定し過ぎたようです。AZ-GTiの時は40だったので、もう少し散らせばもっとまともになるかもしれません。
さて、ディザーで軌跡が少しマシになることは分かりましたが、まだ根本的な問題があります。1枚当たりの最大露光時間がピリオディックモーションで制限されているということです。例えば下の画像は、これまで通りオートガイドなしで60秒露光したものです。
中心付近を拡大するとわかりますが、既に星が流れてしまっています。これは1枚撮影する間にピリオディックモーションによって星が動いてしまい、1枚の画像の中にその動きが記録されてしまうことが原因です。
これを避けるためには、1枚撮影している間に、星の位置を保つようにオートガイドをする必要が出てきます。
5. 赤道儀SA-GTiでの60秒露光+ディザー+ガイド
まず、20秒露光でトータル5分、ディザーあり、それにPHD2によるオートガイドを加えます。ディザーはPHD2の支配下に置かれるので、PHD2でのディザー幅の設定となり、4の時より大きな幅で動かしています。
変な軌跡も完全に消えていますし、星像も流れていません
さらに条件を厳しくして、露光時間を60秒露光と伸ばして、トータルで少し長く16分、ディザーあり、それにPHD2によるオートガイドを加えたものです。
このようにガイドのおかげで、長時間露光してもピリオディックモーションが出てこなくて、星流れていないのがわかります。
赤道儀を使って1枚当たりの露光時間を伸ばそうとすると、やはりガイドとディザーを使った方がいいという結果になります。
一旦まとめ
ここまでをまとめます。
- 経緯台だろうと、赤道儀だろうと、ディザーはあった方がいい。
- 経緯台でディザーをするならば、かなりシンプルな撮影体制を構築することができる。ただし、画角回転は避けられない。同時に、1枚当たりの露光時間も10秒程度とかなり制限される。
- 赤道儀を使うことで画角回転は避けられるが、オートガイドを使わない場合は、ピリオディックモーションのために1枚当たりの露光時間を伸ばすことはできない。
- 赤道儀でも露光時間を伸ばしたい場合は、オートガイドは必須。
ここまでで大体の検証は終わりですが、露光時間を伸ばすための努力だったと言ってもいいかもしれません。その反証として最後にもう一つ、1枚当たりの露光時間が短い場合の弊害を見てみましょう。
6. 赤道儀SA-GTiでの3秒露光でゲインを0に下げる+ディザー+ガイド
ここではこれまでのSA-GTiの赤道儀で、露光時間を3秒に下げ、さらにカメラのアナログゲインも220から0にするという、極端な場合を示します。上の5が60秒露光だったので20分の1、さらにアナログゲインが220変わっているので、220 [0.1dB] = 22 [dB] = 20 + 2 [dB] = 10 x 1.26 [倍] = 12.6 [倍]小さくなります。露光時間と合わせると、1/(20 x 12.6) = 1/252 ~ 0.004と0.4%ほどの明るさになったということです。これで100フレーム、合計300秒=5分撮影した結果です。
たくさんの縦線と、淡いですが横線も見えています。これは俗に言う「読み出しノイズ (リードノイズ)」が見えてきてしまっているということです。露光時間が短かったり、ゲインが低かったりした場合にこのような状態になります。要するに暗すぎるということです。
同じ露光時間3秒でも、アナログゲインが220の場合はかなりマシになります。1枚当たりの露光時間は上と同じ3秒、100フレームで5分間の撮影は同じです。オートガイドをしていないので、ホット/クールピクセルの軌跡は残ってしまっています。かなり炙り出しているので、縦縞はまだ見えますが、横縞に関してはほとんど無視できます。
背景はまだひどいですが、面白いのはオリオン大星雲の中心のトラペジウムはよく見えているということです。どうも前回までに撮影したゲイン220で1分露光は少し明るすぎるのかもしれません。中心を取るか背景を取るか、ここら辺が難しくまた面白いところです。
いずれにせよ、露光時間が短いとか、ゲインが小さいとかで、写している天体からの信号が小さい場合、読み出しノイズが支配的になって、縦横の縞ノイズが現れてきます。ホットピクセルやクールピクセルが流れる縞ノイズは斜めに流れることが多いので、このように垂直、水平にノイズが出るようならば、自分の撮影時の設定が暗すぎはしないか、一度疑ってみるといいと思います。
まとめ
いろいろ検証しましたが、結局のところ、電視観望を利用した撮影と言っても、撮影の段階で解決できることはできる限り解決しておいた方がいいということです。
今回の結果から、電視観望技術を利用した撮影方法は、主に下の2つの方法に収束すると思います。
- 経緯台で、短時間で、ガイドなしで、ディザーを使って縞ノイズを散らす方法は、シンプルという観点から十分使う価値がある。
- 赤道儀で長時間露光を目指すならば、オートガイドとディザーを使う方がいい。ガイドなしだとピリオディックモーションで1枚当たりの撮影時間が制限される。
次回は、長時間露光のパラメータを探ってみます。